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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177730
(43)【公開日】2022-12-01
(54)【発明の名称】希土類遷移金属合金粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/04 20060101AFI20221124BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20221124BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20221124BHJP
【FI】
B22F9/04 E
B22F9/04 D
H01F41/02 G
C22C38/00 303D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084167
(22)【出願日】2021-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】石川 尚
【テーマコード(参考)】
4K017
5E062
【Fターム(参考)】
4K017AA02
4K017BA06
4K017BB12
4K017BB13
4K017CA07
4K017DA02
4K017DA03
4K017DA09
4K017EA09
4K017EH18
4K017FB03
5E062CC05
5E062CD04
(57)【要約】
【課題】還元拡散法を用いた希土類遷移金属合金粉末の製造方法であって、崩壊性を維持しつつも水素処理時の分解を抑えることができる方法を提供すること。
【解決手段】希土類遷移金属合金粉末の製造方法であって、以下の工程;少なくとも希土類酸化物粉末、遷移金属粉末、及び還元剤を混合して混合物を得る工程と、非酸化性雰囲気下で前記混合物に加熱処理を施して、希土類酸化物粉末を還元するとともに遷移金属粉末に拡散させて合金化し、それにより希土類遷移金属合金と還元剤由来の副生物とを含む反応生成物を得る工程と、前記反応生成物を水素雰囲気に暴露し、それにより水素を吸収させて解砕して解砕物を得る工程と、前記解砕物を洗浄液で洗浄して合金粉末を得る工程と、を含み、前記反応生成物を水素雰囲気に暴露する際に、反応生成物の温度を300℃以下に維持するとともに、反応生成物の周囲圧力を負圧に保持する、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類遷移金属合金粉末の製造方法であって、以下の工程;
少なくとも希土類酸化物粉末、遷移金属粉末、及び還元剤を混合して混合物を得る工程と、
非酸化性雰囲気下で前記混合物に加熱処理を施して、希土類酸化物粉末を還元するとともに遷移金属粉末に拡散させて合金化し、それにより希土類遷移金属合金と還元剤由来の副生物とを含む反応生成物を得る工程と、
前記反応生成物を水素雰囲気に暴露し、それにより水素を吸収させて解砕して解砕物を得る工程と、
前記解砕物を洗浄液で洗浄して合金粉末を得る工程と、を含み、
前記反応生成物を水素雰囲気に暴露する際に、反応生成物の温度を300℃以下に維持するとともに、反応生成物の周囲圧力を負圧に保持する、方法。
【請求項2】
前記反応生成物を水素雰囲気に暴露する際に、反応生成物の温度を295℃以下に維持する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応生成物を水素雰囲気に暴露する際に、反応生成物の周囲圧力を-15kPa以下の負圧に保持する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応生成物を水素雰囲気に暴露する際に、水素供給量及び/又は処理温度を制御して反応生成物の温度を調整する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記希土類酸化物粉末が、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、及びイッテルビウム(Yb)からなる群から選択される1種以上の金属の酸化物粉末である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記遷移金属粉末が、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、及びタングステン(W)からなる群から選択される1種以上の金属の粉末である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記解砕物及び/又は前記合金粉末を窒化する工程をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類遷移金属合金粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類遷移金属合金粉末は、希土類金属と遷移金属とを主として含む合金粉末である。希土類遷移金属合金粉末、特に金属間化合物粉末は、永久磁石材料、水素吸蔵材料、光磁気記録材料、磁気冷凍材料など様々な用途で多用されている。例えば、SmFe17系合金粉末を窒化したSmFe17系合金粉末、NdFe14B系合金粉末、SmCo系合金粉末、SmCo17系合金粉末、及びPrCo系合金粉末は、磁化及び一軸磁気異方性が大きく、永久磁石用材料として有用である。またLaNi系合金粉末は多量の水素を吸収及び保持する特徴があり、水素吸蔵材料として用いられている。(Tb、Gd)-(Fe、Ni、Co)系合金粉末は、これを用いて薄膜形成することで光磁気記録媒体の記録層を成膜することができる。さらにLa(Fe、Si)13系合金粉末やこれを水素化したLa(Fe、Si)13系合金粉末は、優れた磁気熱量効果を示し、磁気冷凍材料として有望視されている。
【0003】
希土類遷移金属合金粉末の製造方法として、溶解鋳造法や還元拡散法などの手法が従来から知られている。このうち、溶解鋳造法は、希土類金属と遷移金属を原料とし、これら原料を調合した後に不活性ガス雰囲気中で溶解し、得られた合金インゴットを熱処理して均一化した後に粉砕する手法である。
【0004】
一方で、還元拡散法は、希土類酸化物と遷移金属を原料とし、これら原料を還元剤とともに混合した後に不活性ガス雰囲気中で加熱処理して希土類遷移金属合金を得る手法である。加熱処理の際に、希土類酸化物が還元されて希土類金属になり、この希土類金属が遷移金属中に拡散して合金化する。加熱処理により得られた反応生成物には還元剤由来の成分が残留する。そのため反応生成物を水中に投入して、還元剤由来成分を溶解除去する。また水中に投入することで反応生成物中の合金成分を崩壊させて粉化する。還元拡散法は、安価な希土類酸化物を原料に用いることができるとともに工程が簡易であり、溶解鋳造法に比べて低コストで合金粉末を製造可能という利点がある。さらに還元拡散により得られた合金粉末を窒化することで、窒化物たる希土類遷移金属合金粉末を得ることが可能である。
