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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176281
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】磁気テープカートリッジ
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/70 20060101AFI20221117BHJP
   G11B 5/735 20060101ALI20221117BHJP
   G11B 5/714 20060101ALI20221117BHJP
   G11B 5/78 20060101ALI20221117BHJP
   G11B 5/738 20060101ALI20221117BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20221117BHJP
   G11B 23/107 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
G11B5/70
G11B5/735
G11B5/714
G11B5/78
G11B5/738
G11B5/84 C
G11B23/107
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160056
(22)【出願日】2022-10-04
(62)【分割の表示】P 2021140566の分割
【原出願日】2019-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2018027623
(32)【優先日】2018-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018075653
(32)【優先日】2018-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】香川 裕介
(72)【発明者】
【氏名】笠田 成人
(72)【発明者】
【氏名】村田 悠人
(57)【要約】
【課題】磁気テープの薄型化と再生エラー発生の抑制との両立を可能にすること。
【解決手段】磁気テープがリールに巻装された単リール型の磁気テープカートリッジであって、上記磁気テープは、非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有し、テープ厚みが5.2μm以下であり、かつテープ外側末端から10m±1mの位置のテープ幅Aと、テープ内側末端から50m±1mの位置のテープ幅Bとのテープ幅差(B-A)が2.4μm以上12.0μm以下であり、上記テープ幅Aおよび上記テープ幅Bは、磁気テープカートリッジ製造日から100日目の値である磁気テープカートリッジ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気テープがリールに巻装された単リール型の磁気テープカートリッジであって、
前記磁気テープは、
非磁性支持体上に強磁性粉末を含む磁性層を有し、
前記非磁性支持体と前記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を有し、
前記非磁性層の厚みが0.1μm以上1.5μm以下であり、
テープ厚みが5.2μm以下であり、かつ
テープ外側末端から10m±1mの位置のテープ幅Aと、テープ内側末端から50m±1mの位置のテープ幅Bとのテープ幅差、B-A、が2.4μm以上12.0μm以下であり、前記テープ幅Aおよび前記テープ幅Bは、磁気テープカートリッジ製造日から100日目の値である、磁気テープカートリッジ。
【請求項2】
前記磁気テープは、テープ長手方向に100gの荷重を加えた状態で温度52℃の乾燥環境下で24時間保存した後、前記荷重の除去後20分以内に測定されるテープ幅変形率が400ppm以下であり、前記テープ幅変形率は磁気テープカートリッジ製造日から100日目に前記保存を開始して得られた値である、請求項1に記載の磁気テープカートリッジ。
【請求項3】
前記強磁性粉末の平均粒子サイズが10nm以上45nm以下である、請求項1または2に記載の磁気テープカートリッジ。
【請求項4】
前記強磁性粉末の平均粒子サイズが15nm以上40nm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の磁気テープカートリッジ。
【請求項5】
前記強磁性粉末の平均粒子サイズが15nm以上30nm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の磁気テープカートリッジ。
【請求項6】
前記強磁性粉末の平均粒子サイズが15nm以上25nm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の磁気テープカートリッジ。
【請求項7】
前記非磁性層の厚みが0.1μm以上1.0μm以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の磁気テープカートリッジ。
【請求項8】
前記磁気テープは、前記非磁性支持体の前記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の磁気テープカートリッジ。
【請求項9】
前記非磁性支持体は、ポリエチレンナフタレート支持体である、請求項1~8のいずれか1項に記載の磁気テープカートリッジ。
【請求項10】
前記非磁性支持体は、芳香族ポリアミド支持体である、請求項1~8のいずれか1項に記載の磁気テープカートリッジ。
【請求項11】
前記非磁性支持体は、ポリエチレンテレフタレート支持体である、請求項1~8のいずれか1項に記載の磁気テープカートリッジ。
【請求項12】
前記テープ幅差、B-A、が5.0μm以上12.0μm以下である、請求項1~11のいずれか1項に記載の磁気テープカートリッジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気テープカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体にはテープ状のものとディスク状のものがあり、データバックアップ、アーカイブ等のデータストレージ用途には、テープ状の磁気記録媒体、即ち磁気テープが主に用いられている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
磁気テープへの信号の記録および再生は、通常、磁気テープをリールに巻装させて収容した磁気テープカートリッジを、ドライブと呼ばれる磁気テープ装置にセットし、磁気テープ装置内で磁気テープを走行させテープ表面(磁性層表面)と磁気ヘッドとを接触させ摺動させることにより行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-346865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁気テープへの情報の記録は、通常、磁気テープのデータバンドに磁気信号を記録することにより行われる。これにより、データバンドにデータトラックが形成される。
一方、記録された情報の再生時には、磁気テープ装置内で磁気テープを走行させ、磁気ヘッドを磁気テープのデータトラックに追従させてデータトラックに記録された情報の読み取りを行う。ここで磁気ヘッドがデータトラックに追従する精度が低いと、再生エラーが発生しやすくなってしまう。
【0006】
ところで、近年の情報量の莫大な増大に伴い、磁気テープには記録容量を高めること(高容量化)が求められている。高容量化のための手段としては、磁気テープの厚みを薄くし(以下、「薄型化」とも記載する。)、磁気テープカートリッジ1巻あたりに収容される磁気テープ長を増すことが挙げられる。しかし本発明者らの検討によれば、磁気テープの厚みを薄くすると、再生エラーが発生し易くなる現象が見られた。
【0007】
そこで本発明の目的は、磁気テープの薄型化と再生エラー発生の抑制との両立を可能にすることにある。
【0008】
本発明の一態様は、
磁気テープがリールに巻装された単リール型の磁気テープカートリッジであって、
上記磁気テープは、
非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有し、
テープ厚みが5.2μm以下であり、かつ
テープ外側末端から10m±1mの位置のテープ幅Aと、テープ内側末端から50m±1mの位置のテープ幅Bとのテープ幅差(B-A)が2.4μm以上12.0μm以下であり、上記テープ幅Aおよび上記テープ幅Bは、磁気テープカートリッジ製造日から100日目の値である、磁気テープカートリッジ、
に関する。
【0009】
一態様では、上記磁気テープは、テープ長手方向に100gの荷重を加えた状態で温度52℃の乾燥環境下で24時間保存した後、上記荷重の除去後20分以内に測定されるテープ幅変形率が400ppm以下であることができる。上記テープ幅変形率は、磁気テープカートリッジ製造日から100日目に上記保存を開始して得られた値である。
【0010】
一態様では、上記磁気テープは、上記非磁性支持体と上記磁性層との間に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層を有することができる。
【0011】
一態様では、上記磁気テープは、上記非磁性支持体の上記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末および結合剤を含むバックコート層を有することができる。
【0012】
一態様では、上記非磁性支持体は、ポリエチレンナフタレート支持体であることができる。
【0013】
一態様では、上記非磁性支持体は、芳香族ポリアミド支持体であることができる。
【0014】
一態様では、上記非磁性支持体は、ポリエチレンテレフタレート支持体であることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、テープ厚み5.2μm以下の薄型化された磁気テープを含む磁気テープカートリッジであって、磁気テープに記録された情報の再生における再生エラーの発生を抑制可能な磁気テープカートリッジを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[磁気テープカートリッジ]
本発明の一態様は、磁気テープがリールに巻装された単リール型の磁気テープカートリッジであって、上記磁気テープは、非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有し、テープ厚みが5.2μm以下であり、かつテープ外側末端から10m±1mの位置のテープ幅Aと、テープ内側末端から50m±1mの位置のテープ幅Bとのテープ幅差(B-A)が2.4μm以上12.0μm以下であり、上記テープ幅Aおよび上記テープ幅Bは、磁気テープカートリッジ製造日から100日目の値である、磁気テープカートリッジに関する。
【0017】
磁気テープに記録した情報を再生する際に再生エラーが発生する原因の一つとして、磁気テープへの情報の記録から再生までの間に、磁気テープの幅方向の寸法が経時的に変化することが挙げられる。磁気テープの幅方向の寸法変化については、先に示した特許文献1(特開2005-346865号公報)では、強化層を設けることにより寸法安定性を高めることが提案されている(例えば特許文献1の段落0014および段落0054参照)。この提案は、変形しにくい磁気テープを提供することを指向するものと言える。
これに対し本発明者らは、磁気テープカートリッジに収容された磁気テープの寸法変化について鋭意検討を重ねた結果、以下の新たな知見を得た。
磁気テープカートリッジは、長尺状の磁気テープ原反を規定の幅にスリットして得られた磁気テープを、磁気テープカートリッジのリールに巻き取り収容して作製される。カートリッジの構成としては、リール数が1つの単リール型と、2つのリールを有する双リール型があり、近年は単リール型の磁気テープカートリッジが広く用いられている。単リール型の磁気テープカートリッジ内での磁気テープの経時的な変形について本発明者らが鋭意検討を重ねる中で、リールに近い部分(内側部分)はテープ厚み方向の圧縮応力によって初期より幅広に変形し、一方リールから遠い部分(外側部分)はテープ長手方向の引っ張り応力によって初期より幅狭に変形するという、位置によって異なる変形が起こる現象が、薄型化された磁気テープ(具体的にはテープ厚みが5.2μm以下)において顕著に発生することが明らかとなった。その理由について、本発明者らは、磁気テープが薄型化されると、磁気テープにかかるテンションが仮に同じであっても、磁気テープの各位置にかかる圧縮応力または引張応力はより大きくなり、その結果、上記の初期より幅広または幅狭になる変形が発生しやすくなるのではないかと推察している。また、高容量化のために磁気テープが薄型化されて磁気テープカートリッジ1巻あたりに収容される磁気テープ長が長くなると、磁気テープカートリッジ内の磁気テープの巻数は多くなる。その結果、磁気テープの内側部分(リールに近い部分)はより強く圧縮されるようになると考えられ、その結果、上記の内側部分が初期より幅広に変形する現象がより顕著に発生するようになると推察される。
以上の知見に基づき本発明者らは、記録時(データトラック形成時)から磁気テープが経時的に上記のように位置によって異なる変形を起こすことが、磁気ヘッドをデータトラックに追従させることを困難にし、このことが再生エラーの原因になると考えるに至った。
