(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176114
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】マイクロ流路チップにおいてエマルジョンを生成及び保持する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 35/08 20060101AFI20221117BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20221117BHJP
B01F 33/301 20220101ALI20221117BHJP
B01F 23/41 20220101ALI20221117BHJP
B01F 101/44 20220101ALN20221117BHJP
【FI】
G01N35/08 C
G01N37/00 101
B01F33/301
B01F23/41
B01F101:44
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071854
(22)【出願日】2022-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2021082819
(32)【優先日】2021-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】服部 篤紀
【テーマコード(参考)】
2G058
4G035
4G036
【Fターム(参考)】
2G058DA07
2G058GA01
4G035AB37
4G035AB40
4G035AE13
4G036AC70
(57)【要約】 (修正有)
【課題】マイクロ流路チップにおいて、エマルジョンの生成を簡便にかつ安定して行う。
【解決手段】マイクロ流路チップ10に分散相液及び連続相液を供給してエマルジョンの生成を行う方法であって、分散相液保持部102、103に分散相液を供給すること、連続相液保持部101に連続相液を供給すること、及び、排出口150に陰圧を適用することによって、エマルジョン形成部120において分散相液から構成される液滴及び連続相液から構成される連続相を含むエマルジョンを生成し、このようにして生成されたエマルジョンを、エマルジョン流路130に輸送すること、を含み、分散相液の供給の前に、気体で充填された状態の連続相液流路112、113、エマルジョン形成部120、及び分散相液流路114、115を、予備充填液で充填すること、並びに、予備充填液が、連続相液であり、又は、連続相液に対して混和性な連続相液混和性液体である、方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ流路チップに分散相液及び連続相液を供給してエマルジョンの生成を行う方法であって、
前記マイクロ流路チップが、分散相液保持部、分散相液流路、連続相液保持部、連続相液流路、エマルジョン形成部、エマルジョン流路、及び排出口を有しており、
前記分散相液保持部が、前記分散相液流路を介して、前記エマルジョン形成部に接続しており、
前記連続相液保持部が、前記連続相液流路を介して、前記エマルジョン形成部に接続しており、
前記エマルジョン流路が、前記排出口に接続しており、
前記分散相液保持部に、分散相液を供給すること、
前記連続相液保持部に、連続相液を供給すること、及び、
前記排出口に陰圧を適用することによって、前記エマルジョン形成部において、前記分散相液から構成される液滴及び前記連続相液から構成される連続相を含むエマルジョンを生成し、このようにして生成された前記エマルジョンを、前記エマルジョン流路に輸送すること、
を含み、
前記分散相液の前記供給の前に、気体で充填された状態の前記連続相液流路、前記エマルジョン形成部、及び前記分散相液流路を、予備充填液で充填すること、並びに、
前記予備充填液が、前記連続相液であり、又は、前記連続相液に対して混和性な連続相液混和性液体であること、
を特徴とする、
方法。
【請求項2】
前記分散相液の前記供給の前に、前記予備充填液を、気体で充填された状態の前記連続相液流路、前記エマルジョン形成部、及び前記分散相液流路を通して、気体で充填された状態の前記分散相液保持部にまで移動させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記予備充填液の量を選択し、それにより、前記分散相液保持部に進入する前記予備充填液の量が一定量以下に低減されるようにする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記予備充填液を前記分散相液保持部まで移動させた後で、前記分散相液保持部に前記分散相液を供給して、前記予備充填液と前記分散相液とを接触させる、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記分散相液の前記供給の前に、前記予備充填液を、気体で充填された状態の前記分散相液流路、前記エマルジョン形成部、及び前記連続相液流路を通して、気体で充填された状態の前記連続相液保持部にまで移動させる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記予備充填液の前記移動を、毛細管力及び/又は液面差圧によって行う、請求項2又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記連続相液が、フッ素系分散媒を主成分とする、請求項1、2又は5に記載の方法。
【請求項8】
前記分散相液保持部が、第一分散相液保持部及び第二分散相液保持部を含み、
前記分散相液流路が、前記第一分散相液保持部に接続されている第一分散相液流路、前記第二分散相液保持部に接続されている第二分散相液流路、及び分散相液合流部を含み、
前記第一分散相液流路及び前記第二分散相液流路が、それぞれ、分散相液合流部を介して、前記エマルジョン形成部に接続している、
請求項1、2又は5に記載の方法。
【請求項9】
前記マイクロ流路チップが、エマルジョン保持流路をさらに有し、
前記エマルジョン形成部が、前記エマルジョン流路を介して、前記エマルジョン保持流路に接続しており、
前記エマルジョン保持流路が、前記排出口に接続しており、
前記方法が、
前記分散相液保持部に、分散相液を供給すること、
前記連続相液保持部に、連続相液を供給すること、及び、
前記排出口に陰圧を適用することによって、前記エマルジョン形成部において、前記分散相液から構成される液滴及び前記連続相液から構成される連続相を含むエマルジョンを生成し、このようにして生成された前記エマルジョンを、前記エマルジョン流路を介して、気体で充填された状態の前記エマルジョン保持流路に輸送すること、
を含む、
請求項1、2又は5に記載の方法。
【請求項10】
前記予備充填液が、前記連続相液である、請求項1、2又は5に記載の方法。
【請求項11】
前記分散相液を前記分散相液保持部に供給した後で、かつ前記陰圧を適用する前に、エマルジョンを生成するための前記連続相液の第1部分を前記連続相液保持部に供給し、
ここで、前記連続相液の前記第1部分の量を一定量以下に限定し、それにより、前記連続相液が前記分散相液流路に進入しないようにし、又は、前記分散相液流路に進入する連続相液の量が一定量以下になるようする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記連続相液の前記第1部分を供給してから所定時間が経過するまでの間に前記陰圧を適用し、それにより、前記分散相液流路への前記連続相液の進入が抑制又は回避されるようにする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記陰圧を適用した後で、連続相液の第2部分を連続相液保持部にさらに供給する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記予備充填液が、前記連続相液混和性液体である、請求項1、2又は5に記載の方法。
【請求項15】
前記分散相液を前記分散相液保持部に供給した後で、かつ前記陰圧を適用する前に、前記連続相液を前記連続相液保持部に供給し、
ここで、前記連続相液の量を一定量以下に限定し、それにより、前記連続相液が前記分散相液流路に進入しないようにし、又は、前記分散相液流路に進入する連続相液の量が一定量以下になるようする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記連続相液を供給してから所定時間が経過するまでの間に前記陰圧を適用し、それにより、前記分散相液流路への前記連続相液の進入が抑制又は回避されるようにする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記連続相液を供給し、かつ前記陰圧を適用した後で、追加の連続相液を連続相液保持部にさらに供給する、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記連続相液混和性液体は、前記連続相液を構成する主成分と同じ主成分を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記連続相液が、界面活性剤を含有し、
前記連続相液混和性液体が、前記連続相液よりも低い界面活性剤含有量を有する、
請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記連続相液混和性液体が、界面活性剤の含有量が異なること以外は前記連続相液と同じ組成を有する、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流路チップにおいてエマルジョンを生成する方法に関する。特には、本発明は、マイクロ流路チップにおいてエマルジョンを生成及び保持する方法に関する。より特には、本発明は、液滴アレイ測定をより効率的かつ簡便・迅速に行うことができる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
反応液を微小区画に分画し独立して反応を行なう技術として、微小液滴中に反応液を分画する微小液滴法が知られている。この手法は、例えばマイクロ・ナノ粒子の作製などに応用が期待されており、特に、マイクロ流体装置を用いて、標的分子を1分子単位で微小区画化し、微小液滴内で反応を行なうことで、標的分子の有無をシグナルの有無で計測し、標的分子の数の絶対定量を行なうデジタル計測に利用されている。
【0003】
微小液滴法では、一般に、オイルなどの連続相と、この連続相に分散した水溶液の液滴とから構成されるエマルジョンが使用される。
【0004】
非特許文献1は、遠心ステップ液滴生成法を開示している。当該文献は、装置の注入口にオイルを充填し、このオイルを遠心によって液滴回収室に送った後で、同じ注入口から、サンプル溶液を導入し、遠心によって液滴生成を行うことを記載している。
【0005】
このような液滴生成法に対して、反応液などの分散相液とオイルなどの連続相液とを、別個の供給部を介してマイクロ流路チップに供給し、チップ内で合流させてエマルジョン生成を行う方法が知られている。
【0006】
特許文献1は、液滴を生成するためのそのようなシステム及び方法を開示している。当該文献は、生成された液滴を、ピペットチップ又は液滴ウェルからなる出口領域に輸送することを記載している。また、当該文献は、気泡トラップ(エアトラップ)を記載しており、この気泡トラップによって、サンプルとオイルとが、(陰圧又は陽圧などの)流体駆動力の適用までの間、実質的に離され、その後、流体駆動力を適用することによって、サンプルからなる液滴とオイルからなる連続相を有するエマルジョンを形成することを記載している。
【0007】
また、微小液滴法に関して、近年、装置の簡便化・迅速化の観点から、検出領域に液滴を単層に整列させて簡便にシグナルを測定する液滴アレイ測定が注目されている。
【0008】
特許文献2及び3は、液滴を形成するための流路及び液滴を保持するための液滴保持部を有するマイクロ流路チップを開示している。特許文献2は、2以上の反応液同士を合流させた後、反応液とは混和しない非混和性液体を接触させることで液滴を形成させることを記載している。特許文献3は、分散相流入部と連続相流入部とから流入した分散相及び連続相を、流路を介して液滴生成部で接触させることで液滴化することを記載している。
【0009】
非特許文献2は、チップ上で液滴を生成する方法及びそのための装置について記載している。当該文献に記載の方法は、送液前に、液滴アレイ部をオイルで充填する操作(充填操作)を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許第2550528号明細書
【特許文献2】特開2019-170363号公報
【特許文献3】特開2020-169911号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Centrifugal step emulsification applied for absolute quantification of nucleic acids by digital droplet RPA, Lab Chip, 2015, 15, 2759-2766
【非特許文献2】1-Million droplet array with wide-field fluorescence imaging for digital PCR、Lab on a Chip、2011、11、3838-3845
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
マイクロ流路チップ上に別個に用意されているそれぞれの供給部に供給された連続相液及び分散相液をチップ内で合流させて液滴を生成し、かつ、生成された液滴を同じマイクロ流路チップ上に保持する方法は、迅速かつ簡便な液滴アレイ測定を行うことを可能にする。一方で、このような方法でさらなる簡便化及び自動化を行おうとすると、液滴の生成に問題を生ずる場合があった。
【0013】
本発明は、マイクロ流路チップにおいて、エマルジョンの生成を簡便にかつ安定して行うための改善された方法を提供することを目的とする。特には、本発明は、エマルジョン保持流路を有するマイクロ流路チップにおいて、エマルジョンの生成及び保持を簡便にかつ安定して行うための改善された方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る上記の課題は、本発明に係る下記の態様によって解決することができる。
<態様1>
マイクロ流路チップに分散相液及び連続相液を供給してエマルジョンの生成を行う方法であって、
前記マイクロ流路チップが、分散相液保持部、分散相液流路、連続相液保持部、連続相液流路、エマルジョン形成部、エマルジョン流路、及び排出口を有しており、
前記分散相液保持部が、前記分散相液流路を介して、前記エマルジョン形成部に接続しており、
前記連続相液保持部が、前記連続相液流路を介して、前記エマルジョン形成部に接続しており、
前記エマルジョン流路が、前記排出口に接続しており、
前記分散相液保持部に、分散相液を供給すること、
前記連続相液保持部に、連続相液を供給すること、及び、
前記排出口に陰圧を適用することによって、前記エマルジョン形成部において、前記分散相液から構成される液滴及び前記連続相液から構成される連続相を含むエマルジョンを生成し、このようにして生成された前記エマルジョンを、前記エマルジョン流路に輸送すること、
を含み、
前記分散相液の前記供給の前に、気体で充填された状態の前記連続相液流路、前記エマルジョン形成部、及び前記分散相液流路を、予備充填液で充填すること、並びに、
前記予備充填液が、前記連続相液であり、又は、前記連続相液に対して混和性な連続相液混和性液体であること、
を特徴とする、
方法。
<態様2>
前記分散相液の前記供給の前に、前記予備充填液を、気体で充填された状態の前記連続相液流路、前記エマルジョン形成部、及び前記分散相液流路を通して、気体で充填された状態の前記分散相液保持部にまで移動させる、態様1に記載の方法。
<態様3>
前記予備充填液の量を選択し、それにより、前記分散相液保持部に進入する前記予備充填液の量が一定量以下に低減されるようにする、態様2に記載の方法。
<態様4>
前記予備充填液を前記分散相液保持部まで移動させた後で、前記分散相液保持部に前記分散相液を供給して、前記予備充填液と前記分散相液とを接触させる、態様2又は3に記載の方法。
<態様5>
前記分散相液の前記供給の前に、前記予備充填液を、気体で充填された状態の前記分散相液流路、前記エマルジョン形成部、及び前記連続相液流路を通して、気体で充填された状態の前記連続相液保持部にまで移動させる、態様1に記載の方法。
<態様6>
前記予備充填液の前記移動を、毛細管力及び/又は液面差圧によって行う、態様
