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特開2022-177905電流制御型インバータ及びその制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177905
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】電流制御型インバータ及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20221125BHJP
【FI】
H02M7/48 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084348
(22)【出願日】2021-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】白崎 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】天野 博之
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770BA11
5H770CA04
5H770CA05
5H770DA09
5H770HA03Z
5H770HA05Z
5H770KA01Z
(57)【要約】
【課題】電流制御型インバータに系統サポート機能を実装した場合におけるハンチングを実用的に抑制することができるインバータ制御装置及びインバータ制御方法を提供する。
【解決手段】系統サポート機能が実装され、当該系統サポート機能に基づいて系統サポート電力を電力系統に出力する電流制御型インバータであって、系統サポート電力の系統インピーダンスによる影響を抑制する補償制御ループを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
系統サポート機能が実装され、当該系統サポート機能に基づいて系統サポート電力を電力系統に出力する電流制御型インバータであって、
前記系統サポート電力の系統インピーダンスによる影響を抑制する補償制御ループを備えることを特徴とする電流制御型インバータ。
【請求項2】
前記補償制御ループは、前記系統インピーダンスによる影響に加えて、自身の構成要素による影響をも抑制するように伝達関数が設定されることを特徴とする請求項1に記載の電流制御型インバータ。
【請求項3】
前記伝達関数は、前記系統インピーダンスを実際よりも低く見積もって設定されることを特徴とする請求項2に記載の電流制御型インバータ。
【請求項4】
前記伝達関数は、前記系統インピーダンスのうち、自身の構内に関する構内インピーダンスに基づいて設定されることを特徴とする請求項2に記載の電流制御型インバータ。
【請求項5】
系統サポート機能に基づいて系統サポート電力を電力系統に出力する電流制御型インバータの制御方法であって、
補償制御ループによって前記系統サポート電力の系統インピーダンスによる影響を抑制することを特徴とする電流制御型インバータの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流制御型インバータ及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光や風力等のインバータを介して系統に連系される再生可能エネルギー電源の導入拡大により同期発電機の並列容量が減少し、系統安定性が低下するおそれが指摘されている。また、その対策として、系統安定化のサポートを狙いとした様々な制御機能(系統サポート機能)を再生可能エネルギー電源に付加することが検討されている。
【0003】
一方、下記非特許文献1~3には、各種の系統サポート機能を電流制御型インバータに実装した場合、系統条件によっては同機能の制御応答が継続的に振動(ハンチング)し、期待した系統サポート効果が得られないだけではなく、系統安定性等に悪影響を及ぼす事例が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】前山 慎一郎, 白崎 圭亮, 天野 博之. 系統の慣性減少を補償する擬似慣性制御の不安定性について. 令和元年電気学会電力・エネルギー部門大会. 講演番号110. 2019.
【非特許文献2】田村 潤,徳光 啓太, 天野 博之. 一次調整力として蓄電池を活用した際の周波数制御への影響の検討. 令和2年電気学会全国大会. 講演番号6-191.2020.