そこで本発明者らは、記録から再生までの間に磁気テープカートリッジ内で経時的に生じ得る変形を予め発生させておけば、薄型化された磁気テープにおいて記録から再生までの間の経時で発生する上記変形に起因する再生エラーの発生を抑制することが可能になると考え更に鋭意検討を重ねた。これは、変形しにくい磁気テープを提供することを指向する従来の技術思想とは明らかに異なる技術思想に基づく検討であった。その結果、本発明者らは、磁気テープカートリッジ製造日から100日目において上記のテープ幅差(B-A)が2.4μm以上12.0μm以下となるように予め変形を生じさせることによって、テープ厚みが5.2μm以下の薄型化された磁気テープに記録された情報を再生する際の再生エラーの発生を抑制できることを見出し、上記の本発明の一態様を完成させた。磁気テープカートリッジ製造日から100日目を基準日として採用した理由は、従来の磁気テープカートリッジでは、磁気テープカートリッジ製造日から100日の時点で上記のテープ幅差(B-A)が2.4μm以上となるほどの変形は生じないからである。
ただし以上の記載には本発明者らの推察が含まれる。また、後述の記載にも本発明者らの推察が含まれる。かかる推察に本発明は限定されるものではない。
以下、上記磁気テープカートリッジについて説明する。
【0018】
<磁気テープカートリッジの構成>
上記磁気テープカートリッジは、単リール型の磁気テープカートリッジである。単リール型の磁気テープカートリッジでは、単一のリールに磁気テープが巻装されている。磁気テープカートリッジの構成については、単リール型の磁気テープカートリッジに関する公知技術を適用できる。
【0019】
<磁気テープ>
(テープ幅差(B-A))
上記磁気テープカートリッジに含まれる磁気テープは、テープ外側末端から10m±1mの位置のテープ幅Aとテープ内側末端から50m±1mの位置のテープ幅Bとのテープ幅差(B-A)が2.4μm以上12.0μm以下である。上記のテープ幅Aおよびテープ幅Bは、磁気テープカートリッジ製造日から100日目の値である。
磁気テープカートリッジには、製品管理のために、製造日等の個体識別情報(ID(identification)情報)が記録されている。本発明および本明細書において、「磁気テープカートリッジ製造日」とは、磁気テープカートリッジに記録されている製造日を言うものとする。かかる情報は、通常、カートリッジ内部にあるRFID(Radio Frequency Identifier)タグに記録されており、RFIDタグを読み取ることにより、製造日(通常、「Date of Manufacturer」として記録されている日付)を認識することができる。磁気テープカートリッジ製造日から100日目のテープ幅差(B-A)が上記範囲である磁気テープカートリッジについて、この磁気テープカートリッジに収容されている磁気テープへの情報の記録および記録された情報の再生は、磁気テープカートリッジ製造日から100日未満のいずれかの日に行われてもよく、100日目に行われてもよく、100日を超えるいずれかの日に行われてもよい。同じ製品ロット番号が付されている磁気テープカートリッジは、通常、同一原料を用いて同一製造条件下で製造されたものであるため、磁気テープカートリッジ製造日から100日目のテープ幅差(B-A)は同じ値になるとみなすことができる。以上の点は後述の各種物性についても同様である。
また、テープ幅差(B-A)等の各種物性が測定される磁気テープの一部としては、スプライシングテープ等の接合手段によって、情報の記録および/または再生が行われる領域と接合されている部分は考慮されないものとする。例えば、磁気テープカートリッジからの磁気テープの引き出しおよび巻き取りのために、磁気テープのテープ外側末端にリーダーテープが接合される場合がある。かかる場合、テープ幅差(B-A)等の各種物性が測定される磁気テープの一部としては、リーダーテープは考慮されないものとする。したがって、リーダーテープが接合されている場合には、磁気テープのテープ外側末端は、リーダーテープが接合されている側の磁気テープの末端である。
【0020】
上記のテープ外側末端は、リールに巻装された磁気テープの最もリールから遠い端部であり、テープ外側末端から10m±1mの位置のテープ幅Aは、経時的にテンションが強くかかり初期より幅狭に変形する部分のテープ幅を代表している。一方、上記のテープ内側末端は、リールへの巻き取りの起点の端部であり、テープ内側末端から50m±1mの位置のテープ幅Bは、経時的に強く圧縮されて初期より幅広に変形する部分のテープ幅を代表している。
磁気テープカートリッジは、長尺状の磁気テープ原反を規定の幅にスリットして得られた磁気テープをリールに巻き取り磁気テープカートリッジ内に収容して作製される。上記の規定の幅は、通常、1/2インチ(0.0127メートル)であり、スリットされた磁気テープの幅は各位置で等幅である。等幅について、スリット工程において通常生じ得る製造誤差は許容されるものとする。これに対し、先に記載したように、記録から再生までの間に磁気テープは経時的に位置によって異なる変形を起こすと考えられる。しかし、従来の磁気テープカートリッジでは、磁気テープカートリッジ製造日から100日目の時点では、上記のテープ幅Aとテープ幅Bとのテープ幅差(B-A)が2.4μm以上となるような変形は生じない。これに対し、磁気テープカートリッジ製造日から100日目においてテープ幅差(B-A)が2.4μm以上となるような変形を予め生じさせておくことにより、記録から再生までの間に磁気テープが経時的に上記のように位置によって異なる変形を起こすことに起因する再生エラーの発生を抑制することができると考えられる。他方、情報が記録される前の磁気テープにおいて内側部分と外側部分とのテープ幅差が大きすぎると、記録時にエラーが発生し易くなる。これに対し、磁気テープカートリッジ製造日から100日目においてテープ幅差(B-A)が12.0μm以下であれば、磁気テープカートリッジに収容されている磁気テープの全長にわたって、情報の記録を容易に行うことができる。再生エラーの発生をより一層抑制する観点からは、テープ幅差(B-A)は、3.0μm以上であることが好ましく、5.0μm以上であることがより好ましい。一方、記録時のエラーの発生をより一層抑制する観点からは、テープ幅差(B-A)は、11.0μm以下であることが好ましい。
【0021】
上記のテープ幅差(B-A)は、以下の方法によって求められる値である。以下の操作および測定は、温度20~25℃および相対湿度40~60%の環境において行われる。
磁気テープカートリッジ製造日から100日目の磁気テープカートリッジから、リールに巻装された磁気テープを取り出し、テープ外側末端から10m±1mの位置を含む長さ20cmのテープサンプル、およびテープ内側末端から50m±1mの位置を含む長さ20cmのテープサンプルを切り出す。各テープサンプルのテープ幅を、カールの影響を除去するために板状部材(例えばスライドガラス)に挟み込んだ状態でテープサンプルの長手方向中央部において測定する。テープ幅の測定は、0.1μmオーダーの精度での寸法測定が可能な公知の測定器を用いて行うことができる。また、測定は、磁気テープカートリッジから磁気テープを取り出した後20分以内に行う。上記の各テープサンプルにおいて、テープ幅はそれぞれ7回測定し(N=7)、7回の測定で得られた測定値の中の最大値および最小値を除いた5つの測定値の算術平均を求める。磁気テープカートリッジに収容されていた磁気テープの全長が950mの場合には、こうして求められた算術平均を、各位置のテープ幅(テープ幅Aまたはテープ幅B)とする。一方、磁気テープカートリッジに収容されていた磁気テープの全長が950m以外の長さの場合には、磁気テープ全長をL1(単位:m)、上記で求められた算術平均をW1として、下記式:
W=(950/L1)×W1
により求められるWを、各位置のテープ幅(テープ幅Aまたはテープ幅B)とする。テープ幅差(B-A)は、熱処理を行うことにより制御することができる。熱処理について詳細は後述する。
【0022】
(テープ幅変形率)
上記のように磁気テープカートリッジ製造日から100日目のテープ幅差(B-A)が2.4μm以上12.0μm以下の磁気テープは、好ましくは、以下の方法により求められるテープ幅変形率が400ppm(parts per million)以下であることができ、390ppm以下であることがより好ましく、380ppm以下であることが更に好ましく、370ppm以下であることが一層好ましく、360ppm以下であることがより一層好ましく、350ppm以下であることがより一層好ましい。上記テープ幅変形率は、例えば、10ppm以上であることができ、100ppm以上、150ppm以上、200ppm以上または250ppm以上であることもできる。上記テープ幅変形率が小さいほど、磁気テープへの情報の記録から再生までの間の磁気テープの幅方向の寸法変化は小さいと考えられる。したがって、記録から再生までの間のテープ幅の変化に起因する再生エラーの発生をより一層抑制する観点からは、上記磁気テープ幅変形率は小さいほど好ましく、0ppmであってもよい。上記テープ幅変形率も、詳細を後述する熱処理によって制御することができる。
【0023】
上記テープ幅変形率は、以下の方法によって求められる値である。以下の操作および測定は、下記の保存以外、温度20~25℃および相対湿度40~60%の環境において行われる。
磁気テープカートリッジ製造日から100日目の磁気テープカートリッジから、リールに巻装された磁気テープを取り出し、テープ外側末端から10m±1mの位置を含む長さ20cmのテープサンプルを切り出し、上記方法によりテープ幅を求める。このテープ幅を、保存前テープ幅とする。この保存前テープ幅は、上記のテープ幅差(B-A)を求めるために用いたテープサンプルの値(即ち、上記で求めたテープ幅A)、または、上記のテープ幅差(B-A)を求めるために用いるテープサンプルと同じ磁気テープから、テープ外側末端から10m±1mの位置を含むように切り出したテープサンプルについて求められた値とする。
上記の保存前テープ幅を求めた長さ20cmのテープサンプルを、このテープサンプルの一方の端部を保持し他方の端部に100gの重りを吊るすことによりテープ長手方向に100gの荷重を負荷した状態で、温度52℃の乾燥環境下で24時間保存する。乾燥環境は、相対湿度10%以下の環境である。上記保存は、磁気テープカートリッジ製造日から100日目に開始される。上記保存後、荷重の除去後20分以内に、上記方法と同様にテープ幅(7回測定で得られた測定値の中の最大値および最小値を除いた5つの測定値の算術平均)を求める。このテープ幅を、保存後テープ幅とする。
保存前後のテープ幅の差(保存前テープ幅-保存後テープ幅)を保存前テープ幅で除した値×106(単位:ppm)を、テープ幅変形率とする。
【0024】
以下、上記磁気テープカートリッジに含まれる磁気テープについて、更に詳細に説明する。
【0025】
(テープ厚み)
上記磁気テープの厚み(総厚)は、5.2μm以下である。磁気テープの薄型化は、高容量化につながるため好ましい。しかし、厚み5.2μm以下に薄型化された磁気テープは、何ら対策を施さない場合には磁気テープカートリッジ内で先に記載したように経時的に位置によって異なる変形を生じる傾向があり、このことが再生エラーの発生の原因になると本発明者らは考えている。これに対し、磁気テープカートリッジ製造日から100日目でのテープ幅差(B-A)が2.4μm以上12.0μm以下の上記磁気テープは、記録から再生までの間に磁気テープカートリッジ内で経時的に生じ得る変形を予め発生させた磁気テープと言うことができる。これにより、テープ厚みが5.2μm以下の薄型化された磁気テープに記録された情報を再生する際の再生エラーの発生を抑制することが可能になる。より一層の高容量化の観点からは、磁気テープの厚みは、5.0μm以下であることが好ましく、4.8μm以下であることがより好ましい。また、ハンドリングの容易性の観点からは、磁気テープの厚みは3.0μm以上であることが好ましく、3.5μm以上であることがより好ましい。
【0026】
上記テープ厚みは、以下の方法により求められる値である。
磁気テープカートリッジ製造日から100日目の磁気テープカートリッジから、リールに巻装された磁気テープを取り出し、この磁気テープの任意の部分からテープサンプル(例えば長さ5~10cm)を10枚切り出し、これらテープサンプルを重ねて厚みを測定する。測定された厚みを10分の1して得られた値(テープサンプル1枚当たりの厚み)を、テープ厚みとする。上記厚み測定は、0.1μmオーダーでの厚み測定が可能な公知の測定器を用いて行うことができる。このテープ厚みは、上記のテープ幅差(B-A)および/またはテープ幅変形率を求めるために用いた磁気テープを用いて求めてもよく、上記のテープ幅差(B-A)および/またはテープ幅変形率を求めるために用いた磁気テープが収容されていた磁気テープカートリッジと同じ製品ロット番号が付されている磁気テープカートリッジから取り出した磁気テープを用いて求めてもよい。
また、磁性層の厚み等の各種厚みは、以下の方法により求めることができる。
磁気テープの厚み方向の断面を、イオンビームにより露出させた後、露出した断面において走査型電子顕微鏡による断面観察を行う。断面観察において任意の2箇所において求められた厚みの算術平均として、各種厚みを求めることができる。または、各種厚みは、製造条件等から算出される設計厚みとして求めることもできる。
【0027】
(非磁性支持体)
