IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 山陽特殊製鋼株式会社の特許一覧

特開2022-177530磁気記録媒体の密着膜層用CrTi系合金、スパッタリングターゲット材及び垂直磁気記録媒体
<>
  • 特開-磁気記録媒体の密着膜層用CrTi系合金、スパッタリングターゲット材及び垂直磁気記録媒体 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177530
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】磁気記録媒体の密着膜層用CrTi系合金、スパッタリングターゲット材及び垂直磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/738 20060101AFI20221124BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20221124BHJP
   C22C 14/00 20060101ALI20221124BHJP
   C22C 27/06 20060101ALI20221124BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
G11B5/738
C23C14/34 A
C22C14/00 Z
C22C27/06
G11B5/84 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021083860
(22)【出願日】2021-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】越智 亮介
(72)【発明者】
【氏名】相川 芳和
【テーマコード(参考)】
4K029
5D006
5D112
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029AA24
4K029BA21
4K029BB10
4K029BD11
4K029CA05
4K029DC04
4K029DC07
4K029DC34
4K029DC39
5D006CA01
5D006CA05
5D006DA03
5D006EA03
5D006FA09
5D112AA03
5D112BD04
5D112FA04
5D112FB06
(57)【要約】
【課題】スパッタリング時にパーティクルの発生が少ないターゲット材が得られる、磁気記録媒体の密着膜層用CrTi系合金の提供。
【解決手段】このCrTi系合金は、Cr、Mo及びWからなる群から、Crを含んで選択される2種以上の元素Aと、Ti、Ta及びZrからなる群から、Tiを含んで選択される1種以上である元素Bと、により、組成式A(100-X)として表される。Mo及びWの合計がY(at%)であり、Ta及びZrの合計がZ(at%)であるとき、40≦X≦70、10≦Y≦(X/2)及び0≦Z≦20を満たす。このCrTi系合金の金属組織において、Mo及び/又はWの濃度が70mass%以上である領域の面積率は5%未満である。このCrTi系合金は、磁気記録媒体の密着膜層を得るためのターゲット材の材質として用いられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cr、Mo及びWからなる群から、Crを含んで選択される2種以上の元素Aと、Ti、Ta及びZrからなる群から、Tiを含んで選択される1種以上である元素Bと、により、組成式A(100-X)として表され、
上記Mo及びWの合計がY(at%)であり、上記Ta及びZrの合計がZ(at%)であるとき、下記式を満たし、
40≦X≦70 (1)
10≦Y≦(X/2) (2)
0≦Z≦20 (3)
その金属組織において、Mo及び/又はWの濃度が70mass%以上である領域の面積率が5%未満である、磁気記録媒体の密着膜層用CrTi系合金。
【請求項2】
その材質が、請求項1に記載のCrTi系合金である、磁気記録媒体の密着膜層用スパッタリングターゲット材。
【請求項3】
密着膜層を有しており、
上記密着膜層の材質が、請求項1に記載のCrTi系合金である、垂直磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CrTi系合金に関する。詳細には、本発明は、磁気記録媒体の密着膜層用CrTi系合金に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録技術の進歩により、ドライブの大容量化が求められている。大容量の達成には、磁気記録媒体の高記録密度化が必要である。従来、高記録密度用として、面内磁気記録方式が採用された媒体が、普及している。近年は、この媒体に代えて、垂直磁気記録方式が採用された媒体(垂直磁気記録媒体)が実用化されている。垂直磁気記録媒体では、磁化容易軸は、磁性膜中の媒体面に対して垂直方向に配向する。この垂直磁気記録媒体は、高記録密度に適している。
