(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177473
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】有機発光素子、成膜方法、及び成膜装置
(51)【国際特許分類】
H01L 51/50 20060101AFI20221124BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20221124BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
H05B33/22 A
H05B33/14 A
H05B33/10
C23C14/06 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083746
(22)【出願日】2021-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】氏原 祐輔
【テーマコード(参考)】
3K107
4K029
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC21
3K107CC45
3K107DD27
3K107DD75
3K107DD76
3K107DD84
3K107DD86
3K107FF14
3K107GG05
3K107GG32
4K029AA24
4K029BA64
4K029CA05
4K029DA10
4K029DC16
4K029DC46
4K029KA01
(57)【要約】
【課題】より信頼性の高い有機発光素子、信頼性の高い有機発光素子を形成する成膜方法、及び成膜装置を提供する。
【解決手段】有機発光素子において、発光層は、陰極層と陽極層との間に設けられる。電子注入層は、前記陰極層と前記発光層との間に設けられる。正孔注入層は、前記陽極層と前記発光層との間に設けられる。電子輸送層は、前記電子注入層と前記発光層との間に設けられる。正孔輸送層は、前記正孔注入層と前記発光層との間に設けられる。前記陰極層は、透明導電層で構成される。前記電子注入層は、銀、アルミニウム、銅、金、及び白金の少なくとも1つを含む第1成分と、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ土類金属のフッ化物、及びランタノイドの少なくとも1つを含む第2成分とを含有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極層と陽極層との間に設けられた発光層と、
前記陰極層と前記発光層との間に設けられた電子注入層と、
前記陽極層と前記発光層との間に設けられた正孔注入層と、
前記電子注入層と前記発光層との間に設けられた電子輸送層と、
前記正孔注入層と前記発光層との間に設けられた正孔輸送層と
を具備し、
前記陰極層は、透明導電層で構成され、
前記電子注入層は、
銀、アルミニウム、銅、金、及び白金の少なくとも1つを含む第1成分と、
アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ土類金属のフッ化物、及びランタノイドの少なくとも1つを含む第2成分と
を含有し、
前記電子注入層においては、前記透明導電層の側において前記第1成分の濃度が前記第2成分の濃度に比べて相対的に高い
有機発光素子。
【請求項2】
請求項1に記載された有機発光素子であって、
前記電子注入層においては、前記電子輸送層の側において前記第2成分の濃度が前記第1成分の濃度に比べて相対的に高く、
前記電子輸送層の側から前記陰極層の側に向かって、前記第2成分の濃度に対する前記第1成分の濃度が徐々に増加する
有機発光素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載された有機発光素子であって、
前記電子注入層と前記陰極層との間に、前記第1成分で構成された金属層が設けられた
有機発光素子。
【請求項4】
有機発光素子に含まれる電子輸送層に対して電子注入層を成膜する成膜方法であって、
