(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177414
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】自動化学分析装置、自動化学分析装置用メンテナンスキット、及び自動化学分析装置のメンテナンス方法
(51)【国際特許分類】
G01N 35/02 20060101AFI20221124BHJP
G01N 35/00 20060101ALI20221124BHJP
G01N 1/38 20060101ALI20221124BHJP
B01F 31/80 20220101ALI20221124BHJP
H04R 1/44 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
G01N35/02 D
G01N35/00 F
G01N35/00 A
G01N1/38
B01F11/02
H04R1/44 330J
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083648
(22)【出願日】2021-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 宗
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 洋一郎
(72)【発明者】
【氏名】川原 鉄士
(72)【発明者】
【氏名】吉田 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】薮谷 恒
【テーマコード(参考)】
2G052
2G058
4G036
5D019
【Fターム(参考)】
2G052FB02
2G052FB10
2G052HC04
2G052HC06
2G052HC21
2G052HC42
2G052JA06
2G052JA07
2G052JA08
2G052JA10
2G058FA03
2G058GB10
2G058GD05
2G058GE08
2G058GE10
4G036AB22
5D019AA18
5D019BB26
5D019FF06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】万が一自動化学分析装置の不具合が生じた場合でも、装置や部品を回収することなく、ユーザサイトでその不具合要因を明らかにし対処可能とする自動化学分析装置、自動化学分析装置用メンテナンスキット、及び自動化学分析装置のメンテナンス方法を提供する。
【解決手段】自動化学分析装置用メンテナンスキットは、分注された検体と試薬を収容し得る反応容器107、反応容器107へ超音波を照射する圧電素子201を有する撹拌機構を備え、圧電素子201は複数の分割電極210を有する自動化学分析装置に接続可能であって、分割電極201毎に圧電素子201のインピーダンスの絶対値及び分割電極201への印加電圧と電流の位相差を測定し、当該測定結果に基づき各分割電極201の異常の有無を判定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、分注された検体と試薬を収容し得る反応容器と、前記反応容器へ超音波を照射する圧電素子を有する撹拌機構を備え、前記圧電素子は複数の分割電極を有する自動化学分析装置であって、
分割電極毎に前記圧電素子のインピーダンスの絶対値及び前記分割電極への印加電圧と電流の位相差を測定し、測定結果に基づき各分割電極の異常の有無を判定するメンテナンスキットに接続可能なインターフェース部を備えることを特徴とする自動化学分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動化学分析装置において、
前記メンテナンスキットは、前記分割電極毎に前記圧電素子のインピーダンスの絶対値が最小となる周波数及びインピーダンスの絶対値を検出し、前記各分割電極の異常の有無を判定することを特徴とする自動化学分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載の自動化学分析装置において、
前記メンテナンスキットは、予め設定された前記分割電極毎に前記圧電素子のインピーダンスの絶対値が最小となる周波数及びインピーダンスの絶対値の正常範囲を用いて前記各分割電極の異常の有無を判定することを特徴とする自動化学分析装置。
