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2022-177699希土類鉄窒素系磁性粉末、ボンド磁石用コンパウンド、ボンド磁石及び希土類鉄窒素系磁性粉末の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177699
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】希土類鉄窒素系磁性粉末、ボンド磁石用コンパウンド、ボンド磁石及び希土類鉄窒素系磁性粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/16 20220101AFI20221124BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20221124BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20221124BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20221124BHJP
   H01F 1/059 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
B22F1/02 E
B22F1/00 Y
B22F3/00 C
C22C38/00 303D
H01F1/059 160
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084126
(22)【出願日】2021-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】杉本 諭
(72)【発明者】
【氏名】松浦 昌志
(72)【発明者】
【氏名】石川 尚
(72)【発明者】
【氏名】米山 幸伸
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
【Fターム(参考)】
4K018AB01
4K018AC01
4K018BA13
4K018BB04
4K018BC01
4K018BC12
4K018BC28
4K018BD01
4K018KA46
5E040AA03
5E040CA01
5E040NN01
5E040NN06
5E040NN12
5E040NN15
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐熱性及び磁気特性に優れる希土類鉄窒素系磁性粉末及びその製造方法、ボンド磁石用コンパウンド並びにボンド磁石を提供する。
【解決手段】希土類鉄窒素系磁性粉末は、その平均粒径が1.0μm以上10.0μm以下であり、且つ希土類元素(R)を22.0質量%以上30.0質量%以下、窒素(N)を2.5質量%以上4.0質量%以下の量で含み、前記磁性粉末は、ThZn17型、ThNi17型及びTbCu型のいずれかの結晶構造を有するコア部と、前記コア部の表面に設けられる厚さ1nm以上30nm以下のシェル層と、を備え、前記シェル層は、希土類元素(R)及び鉄(Fe)をR/Fe原子比で0.3以上5.0以下となるように含み、さらに窒素(N)を0原子%超10原子%以下の量で含み、前記磁性粉末は、希土類元素(R)及び燐(P)から構成される化合物粒子を含み、且つ残留磁化σrが90Am/kg以上である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素(R)、鉄(Fe)及び窒素(N)を主構成成分として含む希土類鉄窒素系磁性粉末であって、
前記磁性粉末は、その平均粒径が1.0μm以上10.0μm以下であり、且つ希土類元素(R)を22.0質量%以上30.0質量%以下、窒素(N)を2.5質量%以上4.0質量%以下の量で含み、
前記磁性粉末は、ThZn17型、ThNi17型及びTbCu型のいずれかの結晶構造を有するコア部と、前記コア部の表面に設けられる厚さ1nm以上30nm以下のシェル層と、を備え、
前記シェル層は、希土類元素(R)及び鉄(Fe)をR/Fe原子比で0.3以上5.0以下となるように含み、さらに窒素(N)を0原子%超10原子%以下の量で含み、
前記磁性粉末は、希土類元素(R)及び燐(P)から構成される化合物粒子を含み、且つ残留磁化σrが90Am/kg以上である、磁性粉末。
【請求項2】
前記シェル層が、外層と内層とからなる二層構造から構成され、
前記外層が、希土類元素(R)、鉄(Fe)及び窒素(N)に加えて、酸素(O)とカルシウム(Ca)とを含み、
前記内層が、希土類元素(R)、鉄(Fe)及び窒素(N)に加えて、酸素(O)を含むがカルシウム(Ca)を含まない、請求項1に記載の磁性粉末。
【請求項3】
前記シェル層が、外層と内層とからなる二層構造から構成され、
前記外層のR/Fe原子比(A)及び前記内層のR/Fe原子比(B)が、B<Aを満足する、請求項2に記載の磁性粉末。
【請求項4】
前記希土類元素(R)としてサマリウム(Sm)を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の磁性粉末。
【請求項5】
前記磁性粉末の最表面にさらに燐酸系化合物被膜を備える、請求項1~4のいずれか一項に記載の磁性粉末。
【請求項6】
アルゴン(Ar)雰囲気下300℃で1時間加熱したとき、加熱前の保磁力(H)に対する加熱後の保磁力(Hc,300)の比率である維持率(Hc,300/H)が70%以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の磁性粉末。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の磁性粉末と樹脂バインダーとを含む、ボンド磁石用コンパウンド。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の磁性粉末と樹脂バインダーとを含む、ボンド磁石。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の希土類鉄窒素系磁性粉末の製造方法であって、以下の工程;
ThZn17型、ThNi17型、TbCu型のいずれかの結晶構造を有する希土類鉄合金粉末と希土類酸化物粉末とを準備する準備工程と、
前記希土類鉄合金粉末100質量部に前記希土類酸化物粉末1~20質量部を混合して、粒径15.0μm以下の希土類鉄合金粉末と粒径2.0μm以下の希土類酸化物粉末とを含む原料混合物にする混合工程と、
前記原料混合物に含まれる酸素成分を還元するのに必要な当量に対して1.1~10.0倍の量の還元剤を前記原料混合物に添加及び混合し、さらに還元剤を添加した前記原料混合物を非酸化性雰囲気中730~1050℃の範囲内の温度で加熱処理して還元拡散反応生成物にする還元拡散処理工程と、
前記還元拡散反応生成物を、その温度が300℃を超えないように水素ガス雰囲気中に曝すことで前記還元拡散反応生成物に水素を吸収させ、それにより前記還元拡散反応生成物に解砕処理を施す解砕処理工程と、
解砕処理を施した前記還元拡散反応生成物を窒素及び/又はアンモニアを含むガス気流中300~500℃の範囲内の温度で窒化熱処理して窒化反応生成物にする窒化熱処理工程と、を含み、
前記準備工程及び混合工程のいずれか一方又は両方の工程で、希土類鉄合金粉末に燐酸系化合物被膜を形成する、方法。
【請求項10】
前記混合工程の際に、希土類鉄合金粉末及び希土類酸化物粉末を、燐酸系表面処理剤を含む粉砕溶媒中で混合及び粉砕して、前記希土類鉄合金粉末に燐酸系化合物被膜を形成する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記還元拡散反応生成物及び/又は窒化反応生成物を水及び/又はグリコールを含む洗浄液中に投入して崩壊させ、それにより生成物中の還元剤由来成分を低減させる湿式処理を施す工程をさらに含む、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記窒化熱処理後の生成物の表面に燐酸系化合物被膜を形成する工程をさらに含む、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記原料混合物の加熱減量が1質量%未満である、請求項9~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記拡散反応生成物とする際の加熱処理を0~10時間行う、請求項9~13のいずれか一項に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類鉄窒素系磁性粉末、ボンド磁石用コンパウンド、ボンド磁石及び希土類鉄窒素系磁性粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類鉄窒素系のThZn17型、ThNi17型、TbCu型結晶構造を有するRFe17(Rは希土類元素)窒化化合物は、その多くがニュークリエーション型の保磁力発生機構を有し、優れた磁気特性を有する磁性材料として知られている。なかでも希土類元素(R)がサマリウム(Sm)であるx=3のSmFe17を主相化合物とする磁性粉末は、高性能の永久磁石用磁性粉末である。そしてこの磁性粉末を含み、さらにポリアミド12やエチレンエチルアクリレートなどの熱可塑性樹脂、あるいはエポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂をバインダーとして含むボンド磁石は、多方面で応用されている。
【0003】
SmFe17に代表される希土類鉄窒素系磁性粉末の製法として、溶解法と還元拡散法が従来から知られている。溶解法では希土類金属を原料に用い、これを鉄などの金属とともに溶解及び反応させて磁性粉末を作製する。これに対して還元拡散法では希土類酸化物を原料に用い、これを還元させると同時に鉄などの金属と反応させて磁性粉末にする。安価な希土類酸化物を用いることができるため、還元拡散法は望ましい手法と考えられている。
【0004】
ところで、希土類鉄窒素系磁性粉末は、耐熱性(耐酸化性)が悪いという欠点がある。粉末の耐熱性が悪いと、ボンド磁石製造時の混錬・成形工程での加熱により、磁気特性が低下する。またボンド磁石は、使用時に100℃以上の高温に曝されることがあり、そのような使用時に磁気特性が低下する。そこでこれらの問題を解決するために、希土類鉄窒素系磁性粉末において、鉄(Fe)の一部を他の元素で置換する、微粉割合を低減する、あるいは粉末表面に耐酸化性被膜を形成する、といった手法で、粉末の耐熱性を改善することが提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1、非特許文献1及び非特許文献2には、溶解法や還元拡散法で作製した希土類鉄窒素系磁性粉末において、鉄(Fe)の一部をマンガン(Mn)で置換して、耐熱性及び耐酸化性を改善することが提案されている。すなわち特許文献1には、一般式Rα-Fe(100-α-β-γ)Mnβγ(但し、3≦α≦20、0.5≦β≦25、17≦γ≦25)で表され、平均粒径10μm以上であることを特徴とする磁性材料に関して、Sm、Fe及びMnを高周波溶解炉で溶解混合して合金を調整し、この合金をアンモニア混合気流中で加熱処理してSm-Fe-Mn-N系粉体を調整する旨、優れた耐酸化性能と温度特性を有している旨が記載されている(特許文献1の請求項1、[0048]~[0050]及び[0070])。また非特許文献1や非特許文献2には、還元拡散法により製造された磁石粉末に関して、Feの一部をMnで置換したSm(Fe,Mn)17(x>4)磁石粉末はSmFe17磁石粉末に比べて優れた耐熱性を示す旨が記載されている(非特許文献1の第881頁)。
【0006】
また特許文献2には希土類金属(R)と遷移金属(TM)を含む母合金を粉砕する工程(a)、粉砕された母合金粉末に希土類酸化物粉末と還元剤とを混合し、不活性ガス中加熱処理する工程(b)、得られた反応生成物を脆化・粉砕する工程(c)、得られた反応生成物粉末を窒化し磁石合金粉末を得る工程(d)、および得られた磁石合金粉末を水洗する工程(e)を含む希土類-遷移金属-窒素系磁石合金粉末の製造方法が開示され、該磁石合金粉末は、1μm未満の微粒子が極めて少ないため大気中での取り扱いが容易となり、耐熱性および耐候性に優れた磁石材料となる旨が記載されている(特許文献2の請求項1及び[0025])。
【0007】
さらに特許文献3には燐酸を含む有機溶剤中で希土類-鉄-窒素系磁石粗粉末を粉砕する工程を含む、ボンド磁石用希土類-鉄-窒素系磁石粉末の製造方法に関して、磁石の耐候性を高めるために、燐酸中に磁石粉末を入れて処理し、表面に燐酸塩皮膜を形成する旨が記載されている(特許文献3の請求項1及び[0002])。また特許文献4には表面被覆金属層を有する異方性希土類合金系磁性粉末と樹脂からなる希土類ボンド磁石に関して、還元拡散法によって製作したSm-Fe-N合金磁性粉末をZn蒸気中処理して表面に0.05ミクロンのZn被覆層をもつ磁性粉末を得た旨、180℃程度以上の高温長時間減磁を抑制でき、従来にない高性能・耐熱性のボンド磁石ができる旨が記載されている(特許文献4の請求項1、[0068]及び[0071])。
【0008】
特許文献5には還元拡散反応法による希土類-遷移金属合金粉末の製造に関して、加熱処理後の還元生成物に水素処理を施すこと、水素処理された還元生成物は大気中にさらされるだけで自然崩壊が進行するので、水洗分離工程における時間短縮を図るとともに、さらなる粉砕を省略することが可能になることが記載されている(特許文献5の請求項1及び[0011])。特許文献6には還元拡散法による希土類-遷移金属合金粉末の製造に関して、還元拡散反応生成物を密閉容器に装入して水素処理すること、水素処理の際に大気圧よりも0.01~0.11MPa高い圧力として合金を自己発熱させ、その後、合金が実質的に発熱しなくなるまで大気圧より高くなるように加圧を続けることが記載されている(特許文献6の請求項1及び3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平08-055712号公報
【特許文献2】特開2005-272986号公報
【特許文献3】特許第5071160号公報
【特許文献4】特開2003-168602号公報
【特許文献5】特開平11-124605号公報
【特許文献6】特開2005-008950号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】電気学会論文誌A、124(2004)881
【非特許文献2】Proc. 12th Int. Workshop on RE Magnets and their Applications、Canberra、(1992)218
