(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176325
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】脱塩装置の運転方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20060101AFI20221117BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
C02F1/44 D
B01D61/58
C02F1/44 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161061
(22)【出願日】2022-10-05
(62)【分割の表示】P 2021005064の分割
【原出願日】2021-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2020151433
(32)【優先日】2020-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】石井 一輝
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 守
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 至
(57)【要約】
【課題】脱塩装置の運転を停止することなく、低下した脱塩装置の脱塩性能を回復させることができる脱塩装置の運転方法を提供する。
【解決手段】第1脱塩装置と第2脱塩装置とを有する脱塩装置の運転方法において、第1脱塩装置に被処理水を供給して第1の濃縮水と第1の脱塩水とに分離し、該第1の濃縮水を第2脱塩装置に供給して第2の濃縮水と第2の脱塩水とに分離する通常運転工程と、第1脱塩装置に被処理水を供給して第1の濃縮水と第1の透過水とに分離し、第2脱塩装置には第1の濃縮水よりも濃度の低い希薄水を通水して該第2脱塩装置の脱塩性能を回復させる回復運転工程とを有することを特徴とする脱塩装置の運転方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1脱塩装置と第2脱塩装置とを有する脱塩装置の運転方法において、
第1脱塩装置に被処理水を供給して第1の濃縮水と第1の脱塩水とに分離し、該第1の濃縮水を第2脱塩装置に供給して第2の濃縮水と第2の脱塩水とに分離する通常運転工程と、
第1脱塩装置に被処理水を供給して第1の濃縮水と第1の透過水とに分離し、第2脱塩装置には第1の濃縮水よりも濃度の低い希薄水を通水して該第2脱塩装置の脱塩性能を回復させる回復運転工程と
を有することを特徴とする脱塩装置の運転方法。
【請求項2】
前記第2脱塩装置が複数台並列に設置されており、一部の第2脱塩装置で前記通常運転工程を行っている間に他の第2脱塩装置で前記回復運転工程を行う請求項1の脱塩装置の運転方法。
【請求項3】
前記回復運転工程では、前記第2脱塩装置に希薄水を5~60分通水する、請求項1又は2の脱塩装置の運転方法。
【請求項4】
希薄水として前記被処理水を用いる、請求項1~3のいずれかの脱塩装置の運転方法。
【請求項5】
希薄水として、前記第1脱塩装置の脱塩水を用いる、請求項1~3のいずれかの脱塩装置の運転方法。
【請求項6】
希薄水にスケール防止剤を添加する、請求項1~5のいずれかの脱塩装置の運転方法。
【請求項7】
前記脱塩装置は、逆浸透膜装置である、請求項1~6のいずれかの脱塩装置の運転方法。
【請求項8】
希薄水の通水速度が0.001~1m/sである、請求項7の脱塩装置の運転方法。
【請求項9】
前記第1の濃縮水の水質が次のa~eのいずれかである請求項1~8のいずれかの脱塩装置の運転方法。
a.カルシウムイオン濃度0.1~10mg/L、フッ化物イオン濃度3000~8000mg-F/L。
b.カルシウムイオン濃度500~1500mg/L、フッ化物イオン濃度50~150mg-F/L。
c.カルシウムイオン濃度400~1500mg/L、Mアルカリ度800~2000mg/L。
【請求項10】
前記第1の濃縮水は前記第1脱塩装置の給水を3倍以上濃縮した濃縮水である請求項1~9のいずれかの脱塩装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱塩装置の運転方法に係り、特に第1脱塩装置と第2脱塩装置とを有する脱塩装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