【請求項4】
請求項3に記載の自動化学分析装置において、
前記メンテナンスキットは、予め多数の正常な圧電素子の分割電極毎のインピーダンススペクトルを測定し、前記測定されたインピーダンススペクトルに基づき前記分割電極毎に前記圧電素子のインピーダンスの絶対値が最小となる周波数及びインピーダンスの絶対値の正常範囲を設定することを特徴とする自動化学分析装置。
【請求項5】
請求項4に記載の自動化学分析装置において、
前記メンテナンスキットは、水中及び空気中の条件下で正常な圧電素子の分割電極毎のインピーダンススペクトルを測定し、水中で測定されたインピーダンススペクトルに対しは平滑化処理を行い恒温槽内で受ける反射波の影響を除去することを特徴とする自動化学分析装置。
【請求項6】
少なくとも、分注された検体と試薬を収容し得る反応容器と、前記反応容器へ超音波を照射する圧電素子を有する撹拌機構を備え、前記圧電素子は複数の分割電極を有する自動化学分析装置に接続可能な自動化学分析装置用メンテナンスキットであって、
分割電極毎に前記圧電素子のインピーダンスの絶対値及び前記分割電極への印加電圧と電流の位相差を測定し、測定結果に基づき各分割電極の異常の有無を判定することを特徴とする自動化学分析装置用メンテナンスキット。
【請求項7】
請求項6に記載の自動化学分析装置用メンテナンスキットにおいて、
前記分割電極毎に前記圧電素子のインピーダンスの絶対値が最小となる周波数及びインピーダンスの絶対値を検出し、前記各分割電極の異常の有無を判定することを特徴とする自動化学分析装置用メンテナンスキット。
【請求項8】
請求項7に記載の自動化学分析装置用メンテナンスキットにおいて、
予め設定された前記分割電極毎に前記圧電素子のインピーダンスの絶対値が最小となる周波数及びインピーダンスの絶対値の正常範囲を用いて前記各分割電極の異常の有無を判定することを特徴とする自動化学分析装置用メンテナンスキット。
【請求項9】
請求項8に記載の自動化学分析装置用メンテナンスキットにおいて、
予め多数の正常な圧電素子の分割電極毎のインピーダンススペクトルを測定し、前記測定されたインピーダンススペクトルに基づき前記分割電極毎に前記圧電素子のインピーダンスの絶対値が最小となる周波数及びインピーダンスの絶対値の正常範囲を設定することを特徴とする自動化学分析装置用メンテナンスキット。
【請求項10】
請求項8に記載の自動化学分析装置用メンテナンスキットにおいて、
水中及び空気中の条件下で正常な圧電素子の分割電極毎のインピーダンススペクトルを測定し、水中で測定されたインピーダンススペクトルに対しは平滑化処理を行い恒温槽内で受ける反射波の影響を除去することを特徴とする自動化学分析装置用メンテナンスキット。
【請求項11】
少なくとも、分注された検体と試薬を収容し得る反応容器と、前記反応容器へ超音波を照射する圧電素子を有する撹拌機構を備え、前記圧電素子は複数の分割電極を有する自動化学分析装置のメンテナンス方法であって、
インターフェース部を介してメンテナンスキットを自動化学分析装置に接続し、
前記メンテナンスキットは、分割電極毎に前記圧電素子のインピーダンスの絶対値及び前記分割電極への印加電圧と電流の位相差を測定し、測定結果に基づき各分割電極の異常の有無を判定することを特徴とする自動化学分析装置のメンテナンス方法。
【請求項12】
請求項11に記載の自動化学分析装置のメンテナンス方法において、
前記メンテナンスキットは、前記分割電極毎に前記圧電素子のインピーダンスの絶対値が最小となる周波数及びインピーダンスの絶対値を検出し、前記各分割電極の異常の有無を判定することを特徴とする自動化学分析装置のメンテナンス方法。
【請求項13】
請求項12に記載の自動化学分析装置のメンテナンス方法において、
前記メンテナンスキットは、予め設定された前記分割電極毎に前記圧電素子のインピーダンスの絶対値が最小となる周波数及びインピーダンスの絶対値の正常範囲を用いて前記各分割電極の異常の有無を判定することを特徴とする自動化学分析装置のメンテナンス方法。
【請求項14】
請求項13に記載の自動化学分析装置のメンテナンス方法において、
前記メンテナンスキットは、予め多数の正常な圧電素子の分割電極毎のインピーダンススペクトルを測定し、前記測定されたインピーダンススペクトルに基づき前記分割電極毎に前記圧電素子のインピーダンスの絶対値が最小となる周波数及びインピーダンスの絶対値の正常範囲を設定することを特徴とする自動化学分析装置のメンテナンス方法。
