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特開2022-176129炎症性疾患予兆検出装置、炎症性疾患予兆検出方法、炎症性疾患予兆検出プログラム、学習モデル生成装置、学習モデル生成方法、学習モデル生成プログラム、心拍情報計測装置、及び心拍情報計測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176129
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】炎症性疾患予兆検出装置、炎症性疾患予兆検出方法、炎症性疾患予兆検出プログラム、学習モデル生成装置、学習モデル生成方法、学習モデル生成プログラム、心拍情報計測装置、及び心拍情報計測方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 29/00 20060101AFI20221117BHJP
   A61D 1/08 20060101ALN20221117BHJP
【FI】
A01K29/00 D
A61D1/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077217
(22)【出願日】2022-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2021081845
(32)【優先日】2021-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業」(うち人工知能未来農業創造プロジェクト)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】504300088
【氏名又は名称】国立大学法人北海道国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】矢用 健一
(72)【発明者】
【氏名】石崎 宏
(72)【発明者】
【氏名】黄 宸佑
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】桑原 正貴
(72)【発明者】
【氏名】滄木 孝弘
(72)【発明者】
【氏名】野上 大史
(57)【要約】
【課題】家畜において炎症性疾患の予兆を検出する技術を実現する。
【解決手段】炎症性疾患の予兆検出装置(10)は、被験家畜における所定の時間帯の心拍情報と、健常な家畜における前記所定の時間帯の心拍情報とを参照して、前記被験家畜における炎症性疾患の予兆を判定する判定部(14)を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験家畜における所定の時間帯の心拍情報と、健常な家畜における前記所定の時間帯の心拍情報とを参照して、前記被験家畜における炎症性疾患の予兆を判定する判定部を備えた、炎症性疾患予兆検出装置。
【請求項2】
前記所定の時間帯は、0時から7時までの間の2時間以上の時間帯である、請求項1に記載の炎症性疾患予兆検出装置。
【請求項3】
前記所定の時間帯よりも前の時間帯を第1の時間帯とし、前記所定の時間帯を第2の時間帯とした場合において、
健常な家畜における前記第1の時間帯の心拍情報及び前記第2の時間帯の心拍情報を参照して、被験家畜における前記第1の時間帯の心拍情報の実測値から、前記第2の時間帯の心拍情報を推定する推定部をさらに備え、
前記判定部は、前記推定部が推定した前記第2の時間帯の心拍情報の推定値と、前記被験家畜の前記第2の時間帯の心拍情報の実測値との差を参照して、前記被験家畜における炎症性疾患の予兆を判定する判定部と
を備えた、請求項1又は2に記載の炎症性疾患予兆検出装置。
【請求項4】
前記推定部は、健常な家畜における、前記第1の時間帯の心拍情報及び前記第2の時間帯の心拍情報を含む学習データとして機械学習を行うことにより生成された学習モデルを用いて、被験家畜の前記第1の時間帯の心拍情報の実測値を入力情報として、前記第2の時間帯の心拍情報を推定する、請求項3に記載の炎症性疾患予兆検出装置。
【請求項5】
被験家畜における所定の時間帯の心拍情報と、健常な家畜における前記所定の時間帯の心拍情報とを参照して、前記被験家畜における炎症性疾患の予兆を判定する工程を包含する、炎症性疾患予兆検出方法。
【請求項6】
請求項1に記載の炎症性疾患予兆検出装置としてコンピュータを機能させるための炎症性疾患予兆検出プログラムであって、前記判定部としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【請求項7】
家畜における、第1の時間帯の心拍情報と、前記第1の時間帯の後の第2の時間帯の心拍情報とを学習データとして機械学習を行うことにより、被験家畜の前記第1の時間帯の心拍情報の実測値を入力情報として、前記第2の時間帯の心拍情報を出力情報とする学習モデルを生成する生成部を備えた、学習モデル生成装置。
【請求項8】
家畜における、第1の時間帯の心拍情報と、前記第1の時間帯の後の第2の時間帯の心拍情報とを学習データとして機械学習を行うことにより、被験家畜の前記第1の時間帯の心拍情報の実測値を入力情報として、前記第2の時間帯の心拍情報を出力情報とする学習モデルを生成する生成工程を含む、学習モデル生成方法。
【請求項9】
請求項7に記載の学習モデル生成装置としてコンピュータを機能させるための学習モデル生成プログラムであって、前記生成部としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の炎症性疾患予兆検出装置と、
家畜における心拍情報を計測する心拍情報計測装置と
を備えた、炎症性疾患予兆検出システム。
【請求項11】
請求項1に記載の炎症性疾患予兆検出装置において用いられる心拍情報を計測する心拍情報計測装置であって、
家畜の心拍情報を計測するためのセンサ部と、
前記センサ部を家畜に装着するベルト部と、
前記ベルト部と前記センサ部とを着脱可能に接続するセンサ接続部と
を備え、
前記センサ部は、前記心拍情報計測装置を家畜に装着した場合に、家畜との接触部位に接触圧を生じさせる機構を有している、
心拍情報計測装置。
【請求項12】
前記センサ部は、
家畜に接触するセンサと、
前記センサを支持する支持具と、
前記センサと前記支持具との間に位置し、前記センサを家畜との接触面の方向に付勢する付勢部材と
を有する、請求項11に記載の心拍情報計測装置。
【請求項13】
家畜における心拍情報を計測する心拍情報計測方法であって、
請求項11に記載の心拍情報計測装置を家畜に装着する装着工程であって、前記ベルト部による家畜の装着部位に対する装着圧は、前記センサ部を家畜に接触させる接触部位に対する接触圧よりも小さい装着工程
