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特開2022-177708劣化検出装置及び劣化検出プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177708
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】劣化検出装置及び劣化検出プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/26 20200101AFI20221124BHJP
   G01N 27/00 20060101ALI20221124BHJP
   G01N 27/04 20060101ALI20221124BHJP
   G01R 31/00 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
G01R31/26 F
G01N27/00 L
G01N27/04 Z
G01R31/00
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084139
(22)【出願日】2021-05-18
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 理沙
(72)【発明者】
【氏名】馬場 好孝
(72)【発明者】
【氏名】亀井 宏美
(72)【発明者】
【氏名】片山 昇
(72)【発明者】
【氏名】佐野 慎太朗
【テーマコード(参考)】
2G003
2G036
2G060
【Fターム(参考)】
2G003AA06
2G003AB01
2G003AB06
2G003AE09
2G003AF02
2G003AF03
2G003AH01
2G003AH04
2G003AH10
2G036AA03
2G036AA24
2G036BA37
2G036BA46
2G036BB08
2G036CA06
2G036CA08
2G036CA10
2G060AA09
2G060AE26
2G060AF03
2G060AF07
2G060EA08
2G060HC15
2G060HD03
(57)【要約】
【課題】太陽電池モジュールにおけるPID現象の発生を、より早期に発見することができる劣化検出装置及び劣化検出プログラムを得る。
【解決手段】劣化検出装置10は、太陽電池モジュールに対する交流インピーダンスの測定結果から得られるナイキスト線図を再現可能で、かつ、並列抵抗を有する、当該太陽電池モジュールの交流回路モデルを取得する取得部11Aと、取得部11Aによって取得された交流回路モデルにおける並列抵抗の抵抗値の低下の状況から、PID現象の発生を検出する検出部11Bと、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池モジュールに対する交流インピーダンスの測定結果から得られるナイキスト線図を再現可能で、かつ、並列抵抗を有する、当該太陽電池モジュールの交流回路モデルを取得する取得部と、
前記取得部によって取得された交流回路モデルにおける前記並列抵抗の抵抗値の低下の状況から、PID現象の発生を検出する検出部と、
を備えた劣化検出装置。
【請求項2】
前記検出部は、前記抵抗値が予め定められた閾値以下となった場合に、前記PID現象が発生したと検出する、
請求項1に記載の劣化検出装置。
【請求項3】
前記検出部は、前記抵抗値の初期値との差分が予め定められた閾値以上となった場合に、前記PID現象が発生したと検出する、
請求項1に記載の劣化検出装置。
【請求項4】
前記検出部による検出結果を提示する提示部、
を更に備えた請求項1~請求項3の何れか1項に記載の劣化検出装置。
【請求項5】
太陽電池モジュールに対する交流インピーダンスの測定結果から得られるナイキスト線図を再現可能で、かつ、並列抵抗を有する、当該太陽電池モジュールの交流回路モデルを取得し、
取得した交流回路モデルにおける前記並列抵抗の抵抗値の低下の状況から、PID現象の発生を検出する、
処理をコンピュータに実行させる劣化検出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、劣化検出装置及び劣化検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池モジュールにおけるPID(Potential Induced Degradation、電圧誘起出力低下)現象の発生を検出することができる技術として、従来、次の技術があった。
【0003】
