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特開2022-176506異方性希土類焼結磁石及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176506
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】異方性希土類焼結磁石及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/053 20060101AFI20221122BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20221122BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20221122BHJP
   B22F 9/04 20060101ALI20221122BHJP
   C21D 6/00 20060101ALI20221122BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
H01F1/053 160
H01F41/02 G
B22F3/00 F
B22F9/04 C
B22F9/04 E
C21D6/00 B
C22C38/00 303D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082977
(22)【出願日】2021-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100154391
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康義
(72)【発明者】
【氏名】野村 忠雄
(72)【発明者】
【氏名】大塚 一輝
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 真之
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA06
4K017BB01
4K017BB04
4K017BB05
4K017BB06
4K017BB07
4K017BB08
4K017BB09
4K017BB12
4K017BB13
4K017BB16
4K017CA07
4K017DA04
4K017EA03
4K018AA27
4K018BA18
4K018BB06
4K018CA04
4K018DA21
4K018FA08
4K018KA45
4K018KA63
5E040AA03
5E040BD01
5E040CA01
5E040NN01
5E040NN06
5E040NN12
5E062CD04
5E062CG02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ThMn12型結晶の化合物を主相とする異方性希土類焼結磁石において、良好な磁気特性を示す異方性希土類焼結磁石およびその製造方法を提供する。
【解決手段】異方性希土類焼結磁石は、組成が(R1-aZr(Fe1-bCo100-v-w-x-y(M 1-c (Rは希土類元素から1種以上でSmを必須とし、MはV、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Al、Siから1種以上の元素、MはTi、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから1種以上の元素、v、w、x、y、a、b、cは各々、7≦v≦15原子%、4≦w≦20原子%、0.2≦x≦4原子%、0.2≦y≦2原子%、0≦a≦0.2、0≦b≦0.5、0≦c≦0.9)で表され、ThMn12型結晶の主相を80体積%以上含み、主相の平均結晶粒径が1μm以上、粒界部にRのオキシカーバイドが1体積%以上存在、密度が7.3g/cm以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成が式 (R1-aZr(Fe1-bCo100-v-w-x-y(M 1-c (Rは希土類元素から選ばれる1種以上でSmを必須とし、MはV、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Al、Siからなる群より選ばれる1種以上の元素、MはTi、Nb、Mo、Hf、Ta、Wからなる群より選ばれる1種以上の元素であり、v、w、x、y、a、b、cは各々、7≦v≦15原子%、4≦w≦20原子%、0.2≦x≦4原子%、0.2≦y≦2原子%、0≦a≦0.2、0≦b≦0.5、0≦c≦0.9)で表される異方性希土類焼結磁石であって、ThMn12型結晶の化合物からなる主相を80体積%以上含み、前記主相の平均結晶粒径が1μm以上であり、Rのオキシカーバイドを粒界部に含み、かつ密度が7.3g/cm以上であることを特徴とする異方性希土類焼結磁石。
【請求項2】
前記オキシカーバイドが、R(C,O)相、R(C,O)相、及びR(C,O)相からなる群より選ばれる1種以上のオキシカーバイドであることを特徴とする請求項1に記載の異方性希土類焼結磁石。
【請求項3】
前記オキシカーバイドを1体積%以上含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の異方性希土類焼結磁石。
【請求項4】
前記焼結体の組成において、R中のSmの比率が原子割合で0.05以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の異方性希土類焼結磁石。
【請求項5】
Rリッチ相及びR(Fe,Co)相を粒界部に含み、
前記Rリッチ相及び前記R(Fe,Co)相の形成量の合計が1体積%以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の異方性希土類焼結磁石。
【請求項6】
前記R(Fe,Co)相が、室温以上でフェロ磁性又はフェリ磁性を示す相であることを特徴とする請求項5に記載の異方性希土類焼結磁石。
【請求項7】
隣接する主相粒の間に2粒子間粒界相が形成されていることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の異方性希土類焼結磁石。
【請求項8】
室温で5kOe以上の保磁力を示し、保磁力の温度係数βが-0.5%/K以上であることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の異方性希土類焼結磁石。
