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特開2022-176795平坦化膜付きステンレス箔の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022176795
(43)【公開日】2022-11-30
(54)【発明の名称】平坦化膜付きステンレス箔の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/04 20060101AFI20221122BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
B32B15/04 Z
B32B9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083408
(22)【出願日】2021-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(72)【発明者】
【氏名】山田 紀子
(72)【発明者】
【氏名】関口 裕
(72)【発明者】
【氏名】中塚 淳
(72)【発明者】
【氏名】海野 裕人
(72)【発明者】
【氏名】河合 翔平
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA20B
4F100AB04A
4F100AB33A
4F100AH06B
4F100AK52B
4F100BA02
4F100DD07
4F100EA02A
4F100EJ992
4F100GB43
(57)【要約】
【課題】平坦化膜付きステンレス箔を基板に使用して製造される電子デバイスの製造歩留りを高め、歩留りのばらつきを小さくする。
【解決手段】ステンレス箔ロールの一部を試験片として、試験片のステンレス箔表面に、膜厚2.0μm以上4.0μm以下のフェニルシロキサンポリマー膜を形成する。フェニルシロキサンポリマー膜上に導電率0.1S/m以上100S/m以下の液体を浸した断面積が4mm2以上9mm2以下の電極を載せて上部電極とし、ステンレス箔を下部電極として、試験片の表面を上部電極で走査して、上部電極と下部電極との間に10V印加したときのリーク電流が、1μA/mm2以上である箇所の数を計測する。リーク電流が1μA/mm2以上である箇所の数が、100cm2当たり10個以下であるステンレス箔ロールを選別して、平坦化膜付きステンレス箔を製造する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス箔ロールの一部を試験片として、前記試験片のステンレス箔表面に、膜厚2.0μm以上4.0μm以下のフェニルシロキサンポリマー膜を形成し、
前記フェニルシロキサンポリマー膜上に導電率0.1S/m以上100S/m以下の液体を浸した面積が4mm2以上9mm2以下の電極を載せて上部電極とし、前記ステンレス箔を下部電極とし、前記試験片の表面を前記上部電極で走査して、前記上部電極と前記下部電極との間に10V印加したときのリーク電流が、1μA/mm2以上である箇所の数を計測し、
前記リーク電流が1μA/mm2以上である箇所の数が、100cm2当たり10個以下であるステンレス箔ロールを選別し、
前記選別されたステンレス箔ロールのステンレス箔の表面の少なくとも一方の面に、シリカ系無機有機ハイブリッド膜を形成することを特徴とする、平坦化膜付きステンレス箔の製造方法。
【請求項2】
前記シリカ系無機有機ハイブリッド膜を構成するSi核が、T核およびQ核のみを含む請求項1に記載の平坦化膜付きステンレス箔の製造方法。
【請求項3】
前記シリカ系無機有機ハイブリッド膜を構成するSi核に対するT核の割合が、70%以下である請求項2に記載の平坦化膜付きステンレス箔の製造方法。
【請求項4】
前記シリカ系無機有機ハイブリッド膜が、膜厚0.3μm以上5.0μm以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の平坦化膜付きステンレス箔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイス用フレキシブル基板に適用可能な平坦化膜付きステンレス箔の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平坦化膜付きステンレス箔は、高温プロセスを必要とするデバイス向けのフレキシブル基板として注目されている。ステンレス箔の表面には圧延すじなどの凹凸があるため、デバイス基板として用いるためには、平坦性と絶縁性を付与することを目的とした皮膜が必要である。デバイス向けのフレキシブル基板には、通常、耐熱性・平坦性・絶縁信頼性が要求されるため、樹脂系のワニスやフィルムに比べて耐熱性に優れるシリカ系無機有機ハイブリッド材料で被覆したステンレス箔は有望な材料となっている。
【0003】
シリカ系無機有機ハイブリッド材料は、一般に、シリコーンの基本単位として、R2Si(OR’)2、RSi(OR’)3,またはSi(OR’)4を含む構造を有し、溶媒中で加水分解・縮合させた塗布液を塗工し、熱処理することによって得られる。ここで、Rは任意の有機基、R’はアルキル基である。R2Si(OR’)2、RSi(OR’)3、Si(OR’)4はそれぞれSiのD核(二官能性)、T核(三官能性)、Q核(四官能性)に相当する。
【0004】
シリカ系無機有機ハイブリッド材料を成膜したステンレス箔としては、特許文献1~3などに記載がある。
特許文献1には、耐熱性、加工性、平坦性、可撓性、絶縁性に優れた無機有機ハイブリッド膜で被覆したステンレス箔が記載されている。このステンレス箔は、ゾルゲル法を用いて作製された適量の有機基を含有する無機有機ハイブリッド膜をステンレス箔基材の片面または両面に被覆することで、耐熱性、加工性、平坦性、絶縁性等に優れたステンレス箔が得られている。
【0005】
