(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176723
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】凝結遅延剤およびコンクリートの打継ぎ処理方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/02 20060101AFI20221122BHJP
【FI】
E04G21/02 103A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083290
(22)【出願日】2021-05-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年度土木学会全国大会 第75回年次学術講演会 [講演概要集] 発行日 令和2年8月1日 建設機械施工 Vol.72 No.9(No.847) 発行日 令和2年9月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】506416400
【氏名又は名称】シーカ テクノロジー アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇野 昌利
(72)【発明者】
【氏名】根本 浩史
(72)【発明者】
【氏名】御領園 悠司
(72)【発明者】
【氏名】幸田 圭司
(72)【発明者】
【氏名】田中 博一
(72)【発明者】
【氏名】山下 裕司
(72)【発明者】
【氏名】尾田 健太
(72)【発明者】
【氏名】矢口 稔
【テーマコード(参考)】
2E172
【Fターム(参考)】
2E172AA05
2E172DD04
2E172DD05
2E172HA03
(57)【要約】
【課題】施工現場の週休2日制を実現することができる凝結遅延剤およびコンクリートの打継ぎ処理方法を提供する。
【解決手段】コンクリートの打継ぎ処理においてコンクリートの表面に施工される凝結遅延剤であって、コンクリートの表面に施工した際の凝結遅延作用の持続時間を調整可能な機能を有するようにする。コンクリートの表面に施工した際の凝結遅延作用の持続時間が最大72時間持続する超遅延タイプであってもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートの打継ぎ処理においてコンクリートの表面に施工される凝結遅延剤であって、
コンクリートの表面に施工した際の凝結遅延作用の持続時間を調整可能な機能を有することを特徴とする凝結遅延剤。
【請求項2】
コンクリートの表面に施工した際の凝結遅延作用の持続時間が最大72時間持続する超遅延タイプであることを特徴とする請求項1に記載の凝結遅延剤。
【請求項3】
外皮膜と、この外皮膜によって覆われた凝結遅延作用を有する主剤とを含有し、外皮膜がコンクリートと反応して主剤を放出することによって主剤の放出が制御される放出制御機能を有することを特徴とする請求項1または2に記載の凝結遅延剤。
【請求項4】
凝結遅延作用を有する化合物Aと、アルカリ環境下でその水溶液粘度が増加するアルカリ増粘タイプの増粘剤1種または2種以上である化合物Bで構成される増粘性の凝結遅延剤であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の凝結遅延剤。
【請求項5】
前記化合物Aがオキシカルボン酸、リグニンスルホン酸、ホスホン酸、フミン酸および/もしくはその塩、または、糖類、ポリオールの1種または2種以上により構成されることを特徴とする請求項4に記載の凝結遅延剤。
【請求項6】
前記化合物Bはアクリル系増粘剤であり、有効成分5%における水溶液粘度がpH=5の時10mPa・s以下で、pH=12の時200mPa・s以上となる増粘剤1種または2種以上で構成されることを特徴とする請求項4または5に記載の凝結遅延剤。
【請求項7】
前記化合物Aおよび前記化合物Bの構成が、重量比で10/90~60/40であることを特徴とする請求項4~6のいずれか一つに記載の凝結遅延剤。
【請求項8】
