(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176467
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】ポリアミド組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20221122BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082922
(22)【出願日】2021-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(72)【発明者】
【氏名】奥村 知世
(72)【発明者】
【氏名】大嶌 太智
(72)【発明者】
【氏名】市橋 靖久
(72)【発明者】
【氏名】大久保 敬
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CG011
4J002DA016
4J002FA046
4J002FB066
4J002FB076
4J002FD016
4J002GC00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】ポリアミドと炭素繊維との界面接着性、及び、炭素繊維のポリアミドへの分散性の向上により、成形体としたときの機械特性が向上したポリアミド組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリアミド組成物の製造方法は、二酸化塩素ラジカルの存在下で、(B)炭素繊維を含む反応系に光照射することで、前記(B)炭素繊維を酸化する酸化工程と、(A)ポリアミドと、酸化された前記(B)炭素繊維と、を溶融混練して、ポリアミド組成物を得る、溶融混練工程と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化塩素ラジカルの存在下で、(B)炭素繊維を含む反応系に光照射することで、前記(B)炭素繊維を酸化する酸化工程と、
(A)ポリアミドと、酸化された前記(B)炭素繊維と、を溶融混練して、ポリアミド組成物を得る、溶融混練工程と、
を含む、ポリアミド組成物の製造方法。
【請求項2】
X線光電子分光分析による、酸化された前記(B)炭素繊維の表面元素中の相対酸素原子濃度が5atom%以上である、請求項1に記載のポリアミド組成物の製造方法。
【請求項3】
前記酸化工程において、光照射される前記(B)炭素繊維の長さは1m以下である、請求項1又は2に記載のポリアミド組成物の製造方法。
【請求項4】
前記酸化工程において、光照射される前記(B)炭素繊維のかさ密度は0.05g/cm3以上0.34g/cm3以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリアミド組成物の製造方法。
【請求項5】
前記酸化工程において、前記二酸化塩素ラジカルの発生源が亜塩素酸イオンであり、
前記亜塩素酸イオンに、ルイス酸及びブレーンステッド酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を作用させて、前記二酸化塩素ラジカルを発生させる、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリアミド組成物の製造方法。
【請求項6】
前記酸化工程において、反応温度が50℃以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリアミド組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド6(以下、「PA6」と略記する場合がある)及びポリアミド66(以下、「PA66」と略記する場合がある)等に代表されるポリアミドは、成形加工性、機械特性又は耐薬品性に優れていることから、自動車用、電気及び電子用、産業資材用、工業材料用、日用及び家庭品用等の各種部品材料として広く用いられている。近年、自動車の燃費向上のため、自動車の軽量化が求められていることから、低比重且つ優れた強度、剛性の機械特性を有する材料が求められている。
【0003】
このような要求に応えるため、炭素繊維強化ポリアミド組成物は工業的に重要な材料として注目され、種々の炭素繊維強化ポリアミド組成物が開示されている(例えば、特許文献1~5参照)。ただし、金属材料やガラス繊維強化樹脂組成物の代替品として十分に普及するまでには至っていない。その原因のひとつとして、ポリアミドと炭素繊維との界面接着性が悪く、炭素繊維が十分な補強効果を発揮できないこと、又は、炭素繊維そのものが製造時に多量のエネルギーを必要とし、複雑な製造工程を経て製造されるため、未だ高価であることが挙げられる。