特許文献2には、Roll to Rollプロセスで金属箔コイルの表面をガラス基板並みに平坦化することができる短時間硬化型の平坦化膜形成塗布液、耐熱性と耐湿性も併せ持つ平坦化皮膜およびそれによって平坦化された金属箔コイルが記載されている。この金属箔コイルは、有機溶媒中フェニルトリアルコキシシラン1モルに対して、酢酸0.1モル以上1モル以下、有機スズ0.005モル以上0.05モル以下を触媒として加え、2モル以上4モル以下の水で加水分解後、160℃以上210℃以下の温度で有機溶剤を減圧留去して得られたレジンを芳香族炭化水素系溶剤に溶解した短時間硬化可能な平坦化膜形成塗布液を塗布することによって得られている。
【0006】
特許文献3には、基板内に複数の有機EL発光素子を形成した場合に各々の素子を独立して制御ができように短絡箇所がなく、ダークスポット等の発生がない良好な素子を形成できる有機EL用絶縁被膜付きステンレス箔が記載されている。このステンレス箔は第1層、第2層の順に被膜が形成されており、第2層を平滑性と絶縁性に優れたフェニル基含有シリカ膜の層とする。第2層形成時にステンレス箔表面の疵や異物によるクラック発生を抑制するために、ステンレス表面の大きな突起や異物などの影響を緩和する目的で、第2層の成膜工程中に熱劣化しない耐熱性の高い第1層が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-247078号公報
【特許文献2】国際公開第2016/076399号
【特許文献3】特開2016-000858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
デバイスの中でも、太陽電池・有機EL照明・電池のように上下の電極や各種半導体層の薄膜を積層する電子デバイスは、基板の凹凸により積層構造に乱れが生じて製造歩留りが低下するため、膜付きステンレス箔には高い平坦性が求められる。このような電子デバイスはデバイス製造プロセス中に400℃以上の高温にさらされたり、デバイス層成膜中に基板からの脱ガスがあると性能が低下したりするため、耐熱性の高いシリカ系無機有機ハイブリッド材料から成る皮膜を用いて平坦性を高めなければならない。
【0009】
膜付きステンレス箔の平坦性を高めるためには、ステンレス箔の表面洗浄を実施したり、可能な範囲で厚膜を形成したり、平坦化膜形成時の異物混入を防ぐためクリーン環境で成膜するなどの対策が行われている。しかしながら上記の対策を施して製造した平坦化膜付きステンレス箔であっても、電子デバイスの製造歩留りのばらつきが非常に大きいという問題があった。本明細書で用いる「歩留り」とは、1本の平坦化膜付きステンレス箔ロールから製造したデバイスについて、歩留り=(性能基準を満たしたデバイス数/作製したデバイス総数)×100%を意味する。「製造歩留りのばらつきが大きい」の意味は、平坦化膜付きステンレス箔ロールのロットによって同じデバイスを作ったときの製造歩留りが大きく異なることを指す。工業的には、平坦化膜付きステンレス箔ロールのロットによらず、高い製造歩留りが得られることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、電子デバイスの中でも最も厳しいスペックとされる有機EL照明パネルを試作して、平坦化膜付きステンレス箔と有機EL照明パネルの不良について検討した結果、電子デバイスの不良原因が、ステンレス箔表面に存在する特定の形状とサイズから成るオーバーハング凹部に由来することを突き止め、特定のオーバーハング凹部の個数密度が低いステンレス箔ロールを選別し、選別されたステンレス箔ロールを用いて製造した平坦化膜付きステンレス箔ロールは、電子デバイス製造歩留りのばらつきが平坦化膜付きステンレス箔ロールのロット間で小さく、いずれも高い製造歩留りを示すことを見出した。
【0011】
電子デバイスは平坦化膜付きステンレス箔ロールを用いてRoll to Rollプロセスで製造後、デバイスサイズに切り分けて性能を調べて歩留りを出す場合と、平坦化膜付きステンレス箔ロールをG2サイズなどにカットしてガラス基板に貼り付けた後、Sheet to Sheetプロセスで製造し、ガラス基板から剥がしてデバイスサイズに切断し、性能を調べて歩留りを出す場合がある。本発明では後者の歩留まりのばらつきについても、カットシートサイズ単位ではなく、平坦化膜付きステンレス箔ロール単位でとらえている。
【0012】
本発明により以下が提供される。
(1)ステンレス箔ロールの一部を試験片として、前記試験片のステンレス箔表面に、膜厚2.0μm以上4.0μm以下のフェニルシロキサンポリマー膜を形成し、
前記フェニルシロキサンポリマー膜上に導電率0.1S/m以上100S/m以下の液体を浸した面積が4mm2以上9mm2以下の電極を載せて上部電極とし、前記ステンレス箔を下部電極とし、前記試験片の表面を前記上部電極で走査して、前記上部電極と前記下部電極との間に10V印加したときのリーク電流が、1μA/mm2以上である箇所の数を計測し、
前記リーク電流が1μA/mm2以上である箇所の数が、100cm2当たり10個以下であるステンレス箔ロールを選別し、
前記選別されたステンレス箔ロールのステンレス箔の表面の少なくとも一方の面に、シリカ系無機有機ハイブリッド膜を形成することを特徴とする、平坦化膜付きステンレス箔の製造方法。
(2)前記シリカ系無機有機ハイブリッド膜を構成するSi核が、T核およびQ核のみを含む前記(1)に記載の平坦化膜付きステンレス箔の製造方法。
(3)前記シリカ系無機有機ハイブリッド膜を構成するSi核に対するT核の割合が、70%以下である前記(2)に記載の平坦化膜付きステンレス箔の製造方法。
(4)前記シリカ系無機有機ハイブリッド膜が、膜厚0.3μm以上5.0μm以下である前記(1)~(3)のいずれかに記載の平坦化膜付きステンレス箔の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
平坦化膜付きステンレス箔を基板に使用して製造される電子デバイスの製造歩留りを高め、且つ歩留りのばらつきを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ステンレス箔の凹み欠陥の断面を表す模式図。
図2】デバイス不良につながらない圧延すじ等に相当する凹凸の断面写真。
図3】デバイス不良につながる凹凸の断面写真。
図4】リーク電流、印加電圧の計測方法を説明する模式図。