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一般家電製品、通信・音響機器、医療機器、一般産業機器等に至る幅広い分野において、磁石粉末に樹脂バインダーを混合して成形される希土類元素を含む鉄系ボンド磁石の需要は拡大している。またボンド磁石の材料の保管や輸送、製品の使用条件も厳しくなってきている。そのため耐熱性がより一層優れ、保磁力などの特性の高いボンド磁石用磁性粉が必要とされている。
【0012】
しかしながら従来から提案されている技術では十分とは言えない。例えば鉄(Fe)の一部をマンガン(Mn)で置換する特許文献1、非特許文献1及び非特許文献2の手法は、磁性粉末の耐熱性が改善されるものの、磁化が低下してしまう問題がある。実際、特許文献1にはMn量3.5原子%である磁性材料(実施例1)はその飽和磁化が84emu/gであるのに対し、Mn量を10.3原子%に増量した磁性材料(実施例4)は飽和磁化が72emu/gまで低下することが示されている(特許文献1の[0069]表1)。また非特許文献1にはSm(Fe,Mn)17N化合物において、Mn量が増加するのに伴って、キュリー温度Tと最大磁化σが単調に低下する旨が記載されている(非特許文献1の第885頁)。さらに特許文献2~4に開示される微粉割合を低減する手法や粉末表面に耐酸化性被膜を形成する手法は、一定の効果があるものの耐熱性の点で改善の余地があった。
【0013】
本発明者らは、ニュークリエーション型の保磁力発生機構をもつ希土類鉄窒素(RFe17)系磁性粉末における上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、RFe17化合物相を内部の主たる体積部(コア部)として備え、さらにRFe17よりも希土類(R)リッチな相を粒子表面層(シェル層)として備えるコアシェル構造を形成することで、高い耐熱性と磁気特性が両立された磁性粉末になるとの知見を得た。
【0014】
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、耐熱性及び磁気特性に優れる希土類鉄窒素系磁性粉末及びその製造方法の提供を課題とする。また本発明は希土類鉄窒素系磁性粉末を含むボンド磁石用コンパウンド及びボンド磁石の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は下記(1)~(14)の態様を包含する。なお、本明細書において「~」なる表現は、その両端の数値を含む。例えば、「a~b」は「a以上b以下」と同義である。
【0016】
(1)希土類元素(R)、鉄(Fe)及び窒素(N)を主構成成分として含む希土類鉄窒素系磁性粉末であって、
前記磁性粉末は、その平均粒径が1.0μm以上10.0μm以下であり、且つ希土類元素(R)を22.0質量%以上30.0質量%以下、窒素(N)を2.5質量%以上4.0質量%以下の量で含み、
前記磁性粉末は、ThZn17型、ThNi17型及びTbCu型のいずれかの結晶構造を有するコア部と、前記コア部の表面に設けられる厚さ1nm以上30nm以下のシェル層と、を備え、
前記シェル層は、希土類元素(R)及び鉄(Fe)をR/Fe原子比で0.3以上5.0以下となるように含み、さらに窒素(N)を0原子%超10原子%以下の量で含み、
前記磁性粉末は、希土類元素(R)及び燐(P)から構成される化合物粒子を含み、且つ残留磁化σrが90Am/kg以上である、磁性粉末。
【0017】
(2)前記シェル層が、外層と内層とからなる二層構造から構成され、
前記外層が、希土類元素(R)、鉄(Fe)及び窒素(N)に加えて、酸素(O)とカルシウム(Ca)とを含み、
前記内層が、希土類元素(R)、鉄(Fe)及び窒素(N)に加えて、酸素(O)を含むがカルシウム(Ca)を含まない、上記(1)の磁性粉末。
【0018】
(3)前記シェル層が、外層と内層とからなる二層構造から構成され、
前記外層のR/Fe原子比(A)及び前記内層のR/Fe原子比(B)が、B<Aを満足する、上記(2)の磁性粉末。
【0019】
(4)前記希土類元素(R)としてサマリウム(Sm)を含む、上記(1)~(3)のいずれかの磁性粉末。
【0020】
(5)前記磁性粉末の最表面にさらに燐酸系化合物被膜を備える、上記(1)~(4)のいずれかの磁性粉末。
【0021】
(6)アルゴン(Ar)雰囲気下300℃で1時間加熱したとき、加熱前の保磁力(H)に対する加熱後の保磁力(Hc,300)の比率である維持率(Hc,300/H)が70%以上である、上記(1)~(5)のいずれかの磁性粉末。
【0022】
(7)上記(1)~(6)のいずれかの磁性粉末と樹脂バインダーとを含む、ボンド磁石用コンパウンド。
【0023】
(8)上記(1)~(6)のいずれかの磁性粉末と樹脂バインダーとを含む、ボンド磁石。
【0024】
(9)上記(1)~(6)のいずれかの希土類鉄窒素系磁性粉末の製造方法であって、以下の工程;
ThZn17型、ThNi17型、TbCu型のいずれかの結晶構造を有する希土類鉄合金粉末と希土類酸化物粉末とを準備する準備工程と、
前記希土類鉄合金粉末100質量部に前記希土類酸化物粉末1~20質量部を混合して、粒径15.0μm以下の希土類鉄合金粉末と粒径2.0μm以下の希土類酸化物粉末とを含む原料混合物にする混合工程と、
前記原料混合物に含まれる酸素成分を還元するのに必要な当量に対して1.1~10.0倍の量の還元剤を前記原料混合物に添加及び混合し、さらに還元剤を添加した前記原料混合物を非酸化性雰囲気中730~1050℃の範囲内の温度で加熱処理して還元拡散反応生成物にする還元拡散処理工程と、
前記還元拡散反応生成物を、その温度が300℃を超えないように水素ガス雰囲気中に曝すことで前記還元拡散反応生成物に水素を吸収させ、それにより前記還元拡散反応生成物に解砕処理を施す解砕処理工程と、
解砕処理を施した前記還元拡散反応生成物を窒素及び/又はアンモニアを含むガス気流中300~500℃の範囲内の温度で窒化熱処理して窒化反応生成物にする窒化熱処理工程と、を含み、
前記準備工程及び混合工程のいずれか一方又は両方の工程で、希土類鉄合金粉末に燐酸系化合物被膜を形成する、方法。
【0025】
(10)前記混合工程の際に、希土類鉄合金粉末及び希土類酸化物粉末を、燐酸系表面処理剤を含む粉砕溶媒中で混合及び粉砕して、前記希土類鉄合金粉末に燐酸系化合物被膜を形成する、上記(9)の方法。
【0026】
(11)前記還元拡散反応生成物及び/又は窒化反応生成物を水及び/又はグリコールを含む洗浄液中に投入して崩壊させ、それにより生成物中の還元剤由来成分を低減させる湿式処理を施す工程をさらに含む、上記(9)又は(10)の方法。
【0027】
(12)前記窒化熱処理後の生成物の表面に燐酸系化合物被膜を形成する工程をさらに含む、上記(9)~(11)のいずれかの方法。
【0028】
(13)前記原料混合物の加熱減量が1質量%未満である、上記(9)~(12)のいずれかの方法。
【0029】
(14)前記拡散反応生成物とする際の加熱処理を0~10時間行う、上記(9)~(13)のいずれかの方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、耐熱性及び磁気特性に優れる希土類鉄窒素系磁性粉末及びその製造方法が提供される。また本発明によれば希土類鉄窒素系磁性粉末を含むボンド磁石用コンパウンド及びボンド磁石が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】磁性粉末の断面模式図の一例を示す。
図2】磁性粉末のSEM二次電子像を示す。
図3】磁性粉末のHAADF-TEM像を示す。
図4】磁性粉末のEDS面分析結果のライン抽出図を示す。
図5】磁性粉末のXRDパターンを示す。
図6】磁性粉末のSEM反射電子像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0033】
≪希土類鉄窒素系磁性粉末≫
本実施形態の希土類鉄窒素系磁性粉末(以下、「磁性粉末」と総称する場合がある)は、希土類元素(R)、鉄(Fe)及び窒素(N)を主構成成分として含む。この磁性粉末は、その平均粒径が1.0μm以上10.0μm以下であり、且つ希土類元素(R)を22.0質量%以上30.0質量%以下、窒素(N)を2.5質量%以上4.0質量%以下の量で含む。この磁性粉末は、ThZn17型、ThNi17型及びTbCu型のいずれかの結晶構造を有するコア部と、このコア部の表面に設けられる厚さ1nm以上30nm以下のシェル層と、を備える。このシェル層は、希土類元素(R)及び鉄(Fe)をR/Fe原子比で0.3以上5.0以下となるように含み、さらに窒素(N)を0原子%超10原子%以下の量で含む。さらにこの磁性粉末は、希土類元素(R)及び燐(P)から構成される化合物粒子を含む。そしてこの磁性粉末は、残留磁化σrが90Am/kg以上である。
【0034】
希土類元素(R)は、特に限定されるものではないが、ランタン(La)、セリウム(Ce)、サマリウム(Sm)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素が含まれるものが好ましい。あるいは、さらにジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)及びイッテルビウム(Yb)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素が含まれるものが好ましい。なかでもサマリウム(Sm)及び/又はネオジム(Nd)が含まれるものは、本実施形態の効果を顕著に発揮させるため特に好ましい。ボンド磁石に応用される場合には、その50原子%以上がサマリウム(Sm)であることが望ましく、また高周波磁性材料に応用される場合にはその50原子%以上がネオジウム(Nd)であることが望ましい。
【0035】
磁性粉末は、希土類元素(R)、鉄(Fe)及び窒素(N)以外の他の成分を含んでいてもよい。例えばコバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)を含んでもよい。しかしながらニッケル(Ni)、マンガン(Mn)やクロム(Cr)は磁化を低下させる恐れがあるため、その含有量はなるべく少ないことが好ましい。希土類元素(R)、鉄(Fe)及び窒素(N)以外の他の成分を含む場合には、その含有量は10原子%以下が好ましく、5原子%以下がより好ましく、1原子%以下がさらに好ましい。ただしコバルト(Co)は20原子%以下であればよい。磁性粉末が、希土類元素(R)、鉄(Fe)及び窒素(N)を含み、残部不可避不純物であってもよい。
【0036】
本実施形態の磁性粉末は、その平均粒径が1.0μm以上10.0μm以下である。平均粒径1.0μm未満では、磁性粉末の取扱いが困難となる。また粒子全体に占めるコア部の体積比率が小さくなってしまう。コア部は磁気特性が高いため、その体積比率が小さくなると、磁性粉末の磁気特性が高くなり難くなってしまう。平均粒径は2.0μm以上であってよく、3.0μm以上であってもよい。一方で、平均粒径が10μmより大きくなると、磁性材料として十分高い保磁力(H)を得にくい。平均粒径は9.0μm以下であってよく、8.0μm以下であってもよい。
【0037】
本実施形態の磁性粉末は、希土類元素(R)を22.0質量%以上30.0質量%以下の量で含む。磁性粉末全体の組成で、希土類元素(R)量が22質量%未満では保磁力が低下する。一方で30質量%を超えると磁化の低いシェル層が厚くなり、また希土類元素(R)及び燐(P)から構成される化合物粒子(RP化合物粒子)やRFe窒化物相が増加する。そのため残留磁化(σ)が低下する。希土類(R)量は24.0質量%以上29.0質量%以下が好ましく、25.0質量%以上28.0質量%以下がより好ましい。
【0038】
また本実施形態の磁性粉末は、窒素(N)を2.5質量%以上4.0質量%以下の量で含む。窒素(N)量が2.5質量%未満では十分に窒化されていない粒子が形成されてしまう。そのような粒子は飽和磁化と磁気異方性が小さい。そのため磁性粉末の残留磁化と保磁力が低下する。一方で窒素(N)量が4.0質量%を超えると過剰に窒化された粒子が増加して残留磁化と保磁力が低下する。窒素(N)量は2.8質量%以上3.6質量%以下が好ましく、2.9質量%以上3.4質量%以下がより好ましい。
【0039】
さらに本実施形態の磁性粉末は、ThZn17型、ThNi17型及びTbCu型のいずれかの結晶構造を有するコア部を備える。このような結晶構造を有するコア部を備えることで、優れた磁気特性を有する磁性粉末とすることが可能になる。コア部の結晶構造は、通常の粉末X線回折で求められるピーク位置から判断することができる。この場合には、シェル層も含めて測定されるが、シェル層の厚みはコア部に比べて十分に薄い。そのためシェル層の影響はX線回折パターンにはほとんど見られない。
【0040】
本実施形態の磁性粉末は、コア部の表面に設けられるシェル層を備える。このシェル層は、厚さ1nm以上30nm以下であり、希土類元素(R)及び鉄(Fe)をR/Fe原子比で0.3以上5.0以下となるように含み、さらに窒素(N)を0原子%超10原子%以下の量で含む。平均粒径1~10μmの粒子(コア部)の表面部にこのようなシェル層を存在させることで、耐熱性と磁気特性を両立させることができる。ここで形成されるシェル層は、RFe17相より希土類に富むR相、RFe相、RFe相、あるいはこれらの窒化物になっていると推測される。R/Feが0.3未満ではシェル層の組成がコア部に近くなってしまい、耐熱性向上が期待できない。一方でR/Feが5.0を超えると残留磁化が低下する場合がある。R/Feは0.5以上3.0以下が好ましい。シェル層の厚み1nm未満では耐熱性改善の効果が小さく、30nmを超えると残留磁化が低下する。厚みは3nm以上20nm以下が好ましい。またシェル層が窒素を含まないと、磁性粉末の残留磁化、保磁力及び耐熱性が低下する恐れがある。一方でシェル層の窒素量が10原子%を超えても、磁性粉末の残留磁化、保磁力、耐熱性が低下する。
【0041】
本実施形態の磁性粉末は、希土類元素(R)及び燐(P)から構成される化合物粒子(RP化合物粒子)を含む。ここでRP化合物粒子は、燐化サマリウム(SmP)相などの燐化希土類相を含む。RP化合物は、保磁力や耐熱性劣化をもたらすRFe相やRFe相の生成を抑制する働きがある。そのため磁性粉末にRP化合物粒子を含ませることで、保磁力や耐熱性劣化を抑制することが可能になる。RP化合物粒子の量は特に限定されない。しかしながら劣化抑制の観点から、磁性粉末中のRP化合物粒子の量は0.01質量%以上であってよく、0.1質量%以上であってよく、1.0質量%以上であってよい。一方で、RP化合物粒子が過度に多いと残留磁化が低下する恐れがある。RP化合物粒子の量は15.0質量%以下であってよく、10.0質量%以下であってよく、5.0質量%以下であってもよい。またRP化合物粒子の大きさは、限定されるものではないが、例えば100nm~5μm程度である。
【0042】
