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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022177982
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】シート状ロールイン油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20221125BHJP
   A21D 2/16 20060101ALI20221125BHJP
   A21D 13/16 20170101ALI20221125BHJP
   A23D 7/00 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
A23D9/00 502
A21D2/16
A21D13/16
A23D7/00 506
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084438
(22)【出願日】2021-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小中 隆太
(72)【発明者】
【氏名】木村 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】三木 研司
(72)【発明者】
【氏名】廣川 敏幸
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG01
4B026DG02
4B026DG04
4B026DH01
4B026DH02
4B026DH03
4B026DH05
4B026DK01
4B026DK05
4B026DL01
4B026DP01
4B026DP04
4B026DP10
4B026DX01
4B026DX02
4B026DX05
4B032DB15
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK43
4B032DK47
4B032DK54
4B032DL11
4B032DP08
4B032DP23
4B032DP33
4B032DP37
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】伸展性が良好であり、ホイロ時の耐熱性も高く、浮きが良好且つワキシー感のない良好な口溶けである層状ベーカリー製品を得ることができるシート状ロールイン油脂組成物を提供すること。
【解決手段】トリグリセリド組成が下記の条件(1)及び(2)を満たすシート状ロールイン油脂組成物。
(1)S3、S2m、S2d及びSm2を合計した含有量が45~75質量%である。
(2)(StStSt+PPP+StOSt+POSt+POP)/(StStSt+PPP+S2m+S2d+Sm2)=0.50~0.90
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油相のトリグリセリド組成が下記の条件(1)及び(2)を満たすシート状ロールイン油脂組成物。
(1)S3、S2m、S2d及びSm2を合計した含有量が45~75質量%である。
(2)(StStSt+PPP+StOSt+POSt+POP)/(StStSt+PPP+S2m+S2d+Sm2)=0.50~0.90
ただし、
S:炭素数16~18の飽和脂肪酸
m:炭素数16~18のモノ不飽和脂肪酸
d:炭素数16~18のポリ不飽和脂肪酸
S3:炭素数16~18の飽和脂肪酸が3個結合したトリグリセリド
S2m:炭素数16~18の飽和脂肪酸が2個、炭素数16~18のモノ不飽和脂肪酸が1個結合したトリグリセリド
S2d:炭素数16~18の飽和脂肪酸が2個、炭素数16~18のポリ不飽和脂肪酸が1個結合したトリグリセリド
Sm2:炭素数16~18の飽和脂肪酸が1個、炭素数16~18のモノ不飽和脂肪酸が2個結合したトリグリセリド
StStSt:ステアリン酸が3個結合したトリグリセリド
PPP:パルミチン酸が3個結合したトリグリセリド
StOSt:1、3位にステアリン酸、2位にオレイン酸が結合したトリグリセリド
POSt:1、3位にステアリン酸及びパルミチン酸、2位にオレイン酸が結合したトリグリセリド
POP:1、3位にパルミチン酸、2位にオレイン酸が結合したトリグリセリド
である。
【請求項2】
更に油相のトリグリセリド組成が下記の(3)を満たす請求項1記載のシート状ロールイン油脂組成物。
(3)(StStSt+PPP)/(StStSt+PPP+StOSt+POSt+POP)≦0.5
【請求項3】
油相の結晶形がβ型である、請求項1又は2記載のシート状ロールイン油脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のシート状ロールイン油脂組成物を含有する積層状ベーカリー生地。
【請求項5】
イーストを含有する生地である請求項4記載の積層状ベーカリー生地。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の積層状ベーカリー生地の加熱品である層状ベーカリー製品。
【請求項7】
澱粉類主体のドウに請求項1~3のいずれか一項に記載のシート状ロールイン油脂組成物をロールインする、積層状ベーカリー生地の製造方法。
【請求項8】
請求項5記載の積層状ベーカリー生地を、ホイロ工程をとったのち、加熱することを特徴とする層状ベーカリー製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシート状ロールイン油脂組成物、積層状ベーカリー生地、層状ベーカリー製品、積層状ベーカリー生地の製造方法、及び、層状ベーカリー製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デニッシュ、クロワッサン、パイ等のフレーキーな食感をもった層状ベーカリー製品は油脂の使用量も多いことから、その製造に使用されるロールイン油脂も融点が32~36℃未満の口溶けがよい油脂が使用される。しかし低融点であるがゆえロールイン作業時には生地温度とロールイン油脂温度はもちろん作業環境温度も低く保つ必要があるなど製造に細心の注意が必要であることに加え、ロールイン時に生地に練りこまれやすく、また、焼成初期から融解してしまうため層の浮きが落ちやすい。