図5】ステンレス表面の欠陥を示す写真。
図6】凹みのなす角度α1とα2の求め方を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[デバイス不良につながる原因の特定]
図1を用いて電子デバイスの不良につながるステンレス箔の凹み欠陥について説明する。図1は、ステンレス箔の表面に存在する凹み欠陥の圧延方向と垂直な方向の断面の模式図である。デバイス不良につながるステンレス箔の表面凹み(以下、単に「凹み欠陥」ともいう)は、ステンレス箔の表面と凹みの壁面のなす角度α1とα2のうち少なくとも一方が100度以下である。この形状をオーバーハングと呼ぶ。また、凹みを上から見たとき、圧延方向と垂直な方向の凹みの幅が5.0μm以上である。オーバーハング或いはそれに近い形状の凹み欠陥がある場合、平坦化膜で凹みの壁面が十分に被覆できなかったり、被覆できたとしてもSiのT核およびQ核のみで構成されるシリカ系無機有機ハイブリッド膜は、硬く靱性が低いので、凹みの縁で膜応力によりクラックが発生したりする。このため、平坦化膜上に形成した電子デバイスの電極とステンレス箔の間で短絡が発生したり、電子デバイスを構成する層の一部が途切れたりして、電子デバイスの不良が起きる。
【0016】
角度α1、α2の両方が100度を超える場合は、平坦化膜形成塗布液が凹み内に充填され、かつ凹みの縁で発生する膜応力が平坦化膜にクラックを発生させるほど高くならない、この場合、デバイス不良にはつながらない。凹みはステンレス鋼中の介在物が圧延時に脱落することによりできるので、圧延方向と垂直な方向の凹みの幅が5.0μmより小さい場合は、凹みは小さめの介在物に由来することになる。このため凹みの深さが浅くなり、平坦化膜による凹みの被覆が容易になる上、応力が縁の部分に集中しにくくなるので、デバイス不良にはつながらない。
【0017】
[オーバーハングまたはそれに近い形状の凹み欠陥の検出方法]
オーバーハングまたはそれに近い形状の凹み欠陥は、ステンレス鋼に含まれるスピネルなどの介在物が圧延工程で脱落することによって発生すると推定される。介在物のサイズや形状によって脱落後の凹み形状は異なる。また、ステンレス箔の表面には圧延すじなどの凹凸が多数ある。このため、ステンレス箔そのものを光学的に観察したり、表面形状をモニタリングしたりする手法で、オーバーハングまたはそれに近い形状の凹み欠陥を見つけることは現実的ではない。発明者らは、デバイス不良につながるオーバーハングまたはそれに近い凹み欠陥の検出方法として、ステンレス箔上にフェニルシロキサンポリマー膜を形成した後、導電性の液体を用いてステンレス箔との間のリーク電流を調べる方法を見出した。
【0018】
従来、平坦化膜付きステンレス箔のリーク電流は,平坦化膜の上にAl,Cu,Ptなどの電極材料を蒸着・スパッタなどのドライプロセスで成膜して上部電極を形成し、ステンレス箔を下部電極として用い、上下の電極間に電圧を印加して測定していた。印加電圧は通常10~100Vである。電流リークにつながる欠陥箇所を探すには、小さい上部電極を多数形成してそれぞれの上部電極とステンレス箔との間のリーク電流を順に測定することが望ましいが、導電ペーストを用いて上部電極と端子の接続を確実にしながら測定するには1mmφ程度の大きさは必要である。また、上部電極と上部電極との間は1mm近いスペースが必要となる。このため、実質的にリーク電流を測定することができる面積は平坦化膜付きステンレス箔全体の約半分になってしまう。さらに、リークの原因を調べるために、リーク箇所を光学顕微鏡やSEM(走査電子顕微鏡)で観察しても、不透明な金属電極が形成されているため、1mmφの上部電極のどこに欠陥があるのか判断することができなかった。上部電極として金属電極を形成してリーク電流を測定するこの方法では、50V以上の比較的高い電圧で突然大きなリーク電流が流れ始める傾向がある。リーク電流が流れるときに、電極材料がマイグレーションしたり、フェニルシロキサンポリマー膜が絶縁破壊されたりするため、ステンレス箔と平坦化膜の絶縁破壊前の形状を知ることが難しいという問題もあった。
【0019】
これに対して、発明者らは、導電性の液体を使って小さなスポンジなどのチップに保持したものを上部電極(以下、「プローブ」という)としてステンレス箔との間に電圧を印加しながら、平坦化膜上を走査してリーク電流を調べる方法を見出した。図4はこの方法を示す模式図である。図4中の「PC」は、計測用のコンピュータである。1は、導電性の液体を含んだプローブと電極ケーブルを固定している電極棒を表し、XY電動ステージに取り付ける。2は、導電性の液体を含んだプローブであり、3は、フェニルシロキサンポリマー膜であり、4は、電極ケーブルである。
【0020】
フェニルシロキサンポリマー膜1の一部を削り取ったものを検査台に載せ、電極ケーブル4の一本を、ステンレス箔に導電ペーストで固定し、もう一本を、導電性液体を浸したプローブ2に接続し、図4に示すようにセットする。2本の電極ケーブルは、微小電流を測定可能な定電圧電源、たとえばケースレーインスツルメンツ社のKeithley Source Measure Unit236などに接続し、10Vの電圧を印加し、その時の電流を計測する。プローブ2はXYステージに固定し、フェニルシロキサンポリマー膜3の全面を端から順に走査する。前記電源をPCに接続し、XYステージを電動型にすれば、凹み欠陥の個数密度を自動計測できる。この操作で、低い印加電圧で微弱な電流を検出することにより凹み欠陥を見つけることができると、絶縁破壊される前のステンレス箔の形状を把握することができる。フェニルシロキサンポリマー膜を膜厚3.0±1.0μmで成膜したとき、デバイス欠陥につながる凹みを単位面積当たりのリーク電流によって容易に検出できる。単位面積当たりのリーク電流とは電圧印加時に検出した微小電流を測定時の電極面積で割ったものである。本発明の場合の電極面積は、導電性液体を浸したスポンジなどのチップの先端が膜と接する面積となる。本明細書では以降、単位面積当たりのリーク電流を単にリーク電流と記載する。
【0021】