【0005】
ところで還元拡散法では、原料混合物を加熱して還元拡散反応を引き起こし、それによって反応生成物を得る。この際、反応生成物が収縮して強固な塊を形成することがある。このような強固な塊は、これを水中に投入しても崩壊性が悪く、十分に粉化しない。このような崩壊性の悪化は、製品収率低下の要因となる恐れがある。したがって崩壊性改善を図ることが要求される。このような目的で、還元拡散反応により得られる反応生成物に水素処理を施して崩壊性改善を図ることが提案されている。反応生成物を水素雰囲気に曝露すると、反応生成物中の希土類金属が水素を吸蔵し、それにより体積膨張する。この体積膨張により反応生成物が脆化し、崩壊性が高まる。
【0006】
水素処理により崩壊性改善を図る技術を開示する文献として、特許文献1~3が挙げられる。特許文献1には、希土類、遷移金属を含む合金粉末の還元拡散方法による製造方法に関し、焼成後に焼成物を水素処理すること、水素処理された焼成物は、室温に冷却された後大気中に曝されるだけで自然崩壊が進行し、従来必要であった焼成物の粗粉砕工程を省略することができるばかりでなく、細粒に崩壊するので、その後の水洗分離工程における時間短縮を図ることができることが記載されている(特許文献1の請求項1、[0001]及び[0014])。
【0007】
特許文献2には、還元拡散法を用いた希土類遷移金属系合金粉末の製造方法に関し、密閉容器に合金を入れ、雰囲気ガスを排出してから、大気圧より高い圧力で水素加圧処理して合金を自己発熱させること、得られた還元生成物は水中崩壊性が格段に向上し、従来法での粉砕工程を省略でき、デカンテーションによる洗浄前の篩分け時の篩上を減少させることができ、また、デカンテーションの回数も減少可能となり、生産性が向上するばかりでなく廃液処理量の削減も可能となることが記載されている(特許文献2の請求項1及び[0070])。
【0008】
特許文献3には、還元拡散法を用いて希土類遷移金属系合金を合成する還元拡散工程、得られた反応生成物を密閉容器に装入して水素処理する水素処理工程、水洗工程、及び酸洗工程を含む希土類遷移金属系合金粉末の製造方法に関して、水素処理工程において、予め密閉容器内を減圧して雰囲気ガスを排出してから、水素を充満させて、大気圧よりも0.01~0.11MPa高い圧力とし合金を自己発熱させ、その後、合金が実質的に発熱しなくなるまで水素で大気圧より高くなるように加圧を続けることが記載されている(特許文献3の請求項1及び3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平09-241708号公報
【特許文献2】特開2004-204285号公報
【特許文献3】特開2005-008950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、還元拡散法により希土類遷移金属合金粉末を製造する際に、加熱処理後の反応生成物に水素処理を施すことで反応生成物の崩壊性改善を図ることが従来から提案されてきた。このような従来の手法は、崩壊性向上という点で一定の効果があるものの、改良の余地があった。
【0011】
すなわち、本発明者が調べたところ、従来の手法で水素処理を行うと、反応生成物に含まれる金属間化合物が分解し、それにより遷移金属成分が微粒子として析出する場合のあることが分かった。このような分解が起こると、最終的に得られる合金粉末中に、合金とならなかった遷移金属成分が異相として残存し、これが合金特性を大幅に劣化させる恐れがある。例えば、合金粉末が、遷移金属として鉄(Fe)を含む材料、例えば永久磁石用材料である場合には、磁気異方性の小さいαFeが残存し、その結果、保磁力及び残留磁化が大幅に低下する問題が生じる。そのため、従来の手法では、異相の少ない特性の良好な希土類遷移金属合金粉末を得ることは困難であった。
【0012】
本発明者は、このような問題点に鑑みて鋭意検討を行った。その結果、還元拡散法を用いた希土類遷移金属合金粉末の製造方法において、特定の温度及び圧力条件下で水素処理を行うことで、崩壊性を維持しつつも水素処理時の分解を抑えることができ、その結果、異相の残存が少なく特性の良好な希土類遷移金属合金粉末を得ることが可能になるとの知見を得た。
【0013】
本発明はこのような知見に基づき完成されたものであり、還元拡散法を用いた希土類遷移金属合金粉末の製造方法であって、崩壊性を維持しつつも水素処理時の分解を抑えることができる方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、下記(1)~(7)の態様を包含する。なお本明細書において「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0015】
(1)希土類遷移金属合金粉末の製造方法であって、以下の工程;
少なくとも希土類酸化物粉末、遷移金属粉末、及び還元剤を混合して混合物を得る工程と、
非酸化性雰囲気下で前記混合物に加熱処理を施して、希土類酸化物粉末を還元するとともに遷移金属粉末に拡散させて合金化し、それにより希土類遷移金属合金と還元剤由来の副生物とを含む反応生成物を得る工程と、
前記反応生成物を水素雰囲気に暴露し、それにより水素を吸収させて解砕して解砕物を得る工程と、
前記解砕物を洗浄液で洗浄して合金粉末を得る工程と、を含み、
前記反応生成物を水素雰囲気に暴露する際に、反応生成物の温度を300℃以下に維持するとともに、反応生成物の周囲圧力を負圧に保持する、方法。
【0016】
(2)前記反応生成物を水素雰囲気に暴露する際に、反応生成物の温度を295℃以下に維持する、上記(1)の方法。
【0017】
(3)前記反応生成物を水素雰囲気に暴露する際に、反応生成物の周囲圧力を-15kPa以下の負圧に保持する、上記(1)又は(2)の方法。
【0018】
(4)前記反応生成物を水素雰囲気に暴露する際に、水素供給量及び/又は処理温度を制御して反応生成物の温度を調整する、上記(1)~(3)のいずれかの方法。
【0019】
(5)前記希土類酸化物粉末が、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、及びイッテルビウム(Yb)からなる群から選択される1種以上の金属の酸化物粉末である、上記(1)~(4)のいずれかの方法。
【0020】
(6)前記遷移金属粉末が、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、及びタングステン(W)からなる群から選択される1種以上の金属の粉末である、上記(1)~(5)のいずれかの方法。
【0021】
(7)前記解砕物及び/又は前記合金粉末を窒化する工程をさらに含む、上記(1)~(6)のいずれかの方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、還元拡散法を用いた希土類遷移金属合金粉末の製造方法であって、崩壊性を維持しつつも水素処理時の分解を抑えることができる方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0024】