成膜源として、銀、アルミニウム、銅、金、及び白金の少なくとも1つを含む第1成膜源と、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ土類金属のフッ化物、及びランタノイドの少なくとも1つを含む第2成膜源とを準備し、
前記成膜源と前記電子輸送層とを第1方向に対向させて、前記第1方向と交差する第2方向に前記電子輸送層と前記成膜源とを相対移動させながら前記第1成膜源の成分と前記第2成膜源の成分とを前記電子注入層を成膜する際、前記第1方向において前記第1成膜源よりも先に前記第2成膜源と前記電子輸送層とが重なるように前記第1成膜源と前記第2成膜源とを前記第2方向に並べて成膜を実行する
成膜方法。
【請求項5】
請求項4に記載された成膜方法であって、
前記成膜をスパッタリング成膜によって実行する
成膜方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載された成膜方法であって、
前記成膜を実行して前記電子輸送層に対し前記電子注入層を成膜した後、前記電子注入層に対して陰極層としての透明導電層を形成する
成膜方法。
【請求項7】
有機発光素子に含まれる電子輸送層が成膜源に向けて露出される基板を支持可能な基板ホルダと、
前記基板ホルダに第1方向において対向し、銀、アルミニウム、銅、金、及び白金の少なくとも1つを含む第1成膜源と、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ土類金属のフッ化物、及びランタノイドの少なくとも1つを含む第2成膜源とを有する成膜源と、
前記第1方向と交差する第2方向において、前記基板と前記成膜源とを相対移動させる移動機構と
を具備し、
前記電子輸送層と前記成膜源とを相対移動させる際、前記第1方向において前記第1成膜源よりも先に前記第2成膜源と前記基板とが重なるように前記第1成膜源と前記第2成膜源とが前記第2方向に並設された
成膜装置。
【請求項8】
請求項7に記載された成膜装置であって、
前記第1成膜源と前記第2成膜源との間に、前記第1方向に延在する仕切板が設けられた
成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光素子、成膜方法、及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子では、発光層にカソード電極から電子を注入しアノード電極から正孔を注入し、発光層で電子と正孔とを再結合させて光を発生させる。
【0003】
ここで、有機発光素子の主電極(例えば、カソード)として、電子注入性に優れた銀層を用いる技術がある(例えば、特許文献1参照)。また、発光層で発光した光の光透過率を高めるために、主電極の材料として光透過性に優れた透明導電層(例えば、ITO)を用いる技術がある(例えば、特許文献2参照)。また、有機EL表示装置では、サイズの大型化が進行しつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-317384号公報
【特許文献2】特開2002-343555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、有機発光素子のカソード電極として、銀層を用いた場合には、カソード電極による光透過を高めるために、銀層の厚みを薄く形成する必要がある。但し、銀層を大面積成膜でも厚み分布に優れた蒸着法で薄く形成すると、蒸着源からの熱輻射によって銀層がアイランド状となるおそれがある。
【0006】
一方、カソード電極として、銀層に代え透明導電層を用いた場合、透明導電層を成膜する際に真空容器内に発生する酸素、水によって透明導電層の下地である電子注入層が劣化するおそれがあった。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、より信頼性の高い有機発光素子、信頼性の高い有機発光素子を形成する成膜方法、及び成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る有機発光素子は、発光層と、電子注入層と、正孔注入層と、電子輸送層と、正孔輸送層とを具備する。
上記発光層は、陰極層と陽極層との間に設けられる。
上記電子注入層は、上記陰極層と上記発光層との間に設けられる。