を包含する、心拍情報計測方法。
【請求項14】
前記接触圧は家畜の平均血圧である、請求項13に記載の心拍情報計測方法。
【請求項15】
請求項1に記載の炎症性疾患予兆検出装置と、
請求項11に記載の心拍情報計測装置と
を備えた、炎症性疾患予兆検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性疾患予兆検出装置、炎症性疾患予兆検出方法、炎症性疾患予兆検出プログラム、学習モデル生成装置、学習モデル生成方法、学習モデル生成プログラム、心拍情報計測装置、及び心拍情報計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、農業従事者数の減少、農場一戸あたりの家畜の飼養頭数の増加等に伴い、農場における家畜の頭数当たりの農業従事者の少人数化が進んでいる。家畜において、疾病を効果的に防除するためには、疾病の兆候を早期に発見することが重要である。しかしながら、家畜の頭数当たりの農業従事者の少人数化が進んでいるという状況下においては、多頭数の家畜群から個々の家畜の疾病兆候を早期に発見することは困難である。特に、周産期の事故や疾病による母家畜の損耗率が高いという現状がある。
【0003】
このような問題を解決する手段としては、家畜の身体状態を表す情報と疾病との関係に基づいて、疾病の兆候を早期に検知する技術の開発が進められている。
【0004】
家畜の身体状態を表す情報と疾病との関係に関して、非特許文献1及び3には、健常なウシでは、分娩後に副交感神経活動が活発になるが、疾患を有するウシではそのような症状がないことが記載されている。また、非特許文献2には、分娩後に子宮炎を発症したウシは、健常なウシと比較して夜間の心拍数が高く、心拍間隔変動解析から得られるトータルパワー値が低いことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】矢用ら、AIプロ終了時研究成果報告書 2020年春
【非特許文献2】Aoki T et al., PLoS ONE 15(11): e0242856.https://doi.org/10.1371/journal.pone.0242856 (2020)
【非特許文献3】石崎ら、日本獣医学会 講演要旨(2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような従来技術は、既に発病した家畜の身体状態を表す情報であり、疾病の兆候を、発病前に早期に検知するための情報ではない。発病前に疾病の兆候を検知することができれば、疾病の効果的な防除が可能であり、有用である。
【0007】
本発明の一態様は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、家畜において炎症性疾患の予兆を検出する技術を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る炎症性疾患予兆検出装置は、被験家畜における所定の時間帯の心拍情報と、健常な家畜における前記所定の時間帯の心拍情報とを参照して、前記被験家畜における炎症性疾患の予兆を判定する判定部を備えている。
【0009】
本発明の一態様に係る炎症性疾患予兆検出方法は、被験家畜における所定の時間帯の心拍情報と、健常な家畜における前記所定の時間帯の心拍情報とを参照して、前記被験家畜における炎症性疾患の予兆を判定する工程を包含する。
【0010】
本発明の一態様に係るプログラムは、本発明の一態様に係る炎症性疾患予兆検出装置としてコンピュータを機能させるための炎症性疾患予兆検出プログラムであって、前記判定部としてコンピュータを機能させるためのプログラムである。
【0011】
本発明の一態様に係る学習モデル生成装置は、家畜における、第1の時間帯の心拍情報と、前記第1の時間帯の後の第2の時間帯の心拍情報とを学習データとして機械学習を行うことにより、被験家畜の前記第1の時間帯の心拍情報の実測値を入力情報として、前記第2の時間帯の心拍情報を出力情報とする学習モデルを生成する生成部を備えている。
【0012】
本発明の一態様に係る家畜における学習モデル生成方法は、第1の時間帯の心拍情報と、前記第1の時間帯の後の第2の時間帯の心拍情報とを学習データとして機械学習を行うことにより、被験家畜の前記第1の時間帯の心拍情報の実測値を入力情報として、前記第2の時間帯の心拍情報を出力情報とする学習モデルを生成する生成工程を含む。
【0013】
本発明の一態様に係るプログラムは、本発明の一態様に係る学習モデル生成装置としてコンピュータを機能させるための学習モデル生成プログラムであって、前記生成部としてコンピュータを機能させるためのプログラムである。
【0014】
本発明の一態様に係る炎症性疾患予兆検出システムは、本発明の一態様に係る炎症性疾患予兆検出装置と、家畜における心拍情報を計測する心拍情報計測装置とを備えている。
【0015】
本発明の各態様に係る炎症性疾患予兆検出装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記炎症性疾患予兆検出装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記炎症性疾患予兆検出装置をコンピュータにて実現させる炎症性疾患予兆検出装置の炎症性疾患予兆検出制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【0016】
本発明の各態様に係る炎症性疾患予兆検出装置において用いられる心拍情報を計測する心拍情報計測装置であって、家畜の心拍情報を計測するためのセンサ部と、前記センサ部を家畜に装着するベルト部と、前記ベルト部と前記センサ部とを着脱可能に接続するセンサ接続部とを備え、前記センサ部は、前記心拍情報計測装置を家畜に装着した場合に、家畜との接触部位に接触圧を生じさせる機構を有している。
【0017】
本発明の一態様に係る炎症性疾患予兆検出システムは、本発明の一態様に係る炎症性疾患予兆検出装置と、本発明の一態様に係る心拍情報計測装置とを備えている。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、家畜において炎症性疾患の予兆を検出する技術を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一態様に係る炎症性疾患予兆検出システムの要部構成を示すブロック図である。
図2】本発明の一態様に係る炎症性疾患の予兆検出装置における予兆の判定処理の流れを示すフローチャートである。
図3】本発明の一態様に係る学習モデル生成装置における学習モデルの生成処理の流れを示すフローチャートである。
図4】実施例の心拍数に基づく予兆判定結果を示すグラフである。