<<希土類遷移金属合金粉末の製造方法>>
本実施形態の希土類遷移金属合金粉末(以下、単に「合金粉末」と呼ぶ場合がある)の製造方法は、以下の工程;少なくとも希土類酸化物粉末、遷移金属粉末、及び還元剤を混合して混合物を得る工程(原料混合工程)と、非酸化性雰囲気下で混合物に加熱処理を施して、希土類酸化物粉末を還元するとともに遷移金属粉末に拡散させて合金化し、それにより希土類遷移金属合金と還元剤由来の副生物とを含む反応生成物を得る工程(還元拡散工程)と、反応生成物を水素雰囲気に暴露し、それにより水素を吸収させて解砕して解砕物を得る工程(水素処理工程)と、解砕物を洗浄液で洗浄して合金粉末を得る工程(湿式処理工程)と、を含む。また反応生成物を水素雰囲気に暴露する際に、反応生成物の温度を300℃以下に維持するとともに、反応生成物の周囲圧力を負圧に保持する。
【0025】
<希土類遷移金属合金粉末>
本実施形態の希土類遷移金属合金粉末は、希土類金属と遷移金属とを含む合金で構成される粉末である。ここで希土類金属は、周期律表において原子番号21のスカンジウム(Sc)、原子番号39のイットリウム(Y)、及び原子番号57のランタン(La)~原子番号71のルテチウム(Lu)からなる群を構成する金属(元素)の総称である。また遷移金属は、周期律表第3族元素から第11族元素の間にある金属(元素)の総称である。さらに合金は、固溶体のみならず共晶体や金属間化合物を含む概念である。金属間化合物として、CaCu型、ThZn17型、ThNi17型、TbCu型、ThMn12型、NaZn13型、NdFe14B型、MgCu型などの結晶構造を有する化合物が例示される。さらに本実施形態の合金粉末は、希土類金属及び遷移金属のみを含んでもよく、あるいは他の成分を含んでもよい。例えば、硼素(B)、炭素(C)、窒素(N)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)などの成分を含んでもよい。
【0026】
希土類遷移金属合金粉末は、希土類金属と遷移金属を主として含む合金である限り、その組成は限定されない。例えば、SmFe17やこれを窒化したSmFe17、NdFe14B、SmCo、SmCo17、及びPrCoなどの永久磁石用材料が挙げられる。LaNiや(Tb、Gd)-(Fe、Ni、Co)などの水素吸蔵材料や光磁気記録材料であってもよい。La(Fe、Si)13やこれを水素化したLa(Fe、Si)13などの磁気冷凍材料であってもよい。
【0027】
<原料混合工程>
原料混合工程では、少なくとも希土類酸化物粉末、遷移金属粉末、及び還元剤を混合して混合物を得る。
【0028】
希土類酸化物粉末は、目的とする合金粉末を構成する希土類元素の原料である。限定されるものではないが、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、及びイッテルビウム(Yb)からなる群から選択される1種以上の酸化物粉末が好ましい。希土類酸化物粉末として、1種類の粉末を単独で用いてもよく、あるいは2種類以上の粉末を混合して用いてよい。
【0029】
希土類酸化物粉末は、目的とする合金粉末の組成に応じて選択すればよい。例えば、サマリウム鉄窒素(SmFe17)系合金粉末やサマリウムコバルト(SmCo、SmCo17)系合金粉末を製造する場合には、酸化サマリウム(Sm)を選択すればよい。またネオジム鉄ホウ素(NdFe14B)系合金粉末を製造する場合には、酸化ネオジム(Nd)を選択すればよい。
【0030】
希土類酸化物粉末の粒径は、得られる合金粉末の組成及び用途に応じて決めればよい。しかしながら、得られる混合物において遷移金属粒子の近傍に均一分布するように希土類酸化物粉末の粒径を決めることが望ましい。希土類酸化物粉末の平均粒径は50μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。また希土類酸化物粉末は水分や有機物を不純物として含む場合がある。これらの不純物は、最終的に得られる合金粉末の酸素量を増大させることがある。したがって希土類酸化物粉末に含まれる不純物量は少ない方が好ましい。例えば、1000℃に加熱した後の加熱減量は2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0031】
希土類酸化物粉末の配合量は、目的組成の合金粉末を形成する上で必要とされる量(当量)の1.0~1.5倍が好ましく、1.05~1.2倍がより好ましい。例えば、サマリウム鉄窒素(SmFe17)系合金粉末を製造する場合、酸化サマリウム(Sm)の配合量は、化学量論組成(SmFe17)で必要とされる量の1.0~1.5倍が好ましい。希土類酸化物の配合量を、当量の1.0倍以上とすることで、遷移金属粉末への希土類金属(希土類元素)の拡散が十分となり、最終的に得られる合金粉末に求められる特性を十分に付与することが可能になる。一方で当量の1.5倍以下とすることで、希土類リッチな異相形成を抑制することができる。
【0032】
遷移金属粉末は、目的とする合金粉末を構成する遷移金属の原料である。限定されるものではないが、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、及びタングステン(W)からなる群から選択される1種以上が好ましい。遷移金属粉末として、1種類の粉末を単独で用いてもよく、あるいは2種類以上の粉末を混合して用いてもよい。
【0033】
遷移金属粉末は、目的とする合金粉末の組成に応じて選択すればよい。例えば、サマリウム鉄窒素(SmFe17)系合金粉末やネオジム鉄ホウ素(NdFe14B)系合金粉末を製造する場合には、鉄(Fe)粉を選択すればよい。鉄粉として、還元鉄粉、ガスアトマイズ粉、水アトマイズ粉及び/又は電解鉄粉などを使用できる。またサマリウムコバルト(SmCo、SmCo17)系合金粉末を製造する場合には、コバルト(Co)粉を選択すればよい。
【0034】
遷移金属粉末の粒径は、得られる合金粉末の組成及び用途に応じて決めればよい。しかしながら、遷移金属粉末の粒径が過度に大きいと、後続する還元拡散工程で希土類金属の拡散が内部にまで十分に進行せず、未合金化相が残存することがある。遷移金属粉末の平均粒径は100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、60μm以下がさらに好ましく、50μm以下が特に好ましい。また遷移金属粉末に含まれる不純物量は少ない方が好ましい。例えば、1000℃に加熱した後の加熱減量は2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0035】
還元剤は、後続する還元拡散工程で、希土類酸化物粉末などの酸化物成分を還元して合金形成を促すために加えられる。還元剤として、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びこれらの水素化物から選ばれる少なくとも1種を使用する。具体的には、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、及びこれらの水素化物からなる群から選択される1種以上が好ましい。取り扱い時の安全性及びコストの観点から、リチウム(Li)及び/又はカルシウム(Ca)がより好ましく、カルシウム(Ca)が特に好ましい。