本実施形態の磁性粉末は、残留磁化σrが90Am/kg以上である。換言するに、この磁性粉末は異相たるα-Feの量が少ない。磁性粉末にα-Feが多量に含まれていると磁性粉末の磁気特性が劣化する。すなわち、α-Feは軟磁性であるが故に、これが多量に含まれていると磁性粉末の磁化曲線における角形性が悪化する。角形性が悪化すると、残留磁化のみならず、保磁力の維持率、すなわち耐熱性が低下する。またα-Feは逆磁区発生の核として働くためその粒子の保磁力を低下させる。本実施形態の磁性粉末はα-Fe量が少なく、それ故、残留磁化σrをはじめとする磁気特性に優れている。σrは95Am/kg以上であってよく、100Am/kg以上であってよく、105Am/kg以上であってよく、110Am/kg以上であってもよい。なお残留磁化σrは、磁性粉末を配向させた状態で測定される。具体的には後述する実施例で行う手法で測定される。
【0043】
磁性粉末は、好ましくはシェル層が外層と内層とからなる二層構造から構成される。また外層が、希土類元素(R)、鉄(Fe)及び窒素(N)に加えて、酸素(O)とカルシウム(Ca)とを含み、内層が、希土類元素(R)、Fe(Fe)及び窒素(N)に加えて、酸素(O)を含むがカルシウム(Ca)を含まないことがより好ましい。このような磁性粉末の構造を図1に基づき説明する。図1は磁性粉末の断面模式図の一例をモデル的に示す。磁性粉末(1)は、コア部(2)と、このコア部(2)の表面に設けられたシェル内層(3)と、このシェル内層(3)の表面に設けられたシェル外層(4)とから構成されている。コア部(2)はThZn17型、ThNi17型及びTbCu型のいずれかの結晶構造を有する。シェル外層(4)はカルシウム(Ca)を含むのに対し、シェル内層(3)はカルシウム(Ca)を含まない。このようにCa含有の外層とCa非含有の内層の二層構造にすることで、酸素の拡散抑制という効果が期待される。なお本明細書においてカルシウム(Ca)を含有しない(Ca非含有)とは、Ca量が1.0原子%未満のことを意味する。
【0044】
磁性粉末は、好ましくは外層のR/Fe原子比(A)及び内層のR/Fe原子比(B)が、B<Aを満足する。このように外層の組成を内層より希土類(R)リッチにすることで、Caと同様に酸素の拡散抑制という効果が期待される。
【0045】
磁性粉末は、好ましくは希土類元素(R)としてサマリウム(Sm)を含む。これにより磁性粉末をボンド磁石として好適に用いることが可能になる。
【0046】
磁性粉末は、好ましくはその最表面に更に燐酸系化合物被膜を備える。磁性粉末のシェル層の外側に公知の燐酸系化合物被膜を設けると、湿度環境下での安定性を高めることができる。燐酸系化合物被膜の厚みは、シェル層の厚みよりも薄いことが望ましい。厚さは例えば30nm以下であり、5nm以上20nm以下が好ましい。燐酸系化合物被膜の厚み30nmを超えると磁気特性が低下することがある。
【0047】
磁性粉末は、保磁力(H)が600kA/m以上であってよく、800kA/m以上であってよく、1000kA/m以上であってよく、1200kA/m以上であってよく、1400kA/m以上であってもよい。さらにこの磁性粉末は、保磁力の維持率(Hc,300/H)が70%以上であってよく、75%以上であってよく、80%以上であってよく、85%以上であってよく、90%以上であってもよい。ここで保磁力の維持率(Hc,300/H)とは、磁性粉末をアルゴン(Ar)雰囲気下300℃で1.5時間(90分間)加熱したとき、加熱前の保磁力(H)に対する加熱後の保磁力(Hc,300)の比率である。
【0048】
本実施形態の磁性粉末は、耐熱性、耐候性だけでなく、磁気特性、特に磁化及び保磁力に優れるという特徴がある。すなわちこの磁性粉末はSmFe17に代表される従来の磁性粉末に比べて高い耐熱性を有する。また鉄(Fe)の一部を他元素(Mn、Cr)で置換した高耐熱性のR(Fe、M)17磁性粉末(M=Cr、Mn)に比べて同等以上の磁気特性を有する。
【0049】
耐熱性及び磁気特性に優れる本実施形態の磁性粉末は、これを樹脂バインダーと混合してボンド磁石を作製する上で好適である。すなわち磁性粉末を用いてボンド磁石を作製する際に、磁性粉末が高温に曝されることがある。例えばポリフェニレンサルファイド樹脂や芳香族ポリアミド樹脂などの耐熱性の高い熱可塑性樹脂をバインダーとして用いてボンド磁石を作製すると、磁性粉末と樹脂バインダーとの混合混練工程や射出成形工程で、材料の曝される温度が300℃を超えることがある。本実施形態の磁性粉末は、このような高温に曝された後であっても、磁気特性の劣化が抑制される。
【0050】
≪希土類鉄窒素系磁性粉末の製造方法≫
希土類鉄窒素系磁性粉末の製造方法は、得られる磁性粉末が上述する要件を満足する限り、限定されない。しかしながら還元拡散法により製造することが好ましく、以下に説明される手法で製造することが特に好ましい。
【0051】
本実施形態の希土類鉄窒素系磁性粉末の製造方法は、以下の工程;ThZn17型、ThNi17型、TbCu型のいずれかの結晶構造を有する希土類鉄合金粉末と希土類酸化物粉末とを準備する準備工程と、この希土類鉄合金粉末100質量部に希土類酸化物粉末1~20質量部を混合して、粒径15.0μm以下の希土類鉄合金粉末と粒径2.0μm以下の希土類酸化物粉末とを含む原料混合物にする混合工程と、この原料混合物に含まれる酸素成分を還元するのに必要な当量に対して1.1~10.0倍の量の還元剤を原料混合物に添加及び混合し、さらに還元剤を添加した原料混合物を非酸化性雰囲気中730~1050℃の範囲内の温度で加熱処理して還元拡散反応生成物にする還元拡散処理工程と、この還元拡散反応生成物を、その温度が300℃を超えないように水素ガス雰囲気中に曝すことで還元拡散反応生成物に水素を吸収させ、それにより還元拡散反応生成物に解砕処理を施す解砕処理工程と、解砕処理を施した還元拡散反応生成物を窒素及び/又はアンモニアを含むガス気流中300~500℃の範囲内の温度で窒化熱処理して窒化反応生成物にする窒化熱処理工程と、を含む。また準備工程及び混合工程のいずれか一方又は両方の工程で、希土類鉄合金粉末に燐酸系化合物被膜を形成する。各工程の詳細について以下に説明する。
【0052】
<準備工程>
準備工程では、希土類鉄合金粉末と希土類酸化物粉末とを準備する。ここで希土類鉄合金粉末は、主としてコア部を形成するための原料であり、ThZn17型、ThNi17型、TbCu型のいずれかの結晶構造を有する粉末、例えばRFe17組成の粉末である。希土類鉄合金粉末は、後続する混合工程で15.0μm以下の粒径になるものを選択すればよい。すなわち粒径15.0μm以下の粉末を用いてもよく、あるいは15.0μm超の粉末を用いてもよい。15μm超の粉末を用いる場合には、混合工程で粒径15.0μm以下になるまで粉砕すればよい。なお本明細書において、合金は、複数種の金属の固溶体のみならず、金属間化合物及び混晶を含む概念である。また結晶質であってもよく、あるいは非晶質であってもよい。
【0053】
希土類鉄合金粉末(RFe17粉末等)は、公知の手法、例えば還元拡散法、溶解鋳造法、あるいは液体急冷法などの手法で作製することができる。このうち還元拡散法であれば、その原料である鉄粒子の大きさと還元拡散反応時の温度等の条件を調整することで、所望とする粒径の合金粉末を直接製造できる。あるいは、より大きな粒径の合金粉末や合金塊からなる出発物質を所望の粒径まで粉砕して製造することもできる。
【0054】
なお還元拡散法で製造した希土類鉄合金粉末は、製造条件によっては金属間化合物中に水素が含まれ、水素含有物(RFe17粉末等の水素含有希土類鉄合金粉末)になっている場合がある。この水素含有物は、希土類鉄合金(RFe17)と結晶構造が変わらないものの、格子定数が大きくなっていることがある。また溶解鋳造法や液体急冷法で製造した場合であっても、水素を吸蔵させて粉砕した合金粉末は、同様に格子定数が大きな水素含有物になっていることがある。合金粉末がこのような水素を含有している状態であっても差支えない。ただし希土類鉄合金粉末は、その含有水分量(加熱減量)が1質量%未満であることが望ましい。
【0055】
希土類酸化物粉末は、主としてシェル層を形成するための原料である。希土類酸化物粉末を構成する希土類元素(R)は、希土類鉄合金粉末を構成する希土類元素と同一であってもよく、或いは異なっていてもよい。しかしながら両者が同一であることが好ましい。また希土類酸化物粉末は、後続する混合工程で2.0μm以下の粒径になるものを選択すればよい。すなわち粒径2.0μm以下の粉末を用いてもよく、あるいは2.0μm超の粉末を用いてもよい。2.0μm超の粉末を用いる場合には、混合工程で粒径2.0μm以下になるまで粉砕すればよい。
【0056】
<混合工程>
混合工程では、準備した希土類鉄合金粉末100質量部に希土類酸化物粉末1~20質量部を混合して原料混合物とする。希土類酸化物粉末量が1質量部未満であると、後述する還元拡散処理後に希土類鉄合金粉末(RFe17粉末等)の表面にα-Feが生成し、最終的に得られる磁性粉末の保磁力が低下する。一方で、希土類酸化物粉末量が20質量部を超えると希土類鉄合金よりも希土類(R)リッチなRFeおよび/またはRFe化合物が多く生成し、最終的に得られる磁性粉末の収率が低下する。
【0057】
本実施形態の製造方法では、準備工程及び混合工程のいずれか一方又は両方の工程で、希土類鉄合金粉末に燐酸系化合物被膜を形成する。そのため混合工程で得られた混合物中の希土類鉄合金粉末は燐酸系化合物被膜を備えている。例えば、準備した希土類鉄合金粉末の粒径が15.0μm以下である場合には、予め合金粉末に燐酸系化合物被膜を形成してもよい。あるいは本混合工程で希土類鉄合金粉末に燐酸系化合物被膜を形成してもよい。いずれの場合であっても、混合工程で得られた混合物中の希土類鉄合金粉末が燐酸系化合物被膜を備えていればよい。このように燐酸系化合物被膜を設けることで、製造される磁性粉末の保磁力や耐熱性を向上させることが可能になる。すなわち後続する還元拡散反応工程で、燐酸系化合物被膜に含まれる燐(P)が余剰希土類元素(R)と反応して、希土類元素(R)及び燐(P)から構成される化合物粒子(RP化合物粒子)を析出させる。このRP化合物粒子は、磁性粉末の保磁力や耐熱性劣化をもたらす粗大なRFe相やRFe相の生成を抑制する。これに対して燐酸系化合物被膜を備えていない希土類鉄合金粉末を用いると、シェル層とは別に粗大なRFe相やRFe相が生成して、磁性粉末の保磁力や耐熱性を劣化させることがある。
【0058】
燐酸系化合物被膜を形成するには、燐酸系表面処理剤を用いて希土類鉄合金粉末に表面処理を施せばよい。燐酸系表面処理剤として、特許文献3に開示されるような公知の化合物を用いることができる。具体的には、燐酸、亜燐酸、次亜燐酸、ピロ燐酸、直鎖状ポリ燐酸、環状メタ燐酸、燐酸アンモニウム、燐酸アンモニウムマグネシウム、燐酸亜鉛系、燐酸亜鉛カルシウム系、燐酸マンガン系、燐酸鉄系などが挙げられる。燐酸は、キレート剤、中和剤と混合して処理剤としてもよい。
【0059】
表面処理は公知の手法で行えばよい。例えば準備工程で被膜を形成する場合には、燐酸系表面処理剤を含む溶液中に希土類鉄合金粉末を浸漬させて被膜を形成し、その後、固液分離して被膜形成した希土類鉄合金粉末を回収すればよい。また混合工程で被膜を形成する場合には、燐酸系表面処理剤を含む溶媒中に希土類鉄合金粉末と希土類酸化物粉末との予備混合物を浸漬させて被膜を形成してもよい。被膜形成の際に、媒体攪拌ミルなどの粉砕機を用いて、溶媒中で希土類鉄合金粉末及び/又は希土類酸化物粉末を粉砕してもよい。溶媒の種類は特に限定されない。例えば、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノールなどのアルコール類、ペンタン、ヘキサンなどの低級炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなど芳香族類、ケトン類又はそれらの混合物などの有機溶剤を使用することができる。
【0060】
燐酸系化合物被膜の形成は準備工程及び混合工程のいずれか一方又は両方の工程で行えばよい。しかしながら混合工程で行うことが好ましい。この場合には、希土類鉄合金粉末及び希土類酸化物粉末を、燐酸系表面処理剤を含む粉砕溶媒中で混合及び粉砕して、希土類鉄合金粉末に燐酸系化合物被膜を形成することが好ましい。すなわち希土類鉄合金粉末が粉砕されると、新生面が現れる。混合工程で被膜形成すれば、この工程で現れた新生面にも被膜を設けることが可能である。また原料粉末(希土類鉄合金粉末、希土類酸化物粉末)の混合、粉砕及び被膜形成を一度に行うことができ、製造コスト低減に寄与する。
【0061】
燐酸系化合物被膜の最適被覆量は、希土類鉄合金粉末の粒径や表面積に依存するため、これを一概に決めることはできない。しかしながら燐酸系表面処理剤を含む溶媒を用いて被膜形成する場合には、燐酸量を、希土類鉄合金粉末全体に対して0.1~0.5mol/kgにすることができる。
【0062】
混合工程で得られる原料混合物は、燐酸系化合物被膜を備える粒径15.0μm以下の希土類鉄合金粉末と粒径2.0μm以下の希土類酸化物粉末を含む。すなわち原料混合物に含まれる希土類鉄合金粉末と希土類酸化物粉末の最大粒径を、それぞれ15.0μm以下及び2.0μm以下にする。希土類鉄合金粉末は、磁性粉末のコアになる原料である。後続する還元拡散熱処理による粒成長、凝集及び焼結や、シェル層が形成される分を考慮すると、合金粉末は、その粒径が最大でも磁性粉末の粒径(1.0μm以上10.0μm以下)程度である。そのため原料混合粉末中の合金粉末の粒径を15.0μm以下にする。また希土類酸化物粉末は、シェル層を所望の厚みで均一に形成するために微細な粉末であることが望ましい。そのため原料混合粉末中の酸化物粉末は、その粒径を2.0μm以下とする。酸化物粉末の粒径は、1.5μm以下が好ましく、1.0μm以下がより好ましい。なお粒径は走査電子顕微鏡(SEM)で容易に確認することができる。
【0063】
混合工程では、希土類鉄合金粉末と希土類酸化物粉末との混合操作が重要である。均一なシェル層を付与するには希土類酸化物粉末の粒度をなるべく微細にするとともに均一に分散させることが望ましい。混合は乾式法及び湿式法のいずれによってもよい。乾式混合は、ヘンシェルミキサー、コンピックス、メカノハイブリッド、メカノフュージョン、ノビルタ、ハイブリダイゼーションシステム、ミラーロ、タンブラーミキサー、シータ・コンポーザ又はスパルタンミキサーなどの乾式混合機を用い、不活性ガス雰囲気中で行えばよい。湿式混合は、ビーズミル、ボールミル、ナノマイザー、湿式サイクロン、ホモジナイザー、ディゾルバー、フィルミックスなどの湿式混合機を用いて行えばよい。
【0064】