上記正孔注入層は、上記陽極層と上記発光層との間に設けられる。
上記電子輸送層は、上記電子注入層と上記発光層との間に設けられる。
上記正孔輸送層は、上記正孔注入層と上記発光層との間に設けられる。
上記陰極層は、透明導電層で構成される。上記電子注入層は、銀、アルミニウム、銅、金、及び白金の少なくとも1つを含む第1成分と、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ土類金属のフッ化物、及びランタノイドの少なくとも1つを含む第2成分とを含有する。
上記電子注入層においては、上記透明導電層の側において上記第1成分の濃度が上記第2成分の濃度に比べて相対的に高い。
【0009】
このような有機発光素子であれば、電子注入層が陰極層の成膜によって劣化しにくく、より信頼性の高い有機発光素子が提供される。
【0010】
上記有機発光素子においては、上記電子注入層においては、上記電子輸送層の側において上記第2成分の濃度が上記第1成分の濃度に比べて相対的に高く、上記電子輸送層の側から上記陰極層の側に向かって、上記第2成分の濃度に対する上記第1成分の濃度が徐々に増加してもよい。
【0011】
このような有機発光素子であれば、電子注入層が陰極層の成膜によって劣化しにくく、より信頼性の高い有機発光素子が提供される。
【0012】
また、上記電子注入層と上記陰極層との間に、上記第1成分で構成された金属層が設けられてもよい。
【0013】
このような有機発光素子であれば、電子注入層が陰極層の成膜によって劣化しにくく、より信頼性の高い有機発光素子が提供される。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る成膜方法は、有機発光素子に含まれる電子輸送層に対して電子注入層を成膜する成膜方法である。
成膜源として、銀、アルミニウム、銅、金、及び白金の少なくとも1つを含む第1成膜源と、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ土類金属のフッ化物、及びランタノイドの少なくとも1つを含む第2成膜源とが準備される。
上記成膜源と上記電子輸送層とを第1方向に対向させて、上記第1方向と交差する第2方向に上記電子輸送層と上記成膜源とを相対移動させながら上記第1成膜源の成分と上記第2成膜源の成分とを上記電子注入層を成膜する際、上記第1方向において上記第1成膜源よりも先に上記第2成膜源と上記電子輸送層とが重なるように上記第1成膜源と上記第2成膜源とを上記第2方向に並べて成膜が実行される。
【0015】
このような成膜方法であれば、電子注入層が陰極層の成膜によって劣化しにくく、より信頼性の高い有機発光素子が形成される。
【0016】
上記成膜方法においては、上記成膜をスパッタリング成膜によって実行してもよい。
【0017】
このような成膜方法であれば、スパッタリング法によって電子注入層が陰極層の成膜によって劣化しにくく、より信頼性の高い有機発光素子が形成される。
【0018】
上記成膜方法においては、上記成膜を実行して上記電子輸送層に対し上記電子注入層を成膜した後、上記電子注入層に対して陰極層としての透明導電層を形成してもよい。
【0019】
このような成膜方法であれば、陰極層の成膜によって劣化しにくい電子注入層と、透明性の高い陰極層とを兼ね備えた有機発光素子が形成される。
【0020】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る成膜装置は、基板ホルダと、成膜源と、移動機構とを具備する。
上記基板ホルダは、有機発光素子に含まれる電子輸送層が成膜源に向けて露出される基板を支持することができる。
上記成膜源は、上記基板ホルダに第1方向において対向し、銀、アルミニウム、銅、金、及び白金の少なくとも1つを含む第1成膜源と、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ土類金属のフッ化物、及びランタノイドの少なくとも1つを含む第2成膜源とを有する。
上記移動機構は、上記第1方向と交差する第2方向において、上記基板と上記成膜源とを相対移動させる。
上記電子輸送層と上記成膜源とを相対移動させる際、上記第1方向において上記第1成膜源よりも先に上記第2成膜源と上記基板とが重なるように上記第1成膜源と上記第2成膜源とが上記第2方向に並設されている。