【0036】
還元剤を粒状又は粉末状の形態で用いることが好ましい。還元剤の平均粒径は10mm以下が好ましく、0.1mm以上7mm以下がより好ましく、0.2mm以上5mm以下がさらに好ましい。また還元剤の配合量は、希土類酸化物粉末などの酸化物成分を還元するのに必要な量(当量)に対して1.0倍以上10.0倍以下が好ましく、1.0倍以上3.0倍以下がより好ましく、1.1倍以上2.0倍以下がさらに好ましい。還元剤量が過度に少ないと酸化物成分の還元及び拡散が十分に進行せず、合金粉末中に酸化物が残存する恐れがある。また還元剤量が過度に多いと、洗浄工程での残存成分の除去に手間がかかる。
【0037】
必要に応じて、希土類酸化物粉末、遷移金属粉末、及び還元剤以外の他の成分を加えてもよい。例えば希土類金属粉末及び/又は遷移金属酸化物粉末を加えてもよい。また希土類金属と遷移金属の合金粉末やその酸化物粉末を加えてもよい。さらに希土類金属と遷移金属以外の成分を含む合金粉末を製造する場合には、他の成分の原料を加えてもよい。例えば、永久磁石材料であるNdFe14B合金粉末を製造するために、硼素(B)や酸化硼素(B)などの硼素源を加えてもよい。磁気冷凍材料であるLa(Fe、Si)13合金粉末を製造するために、ケイ素(Si)や酸化ケイ素(SiO)などのケイ素源を加えてもよい。さらに合金粉末製造を容易にするための補助添加剤を加えてもよい。補助添加剤として、後の湿式処理工程で、反応生成物の崩壊を促進させる崩壊促進剤が例示される。崩壊促進剤として、塩化カルシウム(CaCl)や酸化カルシウム(CaO)などのアルカリ土類金属塩やアルカリ土類金属酸化物を用いることができる。
【0038】
原料の混合は、希土類酸化物粉末、遷移金属粉末、還元剤、及び必要に加えられる他の成分を均一に混合する。混合には、リボンブレンダー、タンブラー、S字ブレンダー、V字ブレンダー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、ハイスピードミキサー、ボールミル、振動ミル、アトライター、ジェットミルなどの公知の混合機を使用すればよい。
【0039】
<還元拡散工程>
還元拡散工程では、非酸化性雰囲気下で混合物に加熱処理を施して、反応生成物を得る。ここで、非酸化性雰囲気とは、酸素を実質的に含まない雰囲気である。雰囲気ガスとして、不活性ガス、例えば、アルゴンガス及び/又はヘリウムガスが好ましい。また雰囲気中の酸素量は5%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。
【0040】
非酸化性雰囲気下で混合物を加熱すると、還元剤の作用により希土類酸化物粉末が還元されて希土類金属が生成する。生成した希土類金属は遷移金属粉末中に拡散して合金化し、希土類遷移金属合金を形成する。また混合物中に希土類酸化物粉末以外の他の成分の酸化物が含まれる場合には、他の成分の酸化物も還元及び拡散し、合金に組み込まれる。一方で還元剤は酸化されて酸化物に変化する。
【0041】
例えば、希土類酸化物粉末として酸化サマリウム(Sm)を、遷移金属粉末として鉄(Fe)粉末を、還元剤として金属カルシウム(Ca)を用いて、サマリウム鉄窒素(SmFe17)系合金粉末を製造する場合、還元剤(Ca)の作用により酸化サマリウム(Sm)は還元されてサマリウム(Sm)となる。そして、還元されたサマリウム(Sm)は鉄(Fe)粉末に拡散して、ThZn17型結晶構造を有するサマリウム鉄合金(SmFe17)が生成する。一方で、還元剤である金属カルシウム(Ca)は酸化されて、酸化カルシウム(CaO)になる。金属カルシウムを当量以上に配合した場合には、余剰カルシウム(Ca)が残留する。この酸化カルシウム(CaO)及び余剰カルシウム(Ca)が副生物を構成する。さらに、場合によっては、サマリウム鉄化合物(SmFe)などの異相が生成することもある。したがって、熱処理後の反応生成物は、希土類遷移金属合金成分(SmFe17等)と還元剤由来の副生物(CaO、Ca等)を含み、場合によってはさらに異相(SmFe等)を含む。通常、この熱処理後の生成物は多孔質インゴットである。
【0042】
熱処理は、還元剤が溶融する温度以上且つ得られる希土類遷移金属合金成分が溶融しない温度で行う。具体的には、熱処理温度は900~1180℃が好ましい。900℃以上にすることで、希土類金属の遷移金属粉末への拡散が均一なものとなり、最終的に得られる合金粉末の特性を高めることができる。一方で、1180℃以下にすることで、希土類遷移金属合金成分が過度に粒成長して粗大粒が発生することが抑制される。その結果、例えば、窒化物系合金粉末を製造する場合に、後続の窒化処理工程で希土類遷移金属合金成分が均一に窒化され、磁石粉末の飽和磁化と角形性が向上する。また、熱処理温度が低いと、希土類金属酸化物の配合量低減が可能になる。サマリウム(Sm)等の希土類金属の蒸発が抑えられるからである。
【0043】
熱処理保持時間は3~10時間が好ましい。この範囲で、反応生成物中の希土類遷移金属合金成分の1次粒子径が小さくなる。そのため、例えば、窒化物系合金粉末を製造する場合に、後続の窒化処理工程で、希土類遷移合金の粒界から窒素が容易に拡散するので、窒化距離を短くすることができる。
【0044】
<水素処理工程>
水素処理工程では、得られた反応生成物を水素雰囲気に暴露して解砕し、それにより解砕物を得る。またこの際、反応生成物の温度を300℃以下に維持するとともに、反応生成物の周囲圧力を負圧に保持する。
【0045】
希土類遷移金属金属合金(金属間化合物)は、その多くが水素を吸収して体積膨張する。例えばSmFeは水素吸収により体積が19%膨張する。同様にSmFe17は3.4%、NdFe14Bは5.4%、LaNiは27%、SmCoは7.4%体積膨張する。金属間化合物が水素を吸収する温度は化合物の種類やその表面性などによって様々である。しかしながら水素吸収反応はいずれも発熱反応である。そのため希土類遷移金属合金が複数の金属間化合物を含む場合には、連鎖反応が起こることがある。すなわち低温で水素吸収する化合物から吸収が始まり、これにより発熱し、発熱することで合金の温度が上昇し、次の化合物が水素吸収する。
【0046】
ところで、水素は金属間化合物の格子間に可逆的に侵入する。その際、温度が過度に高いと、金属間化合物が分解することがある。例えば、Smを27wt%程度の量で含むSmFe合金を還元拡散法で作製すると、反応生成物中にSmFe17金属間化合物粒子、及びSmFeやSmFe金属間化合物などのSmリッチな粒子が形成される。この反応生成物を水素に曝すとSmリッチな粒子から水素吸収が始まり、その後にSmFe17粒子が水素吸収する。このとき水素吸収が短時間で急激に起こると、局所的な蓄熱により温度が急上昇し、その結果、金属間化合物が分解してαFeが析出することがある。このような金属間化合物の分解は、目的とする合金粉末の特性を低下させるため好ましくない。例えば、SmFe17粒子製造時に金属間化合物の分解が生じてαFeが析出してしまうと、得られるSmFe17粒子を窒化してSmFe17磁石粉末を作製しても、この磁石粉末の磁気特性、特に保磁力が低下する。
