(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178001
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】ヘテロ構造およびその作製方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/20 20060101AFI20221125BHJP
H01L 21/338 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
H01L21/20
H01L29/80 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084478
(22)【出願日】2021-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】廣木 正伸
(72)【発明者】
【氏名】熊倉 一英
(72)【発明者】
【氏名】牧本 俊樹
【テーマコード(参考)】
5F102
5F152
【Fターム(参考)】
5F102GJ10
5F102GL04
5F102GM04
5F102GQ01
5F102GQ03
5F152LL09
5F152LM08
5F152MM18
5F152NN14
5F152NN20
5F152NN23
5F152NP09
5F152NQ09
(57)【要約】
【課題】非晶質基板の上に低温で窒化物半導体を成長したヘテロ構造における電子の移動度を、より高くする。
【解決手段】ヘテロ構造は、基板101と、基板101の上に形成された第1半導体層102と、第1半導体層102の上に形成された第2半導体層103とを備える。基板101は、非晶質の絶縁材料から構成されている。第1半導体層102は、基板101の上に接して形成され、Inを含む窒化物半導体から構成されている。第2半導体層103は、第1半導体層102の上に接して形成され、第1半導体層102より大きなバンドギャップの窒化物半導体から構成されている。第2半導体層103は、例えば、可視光を吸収しない程度のバンドギャップエネルギーをもつ窒化物半導体から構成することが望ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質の絶縁材料からなる基板の上に接して形成された、Inを含む窒化物半導体からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の上に接して形成された前記第1半導体層より大きなバンドギャップの窒化物半導体からなる第2半導体層と
を備えるヘテロ構造。
【請求項2】
請求項1記載のヘテロ構造において、
前記第1半導体層は、厚さが5nm以下とされていることを特徴とするヘテロ構造。
【請求項3】
請求項1または2記載のヘテロ構造において、
前記第2半導体層は、バンドギャップエネルギーが3eV以上とされ、厚さが10nm以下とされていることを特徴とするヘテロ構造。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のヘテロ構造において、
前記第1半導体層は、InNから構成されていることを特徴とするヘテロ構造。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のヘテロ構造において、
前記第2半導体層は、GaNから構成されていることを特徴とするヘテロ構造。
【請求項6】
アモルファスの基板の上に、Inを含む窒化物半導体を成長して、前記基板の上に接して第1半導体層を形成する第1工程と、
前記第1半導体層の上に、Inを含む窒化物半導体の成長に連続して前記第1半導体層より大きなバンドギャップの窒化物半導体を成長して、前記第1半導体層の上に接して第2半導体層を形成する第2工程と
を備えるヘテロ構造の作製方法。
【請求項7】
請求項6記載のヘテロ構造の作製方法において、
前記第1工程、および前記第2工程は、成長の温度を300℃以下とすることを特徴とするヘテロ構造の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体によるヘテロ構造およびその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaNをはじめとした窒化物半導体は、III族元素の混合比を変えることで0.7~6.2eVという広範な範囲のエネルギーギャップを有する材料を得ることができるという特徴を有している。エネルギーギャップの大きい範囲に属する窒化物半導体は、高耐圧が要求される高出力トランジスタへの応用が期待され、開発が進められている。
【0003】
