(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176452
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】ホウ素化イソインドリン誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 5/04 20060101AFI20221122BHJP
【FI】
C07F5/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082897
(22)【出願日】2021-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】林 祐希
(72)【発明者】
【氏名】宮奥 隆行
【テーマコード(参考)】
4H048
【Fターム(参考)】
4H048AA02
4H048AB29
4H048AB84
4H048VA22
4H048VA32
4H048VA77
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ホウ素化イソインドリン誘導体の高収率な製造方法を提供する。
【解決手段】Mg試薬存在下、下記式(I)に表されるイソインドリン誘導体とピナコールボランとを接触させて、下記式(II)に表されるホウ素化イソインドリン誘導体を得る。
(式中、R
1及びR
3はそれぞれH、C1~6のアルキル基、C1~6のアルコキシ基、C6~10のアリール基、又はC7~10のアラルキル基;R
2はアミノ基の保護基;X
1はハロゲン原子)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg試薬存在下、下記式(I)に表されるイソインドリン誘導体とピナコールボランとを接触させて、下記式(II)に表されるホウ素化イソインドリン誘導体を得ることを含む、ホウ素化イソインドリン誘導体の製造方法:
【化1】
前記式(I)において、
R
1及びR
3は、それぞれ、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数1以上6以下のアルコキシ基、炭素数6以上10以下のアリール基、又は、炭素数7以上10以下のアラルキル基であり、
R
2は、アミノ基の保護基であり、
X
1は、ハロゲン原子であり、
【化2】
前記式(II)において、R
1、R
2、及びR
3は、それぞれ、前記式(I)におけるものと同義である。
【請求項2】
前記式(I)に表されるイソインドリン誘導体と前記ピナコールボランとの接触は、塩化リチウム存在下で行われる請求項1に記載のホウ素化イソインドリン誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記Mg試薬と、前記式(I)に表されるイソインドリン誘導体とを接触させて混合物を得た後、前記混合物に前記ピナコールボランを接触させることを含む、請求項1又は2に記載のホウ素化イソインドリン誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記Mg試薬は、Mg単体、下記式(1)に表されるグリニャール試薬、及び下記式(2)に表されるターボグリニャール試薬からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項3に記載のホウ素化イソインドリン誘導体の製造方法:
R4MgX2 (1)
R4MgX2・LiCl (2)
前記式(1)及び(2)において、
R4は、炭素数1以上6以下のアルキル基であり、
X2は、ハロゲン原子である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素化イソインドリン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式(A)に表されるガレノキサシンは、抗菌剤として有用な化合物である。
【0003】
【0004】
特許文献1には、このガレノキサシンを、下記式(B)に表される化合物と下記式(C)に表される化合物とをカップリングして製造することが記載されている。
【0005】
【0006】
上記式(B)において、R16は、水素原子、ハロゲン原子等であり、R17は、水素原子又はカルボキシル保護基であり、R18は、置換されていてもよいアルキル等であり、AはC-Y等(Yは、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル等)であり、Zは、塩素、臭素等である。
【0007】
【0008】
上記式(C)において、R11はアルキル基であり、R12は水素、アミノ保護基等であり、R14及びR15は水素若しくは低級アルキル基、又は、一緒になってホウ素を含有する環である。
【0009】