【0047】
そのため、本実施形態の製造方法では、水素処理時に反応生成物の温度を300℃以下に維持する。これは、反応生成物温度が300℃を超えると、希土類遷移金属金属間化合物が分解してαFeのように遷移金属成分が分解析出して、その化合物に期待される特性を十分発現できないからである。反応生成物の温度は、好ましくは295℃以下、より好ましくは260℃以下、さらに好ましくは160℃以下に維持される。
【0048】
反応生成物の温度をコントロールする手段は、特に限定されない。しかしながら水素供給量や処理温度を調整することが好ましい。水素供給量を反応生成物量に対して適切に調整すれば、水素吸収を徐々に進行させることができる。そのため温度の急激な上昇を抑制できる。水素処理は常温でも可能である。しかしながら反応生成物に含まれる金属間化合物の状態によっては、水素雰囲気下で適宜加熱して処理することも有効である。この場合には、昇温速度や保持温度を適切に調整して水素吸収を抑え、それにより温度上昇を抑制する。
【0049】
本実施形態の製造方法では、反応生成物の周囲圧力を負圧に保持する。反応生成物を300℃以下の低温に維持するためには、反応生成物に対する水素分圧を下げて徐々に水素を吸収させればよい。水素分圧を下げるためには、例えば供給する水素量を抑制する、または水素ガスと不活性ガスの混合ガスを用いればよい。このような手法で供給水素量を抑制すれば、大気圧未満の負圧下で水素処理が行われる。そのため反応生成物の低温維持を容易に行うことが可能である。処理炉の内圧は負圧になるが、気密状態で処理を続ける限り問題はない。反応生成物の周囲圧力は、好ましくは-15kPa以下、より好ましくは-30kPa以下、さらに好ましくは-60kPa以下に保持される。周囲圧力の下限は特に限定されない。しかしながら典型的には-90kPa以上である。
【0050】
水素処理は、水素含有ガスを用いて水素雰囲気中で行う。水素含有ガスとして、水素(H)ガスを単独で用いてもよく、あるいはアルゴン(Ar)又はヘリウム(He)などの不活性ガスと水素(H)ガスとの混合ガスを用いてもよい。しかしながら水素ガスを単独で用いることが好ましい。このとき、酸素(O)の残留を防ぐため、水素ガスを導入する前にアルゴンなどの不活性ガスで炉内雰囲気を置換することが好ましい。またこの場合には不活性ガス置換後に炉内を一旦排気し、その後に水素ガスを導入することが好ましい。水素処理が終了したら、アルゴンなどの不活性ガスに切り替えて解砕物を回収する。
【0051】
<湿式処理工程>
湿式処理工程では、得られた解砕物を洗浄液で洗浄して合金粉末を得る。具体的には、水素処理した反応生成物(解砕物)を洗浄液中に投入及び撹拌する。洗浄液中に投入した生成物は、崩壊してスラリー状になる。このとき、還元剤由来の副生物は水と反応して、水酸化物からなる固体状副生物由来成分に変化する。そのため固体状副生物由来成分はアルカリ金属及び/アルカリ土類金属の水酸化物を含む。例えば、還元剤として金属カルシウム(Ca)を用いた場合、還元拡散工程後の生成物は、希土類遷移金属合金成分と副生物(CaO、Ca)とを含む。水洗浄の際に、この副生物(CaO、Ca)は水と反応して水酸化カルシウム(Ca(OH))に変化する。水酸化カルシウムは水への溶解度が低いため、大部分が懸濁物となり、水に浮遊する。水洗浄により得られたスラリーは、希土類遷移金属合金成分と固体状副生物由来成分(Ca(OH))の懸濁液である。スラリー中の固体状副生物由来成分を希土類遷移金属合金成分から分離することで、高純度な高特性合金粉末を得ることができる。
【0052】
洗浄液として、水、グリコール、または水とグリコールの混合溶液を用いることができる。水としてイオン交換水が好ましい。グリコールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、及びトリプロピレングリコールからなる群から選択される一種以上が好ましい。
【0053】
固体状副生物由来成分の分離は、デカンテーションにより行うことができる。デカンテーションは、1回又は複数回行ってもよい。例えば、解砕物を洗浄液中に投入、撹拌、及び静置した後に上澄み液を除去し、得られた残留物に更に洗浄液を加え、撹拌及び静置した後に上澄み液の除去を繰り返してよい。希土類遷移金属合金成分は、比重が比較的大きいのに対して、固体状副生成物由来成分は比重が小さい。したがってデカンテーションにより、比重の小さい固体状副生性物由来成分を上澄み液とともに分離除去することができる。あるいはデカンテーションを行う代わりに、液体サイクロンや遠心分離機などの比重分離機を用いて固体状副生成物由来成分の分離除去を行ってもよい。
【0054】
湿式処理の際に、解砕物に酸洗処理を施してもよい。これにより固体状副生物由来成分や異相をより効果的に除去することができる。例えば、生成物中の異相(SmFe等)とともに、洗浄液での処理中に取り除ききれなかった固体状副生物由来成分(Ca(OH)等)を除去することができる。酸洗処理は、例えば、生成物を水に投入し、撹拌しながら酸を添加することで行える。酸の種類として、塩酸、酢酸、硝酸及び硫酸等の無機酸や有機酸を使用することができる。
【0055】
本実施形態の製造方法には、必要に応じて、生成物を窒化する工程(窒化処理工程)をさらに設けてもよい。この工程を設けることで、サマリウム鉄窒素(SmFe17)などの窒化物系合金粉末を得ることができる。窒化処理は水素処理工程後であればいずれのタイミングで行ってもよい。水素処理工程で得られた解砕物を窒化してもよく、あるいは湿式処理工程で得られた合金粉末を窒化してもよい。
【0056】
窒化処理では、生成物(解砕物、合金粉末)を、好ましくは350~500℃、より好ましくは400~480℃に加熱しながら、アンモニアを含有する混合気流を流す。これにより希土類遷移金属合金成分が窒化する。加熱温度を350℃以上にすると、窒化反応が短時間に行われ、効率が向上する。一方で、加熱温度が過度に高いと、主相が分解することがある。例えば、サマリウム鉄(SmFe17)からなる希土類遷移金属合金成分を窒化してサマリウム鉄窒素(SmFe17)系合金粉末を製造する場合、窒化処理温度が高すぎると、主相であるサマリウム鉄(SmFe17)が分解してαFeが生成することがある。αFeは磁石粉末の減磁曲線の角形性を低下させるため、その生成は好ましくない。窒化処理温度を500℃以下とすることで、このような主相の分解を抑制することができる。保持時間は、処理物の量にもよるが、5~10時間が好ましい。
【0057】
窒化処理時に流通させる窒化ガスは、少なくとも窒素原子を含有していればよく、窒素ガスやアンモニアガスが好適である。また、反応をコントロールするために、さらに水素、アルゴンなどを含有してもよい。アンモニアと水素の混合気流を用いる場合、その混合比(ガス流量比)は、アンモニア:水素=10~70:30~90が好ましく、30~60:40~70がより好ましい。この範囲内で、アンモニアの流通量が十分なものとなり、窒化効率がより向上する。