【0021】
このような成膜装置であれば、電子注入層が陰極層の成膜によって劣化しにくく、より信頼性の高い有機発光素子が形成される。
【0022】
上記の成膜装置においては、上記第1成膜源と上記第2成膜源との間に、上記第1方向に延在する仕切板が設けられてもよい。
【0023】
このような成膜装置であれば、第1成膜源から放出するスパッタリング粒子は、第2成膜源のターゲット表面に付着しにくく、第2成膜源から放出するスパッタリング粒子は、第1成膜源のターゲット表面に付着しにくくなり、安定な放電が継続する、
【発明の効果】
【0024】
以上述べたように、本発明によれば、より信頼性の高い有機発光素子、信頼性の高い有機発光素子を形成する成膜方法、及び成膜装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】図(a)は、本実施形態の有機発光素子を示す模式的断面図である。図(b)は、有機発光素子の電子注入層に含まれる成分の濃度分布を示すグラフである。
【
図2】本実施形態の成膜方法が実行される成膜装置の要部の模式的断面図である。
【
図3】本実施形態の成膜方法を示す模式的断面図である。
【
図4】図(a)は、本実施形態の変形例1に係る有機発光素子を示す模式的断面図である。図(b)は、変形例1に係る、陰極層と電子輸送層との間の層に含まれる成分の濃度分布を示すグラフである。
【
図5】図(a)は、本実施形態の変形例2に係る有機発光素子を示す模式的断面図である。図(b)は、変形例2に係る、陰極層と電子輸送層との間の層に含まれる成分の濃度分布を示すグラフである。
【
図6】陰極層を銀膜にスパッタリング成膜する際のプラズマ中の酸素の入射エネルギーと、酸素が銀膜に侵入する深さとの関係の一例を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。また、同一の部材または同一の機能を有する部材には同一の符号を付す場合があり、その部材を説明した後には適宜説明を省略する場合がある。また、以下に示す数値は例示であり、この例に限らない。
【0027】
図1(a)は、本実施形態の有機発光素子を示す模式的断面図である。
図1(a)には、一例として、トップエミッション方式の有機発光素子1の要部が示されている。
図1(b)は、有機発光素子の電子注入層に含まれる成分の濃度分布を示すグラフである。
【0028】
有機発光素子1は、発光層(EML)10と、電子輸送層(ETL)21と、正孔輸送層(HTL)22と、電子注入層(EIL)31と、正孔注入層(HIL)32と、陰極層41と、陽極層42とを具備する。有機発光素子1においては、陽極層42から陰極層41に向かって正孔注入層32、正孔輸送層22、発光層10、電子輸送層21、及び電子注入層31の順で積層されている。
【0029】
発光層10は、陰極層41と陽極層42との間に設けられている。電子注入層31は、陰極層41と発光層10との間に設けられている。正孔注入層32は、陽極層42と発光層10との間に設けられている。電子輸送層21は、電子注入層31と発光層10との間に設けられている。正孔輸送層22は、正孔注入層32と発光層10との間に設けられている。
【0030】
有機発光素子1において、陰極層41から発光層10で発光した光が取り出される。陰極層41の反対側、すなわち、陽極層42の下には、有機発光素子1を支持する支持基板(不図示)が配置されている。基板には、薄膜トランジスタ、配線等の回路、層間絶縁層等が配置されている(いずれも不図示)。支持基板は、可撓性基板でもよく、可撓性のない板状基板でもよい。
【0031】
陰極層41は、透明導電層で構成される。透明導電層の材料としては、例えば、透明導電性酸化物(TCO: Transparent Conductive Oxide)が適用される。例えば、透明導電層の材料として、ITO(In2O3-SnO2)、IZO(In2O3-ZnO)、ITO-IZO等があげられる。
【0032】