上記磁気テープは、少なくとも非磁性支持体および磁性層を有する。非磁性支持体(以下、単に「支持体」とも記載する。)としては、ポリエチレンナフタレート支持体、ポリアミド支持体、ポリエチレンテレフタレート支持体、ポリアミドイミド支持体等が挙げられる。これら支持体は、市販品として入手可能であるか、または公知の方法により製造することができる。支持体としては、強度、可撓性等の観点から、ポリエチレンナフタレート支持体、ポリアミド支持体およびポリエチレンテレフタレート支持体が好ましい。ポリエチレンナフタレート支持体とは、少なくともポリエチレンナフタレート層を含む支持体を意味し、単層または二層以上のポリエチレンナフタレート層からなるものとポリエチレンナフタレート層に加えて一層以上の他の層を含むものとが包含される。この点は、他の支持体についても同様である。また、ポリアミドは、芳香族骨格および/または脂肪族骨格を含むものであることができ、芳香族骨格を含むポリアミド(芳香族ポリアミド)が好ましく、アラミドがより好ましい。支持体には、あらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理等を行ってもよい。
【0028】
(磁性層)
強磁性粉末
磁性層は、強磁性粉末および結合剤を含む。磁性層に含まれる強磁性粉末としては、各種磁気記録媒体の磁性層において用いられる強磁性粉末として公知の強磁性粉末を使用することができる。強磁性粉末として平均粒子サイズの小さいものを使用することは記録密度向上の観点から好ましい。この点から、強磁性粉末の平均粒子サイズは50nm以下であることが好ましく、45nm以下であることがより好ましく、40nm以下であることが更に好ましく、35nm以下であることが一層好ましく、30nm以下であることがより一層好ましく、25nm以下であることが更に一層好ましく、20nm以下であることがなお一層好ましい。一方、磁化の安定性の観点からは、強磁性粉末の平均粒子サイズは5nm以上であることが好ましく、8nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることが更に好ましく、15nm以上であることが一層好ましく、20nm以上であることがより一層好ましい。
【0029】
-六方晶フェライト粉末-
強磁性粉末の好ましい具体例としては、六方晶フェライト粉末を挙げることができる。六方晶フェライト粉末の詳細については、例えば、特開2011-225417号公報の段落0012~0030、特開2011-216149号公報の段落0134~0136、特開2012-204726号公報の段落0013~0030および特開2015-127985号公報の段落0029~0084を参照できる。
【0030】
本発明および本明細書において、「六方晶フェライト粉末」とは、X線回折分析によって、主相として六方晶フェライト型の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。主相とは、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが帰属する構造をいう。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが六方晶フェライト型の結晶構造に帰属される場合、六方晶フェライト型の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。X線回折分析によって単一の構造のみが検出された場合には、この検出された構造を主相とする。六方晶フェライト型の結晶構造は、構成原子として、少なくとも鉄原子、二価金属原子および酸素原子を含む。二価金属原子とは、イオンとして二価のカチオンになり得る金属原子であり、ストロンチウム原子、バリウム原子、カルシウム原子等のアルカリ土類金属原子、鉛原子等を挙げることができる。本発明および本明細書において、六方晶ストロンチウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がストロンチウム原子であるものをいい、六方晶バリウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がバリウム原子であるものをいう。主な二価金属原子とは、この粉末に含まれる二価金属原子の中で、原子%基準で最も多くを占める二価金属原子をいうものとする。ただし、上記の二価金属原子には、希土類原子は包含されないものとする。本発明および本明細書における「希土類原子」は、スカンジウム原子(Sc)、イットリウム原子(Y)、およびランタノイド原子からなる群から選択される。ランタノイド原子は、ランタン原子(La)、セリウム原子(Ce)、プラセオジム原子(Pr)、ネオジム原子(Nd)、プロメチウム原子(Pm)、サマリウム原子(Sm)、ユウロピウム原子(Eu)、ガドリニウム原子(Gd)、テルビウム原子(Tb)、ジスプロシウム原子(Dy)、ホルミウム原子(Ho)、エルビウム原子(Er)、ツリウム原子(Tm)、イッテルビウム原子(Yb)、およびルテチウム原子(Lu)からなる群から選択される。
【0031】
以下に、六方晶フェライト粉末の一態様である六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、更に詳細に説明する。
【0032】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、好ましくは800~1500nm3の範囲である。上記範囲の活性化体積を示す微粒子化された六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、優れた電磁変換特性を発揮する磁気テープの作製のために好適である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、好ましくは800nm3以上であり、例えば850nm3以上であることもできる。また、電磁変換特性の更なる向上の観点から、六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、1400nm3以下であることがより好ましく、1300nm3以下であることが更に好ましく、1200nm3以下であることが一層好ましく、1100nm3以下であることがより一層好ましい。
【0033】
「活性化体積」とは、磁化反転の単位であって、粒子の磁気的な大きさを示す指標である。本発明および本明細書に記載の活性化体積および後述の異方性定数Kuは、振動試料型磁束計を用いて保磁力Hc測定部の磁場スイープ速度3分と30分とで測定し(測定温度:23℃±1℃)、以下のHcと活性化体積Vとの関係式から求められる値である。なお異方性定数Kuの単位に関して、1erg/cc=1.0×10-1J/m3である。
Hc=2Ku/Ms{1-[(kT/KuV)ln(At/0.693)]1/2
[上記式中、Ku:異方性定数(単位:J/m3)、Ms:飽和磁化(単位:kA/m)、k:ボルツマン定数、T:絶対温度(単位:K)、V:活性化体積(単位:cm3)、A:スピン歳差周波数(単位:s-1)、t:磁界反転時間(単位:s)]
【0034】
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、好ましくは1.8×105J/m3以上のKuを有することができ、より好ましくは2.0×105J/m3以上のKuを有することができる。また、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のKuは、例えば2.5×105J/m3以下であることができる。ただしKuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
【0035】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含んでいてもよく、含まなくてもよい。六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、鉄原子100原子%に対して、0.5~5.0原子%の含有率(バルク含有率)で希土類原子を含むことが好ましい。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一態様では、希土類原子表層部偏在性を有することができる。本発明および本明細書における「希土類原子表層部偏在性」とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により部分溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子表層部含有率」または希土類原子に関して単に「表層部含有率」と記載する。)が、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により全溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子バルク含有率」または希土類原子に関して単に「バルク含有率」と記載する。)と、
希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0
の比率を満たすことを意味する。後述の六方晶フェライト粉末の希土類原子含有率とは、希土類原子バルク含有率と同義である。これに対し、酸を用いる部分溶解は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部を溶解するため、部分溶解により得られる溶解液中の希土類原子含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部における希土類原子含有率である。希土類原子表層部含有率が、「希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0」の比率を満たすことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。本発明および本明細書における表層部とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面から内部に向かう一部領域を意味する。
【0036】
六方晶フェライト粉末が希土類原子を含む場合、希土類原子含有率(バルク含有率)は、鉄原子100原子%に対して0.5~5.0原子%の範囲であることが好ましい。上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることは、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することに寄与すると考えられる。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末が上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることにより、異方性定数Kuを高めることができるためと推察される。異方性定数Kuは、この値が高いほど、いわゆる熱揺らぎと呼ばれる現象の発生を抑制すること(換言すれば熱的安定性を向上させること)ができる。熱揺らぎの発生が抑制されることにより、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の粒子表層部に希土類原子が偏在することが、表層部の結晶格子内の鉄(Fe)のサイトのスピンを安定化することに寄与し、これにより異方性定数Kuが高まるのではないかと推察される。
また、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末を磁性層の強磁性粉末として用いることは、磁気ヘッドとの摺動によって磁性層表面が削れることを抑制することにも寄与すると推察される。即ち、磁気テープの走行耐久性の向上にも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末が寄与し得ると推察される。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面に希土類原子が偏在することが、粒子表面と磁性層に含まれる有機物質(例えば、結合剤および/または添加剤)との相互作用の向上に寄与し、その結果、磁性層の強度が向上するためではないかと推察される。
繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点および/または走行耐久性の更なる向上の観点からは、希土類原子含有率(バルク含有率)は、0.5~4.5原子%の範囲であることがより好ましく、1.0~4.5原子%の範囲であることが更に好ましく、1.5~4.5原子%の範囲であることが一層好ましい。
【0037】
上記バルク含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる含有率である。なお本発明および本明細書において、特記しない限り、原子について含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められるバルク含有率をいうものとする。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子として一種の希土類原子のみ含んでもよく、二種以上の希土類原子を含んでもよい。二種以上の希土類原子を含む場合の上記バルク含有率とは、二種以上の希土類原子の合計について求められる。この点は、本発明および本明細書における他の成分についても同様である。即ち、特記しない限り、ある成分は、一種のみ用いてもよく、二種以上用いてもよい。二種以上用いられる場合の含有量または含有率とは、二種以上の合計についていうものとする。