特許文献1には、エレクトロルミネッセンス(EL)を利用した太陽電池パネルの検査装置が開示されている。この検査装置は、前記太陽電池パネルに交流を印加するための交流電力を発生する交流電源と、前記太陽電池パネルの表面を撮影するカメラと、を備えている。そして、この検査装置は、前記交流電力が、前記太陽電池パネルにEL発光を誘起させる交流のインピーダンスが1kΩ以上となるように設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-105680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術によるEL発光の明るさの低下からPID現象の発生を検出する場合、太陽電池モジュールのPID現象が発生する初期の段階のEL発光の明るさの低下が極微弱であるため、PID現象の早期の発見が困難である、という問題点があった。
【0006】
本発明は、以上の事情に鑑みて成されたものであり、太陽電池モジュールにおけるPID現象の発生を、より早期に発見することができる劣化検出装置及び劣化検出プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の劣化検出装置は、太陽電池モジュールに対する交流インピーダンスの測定結果から得られるナイキスト線図を再現可能で、かつ、並列抵抗を有する、当該太陽電池モジュールの交流回路モデルを取得する取得部と、前記取得部によって取得された交流回路モデルにおける前記並列抵抗の抵抗値の低下の状況から、PID現象の発生を検出する検出部と、を備える。
【0008】
請求項1に記載の劣化検出装置によれば、太陽電池モジュールに対する交流インピーダンスの測定結果から得られるナイキスト線図を再現可能で、かつ、並列抵抗を有する、当該太陽電池モジュールの交流回路モデルを取得し、取得した交流回路モデルにおける並列抵抗の抵抗値の低下の状況から、PID現象の発生を検出することで、太陽電池モジュールにおけるPID現象の発生を、より早期に発見することができる。
【0009】
請求項2に記載の劣化検出装置は、請求項1に記載の劣化検出装置であって、前記検出部が、前記抵抗値が予め定められた閾値以下となった場合に、前記PID現象が発生したと検出する。
【0010】
請求項2に記載の劣化検出装置によれば、上記抵抗値が予め定められた閾値以下となった場合に、PID現象が発生したと検出することで、上記抵抗値の初期値との差分が予め定められた閾値以上となった場合に、PID現象が発生したと検出する場合に比較して、より簡易に、太陽電池モジュールにおけるPID現象の発生を発見することができる。
【0011】
請求項3に記載の劣化検出装置は、請求項1に記載の劣化検出装置であって、前記検出部が、前記抵抗値の初期値との差分が予め定められた閾値以上となった場合に、前記PID現象が発生したと検出する。
【0012】
請求項3に記載の劣化検出装置によれば、上記抵抗値の初期値との差分が予め定められた閾値以上となった場合に、PID現象が発生したと検出することで、上記抵抗値が予め定められた閾値以下となった場合に、PID現象が発生したと検出する場合に比較して、より高精度に、太陽電池モジュールにおけるPID現象の発生を発見することができる。
【0013】
請求項4に記載の劣化検出装置は、請求項1~請求項3の何れか1項に記載の劣化検出装置であって、前記検出部による検出結果を提示する提示部、を更に備える。
【0014】
請求項4に記載の劣化検出装置によれば、上記検出結果を提示することで、当該検出結果を容易に把握させることができる。
【0015】
請求項5に記載の劣化検出プログラムは、太陽電池モジュールに対する交流インピーダンスの測定結果から得られるナイキスト線図を再現可能で、かつ、並列抵抗を有する、当該太陽電池モジュールの交流回路モデルを取得し、取得した交流回路モデルにおける前記並列抵抗の抵抗値の低下の状況から、PID現象の発生を検出する、処理をコンピュータに実行させるものである。
【0016】
請求項5に記載の劣化検出プログラムによれば、太陽電池モジュールに対する交流インピーダンスの測定結果から得られるナイキスト線図を再現可能で、かつ、並列抵抗を有する、当該太陽電池モジュールの交流回路モデルを取得し、取得した交流回路モデルにおける並列抵抗の抵抗値の低下の状況から、PID現象の発生を検出することで、太陽電池モジュールにおけるPID現象の発生を、より早期に発見することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、太陽電池モジュールにおけるPID現象の発生を、より早期に発見することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係る劣化検出装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図2】実施形態に係る劣化検出装置の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