コンクリートの表面積1m2あたり150mlから1500mlを噴霧して用いられることを特徴とする請求項1~7のいずれか一つに記載の凝結遅延剤。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一つに記載の凝結遅延剤をコンクリートの表面に施工して、コンクリートの凝結時間を調整することを特徴とするコンクリートの打継ぎ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝結遅延剤およびコンクリートの打継ぎ処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造物を施工する場合には、打継ぎ処理を行っている(例えば、特許文献1を参照)。打継ぎ処理を適切に行わないと、構造上の弱点となり、耐久性にも影響を及ぼすことがある。一般的な打継ぎ処理は、ブリーディングが収束した打継ぎ箇所に凝結遅延剤を散布して、その翌日にレイタンス処理を実施するという手順によって行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の従来の一般的な打継ぎ処理では、例えば金曜日にコンクリート打設をすると、翌日の土曜日にレイタンス処理をするため、休日出勤を余儀なくされるという問題がある。
【0005】
一方、建設業界では、若手技術者の離職や入職者が年々減少するなど、将来の担い手確保が大きな課題となっている。そのため、長時間労働の是正や休日を確保できる環境整備を一層強化するなど、建設業の「週休2日・働き方改革」が推進されている。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、施工現場の週休2日制を実現することができる凝結遅延剤およびコンクリートの打継ぎ処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る凝結遅延剤は、コンクリートの打継ぎ処理においてコンクリートの表面に施工される凝結遅延剤であって、コンクリートの表面に施工した際の凝結遅延作用の持続時間を調整可能な機能を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤は、上述した発明において、コンクリートの表面に施工した際の凝結遅延作用の持続時間が最大72時間持続する超遅延タイプであることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤は、上述した発明において、外皮膜と、この外皮膜によって覆われた凝結遅延作用を有する主剤とを含有し、外皮膜がコンクリートと反応して主剤を放出することによって主剤の放出が制御される放出制御機能を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤は、上述した発明において、凝結遅延作用を有する化合物Aと、アルカリ環境下でその水溶液粘度が増加するアルカリ増粘タイプの増粘剤1種または2種以上である化合物Bで構成される増粘性の凝結遅延剤であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤は、上述した発明において、前記化合物Aがオキシカルボン酸、リグニンスルホン酸、ホスホン酸、フミン酸および/もしくはその塩、または、糖類、ポリオールの1種または2種以上により構成されることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤は、上述した発明において、前記化合物Bはアクリル系増粘剤であり、有効成分5%における水溶液粘度がpH=5の時10mPa・s以下で、pH=12の時200mPa・s以上となる増粘剤1種または2種以上で構成されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤は、上述した発明において、前記化合物Aおよび前記化合物Bの構成が、重量比で10/90~60/40であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤は、上述した発明において、コンクリートの表面積1m2あたり150mlから1500mlを噴霧して用いられることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係るコンクリートの打継ぎ処理方法は、上述した凝結遅延剤をコンクリートの表面に施工して、コンクリートの凝結時間を調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る凝結遅延剤によれば、コンクリートの打継ぎ処理においてコンクリートの表面に施工される凝結遅延剤であって、コンクリートの表面に施工した際の凝結遅延作用の持続時間を調整可能な機能を有するので、凝結遅延作用の持続時間を通常よりも長くすることで、例えば金曜日に打設したコンクリートの打継ぎ処理を月曜日に実施することができる。このため、施工現場の週休2日制を実現することができるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤によれば、コンクリートの表面に施工した際の凝結遅延作用の持続時間が最大72時間持続する超遅延タイプであるので、凝結遅延作用の持続時間を最大72時間(3日間)持続させることができるという効果を奏する。
