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特開2022-176694凝結遅延剤およびコンクリートの打継ぎ処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176694
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】凝結遅延剤およびコンクリートの打継ぎ処理方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/62 20060101AFI20221122BHJP
   C04B 41/63 20060101ALI20221122BHJP
   E04G 21/02 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
C04B41/62
C04B41/63
E04G21/02 103A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083245
(22)【出願日】2021-05-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年度土木学会全国大会 第75回年次学術講演会 [講演概要集]、 発行日 令和2年8月1日 建設機械施工 Vol.72 No.9(No.847)、 発行日 令和2年9月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】506416400
【氏名又は名称】シーカ テクノロジー アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇野 昌利
(72)【発明者】
【氏名】根本 浩史
(72)【発明者】
【氏名】御領園 悠司
(72)【発明者】
【氏名】幸田 圭司
(72)【発明者】
【氏名】田中 博一
(72)【発明者】
【氏名】尾田 健太
(72)【発明者】
【氏名】矢口 稔
【テーマコード(参考)】
2E172
4G028
【Fターム(参考)】
2E172AA05
2E172AA15
2E172DD05
2E172DD06
4G028CA01
4G028CB01
4G028DB05
(57)【要約】
【課題】打継ぎ処理作業の効率化を図ることができる凝結遅延剤およびコンクリートの打継ぎ処理方法を提供する。
【解決手段】コンクリートの打継ぎ処理においてコンクリートの表面に施工される凝結遅延剤であって、打込み直後のコンクリートの表面に施工した際に、施工した位置のコンクリートの表面に留まって所定の凝結遅延作用を発揮する機能を有するようにする。凝結遅延作用を有する主剤を含有し、この主剤の比重はブリーディング水よりも大きいものでもよい。また、ブリーディング水またはコンクリートと反応して高粘性化する成分を有してもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートの打継ぎ処理においてコンクリートの表面に施工される凝結遅延剤であって、
打込み直後のコンクリートの表面に施工した際に、施工した位置のコンクリートの表面に留まって所定の凝結遅延作用を発揮する機能を有することを特徴とする凝結遅延剤。
【請求項2】
凝結遅延作用を有する主剤を含有し、この主剤の比重はブリーディング水よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の凝結遅延剤。
【請求項3】
ブリーディング水またはコンクリートと反応して高粘性化する成分を有することを特徴とする請求項1または2に記載の凝結遅延剤。
【請求項4】
凝結遅延作用を有する化合物Aと、アルカリ環境下でその水溶液粘度が増加するアルカリ増粘タイプの増粘剤1種または2種以上である化合物Bで構成される増粘性の凝結遅延剤であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の凝結遅延剤。
【請求項5】
前記化合物Aがオキシカルボン酸、リグニンスルホン酸、ホスホン酸、フミン酸および/もしくはその塩、または、糖類、ポリオールの1種または2種以上により構成されることを特徴とする請求項4に記載の凝結遅延剤。
【請求項6】
前記化合物Bはアクリル系増粘剤であり、有効成分5%における水溶液粘度がpH=5の時10mPa・s以下で、pH=12の時200mPa・s以上となる増粘剤1種または2種以上で構成されることを特徴とする請求項4または5に記載の凝結遅延剤。
【請求項7】
前記化合物Aおよび前記化合物Bの構成が、重量比で10/90~60/40であることを特徴とする請求項4~6のいずれか一つに記載の凝結遅延剤。
【請求項8】