例えば、サファイア基板の上に、GaNからなる層を形成し、この上にAl0.25Ga0.75Nからなる層を形成したヘテロ構造は、高出力トランジスタ用の構造として広く利用されている。このような従来のAlGaN/GaNヘテロ構造は、窒化物半導体シングルヘテロ構造であるものの、GaNからなる層の厚さは、1μm程度となる。
【0004】
GaNやAlNに比べて、InNにおける電子の有効質量は小さいので、Inを含むInGaNにおける電子の移動度は高いことが知られている。このため、InGaNを電子のチャネル層(電子が走行する層)に用いることにより、電界効果トランジスタ(FETの特性)が向上することが報告されている(非特許文献1)。
【0005】
上述した技術では、GaNからなる層と、Al0.25Ga0.75Nからなる層とに挾まれたIn0.1Ga0.9Nからなる層を電子が走行するので、InGaNの層がチャネル層となる。そして、AlGaNの層とGaNの層がInGaNの層を挟み込む障壁層となる。この構造は、InGaNの層をバンドギャップエネルギーの大きな2つの窒化物半導体層で挟み込んでおり、窒化物半導体ダブルヘテロ構造を形成している、この窒化物半導体ダブルヘテロ構造は、厚さの薄いInGaNからなるチャネル層に二次元電子ガスを強く閉じ込めることができるため、FET特性が向上するという利点がある。
【0006】
ところで、一般には、窒化物半導体ではない異種基板の上に窒化物半導体の層を作製して上述したFETなどの素子を作製している。このように、異種基板を用いる場合、異種基板の上に窒化物半導体のバッファー層を形成している。上述したダブルヘテロ構造においては、SiCからなる基板の上に、GaNを厚さ400nmに成長してバッファー層としている。
【0007】
また、前述したシングルヘテロ構造では、有機金属気相成長(MOVPE)法や分子線エピタキシー(MBE)法などを用いて、サファイア基板、Si基板、SiC基板などの単結晶基板の上に、窒化物半導体の成長することが多い。これらの単結晶基板の上に、高温で窒化物半導体を成長することでダブルヘテロ構造を形成、高い移動度を得ることができるからである。例えば、従来、500℃から1200℃程度の高温で窒化物半導体を成長して上述したヘテロ構造を成長することで、室温において1000cm2/Vs以上の高い電子移動度を得ている。
【0008】
一方で、プラスティック基板などの非晶質(アモルファス)基板上に作製した透明薄膜トランジスタ(透明薄膜FET)は、ディスプレイの制御などに用いられている。これらのプラスティック基板上に薄膜FETを作製する場合には、プラスティック基板の耐熱温度が低いために、成長温度を高くすることができない。このような低温で窒化物半導体の成長を行うと、一般的に、キャリアの移動度は大きく減少する。このため、アモルファス基板上に作製する透明薄膜FETでは、10cm2/Vs程度の移動度であっても高い移動度であるとされている。
【0009】
低温で成長した窒化物半導体薄膜に関しては、スパッタ法を用いて、300℃の低温で80nmのInGaNをガラス基板上に成長し、22cm2/Vsの高い移動度を得た報告がある(非特許文献2)。この技術では、InGaNの層の厚さが比較的厚い80nmであり、In組成が45%であることから、可視光を吸収するので、光の透過率は十分に高くない。
【0010】
また、アモルファス基板であるガラス基板上に低温で成長したAlN/InAlNヘテロ構造を用いたFETの報告がある(非特許文献3)。この技術では、InAlNからチャネル層を構成している。ここで、InAlNのIn組成は79%であるので、バンドギャップエネルギーは1.8eV程度(700nm程度の波長に相当)である。また、このInAlNの層の厚さは7nmと比較的厚く、青色光(480nm程度)の透過率は低いものと考えられる。また、FET作製プロセスにおいて、InAlNを加工した後に、35nmのAlN絶縁層をInAlNの上に室温で成長している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】G. Simin et al., "AlGaN/InGaN/GaN Double Heterostructure Field-Effect Transistor", Japanese Journal of Applied Physics, vol. 40, pp. L1142-L1144, 2001.
【非特許文献2】T. Itoh et al., "Fabrication of InGaN thin-film transistors using pulsed sputtering deposition", Scientific Reports, vol. 6, Article number: 29500, 2016.