逆浸透膜等の脱塩装置では、長期間の運転により炭酸カルシウム、シリカ、フッ化カルシウム等のスケールの析出や、有機物による膜閉塞が発生し、塩除去率の低下や透過水量の低下等の脱塩装置の性能低下をもたらす。スケール閉塞の場合、脱塩装置の性能低下を防ぐために原水中のイオン濃度を測定し、脱塩装置の濃縮水において飽和指数を超えないように運転する方法が採用される。ここで飽和指数とは、スケール生成に関与する各イオン種の濃度・イオン強度の積を溶解度積で割った値の対数値を一般的に指す。この飽和指数をゼロより超えないような範囲で脱塩装置を運転する。さらに飽和指数を超えるような場合においては、例えばスケール防止剤の添加によってスケールの生成を抑制し、脱塩装置を運転する。
【0003】
スケール防止剤の添加によっても抑制不可能であるような飽和指数を大きく超える水質である場合、従来ではスケールを除去するために酸洗浄やアルカリ洗浄の薬品洗浄が行われてきた。しかし一般的な洗浄では、装置を止め、洗浄液を調整してから洗浄し、洗浄液を回収した後に通水を開始するという過程であることから、洗浄コストが大きくなることが問題となる。そこで、長期間運転しても脱塩装置の性能が低下することなく、薬品洗浄を必要としない脱塩装置の運用が望まれていた。
【0004】
脱塩装置の運転方法の一つとして、フラッシング法が挙げられる。ここでフラッシングとは、給水ポンプの稼働を継続したまま、濃縮水排出配管の開閉弁を開とすることにより、濃縮水排出配管から給水を系外へ排出させる操作を指す。通常運転時より速い流速で通水することにより、膜面を閉塞させる汚れを効果的に洗い流すことができる。フラッシングは、1~10回/日の頻度で、30~120秒/回で行うことが一般である。しかし、数分/回程度のフラッシングでは性能低下した脱塩装置を回復させることは不十分であり、結局洗浄を実施せざるをえないことが問題となる。またフラッシングを行う場合、濃縮水配管の開閉弁を開とすることから、フラッシングを行う間は、透過水の生産を行うことができず、脱塩装置の回収率は低下してしまう。
【0005】
その他の方法として、モジュールの被処理水の流れ方向を反転させる方法がある。この方法によると、原水スペーサーに蓄積した濁質を容易に剥がすことが可能となり、脱塩装置の安定性が向上する。しかし、流れを反転させるため必要なバルブ数は大幅に増えイニシャルコストが大幅に増加してしまうことが問題となる。また、バルブに故障が生じた場合、バルブの切り替えを行うことができず、装置の安定性が大きく損なわれてしまう。さらに流れ反転によるスケール物質に対する剥離効果については言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-141846号公報
【特許文献2】特開2004-261724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題に鑑み、脱塩装置の運転を停止することなく、低下した脱塩装置の脱塩性能を回復させることができる脱塩装置の運転方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の脱塩装置の運転方法は、第1脱塩装置と第2脱塩装置とを有する脱塩装置の運転方法において、第1脱塩装置に被処理水を供給して第1の濃縮水と第1の脱塩水とに分離し、該第1の濃縮水を第2脱塩装置に供給して第2の濃縮水と第2の脱塩水とに分離する通常運転工程と、第1脱塩装置に被処理水を供給して第1の濃縮水と第1の透過水とに分離し、第2脱塩装置には第1の濃縮水よりも濃度の低い希薄水を通水して該第2脱塩装置の脱塩性能を回復させる回復運転工程とを有することを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様では、前記第2脱塩装置が複数台並列に設置されており、一部の第2脱塩装置で前記通常運転工程を行っている間に他の第2脱塩装置で前記回復運転工程を行う。
【0010】
本発明の一態様では、前記回復運転工程では、前記第2脱塩装置に希薄水を5~60分通水する。
【0011】
本発明の一態様では、希薄水として前記被処理水を用いる。
【0012】
本発明の一態様では、希薄水として、前記第1脱塩装置の脱塩水を用いる。
【0013】
本発明の一態様では、希薄水にスケール防止剤を添加する。
【0014】
本発明の一態様では、前記脱塩装置は、逆浸透膜装置である。
【0015】