コンクリートの表面積1mあたり150mlから1500mlを噴霧して用いられることを特徴とする請求項1~7のいずれか一つに記載の凝結遅延剤。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一つに記載の凝結遅延剤を打込み直後のコンクリートの表面に施工して、コンクリートの凝結時間を調整することを特徴とするコンクリートの打継ぎ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝結遅延剤およびコンクリートの打継ぎ処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造物を施工する場合には、打継ぎ処理を行っている(例えば、特許文献1を参照)。打継ぎ処理を適切に行わないと、構造上の弱点となり、耐久性にも影響を及ぼすことがある。一般的な打継ぎ処理は、ブリーディングが収束した打継ぎ箇所に凝結遅延剤を散布して、その翌日にレイタンス処理を実施するという手順によって行われる。図4に、従来の一般的な打継ぎ処理の手順の一例を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-256804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の凝結遅延剤は、ブリーディングが流れ出たり、引いたり(乾いたり)して落ち着いたコンクリートに散布することで凝結遅延作用を発揮する。したがって、凝結遅延剤は、ブリーディングが落ち着いた後でなければコンクリートに散布できない。このため、コンクリートの打設が完了してからブリーディングが落ち着くまでの所定時間(例えば1~3時間)は、作業員を待機させる必要があり、作業の非効率化を招いていた。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、打継ぎ処理作業の効率化を図ることができる凝結遅延剤およびコンクリートの打継ぎ処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る凝結遅延剤は、コンクリートの打継ぎ処理においてコンクリートの表面に施工される凝結遅延剤であって、打込み直後のコンクリートの表面に施工した際に、施工した位置のコンクリートの表面に留まって所定の凝結遅延作用を発揮する機能を有することを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤は、上述した発明において、凝結遅延作用を有する主剤を含有し、この主剤の比重はブリーディング水よりも大きいことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤は、上述した発明において、ブリーディング水またはコンクリートと反応して高粘性化する成分を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤は、上述した発明において、凝結遅延作用を有する化合物Aと、アルカリ環境下でその水溶液粘度が増加するアルカリ増粘タイプの増粘剤1種または2種以上である化合物Bで構成される増粘性の凝結遅延剤であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤は、上述した発明において、前記化合物Aがオキシカルボン酸、リグニンスルホン酸、ホスホン酸、フミン酸および/もしくはその塩、または、糖類、ポリオールの1種または2種以上により構成されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤は、上述した発明において、前記化合物Bはアクリル系増粘剤であり、有効成分5%における水溶液粘度がpH=5の時10mPa・s以下で、pH=12の時200mPa・s以上となる増粘剤1種または2種以上で構成されることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤は、上述した発明において、前記化合物Aおよび前記化合物Bの構成が、重量比で10/90~60/40であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤は、上述した発明において、コンクリートの表面積1mあたり150mlから1500mlを噴霧して用いられることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るコンクリートの打継ぎ処理方法は、上述した凝結遅延剤を打込み直後のコンクリートの表面に施工して、コンクリートの凝結時間を調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る凝結遅延剤によれば、コンクリートの打継ぎ処理においてコンクリートの表面に施工される凝結遅延剤であって、打込み直後のコンクリートの表面に施工した際に、施工した位置のコンクリートの表面に留まって所定の凝結遅延作用を発揮する機能を有するので、打込み直後のコンクリートの表面に散布することができ、従来要していた打込み直後の待機時間を不要にすることができる。したがって、打継ぎ処理作業の効率化を図ることができるという効果を奏する。