図5】実施例のトータルパワー値に基づく予兆判定結果を示すグラフである。
図6】本発明の一態様に係る計測装置の要部構成を説明する模式図である。
図7】計測装置のセンサ部とセンサ接続部との接続態様の一例を説明する模式図である。
図8】計測装置のセンサ部について、家畜への装着状態及び非装着状態を説明する模式図である。
図9】実施例において計測装置を用いて測定した脈波の経時変化を接触圧毎に示す図である。
図10】実施例において計測装置を用いて測定した脈波の振幅の平均値を接触圧毎に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一態様は、家畜における炎症性疾患の予兆を検出する予兆検出装置(炎症性疾患予兆検出装置)を提供する。予兆検出装置が予兆を検出する炎症性疾患は、例えば、分娩後の母家畜が発症する疾患であり、子宮炎、子宮内膜炎、膣炎、乳房炎、腹膜炎、起立不能症に続発する筋炎等が挙げられるが、これらに限定されない。予兆検出装置により炎症性疾患の予兆を検出する対象となる家畜の例として、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、ヒツジ等が挙げられる。一例として、予兆検出装置により炎症性疾患の予兆を検出する対象となる家畜は、ウシである。
【0021】
本発明者らは、心拍情報を指標として、ウシの炎症性疾患モデルにおける自律神経系の機能の変化を検討した。そして、本発明者らは、炎症性疾患を発症する家畜では、発症前の所定時間帯の心拍情報が、炎症性疾患を発症しない健常な家畜における同じ時間帯の心拍情報と異なることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明の一態様に係る予兆検出装置は、家畜において、炎症性疾患を発症する前に、炎症性疾患の予兆を検出することにより、炎症性疾患の発症を予測する。
【0022】
ここで、炎症性疾患の発症とは、炎症性疾患に典型的な症状が現れた状態を意図しており、炎症性疾患を発症する前とは、炎症性疾患に典型的な症状が現れていない状態を意図している。また、炎症性疾患の予兆とは、炎症性疾患を発症していない家畜における、炎症性疾患の発症と因果関係のある身体状態の変化が意図される。
【0023】
予兆検出装置において検出する、家畜における炎症性疾患の予兆は、一例として、家畜の心拍情報の変化である。ここで、心拍情報は、心臓の電気的活動を表す波形信号を表す心電図から得られる情報であり、一例として、心拍数及び心拍間隔変動解析から得られるトータルパワー値が挙げられる。また、心拍情報には、脈波及び脈拍間隔も含まれ得る。
【0024】
〔炎症性疾患予兆検出システム100〕
図1は、本発明の一態様に係る炎症性疾患予兆検出システム100の要部構成を示すブロック図である。図1に示すように、炎症性疾患予兆検出システム100は、予兆検出装置(炎症性疾患予兆検出装置)10及び計測装置(心拍情報計測装置)30を備えている。また、炎症性疾患予兆検出システム100は、学習モデル生成装置20、記憶装置40、出力装置50を備えている。なお、炎症性疾患予兆検出システム100において、予兆検出装置10と計測装置30とは別体の装置により構成されていてもよいし、一体の装置として構成されていてもよい。
【0025】
計測装置30は、家畜における心拍情報を計測する。計測装置30は、一例として、家畜の身体に装着するウェアラブル装置である。計測装置30は、一例として、複数の電極を備えており、電極と家畜との間を流れる電流を検出することで心拍情報を計測する。また、計測装置30の他の例は、光源(LEDあるいはレーザ)とフォトダイオードとを備えており、光源から照射され、家畜の血管から反射した光をフォトダイオードが検出することで心拍情報を計測する。
【0026】
計測装置30は、計測した心拍情報を記憶装置40に送信し、時系列で所定時間毎に記憶させる。これにより、心拍情報の経時的な変化を取得することができる。また、計測装置30は、予兆検出装置10及び学習モデル生成装置20に心拍情報を送信してもよい。計測装置30は、心拍情報を常時計測するようになっていてもよいし、所定の間隔で定期的に計測するようになっていてもよい。
【0027】
記憶装置40は、炎症性疾患予兆検出システム100にて使用されるプログラム及びデータを記憶する。記憶装置40は、一例として、計測装置30が計測した心拍情報を含む心電データや脈波データを時系列で所定時間帯毎に記憶している。記憶装置40は、心電データや脈波データを記憶するデータベースをクラウド又はサーバ上に有していてもよい。
【0028】
記憶装置40は、計測装置30が計測した心電データや脈波データを、計測した時間帯と対応付けて記憶していることが好ましい。心電データや脈波データは、所定時間内の心拍情報の変動を表す波形データであり得る。
【0029】
出力装置50は、予兆検出装置10が検出した炎症性疾患の予兆に関する情報を出力する。出力装置50による出力の態様は特に限定されない。出力装置50は、例えば、当該情報を画像として表示する表示装置、当該情報を印刷する印刷装置、又は、当該情報を音声として出力する警報装置であってもよい。
【0030】
(予兆検出装置10)
予兆検出装置10は、被験家畜における所定の時間帯の心拍情報と、健常な家畜における前記所定の時間帯の心拍情報とを参照して、前記被験家畜における炎症性疾患の予兆を判定する。
【0031】
予兆検出装置10は、制御部11を備えている。制御部11は、予兆検出装置10の各部を統括して制御するものであり、一例として、プロセッサ及びメモリにより実現される。この例において、プロセッサはストレージ(不図示)にアクセスし、ストレージに格納されているプログラム(不図示)をメモリにロードし、当該プログラムに含まれる一連の命令を実行する。これにより、制御部11の各部が構成される。当該各部として、制御部11は、入力データ取得部12、推定部13、及び判定部14を備えている。
【0032】
入力データ取得部12は、計測装置30により計測された心拍情報を含む心電データや脈波データを取得する。入力データ取得部12は、入力装置(不図示)からの推定の開始指示を表す入力信号に基づき、心電データや脈波データを取得する。一例として、入力データ取得部12は、記憶装置40から心電データや脈波データを読み出すが、計測装置30から直接心電データや脈波データを取得するようになっていてもよい。入力データ取得部12は、取得した心電データや脈波データを推定部13へ出力する。
【0033】
判定部14は、被験家畜における所定の時間帯の心拍情報と、健常な家畜における前記所定の時間帯の心拍情報とを参照して、前記被験家畜における炎症性疾患の予兆を判定する。判定部14は、判定結果を出力装置50に出力する。
【0034】