特許文献1及び2には、(1R)-5-ブロモ-1-メチル-2-トリチル-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドールと、n-ブチルリチウム及びホウ酸トリイソプロピルとを反応させることにより、上記(C)の化合物に該当する(1R)-1-メチル-2-トリチル-2,3-ジヒドロ-1H-5-イソインドリルボロン酸を得ることが記載されている。
【0010】
特許文献3には、触媒存在下、tert-ブチル5-ブロモ-1-メチルイソインドリン-2-カルボキシレートと、下記式(D)に表される化合物とを反応させて、上記(C)の化合物に該当する化合物を得ることが記載されている。
【0011】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平11-269179号公報
【特許文献2】特許第4252282号
【特許文献3】国際公開2014/171527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、ホウ素化イソインドリン誘導体の高収率な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
実施形態によると、ホウ素化イソインドリン誘導体の製造方法が提供される。この製造方法は、Mg試薬存在下、下記式(I)に表されるイソインドリン誘導体とピナコールボランとを接触させて、下記式(II)に表されるホウ素化イソインドリン誘導体を得ることを含む。
【0015】
【0016】
式(I)において、R1及びR3は、それぞれ、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数1以上6以下のアルコキシ基、炭素数6以上10以下のアリール基、又は、炭素数7以上10以下のアラルキル基である。R2は、アミノ基の保護基である。X1は、ハロゲン原子である。
【0017】
【0018】
式(II)において、R1、R2、及びR3は、それぞれ、式(I)におけるものと同義である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、ホウ素化イソインドリン誘導体の高収率な製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施形態によると、ホウ素化イソインドリン誘導体の製造方法が提供される。この製造方法は、Mg試薬存在下、下記式(I)に表されるイソインドリン誘導体とピナコールボランとを接触させて、下記式(II)に表されるホウ素化イソインドリン誘導体を得ることを含む。
【0021】
式(I)に表されるイソインドリン誘導体をホウ素化させて得られる式(II)に表されるホウ素化イソインドリン誘導体は、後述する式(III)に表されるキノロンイソインドリン誘導体の合成のための原料として用い得る。この式(III)に表されるキノロンイソインドリン誘導体は、上述したガレノキサシン等の医薬品、あるいは、その原料として有用な化合物である。
【0022】
実施形態に係る方法では、イソインドリン誘導体のホウ素化反応を、Mg試薬存在下で、ホウ素化剤としてピナコールボランを用いて行う。これにより、高収率で式(II)に表されるホウ素化イソインドリン誘導体が得られる。すなわち、ホウ素化剤としてピナコールボランを用いると、ホウ素化剤としてホウ酸トリメチル(B(OCH3)3)等のホウ酸エステルを用いた場合と比較して、高い収率で式(II)に表されるホウ素化イソインドリン誘導体が得られることを本発明者らは見出している。したがって、実施形態に係る方法によると、式(III)に表されるキノロンイソインドリン誘導体の生産効率も高められる。
【0023】
(イソインドリン誘導体)
イソインドリン誘導体は、下記式(I)に表される。イソインドリン誘導体は、実施形態に係る方法の基質となる物質である。
【0024】
【0025】
式(I)において、R1及びR3は、それぞれ、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数1以上6以下のアルコキシ基、炭素数6以上10以下のアリール基、又は、炭素数7以上10以下のアラルキル基である。R1は、水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。R3は、水素原子、又は炭素数1以上4以下のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0026】
R2は、アミノ基保護基である。アミノ基保護基としては、トリチル基、トリフルオロアセチル基、ピバロイル基、又はtert-ブトキシカルボニルが挙げられる。アミノ基保護基としては、トリチル基を用いることが好ましい。
【0027】
X1は、ハロゲン原子である。X1は、臭素、塩素、フッ素、又はヨウ素であることが好ましく、臭素であることがより好ましい。X1が臭素であると、イソインドリン誘導体のホウ素化反応が進行し易い傾向にある。