【0004】
炭素繊維そのものが製造時に多量のエネルギーを必要とし、複雑な製造工程を経て製造されるという課題に対し、より製造エネルギーが小さい炭素繊維の製造方法が提案されている(例えば、特許文献6~8参照)。具体的には、特許文献6では、補強効果に優れ、マトリックス樹脂への分散性にも優れた炭素繊維が開示されている。また、特許文献7、8では、樹脂と炭素繊維とにさらに第三成分を添加した炭素繊維樹脂組成物が開示されている。しかし、工業的に広く普及している製造方法で生産された炭素繊維も、上記で挙げたより製造エネルギーが小さい製造方法で生産された炭素繊維も、樹脂との親和性を向上させるためにその表面を改質する必要があるという課題がある。
【0005】
炭素繊維の表面を改質する手法としては、例えば、工業的に広く普及している製造方法で生産された炭素繊維は連続的な形状で生産されており、この連続炭素繊維については、ローラーで連続的に炭素繊維を送りながら、炭素繊維を電解液中で電解酸化法により表面処理し、表面の官能基を増やして樹脂との親和性を向上させる手法が一般的に用いられる(例えば、特許文献9)。また、そのような炭素繊維の表面処理には、硝酸や硫酸等の強酸による薬液処理が適用される場合もある(例えば、特許文献10)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-145036号公報
【特許文献2】特開2015-129271号公報
【特許文献3】特開2015-199959号公報
【特許文献4】国際公開第2013/080820号
【特許文献5】国際公開第2013/077238号
【特許文献6】特開2017-002125号公報
【特許文献7】特表2016-540067号公報
【特許文献8】国際公開第2007/058298号
【特許文献9】特開2007-224459号公報
【特許文献10】特願平10-78311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献9等の記載の手法では、炭素繊維が不連続となる、より製造エネルギーの小さい製造方法で生産された炭素繊維では有効に利用することができない。
また、特許文献10等に記載の、硝酸や硫酸等の強酸を用いた表面処理は、廃液処理や安全対策が必要で、工業的な利用として好ましくない。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ポリアミドと炭素繊維との界面接着性、及び、炭素繊維のポリアミドへの分散性の向上により、成形体としたときの機械特性が向上したポリアミド組成物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1) 二酸化塩素ラジカルの存在下で、(B)炭素繊維を含む反応系に光照射することで、前記(B)炭素繊維を酸化する酸化工程と、
(A)ポリアミドと、酸化された前記(B)炭素繊維と、を溶融混練して、ポリアミド組成物を得る、溶融混練工程と、
を含む、ポリアミド組成物の製造方法。
(2) X線光電子分光分析による、酸化された前記(B)炭素繊維の表面元素中の相対酸素原子濃度が5atom%以上である、(1)に記載のポリアミド組成物の製造方法。
(3) 前記酸化工程において、光照射される前記(B)炭素繊維の長さは1m以下である、(1)又は(2)に記載のポリアミド組成物の製造方法。
(4) 前記酸化工程において、光照射される前記(B)炭素繊維のかさ密度は0.05g/cm3以上0.34g/cm3以下である、(1)~(3)のいずれか一つに記載のポリアミド組成物の製造方法。
(5) 前記酸化工程において、前記二酸化塩素ラジカルの発生源が亜塩素酸イオンであり、
前記亜塩素酸イオンに、ルイス酸及びブレーンステッド酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を作用させて、前記二酸化塩素ラジカルを発生させる、(1)~(4)のいずれか一つに記載のポリアミド組成物の製造方法。
(6) 前記酸化工程において、反応温度が50℃以下である、(1)~(5)のいずれか一つに記載のポリアミド組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
上記態様によれば、ポリアミドと炭素繊維との界面接着性、及び、炭素繊維のポリアミドへの分散性の向上により、成形体としたときの機械特性が向上したポリアミド組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。
以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜変形して実施することができる。