【0038】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、含まれる希土類原子は、希土類原子のいずれか一種以上であればよい。繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点から好ましい希土類原子としては、ネオジム原子、サマリウム原子、イットリウム原子およびジスプロシウム原子を挙げることができ、ネオジム原子、サマリウム原子およびイットリウム原子がより好ましく、ネオジム原子が更に好ましい。
【0039】
希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、偏在の程度は限定されるものではない。例えば、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は1.0超であり、1.5以上であることができる。「表層部含有率/バルク含有率」が1.0より大きいことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。また、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は、例えば、10.0以下、9.0以下、8.0以下、7.0以下、6.0以下、5.0以下、または4.0以下であることができる。ただし、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、上記の「表層部含有率/バルク含有率」は、例示した上限または下限に限定されるものではない。
【0040】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の部分溶解および全溶解について、以下に説明する。粉末として存在している六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、部分溶解および全溶解する試料粉末は、同一ロットの粉末から採取する。一方、磁気テープの磁性層に含まれている六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、磁性層から取り出した六方晶ストロンチウムフェライト粉末の一部を部分溶解に付し、他の一部を全溶解に付す。磁性層からの六方晶ストロンチウムフェライト粉末の取り出しは、例えば、特開2015-91747号公報の段落0032に記載の方法によって行うことができる。
上記部分溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認できる程度に溶解することをいう。例えば、部分溶解により、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子について、粒子全体を100質量%として10~20質量%の領域を溶解することができる。一方、上記全溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認されない状態まで溶解することをいう。
上記部分溶解および表層部含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。ただし、下記の試料粉末量等の溶解条件は例示であって、部分溶解および全溶解が可能な溶解条件を任意に採用できる。
試料粉末12mgおよび1mol/L塩酸10mlを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度70℃のホットプレート上で1時間保持する。得られた溶解液を0.1μmのメンブレンフィルタでろ過する。こうして得られたろ液の元素分析を誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)分析装置によって行う。こうして、鉄原子100原子%に対する希土類原子の表層部含有率を求めることができる。元素分析により複数種の希土類原子が検出された場合には、全希土類原子の合計含有率を、表層部含有率とする。この点は、バルク含有率の測定においても、同様である。
一方、上記全溶解およびバルク含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。
試料粉末12mgおよび4mol/L塩酸10mlを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度80℃のホットプレート上で3時間保持する。その後は上記の部分溶解および表層部含有率の測定と同様に行い、鉄原子100原子%に対するバルク含有率を求めることができる。
【0041】
磁気テープに記録された情報を再生する際の再生出力を高める観点から、磁気テープに含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、希土類原子を含むものの希土類原子表層部偏在性を持たない六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含まない六方晶ストロンチウムフェライト粉末と比べてσsが大きく低下する傾向が見られた。これに対し、そのようなσsの大きな低下を抑制するうえでも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末は好ましいと考えられる。一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のσsは、45A・m2/kg以上であることができ、47A・m2/kg以上であることもできる。一方、σsは、ノイズ低減の観点からは、80A・m2/kg以下であることが好ましく、60A・m2/kg以下であることがより好ましい。σsは、振動試料型磁束計等の磁気特性を測定可能な公知の測定装置を用いて測定することができる。本発明および本明細書において、特記しない限り、質量磁化σsは、磁場強度1194kA/m(15kOe)で測定される値とする。
【0042】
六方晶フェライト粉末の構成原子の含有率(バルク含有率)に関して、ストロンチウム原子含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば2.0~15.0原子%の範囲であることができる。一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、この粉末に含まれる二価金属原子がストロンチウム原子のみであることができる。また他の一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、ストロンチウム原子に加えて一種以上の他の二価金属原子を含むこともできる。例えば、バリウム原子および/またはカルシウム原子を含むことができる。ストロンチウム原子以外の他の二価金属原子が含まれる場合、六方晶ストロンチウムフェライト粉末におけるバリウム原子含有率およびカルシウム原子含有率は、それぞれ、例えば、鉄原子100原子%に対して、0.05~5.0原子%の範囲であることができる。
【0043】
六方晶フェライトの結晶構造としては、マグネトプランバイト型(「M型」とも呼ばれる。)、W型、Y型およびZ型が知られている。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、いずれの結晶構造を取るものであってもよい。結晶構造は、X線回折分析によって確認することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によって、単一の結晶構造または二種以上の結晶構造が検出されるものであることができる。例えば一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によってM型の結晶構造のみが検出されるものであることができる。例えば、M型の六方晶フェライトは、AFe1219の組成式で表される。ここでAは二価金属原子を表し、六方晶ストロンチウムフェライト粉末がM型である場合、Aはストロンチウム原子(Sr)のみであるか、またはAとして複数の二価金属原子が含まれる場合には、上記の通り原子%基準で最も多くをストロンチウム原子(Sr)が占める。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の二価金属原子含有率は、通常、六方晶フェライトの結晶構造の種類により定まるものであり、特に限定されるものではない。鉄原子含有率および酸素原子含有率についても、同様である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、少なくとも、鉄原子、ストロンチウム原子および酸素原子を含み、更に希土類原子を含むこともできる。更に、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、これら原子以外の原子を含んでもよく、含まなくてもよい。一例として、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、アルミニウム原子(Al)を含むものであってもよい。アルミニウム原子の含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば0.5~10.0原子%であることができる。繰り返し再生における再生出力低下をより一層抑制する観点からは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子を含み、これら原子以外の原子の含有率が、鉄原子100原子%に対して、10.0原子%以下であることが好ましく、0~5.0原子%の範囲であることがより好ましく、0原子%であってもよい。即ち、一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子以外の原子を含まなくてもよい。上記の原子%で表示される含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる各原子の含有率(単位:質量%)を、各原子の原子量を用いて原子%表示の値に換算して求められる。また、本発明および本明細書において、ある原子について「含まない」とは、全溶解してICP分析装置により測定される含有率が0質量%であることをいう。ICP分析装置の検出限界は、通常、質量基準で0.01ppm(parts per million)以下である。上記の「含まない」とは、ICP分析装置の検出限界未満の量で含まれることを包含する意味で用いるものとする。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一態様では、ビスマス原子(Bi)を含まないものであることができる。
【0044】
-金属粉末-
強磁性粉末の好ましい具体例としては、強磁性金属粉末を挙げることもできる。強磁性金属粉末の詳細については、例えば特開2011-216149号公報の段落0137~0141および特開2005-251351号公報の段落0009~0023を参照できる。
【0045】
-ε-酸化鉄粉末-
強磁性粉末の好ましい具体例としては、ε-酸化鉄粉末を挙げることもできる。本発明および本明細書において、「ε-酸化鉄粉末」とは、X線回折分析によって、主相としてε-酸化鉄型の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークがε-酸化鉄型の結晶構造に帰属される場合、ε-酸化鉄型の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。ε-酸化鉄粉末の製造方法としては、ゲーサイトから作製する方法、逆ミセル法等が知られている。上記製造方法は、いずれも公知である。また、Feの一部がGa、Co、Ti、Al、Rh等の置換原子によって置換されたε-酸化鉄粉末を製造する方法については、例えば、J. Jpn. Soc. Powder Metallurgy Vol. 61 Supplement, No. S1, pp. S280-S284、J. Mater. Chem. C, 2013, 1, pp.5200-5206等を参照できる。ただし、上記磁気テープの磁性層において強磁性粉末として使用可能なε-酸化鉄粉末の製造方法は、ここで挙げた方法に限定されない。
【0046】
ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、好ましくは300~1500nm3の範囲である。上記範囲の活性化体積を示す微粒子化されたε-酸化鉄粉末は、優れた電磁変換特性を発揮する磁気テープの作製のために好適である。ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、好ましくは300nm3以上であり、例えば500nm3以上であることもできる。また、電磁変換特性の更なる向上の観点から、ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、1400nm3以下であることがより好ましく、1300nm3以下であることが更に好ましく、1200nm3以下であることが一層好ましく、1100nm3以下であることがより一層好ましい。
【0047】
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。ε-酸化鉄粉末は、好ましくは3.0×104J/m3以上のKuを有することができ、より好ましくは8.0×104J/m3以上のKuを有することができる。また、ε-酸化鉄粉末のKuは、例えば3.0×105J/m3以下であることができる。ただしKuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し、好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