【0003】
垂直磁気記録方式では、ガラス基板上に軟磁性裏打ち層及び垂直磁気記録層を積層した構成の二層垂直磁気記録媒体と、単磁極型ヘッドとの組み合わせが高記録密度を実現する上で有効である。しかし、軟磁性裏打ち層は、膜厚数十nm~数百nmと厚いため、その表面平坦性が低下して、垂直磁気記録層の形成及びヘッドの浮上性に悪影響を及ぼす可能性がある。また、軟磁性裏打ち層の膜応力が大きいため、ガラス基板との密着性が低下するという問題があった。
【0004】
特開2006-114162号公報(特許文献1)には、軟磁性下地層の磁気特性や表面平坦性を改善し、基板との密着性を高めるために、基板と軟磁性下地層との間に、非晶質構造の合金からなる密着層を形成する技術が開示されている。密着層をなす合金には、密着層の表面の平坦性を確保するためにアモルファス(非晶質)であることに加えて、基板と軟磁性下地層との密着性が良いことが求められる。
【0005】
特開2008-10088号公報(特許文献2)には、基板と軟磁性裏打ち層の間に、Cr、Ti、Taの少なくとも1種を含有する合金からなる非晶質の密着層を有する垂直磁気記録媒体が開示されている。特開2010-92567号公報(特許文献3)では、密着層が、Cr等の金属元素とホウ素との共晶点近傍の組成を有する金属ホウ化物である、垂直磁気記録媒体が提案されている。特許5964121号(特許文献4)では、Cr等を含む合金の高い固有抵抗に起因するスパッタプロセス中の問題発生を回避する技術として、原子比における組成式が(Cr,Mo,W)X(Ti,Ta,Zr)100-X、40≦X≦70で表される、密着膜層用CrTi系合金が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-114162号公報
【特許文献2】特開2008-10088号公報
【特許文献3】特開2010-92567号公報
【特許文献4】特許5964121号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献4で提案されたCrTi系合金によれば、Crの一部をMo及びWに置換し、かつ、Tiの一部をZr及びTaに置換することにより、電気伝導度が向上して、スパッタプロセス中のパーティクルの発生が抑制され、かつ、膜厚の薄い密着層を形成できるとされている。しかしながら、本発明者らの知見によれば、特許文献4で提案されたCrTi系合金を材質とするターゲット材を使用した場合も、依然として、パーティクルの個数は多いレベルであるという課題があった。
【0008】
本発明の目的は、スパッタプロセス中の問題発生が少ないターゲット材が得られる、磁気記録媒体の密着膜層用CrTi系合金の提供である。本発明の他の目的は、パーティクルが少ない密着膜層を備えた、欠陥発生の少ない垂直磁気記録媒体の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討の結果、従来提案されたCrTi系合金が純金属(純度3N以上)の原料粉末を混合してHIP成型することにより製造されていることに着目した。そして、純金属を原料粉末として得られた合金の金属組織に、高融点金属であるMo又はWを高濃度に含む領域が形成されていることを見出した。そして、このMo又はWを高濃度で含む領域のスパッタリングレートが他の領域と大きく異なることに起因して、スパッタプロセス中にMo又はWの剥離が生じていることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明に係る磁気記録媒体の密着膜層用CrTi系合金は、Cr、Mo及びWからなる群から、Crを含んで選択される2種以上の元素Aと、Ti、Ta及びZrからなる群から、Tiを含んで選択される1種以上である元素Bと、により、組成式A(100-X)として表される合金である。この合金は、Mo及びWの合計がY(at%)であり、Ta及びZrの合計がZ(at%)であるとき、下記式を満たす。
40≦X≦70 (1)
10≦Y≦(X/2) (2)
0≦Z≦20 (3)
この合金の金属組織において、Mo及び/又はWの濃度が70mass%以上である領域の面積率は5%未満である。
【0011】
他の観点によれば、本発明に係る磁気記録媒体の密着膜層用スパッタリングターゲット材の材質は、CrTi系合金である。このCrTi系合金は、Cr、Mo及びWからなる群から、Crを含んで選択される2種以上の元素Aと、Ti、Ta及びZrからなる群から、Tiを含んで選択される1種以上である元素Bと、により、組成式A(100-X)として表される合金である。この合金は、Mo及びWの合計がY(at%)であり、Ta及びZrの合計がZ(at%)であるとき、下記式を満たす。
40≦X≦70 (1)
10≦Y≦(X/2) (2)