【非特許文献3】K. Nakamura et al., "AlN/InAlN thin-film transistors fabricated on glass substrates at room temperature", Scientific Reports, vol. 9, Article number: 6254, 2019.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、従来の技術では、非晶質基板の上に低温で窒化物半導体を成長したヘテロ構造では、電子の移動度が低いという問題があった。
【0013】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、非晶質基板の上に低温で窒化物半導体を成長したヘテロ構造における電子の移動度を、より高くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るヘテロ構造は、非晶質の絶縁材料からなる基板の上に接して形成された、Inを含む窒化物半導体からなる第1半導体層と、第1半導体層の上に接して形成された第1半導体層より大きなバンドギャップの窒化物半導体からなる第2半導体層とを備える。
【0015】
本発明に係るヘテロ構造の作製方法は、アモルファスの基板の上に、Inを含む窒化物半導体を成長して、基板の上に接して第1半導体層を形成する第1工程と、第1半導体層の上に、Inを含む窒化物半導体の成長に連続して第1半導体層より大きなバンドギャップの窒化物半導体を成長して、第1半導体層の上に接して第2半導体層を形成する第2工程とを備える。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、非晶質の絶縁材料からなる基板の上に接してInを含む窒化物半導体からなる第1半導体層を形成し、この上に接してより大きなバンドギャップの窒化物半導体からなる第2半導体層を形成したので、非晶質基板の上に低温で窒化物半導体を成長したヘテロ構造における電子の移動度を、より高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係るヘテロ構造の構成を示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態に係るヘテロ構造のサンプルおよび比較サンプルにおけるシート電子濃度の、第1半導体層102の厚さ依存性を示す特性図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態に係るヘテロ構造のサンプルおよび比較サンプルにおける電子移動度の、第1半導体層102の厚さ依存性を示す特性図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施の形態に係るヘテロ構造のサンプルについて、光透過率の測定を行った結果を示す特性図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施の形態に係るヘテロ構造の基板101と、第1半導体層102との間に、GaNからなるバッファー層を挿入した比較サンプル2の、バッファー層の厚さを40nmとした場合のシート電子濃度の、第1半導体層102の厚さ依存性を示す特性図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施の形態に係るヘテロ構造の基板101と、第1半導体層102との間に、GaNからなるバッファー層を挿入した比較サンプル2の、バッファー層の厚さを80nmとした場合のシート電子濃度の、第1半導体層102の厚さ依存性を示す特性図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施の形態に係るヘテロ構造の基板101と、第1半導体層102との間に、GaNからなるバッファー層を挿入した比較サンプル2の、バッファー層の厚さを40nmとした場合の電子移動度の、第1半導体層102の厚さ依存性を示す特性図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施の形態に係るヘテロ構造の基板101と、第1半導体層102との間に、GaNからなるバッファー層を挿入した比較サンプル2の、バッファー層の厚さを80nmとした場合の電子移動度の、第1半導体層102の厚さ依存性を示す特性図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施の形態に係るヘテロ構造の、第2半導体層103の厚さを変化させた場合の、シート電子濃度の変化を示す特性図である。