【非特許文献3】白崎 圭亮, 天野 博之. 再生可能エネルギー電源による動的無効電流制御が基幹系統事故時の系統安定性等に及ぼす影響. 電力中央研究所報告R19002. 2020.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電流制御型インバータに系統サポート機能を実装した場合における制御応答のハンチングの抑制手法として、系統サポート機能の制御ゲインを低減することが容易に考えられる。しかしながら、この場合には系統サポート効果も同時に低下することになるため、ハンチング抑制と系統安定化とはトレードオフの関係となる。したがって、系統サポート機能の制御ゲインを低減するハンチングの抑制手法は好ましくない。
【0006】
また、送電線の新設等により系統インピーダンスを減少させることもハンチング対策として有効であるが、コストや対策に要する時間の面で困難である。系統運用上のハンチング抑制対策としては、同期発電機の並列台数をなるべく減少させないことや系統設備の作業停止を一時的に回避することが有効であるが、コスト面で課題があるとともに対策として限界がある。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、電流制御型インバータに系統サポート機能を実装した場合におけるハンチングを実用的に抑制することができるインバータ制御装置及びインバータ制御方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では、電流制御型インバータに係る第1の解決手段として、系統サポート機能が実装され、当該系統サポート機能に基づいて系統サポート電力を電力系統に出力する電流制御型インバータであって、前記系統サポート電力の系統インピーダンスによる影響を抑制する補償制御ループを備える、という手段を採用する。
【0009】
本発明では、電流制御型インバータに係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記補償制御ループは、前記系統インピーダンスによる影響に加えて、自身の構成要素による影響をも抑制するように伝達関数が設定される、という手段を採用する。
【0010】
本発明では、電流制御型インバータに係る第3の解決手段として、上記第2の解決手段において、前記伝達関数は、前記系統インピーダンスを実際よりも低く見積もって設定される、という手段を採用する。
【0011】
本発明では、電流制御型インバータに係る第4の解決手段として、上記第2の解決手段において、前記伝達関数は、前記系統インピーダンスのうち、自身の構内に関する構内インピーダンスに基づいて設定される、という手段を採用する。
【0012】
本発明では、電流制御型インバータの制御方法に係る解決手段として、系統サポート機能に基づいて系統サポート電力を電力系統に出力する電流制御型インバータの制御方法であって、補償制御ループによって前記系統サポート電力の系統インピーダンスによる影響を抑制する、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電流制御型インバータに系統サポート機能を実装した場合におけるハンチングを実用的に抑制することができるインバータ制御装置及びインバータ制御方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態における電力系統を示すブロック図である。
図2】本発明の一実施形態に係る電流制御型インバータの系統サポート機能に関する制御構成を示す制御ブロック図である。
図3】本発明の一実施形態における系統インピーダンスを示す模式図である。
図4】本発明の一実施形態における一巡伝達関数F(s)のボード線図である。
図5】本発明の一実施形態における閉ループ伝達関数K(s)のボード線図である。
図6】本発明の一実施形態において、制御ゲインの低減との併用効果を示す一巡伝達関数F(s)のボード線図である。
図7】本発明の一実施形態において、制御ゲインの低減との併用効果を示す閉ループ伝達関数K(s)のボード線図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
最初に、本実施形態に係る電流制御型インバータが適用される電力系統の概要について図1を参照して説明する。
【0016】