判定部14は、一例として、所定時間帯における被験家畜の心拍情報が健常な家畜の心拍情報と異なる場合に、被験家畜における炎症性疾患の予兆ありと判定する。判定部14によるこのような判定処理は、本発明者らが見出した炎症性疾患を発症する家畜では、発症前の所定時間帯の心拍情報が、炎症性疾患を発症しない健常な家畜における同じ時間帯の心拍情報と異なるという事実に基づく。
【0035】
判定部14が判定に用いる心拍情報は、家畜における0時から7時までの間の2時間以上の時間帯の心拍情報であることが好ましく、3時から7時までの時間帯の心拍情報であることがより好ましく、3時から5時までの時間帯の心拍情報であることが最も好ましい。3時から5時までの時間帯の心拍情報を用いることで、より精度よく炎症性疾患の予兆を判定することができる。判定部14が判定に用いる心拍情報は、所定の時間帯に計測された心拍情報の値の平均値であってもよいし、積算値であってもよい。
【0036】
判定部14は、所定の時間帯よりも前の時間帯を第1の時間帯とし、所定の時間帯を第2の時間帯とした場合において、後述する推定部13が推定した第2の時間帯の心拍情報の推定値と、被験家畜の第2の時間帯の心拍情報の実測値との差を参照して、被験家畜における炎症性疾患の予兆を判定してもよい。第1の時間帯は、上述した所定の時間帯(第2の時間帯)よりも前の時間帯であり、一例として、20時から3時までの時間帯又は20時から0時までの時間帯である。
【0037】
判定部14は、推定部13から取得した第2の時間帯の心拍情報の推定値と、入力データ取得部12又は記憶装置40から取得した第2の時間帯の心拍情報の実測値とを取得し、これらの差を参照して、被験家畜における炎症性疾患の予兆を判定する。
【0038】
第1の時間帯の心拍情報から予測した第2の時間帯の心拍情報の推定値と、第2の時間帯の心拍情報の実測値との差は、炎症性疾患を発症する家畜と健常な家畜とで異なっている。したがって、第2の時間帯の心拍情報の推定値と、第2の時間帯の心拍情報の実測値との差を参照することで、炎症性疾患を発症する家畜と健常な家畜とを区別することができる。これにより、家畜が炎症性疾患を発症する前に、その予兆の有無を判定することができる。
【0039】
判定部14は、被験家畜における第2の時間帯の心拍情報の推定値と第2の時間帯の心拍情報の実測値との差が、健常な家畜における当該差と異なる場合に、被験家畜において炎症性疾患の予兆が有りと判定し得る。また、判定部14は、被験家畜における第2の時間帯の心拍情報の推定値と第2の時間帯の心拍情報の実測値との差が、所定の範囲外である場合に、被験家畜において炎症性疾患の予兆が有りと判定してもよい。この場合、所定の範囲は、健常な家畜における上記差とは異なる範囲であり得る。
【0040】
推定部13は、健常な家畜における第1の時間帯の心拍情報及び第2の時間帯の心拍情報を参照して、被験家畜における第1の時間帯の心拍情報の実測値から、第2の時間帯の心拍情報を推定する。推定部13は、推定した第2の時間帯の心拍情報の推定値を、判定部14へ出力する。
【0041】
推定部13は、一例として、健常な家畜における第1の時間帯及び第2の時間帯の心拍情報を参照して、第1の時間帯の心拍情報と第2の時間帯の心拍情報との相関関係を表す推定モデルを生成し、推定処理に用いる。
【0042】
推定モデルは、統計分析により得られた、第2の時間帯の心拍情報を目的変数、第1の時間帯の心拍情報を説明変数とした推定式であり得る。推定モデルを構築するために用いる統計分析方法は特に限定されないが、一例として、回帰分析、主成分分析、因子分析、クラスター分析等が挙げられる。
【0043】
推定モデルは、第1の時間帯及び第2の時間帯の心拍情報を学習データとして機械学習を行うことにより生成された学習済モデルであってもよい。推定モデルを構築するために用いる機械学習は特に限定されないが、一例として、ニューラルネットワーク、決定木、ランダムフォレスト、サポートベクトルマシン、勾配ブースティング木等が挙げられる。
【0044】
すなわち、推定部13は、健常な家畜における、第1の時間帯の心拍情報及び第2の時間帯の心拍情報を含む学習データとして機械学習を行うことにより生成された学習モデルを用いて、被験家畜の第1の時間帯の心拍情報の実測値を入力情報として、第2の時間帯の心拍情報を推定してもよい。推定部13は、入力データ取得部12又は記憶装置40から第1の時間帯の心拍情報の実測値を取得して学習モデルに入力し、出力される第2の時間帯の心拍情報の推定値を取得する。
【0045】
健常な家畜において、第1の時間帯の心拍情報と第2の時間帯の心拍情報との相関は高い。したがって、健常な家畜の心拍情報のデータを用いて生成された、第1の時間帯の心拍情報から第2の時間帯の心拍情報を予測する学習モデルを用いれば、高精度の推定が可能である。後述する実施例に示すように、上述したような学習モデルを用いることで、健常な家畜であれば、第2の時間帯の心拍情報の推定値と実測値との誤差は小さい。一方、炎症性疾患を発症する家畜では、第2の時間帯の心拍情報の推定値と実測値との誤差は大きくなる。したがって、第2の時間帯の心拍情報の推定値と実測値との誤差が大きい場合には、被験家畜において炎症性疾患の予兆が有りと判定することができる。
【0046】
(判定処理の流れ)
図2は、本発明の一態様に係る炎症性疾患の予兆検出装置10における予兆の判定処理(炎症性疾患予兆検出方法)の流れを示すフローチャートである。
【0047】
入力データ取得部12は、被験家畜の第1の時間帯の心拍情報の実測値を取得し、推定部13へと出力する(ステップS1)。推定部13は、取得した第1の時間帯の心拍情報の実測値を学習モデルに入力し、出力される第2の時間帯の心拍情報の推定値を取得する(ステップS2)。推定部13は、第2の時間帯の心拍情報の推定値を判定部14へと出力する。
【0048】
次に、判定部14は、入力データ取得部12又は記憶装置40から、被験家畜の第2の時間帯の心拍情報の実測値を取得する(ステップS3)。そして、判定部14は、第2の時間帯の心拍情報の推定値と実測値との差を算出する(ステップS4)。判定部14は、算出した差が健常な家畜における差と一致するか否かを判定する(ステップS5)。ステップS5において、算出した差が健常な家畜における差と一致すると判定した場合(Yes)、判定部14は、炎症性疾患の予兆なしと判定する(ステップS6)。ステップS5において、算出した差が健常な家畜における差と一致しないと判定した場合(No)、判定部14は、炎症性疾患の予兆ありと判定する(ステップS7、判定する工程)。
【0049】
そして、判定部14は、判定結果を出力装置50に出力し(ステップS8)、判定処理を終了する。
【0050】