【請求項9】
ThMn12型結晶の化合物相を含み、かつオキシカーバイドを含まない合金を粉砕し、磁場印加中で圧粉成形して成形体とした後、800℃以上1400℃以下の温度で焼結して、オキシカーバイドを粒界部に形成させることを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の異方性希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項10】
前記焼結後に300~900℃の温度で熱処理を施すことを特徴とする請求項9に記載の異方性希土類焼結磁石の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ThMn12型結晶の化合物を主相とする異方性希土類焼結磁石及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類磁石、特にNd-Fe-B焼結磁石は、自動車の電動化や 産業用モータの高性能化・省電力化などを背景に、今後ますます需要が高まり生産量がさらに増加すると予想されている。一方で、将来的に希土類原料の需給バランスが崩れるリスクが懸念されるため、近年、希土類磁石における省レアアース化の研究が注目されるようになってきた。中でもThMn12型結晶構造の化合物は、RFe14B化合物よりレアアース含有率が少なく、磁気特性も良好であることから、次世代の磁石材料として盛んに研究が行われている。またThMn12型化合物に窒素や炭素などの元素を侵入させると、磁化とキュリー温度が上昇し、結晶磁気異方性も大きく変化することが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、R[(Fe1-XCo1-Y(Rは希土類元素の1種もしくは2種以上、MはTi,V,Cr,Mn,Mo,W,Nb,Ta,Si,Alから選ばれた1種または2種以上の元素、AはCまたはNの1種以上、0≦X≦0.5、0.01≦Y≦0.3、10≦Z≦13、0.1≦W≦2)からなり、その主相がThMn12構造でかつ格子間侵入原子を持つ希土類磁石合金を、微粉砕し、磁場中配向成形し、焼結、時効した希土類永久磁石が開示されている。
【0004】
特許文献2では、RTMAD(RはYをふくむ希土類元素のうち少なくとも1種、TMはFe,Co,Niのうち少なくとも1種、MはSi,Ti,V,Cr,Mo,Wのうち少なくとも1種、ADはAl,Mn,Zn,Cu,Ga,Ge,Zr,Nb,Sn,Sb,Hf,Taのうち少なくとも1種で、5≦a≦18at%,65≦b≦85at%,3≦c≦20at%,0<d≦8at%,2≦e≦15at%)の組成からなる永久磁石が開示されている。ここではThMn12結晶構造にC(炭素)が侵入型として入ることで、飽和磁化・異方性磁界・キュリー温度が向上すると開示されている。
【0005】
特許文献3では、(R1-u)(Fe1-v-wCo(R:Yを含む希土類元素から選ばれる少なくとも1つの元素、M:Ti,Nbから選ばれる少なくとも1つの元素、T:Ni、Cu,Sn,V,Ta,Cr,Mo,W,Mnから選ばれる少なくとも1つの元素、A:Si,Ge,Al,Gaから選ばれる少なくとも1つの元素、 X:C,N,O,B,SおよびPから選ばれる少なくとも1つの元素、0.1≦u≦0.7、0≦v≦0.8、0≦w≦0.1、5≦x≦12、0.1≦y≦1.5、0<z≦3)の組成で、主たる硬磁性相がThMn12型結晶構造である合金を磁場中成形して焼結した永久磁石が開示されており、ここでX元素はThMn12結晶構造の格子間位置に存在して、主相のキュリー温度、磁気異方性を改善すると記述されている。
【0006】
特許文献4には、[R1-a(M1)][T1-b-c(M2)(M3)αβ(R:少なくとも1種の希土類元素(Yを含む)、M1:ZrおよびHfから選ばれる少なくとも1種、T:Fe,CoおよびNiから選ばれる少なくとも1種 、M2:Cu、Bi、Sn、Mg、InおよびPbから選ばれる少なくとも1種、M3:Al、Ga、Ge、Zn、B、PおよびSから選ばれる少なくとも1種、X:Si、Ti、V、Cr、Mn、Nb、Mo、TaおよびWから選ばれる少なくとも1種、A:N、CおよびHから選ばれる少なくとも1種、0≦a≦0.6、0.01≦b≦0.20、0≦c≦0.05、7≦d≦11、0.5≦α≦2.0、0<β<≦2.0)の組成で、ThMn12型硬磁性相と低融点の非磁性相とを含む合金が開示されている。ここで非磁性相は、式R(R:少なくとも1種の希土類元素(Yを含む)、M:Cu、Si、Bi、Sn、Mg、PbおよびInから選ばれる少なくとも1種、T:Fe、Co、Ni、Mn、Al、Ga、Ge、Ti、Zr、Hf、Ta、V、Nb、Cr、Mo、WおよびZnから選ばれる少なくとも1種、X:B、C、P、S、C、NおよびHから選ばれる少なくとも1種、a+b+c+d+e=100、1≦a≦60、1≦b≦90、0≦c≦50、0≦d≦10、0≦e≦30)からなり、また酸化物、窒化物、炭化物などX元素に基づく化合物の含有も許容しているが、A元素は主として主相であるThMn12相の格子間位置に入ることにより、磁気異方性の改善、キュリー温度の改善に有効な元素であることが示されている。
【0007】
特許文献5には、ThMn12型結晶相を含む磁性合金粒子とC含有粒子との混合物からなる加圧成形体を、所定温度で加熱保持して浸炭処理する製造方法が開示されている。ここで浸炭処理は350~700℃の温度範囲で行うことが望ましく、700℃を超えるとThMn12相が分解するおそれがあると示されている。
【0008】
特許文献6では、主相がThMn12型の結晶構造を有し、副相がSmFe17系相、SmCo系相、Sm系相、及びSm系相の少なくともいずれかを含み、副相の体積分率が2.3~9.5%であり、かつα-Fe相の体積分率が9.0% 以下であり、かつ希土類磁石の密度が7.0g/cm以上である希土類磁石が示されている。磁石の作製においては、成形前にステアリン酸等の潤滑剤を添加し、圧粉体を不活性雰囲気中又は真空中で950~1200℃ で0.1~12時間焼結すること、また昇温する際に300~500℃の温度域を真空中で昇温し、1~2時間保持して潤滑剤を除去することが好ましいと示されている。
【0009】
非特許文献1では、SmTiFe10組成で粉末冶金法による磁石化を試みたが、殆ど保磁力が得られず、その原因は、融点近傍まで密度化せず、ある温度を越えると急激に密度が上昇し、結晶粒が粗大化するためであると示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平04-308062号公報