電子注入層31は、銀及びアルミニウムの少なくとも1つを含む第1成分と、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ土類金属のフッ化物、及びランタノイドの少なくとも1つを含む第2成分とを含有する。第1成分は、銀及びアルミニウムの少なくとも1つに限らず、銀、アルミニウム、銅、金、及び白金の少なくとも1つを含んでもよい。例えば、電子注入層31は、Ag及びAlの少なくとも1つと、LiF、CsF、NaF、Ca、Ba、Ybの少なくとも1つと、を含む。電子注入層31の厚みは、光透過を高めるために、極薄に構成されており、例えば、5nm以上10nm以下である。例えば、第2成分の濃度よりも第1成分の濃度が上回る深さの位置(第2成分の濃度勾配ラインと第1成分の濃度勾配ラインとの交点)から界面Bまでの距離は、少なくとも2.0nmである。
【0033】
陽極層42と陰極層41とに電圧が印加されると、正孔注入層32から正孔輸送層22に正孔が注入され、電子注入層31から電子輸送層21に電子が注入される。続いて、正孔輸送層22を移動した正孔と、電子輸送層21を移動した電子とが発光層10で再結合し、発光層10で光が生成される。発光層10で生成された光は、発光層10から陽極層42及び陰極層41のそれぞれの側に放出される。
【0034】
有機発光素子1は、トップエミッション型であり、正孔注入層32、正孔輸送層22、発光層10、電子輸送層21、電子注入層31、及び陰極層41は、発光光に対する光透過率が高く構成されている。また、陽極層42は、発光光を反射するように構成されている。これにより、発光層10から直接陰極層41に向かう発光光と陽極層42によって跳ね返された発光光とが合成し、有機発光素子1内の発光光が陰極層41を透過して、有機発光素子1の外部に放出される。特に、陰極層41は、極薄の金属膜でなく、透明導電性酸化物で構成されているため、有機発光素子1においては、陰極層41が高い光透過率を有している。
【0035】
ここで、陰極層41の下地である電子注入層31においては、透明導電層(陰極層41)の側において、第1成分の濃度(原子%)が第2成分の濃度(原子%)に比べて相対的に高くなっている。
【0036】
例えば、
図1(b)には、電子輸送層21と電子注入層31との界面Aから電子注入層31と陰極層41との界面Bまでの第1成分の濃度と第2成分の濃度との関係が示されている。
図1(b)に示すように、電子注入層31においては、電子輸送層21の側において第2成分の濃度が第1成分の濃度に比べて相対的に高くなり、陰極層41の側において第1成分の濃度が第2成分の濃度に比べて相対的に高くなっている。例えば、電子輸送層21の側から陰極層41の側に向かって、第2成分の濃度に対する第1成分の濃度が徐々に増加している。例えば、第1成分の元素(例えば、Ag元素)は、電子注入層31で第2成分と固溶している。
【0037】
なお、
図1(b)には、深さに対する、第1成分の濃度または第2成分の濃度として、一次の線形関数が示されているが、第2成分の濃度に対する第1成分の濃度は、電子輸送層21の側から陰極層41の側に向かって、n次の線形関数で増加してもよく、段階的に増加してもよい。
【0038】
このような濃度分布を有する電子注入層31の製造方法について説明する。
図2は、本実施形態の成膜方法が実行される成膜装置の要部の模式的断面図である。
図2には、有機発光素子1に含まれる電子輸送層21に対して電子注入層31を成膜する成膜装置100が示されている。
図2においては、成膜時に、成膜源60と、基板91または基板ホルダ90とが対向する方向をZ軸方向(第1方向)としている。また、基板91と成膜源60とを相対移動する方向をY軸方向(第2方向)とする。第1方向と第2方向とは交差(例えば、直交)する。
【0039】
成膜装置100は、基板ホルダ90と、成膜源60と、移動機構70と、防着板95とを具備する。基板ホルダ90は、基板91を支持可能とする。基板91の成膜面には、有機発光素子1の発光層10、電子輸送層21、正孔輸送層22、正孔注入層32、及び陽極層42が既に形成された積層体50が設けられている。
【0040】
成膜時、基板91は成膜源60に対し防着板95によって遮蔽されず、防着板95がY軸方向において途切れた開口96で露出する。基板91においては、有機発光素子1に含まれる電子輸送層21が成膜源60に向けて露出されている。電子輸送層21は、マスクパターン(不図示)から露出されてもよい。