【0028】
イソインドリン誘導体としては、下記式(Ia)に表される(1R)-5-ブロモ-2,3-ジヒドロ-1-メチル-2-(トリフェニルメチル)-1H-イソインドールを用いることが好ましい。
【0029】
【0030】
(Mg試薬)
実施形態に係る方法において、マグネシウム(Mg)は、上記イソインドリン誘導体のハロゲン原子X1部位と反応して、下記に示す中間体(I’)を生成すると考えられる。そして、下記に示すように、中間体(I’)のMgX1部位がピナコールボラン(HBpin)に置換され、式(II)に表されるホウ素化イソインドリン誘導体が生成されると考えられる。
【0031】
【0032】
1モルのイソインドリン誘導体に対するMg試薬の量は、0.95モル以上5.00モル以下であることが好ましく、1.00モル以上3.50モル以下であることがより好ましい。
【0033】
Mg試薬としては、削状、帯状等のMg単体、下記式(1)に表されるグリニャール試薬、及び下記式(2)に表されるターボグリニャール試薬からなる群より選ばれる少なくとも1種を用い得る。
【0034】
R4MgX2 (1)
R4MgX2・LiCl (2)
式(1)及び(2)において、R4は、炭素数1以上6以下のアルキル基である。R4は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、又は、イソブチル基であることが好ましく、メチル基又はイソプロピル基であることがより好ましい。
【0035】
X2は、ハロゲン原子である。X2は、臭素、塩素、又はヨウ素であることが好ましく、臭素であることがより好ましい。X2は、式(I)におけるX1と同一原子であることが好ましい。
【0036】
Mg試薬としては、削状のMg単体及び上記式(2)に表されるターボグリニャール試薬からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0037】
(ホウ素化剤)
イソインドリン誘導体のホウ素化剤としては、ピナコールボラン(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン)を用いる。1モルのイソインドリン誘導体に対するピナコールボランの量は、0.95モル以上5.00モル以下であることが好ましく、1.00モル以上2.00モル以下であることがより好ましい。
【0038】
ホウ素化剤は、ピナコールボランと他のホウ素化剤との混合物であってもよい。他のホウ素化剤としては、例えば、ホウ酸エステルが挙げられる。ホウ酸エステルとしては、例えば、ホウ酸トリメチル(B(OCH3)3)、及びホウ酸トリイソプロピル(B(OCHCH3CH3)3)が挙げられる。ホウ素化剤は、ピナコールボランのみを含むことが好ましい。
【0039】
(塩化リチウム)
式(I)に表されるイソインドリン誘導体とピナコールボランとの接触は、塩化リチウム(LiCl)存在下で行われることが好ましい。塩化リチウムが存在すると、得られるホウ素化イソインドリン誘導体の純度及び収率が高まる傾向にある。
【0040】
塩化リチウムは、グリニャール試薬の会合状態を分解させ、分解されたグリニャール試薬のマグネシウムにリチウムが結合すると考えられる。これにより、マグネシウムが負電荷に近い性質を帯び、求核性が向上すると考えられている。
【0041】
1モルのイソインドリン誘導体に対する塩化リチウムの量は、0.95モル以上5.00モル以下であることが好ましく、1.00モル以上3.50モル以下であることがより好ましい。
1モルのMg試薬に対する塩化リチウムの量は、0.95モル以上2.00モル以下であることが好ましく、1.00モル以上1.50モル以下であることがより好ましい。
【0042】
なお、上述した式(2)に表されるターボグリニャール試薬は、塩化リチウムを含むため、このターボグリニャール試薬をMg試薬として用いる場合、塩化リチウムを別途混合しなくとも、塩化リチウムを混合した場合と同等の効果を示すと考えられる。ターボグリニャール試薬と、別途添加した塩化リチウムとを併用してもよい。
【0043】
(イソインドリン誘導体のホウ素化)
式(I)に表されるイソインドリン誘導体とピナコールボランとの接触は、Mg試薬存在下であれば、どのような順で接触させてもよい。式(I)に表されるイソインドリン誘導体とピナコールボランとの接触は、グリニャール反応により行われてもよく、バルビエ反応により行われてもよいが、グリニャール反応により行われることが好ましい。
【0044】
グリニャール反応においては、先ず、Mg試薬と式(I)に表されるイソインドリン誘導体とを接触させて混合物を得る。この混合物は、Mg試薬と式(I)に表されるイソインドリン誘導体とが反応して生成した上記中間体(I’)を含むと考えられる。混合物を得る際の温度は0℃以上90℃以下が好ましく、10℃以上70℃以下がより好ましい。反応時間は、反応が完結する時間に適宜決定すればよいが、通常、0.5時間以上24時間以下が好ましく、1時間以上12時間以下がより好ましい。塩化リチウムを用いる場合、この混合物にMg試薬と同時に混合することが好ましい。Mg単体及び塩化リチウムを用いる場合、これらを事前に加熱して、水分を除去しておくことが好ましい。