【
図10】
図10は、本発明の実施の形態に係るヘテロ構造の、第2半導体層103の厚さを変化させた場合の、電子移動度の変化を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態に係るヘテロ構造について
図1を参照して説明する。このヘテロ構造は、基板101と、基板101の上に形成された第1半導体層102と、第1半導体層102の上に形成された第2半導体層103とを備える。第1半導体層102は、電子が走行するいわゆるチャネル層となる。
【0019】
基板101は、非晶質(アモルファス)の絶縁材料から構成されている。基板101は、例えば、ガラス、プラスティック、ビニール、ポリイミドなどから構成することができる。第1半導体層102は、基板101の上に接して形成され、Inを含む窒化物半導体から構成されている。第1半導体層102は、例えば、InNから構成することができる。また、第1半導体層102は、バンドギャップエネルギー(Eg)が3eV以下のInGaN、バンドギャップエネルギーが3eV以下のInAlN、バンドギャップエネルギーが3eV以下のInAlGaNなどから構成することもできる。また、第1半導体層102は、後述するように、よりよくは、厚さが5nm以下とされていることが望ましい。
【0020】
例えば、In組成を15%以上としたInGaNは、バンドギャップエネルギーが3eV以下となる。また、In組成は約60%以上としたInAlNは、バンドギャップエネルギーが3eV以下となる。なお、これらの数値は、GaNのEgは3.4eV、InNのEgは0.7eV、および、AlNのEgは6.2eVであるとして、ベガード則を仮定して計算することで求めている。
【0021】
第2半導体層103は、第1半導体層102の上に接して形成され、第1半導体層102より大きなバンドギャップの窒化物半導体から構成されている。第2半導体層103は、例えば、可視光を吸収しない程度のバンドギャップエネルギーをもつ窒化物半導体から構成することが望ましい。第2半導体層103は、GaNから構成することができる。また、第2半導体層103は、例えば、AlGaN、Egが3eV以上のInAlN、Egが3eV以上のInAlGaNから構成することができる。例えば、Al組成を約40%以上としたInAlNは、Egが3eV以上となる。また、第2半導体層103は、後述するように、よりよくは、厚さが10nm以下とされていることが望ましい。
【0022】
ここで、実施の形態に係るヘテロ構造の作製について、簡単に説明する。まず、第1工程で、アモルファスの基板101の上に、Inを含む窒化物半導体を成長して、基板101の上に接して第1半導体層102を形成する。次いで、第2工程で、第1半導体層102の上に、Inを含む窒化物半導体の成長に連続して第1半導体層102より大きなバンドギャップの窒化物半導体を成長して、第1半導体層102の上に接して第2半導体層103を形成する。第1半導体層102の形成と第2半導体層103の形成とを、同一の成長装置内で実施することで、第1半導体層102を形成した後、第1半導体層102を外気に曝すことなく、原料を切り替えることで、連続して第2半導体層103の成長を実施する。また、第1工程、および第2工程は、成長の温度を300℃以下とする。上述した窒化物半導体の成長は、例えば、プラズマを用いた分子線エピタキシー(プラズマMBE)法を用いることができる。
【0023】
耐熱性が低いプラスティックなどのアモルファス材料から構成したアモルファス基板の上に窒化物半導体薄膜を成長するためには、成長温度を低くする必要がある。このように低温で窒化物半導体によるバッファー層をアモルファス基板の上に成長する場合には、バッファー層の品質が悪くなるとともに、バッファー層の表面が平坦でなくなる。このため、このバッファー層の上に、薄い厚さのチャネル層を成長すると、チャネル層を走行する電子の散乱が大きくなり、電子の移動度が大幅に減少する。
【0024】
このように、アモルファス基板の上に、低温でバッファー層を成長すると、チャネル層の電気的特性を劣化させることになる。この観点より、アモルファス基板の上に、チャネル層を形成する場合、バッファー層を用いずに、基板の上にチャネル層を直接成長する方が良いものと考えられる。
【0025】