希土類鉄合金粉末と希土類酸化物粉末を混合する際に、これらを同時に微粉砕して所望の粒径にしてもよい。この場合には微粉砕時に燐酸系化合物被膜を形成してもよい。希土類酸化物粉末を加えて同時に微粉砕することで、均一な混合物を得ることができる。微粉砕は、ジェットミルなどの乾式粉砕機や、振動ミル、回転ボールミル、媒体攪拌ミルなどの湿式微粉砕機が使用可能である。湿式微粉砕では、ケトン類、へキサンなどの低級炭化水素類、トルエンなどの芳香族類、エタノールまたはイソプロピルアルコール等のアルコール類、フッ素系不活性液体類、またはこれらの混合物などの有機溶媒を粉砕媒体として用いることができる。またはオルト燐酸などの燐酸系表面処理剤を添加した有機溶媒を粉砕媒体として用いれば、微粉砕時に燐酸系化合物被膜の形成を行うことができる。このような手法をとれば、粉砕された希土類鉄合金粉末に燐酸系化合物被膜が形成されると同時に希土類酸化物粉末も微粉砕され、それらが均一に分散されるので好ましい。湿式法では微粉砕後のスラリーから有機溶媒を乾燥除去して原料混合物とすればよい。
【0065】
原料混合物は、その加熱減量が1質量%未満であることが望ましい。加熱減量は乾燥後の混合粉末の含有不純物量であり、水分を主体とする。また混合時に用いられる有機溶媒、分散助剤、あるいは取扱いプロセスの種類によっては炭素も含まれうる。加熱減量が1質量%を超えると、後続する還元拡散処理中に水蒸気や炭酸ガスが多量に発生することがある。水蒸気や炭酸ガスが多量に発生すると、これらが還元剤(Ca粒等)を酸化させて還元拡散反応を抑えてしまう。その結果、優れた磁気特性を得る上で望ましくないα-Feが最終的に得られる磁性粉末中に生成してしまう。したがって原料混合物を十分に減圧乾燥することが望ましい。これにより含まれる水分のみならず炭素が十分に除去される。なお加熱減量は、試料50gを真空中400℃で5時間加熱したときの減量αを測定することで求められる。
【0066】
<還元拡散処理工程>
還元拡散処理工程では、得られた原料混合物に還元剤を添加及び混合し、さらに還元剤を添加した原料混合物を加熱処理して還元拡散反応生成物にする。ここで還元剤の添加量は、原料混合物に含まれる酸素成分を還元するのに必要な当量に対して1.1~10.0倍の量とする。また加熱処理は非酸化性雰囲気中730~1050℃の範囲内の温度で行う。
【0067】
還元剤として、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)及びこれらの水素化物からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。このうちカルシウム(Ca)が特に有用である。還元剤は粒状の形態で供給されることが多い。粒度0.5~3.0mmの還元剤を使用することが望ましい。
【0068】
還元剤(Ca粒等)の添加量は当量に対して1.1~10.0倍である。ここで当量とは、原料混合物中の酸素成分、すなわち希土類鉄合金粉末の含有酸素と希土類酸化物粉末とを還元するのに必要な量である。添加量が1.1倍未満であると、酸化物の還元が不十分であるため、還元により生じた希土類元素(R)の拡散が進みにくくなる。一方で添加量が10倍を超えると、還元剤が過度に多量に残留するため好ましくない。多量に残留した還元剤は、希土類元素(R)の拡散に対する障害になる恐れがある。また還元剤に起因する残留物が多くなりその除去に手間がかかる。
【0069】
混合工程では、原料混合物と還元剤(Ca粒等)とを均一に混合することが望ましい。混合器としてはVブレンダー、Sブレンダー、リボンミキサ、ボールミル、ヘンシェルミキサー、メカノフュージョン、ノビルタ、ハイブリダイゼーションシステム、ミラーロなどを使用できる。均一に混合し、特に原料である希土類鉄合金粉末に希土類酸化物粉末の偏析がないように混合することが望ましい。希土類酸化物粉末が偏析すると、シェル層の厚みばらつきの原因になるからである。
【0070】
次に還元剤を添加した原料混合物を加熱処理して還元拡散反応生成物にする。この加熱処理は、例えば次のようにして行えばよい。すなわち得られた混合物を鉄製るつぼに装填し、このるつぼを反応容器に入れて電気炉に設置する。混合から電気炉への設置まで、可能な限り大気や水蒸気との接触を避けることが好ましい。混合物内に残留する大気や水蒸気を除去するため、反応容器内を真空引きしてヘリウム(He)、アルゴン(Ar)などの不活性ガスで置換することが好ましい。
【0071】
その後、反応容器内を再度真空引きするか、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)などの不活性ガスを容器内にフローしながら非酸化性雰囲気中で混合物に還元拡散処理を施す。この加熱処理は730~1050℃の範囲内の温度で行うことが重要である。730℃未満では、蒸気となった還元剤(Ca粒等)により希土類酸化物の還元は進むが、希土類鉄合金粉末(RFe17粉末等)の表面での拡散反応によるシェル層の形成が進みにくい。そのため最終的に得られる磁性粉末の耐熱性向上が望めない。一方で1050℃を超えると、磁性粉末の粒成長や凝集及び焼結が進み、残留磁化や保磁力が低下する。加熱処理温度は、好ましくは750~1000℃である。
【0072】
加熱保持時間は、最終的に得られる磁性粉末の粒成長や凝集及び焼結を抑制するように加熱温度と併せて設定すればよい。例えば設定温度で0~10時間保持する。8時間を超えると粒成長や凝集及び焼結が顕著になり、目的とする平均粒径が1μm以上10μm以下の磁性粉末を得ることが難しくなることがある。保持時間は、0~8時間であってよく、0~5時間であってよく、0~3時間であってもよい。なお保持時間が「0時間」とは、設定温度に到達後にすぐ冷却することを意味する。
【0073】
このような加熱処理により、ThZn17型、ThNi17型及びTbCu型のいずれかの結晶構造を有する希土類鉄合金を含むコア部が形成されるとともに、還元された希土類元素(R)の拡散反応によりシェル層が形成される。このシェル層は、希土類元素(R)及び鉄(Fe)をR/Fe原子比で0.3以上5.0以下となるように含み、さらに窒素(N)を原子%超10原子%以下の量で含む。また希土類鉄合金粉末には燐酸系化合物被膜が設けられているので、加熱による拡散反応中に被膜に含まれる燐(P)が余剰な希土類元素(R)と反応する。その結果、希土類元素(R)及び燐(P)から構成される化合物粒子(RP化合物粒子)が磁性粉末中に析出する。
【0074】
希土類鉄窒素系磁性粉末は、ニュークリエーション型の保磁力発生機構を有する。粒子表面にα-Feなどの軟磁性相や結晶磁気異方性を低下させる結晶欠陥などが存在すると、そこが逆磁区の発生核(ニュークリエーション)になって粒子保磁力が低下する。従来の磁性粉末の耐熱性が悪いのは、加熱によってRFe17化合物相が分解してα-FeやFe窒化物などの軟磁性相が生成し、それが逆磁区発生核になるためである。これに対して、本実施形態では、R/Fe原子比0.3以上5.0以下のシェル層を表面に形成することで、磁性粉末の耐熱性(耐酸化性)が改善する。この理由として、シェル層は、加熱による分解がRFe17化合物相より起こりにくいためと推測される。またこの効果は、加熱処理条件を例えば2段階にしたときに有利に得ることができる。
【0075】
すなわち、前記の還元拡散処理の工程において、加熱処理条件を2段階とし、前段で730~810℃の範囲内の温度で0.5~4時間保持し、後段では、さらに温度を上げて800~1000℃の範囲内の温度で3時間以内保持すればよい。この条件にすれば、希土類酸化物粉末が希土類金属に十分還元されて、RFe17希土類鉄合金がコア部になり、その表面で希土類元素(R)の拡散反応が促進されてシェル層が形成される。
【0076】
加熱処理が終了した反応生成物は、シェル層を表面に有する希土類鉄合金粒子(RFe17粉末等)、R金属、RFeおよび/またはRFe化合物、RP化合物粒子、還元剤由来成分からなる焼結体である。ここで還元剤由来成分は、副生した還元剤酸化物粒子(CaO等)及び未反応残留還元剤(Ca等)からなる。
【0077】
<解砕処理工程>
解砕処理工程では、還元拡散処理後の生成物(還元拡散反応生成物)を、その温度が300℃を超えないように水素ガス雰囲気中に曝すことで還元拡散反応生成物に水素を吸収させ、それにより還元拡散反応生成物に解砕処理を施す。このように生成物を所定条件下で水素ガス雰囲気に曝すことで、生成物に含まれるR金属、RFe及び/又はRFe化合物が水素を吸収する。その際に体積膨張が起こるため、これを利用して生成物を解砕する。解砕処理は、アルゴン、ヘリウム及び窒素などの不活性ガスを水素ガスに混合して行ってもよい。しかしながら水素ガス単独の雰囲気下で行うことが好ましい。このとき、酸素の残留を防ぐため、水素を導入する前にアルゴンなどの不活性ガスで加熱炉内の雰囲気を置換することが好ましい。またこの場合には不活性ガス置換後に炉内を一旦排気し、その後に水素ガスを導入することが好ましい。
【0078】
水素吸収処理(解砕処理)は、水素雰囲気中で還元拡散反応生成物を所定の温度、例えば50~200℃に加熱することで開始される。反応生成物は水素を吸収すると自己発熱し、この発熱により吸収がより速く進行する。吸収による自己発熱が起こる結果、反応生成物の温度は加熱温度より高くなる。しかしながら、このとき反応生成物の温度を300℃以下に維持することが重要である。反応生成物の温度が300℃を超えると、異相たるα-Feが最終生成物たる磁性粉末に残留する恐れがある。α-Feが残留すると、磁化曲線の角形性が悪化して磁性粉末の残留磁化が低下する。
【0079】
反応生成物を300℃以下の低温に維持するためには、反応生成物に対する水素分圧を下げて徐々に水素を吸収させればよい。水素分圧を下げるためには、例えば、供給する水素量を抑制する、または水素ガスと不活性ガスとの混合ガスを用いる、といった手法が挙げられる。供給する水素量を抑制することで水素吸収処理(解砕処理)を大気圧未満の負圧下で行うのが好ましい。これにより反応生成物を低温に維持することが容易となる。この点、特許文献5及び6に開示される製法では、水素吸収処理を大気圧下または加圧下で行っている。しかしながら、水素吸収処理を大気圧以上の雰囲気下で行うと、水素吸収が過度に速く進行する恐れがある。そのため反応生成物の温度が300℃を超える高温になり、その結果、磁性粉末中にα-Feが残留することがある。実際、本発明者らが調べたところ、反応生成物の温度が300℃を超えた場合には最終的に得られる磁性粉末の残留磁化が低かった。この磁性粉末のXRDプロファイルにα-Feが認められたことから、残留磁化の低下は生成したα-Feによるものと思われる。
【0080】
<窒化熱処理工程>
窒化熱処理工程では、還元拡散処理後又は解砕処理後の生成物(還元拡散反応生成物)を窒素及び/又はアンモニアを含むガスの気流中で窒化熱処理して窒化反応生成物にする。窒化熱処理は公知の手法で行えばよく、例えば窒素(N)ガス雰囲気、窒素(N)ガスと水素(H)ガスの混合雰囲気、アンモニア(NH)ガス雰囲気、アンモニア(NH)ガスと水素(H)ガスの混合雰囲気、アンモニア(NH)ガスと窒素(N)ガスの混合ガス雰囲気、アンモニア(NH)ガスと窒素(N)ガスと水素(H)ガスの混合ガス雰囲気下で行うことができる。
【0081】
窒化熱処理は300~500℃の範囲内の温度で行う。加熱温度が300℃未満では窒化が進まないので好ましくない。また500℃を超えると合金が希土類元素の窒化物と鉄に分解するので好ましくない。加熱温度は350℃以上であってよく、400℃以上であってもよい。また加熱温度は480℃以下であってよく、450℃以下であってもよい。
【0082】
窒化熱処理の処理時間はガス種、ガス流量と加熱温度に応じて決めればよい。ガス流量と加熱温度が小さい(低い)ほど、処理時間を長くする。アンモニア(NH)ガスと水素(H)ガスの混合雰囲気にした場合には、例えば1~6時間が好ましく、2~4時間がより好ましい。また窒素(N)ガス雰囲気にした場合には、例えば10~40時間とすることが好ましく、水素(H)ガスとの混合雰囲気とした場合は、5~25時間とすることが好ましい。窒化熱処理後に冷却した窒化反応生成物を回収する。また必要に応じて、窒化熱処理に続いて真空中、又はアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中で磁石粉末を加熱してもよい。これにより磁性粉末に過剰に導入された窒素や水素が排出されて、磁性粉末コア部における窒素分布がより均一になる。そしてその結果、磁性粉末の角形性が向上する。
【0083】
<湿式処理工程>
必要に応じて、還元拡散処理工程及び/又は窒化熱処理工程で得られた生成物(還元拡散反応生成物及び/又は窒化反応生成物)に湿式処理を施す工程(湿式処理工程)を設けてもよい。湿式処理は、還元拡散反応生成物及び/又は窒化反応生成物を水及び/又はグリコールを含む洗浄液に投入して崩壊させる。これにより生成物中の還元剤由来成分(副生した還元剤酸化物粒子及び未反応残留還元剤)が低減する。生成物を洗浄液(水及び/またはグリコール)に投入して0.1~24時間放置すると、細かく崩壊してスラリー化する。このスラリーはそのpHが10~12程度である。pHが10以下になるまで洗浄液の投入、攪拌及び上澄み除去(デカンテーション)を繰り返す。その後、必要に応じてスラリーのpHが6~7になるように酢酸などの弱酸を添加して、スラリー中の水酸化した還元剤成分(Ca(OH)等)を溶解除去する。スラリー中にR金属、RFeおよび/またはRFe化合物由来の余剰窒化物が含まれている場合には、pHが6~7を保つように酸を添加しながら攪拌洗浄を続けて、これら余剰窒化物も溶解除去する。その後、残留する酸成分を水及び/またはグリコールで洗浄除去し、さらにメタノール、エタノールなどのアルコールで置換してから固液分離して乾燥すればよい。乾燥は、真空中または不活性ガス雰囲気中で、100~300℃、好ましくは150~250℃に加熱して行えばよい。
【0084】
グリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール及びトリプロピレングリコールからなる群から選ばれる1種以上のアルキレングリコールを使用できる。これらグリコールおよびその混合物をそのまま使用することが好ましい。粘度が高く、スラリー化した後に反応生成物と還元剤成分の分離除去がしにくい場合には、水で希釈したグリコールを使用できる。ただし洗浄液中の水含有率を50質量%以下にすることが好ましい。ここで水含有率は、水/(グリコール+水)の質量比を百分率で示したものである。水含有率が50質量%を超えると、粒子の酸化が顕著になる場合がある。水含有率は30質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が特に好ましい。グリコールの使用量は、特に制限されないが、反応生成物中の還元剤成分がグリコールと反応する当量に対して2~10倍のグリコールを使用することができる。好ましいのは反応生成物の質量に対して3~8倍のグリコールを使用することである。
【0085】
<微粉末化処理工程>