【特許文献2】特開平05-114507号公報
【特許文献3】特開2000-114017号公報
【特許文献4】特開2001-189206号公報
【特許文献5】特開2005-194592号公報
【特許文献6】特開2017-112300号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】電気学会マグネティックス研究会、MAG-87-120(1987).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
非特許文献1に記載されているように、ThMn12型化合物を主相とし、かつSmを含有する焼結磁石を作製する手段として、原料合金を粉砕、磁場中配向成形、焼結する粉末焼結法を適用すると、高い焼結密度を得るのが難しい。焼結密度が不十分な場合、良好な磁気特性が得られない、磁気特性のばらつきが大きい、経時劣化を生じる、などの好ましくない現象につながる。したがって、粉末焼結法によって95%以上の高い焼結密度(例えば、7.3g/cm以上の焼結密度)を安定的に得ることは、この磁石における課題であった。
【0013】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、ThMn12型結晶の化合物を主相とし、かつその組成がSmを含む焼結磁石において、十分な焼結密度を有する焼結磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、ThMn12型結晶の化合物を主相とし、Smを含む異方性希土類焼結磁石において、焼結過程でSmを含むオキシカーバイドを形成させることにより高い焼結密度が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
従って、本発明は、下記の異方性希土類焼結磁石及びその製造方法を提供する。
(1)組成が式 (R1-aZr(Fe1-bCo100-v-w-x-y(M 1-c (Rは希土類元素から選ばれる1種以上でSmを必須とし、MはV、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Al、Siからなる群より選ばれる1種以上の元素、MはTi、Nb、Mo、Hf、Ta、Wからなる群より選ばれる1種以上の元素であり、v、w、x、y、a、b、cは各々、7≦v≦15原子%、4≦w≦20原子%、0.2≦x≦4原子%、0.2≦y≦2原子%、0≦a≦0.2、0≦b≦0.5、0≦c≦0.9)で表される異方性希土類焼結磁石であって、ThMn12型結晶の化合物からなる主相を80体積%以上含み、前記主相の平均結晶粒径が1μm以上であり、Rのオキシカーバイドを粒界部に含み、かつ密度が7.3g/cm以上であることを特徴とする異方性希土類焼結磁石。
(2)前記オキシカーバイドが、R(C,O)相、R(C,O)相、及びR(C,O)相からなる群より選ばれる1種以上のオキシカーバイドであることを特徴とする(1)に記載の異方性希土類焼結磁石。
(3)前記オキシカーバイドを1体積%以上含むことを特徴とする(1)又は(2)に記載の異方性希土類焼結磁石。
(4)前記焼結体の組成において、R中のSmの比率が原子割合で0.05以上であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の異方性希土類焼結磁石。
(5)Rリッチ相及びR(Fe,Co)相を粒界部に含み、
前記Rリッチ相及び前記R(Fe,Co)相の形成量の合計が1体積%以上であることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の異方性希土類焼結磁石。
(6)前記R(Fe,Co)相が、室温以上でフェロ磁性又はフェリ磁性を示す相であることを特徴とする(5)に記載の異方性希土類焼結磁石。
(7)隣接する主相粒の間に2粒子間粒界相が形成されていることを特徴とする(1)~(6)のいずれかに記載の異方性希土類焼結磁石。
(8)室温で5kOe以上の保磁力を示し、保磁力の温度係数βが-0.5%/K以上であることを特徴とする(1)~(7)のいずれかに記載の異方性希土類焼結磁石。
(9)ThMn12型結晶の化合物相を含み、かつオキシカーバイドを含まない合金を粉砕し、磁場印加中で圧粉成形して成形体とした後、800℃以上1400℃以下の温度で焼結して、オキシカーバイドを粒界部に形成させることを特徴とする(1)~(8)のいずれかに記載の異方性希土類焼結磁石の製造方法。
(10)前記焼結後に300~900℃の温度で熱処理を施すことを特徴とする(9)に記載の異方性希土類焼結磁石の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ThMn12型結晶の化合物を主相とし、かつその組成がSmを含む焼結磁石において、十分な焼結密度を有する異方性希土類焼結磁石において、良好な磁気特性を示す異方性希土類焼結磁石を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の磁石は、組成が下式
(R1-aZr(Fe1-bCo100-v-w-x-y(M 1-c
で表され、ThMn12型結晶の化合物が主相であり、ThMn12型結晶の化合物からなる主相を80体積%以上含み、主相の平均結晶粒径が1μm以上であり、Rのオキシカーバイドを粒界部に含み、かつ密度が7.3g/cm以上である異方性希土類焼結磁石である。まず各成分について以下に説明する。なお、v、w、x、y、a、b、cは各々、7≦v≦15原子%、4≦w≦20原子%、0.2≦x≦4原子%、0.2≦y≦2原子%、0≦a≦0.2、0≦b≦0.5、0≦c≦0.9である。
なお、オキシカーバイドは、好ましくはR(C,O)相、R(C,O)相、及びR(C,O)相からなる群より選ばれる1種以上のオキシカーバイドである。このように、組成範囲が広いため、本発明の異方性希土類焼結磁石を再現性良く作製することが容易である。
【0018】