【0003】
そのため、融点が高く硬いロールイン油脂を使用することで製造の容易化と層の浮きの改善を図ることも行われるが、当然、口溶けの悪い製品になってしまう。
【0004】
しかし、昨今の人手不足に伴う冷凍生地の普及とホイロ設備の合理化の流れから、この、融点が高く硬いロールイン油脂を使用する場面が増えてきている。
【0005】
具体的には、冷凍生地はイーストの冷凍耐性の向上のため生地吸水量が少ないため、ロールイン油脂もそれに合わせて硬くする必要があるためであり、ホイロ設備の合理化は、ロールイン油脂を使用した製品専用のホイロを別途準備するのを避け、イーストの一番活性の高い一般的なパンのホイロ温度である38℃のホイロのみ準備することが増えているためである。
【0006】
このような用途には融点が高く硬いロールイン油脂が適しているが、反面、上記のように口溶けの悪い製品になってしまう問題が残る。
口溶けが悪くなることを極力避けながら融点が高く硬いロールイン油脂を得る方法として、少量の高融点成分を使用する方法があり、例えば、シア脂のパフ性改良材を含有するロールイン油脂(たとえば特許文献1参照)、液状油と1,3-ジステアロイル-2-オレオイルグリセリンを特定比で含有するロールイン油脂(たとえば特許文献2参照)、ハイエルシン菜種の極度硬化油と液状油を特定量含有するロールイン油脂(たとえば特許文献3参照)、トリラウリンと液状油を配合する方法(例えば特許文献4参照)や、トランス脂肪酸を利用する方法(例えば特許文献5参照)などが提案されている。
【0007】
しかし、特許文献1の方法はベースとなる油脂配合によって添加効果にぶれがあり、効果も小さいという問題があり、特許文献2の方法は物性がもろくなりやすく油脂割れを起こしやすいという問題があり、特許文献3の方法はホイロ耐性が低いため浮きが低下しやすく、ワキシーな食感になりやすく口溶けを悪化させやすいという問題があり、特許文献4の方法は物性がもろくなりやすく油脂割れを起こしやすい問題に加え、ホイロ耐性が低いため浮きが悪く、また、ラウリン系油脂は加水分解の恐れがあるという問題があり、特許文献5の方法は物性がもろくなりやすく油脂割れを起こしやすい問題に加え、トランス脂肪酸は昨今のトランス酸削減の志向からは使用しにくいという問題があった。
【0008】
そしてこれら少量の高融点成分を使用する油脂組成物は徐冷条件下の結晶性が悪い問題がある。ベーカリー製品の焼成後の室温までの冷却はまさにこのような徐冷条件下となるため、層状ベーカリー製品のような油脂含有量が高いベーカリー製品は特にねっとりとしたワキシーな食感がはっきりと出てしまう問題があった。
【0009】
そこで、上記のような高融点成分を少量使用する以外の方法として、パームオレイン製造の副産物として得られる安価なパーム油分別硬部油(パームステアリン)を使用する方法(例えば特許文献6参照)や、ハードバターにも使用される高価なパーム中融点部を一定量以上使用する方法(例えば特許文献7参照)も考案されている。
【0010】
ただし、特許文献6の背景技術に記載のように、パームステアリンはワキシーな食感が特に強いことから、可塑性油脂組成物中のパームステアリンの配合量は10%程度とごく少量とすることが一般的であり、パームステアリンを用いた可塑性油脂の口溶け及び作業性の両立には、特許文献6記載の発明のような、油相全体の配合を特定のトリグリセリド組成・含量となるように豚脂を組み合わせてコンパウンド結晶を生成させる方法が知られているにすぎない。
【0011】
また特許文献7に記載のようにパーム中融点部を多く使用する方法は、口溶けは良好であるが、コストの問題に加え、もろい物性になりやすいという問題があった。
その解決法としてパームステアリンと液状油を1,3エステル交換したロールイン油脂も提案されている(特許文献8参照)が、この方法ではワキシーな食感は回避されるが、液状油部分が減り、且つ、高融点部分が減少してしまうため、伸展性が悪化することに加え、浮きが減少してしまうという問題があった。
【0012】
ところで、特許文献9には、菓子パン生地等のパン生地に分散させる小片状油脂として、パームステアリンを多く使用した油脂を使用することが記載されているが、これは軟らかい菓子パン生地のようなパン生地中に硬い油脂を粒状に残す目的の油脂組成物であり、本発明の薄く均一に伸展させることが必要なシート状ロールイン油脂とは正反対の使用形態である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003-000136号公報
【特許文献2】特開昭63-160549号公報
【特許文献3】特開2010-233547号公報
【特許文献4】特公昭48-32164号公報
【特許文献5】特公昭57-30458号公報
【特許文献6】特開2005-320445号公報
【特許文献7】特開2009-207444号公報
【特許文献8】特開平09-224570号公報
【特許文献9】特開2018-186723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の課題は、伸展性が良好であり、ホイロ時の耐熱性も高く、浮きが良好且つワキシー感が抑制された良好な口溶けである層状ベーカリー製品を得ることができるシート状ロールイン油脂を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、上記課題を解決すべく種々検討した結果、従来、口溶けの点で10%程度に抑えられていたパームステアリンの配合量を逆に大幅に増やして液状油と組み合わせた場合、液状油に少量のパームステアリンを添加した場合に感じたワキシー感が消え、すっきりとした口溶けになることを偶然にも見出した。更に検討した結果、特定のトリグリセリド組成の油脂組成物により上記課題が解決可能であることを見出した。
【0016】
すなわち本発明は、トリグリセリド組成が下記の条件(1)及び(2)を満たすシート状ロールイン油脂組成物を提供するものである。
(1)S3、S2m、S2d及びSm2を合計した含有量が45~75質量%である。
(2)(StStSt+PPP+StOSt+POSt+POP)/(StStSt+PPP+S2m+S2d+Sm2)=0.50~0.90