必要に応じて、窒化熱処理工程及び/又は湿式処理工程で得られた生成物に解砕・微粉末化処理を施す工程(微粉末化処理工程)を設けてもよい。還元拡散処理の条件によっては、得られた粉末が焼結してネッキングを起こしていることがある。最終的に得られる磁性粉末を異方性の磁石材料に応用する場合には、これを解砕することで、ネッキングによる磁性粉末の磁界中配向性の悪化を防ぐことができる。解砕は、ジェットミルなどの乾式粉砕機や媒体攪拌ミルなどの湿式粉砕機を使用できる。いずれの粉砕機であっても、強いせん断や衝突による粉砕となる条件は避けて、シェル層が維持できるよう、ネッキングした部分を解く程度の弱粉砕条件で運転することが望ましい。
【0086】
<被膜形成工程>
必要に応じて、得られた生成物(粉末)の表面に燐酸系化合物被膜を形成する工程(被膜形成工程)を設けてもよい。特に磁性粉末が高湿度環境下で使用される用途に適用される場合には、燐酸系化合物被膜を設けることで、粉末特性の安定性を高めることができる。燐酸系化合物被膜の種類やその形成方法は、特許文献3に開示されるように公知である。本実施形態では、シェル層を考慮して燐酸系化合物被膜を薄目に設けてもよい。20nmよりも厚いと磁化が低下することがあるので、5~20nm程度の被膜にすることが望ましい。
【0087】
このようにして本実施形態の磁性粉末を製造することができる。この磁性粉末は、希土類元素(R)、鉄(Fe)及び窒素(N)を主構成成分として含み、平均粒径が1.0μm以上10.0μm以下であり、且つ希土類元素(R)を22.0質量%以上30.0質量%以下、窒素(N)をを2.5質量%以上4.0質量%以下の量で含む。またこの磁性粉末は、ThZn17型、ThNi17型及びTbCu型のいずれかの結晶構造を有するコア部と、このコア部の表面に設けられる厚さ1nm以上30nm以下のシェル層と、を備える。このシェル層は、希土類元素(R)及び鉄(Fe)をR/Fe原子比で0.3以上5.0以下となるように含み、さらに窒素(N)を0原子%超10原子%以下の量で)含む。さらにこの磁性粉末は希土類元素(R)及び燐(P)から構成される化合物粒子(RP化合物粒子)を含む。この磁性粉末は、耐熱性、耐候性だけでなく、磁気特性にも優れるという効果がある。
【0088】
本発明者らの知る限り、本実施形態の磁性粉末やその製造方法は従来から知られていない。例えば特許文献2には希土類金属(R)と遷移金属(TM)を含む母合金を粉砕する工程(a)と粉砕された母合金粉末に希土類酸化物粉末と還元剤とを混合し、不活性ガス中加熱処理する工程(b)を含む希土類-遷移金属-窒素系磁石合金粉末の製造方法が開示されている。しかしながら本実施形態の製造方法とは異なり、特許文献2では粒径2.0μm以下の微細な希土類酸化物粉末を用いていない。また母合金のみを粉砕して、後から希土類酸化物粉末を混合している。そのため特許文献2の方法では、コアシェル構造を形成することはできない。
【0089】
特許文献3には燐酸を含む有機溶剤中で希土類-鉄-窒素系磁石粗粉末を粉砕して、燐酸塩皮膜を形成することが開示されている。しかしながら燐酸塩被膜を形成する対象は、窒化処理後の磁石粉末であり、原料たる希土類鉄合金粉末ではない。そのため本実施形態の製造方法とは明確に異なる。また特許文献3では粒径2.0μm以下の微細な希土類酸化物粉末を用いていない。そのため特許文献3の方法では、コアシェル構造を形成することはできない。
【0090】
特許文献4には表面被覆金属層を有する異方性希土類合金系磁性粉末と樹脂からなり、表面被覆金属層の金属がZn,Sn,In,Al,Si,希土類元素の少なくとも一種以上からなる単一金属または合金である希土類ボンド磁石が開示されている(特許文献4の請求項1及び2)。しかしながら特許文献4には表面被覆金属層について、希土類元素(R)、鉄(Fe)及び窒素(N)をR/Fe原子比で0.3以上5.0以下となるように含むことの開示や示唆は無く、この表面被覆金属層は本実施形態のシェル層とは全くの別物である。
【0091】
<ボンド磁石用コンパウンド>
本実施形態のボンド磁石用コンパウンドは、上述した希土類鉄窒素系磁性粉末と樹脂バインダーとを含む。このコンパウンドは、磁性粉末と樹脂バインダーとを混合して作製される。混合は、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、ニーダールーダー、単軸押出機、二軸押出機等の混練機を用いて磁性粉末と樹脂バインダーとを溶融混練すればよい。
【0092】
樹脂バインダーは熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂のいずれであってよい。熱可塑性樹脂系バインダーの種類は特に限定されない。例えば、6ナイロン、6-6ナイロン、11ナイロン、12ナイロン、6-12ナイロン、芳香族系ナイロン、これらの分子を一部変性、または共重合化した変性ナイロン等のポリアミド樹脂、直鎖型ポリフェニレンサルファイド樹脂、架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂、セミ架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン-エチルアクリレート共重合樹脂、アイオノマー樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、メタクリル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリ三フッ化塩化エチレン樹脂、四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合樹脂、エチレン-四フッ化エチレン共重合樹脂、四フッ化エチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリアリルエーテルアリルスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、酢酸セルロース樹脂、前出の各樹脂系エラストマー等が挙げられる。またこれらの単重合体や他種モノマーとのランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、他の物質で末端基を変性したものなどが挙げられる。さらに熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0093】
これらの中では、得られる成形体の種々の特性やその製造方法の容易性から12ナイロンおよびその変性ナイロン、ナイロン系エラストマー、ポリフェニレンサルファイド樹脂が好ましい。これら熱可塑性樹脂の2種類以上のブレンドも当然に使用可能である。
【0094】
本実施形態では、原料粉末として、従来のSmFe17磁性粉末に比べて高い耐熱性を有し、また高耐熱性R(Fe、M)17磁性粉末(M=Cr、Mn)に比べても同等以上の磁気特性を有する磁性粉末を使用する。磁性粉末が高い耐熱性を有するため、樹脂そのものの耐熱性が高いポリフェニレンサルファイド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂などの熱可塑性樹脂をバインダーに用いた高温成形が可能である。したがって高性能高耐熱ボンド磁石の調製に有効である。
【0095】
樹脂バインダーの配合量は、特に制限されるものではないが、コンパウンド100質量部に対して1~50質量部が好ましい。1質量部より少ないと、混練トルクの著しい上昇や流動性低下を招いて成形困難になるだけでなく、磁気特性が不十分になることがある。一方で50質量部よりも多いと、所望の磁気特性を得られないことがある。樹脂バインダーの配合量は、3~50質量部であってよく、5~30質量部であってよく、7~20質量部であってよい。
【0096】
コンパウンドには、本実施形態の目的を損なわない範囲で、反応性希釈剤、未反応性希釈剤、増粘剤、滑剤、離型剤、紫外線吸収剤、難燃剤や種々の安定剤などの添加剤、充填材を配合することができる。また求められる磁気特性に合わせて、本実施形態の磁性粉末以外の他の磁石粉末を配合してもよい。他の磁石粉末として通常のボンド磁石に用いるものを採用することができ、例えば希土類磁石粉、フェライト磁石粉及びアルニコ磁石粉などが挙げられる。異方性磁石粉末だけでなく、等方性磁石粉末も混合できるが、異方性磁界Hが4.0MA/m(50kOe)以上の磁石粉末を用いることが好ましい。
【0097】
<ボンド磁石>
本実施形態のボンド磁石は、上述した希土類鉄窒素系磁性粉末と樹脂バインダーとを含む。このボンド磁石は上述したボンド磁石用コンパウンドを射出成形、押出成形又は圧縮成形して作製される。特に好ましい成形方法は射出成形である。ボンド磁石中の成分やその含有割合はボンド磁石用コンパウンドと同一である。
【0098】
ボンド磁石用コンパウンドを射出成形する場合には、最高履歴温度が330℃以下、好ましくは310℃以下、より好ましくは300℃以下となる条件で成形することが好ましい。最高履歴温度が330℃を超えると、磁気特性が低下することがある。ただし本実施形態のボンド磁石は、シェル層を備えない従来の磁性粉末を用いた場合に比べて高い磁気特性を有する。
【0099】
ボンド磁石用コンパウンドが異方性の磁性粉末を含有する場合には、成形機の金型に磁気回路を組み込み、コンパウンドの成形空間(金型キャビティ)に配向磁界がかかるようにすると、異方性のボンド磁石が製造できる。このとき配向磁界を、400kA/m以上、好ましくは800kA/m以上にすることで高い磁気特性のボンド磁石を得ることができる。ボンド磁石用コンパウンドが等方性の磁性粉末を含有する場合には、コンパウンドの成形空間(金型キャビティ)に配向磁界をかけないで行ってもよい。
【0100】
本実施形態のボンド磁石は、自動車、一般家電製品、通信・音響機器、医療機器、一般産業機器等に至る幅広い分野において極めて有用である。また、本実施形態によれば、磁性粉末が高い耐熱性と高い磁気特性を有するため、磁性粉末を圧粉成形及び焼結して磁石を製造することが可能である。そのため保磁力劣化が抑制されたバインダレスの高性能磁石を得ることが可能である。
【実施例0101】
本発明を以下の実施例を用いてさらに詳細に説明する。しかしながら本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0102】
(1)評価
希土類鉄窒素系磁性粉末を作製するにあたり、各種特性の評価を以下のとおり行った。
【0103】
<粉末の粒径>
粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して、その粒径を評価した。観察の際には、倍率1000倍程度のSEM反射電子像において、コントラストの違いからそれぞれの成分粒子を判別し、その長軸径を求めて、これを粒径とした。またレーザー回折粒度分布計(株式会社日本レーザー、HELOS&RODOS)を用いて、粉末の体積分布における50%粒子径(D50)を求め、これを平均粒径とした。
【0104】
<加熱減量>
粉末50gを真空中400℃で5時間加熱し、加熱前後の質量を比較して加熱減量(α)を求めた。具体的には、(加熱前質量-加熱後質量)/加熱前質量を加熱減量(α)とした。
【0105】
<磁気特性>
粉末の磁気特性(残留磁化σと保磁力H)を振動試料型磁力計で測定した。測定は、ボンド磁石試験方法ガイドブックBMG-2005(日本ボンド磁性材料協会)に則り行った。まず20mgほどの粉末試料を内径2mm×長さ7mmの透明アクリル製ケースにパラフィンと一緒に入れた。長さ方向に1.6MA/mの磁界を印加しながらドライヤーでケースを加熱して、パラフィンを溶かした。粉末を配向させた後に冷却してパラフィンを固めて測定試料を作製した。試料の着磁磁界は3.2MA/mとした。
【0106】
<耐熱性>
加熱前後の粉末の保磁力(H)を比較することで粉末の耐熱性を評価した。加熱は、大気圧のアルゴン(Ar)雰囲気中300℃×90分間の条件で行った。加熱前の保磁力(H)と加熱後の保磁力(Hc,300)とを測定し、保磁力の維持率(Hc,300/H)を算出した。
【0107】
<粉末の結晶構造>
粉末の結晶構造を粉末X線回折(XRD)法で評価した。X線回折測定は、Cuターゲットを用いて加速電圧45kV、電流40mAの条件下、2θを2分./deg.の速度でスキャンして行った。その後、得られたX線回折(XRD)パターンを解析して結晶構造を同定した。
【0108】
<シェル層の組成分析、厚み>
シェル層の組成分析と平均厚みを透過型電子顕微鏡(TEM;日本電子株式会社、JEM-ARM200F;加速電圧200kV)及びEDS検出器(Thermo Fisher Scientific社、NSS)を用いて評価した。その際、粉末を熱硬化性樹脂に埋め込み、集束イオンビーム装置を用いて加工して作製した厚さ100nmの断面薄片を観察試料に用いた。
【0109】
<磁性粉末の組成>
磁性粉末の希土類(R)組成(量)と窒素(N)組成(量)のそれぞれを、ICP発光分光分析法及び熱伝導度法で分析した。
【0110】
(2)希土類鉄窒素系磁性粉末の作製
実施例1~9及び比較例1~11につき、希土類鉄窒素系磁性粉末を作製してその特性を評価した。磁性粉末の製造条件と特性を表1及び表2に示す。
【0111】
[実施例1]
<準備工程>
希土類鉄合金粉末としてSmFe17合金粉末を、希土類酸化物粉末として酸化サマリウム(Sm)粉末を準備した。SmFe17合金粉末(希土類鉄合金粉末)は以下の手順に従い作製した。
【0112】
平均粒径(D50)が2.3μmの酸化サマリウム(Sm)粉末、平均粒径(D50)が40μmの鉄(Fe)粉及び粒状金属カルシウム(Ca)を準備した。次いで酸化サマリウム粉末0.44kg、鉄粉1.0kg及び粒状金属カルシウム0.23kgをミキサー混合した。得られた混合物を鉄るつぼに入れて、アルゴン(Ar)ガス雰囲気下1150℃×8時間の条件で加熱処理して、反応生成物を得た。
【0113】
冷却後に取り出した反応生成物を2Lの水中に投入して、アルゴン(Ar)ガス雰囲気中で12時間放置してスラリー化した。このスラリーの上澄みを捨てた後に、新たに水2Lを加えて攪拌し、SmFe合金粉が沈降したところで、水酸化カルシウムが懸濁する上澄みを捨てた。水添加、攪拌及び上澄み除去の操作をpHが11以下になるまで繰り返した。次に合金粉と水2Lとが攪拌されている状態でpHが6になるまで酢酸を添加し、その状態で30分間攪拌を続けた後、上澄みを捨てた。再び水2Lを加えて攪拌し上澄みを捨てる操作を5回行い、最後にアルコールで水を置換した後、ヌッチェを用いて合金粉を回収した。回収した合金粉をミキサーに入れて、減圧しながら100℃×10時間の条件で攪拌乾燥し、1.3kgのSmFe17合金粉末(希土類鉄合金粉末)を得た。得られたSmFe17合金粉末の平均粒径は30μmであった。
【0114】
得られた希土類鉄合金粉末は、サマリウム(Sm)が24.5質量%、酸素(O)が0.15質量%、水素(H)が0.54質量%、カルシウム(Ca)が0.01質量%未満、残部鉄(Fe)の組成をもち、ThZn17型結晶構造のSmFe17を主相としていた。