図3】実施形態に係る劣化検出装置で太陽電池モジュールの交流インピーダンスを測定する際の全体的な構成の一例を示す概略図である。
図4】実施形態に係る太陽電池モジュールの構造の一例を示す側面断面図である。
図5】実施形態に係る計測情報データベースの構成の一例を示す模式図である。
図6】故意にPID現象を発生させた太陽電池モジュールを対象とした従来のEL発光の測定による、PID現象の発生の検出状態の一例を示す正面図である。
図7】故意にPID現象を発生させた太陽電池モジュールを対象としたダークI-V測定による、PID現象の進行に伴うI-V曲線の推移の一例を示すグラフである。
図8】故意にPID現象を発生させた太陽電池モジュールを対象とした交流インピーダンス測定による、PID現象の進行に伴うナイキスト線図の推移の一例を示すグラフである。
図9図8に示したナイキスト線図の、より詳細な推移の一例を示すグラフである。
図10】交流回路モデルの一例を示す回路図である。
図11】交流インピーダンスを用いて得られた交流回路モデルの各部の抵抗値の経時的な推移の一例を示すグラフである。
図12】実施形態に係る劣化検出処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図13】実施形態に係る劣化提示画面の構成の一例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態例を詳細に説明する。なお、ここでは、本発明を、汎用的なパーソナル・コンピュータ、サーバコンピュータ等により構成された情報処理装置に適用した場合について説明する。
【0020】
まず、図1及び図2を参照して、本実施形態に係る劣化検出装置10の構成を説明する。図1は、本実施形態に係る劣化検出装置10のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。また、図2は、本実施形態に係る劣化検出装置10の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【0021】
図1に示すように、本実施形態に係る劣化検出装置10は、CPU(Central Processing Unit)11、一時記憶領域としてのメモリ12、不揮発性の記憶部13、キーボードとマウス等の入力部14、液晶ディスプレイ等の表示部15、媒体読み書き装置(R/W)16及び通信インタフェース(I/F)部18を備えている。CPU11、メモリ12、記憶部13、入力部14、表示部15、媒体読み書き装置16及び通信I/F部18はバスBを介して互いに接続されている。媒体読み書き装置16は、記録媒体17に書き込まれている情報の読み出し及び記録媒体17への情報の書き込みを行う。
【0022】
記憶部13はHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等によって実現される。記憶媒体としての記憶部13には、劣化検出プログラム13Aが記憶されている。劣化検出プログラム13Aは、劣化検出プログラム13Aが書き込まれた記録媒体17が媒体読み書き装置16にセットされ、媒体読み書き装置16が記録媒体17からの劣化検出プログラム13Aの読み出しを行うことで記憶部13へ記憶(インストール)される。CPU11は、劣化検出プログラム13Aを記憶部13から読み出してメモリ12に展開し、劣化検出プログラム13Aが有するプロセスを順次実行する。
【0023】
また、記憶部13には、計測情報データベース13Bが記憶される。計測情報データベース13Bについては、詳細を後述する。
【0024】
一方、図1に示すように、本実施形態に係る劣化検出装置10の通信I/F部18には、太陽電池モジュールの交流インピーダンスを測定するための周波数特性分析器30が接続されている。従って、CPU11は、周波数特性分析器30による測定結果を示す情報を、通信I/F部18を介して取得することができる。なお、周波数特性分析器30については、詳細を後述する。
【0025】
次に、図2を参照して、本実施形態に係る劣化検出装置10の機能的な構成について説明する。
【0026】