たとえば、図2の断面写真に示すようなデバイス欠陥につながらない圧延すじに対応する凹凸では、10V印加時のリーク電流は1nA/mm2以下である。また、図3の断面写真に示すようなデバイス不良につながる凹み欠陥がある場所ではリーク電流は1μA/mm2超となり、選択的にオーバーハングに近い凹み欠陥を検出することができた。フェニルシロキサンポリマー膜は熱可塑性があるため埋め込み性がよく、比較的膜が脆いのでオーバーハング形状の凹み欠陥でクラックが発生しやすく高感度でオーバーハングに近い凹み欠陥を検出できたと考えられる。
【0022】
フェニルシロキサンポリマーの膜厚が2.0μm未満の場合は、図2のような箔の圧延すじの凹凸の場所や介在物が箔に入り込んでできている凹凸のような場所でも数100nA/mm2のリーク電流を示すため図3の凹み欠陥との区別がやや煩雑となる。膜厚が4.0μmを超える場合はフェニルシロキサンポリマー膜の硬化時の成膜応力が高くなり、デバイス不良とは関係のない凹みや突起などの場所でもクラックが発生しやすくなる。このため、1μA/mm2超のリーク電流が検出された場所の欠陥の中に、デバイス不良と関係のないものが含まれてしまうので検出の精度が低下する傾向がある。
【0023】
膜厚3.0±1.0μmのフェニルシロキサンポリマーにクラックが発生し、1μA/mm2以上のリーク電流が検出される凹みは、ステンレス箔と凹みのなす角度α1とα2のうち、少なくとも一方が100度以下であり、かつ圧延方向と垂直な方向の幅が5.0μm以上であった。
【0024】
このとき、ステンレス箔と凹みのなす角度α1とα2は、以下のようにして測定した。
1μA以上のリーク電流が検出された場所をマーキングして光学顕微鏡で観察すると、図5のA-1のような欠陥が認められた。この欠陥をSEMで観察すると図5のA-2のように圧延方向に伸長していることが確認できた。FIB(Focused Ion Beam)加工により中央部の断面を出して、SEMで断面写真図6のA-3を撮影した。通常、凹みは左右非対称であるので凹みを幅方向に3分割し、α1を求めるときは、ステンレス箔の凹み左端から幅方向1/3までを近似する楕円を描く。次に凹みがない場所のステンレス箔を近似する直線と楕円の交点において楕円の接線を描く。2本の直線のなす角度がα1となる。α2についても同様に凹みの右端から幅方向1/3までを近似する楕円を描くことにより求めることができる。
【0025】
このため、電子デバイスを試作するかわりに、ステンレス箔上にフェニルシロキサンポリマーを膜厚3.0±1.0μmで成膜して、導電性液体を使って、印加電圧10Vでリーク電流が1μA/mm2以上になる箇所を探すことで、デバイス不良につながる欠陥の個数密度を知ることができることがわかった。
【0026】
このようにして明らかになったデバイス不良につながる凹み欠陥は、以下の特徴を有していた。
・圧延工程で介在物が脱落して発生する凹みなので、圧延方向に長い。
・凹みの幅:5.0~15.0μm。
・長さ: 15.0~70.0μm。
・深さ: 2.5.0μm以上。
【0027】
[凹み欠陥の原因]
デバイス不良につながるオーバーハングに近い凹み欠陥は、ステンレス鋼中の介在物が圧延時に脱落したり、介在物が箔にめり込んだりしていく過程で形成される。このため、先ず、介在物の少ないステンレス鋼を圧延して箔を製造することにより、断面がオーバーハングしている凹み欠陥の数を減らすことができると考えられる。
【0028】
ステンレス箔を製造する母材となるステンレス鋼中の介在物を低減させる方法は種々検討されている。しかし、現状ではプロセスコストが上がったり、鋼種によっては介在物の除去が難しかったりという課題がある。発明者らは端部がオーバーハングに近い凹み欠陥を簡易的に探す以下に説明する方法を見出し、その方法を使って端部がオーバーハングに近い凹みの分布を調べた。その結果、圧延工程でステンレス鋼中の介在物を特別な方法で除去していない母材を用いてステンレス箔を製造しても、デバイス不良につながらず、凹み欠陥の個数密度が許容できるステンレス箔が存在することを見出した。さらに、長さ300m、幅0.5mの標準的なサイズにカットした一本のステンレス箔ロールの中では、個数密度のばらつきが、±15%程度の範囲にとどまるが、異なるロール間では数倍以上のばらつきがあることがわかった。一本のステンレス箔ロールの中では箔の巻き外面と巻き内面の個数密度はほぼ同じであった。これは、箔を圧延していく過程で介在物の存在量が箔の巻き外面と巻き内面で変わらないためと考えられる。
【0029】
オーバーハングに近い凹み欠陥を簡易的に探す方法は、具体的には、(1)まず、平坦化膜の塗工に使用するステンレス箔ロールの端部を一部カットして、120mm角の試験片を4枚切り出す。(2)クリーンルームで、表面にフェニルシロキサンポリマーを3.0±1.0μmの膜厚でスピンコートし、乾燥し、熱処理して成膜する。(3)クリーンルームで導電率0.1S/m以上の液体(食塩水など)を浸した微小プローブを使って膜面を走査する。(4)電圧10V印加したときのリーク電流が1μA/mm2以上である点を凹み欠陥であると判定した。その後、FIB-SEMでこの部分の断面を見ると、ほぼすべてオーバーハングに近い断面を有する凹み欠陥になっていた。
【0030】
前述の方法でオーバーハングに近い凹み欠陥の個数密度を調べた。その結果、オーバーハングに近い凹み欠陥の個数密度が、100cm2当たり10個以下であるステンレス箔ロールに対して、種々のシリカ系無機有機ハイブリッド膜を形成して平坦化膜付きステンレス箔を製造したところ、いずれのシリカ系無機有機ハイブリッド膜を形成した場合でも、電子デバイスの製造歩留りが向上した。オーバーハングに近い凹み欠陥の個数密度が100cm2あたり4個以下のステンレス箔を用いた場合はさらに歩留りの向上とばらつきの縮小が見られた。
【0031】
本発明の平坦化膜付きステンレス箔の製造方法について説明する。
[ステンレス箔ロールの選別工程]
本発明のステンレス箔の鋼種はフェライト系でもオーステナイト系でもよい。板厚の限定は特にないが、デバイス用のフレキシブル基板としては8μm以上100μm以下が一般的である。ステンレス箔板厚の特に望ましい範囲は10μm以上50μm以下である。