【0115】
<混合工程>
準備工程で得られたSmFe17合金粉末(希土類鉄合金粉末)1kgに対して、酸化サマリウム粉末(希土類酸化物粉末)100gをロッキングミキサーで予備混合した。用いた酸化サマリウム粉末の平均粒径(D50)は2.3μmであった。また酸化サマリウムの混合量は、SmFe17合金粉末100質量部に対して10質量部に相当した。イソプロピルアルコール2.2kgと85%燐酸23.1gとの混合溶液を溶媒とし、得られた予備混合物を媒体攪拌ミルで粉砕して、スラリーを得た。
【0116】
得られたスラリーをミキサーに入れ、減圧しながら加温して溶媒を蒸発させ、室温まで冷却した。その後、ミキサーで攪拌を続けながら酸素濃度4体積%の窒素ガスをフローし、混合粉末の酸化発熱が40℃を超えないように注意しながら酸素濃度を徐々に10体積%まで高めた。発熱終了を確認してから粉砕混合物を回収した。回収した粉砕混合物を電気炉に入れて真空中210℃まで昇温加熱したところ、ガス放出による真空度の悪化が確認された。ガス発生が終わり、真空度が戻ったところで冷却して粉砕混合物(原料混合物)を取り出した。
【0117】
粉砕混合物をSEM反射電子像で観察したところ、SmFe17合金粒子(SmFe17微粉)の最大粒径は10μmであり、酸化サマリウム粒子(Sm微粉)の最大粒径は1.0μmであった。粉砕混合物の組成は、サマリウム(Sm)が28.8質量%、燐(P)が0.54質量%、酸素(O)が3.7質量%、水素(H)が0.41質量%、残部鉄(Fe)であった。混合物全体の平均粒径(D50)は1.2μmであった。FIB断面加工後にTEM観察したところ、SmFe17合金粒子表面にはSm、Fe、P、Oを含む燐酸系化合物被膜が形成されていた。この被膜の厚さは5~10nmであった。さらに粉砕混合物の加熱減量(α)は0.4質量%であった。
【0118】
<還元拡散処理工程>
得られた粉砕混合物に還元拡散処理を施した。まず粉砕混合物200gに還元剤46.6gを加えて混合した。還元剤として目開き1.0mm篩上かつ目開き2.0mm篩下の粒状金属カルシウム(Ca)を用いた。また還元剤の混合量は、粉砕混合物の酸素量から計算される還元必要量(当量)に対して2.5倍量とした。次いで混合物を鉄るつぼに入れて、アルゴン(Ar)ガス雰囲気下で加熱し、930℃で2時間保持した後に冷却した。これにより反応生成物(還元拡散反応生成物)を得た。
【0119】
<解砕処理工程>
回収した反応生成物を管状炉に入れて、炉内をアルゴン(Ar)ガスで置換した。その後、一旦炉内を-100kPaまで減圧してから大気圧まで水素(H)ガスを導入し、流量1L/分の水素(H)ガス気流中で150℃まで昇温し、30分間保持して冷却した。反応生成物は、昇温の80℃を超えたころから水素を吸収し、管状炉の内圧が最大-60kPaまで低下するとともに温度上昇が始まった。水素吸収による発熱が起こっている間は、炉内が負圧になるので管状炉の排気側のバルブを閉めて最大流量1L/分で水素ガスの供給を継続した。発熱による反応生成物の最大温度は170℃だった。冷却後、解砕処理した反応生成物を得た。
【0120】
<窒化熱処理工程>
解砕処理した反応生成物を流量200cc/分の窒素(N)ガス気流中で昇温し、450℃で24時間保持した後に冷却した。これにより窒化反応生成物を得た。
【0121】
<湿式処理工程>
回収した窒化反応生成物に湿式処理を施した。まず窒化反応生成物20gをイオン交換水200cc中に投入した。その後、アルゴン(Ar)ガス雰囲気中で1時間放置してスラリー化し、スラリーの上澄みを捨てた。新たにイオン交換水200cc加えて1分間攪拌し、窒化合金粉が沈降するまで静置して、カルシウム成分が懸濁する上澄みを捨てた。イオン交換水添加及び上澄み除去の操作を15回繰り返した。次にイソプロピルアルコール100ccを加えて攪拌し、ヌッチェを用いてろ過した。得られたケーキを静置乾燥機に入れて真空中150℃で1時間乾燥した。これにより希土類鉄窒素系磁性粉末を得た。
【0122】
得られた希土類鉄窒素系磁性粉末をXRD法により分析したところ、ThZn17型結晶構造を有することが確認された。またXRDプロファイルにはThZn17型結晶構造のSmFe17のピークに加えてSmP相のピークが見られた。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は3.6μmであった。SEM二次電子像で観察したところ、図2に示されるようにサイズ数100nmから5μmの球状粒子の凝集が確認された。
【0123】
磁性粉末の組成は、表2に示すようにSmが27.1質量%、Nが3.0質量%、Pが0.26質量%であった。また磁気特性は、残留磁化(σ)が101Am/kg,保磁力(H)が1006kA/mであった。さらに耐熱性は、加熱後保磁力(Hc,300)が922kA/m、維持率(Hc,300/H)が92%であった。
【0124】
得られた磁性粉末の粒子表面をTEM観察した。その際、磁性粉末を熱硬化性樹脂に埋め込んだ後に加工して作製した断面薄片試料を観察試料に用いた。表面のHAADF(高角環状暗視野)像を図3に、またその厚み方向におけるEDS(エネルギー分散型X線分析)面分析結果のライン抽出図を図4に示す。図4は、図3の点Xから点Yに向かってEDS分析した組成をライン抽出したものを表し、横軸左端が図3の点X、右端が点Yに対応する。またSm、Fe、N、Ca、O、Pの合計量が100原子%になるように規格化している。
【0125】
図3に示されるように、磁性粉末粒子表面に厚さ10nm程度のシェル層が形成されていた。またHAADF像のコントラストに注目すると、明るい外層と暗い内層がシェル層を構成していることが分かった。これらの厚みは、外層が4nm程度、内層が6nm程度であった。また図4に示されるように、外層のSm/Fe比(A)は最大2.5であった。コアである主相SmFe17のSm/Fe比が約0.12であることから、外層はSmリッチであることが確認された。また外層はNを最大7原子%含んでおり、さらにOとCaを含んでいた。一方で主相側に近い内層のSm/Fe比(B)は0.2程度であり、主相に比べてSmリッチであることが分かった。内層はNを最大5原子%程度含んでおり、Oを含むがCaは含まなかった。外層Sm/Fe比(A)と内層Sm/Fe比(B)は、A>Bの関係を満足していた。
【0126】
[実施例2]
還元拡散処理、解砕処理、窒化熱処理及び湿式処理を以下に示すように行った。それ以外は実施例1と同様にして希土類鉄窒素系磁性粉末を作製した。
【0127】
<還元拡散処理工程>
実施例1で作製した粉砕混合物(原料混合物)200gに還元剤46.6gを加えて混合した。還元剤として目開き1.0mm篩上かつ目開き2.0mm篩下の粒状金属カルシウム(Ca)を用いた。また還元剤の混合量は、粉砕混合物の酸素量から計算される還元必要量に対して2.5倍量とした。次いで混合物を鉄るつぼに入れてアルゴン(Ar)ガス雰囲気下で加熱し、900℃で2時間保持した後に冷却した。これにより還元拡散反応生成物を得た。
【0128】
<解砕処理工程>
回収した反応生成物を管状炉に入れて、炉内をアルゴン(Ar)ガスで置換した。その後、一旦炉内を-100kPaまで減圧してから大気圧まで水素(H)ガスを導入し、流量1L/分の水素(H)ガス気流中で300℃まで昇温し、30分間保持して冷却した。反応生成物は、昇温の110℃を超えたころから水素を吸収し、管状炉の内圧が最大-70kPaまで低下するとともに温度上昇が始まった。水素吸収による発熱が起こっている間は、炉内が負圧になるので管状炉の排気側のバルブを閉めて最大流量1L/分で水素ガスの供給を継続した。反応生成物の最大温度は300℃だった。冷却後、解砕処理した反応生成物を得た。
【0129】
<窒化熱処理工程>
解砕処理した反応生成物を流量200cc/分の窒素(N)ガス気流中で昇温し、450℃で24時間保持した後に冷却した。これにより窒化反応生成物を得た。
【0130】
<湿式処理工程>
回収した窒化反応生成物10gをイオン交換水100cc中に投入した。その後、アルゴン(Ar)ガス雰囲気中で2時間放置してスラリー化し、スラリーの上澄みを捨てた。新たにイオン交換水100cc加えて1分間攪拌し、窒化合金粉が沈降するまで静置して、カルシウム成分が懸濁する上澄みを捨てた。イオン交換水添加及び上澄み除去の操作を15回繰り返した。次にイソプロピルアルコール50ccを加えて攪拌し、ヌッチェを用いてろ過した。得られたケーキを静置乾燥機に入れて真空中150℃×1時間の条件で乾燥した。これにより希土類鉄窒素系磁性粉末を得た。
【0131】
得られた希土類鉄窒素系磁性粉末をXRD法により分析したところ、図5に示すようにThZn17型結晶構造を有することが確認された。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は3.3μmであった。SEM反射電子像で観察したところ、図6に示されるようにサイズ数100nmから4μmの球状粒子の凝集が確認された。
【0132】
図5に示されるように、XRDプロファイルにはThZn17型結晶構造のSmFe17のピークに加えてSmP相のピークが見られた。Rietveld解析によればSmP相の含有量は3.3質量%であった。また図6の明るいコントラストで示される数100nmから2μmの粒子がSmP相であった。
【0133】
磁性粉末の組成は、表2に示すようにSmが27.5質量%、Nが3.1質量%、Pが0.27質量%であった。また磁気特性は、残留磁化が102Am/kg,保磁力が1123kA/mであった。さらに耐熱性は、加熱後保磁力(Hc,300)が851kA/m、維持率(Hc,300/H)が76%であった。実施例1と同様に粒子表面をTEM観察したところ、厚さ2nmのシェル層が形成されていた。シェル層のSm/Fe比は最大0.5であり、N量は最大3原子%であった。さらにシェル層は外層と内層とから構成され、外層はSm、Fe、N、O及びCaを含むのに対し、内層はSm、Fe、N及びOを含むもののCaを含まず、外層Sm/Fe比(A)と内層Sm/Fe比(B)は、A>Bの関係を満足していた。
【0134】
[実施例3]
湿式処理を以下に示すように行った。それ以外は実施例1と同様にして希土類鉄窒素系磁性粉末を作製した。
【0135】
<湿式処理工程>
実施例1で作製した窒化反応生成物20gを、水/(エチレングリコール+水)で規定される水含有率20質量%のエチレングリコール1L中に投入した。その後、アルゴン(Ar)ガス雰囲気中で3時間攪拌してスラリー化し、スラリーの上澄みを捨てた。新たに水含有率20質量%のエチレングリコールを1L加えて5分間攪拌し、窒化合金粉が沈降するまで静置して、カルシウム成分が懸濁する上澄みを捨てた。エチレングリコール添加及び上澄み除去の操作をアルゴン(Ar)ガス雰囲気中で3回繰り返した。次に脱水エタノール500ccを加えて攪拌し、窒化合金粉が沈降するまで静置して、上澄みを捨てた。脱水エタノール添加及び上澄み除去の操作をアルゴン(Ar)ガス雰囲気中で3回繰り返した。最後にヌッチェを用いてろ過し、得られたケーキをミキサーに入れて真空中150℃×1時間の条件で攪拌乾燥した。これにより希土類鉄窒素系磁性粉末を得た。
【0136】
得られた希土類鉄窒素系磁性粉末をXRD法により分析したところ、ThZn17型結晶構造を有することが確認された。またXRDプロファイルにはThZn17型結晶構造のSmFe17のピークに加えてSmP相のピークが見られた。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は4.4μmであった。SEM観察したところ、実施例1と同様にサイズ数100nmから5μmの球状粒子の凝集が確認された。また粒子表面をTEM観察したところ、二層構造を有する厚さ10nmのシェル層が形成されていた。シェル層のSm/Fe比は最大2.1であり、N量は最大5原子%であった。さらにシェル層は外層と内層とから構成され、外層はSm、Fe、N、O及びCaを含むのに対し、内層はSm、Fe、N及びOを含むもののCaを含まず、外層Sm/Fe比(A)と内層Sm/Fe比(B)は、A>Bの関係を満足していた。
【0137】
[実施例4]
湿式処理を以下に示すように行った。それ以外は実施例1と同様にして希土類鉄窒素系磁性粉末を作製した。
【0138】
<湿式処理工程>
実施例1で作製した窒化反応生成物をエチレングリコール1L中に投入し、アルゴン(Ar)ガス雰囲気中で3時間攪拌してスラリー化した。このスラリーの上澄みを捨て、新たにエチレングリコールを1L加えて10分間攪拌し、窒化合金粉が沈降するまで静置して、カルシウム成分が懸濁する上澄みを捨てた。エチレングルコール添加及び上澄み除去の操作をアルゴンガス雰囲気中で10回繰り返した。次に脱水エタノール500ccを加えて攪拌し、窒化合金粉が沈降するまで静置して上澄みを捨てた。脱水エタノール添加及び上澄み除去の操作をアルゴンガス雰囲気中で5回繰り返した。最後にアルゴン(Ar)ガス雰囲気中でヌッチェを用いてろ過し、得られたケーキをミキサーに入れて真空中150℃×1時間の条件で攪拌乾燥した。これにより希土類鉄窒素系磁性粉末を得た。
【0139】
得られた希土類鉄窒素系磁性粉末をXRD法により分析したところ、ThZn17型結晶構造を有することが確認された。またXRDプロファイルにはThZn17型結晶構造のSmFe17のピークに加えてSmP相のピークが見られた。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は4.8μmであった。SEM観察したところ、実施例1と同様にサイズ数100nmから5μmの球状粒子の凝集が確認された。また粒子表面をTEM観察したところ、二層構造を有する厚さ22nmのシェル層が形成されていた。シェル層のSm/Fe比は最大3.7であり、N量は最大9原子%であった。さらにシェル層は外層と内層とから構成され、外層はSm、Fe、N、O及びCaを含むのに対し、内層はSm、Fe、N及びOを含むもののCaを含まず、外層Sm/Fe比(A)と内層Sm/Fe比(B)は、A>Bの関係を満足していた。
【0140】
[実施例5]
混合及び還元拡散処理を以下に示すように行った。それ以外は実施例1と同様にして希土類鉄窒素系磁性粉末を作製した。
【0141】
<混合工程>
粉砕混合物を作製する際に媒体攪拌ミルの粉砕時間を調整した。それ以外は実施例1と同様にして混合を行った。粉砕混合物においてSmFe17合金粒子の最大粒径は7μm、酸化サマリウム粒子の最大粒径は0.6μmであった。粉砕混合物の組成は、Smが28.6質量%、Pが0.57質量%、Oが4.7質量%、Hが0.48質量%、残部Feであった。混合物全体の平均粒径(D50)は1.1μmであった。SmFe17合金粒子表面には厚さ5~10nmの燐酸系化合物被膜が形成されていた。さらに粉砕混合物の加熱減量(α)は0.8質量%であった。