【請求項15】
請求項14に記載の自動化学分析装置のメンテナンス方法において、
前記メンテナンスキットは、水中及び空気中の条件下で正常な圧電素子の分割電極毎のインピーダンススペクトルを測定し、水中で測定されたインピーダンススペクトルに対しは平滑化処理を行い恒温槽内で受ける反射波の影響を除去することを特徴とする自動化学分析装置のメンテナンス方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動化学分析装置に係り、特に、反応容器内の検体と試薬の混合液を、超音波にて非接触で混合する撹拌機構を備えた自動化学分析装置において、その撹拌の機能を常に適正に実行するための当該撹拌機構のメンテナンスを実現する、自動化学分析装置、自動化学分析装置用メンテナンスキット、及び自動化学分析装置のメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、特許文献2、特許文献3および非特許文献1に開示される技術によれば、超音波の音響放射圧の効果を用いて反応容器内の被撹拌液(検体と試薬)を非接触で混合する技術が開発され、自動化学分析装置に実装され実用化されている。
本技術では圧電素子に、圧電素子の厚み共振周波数近傍の周波数で正弦波或いは矩形波等を印加して超音波を発生させ、反応容器外部より被撹拌液に向けて照射し混合する。本超音波非接触撹拌技術(以下、本撹拌技術と称する)を搭載した自動化学分析装置は、ユーザサイトへの導入から数年間は使用してもらうことを想定している。従って、自動化学分析装置を構成する他の機構(例えば、分注機構或いは洗浄機構等)と同様に、自動化学分析装置の稼働中には各撹拌動作が適正に行われているかをチェックする機能が求められる。
【0003】
特許文献4に開示される技術によれば、本撹拌動作時には圧電素子に流れる電流を各撹拌動作ごとに常に計測・記録し、規定の電流が流れているかを計測することで適正な撹拌が行われたか否かを判定する。規定の電流値が流れていなかった場合には超音波の発信源である圧電素子から所望の超音波が発生していなかったとし、その撹拌動作に対する異常やエラーまたはアラートを自動化学分析装置に出力することでユーザに提示するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3641992号公報
【特許文献2】特許3661076号公報
【特許文献3】特許4406629号公報
【特許文献4】特許3746239号公報
【特許文献5】特許4112228号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Chemical Engineering Science 60(2005) pp5519-5528
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献4に開示される技術では、撹拌動作を一度実行し、その時に圧電素子に流れた電流波形やその値に基づき予め設定した規定の波形、値と照合して異常の有無を判定している。
しかしながら、上述した方法だけでは自動化学分析装置の撹拌機構を構成するどの部品に不具合が生じているのかを見極めることが困難である。圧電素子のみならず、その圧電素子を駆動している電力増幅装置、電圧を印加する電極を選択するリレー回路等を交換して対処しなければならない場合も生ずる。また、交換して故障品として回収されてきたこれらの部品を調べると、必ずしも圧電素子や駆動回路系に不具合が生じていたわけではないこともある。
【0007】
そこで、本発明は、万が一自動化学分析装置の不具合が生じた場合でも、装置や部品を回収することなく、ユーザサイトでその不具合要因を明らかにし対処可能とする自動化学分析装置、自動化学分析装置用メンテナンスキット、及び自動化学分析装置のメンテナンス方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係る自動化学分析装置は、少なくとも、分注された検体と試薬を収容し得る反応容器と、前記反応容器へ超音波を照射する圧電素子を有する撹拌機構を備え、前記圧電素子は複数の分割電極を有する自動化学分析装置であって、分割電極毎に前記圧電素子のインピーダンスの