【0048】
磁気テープに記録された情報を再生する際の再生出力を高める観点から、磁気テープに含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、一態様では、ε-酸化鉄粉末のσsは、8A・m2/kg以上であることができ、12A・m2/kg以上であることもできる。一方、ε-酸化鉄粉末のσsは、ノイズ低減の観点からは、40A・m2/kg以下であることが好ましく、35A・m2/kg以下であることがより好ましい。
【0049】
本発明および本明細書において、特記しない限り、強磁性粉末等の各種粉末の平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡を用いて、以下の方法により測定される値とする。
粉末を、透過型電子顕微鏡を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粉末を構成する粒子の写真を得る。得られた粒子の写真から目的の粒子を選びデジタイザーで粒子の輪郭をトレースし粒子(一次粒子)のサイズを測定する。一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。
以上の測定を、無作為に抽出した500個の粒子について行う。こうして得られた500個の粒子の粒子サイズの算術平均を、粉末の平均粒子サイズとする。上記透過型電子顕微鏡としては、例えば日立製透過型電子顕微鏡H-9000型を用いることができる。また、粒子サイズの測定は、公知の画像解析ソフト、例えばカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて行うことができる。後述の実施例に示す平均粒子サイズは、特記しない限り、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H-9000型、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて測定された値である。本発明および本明細書において、粉末とは、複数の粒子の集合を意味する。例えば、強磁性粉末とは、複数の強磁性粒子の集合を意味する。また、複数の粒子の集合とは、集合を構成する粒子が直接接触している態様に限定されず、後述する結合剤、添加剤等が、粒子同士の間に介在している態様も包含される。粒子との語が、粉末を表すために用いられることもある。
【0050】
粒子サイズ測定のために磁気テープから試料粉末を採取する方法としては、例えば特開2011-048878号公報の段落0015に記載の方法を採用することができる。
【0051】
本発明および本明細書において、特記しない限り、粉末を構成する粒子のサイズ(粒子サイズ)は、上記の粒子写真において観察される粒子の形状が、
(1)針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粒子を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、
(2)板状または柱状(ただし、厚みまたは高さが板面または底面の最大長径より小さい)の場合は、その板面または底面の最大長径で表され、
(3)球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粒子を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
【0052】
また、粉末の平均針状比は、上記測定において粒子の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粒子の(長軸長/短軸長)の値を求め、上記500個の粒子について得た値の算術平均を指す。ここで、特記しない限り、短軸長とは、上記粒子サイズの定義で(1)の場合は、粒子を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚みまたは高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、特記しない限り、粒子の形状が特定の場合、例えば、上記粒子サイズの定義(1)の場合、平均粒子サイズは平均長軸長であり、同定義(2)の場合、平均粒子サイズは平均板径である。同定義(3)の場合、平均粒子サイズは、平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)である。
【0053】
磁性層における強磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。磁性層の強磁性粉末以外の成分は、少なくとも結合剤であり、任意に一種以上の更なる添加剤が含まれ得る。磁性層において強磁性粉末の充填率が高いことは、記録密度向上の観点から好ましい。
【0054】
結合剤、硬化剤
上記磁気テープは塗布型磁気テープであって、磁性層に結合剤を含む。結合剤は、一種以上の樹脂である。結合剤としては、塗布型磁気記録媒体の結合剤として通常使用される各種樹脂を用いることができる。例えば、結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を共重合したアクリル樹脂、ニトロセルロース等のセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルキラール樹脂等から選ばれる樹脂を単独で用いるか、または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、および塩化ビニル樹脂である。これらの樹脂は、ホモポリマーでもよく、コポリマー(共重合体)でもよい。これらの樹脂は、後述する非磁性層および/またはバックコート層においても結合剤として使用することができる。
以上の結合剤については、特開2010-24113号公報の段落0028~0031を参照できる。結合剤として使用される樹脂の平均分子量は、重量平均分子量として、例えば10,000以上200,000以下であることができる。本発明および本明細書における重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、下記測定条件により測定された値をポリスチレン換算して求められる値である。後述の実施例に示す結合剤の重量平均分子量は、下記測定条件によって測定された値をポリスチレン換算して求めた値である。
GPC装置:HLC-8120(東ソー社製)
カラム:TSK gel Multipore HXL-M(東ソー社製、7.8mmID(Inner Diameter)×30.0cm)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
【0055】
また、結合剤として使用可能な樹脂とともに硬化剤を使用することもできる。硬化剤は、一態様では加熱により硬化反応(架橋反応)が進行する化合物である熱硬化性化合物であることができ、他の一態様では光照射により硬化反応(架橋反応)が進行する光硬化性化合物であることができる。硬化剤は、磁性層形成工程の中で硬化反応が進行することにより、少なくとも一部は、結合剤等の他の成分と反応(架橋)した状態で磁性層に含まれ得る。この点は、他の層を形成するために用いられる組成物が硬化剤を含む場合に、この組成物を用いて形成される層についても同様である。好ましい硬化剤は、熱硬化性化合物であり、ポリイソシアネートが好適である。ポリイソシアネートの詳細については、特開2011-216149号公報の段落0124~0125を参照できる。磁性層形成用組成物の硬化剤の含有量は、結合剤100.0質量部に対して例えば0~80.0質量部であることができ、磁性層の強度向上の観点からは50.0~80.0質量部であることができる。
【0056】
添加剤
磁性層には、強磁性粉末および結合剤が含まれ、必要に応じて一種以上の添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、一例として、上記の硬化剤が挙げられる。また、磁性層に含まれる添加剤としては、非磁性粉末(例えば無機粉末、カーボンブラック等)、潤滑剤、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤等を挙げることができる。例えば、潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030~0033、0035および0036を参照できる。後述する非磁性層に潤滑剤が含まれていてもよい。非磁性層に含まれ得る潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030~0031、0034、0035および0036を参照できる。分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061および0071を参照できる。分散剤を非磁性層形成用組成物に添加してもよい。非磁性層形成用組成物に添加し得る分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061を参照できる。また、磁性層に含まれ得る非磁性粉末としては、研磨剤として機能することができる非磁性粉末、磁性層表面に適度に突出する突起を形成する突起形成剤として機能することができる非磁性粉末(例えば非磁性コロイド粒子等)等が挙げられる。なお後述の実施例に示すコロイダルシリカ(シリカコロイド粒子)の平均粒子サイズは、特開2011-048878号公報の段落0015に平均粒径の測定方法として記載されている方法により求められた値である。添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して、または公知の方法で製造して、任意の量で使用することができる。研磨剤を含む磁性層に研磨剤の分散性を向上するために使用され得る添加剤の一例としては、特開2013-131285号公報の段落0012~0022に記載の分散剤を挙げることができる。
【0057】
以上説明した磁性層は、非磁性支持体表面上に直接、または非磁性層を介して間接的に、設けることができる。
【0058】
(非磁性層)
次に非磁性層について説明する。上記磁気テープは、非磁性支持体表面上に直接磁性層を有していてもよく、非磁性支持体表面上に非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層を介して磁性層を有していてもよい。非磁性層に使用される非磁性粉末は、無機粉末でも有機粉末でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機粉末としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の粉末が挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2011-216149号公報の段落0146~0150を参照できる。非磁性層に使用可能なカーボンブラックについては、特開2010-24113号公報の段落0040~0041も参照できる。非磁性層における非磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。
【0059】
非磁性層の結合剤、添加剤等のその他詳細は、非磁性層に関する公知技術が適用できる。また、例えば、結合剤の種類および含有量、添加剤の種類および含有量等に関しては、磁性層に関する公知技術も適用できる。
【0060】
本発明および本明細書において、非磁性層には、非磁性粉末とともに、例えば不純物として、または意図的に、少量の強磁性粉末を含む実質的に非磁性な層も包含されるものとする。ここで実質的に非磁性な層とは、この層の残留磁束密度が10mT以下であるか、保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であるか、または、残留磁束密度が10mT以下であり、かつ保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下である層をいうものとする。非磁性層は、残留磁束密度および保磁力を持たないことが好ましい。
【0061】
(バックコート層)
上記磁気テープは、非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末および結合剤を含むバックコート層を有することもできる。バックコート層には、カーボンブラックおよび無機粉末のいずれか一方または両方が含有されていることが好ましい。バックコート層に含まれる結合剤および任意に含まれ得る各種添加剤については、バックコート層に関する公知技術を適用することができ、磁性層および/または非磁性層の処方に関する公知技術を適用することもできる。例えば、特開2006-331625号公報の段落0018~0020および米国特許第7,029,774号明細書の第4欄65行目~第5欄38行目の記載を、バックコート層について参照できる。
【0062】
(各種厚み)
上記磁気テープの厚み(総厚)については、先に記載した通りである。
非磁性支持体の厚みは、好ましくは3.0~5.0μmである。