本発明の一態様に係る炎症性疾患の予兆検出装置10によれば、炎症性疾患の発病前に、炎症性疾患の予兆を検出することができるので、炎症性疾患の予防や早期治療を実現することができる。
【0051】
(学習モデル生成装置20)
学習モデル生成装置20は、家畜における、第1の時間帯の心拍情報と、第1の時間帯の後の第2の時間帯の心拍情報とを学習データとして機械学習を行うことにより、被験家畜の第1の時間帯の心拍情報の実測値を入力情報として、第2の時間帯の心拍情報を出力情報とする学習モデルを生成する生成部を備えている。
【0052】
学習モデル生成装置20は、制御部21を備えている。制御部21は、学習モデル生成装置20の各部を統括して制御するものであり、一例として、プロセッサ及びメモリにより実現される。この例において、プロセッサはストレージ(不図示)にアクセスし、ストレージに格納されているプログラム(不図示)をメモリにロードし、当該プログラムに含まれる一連の命令を実行する。これにより、制御部21の各部が構成される。当該各部として、制御部21は、学習データ取得部22及び学習モデル生成部23を備えている。
【0053】
学習データ取得部22は、学習データを取得する。学習データ取得部22は、入力装置(不図示)からの学習の開始指示を表す入力信号に基づき、記憶装置40に記憶された心拍情報を読み出す。心拍情報は、健常な家畜から取得した心拍情報であり得る。また、心拍情報は、所定の時間帯よりも前の時間帯を第1の時間帯とし、所定の時間帯を第2の時間帯とした場合において、第1の時間帯及び第2の時間帯の心拍情報を含む。学習データ取得部22は、読み出した心拍情報を学習データとして、学習モデル生成部23へ出力する。
【0054】
学習モデル生成部23は、学習データ取得部22から取得した学習データを用いて機械学習を行うことにより、学習モデル24を生成する。学習モデル生成部23の一例として、ニューラルネットワーク、決定木、ランダムフォレスト、サポートベクトルマシン、勾配ブースティング木等の既知の機械学習方法を用いて、学習モデル24を生成する。学習モデル生成部23により生成された学習モデル24は、第1の時間帯の心拍情報を入力として、第2の時間帯の心拍情報を出力する。学習モデル生成部23は、生成した学習モデル24を記憶装置40に格納する。
【0055】
学習モデル生成装置20による学習モデル24の生成は、入力装置(不図示)からの学習の開始指示を表す入力信号に基づいて行われてもよいし、所定の間隔で定期的に行なわれてもよい。また、学習モデル生成装置20は、心拍情報が更新された際に学習モデル24を再生成するようになっていてもよく、学習モデル24を毎日再生成してもよい。学習モデル生成装置20による学習モデル24の生成は、家畜を管理する農場毎に行われてもよいし、また、季節や家畜の生育段階が変化する度に行ってもよい。
【0056】
(生成処理の流れ)
図3は、本発明の一態様に係る学習モデル生成装置における学習モデルの生成処理(学習モデル生成方法)の流れを示すフローチャートである。
【0057】
学習データ取得部22は、健常な家畜の第1の時間帯及び第2の時間帯の心拍情報を学習データとして取得する(ステップS11)。学習データ取得部22は、取得した学習データを学習モデル生成部23へと出力する。学習モデル生成部23は、取得した心拍情報を学習データとして機械学習を行い、第1の時間帯の心拍情報を入力情報として、第2の時間帯の心拍情報を推定する学習モデルを生成する(ステップS12、生成工程)。そして、学習モデル生成部23は、生成した学習モデル24を記憶装置40に記憶し、生成処理を終了する。
【0058】
本発明の一態様に係る学習モデル生成装置20によれば、炎症性疾患の発病前に、炎症性疾患の予兆を検出するために利用する学習モデルを生成することができるので、炎症性疾患の予防や早期治療の実現に貢献することができる。
【0059】
本発明の一態様に係る炎症性疾患予兆検出システム100によれば、計測装置30により被験家畜の心拍情報を取得し、取得した心拍情報に基づいて、予兆検出装置10により炎症性疾患の予兆を検出する。これにより、炎症性疾患の発病前に、炎症性疾患の予兆を検出することができるので、炎症性疾患の予防や早期治療を実現することができる。
【0060】
〔ソフトウェアによる実現例〕
予兆検出装置10及び学習モデル生成装置20(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、これらの装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、これらの装置の各制御ブロック(特に、制御部11及び制御部21に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0061】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0062】
すなわち、炎症性疾患の予兆検出装置10としてコンピュータを機能させるための炎症性疾患予兆検出プログラム、及び、学習モデル生成装置20としてコンピュータを機能させるための学習モデル生成プログラムについても、本発明の範疇に含まれる。
【0063】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0064】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0065】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0066】
〔計測装置300〕
本発明の一態様に係る計測装置(心拍情報計測装置)について、図6~8を参照して説明する。図6は、計測装置300の要部構成を説明する模式図である。図7は、計測装置300のセンサ部301とセンサ接続部303との接続態様の一例を説明する模式図である。図8は、計測装置300のセンサ部301について、家畜への装着状態及び非装着状態を説明する模式図である。
【0067】
計測装置300は、被験家畜における炎症性疾患の予兆を判定するために用いられる、家畜Mにおける心拍情報を計測する心拍情報計測装置である。計測装置300は、炎症性疾患の予兆検出装置10において用いられる心拍情報を計測する心拍情報計測装置である。計測装置300は、図6に示すように、家畜Mの身体の一部に装着するウェアラブル装置である。計測装置300は、一例として、家畜の脈波を計測する脈波計である。計測装置300は、一例として、家畜Mの尾に装着されるが、計測装置300の装着位置はこれに限定されず、心拍情報を計測可能であれば、家畜Mの脚、耳等であってもよい。計測装置300は、センサ部301、ベルト部302、及びセンサ接続部303を備えている。計測装置300は、センサ部301において計測した心拍情報を、本発明の一態様に係る炎症性疾患の予兆検出装置10に送信する送信部(図示せず)をさらに備えている。送信部は、無線又は有線による予兆検出装置10への情報の送受信が可能なように構成されている。