【0018】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤によれば、外皮膜と、この外皮膜によって覆われた凝結遅延作用を有する主剤とを含有し、外皮膜がコンクリートと反応して主剤を放出することによって主剤の放出が制御される放出制御機能を有するので、凝結遅延作用の持続時間を容易に調整することができるという効果を奏する。
【0019】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤によれば、凝結遅延作用を有する化合物Aと、アルカリ環境下でその水溶液粘度が増加するアルカリ増粘タイプの増粘剤1種または2種以上である化合物Bで構成される増粘性の凝結遅延剤であるので、凝結遅延作用の持続時間を容易に調整することができるという効果を奏する。
【0020】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤によれば、前記化合物Aがオキシカルボン酸、リグニンスルホン酸、ホスホン酸、フミン酸および/もしくはその塩、または、糖類、ポリオールの1種または2種以上により構成されるので、凝結遅延作用の持続時間を容易に調整することができるという効果を奏する。
【0021】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤によれば、前記化合物Bはアクリル系増粘剤であり、有効成分5%における水溶液粘度がpH=5の時10mPa・s以下で、pH=12の時200mPa・s以上となる増粘剤1種または2種以上で構成されるので、凝結遅延作用の持続時間を容易に調整することができるという効果を奏する。
【0022】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤によれば、前記化合物Aおよび前記化合物Bの構成が、重量比で10/90~60/40であるので、凝結遅延作用の持続時間を容易に調整することができるという効果を奏する。
【0023】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤によれば、コンクリートの表面積1m2あたり150mlから1500mlを噴霧して用いられるので、凝結遅延作用の持続時間を容易に調整することができるという効果を奏する。
【0024】
また、本発明に係るコンクリートの打継ぎ処理方法によれば、上述した凝結遅延剤をコンクリートの表面に施工して、コンクリートの凝結時間を調整するので、施工現場の週休2日制を実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明に係るコンクリートの打継ぎ処理方法の実施の形態を示す概略手順図である。
【
図2】
図2は、凝結遅延剤の散布状況の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明に係る凝結遅延剤およびコンクリートの打継ぎ処理方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0027】
(凝結遅延剤)
まず、本発明に係る凝結遅延剤の実施の形態について説明する。
本実施の形態に係る凝結遅延剤は、コンクリートの打継ぎ処理においてコンクリートの表面に施工されるものであって、コンクリートの表面に施工した後の凝結遅延作用の持続時間を調整可能な機能を有する。凝結遅延作用の持続時間は、通常の凝結遅延剤の持続時間よりも長ければよいが、最大72時間(3日間)持続する超遅延タイプであることが望ましい。
【0028】
凝結遅延剤は、外皮膜と、この外皮膜によって覆われた凝結遅延作用を有する主剤とを含有し、外皮膜がコンクリートと反応して主剤を放出することによって主剤の放出が制御される放出制御機能を有してもよい。この放出制御機能によって、凝結遅延作用の持続時間を容易に調整することができる。これを具体化した凝結遅延剤として、例えば、小型カプセルを複数含有する液剤が挙げられる。カプセルの外皮膜がコンクリート中のアルカリ成分や水分などと反応して徐々に溶けて主剤を放出する。使用するカプセルの外皮膜の厚さや材質、カプセルの大きさなどを適宜設定することで、所望の持続時間に容易に調整することができる。なお、本発明の放出制御機能はこれに限るものではなく、これ以外の放出制御機能を用いてもよい。