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量、ヘッドギャップ長、記録信号の帯域等により最適化することができ、一般には0.01μm~0.15μmであり、高密度記録化の観点から、好ましくは0.02μm~0.12μmであり、更に好ましくは0.03μm~0.1μmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する二層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。二層以上に分離する場合の磁性層の厚みとは、これらの層の合計厚みとする。
非磁性層の厚みは、例えば0.1~1.5μmであり、0.1~1.0μmであることが好ましい。
バックコート層の厚みは、0.9μm以下が好ましく、0.1~0.7μmが更に好ましい。
【0063】
<製造工程>
(各層形成用組成物の調製)
磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための組成物を調製する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程を含む。個々の工程はそれぞれ二段階以上に分かれていてもかまわない。各層形成用組成物の調製に用いられる成分は、どの工程の最初または途中で添加してもかまわない。溶媒としては、塗布型磁気記録媒体の製造に通常用いられる各種溶媒の一種または二種以上を用いることができる。溶媒については、例えば特開2011-216149号公報の段落0153を参照できる。また、個々の成分を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、結合剤を混練工程、分散工程および分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。上記磁気テープを製造するためには、公知の製造技術を各種工程において用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダ等の強い混練力をもつものを使用することが好ましい。混練処理の詳細については、特開平1-106338号公報および特開平1-79274号公報を参照できる。分散機は公知のものを使用することができる。各層形成用組成物を調製する任意の段階において、公知の方法によってろ過を行ってもよい。ろ過は、例えばフィルタろ過によって行うことができる。ろ過に用いるフィルタとしては、例えば孔径0.01~3μmのフィルタ(例えばガラス繊維製フィルタ、ポリプロピレン製フィルタ等)を用いることができる。
【0064】
(塗布工程)
磁性層は、磁性層形成用組成物を、非磁性支持体表面上に直接塗布するか、または非磁性層形成用組成物と逐次もしくは同時に重層塗布することにより形成することができる。バックコート層は、バックコート層形成用組成物を、非磁性支持体の非磁性層および/または磁性層を有する(または非磁性層および/または磁性層が追って設けられる)表面とは反対側の表面に塗布することにより形成することができる。各層形成のための塗布の詳細については、特開2010-231843号公報の段落0066を参照できる。
【0065】
(その他の工程)
磁気テープの製造のためのその他の各種工程については、公知技術を適用できる。各種工程については、例えば特開2010-231843号公報の段落0067~0070を参照できる。例えば、磁性層形成用組成物の塗布層には、この塗布層が湿潤(未乾燥)状態にあるうちに配向処理を施すことができる。配向処理については、特開2010-231843号公報の段落0067の記載をはじめとする各種公知技術を適用することができる。
各種工程を経ることによって、長尺状の磁気テープ原反を得ることができる。得られた磁気テープ原反は、公知の裁断機によって、磁気テープカートリッジに巻装すべき磁気テープの幅に裁断(スリット)される。上記の幅は規格にしたがい決定され、通常、1/2インチ(0.0127メートル)である。
スリットして得られた磁気テープには、磁気テープ装置(ドライブ)においてヘッドトラッキングサーボを行うことを可能とするために、公知の方法によってサーボパターンを形成することもできる。例えば、サーボパターンの形成は、DC(Direct Current)消磁した磁性層に対して行うことができる。消磁の方向は、磁気テープの長手方向または垂直方向であることができる。また、サーボパターン(即ち磁化領域)を形成する際の磁化の方向は、磁気テープの長手方向または垂直方向であることができる。
【0066】
(熱処理)
先に記載したように、記録から再生までの間に磁気テープカートリッジ内で経時的に生じ得る変形を予め発生させておくことにより、テープ幅差(B-A)を上記範囲内に制御することができる。そのためには、上記の幅に裁断された磁気テープを、芯状部材に巻き付け、巻き付けた状態で熱処理することが好ましい。この熱処理により、記録から再生までの間に磁気テープカートリッジ内でリールに巻かれた磁気テープに経時的に生じ得る変形を予め発生させることができる。
【0067】
一態様では、熱処理用の芯状部材(以下、「熱処理用巻芯」と呼ぶ。)に磁気テープを巻き付けた状態で上記熱処理を行い、熱処理後の磁気テープを磁気テープカートリッジのリールに巻き取り、磁気テープがリールに巻装された磁気テープカートリッジを作製することができる。
熱処理用巻芯は、金属製、樹脂製、紙製等であることができる。熱処理用巻芯の材料は、スポーキング等の巻き故障の発生を抑制する観点から、剛性が高い材料であることが好ましい。この点から、熱処理用巻芯は、金属製または樹脂製であることが好ましい。また、剛性の指標として、熱処理用巻芯の材料の曲げ弾性率は0.2GPa以上が好ましく、0.3GPa以上がより好ましい。他方、高剛性の材料は一般に高価であるため、巻き故障の発生を抑制できる剛性を超える剛性を有する材料の熱処理用巻芯を用いることはコスト増につながる。以上の点を考慮すると、熱処理用巻芯の材料の曲げ弾性率は250GPa以下が好ましい。曲げ弾性率は、ISO(International Organization for Standardization)178にしたがい測定される値であり、各種材料の曲げ弾性率は公知である。また、熱処理用巻芯は中実または中空の芯状部材であることができる。中空状の場合、剛性を維持する観点から、肉厚は2mm以上であることが好ましい。また、熱処理用巻芯は、フランジを有していてもよく、有さなくてもよい。
熱処理用巻芯に巻き付ける磁気テープとして最終的に磁気テープカートリッジに収容する長さ(以下、「最終製品長」と呼ぶ。)以上の磁気テープを準備し、この磁気テープを熱処理用巻芯に巻き付けた状態で熱処理環境下に置くことにより熱処理を行うことが好ましい。熱処理用巻芯に巻き付ける磁気テープ長は最終製品長以上であり、熱処理用巻芯等への巻き取りの容易性の観点からは、「最終製品長さ+α」とすることが好ましい。このαは、上記の巻き取りの容易性の観点からは5m以上であることが好ましい。熱処理用巻芯への巻き取り時のテンションは、巻き取りの容易性、熱処理によりテープ幅差(B-A)を調整する容易性および製造適性の観点から、0.1N(ニュートン)以上が好ましい。また、過度な変形が発生することを抑制する観点から、熱処理用巻芯への巻き取り時のテンションは1.5N以下が好ましく、1.0N以下がより好ましい。熱処理用巻芯の外径は、巻き付けの容易性およびコイリング(長手方向のカール)の抑制の観点から、20mm以上が好ましく、40mm以上がより好ましい。一方、テープ幅差(B-A)を上記範囲に調整する容易性の観点からは、熱処理用巻芯の外径は100mm以下が好ましく、90mm以下がより好ましい。熱処理用巻芯の幅は、この巻芯に巻き付ける磁気テープの幅以上であればよい。また、熱処理後、熱処理用巻芯から磁気テープを取り外す際には、取り外す操作中に意図しないテープ変形が生じることを抑制するために、磁気テープおよび熱処理用巻芯が十分冷却された後に磁気テープを熱処理用巻芯から取り外すことが好ましい。取り外した磁気テープは、一度別の巻芯(「一時巻き取り用巻芯」と呼ぶ。)に巻き取り、その後、一時巻き取り用巻芯から磁気テープカートリッジのリール(一般に外径は40~50mm程度)へ磁気テープを巻き取ることが好ましい。これにより、熱処理時の磁気テープの熱処理用巻芯に対する内側と外側との関係を維持して、磁気テープカートリッジのリールへ磁気テープを巻き取ることができる。一時巻き取り用巻芯の詳細およびこの巻芯へ磁気テープを巻き取る際のテンションについては、熱処理用巻芯に関する上記記載を参照できる。上記熱処理を「最終製品長さ+α」の長さの磁気テープに施す態様においては、任意の段階で、「+α」の長さ分を切り取ればよい。例えば、一態様では、一時巻き取り用巻芯から磁気テープカートリッジのリールへ最終製品長さ分の磁気テープを巻き取り、残りの「+α」の長さ分を切り取ればよい。切り取って廃棄される部分を少なくする観点からは、上記αは20m以下であることが好ましい。
【0068】
上記のように芯状部材に巻き付けた状態で行われる熱処理の具体的態様について、以下に説明する。
熱処理を行う雰囲気温度(以下、「熱処理温度」と呼ぶ。)は、40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。一方、過度な変形を抑制する観点からは、熱処理温度は75℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、65℃以下が更に好ましい。
熱処理を行う雰囲気の重量絶対湿度は、0.1g/kg Dry air以上が好ましく、1g/kg Dry air以上がより好ましい。重量絶対湿度が上記範囲の雰囲気は、水分を低減するための特殊な装置を用いずに準備できるため好ましい。一方、重量絶対湿度は、結露が生じて作業性が低下することを抑制する観点からは、70g/kg Dry air以下が好ましく、66g/kg Dry air以下がより好ましい。熱処理時間は、0.3時間以上が好ましく、0.5時間以上がより好ましい。また、熱処理時間は、生産効率の観点からは、48時間以下が好ましい。
【0069】
以上説明したように熱処理を行うことによって、磁気テープカートリッジ製造日から100日目の値としてテープ幅差(B-A)が2.4μm以上12.0μm以下の磁気テープを備えた磁気テープカートリッジを作製することができる。上記熱処理が行われた磁気テープのテープ幅は、テープ外側末端から内側末端に向かって徐々に広くなることが通常である。したがって、テープ幅Aの測定位置とテープ幅Bの測定位置の間の任意の位置から採取したテープサンプルについてテープ幅を測定すると、磁気テープカートリッジ製造日から100日目の値として、テープ幅A超テープ幅B未満の値となることが通常である。
【0070】
即ち、一態様によれば、本発明の一態様にかかる磁気テープカートリッジの製造方法を提供することができる。かかる製造方法では、磁気テープ原反から等幅の磁気テープを切り出し、切り出された磁気テープを芯状部材に巻き付けた状態で熱処理することによって、磁気テープに、磁気テープカートリッジ製造日から100日目の値としてテープ幅差(B-A)が2.4μm以上12.0μm以下となる変形を生じさせることができる。上記製造方法の詳細は、先に記載した通りである。
【0071】
一態様では、上記磁気テープカートリッジの出荷日(製造工場から製品として出荷される日)は、磁気テープカートリッジ製造日から100日目までの期間内のいずれかの日であることができる。上記期間内に出荷された上記磁気テープカートリッジは、出荷後早期に使用されても再生エラーの発生を抑制することが可能である。磁気テープカートリッジを磁気テープカートリッジ製造日から100日目までの間に出荷することは、長期間の在庫保管を要さない点で好ましい。
【0072】
上記磁気テープカートリッジは、磁気ヘッドを備えた磁気テープ装置に装着させ、情報の記録および/または再生を行うために用いることができる。本発明および本明細書において、「磁気テープ装置」とは、磁気テープへの情報の記録および磁気テープに記録された情報の再生の少なくとも一方を行うことができる装置を意味するものとする。かかる装置は、一般にドライブと呼ばれる。上記磁気テープ装置に含まれる磁気ヘッドは、磁気テープへの情報の記録を行うことができる記録ヘッドであることができ、磁気テープに記録された情報の再生を行うことができる再生ヘッドであることもできる。また、上記磁気テープ装置は、一態様では、別々の磁気ヘッドとして、記録ヘッドと再生ヘッドの両方を含むことができる。他の一態様では、上記磁気テープ装置に含まれる磁気ヘッドは、記録素子と再生素子の両方を1つの磁気ヘッドに備えた構成を有することもできる。再生ヘッドとしては、磁気テープに記録された情報を感度よく読み取ることができる磁気抵抗効果型(MR;Magnetoresistive)素子を再生素子として含む磁気ヘッド(MRヘッド)が好ましい。MRヘッドとしては、公知の各種MRヘッド(例えば、GMR(Giant Magnetoresistive)ヘッド、TMR(Tunnel Magnetoresistive)ヘッド等)を用いることができる。また、情報の記録および/または情報の再生を行う磁気ヘッドには、サーボパターン読み取り素子が含まれていてもよい。または、情報の記録および/または情報の再生を行う磁気ヘッドとは別のヘッドとして、サーボパターン読み取り素子を備えた磁気ヘッド(サーボヘッド)が上記磁気テープ装置に含まれていてもよい。
【0073】
上記磁気テープ装置において、磁気テープへの情報の記録および/または磁気テープに記録された情報の再生は、磁気テープの磁性層表面と磁気ヘッドとを接触させて摺動させることにより行うことができる。上記磁気テープ装置は、本発明の一態様にかかる磁気テープカートリッジを着脱可能に含むことができ、その他については公知技術を適用することができる。