Rは希土類元素から選ばれる1種以上の元素であり、Smを必須とする。具体的には、RはSmを必須とし、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuより選ばれる1種以上の元素とSmとを組み合わせたものであってもよい。Rは主相であるThMn12型結晶構造の化合物を形成するのに必要な元素である。Rの含有量は7原子%以上15原子%以下とする。8原子%以上12原子%以下であれば、より好ましい。7原子%未満ではα-Fe相が析出して焼結し難しく、一方、15原子%を超えるとThMn12型化合物相の体積比が低下して良好な磁気特性が得られない。ThMn12型化合物はRがSmのとき特に高い異方性磁界Hを示すので、本発明の異方性希土類焼結磁石はSmを必須とする。Rに含まれるSmは原子比でRの5%以上であることが好ましく、10%以上であればより好ましく、20%以上がさらに好ましく、30%以上であればよりさらに好ましく、40%以上であればよりさらに好ましく、50%以上であればよりさらに好ましく、60%以上であればよりさらに好ましく、65%以上であれば特に好ましい。Sm比がこのような範囲であることで、Hの増大効果が十分となり高い保磁力が得られる。
【0019】
Zrは、ThMn12型化合物のRを置換して相安定性を高める効果をもたらす。Rを置換するZrは、原子比でRの20%以下とする。20%を超えるとThMn12型化合物のHが低下して高い保磁力が得られにくい。なお、Rの一部をZrで置換した場合、R及びZrの含有量の合計が、7原子%以上15原子%以下であり、好ましくは8原子%以上12原子%以下である。
【0020】
ThMn12型結晶構造が安定して存在するためには、構成元素としてR、Feとともに第3元素Mが必要であることが知られている。第3元素Mには、次のM及びMが挙げられる。本発明の異方性希土類焼結磁石において、MはV、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Al及びSiからなる群より選ばれる1種以上の元素であり、好ましくは2種以上の元素である。これらの元素が第3元素としての役割を担っている。Mは、同じく第3元素として作用する後述するMに比べて、FeよりもRと化合物を形成しやすいか、またはFe、Rどちらとも結合しにくい傾向を示す元素である。本発明の異方性希土類焼結磁石における特徴の一つは、磁石組織中において、主相であるThMn12型化合物とともに、粒界部にRリッチ相及びR(Fe,Co)相が存在する点にあるが、第3元素としてM元素を選択することで、これら3つの相が安定して共存する組織が得られやすくなる。MとMを合わせてMと表記すると、Mは原子比でMの少なくとも10%以上を占めるものとする。30%以上であればより好ましく、50%以上であればさらに好ましい。Mが10%未満では、上記3相のうちRリッチ相が安定して形成されない。また、MとMの合計であるMは、4原子%以上20原子%以下とする。Mが4原子%未満ではThMn12型化合物の主相が十分に形成されず、20原子%を超えると異相の形成量が増大して良好な磁石特性を示さない。
【0021】
はTi、Nb、Mo、Hf、Ta及びWより選ばれる1種以上の元素である。MもThMn12型結晶構造を安定化させる効果を有するが、過剰に含まれると、MC相などのカーバイドや MgZn型化合物である(Fe,Co)相が主相内や粒界部に析出する。特に(Fe,Co)相は、例えばFeTi相のように、化学量論組成よりFeリッチな組成となってフェロ磁性を示す場合があり、焼結磁石の磁気特性に悪影響を与える。また第3元素としてMを含まずMのみ選択した場合は、Rリッチ相が安定して形成されにくい。そのためMを含む組成の場合、その含有量は原子比で少なくともMの90%以下とする。
【0022】
本発明の異方性希土類焼結磁石は、R、MとともにFeを必須の構成元素とする。さらにCoでFeの一部を置換しても良い。Coによる置換は、主相であるThMn12型化合物のキュリー温度Tを高め、飽和磁化Mを増大させる効果がある。Coの置換率は原子比で50%以下とする。置換率が50%を超えるとMは逆に低下する。Fe及びCoの割合の合計は、R、Zr、M、M、O及びCの残部とする。ただし、この他に、原材料から取り込まれたり、製造工程で混入したりする不可避不純物、具体的にはH、B、F、P、S、Mg、Cl、Caなどを合計で3重量%まで含有してもよい。
【0023】
本発明の異方性焼結磁石では、焼結体の緻密化を向上させるためにC(炭素)とO(酸素)の含有量を制御する。Smを含有する焼結磁石は、Smを含まない組成の磁石に比べて高い密度が得られにくい。これは、蒸気圧の高い元素であるSmが焼結時に蒸気となる影響によって、焼結挙動が阻害されるためと考えられる。これに対し所定量のCとOを含有すると、Smは焼結中にC、Oと結合してオキシカーバイドとなり、Sm蒸気の発生量が低減して焼結挙動が改善し、7.3g/cm以上の高い焼結密度が得られるようになると考えられる。Cの含有量は0.2原子%以上2原子%以下、Oの含有量は0.2原子%以上4原子%以下とする。C及びOの含有量が各々0.2原子%未満では高い焼結密度が得られず、またCの含有量が2原子%を超えるかOの含有量が4原子%を超えると、主相の比率が低下して残留磁束密度Bが低くなる。Cの含有量は0.25原子%以上1.5原子%以下であればより好ましく、0.3原子%以上1原子%以下であればさらに好ましい。またOの含有量は0.3原子%以上3.5原子%以下であればより好ましく、0.4原子%以上3原子%以下であればさらに好ましい。
【0024】
N(窒素)は本発明の異方性焼結磁石において意図的に添加されず、含有量は少ない方が好ましい。しかし、焼結磁石を作製する工程で不可避的に混入するため、その上限は例えば0.5原子%とする。0.5原子%を超えると、Rリッチ相やR(Fe,Co)粒界相の形成量が低下して保磁力が低下する。Nの含有量は0.2原子%以下であればより好ましく、0.1原子%以下であればさらに好ましい。
【0025】
次に、本発明の異方性希土類焼結磁石を構成する相について説明する。
本発明の異方性希土類焼結磁石における主相は、ThMn12型結晶構造の化合物からなり、好ましくはR(Fe,Co,M)12化合物からなる。焼結磁石を作製する工程で不可避的に混入するC、N、Oなどの元素は、主相に含まれないことが好ましい。ただし、EPMA(電子線マイクロアナライザ)を用いた組成分析で、測定ばらつき、観察試料の調整方法や他元素の検出信号の影響などによりC、N、O元素が検出される場合、主相のHを良好に得る観点から、その上限は各々1原子%までが好ましい。主相の平均結晶粒径は1μm以上であり、1μm以上30μm以下が好ましい。1.5μm以上20μm以下の範囲であればさらに好ましく、2μm以上10μm以下が特に好ましい。平均結晶粒径をこのような範囲とすることで、結晶粒の配向度の低下による残留磁束密度Bの減少や、保磁力HcJの低下を抑制できる。主相の体積率は、良好なBやHcJを得る観点から、磁石全体に対して80体積%以上であり、80体積%以上99体積%未満が好ましく、90体積%以上95体積%以下であればさらに好ましい。
なお、主相の平均結晶粒径は以下のようにして測定した値である。