【0016】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤によれば、凝結遅延作用を有する主剤を含有し、この主剤の比重はブリーディング水よりも大きいので、施工された凝結遅延剤の主剤はブリーディング水中を沈降して、ブリーディング水に流されない。したがって、施工した位置のコンクリートの表面に留まって所定の凝結遅延作用を発揮することができるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤によれば、ブリーディング水またはコンクリートと反応して高粘性化する成分を有するので、施工された凝結遅延剤は高粘性化してブリーディング水に流されない。したがって、施工した位置のコンクリートの表面に留まって所定の凝結遅延作用を発揮することができるという効果を奏する。
【0018】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤によれば、凝結遅延作用を有する化合物Aと、アルカリ環境下でその水溶液粘度が増加するアルカリ増粘タイプの増粘剤1種または2種以上である化合物Bで構成される増粘性の凝結遅延剤であるので、施工した位置のコンクリートの表面に留まって所定の凝結遅延作用を発揮することができるという効果を奏する。
【0019】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤によれば、前記化合物Aがオキシカルボン酸、リグニンスルホン酸、ホスホン酸、フミン酸および/もしくはその塩、または、糖類、ポリオールの1種または2種以上により構成されるので、施工した位置のコンクリートの表面に留まって所定の凝結遅延作用を発揮することができるという効果を奏する。
【0020】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤によれば、前記化合物Bはアクリル系増粘剤であり、有効成分5%における水溶液粘度がpH=5の時10mPa・s以下で、pH=12の時200mPa・s以上となる増粘剤1種または2種以上で構成されるので、施工した位置のコンクリートの表面に留まって所定の凝結遅延作用を発揮することができるという効果を奏する。
【0021】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤によれば、前記化合物Aおよび前記化合物Bの構成が、重量比で10/90~60/40であるので、施工した位置のコンクリートの表面に留まって所定の凝結遅延作用を発揮することができるという効果を奏する。
【0022】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤によれば、コンクリートの表面積1mあたり150mlから1500mlを噴霧して用いられるので、施工した位置のコンクリートの表面に留まって所定の凝結遅延作用を発揮することができるという効果を奏する。
【0023】
また、本発明に係るコンクリートの打継ぎ処理方法によれば、上述した凝結遅延剤を打込み直後のコンクリートの表面に施工して、コンクリートの凝結時間を調整するので、打継ぎ処理作業の効率化を図ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明に係るコンクリートの打継ぎ処理方法の実施の形態を示す概略手順図である。
図2図2は、凝結遅延剤の散布状況の一例を示す図である。
図3図3は、散布タイミングによる洗い出し深さの比較図である。
図4図4は、従来の打継ぎ処理の一例を示す概略手順図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明に係る凝結遅延剤およびコンクリートの打継ぎ処理方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0026】
(凝結遅延剤)
まず、本発明に係る凝結遅延剤の実施の形態について説明する。
本実施の形態に係る凝結遅延剤は、コンクリートの打継ぎ処理においてコンクリートの表面に散布(施工)されるものであって、打込み直後のコンクリートの表面に散布した際に、散布した位置のコンクリートの表面に留まって所期の凝結遅延作用を発揮する機能を有する。通常、コンクリートは打込み直後から一定時間(例えば3時間程度)が経過するまでに、余剰水であるブリーディング水が生じる。本実施の形態の凝結遅延剤は、このような環境下においてもブリーディング水に流されず、コンクリートの表面に留まって所期の凝結遅延作用を発揮する。
【0027】
凝結遅延剤は、凝結遅延作用を有する主剤を含有し、この主剤の比重がブリーディング水よりも大きいもので構成することができる。このようにすれば、散布された凝結遅延剤の主剤はブリーディング水中を沈降して、ブリーディング水に流されない。したがって、散布した位置のコンクリートの表面に留まって所定の凝結遅延作用を発揮することができる。
【0028】
また、凝結遅延剤は、ブリーディング水またはコンクリートのアルカリ成分と反応して高粘性化する成分を有するもので構成することができる。このようにすれば、散布された凝結遅延剤は高粘性化してブリーディング水に流されない。したがって、散布した位置のコンクリートの表面に留まって所定の凝結遅延作用を発揮することができる。
【0029】