また、チャネル層の上に、チャネル層よりバンドギャップエネルギーの大きな窒化物半導体の層を成長することにより、電子はチャネル層に強く閉じ込めることができる。このようなヘテロ構造を用いた電界効果トランジスタは、特性の向上が期待できる。さらに、チャネル層を成長した後に、FETの作製プロセスを進めると、チャネル層の表面が酸化されるとともに、不純物が付着する。これらは、チャネル層における電子の移動度が低下する原因となる。これを防ぐために、チャネル層を成長したら、チャネル層の表面を大気に曝すこと無く、連続して、バンドギャップエネルギーの高い窒化物半導体を成長することが重要となる。
【0026】
次に、実際に作製したヘテロ構造の特性評価について説明する。まず、石英ガラスからなる基板101の上に、プラズマMBE法を用いることにより、室温で、InNからなる第1半導体層102を成長し、引き続き、GaNからなる第2半導体層103を形成してシングルヘテロ構造を形成した。ここで、第2半導体層103は、厚さを10nmとし、第1半導体層102は、厚さを、2nm、5nm、10nmと変化させ、3つのサンプルを作製した。
【0027】
比較サンプルとして、基板101の上に、プラズマMBE法を用いることにより、室温で、InNからなる第1半導体層102のみを成長した。また、第1半導体層102の厚さを、2nm、5nm、10nmと変化させて3つの比較サンプルを作製した。
【0028】
サンプルの作製においては、成長温度を室温とし、窒素流量を2sccmとし、窒素のプラズマ生成のためのRFパワーを500Wとした。なお、sccmは流量の単位であり、0℃・1013hPaの流体が1分間に1cm3流れることを示す。また、通常のMBEセルを用いることで、金属Gaおよび金属Inを供給した。また、InNの成長速度は、7nm/minとし、GaNの成長速度は、3nm/minとした。一方、比較サンプルの作製においては、成長温度を室温とし、プラズマ生成のためのRFパワーを500Wとし、窒素流量を2sccmとし、InNの成長速度は、7nm/minとした。
【0029】
サンプルおよび比較サンプルの各々において、平面視で1辺が5mmの正方形の形状に基板を切り出してサンプル片、比較サンプル片とした。また、サンプル片、比較サンプル片の各々について、蒸着法を用い、4隅にAl/Auオーミック電極を形成した。
【0030】
上述したサンプル、および比較サンプルの各々について、「Van der Pauw」法を用いて、室温でのホール効果測定を行った。なお、石英ガラス基板の上に、厚さ10nmに形成した単層のGaN層に対しても室温でのホール効果測定を行ったところ、このGaN層は高抵抗であったので、GaNからなる第2半導体層103におけるキャリア濃度は無視できる。
【0031】
サンプルおよび比較サンプルにおけるシート電子濃度の、第1半導体層102の厚さ依存性を
図2に示す。また、サンプルおよび比較サンプルにおける電子移動度の、第1半導体層102の厚さ依存性を
図3に示す。サンプルの結果は、黒丸で示し、比較サンプルの結果は、黒四角で示している。
【0032】
図2に示すように、第1半導体層102を厚くするほどシート電子濃度が増加することがわかる。第1半導体層102を単独で形成した比較サンプル(黒四角)では、厚さが2nmであってもシート電子濃度が測定できることから、第1半導体層102には浅いドナーが存在しており、室温においても、電子が第1半導体層102内に存在していることがわかる。
【0033】
また、
図3に示すように、サンプルおよび比較サンプルのいずれも、第1半導体層102を厚くするほど移動度が向上することがわかる。ただし、第1半導体層102が厚い場合には、第2半導体層103とのシングルヘテロ構造における可視光の透過率が減少する。このため、後述するように、第1半導体層102の厚さには、上限が存在する。
【0034】
また、比較例において、第1半導体層102を薄くした場合には、移動度が急激に減少する。これに対して、実施の形態に係るヘテロ構造であるサンプルでは、比較サンプルに比べて、第1半導体層102を薄くしても移動度が低下しにくいものとなっている。
この理由として、後でも述べるように、第1半導体層102の表面に不純物が吸着し、あるいは、第1半導体層102の表面が酸化されることにより、第1半導体層102の中の電子が散乱を受けることが考えられる。この効果は、比較サンプルにおける第1半導体層102が薄い条件において、顕著に現れている。
【0035】
次に、実施の形態に係るヘテロ構造における光透過率について説明する。このヘテロ構造を、ディスプレイなどに適用する場合、光透過率が重要な因子となる。例えば、ディスプレイに用いる薄膜FETでは、可視光の波長領域(360nm~800nm)での光の透過率が80%以上であることが望ましい。