【0029】
本実施の形態によれば、凝結遅延作用の持続時間を通常よりも長くすることで、例えば金曜日に打設したコンクリートの打継ぎ処理を月曜日に実施することができる。このため、施工現場の週休2日制を実現することができる。
【0030】
上記の実施の形態において、凝結遅延作用を有する化合物Aと、アルカリ環境下でその水溶液粘度が増加するアルカリ増粘タイプの増粘剤1種または2種以上である化合物Bで構成される増粘性の凝結遅延剤を用いてもよい。このようにしても、凝結遅延作用の持続時間を容易に調整することができる。
【0031】
化合物Aがオキシカルボン酸、リグニンスルホン酸、ホスホン酸、フミン酸および/もしくはその塩、または、糖類、ポリオールの1種または2種以上により構成されてあってもよい。化合物Bはアクリル系増粘剤であり、有効成分5%における水溶液粘度がpH=5の時10mPa・s以下で、pH=12の時200mPa・s以上となる増粘剤1種または2種以上で構成されてあってもよい。化合物Aおよび化合物Bの構成を重量比で例えば10/90~60/40としてもよい。凝結遅延剤は、例えばコンクリートの表面積1m2あたり150mlから1500mlを噴霧して用いられるものであってもよい。
【0032】
(凝結遅延剤組成物)
次に、凝結遅延剤組成物の実施形態について説明する。
第1の実施形態として、本発明は、セメント系建材用の凝結遅延剤組成物を提供し、前記組成物は、それぞれの場合において、組成物の総重量に対して、
a) 3~13wt%の糖酸、糖、糖アルコール、ヒドロキシカルボン酸、リグニンスルホン酸、リン酸、ホスホン酸、ホウ酸、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1つの凝結遅延剤、
b) 10~20wt%のアルカリ膨潤性ポリマーから選択される少なくとも1つの増粘剤、および
c) 残部を水、とすることにより構成される。
【0033】
本発明に関連する凝結遅延剤とは、混合水を添加した後、そのような凝結遅延剤を添加しない場合と比較して、セメント系建築材料の水和反応を遅らせる化学物質または化学物質の混合物である。特に、凝結遅延剤は、若齢期の水和反応に影響を与え、圧縮強度の増加を低下させる。
【0034】
少なくとも1つの凝結遅延剤は、本発明の組成物中に、組成物の総重量に対して、3~13wt%、好ましくは5~10wt%、特に好ましくは8wt%で組成される。実施形態によれば、少なくとも1つの凝結遅延剤は、糖酸、糖、糖アルコール、ヒドロキシカルボン酸、リグニンスルホン酸、リン酸、ホスホン酸、ホウ酸およびそれらの塩からなる群から選択される。
【0035】
本発明における糖酸とは、カルボキシル基を有する単糖であり、アルドン酸、ウロソン酸、ウロン酸またはアルダル酸などである。好ましい糖酸はアルドン酸である。本発明において有用な糖酸の例としては、グリセリン酸、キシロン酸、グルコン酸、アスコルビン酸、ノイラミン酸、グルクロン酸、ガラクツロン酸、イズロン酸、酒石酸、ムチン酸、およびサッカリン酸が挙げられるが、これらに限定されない。糖酸は遊離酸、または塩として存在する。実施形態として、糖酸の塩は、元素の周期表のグループIIa、IIa、IIb、IIb、IVb、VIIIbの金属との塩である。糖酸の好ましい塩は、アルカリおよびアルカリ土類金属、鉄、コバルト、銅、または亜鉛の塩である。特に好ましいものは、リチウム、ナトリウム、およびカリウムのような一価金属の塩である。
【0036】
本発明における糖は、アルデヒド基を有する炭水化物である。特に好ましい態様において、糖は単糖または二糖のグループに属する。糖類の例としては、グリセリンアルデヒド、スレオース、エリスロース、キシロース、リキソース、アラビノース、リボース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、フルクトース、ソルボース、ラクトース、マルトース、スクロース、ラクツロース、トレハロース、セロビオース、キトビオース、イソマルトース、パラチノース、マンノビオース、ラフィノースおよびキシロビオースが挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