ステンレス箔ロールの端部を一部カットして、120mm角の試験片を4枚切り出す。試験片の表面にフェニルシロキサンポリマーを塗布して、その後、乾燥させ、熱処理して、膜厚が2.0μm以上4.0μm以下となるように成膜し、リーク電流測定用の試験片を作成する。塗布はスピンコート、バーコートなどの方法で行うことができる。スピンコートの場合は回転数により膜厚を調整することができ、バーコートの場合はバーの番手で膜厚を調整することができる。乾燥は70~110℃のオーブン1分行い、熱処理は不活性ガス雰囲気たとえば窒素雰囲気でクリーンオーブンなどを用いて350~450℃で2~60分行う。リーク電流測定用の試験片として、フェニルシロキサンポリマー以外の膜、たとえば、テトラメトキシシランの加水分解・縮合反応物による膜やポリイミドを成膜してリーク電流を調べることが考えられるが、フェニルシロキサンポリマー膜は比較的厚膜の形成が可能であり、かつ、熱可塑性があるので、クラックが入ることなくステンレス箔表面の凹みを隙間なく埋め込むことができるため、フェニルシロキサンポリマーを用いる。
【0032】
導電率0.1S/m以上100S/m以下の液体を浸した面積が4mm2以上9mm2以下のプローブについて説明する。導電率0.1S/m以上100S/m以下の液体を十分に浸すことができているかは、プローブを図4のステンレス箔に押しあてたとき導通が確認できるか否かにより判断することができる。押し付けたときに液体がプローブからにじみ出たり滴り出たりしない範囲で液体をプローブ内のスポンジなどに浸しておく。導電性の液体はスポンジの他、綿棒、発泡性ウレタンなど多孔質で柔軟性のある材料にしみこませておく。多孔質で柔軟性のある材料を用いるのは、掃引時に膜面を傷つけないためである。多孔質で柔軟性のある材料はそのままでは保持しにくいので、細い円筒型で絶縁性の筒などにはめ込み、その筒の反対側から電極ケーブルを差し込んで導電性液体をしみこませた多孔質で柔軟性のある材料と接触させプローブとする。導電性の液体は筒で覆われているため蒸発などによる測定中の液切れは問題にならない。欠陥の個数密度の目安は平均的には10cm2あたり1個という低い密度なので、電極面積の多少の大きさの違いは個数密度の算出には影響しない。
導電性の液体としては食塩水の他、KClの水溶液,希塩酸などを用いることができる。
導電率0.1S/m以上100S/m以下の液体を浸した面積が4mm2以上9mm2以下のプローブを用いて前記試験片の表面を走査し、電圧を10V印加したとき1μA/mm2以上流れたリーク箇所をマーキングする。マーキングの数が、100cm2当たり10個以下であるステンレス箔ロールを合格として選別し、次の本発明の平坦化膜付きステンレス箔の製造工程に用いる。100cm2当たり10個以下を合格とした理由は、前述したように、その後、種々のシリカ系無機有機ハイブリッド膜を形成して平坦化膜付きステンレス箔を製造し、電子デバイスを製造したところ、電子デバイスの製造歩留りが、従来よりも向上するとともに製造歩留りのばらつきが縮小したためである。
【0033】
[フェニルシロキサンポリマー膜形成用塗布液]
凹み欠陥の検出時に用いるフェニルシロキサンポリマー膜は、種々の方法で作製可能である。たとえば、以下に示す塗布液から形成される。
この塗布液は、有機溶媒中フェニルトリアルコキシシラン1モルに対して、酢酸0.1モル以上1モル以下、有機スズ0.005モル以上0.05モル以下を触媒として加え、2.0モル以上4.0モル以下の水で加水分解する。その後、160℃以上210℃以下の温度でフェニルトリアルコキシシランの加水分解時に用いた有機溶剤、反応副生成物としての水およびアルコールを、減圧留去して得られたレジンを、芳香族炭化水素系溶剤に溶解した塗布液である。
【0034】
フェニルトリアルコキシシランとしては、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシランなどが挙げられる。
【0035】
フェニルトリアルコキシシランを加水分解するときに用いる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。
【0036】
芳香族炭化水素系溶剤としては、トルエン、キシレンなどが挙げられる。芳香族炭化水素系溶剤に、特性に影響を与えない範囲で、他の有機溶剤を混合してもよい。
【0037】
フェニルシロキサンポリマー膜の膜厚は、2.0μm以上4.0μm以下である。膜厚が2.0μmより薄い場合は、ステンレス箔表面の凹凸を被覆しきれない。膜厚が4.0μmを超える場合は膜にクラックが入りやすくなる。フェニルシロキサンポリマー膜の膜厚は成膜前のステンレス箔の厚みと成膜後のステンレス箔の厚みをそれぞれ接触式厚さ計で測定し差分を求めればわかる。
【0038】
前記フェニルシロキサンポリマー膜を、不活性ガス雰囲気中300℃以上450℃以下の熱処理温度で硬化して、その後、導電性液体をプローブとしたリーク電流測定を行い凹み欠陥の検出に用いる。なお、このフェニルシロキサンポリマー膜はシリカ系無機有機ハイブリッド膜の1種であり、後述の平坦化膜として用いることも可能である。この場合、平坦化膜の組成としてはフェニル基が結合したT核が100%となる
【0039】
[平坦化膜付きステンレス箔の製造工程]
前記選別されたステンレス箔ロールのステンレス箔の表面に、シリカ系無機有機ハイブリッド膜を、好ましくは、膜厚0.3μm以上5.0μm以下となるように形成する。シリカ系無機有機ハイブリッド膜は、選別されたステンレス箔ロールのどちらの面に形成してもよい。両面に形成してもよい。両面に形成する場合は、片面に塗工後熱処理を行って片面にシリカ系無機有機ハイブリッド膜を形成後、反対側の面に塗工・熱処理を施してもよい。また、ディップコータなどで両面を同時に塗工後、熱処理を両面同時に行ってもよい。
【0040】
[シリカ系無機有機ハイブリッド膜]
シリカ系無機有機ハイブリッド膜は、一般に、シリコーンの基本単位として、R2Si(OR’)2、RSi(OR’)3,またはSi(OR’)4を含む構造を有し、溶媒中で加水分解・縮合させた塗布液を塗工し、熱処理することによって得られる。ここで、Rは任意の有機基、R’はアルキル基である。R2Si(OR’)2、RSi(OR’)3、Si(OR’)4はそれぞれSiのD核(二官能性)、T核(三官能性)、Q核(四官能性)に相当する。