【0068】
センサ部301は、家畜Mの心拍情報を計測する。センサ部301は、一例として、心電計により取得される波形信号と相関の強い脈波信号を計測する。センサ部301は、所定の接触圧において家畜Mに接触させることにより、家畜Mの心拍情報を計測する。センサ部301は、一例として、複数の電極を備えており、電極と家畜Mとの間を流れる電流を検出することで心拍情報を計測する。また、センサ部301の他の例は、光源(LEDあるいはレーザ)とフォトダイオードとを備えており、光源から照射され、家畜Mの血管から反射した光をフォトダイオードが検出することで心拍情報を計測する。センサ部301は、心拍情報計測装置を家畜に装着した場合に、家畜に対する接触圧を生じさせる機構を有している。センサ部301における当該機構の一例については、後述する。
【0069】
ベルト部302は、センサ部301を家畜Mに装着する。ベルト部302は、所定の装着圧において、家畜Mに装着される。ベルト部302は、一例として、センサ部301接続する前の状態で家畜Mに装着され、その後にセンサ部301が接続される。ベルト部302は、一例として、家畜Mから脱落しない装着圧において家畜Mに装着される。また、ベルト部302は、一例として、家畜Mにおけるベルト部302の装着部位にうっ血を生じさせない装着圧において家畜Mに装着される。家畜Mの尾にベルト部302を装着する場合の装着圧は、一例として、80mmHg以下であり、50mmHg以下であることが好ましく、30mmHg以下であることがより好ましい。
【0070】
センサ接続部303は、ベルト部302とセンサ部301とを着脱可能に接続する。センサ接続部303はベルト部302に設けられている。センサ接続部303は、一例として、センサ部301と嵌合可能な形状である。一例として、ベルト部302を家畜Mに装着する際には、センサ接続部303にセンサ部301は接続されておらず、ベルト部302を家畜Mに装着した後に、センサ部301をセンサ接続部303に取り付けることにより、ベルト部302とセンサ部301とを接続する。
【0071】
センサ部301とセンサ接続部303との接続態様の一例について、図7を参照して説明する。図7中の斜視図1001は、センサ接続部303を斜め上方から見た図である。図7中の斜視図1002は、センサ部301を斜め上方から見た図である。図7中の斜視図1003は、センサ部301をセンサ接続部303に接続する様子を説明する側面図である。
【0072】
斜視図1001に示すように、センサ接続部303は、その側壁に凹部303aを有している。また、斜視図1002に示すように、センサ部301は、その側壁に凸部301aを有している。そして、斜視図1003に示すように、センサ部301をセンサ接続部303に接続する際には、凸部301aを凹部303aに位置合わせし、凸部301aが凹部303aの底面に到達するまでセンサ部301をセンサ接続部303に押し込む。凸部301aが凹部303aの底面に到達した後、凸部301aの側面が凹部303aの側面に到達するまで、センサ部301を横方向にスライドさせる。凸部301aの側面が凹部303aの側面に到達した位置においてセンサ部301を開放すると、家畜Mの皮膚の弾性によりセンサ部301が持ち上がり、凸部301aが凹部303aの上側の窪みに収容される。
【0073】
このように、センサ部301とセンサ接続部303とを接続することにより、センサ部301をベルト部302に容易に取り付けることが可能である。また、センサ部301とセンサ接続部303とは、磁石の磁力により接続するようになっていてもよい。
【0074】
センサ部301の部分構成の一例について、図8を参照して説明する。図8中の側面図1004は、センサ部301の家畜に装着していない非装着状態を示す図である。図8中の側面図1005は、センサ部301を家畜に装着した装着状態を示す図である。
【0075】
図8に示すように、センサ部301は、センサ3011と、支持具3012と、付勢部材3013とを有している。センサ3011は、家畜に接触する部位であり、一例として、光源とフォトダイオードとが設けられている。センサ3011は、その上端部に家畜の皮膚に接触する接触面3011aを有している。接触面3011aは、家畜の皮膚との接触面積が心拍情報の測定が可能な面積となるように構成されていればよく、このような接触面積は、一例として、80mm以上であり、好ましくは、100mm以上である。
【0076】
支持具3012は、センサ3011を支持する。支持具3012はその内部にセンサ3011を収容するための窪みを有している。付勢部材3013は、センサ3011と支持具3012との間に位置している。付勢部材3013は、センサ3011を家畜との接触面3011aの方向、すなわち、支持具3012から離れる方向に付勢する。付勢部材3013は、一例として、バネである。
【0077】
計測装置300を家畜に装着していない状態においては、図8中の側面図1004に示すように、センサ3011は接触面3011aの方向に付勢されており、その上端部が支持具3012の上端から突出している。そして、計測装置300を家畜に装着した状態においては、センサ3011の接触面3011aと家畜の皮膚とが接触し、その接触圧によりセンサ3011は支持具3012内に押し込まれる。これにより、計測装置300を家畜に装着した状態においては、図8中の側面図1005に示すように、接触面3011aの高さ方向の位置が支持具3012の上端と一致するように、センサ3011が支持具3012内に収容される。このように、センサ3011の高さ方向の位置は、図8に示すように、距離dの分だけ変位する。
【0078】
センサ3011と家畜の皮膚との接触圧は、一例として、付勢部材3013の変位量により調整することができる。付勢部材3013の変位量は、一例として、センサ3011と支持具3012との高さ方向の初期位置により調整することができる。計測装置300を家畜に装着した状態においては、付勢部材3013が変位してセンサ3011は支持具3012側に押し込まれるが、支持具3012の位置までしか押し込まれないため、センサ3011と家畜の皮膚との接触圧は一定圧となり得る。
【0079】
センサ3011と家畜の皮膚との接触圧は、家畜の平均血圧であることが好ましい。家畜の平均血圧は、所定期間内に計測された血圧の平均値であり得る。センサ3011と家畜の皮膚との接触圧は、一例として、90mmHg以上、100mmHg以上、120mmHg以上、又は、150mmHg以上であることが好ましい。また、センサ3011と家畜の皮膚との接触圧は、一例として、250mmHg以下、230mmHg以下、200mmHg以下、又は180mmHg以下であることが好ましい。