本発明における糖アルコールは、酸化還元反応によって糖から誘導可能な多価アルコールである。したがって、糖アルコールはアルジトールのクラスに属する。糖アルコールの例としては、エチレングリコール、グリセロール、ジグリセロール、スレイトール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、キシリトール、リビトール、アラビトール、ソルビトール、ソルビタン、イソソルビド、マンニトール、ズルシトール、フシトール、イジトール、イジトール、イノシトール、ボレミトール、ラクチトール、マルチトール、イソマルト、マルトトリイトール、マルトテトライトール、およびポリグリシトールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
本発明におけるヒドロキシカルボン酸は、同じ分子内にOH-部分を含むカルボン酸である。ヒドロキシカルボン酸の例としては、リンゴ酸、クエン酸、イソクエン酸、酒石酸、タルトロン酸、マンデル酸、サリチル酸、乳酸、タンニン酸およびフミン酸が挙げられるが、これらに限定されない。好ましいヒドロキシカルボン酸はクエン酸、酒石酸、および乳酸である。ヒドロキシカルボン酸は、遊離酸または塩として存在する。実施形態によれば、ヒドロキシカルボン酸の塩は、アンモニウムまたは元素の周期表の集団IIa、IIa、IIb、IIb、IVb、VIIIbの金属との塩である。ヒドロキシカルボン酸の好ましい塩は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩である。
【0039】
本発明のリン酸は、リン酸の誘導体である。リン酸は、遊離リン酸、リン酸のオリゴマー、および/または、二リン酸、三リン酸、四リン酸などのリン酸のポリマーである。リン酸は、プロトン化、部分的脱プロトン化、または完全脱プロトン化された状態で存在することができる。フッ素化されたリン酸も可能である。適切なリン酸の例は、オルトリン酸三ナトリウム、およびピロリン酸四ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、およびフルオロリン酸二ナトリウムである。リン酸は、リン酸のエステルまたはそのオリゴマーの1つのエステルを指すことができる。リン酸のエステルとしては、上記のヒドロキシカルボン酸および/または糖酸との混合エステル、カルボン酸との混合エステル、特に脂肪酸との混合エステル、アルキルエステル、アリールエステル、ポリアルキレングリコールとのエステルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
ホスホン酸は、同様に、モノ-、ジ-、トリ-、テトラ-、ペンタ-またはヘキサ-ホスホン酸、ならびにそれらのオリゴマーおよび/またはエステルがある。好ましくは、ホスホン酸は有機官能性部分を有する。ホスホン酸塩プロトン化され、部分的に脱プロトン化され、または完全に脱プロトン化された状態で存在する。適切なホスホン酸の例は、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、3-アミノプロピルホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、およびジエチレントリアミノエペンタ(メチレンホスホン酸)である。
【0041】
本発明における好ましいホウ酸塩は、ホウ酸、ホウ酸またはホウ砂の塩である。
【0042】
少なくとも1つの凝結遅延剤として、グルコン酸ナトリウムが特に好ましい実施形態である。
【0043】
少なくとも1つの増粘剤は、アルカリ膨潤性ポリマーから選択される。
【0044】
異なるアルカリ膨潤性ポリマーの混合物が使用されることも可能である。少なくとも1つの増粘剤は、本発明による組成物中に、組成物の総重量に対して、10~20wt%、好ましくは12~17wt%で存在する。
【0045】
好ましい実施形態によれば、少なくとも1つの増粘剤は、アルカリ膨潤性ポリマー、好ましくはアルカリ膨潤性ポリマーエマルジョンである。アルカリ膨潤性ポリマーは、エチレン性不飽和モノマーのフリーラジカル乳化重合によって製造することができるカルボン酸官能性コポリマーである。アルカリ膨潤性ポリマーは、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸のエステルとの優先的な共重合体である。(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸のエステルとのコポリマーは、プロピレン、ブタジエン、スチレン、塩化ビニル、ビニルアルコールおよび/または酢酸ビニルなどのビニルアルコールのエステルなどのさらなるモノマー単位の含有量を有してもよい。本発明において最も好ましいコポリマーは、メタクリル酸とアクリル酸エステルとのコポリマー、特にモル比約1:1のメタクリル酸とアクリル酸エチレンエステルとのである。コポリマーはアニオン電荷をもつポリマーである。通常、アルカリ膨潤性ポリマーは数平均分子量Mn が10,000~10,000,000g/mol、好ましくは10,000~1,000,000g/mol、特に30,000~500,000の高分子量を有する。