【0041】
平坦化膜を構成するシリカ系無機有機ハイブリッド膜が構成要素として、SiのD核を含んでいる場合、膜に柔軟性を付与することができるが、デバイス作製時の高温プロセス中に、D核で3員環を形成して脱離するため、デバイスの特性に悪影響を及ぼす。このため、平坦化膜はT核およびQ核のSiのみから構成されるシリカ系無機有機ハイブリッド膜であることが求められる。全Si核に対するQ核の割合は70%以下である。Q核が70%超の場合は膜を構成するSi-O結合の密度が高くなりすぎるため、膜にクラックが入りやすくなるので不適である。T核はSiに直接結合している有機基が1つあるため、膜に柔軟性を付与することができる。Q核のさらに好ましい範囲は10%以上55%以下である。
【0042】
Siに直接結合する有機基Rとしては、耐熱性の観点からメチル基、フェニル基が好ましい。メチル基とフェニル基はそれぞれ単独で含んでいても、両方を同時に含んでいてもよい。平坦化膜中のSi核については、29Si-NMR測定により種類と量を特定できる。Siに直接結合している有機基は、FTIRあるいは13C-NMRと1H-NMRの組み合わせなどにより調べることができる。
【0043】
[シリカ系無機有機ハイブリッド膜形成用塗布液]
シリカ系無機有機ハイブリッド膜は、種々の方法で作製可能である。シリカ系無機有機ハイブリッド膜が、フェニル基修飾シリカ膜である場合は、たとえば以下に示す塗布液から作製される。
【0044】
この塗布液は、有機溶媒中フェニルトリアルコキシシラン1モルに対して、酢酸0.1モル以上1モル以下、有機スズ0.005モル以上0.05モル以下を触媒として加え、2.0モル以上4.0モル以下の水で加水分解後、160℃以上210℃以下の温度でフェニルトリアルコキシシランの加水分解時に用いた有機溶剤、反応副生成物としての水およびアルコールを減圧留去して得られたレジンを、芳香族炭化水素系溶剤に溶解した塗布液である。
【0045】
ここで用いるフェニルトリアルコキシシランとしては、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシランなどが挙げられる。
【0046】
フェニルトリアルコキシシランを加水分解するときに用いる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。
【0047】
減圧留去時に留去する有機溶剤は、フェニルトリアルコキシシランを加水分解するときに用いた有機溶剤に加えてフェニルトリアルコキシシランの加水分解によって生成したアルコールも含まれる。また加水分解されたフェニルトリアルコキシシランの縮合反応に伴って生成する水が含まれることもある。
【0048】
芳香族炭化水素系溶剤としては、トルエン、キシレンなどが挙げられる。芳香族炭化水素系溶剤に、特性に影響を与えない範囲で、他の有機溶剤を混合してもよい。
【0049】
有機スズはフェニルトリアルコキシシランおよびその加水分解縮合反応物や、フェニル基含有ラダーポリマーの重縮合反応を促進する触媒である。 有機スズとしては、ジブチルスズジアセテート、ビス(アセトキシジブチルスズ)オキサイド、ジブチルスズビスアセチルアセトナート、ジブチルスズビスマレイン酸モノブチルエステル、ジオクチルスズビスマレイン酸モノブチルエステル、ビス(ラウロキシジブチルスズ)オキサイドなどが挙げられる。
【0050】
シリカ系無機有機ハイブリッド膜は、上述の塗布液を、選別されたステンレス箔ロールのステンレス箔の表面に塗布し、不活性ガス雰囲気中300℃以上450℃以下の熱処理温度で硬化させて、好ましくは、膜厚0.3μm以上5.0μm以下となるように形成される。
【0051】
シリカ系無機有機ハイブリッド膜が、メチル基修飾シリカ膜である場合は、たとえば以下に示す塗布液から作製される。
メチルトリエトキシシラン0.6モルとテトラメトキシシラン0.4モルを、12モルのエタノール中で、2モルの水と0.1モルの酢酸で加水分解・縮合反応させた塗布液を、膜厚1.0μmで、ステンレス箔に塗布する。塗布後、窒素中450℃で10分熱処理を行った膜は、メチル基が結合したT核が60%、Q核が40%となる。Q核の原料としてテトラメトキシシランの他、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、コロイダルシリカなどを用いることができる。メチルトリエトキシシラン以外に、メチルトリメトキシシランを用いることもできる。これらの原料を複数組み合わせてもよい。
【0052】
シリカ系無機有機ハイブリッド膜は、塗布後の熱処理温度および熱処理中のガス雰囲気により、原料のオルガノアルコキシシランの有機基が熱分解し、SiがT核からQ核に変わる場合がある。したがって、T核である原料、たとえばメチルトリメトキシシラン1モルを8モルのメタノール中、3モルの水と0.01モルの硝酸を用いて加水分解・縮合させて得た塗布液を、膜厚0.4μmで塗布後、0.1%の酸素を含む窒素中で500℃1分の熱処理を行った場合、平坦化膜中、メチル基が結合したT核のSiが98%、メチル基が熱分解したQ核のSiが2%存在する。一方、前記塗布液を膜厚0.4μmでステンレス箔に塗布後、窒素中で500℃1分の熱処理を行った場合、メチル基が結合したT核のSiが100%となる。
【0053】
次に本発明の製造方法によって作製された平坦化膜付きステンレス箔について説明する。平坦化膜付きステンレス箔のステンレス箔は、上述したステンレス箔ロールの選別工程によって選別されたステンレス箔である。したがって、このステンレス箔は、ステンレス箔表面と凹部の壁面とのなす角度が100度以下であり、凹部の圧延方向に垂直な方向の幅が5.0μm以上である図1に示すような凹部の数が100cm2当たり10個以下となっている。
【0054】