ただし、
S:炭素数16~18の飽和脂肪酸
m:炭素数16~18のモノ不飽和脂肪酸
d:炭素数16~18のポリ不飽和脂肪酸
S3:炭素数16~18の飽和脂肪酸が3個結合したトリグリセリド
S2m:炭素数16~18の飽和脂肪酸が2個、炭素数16~18のモノ不飽和脂肪酸が1個結合したトリグリセリド
S2d:炭素数16~18の飽和脂肪酸が2個、炭素数16~18のポリ不飽和脂肪酸が1個結合したトリグリセリド
Sm2:炭素数16~18の飽和脂肪酸が1個、炭素数16~18のモノ不飽和脂肪酸が2個結合したトリグリセリド
StStSt:ステアリン酸が3個結合したトリグリセリド
PPP:パルミチン酸が3個結合したトリグリセリド
StOSt:1、3位にステアリン酸、2位にオレイン酸が結合したトリグリセリド
POSt:1、3位にステアリン酸及びパルミチン酸、2位にオレイン酸が結合したトリグリセリド
POP:1、3位にパルミチン酸、2位にオレイン酸が結合したトリグリセリド
である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のシート状ロールイン油脂組成物は、高融点で硬いロールイン油脂でありながらロールイン時の伸展性が良好であり、ホイロ時の耐熱性も高く、得られる層状ベーカリー製品は浮きが良好且つワキシー感の抑制された良好な口溶けである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のシート状ロールイン油脂組成物の好ましい実施形態について詳述する。
上述した通り、本発明者は、液状油にパームステアリンを所定量以上で含有させた場合、非常に効果的に食感が改善されることを見出した。また、当該組成ではロールイン時の伸展性も良好であることも判った。そして、トリグリセリド組成において同様の効果が得られる組成を検討した結果、下記(1)、(2)、好ましくは下記(1)~(3)のパラメータを所定範囲とすることでロールイン時の伸展性とホイロに対する耐熱性の両立を図ることができることを見出した。この理由としては当該条件によって、ロールイン時の固体脂含量を好適な範囲に高められ、且つ、ロールイン時の油温度域での固体脂中のトリ飽和トリグリセリド、対称型トリグリセリドの比率も好適な範囲に高められることに関係するものと考えられる。
【0019】
本発明のシート状ロールイン油脂組成物は油相のトリグリセリド組成が下記の条件(1)及び(2)を満たすものである。
(1)S3、S2m、S2d及びSm2を合計した含有量が45~75質量%である。
(2)(StStSt+PPP+StOSt+POSt+POP)/(StStSt+PPP+S2m+S2d+Sm2)=0.50~0.90
ただし、
S:炭素数16~18の飽和脂肪酸
m:炭素数16~18のモノ不飽和脂肪酸
d:炭素数16~18のポリ不飽和脂肪酸
S3:炭素数16~18の飽和脂肪酸が3個結合したトリグリセリド
S2m:炭素数16~18の飽和脂肪酸が2個、炭素数16~18のモノ不飽和脂肪酸が1個結合したトリグリセリド
S2d:炭素数16~18の飽和脂肪酸が2個、炭素数16~18のポリ不飽和脂肪酸が1個結合したトリグリセリド
Sm2:炭素数16~18の飽和脂肪酸が1個、炭素数16~18のモノ不飽和脂肪酸が2個結合したトリグリセリド
PPP:パルミチン酸が3個結合したトリグリセリド
StStSt:ステアリン酸が3個結合したトリグリセリド
StOSt:1、3位にステアリン酸、2位にオレイン酸が結合したトリグリセリド
POSt:1、3位にステアリン酸及びパルミチン酸、2位にオレイン酸が結合したトリグリセリド
POP:1、3位にパルミチン酸、2位にオレイン酸が結合したトリグリセリド
である。
【0020】
まず上記条件(1)について述べる。
本発明のシート状ロールイン油脂組成物は、油相のトリグリセリド組成におけるS3、S2m、S2d及びSm2を合計した含有量が45~75質量%、好ましくは45~64質量%である。合計含有量が45質量%未満であると、シート状ロールイン油脂組成物をロールインする際に油脂固形分含量が不足するため、シート状ロールイン油脂組成物が生地に練り込まれやすくなってしまい、またホイロ時の耐熱性も悪化するため、得られる層状ベーカリー製品の浮きが不足し、また内相がパン目となってしまう。さらにはべとついたワキシーな食感となってしまう。一方、合計含有量が75質量%超であると、ロールインする際に油脂固形分含量が高すぎるため、伸展性が悪化してしまい、得られる層状ベーカリー製品が不均一な内相となってしまう。また、場合によっては、口溶けが悪化しワキシーな食感となってしまう問題も発生してしまう。
【0021】
次に上記条件(2)について述べる。
本発明のシート状ロールイン油脂組成物は油相のトリグリセリド組成において、(2)(StStSt+PPP+StOSt+POSt+POP)/(StStSt+PPP+S2m+S2d+Sm2)の値が0.50~0.90、好ましくは0.55~0.90である。上記比の値が0.50未満であると、ロールイン時に油脂の加工軟化が顕著となったり、シート状ロールイン油脂組成物が生地に練り込まれやすくなってしまい、またホイロ時の耐熱性も悪化するため、得られる層状ベーカリー製品の浮きが不足し、また内相がパン目となってしまう。また、場合によっては、シャープな口溶けとならずワキシーな食感となってしまう。一方、上記比の値が0.90超であると、シート状ロールイン油脂組成物が脆い物性になりやすく、ロールインする際にもろくなり割れてしまい、均質な油脂層が得られなくなるという問題を生じる。
【0022】
本発明のシート状ロールイン油脂組成物は上記条件(1)及び(2)に加え、下記の条件(3)を満たすことが好ましい。
以下、上記条件(3)について述べる。
本発明のシート状ロールイン油脂組成物は油相のトリグリセリド組成における(StStSt+PPP)/(StStSt+PPP+StOSt+POSt+POP)の値が0.5以下であることが好ましく、より好ましくは0.3以上0.5以下、最も好ましくは0.4以上0.5以下である。上記比の値が0.5以下とすることで、得られるベーカリー製品の口溶けを向上させることができる。(StStSt+PPP)/(StStSt+PPP+StOSt+POSt+POP)の値の下限は0であるが、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.4以上とすることで、ホイロ時の耐熱性を高めることができ、より浮きのよい層状ベーカリー製品を得ることができるため、より好ましい。