この電力系統は、図1に示すように、再生可能エネルギー電源設備A、構外母線B及び構内インピーダンスC(変電設備を含む)を備える。再生可能エネルギー電源設備Aは、再生可能エネルギとして周知の風力や太陽光等を利用して電力を発電する電源設備であり、発電装置1、PCS2及び構内母線3を備えている。
【0017】
発電装置1は、周知の再生可能エネルギーのうち、例えば風力を利用して電力を発電する風力発電機である。この発電装置1は、再生可能エネルギー電源設備Aの設置場所に吹く風によって風車を回転させることにより、当該風車に連結された発電機を回転駆動する。このような発電装置1は、発電機が発生させる所定周波数の交流電力(発電電力)をPCS2に出力する。
【0018】
PCS2は、本実施形態に係る電流制御型インバータである。このPCS2は、発電装置1から入力される発電電力を外部の構外母線Bに連系可能な仕様の電力(構内系統電力)に変換する電力変換装置である。このようなPCS2は、電力変換回路であるインバータ回路と当該インバータ回路を制御する制御回路を備えている。
【0019】
ここで、PCSは、「Power Conditioning Subsystem」として一般的に周知である。また、このPCSに系統サポート機能が実装される場合があることも周知である。本実施形態におけるPCS2は、周知のPCSと同様に系統サポート機能が実装されており、電力系統をサポートするための注入電流を構内母線3に出力する。
【0020】
すなわち、PCS2の制御回路は、上述した系統サポート機能に基づいて制御信号を生成してインバータ回路に出力する。PCS2のインバータ回路は、制御回路から入力される制御信号に基づいて上記注入電流を生成して構内母線3に出力する。なお、注入電流は、有効電力あるいは無効電力の電流であり、電力系統をサポートするための系統サポート電力である。
【0021】
構内母線3は、再生可能エネルギー電源設備A内に敷設された配電線である。この構内母線3は、上述したようにPCS2の出力端に接続されている。また、この構内母線3は、構内インピーダンスC(変電設備を含む)を介して構外母線Bに接続されている。
【0022】
構外母線Bは、再生可能エネルギー電源設備Aの外部に敷設された送電線である。この構外母線Bは、例えば一般送配電事業者が管理運営する電力系統の一部である。
【0023】
続いて、系統サポート機能に関する制御構成について、図2の制御ブロック図を参照して詳しく説明する。すなわち、PCS2の系統サポート機能は、制御構成要素として、第1加算器4、第2加算器5、フィルタ要素6、減算器7、系統サポート要素8、補償要素9、ハードウエア要素10及び系統インピーダンス要素11を備える。
【0024】
なお、これら複数の制御構成要素のうち、PCS2によって提供されるものは、フィルタ要素6、減算器7、系統サポート要素8、補償要素9及びハードウエア要素10である。これ以外の第1加算器4、第2加算器5及び系統インピーダンス要素11は、系統サポート機能の構成上、PCS2の制御構成要素に関わってくるものである。
【0025】
第1加算器4は、初期状態量xと外乱Nとを加算して第2加算器5に状態量xとして出力する。初期状態量xは、電力系統における電力状態量(電圧、位相等)の初期値である、また、外乱Nは、初期状態量xに作用し得るノイズ成分である。
【0026】
第2加算器5は、状態量xと帰還状態量Δxとを加算し、状態量Xとしてフィルタ要素6に出力する。帰還状態量Δxについては後述するが、帰還状態量Δxは、状態量xに加算されることにより、PCS2における系統サポート機能を不安定化させて注入電流yのハンチング現象を招来させる状態量である。
【0027】
フィルタ要素6は、PCS2に設けられた検出フィルタに関する制御構成要素であり、当該検出フィルタの時定数等に基づく伝達関数D(s)を有する。このフィルタ要素6は、状態量Xと伝達関数D(s)とに基づく状態量Xを減算器7に出力する。減算器7は、上記状態量Xから状態量Xを減算し、当該状態量Xと状態量Xとの差分である状態量Xを系統サポート要素8に出力する。
【0028】
系統サポート要素8は、系統サポート機能の主制御要素であり、伝達関数G(s)を有する。この系統サポート要素8は、例えば周知のPID制御要素であり、状態量Xと伝達関数G(s)とに基づく状態量Xを補償要素9及びハードウエア要素10に出力する。
【0029】