2~5のいずれか一項記載の方法。
<態様7>
前記連続相液が、フッ素系分散媒を主成分とする、態様1~6のいずれか一項に記載の方法。
<態様8>
前記分散相液保持部が、第一分散相液保持部及び第二分散相液保持部を含み、
前記分散相液流路が、前記第一分散相液保持部に接続されている第一分散相液流路、前記第二分散相液保持部に接続されている第二分散相液流路、及び分散相液合流部を含み、
前記第一分散相液流路及び前記第二分散相液流路が、それぞれ、分散相液合流部を介して、前記エマルジョン形成部に接続している、
態様1~7のいずれか一項に記載の方法。
<態様9>
前記マイクロ流路チップが、エマルジョン保持流路をさらに有し、
前記エマルジョン形成部が、前記エマルジョン流路を介して、前記エマルジョン保持流路に接続しており、
前記エマルジョン保持流路が、前記排出口に接続しており、
前記方法が、
前記分散相液保持部に、分散相液を供給すること、
前記連続相液保持部に、連続相液を供給すること、及び、
前記排出口に陰圧を適用することによって、前記エマルジョン形成部において、前記分散相液から構成される液滴及び前記連続相液から構成される連続相を含むエマルジョンを生成し、このようにして生成された前記エマルジョンを、前記エマルジョン流路を介して、気体で充填された状態の前記エマルジョン保持流路に輸送すること、
を含む、
態様1~8のいずれか一項に記載の方法。
<態様10>
前記予備充填液が、前記連続相液である、態様1~9のいずれか一項に記載の方法。
<態様11>
前記分散相液を前記分散相液保持部に供給した後で、かつ前記陰圧を適用する前に、エマルジョンを生成するための前記連続相液の第1部分を前記連続相液保持部に供給し、
ここで、前記連続相液の前記第1部分の量を一定量以下に限定し、それにより、前記連続相液が前記分散相液流路に進入しないようにし、又は、前記分散相液流路に進入する連続相液の量が一定量以下になるようする、態様10に記載の方法。
<態様12>
前記連続相液の前記第1部分を供給してから所定時間が経過するまでの間に前記陰圧を適用し、それにより、前記分散相液流路への前記連続相液の進入が抑制又は回避されるようにする、態様11に記載の方法。
<態様13>
前記陰圧を適用した後で、連続相液の第2部分を連続相液保持部にさらに供給する、態様11又は12に記載の方法。
<態様14>
前記予備充填液が、前記連続相液混和性液体である、態様1~9のいずれか一項に記載の方法。
<態様15>
前記分散相液を前記分散相液保持部に供給した後で、かつ前記陰圧を適用する前に、前記連続相液を前記連続相液保持部に供給し、
ここで、前記連続相液の量を一定量以下に限定し、それにより、前記連続相液が前記分散相液流路に進入しないようにし、又は、前記分散相液流路に進入する連続相液の量が一定量以下になるようする、態様14に記載の方法。
<態様16>
前記連続相液を供給してから所定時間が経過するまでの間に前記陰圧を適用し、それにより、前記分散相液流路への前記連続相液の進入が抑制又は回避されるようにする、態様15に記載の方法。
<態様17>
前記連続相液を供給し、かつ前記陰圧を適用した後で、追加の連続相液を連続相液保持部にさらに供給する、態様15又は16に記載の方法。
<態様18>
前記連続相液混和性液体は、前記連続相液を構成する主成分と同じ主成分を有する、態様11~17のいずれか一項に記載の方法。
<態様19>
前記連続相液が、界面活性剤を含有し、
前記連続相液混和性液体が、前記連続相液よりも低い界面活性剤含有量を有する、
態様14~18のいずれか一項に記載の方法。
<態様20>
前記連続相液混和性液体が、界面活性剤の含有量が異なること以外は前記連続相液と同じ組成を有する、態様19に記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、マイクロ流路チップにおいて、エマルジョンの生成を簡便にかつ安定して行うための改善された方法を提供することができる。特には、本発明によれば、エマルジョン保持流路を有するマイクロ流路チップにおいて、エマルジョンの生成及び保持を簡便にかつ安定して行うための改善された方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本開示の方法に係るマイクロ流路チップの1つの実施態様の平面概略図である。
【
図2】
図2は、本開示に係る分散相液保持部の1つの実施態様を示す断面概略図である。
【
図3】
図3は、本開示に係る分散相液保持部の別の実施態様を示す断面概略図である。
【
図4】
図4は、本開示に係る方法の1つの実施態様におけるエマルジョン生成の様子を示す写真である。
【
図5】
図5は、本開示に係る方法の1つの実施態様における、エマルジョン保持流路に保持された液滴に対する検出処理の様子を示す写真である。
【
図7】
図7は、本開示に係る別の実施態様における、エマルジョン保持流路に保持された液滴に対する検出処理の様子(上図)及び保持されている一部の液滴の拡大図(下図)である。
【
図8】
図8は、本開示に係るさらに別の実施態様における、エマルジョン保持流路に保持された液滴に対する検出処理の様子(上図)及び保持されている一部の液滴の拡大図(下図)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
≪エマルジョンの生成及び随意に保持を行う方法≫
本開示に係る方法は、マイクロ流路チップに分散相液及び連続相液を供給してエマルジョンの生成を行う方法であって、
マイクロ流路チップが、分散相液保持部、分散相液流路、連続相液保持部、連続相液流路、エマルジョン形成部、エマルジョン流路、及び排出口を有しており、
分散相液保持部が、分散相液流路を介して、エマルジョン形成部に接続しており、
連続相液保持部が、連続相液流路を介して、エマルジョン形成部に接続しており、
エマルジョン流路が、排出口に接続しており、
分散相液保持部に、分散相液を供給すること、
連続相液保持部に、連続相液を供給すること、及び、
排出口に陰圧を適用することによって、エマルジョン形成部において、分散相液から構成される液滴及び連続相液から構成される連続相を含むエマルジョンを生成し、このようにして生成されたエマルジョンを、エマルジョン流路に輸送すること、
を含み、
分散相液の供給の前に、気体で充填された状態の連続相液流路、エマルジョン形成部、及び分散相液流路を、予備充填液で充填すること、並びに、
前記予備充填液が、連続相液であり、又は、連続相液に対して混和性な連続相液混和性液体であること、
を特徴とする。
【0018】
本開示に係る1つの態様では、分散相液の供給の前に、予備充填液を、気体で充填された状態の連続相液流路、エマルジョン形成部、及び分散相液流路を通して、気体で充填された状態の分散相液保持部にまで移動させる。
【0019】
また、本開示に係る別の態様では、分散相液の供給の前に、予備充填液を、気体で充填された状態の分散相液流路、エマルジョン形成部、及び連続相液流路を通して、気体で充填された状態の前記連続相液保持部にまで移動させる。
【0020】
なお、これら2つの態様、すなわち、連続相液流路から分散相液流路へと予備充填液を移動させる態様と、分散相液流路から連続相液流路へと予備充填液を移動させる態様とは、予備充填液の進行方向が異なっている一方で、気体で充填された状態の連続相液流路、エマルジョン形成部、及び分散相液流路を予備充填液によって充填する点では同じである。したがって、下記では、主に、連続相液流路から分散相液流路へと予備充填液を移動させる態様について記載する。分散相液流路から連続相液流路へと予備充填液を移動させる態様については、連続相液流路から分散相液流路へと予備充填液を充填させる態様に関する記載を適宜参照することができる。
【0021】
連続相液及び分散相液をそれぞれ別個の保持部から供給するように構成されているマイクロ流路チップを用いる際に、従来の方法では、あらかじめマイクロ流路チップの流路全体を連続相液で充填した後で分散相液を供給していた。これは、送液開始後のエマルジョンの生成が比較的安定するなどの利点を有する。一方で、この方法は、流路内に発生した気泡を圧力送液などによって流路外へ排出する操作、及び流路内の余剰な連続相液を除去する操作などの準備工程、並びにそのための追加的な装置を含むため、自動化の観点で課題があった。
【0022】
そこで、あらかじめ連続相液でマイクロ流路チップを充填することなく連続相液及び分散相液をマイクロ流路チップに供給することによって、このような準備作業を省略することが考えられる。
【0023】
しかしながら、この場合、気体で充填されたマイクロ流路チップ内における分散相液及び連続相液の移動の程度を正確に制御することは容易でなかった。例えば、連続相液は、連続相液保持部から、連続相液流路を通ってエマルジョン形成部に移動するだけでなく、エマルジョン形成部から分散相液流路を逆流することがあった。特に、フッ素系分散媒のような表面張力及び粘性が比較的小さい液体を用いる場合には、毛細管力による連続相液の移動が非常に速いので、このような逆流の問題が生じることがあった。
【0024】
この逆流の程度は、連続相液及び分散相液を供給するタイミングなどによって異なる。
【0025】
また、分散相液流路及び分散相液保持部に連続相液がどの程度進入したかに応じて、分散相液流路の壁面に残留する連続相液の量が変わり、それに応じて分散相液流路における分散相液の流量が変わるという問題を生ずる。連続相液として、フッ素系分散媒のような表面張力及び粘性が比較的小さい液体を用いる場合には、毛細管力による連続相液の移動が非常に速いだけでなく、流路に連続相液が残留しやすいので、上記のような連続相液の逆流による問題が生じる傾向が大きい。
【0026】
これに対して、本発明の方法によれば、分散相液を供給する前に分散相液流路全体が予備充填液(すなわち連続相液又は連続相液混和性液体)で充填されているので、分散相液流路に予備充填液が進入した程度が一定となる。よって、本発明によれば、分散相液流路に連続相液が進入した程度(したがって分散相液流路に残留した連続相液の量)に応じて分散相液流路における分散相液の流量が変わる、という問題を抑制することができる。
【0027】
また、本発明は、予備充填液(すなわち連続相液又は連続相液混和性液体)を充填した後に分散相液保持部に分散相液を供給して両者を接触させるので、エマルジョン形成部などで両者を接触させる場合と比較して、供給のタイミングを調節することが比較的容易である。例えば、本発明の1つの態様では、予備充填液(すなわち連続相液又は連続相液混和性液体)を分散相液保持部まで移動させてから分散相液を供給して両者を接触させるので、エマルジョン形成部などで両者を接触させる場合と比較して、供給のタイミングを調節することが比較的容易である。
【0028】
特に、分散相液流路を予め予備充填液で充填する本発明によれば、予備充填液は分散相液よりもすみやかに気体で充填された流路を進行するため、分散相液保持部に分散相液を供給した後で、すみやかに、送液を開始することができる。
【0029】
さらに、本発明の方法に係る1つの態様では、エマルジョン形成部で生成されるエマルジョン(液滴+連続相)が、気体で充填されているエマルジョン保持流路に輸送される。本開示では、この方法を、「エマルジョン充填法」と呼ぶ。エマルジョン充填法では、エマルジョン形成部で生成されたエマルジョンが、気体で充填されているエマルジョン保持流路の中を排出口の方向に向かって移動し、エマルジョン保持流路を充填する。すなわち、エマルジョン保持流路を充填している気体とエマルジョンとによって形成される「気液界面」が、エマルジョン保持流路の下流(又は排出口)に向かって移動する。
【0030】
すなわち、本発明の方法では、分散相液を供給する前に、予備充填液による充填を行う(例えば予備充填液を分散相液保持部まで移動させる)一方で、エマルジョンの形成前には、エマルジョン保持流路が予備充填液及び連続相液で充填されないようにする。
【0031】
したがって、本発明の方法によれば、余剰な連続相液を流路外へ排出するなどの準備操作を省くことができるため、自動化に特に適した方法を提供することができる。
【0032】
図1に示すマイクロ流路チップを用いて、本発明を具体的に説明する。なお、
図1のマイクロ流路チップは例示的な実施態様の概略図であり、本発明に係る方法は、この実施態様に限られず、種々のマイクロ流路チップで実施することができる。
図1は、理解を容易にするための概略図であり、縮尺どおりではない。
【0033】
図1のマイクロ流路チップ10は、平面型の構成を有しており、すなわち、エマルジョンの生成、輸送及び保持が、実質的に1つの平面内で行われるようになっている。
図1の方向Wは、幅方向を示しており、方向Lは、長さ方向を示している。W及びLに垂直な方向が、鉛直方向である。
図1のマイクロ流路チップ10は、第一分散相液保持部102、第二分散相液保持部103、(第一分散相液流路114、第二分散相液流路115、及び分散相液合流部116からなる)分散相液流路、連続相液保持部101、連続相液流路111、エマルジョン形成部120、エマルジョン流路130、エマルジョン保持流路140、及び排出口を150有している。なお、本発明において、エマルジョン保持流路は随意の構成要素である。分散相液保持部102、103が、それぞれ、第一分散相液流路114及び第二分散相液流路115を介して、エマルジョン形成部120に接続しており、連続相液保持部101が、連続相液流路111を介して、エマルジョン形成部120に接続している。
図1に係る態様では、連続相液流路111が、第一連続相液流路112及び第二連続相液流路113からなる。エマルジョン形成部120が、エマルジョン流路130を介して、エマルジョン保持流路140に接続しており、エマルジョン保持流路140が、排出口150に接続している。
【0034】
本開示に係る方法に係る1つの態様によれば、検出対象となる物質を含有する水溶性反応液などの分散相液を、分散相液保持部102、103に供給し、予備充填液及びオイルなどの連続相液を、連続相液保持部101に供給する。この時点(特には予備充填液の供給を開始する時点)で、マイクロ流路チップ10の各流路には気体(特には空気)が充填されている(すなわち、「空」のマイクロ流路チップを用いる)。
【0035】
なお、空のマイクロ流路チップとは、流路内が気体(特には空気)で充填された状態のことを指し、流路全体に液体(例えば、分散相液、連続相液など)がない状態、すなわち流路全体が気体で充填されている状態が好ましい。なお、マイクロ流路チップの流路内に表面処理や空気中の水の凝結等によって液体が残留・発生していてもこの限りではないが、少なくとも流路の一部が液体によって閉塞していないことが好ましく、特に、分散相液流路、連続相液流路、エマルジョン形成部が閉塞していないことが好ましい。
【0036】
本発明の方法に係る1つの態様では、陰圧の適用の前に、エマルジョン保持流路が(少なくとも部分的に)気体で充填されている。この点で、本発明の方法は、マイクロ流路チップの流路全体を連続相液であらかじめ充填する従来の方法とは異なっており、従来必要とされていた、連続相液の充填及び過剰な連続相液の除去といった準備工程を省略することができる。
【0037】
そして、本発明に係る1つの態様によれば、分散相液の供給の前に、予備充填液を、連続相液保持部101に供給し、気体で充填された状態の連続相液流路111、エマルジョン形成部120、及び分散相液流路(114、115、116)を通して、気体で充填された状態の分散相液保持部102、103にまで移動させる。予備充填液は、連続相液、又は連続相液混和性液体である。本発明の方法によれば、分散相液流路全体が連続相液又は連続相液混和性液体で充填されているので、分散相液流路に連続相液又は連続相液混和性液体が逆流した程度が一定となる。
【0038】
図1のマイクロ流路チップ10は、毛細管力及び/又は液面差圧によって、予備充填液を連続相液保持部から連続相液流路、エマルジョン形成部、及び分散相液流路を通して分散相液保持部にまで移動させることができるように構成されている。
【0039】
本開示に係る方法の1つの態様では、排出口150に外部送液駆動力(陰圧)を適用することによって、エマルジョン形成部120において、分散相液から構成される液滴及び連続相液から構成される連続相を含むエマルジョンを生成し、このようにして生成されたエマルジョンを、エマルジョン流路130を介して、気体で充填された状態のエマルジョン保持流路140に輸送する。
【0040】
<予備充填>
本発明に係る方法では、分散相液の供給の前に、気体で充填された状態の連続相液流路、エマルジョン形成部、及び分散相液流路を、予備充填液で充填する。
【0041】
(移動:連続相液流路から分散相液流路への充填)
本開示に係る方法の1つの態様では、分散相液の供給の前に、予備充填液を、気体で充填された状態の連続相液流路、エマルジョン形成部、及び分散相液流路を通して、気体で充填された状態の分散相液保持部にまで移動させる。この場合、予備充填液は、連続相液保持部に供給することができる。