上記の成分としては、例えば合成高分子型のアルカリ増粘剤を用いることができる。このアルカリ増粘剤を市販品の凝結遅延剤(主剤)に添加すれば、本発明の実施例の凝結遅延剤を得ることができる。本実施例の凝結遅延剤を打込み直後のコンクリートに散布すると、この凝結遅延剤に含まれるアルカリ増粘剤が高アルカリ性のコンクリート表面に接触して反応し、凝結遅延剤は全体として高い粘性を持つように高粘性化する。このため、主剤はブリーディング水に流されず、コンクリート表面に留まって所期の凝結遅延作用を発揮することができる。
【0030】
なお、本発明の凝結遅延剤は上記のものに限るものではなく、打込み直後のコンクリートの表面に散布した際に、散布した位置のコンクリートの表面に留まって所定の凝結遅延作用を発揮する機能を有するものであれば、いかなるもので構成してもよい。
【0031】
本実施の形態によれば、打込み直後のコンクリートの表面に散布することができる。このため、従来要していた、打込み直後のブリーディングが収束するまでの待機時間を不要にすることができる。したがって、打継ぎ処理作業の効率化を図ることができる。また、散布するコンクリートの形状によらないことから、様々なコンクリート構造物の施工に適用することができる。
【0032】
上記の実施の形態において、凝結遅延作用を有する化合物Aと、アルカリ環境下でその水溶液粘度が増加するアルカリ増粘タイプの増粘剤1種または2種以上である化合物Bで構成される増粘性の凝結遅延剤を用いてもよい。このようにしても、施工した位置のコンクリートの表面に留まって所定の凝結遅延作用を発揮することができる。
【0033】
化合物Aがオキシカルボン酸、リグニンスルホン酸、ホスホン酸、フミン酸および/もしくはその塩、または、糖類、ポリオールの1種または2種以上により構成されてあってもよい。化合物Bはアクリル系増粘剤であり、有効成分5%における水溶液粘度がpH=5の時10mPa・s以下で、pH=12の時200mPa・s以上となる増粘剤1種または2種以上で構成されてあってもよい。化合物Aおよび化合物Bの構成を重量比で例えば10/90~60/40としてもよい。凝結遅延剤は、例えばコンクリートの表面積1mあたり150mlから1500mlを噴霧して用いられるものであってもよい。
【0034】
(凝結遅延剤組成物)
次に、凝結遅延剤組成物の実施形態について説明する。
第1の実施形態として、本発明は、セメント系建材用の凝結遅延剤組成物を提供し、前記組成物は、それぞれの場合において、組成物の総重量に対して、
a) 3~13wt%の糖酸、糖、糖アルコール、ヒドロキシカルボン酸、リグニンスルホン酸、リン酸、ホスホン酸、ホウ酸、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1つの凝結遅延剤、
b) 10~20wt%のアルカリ膨潤性ポリマーから選択される少なくとも1つの増粘剤、および
c) 残部を水、とすることにより構成される。
【0035】
本発明に関連する凝結遅延剤とは、混合水を添加した後、そのような凝結遅延剤を添加しない場合と比較して、セメント系建築材料の水和反応を遅らせる化学物質または化学物質の混合物である。特に、凝結遅延剤は、若齢期の水和反応に影響を与え、圧縮強度の増加を低下させる。
【0036】
少なくとも1つの凝結遅延剤は、本発明の組成物中に、組成物の総重量に対して、3~13wt%、好ましくは5~10wt%、特に好ましくは8wt%で組成される。実施形態によれば、少なくとも1つの凝結遅延剤は、糖酸、糖、糖アルコール、ヒドロキシカルボン酸、リグニンスルホン酸、リン酸、ホスホン酸、ホウ酸およびそれらの塩からなる群から選択される。
【0037】
本発明における糖酸とは、カルボキシル基を有する単糖であり、アルドン酸、ウロソン酸、ウロン酸またはアルダル酸などである。好ましい糖酸はアルドン酸である。本発明において有用な糖酸の例としては、グリセリン酸、キシロン酸、グルコン酸、アスコルビン酸、ノイラミン酸、グルクロン酸、ガラクツロン酸、イズロン酸、酒石酸、ムチン酸、およびサッカリン酸が挙げられるが、これらに限定されない。糖酸は遊離酸、または塩として存在する。実施形態として、糖酸の塩は、元素の周期表のグループIIa、IIa、IIb、IIb、IVb、VIIIbの金属との塩である。糖酸の好ましい塩は、アルカリおよびアルカリ土類金属、鉄、コバルト、銅、または亜鉛の塩である。特に好ましいものは、リチウム、ナトリウム、およびカリウムのような一価金属の塩である。
【0038】
本発明における糖は、アルデヒド基を有する炭水化物である。特に好ましい態様において、糖は単糖または二糖のグループに属する。糖類の例としては、グリセリンアルデヒド、スレオース、エリスロース、キシロース、リキソース、アラビノース、リボース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、フルクトース、ソルボース、ラクトース、マルトース、スクロース、ラクツロース、トレハロース、セロビオース、キトビオース、イソマルトース、パラチノース、マンノビオース、ラフィノースおよびキシロビオースが挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