【0045】
次に、得られた混合物にピナコールボランを接触させて、ホウ素化イソインドリン誘導体を得る。ピナコールボラン投入の際の温度は-20℃以上40℃以下が好ましく、-10℃以上30℃以下がより好ましい。反応時間は、反応が完結する時間に適宜決定すればよいが、通常、0.5時間以上24時間以下が好ましく、1時間以上12時間以下がより好ましい。
【0046】
この反応は、溶媒存在下で行われることが好ましい。溶媒が存在する場合、Mg試薬と式(I)に表わされるイソインドリン誘導体と同時に混合することが望ましい。溶媒としては、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、tert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルセロソルブ等のエ-テル系の溶媒;トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系の溶媒;ジクロロメタン等のハロゲン系の溶媒等を挙げることができる。これら溶媒は、単独で、又はこれらの混合溶媒として用いることができる。1gのイソインドリン誘導体に対する、溶媒の量は、1mL以上50mL以下であることが好ましく、3mL以上20mL以下であることがより好ましい。なお、溶媒として混合溶媒を使用する場合には、混合溶媒の全量が前記範囲を満足すればよい。
【0047】
バルビエ反応は、Mg試薬と式(I)に表されるイソインドリン誘導体とピナコールボランとを、ほぼ同時に接触させる方法である。この方法においては、これらの混合物中で、Mg試薬と式(I)に表されるイソインドリン誘導体とが反応して上記中間体(I’)が生成された後、この中間体(I’)とピナコールボランとが反応してホウ素化イソインドリン誘導体を生成する反応が連続的に生じていると考えられる。バルビエ反応においては、Mg試薬としてMg単体を用いることが好ましい。混合物を得る際の温度は0℃以上70℃以下が好ましく、10℃以上40℃以下がより好ましい。反応時間は、反応が完結する時間に適宜決定すればよいが、通常、0.5時間以上24時間以下が好ましく、1時間以上12時間以下がより好ましい。
【0048】
塩化リチウムを用いる場合、Mg試薬と式(I)に表されるイソインドリン誘導体とピナコールボランとを混合する際に、同時に塩化リチウムを混合することが好ましい。
【0049】
この反応は、溶媒存在下で行われることが好ましい。溶媒が存在する場合、Mg試薬と式(I)に表わされるイソインドリン誘導体とピナコールボランと同時に混合することが望ましい。
【0050】
溶媒の種類、量についてはグリニャール反応と同じであれば良い。
【0051】
(ホウ素化イソインドリン誘導体)
上記の方法で得られたホウ素化イソインドリン誘導体は、下記式(II)に表される。このホウ素化イソインドリン誘導体は、後述する式(III)に表されるキノロンイソインドリン誘導体の合成のための原料として用い得る。
【0052】
【0053】
式(II)において、R1、R2、及びR3は、それぞれ、式(I)におけるものと同義である。
【0054】
なお、上記の方法により、式(II)に表されるホウ素化イソインドリン誘導体が製造されていることは、核磁気共鳴(NMR)分光分析により確認できる。
【0055】
上記式(Ia)に表されるイソインドリン誘導体を用いた場合、下記式(IIa)に表される(1R)-2,3-ジヒドロ-1-メチル-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-2-(トリフェニルメチル)-1H-イソインドールが得られる。
【0056】
【0057】
(キノロンイソインドリン誘導体の製造方法)
キノロンイソインドリン誘導体は、例えば、上述した式(II)に表されるホウ素化イソインドリン誘導体と、下記式(IV)に表されるキノロン誘導体とを、遷移金属触媒存在下で接触させることにより得られる。
【0058】
キノロンイソインドリン誘導体は、下記式(III)に表される。キノロンイソインドリン誘導体は、例えば、上述したガレノキサシン等の医薬品の原料として使用し得る。
【0059】
【0060】
式(III)において、R1、R2、及びR3は、それぞれ、式(I)におけるものと同義である。R5、R6、及びR7は、それぞれ、式(II)におけるものと同義である。
【0061】
R5は、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数6以上10以下のアリール基、又は、炭素数7以上10以下のアラルキル基である。R5は、好ましくは炭素数1以上4以下のアルキル基又は水素原子であり、より好ましくはエチル基である。