図2に示すように、本実施形態に係る劣化検出装置10は、取得部11A、検出部11B、及び提示部11Cを含む。劣化検出装置10のCPU11が劣化検出プログラム13Aを実行することで、取得部11A、検出部11B、及び提示部11Cとして機能する。
【0027】
本実施形態に係る取得部11Aは、太陽電池モジュールに対する交流インピーダンスの測定結果から得られるナイキスト線図を再現可能で、かつ、並列抵抗を有する、当該太陽電池モジュールの交流回路モデルを取得する。
【0028】
また、本実施形態に係る検出部11Bは、取得部11Aによって取得された交流回路モデルにおける並列抵抗の抵抗値の低下の状況から、PID現象の発生を検出する。なお、本実施形態に係る検出部11Bは、上記抵抗値の初期値との差分が予め定められた閾値以上となった場合に、PID現象が発生したと検出するものとされているが、これに限るものではない。例えば、検出部11Bは、上記抵抗値が予め定められた閾値以下となった場合に、PID現象が発生したと検出する形態としてもよい。
【0029】
そして、本実施形態に係る提示部11Cは、検出部11Bによる検出結果を提示する。なお、本実施形態では、提示部11Cが、検出部11Bによる検出結果を表示部15による表示により提示する場合について説明するが、これに限定されない。例えば、スピーカ等の音声生成装置による音声によって上記検出結果を提示する形態としてもよいし、プリンタ等の画像形成装置による印刷によって上記検出結果を提示する形態としてもよい。
【0030】
次に、図3を参照して、本実施形態に係る劣化検出装置10により、周波数特性分析器30を用いて太陽電池モジュールの交流インピーダンスを測定する場合の構成を説明する。図3は、本実施形態に係る劣化検出装置10で太陽電池モジュールの交流インピーダンスを測定する際の全体的な構成の一例を示す概略図である。
【0031】
図3に示すように、本実施形態では、交流インピーダンスの測定対象とする太陽電池モジュール20に各々接続される、周波数特性分析器30と、バイポーラ電源40と、を用いて、太陽電池モジュール20の交流インピーダンスを測定する。なお、周波数特性分析器は、正弦波信号を被測定物に印加して、その周波数応答を求める装置であり、FRA(Frequency Response Analyzer)とも呼ばれている。また、バイポーラ電源は、1象限から4象限の全領域で動作することができる電源である。
【0032】
図3に示すように、本実施形態では、太陽電池モジュール20とバイポーラ電源40とが、一方の接続線がシャント抵抗Rshを介し、かつ、他方の接続線が直接、各々接続される。また、周波数特性分析器30の正弦波信号Vsigを出力する出力端子は、バイポーラ電源40の入力端子に接続され、周波数特性分析器30は、バイポーラ電源40から太陽電池モジュール20に供給される出力信号(交流電流)を制御する。
【0033】
周波数特性分析器30の交流電圧の測定用の入力端子は、太陽電池モジュール20とバイポーラ電源40との間の2本の接続線に接続され、周波数特性分析器30の交流電流の測定用の入力端子は、シャント抵抗Rshの両端に接続される。従って、周波数特性分析器30は、自身の制御のもとで、太陽電池モジュール20にバイポーラ電源40から入力した交流電流の各種周波数と、入力された交流電圧及び交流電流とを用いて、太陽電池モジュール20の交流インピーダンスを測定することができる。なお、交流インピーダンスの測定方法は従来既知であるため、これ以上の説明は省略する。
【0034】
一方、上述したように、周波数特性分析器30は劣化検出装置10に接続されており、劣化検出装置10は、周波数特性分析器30の作動の制御、及び当該制御によって周波数特性分析器30により測定された太陽電池モジュール20の交流インピーダンスを示す情報(以下、「交流インピーダンス情報」という。)の受信を、各々行うことができる。
【0035】
次に、図4を参照して、本実施形態に係る太陽電池モジュール20の構造について説明する。図4は、本実施形態に係る太陽電池モジュール20の構造の一例を示す側面断面図である。
【0036】
図4に示すように、本実施形態に係る太陽電池モジュール20は、複数の太陽電池セル21が平面視マトリクス状に配置されており、太陽電池セル21の各々は金属導体22により接続されている。また、太陽電池セル21及び金属導体22は、シリコン樹脂等によって構成された充填材である封止材23によって封止されている。そして、封止材23は、ガラス、フィルム等により構成されたフロントカバー24と、多積層膜等により構成されたバックカバー25との間に、アルミフレーム26によって挟み込まれている。
【0037】