【0042】
予備充填液が連続相液である場合、分散相液の供給の前に、予備充填液としての連続相液を連続相液保持部に供給し、気体で充填された状態の連続相液流路、エマルジョン形成部、及び分散相液流路を通して、気体で充填された状態の分散相液保持部にまで移動させる。
【0043】
予備充填液が連続相液混和性液体である場合、分散相液の供給の前に、連続相液混和性液体を連続相液保持部に供給し、気体で充填された状態の連続相液流路、エマルジョン形成部、及び分散相液流路を通して、気体で充填された状態の分散相液保持部にまで移動させる。
【0044】
予備充填液(並びに随意に連続相液及び分散相液)は、毛細管力及び/又は液面差圧によって移動させることができる。この場合には、追加的な装置を必要とすることなく、容易に、予備充填液並びに分散相液及び連続相液の移動を制御することができる。
【0045】
例えばマイクロ流路チップの流路構造(流路表面の特性、流路の圧力損失など)を適宜設定することによって、所望の毛細管力を得ることができる。また、例えば各相液保持部に供給される液量(特には液面高さ)を調節することによって、所望の液面差圧を得ることができる。
【0046】
毛細管力は、キャピラリー力とも呼ばれる力であり、大きく開けた保持部内の気液界面とより小さい断面を有する流路内の気液界面の表面張力差によって発生する流路に侵入する方向に働く力である。よって、毛細管力は各流路の特性だけでなく保持部の構造も影響し、特にエマルジョン充填法ではエマルジョンの気液界面の移動を制御するため、送液(液滴生成)中及び送液停止後の液滴保持中においても毛細管力が大きく影響する。
【0047】
また、液面差圧は、静水圧とも呼ばれる力であり、一般に静止状態の液体中に重力によって発生する圧力、すなわち各保持部への各相液の供給量(重量)に依存した圧力を指す。
【0048】
(予備充填液の量)
本発明の1つの実施態様では、連続相液保持部に供給される予備充填液の量を選択し、それにより、分散相液保持部に進入する予備充填液の量が一定量以下に低減されるようにする。好ましくは、連続相液に供給する予備充填液の量を、1μL~20μL又は2μ~15μL、特には5μL~12μLとし、それにより、分散相液保持部に進入する予備充填液の量が、5μL以下、2μL以下、又は1μL以下になるようにする。
【0049】
この態様は、液滴生成の安定化の観点から有利である。特に、予備充填液が連続相液である場合には、分散相液保持部に進入する連続相液の量を低減することによって、分散相液保持部から分散相液流路への開口部において時期尚早な液滴生成が起こってしまうことを回避又は抑制することができる。
【0050】
また、予備充填液が連続相液混和性液体である場合には、分散相液保持部に進入する連続相液混和性液体の量を低減することによって、連続相液混和性液体が、液滴生成に最適化されている連続相液へと比較的速く置換されるので、液滴生成がさらに安定化しうる。
加えて、予備充填液が連続相液混和性液体である場合には、随意の構成要素であるエマルジョン保持流路に進入する連続相液混和性液体の量を低減することによって、連続相液混和性液体が、液滴保持に最適化されている連続相液へと比較的速く置換されるので、液滴保持がさらに安定化しうる。
【0051】
(移動:分散相液流路から連続相液流路への充填)
本開示に係る別の態様では、分散相液の供給の前に、予備充填液を、気体で充填された状態の分散相液流路、エマルジョン形成部、及び連続相液流路を通して、気体で充填された状態の前記連続相液保持部にまで移動させる。この場合、予備充填液は、分散相液保持部に供給することができる。
【0052】
この態様に関する具体的な構成、例えば予備充填液の移動や予備充填液の好適な量については、連続相液流路から分散相液流路へ充填する態様に関する上記の記載を参照することができる。
【0053】
(接触:連続相液流路から分散相液流路への充填の場合)
本発明の1つの態様では、予備充填液を分散相液保持部まで移動させた後で、分散相液保持部に分散相液を供給して、両者を接触させることができる。予備充填液が分散相液保持部まで達してから分散相液が分散相液保持部に供給されるまでの時間、及び/又は分散相液が分散相液保持部に供給されてから外部送液駆動力によって送液が開始されるまでの時間を短くし、それにより、分散相液保持部に逆流する予備充填液の量を低減して、分散相液と予備充填液とが分散相液保持部で接触して生じる不均一液滴を低減することが好ましい。送液開始後の分散相液保持部及び分散相液流路への予備充填液の残留の観点からも、保持部に逆流する予備充填液の量を低減することが、特に好ましい。なお、この態様では、マイクロ流路チップがエマルジョン保持流路を有する場合に、外部送液駆動力(陰圧)の適用の前に予備充填液がエマルジョン保持流路を過剰に充填しないようにすることが好ましい。
【0054】
(接触:分散相液流路から連続相液流路への充填の場合)
分散相液流路から連続相液流路へ予備充填液を充填する態様では、分散相液保持部に予備充填液を供給した後、予備充填液が連続相液保持部まで移動した後に、分散相液保持部に分散相液を供給して、両者を接触させることができる。
【0055】
(分散相液の供給及び分散相液保持部の最適化)
送液中の分散相液流路及び分散相液保持部における予備充填液の残留を低減するためには、送液前(外部送液駆動力の適用前)の分散相液保持部への予備充填液の逆流(特には逆流量)を低減するのが好ましい。しかし、一般に予備充填液、すなわち、連続相液又は連続相液混和性液体は、流動性の高い液体を使用するため、液面差圧及び/又は毛細管力で流路内の移動の制御をするのは容易ではない。そこで、分散相液保持部の穴部及び/又はウェルが垂直方向に延在することを利用して、穴部内及び/又はウェル内の予備充填液にかかる重力によって、送液前の段階(外部送液駆動力の適用前の段階)における予備充填液の逆流(特には逆流量)を抑制することが好ましい。
【0056】
図2は、本開示に係る分散相液保持部の1つの実施態様を示す断面概略図である。
図2(及び下記の
図3)は、理解を容易にするための概略図であり、縮尺どおりではない。
図2のHは高さ方向であり、Lは長さ方向である。
図2に示されている分散相液保持部200は、ウェル21及び穴部23を有している。ウェル21が、穴部23を介して、分散相液流路115に接続している。ウェル21及び穴部23は、高さ方向(ここでは鉛直方向)に延在している。このような分散相液保持部において、穴部内及び/又はウェル内に進入した予備充填液にかかる重力によって、予備充填液の逆流を抑制することができる。具体的には、例えば、穴部23の高さ方向の長さ(すなわち高さ)を長くすることによって、分散相液保持部への予備充填液の逆流を抑制することができる。
【0057】
一方で、一般にチップの製造において穴部の断面形状と分散相液保持部における分散相液流路の開口部の断面形状とは大きく異なり、かつ分散相液流路と穴部とは実質的に垂直に交差している場合が多く、分散相液が穴部及び流路を通過する際に(送液中に)穴部の底面付近に予備充填液が残留しやすい。したがって、穴部の口径を小さくすることで、穴部の底面積を小さくするのが好ましく、例えば、3mm以下、より好ましくは1mm以下、特に好ましくは0.5mm以下とすることができる。なお、予備充填液としてフッ素系分散媒を使用する場合、水溶液等の一般的な分散相液よりも比重が大きいため、特に予備充填液が穴部の底面に残留しやすい。
図2の実施態様を用いて説明すると、
図2の穴部23が、(例えば3mm以下の)比較的小さい口径Bを有しており、それにより、穴部23の底面近傍に予備充填液が残留することが抑制若しくは回避されるようになっており、かつ/又は、穴部23の底面近傍における予備充填液の残留量が低減されるようになっている。
【0058】
穴部の径を小さくする場合、穴部内の予備充填液の気液界面の毛細管力が大きくなる。したがって、予備充填液にかかる重力を利用する目的のために穴部23の高さを大きくするよりも、毛細管力による予備充填液の逆流量を低減する目的のために穴部23の高さを小さくした方が好ましく、例えば、5mm以下、より好ましくは2mm以下、特に好ましくは1mm以下とすることができる。
【0059】
さらに、ウェルの底面と穴部とのつなぎ目である拡張部位を不連続的かつ/又は角ばった形状にすることも、分散相液保持部への予備充填液の逆流を防ぐためには好ましい。例えば、ウェルの底面が、穴部の延在方向(特には穴部内の液移動方向、又は拡張部位近傍における穴部の側壁)に対して垂直な(=高さ方向に対して水平な)面であってよい。この場合には、穴部の口径が比較的小さく、かつ穴部の高さが比較的小さい場合であっても、予備充填液の逆流の抑制を効率よく行うことができる。理論によって限定する意図はないが、このような態様によってウェルへの予備充填液の進入が抑制される機構としては、下記のことが考えられる:すなわち、壁面付近の予備充填液は表面張力により鉛直方向上向きに濡れ拡がるが、壁面から遠い予備充填液(穴部断面の中心付近の予備充填液)は重力によって上向きに流れる力が打ち消される。結果的に凹型のメニスカス構造となるが、穴部の径が小さいと表面張力によるずり応力>重力となり、穴部の中心の予備充填液も上向きに逆流する(毛細管現象)。しかし、進入抑制構造(不連続かつ鋭角な)があると、表面張力によるずり応力が壁面から遠い予備充填液に上手く働かなくなるため、穴部の進入抑制構造への開口部で予備充填液の進入を実質的に止めることが可能になると考えられる。
【0060】
図2の実施態様では、ウェル21の底面22が、穴部23の延在方向(特には拡張部位近傍における穴部23の側壁)に対して垂直に延在しており、かつ、拡張部位25が、角ばっている(鋭角的な形状を有している)。
【0061】
ウェルの底面と穴部とのつなぎ目である拡張部位(
図2で符号25で示されている部位)の丸みを円と仮定したときの半径、いわゆる角Rは、例えば0.3mm以下、0.15mm以下、0.5mm以下、0.3mm以下、0.1mm以下、0.05mm以下、0.03mm以下、0.01mm以下、0.005mm以下、0.003mm以下、0.001mm以下であるのが好ましい。
【0062】
図2において、ウェル21の底面22と穴部23の延在方向(特には拡張部位近傍における穴部23の側壁)との角度α1は、90°である。ウェル21の底面22と穴部23の延在方向(特には拡張部位近傍における穴部23の側壁又は穴部23内の液移動方向)との角度は、90°以上であってもよい。
図3に示す分散相液保持部300では、ウェル31の底面32と穴部33の延在方向(特には拡張部位近傍における穴部33の側壁)との角度α2が、90°超である。
図3の実施態様では、ウェル31の底部32が、漏斗状(すり鉢状)の形状を有している。
【0063】
ウェルの底面と穴部の延在方向(特には拡張部位近傍における穴部の側壁)との角度は、135°以下、120°以下、105°以下、100°以下、又は95°以下であることが好ましく、かつ/又は90°以上であってよい。この角度は、更に好ましくは実質的に90°である。なお、この角度を90°未満(特には45°以上90°未満)とすることもできる。
【0064】
拡張部位で予備充填液の進入を止めることができても、予備充填液の薄い層が壁面に濡れ拡がり、ウェルの壁面に到達すると、形成された薄い層の表面自由エネルギーの増大を解消するため、拡張部位から予備充填液が逆流し始める場合がある。したがって、(
図2で符号「A」によって例示されている)ウェルの口径は、穴部よりも十分に大きいことが好ましい。例えば、ウェルの口径は、3mm以上、より好ましくは5mm以上、特に好ましくは10mm以上であることができ、かつ/又は、(
図2で符号「B」によって例示されている)穴部の口径に対して、1.5倍以上、3倍以上、5倍以上、若しくは10倍以上であるのが好ましい。また、分散相液保持部に予備充填液が一定量逆流し保持されている場合、そこに分散相液を供給する際に穴部付近の壁面が予備充填液によって濡れているため、壁面と分散相液の間で生じる気泡や閉塞を抑制できるため好ましい。
【0065】
なお、分散相液が接触することとなる分散相液保持部の壁面を、予備充填液であらかじめ濡らすことができる。一般に分散相液流路と直接に流体接続している穴部又はウェルから径を拡張することで、分散相液の保持量を増加させることもあるが、予備充填液が進入する拡張部位の形状を調整することで予備充填液の残留を抑制することが可能である。
【0066】
(予備充填液としての連続相液混和性液体:連続相液の供給)
予備充填液としての連続相液混和性液体を供給した後で、連続相液を、連続相液保持部に供給することができる。また、予備充填液としての連続相液混和性液体を供給した後で、かつ陰圧を適用する前に、連続相液を連続相液保持部に供給することができる。好ましくは、分散相液を分散相液保持部に供給した後で、かつ陰圧を適用する前に、連続相液の供給を行う。これにより、分散相液流路への連続相液の進入を効果的に回避又は抑制することができる。特に好ましくは、分散相液保持部に供給した分散相液が分散相液流路を少なくとも部分的に充填した後で、かつ陰圧を適用する前に、連続相液の供給を行う。これにより、分散相液流路への連続相液の進入を特に効果的に回避又は抑制することができる。
【0067】
予備充填液として連続相液混和性液体を用いる場合、好ましい1つの実施態様では、陰圧を適用する前に供給する連続相液の量を一定以下に限定し、それにより、連続相液が分散相液流路に進入しないようにし、又は、分散相液流路に進入する連続相液の量が一定量以下に低減されるようにする。
【0068】
陰圧を適用する前に供給する連続相液の量は、10~80μL、又は15~60μL、特には20~40μLであってよく、かつ/又は、マイクロ流路チップに供給される連続相液の合計の量に対して、1/2以下、1/5以下、特には1/10以下であってよい。分散相液流路に進入する連続相液の量は、5μL以下、1μL以下、又は0.1μL以下であることが好ましい。
【0069】
陰圧を適用する前に供給される連続相液の量が多い場合には、連続相液の液面差圧が大きくなり、その結果として、連続相液が分散相液流路に進入してしまうことがある。分散相液流路中に連続相液が存在すると、液滴生成が不安定化することがある。特に、チップ内で2以上の分散相液を合流させる場合、合流流路に連続相液が進入すると、連続相液の組成(特には連続相液に含有される界面活性剤)に起因して、分散相液の良好な混合が阻害されることがある。上述のようにして、陰圧を適用する前に供給する連続相液の量を一定量以下に限定することによって、液滴生成の安定性及び/又は液体の混合性をさらに向上させることができる。
【0070】
(予備充填液としての連続相液混和性液体:陰圧適用のタイミング)
予備充填液として連続相液混和性液体を用いる場合、好ましい1つの実施態様では、陰圧を適用する前に連続相液を供給してから、所定時間が経過するまでの間に陰圧を適用し、それにより、分散相液流路への連続相液の進入が抑制又は回避されるようにする。
【0071】
この所定時間は、好ましくは、30秒以下、20秒以下、又は10秒以下、特には5秒以下である。分散相液流路が分散相液で充填されている場合であっても連続相液と接触している時間が長くなると連続相液が分散相液流路に侵入することがあるが、この態様によれば、分散相液流路への連続相液の進入を抑制又は回避することができ、結果として、液滴生成の安定性をさらに向上させることができる。特に、チップ内で2以上の分散相液を合流させる場合には、合流流路に侵入する連続相液を抑制又は回避することによって、合流流路における分散相液の良好な混合を確保することができる。
【0072】
(予備充填液としての連続相液混和性液体:連続相液の追加)
予備充填液として連続相液混和性液体を用いる場合、好ましい1つの実施態様では、陰圧を適用する前に連続相液を供給した後で、かつ陰圧の適用後(特には陰圧の適用の間)に、追加の連続相液を連続相液保持部にさらに供給することができる。
【0073】
「追加の連続相液」は、特には、必要な数の液滴を得るために、かつ/又は所与の目的に応じて十分な時間にわたって液滴を安定して保持するために充分な量の連続相液である。例えば、追加の連続相液は、生成及び/又は保持する液滴数、並びに、液滴に対する検出処理(例えば加熱を伴う液滴内反応)に伴う連続相液の蒸発量などを考慮して、十分な量の連続相液がチップに供給されるようにすることが好ましい。追加の連続相液は、例えば、100~600μL、200~500μL、又は300~400μLであってよい。なお、この追加の連続相液は、陰圧の適用前に添加される連続相液と同一であってよい。
【0074】