【0041】
成膜源60は、第1成膜源61と、第2成膜源62とを有する。例えば、第1成膜源61は、銀、アルミニウム、銅、金、及び白金の少なくとも1つを含むスパッタリングターゲットである。第2成膜源62は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ土類金属のフッ化物、及びランタノイドの少なくとも1つを含むスパッタリングターゲットである。
【0042】
第1成膜源61及び第2成膜源62のそれぞれのスパッタリングターゲットは、プレーナ型ターゲットである。第1成膜源61及び第2成膜源62は、Z軸方向及びY軸方向に交差(例えば、直交)するX軸方向に延在する。すなわち、スパッタリングターゲットは、X軸方向に長手方向を有している。スパッタリングターゲットにおいては、基板91と対向する面がスパッタリング面とされる。
【0043】
また、スパッタリング面とは反対側のスパッタリングターゲットのそれぞれの背後には、マグネット機構67が設けられている。これにより、成膜装置100においては、マグネトロンスパッタリング成膜が可能になる。マグネット機構67は、スパッタリングターゲットの背後においてY軸方向に揺動する。第1成膜源61及び第2成膜源62のそれぞれには、図示しない電源から独立して放電電力が供給される。
【0044】
成膜装置100では、基板91に形成された電子輸送層21と成膜源60とが相対移動する際、Z軸方向において第1成膜源61よりも先に第2成膜源62と基板91とが重なるように、第1成膜源61と第2成膜源62とがY軸方向に並設されている。第1成膜源61と第2成膜源62との間には、Z軸方向に延在する仕切板65が設けられている。仕切板65は、X軸方向にも延在する。仕切板65は、X軸方向に長手方向を有している。
【0045】
移動機構70は、Z軸方向と交差するY軸方向(第2方向)において、基板91と成膜源60とを相対移動させる。例えば、移動機構70は、Z軸方向と直交するY軸方向において、基板91と成膜源60とを相対移動させる。例えば、基板ホルダ90及び防着板95が固定され、成膜源60が走査方向に移動する。なお、成膜源60が開口96の下で固定されて、基板ホルダ90及び基板ホルダ90がY軸方向に移動してもよい。
【0046】
図3(a)~
図3(c)は、本実施形態の成膜方法を示す模式的断面図である。
【0047】
有機発光素子1に含まれる電子輸送層21に対して電子注入層31の成膜を試みる場合、例えば、2元成膜源によるスパッタリグ成膜が実行される。例えば、成膜源60として、第1成膜源61と、第2成膜源62とが準備される。なお、スパッタリグ成膜での成膜源60の走査は、片道1回とする。基板91は、例えば、1.5m~3.0m(Y軸方向)、1.5m~3.5m(X軸方向)の大型基板である。基板91が成膜源60と対向する最表面には、電子輸送層21が形成されている。
【0048】
本実施形態の成膜方法では、成膜源60と電子輸送層21とをZ軸方向に対向させて、第1成膜源61と第2成膜源62との双方に放電電力が供給される。そして、Y軸方向に電子輸送層21と成膜源60とを相対移動させながら、第1成膜源61の成分と第2成膜源62の成分とが電子輸送層21に成膜される。
【0049】
例えば、
図3(a)に示すように、成膜源60においては、成膜源60を走査方向に移動させた場合、Z軸方向において第1成膜源61よりも先に第2成膜源62と電子輸送層21とが重なるように第1成膜源61と第2成膜源62とが並べられている。
【0050】
これにより、基板91上の任意の位置P1では、成膜当初に第2成膜源62から放出されるスパッタリング粒子62sが優先的に電子輸送層21に堆積する。また、成膜の中期では、
図3(b)に示すように、第2成膜源62から放出されるスパッタリング粒子62sと第1成膜源61から放出されるスパッタリング粒子61sとが電子輸送層21に堆積する。そして、成膜後期では、
図3(c)に示すように、第1成膜源61から放出されるスパッタリング粒子61sが電子輸送層21に優先的に成膜される。この結果、
図1(b)に示す濃度分布を持った電子注入層31が電子輸送層21上に形成される。
【0051】