焼結磁石の断面を鏡面になるまで研磨した後、エッチング液(硝酸+塩酸+グリセリンの混合液など)に浸漬して粒界相を選択的に除去し、この断面の任意の10箇所以上についてレーザー顕微鏡で観察を行った。得られた観察像から画像解析により各粒子の断面積を算出し、これらを円とみなした時の平均直径を平均結晶粒径とした。
また、主相の体積率は以下のようにして測定した値である。
EPMAを用いて異方性希土類焼結磁石の組織観察と各相の組成分析を行い、主相、Rリッチ相及びR(Fe,Co)相を確認した。そして、各相の体積率は、反射電子像の画像における面積比に等しいものとして算出した。
【0026】
粒界部にはRのオキシカーバイドが形成される。オキシカーバイドは、具体的にはR(C,O)相、R(C,O)相、及びR(C,O)相からなる群より選ばれる1種以上のオキシカーバイドであることが好ましい。EPMAなどで粒界部中のオキシカーバイドを組成分析する場合、他相の影響や測定ばらつきを含めてRが25~65原子%の範囲にあり、残部はC,Oとなる。ただしFe,Co,M及び不可避不純物を最大で10原子%以下程度含有してもよい。オキシカーバイド中のC:O比率は、原子比で2:8~8:2の範囲とする。オキシカーバイドは、焼結工程でSm及びその他のRが液相中のC,Oと反応することにより形成される。Smを含有する焼結磁石で緻密化が阻害されるのは、焼結中に発生するSm蒸気の影響であるが、C,Oを特定量含有することで、Sm気化反応よりオキシカーバイドの形成が生じやすくなり、Sm蒸気の発生量が低減して液相焼結が進行し、密度7.3g/cm以上の良好な焼結体となる。焼結体におけるオキシカーバイドの形成量は1体積%以上とすることが好ましい。オキシカーバイドの形成量が1体積%以上であると、Sm蒸気の抑制効果がさらに十分となり、高い焼結密度を得るのがさらに容易になる。
【0027】
また磁石組織の粒界部には、Rリッチ相やR(Fe,Co)相がさらに形成されてもよい。粒界部は、粒界三重点や二粒子間粒界などを指す。ここで、Rリッチ相はRを40原子%以上含有する相とする。また、R(Fe,Co)相はMgCu構造を有し、ラーベス(Laves)相と呼ばれる化合物相である。M元素を含んだ上記の組成としたときに、主相、R(Fe,Co)相、及びRリッチ相の3つの相を含む磁石が得られやすい。たとえばM元素を含まないSm-Fe-Ti三元系の焼結磁石では、Sm(Fe,Ti)12主相とSmFe、FeTiの3相(ただし酸化物などを除く)が平衡する組成領域が存在するが、Sm(Fe,Ti)12主相とSmリッチ相は400℃以下の低温で平衡し難いため、Smリッチ相が安定相として形成されない。これに対し、M元素の1つであるVを用いたSm-Fe-V三元系の場合、高Sm濃度のSmリッチ相が形成されて、Sm(Fe,V)12、SmFeとSmリッチ相の3つの相が存在する磁石を得ることができる。また、M、Mの両方が含まれるSm-Fe-V-Ti四元系では、Sm(Fe,V,Ti)12、Fe(V,Ti)、SmFeとSmリッチ相の4相が安定に存在し得る。本発明の異方性希土類焼結磁石では、こうした知見に基づき、粒界部にRリッチ相及びR(Fe,Co)相を形成する場合に、所定量のM元素を含む組成が選択される。
【0028】
Rリッチ相とR(Fe,Co)相は、主として3つの効果をもたらす。第1の効果は、焼結を促進させる作用である。焼結温度ではRリッチ相もR(Fe,Co)相も溶融して液相となるため、液相焼結が進行し、これらの相を含まない場合の固相焼結に比べて速やかに焼結が完了する。またRリッチ相とR(Fe,Co)相が共存することで、液相生成温度はどちらか一方の相のみの場合より降下する傾向を示し、液相焼結がより速やかに進行する。
【0029】
第2の効果は、主相粒表面のクリーニングである。本発明の異方性希土類焼結磁石は核発生型の保磁力機構を有するため、逆磁区の核生成が生じにくくなるように、主相粒表面が平滑であることが望ましい。Rリッチ相とR(Fe,Co)相は、焼結工程、もしくはその後の時効工程において、ThMn12型化合物結晶粒の表面を平滑化する役割を果たしており、このクリーニング効果によって保磁力低減の要因となる逆磁区の核生成が抑制される。特にR(Fe,Co)相は、Rが40原子%未満の他相、例えば、RM、RM、R(Fe,Co)MやR(Fe,Co)などの化合物相と比べてThMn12相に対する濡れ性が比較的高く、主相粒の表面を被覆しやすいためクリーニング効果が大きい。
【0030】
第3の効果は、二粒子間粒界相の形成である。組織中にRリッチ相を含有する磁石では、最適な焼結処理、もしくは時効処理を行うことで、隣接するThMn12型化合物主相粒の間に、主相よりRを多く含有する二粒子間粒界相が形成される。これにより主相粒間の磁気的相互作用が弱まり、焼結磁石は高い保磁力を示すようになる。しかし、ThMn12型化合物主相とRリッチ相の2相のみ平衡する組成領域は極めて限定的であるため、組成ばらつきを考慮すると、このような磁石を安定して製造することは難しい。ThMn12型化合物主相、Rリッチ相とR(Fe,Co)相の3相を含む磁石とすることで、主相粒表面が二粒子間粒界相によって被覆された組織を安定的に形成することができる。また、Rリッチ相が存在しない磁石では、二粒子間粒界相が形成されにくい、もしくは二粒子間粒界相が主相粒の表面を被覆することが難しいため、十分な保磁力を示す磁石が得られにくい。
【0031】
Rリッチ相は、上記のとおり、Rを少なくとも40原子%以上含有するものとする。Rが40原子%未満では、主相との濡れ性が十分でないため上述の効果が得られにくい。Rを50原子以上含有するとさらに好ましく、60原子以上含有すれば特に好ましい。Rリッチ相は上述のSm相のようなRメタル相でも良いし、アモルファス相やR(Fe,Co,M)、R(Fe,Co,M)、R(Fe,Co,M)、R(Fe,Co,M)のように高R組成で低融点の金属間化合物であっても良い。またFe、Co、M元素や、H、B、C、N、O、F、P、S、Mg、Cl、Caなどの不純物元素を、合計で60原子%まで含んで良い。
【0032】
一方、R(Fe,Co)相はMgCu型結晶のLaves化合物であるが、EPMAなどを用いて組成分析した場合、測定ばらつきなどを考慮して、Rを20原子%以上40原子%未満含有するものとする。また、M元素によりFe、Coの一部が置換されても良い。ただし、Mの置換量はMgCu型結晶構造が保持される範囲内とする。
【0033】