絶対値及び前記分割電極への印加電圧と電流の位相差を測定し、測定結果に基づき各分割電極の異常の有無を判定するメンテナンスキットに接続可能なインターフェース部を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る自動化学分析装置用メンテナンスキットは、少なくとも、分注された検体と試薬を収容し得る反応容器と、前記反応容器へ超音波を照射する圧電素子を有する撹拌機構を備え、前記圧電素子は複数の分割電極を有する自動化学分析装置に接続可能な自動化学分析装置用メンテナンスキットであって、分割電極毎に前記圧電素子のインピーダンスの絶対値及び前記分割電極への印加電圧と電流の位相差を測定し、測定結果に基づき各分割電極の異常の有無を判定することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る自動化学分析装置のメンテナンス方法は、少なくとも、分注された検体と試薬を収容し得る反応容器と、前記反応容器へ超音波を照射する圧電素子を有する撹拌機構を備え、前記圧電素子は複数の分割電極を有する自動化学分析装置のメンテナンス方法であって、インターフェース部を介してメンテナンスキットを自動化学分析装置に接続し、前記メンテナンスキットは、分割電極毎に前記圧電素子のインピーダンスの絶対値及び前記分割電極への印加電圧と電流の位相差を測定し、測定結果に基づき各分割電極の異常の有無を判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、万が一自動化学分析装置の不具合が生じた場合でも、装置や部品を回収することなく、ユーザサイトでその不具合要因を明らかにし対処可能とする自動化学分析装置、自動化学分析装置用メンテナンスキット、及び自動化学分析装置のメンテナンス方法を提供することが可能となる。
例えば、超音波を発生させる音源である圧電素子の片側の電極を分割し、その電極を選択して電力を供給することで音源からの照射位置を調整する攪拌方式を採用した自動分析装置で何らかの不具合が生じた場合、本発明を用いれば分割電極毎のインピーダンススペクトル(Impedance Spectrum:以下、ImpSと称する)を測定することで圧電素子上のどの位置の分割電極の圧電性が消失・損傷しているか、また、圧電素子そのものには異常はなく、電力を供給する電力増幅器、電極を選択するリレー回路等の他の不具合の要因まで明らかにすることができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施例に係る自動化学分析装置の全体概略構成図である。
【
図2】
図1に示す撹拌機構である超音波非接触撹拌機構の説明図である。
【
図3】本発明の一実施例に係る超音波非接触攪拌の音源である圧電素子のImpS(インピーダンススペクトル)を測定するメンテナンスキットの外観斜視図である。
【
図4】
図3に示すメンテナンスキット本体の電子回路の構成図である。
【
図5A】水中で測定された正常な圧電素子のインピーダンスプロファイルの一例を示す図である。
【
図5B】水中で測定された異常な圧電素子のインピーダンスプロファイルの一例を示す図である。
【
図6A】水中で測定された正常な圧電素子のインピーダンスプロファイルの一例を示す図である。
【
図6B】空気中或いは恒温水を排出し恒温槽を空の状態として測定された正常な圧電素子のインピーダンスプロファイルの一例を示す図である。
【
図7A】正常な圧電素子のセグメント毎の共振周波数の母集団の分布の一例を示す図である。
【
図7B】正常な圧電素子のセグメント毎の最小インピーダンスの母集団の分布の一例を示す図である。
【
図7C】
図7Aに示す母集団を正常母集団とし、これを用いて測定された圧電素子のセグメント毎の共振周波数の分布の一例を示す図である。
【
図7D】
図7Bに示す母集団を正常母集団とし、これを用いて測定された圧電素子のセグメント毎の最小インピーダンスの分布の一例を示す図である。
【
図8】自動化学分析装置のメンテナンス方法を示すフローチャートであって、本実施例に係るメンテナンスキットの処理フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の実施例について説明する。