発明の平坦化膜付きステンレス箔のステンレス箔表面に存在している表面と、凹部の壁面とのなす角度が100度以下である凹部の個数密度を平坦化膜形成後に調べるには以下の方法がある。25cm2の平坦化膜付きステンレス箔を2mm角に切断して樹脂に埋め込み、圧延方向に垂直な切断面をCMP(Chemical Mechanical Polishing)で研磨しSEMで観察する。ステンレス箔の凹部について上述した方法で角度(α1、α2)を測定するとともに、凹部の圧延方向に垂直な方向の幅を測定することができる。角度が100度以下で幅が5.0μm以上の凹部を数えることにより、凹部の個数密度を求めることができる。より正確に個数密度を調べるには、検査する平坦化膜付きステンレス箔の面積を増やす。
【0055】
ステンレス箔上に形成されるシリカ系無機有機ハイブリッド膜の膜厚は、0.3μm以上5.0μm以下であることが好ましい。0.3μmより薄い場合は、ステンレス箔表面の被覆が不十分になり、ステンレス箔とデバイスが短絡したり、無機有機ハイブリッド膜の表面が十分平滑にならずデバイスを構成する電極層や半導体層のデラミが発生したりするため不適である。5.0μmを超える場合は膜にクラックが入りやすくなる。成膜時のクラックが入りやすいだけでなく、平坦化膜で被覆されたステンレス箔をフレキシブル基板として曲げたときにも膜にクラックが入りやすくなる。膜厚は0.5μm以上3.5μm以下であることが、凹凸被覆とクラック防止の観点からさらに好ましい。
【実施例0056】
次に、実施例により本発明を更に説明する。本発明がここに提示した実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0057】
[平坦化膜付きステンレス箔の製造試験1]
試験1では幅330mm、長さ300mの鋼種SUS304、板厚20μmのステンレス箔のロールを20本用意した。
試験は、比較例1として、これら20本の中から無作為に選んだ5本のロールを用いるグループと、実施例1として、残り15本について、本発明に係る選抜方法を実施して、選抜されたステンレス箔の表面と前記表面の凹部の壁面とのなす角度が100度以下であり、前記凹部の圧延方向に垂直な方向の幅が5.0μm以上であり、前記凹部の数が、100cm2当たり10個以下であるステンレス箔ロール5本のグループの2組について実施した。実施例の5本のロールのロット番号は、良-1~良-5とした。比較例の5本のロールのロット番号は,比較-1~比較-5とした。
【0058】
実施例1(良-1~良-5)の5本のロールは、以下のように選別した。
まず、フェニルシロキサンポリマーを成膜するための塗布液を準備した。1Lのフラスコを用いて、表1に示す配合比となるように配合し、総量が0.7Lになるように原料を調合した。調合後、原料をマグネティックスターラーで15分撹拌及び混合を行い、加水分解を促進するために80℃で3時間、窒素気流下で還流した。その後、ロータリーエバポレータを用い、オイルバスの設定温度を80℃にして、溶媒を減圧留去し、縮合反応物を得た。その後、トルエンを、縮合反応物の重量と等量で添加して、縮合反応物を溶解させた。この1Lフラスコをディーンスタークトラップ付き還流器に接続して、加熱還流を行った。加熱還流時のオイルバスの設定温度と還流時間は表1に示す。加熱還流後に、トルエンをさらに添加して、固形分濃度が30質量%になるよう希釈し、孔径5μmのフィルタをセットして減圧濾過を実施し、フェニルシロキサンポリマー形成用の塗布液とした。
【0059】
【表1】
【0060】
次に、平坦化膜の塗工に使用するステンレス箔ロールの端部を一部カットして、120mm角の試験片を4枚切り出した。クリーンルームで、表面にフェニルシロキサンポリマーを3.0μmの膜厚でスピンコートし、80℃のオーブンで1分乾燥し、クリーンオーブンを用いて窒素雰囲気400℃で10分間の熱処理を行い成膜した。
【0061】
クリーンルームで導電率0.1S/m以上の液体(食塩水)を浸した2mm角の微小プローブをXYステージにセットし、膜面を走査する上部電極とした。一部のフェニルシロキサンポリマー膜を削ってステンレス箔をむき出しにし、銀ペーストを使ってステンレス箔に下部電極用の電極ケーブルを固定した。上下電極用のケーブルをKEITHLEY Source Measure Unit237に接続し、10V印加したときのリーク電流をプローブサイズである2mm角エリアごとに順に測定した。
【0062】
120mm角基板内中央の100mm角内をすべて走査し、リーク電流が1μA/mm2以上である点を数えて、その個数密度を求めた。試験片4枚すべてについての平均値を表2の10cm角あたり、1μA/mm2以上のリーク電流が検出された測定点数の欄に示す。1μA/mm2以上のリーク電流が検出されたエリアを光学顕微鏡で観察すると、フェニルシロキサンポリマー膜を通してステンレス箔の欠陥が認められた。すべての欠陥が圧延方向に5.0μm以上の長さを有していた。さらにFIB-SEMで断面を観察したところ、ステンレス箔にオーバーハング状の凹み欠陥が認められた。一部のサンプルについては欠陥箇所を含む領域を切断して樹脂に埋め込みCMP研磨によりステンレス箔にオーバーハング状の凹部があることを確認した。2mm角エリア内の凹み欠陥の数は殆どが1個であった。上記選別過程で、凹み欠陥の個数密度が数10個を超える高いものについては複数の凹み欠陥が存在するものも散見された。1μA/mm2以上のリーク電流が検出された数が10個以下であるものを良品とみなし、ロット番号を良-1,良-2,良-3,良-4,良-5のように記載した。一方10個を超えたものは、順に、不良-1,不良-2,不良-3,不良-4のようにロット番号を記載した。9本目のステンレス箔ロールを調べたところで良品が5ロット分集まった。この選別の過程で得られた4本の不良ロットについては、参考例として試験を進めた。
【0063】
[平坦化膜の塗工]
これらの実施例、比較例、参考例のステンレス箔ロールについて、ダイコータを用いて膜厚3.5μmで、シリカ系無機有機ハイブリッド膜としてフェニルシロキサンポリマー膜を形成した。乾燥炉は炉長3mで炉の温度は100℃にセットし、速度5mpmで搬送し、PAC3J-30Hの微粘着性保護フィルムを貼りつけながら巻き取った。次に保護フィルムを剥がしながら炉長6m、炉温400℃の窒素雰囲気の熱風乾燥炉に搬送速度1mpmで通し、PAC3J-30Hの微粘着性保護フィルムを貼りつけながら巻き取り、平坦化膜付きステンレス箔ロールを得た。
【0064】