本発明の一態様では、希薄水の通水速度が0.001~0.1m/sである。
【0016】
本発明の一態様では、前記第1の濃縮水の水質が次のa~eのいずれかである。
a.カルシウムイオン濃度0.1~10mg/L、フッ化物イオン濃度3000~8000mg-F/L。
b.カルシウムイオン濃度500~1500mg/L、フッ化物イオン濃度50~150mg-F/L。
c.カルシウムイオン濃度400~1500mg/L、Mアルカリ度800~2000mg/L。
【0017】
本発明の一態様では、前記第1の濃縮水は、前記第1脱塩装置の給水を3倍以上濃縮した濃縮水である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の脱塩装置の運転方法の通常運転工程では、被処理水を第1脱塩装置に通水して第1脱塩水と第1濃縮水とに分離し、第1濃縮水を第2脱塩装置に通水して第2脱塩水と第2濃縮水とに分離する。通常運転工程を行うことによって第2脱塩装置の脱塩性能が低下した場合、第1脱塩装置の運転を継続したまま、第2脱塩装置に希薄水を通水することにより、第2脱塩装置の脱塩性能を回復させることができる。
【0019】
なお、第2脱塩装置のフラックス回復運転を行う際の希薄水として第1脱塩装置の脱塩水を用いる態様にあっては、タンク等の付帯設備が不要であり、装置構成が簡易となる。また、第1脱塩装置の透過水という塩類濃度の低い水を希薄水として用いることで、被処理水を希薄水として用いる場合よりも、性能低下した第2脱塩装置の回復効果を大きく向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施の形態に係る脱塩装置の運転方法を説明するフロー図である。
【
図3】実施例及び比較例の結果を示すグラフである。
【
図4】実施の形態に係る脱塩装置の運転方法を説明するフロー図である。
【
図5】実施の形態に係る脱塩装置の運転方法を説明するフロー図である。
【
図6】実施の形態に係る脱塩装置の運転方法を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、
図1を参照して第1の実施の形態について説明する。実施の形態では、脱塩装置として逆浸透膜装置(RO装置)を例に挙げて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、逆浸透膜としてはポリアミド系逆浸透膜が好適であるが、これに限定されない。逆浸透膜装置以外の脱塩装置としては、ナノろ過膜装置、正浸透膜装置、膜蒸留装置、電気透析装置、電気脱イオン装置などが例示される。
【0022】
図1は実施の形態に係る脱塩装置の運転方法に用いられる脱塩装置の構成を示すものである。なお、(a)図は通常運転時の水の流れを太実線で示し、(b)図はフラックス回復運転時の水の流れを太実線で示している。
【0023】
[通常運転時]
通常運転時には、(a)図の通り、原水タンク1内の原水は、ポンプ2、配管3を介して第1RO装置4に供給され、透過水がバルブ5を有した配管6を介して第1透過水として取り出される。
【0024】
第1RO装置4の濃縮水(第1濃縮水)は、配管7、8、バルブ9を介して中継タンク10に導入される。中継タンク10内の第1濃縮水は、ポンプ11及びバルブ12を有した配管13から配管14を介して第2RO装置15に供給される。
【0025】
第2RO装置15の透過水は、バルブ16を有した配管17を介して第2透過水として取り出される。第2RO装置15の濃縮水は、配管18、バルブ19、配管20、21を介して第2濃縮水として取り出される。
【0026】
この通常通水時には、ポンプ2、11が作動される。また、バルブ5、9、12、16、19が開とされており、次に説明するバルブ24、28は閉とされている。
【0027】
図1の脱塩装置では、配管7、21間が配管23、バルブ24、配管25によってバイパス状に接続されている。また、前記配管3、14間が配管27、バルブ28、配管29によってバイパス状に接続されている。
【0028】
図中のPIは圧力センサ、FIは流量センサを示す。
【0029】
[フラックス回復運転時]
第2RO装置15のフラックスを回復させるフラックス回復運転時には、(b)図の通り、ポンプ2が作動し、ポンプ11は停止とされる。また、バルブ9、12が閉とされ、その他のバルブは開とされる。
【0030】
原水タンク1内の原水は、ポンプ2、配管3を介して第1RO装置4に供給され、第1透過水がバルブ5を介して配管6から取り出される。第1濃縮水は、配管7、23、バルブ24、配管25、21を介して取り出される。