【0062】
R6は、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数3以上8以下のシクロアルキル基、炭素数1以上6以下のハロアルキル基、炭素数2以上6以下のアルケニル基、炭素数6以上10以下のアリール基、又は、炭素数4以上10以下の複素環基である。
【0063】
R6は、好ましくは炭素数1以上4以下のアルキル基、又は、炭素数3以上6以下のシクロアルキル基、より好ましくはシクロプロピル基である。
【0064】
R7は、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数1以上6以下のハロアルキル基、又は、炭素数7以上10以下のアラルキル基である。
【0065】
R7は、好ましくは炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数1以上4以下のハロアルキル基、より好ましくはジフルオロメチル基である。
【0066】
キノロン誘導体は、下記式(IV)に表される。
【0067】
【0068】
式(IV)において、R5、R6、及びR7は、それぞれ、式(III)におけるものと同義である。
【0069】
X3は、ハロゲン原子である。X3は、臭素、塩素、フッ素、又はヨウ素であることが好ましく、臭素であることがより好ましい。X3が臭素であると、イソインドリン誘導体とのカップリングが進行し易い傾向にある。
【0070】
ホウ素化イソインドリン誘導体とキノロン誘導体との接触において、接触させるときの温度は0℃以上120℃以下が好ましく、30℃以上90℃以下がより好ましい。反応時間は、反応が完結する時間に適宜決定すればよいが、通常、0.5時間以上24時間以下が好ましく、1時間以上12時間以下がより好ましい。反応雰囲気は特に制限されないが、例えば、不活性ガス(例えば、窒素やアルゴン等)の雰囲気下で行ってよい。
【0071】
ホウ素化イソインドリン誘導体とキノロン誘導体との接触は、遷移金属触媒存在下で行われる。触媒としては、パラジウム触媒、又は、ニッケル触媒を用いることが好ましい。パラジウム触媒としては、[1,1-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)、ビス(トリフェニルホスフィン)ジクロロパラジウム(II)、[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ジクロロパラジウム(II)、及び[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ジクロロパラジウム(II)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を用いることが好ましい。1モルのホウ素化イソインドリン誘導体に対する、触媒の量は、0.001モル以上1モル以下であることが好ましく、0.02モル以上0.5モル以下であることがより好ましい。
【0072】
ホウ素化イソインドリン誘導体とキノロン誘導体との接触は、触媒に加えて、塩基化合物の存在下で行われることが好ましい。塩基化合物は、触媒存在下、ホウ素化イソインドリン誘導体とキノロン誘導体とのクロスカップリングを促進する。
【0073】
塩基化合物としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、りん酸三ナトリウム、りん酸三カリウム、トリエチルアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いる。1モルのホウ素化イソインドリン誘導体に対する、塩基化合物の量は、1モル以上5モル以下であることが好ましく、1.2モル以上4モル以下であることがより好ましい。
【0074】
ホウ素化イソインドリン誘導体とキノロン誘導体との接触は、溶媒存在下で行われることが好ましい。溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール等のアルコール系の溶媒;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、tert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルセロソルブ等のエ-テル系の溶媒;トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系の溶媒;アセトン等のケトン系の溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系の溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、水等を挙げることができる。これら溶媒は、単独で、又は混合溶媒として用いることができる。1gのホウ素化イソインドリン誘導体に対する、溶媒の量は、1mL以上50mL以下であることが好ましく、3mL以上20mL以下であることがより好ましい。なお、溶媒として混合溶媒を使用する場合には、混合溶媒の全量が前記範囲を満足すればよい。