29Si-NMRによりSi核はすべてT核であることを確認した。FTIRにより有機基はフェニル基であることを確認した。実施例、比較例、参考例すべてにおいて、目視観察ではクラックやハジキは認められず良好な外観であった。
【0065】
平坦化膜付きステンレス箔ロールはいずれも300m近い長さで得られているので、これをロールの巻き外部、中央部、巻き内部のように長さ方向に3つのゾーンに分け、各ゾーンから50mm角基板を10枚ずつ切り出した。50mm角基板は同サイズで厚み0.7mmのガラス板に微粘着シートで貼りつけ、Ag(100)/MoO3(5)/αNPD(140)/Alq3(30)/DPB:Liq(45)/Al(1.5)/Ag(25)の構成で有機EL発光素子を形成し、ガラスキャップで封止した。素子構成の括弧内の数値は膜厚を示し、単位はnmである。素子の発光領域のサイズは32mm角である。 αNPD、Alq3、DPB、及びLiqは、以下に示すとおりである。
αNPD:(ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニル]ベンジジン)
Alq3:(トリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム
DPB:1,4-ジピレニルベンゼン
Liq:8-ヒドロキシキノリノラト-リチウム
【0066】
次に、素子に4.5Vを印加して発光させた状態で目視により発光面の初期状態を観察し黒点の数を数えた。それぞれのステンレス箔ロールについて10cm角あたりの欠陥数が4個以下のもの、10個以下のものに該当するパネル数の全パネル数に対する割合を表2のデバイス特性の欄に示す。
【0067】
良-1と良-2は、有機EL照明パネル10cm角あたりの黒点の数が4個以下であるものが90%以上であり、有機EL照明パネル同等の高スペック用途のデバイスが90%以上の歩留まりで製造できることがわかった。良-3,良-4,良-5は、有機EL照明パネル10cm角あたりの黒点数が4個以下であるパネルの割合は良-1,良-2に比べれば低いものの50%以上であり、製造が難しい有機EL照明パネル同等の高スペック用途としては許容範囲の歩留りであった。評価の欄には有機EL照明パネル同等の高スペック用途のデバイスを作製したときの歩留りの平均値とロット間で比較したときの最小値と最大値を記載した。
【0068】
実施例1では、いずれも有機EL照明パネル10cm角あたりの黒点の数が10個以下であるパネルの割合は90%以上であった。黒点の数が4個を超えると、リペア工程で修復すべき箇所が多くなりすぎるため、有機EL照明パネルやディスプレイパネルとしては工業生産に不適であるが、たとえば太陽電池用途であればごくわずかの変換効率の低下につながる可能性があるのみで、顧客の目に触れる欠陥にはならないので、10個以下であれば許容される。また、薄膜センサー基板の場合も、黒点の箇所で、薄膜センサーの下部電極とステンレス箔が短絡する可能性があると想定されるのみである。従って顧客の目で欠陥を直接視認することがないこれら標準スペック用途の歩留りは、概ね有機EL照明パネル10cm角あたりの黒点が10個以下のパネルの割合で近似できるとして、評価の欄には標準スペック用途のデバイスを作製したときの歩留りの平均値、最小値、最大値を記載した。標準スペック用途についてはデバイスの製造歩留りが90%以上であれば合格とした。
【0069】
実施例1では、高スペック用途のデバイスの製造歩留りは、平均で78.2%であり、目安となる50%を超えていた。これに対し、比較例1では30.4%と低かった。製造歩留の幅は、実施例が52%から98%であるのに対し、比較例は0%から97%でばらつきが大きかった。標準スペックに対しても、実施例1ではすべてのロットがデバイスの製造歩留が90%以上であったのに対し、比較例1では平均値が45.6%と低く、歩留まりの範囲は6%から99%とばらつきが大きかった。
【0070】
参考例に示したように、ステンレス箔ロールを検査した際に、10cm角あたり1μA/mm2以上のリーク電流が検出された測定点数が10個を超える場合、高スペックおよび標準スペックのデバイスの製造歩留がそれぞれ50%未満、90%未満となっており、1μA/mm2のリーク電流が検出された測定点数が増えるほどそれぞれの製造歩留が低下する傾向があった。比較例では無作為にステンレス箔ロールを選んでいるため、選んだ中に参考例に示すような不良ロットが含まれており、歩留まりの低下、歩留まりのばらつきが大きいことにつながったと考えられる。
【0071】
[平坦化膜付きステンレス箔の製造試験2]
試験2は、平坦化膜としてメチル基を含む膜を成膜する以外は、試験1と同様に実施した。
平坦化膜を形成する塗布液は、メチルトリエトキシシラン0.5モルとテトラメトキシシラン0.5モルを、6モルの2-エトキシエタノール中で、2モルの水と0.1モルの酢酸で加水分解・縮合反応させ、その後にMEKを6モル追加し混合することにより合成した。
ダイコータを用いて、膜厚1.1μmでメチル基含有シリカ膜を形成した。乾燥炉は炉長3mで炉の温度は120℃にセットし、速度5mpmで搬送し、PAC3J-30Hの微粘着性保護フィルムを貼りつけながら巻き取った。次に保護フィルムを剥がしながら炉長6m、炉温420℃の窒素雰囲気の熱風乾燥炉に搬送速度1mpmで通し、PAC3J-30Hの微粘着性保護フィルムを貼りつけながら巻き取り、平坦化膜付きステンレス箔ロールを得た。29Si-NMRによりT核とQ核が50%ずつであることを確認した。FTIRにより有機基はメチル基であることを確認した。実施例2、比較例2、参考例(5~7)のすべてにおいて、目視観察ではクラックやハジキは認められず良好な外観であった。試験2の結果を表3に示す。
【0072】
試験2においてもステンレス箔の選別が歩留まりの向上および歩留まりのばらつき抑制の点で有効であることを確認した。
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【符号の説明】
【0075】
PC 計測用コンピュータ
1 電極棒
2 プローブ
3 フェニルシロキサンポリマー膜
4 電極ケーブル
図1
図2
図3
図4
図5
図6