本発明の異方性希土類焼結磁石におけるR(Fe,Co)相は、好ましくは強磁性相である。ここでいう強磁性相とは、フェロ磁性もしくはフェリ磁性を示し、キュリー温度Tが室温(23℃)以上である相とする。RFeはCeFeを除いてTが室温以上であり、CeFeもRの10%以上が他の元素で置換されればTは室温以上になる。一方、RCoはGdCoを除いてTが室温以下、もしくは常磁性相だが、本発明の異方性希土類焼結磁石ではCoによるFeの置換原子比率が0.5以下なので、ほとんどの場合R(Fe,Co)相は強磁性相となる。一般に、組織中に含まれる強磁性相は磁気特性に悪影響を及ぼすことが多いが、本発明の異方性希土類焼結磁石ではR(Fe,Co)相による主相粒表面のクリーニング効果や二粒子間粒界相を形成する効果の方が大きく、強磁性相であっても保磁力増大に寄与すると考えられる。
【0034】
Rリッチ相とR(Fe,Co)相の形成量は、合わせて1体積%以上であることが好ましく、1体積%以上20体積%未満とすることがより好ましい。また、1.5体積%以上15体積%未満がさらに好ましく、2体積%以上10体積%未満の範囲がよりさらに好ましい。このような範囲とすることで、主相粒と接する面積が確保され、HcJ増大の効果が得られやすい。また、Bの低下も抑えられ、所望の磁気特性が得られやすい。
【0035】
本発明の異方性希土類焼結磁石では、ThMn12型化合物からなる主相粒が隣接する粒子間に二粒子間粒界相が形成されてもよい。また、本発明の異方性希土類焼結磁石では、上述の通り、粒界部にRリッチ相とR(Fe,Co)相が存在するとともに、ThMn12型化合物からなる主相粒が隣接する粒子間に二粒子間粒界相が形成されてもよい。主相粒の表面が二粒子間粒界相によって被覆されることで、主相粒間の磁気的相互作用が弱まり、高い保磁力を示すようになる。この二粒子間粒界相は、原子配列の乱れたアモルファス状であっても良いし、原子配列に規則性を有していても良い。また、粒界三重点に存在するRリッチ相やR(Fe,Co)相と同じ相でも良い。
【0036】
この他、本発明の異方性希土類焼結磁石には、R酸化物、R炭化物、R窒化物、M炭化物などが含まれても良い。磁気特性の劣化を抑制する観点から、これらの体積比は10体積%以下が好ましく、5体積%以下がさらに好ましく、3体積%以下が特に好ましい。
【0037】
上記以外の相はできるだけ少ない方が好ましく、例えば、R(Fe,Co,M)17相、R(Fe,Co,M)29相が磁石組織中に存在する場合は、磁気特性への影響とそれによる保磁力の低下を抑制する観点から、その形成量は各々1体積%未満が良い。また、十分な主相の割合を確保する観点から、(Fe,Co)M相やRが40原子%未満であるRM、RM、R(Fe,Co)M、R(Fe,Co)なども、各々1体積%未満であることが好ましい。これらの相は合計で3体積%以下が好ましい。さらに、著しい磁気特性の低下を防ぐ観点から、α-(Fe,Co)相は、本発明の異方性希土類焼結磁石には含まれないことが好ましい。
【0038】
次に、製造方法について説明する。本発明の異方性希土類焼結磁石は粉末冶金法によって製造される。まず、ThMn12型結晶の化合物相を含み、かつオキシカーバイドを含まない合金を粉砕し、磁場印加中で圧粉成形して成形体とする。具体的には、まず、原料合金を作製するために、R、Fe、Co、Mのメタル原料、合金、フェロ合金などを用い、焼結時のSm蒸発分や製造工程中の原料ロス等を考慮した上で、最終的に得られる焼結体が所定の組成になるよう調整する。Cは、同じように原料合金の構成元素として調整しても良いし、脂肪酸その他の有機化合物やカーボンブラックなどのC含有材料を原料合金とは別に準備し、後工程で原料合金粉と混合しても良い。Oは原料合金に含有させてもよいが、粉砕、成形、焼結の工程雰囲気を制御することで所定量となるよう調整するのが好ましい。これらの原料を、高周波炉、あるいはアーク炉などで溶解して、ThMn12型結晶の化合物相を含む原料合金を作製する。溶湯からの冷却は鋳造法でもよいし、ストリップキャスト法で薄片としてもよい。ストリップキャスト法の場合は、冷却速度を調整して主相の平均結晶粒径、もしくは平均の粒界相間隔が1μm以上となるように合金を作製するのが好ましい。1μm未満では、微粉砕後の粉末が多結晶となり、磁場中成形の工程において主相結晶粒が十分に配向せずBの低下を招く。合金中にα-Feが析出する場合は、α-Feを除去してThMn12型化合物相の形成量が増えるように、原料合金に熱処理を施しても良い。また原料合金として、単一組成の合金を用いても良いし、組成の異なる複数の合金の粉末を準備して後工程でそれらの合金の粉末を混合する方法で原料合金を調整しても良い。
【0039】
Cを含有する原料合金を用いる場合、原料合金内でC元素はオキシカーバイドでなくRC、RC及び/又はMCなどの炭化物を形成していることが好ましい。本発明の焼結磁石において、Cは焼結工程でのSm蒸発を低減する役割を担うが、そのためにはオキシカーバイドの形成反応が焼結中に生じる必要がある。したがって、原料合金の段階ではオキシカーバイドが少ない方が好ましく、含まれないことがより好ましい。
【0040】
上記の原料合金を、ブラウンミルなどの機械粉砕や水素化粉砕などの手段により平均粒径0.05~3mmの粉末になるよう粗粉砕する。あるいはNd-Fe-B系磁石の製造方法として用いられるHDDR法(水素不均化脱離再結合法)を適用しても良い。さらに粗粉をボールミルや高圧窒素などを用いたジェットミルなどにより微粉砕し、平均粒径0.5~20μm、より好ましくは1~10μmの粉末とする。なお、配向度の向上のために、微粉砕工程の前後に、必要に応じて潤滑剤等を添加してもよい。次に磁場プレス装置を用いて、合金粉末の磁化容易軸を印加磁場中で配向させながら成形し、圧粉成形体とする。成形は、合金粉末の酸化を抑制するために真空、窒素ガス雰囲気、Arなどの不活性ガス雰囲気などで行うのが好ましい。
【0041】
圧粉成形体を焼結する工程は、焼結炉を用いて真空または不活性雰囲気中で、800℃以上1400℃以下の温度で行うものとする。この焼結工程において、粒界部にオキシカーバイドが形成される。これによりSm蒸気の発生が低減し、焼結磁石の焼結密度が上昇する。800℃未満では、Smの蒸発に係わらず焼結が十分に進行しないため高い焼結密度が得られず、1400℃を超えるとThMn12型化合物の主相が分解してα-Feが析出する。焼結温度は特に900~1300℃の範囲が好ましい。焼結時間は0.5~20時間が好ましく、1~10時間がより好ましい。焼結は、昇温した後、一定温度で保持するパターンでも良いし、結晶粒の微細化を図るために、第1の焼結温度まで昇温後により低い第2の焼結温度で所定時間保持する2段階焼結パターンを用いても良い。また、複数回の焼結を行っても良い。焼結後の冷却速度は特に制限されないが、例えば、少なくとも600℃以下、好ましくは200℃以下まで、好ましくは1℃/分以上100℃/分以下、より好ましくは5℃/分以上50℃/分以下の冷却速度で冷却することができる。保磁力を向上させるため、さらに300~900℃で0.5~50時間の時効熱処理を施しても良い。組成や粉末粒径などに合わせて焼結及び時効の条件を最適化することで、HcJの向上がもたらされる。さらに焼結体を所定の形状に切断・研削し、着磁を施して焼結磁石となる。