追加の連続相液を供給するこの態様によれば、特に良好な液滴生成の安定性を確保しつつ、十分な量の液滴を確保することができる。すなわち、一般に、マイクロ流路チップを用いた検出処理では比較的多数の液滴が必要とされるが、多数の液滴を生成するために必要な量の連続相液を送液前に一度に連続相液保持部に供給すると、液面差圧によって分散相液流路に連続相液が進入し、液滴生成や液滴保持が不安定化するおそれがある。また、液滴生成後の検出処理に所定の反応が必要となる場合があるが、反応条件(温度、時間等)によって連続相液が蒸発する量が増加するため、特にエマルジョン保持流路を有する態様では、エマルジョン保持流路のエマルジョン中の連続相が枯渇しないように充分な量の連続相液を送液前に一度に連続相液保持部に供給すると、液面差圧によって分散相液流路に連続相液が進入し、液滴生成や液滴保持が不安定化するおそれがある。また、特に、チップ内で2以上の分散相液を合流させる場合には、合流流路での分散相液の良好な混合性が阻害されるおそれがある。これに対して、上記の態様によれば、送液前に比較的低減された量の連続相液を供給し、送液を開始した後に、所定の量の連続相液を連続相液保持部にさらに供給することができるので、特に良好な液滴生成の安定性を確保しつつ、十分な液滴を生成することができ、さらに、特にエマルジョン保持流路を有する態様では、液滴に対して良好に検出処理等を行うことができる。
【0075】
(予備充填液としての連続相液:液滴の生成及び/又は保持のための連続相液の供給)
【0076】
予備充填液が連続相液である場合には、予備充填液としての連続相液、並びに、液滴の生成及び/又は保持のための連続相液を、一度に連続相液保持部に供給してもよく、又は、予備充填液としての連続相液を供給した後に、改めて、液滴の生成及び/又は保持のための連続相液を連続相液保持部に供給してもよい。
【0077】
液滴生成の安定性をさらに向上させる観点からは、予備充填液としての連続相液を供給した後で、液滴の生成及び/又は保持のための連続相液を別個にさらに供給することが好ましい。すなわち、予備充填液としての連続相液を供給した後で、かつ陰圧を適用する前に、液滴の生成及び/又は保持のための連続相液を連続相液保持部に供給することができる。好ましくは、分散相液を分散相液保持部に供給した後で、かつ陰圧を適用する前に、液滴の生成及び/又は保持のための連続相液の供給を行う。これにより、分散相液流路への連続相液の進入を効果的に回避又は抑制することができる。特に好ましくは、分散相液保持部に供給した分散相液が分散相液流路を少なくとも部分的に充填した後で、かつ陰圧を適用する前に、液滴の生成及び/又は保持のための連続相液の供給を行う。これにより、分散相液流路への連続相液の進入を特に効果的に回避又は抑制することができる。
【0078】
好ましい1つの実施態様では、液滴の生成及び/又は保持のための連続相液の供給を複数に分けて行う。例えば、陰圧の適用前に連続相液の第1部分を供給し、陰圧を適用した後で、連続相液の残りの部分(第2部分)をさらに供給することができる。陰圧を適用する前に供給する連続相液(連続相液の第1部分)の量を一定以下に限定し、それにより、連続相液が分散相液流路に進入しないようにし、又は、分散相液流路に進入する連続相液の量が一定量以下に低減されるようにすることができる。
【0079】
陰圧を適用する前に供給する連続相液の第1部分の量及びその効果については、上記の記載、すなわち、予備充填液として連続相液混和性液体を用いる場合に陰圧適用前に供給する連続相液に関する上記の記載を参照することができる。
【0080】
(予備充填液としての連続相液:陰圧適用のタイミング)
予備充填液として連続相液を用いる場合、好ましい1つの実施態様では、陰圧を適用する前に連続相液の第1部分を連続相液保持部に供給してから、所定時間が経過するまでの間に陰圧を適用し、それにより、分散相液流路への連続相液の進入が抑制又は回避されるようにする。
【0081】
この所定時間及びその効果については、上記の記載、すなわち、予備充填液として連続相液混和性液体を用いる場合に陰圧適用前に供給する連続相液に関する上記の記載を参照することができる。
【0082】
(予備充填液として連続相液:連続相液の追加)
予備充填液として連続相液を用いる場合、好ましい1つの実施態様では、陰圧を適用する前に連続相液の第1部分を供給した後で、かつ陰圧の適用後(特には陰圧の適用の間)に、連続相液の第2部分を連続相液保持部にさらに供給することができる。「連続相液の第2部分」は、特には、必要な数の液滴を得るために、かつ/又は所与の目的に応じて十分な時間にわたって液滴を安定して保持するために充分な量の連続相液である。
【0083】
連続相液の第2部分については、上記の記載、すなわち、予備充填液として連続相液混和性液体を用いる場合に供給する追加の連続相液に関する上記の記載を参照することができる。
【0084】
以下で、本開示に係る発明を構成する各構成要素及びその実施態様についてさらに詳細に説明する。
【0085】
<エマルジョン>
本開示に係る方法によって生成されるエマルジョンは、分散性溶液であり、分散相液から構成される液滴、及び連続相液から構成される連続相を含む。エマルジョン中で、分散相液から構成される液滴が、連続相液から構成される連続相に分散している。
【0086】
(分散相液)
分散相液は、エマルジョンに含有される液滴を構成する液体である。
【0087】
分散相液は、例えば、水溶液である。分散相液は、随意に、界面活性剤、有機溶剤、増粘剤、血清、酵素などを含有することができる。分散相液は、反応液であってよく、例えば、後述する検出処理において検出対象となる試料を含有する液体、検出用の試薬を含有する液体、又はこれらの混合液であってよい。
【0088】
(連続相液)
連続相液は、エマルジョンに含有される連続相を構成する液体である。
【0089】
連続相液は、分散相液と混和しない非混和性液体であることが好ましい。例えば、分散相液が水溶液である場合、連続相液はオイルであってよく、この場合、ウォーターインオイル(W/O)型エマルジョンが形成される。
【0090】
連続相液がオイルである場合、オイルとしては、シリコーンオイル、鉱油、フッ素系分散媒、植物油、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0091】
フッ素系分散媒としては、フルオロカーボン、特には、ペルフルオロヘキサン、ヘキサフルオロベンゼン、ペルフルオロメチルシクロヘキサン、ペルフルオロオクタン、及びペルフルオロトリペンチルアミンが挙げられる。
【0092】
市販されているフルオロカーボンとしては、FC-3283(フロリナート(商品名)3M社製)、FC-40(フロリナート(商品名)3M社製)、及びHFE-7500(3MTMNovecTM高機能性液体、3M社製)が挙げられる。
【0093】
連続相液としてフッ素系分散媒、特に上記のフルオロカーボンを使用した場合には、特に安定かつ迅速な液滴生成が可能となる。また、極性溶媒や無極性溶媒に対して極めて相溶性が低い特徴を有するため、エマルジョン内の液滴の成分が連続相液を介して他の液滴に移動してしまう問題(クロストーク、コンタミ)を抑制することができる。また、炭化水素系分散媒やシリコーンオイルで表面張力や粘性の低い液体を選択する場合、一般的に可燃性等の危険物としてのリスクが増大するが、フッ素系分散媒は消火剤や冷却媒として利用されるほど安全性が高いのが特徴である。
【0094】
連続相液がオイル(特にはフッ素系分散媒)を含有する場合、オイル(特にはフッ素系分散媒)は、連続相液に対して、50.0~99.9質量%であってよく、又はさらには80~99.0質量%であってよい。
【0095】
なお、液滴の熱安定性の目的などのために、界面活性剤などの添加剤を連続相液に添加することもできる。これらの添加剤は、液滴における検出反応を阻害しないものであることが好ましい。界面活性剤としては、非イオン界面活性剤である、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールのブロックコポリマーであるPLURONIC(登録商標)およびTETRONIC(登録商標)やTween(登録商標)、Span、Zonyl(登録商標)など挙げられる。連続相液としてフッ素系分散媒を使用する場合、フッ素系界面活性剤、特にはフッ化炭素系界面活性剤を使用するのが好ましく、例えばパーフルオロポリエーテルとポリエチレングリコールのブロックコポリマー等が挙げられる。
【0096】
連続相液が界面活性剤を含む場合、界面活性剤は、連続相液に対して、1~20質量%であってよく、又はさらには2~10質量%であってよい。
【0097】
(液滴)
エマルジョンに含有される液滴は、分散相液から構成される。液滴は、例えば、分散相液が連続相液との接触を介してカプセル封入されることによって形成される。
【0098】
液滴は、例えば、検出対象となる試料を含有する。液滴中で、試料中に含有される標的物質と試薬とを反応させ、その反応の有無及び/又は反応の程度を示す検出可能なシグナル(例えば、蛍光シグナル)を介して、試料の分析を行うことができる。この反応は、例えば、化学反応、結合反応、表現型の変化、又はこれらの組み合わせであってよい。
【0099】
液滴の体積は、標的物質(標的分子)をおおむね1つ(例えば1分子)保持できるだけの体積を有することが好ましい。具体的には、平均体積が、0.00001nL以上、0.0001nL以上、0.001nL以上、0.01nL以上、0.1nL以上、0.5nL以上、若しくは1nL以上、かつ/又は、100nL以下、50nL以下、若しくは10nL以下であることが好ましい。なお、液滴内における標的物質の反応を均一に行なう観点から、形成する液滴の体積は単分散性が高いと好ましい。ここでいう単分散性とは、具体的には、液滴体積の変動係数(CV)が20%以下、10%以下、5%以下、2%以下、又は1%以下のことをいう。なお、下記では説明をわかりやすくするため、液滴を球状として取り扱うが、流路構造や周囲の流れによって液滴が非球状になっていても同様に考えてよい。
【0100】
液滴は、少なくとも標的物質の反応温度条件下で液滴の形状を維持できるだけの熱安定性を有していることが好ましい。具体例として、検出処理において、TRC法による核酸増幅を行う場合は、40℃~48℃の温度条件下で、PCR法による核酸増幅を行う場合は、50℃~100℃の温度条件下で、それぞれ、形状を維持できるだけの熱安定性を液滴が有していることが好ましい。
【0101】
<予備充填液>
予備充填液は、マイクロ流路チップに分散相液を供給する前に分散相液流路をあらかじめ充填するための液体である。
【0102】
予備充填液は、連続相液又は連続相液混和性液体である。連続相液については上述の記載を参照することができる。
【0103】
(連続相液混和性液体)
連続相液に対して混和性である連続相液混和性液体は、特には、連続相液に対して混和性であるとともに、連続相液による液滴生成及び液滴内反応(液滴における検出反応等)に影響を及ぼさない液体である。
【0104】
連続相液混和性液体は、連続相液を構成する主成分と同じ主成分を有する液体であってよい。
【0105】
ここで、「主成分」とは、液体の50質量%以上を占める成分をいう。例えば、連続相液が95質量%のフッ素系分散媒と5質量%の界面活性剤を含有する場合、連続相液を構成する主成分は、フッ素系分散媒である。
【0106】
特には、主成分は、液体の60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は99質量%以上を占める成分である。主成分は、液体の100質量%未満、又は99.9質量%以下を占める成分であってよい。
【0107】
好ましくは、連続相液混和性液体に含有される界面活性剤の含有量が、連続相液に含有される界面活性剤の含有量よりも低い。
【0108】
より好ましくは、連続相液混和性液体に含有される界面活性剤の含有量が、連続相液に含有される界面活性剤の含有量よりも低く、かつ、連続相液混和性液体に含有される界面活性剤の含有割合が、5重量%以下、1重量%以下、特には0.1重量%以下である。
【0109】
特に好ましくは、連続相液混和性液体が、界面活性剤を有しない。
【0110】
連続相液混和性液体における界面活性剤の含有量が比較的低減されている場合、又は連続相液混和性液体が界面活性剤を含有しないには、分散相液流路への界面活性剤の侵入又は残留を抑制又は回避することができる。分散相液流路における界面活性剤は、分散相液の良好な混合や液滴の安定的な生成を阻害する場合があるので、これは好ましい態様である。
【0111】
本開示に係る1つの好ましい態様では、連続相液混和性液体は、比較的低い界面活性剤含有量を有すること以外は、連続相液と同じ組成を有する。
【0112】
本開示に係る特に好ましい態様では、連続相液が、フッ素系分散媒及び界面活性剤を有しており、他方で、連続相液混和性液体が、フッ素系分散媒を含有する一方で界面活性剤を含有しない。特には、連続相液が、フッ素系分散媒及び界面活性剤からなり、連続相液混和性液体が、フッ素系分散媒のみからなる。また、好ましい1つの態様では、連続相液の組成が界面活性剤を含み、予備充填液としての連続相液混和性液体が、連続相液の組成において界面活性剤の量を低減した組成、又は連続相液の組成から界面活性剤を除いた組成を有する。
【0113】
<マイクロ流路チップ>
本開示のマイクロ流路チップは、分散相液保持部、分散相液流路、連続相液保持部、連続相液流路、エマルジョン形成部、エマルジョン流路、及び排出口を有している。分散相液保持部が、分散相液流路を介して、エマルジョン形成部に接続しており、連続相液保持部が、連続相液流路を介して、エマルジョン形成部に接続しており、エマルジョン流路が、排出口に接続している。
【0114】
本開示に係る1つの実施態様では、
マイクロ流路チップが、エマルジョン保持流路をさらに有し、
エマルジョン形成部が、エマルジョン流路を介して、エマルジョン保持流路に接続し、
エマルジョン保持流路が、排出口に接続している。
【0115】
分散相液保持部、分散相液流路、連続相液保持部、連続相液流路、エマルジョン形成部、エマルジョン流路、随意のエマルジョン保持流路、及び排出口は、互いに流体的に接続され、全体として1つの流路構造を形成する。
【0116】
特には、この流路構造は、分散相液保持部、連続相液保持部、及び排出口のみを介して、外部雰囲気(特には外部大気)に接続しうるようになっている。
【0117】
本開示に係るマイクロ流路チップは、例えば、基材、及び基材の上に配置されている上部構造体を有している。好ましくは、上部構造体が、流路構造、すなわち、分散相液保持部、分散相液流路、連続相液保持部、連続相液流路、エマルジョン形成部、エマルジョン流路、随意のエマルジョン保持流路、及び排出口を有している。基材は、ガラスからできていてよい。上部構造体は、樹脂からできていてよい。マイクロ流路チップは、例えば、樹脂製の上部構造体と、マイクロ流路チップの底部を構成するガラス基材とを貼り合わせて作製することができる。
【0118】
マイクロ流路チップを構成する流路の大きさ(幅及び深さなど)は、目的とする液滴の体積などを考慮して適宜決定することができ、特には、標的物質の反応形態を考慮して適宜決定することができる。例えば、標的物質がDNAやRNAなどの核酸であり、標的物質の反応が当該核酸のデジタル増幅反応(1分子単位での増幅反応)である場合は、pLオーダー又はnLオーダーの液滴を作製することが必要なため、エマルジョン形成部の周辺の流路の幅及び深さが、それぞれ、0.1μm~1000μm、特には1μm~300μmの範囲であることが好ましい。
【0119】
マイクロ流路チップは、流路構造を正確かつ容易に作製可能なモールディング若しくはエンボッシングなどの鋳型を用いた技術、又は、フォトリソグラフィー、ソフトフォトリソグラフィー、ウェットエッチング、ドライエッチング、ナノインプリンティング、レーザー加工、電子線直接描画、積層造形法(Additive Manufacturing、AM)、機械加工など、当業者が通常用いる技術を組み合わせて作製することができる。
【0120】
マイクロ流路チップは、流路構造を正確かつ容易に作製可能なモールディング若しくはエンボッシングなどの鋳型を用いた技術、又は、フォトリソグラフィー、ソフトフォトリソグラフィー、ウェットエッチング、ドライエッチング、ナノインプリンティング、レーザー加工、電子線直接描画、積層造形法(Additive Manufacturing、AM)、機械加工など、当業者が通常用いる技術を組み合わせて作製することができる。
【0121】
マイクロ流路チップの作製に用いる材料として、PDMS(ポリジメチルシロキサン)及びアクリルなどのポリマー材料、ステンレスなどの金属材料、ガラス、シリコーン、セラミックスなどがあげられる。これらの中でも、ポリマー材料は、流路自体を安価に作製でき、ディスポーザブルな態様としやすい。したがって、ポリマー材料を少なくとも部分的に用いることが好ましい。
【0122】