【0075】
キノロンイソインドリン誘導体の製造においては、先ず、撹拌機構を備えた反応容器内で溶媒、ホウ素化イソインドリン誘導体、及びキノロン誘導体を混合して混合物を得る。次いで、この混合物に触媒、及び塩基をこの順で混合する。撹拌温度は0℃以上120℃以下が好ましく、30℃以上90℃以下がより好ましい。反応時間は、反応が完結する時間に適宜決定すればよいが、通常、0.5時間以上24時間以下が好ましく、1時間以上12時間以下がより好ましい。
【0076】
得られた物質がキノロンイソインドリン誘導体であることは、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光分析により確認できる。
【実施例0077】
以下に実施例を挙げて、本発明を詳細に説明する。なお、下記に示す実施例は、例示的な具体例であって、本発明は、これらにより限定されるものではない。
【0078】
なお、実施例における評価は、以下の方法で行った。
<純度の評価(HPLCの測定条件)>
装置:液体クロマトグラフ装置(Waters Corporation製)
検出器:紫外吸光光度計
測定波長:254nm
カラム:内径4.6mm、長さ150mmのステンレス管に、5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルが充てんされたもの。
移動相A:アセトニトリル
移動相B:20mMりん酸水素二カリウム水溶液に1M水酸化カリウム水溶液を加えてpH11に調製した混合液
移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比を次のように変えて濃度勾配制御する。
【0079】
【0080】
流量:毎分0.8mL
カラム温度:30℃付近の一定温度
測定時間:45分
(1R)-5-ブロモ-2,3-ジヒドロ-1-メチル-2-(トリフェニルメチル)-1H-イソインドール:39.0分
B-[(1R)-2,3-ジヒドロ-1-メチル-2-(トリフェニルメチル)-1H-イソインドール-5-イル]ボロン酸:25.2分
(1R)-2,3-ジヒドロ-1-メチル-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-2-(トリフェニルメチル)-1H-イソインドール:42.4分
純度は、上記条件で測定される全ピーク(溶媒ピークを除く)の面積値の合計に対する目的化合物の面積値の割合である。
(グリニャール反応)
[実施例1]
撹拌機構を備えた100mL反応容器に、削状Mg(0.321g、13.2mmol)と、塩化リチウム(0.466g、11.0mmol)とを混合し、減圧下、ヒートガンで加熱した。反応容器内を窒素雰囲気に置換し、(1R)-5-ブロモ-2,3-ジヒドロ-1-メチル-2-(トリフェニルメチル)-1H-イソインドール(5.00g、11.0mmol)と、テトラヒドロフラン(25mL)との混合物を加え40℃で2時間撹拌した。混合液を0℃に冷却し、ピナコールボラン(1.41g、11.0mmol)を滴下し、同温度で1時間撹拌した。混合液に10%食塩水(20mL)を滴下し、次いで酢酸エチル(20mL)を加え混合液をろ過した後、有機層を分取し、減圧下濃縮した。濃縮残渣にヘプタン(20mL)を加え析出晶をろ取し、(1R)-2,3-ジヒドロ-1-メチル-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-2-(トリフェニルメチル)-1H-イソインドール(4.54g、収率82.3%、純度97.2%)を得た。
【0081】
実施例1で得られた(1R)-2,3-ジヒドロ-1-メチル-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-2-(トリフェニルメチル)-1H-イソインドールの物性データは、以下の通りであった。
【0082】
NMR(400MHz、CDCL3、TMS)δ値6.60-8.20(m、18H)、3.70-4.90(m、3H)、1.45(s、12H)、1.38(d、3H)
[実施例2]
表2に記載のとおり、塩化リチウムを使用しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で実施した。なお、得られた物性データは、実施例1のものと一致した。
[実施例3]