なお、本実施例で用いている電子デバイス系の部品は本発明の出願時点で最も適切で調達が容易なものであるが、特に進歩の著しい電子系の部品はより高性能なものが今後流通する可能性が高い。そのなかで本発明で必要な要素として代替できる場合にはその部品を用いることが好ましい。
【実施例0014】
まず、本実施例に係る自動化学分析装置及び撹拌機構について説明する。
【0015】
[自動化学分析装置及び撹拌機構の構成]
図1は、本発明の一実施例に係る自動化学分析装置の全体概略構成図である。
図1に示すように、自動化学分析装置1は、各検体が入ったサンプルカップ101とそれらを複数個設置するためのサンプルディスク102、試薬ボトル103を保冷するための試薬保冷ディスク104、検体を分注するためのサンプルディスペンサ105、分注するためのサンプルディスペンサ105、試薬を分注するための試薬ディスペンサ106を備える。
検体と試薬はそれぞれサンプルディスペンサ105及び試薬ディスペンサ106により反応容器107に分注される。検体と試薬が分注された反応容器107は反応ディスク108上の周方向に沿って配置されており、
図1では時計回りに回転して撹拌機構109にて超音波を用いて非接触で混合される。混合された検体と試薬は反応が促進され、その吸光特性が吸光度計110で測定される。吸光度計測、すなわち分析が終了した検体を含んだ反応容器107は洗浄機構(図示せず)によって洗浄される。洗浄終了後は次の検体が分注され上述した一連の分析シーケンスが繰り返される。なお、反応ディスク108の周方向に配置された反応容器107は、恒温槽111中を循環する恒温水(図示せず)と接触しており指定した温度の恒温水を介して一定温度に保たれている。サンプルディスク102、試薬保冷ディスク104、分注機構(サンプルディスペンサ105及び試薬ディスペンサ106)、及び反応ディスク108等は、自動化学分析装置1内に搭載されているホストコンピュータ(図示せず)によって信号のやり取りを行い、ホストコンピュータの指令(信号)に従って各々の動作シーケンスが制御されている。撹拌機構109もコネクタ112を介して圧電素子を駆動するためのリレー回路(図示せず)及び電力増幅器系113に接続されており、その電力増幅器系113もホストコンピュータからの指令(信号)に従って動作する。なお、コネクタ112はインターフェース部とも称される。
【0016】
図2は、
図1に示す撹拌機構である超音波非接触撹拌機構の説明図である。
図2においては、
図1で示した撹拌機構109の(鉛直方向と反応ディスク半径方向の2軸で張られる面における)断面図として示している。コネクタ112よりホストコンピュータからの信号219も併せて示している。
【0017】
撹拌機構109は、圧電素子201とそれを恒温槽111へマウントするための治具202、圧電素子に電力を供給する電力増幅器系113から構成される。
圧電素子201の恒温水209側の電極210は、
図2に示すように素子の下側の端面に沿って反対側に折り返されている。恒温水209側とは反対側の面の電極は、破線内部の図のように一定の長さと幅で分割されている。各分割電極211は、それぞれコネクタ112の各ピンに一対一で接続されている。
【0018】
電力増幅器系113の内部は、駆動波形を発生させる関数発生回路205、その波形を所望の電力に増幅する終段増幅回路206、特許文献4に開示される電圧印加時に圧電素子201に流れる電流を電磁的なカップリングで測定する電流モニタ207が内蔵されている。なお、本実施例では、この電力増幅器系113中の電流モニタ207により特許文献4に示されるように関数発生回路205及び終端増幅回路206の異常の有無を監視していることを前提としており、本発明では、後述するメンテナンスキットにて圧電素子201側の異常の有無を検知するものである
この電力増幅器系113内部には、ホストコンピュータからの指令でその開閉が制御されるリレー群208がコネクタ112を介して各分割電極211に接続されている。反応容器107内の被撹拌液(検体と試薬の混合液)の液面の高さに合わせて分割電極211の中から適切な位置の電極がリレー群208の開閉によって選択され、反応容器107への超音波の照射位置が調整される。
【0019】
[メンテナンスキットの構成]