なお、マイクロ流路チップを構成する流路は、少なくとも分散相液に対して親和性の低い流路壁面にすると好ましい。分散相液に対して親和性の低い材料を用いてマイクロ流路チップを作製してもよく、分散相液に対して親和性の低い材料で流路壁面に相当する部分を表面処理してもよい。例えば、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、アクリル、シクロオレフィンポリマー、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などのポリマー材料を用いてマイクロ流路チップを作製してもよく、炭化水素系シラン化剤、フッ化炭素系シラン化剤等によって流路壁面の表面処理を行なってもよい。
【0123】
(分散相液保持部)
分散相液保持部は、エマルジョンを生成するための材料となる分散相液を保持する部分である。また、1つの実施態様によれば、分散相液保持部から予備充填液を供給することもできる。分散相液保持部は、例えば、マイクロ流路チップの使用状態において鉛直方向に延在する穴部及び/又はウェルであってよく、この穴部及び/又はウェル内に、分散相液を供給しかつ保持することができるようになっている。分散相液保持部は、例えば、直径0.1mm~20mmの穴部及び/又はウェルから構成されていてよい。分散相液保持部が穴部及びウェルから構成される場合、鉛直方向に延在するウェルが、鉛直方向に延在する穴部を介して、分散相液流路に接続することができる。
【0124】
分散相液保持部に関しては、下記に従ってさらなる最適化を行うことが好ましい。
【0125】
送液中の駆動力としては、主に、送液圧力(陰圧)及び/又は液面差圧(静水圧)及び/又は毛細管力(キャピラリー力)が働く。このうち、毛細管力は、送液中の流路下流(一般に、随意の構成要素であるエマルジョン保持流路)の気液界面(及び固液界面)の表面張力と各保持部内の気液界面(及び固液界面)の表面張力の差によって決定される。すなわち、各保持部における気液界面の形状(壁面への濡れ挙動)によって流路内送液速度などが変化するため、特に、流路内の気液界面を制御することによって送液(エマルジョン生成及び保持)を行うエマルジョン充填法において、各保持部の形状は、安定な送液を実現するための重要な因子である。特に、一般的なエマルジョン生成チップでは、少なくともエマルジョン形成部の流路壁面を分散相液に対して親和性の低い表面(分散相液が水性液体であれば疎水表面)にすることで安定なエマルジョン生成が実施可能となるため、チップ製造コストの観点から流路内表面処理や別基板を組み合わせていない場合、分散相液保持部の壁面も分散相液に対して親和性の低い表面になるのが一般的である。このとき、分散相液保持部において界面形状の変化に伴う気液界面の表面張力の変化量が大きくなるため、送液への影響がより大きくなる。
【0126】
上述のような毛細管力の変化を低減する観点からは、実質的に壁面に不連続な形状が無く、垂直方向に延在する穴部及び/又はウェルが好ましい。また、分散相液保持部の分散相液の残量が少なくなると、気液界面が保持部のウェルの底面に実質的に接触し界面形状が変化しやすくなるため、その影響を低減するため流路と直接流体接続している穴部及び/又はウェルの口径は、小さい方が好ましく、例えば5mm以下、より好ましくは2mm以下、特に好ましくは1mm以下であってよい。一方で、分散相液流路と直接流体接続している穴部又はウェルから径を拡張することで分散相液の保持量を増加させることもできるが、この場合は、気液界面が拡張部位付近に存在すると気液界面形状が変化しやすい。したがって、1つの好ましい態様として、拡張部位の形状を調整することができ、かつ/又は流路と直接流体接続している穴部若しくはウェルの拡張部位までの高さを小さくすることができ、例えば3mm以下、より好ましくは1mm以下、特に好ましくは0.5mm以下とすることができる。さらに、分散相液の供給量が少なく及び/又は分散相液保持部周辺のチップ外部表面が分散相液に対して親和性が低く、かつ外部送液駆動力が排出口への陰圧印加である場合には、穴部のみの構成として、穴部に半球面状となるように分散相液を供給すると、チップ壁面への接触面積を最小限とし、分散相液の残量が少なくなっても気液界面の形状の変化を抑制できるため好ましい。
【0127】
(分散相液の供給)
本開示に係る方法は、分散相液保持部に分散相液を供給することを含む。1つの実施態様では、分散相液は、予備充填液が分散相液保持部まで移動した後で、供給される。
【0128】
分散相液保持部に分散相液を供給するために、分散相液を保持するために別個に用意される別容器(相液保持容器)を用いることもできる。このような容器は、保管中及び操作中における液の流出を防止する観点から、分散相液を保持した状態で完全に又は可変的に密閉されていることが好ましい。
【0129】
また、分散相液の供給(並びに/又は予備充填液及び/若しくは連続相液の供給)は、分注手段によって行うことができる。分注手段の使用は、分散相液の残量を抑制し、測定時間及び/又は試薬(分散相液)間のコンタミを抑制できる点で好ましい。
【0130】
例えば、分注手段を用いて各保持部に各相液を滴下し、又は、各保持部の壁面に沿って各相液を導入することができる。これは、送液を陰圧で行う場合に、特に有利である。従来の供給方法、特に、各保持部にチューブ又はマニフォールドを流体接続(密閉接続)させて各保持部への液導入及び送液圧力を同時に行う方法では、接続時の不意の圧力変動及び圧力の安定化までに要する時間に起因して、送液を開始する前に早期に液滴が生成してしまうことがあった。これに対して、分注手段を用い、かつ送液を陰圧で行う場合には、各保持部に相液供給用装置及び圧力源を接続する際の圧力の変動がなくなるので、送液を開始する前の早期の液滴生成を抑制することができる。
【0131】
分注手段は、保持部における圧力変動を生じないものであることが好ましい。分注手段は、例えばピペットであってよい。好ましくは、分注手段(特に、分注手段を構成する液吐出口)が、各保持部に対して流体接続(密閉接続)されておらず、空間的に離されている。
【0132】
例えば、分注手段は、ポンプ、アクチュエーター、ピペットを含む機構であってよく、別容器に保持された各相液をポンプによって吸い上げ、アクチュエーターによって各保持部までピペット先端を移動した後、ポンプによって各保持部に各相液を押し出す動作を行うことが好ましい。加えて、各相液が接触したピペット等の一部は、取り外し可能で使用毎に取り換えることができると、コンタミが抑制できるので好ましい。さらに、分注手段のポンプを送液手段として併用すると、装置構成が簡便化できるため好ましい。また、繰り返し使用が意図される場合、使い捨てのピペットを含む分注手段によって相液を添加しても良いし、共通のラインを使用して相液保持容器からマイクロ流路チップへ添加を行っても良い。後者の場合、連続相液への分散相液のコンタミ抑制のため、マイクロ流路チップへの接続部までの共用のラインを洗浄する工程を含んでいることが好ましい。また、ピペットを含まない分注手段として、外力によって、相液を保持した容器から直接保持部に各液体を添加(滴下)する方法も好ましい(例えば、容器の熱圧着した部位を圧力によって破断させ容器内の液体を押し出す手段など)。また、例えばTRC反応やPCR反応を行う場合、水溶液サンプルの精製手段や調製手段として分注手段を併用してもよい。
【0133】
(分散相液保持部への予備充填液の供給)
本開示に係る方法の1つの実施態様は、分散相液保持部に予備充填液を供給することを含む。上述のとおり、分散相液を分散相液保持部に供給する前に、予備充填液を、気体で充填された状態の分散相液流路、エマルジョン形成部、及び連続相液流路を通して、気体で充填された状態の連続相液保持部にまで移動させることができる。
【0134】
予備充填液の供給は、分散相液の供給に関して上述したのと同様に、別容器を用いて、かつ/又は分注手段によって、行うことができる。例えば、分注手段を用いて保持部に相液を滴下し、又は、保持部の壁面に沿って相液を導入することができる。別容器、及び分注手段の詳細については、分散相液の供給に関する上記の記載を参照することができる。
【0135】
(分散相液流路)
分散相液流路は、分散相液保持部とエマルジョン形成部とを接続している。分散相液流路は、予備充填液、及び分散相液がその中を通るように構成されている。
【0136】
分散相液流路の寸法は、使用する分散相液の種類及び特性などに応じて適宜設定することができる。分散相液流路は、例えば、10~500μm、又は50~200μmの幅を有することができ、1mm~500mm、又は10~200mmの長さを有することができる。また、分散相液流路は、1~200μm、又は10~100μmの流路高さを有することができる。分散相液流路は、1つ以上の場所で屈曲してもよく、蛇行形状を有してもよい。
【0137】
本発明では、送液開始時に、分散相液が、分散相液流路及び分散相液保持部に存在する予備充填液を押しのけてエマルジョン形成部に向かって流れるが、その際に予備充填液が効率よく分散相液流路から排出され、予備充填液の残留が低減されていることが好ましい。下記にその方策を示すが、本発明はそれに限定されない:まず、流路断面形状は、不連続な面(角)が少ない構造が好ましい。例えば、円形、楕円形、半円形とすればよい。分散相液流路の流路表面は連続相液に親和性の低い表面とするのが好ましい。また、残留量を低減するため、分散相液流路の長さは短く、流路断面積は小さい方が好ましい。
【0138】
本開示に係るマイクロ流路チップは、2つ以上の分散相液保持部、及びそれらにそれぞれ対応する2つ以上の分散相液流路を有することができる。
【0139】
特には、本開示に係るマイクロ流路チップが、第一分散相液保持部及び第二分散相液保持部を有し、分散相液流路が、第一分散相液保持部に接続されている第一分散相液流路、第二分散相液保持部に接続されている第二分散相液流路、及び分散相液合流部を含む。第一分散相液流路及び第二分散相液流路は、それぞれ、分散相液合流部を介して、エマルジョン形成部に接続する。
【0140】
2つ以上の分散相液保持部を用いることによって、例えば、分析用試料を含有する反応液と、検出用試薬を含有する反応液とを、別個にマイクロ流路チップに供給し、液滴を生成する直前まで両者が混合しないようにすることができる。これは、反応開始のタイミングをより良好に制御することができるので、好ましい。
【0141】
一方で、予備充填液として連続相液を用いる態様において、分散相液流路(特には分散相液合流部)に予備充填液としての連続相液が残留している場合には、2つの分散相液の不均一な混合比をもたらしうる。すなわち、2つ以上の分散相液を流路内で混合することができる分散相液合流部を含むマイクロ流路チップを用いる場合、分散相液流路、分散相液合流部及び分散相液保持部に充填された予備充填液としての連続相液が、液滴の生成の間も流路内に残留し、分散相液合流部における分散相液の層流化による液滴内の均一な混合を阻害することがある。
【0142】
なお、残留した予備充填液としての連続相液による均一な混合の阻害は、予備充填液としての連続相液が流路壁面と分散相液との間に薄い層を形成することが原因と考えられるため、界面活性剤を添加せずに予備充填液―分散相液界面の安定性を低下させることで連続相液の薄い層が除去されやすくなると考えられるが、界面活性剤を有しない連続相液を用いることは、安定な液滴の生成及び保持に対して相反する効果を示すことがあるため、好ましくない。また、エマルジョン形成前の分散相液の混合を抑制する目的のため、分散相液合流部の層流状態を維持したままエマルジョン形成を行う例を示したが、例えば攪拌を促す構造(マイクロミキサー構造)を有する分散相液合流部であっても、分散相液同士の界面の挙動が不安定化し、液滴内の均一な混合を阻害すると考えられる。
【0143】
予備充填液としての連続相液及び分散相液の供給のタイミングのずれなどによって、残留する予備充填液としての連続相液の量が一定にならない場合には、上記の混合比の不均一性がさらに増加すると考えられる。本発明に係る方法によれば、分散相液流路の壁面に残留する連続相液を一定にすることができるので、残留した連続相液が分散相液の混合比に及ぼす影響を最小化することができると考えられる。
【0144】
さらに、予備充填液として、連続相液ではなく、界面活性剤の量が比較的低減された連続相液混和性液体を用いた場合には、2以上の分散相液を合流させるための合流流路を用いる場合であっても、特に良好な液体の混合が可能になるとともに、特に安定的な液滴の生成及び保持を確保することができる。
【0145】
すなわち、本開示に係る1つの実施態様では、連続相液が界面活性剤を含有しており、かつ、予備充填液としての連続相液混和性液体が、連続相液よりも低い界面活性剤含有量を有し、又は界面活性剤を有しない。この態様によれば、連続相液を予備充填液として用いた場合とは異なり、分散相液流路への界面活性剤の残留を回避又は抑制することができる。また、連続相液として界面活性剤を含有するものを用いることができるので、エマルジョン形成部における特に良好な液滴の生成が確保される。
【0146】
この態様は、2以上の分散相液を合流させるための合流流路を用いる場合に、特に有利である。すなわち、分散相液流路に界面活性剤が残留していると、合流流路における2以上の液体(特には2つの分散相液)の層流化に時間がかかり、これらの液体が十分に混合されずに液滴となり、その結果として、サンプルロスが発生する。サンプルロスは、全体の液滴の20~60%になることもある。これに対して、上述の態様によれば、分散相液流路への界面活性剤の残留を回避又は抑制することができるので、サンプルロスを特に効果的に抑制することができる。
【0147】
(連続相液保持部)
連続相液保持部は、エマルジョンを生成/保持するための連続相液、及び随意に予備充填液を保持する部分である。連続相液保持部の構造は、予備充填液及び連続相液を保持することができれば特に限定されない。連続相液保持部は、穴部又はウェルであってよく、例えば垂直方向に延在する穴部又はウェルであってよく、この穴部又はウェル内に予備充填液及び連続相液を供給し、かつ保持することができるようになっている。連続相液保持部は、例えば、直径0.1mm~20mmの穴部又はウェルであってよい。
【0148】
なお、連続相液及び予備充填液は、一般に表面張力及び粘性が小さい液体を使用するため、連続相液保持部における界面形状の変化に伴う表面張力の変化量は小さい。したがって、連続相液保持部の形状は、送液に大きな影響を与えない。加えて、本発明において例えばエマルジョンを保持し検出反応などを行う場合、連続相液保持部の連続相液が枯渇しないように十分な量の連続相液を供給するため、送液中に保持部の連続相液の残量が少なくなり界面形状が変化しやすい状況になることもない。したがって、やはり、連続相液保持部の形状は、送液に大きな影響は与えにくい。
【0149】
(予備充填液及び連続相液の供給)
本開示に係る方法の1つの実施態様は、連続相液保持部に予備充填液及び連続相液を供給することを含む。上述のとおり、分散相液を分散相液保持部に供給する前に、予備充填液を、気体で充填された状態の連続相液流路、気体で充填された状態のエマルジョン形成部、及び気体で充填された状態の分散相液流路を通して、気体で充填された状態の分散相液保持部にまで移動させることができる。
【0150】
予備充填液及び連続相液の供給は、分散相液の供給に関して上述したのと同様に、別容器を用いて、かつ/又は分注手段によって、行うことができる。例えば、分注手段を用いて保持部に相液を滴下し、又は、保持部の壁面に沿って相液を導入することができる。別容器、及び分注手段の詳細については、分散相液の供給に関する上記の記載を参照することができる。
【0151】
(連続相液流路)
連続相液流路は、連続相液保持部とエマルジョン形成部とを接続している。連続相液流路は、予備充填液及び連続相液がその中を通るように構成されている。
【0152】
連続相液流路の寸法は、使用する予備充填液及び連続相液の種類及び特性などに応じて適宜設定することができる。連続相液流路は、例えば、10~500μm、又は50~200μmの幅を有することができ、1mm~500mm、又は10~200mmの長さを有することができる。また、連続相液流路は、1~200μm、又は10~100μmの流路高さを有することができる。連続相液流路は、1つ以上の場所で屈曲してもよく、少なくとも部分的に蛇行形状を有してもよい。
【0153】
マイクロ流路チップは、2つ以上の連続相液流路を有することができる。特には、本開示に係るマイクロ流路チップが、第一連続相液流路及び第二連続相液流路を有しており、これらの流路が、それぞれ、連続相液保持部とエマルジョン形成部とを接続している。
【0154】