補償要素9は、上述した帰還状態量Δxの影響を抑制あるいは解消する状態量Xを生成する制御構成要素であり、伝達関数H(s)を有する。すなわち、この補償要素9は、状態量Xと伝達関数H(s)とに基づいて状態量Xを生成し、当該状態量Xを減算器7に出力する。この状態量Xは、帰還状態量Δxの影響を抑制あるいは解消するための補償量として機能する。
【0030】
このような補償要素9は、図示するように系統サポート要素8に対する帰還制御ループを構成している。この補償要素9に基づく帰還制御ループは、帰還状態量Δxの影響を抑制あるいは解消するための補償制御ループとして機能する。すなわち、補償制御ループにおける伝達関数H(s)は、帰還状態量Δxの影響を抑制あるいは解消するように設定される補償伝達関数である。
【0031】
ハードウエア要素10は、PCS2のハードウエア構成に起因する制御構成要素であり、伝達関数W(s)を有する。このハードウエア要素10は、状態量Xと伝達関数W(s)とに基づいて設定される注入電流yを系統インピーダンス要素11及びPCS2の後段制御要素に出力する。PCS2の制御装置は、この注入電流yに基づいてインバータ回路の制御信号を生成する。
【0032】
本実施形態では、PCS2の出力端が接続される電力系統のインピーダンス、つまり構内母線3のインピーダンス、構外母線Bのインピーダンス及び主系統のインピーダンスを総合したインピーダンスを系統インピーダンスという。
【0033】
なお、この系統インピーダンスは、図3に示すように、構内インピーダンスZと外部インピーダンスZとに分類される。構内インピーダンスZは、自身の構内に関する構内インピーダンスつまり構内配線と変電設備の複合インピーダンスであり、外部インピーダンスZは、構内インピーダンスZ以外のインピーダンス、つまり構外母線Bから主系統側を見た覗き込みインピーダンスである。
【0034】
系統インピーダンス要素11は、注入電流yに対する系統インピーダンスの影響を示す制御構成要素であり、伝達関数Z(s)を有する。この系統インピーダンス要素11は、注入電流yと伝達関数Z(s)とに基づく帰還状態量Δxを第2加算器5に出力する。
【0035】
上記注入電流yは、PCS2の出力端から構内母線3に出力されるので、構内母線3から構外母線Bまでの構内インピーダンスC(変電設備を含む)、また構外母線Bに接続された主系統の外部インピーダンスの影響を受ける。PCS2は、系統サポート機能として、この影響に応動した注入電流yを構内母線3に出力する。
【0036】
上述した系統インピーダンス要素11は、図示するように、初期状態量xから注入電流yに至るメイン制御ルートに対して帰還ループを構成する。すなわち、系統サポート機能は、PCS2と電力系統との間でフィードバック制御系を構成している。上記帰還状態量Δxは、このフィードバック制御系を系統インピーダンスに起因して不安定化させる状態量である。
【0037】
次に、本実施形態に係る電流制御型インバータの制御方法について、図4図7をも参照して詳しく説明する。
【0038】
最初に、図2に示した制御構成は、補償要素9によるハンチング抑制制御で補償する対象を系統インピーダンスだけではなく、PCS2自身の構成要素つまりPCS2を構成する検出フィルタ及びハードウエア構成要素にまで拡張したものである。ハンチング抑制制御の補償対象が系統インピーダンスのみで構成される場合、フィルタ要素7及びハードウエア要素10については考慮する必要がない。
【0039】
すなわち、ハンチング抑制制御の補償対象が系統インピーダンスのみで構成される場合におけるPCS2の制御構成要素は、フィルタ要素6及びハードウエア要素10を除く、第1加算器4、第2加算器5、減算器7、系統サポート要素8、補償要素9及び系統インピーダンス要素11である。そして、この基本的な制御構成に関する閉ループ伝達関数は、下式(1)によって与えられる。
【0040】
【数1】
【0041】
この閉ループ伝達関数は、補償要素9の伝達関数H(s)と系統インピーダンス要素11の伝達関数Z(s)とが差分関係にある。すなわち、式(1)は、両者が等しく設定された場合に、帰還状態量Δxの影響が完全に補償されて、注入電流yが系統サポート要素8の伝達関数G(s)と第2加算器5の出力である状態量xの積によって与えられることを示している。
【0042】