【0074】
上記磁気テープ装置は、本発明の一態様にかかる磁気テープカートリッジを含む。したがって、磁気テープに記録された情報を再生する際に再生エラーが発生することを抑制することができる。
【実施例0075】
以下に、本発明の一態様を実施例に基づき説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。以下に記載の「部」、「%」の表示は、特に断らない限り、「質量部」、「質量%」を示す。「eq」は、当量(equivalent)であり、SI単位に換算不可の単位である。
また、以下の各種工程および操作は、特記しない限り、温度20~25℃および相対湿度40~60%の環境において行った。
【0076】
表1中、「BaFe」は六方晶バリウムフェライト粉末を示し、「SrFe」は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を示し、「ε-酸化鉄」はε-酸化鉄粉末を示し、「PEN」はポリエチレンナフタレート支持体を示し、「PA」は芳香族ポリアミド支持体を示し、「PET」はポリエチレンテレフタレート支持体を示す。
【0077】
[実施例1]
(1)アルミナ分散物の調製
アルファ化率約65%、BET(Brunauer-Emmett-Teller)比表面積20m2/gのアルミナ粉末(住友化学社製HIT-80)100.0部に対し、3.0部の2,3-ジヒドロキシナフタレン(東京化成社製)、極性基としてSO3Na基を有するポリエステルポリウレタン樹脂(東洋紡社製UR-4800(極性基量:80meq/kg))の32%溶液(溶媒はメチルエチルケトンとトルエンの混合溶媒)を31.3部、溶媒としてメチルエチルケトンとシクロヘキサノン1:1(質量比)の混合溶液570.0部を混合し、ジルコニアビーズ存在下で、ペイントシェーカーにより5時間分散させた。分散後、メッシュにより分散液とビーズとを分け、アルミナ分散物を得た。
【0078】
(2)磁性層形成用組成物処方
(磁性液)
強磁性粉末 100.0部
平均粒子サイズ(平均板径)21nmの六方晶バリウムフェライト粉末
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂 14.0部
重量平均分子量:70,000、SO3Na基:0.2meq/g
シクロヘキサノン 150.0部
メチルエチルケトン 150.0部
(研磨剤液)
上記(1)で調製したアルミナ分散物 6.0部
(シリカゾル(突起形成剤液))
コロイダルシリカ(平均粒子サイズ120nm) 2.0部
メチルエチルケトン 1.4部
(その他の成分)
ステアリン酸 2.0部
ステアリン酸アミド 0.2部
ブチルステアレート 2.0部
ポリイソシアネート(東ソー社製コロネート(登録商標)L) 2.5部
(仕上げ添加溶媒)
シクロヘキサノン 200.0部
メチルエチルケトン 200.0部
【0079】
(3)非磁性層形成用組成物処方
非磁性無機粉末:α-酸化鉄 100.0部
平均粒子サイズ(平均長軸長):0.15μm
平均針状比:7
BET比表面積:52m2/g
カーボンブラック 20.0部
平均粒子サイズ:20nm
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂 18.0部
重量平均分子量:70,000、SO3Na基:0.2meq/g
ステアリン酸 2.0部
ステアリン酸アミド 0.2部
ブチルステアレート 2.0部
シクロヘキサノン 300.0部
メチルエチルケトン 300.0部
【0080】
(4)バックコート層形成用組成物処方
カーボンブラック 100.0部
DBP(Dibutyl phthalate)吸油量74cm3/100g
ニトロセルロース 27.0部
スルホン酸基および/またはその塩を含有するポリエステルポリウレタン樹脂
62.0部
ポリエステル樹脂 4.0部
アルミナ粉末(BET比表面積:17m2/g) 0.6部
メチルエチルケトン 600.0部
トルエン 600.0部
ポリイソシアネート(東ソー社製コロネートL) 15.0部
【0081】
(5)各層形成用組成物の調製
磁性層形成用組成物を、以下の方法により調製した。上記磁性液を、各成分をバッチ式縦型サンドミルを用いて24時間分散(ビーズ分散)することにより調製した。分散ビーズとしては、ビーズ径0.5mmのジルコニアビーズを使用した。上記サンドミルを用いて、調製した磁性液および上記研磨剤液および他の成分(シリカゾル、その他の成分および仕上げ添加溶媒)と混合し5分間ビーズ分散した後、バッチ型超音波装置(20kHz、300W)で0.5分間処理(超音波分散)を行った。その後、0.5μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過を行い磁性層形成用組成物を調製した。
非磁性層形成用組成物を、以下の方法により調製した。潤滑剤(ステアリン酸、ステアリン酸アミドおよびブチルステアレート)を除く上記成分を、オープンニーダにより混練および希釈処理し、その後、横型ビーズミル分散機により分散処理を実施した。その後、潤滑剤(ステアリン酸、ステアリン酸アミドおよびブチルステアレート)を添加して、ディゾルバー撹拌機にて撹拌および混合処理を施して非磁性層形成用組成物を調製した。
バックコート層形成用組成物を、以下の方法により調製した。ポリイソシアネートを除く上記成分を、ディゾルバー撹拌機に導入し、周速10m/秒で30分間撹拌した後、横型ビーズミル分散機により分散処理を実施した。その後、ポリイソシアネートを添加して、ディゾルバー撹拌機にて撹拌および混合処理を施し、バックコート層形成用組成物を調製した。
【0082】
(6)磁気テープおよび磁気テープカートリッジの作製方法
表1に記載の種類および厚みの支持体の表面上に、乾燥後の厚みが表1に記載の厚みとなるように上記(5)で調製した非磁性層形成用組成物を塗布および乾燥させて非磁性層を形成した。次いで、非磁性層上に乾燥後の厚みが表1に記載の厚みとなるように上記(5)で調製した磁性層形成用組成物を塗布して塗布層を形成した。その後に、磁性層形成用組成物の塗布層が未乾燥状態にあるうちに、磁場強度0.3Tの磁場を塗布層の表面に対し垂直方向に印加して垂直配向処理を行った後、乾燥させ、磁性層を形成した。その後、表1に記載の支持体の非磁性層および磁性層を形成した表面とは反対側の表面に、乾燥後の厚みが表1に記載の厚みとなるように上記(5)で調製したバックコート層形成用組成物を塗布および乾燥させてバックコート層を形成した。
その後、金属ロールのみから構成されるカレンダロールを用いて、速度100m/分、線圧294kN/m(300kg/cm)、および90℃のカレンダ温度(カレンダロールの表面温度)にて、表面平滑化処理(カレンダ処理)を行った。
その後、長尺状の磁気テープ原反を雰囲気温度70℃の熱処理炉内に保管することにより熱処理を行った(熱処理時間:36時間)。熱処理後、1/2インチ(0.0127メートル)幅にスリットして、磁気テープを得た。得られた磁気テープの磁性層に市販のサーボライターによってサーボ信号を記録することにより、LTO(Linear-Tape-Open) Ultriumフォーマットにしたがう配置でデータバンド、サーボバンド、およびガイドバンドを有し、かつサーボバンド上にLTO Ultriumフォーマットにしたがう配置および形状のサーボパターン(タイミングベースサーボパターン)を有する磁気テープを得た。
上記サーボ信号記録後の磁気テープ(長さ960m)を熱処理用巻芯に巻き取り、この巻芯に巻き付けた状態で熱処理した。熱処理用巻芯としては、曲げ弾性率0.8GPaの樹脂製の中実状の芯状部材(外径:50mm)を使用し、巻き取り時のテンションは0.6Nとした。熱処理は、表1に示す熱処理温度で5時間行った。熱処理を行った雰囲気の重量絶対湿度は、10g/kg Dry airであった。
上記熱処理後、磁気テープおよび熱処理用巻芯が十分冷却された後に磁気テープを熱処理用巻芯から取り外し、一時巻き取り用巻芯に巻き取り、その後、一時巻き取り用巻芯から磁気テープカートリッジ(LTO Ultrium7データカートリッジ)のリール(リール外径:44mm)へ最終製品長さ分(950m)の磁気テープを巻き取り、残り10m分は切り取り、切り取り側の末端に、市販のスプライシングテープによって、Standard ECMA(European Computer Manufacturers Association)-319(June 2001) Section 3の項目9にしたがうリーダーテープを接合させた。一時巻き取り用巻芯としては、熱処理用巻芯と同じ材料製で同じ外径を有する中実状の芯状部材を使用し、巻き取り時のテンションは0.6Nとした。
以上により、長さ950mの磁気テープがリールに巻装された単リール型の実施例1の磁気テープカートリッジを作製した。
各実施例、各比較例および参考例について、磁気テープカートリッジを2つ作製し、一方は後述する評価に使用し、他方は後述する記録再生試験に使用した。各磁気テープカートリッジの内部のRFIDタグに、磁気テープを磁気テープカートリッジに収容した日付を磁気テープカートリッジ製造日(Date of Manufacturer)として記録した。
【0083】
[実施例2~6]
磁気テープを熱処理用巻芯に巻き付けた状態で行う熱処理を、表1に示す熱処理温度で行った点以外、実施例1と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
【0084】
[実施例7]
支持体として表1に示す支持体を使用し、磁気テープを熱処理用巻芯に巻き付けた状態で行う熱処理を、表1に示す熱処理温度で行った点以外、実施例1と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
【0085】
[実施例8]
磁気テープを熱処理用巻芯に巻き付けた状態で行う熱処理を、表1に示す熱処理温度で行った点以外、実施例7と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
【0086】
[実施例9]
支持体として表1に示す支持体を使用し、磁気テープを熱処理用巻芯に巻き付けた状態で行う熱処理を、表1に示す熱処理温度で行った点以外、実施例1と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
【0087】
[実施例10]
磁気テープを熱処理用巻芯に巻き付けた状態で行う熱処理を、表1に示す熱処理温度で行った点以外、実施例9と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
【0088】
[実施例11]
強磁性粉末を、以下に示す方法にて得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末に変更した以外、実施例1と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
(六方晶ストロンチウムフェライト粉末の作製方法)
SrCO3を1707g、H3BO3を687g、Fe23を1120g、Al(OH)3を45g、BaCO3を24g、CaCO3を13g、およびNd23を235g秤量し、ミキサーにて混合し原料混合物を得た。
得られた原料混合物を、白金ルツボで溶融温度1390℃で溶融し、融液を撹拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し、融液を約6g/秒で棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ローラーで圧延急冷して非晶質体を作製した。
作製した非晶質体280gを電気炉に仕込み、昇温速度3.5℃/分にて635℃(結晶化温度)まで昇温し、同温度で5時間保持して六方晶ストロンチウムフェライト粒子を析出(結晶化)させた。
次いで六方晶ストロンチウムフェライト粒子を含む上記で得られた結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、ガラス瓶に粒径1mmのジルコニアビーズ1000gと1%濃度の酢酸を800ml加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った。その後、得られた分散液をビーズと分離させステンレスビーカーに入れた。分散液を液温100℃で3時間静置させてガラス成分の溶解処理を行った後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、炉内温度110℃の加熱炉内で6時間乾燥させて六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の平均粒子サイズは18nm、活性化体積は902nm3、異方性定数Kuは2.2×105J/m3、質量磁化σsは49A・m2/kgであった。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって部分溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子の表層部含有率を求めた。
別途、上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって全溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子のバルク含有率を求めた。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の鉄原子100原子%に対するネオジム原子の含有率(バルク含有率)は、2.9原子%であった。また、ネオジム原子の表層部含有率は8.0原子%であった。表層部含有率とバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は2.8であり、ネオジム原子が粒子の表層に偏在していることが確認された。