【0031】
また、この第2RO装置15のフラックス回復運転時には、希薄水として、ポンプ2から送水された原水の一部が、配管3から分岐した配管27、バルブ28、配管29、14を介して第2RO装置15に供給される。第2RO装置15の透過水は、バルブ16及び配管17を介して取り出される。第2RO装置15の濃縮水は、配管18、バルブ19、配管20を介して配管21に流出し、配管25からの第1濃縮水と合流し、濃縮水として取り出される。
【0032】
この脱塩装置の運転方法においては、通常運転を行うことによって第2RO装置15のフラックスが低下した場合、第1RO装置4で透過水を生産する運転を継続しながら、第2RO装置15に希薄水を通水する運転を行うことで、第2RO装置15のフラックスを回復させ、脱塩装置を停止することなく、回収率の大幅な低下を防ぐことが可能となる。特に、希薄水(
図1の場合、原水)を5分以上(好ましくは10分以上で60分以下、特に30分以下)通水することによって、膜面に付着したスケールを溶解させ、膜分離性能を大きく回復させることが可能となる。
【0033】
なお、通常、希薄水は脱塩装置の給水側から通水するが、脱塩装置の濃縮水側から通水しても構わない。
【0034】
以下、
図4,5及び
図6を参照して第2の実施の形態について説明する。なお、
図4~6の説明では、逆浸透膜装置の透過水を脱塩水と称す。
図4~6では、水が流れている配管を太実線で示し、水が流れていない配管を細実線で示している。
【0035】
図4,5の実施の形態では、2個の第2RO装置51,52が並列に設置されている。
図4では一方の第2RO装置51が通常運転し、他方の第2RO装置52がフラックス回復運転しており、
図5では該一方の第2RO装置51が、フラックス回復運転し、該他方の第2RO装置52が通常運転している。
【0036】
[
図4の運転時]
図4の通り、原水タンク1内の原水は、ポンプ2、配管3を介して第1RO装置4に供給され、脱塩水(透過水)が配管31、バルブ32、配管33を介して脱塩水として取り出される。
【0037】
第1RO装置4の濃縮水(第1濃縮水)は、配管34、35、バルブ36、配管37を介して一方の第2RO装置51に供給される。
【0038】
第2RO装置51の脱塩水(透過水)は、配管61、62を介して前記配管33に合流し、脱塩水として取り出される。第2RO装置51の濃縮水は、配管63、バルブ64、配管65、バルブ66、配管67を介して濃縮水として取り出される。
【0039】
配管34から分岐した配管38がバルブ39、配管40を介して他方の第2脱塩装置52の給水口に接続されている。
図4ではバルブ39は閉とされている。
【0040】
図4の脱塩装置では、配管31、37間が配管41、バルブ42によって接続されている。また、前記配管31、40間が配管43、バルブ44によって接続されている。
図4ではバルブ42は閉、バルブ44は開とされている。そのため、配管31の第1脱塩水の一部は、配管43、40を介して第2脱塩装置52の給水口に供給され、第2脱塩装置52がフラックス回復運転される。
【0041】
この他方の第2RO装置52のフラックス回復運転時には、該他方の第2RO装置52の脱塩水は、配管73、62を介して配管33に合流し、脱塩水として取り出される。第2RO装置52の濃縮水は、配管74、77、バルブ78、配管79、71を介して原水タンク1に返送される。
【0042】
[
図5の運転時]
図4とは逆に、
図5では該一方の第2脱塩装置51がフラックス回復運転し、該他方の第2脱塩装置52が通常運転している。この場合も、原水タンク1内の原水は、ポンプ2、配管3を介して第1RO装置4に供給され、脱塩水(透過水)が配管31、バルブ32、配管33を介して脱塩水として取り出される。
【0043】
図5では、バルブ36が閉、バルブ39が開とされている。そのため、第1RO装置4の濃縮水(第1濃縮水)は、配管34、38、バルブ39、配管40を介して他方の第2RO装置52に供給される。
【0044】
第2RO装置52の脱塩水(透過水)は、配管73、62を介して前記配管33に合流し、脱塩水として取り出される。第2RO装置52の濃縮水は、配管74、バルブ76を介して、配管65に流れ、濃縮水として取り出される。
【0045】
また、