【0058】
<熱処理工程>
必要に応じて、窒化処理で得られた生成物(窒化物系合金粉末)に不活性ガス雰囲気中での熱処理をさらに施してもよい。不活性ガスは、例えば、水素ガス、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどである。このような熱処理を施すことで、得られる合金粉末を構成する個々の結晶セル内の窒素分布が均一になり、合金粉末の特性をより一層高めることが可能になる。熱処理温度は350~500℃が好ましく、400~480℃がより好ましい。保持時間は20~200分が好ましく、30~150分がより好ましい。
【0059】
<微粉砕工程>
必要に応じて、湿式処理、窒化処理、または熱処理工程で得られた生成物(合金粉末)を微粉砕してもよい。微粉砕工程では、媒体ととともに粉砕物を粉砕機に入れ、平均粒径が1~3μmになるまで粉砕する。媒体として、イソプロピルアルコール、エタノール、トルエン、メタノール、ヘキサン等を使用することができる。また媒体に表面処理剤を加えることで、合金粉末の表面処理を粉砕と同時に行うことが可能になる。表面処理剤として、オルトリン酸、リン酸水素二ナトリウム、ピロリン酸、メタリン酸、リン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウムなどのリン酸化合物が挙げられる。
【0060】
このようにして、本実施形態の希土類遷移金属合金粉末を製造することができる。合金粉末の平均粒径(x50)は特に限定されず、用途に応じて適宜設定すればよい。平均粒径は、例えば1.0μm以上10.0μm以下であってよく、1.5μm以上5.0μm以下であってよく、1.7μm以上3.0μm以下であってもよい。また本実施形態の合金粉末は、好ましくは異相たるαFeなどの遷移金属成分を含まない。異相の存在は、X線回折(XRD)法で合金粉末を分析すれば確認することができる。
【0061】
本実施形態の製造方法によれば、水素処理を設けることで、還元拡散反応により得られる反応生成物の崩壊性を高めることができ、微細な合金粉末を得ることができる。また水素処理時の反応生成物の温度を300℃以下に維持するとともに周囲圧力を負圧に保持することで、崩壊性を維持しつつも水素処理時の分解、及びそれによる異相の形成を抑えることができる。そのため、異相残存が少なく特性の良好な希土類遷移金属合金粉末を得ることが可能である。
【0062】
これに対して、特許文献1~3で提案される製法では、水素処理を大気圧下又は加圧下で行っている。大気圧以上の雰囲気下で水素処理を行うと、水素吸収が過度に速く進行する。また特許文献1~3の製法では還元拡散処理時の周囲温度を調整するものの、反応生成物自体の温度制御を行っていない。そのため反応生成物の温度が300℃を超える高温になり、その結果、反応生成物が分解して、特性劣化をもたらすαFeなどの異相が生じる恐れがある。
【実施例0063】
[実施例1]
実施例1ではSmFe17合金粉末を作製し、その評価を行った。なお合金粉末の製造条件と評価結果を表1にまとめて示す。
【0064】
(1)合金粉末の作製
<混合工程>
酸化サマリウム(Sm)粉末:53g、鉄(Fe)粉:130g、及び金属カルシウム(Ca):21gを混合して混合物を得た。
【0065】
<還元拡散工程>
得られた混合物を鉄製の反応容器内に入れ、アルゴンガスを封入し、これを加熱炉に装填した。混合物を入れた反応容器を4時間かけて1100℃まで昇温し、この温度に6時間保持して混合物の還元拡散反応を行わせた。その後、反応容器を加熱炉に装填したまま室温まで冷却し、反応生成物を反応容器から取り出した。203gの反応生成物が得られた。この反応生成物は硬く焼結した状態になっていた。
【0066】
<水素処理>
得られた反応生成物を水素処理して解砕物を得た。具体的には、反応生成物を管状炉に投入し、圧力が-100kPaになるまで炉内を真空引きした。その後、炉内圧力が大気圧になるまで水素を導入し、続いて常温のまま1L/分の流量で水素をフローさせた。しばらくして水素吸収が始まった。そこで管状炉の排気側バルブを閉じて、炉内圧力を負圧に維持した状態で1L/分の流量で水素供給を続けた。水素供給は、水素吸収が終了して炉内圧力が大気圧に戻るまで行った。水素吸収の際に炉の内圧は-40kPaまでの負圧になった。また水素吸収の発熱により反応生成物の最高温度は148℃になった。なお反応生成物の温度は、熱電対を反応生成物に直接接触させて測定した。
【0067】
<窒化処理>
続いて水素処理した反応生成物(解砕物)を窒化した。具体的には、管状炉内に水素処理した反応生成物を配置したままアンモニアと水素の混合ガスをフローし、その状態で昇温して440℃×10時間の条件で熱処理した。この際、アンモニアの流量を29mL/分、水素流量を9mL/分にした。
【0068】
<湿式処理>
冷却後に回収した反応生成物(窒化物)を300mLの水に投入しスラリー化して、イオン交換水を用いてデカンテーションを10回繰り返した。その後、スラリーを攪拌しながら酢酸29gを投入し、再びイオン交換水を用いてデカンテーションを10回繰り返した。そしてイオン交換水をエタノールで置換してからろ過し、回収したケーキを減圧下200℃の条件で乾燥した。これにより希土類遷移金属合金粉末を得た。
【0069】
(2)評価
得られた合金粉末について、各種特性の評価を以下のとおり行った。
【0070】
<組成分析>
合金粉末のサマリウム(Sm)及びカルシウム(Ca)量をIPC発光分析法で測定した。また窒素(N)量を不活性ガス融解熱伝導法で、酸素(O)及び水素(H)量を不活性ガス融解赤外吸収法で測定した。
【0071】
<XRD>
合金粉末中の結晶相を粉末X線回折法で同定した。X線回折は、線源:Cu-Kα1単色線源、加速電圧:40kV、加速電流:40mA、2θ:20~60°、スキャンスピード:0.5°/分の条件で行った。
【0072】
<平均粒径>
粉末の粒度をレーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社日本レーザー、HELOS&RODOS)で測定し、体積粒度分布における累積50%径(x50)を平均粒径として求めた。
【0073】
<磁気特性>
合金粉末(磁性粉末)の磁気特性を、日本ボンド磁性材料協会のボンド磁石試験方法ガイドブックBMG-2005に従って振動試料型磁力計(VSM)を用いた測定した。
【0074】
(3)評価結果
回収した粉末はThZn17型結晶構造をもつSmFe17であることをXRD回折で確認した。この粉末はSm:23.3wt%、N:3.5wt%、O:0.20wt%、Ca:0.01wt%未満の組成を有していた。また平均粒径(x50)は18.0μmであった。回収した粉末を、エタノールを溶媒とする振動ボールミルでx50が2.3μmになるまで粉砕した後に常温で減圧乾燥して磁性粉を作製した。磁性粉の磁気特性は、Br:1.42T、HcJ:1.06MA/mであった。
【0075】
[実施例2]
(1)合金粉末の作製