本発明における糖アルコールは、酸化還元反応によって糖から誘導可能な多価アルコールである。したがって、糖アルコールはアルジトールのクラスに属する。糖アルコールの例としては、エチレングリコール、グリセロール、ジグリセロール、スレイトール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、キシリトール、リビトール、アラビトール、ソルビトール、ソルビタン、イソソルビド、マンニトール、ズルシトール、フシトール、イジトール、イジトール、イノシトール、ボレミトール、ラクチトール、マルチトール、イソマルト、マルトトリイトール、マルトテトライトール、およびポリグリシトールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
本発明におけるヒドロキシカルボン酸は、同じ分子内にOH-部分を含むカルボン酸である。ヒドロキシカルボン酸の例としては、リンゴ酸、クエン酸、イソクエン酸、酒石酸、タルトロン酸、マンデル酸、サリチル酸、乳酸、タンニン酸およびフミン酸が挙げられるが、これらに限定されない。好ましいヒドロキシカルボン酸はクエン酸、酒石酸、および乳酸である。ヒドロキシカルボン酸は、遊離酸または塩として存在する。実施形態によれば、ヒドロキシカルボン酸の塩は、アンモニウムまたは元素の周期表の集団IIa、IIa、IIb、IIb、IVb、VIIIbの金属との塩である。ヒドロキシカルボン酸の好ましい塩は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩である。
【0041】
本発明のリン酸は、リン酸の誘導体である。リン酸は、遊離リン酸、リン酸のオリゴマー、および/または、二リン酸、三リン酸、四リン酸などのリン酸のポリマーである。リン酸は、プロトン化、部分的脱プロトン化、または完全脱プロトン化された状態で存在することができる。フッ素化されたリン酸も可能である。適切なリン酸の例は、オルトリン酸三ナトリウム、およびピロリン酸四ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、およびフルオロリン酸二ナトリウムである。リン酸は、リン酸のエステルまたはそのオリゴマーの1つのエステルを指すことができる。リン酸のエステルとしては、上記のヒドロキシカルボン酸および/または糖酸との混合エステル、カルボン酸との混合エステル、特に脂肪酸との混合エステル、アルキルエステル、アリールエステル、ポリアルキレングリコールとのエステルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
ホスホン酸は、同様に、モノ-、ジ-、トリ-、テトラ-、ペンタ-またはヘキサ-ホスホン酸、ならびにそれらのオリゴマーおよび/またはエステルがある。好ましくは、ホスホン酸は有機官能性部分を有する。ホスホン酸塩プロトン化され、部分的に脱プロトン化され、または完全に脱プロトン化された状態で存在する。適切なホスホン酸の例は、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、3-アミノプロピルホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、およびジエチレントリアミノエペンタ(メチレンホスホン酸)である。
【0043】
本発明における好ましいホウ酸塩は、ホウ酸、ホウ酸またはホウ砂の塩である。
【0044】
少なくとも1つの凝結遅延剤として、グルコン酸ナトリウムが特に好ましい実施形態である。
【0045】
少なくとも1つの増粘剤は、アルカリ膨潤性ポリマーから選択される。
【0046】
異なるアルカリ膨潤性ポリマーの混合物が使用されることも可能である。少なくとも1つの増粘剤は、本発明による組成物中に、組成物の総重量に対して、10~20wt%、好ましくは12~17wt%で存在する。
【0047】
好ましい実施形態によれば、少なくとも1つの増粘剤は、アルカリ膨潤性ポリマー、好ましくはアルカリ膨潤性ポリマーエマルジョンである。アルカリ膨潤性ポリマーは、エチレン性不飽和モノマーのフリーラジカル乳化重合によって製造することができるカルボン酸官能性コポリマーである。アルカリ膨潤性ポリマーは、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸のエステルとの優先的な共重合体である。(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸のエステルとのコポリマーは、プロピレン、ブタジエン、スチレン、塩化ビニル、ビニルアルコールおよび/または酢酸ビニルなどのビニルアルコールのエステルなどのさらなるモノマー単位の含有量を有してもよい。本発明において最も好ましいコポリマーは、メタクリル酸とアクリル酸エステルとのコポリマー、特にモル比約1:1のメタクリル酸とアクリル酸エチレンエステルとのである。コポリマーはアニオン電荷をもつポリマーである。通常、アルカリ膨潤性ポリマーは数平均分子量Mn が10,000~10,000,000g/mol、好ましくは10,000~1,000,000g/mol、特に30,000~500,000の高分子量を有する。
【0048】