【0142】
<還元拡散処理工程>
得られた粉砕混合物200gに還元剤70.6gを加えて混合した。還元剤として目開き1.0mm篩上かつ目開き2.0mm篩下の粒状金属カルシウム(Ca)を用いた。また還元剤の混合量は、粉砕混合物の酸素量から計算される還元必要量に対して3.0倍量とした。次いで混合物を鉄るつぼに入れて、アルゴン(Ar)ガス雰囲気下で加熱し、730℃で10時間保持した後に冷却した。これにより反応生成物(還元拡散反応生成物)を得た。
【0143】
得られた反応生成物に対して、実施例1と同様にして窒化熱処理及び湿式処理を施して磁性粉末を作製した。
【0144】
得られた希土類鉄窒素系磁性粉末をXRD法により分析したところ、ThZn17型結晶構造を有することが確認された。またXRDプロファイルにはThZn17型結晶構造のSmFe17のピークに加えてSmP相のピークが見られた。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は2.8μmであった。SEM観察したところ、実施例1と同様にサイズ数10nmから3μmの球状粒子の凝集が確認された。また粒子表面をTEM観察したところ、二層構造を有する厚さ6nmのシェル層が形成されていた。シェル層のSm/Fe比は最大1.8であり、N量は最大6原子%であった。さらにシェル層は外層と内層とから構成され、外層はSm、Fe、N、O及びCaを含むのに対し、内層はSm、Fe、N及びOを含むもののCaを含まず、外層Sm/Fe比(A)と内層Sm/Fe比(B)は、A>Bの関係を満足していた。
【0145】
[実施例6]
混合、還元拡散処理、解砕処理及び窒化熱処理を以下に示すように行った。それ以外は実施例1と同様にして希土類鉄窒素系磁性粉末を作製した。
【0146】
<混合工程>
粉砕混合物を作製する際に媒体攪拌ミルの粉砕時間を調整した。それ以外は実施例1と同様にして混合を行った。粉砕混合物においてSmFe17合金粒子の最大粒径は15μm、酸化サマリウム粒子の最大粒径は1.8μmであった。粉砕混合物の組成は、Smが29.1質量%、Pが0.52質量%、Oが2.5質量%、Hが0.28質量%、残部Feであった。混合物全体の平均粒径(D50)は2.7μmであった。SmFe17合金粒子表面には厚さ5~10nmの燐酸系化合物被膜が形成されていた。さらに粉砕混合物の加熱減量(α)は0.2質量%であった。
【0147】
<還元拡散処理工程>
得られた粉砕混合物200gに還元剤122.7gを加えて混合した。還元剤として目開き1.0mm篩上かつ目開き2.0mm篩下の粒状金属カルシウム(Ca)を用いた。また還元剤の混合量は、粉砕混合物の酸素量から計算される還元必要量に対して9.8倍量とした。次いで混合物を鉄るつぼに入れて、アルゴン(Ar)ガス雰囲気下で加熱し、860℃で4時間保持した後に冷却した。これにより反応生成物(還元拡散反応生成物)を得た。
【0148】
<解砕処理>
回収した反応生成物を管状炉に入れて、炉内をアルゴン(Ar)ガスで置換した。その後、一旦炉内を-100kPaまで減圧してから大気圧まで水素(H)ガスを導入し、流量1L/分の水素(H)ガス気流中で150℃まで昇温し、30分間保持して冷却した。反応生成物は、昇温の90℃を超えたころから水素を吸収し、管状炉の内圧が最大-60kPaまで低下するとともに温度上昇が始まった。水素吸収による発熱が起こっている間は、炉内が負圧になるので管状炉の排気側のバルブを閉めて最大流量1L/分で水素ガスの供給を継続した。発熱による反応生成物の最大温度は200℃だった。冷却後、解砕処理した反応生成物を得た。
【0149】
<窒化熱処理工程>
解砕処理した反応生成物を流量50cc/分のアンモニア(NH)ガスと流量100cc/分の水素(H)ガスとの混合ガス気流中で昇温し、420℃で2時間保持した後に冷却した。これにより窒化反応生成物を得た。
【0150】
得られた窒化反応生成物に対して、実施例1と同様にして湿式処理を施して磁性粉末を作製した。
【0151】
得られた希土類鉄窒素系磁性粉末をXRD法により分析したところ、ThZn17型結晶構造を有することが確認された。またXRDプロファイルにはThZn17型結晶構造のSmFe17のピークに加えてSmP相のピークが見られた。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は9.1μmであった。SEM観察したところ、実施例1と同様にサイズ数100nmから4μmの球状粒子の凝集が確認された。また粒子表面をTEM観察したところ、二層構造を有する厚さ8nmのシェル層が形成されていた。シェル層のSm/Fe比は最大2.9であり、N量は最大7原子%であった。さらにシェル層は外層と内層とから構成され、外層はSm、Fe、N、O及びCaを含むのに対し、内層はSm、Fe、N及びOを含むもののCaを含まず、外層Sm/Fe比(A)と内層Sm/Fe比(B)は、A>Bの関係を満足していた。
【0152】
[実施例7]
混合、還元拡散処理、拡散処理及び窒化熱処理を以下に示すように行った。それ以外は実施例1と同様にして希土類鉄窒素系磁性粉末を作製した。
【0153】
<混合工程>
粉砕混合物を作製する際に媒体攪拌ミルの粉砕時間を調整した。それ以外は実施例1と同様にして混合を行った。粉砕混合物においてSmFe17合金粒子の最大粒径は3μm、酸化サマリウム粒子の最大粒径は0.2μmであった。粉砕混合物の組成は、Smが27.5質量%、Pが0.61質量%、Oが6.2質量%、Hが0.51質量%、残部Feであった。混合物全体の平均粒径(D50)は1.1μmであった。SmFe17合金粒子表面には厚さ5~10nmの燐酸系化合物被膜が形成されていた。さらに粉砕混合物の加熱減量(α)は0.9質量%であった。
【0154】
<還元拡散処理工程>
得られた粉砕混合物200gに還元剤217.4gを加えて混合した。還元剤として目開き1.0mm篩上かつ目開き2.0mm篩下の粒状金属カルシウム(Ca)を用いた。また還元剤の混合量は、粉砕混合物の酸素量から計算される還元必要量に対して7.0倍量とした。次いで混合物を鉄るつぼに入れてアルゴン(Ar)ガス雰囲気下で加熱し、1050℃で0.5時間保持した後に冷却した。これにより反応生成物(還元拡散反応生成物)を得た。
【0155】
<解砕処理工程>
回収した反応生成物を管状炉に入れて、炉内をアルゴン(Ar)ガスで置換した。その後、一旦炉内を-100kPaまで減圧してから大気圧まで水素(H)ガスを導入し、流量1L/分の水素(H)ガス気流中で150℃まで昇温し、30分間保持して冷却した。反応生成物は、昇温の100℃を超えたころから水素を吸収し、管状炉の内圧が最大-55kPaまで低下するとともに温度上昇が始まった。水素吸収による発熱が起こっている間は、炉内が負圧になるので管状炉の排気側のバルブを閉めて最大流量1L/分で水素ガスの供給を継続した。発熱による反応生成物の最大温度は160℃だった。冷却後、解砕処理した反応生成物を得た。
【0156】
<窒化熱処理工程>
解砕処理した反応生成物を流量50cc/分のアンモニア(NH)ガスと流量100cc/分の水素(H)ガスとの混合ガス気流中で昇温し、430℃で2時間保持した後に冷却した。これにより窒化反応生成物を得た。
【0157】
得られた窒化反応生成物に対して、実施例1と同様にして湿式処理を施して磁性粉末を作製した。
【0158】
得られた希土類鉄窒素系磁性粉末をXRD法により分析したところ、ThZn17型結晶構造を有することが確認された。またXRDプロファイルにはThZn17型結晶構造のSmFe17のピークに加えてSmP相のピークが見られた。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は4.2μmであった。SEM観察したところ、実施例1と同様にサイズ数100nmから5μmの球状粒子の凝集が確認された。また粒子表面をTEM観察したところ、二層構造を有する厚さ14nmのシェル層が形成されていた。シェル層のSm/Fe比は最大4.5であり、N量は最大8原子%であった。さらにシェル層は外層と内層とから構成され、外層はSm、Fe、N、O及びCaを含むのに対し、内層はSm、Fe、N及びOを含むもののCaを含まず、外層Sm/Fe比(A)と内層Sm/Fe比(B)は、A>Bの関係を満足していた。
【0159】
[実施例8]
混合、還元拡散処理、解砕処理及び窒化熱処理を以下に示すように行った。それ以外は実施例1と同様にして希土類鉄窒素系磁性粉末を作製した。
【0160】
<混合工程>
粉砕混合物を作製する際に酸化サマリウムの混合量を200gとし、媒体攪拌ミル粉砕時間を調整した。酸化サマリウムの混合量は、SmFe17合金粉末100質量部に対して20質量部に相当した。それ以外は実施例1と同様にして混合を行った。粉砕混合物においてSmFe17合金粒子の最大粒径は12μm、酸化サマリウム粒子の最大は1.1μmであった。粉砕混合物の組成は、Smが33.8質量%、Pが0.52質量%、Oが3.5質量%、Hが0.38質量%、残部Feであった。混合物全体の平均粒径(D50)は1.7μmであった。SmFe17合金粒子表面には厚さ5~10nmの燐酸系化合物被膜が形成されていた。さらに粉砕混合物の加熱減量(α)は0.5質量%であった。
【0161】
<還元拡散処理工程>
得られた粉砕混合物200gに還元剤31.6gを加えて混合した。還元剤として目開き1.0mm篩上かつ目開き2.0mm篩下の粒状金属カルシウム(Ca)を用いた。また還元剤の混合量は、粉砕混合物の酸素量から計算される還元必要量に対して1.8倍量とした。次いで混合物を鉄るつぼに入れてアルゴン(Ar)ガス雰囲気下で加熱し、820℃で3時間保持した後に冷却した。これにより反応生成物(還元拡散反応生成物)を得た。
【0162】
<解砕処理工程>
回収した反応生成物を管状炉に入れて、炉内をアルゴン(Ar)ガスで置換した。その後、一旦炉内を-100kPaまで減圧してから大気圧まで水素(H)ガスを導入し、流量1L/分の水素(H)ガス気流中で150℃まで昇温し、30分保持して冷却した。反応生成物は、昇温の80℃を超えたころから水素を吸収し、管状炉の内圧が最大-87kPaまで低下するとともに温度上昇が始まった。水素吸収による発熱が起こっている間は、炉内が負圧になるので管状炉の排気側のバルブを閉めて最大流量1L/分で水素ガスの供給を継続した。発熱による反応生成物の最大温度は250℃だった。冷却後、解砕処理した反応生成物を得た。
【0163】
<窒化熱処理工程>
解砕処理した反応生成物を流量200cc/分の窒素(N)ガス気流中で昇温し、450℃で24時間保持した後に冷却した。これにより窒化反応生成物を得た。
【0164】
得られた窒化反応生成物に対して、実施例1と同様にして湿式処理を施して磁性粉末を作製した。
【0165】
得られた希土類鉄窒素系磁性粉末をXRD法により分析したところ、ThZn17型結晶構造を有することが確認された。またXRDプロファイルにはThZn17型結晶構造のSmFe17のピークに加えてSmP相のピークが見られた。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は5.2μmであった。SEM観察したところ、実施例1と同様にサイズ数100nmから5μmの球状粒子の凝集が確認された。また粒子表面をTEM観察したところ、二層構造を有する厚さ17nmのシェル層が形成されていた。シェル層のSm/Fe比は最大4.9であり、N量は最大10原子%であった。さらにシェル層は外層と内層とから構成され、外層はSm、Fe、N、O及びCaを含むのに対し、内層はSm、Fe、N及びOを含むもののCaを含まず、外層Sm/Fe比(A)と内層Sm/Fe比(B)は、A>Bの関係を満足していた。
【0166】
[実施例9]
混合、還元拡散処理、解砕処理及び窒化熱処理を以下に示すように行った。それ以外は実施例1と同様にして希土類鉄窒素系磁性粉末を作製した。
【0167】
<混合工程>
粉砕混合物を作製する際に酸化サマリウムの混合量を10gとし、媒体攪拌ミル粉砕時間を調整した。酸化サマリウムの混合量は、SmFe17合金粉末100質量部に対して1質量部に相当した。それ以外は実施例1と同様にして混合を行った。粉砕混合物においてSmFe17合金粒子の最大粒径は4μm、酸化サマリウム粒子の最大粒径は0.3μmであった。粉砕混合物の組成は、Smが23.8質量%、Pが0.43質量%、Oが5.8質量%、Hが0.29質量%、残部Feであった。混合物全体の平均粒径(D50)は1.3μmであった。SmFe17合金粒子表面には厚さ5~10nmの燐酸系化合物被膜が形成されていた。さらに粉砕混合物の加熱減量(α)は0.3質量%であった。
【0168】
<還元拡散処理工程>
得られた粉砕混合物200gに還元剤34.9gを加えて混合した。還元剤として目開き1.0mm篩上かつ目開き2.0mm篩下の粒状金属カルシウム(Ca)を用いた。また還元剤の混合量は、粉砕混合物の酸素量から計算される還元必要量に対して1.2倍量とした。次いで混合物を鉄るつぼに入れてアルゴン(Ar)ガス雰囲気下で加熱し、1000℃で1時間保持した後に冷却した。これにより反応生成物(還元拡散反応生成物)を得た。
【0169】
<解砕処理工程>
回収した反応生成物を管状炉に入れて、炉内をアルゴン(Ar)ガスで置換した。その後、流量1L/分の水素(H)ガス気流中で150℃まで昇温し、30分間保持して冷却した。反応生成物は、昇温の130℃を超えたころから水素を吸収し、管状炉の内圧が最大-40kPaまで低下するとともに温度上昇が始まった。水素吸収による発熱が起こっている間は、炉内が負圧になるので管状炉の排気側のバルブを閉めて最大流量1L/分で水素ガスの供給を継続した。反応生成物の最大温度は150℃だった。冷却後、解砕処理した反応生成物を得た。
【0170】
<窒化熱処理工程>
解砕処理した反応生成物を流量200cc/分の窒素(N)ガス気流中で昇温し、470℃で20時間保持した後に冷却した。これにより窒化反応生成物を得た。
【0171】
得られた窒化反応生成物に対して、実施例1と同様にして湿式処理を施して磁性粉末を作製した。
【0172】
得られた希土類鉄窒素系磁性粉末をXRD法により分析したところ、ThZn17型結晶構造を有することが確認された。またXRDプロファイルにはThZn17型結晶構造のSmFe17のピークに加えてSmP相のピークが見られた。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は3.7μmであった。SEM観察したところ、実施例1と同様にサイズ数100nmから7μmの球状粒子の凝集が確認された。また粒子表面をTEM観察したところ、二層構造を有する厚み5nmのシェル層が形成されていた。シェル層のSm/Fe比は最大1.3であり、N量は最大6原子%であった。さらにシェル層は外層と内層とから構成され、外層はSm、Fe、N、O及びCaを含むのに対し、内層はSm、Fe、N及びOを含むもののCaを含まず、外層Sm/Fe比(A)と内層Sm/Fe比(B)は、A>Bの関係を満足していた。