但し、対象とする太陽電池モジュールは図4に示したものに限定されるものではなく、他の構造とされた太陽電池モジュールを対象とすることもできることは言うまでもない。
【0038】
次に、図5を参照して、本実施形態に係る計測情報データベース13Bについて説明する。図5は、本実施形態に係る計測情報データベース13Bの構成の一例を示す模式図である。
【0039】
図5に示すように、本実施形態に係る計測情報データベース13Bは、経過時間及び抵抗値の各情報が関連付けられて記憶される。
【0040】
上記経過時間は、太陽電池モジュール20の交流インピーダンスの計測開始時からの経過時間を示す情報であり、上記抵抗値は、対応する経過時間において計測された、詳細を後述する太陽電池モジュール20の交流回路モデルにおける並列抵抗の抵抗値を示す情報である。なお、上記抵抗値は、後述する劣化検出処理(図12も参照。)によって登録されるものであるため、詳細は後述する。
【0041】
次に、図6図11を参照して、本実施形態に係る劣化検出装置10による太陽電池モジュールのPID現象の検出の原理について説明する。
【0042】
図6には、アルミ法によるPID加速試験により故意にPID現象を発生させた太陽電池モジュールを対象とした従来のEL発光の測定による、PID現象の発生の検出状態の一例を示す正面図が示されている。なお、図6における右図は使用開始時(図6では「新品」と表記)の太陽電池モジュールにおけるEL発光の状態を示し、左図は当該太陽電池モジュールの使用開始時から30時間が経過した時点のEL発光の状態を示している。
【0043】
図6に示すように、使用開始時と、当該使用開始時から30時間経過した時点とのEL発光を比較しても明確な明るさの差異が見られず、EL発光を利用した手法では、このような初期段階のPID現象を捉えることは著しく困難である。
【0044】
そこで、本発明の発明者らは、初期段階のPID現象の発生を検出する手法の確立を目的として、以下に示す検討を行った。
【0045】
まず、本発明の発明者らは、アルミ法によるPID加速試験により故意にPID現象を生じさせた太陽電池モジュールを対象としてダークI-V測定を行った。図7には、当該ダークI-V測定による、PID現象の進行に伴うI-V曲線の推移の一例を示すグラフが示されている。なお、図7では、使用開始時、使用開始時から2時間経過後、6時間経過後、19時間経過後、30時間経過後、及び72時間経過後の測定結果が示されている。
【0046】
図7に示すように、使用開始時からの経過時間が増加するに従ってI-V曲線が右側から左方向に移動しており、ダークI-V測定によってもPID現象の検出は可能であることが判明した。しかし、使用開始時から2時間経過した時点や、6時間経過した時点では、使用開始時からの明確な変化は見られなかった。
【0047】
次に、本発明の発明者らは、アルミ法によるPID加速試験により故意にPID現象を生じさせた太陽電池モジュールを対象として交流インピーダンスの計測結果を用いたナイキスト線図を作成した。図8には、当該交流インピーダンスの計測による、PID現象の進行に伴うナイキスト線図の推移の一例を示すグラフが示されている。なお、図8では、使用開始時(図8では「新品」と表記)、使用開始時から2時間経過後、及び30時間経過後のナイキスト線図が示されている。ナイキスト線図は、交流インピーダンスの実数部をX軸上の値とし、虚数部をY軸上の値として線図化したものであるが、従来既知であるので、これ以上の説明は省略する。
【0048】
図8に示すように、この場合、使用開始時から30時間経過したナイキスト線図は勿論のこと、2時間経過後のナイキスト線図についても、使用開始時のナイキスト線図とは明確な違いが見られた。なお、図9には、図8に示したナイキスト線図の、より詳細な推移の一例を示すグラフが示されているが、この図においても、使用開始時から30分経過した時点のナイキスト線図においても、使用開始時のナイキスト線図とは明確な違いが見られた。
【0049】
そこで、本発明の発明者らは、作成したナイキスト線図を再現可能で、かつ、並列抵抗を有する回路構成を選択してフィッティングし、各素子の値を算出することで交流回路モデルを導出した。図10には、導出した交流回路モデルの一例を示す回路図が示されている。
【0050】
そして、本発明の発明者らは、作成した交流回路モデルにおける抵抗Rd及び抵抗Rshにより構成される並列抵抗Rpの抵抗値(合成抵抗値)と、抵抗Rppの抵抗値と、の時間経過に伴う推移をグラフで表した。図11には、当該グラフの一例が示されている。なお、図11における「+1000V」及び「-1000V」は、交流インピーダンスの測定時における太陽電池モジュールへの印加電圧を表す。