【0042】
このようにして作製された本発明の異方性希土類焼結磁石は、7.3g/cm以上の焼結密度を有するものとなる。焼結密度が7.3g/cmよりも低いと緻密化が十分でなく、焼結体の組織中に空隙や空孔が多く存在するため、磁気特性の低下を招く。また大気中での酸化反応などにより、経時劣化も生じやすい。7.3g/cm以上の焼結密度を有し、室温で5kG以上の残留磁束密度Bと、少なくとも5kOe以上の保磁力HcJを示す。室温HcJは8kOe以上であればさらに好ましい。また保磁力の温度係数βは-0.5%/K以上の特性を示す。ここでβ=ΔHcJ/ΔT×100/HcJ(20℃)(ΔHcJ=HcJ(20℃)-HcJ(140℃)、ΔT=20-140(℃))とする。本発明の異方性希土類焼結磁石は、Nd-Fe-B焼結磁石に比べて保磁力の温度変化が小さく、高温での使用に適している。
【実施例0043】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
[実施例1~4、比較例1]
Smメタル、電解鉄、Coメタル、Vメタル、純Si、及びAlメタルを用いて組成を調整し、高周波誘導炉を用いてArガス雰囲気中で溶解して鋳造合金を作製した。初晶α-Feを消失させるため、合金には900℃20時間の熱処理を施した。合金の断面を研磨してエッチング処理後、レーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製、LEXT OLS4000)にて組織観察を行った。観察した画像から主相の平均結晶粒径が5μm以上であることを確認した。この合金の一部を粉砕して得た粉末のX線回折測定より、この合金がThMn12型結晶の化合物を含むことを確認した。またEPMA装置(日本電子株式会社製、JXA-8500F)を用いた観察より、この合金中にオキシカーバイドは形成されていないことを確認した。合金に水素吸蔵処理及び真空中400℃で加熱する脱水素化処理を施して粗粉末とした後、ステアリン酸の混合比を変えて混合し、窒素気流中のジェットミルで粉砕していずれも平均粒径1.9μmの微粉末とした。さらに不活性ガス雰囲気中で成形装置の金型に充填して磁界中成形で圧粉成形体とし、Arガス雰囲気で1140℃3時間の焼結熱処理を施して、冷却速度12℃/分で室温まで冷却した。これら焼結体は、いずれも10×10×12mmのサイズに切削加工した。得られた焼結体サンプルのうち、ステアリン酸を0.1、0.15、0.2,0.3重量%混合して作製した各サンプルを、順に実施例1~4とし、ステアリン酸を加えなかったものを比較例1とする。
【0045】
焼結体の密度はサンプルの重量と測定寸法より求めた。組成分析のうちC元素は、炭素・硫黄分析装置(LECO社製)を用いて燃焼赤外吸収法で、O元素については酸素・窒素・水素分析装置(LECO社製)を用い、不活性ガス融解赤外吸収法で行った。その他の元素は高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製、SPS3520UV-DD)を使用し、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP‐OES)で行った。また主相の結晶構造は、各焼結体の一部を粉砕して得た粉末のX線回折測定より同定した。実施例1~4、比較例1の主相は、いずれもThMn12型であった。各焼結体における主相の平均結晶粒径は、焼結体の表面を研磨後にエッチングを行って観察した結果から算出した。焼結体の組織観察と各相の組成分析は、EPMA装置で行った。磁気特性は、B-Hトレーサで測定した。
【0046】
表1、2に、原料合金の秤量組成、焼結体の組成分析値、焼結体における主相粒の平均結晶粒径、主相の結晶構造、密度、及び磁気特性(室温でのB、室温でのHcJ、HcJの温度係数β)を示す。ステアリン酸を加えなかった比較例1では焼結体密度が6.58g/cmと低かったのに対し、ステアリン酸を混ぜて作製した実施例1~4では、いずれも7.3g/cm以上の密度が得られた。実施例1~4も比較例1も同じ原料合金を用いて作製したが、組成分析値からわかるように、焼結体のSm濃度は、実施例1~4の方が比較例1より高く、焼結体を作製する過程でのSm元素のロスが少ないことがわかる。実施例1~4はいずれも平均結晶粒径が1μmを超えており、室温で5kOe以上の保磁力を示し、保磁力の温度係数βは-0.5%/K以上であった。
【0047】
表3に、各相の組成分析値と体積%を示す。実施例1~4では、粒界部にRリッチ相、R(Fe,Co)相及びオキシカーバイドであるR(C,O)相が各々1体積%以上存在していた。一方、比較例1には、オキシカーバイドが存在したが、その割合は1体積%より少なかった。R(Fe,Co,M)17相、R(Fe,Co,M)29相やα-Fe相はいずれのサンプルでも観察されなかった。実施例1~4のR(Fe,Co)相の分析値をもとに同じ組成の合金をアーク溶解で作製し830℃10hrの均質化処理後、VSMで磁化-温度測定を行ったところ、キュリー温度Tはいずれも300℃以上であり、室温で強磁性を示すことを確認した。
【0048】
[実施例5~7、比較例2]
Smメタル、Ceメタル、電解鉄、Coメタル、Vメタル、Gaメタル及びカーボンブラックを用いて組成を調整し、高周波誘導炉を用いてArガス雰囲気中で溶解後、高周波誘導炉を用いてArガス雰囲気中で溶解してC含有量の異なる複数の鋳造合金を作製した。初晶α-Feを消失させるため、合金にはいずれも830℃30時間の熱処理を施した。各合金の断面を研磨してエッチング処理後、レーザー顕微鏡で組織観察を行い、主相の平均結晶粒径がいずれも5μm以上であることを確認した。この合金の一部を粉砕して得た粉末のX線回折測定より、この合金がThMn12型結晶の化合物を含むことを確認した。またEPMA観察より、これらの合金中にはいずれもオキシカーバイドは形成されておらず、カーボンブラックを添加した合金中にはSmC相が存在していることを確認した。いずれの合金も水素吸蔵処理及び真空中400℃で加熱する脱水素化処理を施して粗粉末とした後、ステアリン酸0.02重量%と混合し、窒素気流中のジェットミルで粉砕していずれも平均粒径2.1μmの微粉末とした。さらに不活性ガス雰囲気中で成形装置の金型に充填して磁界中成形で圧粉成形体とし、Arガス雰囲気で1110℃3時間の焼結熱処理を施して、冷却速度12℃/分で室温まで冷却した。カーボンブラックを添加した合金を用いて作製した焼結体サンプルを実施例5~7とし、カーボンブラックを添加しない合金で作製したものを比較例2とした。