【0036】
以下、上述したサンプルについて、光透過率の測定を行った結果について説明する。光透過率の測定は、第2半導体層103の厚さを、10nmとし、第1半導体層102の厚さを2nm、5nm、10nmとした3つのサンプルについて実施した。
図4に、測定の結果を示す。第1半導体層102の厚さを2nmとしたサンプルの測定結果を破線で示している。また、第1半導体層102の厚さを5nmとしたサンプルの測定結果を一点鎖線で示している。また、第1半導体層102の厚さを10nmとしたサンプルの測定結果を実線で示している。また、360nmの波長および80%の光透過率を点線で示している。
図4に示されているように、第1半導体層102の厚さが10nmのGaN/InNシングルヘテロ構造では、400nm付近の波長領域において光透過率が80%よりも低くなる。以上のことから、第1半導体層102の厚さは5nm以下であることが望ましい。
【0037】
次に、実施の形態に係るヘテロ構造と、ダブルヘテロ構造とを比較するために、基板101と、第1半導体層102との間に、GaNからなるバッファー層を挿入した比較サンプル2を作製し、この電気的特性を調査した。バッファー層の厚さを40nmおよび80nmとした、2つの比較サンプル2を作製した。いずれのバッファー層も高抵抗であり、バッファー層中のキャリア濃度は無視できる。
【0038】
また、比較サンプル2においては、第2半導体層103の厚さは、10nmとし、第1半導体層102の厚さを2nm、5nm、10nmと変化させた。まず、バッファー層の厚さを40nmとした比較サンプル2のシート電子濃度の、第1半導体層102の厚さ依存性を
図5に示す。また、バッファー層の厚さを80nmとした比較サンプル2のシート電子濃度の、第1半導体層102の厚さ依存性を
図6に示す。
【0039】
図5,
図6において、シングルヘテロ構造としている実施の形態におけるヘテロ構造のサンプルについて、シート電子濃度を黒丸で示している。一方、比較サンプル2のシート電子濃度は、黒三角で示している。いずれにおいても、第1半導体層102の厚さが増加するとシート電子濃度が増加する。これは、前述したように、第1半導体層102には浅いドナーが存在しているためである。
【0040】
次に、バッファー層の厚さを40nmとした比較例2における電子移動度の、第1半導体層102の厚さ依存性を
図7に示す。また、バッファー層の厚さを80nmとした比較例2における電子移動度の、第1半導体層102の厚さ依存性を
図8に示す。
図7,
図8において、シングルヘテロ構造としている実施の形態におけるヘテロ構造のサンプルについて、電子移動度を黒丸で示している。一方、比較サンプル2の電子移動度は、黒三角で示している。
【0041】
いずれの場合にも、第1半導体層102の厚さが増加すると移動度が増加する。ただし、第1半導体層102のいずれの厚さにおいても、実施の形態1に係るヘテロ構造のサンプルの移動度は、比較サンプル2の移動度よりも大きい。このように、アモルファス状の基板101の上に、窒化物半導体ヘテロ構造を成長する構成においては、バッファー層が無い方が良いことがわかる。
【0042】
次に、作製方法の違いによるヘテロ構造への影響について説明する。前述した実施の形態では、第1半導体層102の形成に連続して第2半導体層103を形成した。これに対し、基板101の上に、第1半導体層102を形成した後、これを、一度成長装置から取り出して大気中で3日間保管し、この後、第1半導体層102の上に第2半導体層103を形成する。第1半導体層102は、厚さ2nmに形成し、第2半導体層103は、厚さ10nmに形成する。この、比較サンプル3とする。
【0043】
この、成長中断をした比較サンプル3におけるシート電子濃度は、1.0×1014/cm2となった。また、比較サンプル3における移動度は、2.7cm2/Vsとなった。前述したように、これに対して、成長中断をすることなく形成した実施の形態に係るヘテロ構造のサンプルでは、第1半導体層102の厚さ2nmにおいて、電子濃度は、1.2×1014/cm2であり、移動度は、3.9cm2/Vsである。
【0044】
上述したように、成長中断を行った場合は、シート電子濃度が少し減少するとともに、移動度も30%ほど減少する。この理由として、成長中断中に、不純物が第1半導体層102の表面に吸着し、あるいは、第1半導体層102の表面が酸化したことが考えられる。不純物の吸着あるいは表面の酸化によって、第1半導体層102の中を走行する電子が散乱されるために、移動度が減少する。この効果は、I第1半導体層102が薄く、シート電子濃度が低いほど顕著になるものと考えられる。比較サンプル3は、大気中に3日間保管しておいただけであるが、第1半導体層102の表面に対してFET作製プロセスなどを行った場合には、多量の不純物が表面に付着するので、移動度がさらに減少するものと考えられる。