【0051】
図11に示すように、並列抵抗Rpの抵抗値は、太陽電池モジュールへの印加電圧の正負に関わらず、使用開始時から2時間経過した時点では、大きく減少していることが判明した。
【0052】
以上の検討の結果により、本実施形態に係る劣化検出装置10では、並列抵抗Rpの値を用いて太陽電池モジュールのPID現象の発生を検出するものとしている。
【0053】
次に、図12図13を参照して、本実施形態に係る劣化検出装置10の作用を説明する。図12は、本実施形態に係る劣化検出処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0054】
ユーザによって劣化検出プログラム13Aの実行を開始する指示入力が入力部14を介して行われた場合に、劣化検出装置10のCPU11が当該劣化検出プログラム13Aを実行することにより、図12に示す劣化検出処理が実行される。ユーザは、劣化検出処理の実行に先立ち、PID現象の検出対象とする太陽電池モジュール20を対象として、一例として図3に示す構成を構築した後、上記指示入力を行う。
【0055】
図12のステップ100で、CPU11は、周波数特性分析器30に対して、太陽電池モジュール20の交流インピーダンスの計測を開始させる制御を行う。この制御により、周波数特性分析器30は、交流インピーダンス情報の劣化検出装置10への送信を開始する。
【0056】
そこで、ステップ102で、CPU11は、周波数特性分析器30から受信した交流インピーダンス情報を用いて、上述したように、並列抵抗Rpを有する交流回路モデルを作成する。ステップ104で、CPU11は、作成した交流回路モデルにおける並列抵抗Rpの抵抗値を算出する。
【0057】
ステップ106で、CPU11は、算出した並列抵抗Rpの抵抗値を、本劣化検出処理の開始時点から、この時点までの経過時間を示す情報と共に、計測情報データベース13Bに記憶(登録)する。ステップ108で、CPU11は、予め定められた時間(本実施形態では、5分)が経過するまで待機する。
【0058】
ステップ110で、CPU11は、本劣化検出処理の開始時点からの、直前のステップ106の処理による抵抗値の計測情報データベース13Bへの登録回数が2回目以降であるか否かを判定し、否定判定となった場合はステップ120に移行する。また、当該判定が肯定判定となった場合はステップ112に移行する。
【0059】
ステップ112で、CPU11は、計測情報データベース13Bに最初に登録した抵抗値と、直前のステップ106の処理によって計測情報データベース13Bに登録した抵抗値との差分Dを算出する。ステップ114で、CPU11は、算出した差分Dが予め定められた閾値以上であるか否かを判定し、否定判定となった場合はステップ120に移行する一方、肯定判定となった場合はステップ116に移行する。本実施形態では、上記閾値として、差分Dが当該値以上となった場合に、太陽電池モジュール20にPID現象が生じたと見なすことができる値として、太陽電池モジュール20と同種の太陽電池モジュールを用いた実験等によって予め得られた値を適用している。但し、この形態に限るものではなく、例えば、劣化検出装置10に求められるPID現象の発生の検出精度や、劣化検出装置10の用途等に応じて、ユーザに対して上記閾値を予め入力させる形態としてもよい。
【0060】
ステップ116で、CPU11は、差分Dを算出する際に用いた抵抗値を用いて、予め定められた構成とされた劣化提示画面を表示するように表示部15を制御し、ステップ118で、CPU11は、所定情報が入力されるまで待機する。
【0061】
図13には、本実施形態に係る劣化提示画面の一例が示されている。図13に示すように、本実施形態に係る劣化提示画面では、太陽電池モジュール20にPID現象が生じている可能性がある旨を示すメッセージが表示されると共に、差分Dを算出する際に用いた2種類の抵抗値が表示される。従って、ユーザは、劣化提示画面を参照することで、太陽電池モジュール20にPID現象が生じている可能性があることを把握することができると共に、表示されている抵抗値から、この時点における太陽電池モジュール20の劣化の程度等を予測することができる。
【0062】
一例として図13に示す劣化提示画面が表示部15に表示されると、ユーザは、表示内容を把握した後、入力部14を介して終了ボタン15Cを指定する。これに応じて、ステップ118が肯定判定となって、ステップ122に移行する。
【0063】