【0080】
後述する実施例に示すように、センサ部301と家畜の皮膚との接触圧によって、計測される脈波信号の脈拍振幅が異なる。脈波信号は、心電計により取得される波形信号と相関が強いことが好ましく、そのため、脈波信号の脈拍振幅は大きいことが好ましい。そして、センサ部301と家畜の皮膚との接触圧が家畜の平均血圧と同程度である場合に、脈波信号の脈拍振幅が大きくなり得る。センサ部301は、センサ3011、支持具3012、及び付勢部材3013を有しているので、センサ部301と家畜の皮膚との接触圧を細かく調整することができる。
【0081】
また、計測装置300は、ベルト部302による家畜への装着と、センサ部301による家畜への接触とを、個別に調整可能である。すなわち、センサ部301は、計測装置300を家畜に装着した場合に、家畜との接触部位に接触圧を生じさせる機構を独立して有している。このように、計測装置300は、ベルト部302による装着圧だけでなく、センサ部301による接触圧も生じさせ得、さらにそれぞれ独立して調節可能である。よって、例えば、ベルト部302による家畜の装着部位に対する装着圧を、センサ部301を家畜に接触させる接触部位に対する接触圧よりも小さくして、計測装置300を家畜に装着することができる。
【0082】
したがって、家畜にうっ血を生じさせない装着圧で計測装置300を装着して家畜への負担を小さくしつつ、センサ部301と家畜との接触圧を適切に調整して、適切な心拍情報を取得することができる。また、家畜における計測装置300の装着部位の運動や、長期間の計測装置300の装着により、ベルト部302が緩んで装着圧が低下した場合であっても、付勢部材3013の変位量は変化しにくいため、センサ部301の家畜に対する接触圧は変化せず、長期間継続して精度よく心拍情報を計測することができる。
【0083】
計測装置300を用いて、家畜における心拍情報を計測する心拍情報計測方法についても、本発明の範疇に含まれる。本発明の一態様に係る心拍情報計測方法は、家畜における心拍情報を計測する心拍情報計測方法であって、計測装置300を家畜に装着する装着工程であって、ベルト部302による家畜の装着部位に対する装着圧は、センサ部301を家畜に接触させる接触部位に対する接触圧よりも小さい装着工程を包含する。また、本発明の一態様に係る心拍情報計測方法において、センサ部301の接触圧は家畜の平均血圧である。また、本発明の一態様に係る炎症性疾患の予兆検出装置と計測装置300とを備えた炎症性疾患予兆検出システムについても、本発明の範疇に含まれる。
【0084】
〔まとめ〕
本発明の第1の態様に係る炎症性疾患予兆検出装置は、被験家畜における所定の時間帯の心拍情報と、健常な家畜における前記所定の時間帯の心拍情報とを参照して、前記被験家畜における炎症性疾患の予兆を判定する判定部を備えている。
【0085】
本発明の第2の態様に係る炎症性疾患予兆検出装置は、第1の態様に係る炎症性疾患予兆検出装置において、前記所定の時間帯は、0時から7時までの間の2時間以上の時間帯である。
【0086】
本発明の第3の態様に係る炎症性疾患予兆検出装置は、第1又は第2の態様に係る炎症性疾患予兆検出装置において、前記所定の時間帯よりも前の時間帯を第1の時間帯とし、前記所定の時間帯を第2の時間帯とした場合において、健常な家畜における前記第1の時間帯の心拍情報及び前記第2の時間帯の心拍情報を参照して、被験家畜における前記第1の時間帯の心拍情報の実測値から、前記第2の時間帯の心拍情報を推定する推定部をさらに備え、前記判定部は、前記推定部が推定した前記第2の時間帯の心拍情報の推定値と、前記被験家畜の前記第2の時間帯の心拍情報の実測値との差を参照して、前記被験家畜における炎症性疾患の予兆を判定する判定部とを備えている。
【0087】
本発明の第4の態様に係る炎症性疾患予兆検出装置は、第3の態様に係る炎症性疾患予兆検出装置において、前記推定部は、健常な家畜における、前記第1の時間帯の心拍情報及び前記第2の時間帯の心拍情報を含む学習データとして機械学習を行うことにより生成された学習モデルを用いて、被験家畜の前記第1の時間帯の心拍情報の実測値を入力情報として、前記第2の時間帯の心拍情報を推定する。
【0088】
本発明の第5の態様に係る炎症性疾患予兆検出方法は、被験家畜における所定の時間帯の心拍情報と、健常な家畜における前記所定の時間帯の心拍情報とを参照して、前記被験家畜における炎症性疾患の予兆を判定する工程を包含する。
【0089】
本発明の第6の態様に係るプログラムは、第1から第4の態様のいずれかに係る炎症性疾患予兆検出装置としてコンピュータを機能させるための炎症性疾患予兆検出プログラムであって、前記判定部としてコンピュータを機能させるためのプログラムである。
【0090】
本発明の第7の態様に係る学習モデル生成装置は、家畜における、第1の時間帯の心拍情報と、前記第1の時間帯の後の第2の時間帯の心拍情報とを学習データとして機械学習を行うことにより、被験家畜の前記第1の時間帯の心拍情報の実測値を入力情報として、前記第2の時間帯の心拍情報を出力情報とする学習モデルを生成する生成部を備えている。
【0091】
本発明の第8の態様に係る学習モデル生成方法は、家畜における、第1の時間帯の心拍情報と、前記第1の時間帯の後の第2の時間帯の心拍情報とを学習データとして機械学習を行うことにより、被験家畜の前記第1の時間帯の心拍情報の実測値を入力情報として、前記第2の時間帯の心拍情報を出力情報とする学習モデルを生成する生成工程を含む。
【0092】
本発明の第9の態様に係るプログラムは、第7の態様に係る学習モデル生成装置としてコンピュータを機能させるための学習モデル生成プログラムであって、前記生成部としてコンピュータを機能させるためのプログラムである。
【0093】
本発明の第10の態様に係る炎症性疾患予兆検出システムは、第1から第4の態様のいずれかに係る炎症性疾患予兆検出装置と、家畜における心拍情報を計測する心拍情報計測装置とを備えている。
【0094】
本発明の第11の態様に係る心拍情報計測装置は、第1から第4の態様のいずれかに係る炎症性疾患予兆検出装置において用いられる心拍情報を計測する心拍情報計測装置であって、家畜の心拍情報を計測するためのセンサ部と、前記センサ部を家畜に装着するベルト部と、前記ベルト部と前記センサ部とを着脱可能に接続するセンサ接続部とを備え、前記センサ部は、前記心拍情報計測装置を家畜に装着した場合に、家畜との接触部位に接触圧を生じさせる機構を有している。
【0095】
本発明の第12の態様に係る心拍情報計測装置は、本発明の第11の態様に係る心拍情報計測装置において、前記センサ部は、家畜に接触するセンサと、前記センサを支持する支持具と、前記センサと前記支持具との間に位置し、前記センサを家畜との接触面の方向に付勢する付勢部材とを有する。