【0045】
次に、実施の形態に係るヘテロ構造における電気的特性における、第2半導体層103の厚さ依存性について説明する。以下では、第1半導体層102の厚さを2nmとし、第2半導体層103の厚さを変化させて、電気的特性を評価した。第2半導体層103の厚さを変化させた場合の、実施の形態に係るヘテロ構造における、シート電子濃度の変化を
図9に示す。また、第2半導体層103の厚さを変化させた場合の、実施の形態に係るヘテロ構造における、電子移動度の変化を
図10に示す。なお、第2半導体層103の厚さを0とした構成は、第1半導体層102のみを形成した単層の構造に対応している。
【0046】
図9に示すように、第2半導体層103を形成することで、これがない場合に比較して、シート電子濃度が大きく増加することがわかる。第2半導体層103を形成することによりシート電子濃度が大きく増加した理由の1つとして、GaNとInNでは、フェルミレベルの表面ピニング位置が異なっていることが考えられる。
図10に示すように、第2半導体層103を形成することにより、電子移動度が増加する。また、第2半導体層103が薄くなるとともに、電子移動度が大きくなる。この理由は、第2半導体層103が薄い場合には、電子の波動関数が、移動度の高い第1半導体層102に強く閉じ込められていることが考えられる。ただし、第2半導体層103が薄くなりすぎると、表面電荷による散乱が強くなるために、電子移動度が低くなるものと考えられる。
【0047】
上述では、基板101を石英ガラスから構成した場合を例示したが、これに限るものではなく、一般的なガラス、プラスティック、ビニール、ポリイミドなどのアモルファス材料から基板101を構成しても、同様な効果が期待できる。また、Inを含む窒化物半導体の電子の有効質量は小さいため、低温で成長した場合でも、比較的高い移動度が期待できる。このため、前述したように、第1半導体層102は、InNに限るものではなく、InGaN、InAlN、InAlGaNなどのInを含む窒化物半導体から構成することができる。
【0048】
また、第2半導体層103は、可視光を吸収しない程度のバンドギャップエネルギーをもっていれば良く、第2半導体層103のバンドギャップエネルギーは3eV以上であることが望ましい。従って、第2半導体層は、GaNに限るものではなく、前述したように、AlGaN、InAlN、InAlGaNなどの窒化物半導体から構成することができる。
【0049】
なお、前述したように、高温で成長した窒化物半導体ヘテロ構造の電子移動度は高いことが報告されている。このため、実際の透明薄膜FETを作製する300℃程度以下の低温でGaN/InNヘテロ構造を成長する際に、上記で述べた効果が現れやすいものと考えられる。
【0050】
以上説明したように、本発明によれば、非晶質の絶縁材料からなる基板の上に接してInを含む窒化物半導体からなる第1半導体層を形成し、この上に接してより大きなバンドギャップの窒化物半導体からなる第2半導体層を形成したので、非晶質基板の上に低温で窒化物半導体を成長したヘテロ構造における電子の移動度を、より高くすることができる。
【0051】
また、本発明によれば、第1半導体層を5nmよりも薄くし、第2半導体層を3eV以上のバンドギャップエネルギーの大きな窒化物半導体から構成することにより、ヘテロ構造の光透過率は80%以上にすることができる。第1半導体層の表面を第2半導体層で覆うので、第1半導体層の表面に不純物が吸着せず、また、第1半導体層の表面は酸化されない。このため、電子が走行するチャネル層となる第1半導体層内の電子に対する散乱が少なくなり、移動度が減少しにくいという利点がある。さらに、ヘテロ構造を電界効果トランジスタ(FET)に適用する場合、FETにおけるキャリアとなる電子は、薄い第1半導体層に強く閉じ込められているので、FETの特性が向上するという利点も期待できる。この結果、本発明に係るヘテロ構造を利用することによって、アモルファス基板上に特性の良い透明薄膜FETを作製することが期待できる。
【0052】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0053】
101…基板、102…第1半導体層、103…第2半導体層。