図5ではバルブ42は開、バルブ44は閉とされている。そのため、配管31の第1脱塩水の一部は、配管42、37を介して一方の第2脱塩装置51の給水口に供給され、第2脱塩装置51がフラックス回復運転される。該一方の第2RO装置51の脱塩水は、配管61、62を介して配管33に合流し、脱塩水として取り出される。該一方の第2RO装置51の濃縮水は、配管63、68、バルブ69、配管70、71を介して原水タンク1に返送される。
【0046】
このように、
図4、5の脱塩装置の運転方法においては、並列設置された2台の第2脱塩装置51、52のうち一方で通常運転しながら、他方で第1脱塩水を通水してフラックス回復運転を行うことで、脱塩装置を停止することなく、回復率の大幅な低下を防ぐことができる。
図4、5では、第1RO装置4が1基設置され、第2RO装置51、52が合計2基設置されているが、それ以上ずつ設置されてもよい。
図6はその一例を示すものであり、4基の第1RO装置4A~4Dが並列に設置され、4基の第2RO装置51~54が並列に設置されている。
第1RO装置4A~4Dには、配管3及びそれから分岐した配管81によってそれぞれ被処理水が分配供給され、各第1RO装置4A~4Dの脱塩水が配管82、31、33を介して脱塩水として取り出される。
第1RO装置4A~4Dの濃縮水は、合流配管83からそれぞれバルブ84~87を有した分岐配管88~91を介して第2RO装置51,52及び第2RO装置53,54に切り替え供給可能とされている。また、各分岐配管88~91はそれぞれバルブ92、94、96、98を有した配管91、93、95、97を介して脱塩水配管31に接続されている。
図6では、第2RO装置51、52で通常運転を行い、第2RO装置53、54でフラックス回復運転を行っている。即ちバルブ84、85が開、バルブ86、87が閉とされ、またバルブ92、94が閉、バルブ96、98が開とされている。
各第2RO装置51~54の脱塩水は、配管101、103、105、107から配管33に合流し、脱塩水として取り出される。
第2RO装置51~54の濃縮水は、配管102、104、106、108及び合流配管109を介して濃縮水として取り出される。
バルブ84~87、及びバルブ92、94、96、98の開閉を上記と逆にすることにより、第2RO装置51、52でフラックス回復運転が行われ、第2RO装置53、54で通常運転が行われる。
図6では第1RO装置及び第2RO装置が4基ずつ示されているが、2、3又は5基以上であってもよい。
図4~6では第2RO装置で通常運転されるものとフラックス回復運転されるものとの台数が同じであるが、異なってもよい。また、
図6においても、フラックス回復運転中の第2RO装置の濃縮水を原水槽1に返送するようにしてもよい。
【0047】
[希薄水の通水速度]
希薄水の通水速度は、脱塩装置の閉塞状態に応じて適宜決定することができるが、例えば逆浸透膜の場合、0.001~1m/s、特に0.02~0.2m/sが好ましい。具体的には、4インチモジュールでは1本あたり300~2000L/Hrであることが好ましく、8インチモジュールでは1本あたり1.8~10m3/Hrであることが好ましい。また、脱塩装置の濃縮水排出側での圧力は0.1~2MPaであることが好ましい。
【0048】
[通常運転から回復運転への切り替えタイミング]
本発明では、所定時間通常運転を行ったときに回復運転に切り替えることも可能であるが、第2脱塩装置にスケールが生成してきたタイミングで切り替えるようにすることが好ましい。脱塩装置として逆浸透膜を用いた図示の場合を例示すると、第2RO装置の透過フラックスが運転初期から設定比率だけ低下した場合、例えば5%低下した場合に、切り替える。なお、この5%は一例であり、1~20%特に1~10%の間から選択された値であればよい。特に、第2RO装置において最も濃縮のかかる末端ROの透過フラックスの変化を測定することが好ましい。
【0049】
実際の透過フラックスは、運転圧力、水温、給水中の塩類濃度の影響を受けるため、RО装置の性能を示すデータとして補正透過フラックスで規定することが望ましい。
【0050】
ここで、補正透過フラックスはJIS K 3805:1990に示されるような逆浸透膜エレメント及びモジュール透過水量性能データの標準化方法に記載の方法で算出することが一般的である。
【0051】
すなわち、透過水量性能データは以下の式(1)によって補正することで、補正透過フラックスFpsとして算出する。
【0052】
【0053】
ここで、Qpa:実運転条件での透過水量(m3/d)
Pfa:実運転条件での操作圧力(kPa)
ΔPfba:実運転条件でのモジュール差圧(kPa)