図3は、本発明の一実施例に係る超音波非接触攪拌の音源である圧電素子のImpS(インピーダンススペクトル)を測定するメンテナンスキットの外観斜視図である。メンテナンスキット2は、攪拌機構109の状態を調べるためのものである。上述の通り、自動化学分析装置1が設置されているユーザサイトで音源である圧電素子201の分割された電極毎のImpSを測定することで、攪拌機構109の正常・異常の他、異常時にはその要因を診断するものである。
【0020】
図3に示すようにメンテナンスキット本体301(Impedance Measurement Module:以下、IMMと称する)は、操作ボタン302及び測定結果等の表示器303から構成され、信号線(ケーブル)304を介してコネクタ305を備えている。このコネクタ305は自動化学分析装置1に搭載された超音波非接触攪拌を行う撹拌機構109の圧電素子201に接続されているコネクタ112と接続できるようになっており、自動化学分析装置1上の攪拌機構109をメンテナンスする際には電力増幅器系113のコネクタと差し替えてコネクタ112に接続し、音源である圧電素子201のImpSを測定することができる。なお、メンテナンスキット2のコネクタ305はインターフェース部とも称される。また、本実施例では、自動化学分析装置1のインターフェース部とメンテナンスキット2のインターフェース部との接続形態を、コネクタを介した有線接続としたがこれに限られるものではない。例えば、これらインターフェース部を無線にて接続する構成としても良い。
【0021】
図4は、
図3に示すメンテナンスキット本体(IMM)の電子回路の構成図である。
図4に示すように、IMMの電子回路の内部ではディジタル・ダイレクト・シンセサイザー(Direct Digital Synthesizer: 以下、DDSと称する)401によって任意の周波数の正弦波形電圧を発生させる。その波形電圧を電圧増幅するアンプ402を経て、出力端子403に正弦波形電圧が出力される。出力端子403に出力された正弦波電圧はリレー群404或いはマルチプレクサ(以下、電極切替器と称する)を介してコネクタ306に出力される。IMM301では、電極切替器を一つずつ短絡させることで、電極毎のImpSを順次測定する。ある電極を一つ短絡させその電極に正弦波電圧が印加されている時に、その電極に流れている電流は配線405に流入し、検出抵抗406で電圧値として検出される。その電流に起因する電圧信号は、適当なゲインでリニアに増幅されるオペアンプ407を介して、ログアンプ(LogAmp)408でさらに増幅される。その電極に印加されている出力端子403の電圧は配線409を介して、それぞれマイクロ・コントロール・ユニット(Micro Control Unit:以下。MCUと称する)410に入力され内部でA/D変換される。MCU410はDDS401に制御信号411を送り発生させる正弦波の周波数を所望の周波数範囲で掃引させる。このときの周波数、出力端子403からの印加電圧、素子を流れている電流に起因する測定電圧はMCU410内のメモリ(図示せず)に格納・演算され、ImpS測定結果として表示器303に表示される。
【0022】
図3及び
図4の図面を用いて説明したIMM301より測定(
図2の恒温水209を恒温槽111中に所定の水位で満たし、かつ反応容器107中の液面レベルが十分高い場合)したImpSの測定結果の一例が
図5A及び
図5Bである。
図5Aは、水中で測定された正常な圧電素子201のインピーダンスプロファイルの一例を示す図である。
図5Aでは、正常な圧電素子201の電極3個分のそれぞれのImpSを示している。また、
図5Bは、水中で測定された正常な圧電素子201のインピーダンスプロファイルの一例を示す図である。
図5Bでは、いずれも異常な圧電素子の電極個分のImpSを示している。
【0023】
図5Aに示されるように正常な圧電素子のImpSはいずれの電極も絶対値|Z|(水中で測定した正常な圧電素子のインピーダンスの絶対値501)、位相差ΔZ(水中で正常な圧電素子のインピーダンスの位相502)共に一様なプロファイルを示しており、絶対値|Z|が最小値Zminとなる周波数fminが存在する。しかし、
図5Bに示すように、異常な圧電素子ではいずれの電極の絶対値|Z|(水中で異常な圧電素子のインピーダンスの絶対値503)、位相差ΔZ(水中で異常な圧電素子のインピーダンスの位相504)のプロファイルはいずれも一様ではなく、絶対値|Z|の最小値Zminが見られない。本実施例では、このような正常な圧電素子と異常な圧電素子のImpSの差異に着目し、以下のような方法で電極部位毎(電極毎)の正常、異常を判定するアルゴリズムを開発し、