一方、ステップ120で、CPU11は、予め定められた終了タイミングが到来したか否かを判定し、否定判定となった場合はステップ102に戻る一方、肯定判定となった場合はステップ122に移行する。なお、本実施形態では、上記終了タイミングとして、予めユーザによって設定された時間(例えば、2時間)が経過したタイミングを適用しているが、これに限るものではないことは言うまでもない。
【0064】
ステップ122で、CPU11は、周波数特性分析器30に対して交流インピーダンスの計測を停止させる制御を行い、その後に本劣化検出処理を終了する。
【0065】
以上説明したように、本実施形態によれば、太陽電池モジュールに対する交流インピーダンスの測定結果から得られるナイキスト線図を再現可能で、かつ、並列抵抗を有する、当該太陽電池モジュールの交流回路モデルを取得し、取得した交流回路モデルにおける並列抵抗の抵抗値の低下の状況から、PID現象の発生を検出している。従って、太陽電池モジュールにおけるPID現象の発生を、より早期に発見することができる。
【0066】
また、本実施形態によれば、上記抵抗値の初期値との差分が予め定められた閾値以上となった場合に、PID現象が発生したと検出している。従って、上記抵抗値そのものが予め定められた閾値以下となった場合に、PID現象が発生したと検出する場合に比較して、より高精度に、太陽電池モジュールにおけるPID現象の発生を発見することができる。
【0067】
さらに、本実施形態によれば、上記検出結果を提示している。従って、当該検出結果を容易に把握させることができる。
【0068】
なお、上記実施形態では、並列抵抗Rpの抵抗値の計測開始時からの変化量(差分D)を用いてPID現象の発生の有無を検出する場合について説明したが、これに限定されない。例えば、並列抵抗Rpの抵抗値の変化率を用いてPID現象の発生の有無を検出するする形態としてもよく、上述したように、並列抵抗Rpの抵抗値そのものが予め定められた閾値以下となった場合に、PID現象が発生したと検出する形態としてもよい。並列抵抗Rpの抵抗値そのものを用いる形態では、上記変化量や変化率を用いてPID現象の発生を検出する場合に比較して、より簡易に、太陽電池モジュールにおけるPID現象の発生を発見することができる。
【0069】
また、上記実施形態において、例えば、取得部11A、検出部11B、及び提示部11Cの各処理を実行する処理部(processing unit)のハードウェア的な構造としては、次に示す各種のプロセッサ(processor)を用いることができる。上記各種のプロセッサには、前述したように、ソフトウェア(プログラム)を実行して処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPUに加えて、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が含まれる。
【0070】
処理部は、これらの各種のプロセッサのうちの1つで構成されてもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGAの組み合わせや、CPUとFPGAとの組み合わせ)で構成されてもよい。また、処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。
【0071】
処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、クライアント及びサーバ等のコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)等に代表されるように、処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサの1つ以上を用いて構成される。
【0072】
更に、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造としては、より具体的には、半導体素子などの回路素子を組み合わせた電気回路(circuitry)を用いることができる。
【符号の説明】
【0073】
10 劣化検出装置
11 CPU
11A 取得部
11B 検出部
11C 提示部
12 メモリ
13 記憶部
13A 劣化検出プログラム
13B 計測情報データベース
14 入力部
15 表示部
15C 終了ボタン
16 媒体読み書き装置
17 記録媒体
18 通信I/F部
20 太陽電池モジュール
21 太陽電池セル
22 金属導体
23 封止材
24 フロントカバー
25 バックカバー
26 アルミフレーム
30 周波数特性分析器
40 バイポーラ電源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図13