Ppa:実運転条件での透過水側の圧力(kPa)
Πfba:実運転条件での供給側、濃縮側の平均溶質濃度の浸透圧(kPa)
TCFa:実運転条件での温度換算係数
Pfs:標準運転条件での操作圧力(kPa)
ΔPfbs:標準運転条件でのモジュール差圧(kPa)
Pps:標準運転条件での透過水側の圧力(kPa)
Πfbs:標準運転条件での供給側、濃縮側の平均溶質濃度の浸透圧(kPa)
TCFs:標準運転条件での温度換算係数
【0054】
初期補正透過フラックスからの減少量以外には、第2脱塩装置の差圧の超過、第2脱塩装置の処理水量の低下、第2脱塩装置の濃縮水側にさらに設定した小型ROの透過水量の低下、配管内で超音波を用いたセンサーを設定し、配管内の過飽和析出物の検出有無などによって通常運転から回復運転への切り替えを行ってもよい。
【0055】
上記実施の形態では、希薄水として原水を用いているが、第1RO装置または第2RO装置の透過水を希薄水として用いてもよい。また、第1RO装置または第2RO装置の透過水と原水とを混合したものを希薄水として用いてもよい。更には第1RO装置または第2RO装置の透過水と第1濃縮水とを混合したものを希薄水として用いてもよい。
【0056】
[第1濃縮水の水質]
本発明は、第2RO装置でフッ化カルシウムスケールまたは炭酸カルシウムスケールが生成する場合に好適に用いることができる。具体的には、第2RO装置に供給される第1濃縮水が以下のa~eの場合に好適に用いることができる。なお、aおよびbがフッ化カルシウムスケールが生成する場合であり、cが炭酸カルシウムスケールが生成する場合である。
a.カルシウムイオン濃度0.1~10mg/L、フッ化物イオン濃度3000~8000mg-F/L。
b.カルシウムイオン濃度500~1500mg/L、フッ化物イオン濃度50~150mg-F/L。
c.カルシウムイオン濃度400~1500mg/L、Mアルカリ度800~2000mg/L。
【0057】
[希薄水に添加するスケール防止剤]
希薄水にはスケール防止剤を添加することが好ましい。スケール防止剤を添加することでスケールの溶解力の向上および溶解したスケールの再付着防止という効果を得ることができる。
【0058】
スケール防止剤としては用いる脱塩装置の種類や原水によって適宜選択することができ、脱塩装置として逆浸透膜装置を用い、炭酸カルシウムスケールが生成するような被処理水の場合には、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸等のホスホン酸やアクリル酸と2―アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の共重合ポリマー、ポリアクリル酸などを用いることができ、フッ化カルシウムスケールが生成するような被処理水の場合には、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸等のホスホン酸、ポリアクリル酸などを用いることができる。また、これらスケール防止剤の添加量は10~1000mg/L程度である。
【0059】
なお、希薄水にpH調整剤を添加し、スケールの溶解力の向上および溶解したスケールの再付着防止という効果を得るようにしてもよい。
【0060】
[希薄水の通水方向]
図1のように希薄水として原水を通水する場合は、第2RO装置の給水側から通水するのが好ましいが、
図4~6のように希薄水として第1RO装置の透過水など、水質の良好なものを用いるときには、第2RO装置の濃縮水出口側から通水しても構わない。また希薄水を通水している間は、脱塩装置の濃縮水が飽和溶解度未満の範囲内で回収率を維持し、処理水を生産しながら通水しても構わない。
【0061】
上記実施の形態では、RO装置が2段に設置されているが、3段以上に設置されてもよい。なお、3段以上に設置した場合には、希薄水を通水する脱塩装置は最後段のものとすることが好ましい。
【実施例0062】
[スケール溶解試験]
<試験目的>
炭酸カルシウム微粒子分散液とフッ化カルシウム微粒子分散液とを調製し、各液に希薄水を添加し、微粒子の溶解特性を測定する。
【0063】
<炭酸カルシウム微粒子分散液の調製>
500mLのコニカルビーカーに、超純水500mLを入れ、塩化カルシウム:340mg/L、スケール防止剤:10mg/L、炭酸水素ナトリウム:1300mg/Lを含有する水溶液を調整し、更に、水酸化ナトリウム水溶液又は塩酸水溶液でpHを8.5に調整して出発溶液とした。25℃の室温条件で、スケールが発生するまで、スターラーを用いて出発溶液を攪拌し、所定時間放置した。放置する時間を変化させることで、異なる粒子径を持つスケール溶液を調製した。