なお、ハンチング抑制制御の補償対象を系統インピーダンスだけでなく、PCS2を構成する検出フィルタ及びハードウエア構成要素にまで拡張した場合の閉ループ伝達関数K(s)は、下式(2)によって与えられる。
【0043】
【数2】
【0044】
この場合、補償要素9の伝達関数H(s)は、系統インピーダンス要素11の伝達関数Z(s)とフィルタ要素6の伝達関数D(s)とハードウエア要素10の伝達関数W(s)との積に対して差分関係にある。したがって、この場合には、伝達関数H(s)と3つの伝達関数Z(s)、D(s)、W(s)の積とが等しく設定された場合に、積帰還状態量Δxの影響が完全に補償される。
【0045】
また、ハンチング抑制制御の補償対象である系統インピーダンスは、図3に示すように構内インピーダンスZと外部インピーダンスZとの複合インピーダンスである。すなわち、この系統インピーダンスは、PCS2の出力端と構内母線3との接続点であるインバータ連系点から構外側を見た覗き込みインピーダンスである。
【0046】
このような系統インピーダンスは、電力系統の接続切り替えや同期発電機の並列状況等に応じて変化し得る物理量であり、その値をリアルタイムに把握することは困難である。この系統インピーダンスが見積よりも減少した場合、補償要素9による帰還状態量Δxへの補償が過補償になることが考えられる。この過補償を防止するためには、系統インピーダンスを実際よりも低く見積もって補償要素9の伝達関数H(s)を設定することが有効である。
【0047】
系統インピーダンスが変化した場合の影響を把握するために、図2における帰還ループをメインルートから切り離し、Δx=-F(s)・xの関係を求めると、一巡伝達関数F(s)は下式(3)によって表される。
【0048】
【数3】
【0049】
ここで、図4は、上記一巡伝達関数F(s)のボード線図の一例を示している。また、図5は、上述した閉ループ伝達関数K(s)のボード線図の一例を示している。すなわち、これらボード線図は、連系容量400MVA、基準容量1000MVA、制御ゲイン4.0、Z(s)=1.6、H(s)=n・Z(s)・D(s)・W(s)とした場合におけるボード線図である。なお、上記nは、0~1.00までの範囲における0.25刻みの変数である。
【0050】
図4に示した一巡伝達関数F(s)のボード線図によれば、位相が-180°となる周波数において、変数nが大きいほど等価的なゲインが減少していき、ゲイン余裕が大きくなることでフィードバック系が安定化する傾向を確認できる。なお、n=0.0とした場合、式3において分母の第2項が「0」となり、F(s)=G(s)・Z(s)・D(s)・W(s)となるため、周波数が大きいほどゲインが単調に減少していく特性となっている。
【0051】
図5に示した閉ループ伝達関数K(s)に関するゲイン特性のボード線図によれば、変数nが大きいほど定常ゲイン(低周波帯のゲイン)も大きくなる傾向が読み取れる。動的無効電流制御は、過渡的な電圧偏差に対して応動する制御であるものの、事故除去後の1回線開放状態のように系統電圧の収束値に対して電圧偏差が生じた場合、上記定常ゲインの差異が影響することが考えられる。
【0052】
しかしながら、通常、動的無効電流制御に関しては電圧偏差が小さな範囲では不感帯が設定されていること、また定常状態の電圧安定化を目的としたVolt-var制御が別途動作していることを踏まえると、動的無効電流制御の定常ゲインの差異による悪影響は特に無いものと考えられる。
【0053】
また、図5の閉ループ伝達関数K(s)に関するゲイン特性のボード線図によれば、変数nを変化させた場合に閉ループ伝達関数K(s)の過渡ゲイン(高周波帯のゲイン)は同じ値に収束している。変数nの値に関わらず過渡ゲインが同等であるということは、事故中の電圧低下に対する無効電流の供給量も同等と考えられる。
【0054】
なお、n=1.0とした場合、式(2)において分母の第2項が打ち消され、K(s)=-G(s)・D(s)・W(s)となるため、周波数が大きいほどゲインが単調に減少していく特性となっている。
【0055】
さらに、図5の閉ループ伝達関数K(s)に関する位相特性のボード線図によれば、変数nの値に関わらず、定常的な位相特性および過渡的な位相特性は同じ値に収束している。特に、過渡的な位相特性が同等であるということは、事故中の電圧低下に対して無効電流が供給されるまでの遅れ時間も同等であると考えられる。
【0056】