アルカリ膨潤性ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、特に限定されるものではなく、広範囲に変化し得る。ASTM D3418に従って測定されるアルカリ膨潤性ポリマーのTgは、-20℃~+90℃の範囲内である。アルカリ膨潤性ポリマーは、水の吸収と膨潤によって厚くなり、低pHから高pHへの変化に依存して、そのような肥厚を引き起こす。低pHでは、共重合体は水に不溶であるが、中和され、高pHでは可溶性になり肥厚する。2つ以上のアルカリ膨潤性ポリマーの混合物も可能である。
【0049】
このようなアルカリ膨潤性ポリマーとしては、ASE (アルカリ可溶性/膨潤性ポリマーエマルジョン)とも呼ばれる水性エマルジョンが特に好ましい。好ましいASEは10~40wt%、特に25~35wt%の固形分を有する。本発明のアルカリ膨潤性ポリマーエマルジョンは、pH >5で、より好ましくはpH >7で、特にpH >8で、効果的な増粘を示す。
【0050】
アルカリ膨潤性ポリマーはまた、疎水的に修飾され得る。これは、典型的には、少数の疎水性マクロモノマーをポリマーに組み込むことによって行われる。そのようなマクロモノマーは、(メタ)アクリル酸と疎水性アルコールとのエステル、スチレンの誘導体、または非イオン性界面活性剤である。疎水性修飾されたアルカリ膨潤性ポリマーの分子量は、典型的には、上述のASEポリマーの分子量よりも低い。疎水性修飾アルカリ膨潤性ポリマーは、HASE (疎水性修飾アルカリ可溶性ポリマーエマルジョン)とも呼ばれる水性エマルジョンとして優先的に使用される。
【0051】
適切なASEおよびHASEは、Dow ChemicalからAcrysol、日本触媒からAcryset、またはBASFからRheovisというブランド名で入手可能である。
【0052】
顔料を使用して、本発明の凝結遅延剤組成物に着色剤を添加することができる。これは、凝結遅延剤組成物の適用中に、それが既に適用されている場所を確認するために有用である。好適な顔料は、有機顔料または無機顔料である。有機染料の使用も可能である。適切な顔料は当業者に公知である。態様形態によれば、酸化チタン(TiO2)が顔料として使用される。他の実施形態によれば、アゾ顔料が顔料として使用される。さらに他の実施形態によれば、フルオレセイン、ローダミンまたはその誘導体が顔料として使用される。顔料は、凝結遅延剤組成物の総重量に基づいて、1wt%以下の量で本発明の凝結遅延剤配合物中に使用することができる。
【0053】
第2の実施形態として、本発明は、セメント系建材用の凝結遅延剤組成物に関し、前記組成物は、以下を含む
a) 糖酸、糖、糖アルコール、ヒドロキシカルボン酸、リグニンスルホン酸、リン酸塩、ホスホン酸、ホウ酸塩及びこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1つのセメント水和用の3~13wt%、
b) アルカリ膨潤性ポリマーからなる群から選択される少なくとも1つの増粘剤10~20wt%、
c) 必要に応じて20~90wt%、好ましくは50~90wt%、特に67~87wt%の少なくとも1つの充填剤、
d) 0~1wt%の顔料、
e) 0~1wt%の防腐剤、および、残部を水とすることにより構成される。
【0054】
第3の実施形態として、本発明は、洗い出し仕上げコンクリートを製造する方法であって、a)上述したような凝結遅延剤組成物と、硬化していないセメント系建材の表面とを接触させる工程と、b)表面が前記凝結遅延剤組成物と接触している間にセメント系建材を硬化させる工程と、c)コンクリート表面から凝結遅延剤組成物及び残留材料を除去する工程とを含む方法に関する。
【0055】
(コンクリートの打継ぎ処理方法)
次に、本発明に係るコンクリートの打継ぎ処理方法の実施の形態について説明する。
本実施の形態に係るコンクリートの打継ぎ処理方法は、上述した凝結遅延剤を打込み直後のコンクリートの表面に散布して、コンクリートの凝結時間を調整するものである。具体的には、図1に示すように、まず、あらかじめ上記の機能を有する凝結遅延剤を準備しておく(ステップS1)。次に、コンクリート打込み直後に、凝結遅延剤を散布する(ステップS2)。このようにすれば、従来のように、打込みが完了してからブリーディングが落ち着くまでの所定時間(例えば1~3時間)を待機する必要がなくなる。散布状況の例を図2(1)に示す。
【0056】
その後、所定時間経過後(例えば翌日など)にウォータージェットなどによる打継ぎ処理を行う(ステップS3)。打継ぎ処理完了の例を図2(2)に示す。
【0057】
このように、本実施の形態によれば、打込み直後のコンクリートの表面に散布することができるので、打込み直後のブリーディングが収束するまでの待機時間を不要にすることができる。したがって、打継ぎ処理作業の効率化を図ることができる。また、散布するコンクリートの形状によらないことから、様々なコンクリート構造物の施工に適用することができる。
【0058】
(本発明の効果の検証)