【0046】
アルカリ膨潤性ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、特に限定されるものではなく、広範囲に変化し得る。ASTM D3418に従って測定されるアルカリ膨潤性ポリマーのTgは、-20℃~+90℃の範囲内である。アルカリ膨潤性ポリマーは、水の吸収と膨潤によって厚くなり、低pHから高pHへの変化に依存して、そのような肥厚を引き起こす。低pHでは、共重合体は水に不溶であるが、中和され、高pHでは可溶性になり肥厚する。2つ以上のアルカリ膨潤性ポリマーの混合物も可能である。
【0047】
このようなアルカリ膨潤性ポリマーとしては、ASE (アルカリ可溶性/膨潤性ポリマーエマルジョン)とも呼ばれる水性エマルジョンが特に好ましい。好ましいASEは10~40wt%、特に25~35wt%の固形分を有する。本発明のアルカリ膨潤性ポリマーエマルジョンは、pH >5で、より好ましくはpH >7で、特にpH >8で、効果的な増粘を示す。
【0048】
アルカリ膨潤性ポリマーはまた、疎水的に修飾され得る。これは、典型的には、少数の疎水性マクロモノマーをポリマーに組み込むことによって行われる。そのようなマクロモノマーは、(メタ)アクリル酸と疎水性アルコールとのエステル、スチレンの誘導体、または非イオン性界面活性剤である。疎水性修飾されたアルカリ膨潤性ポリマーの分子量は、典型的には、上述のASEポリマーの分子量よりも低い。疎水性修飾アルカリ膨潤性ポリマーは、HASE (疎水性修飾アルカリ可溶性ポリマーエマルジョン)とも呼ばれる水性エマルジョンとして優先的に使用される。
【0049】
適切なASEおよびHASEは、Dow ChemicalからAcrysol、日本触媒からAcryset、またはBASFからRheovisというブランド名で入手可能である。
【0050】
顔料を使用して、本発明の凝結遅延剤組成物に着色剤を添加することができる。これは、凝結遅延剤組成物の適用中に、それが既に適用されている場所を確認するために有用である。好適な顔料は、有機顔料または無機顔料である。有機染料の使用も可能である。適切な顔料は当業者に公知である。態様形態によれば、酸化チタン(TiO2)が顔料として使用される。他の実施形態によれば、アゾ顔料が顔料として使用される。さらに他の実施形態によれば、フルオレセイン、ローダミンまたはその誘導体が顔料として使用される。顔料は、凝結遅延剤組成物の総重量に基づいて、1wt%以下の量で本発明の凝結遅延剤配合物中に使用することができる。
【0051】
第2の実施形態として、本発明は、セメント系建材用の凝結遅延剤組成物に関し、前記組成物は、以下を含む
a) 糖酸、糖、糖アルコール、ヒドロキシカルボン酸、リグニンスルホン酸、リン酸塩、ホスホン酸、ホウ酸塩及びこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1つのセメント水和用の3~13wt%、
b) アルカリ膨潤性ポリマーからなる群から選択される少なくとも1つの増粘剤10~20wt%、
c) 必要に応じて20~90wt%、好ましくは50~90wt%、特に67~87wt%の少なくとも1つの充填剤、
d) 0~1wt%の顔料、
e) 0~1wt%の防腐剤、および、残部を水とすることにより構成される。
【0052】
第3の実施形態として、本発明は、洗い出し仕上げコンクリートを製造する方法であって、a)上述したような凝結遅延剤組成物と、硬化していないセメント系建材の表面とを接触させる工程と、b)表面が前記凝結遅延剤組成物と接触している間にセメント系建材を硬化させる工程と、c)コンクリート表面から凝結遅延剤組成物及び残留材料を除去する工程とを含む方法に関する。
【0053】
(コンクリートの打継ぎ処理方法)
次に、本発明に係るコンクリートの打継ぎ処理方法の実施の形態について説明する。
本実施の形態に係るコンクリートの打継ぎ処理方法は、上述した凝結遅延剤をコンクリートの表面に施工して、コンクリートの凝結時間を調整するものである。具体的には、
図1に示すように、まず、あらかじめ凝結遅延作用の持続時間を所定の時間(例えば3日)に調整した凝結遅延剤を準備しておく(ステップS1)。次に、例えば金曜日の夕方にコンクリート打設を完了する(ステップS2)。打設が完了してからブリーディングが落ち着くまで所定時間(例えば1~3時間)そのまま待機した後、凝結遅延剤をコンクリート表面に散布する(ステップS3)。散布状況の例を