【0023】
本発明のシート状ロールイン油脂組成物は油相におけるS3、S2m、S2d、Sm2、PPP、StStSt、StOSt、POSt、POP等のトリグリセリドの含有量は、例えば、基準油脂分析試験法(2、4、6、2-2013トリアシルグリセリン組成(高速液体クロマトグラフ法)と銀イオン-高速液体クロマトグラフ法の併用により測定することができる。
【0024】
ここで、本発明のシート状ロールイン油脂組成物の油相が上記条件(1)及び(2)、好ましくは上記条件(1)、(2)及び(3)を満たすためには、シート状ロールイン油脂組成物が下記の油脂Aと下記の油脂Bとを含有することが好ましい。油脂Aと油脂Bとの配合比は、油脂A:油脂Bが質量比で、45~90:55~10であることが好ましく45~75:55~25であることがより好ましい。また、本発明のシート状ロールイン油脂組成物における油相中の油脂における油脂A及び油脂Bの合計含有量は、70~100質量%であることが好ましく、80~100質量%であることがより好ましく、90~100質量%であることが更に好ましく、油相が油脂A及び油脂Bのみからなることが特に好ましい。更に、前記の配合比及び合計含有量を満たすことを条件として、本発明の組成物の油相における油脂Aの含有量は30~90質量%であることが好ましく、45~80質量%であることがより好ましく、最も好ましくは45~75質量%である。同様に、本発明の組成物の油相における油脂Bの含有量は6~55質量%であることが好ましく、15~55質量%であることがより好ましく、最も好ましくは20~55質量%である。
油脂A:SUSを多く含有する油脂
油脂B:30℃で液状である油脂
ここで、SUS:1、3位に炭素数16~18の飽和脂肪酸、2位に炭素数16~18の不飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドである。
【0025】
上記油脂Aについて述べる。
上記「SUSを多く含有する油脂」とは、SUSを15質量%以上、好ましくは30質量%以上含有する油脂である。「SUSを多く含有する油脂」としては、例えば、パーム油、カカオ脂、シア脂、マンゴー核脂、サル脂、イリッペ脂、コクム脂、デュパー脂、モーラー脂、フルクラ脂及びチャイニーズタロー等の各種植物油脂、これらの各種植物油脂を分別した加工油脂、並びに下記に記載するエステル交換油脂、該エステル交換油脂を分別した加工油脂を用いることができる。本発明では、これらの油脂の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0026】
上記エステル交換油脂としては、例えば、パーム油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオバター、シア脂、マンゴー核脂、サル脂、イリッペ脂、魚油及び鯨油等の各種動植物油脂、これらの各種動植物油脂を必要に応じて水素添加及び/又は分別した後に得られる加工油脂、脂肪酸、脂肪酸低級アルコールエステルを用いて製造したエステル交換油脂であって、SUSが15質量%以上、好ましくは30質量%以上である油脂である。エステル交換の方法としては、酵素を用いても、化学触媒を用いてもよく、またランダムエステル交換でも、1,3位置選択性のあるエステル交換でもよい。
【0027】
本発明のシート状ロールイン油脂組成物においては、上記「SUSを多く含有する油脂」として、パーム油、カカオ脂、シア脂、マンゴー核脂、サル脂及びイリッペ脂等の各種植物油脂の分別中部油や分別硬部油を使用することが好ましく、カカオ脂分別硬部油、パーム油分別硬部油、パーム油分別中部油、シア脂分別硬部油及びコクム脂分別硬部油から選択される油脂のうちの1種又は2種以上を使用することがより好ましく、より口溶けの良好であるシート状ロールイン油脂組成物が得られる点で、パーム油分別硬部油、パーム油分別中部油及びシア脂分別硬部油から選択される油脂のうちの1種又は2種以上を使用することがより好ましく、特に好ましくはパーム油分別硬部油を少なくとも使用する。
【0028】
次いで上記油脂Bについて述べる。
上記「30℃で液状である油脂」としては、大豆油、菜種油(キャノーラ油)、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ハイオレイックサフラワー油、ひまわり油及びハイオレイックひまわり油等の、常温(30℃)で液状の油脂が挙げられる。また、これらの油脂の他に、パーム油、パーム核油、ヤシ油、シア脂、サル脂、マンゴー核脂、乳脂、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油及び鯨油等の、常温(30℃)で固体の油脂を分別することで得られた軟部油であって、常温(30℃)で液状である油脂も使用することもできる。また、これらの油脂に対し、水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂についても、得られる加工油脂が30℃で液状である範囲内において使用することもできる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0029】
本発明では、得られる油脂組成物の口溶けを良好なものとすることが可能な点から、上記「30℃で液状である油脂」として、大豆油、菜種油(キャノーラ油)、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ハイオレイックサフラワー油、ひまわり油及びハイオレイックひまわり油のうちから選択される1種又は2種以上を使用することが好ましい。
【0030】
本発明のシート状ロールイン油脂組成物は、上記油脂A及び上記油脂Bに加え、その他の油脂を使用することができる。上記その他の油脂の含有量は、油相中、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。その他の油脂の含有量が30質量%を超えると、良好な伸展性や、層状ベーカリー製品の良好な浮きや口溶けが得られないおそれがある。