【0012】
なお、本明細書において、「ポリアミド」とは主鎖中にアミド(-NHCO-)結合を有する重合体を意味する。
【0013】
≪ポリアミド組成物の製造方法≫
本実施形態の製造方法は、以下の工程を含む。
二酸化塩素ラジカルの存在下で、(B)炭素繊維を含む反応系に光照射することで、前記(B)炭素繊維を酸化する酸化工程;
(A)ポリアミドと、酸化された前記(B)炭素繊維と、を溶融混練して、ポリアミド組成物を得る、溶融混練工程。
【0014】
本実施形態の製造方法は、上記構成を有することで、ポリアミドと炭素繊維との界面接着性、及び、炭素繊維のポリアミドへの分散性を向上させることができ、その結果、成形体としたときの機械特性が向上したポリアミド組成物が得られる。
【0015】
次いで、本実施形態の製造方法の各工程について以下に詳細を説明する。
【0016】
<酸化工程>
酸化工程では、二酸化塩素ラジカルの存在下で、(B)炭素繊維を含む反応系に光照射することで、前記(B)炭素繊維を酸化する。
【0017】
発明者らは、炭化水素またはその誘導体の酸化反応生成物の製造方法の技術(例えば、特許第6080281号公報(参考文献1)参照)が、炭素繊維に適用可能であり、当該技術を適用して炭素繊維表面を酸化することで、ポリアミドと炭素繊維との界面接着性、及び、炭素繊維のポリアミドへの分散性を向上させることができ、その結果、成形体としたときの機械特性が向上することを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0018】
本実施形態の製造方法における酸化工程は、第1に、炭素繊維の形状に関わらず適用可能であり、第2に、廃液処理や安全対策が容易であり、且つ、第3に、工程数が少なく工業化に最適である、という利点を有する。
【0019】
酸化工程において、反応温度は、100℃以下で行うことができるが、50℃以下であることが好ましく、40℃以下であることがより好ましく、30℃以下であることがさらに好ましい。反応温度が上記上限値以下であることで、好ましくない副反応の進行をより抑制することができる。その結果、得られるポリアミド組成物を成形体としたときの120℃程度の高温環境下での引張強度及びクリープ破断応力をより優れたものとすることができる。
一方、反応温度は、10℃以上で行うことができるが、20℃以上であることが好ましく、23℃以上であることがより好ましい。反応温度が上記下限値以上であることで、反応の進行をより促進することができる。
【0020】
酸化工程において、光の照射時間は、1分間超であることが好ましく、1.5分間以上であることがより好ましく、2分間以上であることがさらに好ましく、3分間以上であることが特に好ましい。光の照射時間が上記下限値以上であることで、炭素繊維の酸化をより進行させることができる。
一方、光の照射時間は、15分間以下であることが好ましく、13分間以下であることがより好ましく、12分間以下であることがさらに好ましく、10分間以下であることが特に好ましい。光の照射時間が上記上限値以下であることで、よりコストを低減することができ、より経済的である。
【0021】
[(B)炭素繊維]
酸化工程で用いられる(B)炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等が挙げられる。
【0022】
酸化工程で用いられる(B)炭素繊維の長さは、1m以下であることが好ましく、50cm以下であることがより好ましく、10cm以下であることがさらに好ましく、1cm以下であることが特に好ましい。(B)炭素繊維の長さが上記上限値以下であることで、酸化反応がより均一に進行し、(A)ポリアミドと(B)炭素繊維とが、界面においてより均一に接着することができる。一方、酸化工程で用いられる(B)炭素繊維の長さは、例えば、1mm以上とすることができる。
なお、ここでいう長さとは、炭素繊維の繊維長を意味し、炭素繊維を光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡等で観察し、測定した各繊維長の二乗の合計を、測定した各繊維長の合計で割ることで算出される重量平均繊維長を意味する。
【0023】
酸化工程で用いられる(B)炭素繊維のかさ密度は、0.05g/cm3以上0.34g/cm3以下であることが好ましく、0.05g/cm3以上0.30g/cm3以下であることがより好ましく、0.05g/cm3以上0.25g/cm3以下であることがさらに好ましく、0.06g/cm3以上0.20g/cm3以下であることが特に好ましい。かさ密度が上記数値範囲内であることで、酸化工程中に、(B)炭素繊維が均一に分散して酸化反応がより均一に進行し、その結果、(A)ポリアミドと(B)炭素繊維とが、界面においてより均一に接着することができる。