【0096】
本発明の第13の態様に係る心拍情報計測方法は、家畜における心拍情報を計測する心拍情報計測方法であって、第11又は第12の態様に係る心拍情報計測装置を家畜に装着する装着工程であって、前記ベルト部による家畜の装着部位に対する装着圧は、前記センサ部を家畜に接触させる接触部位に対する接触圧よりも小さい装着工程を包含する。
【0097】
本発明の第14の態様に係る心拍情報計測方法は、本発明の第13の態様に係る心拍情報計測方法において、前記接触圧は家畜の平均血圧である。
【0098】
本発明の第14の態様に係る炎症性疾患予兆検出システムは、第1から第4の態様のいずれかに係る炎症性疾患予兆検出装置と、第11又は第12に係る心拍情報計測装置とを備えている。
【0099】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0100】
(実施例1)
健常な雌ウシ(30~66ヶ月齢[平均49.5ヶ月齢]、産次1~4回[平均1.8回])8頭(n=10)(健常群)の胸部に心電計(フクダ エム・イー工業製、製品名:クイックコーダ、型番:QR2500)を装着し、A-B誘導にて心電図を連続記録して心拍数を計測した。出産日(0日目)~出産後7日目までの健常群における20時~5時の心拍数を計測したデータ(欠損値を除く)を学習データとし、ニューラルネットワーク、勾配ブースティング木等が搭載された予測分析ツールPrediction one(ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社)を用いて予測モデルを構築した。予測モデルとして、20時~0時の平均心拍数を入力情報として、3時~5時の平均心拍数を予測する予測モデルを構築した。構築した予測モデルに、健常群の20時~0時の平均心拍数を入力し、出力される3時~5時の平均心拍数の予測値を取得した。表1に示すように、誤差平均2.83、決定係数0.6747の高精度であった。
【0101】
【表1】
【0102】
子宮内膜炎、乳房炎、および原因が特定できなかった発熱を検知する前の雌ウシ(26~99ヶ月齢[平均60.2ヶ月齢]、産次2~3回[平均2.7回])6頭(n=6)(疾病群)から、健常群と同様に心拍数を計測した。出産日~疾病と診断される前日における各日の疾病群の20時~0時の平均心拍数を予測モデルに入力し、出力される3時~5時の平均心拍数の予測値を取得した。
【0103】
健常群及び疾病群において、3時~5時の予測値と実測値との関係を図4に示す。図4は、実施例の心拍数に基づく予兆判定結果を示すグラフである。図4に示すように、健常群と疾病群との間で、予測値と実測値との関係の挙動が異なっていた。実測値-予測値の誤差13以上を疾病群とした場合、感度66%(4/6頭)であり、特異度100%(10/10頭)であった。
【0104】
(実施例2)
実施例1と同様に心電計から得られた情報に基づき、トータルパワー値を計測した。健常な雌ウシ(30~66ヶ月齢[平均49.5ヶ月齢]、産次1~4回[平均1.8回])8頭(n=10)(健常群)において20時~7時のトータルパワー値を計測したデータを学習データとし、予測分析ツールPrediction one(ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社)を用いて予測モデルを構築した。予測モデルとして、20時~3時の平均トータルパワー値を入力情報として、3時~7時の平均トータルパワー値を予測する予測モデルを構築した。構築した予測モデルに、健常群の20時~3時の平均トータルパワー値を入力し、出力される3時~7時の平均トータルパワー値の予測値を取得した。表2に示すように、誤差平均6687.4、決定係数0.6661の高精度であった。
【0105】
【表2】
【0106】
子宮内膜炎、乳房炎、および原因が特定できなかった発熱を検知する前の雌ウシ(26~99ヶ月齢[平均60.2ヶ月齢]、産次2~3回[平均2.7回])6頭(n=6)(疾病群)から健常群と同様にトータルパワー値を計測した。出産日~疾病と診断される前日における各日の疾病群の20時~3時の平均トータルパワー値を予測モデルに入力し、出力される3時~7時の平均トータルパワー値の予測値を取得した。
【0107】
健常群及び疾病群において、3時~7時の予測値と実測値との関係を図5に示す。図5は、実施例のトータルパワー値に基づく予兆判定結果を示すグラフである。図5に示すように、健常群と疾病群との間で、予測値と実測値との関係の挙動が異なっていた。実測値-予測値の誤差が-9000未満を疾病群とした場合、感度50%(3/6頭)であり、特異度80%(8/10頭)であった。
【0108】
(実施例3)
計測装置のセンサと家畜の皮膚との接触圧が計測される脈波信号の脈拍振幅に及ぼす影響を検証した。黒毛のウシ(2~3月齢)を対象として、3種類の接触圧で脈波を測定した。計測装置をウシの尾の付け根の内側にベルトを介して装着した。ベルトの締め付けは一定とした。計測装置として、3つの異なる接触圧にそれぞれ調整した計測装置を用いた。各計測装置を用いて、低接触圧、高接触圧、中接触圧の順に脈波を計測した。各計測装置について、約3分間脈波を計測した。計測した脈波の振幅について評価した。各計測装置の接触圧等の構成を表3に示す。
【0109】
【表3】
【0110】
各計測装置が計測した脈波について、波形が安定した区間を拡大し、図9に示す。図9は、実施例において計測装置を用いて測定した脈波の経時変化を接触圧毎に示す図である。図9に示すように、中接触圧に調整した計測装置を用いて計測した脈波が最も振幅が大きかった。また、各計測装置について、20秒間の脈波の振幅の平均値を算出し、図10に示す。図10は、実施例において計測装置を用いて測定した脈波の振幅の平均値を接触圧毎に示すグラフである。図10に示すように、接触圧毎に振幅が異なり、中接触圧の場合に最も振幅が大きかった。
【0111】
本実施例において、中接触圧はウシの平均血圧と同程度であり、すなわち、計測対象の家畜の平均血圧と同程度に計測装置の接触圧を調整することで、脈波振幅の大きい計測値が得られることが示された。
【符号の説明】
【0112】
10 予兆検出装置(炎症性疾患予兆検出装置)、13 推定部、14 判定部、20 学習モデル生成装置、23 学習モデル生成部、30、300 計測装置(心拍情報計測装置)、100 予兆検出システム、301 センサ部、302 ベルト部、303 センサ接続部、3011 センサ、3011a 接触面、3012 支持具、3013 付勢部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10