【0031】
本発明のシート状ロールイン油脂組成物は、油相の融点が40~60℃であることが好ましく、より好ましくは45~55℃である。上記融点の範囲内であることにより、イーストの一番活性の高い一般的なパンのホイロ温度である38℃のホイロ条件であっても、浮きが良好である層状ベーカリー製品を得ることができる。
【0032】
本発明のシート状ロールイン油脂組成物は、エステル交換油脂の含有量が、油相中、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下であり、特に好ましくは4質量%以下であり、エステル交換油脂を含まないことが特に好ましい。エステル交換油脂はトリグリセリド組成が複雑であることから、これを含有すると、ホイロ時の耐熱性が低下するといった問題がある。
【0033】
本発明のシート状ロールイン油脂組成物は、極度硬化油の含有量が、油相中、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下であり、特に好ましくは2質量%以下であり、極度硬化油を含まないことが特に好ましい。極度硬化油はトリグリセリド組成においてそのほぼ全部がS3であることから、これを含有すると油脂組成物が硬くなってしまいやすく、得られる層状ベーカリー製品の口溶けが極度に悪化する問題や、油脂組成物をシート状に加工する際の作業性が悪化し、均質なシート状に加工することが困難となってしまうという問題がある。
【0034】
また、本発明のシート状ロールイン油脂組成物は、トランス酸を実質的に含有しないことが好ましい。水素添加は油脂の融点を上昇させる典型的な方法であるが、これによって得られる水素添加油脂は、完全水素添加油脂を除いて、通常構成脂肪酸中にトランス酸が10~50質量%程度含まれている。一方、天然油脂中にはトランス酸が殆ど存在せず、反芻動物由来の油脂に10質量%未満含まれているにすぎない。近年、化学的な処理、特に水素添加に付されていない油脂組成物、即ち実質的にトランス酸を含まない油脂組成物であって、適切なコンシステンシーを有するものが要求されている。
ここでいう「実質的に」とは、トランス酸含量が、本発明のシート状ロールイン油脂組成物の全構成脂肪酸中、好ましくは10質量%未満、更に好ましくは5質量%未満、最も好ましくは2質量%未満であることを意味する。
本発明では、シート状ロールイン油脂組成物が水素添加油脂を使用せずとも良好なコンシステンシーを有するため、トランス酸を実質的に含有しないシート状ロールイン油脂組成物を得ることができる。
【0035】
本発明のシート状ロールイン油脂組成物においては、油相の結晶形がβ型であることが好ましい。油相の結晶形がβ型であることによって、経日的な油脂の硬さ変化がなく、粗大結晶の生成がなくザラ等が発生しないことに加え、コシがあり、ホイロ時の耐熱性も向上した、使用しやすいシート状ロールイン油脂組成物が得られる。油相の結晶形を確認するためには、例えば以下の方法を用いる。
5℃で24時間保管した油脂組成物を2θ:17~26度の範囲でX線回折測定を実施し、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られた場合、油脂組成物の油相の結晶形がβ型であることが確認される。
【0036】
本発明のシート状ロールイン油脂組成物は、油脂の含量が、好ましくは35~100質量%、更に好ましくは40~95質量%、最も好ましくは45~87質量%である。また、本発明のシート状ロールイン油脂組成物は、水の含量が、好ましくは65~0質量%、更に好ましくは60~10質量%、最も好ましくは55~13質量%である。なお上記油脂含量及び水の含量には、下記のその他の成分に含まれる油分や水分を加算して算出するものとする。
【0037】
なお、本発明のシート状ロールイン油脂組成物が水分を含む場合、その乳化形態は、油中水型、水中油型、及び二重乳化型のいずれでも構わないが、油中水型であることが好ましい。
【0038】
なお、本発明のシート状ロールイン油脂組成物はマーガリンあるいはショートニングに代表される可塑性油脂組成物であることが好ましい。油脂組成物に可塑性を付与するには、下で述べるように、油脂組成物製造時に急冷可塑化すればよい。
【0039】
また、本発明のシート状ロールイン油脂組成物は、シート状ロールイン油脂組成物が乳化剤を1種又は2種以上含有する場合がある。
上記の乳化剤としては、例えばグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エス
テル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等の合成乳化剤や、例えば大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、サポニン、植物ステロール類、乳脂肪球皮膜等の、合成乳化剤でない乳化剤が挙げられる。
乳化剤を用いる場合、本発明のロールイン油脂組成物中、例えば0.1~10質量%であることが風味や乳化安定性の点で好ましく、0.2~2質量%であることが特に好ましい。
【0040】
本発明のシート状ロールイン油脂組成物は、上記成分以外のその他の成分を含有する場合がある。該その他の成分としては、例えば、増粘安定剤、食塩、塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、糖類や糖アルコール類、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、β-カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、卵及び各種卵加工品、着香料、乳製品、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、ココアマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類及び魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0041】