0≦Z≦20 (3)
この合金の金属組織において、Mo及び/又はWの濃度が70mass%以上である領域の面積率は5%未満である。
【0012】
さらに他の観点によれば、本発明に係る垂直磁気記録媒体は、密着膜層を有している。この密着膜層の材質はCrTi系合金である。このCrTi系合金は、Cr、Mo及びWからなる群から、Crを含んで選択される2種以上の元素Aと、Ti、Ta及びZrからなる群から、Tiを含んで選択される1種以上である元素Bと、により、組成式A(100-X)として表される合金である。この合金は、Mo及びWの合計がY(at%)であり、Ta及びZrの合計がZ(at%)であるとき、下記式を満たす。
40≦X≦70 (1)
10≦Y≦(X/2) (2)
0≦Z≦20 (3)
この合金の金属組織において、Mo及び/又はWの濃度が70mass%以上である領域の面積率は5%未満である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るCrTi系合金は、高い電気伝導度を有するアモルファス合金であり、かつ、この合金の金属組織では、スパッタリング中のパーティクル発生要因となるMo又はWの高濃度領域が低減されている。このCrTi系合金によれば、パーティクル発生が少なく、かつ、膜厚の薄い密着層を形成できるターゲット材が得られうる。このCrTi系合金により、欠陥発生の少ない垂直磁気記録媒体が得られうる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るCrTi系合金の金属組織が示された画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。なお、本願明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。
【0016】
[CrTi系合金]
本発明に係るCrTi系合金は、磁気記録媒体の密着膜層用を得るためのスパッタリングターゲット材の材質として適している。このCrTi系合金の基材は、Cr及びTiである。このCrTi系合金から形成される密着膜層では、元素Crによりガラス基板と軟磁性裏打ち膜との密着性が向上する。
【0017】
[組成式A(100-X)
本発明に係るCrTi系合金の組成は、原子比による組成式A(100-X)で表される。この組成式中、Aは、Cr、Mo及びWからなる群から、Crを含んで選択される2種以上の元素を示しており、Bは、Ti、Ta及びZrからなる群から、Tiを含んで選択される1種以上である元素を示している。換言すれば、このCrTi系合金では、Crの一部が、高融点金属であるMo及び/又はWに置換されている。CrとMo及び/又はWとの置換により、CrTi系合金の電気伝導性が向上する。このCrTi系合金では、Tiの一部が、高融点金属であるTa及び/又はZrに置換されてもよい。TiとTa及び/又はZrとの置換により、CrTi系合金の電気伝導度がさらに向上する。Cr、Mo及びWからなる群から、Crを含んで選択される2種以上の元素Aと、Ti、Ta及びZrからなる群から、Tiを含んで選択される1種以上である元素Bとの適正なバランスにより、密着膜層に必要な高いアモルファス性が得られる。本発明の効果が阻害されない範囲で、このCrTi系合金が、不可避的不純物としてさらに他の元素を含んでもよい。
【0018】
[Cr、Mo及びWの合計含有率]
この組成式A(100-X)において、Xは、Cr、Mo及びWの合計含有率(at%)を意味する。本発明に係るCrTi系合金では、この合金含有率Xは、下記式(1)を満たす。
40≦X≦70 (1)
【0019】
本発明にかかるCrTi系合金におけるCr、Mo及びWの合計含有率Xは、この合金のアモルファス性に影響する。Xが式(1)を満たすことにより、密着膜層として必要なアモルファス性が得られる。この観点から、Xは、45at%以上65at%以下が好ましい。電気伝導度向上の観点から、Crの一部が、Mo及びWに置換されていることが好ましく、Tiの一部がTa及びZrに置換されていることがより好ましい。
【0020】
[Mo及びWの合計含有率]
本発明にかかるCrTi系合金では、Mo及びWの合計がY(at%)であるとき、Yは下記式(2)を満たす。
10≦Y≦(X/2) (2)
【0021】
式(2)中、XはCr、Mo及びWの合計含有率(at%)である。元素Mo及びWは、周期律表で同族である元素Crと近い特性を示し、かつCrより電気伝導度が高い。基材元素であるCrの一部をMo及び/又はWと置換することで、高い電気伝導性が得られる。この観点から、Yは、少なくとも10at%であり、15at%以上が好ましい。基材元素であるCrの含有量が適正であり、良好な密着性が得られるとの観点から、Yの上限値は、(X/2)at%以下とした。
【0022】
[Ta及びZrの合計含有率]
本発明に係るCrTi系合金では、Ta及びZrの合計がZ(at%)であるとき、Zは下記式(3)を満たす。