【0064】
<フッ化カルシウム微粒子分散液の調製>
500mLのコニカルビーカーに、超純水500mLを入れ、フッ化ナトリウム:100mg/L、スケール防止剤:5mg/L、塩化カルシウム:400mg/Lを含有する水溶液を調整し、更に、水酸化ナトリウム水溶液又は塩酸水溶液でpHを5.5に調整して出発溶液とした。25℃の室温条件で、スケールが発生するまで、スターラーを用いて出発溶液を攪拌し、所定時間放置した。放置する時間を変化させることで、異なる粒子径を持つスケール溶液を調製した。
【0065】
各液について、粒度分布計(島津製SALD-7500nano)を用い、発生したスケールの粒子径を測定した。
【0066】
<希薄水との混合>
500mLのコニカルビーカー内で、上記のように調製した微粒子分散液と希薄水(栗田工業開発センター(栃木県下都賀郡野木町)の排水回収のRO膜透過水のRO透過水)を表1に示す割合で混合し、5分経過後の混合液について目視観察と粒度分布測定を行い、微粒子溶解の有無について測定した。結果を表1に示す。
【0067】
【0068】
<考察>
No.1、2(CaCO3スケール粒子径5μm)では、希薄水を添加することでスケール微粒子が溶解したが、No.4、5(混合比50/50又は60/40)及びNo.6~9(CaCO3スケール粒子径20μm)では、スケール微粒子は溶解し切れずに残留していた。
【0069】
No.3(CaF2スケール粒子径0.1μm、混合比10/90)では、希薄水を添加することで微粒子は溶解したが、No.10~12(混合比20/80~60/40)では、スケール微粒子は溶解し切れずに残留していた。
【0070】
[実施例1~6]
膜面の大きさが95mm×146mmである長方形状のRO膜を備えた、
図2の平膜型RO装置に、下記のように調製した模擬原水と模擬希薄水(実施例4ではスケール防止剤添加模擬希薄水)とを次の3工程の順序で通水した。
【0071】
<通水順序>
第1模擬原水通水工程:模擬原水を初期透過フラックス0.45m/D、通水流速0.1m/sとなるように通水し、透過水量一定で運転を行った。(従って、補正透過フラックスは経時的に徐々に低下する。)
希薄水通水工程:一定時間通水後の補正透過フラックスが初期補正透過フラックスと比較して20~25%低下した後に、希薄水を通水流速0.1m/sにて表2に示す時間、通水する。
第2模擬原水通水工程:模擬原水を第1模擬原水通水工程と同一の圧力、透過水量にて通水する。
【0072】
<模擬原水>
塩化カルシウム2水和物と炭酸水素ナトリウムとをCa濃度600mg/L,Na濃度600mg/Lとなるように純水に溶解させて調製した。
【0073】
Mアルカリ度:850mg/L as CaCO3
pH:8.4~8.5
水温:30℃
【0074】
<模擬希薄水>
上記模擬原水の1/10のCa及びNa濃度のものを用いた。pH:7.2~7.3、水温は30℃である。
【0075】
<スケール防止剤添加模擬希薄水>
上記模擬希薄水に、スケール防止剤として2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸を10mg/L添加したものを用いた。
【0076】
[比較例1]
希薄水通水を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして模擬原水を通水した。
【0077】
[結果及び考察]
第1模擬原水通水工程終了直前におけるフラックスFと初期フラックスF0との比F/F0を「希薄水通水前Flux比」として表2に示す。
【0078】
第2模擬原水通水工程開始直後におけるフラックスF’と初期フラックスF0との比F’/F0を「希薄水通水後Flux比」として表2に示す。
【0079】
[希薄水通水後Flux比]/[希薄水通水前Flux比]の値を「回復比」として表2に示す。
【0080】
【0081】
表2の通り、希薄水通水工程を行うことにより、フラックスが回復(増大)する。特に、実施例1~4の通り、希薄水通水工程を10分以上、特に30分以上とすることにより、フラックスが十分に回復する。また、実施例4の通り、希薄水にスケール防止剤を添加することにより、フラックスがより十分に回復する。
【0082】
[実施例7]
<模擬原水>