上記増粘安定剤としては、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉及び化工澱粉等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。上記増粘安定剤の含量は、特に制限はないが、本発明のシート状ロールイン油脂組成物中、好ましくは0~10質量%、更に好ましくは0~5質量%である。なお、本発明のシート状ロールイン油脂組成物において、上記増粘安定剤が必要でなければ、増粘安定剤を用いなくてもよい。
【0042】
ロールイン油脂には小片状の油脂を使用する練りパイ方式と、シート状の油脂を使用する折りパイ方式があるが、本発明のシート状ロールイン油脂組成物は後者の折りパイ方式に使用するためにシート状である必要がある。本発明におけるシート状の具体的な好ましい厚さTは1~50mm、より好ましくは2~30mmであり、とくに好ましくは5~15mmである。シート状の形状は、薄片状等とは異なり、面積の広がりを有する。シート状ロールイン油脂組成物を水平面上に、シートの厚さ方向が水平面と直交するように戴置させたときに、その平面視形状を横断する最短線分の長さを幅Wとしたときに、幅Wと厚さTの比率W/Tが4以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましく、12以上であることが更に好ましく、15以上であることが更に一層好ましい。厚さや厚さと幅の比率はノギス等で測定でき、シートの任意の一か所の測定について該当すればよい。
【0043】
次に、本発明のシート状ロールイン油脂組成物の製造方法を説明する。
本発明のシート状ロールイン油脂組成物は、その製造方法が特に制限されるものではなく、上記条件(1)及び(2)、好ましくは条件(1)、(2)及び(3)を満たす油相を溶解し、冷却し、結晶化して油脂組成物とする際に、シート状に成形する工程を含むことによって得ることができる。
具体的には、まず、条件(1)及び(2)、好ましくは条件(1)、(2)及び(3)の条件を満たす油相を溶解し、必要により水相を混合乳化する。そして次に、殺菌処理するのが望ましい。殺菌方法はタンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。
【0044】
次に、油相を冷却し、結晶化させる。好ましくは冷却可塑化する。冷却条件は、好ましくは-0.5℃/分以上、更に好ましくは-5℃/分以上とする。この際、徐冷却より急速冷却の方が好ましい。
冷却する機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えばボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のクーリングドラムやダイアクーラーと、コンプレクタ等の真空押し出し成型機の組み合わせが挙げられるが、容易に油相をβ型とするためには、上記冷却可塑化の際の冷却を急速冷却、好ましくは-20℃/分以上、より好ましくは-10℃/秒以上の急速冷却とし、その後、可塑化までの間にエージング工程をとることが好ましい。そのため、開放型のクーリングドラムと真空押し出し成型機の組み合わせを選択し、クーリングドラムやダイアクーラーで急速冷却後、エージング工程をとった後、コンプレクタ等の真空押し出し成型機で混捏し、可塑化することが好ましい。エージングとは、所定温度で所定時間保持する工程であり、静置状態で保持する。エージングは少なくとも結晶が析出した状態で30分以上であればよいが、好ましくは10~30℃で30~240分で行うことで首尾よくβ型結晶が得られる点で好ましい。より好ましくは15~25℃で30~180分、特に好ましくは15~25℃で30~90分である。
また、本発明のシート状ロールイン油脂組成物を製造する際のいずれかの製造工程で、窒素、空気等を含気させても、含気させなくても構わない。
【0045】
次に、結晶化した油相をシート状に成形する。ここで、その成形方法としては、可塑性油脂組成物を得た後に、圧延・スライスなどの方法でシート状に成形する方法や、あらかじめシート状となる型に流し込み成形する方法、あるいは、連続ラインでファットポンプ等を使用して押し出す際にシート状に押し出す方法などが挙げられる。
本発明においてシート状の好ましい厚さは1~50mm、より好ましくは2~30mmであり、とくに好ましくは5~15mmである。
【0046】
次に本発明の積層状ベーカリー生地について説明する。
本発明の積層状ベーカリー生地は本発明のロールイン油脂組成物を含有するものであり、例えば、澱粉類主体のドウに対し、上記シート状ロールイン油脂組成物をロールインすることによって得られるものである。
【0047】
上記澱粉類としては、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉及び全粒粉等の小麦粉類、ライ麦粉、大麦粉及び米粉等のその他の穀粉類、アーモンド粉、へーゼルナッツ粉、カシューナッツ粉、オーナッツ粉及び松実粉等の堅果粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉及び米澱粉等の澱粉並びにこれらの澱粉に酵素処理、α化処理、分解処理、エーテル化処理、エステル化処理、架橋処理及びグラフト化処理から選択される1以上の処理を施した化工澱粉等が挙げられる。上記澱粉類は、小麦粉類を好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、最も好ましくは100質量%含有することが望ましい。
【0048】
上記澱粉類主体のドウとは、澱粉類、油脂、卵、粉乳、食塩、糖類、呈味剤、イースト及び膨張剤等を加えて練り上げたものであり、ロールイン油脂組成物をロールインすることによってパイ生地、デニッシュ生地、クロワッサン生地、パイドーナツ生地、デニッシュドーナツ生地、タルト生地となる生地である。本発明では、上記本発明のシート状ロールイン油脂組成物が、ホイロ時の耐熱性を有することから、デニッシュ生地、クロワッサン生地、イーストドーナツ生地などのイーストを含有する生地であることが好ましい。
【0049】
本発明の積層状ベーカリー生地における本発明のロールイン油脂組成物のロールイン量は、上記澱粉類主体のドウに含まれる澱粉類100質量部に対し、好ましくは10~100質量部、より好ましくは10~50質量部である。