図1の例示的な実施態様を参照すると、連続相液流路111が2つの流路(第一連続相液流路112及び第二連続相液流路113)から構成されている。これら2つの流路112、113は、エマルジョン形成部120において互いに対向するようになっており、かつ、エマルジョン形成部120に接続している分散相液流路(より正確には、分散相液合流部116)に対して実質的に直交するようになっている。
図1の実施態様では、第一連続相液流路112と第二連続相液流路113とが、実質的に同一の構造及び流路長を有しており、それにより、それぞれの流路を移動する連続相液(又は予備充填液)の速度が、実質的に同一となるようになっている。また、上述のようにエマルジョン生成前における分散相液同士の混合を抑制したい場合、分散相液合流部116の下流部とエマルジョン形成部120とを連結する流路の長さは比較的短い方が好ましく(例えば、3mm以下、より好ましくは0.5mm以下)、流路内で分散相液が別々に層流状態を保っているのが好ましい。
【0155】
(エマルジョン形成部)
エマルジョン形成部は、エマルジョンを生成するように構成されている。エマルジョン形成部は、分散相液流路及び連続相液流路を介して、それぞれ分散相液及び連続相液の供給を受ける。また、エマルジョン形成部は、エマルジョン流路に接続されており、エマルジョン形成部で生成されたエマルジョンが、エマルジョン流路に送られる。
【0156】
エマルジョン形成部は、分散相液流路へと開く1又は複数の開口部、及び、連続相液流路へと開く1又は複数の開口部を有することができる。また、エマルジョン形成部は、エマルジョン流路へと開く1又は複数の開口部を有することができる。
【0157】
図1の例示的な実施態様を参照して、エマルジョン形成部について説明する。
図1のエマルジョン形成部120では、2つの流路112、113から構成される連続相液流路111と、分散相液流路(より正確には、分散相液合流部116)とが、実質的に直交している。陰圧の適用の間に、連続相液が、2つの互いに実質的に対向する方向からエマルジョン形成部120へと流入し、かつ、分散相液が、連続相液の流入方向に対して実質的に直交する方向でエマルジョン形成部120に流入する。その結果、エマルジョン形成部120において、連続相に分散した液滴(すなわちエマルジョン)が生成される。このようにして生成されたエマルジョンが、エマルジョン流路130を通って、気体で充填されているエマルジョン保持流路140に進入する。
【0158】
エマルジョン形成部は、T-janction、Flow-Focus、co-flow、step-emulsificationなどの一般的な液滴生成法を利用した流路を適宜用いることができる。迅速にエマルジョンを生成するために、複数のエマルジョン形成部を並列して配置してもよい。また、エマルジョン中の液滴を攪拌させるための蛇行流路などを備えていてもよい。
【0159】
(エマルジョン流路)
エマルジョン流路は、生成されたエマルジョンが輸送される流路である。本開示に係る1つの態様では、エマルジョン流路は、エマルジョン形成部とエマルジョン保持流路とを接続する。エマルジョン流路のうちエマルジョン形成部に隣接する部位は、好ましくは、分散相液流路(特には分散相液合流部)に対向するように配置される。
図1は、そのような態様のエマルジョン流路を示している。また、
図1では、エマルジョン流路のうちエマルジョン形成部に隣接する部位が、連続相液流路のエマルジョン形成部への流入部に対して、実質的に直交している。
図1の場合、エマルジョンが生成される際に、分散相液流路からエマルジョン形成部に流入してくる分散相液が液滴となり、そのまま流れの角度を変えずに、エマルジョン流路に進入する。
【0160】
エマルジョン流路は、エマルジョン形成部に隣接する部位の下流側(排出口の方向)で、拡張した幅及び/又は高さを有する流路を有することができ、かつ/又は蛇行していることができる。このような態様によれば、液滴中での攪拌を促進することができるので、好ましい。
【0161】
(エマルジョン保持流路)
本開示に係る1つの実施態様では、マイクロ流路チップが、エマルジョン保持流路を有する。エマルジョン保持流路は、エマルジョン流路を介してエマルジョン形成部に接続しており、エマルジョン形成部で生成されたエマルジョンを保持する機能を有している。また、エマルジョン保持流路は、随意に排出口連通流路を介して、排出口に接続されている。
【0162】
エマルジョン保持流路の幅及び長さは、保持する液滴の体積・数等に合わせて適宜設定することができ、例えば、幅と長さとがほぼ同等の幅広い単純な流路にしてもよく、連続した単一の長い流路を蛇行状又は渦巻き状に配列させてもよく、分岐させた直線流路を並行させてもよい。
【0163】
本発明において、エマルジョン保持流路の流路断面は、液滴の中心が流路の中心に沿って流れやすいため、円状、半円状、楕円状、凸型、凹型、長方形、台形が好ましい。
【0164】
エマルジョン充填法では、一般に、エマルジョン保持流路内の気液界面の移動を制御することでエマルジョン生成と保持を同時に行うため、送液中の気液界面の形状が維持される(移動しながらもその形状に変化が小さい)ように、流路断面形状が一定で屈曲の無い直線流路であることが望ましい。しかし、検出液滴数を増加させるために流路高さに対して流路幅を極端に大きくすると、意図した流路構造を有するチップを安定して製造するのが難しく、かつ/又は、流路の底面及び/若しくは上面が変形して流路側面から遠い流路領域の高さが送液圧やチップへの固定圧などによって変化して測定に悪影響を及ぼす可能性がある(ルーフコラップス)。対策として、例えば、流路高さに対する流路幅の比は、100以下、より好ましくは50以下、25以下、特に好ましくは10以下であるのが好ましい(下記のピラーが無い場合)。あるいは、流路中央に柱(ピラー)を設けることで、流路高さに対する、柱同士の間隔及び/又は柱と流路側面の間隔の比が、例えば、100以下、より好ましくは50以下、25以下、特に好ましくは10以下であるのが好ましい。一方で、イメージセンサなどによる一括検出処理を行う場合、エマルジョン保持流路が水平面で(例えば正方形や円形に近い形で)密にパッケージされていると、検出液滴数を増加させられるため好ましい。よって、同じ流路断面形状の連続した単一の長い流路を蛇行状又は渦巻き状に配列させてもよく、分岐させた直線流路を並行させてもよい。この場合、屈曲部が存在するため送液中に界面形状が変化しやすいが、屈曲部における断面形状を調整することでその影響を低減することが可能である。
【0165】
1つの実施態様では、保持されているエマルジョンに対して検出処理を行うことが意図されている。すなわち、エマルジョン保持流路に保持されたエマルジョンに対して、随意に、後述する検出処理を行うことができる。
【0166】
好ましくは、エマルジョン保持流路は、保持されているエマルジョンの大部分又は全部がマイクロ流路チップの外部雰囲気(特には外部大気)に触れないように、構成されている。好ましくは、エマルジョン保持流路に保持されている液滴のうち、検出処理の対象となっている液滴が、外部雰囲気(特には外部大気)に触れないようになっている。このために、例えば、エマルジョン保持流路の流路長を比較的長く設定し、エマルジョン保持流路の下流側末端部にのみでエマルジョンが外部雰囲気(特には外部大気)と接触しうるようにすることができる。
【0167】
好ましくは、エマルジョン保持流路に保持されるエマルジョンが、外部雰囲気(特には外部大気)に対して密封されるようになっている。
【0168】
好ましくは、エマルジョン保持流路は、エマルジョン保持流路に保持されているエマルジョンに対して検出処理を行うことに適している。
【0169】
好ましくは、エマルジョン保持流路は、外部大気に開放されていないエマルジョンに対して検出処理を行うことができるように構成されている。より具体的には、例えば、保持されているエマルジョンと検出手段との間に、エマルジョンを外部大気から隔離する構造が存在する。この構造は、例えば、光を透過する材料でできている。なお、この場合、エマルジョン保持流路に保持されているエマルジョンのうち、検出処理の対象とならないエマルジョン、例えばエマルジョン保持流路の排出側末端部に位置するエマルジョンが、外部大気に開放されていてもよい。
【0170】
好ましくは、エマルジョン保持流路の流路体積が、エマルジョン形成部で生成される液滴の合計体積以上(特には、検出処理において検出の対象となる液滴の合計体積以上)であり、かつ/又は、エマルジョン保持流路の流路体積が、1μL以上、5μL以上、若しくは10μL以上である。このようなエマルジョン保持流路によれば、検出処理を効率的に行うことができる。なお、エマルジョン保持流路の流路体積の上限は、例えば、1000μL以下であってよい。
【0171】
好ましくは、エマルジョン保持流路が、平均体積0.1nL~10nL、特には0.3~3nLの液滴の液滴を、500個以上、1000個以上、2500個以上、5000個以上、若しくは10000個以上、かつ/又は100000個以下、80000個以下、60000個以下、若しくは40000個以下、保持することができる流路体積を有する。エマルジョン保持流路に保持されたこれらの液滴に対して、検出処理を行うことができる。
【0172】
なお、液滴の平均体積は、デジタルカメラなどの画像取得装置を用いて明視野画像を取得し、取得された画像においてN=10以上の液滴に関して下記に基づいて算出することができる。
【0173】
球状の液滴の体積、及びディスク状の液滴の体積(それぞれVdrop及びVdisk[nL])は、それぞれ、下記の式(1)と式(2)で表わされる。なお、下記式(1)及び式(2)におけるDdrop、Ddiskは、それぞれ、マイクロ流路チップの通常の使用状態において、エマルジョン保持流路に保持されている液滴を上方から観察した場合の、球状の液滴の直径、及びディスク状の液滴の直径である。また、式(2)中、hは、エマルジョン保持流路の流路高さである。
【0174】
【0175】
【0176】
好ましくは、検出処理で使用される(カメラなどの)検出手段に対して、検出対象となるエマルジョン中の液滴が互いに重ならないようになっており、特には、検出方向に直交する平面で単層を形成している。この場合には、検出精度をさらに向上させることができる。
【0177】
特に好ましくは、エマルジョン保持流路の「流路高さ」が調節されており、それにより、マイクロ流路チップの使用状態において、エマルジョン保持流路に保持される液滴が垂直方向で互いに重ならない(すなわち、単一の液滴層が形成される)ようになっている。このようなエマルジョン保持流路で検出処理を行う場合には、検出精度がさらに向上する。なお、「流路高さ」は、通常、マイクロ流路チップの使用状態において、垂直方向(鉛直方向)での流路の長さである。
【0178】
好ましくは、エマルジョン保持流路の流路高さが、検出処理において検出の対象となる液滴の直径に応じた寸法を有することが好ましく、例えば、液滴の直径の1/10倍~10倍、1/4倍~4倍、又は1/2倍~2倍の流路高さを有することが好ましい。また、エマルジョン保持流路の流路高さは、流路幅の1/4倍以下であってよい。なお、流路の幅は、通常、マイクロ流路チップの使用状態において流路の長さ方向に直交する水平方向での長さである。液滴の直径は、流路の幅方向で計測することができる。
【0179】
また、エマルジョン充填法では、エマルジョン形成における連続相液と分散相液の流量比に依存してエマルジョン保持流路にエマルジョンが充填されるため、例えば、エマルジョン形成を安定させるため、分散相液に対する連続相液の流量比を大きくした場合、液滴を水平方向に密にパッケージするため流路高さを通常よりも大きく設計した方が好ましい。例えば、分散相液に対する連続相液の流量比が8~12である場合、エマルジョン保持流路の高さを、液滴の直径の2~4倍にすることができる。
【0180】
(送液の停止)
エマルジョン保持流路内にエマルジョンを保持するためには、例えば、エマルジョン保持流路内に所望の量のエマルジョンが充填された時点で、送液を停止し、かつ随意に排出口を閉じる。排出口を外部大気に(少なくとも部分的に)開放することによって、陰圧の適用を停止することもできる。送液の停止は、エマルジョン保持流路を充填していた気体がエマルジョンで完全に置換されてから行うこともできるが、好ましくは、エマルジョン保持流路を充填していた気体がエマルジョンで完全に置換されない間に送液の停止を行う。換言すると、流路内又は排出口内に気体―エマルジョン界面が存在する状態で、送液を停止させる。
【0181】
送液を停止する際に、排出口を外部大気に段階的に開放することによって、気液界面(気体―エマルジョン界面)の逆流を抑制することができる場合がある。例えば、2つの弁(電磁弁)の中間に比較的低圧力のタンクを別個に設け、外部大気への開放の前にこのタンクに対して排出口を開放することによって、段階的な開放を行うことができる。また、電磁弁の開放速度を調節し、開放の程度が段階的に大きくなるようにすることによって、送液停止を行うこともできる。
【0182】
送液の停止に関して、連続相液の流量比を大きくしたり、エマルジョン保持流路の流路体積を小さくしたりすることで、気体―エマルジョン界面と全液滴との最小距離が大きくなるように調整すると、エマルジョン中の液滴が排出口に流出しにくく、かつ気体―エマルジョン界面による近傍の液滴への悪影響(液滴同士の凝集・合一、液滴内反応やシグナル検出の阻害)を抑制できるため好ましい。
【0183】
また、送液の停止及びその後のエマルジョンの保持に関して、流動性の高い連続相液を使用する場合、外部送液駆動力が印加されていなくても毛細管力及び/又は液面差圧によって気体―エマルジョン界面が下流に流動することがある。加えて、揮発性の高い連続相液を使用する場合、かつ/又は液滴内反応等のためにエマルジョンを加熱している場合には、連続相液が蒸発し流路内の連続相液が減少し、かつ/又は蒸発した分の連続相液を補充するように連続相液保持部に残存する連続相液が流路内に流入することによって、エマルジョン保持流路の液滴が送液停止後も流動することもある。このような送液停止後の液滴の流動は、エマルジョン保持流路内の液滴が排出口方向又はエマルジョン流路方向に流出する要因となるため、対策を行うのが望ましい。このために、各保持部及び排出口を密閉し圧力制御を行い、かつ/又は、流路基板としてガス透過性の低い材料を使用することによって、毛細管力及び/又は液面差圧、並びに連続相液の蒸発に起因する液滴の流動を抑制することができる。なお、分注手段を有する場合には、このような密閉操作は分注操作後又は送液停止後に行う必要があるため、装置の自動化の観点からは好ましくない。
【0184】
(排出口)
マイクロ流路チップは、排出口を有する。この排出口は、エマルジョン流路、又は、随意の構成要素であるエマルジョン保持流路に接続する。また、排出口は、マイクロ流路チップに陰圧を適用するための陰圧源接続部としても機能しうる。
【0185】
好ましくは、排出口が、陰圧源と接続することに適しているように構成されている。この場合、排出口が、印加される圧力に対する耐性を有することがより好ましい。
【0186】
通常、排出口は、エマルジョン流路の下流側に位置し、又は、随意の構成要素であるエマルジョン保持流路の下流側に位置する。排出口がエマルジョン保持流路の下流側に位置する場合、この排出口に陰圧を適用することによって、エマルジョン保持流路の全長又は大部分を、生成されたエマルジョンで充填することができる。
【0187】
(送液)
本開示に係る方法では、排出口への陰圧の適用によって、エマルジョン形成部において、分散相液から構成される液滴及び連続相液から構成される連続相を含むエマルジョンを生成し、このようにして生成されたエマルジョンを、エマルジョン流路に輸送する。エマルジョン保持流路を有する態様では、このようにして生成されたエマルジョンを、エマルジョン流路を介して、随意の構成要素であるエマルジョン保持流路に輸送する。
【0188】
排出口に陰圧を適用して送液を行っている間に、分散相液保持部及び連続相液保持部は、外部雰囲気(特には外部大気)に開放されていることができる。
【0189】
なお、排出口に陰圧を適用して送液を行っている間に、各保持部を常圧にしている方が、装置の簡便性の観点からは好ましいが、陰圧の送液を安定化させるため、かつ/又はエマルジョンの保持のための密閉操作を兼ねるために、非常圧状態に圧力制御してもよい。
【0190】
陰圧の適用に関して、例えば、圧力タンク又はシリンジポンプを用いて、排出口を介して流体(気体又は連続相液)を吸引することができる。
【0191】
陰圧源として圧力タンクを用いる場合、圧力タンクの体積は、排出口から圧力タンクまでの流路の体積及びマイクロ流路チップの流路の体積の合計よりも大きいことが好ましい。圧力タンクは、外部雰囲気(外部大気)に開放しうるような設計とすることもできる。また、圧力タンクは例えば、ポンプで圧力タンク内の圧力を制御すると好ましい。また、圧力タンク内の圧力値をモニタリングできるように圧力センサを設けても良い。
【0192】