放電ガスとしては、Arガスが用いられる。放電電力は、第1成膜源61:0.5W/cm2~10W/cm2、第2成膜源62:0.5W/cm2~10W/cm2である。放電電力は、DC電力でもよく、パルスDC電力でもよく、AC電力(RF、VHF等)でもよい。成膜圧力は、0.2Pa~3.0Paである。基板と成膜源との距離(T/S)は、9cm~30cmである。ターゲット長(ターゲットのX軸方向の長さ)は、180cm~350cmである。走査速度は、200cm/分~1000cm/分である。第1成膜源61または第2成膜源62による基板91上の成膜速度は、10nm/秒~100nm/秒である。成膜温度は、25℃~80℃である。成膜速度は、第1成膜源61及び第2成膜源62において同じ成膜速度に設定されてもよく、異なる成膜速度に設定されてもよい。
【0052】
電子注入層31の成膜が実行され、電子輸送層21に対して電子注入層31が成膜された後には、電子注入層31に対して陰極層41としての透明導電層が形成される。透明導電層の成膜条件を以下に示す。これにより、有機発光素子1が形成される。以下に示される成膜条件は、一例であり、成膜装置の構成によって適宜変更される。
【0053】
成膜源:ITO-IZOターゲット
放電電力:0.5W/cm2~5.0W/cm2(DC放電)
放電ガス:Ar/O2
成膜圧力:0.2Pa~3.0Pa
成膜温度:25℃~80℃
【0054】
有機発光素子1においては、電子輸送層21と電子注入層31との界面での電子に対するエネルギー障壁を下げるために、電子注入層31の材料として、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ土類金属のフッ化物、及びランタノイドの少なくとも1つを含む材料(第2成分)が用いられる。また、有機発光素子1においては、陰極層41から放出される発光光の光透過を高めるために、陰極層41として透明導電層を用いている。
【0055】
但し、アルカリ金属等の第2成分は、微量の酸素、水等によって酸化されやすい。このため、透明導電層の材料を含むスパッタリングターゲットを用いて電子注入層31に透明導電層を成膜すると、成膜時に成膜雰囲気に含まれる酸素、あるいは、真空槽に残存する微量の水によって、電子注入層31が劣化するおそれがある。
【0056】
これに対し、本実施形態では、透明導電層の下地となる電子注入層31が
図1(b)に示す濃度分布を有する。このため、電子注入層31に透明導電層を成膜する際、電子注入層31が酸素、水が晒されたとしても、第1成分であるAgまたはAlが酸素、水のバリアとなって電子注入層31の劣化が抑制される。
【0057】
また、本実施形態では、坩堝を利用する蒸着法ではなく、スパッタリング法によって電子注入層31が形成される。これにより、成膜時に電子注入層31は、坩堝からの熱輻射の影響を受けにくくなる。例えば、成膜時に電子注入層31が坩堝からの熱輻射の影響を受けると、電子輸送層21上で第1成分のマイグレーションが促進されて、電子注入層31で第1成分がシンタリングによって局部的に粒子となるおそれがある。
【0058】
本実施形態では、坩堝を利用する蒸着法ではなく、スパッタリング法によって電子注入層31を形成する。このため、成膜時に電子注入層31は成膜源からの熱輻射の影響を受けにくく、電子輸送層21上で第1成分のマイグレーションが抑制される。この結果、電子注入層31内では、第1成分が局部的に粒子となりにくく、第1成分と第2成分とが固溶しあう。
【0059】
この結果、有機発光素子1は、光透過性に優れた陰極層41と、電子注入層31に対し陰極層41(透明導電層)の成膜を試みても劣化が起きない電子注入層31とを兼ね備えることになり、有機発光素子の信頼性が向上する。
【0060】
また、本実施形態では、第1成膜源61と第2成膜源62とが仕切板65によって仕切られている。このため、成膜中、第1成膜源61から放出するスパッタリング粒子61sは、第2成膜源62のターゲット表面に付着しにくく、第2成膜源62から放出するスパッタリング粒子62sは、第1成膜源61のターゲット表面に付着しにくい。
【0061】
これにより、成膜中には、第1成膜源61及び第2成膜源62のそれぞれのターゲット表面でプラズマ放電が安定し、時間毎における第1成膜源61及び第2成膜源62のそれぞれのスパッタリング粒子の放出量が安定する。