本発明の積層状ベーカリー生地の好ましい層数は12~512層、より好ましくは16~256層である。層数が12層以上であると、得られる層状ベーカリー製品の層状構造部分が均質で浮きが均一になり、また、油っぽい食感とならず、且つ焼成時に油脂漏れが発生しにくくなる。また層数が512層以下であると、浮きが良好で、且つ得られる層状ベーカリー製品が確実に層状構造を有するものとなる。
【0050】
ここで、澱粉類主体のドウに本発明のシート状ロールイン油脂組成物を折り込む方法は、特に限定されず、一般のデニッシュ方式の層状ベーカリー食品の製造方法と同様の方法で添加することができる。具体的には、ドウ生地にシート状ロールイン油脂組成物を積載し、包み込み、圧延、折り畳みする方法や、連続ラインでラミネーター方式で折り込む方法、あるいは、シート状に成形したドウ生地とシート状ロールイン油脂組成物を重層した生地を一定の大きさに切断した生地を積層する方法、さらにはブロック状のロールイン油脂組成物をファットポンプ等で送りだし、連続的に生地上にシート状に合わせていく方法などを挙げることができる。
なお、上記折り畳み操作やラミネートする際には、リバースシーターやラミネーター等、通常の装置を用いることができる。
なお、本発明のベーカリー生地は、ホイロをとらずに冷凍又は冷蔵してもよいし、ホイロをとった後に冷凍又は冷蔵してもよい。
【0051】
次に本発明の層状ベーカリー製品について述べる。
本発明の層状ベーカリー製品は、上記の積層状ベーカリー生地の加熱品である。好ましくは上記の積層状ベーカリー生地のホイロをとった後の加熱品である。加熱品の種類としては、焼成品、フライ品、蒸し品及び電子レンジ加熱品が挙げられるが、焼成品であることが好ましい。
なお、本発明の層状ベーカリー製品の具体的な製法としては、上記の積層状ベーカリー生地を必要に応じ、分割し、丸めたり、延展したり、更に打抜く等の成形、型入れ、ホイロ等を行なった後、焼成、フライ、蒸す、電子レンジ加熱等の加熱工程に供することにより、得ることができる。
【0052】
ここで、本発明の積層状ベーカリー生地がイーストを含む場合、本発明のロールイン油脂組成物を含有していることによりイーストの一番活性の高い一般的なパンのホイロ温度である38℃前後であっても良好な浮きの層状ベーカリー製品が得られるという特徴を有するため、ホイロ温度は好ましくは35~40℃、より好ましくは36~39℃であることが好ましい。ホイロをホイロ工程ともいう。
また、本発明の積層状ベーカリー生地が冷凍生地である場合は、解凍後、あるいは解凍することなく常法に従い、加熱して層状ベーカリー製品とすることができる。
また、本発明の積層状ベーカリー生地を焼成等の加熱工程に供して得られた層状ベーカリー製品は、冷凍保存することが可能であり、冷凍保存した該層状ベーカリー製品は、電子レンジで解凍調理することが可能である。
【実施例0053】
<シート状ロールイン油脂組成物の製造1>
油脂Aとして、パーム油分別硬部油、及びシア脂分別硬部油を使用した。油脂Bとして菜種油を使用した。その他の油脂として、パーム油分別軟部油のランダムエステル交換油脂、パーム油分別硬部油のランダムエステル交換油脂、及び、パーム油:パーム極度硬化油=質量比65:35の混合油脂のランダムエステル交換油脂を使用した。これらの油脂を表1に記載の割合で配合し混合油脂とし、下記に記載の製造方法で、実施例1~8及び比較例1~7のシート状ロールイン油脂組成物A~Oを得た。なお、表1中の数値は質量部である。
【0054】
(シート状ロールイン油脂組成物の製造方法)
表1に記載の混合油脂80質量部にレシチン0.5質量部及びパルミチン酸モノグリセリド0.5質量部を添加し、70℃で加温溶解した。この油相に、食塩1質量部を水18質量部に添加して油中水型に乳化し、これをクーリングドラムを使用して-40℃/秒で-6℃まで急冷固化させ、20℃で60分エージングしたのち、真空押し出し成型機(コンプレクタ)を使用して混捏・可塑化し、水分18質量%の可塑性油脂組成物を得た。この可塑性油脂組成物を20℃で24時間調温したのち、厚さ8mm、幅200mm、長さ400mmのシート状に成形し、シート状ロールイン油脂組成物を得た。
【0055】
実施例1~8及び比較例1~7のシート状ロールイン油脂組成物A~Oの油相のトリグリセリド組成における下記(1)~(3)の値について、表2に記載した。
(1)S3、S2m、S2d及びSm2を合計した含有量
(2)(StStSt+PPP+StOSt+POSt+POP)/(StStSt+PPP+S2m+S2d+Sm2)
(3)(StStSt+PPP)/(S3+StOSt+POSt+POP)
【0056】
また、上記ロールイン油脂組成物A~Oについて、5℃で24時間保管後に2θ:17~26度の範囲でX線回折測定を実施し、格子面間隔を求めた。4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られたものは油脂結晶がβ型、4.2オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られたものはβプライム型、と判定し、結果を表2に記載した。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
<ベーカリー試験1>
上記シート状ロールイン油脂組成物A~Oを使用し、下記の配合及び製法でデニッシュ生地、及びデニッシュを得た。ロールイン時の伸展性について下記の評価基準に従って評価を行い、評価結果を表3に記載した。
得られたデニッシュについて室温1日保管後に、目視により浮き、及び内相の評価を行った。また、10人のパネラーにより食感について評価を行った。なお、これらの評価については下記の評価基準に従って評価を行い、評価結果を表3に記載した。
【0060】
(ベーカリー生地配合・製法)
強力粉100質量部、イースト4質量部、イーストフード0.1質量部、上白糖15質量部、食塩1.2質量部、脱脂粉乳2質量部、全卵(正味)5質量部、及び水53質量部をミキサーボウルに投入し、たて型ミキサーにて低速3分、中速3分ミキシングし、ここに練込用マーガリン8質量部を投入し、更に低速3分中速3分ミキシングし、澱粉類主体のドウ(1)を得た。捏上げ温度は25℃であった。この澱粉類主体のドウ(1)をフロアタイムを30分とった後、2℃の冷蔵庫内でリタードした。一晩後、シート状ロールイン油脂組成物を澱粉類主体のドウに含まれる小麦粉100質量部に対し50質量部となる量を積置し、リバースシーターを用いて常法によりロールイン(3つ折り2回)し、その後2℃の冷蔵庫内でリタードを2時間とった後、リバースシーターを用いて常法により4つ折り1回をして、層数が36層である積層状ベーカリー生地(1)を得た。