水素処理における水素フロー流量を0.5L/分に変更した。それ以外は実施例1と同様にしてSmFe17粉末を作製した。水素流量を0.5L/分に抑えたことで処理中管状炉の内圧は-53kPaまでの負圧になった。また水素吸収の発熱により反応生成物の最高温度は71℃になった。
【0076】
(2)評価
得られた合金粉末について、実施例1と同様にして各種特性の評価を行った。
【0077】
(3)評価結果
回収した粉末は、Sm:23.4wt%、N:3.5wt%、O:0.18wt%、Ca:0.01wt%未満の組成を有しており、ThZn17型結晶構造をもつSmFe17であることを確認した。またx50は18.7μmであった。この粉末をx50が2.3μmになるまで振動ボールミル粉砕して磁性粉を作製した。磁性粉の磁気特性は、Br:1.41T、HcJ:1.12MA/mであった。
【0078】
[実施例3]
(1)合金粉末の作製
水素処理における水素フロー流量を2L/分に変更した。それ以外は実施例1と同様にしてSmFe17粉末を作製した。水素流量を2L/分に増やしたことで処理中管状炉の内圧は-28kPaまでの負圧になった。また水素吸収の発熱により反応生成物の最高温度は251℃になった。
【0079】
(2)評価
得られた合金粉末について、実施例1と同様にして各種特性の評価を行った。
【0080】
(3)評価結果
回収した粉末は、Sm:23.3wt%、N:3.4wt%、O:0.23wt%、Ca:0.01wt%未満の組成を有しており、ThZn17型結晶構造をもつSmFe17であることを確認した。またx50は17.3μmであった。この粉末をx50が2.3μmになるまで振動ボールミル粉砕して磁性粉を作製した。磁性粉の磁気特性は、Br:1.44T、HcJ:1.23MA/mであった。
【0081】
[実施例4]
(1)合金粉末の作製
水素処理における水素フロー流量を3L/分に変更した。それ以外は実施例1と同様にしてSmFe17粉末を作製した。流量を3L/分に増やしたことで処理中管状炉の内圧は-18kPaまでの負圧になった。また水素吸収の発熱により反応生成物の最高温度は295℃になった。
(2)評価
得られた合金粉末について、実施例1と同様にして各種特性の評価を行った。
【0082】
(3)評価結果
回収した粉末は、Sm:23.2wt%、N:3.4wt%、O:0.25wt%、Ca:0.01wt%未満の組成を有しており、ThZn17型結晶構造をもつSmFe17であることを確認した。またx50は17.2μmであった。この粉末をx50が2.3μmになるまで振動ボールミル粉砕して磁性粉を作製した。磁性粉の磁気特性は、Br:1.43T、HcJ:1.21MA/mであった。
【0083】
[比較例1]
(1)合金粉末の作製
水素処理における水素フロー流量を5L/分に変更した。それ以外は実施例1と同様にしてSmFe17粉末を作製した。流量を5L/分に増やしたことで処理中管状炉の内圧は-2kPaまでの負圧になった。また水素吸収の発熱による反応生成物の最高温度は311℃であった。
【0084】
(2)評価
得られた合金粉末について、実施例1と同様にして各種特性の評価を行った。
【0085】
(3)評価結果
回収した粉末は、Sm:23.8wt%、N:3.6wt%、O:0.32wt%、Ca:0.01wt%未満の組成を有しており、ThZn17型結晶構造を持つSmFe17であることを確認した。またXRD回折ではαFeの(110)回折線が認められた。x50は18.3μmであった。この粉末をx50が2.3μmになるまで振動ボールミル粉砕して磁性粉を作製した。磁性粉の磁気特性は、Br:1.32T、HcJ:0.91MA/mであった。
【0086】
[比較例2]
(1)合金粉末の作製
水素処理における水素フロー流量を10L/分に変更した。それ以外は実施例1と同様にしてSmFe17粉末を作製した。流量を10L/minに増やしたことで処理中管状炉の内圧は負圧にならなかった。また水素吸収の発熱により反応生成物の最高温度は373℃になった。
【0087】
(2)評価
得られた合金粉末について、実施例1と同様にして各種特性の評価を行った。
【0088】
(3)評価結果
回収した粉末は、Sm:24.2wt%、N:3.7wt%、O:0.41wt%、Ca:0.01wt%未満の組成を有しており、ThZn17型結晶構造をもつSmFe17であることを確認した。またXRD回折でαFeの(110)回折線が認められた。x50は20.1μmであった。この粉末をx50が2.3μmになるまで振動ボールミル粉砕して磁性粉を作製した。磁性粉の磁気特性は、Br:1.27T、HcJ:0.78MA/mであった。
【0089】
[実施例5]
(1)合金粉末の作製
実施例5ではSmFe17合金粉末を作製し、その評価を行った。合金粉末の作製及び評価は、以下の手順で行った。
【0090】
<混合工程>
酸化サマリウム(Sm)粉末:27g、カルボニル鉄(Fe)粉:67g、及び金属カルシウム(Ca):16gを混合して混合物を得た。
【0091】
<還元拡散工程>
得られた混合物を鉄製の反応容器内に入れ、アルゴンガスを封入し、これを加熱炉に装填した。混合物を入れた反応容器を4時間かけて970℃まで昇温し、この温度に5時間保持して混合物の還元拡散反応を行わせた。その後、反応容器を加熱炉に装填したまま室温まで冷却し、反応生成物を反応容器から取り出した。101gの反応生成物が得られた。この反応生成物は焼結した状態になっていた。
【0092】
<水素処理>
得られた反応生成物を水素処理して解砕物を得た。具体的には、反応生成物を管状炉に投入し、圧力が-100kPaになるまで炉内を真空引きした。その後、炉内圧力が大気圧になるまで水素を導入し、1L/分の流量で水素をフローさせながら40分間かけて150℃になるまで昇温した。反応生成物温度が110℃付近になったときに水素吸収が始まった。そこで管状炉の排気側バルブを閉じて、炉内圧力を負圧に維持した状態で昇温を続けた。水素吸収が終了し炉内が大気圧に戻るまで1L/分の流量で水素供給を続けた。この間、炉の内圧は-50kPaまでの負圧になった。また水素吸収の発熱により反応生成物の最高温度は237℃になった。水素吸収が終了し反応生成物の温度が炉温と同じ150℃に落ち着いたのを確認して冷却した。
【0093】
<窒化処理>
続いて水素処理した反応生成物(解砕物)を窒化した。具体的には、管状炉内に水素処理した反応生成物を配置したまま、アンモニアと水素の混合ガスをフローし、その状態で昇温して445℃×2.5時間の条件で熱処理した。この際、アンモニア流量を40mL/分、水素流量を160mL/分にした。
【0094】
<湿式処理>
冷却後に回収された反応生成物を200mLの水に投入しスラリー化して、イオン交換水を用いてデカンテーションを10回繰り返した。その後、スラリーを攪拌しながら酢酸6gを投入し、再びイオン交換水でデカンテーションを10回繰り返した。そしてイオン交換水をエタノールで置換してからろ過し、回収したケーキを減圧下200℃の条件で乾燥した。これにより希土類遷移金属合金粉末を得た。
【0095】
(2)評価
得られた合金粉末について、実施例1と同様にして各種特性の評価を行った。
【0096】
(3)評価結果
<評価結果>