撹拌機構を備えた100mL反応容器に(1R)-5-ブロモ-2,3-ジヒドロ-1-メチル-2-(トリフェニルメチル)-1H-イソインドール(5.00g、11.0mmol)を加え、反応容器内を窒素雰囲気に置換した。イソプロピルマグネシウムクロリド-塩化リチウム錯体・テトラヒドロフラン溶液(33mL、33.0mmol、1M)を加え、還流下、4時間撹拌した。混合液を0℃に冷却し、ピナコールボラン(4.23g、33.0mmol)を滴下し、同温度で1時間撹拌した。混合液に10%食塩水(20mL)を滴下し、次いで酢酸エチル(20mL)を加え混合液をろ過した後、有機層を分取し、減圧下濃縮した。濃縮残渣にヘプタン(20mL)を加え析出晶をろ取し、(1R)-2,3-ジヒドロ-1-メチル-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-2-(トリフェニルメチル)-1H-イソインドール(4.48g、収率81.2%、純度96.2%)を得た。
なお、得られた物性データは、実施例1のものと一致した。
(バルビエ反応)
[実施例4]
撹拌機構を備えた100mL反応容器に、削状Mg(0.321g、13.2mmol)と、塩化リチウム(0.466g、11.0mmol)とを混合し、減圧下、ヒートガンで加熱した。反応容器内を窒素雰囲気に置換し、(1R)-5-ブロモ-2,3-ジヒドロ-1-メチル-2-(トリフェニルメチル)-1H-イソインドール(5.00g、11.0mmol)と、テトラヒドロフラン(25mL)との混合物を加えた後、ピナコールボラン(1.41g、11.0mmol)を滴下し、25℃で3時間撹拌した。混合液に10%食塩水(20mL)を滴下し、次いで酢酸エチル(20mL)を加え混合液をろ過した後、有機層を分取し、減圧下濃縮した。濃縮残渣にヘプタン(20mL)を加え析出晶をろ取し、(1R)-2,3-ジヒドロ-1-メチル-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-2-(トリフェニルメチル)-1H-イソインドール(4.77g、収率86.4%、純度97.8%)を得た。
なお、得られた物性データは、実施例1のものと一致した。
[実施例5]
表2に記載のとおり、塩化リチウムを使用しなかったこと以外は、実施例4と同様の方法で実施した。なお、得られた物性データは、実施例1のものと一致した。
(キノロンイソインドリン誘導体の合成方法)
[実施例6]
撹拌機構を備えた100mL反応容器に、2-メチルテトラヒドロフラン(25mL)、7-ブロモ-1-シクロプロピル-8-ジフルオロメトキシ-1,4-ジヒドロ-4-オキソキノリン-3-カルボン酸エチルエステル(5.00g、12.4mmol)、及び実施例1で得られた(1R)-2,3-ジヒドロ-1-メチル-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-2-(トリフェニルメチル)-1H-イソインドール(6.25g、12.4mmol)を混合して混合物を得た。この混合物に炭酸ナトリウム(1.98g、18.6mmol)、[1,1-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II)(0.87g、1.2mmol)、及び水(5mL)をこの順で混合して混合液を得た。この混合液を2時間加熱還流した。還流後の混合液に水(20mL)を加えた後、有機層を分取し、減圧下濃縮した。得られた濃縮残渣にメタノール(15mL)を加えて加熱溶解した。放冷後、固形分をろ取し、(R)-1-シクロプロピル-8-ジフルオロメトキシ-7-(1-メチル-2-トリチルイソインドリン-5-イル)-1,4-ジヒドロ-4-オキソキノリン-3-カルボン酸エチルエステル(6.10g、収率91.1%)を得た。
【0083】
なお、得られた固形分についてNMR分光分析を行い、(R)-1-シクロプロピル-8-ジフルオロメトキシ-7-(1-メチル-2-トリチルイソインドリン-5-イル)-1,4-ジヒドロ-4-オキソキノリン-3-カルボン酸エチルエステルであることを確認した。物性データは、以下の通りであった。
【0084】
NMR(400MHz、DMSO-d6、TMS)δ値8.58(s、1H)、8.13(d、1H)、6.80-7.80(m、19H)、6.19(t、1H)、3.7-4.7(m、6H)、0.90-1.50(m、10H)
[参考例1~2]
表2に記載のとおり、ホウ素化剤、反応時間を変更した以外は、実施例1と同様の方法で実施した。なお、得られた参考例1~2のB-[(1R)-2,3-ジヒドロ-1-メチル-2-(トリフェニルメチル)-1H-イソインドール-5-イル]ボロン酸の物性データは以下のとおりであった。
【0085】
NMR(400MHz、CDCL3、TMS)δ値6.70-7.75(m、18H)、3.90-4.70(m、3H)、1.39(d、3H)
[参考例3]
表2に記載のとおり、ホウ素化剤、反応時間を変更した以外は、実施例3と同様の方法で実施した。なお、得られた物性データは、参考例1のものと一致した。
[参考例4~5]
表2に記載のとおり、ホウ素化剤を変更した以外は、実施例4と同様の方法で実施した。なお、得られた物性データは、参考例1のものと一致した。
【0086】