かさ密度を上記数値範囲内とするために、例えば、収束剤の塗布量を調整する、表面状態を改質してかさ密度を調整するために加熱処理をする、等の手法を用いることができる。
【0024】
酸化工程で用いられる(B)炭素繊維は、本実施形態の製造方法が奏する効果を妨げない範囲内で、一定量の不純物を含んでいてもよい。不純物としては、(B)炭素繊維の製造工程で混入されるもの又は生成されるものがあり、具体的には、例えば、ウレタン系収束剤、無水マレイン酸系収束剤、アクリル系収束剤、ポリアミド系収束剤等の収束剤、これら収束剤や炭素繊維に付着した樹脂等に由来する樹脂の炭化物等の有機物;塩等の無機物等が挙げられる。
不純物の含有量は、(B)炭素繊維(不純物を含む)の質量に対して、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。不純物の含有量が上記上限値以下であることで、本実施形態の製造方法が奏する効果をより十分に発揮することができる。また、不純物の含有量の下限値は特に限定されず、物性向上の観点から不純物の含有量がより少ないほうが好ましいが、一定量の不純物を含む(B)炭素繊維を用いることが経済的な観点から好ましい。不純物の含有量の下限値としては、例えば、0質量%以上とすることができ、0.1質量%以上とすることができる。
【0025】
酸化工程において、二酸化塩素ラジカルの発生源は、亜塩素酸イオン(ClO2-)であり、且つ、亜塩素酸イオンに、ルイス酸及びブレーンステッド酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を作用させて、前記二酸化塩素ラジカルを発生させることが好ましい。これにより、より効率的に(B)炭素繊維の表面を酸化することができる。
【0026】
酸化工程において、得られる酸化された(B)炭素繊維において、X線光電分光(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)分析による、酸化された(B)炭素繊維の表面元素中の相対酸素原子濃度が5atom%以上であることが好ましく、11atom%以上であることがより好ましい。XPS分析による(B)炭素繊維の表面元素中の相対酸素原子濃度が上記下限値以上であることで、(A)ポリアミドと(B)炭素繊維との界面接着性がより向上し、引張強度や耐クリープ特性がより向上する。XPS分析による(B)炭素繊維の表面元素中の相対酸素元素濃度を上記下限値以上とする方法としては、例えば、酸化工程における反応系に光照射する反応温度や反応時間を調整する方法等が挙げられる。
一方、XPS分析による(B)炭素繊維の表面元素中の相対酸素元素濃度の上限値は特に限定されず、例えば、30atom%以下とすることができ、25atom%以下とすることができる。
【0027】
<溶融混練工程>
溶融混練工程では、(A)ポリアミドと、酸化された(B)炭素繊維と、を溶融混練して、ポリアミド組成物を得る。
【0028】
(A)ポリアミド及び酸化された(B)炭素繊維を含む原料成分を溶融混練する方法としては、例えば、以下の(1)又は(2)の方法等が挙げられる。
(1)(A)ポリアミド及び酸化された(B)炭素繊維とその他の原料とをタンブラー、ヘンシェルミキサー等を用いて混合し、溶融混練機に供給し混練する方法。
(2)単軸又は2軸押出機で溶融状態にした(A)ポリアミドに、サイドフィダーから酸化された(B)炭素繊維及びその他の原料を配合する方法。
(3)単軸又は2軸押出機で溶融状態にした(A)ポリアミドに、トップフィーダーから酸化された(B)炭素繊維及びその他の原料を配合する方法。
【0029】
ポリアミド組成物を構成する成分を溶融混練機に供給する方法は、すべての構成成分を同一の供給口に一度に供給してもよく、構成成分をそれぞれ異なる供給口から供給してもよい。
【0030】
溶融混練温度は、樹脂温度にして250℃以上350℃以下程度であることが好ましい。樹脂温度が上記下限値以上であることで、樹脂をより十分溶融させて添加物と十分に混錬することができ、一方、樹脂温度が上記上限値以下であることで樹脂の分解をより抑制することができる。
溶融混練時間は、0.25分間以上5分間程度であることが好ましい。溶融混練時間が上記下限値以上であることで樹脂と添加物をより十分に混錬することができ、一方、溶融混練時間が上記上限値以下であることで樹脂の分解をより抑制することができる。
溶融混練を行う装置としては、特に限定されるものではなく、公知の装置、例えば、単軸又は2軸押出機等の溶融混練機を用いることができる。
【0031】
次いで、酸化工程で得られた酸化された(B)炭素繊維以外の、ポリアミド組成物に含まれる各構成成分について以下に詳細を説明する。