上記積層状ベーカリー生地(1)をリバースシーターを用いて厚さ5.0mmまで最終圧延を行い、100mm角の正方形に生地を切り出し、ターンオーバー成形をしたあと、これを展板上に並べ、温度38℃、相対湿度80%のホイロで45分発酵させた後、190℃に設定した固定オーブンで14分焼成し、デニッシュである層状ベーカリー製品を得た。
【0061】
(評価基準)
・(1)シート状ロールイン油脂組成物の伸展性
◎:割れることなく均一にきれいに伸びた。
○:やや厚い場所があるが、割れることなく伸びた。
△:もろくて割れが発生し、均質に伸びなかった。
×:硬すぎて均質に伸びなかった。
××:軟らかすぎて生地に練りこまれてしまった。
【0062】
・(2)層状ベーカリー製品の浮き
◎:均質で高い浮きを示した。
○:やや伸びがないが均質な浮きを示した
△:均質な浮きではあるが高さが低い
×:不均一且つ浮きの高さも低い。
【0063】
・(3)層状ベーカリー製品の内相
◎:均一な網の目状の優れた内相であった。
○:やや不均一ではあるが、網の目状の良好な内相であった。
△:層が厚く不良な内相であった。
×:パン目であり不良であった。
【0064】
・(4)層状ベーカリー製品の食感(口溶け)
10名のパネラーにより、それぞれ、下記の4段階評価を行い、一番多かった評価を食感(口溶け)の評価とした。なお、同数だった場合は上位の評価をその評価とした。
◎:良好な口溶けを有していた。
○:ややワキシー感はあるが良好な口溶けを有していた。
△:ワキシー感が強く、口溶けがやや悪いものであった。
×:ワキシー感が強く口溶けが不良であった。
【0065】
【表3】
【0066】
表3に示す通り、各実施例のシート状の油脂組成物は、ロールイン時の伸展性が良好であり、得られた層状ベーカリー製品は浮き、内相及び口溶けが良好で、ホイロの耐熱性に優れることが判る。一方、上記条件(1)又は(2)を満たさない各比較例は伸展性、口溶け、浮きの何れか1つ以上が劣る結果となった。
【0067】
<シート状ロールイン油脂組成物の製造2>
〔実施例9〕
シート状ロールイン油脂組成物の製造1の実施例5のシート状ロールイン油脂組成物Eの製造法の20℃で60分エージングをエージングなしに変更した以外は実施例5と同様にして、シート状ロールイン油脂組成物E-2を得た。上記ロールイン油脂組成物E-2の油相の結晶形をシート状ロールイン油脂組成物の製造1と同様の方法で測定したところ、結晶形はβプライム型であった。
【0068】
〔実施例10〕
シート状ロールイン油脂組成物の製造1の実施例5のシート状ロールイン油脂組成物Eの製造法の20℃で60分エージングを5℃で60分エージングに変更した以外は実施例5と同様にして、シート状ロールイン油脂組成物E-3を得た。上記ロールイン油脂組成物E-3の油相の結晶形をシート状ロールイン油脂組成物の製造1と同様の方法で測定したところ、結晶形はβプライム型であった。
【0069】
〔実施例11〕
シート状ロールイン油脂組成物の製造1の実施例5のシート状ロールイン油脂組成物Eの製造法の20℃で60分エージングを20℃で10分エージングに変更した以外は実施例5と同様にして、シート状ロールイン油脂組成物E-4を得た。上記ロールイン油脂組成物E-4の油相の結晶形をシート状ロールイン油脂組成物の製造1と同様の方法で測定したところ、結晶形はβプライム型であった。
【0070】
〔実施例12〕
シート状ロールイン油脂組成物の製造1の実施例5のシート状ロールイン油脂組成物Eの製造法の20℃で60分エージングを20℃で120分エージングに変更した以外は実施例5と同様にして、シート状ロールイン油脂組成物E-5を得た。上記ロールイン油脂組成物E-5の油相の結晶形をシート状ロールイン油脂組成物の製造1と同様の方法で測定したところ、結晶形はβ型であった。
【0071】
〔実施例13〕
シート状ロールイン油脂組成物の製造1の実施例5のシート状ロールイン油脂組成物Eの製造法の20℃で60分エージングを15℃で120分エージングに変更した以外は実施例5と同様にして、シート状ロールイン油脂組成物E-6を得た。上記ロールイン油脂組成物E-6の油相の結晶形をシート状ロールイン油脂組成物の製造1と同様の方法で測定したところ、結晶形はβ型であった。
【0072】
〔実施例14〕
シート状ロールイン油脂組成物の製造1の実施例5のシート状ロールイン油脂組成物Eの製造法を下記の製造方法2に変更した以外は実施例5と同様にして、シート状ロールイン油脂組成物E-7を得た。上記ロールイン油脂組成物E-7の油相の結晶形をシート状ロールイン油脂組成物の製造1と同様の方法で測定したところ、結晶形はβプライム型であった。
【0073】
(シート状ロールイン油脂組成物の製造方法2)
表1に記載の混合油脂80質量部にレシチン0.5質量部及びパルミチン酸モノグリセリド0.5質量部を添加し、70℃で加温溶解した。この油相に、食塩1質量部を水18質量部に添加して油中水型に乳化し、Aユニットを4本有するコンビネーターにレスティングチューブを接続した連続式冷却混和装置を用いて、上記予備乳化液を-25℃/分で20℃まで急冷可塑化し、水分18質量%の可塑性油脂組成物を得た。この可塑性油脂組成物を20℃で24時間調温したのち、厚さ8mm、幅200mm、長さ400mmのシート状に成形し、シート状ロールイン油脂組成物を得た。
【0074】
<ベーカリー試験2>
上記シート状ロールイン油脂組成物E-2~E-7を使用し、上記ベーカリー試験1と同様の配合・製法でデニッシュ生地、及びデニッシュを得た。ロールイン時の伸展性、デニッシュの浮き、内相及び食感について上記ベーカリー試験1と同様の評価基準に従って評価を行い、評価結果を表4に記載した。
【0075】
【表4】
【0076】
表4に示す通り、油相の結晶形がβ型である場合、浮きの結果が更に優れ、ホイロの耐熱性が一層良好になることが判る。