0≦Z≦20 (3)
【0023】
元素Ta及びZrは、周期律表で同族である元素Tiと近い特性を示し、かつ、Tiより電気伝導度が高い。よって、基材元素であるTiの一部をZr及び/又はTaと置換することで、高い電気伝導性が得られる。この観点から、Zは5at%以上が好ましい。Ta及び/又はZrの添加が20at%を超えると、電気伝導性向上効果が飽和することから、Zの上限値を20at%とした。
【0024】
[Mo及び/又はWの濃度が70mass%以上である領域の面積率]
本発明に係るCrTi系合金の金属組織において、Mo及び/又はWの濃度が70mass%以上である領域(以下、高濃度領域と称する場合がある)の面積率は、5%以下である。
【0025】
Mo及びWは高融点金属である。本発明者らは、鋭意検討の結果、電気伝導性向上のためにMo及び/又はWを含むCrTi系合金をターゲット材の材質として用いる場合、Mo及び/又はWを70mass%以上という高濃度で含む領域のスパッタリングレートが、他の領域と大きく異なることを見出した。そして、このスパッタリングレートの差に起因して生じるMo及び/又はWの剥離が、パーティクル発生頻度の増加をもたらす要因であると推測された。よって、パーティクル低減の観点から、高濃度領域の面積率は少ないほど好ましく、4%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましく、2%以下がよりさらに好ましく、1%以下が特に好ましく、理想的には0である。
【0026】
本明細書において、この高濃度領域の面積率は、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いた画像解析により測定される。図1は、本発明の一実施形態に係るCrTi系合金のEPMA測定により得られた金属元素Wのマッピング画像である。図1の右欄に示された濃度を有する領域が色調及び濃淡により示されている。図1中、Wを70mass%以上含む領域は存在しない。
【0027】
[CrTi系合金及びCrTi系合金からなるターゲット材の製造方法]
本発明において、Mo及び/又はWの濃度が70mass%以上である領域の面積率が5%以下であるCrTi系合金及びターゲット材の製造方法は、特に限定されない。例えば、金属組織におけるMo及び/又はWの集積を抑制するために、極めて粒度の小さい純金属の微粉末を原料粉末として、所定の組成で混合してHIP成型する方法であってもよい。また、予め、Mo及び/又はWを他の元素と合金化した合金粉末を原料粉末に使用することにより、高濃度領域の形成を抑制する方法であってもよい。高濃度領域の面積率が5%以下のCrTi系合金が得られやすいとの観点から、原料粉末として合金粉末を使用する方法が好ましい。Mo及び/又はWを含む合金粉末を得る方法としては、メカニカルアロイング法、プラズマアトマイズ法、EB溶解粉砕法等を用いることができる。
【0028】
合金粉末には、必要に応じ、分級がなされる。分級後の合金粉末は、炭素鋼製の缶に充填される。この缶が真空脱気され、封止されてビレットが得られる。このビレットに、HIP成形(熱間等方圧プレス)が施され、この成形体に加工が施されることにより、ターゲット材が得られる。
【0029】
[垂直磁気記録媒体]
本発明に係る垂直磁気記録媒体は、その材質がCrTi系合金であるターゲット材を用いたスパッタリングにより形成された密着膜層を有している。この密着膜層の材質は、スパッタリングに用いたターゲット材と同じ構成を有するCrTi系合金である。このCrTi系合金は、Cr、Mo及びWからなる群から、Crを含んで選択される2種以上の元素Aと、Ti、Ta及びZrからなる群から、Tiを含んで選択される1種以上である元素Bと、により、組成式A(100-X)として表されるCrTi系合金である。このCrTi系合金は、Mo及びWの合計がY(at%)であり、Ta及びZrの合計がZ(at%)であるとき、下記式を満たす。
40≦X≦70 (1)
10≦Y≦(X/2) (2)
0≦Z≦20 (3)
このCrTi系合金の金属組織において、Mo及び/又はWの濃度が70mass%以上である領域の面積率は5%未満である。
【0030】
このCrTi系合金からなるターゲット材を用いたスパッタリグでは、Mo及び/又はWの高濃度領域に起因するパーティクルの発生が顕著に低減される。このターゲット材のスパッタリングにより、膜厚が薄くかつパーティクルが少ない密着膜層が形成される。この密着膜層を有する垂直磁気記録媒体は、パーティクルに起因する欠陥発生が極めてすくない。
【実施例0031】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0032】