適用された陰圧の圧力値をモニタリングするための監視手段を用いて、送液状態の確認、例えばエマルジョンが問題なく生成しているかどうかを確認することができる。
【0193】
陰圧送液は、陽圧送液と比較して、必要な装置を簡略化することができるので好ましい。
【0194】
また、陽圧送液、特に、各保持部へ気体を介して陽圧を印加する場合、各保持部に分散相液及び連続相液を添加してから送液手段と各保持部とを密封接続する必要があるが、接続時に不要な外部圧力がかかりやすい。特に、シリコンゴム等の柔軟性が高い基板を使用する場合、接続時にマイクロ流路チップが変形し、流路断面が変形するおそれがある。また、連続相液として粘性及び表面張力が低い液体を使用することで、エマルジョン形成部におけるせん断力を利用した安定かつ迅速な液滴生成が可能となるが、上記の物性を持つ液体は密閉状態が不完全な場合に液漏れしやすく、適切な圧力印加が困難になりやすい。また、密閉接続後に連続相液及び/又は分散相液を導入することで、上述の接続時の不要な外部圧力による送液や液漏れの問題を抑制することが可能だが、これは前述の液導入と圧力送液を同時に行う手段の一例であり、分散相液と連続相液とを接触させる操作の再現性が低下しやすい。
【0195】
これに対して、陰圧送液の場合、分散相液及び連続相液を添加する前に送液手段を接続できるため、接続時の圧力が分散相液及び連続相液に加わることがないという利点を有する。また、粘性及び表面張力が低い連続相液を保持する連続相液保持部を密閉する必要を回避できるという利点も有する。
【0196】
さらに、流路圧損抵抗の小さいマイクロ流路チップを用いる場合、各保持部に陽圧を印加する方法では、送液手段と接続する際の不要な圧力によって意図せず分散相液又は連続相液が流路内に侵入してしまうおそれがある。
【0197】
これに対して、排出口に陰圧を印加する方法は、分散相液及び連続相液を添加する前に排出口と送液手段とを接続できるため、不要な圧力がかからないという利点を有する。
【0198】
このように、陰圧による送液は多くの利点を有する。一方で、陰圧を適用する場合には、分散相液に直接に圧力が適用されないので、予備充填液(特には連続相液)が分散相液流路の壁面から除去されず、そこに残留しやすい。本発明によれば、分散相液流路の壁面に残留する予備充填液(特には連続相液)の量が一定となるので、残留する予備充填液(特には連続相液)による影響を最小化することができると考えられる。
【0199】
本開示に係る方法の1つの実施態様では、予備充填液及び分散相液の供給の前に、排出口に陰圧制御手段が流体接続されていることが好ましい。この場合には、分散相液と予備充填液との接触の後(特には、分散相液を分散相液保持部に供給した直後)に迅速に陰圧を適用することができるため、早期の液滴の発生を抑制し、液滴の均一性を向上させることができる。
【0200】
本開示に係る方法の1つの実施態様では、排出口に陰圧制御手段が流体接続されており、陰圧制御手段が、陰圧源、接続部及び弁から構成されており、陰圧源が、一定の陰圧に制御されており、かつ、この弁が、陰圧源と接続部との間に配置されている。接続部を介して、陰圧制御手段を、排出口に接続することができる。この態様によれば、弁を開放することによって瞬時に陰圧を適用することができるので、陰圧の適用のタイミングをより正確に制御することが可能となる。
【0201】
弁の具体的態様については特に制限はない。送液停止時の逆流を防止するという観点からは、弁の開閉時の流路における圧力変動を抑制できるもの、例えば開閉動作が比較的遅いものが好ましい。弁は、例えば三方弁であってよく、マイクロ流路チップを陰圧源(例えば圧力タンク)及び外部雰囲気(特には外部大気)のいずれかに接続することができるようになっていてもよい。
【0202】
特には、分散相液と予備充填液とが(分散相液保持部で)接触する前に、排出口に陰圧制御手段が流体接続されている。この場合には、分散相液と連続相液との接触の後に迅速に陰圧を適用することができるため、早期の液滴の発生を抑制し、液滴の均一性をさらに向上させることができる場合がある。
【0203】
(エマルジョン充填法における送液)
エマルジョン充填法では、一般に、エマルジョンが排出口に到達する前に(すなわち、気液界面が排出口に到達する前に)送液を停止した方が検出液滴のロスを低減し、検出液滴数を増加させられるため好ましい。また、排出口にエマルジョン中の連続相液のみが充填されるように、送液中の分散相液に対する連続相液の流量比を大きくしても良いが、排出口を連続相液で十分に満たすのは困難である。
【0204】
このような理由から、エマルジョン充填法では、送液を停止する際に気液界面が流路内又は排出口の流路開口部近傍に存在する場合が多く、送液停止の際の急激な圧力変動(陰圧送液の際は排出口への空気の流入)によって気液界面が流路内を逆流し、エマルジョン保持に悪影響が生じやすい(エマルジョン保持流路外へ液滴が流出する、又は気液界面近傍で液滴同士が凝集・合一する)。
【0205】
加えて、陰圧送液の場合には、送液停止によって排出口に空気が流入してくるため、気液界面により圧力がかかりやすく、基板の材料にシリコンゴム(PDMS)のような柔軟性の高い材料を使用したり、基板の厚みを極端に薄くしたり(COCだと1mm以下ぐらい)すると、陰圧送液時に流路が変形しやすく、送液停止時にその変形を復元する力によってより逆流が起きやすくなる。(すなわち、流路側面の壁面から遠い流路の中央部において流路の上面、底面が流路断面積を小さくする方向にたわむ(ルーフコラップス)。エマルジョン保持流路は前述のとおり流路高さに対して流路幅を大きくするのが好ましいため、特に影響が大きいと考えられる)。
【0206】
このような送液停止時の逆流を抑制するため、送液圧力を小さくするのが好ましい。例えば、外部送液駆動力によってマイクロ流路チップに適用される圧力を、30kPa以下、10kPa以下、特に好ましくは5kPa以下とすることができる。なお、外部送液駆動力によってマイクロ流路チップに適用される圧力は、特には、排出口に適用される陰圧の圧力である。
【0207】
一方で、例えば本発明を迅速なデジタル測定に用いる場合、送液速度と分散相液に対する連続相液の流速の比から計算される液滴生成速度は速い方が好ましい例えば、エマルジョン形成部における液滴の生成速度が、5個/秒以上、20個/秒以上、50個/秒以上、100個/秒以上、特に好ましくは200個/秒以上であることが好ましい
【0208】
送液圧力を小さくし、かつ液滴生成速度を大きくしたい場合には、流路圧損抵抗値(=送液圧力/送液速度)が小さくなるように調整するのが望ましい。流路圧損抵抗値は、流路構造、流路壁面の表面物性、各相液の物性、送液手段の圧力制御方法等に依存するため、送液中の送液速度及び/又は液滴生成速度と送液圧力が適切な値になるように、上述のパラメータを適宜調整すればよい。
【0209】
(マイクロ流路チップの設置)
マイクロ流路チップは、鉛直方向(天地方向)に水平に設置するのが一般的であるが、エマルジョンの保持等の観点から、一定方向に意図的に傾斜を設けて設置しても良い。例えば、連続相液が分散相液よりも比重が大きい場合(例:フッ素系分散剤を連続相液、水溶液を分散相液として使用)、液滴は比重差によって浮力を有するため、エマルジョン保持流路から液滴が流出しにくいように、意図的に傾斜を設けてマイクロ流路チップを設置しても良い。
【0210】
<検出処理>
本開示に係る方法に従って生成されたエマルジョン中の液滴に対して、検出処理を行うことができる。検出処理は、例えば、液滴中での標的物質の反応、及び当該反応の検出(例えば反応生成物の検出)を含む。エマルジョン保持流路を有する態様では、検出処理は、通常、エマルジョン保持流路に保持されたエマルジョン中の液滴に対して行われる。
【0211】
標的物質(特には標的分子)としては、核酸、タンパク質、ペプチド、酵素、細胞、細菌、胞子、ウイルス、オルガネラ、高分子アセンブリ、薬物候補、脂質、炭水化物、代謝物、又はこれらの任意の組合せが挙げられる。
【0212】
標的物質の反応は、特に限定されない。標的物質の反応としては、酵素反応が挙げられ、より具体的には、キナーゼ、ヌクレアーゼ、ヌクレオチドシクラーゼ、ヌクレオチドリガーゼ、ヌクレオチドホスホジエステラーゼ、(DNA又はRNA)ポリメラーゼ、プレニルトランスフェラーゼ、ピロホスパターゼ、レポーター酵素、逆転写酵素、トポイソメラーゼ等を用いた酵素反応が例示できる。標的分子がDNAやRNAなどの核酸であり、標的分子の反応が当該核酸の増幅反応である場合、LAMP法、NASBA法、TMA法、TRC法といった核酸を等温増幅可能な反応が挙げられる。また、ワンステップRT-PCRの場合、逆転写反応に適した温度で液滴を作製することは、逆転写反応の反応効率、反応時間において好ましい。また、逆転写反応による生成物であるcDNAをサイクリングプローブ法により検出することも可能である。
【0213】
反応を行う場合、2種以上の反応液をエマルジョン形成部の上流(例えば分散相液合流部)で混合し、この混合物を用いて液滴を生成することが好ましい。なお、本発明において、反応液とは、標的物質及び標的物質を反応させるのに必要な成分のうち、少なくとも一部を含んだ溶液のことをいう。全ての反応液が混合することで標的物質の反応に必要な成分全てが揃えばよく、標的物質はいずれかの反応液に含まれていればよい。反応液は3種以上であっても問題はない。
【0214】
例えば、標的物質が特定配列を含む核酸(DNA、RNA)であり、標的物質の反応がこの特定配列を増幅させる反応である場合、反応液に含まれる成分としては、特定配列の一部と相同的な配列を含むプライマー、特定配列の一部と相補的な配列を含むプライマー、特定配列の一部と相同的又は相補的な配列を含む検出用プローブ、ポリメラーゼ、ヌクレオチド、塩類、及び緩衝液成分があげられる。なお、反応液内で、標的分子、反応基質、酵素などが分解、変質、非特異反応が生じないように組成が工夫されていることが好ましく、装置内での挙動を考慮して、グリセロール、界面活性剤などをさらに添加してもよい。
【0215】
<その他の手段>
(検出手段)
反応の検出のために、例えば、反応による生成物を検出可能な検出手段を用いることができる。
【0216】
検出方法は、反応生成物に応じて適宜適切な方法を選択することができ、例えば、光学的、X線、MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)、FCS(蛍光相関分光法)、FP(蛍光偏光)/FCS、蛍光法、比色分析、化学ルミネセンス、生物発光、散乱、表面プラズモン共鳴、電気化学法、電気泳動、レーザー、質量分光測定、ラマン分光法、FLIPR(MolecularDevices社)など公知の方法を用いて検出することができる。なお、透過光を用いて検出する場合は、光を透過する材料でマイクロ流路チップを作製すると、マイクロ流路チップを光学検出器に載置するのみで、チップ内の液滴を移動させることなく反応生成物を検出できる点で好ましい。
【0217】
反応生成物の検出に用いる検出手段(検出器)として、標的物質の反応を記録・測定するためのイメージングセンサ及び随意にその構成部品を用いることができる。検出の一例として、検出対象となる個々のシグナルを空間的に分解するのに適切な照明及び解像度を有するカメラ又はイメージング装置があげられる。カメラ又はイメージング装置としては、公知のものを利用することができ、例えばカメラは、電荷結合素子(CCD)、電荷注入装置(CID)、フォトダイオードアレイ(PDA)又は相補型金属酸化物半導体(CMOS)を含む任意の一般的な半導体イメージセンサを使用することができる。また、検出の際、励起/放射された光の偏光を使用することによって改善することができる。例えば、蛍光シグナルを発する液滴を検出する場合、その検出領域を大きな視野を持つ光学ユニットによって一括で撮影することで、迅速かつハイスループットなシグナル検出を行なうことが可能になる。
【0218】
(温調手段)
温調手段は、マイクロ流路チップ内の液体を標的物質の反応に適した温度に保つ役割を有する。温調手段はマイクロ流路チップと近接(好ましくは密着)可能な形状であればよく、必ずしも平板状である必要はない。
【0219】
温調手段のうち、少なくともマイクロ流路チップと近接(好ましくは密着)する部分は、熱伝導性の高い金属材料で作製することが好ましい。なお、基材と上部構造体とを貼り合わせてマイクロ流路チップが作製されている場合、温調手段に接する基材及び/又は上部構造体の厚さを薄くすると、マイクロ流路チップに設けた流路への熱伝導をより効率的に行なえるので、好ましい。温調手段は、少なくとも、標的物質の反応場であるエマルジョン保持流路を温調できればよいが、相液供給部及び流路も温調できると、標的分子の非特異的反応を抑制できる点で好ましい。具体例として、標的物質の反応が核酸増幅反応の場合、各保持部や流路における温度を、エマルジョン保持流路における標的物質の反応温度よりも高くなるよう、温調手段で温調することで、プライマー/プローブ同士の非特異的なアニールを低減することができる。また、マイクロ流路チップの底面を温調手段によって反応温度に加熱し、かつ光を透過する材料でマイクロ流路チップ上面基板を作製し上面から透過光検出を行う場合、各相液供給前の空のマイクロ流路チップの位置並びに/又は流路構造及び/若しくはチップ内外のゴミの評価、各相液を供給する際の流路内の挙動並びに/又は送液中のエマルジョン生成の挙動の評価、並びに反応中のエマルジョンのシグナル検出結果を利用したデジタル検出の定量上限の向上を装置上簡便に行えるため好ましい。
【実施例0220】
以下で、実施例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、これらの記載に限定されない。
【0221】
≪マイクロ流路チップの作製≫
フォトリソグラフィー及びソフトリソグラフィー技術を用いて、マイクロ流路チップを作製した。具体的な手順を以下に示す。
【0222】
(1)4インチベアシリコンウェハ(フィルテック社)上へ、フォトレジストSU-8 3050(Microchem社)を滴下後、スピンコーター(MIKASA社)を用いてフォトレジスト薄膜を形成した。
【0223】
(2)マスクアライナー(ウシオ電機社)と、マイクロ流路チップの流路パターンを形成したクロムマスクとを用いて、流路パターンをフォトレジスト膜へ形成させた後、SU-8 Developer(Microchem社)を用いて流路パターンを現像することで、マイクロ流路チップを構成する流路の鋳型を作製した。
【0224】
(3)SU-8への吸着を抑えるために、Trichloro(1H,1H,2H,2H-perfluoro-octyl)silane(Thermo Fisher Scientific社)による蒸着表面処理を行なった。
【0225】
(4)上記(3)の処理を行なった鋳型へ、SYLGARD SILICONE ELASTOMER KIT(東レ・ダウコーニング社)を用いて調製した未硬化のシロキサンモノマーと重合開始剤との混合物(重量比10:1)を流し込み、80℃で2時間加熱することで、流路の形状が転写されたポリマー(PDMS)基板を作製した。
【0226】
(5)得られたポリマー基板を鋳型から慎重に剥がし、カッターで成形後、パンチャーを用いて、分散相液保持部及び連続相液保持部、並びに排出口を形成した。
【0227】
(6)保持部及び排出口を形成したポリマー基板並びにカバーガラス(松浪硝子社)を酸素プラズマ発生装置(メイワフォーシス社)で表面処理後、PDMS基板のパターン面とカバーガラスとを貼り合わせた。作製したチップは、デシケーター内に保存した。
【0228】
作製したマイクロ流路チップは、縦34cm×横75cmの大きさであり、分散相液保持部としてはφ4mmの穴を、連続相液保持部としてはφ8mmの穴を、排出口としてはφ1.5mmの穴を、それぞれ有していた。
【0229】
(流路構造)
マイクロ流路チップは、2つの分散相液保持部、(第一分散相液流路、第二分散相液流路、及び分散相液合流部を有する)分散相液流路、連続相液保持部、2つの連続相液流路、エマルジョン形成部、エマルジョン流路、エマルジョン保持流路、及び排出口を有していた。2つの分散相液保持部が、第一又は第二分散相液流路を介して、エマルジョン形成部に接続しており、連続相液保持部が、2つの連続相液流路を介して、エマルジョン形成部に接続しており、エマルジョン形成部が、エマルジョン流路を介して、エマルジョン保持流路に接続しており、エマルジョン保持流路が、排出口に接続していた。このマイクロ流路チップは、気泡トラップ構造を有していなかった。
【0230】
実施例で使用したマイクロ流路チップは、下記の詳細な構造を有していた。
【0231】