【0173】
[比較例1]
還元拡散処理を710℃×2時間の条件で行った。それ以外は実施例1と同様にして磁性粉末を作製した。
【0174】
得られた希土類鉄窒素系磁性粉末をXRD法により分析したところ、ThZn17型結晶構造を有することが確認された。しかしながらそれ以外にα-Feの回折線も認められた。粒子表面をTEM観察したところ、シェル層は確認できなかった。
【0175】
[比較例2]
還元拡散処理を1100℃×1時間の条件で行った。また窒化熱処理の際に流量50cc/分のアンモニア(NH)ガスと流量100cc/分の水素(H)ガスとの混合ガスを使用し、窒化時間を3時間にした。それ以外は実施例1と同様にして磁性粉末を作製した。
【0176】
得られた希土類鉄窒素系磁性粉末をXRD法により分析したところ、ThZn17型結晶構造を有することが確認された。またSEM/EDS分析したところ、粒子間に粗大なSmFe相が確認された。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は10.4μmであった。粒子表面をTEM観察したところ、シェル層は確認できなかった。
【0177】
[比較例3]
粉砕混合物を作製する際に酸化サマリウムの混合量を220g(SmFe17合金粉末100質量部に対して22質量部に相当)に増やした。また還元拡散処理の際に粒状金属カルシウム(還元剤)の混合量を64.5g(粉砕混合物の酸素量から計算される還元必要量に対して3.3倍)にした。さらに窒化熱処理の際に流量50cc/分のアンモニア(NH)ガスと流量100cc/分の水素(H)ガスとの混合ガスを使用し、窒化時間を3時間にした。それ以外は実施例1と同様にして磁性粉末を作製した。
【0178】
粉砕混合物をSEM反射電子像で観察したところ、SmFe17合金粒子の最大粒径は12μm、酸化サマリウム粒子の最大粒径は1.4μmであった。粉砕混合物の組成は、Smが32.2質量%、Pが0.52質量%、Oが3.9質量%、Hが0.02質量%、残部Feであった。混合物全体の平均粒径(D50)は2.5μmであった。さらに粉砕混合物の加熱減量(α)は0.7質量%であった。
【0179】
得られた希土類鉄窒素系磁性粉末をXRD法により分析したところ、ThZn17型結晶構造を有することが確認された。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は3.3μmであった。SEM観察したところ、サイズ数100nmから8μmの球状粒子の凝集が確認された。またSEM観察ではSmP粒子に加えてSmFe窒化物相が多量に観察された。粒子表面をTEM観察したところ、シェル層が認められた。シェル層の厚さは32nm、Sm/Fe比は最大5.3であり、N量は最大で16原子%であった。
【0180】
[比較例4]
粉砕混合物を作製する際に酸化サマリウムの混合量を9g(SmFe17合金粉末100質量部に対して0.9質量部に相当)に減らした。また還元拡散処理の際に粒状金属カルシウム(還元剤)の混合量を36.1g(粉砕混合物の酸素量から計算される還元必要量に対して3.0倍)にした。それ以外は実施例1と同様にして磁性粉末を作製した。
【0181】
粉砕混合物をSEM反射電子像で観察したところ、SmFe17合金粒子の最大粒径は9μm、酸化サマリウム粒子の最大粒径は0.7μmであった。粉砕混合物の組成は、Smが24.4質量%、Pが0.51質量%、Oが2.4質量%、Hが0.01質量%、残部Feであった。混合物全体の平均粒径(D50)は2.1μmであった。さらに粉砕混合物の加熱減量(α)は0.3質量%であった。
【0182】
得られた希土類鉄窒素系磁性粉末をXRD法により分析したところ、ThZn17型結晶構造を有することが確認された。しかしながらそれ以外にα-Feの強い回折線も認められた。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は4.6μmであった。SEM観察したところ、サイズ数100nmから7μmの球状粒子の凝集が確認された。粒子表面をTEM観察したところ、シェル層は確認できなかった。
【0183】
[比較例5]
窒化熱処理を290℃×24時間の条件で行った。それ以外は実施例1と同様にして磁性粉末を作製した。
【0184】
得られた希土類鉄窒素系磁性粉末をXRD法により分析したところ、ThZn17型結晶構造を有することが確認された。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は4.8μmであった。SEM観察したところ、サイズ数100nmから7μmの球状粒子の凝集が確認された。粒子表面をTEM観察したところ、二層構造のシェル層が形成されていたがN量はバックグラウンドレベルであった。
【0185】
[比較例6]
窒化熱処理を510℃×3時間の条件で行った。また窒化熱処理の際に流量50cc/分のアンモニア(NH)ガスと流量100cc/分の水素(H)ガスとの混合ガスを使用した。それ以外は実施例1と同様にして磁性粉末を作製した。
【0186】
得られた希土類鉄窒素系磁性粉末をXRD法により分析したところ、ThZn17型の結晶構造を有することが確認された。しかしながらそれ以外にα-Feの強い回折線も認められた。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は3.1μmであった。SEM観察したところ、サイズ数100nmから6μmの球状粒子の凝集が確認された。粉末中の粒子表面をTEM観察したところ、二層構造のシェル層が形成されていたがN量は最大で14原子%だった。
【0187】
[比較例7]
粉砕混合物を作製する際に媒体攪拌ミルの粉砕時間を調整した。また還元拡散処理の際に粒状金属カルシウム(還元剤)の混合量を38.8g(粉砕混合物の酸素量から計算される還元必要量に対して2.5倍)とした。それ以外は実施例1と同様にして磁性粉末を作製した。
【0188】
粉砕混合物においてSmFe17合金粒子の最大粒径は18μm、酸化サマリウム粒子の最大粒径は2.8μmであった。粉砕混合物の組成は、Smが29.0質量%、Pが0.55質量%、Oが3.1質量%、Hが0.009質量%、残部Feであった。混合物全体の平均粒径(D50)は3.7μmであった。さらに粉砕混合物の加熱減量(α)は0.05質量%であった。
【0189】
得られた希土類鉄窒素系磁性粉末をXRD法により分析したところ、ThZn17型結晶構造を有することが確認された。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は8.1μmであった。SEM観察したところ、サイズ1μmから10μmの球状粒子の凝集が確認された。粒子表面をTEM観察したところ、シェル層の形成されている部分と形成されていない部分が見られた。そのためシェル層の形成にばらつきがあった。
【0190】
[比較例8]
還元拡散処理の際に粒状金属カルシウム(還元剤)の混合量を18.5g(粉砕混合物の酸素量から計算される還元必要量に対して1.0倍)にした。それ以外は実施例1と同様にして磁性粉末を作製した。
【0191】
得られた希土類鉄窒素系磁性粉末をXRD法により分析したところ、ThZn17型結晶構造を有することが確認された。しかしながらそれ以外にα-Feの強い回折線も認められた。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は7.3μmであった。SEM観察したところ、サイズ数100nmから8μmの球状粒子の凝集が確認された。また粒子表面をTEM観察したところ、シェル層は確認できなかった。
【0192】
[比較例9]
還元拡散処理の際に粒状金属カルシウム(還元剤)の混合量を202.1g(粉砕混合物の酸素量から計算される還元必要量に対して10.9倍)にした。それ以外は実施例1と同様にして磁性粉末を作製した。
【0193】
得られた希土類鉄窒素系磁性粉末をXRD法により分析したところ、ThZn17型結晶構造を有することが確認された。しかしながらそれ以外にα-Feの強い回折線も認められた。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は9.2μmであった。SEM観察したところ、サイズ数100nmから10μmの球状粒子の凝集が確認された。粒子表面をTEM観察したところ、シェル層は確認できなかった。
【0194】
[比較例10]
市販のSmFe17磁性粉末(住友金属鉱山株式会社製、SFN合金 微粉B)を用意し、その特性を評価した。耐熱性を調べたところ、加熱前の保磁力(H)は844kA/m、加熱後の保磁力(Hc、300)は407kA/mであり、維持率(Hc,300/H)は48%であった。
【0195】
[比較例11]
解砕処理工程での水素ガス流量を10L/分とした。それ以外は実施例2と同様にして磁性粉末を作製した。解砕処理工程では、反応生成物は昇温の118℃を超えたころから水素を吸収したが、水素ガスの供給量を多くしているため炉内が負圧になることはなかった。反応生成物の発熱は激しく、その最大温度は370℃だった。
【0196】
得られた希土類鉄窒素系磁性粉末をXRD法により分析したところ、ThZn17型の結晶構造を有することが確認された。しかしながらそれ以外にα-Feの回折線も認められた。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は2.9μmであった。SEM観察したところ、サイズ数100nmから5μmの球状粒子の凝集が確認された。粉末中の粒子表面をTEM観察したところ、二層構造のシェル層が形成されていたが、それとは別にコア部表面にα-Feと思われる微細析出物が確認された。
【0197】
【表1】
【0198】
(3)評価結果
実施例1~12の希土類鉄窒素系磁性粉末は、サマリウム(Sm)、鉄(Fe)及び窒素(N)を主構成成分とし、サマリウム(Sm)量が23.2~29.9質量%、窒素(N)量が2.8~3.9質量%であった。この磁性粉末はThZn17型結晶構造を有し、その平均粒径が2.8~9.1μmであった。さらにこの磁性粉末は、Sm/Fe原子比が0.5~4.9であり、窒素(N)を3~10原子%含み、かつ厚みが2~22nmのシェル層を粒子表面に有していた。この磁性粉末は90Am/kg以上の残留磁化(σ)と754kA/m以上の保磁力(H)を有し、保磁力の維持率(Hc,300/H)が71%以上であった。この磁性粉末は高い耐熱性を示していた。
【0199】
これに対して、比較例1の磁性粉末は、製造時の還元拡散温度(710℃)が730℃より低温であるため、シェル層が形成された部分が認められず、耐熱試験に基づく保磁力の維持率(43%)が70%より劣っていた。また、比較例2の磁性粉末は、製造時の還元拡散温度(1100℃)が1050℃より高温であるため、その平均粒径(10.4μm)が10μmを超え、保磁力(420kA/m)が低く、保磁力の維持率(55%)が70%より劣っていた。
【0200】
比較例3の磁性粉末は、製造時の酸化サマリウム混合量(SmFe17合金粉末100質量部に対して22質量部)が20質量部を超えたものである。そのためサマリウム量(32.2質量%)が30質量%を超え、かつ窒素量(5.2質量%)が4.0質量%を超えていた。また粉末にはSmFe相窒化物が多く観察された。その結果、シェル層の厚み(32nm)が30nmを超え、またSm/Fe原子比(5.3)が5.0を超えて、残留磁化(50Am/kg)が低くかった。また比較例4の磁性粉末は、製造時の酸化サマリウム混合量(SmFe17合金粉末100質量部に対して0.9質量部)が1質量部を下回ったものである。そのためサマリウム量(21.9質量%)が22質量%未満であった。その結果、シェル層は認められず、残留磁化(43Am/kg)及び保磁力(283kA/m)が低くかった。
【0201】
比較例5の磁性粉末は、製造時の窒化温度(290℃)と300℃を下回ったものである。そのため窒素量(1.7質量%)が2.5質量%未満であった。またシェル層は認められたものの、シェル層中の窒素はTEM/EDS検出器のバックグラウンドレベルであった。その結果、磁性粉末の残留磁化(39Am/kg)及び保磁力(109kA/m)が低くかった。比較例6の磁性粉末は、製造時の窒化温度(510℃)が500℃を超えたものである。磁性粉末の窒素量(5.3質量%)が4.0質量%を超え、残留磁化(48Am/kg)及び保磁力(227kA/m)が低くかった。
【0202】
比較例7の磁性粉末は、原料中のSmFe17合金粉末の最大粒径(18μm)が15μmを超え、また酸化サマリウム粉末の最大粒径(2.8μm)が2μmを超えたものである。そのためシェル層が観察された粒子と観察されない粒子があり、シェル層の形成にばらつきがあった。これは原料粉末のそれぞれの粒子径が粗く、還元拡散工程で還元されたサマリウムが原料中に浸透する際にムラが生じたためと考えられる。その結果、残留磁化(77Am/kg)及び保磁力(491kA/m)が低くかった。保磁力の維持率(47%)は70%より低く、耐熱性に劣っていた。
【0203】
比較例8の磁性粉末は、金属カルシウム配合量(当量に対して1.0倍)が1.1倍を下回った。そのため磁性粉末のサマリウム量(21.7質量%)が22質量%を下回り、窒素(N)量(2.3質量%)も2.5質量%を下回った。残留磁化(53Am/kg)及び保磁力(173kA/m)が低くかった。またシェル層は認められなかった。保磁力の維持率(36%)が70%より大幅に低く、耐熱性に劣っていた。比較例9の磁性粉末は、金属カルシウムの配合量(当量に対して10.9倍)が10倍を超えた。そのため磁性粉末のサマリウム量(21.5質量%)が22質量%を下回り、窒素量(1.9質量%)も2.5質量%を下回った。カルシウム量が多すぎて、サマリウムの拡散が阻害されたものと思われる。残留磁化(48Am/kg)及び保磁力(93kA/m)が低くかった。またシェル層は認められなかった。保磁力の維持率(43%)は70%より低く、耐熱性に劣っていた。
【0204】
従来例たる市販のSmFe17磁性粉末を用いた比較例10は、保磁力の維持率(48%)が70%より低かった。
【0205】
比較例11の磁性粉末は、解砕処理工程で、十分な水素供給によって炉内が負圧になることなく、また反応生成物が急激な水素吸収により激しく発熱し、その温度が300℃をはるかに超えて370℃に至ったものである。磁性粉末全体としてのサマリウム量、窒素(N)量、燐(P)量は実施例2と変わらないものの、平均粒径が2.9μmと小さくなり、磁化曲線の角形性が低下して残留磁化(85Am/kg)、保磁力(1007kA/m)と実施例2に比べて低下した。これは析出が確認されたα-Feによるものと思われる。また保磁力の維持率(68%)は70%より低く、耐熱性に劣っていた。
【0206】
【表2】

図1
図2
図3
図4
図5
図6