模擬原水として、塩化カルシウム2水和物、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム及びフッ化ナトリウムを、Ca、Mg、Al、Fの濃度が下記となるように純水に溶解させたものを用いた。
【0083】
Ca:0.5mg/L
Mg:4mg/L
Al:0.25mg/L
F :4000mg/L
(水温22~23℃、pH:5.5)
【0084】
<希薄水>
希薄水として、模擬原水を
図2のRO装置に通水したときの透過水を用いた。
【0085】
<通水順序>
通水順序は次の通りとした。各工程の通水時間は
図4に示される通りとした。
第1模擬原水通水工程:模擬原水を透過水量一定(0.45m/D)にて通水する。
希薄水通水工程:希薄水を45分通水する。
第2模擬原水通水工程:第1模擬原水通水工程と同一給水圧にて模擬原水を通水する。
【0086】
<結果及び考察>
結果を表3及び
図3(a)に示す。表3及び
図3(a)の通り、この実施例7によると、フラックスが十分に回復する。
【0087】
【0088】
[比較例2]
模擬原水及び希薄水を、Ca、Mg、Al及びFの各濃度が下記となるように実施例7の模擬原水調製方法と同様にして調製した。
【0089】
通水順序は実施例7と同一とした。通水時間は
図3(b)に示される通りとした。
【0090】
<模擬原水>
Ca:0.4mg/L
Mg:2mg/L
Al:0.25mg/L
F :4000mg/L
(水温22~23℃、pH:5.5)
【0091】
<模擬希薄水>
Ca:0.1mg/L
Mg:0.8mg/L
Al:0.8mg/L
F :500mg/L
【0092】
<結果及び考察>
結果を表3及び
図3(b)に示す。表3及び
図3(b)の通り、比較例2では、希薄水の塩類濃度が高いために、希薄水通水を行ってもフラックスは回復しない。
【0093】
[実施例8~10、比較例3~6]
図2の平膜型RO装置に、下記のように調製した模擬原水と模擬希薄水(実施例9,10及び比較例3~6ではスケール防止剤添加模擬希薄水)とを次の3工程の順序で通水した。
【0094】
<通水順序>
第1模擬原水通水工程:模擬原水を初期透過フラックス0.45m/D、通水流速0.1m/sとなるように通水し、透過水量一定で運転を行った。(従って、補正透過フラックスは経時的に徐々に低下する。)
希薄水通水工程:一定時間通水後の補正透過フラックスが初期補正透過フラックスと比較して20~25%低下した後に、希薄水を通水流速0.1m/sにて表2に示す時間、通水する。
第2模擬原水通水工程:模擬原水を第1模擬原水通水工程と同一の圧力、透過水量にて通水する。
【0095】
<模擬原水>
塩化カルシウム2水和物とフッ化ナトリウムとをCa濃度650mg/L,F濃度70mg/Lとなるように純水に溶解させて調製した。
pH:5.5
水温:22~23℃
【0096】
<模擬希薄水>
実施例8では模擬希薄水として、栗田工業株式会社開発センターの排水処理設備におけるRO設備のRO処理水を用いた。(pH:5.5)
【0097】
<スケール防止剤添加模擬希薄水>
実施例9では、実施例8の模擬希薄水に、スケール防止剤として2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸を10mg/L添加したものを用いた。
実施例10では、実施例9の模擬希薄水に、さらに塩化カルシウム2水和物とフッ化ナトリウムとを表3の濃度となるように添加したものを用いた。
比較例3では、実施例9の模擬希薄水に、さらに塩化カルシウム2水和物とフッ化ナトリウムとを表3の濃度となるように添加したものを用いた。
比較例4では、比較例3の模擬希薄水に、塩酸によりpH3.5に調整したものを用いた。
比較例5,6では、実施例9の模擬希薄水に、さらに塩化カルシウム2水和物とフッ化ナトリウムとを表3の濃度となるように添加し、塩酸によりpH3に調整したものを用いた。
【0098】
[結果及び考察]
第1模擬原水通水工程終了直前におけるフラックスFと初期フラックスF0との比F/F0を「希薄水通水前Flux比」として表4に示す。
【0099】
第2模擬原水通水工程開始直後におけるフラックスF’と初期フラックスF0との比F’/F0を「希薄水通水後Flux比」として表4に示す。
【0100】
[希薄水通水後Flux比]/[希薄水通水前Flux比]の値を「回復比」として表4に示す。
【0101】
【0102】
表4の通り、希薄水通水工程を行うことにより、フラックスが回復(増大)する。特に、実施例8,9の通り、希薄水の塩類濃度を低くすることにより、フラックスが十分に回復する。