図3及び
図4に示したIMM301内に実装している。
【0024】
図6Aは、水中で測定された正常な圧電素子のインピーダンスプロファイルの一例を示す図である。
図6Aでは、
図5Aと同様の正常な圧電素子のある電極のImpSを測定した結果を示している。この電極番号を圧電素子のi番目の電極とし、絶対値|Z|の最小値Z_i_min、その周波数をf_i_minと表記する。従って、例えば一つの圧電素子の片側電極を10分割した場合、一つの圧電素子からは10組の絶対値|Z|の最小値とその周波数、(Z_i_min、f_i_min、i=1,2,・・10)がImpSのプロファイルから得られることになる。予め十分な数(数百個程度以上)の正常な圧電素子の電極毎のImpSを測定すると、Z_i_min、f_i_min(一番上の電極から順にi=1,2,・・10、と番号を割り振った)は、その場所毎に特に平均値が異なることがある。なお、本実施例では、10個の分割電極としたがこれに限られるものではなく、分割電極数は適宜設定すれば良い。十分な数の正常な各圧電素子から得られる電極毎のZ_i_min、f_i_minの値からその平均値±3σ(標準偏差)をプロットすると、
図7A及び
図7Bのような電極毎の周波数の分布701(正常範囲)と最小インピーダンスの分布702(正常範囲)が得られる。本実施例ではこの分布を正常範囲の母集団とし、被判定対象(正常か異常かを調べたい圧電素子)の電極毎の絶対値|Z|の最小値とその周波数がこの正常範囲内にあるか否かで電極毎の正常、異常を判定する。
【0025】
図7Cは、
図7Aに示す母集団を正常母集団とし、これを用いて測定された圧電素子のセグメント毎の共振周波数の分布の一例を示す図であり、
図7Dは、
図7Bに示す母集団を正常母集団とし、これを用いて測定された圧電素子のセグメント毎の最小インピーダンスの分布の一例を示す図である。周波数、最小インピーダンスの両電極毎の正常範囲701、702上にプロットされているドット703及び704が被判定対象の圧電素子のImpSより検出された周波数と最小インピーダンスである。この例では、周波数、最小インピーダンスが1番から4番目のセグメント(分割電極)が共に正常範囲を超えており、この被判定対象の圧電素子ではその上部の部位が何らかの異常な特性となっていることを示している。
【0026】
なお、
図6Bは、空気中或いは恒温水を排出し恒温槽を空の状態として測定された正常な圧電素子のインピーダンスプロファイルの一例を示す図である。すなわち、
図2の恒温水209を排水して恒温槽111を空にした状態、或いは圧電素子を攪拌機構109ごと自動化学分析装置1から外した状態で、空気中で測定した正常な圧電素子のImpSの一例である。水中で測定した
図6AのImpSと異なり水による音響負荷が低いため、ImpSの最小値がより低い値を示す。この空気中で測定されるImpSの最小値は音響工学的には圧電素子の共振点であり、その周波数は圧電素子単体の共振周波数とよばれる。そのため、これまで述べてきた水中で測定したImpSの最小値とその周波数とは区別し、Z_i_r,f_i_rと表記する(添え字のiは水中測定同様に分割電極の番号とする)。空気中で測定されたZ_i_rとf_i_rの正常母集団の範囲は、同一の圧電素子でも水中で測定されたZ_i_min、f_i_minと異なるので、別途十分な数の正常な圧電素子を用いて定義する必要がある。
【0027】
また、同一圧電素子でも水中での測定時と異なり空気中での測定時では位相差ΔZにも顕著な特性が現れる。空気中で測定した共振時の位相差では正常な圧電素子ではその電気的特性が容量性から誘導性に遷移するので、位相差が603のようにゼロとなる。空気中で測定したImpSの位相差にこのようなゼロの遷移があるか否かもその圧電素子の正常性を判定する際に利用することができる。
【0028】
通常このように空気中でImpSを測定した場合、水中に比べより感度が高く正確に圧電素子201の特性を計測することができる。しかし、その場合には上述したように、恒温水209を恒温槽111から排水したり、超音波非接触攪拌を行う撹拌機構109を一部分解して取り外す等の手間がかかる。そこで、IMM301を用いたメンテナンス方法として、IMM301内部に
図8に示すフローの判定アルゴリズムを実装した。
【0029】