【0062】
(変形例1)
図4(a)は、本実施形態の変形例1に係る有機発光素子を示す模式的断面図である。
図4(b)は、変形例1に係る、陰極層と電子輸送層との間の層に含まれる成分の濃度分布を示すグラフである。
【0063】
有機発光素子2においては、電子注入層31と陰極層41との間に、第1成分で構成された金属層35が設けられている。金属層35は、例えば、スパッタリング法によって形成される。金属層35の厚みは、少なくとも2.0nmであり、2.0nm~10nmに設定される。金属層35は、スパッタリング法によって形成されるため、蒸着法で形成した場合に比べて、粒子状になりにくく、均一な層となって電子注入層31と陰極層41との間に形成される。
【0064】
例えば、有機発光素子2は、
図3(a)~
図3(c)に例示される成膜方法で電子注入層31が形成された後、第1成膜源61のみに放電電力を投入して、第1成膜源61をさらに1回走査することで形成される。
【0065】
このような有機発光素子2であれば、陰極層41を形成する際、電子注入層31が金属層35によって覆われているため、電子注入層31がより劣化しにくくなる。この結果、有機発光素子2の信頼性はさらに向上する。
【0066】
(変形例2)
図5(a)は、本実施形態の変形例2に係る有機発光素子を示す模式的断面図である。
図5(b)は、変形例2に係る、陰極層と電子輸送層との間の層に含まれる成分の濃度分布を示すグラフである。
【0067】
有機発光素子3においては、電子注入層31と陰極層41との間に、第1成分で構成された金属層35が設けられている。さらに、電子注入層は、第2成分で構成された電子注入層310としている。金属層35の厚みは、少なくとも2.0nmであり、2.0nm~10nmに設定される。
【0068】
例えば、有機発光素子3は、第2成膜源62のみに放電電力を投入して、第2成膜源62の走査をした後、第1成膜源61のみに放電電力を投入して、第1成膜源61をさらに1回走査することで形成される。
【0069】
このような構成であっても、陰極層41を形成する際、電子注入層310が金属層35によって覆われているため、電子注入層310がより劣化しにくくなる。この結果、有機発光素子3の信頼性はさらに向上する。
【0070】
図6は、陰極層を銀膜またはアルミニウム膜にスパッタリング成膜する際のプラズマ中の酸素の入射エネルギーと、酸素が銀膜またはアルミニウム膜に侵入する深さとの関係の一例を示すグラフ図である。横軸は、酸素の入射エネルギー(eV)であり、縦軸は、酸素が銀膜またはアルミニウム膜に侵入する深さである。グラフ中、Agは、銀膜の場合を意味し、Alは、アルミニウム膜の場合を意味する。
【0071】
図6に示すように、酸素の入射エネルギーが横軸において最大となる600eVで、酸素が銀膜に1.4nm侵入することが判明している。換言すれば、この程度の入射エネルギーであれば、酸素は銀膜に対して1.4nm以上は侵入しないことなる。すなわち、陰極層41の下地に、Ag等を含む層が少なくとも1.4nm以上存在していれば、電子注入層が酸素によって劣化されにくいことが分かった。
【0072】
また、酸素の入射エネルギーが横軸において最大となる600eVで、酸素がAl膜に2.0nm侵入することが判明している。換言すれば、この程度の入射エネルギーであれば、酸素はAl膜に対して2.0nm以上は侵入しないことなる。すなわち、陰極層41の下地に、Al等を含む層が少なくとも2.0nm以上存在していれば、電子注入層が酸素によって劣化されにくいことが分かった。
【0073】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合することができる。
【符号の説明】
【0074】
1、2、3…有機発光素子
10…発光層
21…電子輸送層
22…正孔輸送層
31、310…電子注入層
32…正孔注入層
35…金属層
41…陰極層
42…陽極層
50…積層体
60…成膜源
61…第1成膜源
62…第2成膜源
61s、62s…スパッタリング粒子
65…仕切板
67…マグネット機構
70…移動機構
90…基板ホルダ
91…基板
95…防着板
96…開口
100…成膜装置