第一分散相液流路及び第二分散相液流路は高さ80μm、幅100μm、長さ30mmの蛇行を含む流路であり、分散相液合流部で合流し、100μmの流路幅に狭窄され、エマルジョン形成部に合流する。2つの連続相液流路はそれぞれ屈曲部を二箇所有した高さ80μm、幅100μm、長さ30mmの直線流路であり、エマルジョン形成部において、分散相液合流部と2つの連続相液流路とが角度90度で十字に交差しており、反応液と非混和性液体(オイル)とが合流し、液滴を形成するようになっている。エマルジョン流路は、エマルジョン形成部に近接する部分で幅80μm×長さ100μm、その下流部分で幅200μm×長さ680μmの直線流路であり、さらにその下流部分ではR275μmの円弧曲線で構成された蛇行を含めた幅200μm×長さ11.5mmの撹拌用流路であり、エマルジョン保持流路に連結する。エマルジョン保持流路は、流路高さ130μm、幅2mm、長さ350mmの蛇行流路であり、幅2mm、長さ10mmの排出口連通流路を介して、排出口に直接つながっている。エマルジョン保持流路の体積は、91μLであった。
【0232】
≪実施例1≫
(エマルジョンの生成及び保持)
上記のマイクロ流路チップを用いて、本発明に従って、エマルジョンの生成及び保持を行った。詳細を下記の(1)~(6)に示す。なお、実施例1では、予備充填液として連続相液を用いた。また、実施例1では、予備充填液としての連続相液と、エマルジョン生成/保持のための連続相液とを、一度にまとめて連続相液保持部に供給した。
【0233】
(分散相液)
(1)分散相液保持部に導入する分散相液として、下記の2種類の組成の水溶液(「開始液」及び「反応液」)を調製した。なお、下記組成の水溶液は、核酸増幅反応の1つであるTRC反応を使用する際の反応開始液の組成を模している。
【0234】
(開始液)
36.8mM 塩化マグネシウム
180.0mM 塩化カリウム
0.2%(w/v) Tween 20
18.0%(v/v) DMSO
5.0%(v/v) グリセロール
【0235】
(反応液)
0.2%(w/v) Tween 20
300nM トレハロース
5.0%(v/v) グリセロール
【0236】
(2)TRC反応温度である46℃で加熱したガラスヒーター(ブラスト社)を倒立型顕微鏡IX71(オリンパス社)に設置して、その上にマイクロ流路チップを設置してテープで固定した。
【0237】
(3)送液手段として、ペリスタポンプ(高砂工業)、電磁弁(高砂工業)、圧力センサ(キーエンス社)で構成された、200mL容量のタンク内の圧力を-1~-10kPaに制御できる装置を使用した。このタンクとマイクロ流路チップの排出口とをPTFEチューブ(ニチアス社)で接続し、タンク内の圧力を開放することによって、チップに圧力差(陰圧)を適用する。
【0238】
(4)連続相液保持部に、ピペットマン(ギルソン社)を使用して、連続相液としてのDroplet Generatorオイル for EvaGreen(Biorad社、以下、単にオイルとも表記する)を200μL滴下した。オイル滴下から30秒後に、2つの分散相液保持部に、反応液及び開始液を、2.0~20.0μLのピペットマンを使用して、それぞれ20μLずつ滴下した。分散相液を供給する前に、連続相液が、気体で充填された状態の連続相液流路、エマルジョン形成部、及び分散相液流路を通って、気体で充填された状態の分散相液保持部にまで移動した。分散相液保持部において、連続相液と分散相液とを接触させた。なお、上記のピペットマンは、最大許容誤差が±0.06μLに校正されたものを使用した。
【0239】
(5)反応液の滴下から20秒後に、あらかじめ排出口に接続された上記タンク内の圧力を-5kPaに調整した状態で、陰圧を適用して、液滴生成及び保持を開始した。なお、送液中の各相液保持部は、大気圧開放された状態とした。
【0240】
(6)オイルと空気との界面(エマルジョンと空気との界面)がエマルジョン保持流路の下流末端部に到達した後(陰圧の適用から約150秒後)で、排出口に印加されていた陰圧を常圧開放し、送液を停止した。
【0241】
(エマルジョンの生成)
デジタルCMOSカメラ(ORCA-FLASH(商品名)、浜松フォトニクス社)を用いて、送液開始時のエマルジョンの生成のようすを明視野画像として取得した(
図4)。
【0242】
図4で見られるとおり、分散相液を供給する前に分散相液流路全体を連続相液で充填した実施例1では、良好にエマルジョンの生成を行うことができた。
【0243】
≪実施例2≫
(エマルジョンの保持及び検出処理)
実施例2では、実施例1と同様にしてエマルジョンの生成及び保持を行い、そして、エマルジョン保持流路に保持された液滴に対して、検出処理を行った。具体的には、C型肝炎ウイルス(HCV)RNAのデジタル等温核酸増幅を行った。詳細を下記に示す。
【0244】
(分散相液:反応液)
HCV遺伝子が挿入されたプラスミドから、in vitro転写によりHCV標準RNA(配列番号1)を調製した。当該標準RNAを104コピー/2μLとなるように注射用水で希釈し、これをRNA試料とした。
【0245】
10μL中に以下の組成を含む水溶液を調製し、これを標準RNAを含む反応液とした。なおモレキュラービーコンプローブ(配列番号6)は、標準RNAの相同鎖の5’末端側及び3’末端側に、当該標準RNAと相補的二本鎖を形成しないときにはステムループ構造を形成できるようなオリゴヌクレオチドを、それぞれ6塩基付加しており(5’側の1塩基のみ重複している)、さらに5’末端側にはFAMを、3’末端側にはIDT社製IowaBlackFQをそれぞれ結合させている。
132mM Tris-HCl緩衝液(pH8.36)
5.0%(v/v) グリセロール
各0.66mM dATP、dCTP、dGTP、dTTP
各4.0mM ATP、CTP、GTP、TTP
6.6mM ITP
193.2mM トレハロース
100nM モレキュラービーコンプローブ(標準RNAの相同鎖の一部[配列番号1の107番目から123番目まで]を含む:配列番号6)
2.0μM 第一のプライマー (配列番号2)
2.0μM 第二のプライマー (配列番号3)
8.5U AMV逆転写酵素
94U T7 RNAポリメラーゼ
50nM フルオレセイン
104コピー 標準RNA
【0246】
第一のプライマー(配列番号2)は、標準RNAの相補鎖の部分配列(具体的には配列番号1の125番目から145番目まで:配列番号4)及び当該配列の5’末端側にT7プロモーター配列(配列番号5)を付加したオリゴヌクレオチドである。また第二のプライマー(配列番号3)は、標準RNAの相同鎖の部分配列(具体的には、配列番号1の1番目から16番目まで)からなるオリゴヌクレオチドである。フルオレセインは陰性液滴のS/N比を向上させるため、TRC反応を阻害しない濃度で添加した。
【0247】
(分散相液:開始液)
以下の組成を含む水溶液を調製し、これを開始液とした。
36.8mM 塩化マグネシウム
180.0mM 塩化カリウム
0.2%(w/v) Tween 20
18.0%(v/v) DMSO
5.0%(v/v) グリセロール
100nM モレキュラービーコンプローブ(配列番号6)
50nM フルオレセイン
【0248】
(エマルジョンの生成及び保持)
上記のマイクロ流路チップをサーマルサイクラー(Mast ercycler nexus flat eco、Eppendorf社)の上に固定して、46℃に加熱した。その後、実施例1と同様にして、エマルジョンの生成及び保持を行った。
【0249】
送液停止後、46℃加熱を維持したままで20分間にわたって静置し、TRC反応を完了させた。
【0250】
(検出処理)
TRC反応終了後のマイクロ流路チップに対して検出処理を行った。検出は、蛍光イメージング用の光源としてX-Cite 110LED、画像を取り込むためのCCDカメラとして、Cooling Camera System(Pacific Image Electronics社、台湾)を使用して行った。検出の結果を、
図5及び
図6に示す。
【0251】
図5及び
図6で見られるとおり、エマルジョン保持流路において、良好にエマルジョンを保持することができ、かつ、保持されたエマルジョンに対して、良好に検出反応を行うことができた。このように、本発明によれば、迅速・簡便なデジタル検出を安定して実施することが可能である。
【0252】
≪実施例3及び4≫
実施例3及び4では、それぞれ、予備充填液として、連続相液及び連続相液混和性液体を用いた。マイクロ流路チップにおける液滴の生成及び保持を行って、2つの分散相液としての開始液及び反応液の混合の程度を評価した。
【0253】
<実施例3>
実施例3では、分散相液流路が第一分散相液流路、第二分散相液流路、及びこれらの合流部としての分散相液合流部を有している上述のマイクロ流路チップを用いた。
【0254】
実施例3では、2つの分散相液として、上述の反応液と開始液と同様の組成に対して、開始液には蛍光色素(ATTO565)を400nM添加し、反応液には蛍光色素は添加せずに使用した。すなわち、蛍光色素を有しない反応液と蛍光色素を有する開始液を用いた。これらの反応液及び開始液が合流流路で良好に混合されずに液滴が生成された場合には、良好に混合された場合と比較して、液滴の蛍光強度が変化する。したがって、生成された液滴に対して蛍光検出処理を行うことによって、反応液及び開始液が良好に混合されていない液滴の割合(すなわちサンプルロス率)を調べることができる。
【0255】
用いた連続相液の組成は、下記のとおりであった:
・95重量%の、主成分としてのフッ素系分散媒(3M社製、製品名:Novec7500)
・5重量%の、界面活性剤としてのパーフルオロポリエーテルとポリエチレングリコールのブロックコポリマー
【0256】
予備充填液として連続相液を用い、本発明に従って、エマルジョンの生成及び保持を行い、さらに検出処理を行った。手順を下記の(1´)~(6´)に示す:
(1´)予備充填液としての連続相液10μLを、連続相液保持部に添加し、気体で充填された状態の連続相液流路、エマルジョン形成部、及び分散相液流路を通して、気体で充填された状態の第一分散相液保持部及び第二分散相液保持部に到達させた。
(2´)予備充填液としての連続相液が第一分散相液保持部及び第二分散相液保持部に到達した直後に、蛍光色素を有しない反応液29μL及び蛍光色素を有する開始液29μLを、それぞれ、第一分散相液保持部及び第二分散相液保持部に添加した。
(3´)そして、送液開始前(陰圧の適用前)に、エマルジョン生成のための連続相液30μLを、連続相液保持部に添加した。
(4´)そして、エマルジョン生成のための連続相液を添加してから10秒の間にマイクロ流路チップの排出口に陰圧を適用して、液滴の生成及び保持を開始した。
(5´)送液開始後10秒後に、測定に必要な液滴を生成するために充分な量(400μL)の連続相液を、連続相液保持部に添加した。
(6´)液滴の生成及び保持が完了した後で、エマルジョン保持流路に保持された液滴に対して、蛍光検出を行った。そして、蛍光強度が比較的高い液滴(すなわち蛍光を有する開始液を多く含む液滴)の数に基づいて、下記の式に従って、サンプルロス率(%)を算出した。
サンプルロス率(%)=(開始液を多く含む液滴の数)×(平均液滴体積)×2÷(有効液量)÷1000×100
ここで、開始液を多く含む液滴の数は、反応液と開始液がおよそ均等に含まれる液滴のATTO565の蛍光輝度の平均値に対して2倍以上のATTO565の蛍光輝度を有する液滴の数を指す。
また、有効液量は、保持部に添加した液量(添加液量)から保持部に残留した液量(保持部残量)を差分した値である。
【0257】
N=7のデータを平均して、平均サンプルロス率(%)を算出した。結果を、
図7及び下記の表1に示す。
【0258】
<実施例4>
予備充填液として、界面活性剤を含有しないこと以外は上記の連続相液と同じ組成を有する連続相液混和性液体を用いて、上記の実施例3と同様にしてエマルジョンの生成及び保持を行い、サンプルロス率(%)を求めた。N=4のデータから平均サンプルロス率(%)を算出した。
【0259】
【0260】
【0261】
図7及び8で見られるとおり、実施例3及び4では、エマルジョンの生成及び保持を良好に行うことができ、液滴に対する蛍光検出処理も良好に行うことができた。
【0262】
また、表1で見られるとおり、実施例3は比較的良好な平均サンプルロス率を示し、実施例4は、特に良好なサンプルロス率を示した。実施例3で良好なサンプルロス率が見られた理由としては、特に、(a)予備充填液としての連続相液が分散相液保持部に到達した後すみやかに分散相液を分散相液保持部に供給したこと、(b)予備充填液としての連続相液を、エマルジョン生成/保持用の連続相液とは別個に供給したこと、(c)予備充填液としての連続相液の供給量を比較的低減したこと、(d)送液開始前に供給するエマルジョン生成/保持用の連続相液(連続相液の第1部分)の供給量を比較的低減したこと、が挙げられる。実施例3では界面活性剤を含有する連続相液を予備充填液として用いたにもかかわらず、これらの方策によって、分散相液流路に残留する界面活性剤が低減され、結果として、分散相液の合流流路における比較的均一な混合が確保されたと考えられる。
【0263】
また、表1で見られるとおり、実施例4は、実施例3よりも良好なサンプルロス率(すなわち低減されたサンプルロス率)を示した。実施例4では、予備充填液として界面活性剤を有しない連続相液混和性液体を用いたので、分散相液流路における界面活性剤の残留が実質的に回避され、その結果として、開始液と反応液との特に良好な混合が達成されたと考えられる。
【0264】
≪実施例5≫
実施例5では、予備充填液としての連続相液混和性液体を連続相液保持部ではなく分散相液保持部に供給したこと以外は、上記の実施例4と同様にして、液滴の生成及び保持並びに評価を行った。
【0265】
すなわち、実施例5では、分散相液を分散相液保持部に供給する前に、予備充填液としての連続相液混和性液体(界面活性剤なし)を、気体で充填された状態の分散相液流路、エマルジョン形成部、及び連続相液流路を通して、気体で充填された状態の連続相液保持部にまで移動させた。なお、予備充填液10μLを、分散相液保持部に添加してから10秒後に、分散相液としての反応液及び開始液をそれぞれ第一分散相液保持部及び第二分散相液保持部に添加した。以降の工程は実施例3及び4の(3´)以降の手順と全く同じ手順で実施した。
【0266】
実施例5では、エマルジョンの生成及び保持を良好に行うことができ、液滴に対する蛍光検出処理も良好に行うことができた。平均サンプルロス率の結果を下記の表2に示す。
【0267】
【0268】
表2で見られるとおり、実施例5は、実施例4と同等の非常に良好なサンプルロス率を示した。したがって、分散相液送液流路から連続相液流路へと予備充填液を移動することによって予備充填を行う方法は、連続相液流路から分散相液流路へと予備充填液を移動することによって予備充填を行う方法と同等の効果を有することがわかる。
【0269】
本開示に係る発明は、下記の態様も含む:
<態様A1>
マイクロ流路チップに分散相液及び連続相液を供給してエマルジョンの生成及び保持を行う方法であって、
前記マイクロ流路チップが、分散相液保持部、分散相液流路、連続相液保持部、連続相液流路、エマルジョン形成部、エマルジョン流路、エマルジョン保持流路、及び排出口を有しており、
前記分散相液保持部が、前記分散相液流路を介して、前記エマルジョン形成部に接続しており、
前記連続相液保持部が、前記連続相液流路を介して、前記エマルジョン形成部に接続しており、
前記エマルジョン形成部が、前記エマルジョン流路を介して、前記エマルジョン保持流路に接続しており、
前記エマルジョン保持流路が、前記排出口に接続しており、
前記分散相液保持部に、分散相液を供給すること、
前記連続相液保持部に、連続相液を供給すること、及び、
前記排出口に陰圧を適用することによって、前記エマルジョン形成部において、前記分散相液から構成される液滴及び前記連続相液から構成される連続相を含むエマルジョンを生成し、このようにして生成された前記エマルジョンを、前記エマルジョン流路を介して、気体で充填された状態の前記エマルジョン保持流路に輸送すること、
を含み、
前記分散相液の前記供給の前に、前記連続相液を、気体で充填された状態の前記連続相液流路、前記エマルジョン形成部、及び前記分散相液流路を通して、気体で充填された状態の前記分散相液保持部にまで移動させることを特徴とする、
方法。
<態様A2>
前記連続相液が、フッ素系分散媒である、態様A1に記載の方法。
<態様A3>
前記連続相液の前記移動を、毛細管力及び/又は液面差圧によって行う、態様A1又はA2に記載の方法。
<態様A4>
前記分散相液保持部が、第一分散相液保持部及び第二分散相液保持部を含み、
前記分散相液流路が、前記第一分散相液保持部に接続されている第一分散相液流路、前記第二分散相液保持部に接続されている第二分散相液流路、及び分散相液合流部を含み、
前記第一分散相液流路及び前記第二分散相液流路が、それぞれ、分散相液合流部を介して、前記エマルジョン形成部に接続している、
態様A1~A3のいずれか一項に記載の方法。