図8は、自動化学分析装置のメンテナンス方法を示すフローチャートであって、本実施例に係るメンテナンスキットの処理フローを示す図である。
図8に示す処理フローでは、各電極を順次測定、正常・異常判定を行っていくために、電極番号をカウンタとしたループ処理となっている。
【0030】
図8に示すように、まずスタート後、ステップS101では、IMM301を構成するMCU410が電極番号(図中ではsegと表記)のループ処理を実行する。そして、ステップS102では、MCU410がseg番目の電極のImpSを測定する。
ステップS103では、測定されたImpSの絶対値|Z|からその値が例えば、メガΩオーダーの大きな値の場合は測定対象が導通不良を起こしていると判定し、その電極は導通不良としてNGと判定する。一方、導通不良がなかった場合はステップS104に進む。
【0031】
ステップS104では、MCU410が、絶対値|Z|が限りなくゼロに近い場合には接続不良や漏水等で短絡しているとしてその電極はNGと判定する。ステップS103及びステップS104の処理を経て、予め処理フロー開始前に測定者(オペレータ)が設定した空気中、水中での測定条件に基づき、その後の処理フローがステップS105において分岐する。
【0032】
まず、空気中で測定した場合は上述したように正常の圧電素子では共振周波数において位相差がゼロとなる(電気的特性が容量性から誘導性に変化する)ので、まずその電極において共振周波数時に位相差がゼロになっているか否かをステップS106において判定する。この処理で位相差がゼロになっていなければ圧電性が消失していることになるので、NGと判定する。
続いて、ステップS107では、共振周波数時のインピーダンスZrが、
図7Bに示した正常範囲702の範囲内にあるか否かを判定する。正常範囲702の範囲内でない場合NGと判定する。一方、正常範囲702の範囲内である場合は、ステップS108へ進み、共振周波数時の共振周波数frが
図7Aに示した正常範囲701の範囲内にあるか否かを判定する。正常範囲701の範囲内でない場合NGと判定する。一方、正常範囲701の範囲内である場合はseg番目のセグメント(分割電極)は正常と判定しステップS101へ戻り、電極番号を1インクリメントし、上述の処理を繰り返す。
【0033】
次に、水中で測定した場合にはImpSの絶対値、位相のプロファイルは
図6Aに示したように空気中と比べて感度が低い。また、水中で測定するがゆえに水の音響負荷やまわりからの反射波等の影響を受ける場合がある。ステップS109においてプロファイルのフィルタリング(平滑化処理)を施した後にZ_min、f_minを検出し、ステップS110及びステップS111において空気中での測定時と同様に正常範囲内か否かを判定し、正常或いは異常が判定される。ステップS111での判定結果が正常の場合には、ステップS101へ戻り、電極番号を1インクリメントし、上述の処理を繰り返す。
ステップS101のループ処理により全ての分割電極が正常である場合は、圧電素子201は正常であると判定する。一方、全ての分割電極が正常でない場合、すなわち一部の分割電極が異常である場合、圧電素子201は異常であると判定する。
【0034】
電極毎(分割電極毎)に以上のような判定処理のフローを実行することで、電極毎(分割電極毎)の正常・異常の判定と、異常と判定された場合、どのような要因で異常であるか推定することができる。
【0035】
以上の通り本実施例によれば、万が一自動化学分析装置の不具合が生じた場合でも、装置や部品を回収することなく、ユーザサイトでその不具合要因を明らかにし対処可能とする自動化学分析装置、自動化学分析装置用メンテナンスキット、及び自動化学分析装置のメンテナンス方法を提供することが可能となる。
【0036】
また、超音波を発生させる音源である圧電素子の片側の電極を分割し、その電極を選択して電力を供給することで音源からの照射位置を調整する攪拌方式を採用した自動分析装置で何らかの不具合が生じた場合、本実施例を用いれば分割電極毎のImpSを測定することで圧電素子上のどの位置の分割電極の圧電性が消失・損傷しているか、また、圧電素子そのものには異常はなく、電力を供給する電力増幅器、電極を選択するリレー回路等の他の不具合の要因まで明らかにすることができる。
【0037】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。