【0032】
得られたポリアミド組成物において、酸化された(B)炭素繊維の含有量は、ポリアミド組成物の総質量に対して、例えば5質量%以上50質量%以下とすることができ、例えば10質量%以上40質量%以下とすることができ、例えば15質量%以上35質量%以下とすることができる。
【0033】
[(A)ポリアミド]
(A)ポリアミドとしては、以下に制限されないが、例えば、(A-a)ラクタムの開環重合で得られるポリアミド、(A-b)ω-アミノカルボン酸の自己縮合で得られるポリアミド、(A-c)ジアミン及びジカルボン酸を縮合することで得られるポリアミド、並びに、これらの共重合物等が挙げられる。(A)ポリアミドは、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0034】
(A)ポリアミドとして具体的には、例えば、ポリアミド4(ポリα-ピロリドン)、ポリアミド6(ポリカプロアミド)、ポリアミド11(ポリウンデカンアミド)、ポリアミド12(ポリドデカンアミド)、ポリアミド46(ポリテトラメチレンアジパミド)、ポリアミド56(ポリペンタメチレンアジパミド)、ポリアミド66(ポリヘキサメチレンアジパミド)、ポリアミド610(ポリヘキサメチレンセバカミド)、ポリアミド612(ポリヘキサメチレンドデカミド)、ポリアミド6T(ポリヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド9T(ポリノナンメチレンテレフタルアミド)、及び、これらを構成成分として含む共重合ポリアミド等が挙げられる。
中でも、(A)ポリアミドとしては、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド46(PA46)、又は、ポリアミド610(PA610)が好ましい。PA66は、耐熱性、成形性及び靭性に優れていることから、自動車部品に好適な材料である。また、PA610等の長鎖脂肪族ポリアミドは、耐薬品性に優れる。
【0035】
(A)ポリアミドの含有量は、ポリアミド組成物の総質量に対して、例えば50質量%以上99質量%以下とすることができ、例えば60質量%以上95質量%以下とすることができ、例えば70質量%以上85質量%以下とすることができる。
【0036】
[(C)炭素繊維以外の無機充填材]
ポリアミド組成物は、上記(A)、(B)の各成分に加えて、(C)炭素繊維以外の無機充填材をさらに含有してもよい。
(C)炭素繊維以外の無機充填材としては、例えば、ガラス繊維、タルク、マイカ等が挙げられる。(C)炭素繊維以外の無機充填材を含有することにより、ポリアミド組成物を成形体としたときの強度、剛性や表面外観により優れる。
【0037】
[(D)その他添加剤]
ポリアミド組成物は、上記(A)、(B)の各成分に加えて、本実施形態の製造方法が奏する効果を損なわない範囲で、ポリアミドに慣用的に用いられる(D)その他添加剤を更に含有することができる。(D)その他添加剤としては、例えば、顔料及び染料等の着色剤(着色マスターバッチを含む)、難燃剤、フィブリル化剤、蛍光漂白剤、可塑化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、流動性改良剤、展着剤、エラストマー等が挙げられる。
【0038】
ポリアミド組成物中の(D)その他添加剤の含有量は、その種類やポリアミド組成物の用途等によって様々であり、本実施形態の製造方法が奏する効果を損なわない範囲であれば特に制限されることはない。
【0039】
≪成形体≫
本実施形態の成形体は、上記実施形態の製造方法で得られたポリアミド組成物を成形してなる。
【0040】
本実施形態の成形体は、機械特性、特に引張強度や耐クリープ特性に優れる。
【0041】
本実施形態の成形体は、上記実施形態の製造方法で得られたポリアミド組成物を公知の成形方法を用いて、成形することにより得られる。
公知の成形方法としては、以下に限定されるものではないが、例えば、プレス成形、射出成形、ガスアシスト射出成形、溶着成形、押出成形、吹込成形、フィルム成形、中空成形、多層成形、溶融紡糸等、一般に知られているプラスチック成形方法が挙げられる。
【0042】
<用途>
本実施形態の成形体は、上記実施形態の製造方法で得られたポリアミド組成物から得られるので、機械特性、特に引張強度や耐クリープ特性に優れる。そのため、本実施形態の成形体は、自動車部品、電気及び電子部品、家電部品、OA(Office Automation)機器部品、携帯機器部品、産業機器部品、日用品及び家庭品用等の各種部品として、また、押出用途等に好適に用いることができる。中でも、本実施形態の成形体は、自動車部品、電気及び電子部品、家電部品、OA機器部品又は携帯機器部品として好適に用いられる。