図2(1)に示す。
【0054】
この凝結遅延剤による凝結遅延作用は3日持続するため、翌日の土曜日、日曜日は作業を休むことができる(ステップS4)。次に、月曜日にウォータージェットなどによる打継ぎ処理を行う(ステップS5)。打継ぎ処理完了の例を
図2(2)に示す。
【0055】
このように、本実施の形態によれば、金曜日に打設したコンクリートの打継ぎ処理は、月曜日に実施できるので、その間の土曜日、日曜日を休日に設定することができる。したがって、施工現場の週休2日制を実現することができる。このため、建設業においてきつい・汚い・危険といわれた3Kから脱却でき、新しい3K「給料・休日・希望」を実現することが可能となる。生産性向上により給料が上がり、週休2日の休日を確保でき、希望を持てる職場になることが期待される。
【0056】
本発明は、働き方改革の推進に沿ったものであり、これまで打継ぎ処理に支払ってきた人件費を考慮すれば、凝結遅延剤の材料費が高くなっても、利用する価値は高いと考えられる。
【0057】
以上説明したように、本発明に係る凝結遅延剤によれば、コンクリートの打継ぎ処理においてコンクリートの表面に施工される凝結遅延剤であって、コンクリートの表面に施工した際の凝結遅延作用の持続時間を調整可能な機能を有するので、凝結遅延作用の持続時間を通常よりも長くすることで、例えば金曜日に打設したコンクリートの打継ぎ処理を月曜日に実施することができる。このため、施工現場の週休2日制を実現することができる。
【0058】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤によれば、コンクリートの表面に施工した際の凝結遅延作用の持続時間が最大72時間持続する超遅延タイプであるので、凝結遅延作用の持続時間を最大72時間(3日間)持続させることができる。
【0059】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤によれば、外皮膜と、この外皮膜によって覆われた凝結遅延作用を有する主剤とを含有し、外皮膜がコンクリートと反応して主剤を放出することによって主剤の放出が制御される放出制御機能を有するので、凝結遅延作用の持続時間を容易に調整することができる。
【0060】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤によれば、凝結遅延作用を有する化合物Aと、アルカリ環境下でその水溶液粘度が増加するアルカリ増粘タイプの増粘剤1種または2種以上である化合物Bで構成される増粘性の凝結遅延剤であるので、凝結遅延作用の持続時間を容易に調整することができる。
【0061】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤によれば、前記化合物Aがオキシカルボン酸、リグニンスルホン酸、ホスホン酸、フミン酸および/もしくはその塩、または、糖類、ポリオールの1種または2種以上により構成されるので、凝結遅延作用の持続時間を容易に調整することができる。
【0062】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤によれば、前記化合物Bはアクリル系増粘剤であり、有効成分5%における水溶液粘度がpH=5の時10mPa・s以下で、pH=12の時200mPa・s以上となる増粘剤1種または2種以上で構成されるので、凝結遅延作用の持続時間を容易に調整することができる。
【0063】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤によれば、前記化合物Aおよび前記化合物Bの構成が、重量比で10/90~60/40であるので、凝結遅延作用の持続時間を容易に調整することができる。
【0064】
また、本発明に係る他の凝結遅延剤によれば、コンクリートの表面積1m2あたり150mlから1500mlを噴霧して用いられるので、凝結遅延作用の持続時間を容易に調整することができる。
【0065】
また、本発明に係るコンクリートの打継ぎ処理方法によれば、上述した凝結遅延剤をコンクリートの表面に施工して、コンクリートの凝結時間を調整するので、施工現場の週休2日制を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上のように、本発明に係る凝結遅延剤およびコンクリートの打継ぎ処理方法は、コンクリートの打継ぎ処理に有用であり、特に、施工現場の週休2日制を実現するのに適している。