ガスアトマイズ法、水アトマイズ法及びディスクアトマイズ法によって作製された合金粉末を使用してターゲット材を成形すると、硬くて脆い組織となってしまい、スパッタリングターゲットとして使用中に割れが生じるリスクがある。そのため、本発明では、割れのリスクを低減するために、下表1に示される組成となるように原料粉末を混合して、混合粉末を得た。混合には、V型混合機を使用した。なお、実施例No.1-12及び比較例No.13-16では、Mo及びWの原料粉末として、メカニカルアロイング法によって合金化した原料粉末を使用した。比較例No.17-22では、原料粉末として、純金属(純度3N以上)を使用した。
【0033】
次に、得られた混合粉末を、直径が200mmであり、長さが10mmであり、材質が炭素鋼である缶に充填した。この粉末に真空脱気を施したのち、HIP成型(熱間等方圧プレス)にてビレットを作製した。
HIPの条件は、以下の通りである。
温度:1050℃
圧力:120MPa
保持時間:2時間
得られたビレットから、ワイヤーカット、旋盤加工及び平面研磨により、円盤状に加工することによりスパッタリングターゲット材を得た。
【0034】
[組織観察]
実施例No.1-12及び比較例No.13-22のターゲット材から、それぞれ試験片を採取して、各試験片の断面を研磨した。その断面を、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いて観察した。縦2mm、横2mmの視野で得られた画像を解析して、Mo又はWの濃度が70mass%以上である領域の面積を測定し、全視野面積に対する比率を求めた。5視野測定して得られた平均値が「高濃度領域の面積率(%)」として、下表1及び2に示されている。
【0035】
[パーティクル評価]
実施例No.1-12及び比較例No.13-22のターゲット材を用いて、DCマグネトロンスパッタにて、スパッタリングをおこなった。スパッタリング条件は、以下の通りである。
基板:アルミ基板(直径95mm、厚み1.75mm)
チャンバー内雰囲気:アルゴンガス
チャンバー内圧:圧力0.9Pa
【0036】
スパッタリング後、光学測定器(Optical Surface Analyzer)にて、直径95mmのアルミ基板上に付着した直径0.1μm以上のパーティクルを計数した。評価結果が「パーティクル数(個)」として下表1及び2に示されている。パーティクル数10個以下が好ましい。
【0037】
[アモルファス性]
前述のスパッタリングで得られた単層膜から試験片を採取して、X線回折測定をおこなうことによりアモルファス性を評価した。評価結果が、下表1及び2に示されている。表中、非晶質の場合が「○」、非晶質中に一部微結晶が見られる場合が「×」として示されている。
【0038】
[電気伝導度]
前述のスパッタリングで得られた単層膜から試験片を採取して、4端子法により固有抵抗を測定した。得られた固有抵抗の逆数を電気伝導度として求めた。比較例No.13について得られた電気伝導度を1として、下記基準により評価した結果が下表1及び2に示されている。比較例No.15及び16はアモルファス性が得られなかったため、電気伝導度の評価をおこなわなかった。
「◎」:1.5以上
「○」:1.3~1.5未満
「△」:1.1~1.3未満
「×」:1.0~1.1未満
「-」:アモルファス性不良のため、不実施
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
表1に示すように、実施例No.1~12は、電気伝導度及びアモルファス性に優れたCrTi系合金であり、その金属組織において、Mo及び/又はWの濃度が70mass%以上である面積率が5%未満であるため、スパッタリング時のパーティクル発生数が少ない。このCrTi系合金によれば、パーティクルが少なく、かつ、膜厚の薄い密着層を形成できるターゲット材が得られる。さらに、このCrTi系合金によれば、欠陥発生の少ない垂直磁気記録媒体が得られる。
【0042】
これに対し、表2に示される通り、比較例No.13~22は、電気伝導度、アモルファス性及びパーティクル数のいずれかの評価が低い。具体的には、比較例No.13は高融点金属であるMo、W、Ta及びZrを含んでいないため、電気伝導性が悪い。比較例No.14は、Wの含有量が少ないために電気伝導性が悪い。比較例No.15は、Cr、Mo及びWの合計含有量が70%以上と高く、Ti含有量が低いために、アモルファス性が悪い。比較例No.16は、Cr、Mo及びWの合計含有量が35%と低く、かつWの含有量が少ないために、アモルファス性が悪い。比較例No.17~22は、その金属組織において、Mo又はWの濃度が70mass%以上である領域の面積率が5%以上であるため、スパッタリング時のパーティクルの発生数が多くなっている。
【0043】
表1及び2に示されるように、実施例のCrTi系合金は、比較例に比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上説明されたCrTi系合金は、種々の磁気記録媒体の密着膜層に適している。
図1