【0089】
上記で得られた粉末が六方晶フェライトの結晶構造を示すことは、CuKα線を電圧45kVかつ強度40mAの条件で走査し、下記条件でX線回折パターンを測定すること(X線回折分析)により確認した。上記で得られた粉末は、マグネトプランバイト型(M型)の六方晶フェライトの結晶構造を示した。また、X線回折分析により検出された結晶相は、マグネトプランバイト型の単一相であった。
PANalytical X’Pert Pro回折計、PIXcel検出器
入射ビームおよび回折ビームのSollerスリット:0.017ラジアン
分散スリットの固定角:1/4度
マスク:10mm
散乱防止スリット:1/4度
測定モード:連続
1段階あたりの測定時間:3秒
測定速度:毎秒0.017度
測定ステップ:0.05度
【0090】
[実施例12]
強磁性粉末を、以下に示す方法にて得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末に変更した以外、実施例1と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
(六方晶ストロンチウムフェライト粉末の作製方法)
SrCO3を1725g、H3BO3を666g、Fe23を1332g、Al(OH)3を52g、CaCO3を34g、BaCO3を141g秤量し、ミキサーにて混合し原料混合物を得た。
得られた原料混合物を、白金ルツボで熔融温度1380℃で溶解し、融液を撹拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し、融液を約6g/秒で棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ロールで急冷圧延して非晶質体を作製した。
得られた非晶質体280gを電気炉に仕込み、645℃(結晶化温度)まで昇温し、同温度で5時間保持し六方晶ストロンチウムフェライト粒子を析出(結晶化)させた。
次いで六方晶ストロンチウムフェライト粒子を含む上記で得られた結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、ガラス瓶に粒径1mmのジルコニアビーズ1000gと1%濃度の酢酸を800ml加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った。その後、得られた分散液をビーズと分離させステンレスビーカーに入れた。分散液を液温100℃で3時間静置させてガラス成分の溶解処理を行った後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、炉内温度110℃の加熱炉内で6時間乾燥させて六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の平均粒子サイズは19nm、活性化体積は1102nm3、異方性定数Kuは2.0×105J/m3、質量磁化σsは50A・m2/kgであった。
【0091】
[実施例13]
強磁性粉末を、以下に示す方法にて得られたε-酸化鉄粉末に変更した以外、実施例1と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
(ε-酸化鉄粉末の作製方法)
純水90gに、硝酸鉄(III)9水和物8.3g、硝酸ガリウム(III)8水和物1.3g、硝酸コバルト(II)6水和物190mg、硫酸チタン(IV)150mg、およびポリビニルピロリドン(PVP)1.5gを溶解させたものを、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、大気雰囲気中、雰囲気温度25℃の条件下で、濃度25%のアンモニア水溶液4.0gを添加し、雰囲気温度25℃の温度条件のまま2時間撹拌した。得られた溶液に、クエン酸1gを純水9gに溶解させて得たクエン酸溶液を加え、1時間撹拌した。撹拌後に沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄し、炉内温度80℃の加熱炉内で乾燥させた。
乾燥させた粉末に純水800gを加えて再度粉末を水に分散させて分散液を得た。得られた分散液を液温50℃に昇温し、撹拌しながら濃度25%アンモニア水溶液を40g滴下した。50℃の温度を保ったまま1時間撹拌した後、テトラエトキシシラン(TEOS)14mLを滴下し、24時間撹拌した。得られた反応溶液に、硫酸アンモニウム50gを加え、沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄し、炉内温度80℃の加熱炉内で24時間乾燥させ、強磁性粉末の前駆体を得た。
得られた強磁性粉末の前駆体を、大気雰囲気下、炉内温度1000℃の加熱炉内に装填し、4時間の加熱処理を施した。
加熱処理した強磁性粉末の前駆体を、4モル/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中に投入し、液温を70℃に維持して24時間撹拌することにより、加熱処理した強磁性粉末の前駆体から不純物であるケイ酸化合物を除去した。
その後、遠心分離処理により、ケイ酸化合物を除去した強磁性粉末を採集し、純水で洗浄を行い、強磁性粉末を得た。
得られた強磁性粉末の組成を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES;Inductively Coupled Plasma-Optical Emission Spectrometry)により確認したところ、Ga、CoおよびTi置換型ε-酸化鉄(ε-Ga0.58Fe1.423)であった。また、先に実施例11について記載した条件と同様の条件でX線回折分析を行い、X線回折パターンのピークから、得られた強磁性粉末が、α相およびγ相の結晶構造を含まない、ε相の単相の結晶構造(ε-酸化鉄型の結晶構造)を有することを確認した。
得られたε-酸化鉄粉末の平均粒子サイズは12nm、活性化体積は746nm3、異方性定数Kuは1.2×105J/m3、質量磁化σsは16A・m2/kgであった。
【0092】
上記の六方晶ストロンチウムフェライト粉末およびε-酸化鉄粉末の活性化体積および異方性定数Kuは、各強磁性粉末について、振動試料型磁束計(東英工業社製)を用いて、先に記載の方法により求められた値である。
また、質量磁化σsは、振動試料型磁束計(東英工業社製)を用いて磁場強度1194kA/m(15kOe)で測定された値である。
【0093】
[参考例1]
表1に示す厚みの支持体を使用して表1に示す厚みの各層を形成し、磁気テープを熱処理用巻芯に巻き付けた状態での熱処理を行わなかった点以外、実施例1と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
【0094】
[比較例1]
磁気テープを熱処理用巻芯に巻き付けた状態での熱処理を行わなかった点以外、実施例1と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
【0095】
[比較例2、3]
磁気テープを熱処理用巻芯に巻き付けた状態で行う熱処理を、表1に示す熱処理温度で行った点以外、実施例1と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
【0096】
[比較例4]
磁気テープを熱処理用巻芯に巻き付けた状態での熱処理を行わなかった点以外、実施例7と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
【0097】
[比較例5]
磁気テープを熱処理用巻芯に巻き付けた状態での熱処理を行わなかった点以外、実施例9と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
【0098】
[磁気テープの評価]
実施例および比較例の各磁気テープカートリッジから、磁気テープカートリッジ製造日から100日目に磁気テープを取り出し、取り出した磁気テープについて以下の評価を行った。
【0099】
(1)テープ幅差(B-A)
テープ外側末端と接合していたリーダーテープを除去した後、テープ外側末端から10m±1mの位置を含む長さ20cmのテープサンプル、およびテープ内側末端から50m±1mの位置を含む長さ20cmのテープサンプルを切り出した。各テープサンプルのテープ幅を、カールの影響を除去するために2枚のスライドガラスの間に挟み込んだ状態でテープサンプルの長手方向中央部において測定した。テープ幅の測定は、KEYENCE社製レーザー高精度寸法測定器LS-7030を用いて、磁気テープカートリッジから磁気テープを取り出した後20分以内に行った。上記の各テープサンプルにおいて、テープ幅はそれぞれ7回測定し(N=7)、7回の測定で得られた測定値の中の最大値および最小値を除いた5つの測定値の算術平均を求めた。こうして求められた算術平均を、各位置のテープ幅(テープ幅Aまたはテープ幅B)として、テープ幅差(B-A)を算出した。
【0100】
(2)テープ幅変形率
上記(1)により求めたテープ幅Aを、保存前テープ幅とした。
テープ外側末端から10m±1mの位置を含む長さ20cmのテープサンプルを、上記(1)での測定後、このテープサンプルの一方の端部を保持し他方の端部に100gの重りを吊るすことによりテープ長手方向に100gの荷重を負荷した状態で温度52℃の乾燥環境下で24時間保存した。上記保存後、荷重の除去後20分以内に、上記(1)での方法と同様にテープ幅を求め、このテープ幅を保存後テープ幅とした。
保存前後のテープ幅の差(保存前テープ幅-保存後テープ幅)を保存前テープ幅で除した値×106(単位:ppm)を算出し、テープ幅変形率とした。
【0101】
(3)テープ厚み
上記(1)で磁気テープカートリッジから取りだした磁気テープの任意の部分からテープサンプル(長さ5cm)を10枚切り出し、これらテープサンプルを重ねて厚みを測定した。厚みの測定は、MARH社製Millimar 1240コンパクトアンプとMillimar 1301誘導プローブのデジタル厚み計を用いて行った。測定された厚みを10分の1して得られた値(テープサンプル1枚当たりの厚み)を、テープ厚みとした。
表1に示されている各層の厚みは、製造条件から算出される設計厚みであり、支持体の厚みはメーカー値である。
【0102】
[記録再生試験]
磁気テープに規定容量のデータを記録した磁気テープカートリッジを、温度40℃相対湿度80%の環境に3ヵ月間保存した後に、全記録データの再生(読み出し)を行った際の再生可否を評価した。記録および再生は、LTO Ultrium7(LTO7)ドライブを用いて行った。規定容量は、6.0TB(テラバイト)である。
データの記録は、磁気テープカートリッジ製造日から100日目に磁気テープカートリッジを評価環境下に置き1日以上放置し同環境に慣らした後に行った。記録時にエラーが発生し、規定容量の記録ができなかった場合、そのカートリッジはその後の評価に使用せず、表1には「評価不能」と表記した。上記の評価不能の場合とは、詳しくは、上記ドライブのサーボヘッドによってサーボパターンを読み取りヘッドトラッキングを行っても、記録すべき位置に磁気ヘッドを位置合わせすることができずにドライブがエラー信号を発して停止してしまった場合である。
上記保存後、記録を行った環境と同じ温度および湿度の環境下で再生を行い、この再生は記録時と同じ個体のドライブを用いて行った。再生も、磁気テープカートリッジを評価環境下に1日以上放置し同環境に慣らした後に行った。磁気テープカートリッジ内の磁気テープに記録されている全データについて、エラーの発生なく再生が完了した場合、表1に「再生可」と表記した。再生時に再生信号のSNR(signal-to-noise-ratio)が悪かったために再生信号からデータを正しく読み取ることができず、再生の途中でエラーが発生して全データの再生が完了しなかった場合、表1に「再生不可」と表記した。
【0103】
以上の結果を、表1(表1-1~表1-3)に示す。
【0104】
【表1-1】
【0105】
【表1-2】
【0106】
【表1-3】
【0107】
比較例1と同様に作製した磁気テープカートリッジについて、磁気テープカートリッジ製造日から360日目にテープ幅差(B-A)を求めたところ4.5μmであり、テープ幅変形率は400ppmであった。この結果および熱処理用巻芯に巻き付けた状態での熱処理なしの比較例1、4、5と実施例1~13の評価結果との対比から、実施例1~13のように熱処理を行うことによって、磁気テープカートリッジ内で経時的に生じる変形を予め発生させることができたことが確認できる。
かかる実施例1~13の各磁気テープカートリッジでは、エラーの発生を抑制して記録および再生を行うことができた。
これに対し、参考例1と比較例1、2、4および5との対比から、テープ厚みが5.2μm以下に薄型化されると再生エラーが発生し易くなることが確認できる。比較例1、2、4および5では、再生エラーの発生を抑制できず、全データの再生を完了させることができなかった。
比較例3において評価不能であった理由は、テープ幅差(B-A)が12.0μmを超えるほどテープの位置により幅が異なることによって記録エラーが生じたためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の一態様は、各種データストレージの技術分野において有用である。