【0049】
表1、2に、実施例5~7、及び比較例2の結果を示す。原料合金にカーボンブラックを添加しなかった比較例2では、焼結体のC含有量が0.10重量%と少なく、焼結体密度が7.08g/cmと低かったのに対し、所定量のC元素を含有した合金を用いて作製した実施例5~7では、いずれも7.3g/cm以上の密度が得られた。また焼結体のSm濃度は、実施例5~7の方が比較例2より高かった。実施例5~7はいずれも平均結晶粒径が1μmを超えており、室温で5kOe以上の保磁力を示し、保磁力の温度係数βは-0.5%/K以上であった。
【0050】
表4に、各相の組成分析値と体積%を示す。実施例5~7では、粒界部にRリッチ相、R(Fe,Co)相及びオキシカーバイドであるR(C,O)相が各々1体積%以上存在していた。一方、比較例2には、オキシカーバイドが存在したが、その割合は1体積%より少なかった。R(Fe,Co,M)17相、R(Fe,Co,M)29相やα-Fe相はいずれのサンプルでも観察されなかった。また原料合金で見られたSmC相も観察されなかった。実施例5~7のR(Fe,Co)相の分析値をもとに同じ組成の合金をアーク溶解で作製し800℃15hrの均質化処理後、VSMで磁化-温度測定を行ったところ、キュリー温度Tはいずれも300℃以上であった。
【0051】
[実施例8]
Smメタル、Ndメタル、Yメタル、電解鉄、Crメタル、Niメタル、スポンジチタン、及び活性炭素を用いて組成を調整し、高周波誘導炉を用いてArガス雰囲気中で溶解後、水冷Cuロール上でストリップキャストすることにより、厚さ0.2~0.4mm程度の合金薄帯を製造した。薄帯が冷却ロールに接触した面から約0.15mmの位置をレーザー顕微鏡で観察し、主相の短軸方向平均結晶粒径が1μm以上であることを確認した。この合金の一部を粉砕して得た粉末のX線回折測定より、この合金がThMn12型結晶の化合物を含むことを確認した。またEPMA観察より、合金中にオキシカーバイドは存在せず、SmC相が形成されていることを確認した。合金に水素吸蔵処理及び脱水素化処理を施して粗粉末とした後、窒素気流中のジェットミルで粉砕して平均粒径2.7μmの微粉末とした。さらに不活性ガス雰囲気中で成形装置の金型に充填して磁界中成形で圧粉成形体とし、Arガス雰囲気で1170℃4時間の焼結熱処理を施して、冷却速度14℃/分で室温まで冷却した。
【0052】
[実施例9]
Smメタル、Prメタル、Laメタル、電解鉄、Coメタル、純Si、Mnメタル、Alメタル、Nbメタル、及び高炭素フェロマンガンを用いて組成を調整し、ストリップキャスト法で合金薄帯を製造した。薄帯のロール接触面から約0.15mmの位置における主相の短軸方向平均結晶粒径は1μm以上であることを確認した。この合金の一部を粉砕して得た粉末のX線回折測定より、この合金がThMn12型結晶の化合物を含むことを確認した。またEPMA観察より、合金中にオキシカーバイドは存在せず、SmC相及びNbC相が形成されていることを確認した。合金に水素吸蔵処理及び脱水素化処理を施して粗粉末とした後、窒素気流中のジェットミルで粉砕して平均粒径2.3μmの微粉末とした。さらに不活性ガス雰囲気中で成形装置の金型に充填して磁界中成形で圧粉成形体とし、Arガス雰囲気で1120℃2時間の焼結熱処理を施して、冷却速度10℃/分で室温まで冷却した。
【0053】
[実施例10、比較例3]
Smメタル、Zrメタル、電解鉄、Vメタル、純Si、及びCuメタルを用いて組成を調整し、ストリップキャスト法で合金薄帯を製造した。薄帯のロール接触面から約0.15mmの位置における主相の短軸方向平均結晶粒径は1μm以上であることを確認した。この合金の一部を粉砕して得た粉末のX線回折測定より、この合金がThMn12型結晶の化合物を含むことを確認した。またEPMA観察より、合金中にオキシカーバイドは確認されなかった。合金に水素吸蔵処理及び脱水素化処理を施して粗粉末とした後、粉末状のカーボンブラック0.2重量%と混合し、窒素気流中のジェットミルで粉砕して平均粒径2.4μmの微粉末とした。さらに不活性ガス雰囲気中で成形装置の金型に充填して磁界中成形で圧粉成形体とし、Arガス雰囲気で1160℃3時間の焼結熱処理を施して、冷却速度10℃/分で室温まで冷却した。これを実施例10とした。上記と同様に作製し、カーボンブラックを添加しなかったサンプルを比較例3とした。
【0054】
表1、2及び5に、実施例8~10、及び比較例3の結果を示す。焼結体密度は、実施例8~10が7.3g/cm以上であり、比較例3は6.38g/cm以上であった。実施例8~10の平均結晶粒径はいずれも1μmを超えており、室温で5kOe以上の保磁力を示し、保磁力の温度係数βは-0.5%/K以上であった。また、粒界部にRリッチ相、R(Fe,Co)相及びオキシカーバイドであるR(C,O)相が各々1体積%以上存在していた。一方、比較例3には、オキシカーバイドが存在しなかった。実施例8~10のR(Fe,Co)相の分析値をもとに同じ組成の合金をアーク溶解で作製し800℃15hrの均質化処理後、VSMで磁化-温度測定を行ったところ、キュリー温度Tはいずれも200℃以上であった。
【0055】
[比較例4]
Smメタル、電解鉄、Vメタルを用いて組成を調整し、原料溶湯を周速度20m/secで回転するCuロール上で冷却して、急冷薄帯の原料合金を作製した。薄帯の厚みは10~50μmであり、レーザー顕微鏡により得られた合金の組織観察を行い、観察した画像から平均結晶粒径は細かすぎて測定し難いものの、少なくとも1μmより小さいことを確認した。この合金薄帯をボールミルで粉砕した後、篩で300μm以下の粉末を選別し、さらにステアリン酸を0.2重量%添加した。これをAr雰囲気中720℃で5分間保持した後、約500MPaの圧力でホットプレスした。得られた試料の密度は7.12g/cmであった。主相粒の平均結晶粒径は0.3~0.4μm程度であり、EPMAでは主相、粒界相の組成を同定できなかった。また主相の磁化容易軸が揃わないため、低いBしか得られなかった。結果を表1,2,5に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】