【実施例0043】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて、本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例において、1kg/cm2は、0.098MPaを意味する。
【0045】
<原料>
以下、実施例及び比較例に用いた(A)ポリアミド、及び(B)炭素繊維について説明する。
【0046】
[(A)ポリアミド]
A-1:ポリアミド66(商品名「レオナ 1300S」、旭化成製)
【0047】
[(B)炭素繊維]
B-1:炭素繊維(重量平均繊維長6mm、かさ密度0.10g/cm3、不純物含有量1質量%未満)
B-2:炭素繊維(重量平均繊維長3mm、かさ密度0.16g/cm3、不純物含有量13質量%)
B-3:炭素繊維(重量平均繊維長8mm、かさ密度0.06g/cm3、不純物含有量3質量%)
【0048】
<物性の測定方法>
[物性1]
(炭素繊維の表面元素中の酸素元素濃度)
ESCALAB250(サーモフィッシャー社製)を用いて、励起源としてmono.AlKα 15kV×10mAを使用して、X線光電分光(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)分析を行った。分析結果から、表面元素中の酸素原子濃度(atom%)を求めた。
【0049】
<評価方法>
[評価1]
(引張強度)
実施例及び比較例で得られた試験片を用いて、23℃と120℃の温度条件下、引張速度5mm/minで引張試験を行い、引張降伏応力を測定した。この測定値を引張強度(MPa)とした。23℃及び120℃における引張強度がより大きい方がより引張強度に優れるものであると評価した。
【0050】
[評価2]
(耐クリープ特性)
実施例及び比較例で得られた試験片を用いて、120℃にてクリープ試験を行い、破断時間が10000秒となる応力(MPa)を求めた。破断時間が10000秒となる応力がより大きい方がより長期耐久性(耐クリープ特性)が高いものであると評価した。
【0051】
<ポリアミド組成物の製造>
[実施例1~9及び比較例1~3]
(ポリアミド組成物PA-a1~PA-a9及びPA-b1~PA-b3の製造)
1.酸化工程
100mMの塩酸水溶液中に、表1~表2に示す(B)炭素繊維をそれぞれ含侵した。次いで、100mMの塩酸水溶液1Lに対して10gの亜塩素酸ナトリウムを加え、水溶液を表1~表2に示す温度に保持し、発光ダイオード(LED)(λ=365nm、20mW/cm)を表1~表2に示す時間照射した。
【0052】
2.成形工程
次いで、(A)ポリアミド、及び、「1.酸化工程」で得られた酸化された(B)炭素繊維を、表1~表2に示す配合割合となるように用いて、各ポリアミド組成物を製造した。
なお、ポリアミドA-1は、窒素気流中で乾燥し水分率を約0.2質量%に調整してから、ポリアミド組成物の原料として用いた。
【0053】
ポリアミド組成物の製造装置としては、卓上混練成型機(XploreMC15HT、DSM社製)を用いた。
混練時において、ヒーターは290℃に設定し、スクリュー回転数100rpm、混練時間2分間に設定した。また、成形時においてはシリンダー温度290℃、金型温度80℃とし、ダンベル試験片を得た。
【0054】
得られた試験片を用いて、上記に示す評価を行った結果を以下の表1及び表2に示す。
【0055】
【0056】
【0057】
表1~表2に示すように、光照射により酸化された(B)炭素繊維を配合したポリアミド組成物PA-a1~PA-a11(実施例1~11)では、酸化されてない(B)炭素繊維を配合したポリアミド組成物PA-b1~PA-b3(比較例1~3)よりも、成形体としたときの、23℃及び120℃における引張強度、並びに、耐クリープ特性に優れていた。
また、(B)炭素繊維に対する光照射時の反応温度が異なる、ポリアミド組成物PA-a4~PA-a6(実施例4~6)の比較、及び、ポリアミド組成物PA-a7~PA-a9(実施例7~9)の比較において、反応温度が低くなるほど、成形体としたときの、23℃及び120℃における引張強度、並びに、耐クリープ特性がより良好なる傾向がみられた。
本実施形態の製造方法によれば、ポリアミドと炭素繊維との界面接着性、及び、炭素繊維のポリアミドへの分散性の向上により、成形体としたときの機械特性が向上したポリアミド組成物の製造方法を提供することができる。本実施形態の製造方法で得られたポリアミド組成物は、成形体としたときの機械特性に優れることから、自動車用、電気及び電子用、産業資材用、工業材料用、日用及び家庭品用等、各種部品の成形材料として好適に用いられる。