このようなボード線図から、系統状態の変化により伝達関数H(s)に基づく補償が過補償となることに対する対策として、伝達関数H(s)によって補償する系統インピーダンスを覗き込みインピーダンスより小さくしてもハンチング抑制効果が得られることが分かる。ただし、伝達関数H(s)によって補償量が小さいほど、当然にハンチング抑制効果が低下する。
【0057】
ここで、上述したように系統インピーダンスつまり覗き込みインピーダンスは、図3に示したように構内インピーダンスZと外部インピーダンスZとの和である。すなわち、構内インピーダンスZは、系統インピーダンスよりも小さい。このことを考慮すると、補償対象を構内インピーダンスZとすることが考えられる。
【0058】
この構内インピーダンスZは、系統インピーダンスよりも小さいだけではなく、系統インピーダンスよりも容易に把握できる量である。したがって、補償対象を構内インピーダンスZに限定することにより、補償ループの伝達関数H(s)を容易に求めることが可能となる
【0059】
最後に、従来技術の技術課題において、系統サポート機能の制御ゲインを低減するこは系統サポート機能の制御応答におけるハンチング抑制手法として問題があることを説明した。しかしながら、本発明と組み合わせることにより、系統安定化とのトレードオフ関係を軽減することが期待される。
【0060】
制御ゲインの低減によるハンチング抑制手法M1と本実施形態によるハンチング抑制手法M2との組み合わせによる効果を検証した。図6は、表1のパラメータ設定に基づく一巡伝達関数F(s)のボード線図である。また、図7は、表1のパラメータ設定に基づく閉ループ伝達関数K(s)のボード線図である。
【0061】
【表1】
【0062】
図6のボード線図によれば、「ハンチング抑制対策無し」と「抑制手法M2」の過渡ゲインは同じ値に収束しているのに対し、「抑制手法M1」の過渡ゲインは減少していることがわかる。この過渡ゲインの減少は、事故中の電圧低下に対して無効電流の供給が期待される動的無効電流制御において、無効電流の供給が減少することを意味している。
【0063】
また、図7のボード線図によれば、「ハンチング抑制対策無し」の場合と比べて「抑制手法M1」及び「抑制手法M2」ともに、位相が-180°となる周波数においてゲイン余裕が増加しており、制御系の安定化に貢献していることがわかる。
【0064】
すなわち、ハンチング抑制手法M1とハンチング抑制手法M2とを組み合わせることにより、系統安定化とのトレードオフというハンチング抑制手法M1の欠点を補いつつ、系統サポート機能の制御応答におけるハンチング現象の発生を効果的に抑制することが可能である。
【0065】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態では、再生可能エネルギー電源設備A内のPCS2(電流制御型インバータ)に本発明を適用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明は、系統サポート機能を備える電流制御型インバータであれば、PCS以外の如何なるものにも適用可能である。
【0066】
(2)上記実施形態では、ハンチング抑制制御の補償対象を系統インピーダンスに限定する場合と、系統インピーダンスに加えてPCS2を構成する検出フィルタ及びハードウエア構成要素にまで拡張することについて説明した。しかしながら、ハンチング抑制制御の補償対象は、これら検出フィルタ及びハードウエア構成要素に限定されない。
【0067】
(3)上記実施形態では、一例としてハンチング抑制制御の補償対象を系統インピーダンスよりも小さい構内インピーダンスZに限定することについて説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、構内インピーダンスZと外部インピーダンスZの一部(変電所までの間のインピーダンス)とを補償対象としてもよい。
【符号の説明】
【0068】
A 再生可能エネルギー電源設備
B 構外母線
C 構内インピーダンス(変電設備を含む)
1 発電装置
2 PCS(電流制御型インバータ)
3 構内母線
4 第1加算器
5 第2加算器
6 フィルタ要素
7 減算器
8 系統サポート要素
9 補償要素
10 ハードウエア要素
11 系統インピーダンス要素
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7