回収した粉末はThZn17型結晶構造をもつSmFe17であることをXRD回折で確認した。この粉末は、Sm:23.2wt%、N:3.2wt%、O:0.57wt%、Ca:0.01wt%未満の組成を有していた。また平均粒径(x50)は9.1μmであった。この粉末の磁気特性は、Br:0.80T、HcJ:1.11MA/mであった。
【0097】
[実施例6]
(1)合金粉末の作製
水素処理の際、1L/分の流量で水素をフローさせながら60分間かけて280℃まで昇温した。それ以外は実施例5と同様にしてSmFe173粉末を作製した。水素処理中に炉内は-70kPaまでの負圧になった。また水素吸収の発熱により反応生成物の最高温度は293℃になった。
【0098】
(2)評価
得られた合金粉末について、実施例1と同様にして各種特性の評価を行った。
【0099】
(3)評価結果
回収した粉末はThZn17型結晶構造をもつSmFe17であることをXRD回折で確認した。この粉末は、Sm:23.3wt%、N:3.3wt%、O:0.60wt%、Ca:0.01wt%未満の組成を有していた。またx50は8.8μmであった。この粉末の磁気特性は、Br:0.77T、HcJ:1.16MA/mであった。
【0100】
[比較例3]
(1)合金粉末の作製
水素処理の際、3L/分の流量で水素をフローさせた。それ以外は実施例6と同様にしてSmFe17粉末を作製した。水素処理中に炉内は-38kPaまでの負圧になった。また水素吸収の発熱により反応生成物の最高温度は324℃になった。
【0101】
(2)評価
得られた合金粉末について、実施例1と同様にして各種特性の評価を行った。
【0102】
(3)評価結果
回収した粉末はThZn17型結晶構造をもつSmFe17であることをXRD回折で確認した。またαFeの回折線を観察した。この粉末は、Sm:23.5wt%、N:3.3wt%、O:0.52wt%、Ca:0.01wt%未満の組成を有していた。またx50は10.2μmであった。この粉末の磁気特性は、Br:0.71T、HcJ:0.74MA/mであった。
【0103】
[実施例7]
実施例7ではNdFe14B合金粉末を作製し、その評価を行った。合金粉末の作製及び評価は、以下の手順で行った。
【0104】
(1)合金粉末の作製
<混合工程>
酸化ネオジウム(Nd)粉末:41g、鉄(Fe)粉末:61g、硼素含有量19.0%のフェロボロン粉末:7g、金属カルシウム(Ca):22g、及び無水酸化カルシウム(CaO):4.6gを混合して混合物を得た。
【0105】
<還元拡散工程>
得られた混合物を鉄製の反応容器内に入れ、アルゴンガスを封入し、これを加熱炉に装填した。混合物を入れた反応容器を1時間かけて1000℃まで昇温し、この温度に2時間保持して還元拡散反応を行わせた。その後、反応容器を加熱炉に装填したまま室温まで冷却し、反応生成物を反応容器から取り出した。133gの反応生成物が得られた。この反応生成物は焼結した状態になっていた。
【0106】
<水素処理>
得られた反応生成物を水素処理して解砕物を得た。具体的には、反応生成物を管状炉に投入し、圧力が-100kPaになるまで炉内を真空引きした。その後、炉内圧力が大気圧になるまで水素を導入し、1L/分の流量で水素をフローさせながら40分間かけて200℃まで昇温した。反応生成物温度が180℃付近になったときに水素吸収が始まった。そこで管状炉の排気側バルブを閉じて、炉内圧力を負圧に維持した状態で昇温を続けた。水素吸収が終了して炉内圧力が大気圧に戻るまで水素を1L/分の流量で供給した。水素吸収の際に炉の内圧は-37kPaまでの負圧になった。また水素吸収の発熱により反応生成物の最高温度は285℃になった。水素吸収が終了し反応生成物の温度が炉温と同じ200℃に落ち着いたのを確認して冷却した。そして、反応生成物を容器から取り出して回収した。
【0107】
<湿式処理>
回収した反応生成物を500mLの水に投入しスラリー化して、イオン交換水を用いてデカンテーションを20回繰り返した。その後、イオン交換水をエタノールで置換してからろ過し、回収したケーキを減圧下50℃の条件で乾燥した。これにより希土類遷移金属合金粉末を得た。
【0108】
(2)評価
得られた合金粉末について、実施例1と同様にして各種特性の評価を行った。
【0109】
(3)評価結果
回収した粉末は、正方晶のNdFe14B構造をもつことをXRD回折で確認した。この粉末はNd:33.1wt%、B:1.3wt%、O:0.70wt%、Ca:0.17wt%の組成を有していた。またx50は27μmであった。この粉末を、エタノールを溶媒とする振動ボールミルでx50が2.8μmになるまで粉砕した後に減圧乾燥して磁性粉を作製した。磁性粉の磁気特性は、Br:1.42T、HcJ:0.38MA/mであった。
【0110】
[比較例4]
(1)合金粉末の作製
5L/分の流量で水素をフローさせながら60分間かけて280℃まで昇温しながら水素処理した。それ以外は実施例7と同様にしてNdFe14B構造をもつ粉末を作製した。水素処理の際に炉の内圧は-10kPaまでの負圧になった。また水素吸収の発熱による反応生成物の最高温度は307℃になった。
【0111】
(2)評価
得られた合金粉末について、実施例1と同様にして各種特性の評価を行った。
【0112】
(3)評価結果
回収した粉末は正方晶のNdFe14B構造をもつことをXRD回折で確認した。またαFeの回折線を観察した。この粉末は、Nd:32.6wt%、B:1.2wt%、O:0.91wt%、Ca:0.22wt%の組成を有していた。またx50は31μmであった。この粉末を、エタノールを溶媒とする振動ボールミルでx50が2.9μmになるまで粉砕した後に減圧乾燥して磁性粉を作製した。磁性粉の磁気特性は、Br:1.20T、HcJ:0.19MA/mであった。
【0113】
(4)評価結果のまとめ
実施例1~7及び比較例1~4につき、水素処理の条件、及び得られた合金粉末の特性を表1にまとめて示す。
【0114】
実施例1~4では水素吸収の発熱による反応生成物の最高温度が300℃以下であった。また得られたSmFe17磁性粉末の保磁力HcJは1.06~1.23MA/mと高かった。これに対して比較例1及び2では、反応生成物の最高温度が300℃を超え、保磁力は0.91MA/m以下であった。比較例1及び2についてはXRD回折によってαFeの生成が認められており、このαFeによって保磁力が低下したものと推察される。
【0115】
同様に、実施例5及び6では、水素吸収による反応生成物の最高温度は300℃以下であり、得られたSmFe17磁性粉末の保磁力は1.11~1.16MA/mと高かった。これに対して反応生成物の最高温度が300℃を超えた比較例3では保磁力が0.74MA/mと低かった。また比較例1及び2と同様にXRD回折でαFeの生成が認められた。
【0116】
NdFe17B構造を持つ磁性粉について、水素吸収による反応生成物の最高温度が300℃以下の実施例7は、その保磁力が0.38MA/mと高かった。これに対して最高温度が300℃を超えた比較例4の保磁力は0.19MA/mと低かった。また比較例4ではαFeの生成が認められた。
【0117】
【表1】