図3は、凝結遅延剤の散布タイミングによる洗い出し深さを、開発品と従来品とで比較したものである。洗い出し深さは、打設日の翌日(打設して20時間後)に高圧洗浄機で除去できたコンクリート表面深さである。凡例に示される従来品は、市販されている従来の凝結遅延剤(以下、市販品という。)であり、開発品は、この市販品に対して上記のアルカリ増粘剤を添加した凝結遅延剤である。散布タイミングは、打設した直後に散布した場合(打設直後散布)、打設して1時間後に散布した場合、打設して2時間後に散布した場合、打設して3.5時間後に散布した場合(市販品の標準的な散布タイミング)、打設して4.5時間後に散布した場合である。打設直後散布の開発品のグラフが本発明の実施例に相当し、他のグラフが比較例に相当する。
【0059】
この図に示すように、本実施例(打設直後散布)は、打設直後に散布したにも関わらず、市販品の標準的な散布タイミングの場合と同等以上の洗い出し効果が得られることがわかる。したがって、本実施例によれば、従来要していたコンクリート打設直後の待機時間を不要にすることができる。このため、打継ぎ処理作業の効率化を図ることができる。
【0060】
以上説明したように、本発明に係る凝結遅延剤によれば、コンクリートの打継ぎ処理においてコンクリートの表面に施工される凝結遅延剤であって、打込み直後のコンクリートの表面に施工した際に、施工した位置のコンクリートの表面に留まって所定の凝結遅延作用を発揮する機能を有するので、打込み直後のコンクリートの表面に散布することができ、従来要していた打込み直後の待機時間を不要にすることができる。したがって、打継ぎ処理作業の効率化を図ることができる。
【0061】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤によれば、凝結遅延作用を有する主剤を含有し、この主剤の比重はブリーディング水よりも大きいので、施工された凝結遅延剤の主剤はブリーディング水中を沈降して、ブリーディング水に流されない。したがって、施工した位置のコンクリートの表面に留まって所定の凝結遅延作用を発揮することができる。
【0062】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤によれば、ブリーディング水またはコンクリートと反応して高粘性化する成分を有するので、施工された凝結遅延剤は高粘性化してブリーディング水に流されない。したがって、施工した位置のコンクリートの表面に留まって所定の凝結遅延作用を発揮することができる。
【0063】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤によれば、凝結遅延作用を有する化合物Aと、アルカリ環境下でその水溶液粘度が増加するアルカリ増粘タイプの増粘剤1種または2種以上である化合物Bで構成される増粘性の凝結遅延剤であるので、施工した位置のコンクリートの表面に留まって所定の凝結遅延作用を発揮することができる。
【0064】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤によれば、前記化合物Aがオキシカルボン酸、リグニンスルホン酸、ホスホン酸、フミン酸および/もしくはその塩、または、糖類、ポリオールの1種または2種以上により構成されるので、施工した位置のコンクリートの表面に留まって所定の凝結遅延作用を発揮することができる。
【0065】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤によれば、前記化合物Bはアクリル系増粘剤であり、有効成分5%における水溶液粘度がpH=5の時10mPa・s以下で、pH=12の時200mPa・s以上となる増粘剤1種または2種以上で構成されるので、施工した位置のコンクリートの表面に留まって所定の凝結遅延作用を発揮することができる。
【0066】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤によれば、前記化合物Aおよび前記化合物Bの構成が、重量比で10/90~60/40であるので、施工した位置のコンクリートの表面に留まって所定の凝結遅延作用を発揮することができる。
【0067】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤によれば、コンクリートの表面積1mあたり150mlから1500mlを噴霧して用いられるので、施工した位置のコンクリートの表面に留まって所定の凝結遅延作用を発揮することができる。
【0068】
また、本発明に係るコンクリートの打継ぎ処理方法によれば、上述した凝結遅延剤を打込み直後のコンクリートの表面に施工して、コンクリートの凝結時間を調整するので、打継ぎ処理作業の効率化を図ることができるという効果を奏する。
【0069】
また、本発明に係るコンクリートの打継ぎ処理方法によれば、上述した凝結遅延剤を打込み直後のコンクリートの表面に施工して、コンクリートの凝結時間を調整するので、打継ぎ処理作業の効率化を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上のように、本発明に係る凝結遅延剤およびコンクリートの打継ぎ処理方法は、コンクリートの打継ぎ処理に有用であり、特に、打継ぎ処理作業の効率化を図るのに適している。
図1
図2
図3
図4