(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178128
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】フッ化バリウム焼結体、フッ化ランタンドープフッ化バリウム焼結体、フッ化バリウム粒子の製造方法、フッ化バリウム焼結体の製造方法、フッ化ランタンドープフッ化バリウム粒子の製造方法、フッ化ランタンドープフッ化バリウム焼結体の製造方法、光学素子、光学系、交換レンズおよび光学装置
(51)【国際特許分類】
C04B 35/553 20060101AFI20221125BHJP
C01F 11/22 20060101ALI20221125BHJP
C04B 35/645 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
C04B35/553
C01F11/22
C04B35/645 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084689
(22)【出願日】2021-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100084412
【氏名又は名称】永井 冬紀
(72)【発明者】
【氏名】江面 嘉信
(72)【発明者】
【氏名】石沢 均
【テーマコード(参考)】
4G076
【Fターム(参考)】
4G076AA05
4G076AB12
4G076BA13
4G076BA43
4G076BA46
4G076BB03
4G076BC02
4G076BC08
4G076BD02
4G076BE11
4G076CA02
4G076CA11
4G076CA22
4G076CA26
4G076CA27
4G076CA34
4G076CA40
4G076DA30
(57)【要約】
【課題】フッ化バリウムの単結晶と同様な光学的透過率を有する透明材料を得る。
【解決手段】フッ化バリウム焼結体は、550nmの波長の光に対する透過率が85%以上であり、340nm以上2000nm以下の範囲の波長の光と、4.5μm以上10.5μm以下の範囲の波長の光に対する透過率が80%以上である。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化バリウム焼結体であって、
550nmの波長の光に対する透過率が85%以上であり、
340nm以上2000nm以下の範囲の波長の光と、4.5μm以上10.5μm以下の範囲の波長の光に対する透過率が80%以上である、フッ化バリウム焼結体。
【請求項2】
フッ化ランタンドープフッ化バリウム焼結体であって、
550nmの波長の光に対する透過率が85%以上であり、
350nm以上700nm以下の範囲の波長の光に対する透過率が80%以上であり、3.5μm以上7.5μm以下の範囲の波長の光に対する透過率が70%以上である、フッ化ランタンドープフッ化バリウム焼結体。
【請求項3】
請求項2に記載のフッ化ランタンドープフッ化バリウム焼結体において、
フッ化ランタンのドープ割合は、バリウムの化学当量およびランタンの化学当量の合計に対するランタンの化学当量比で0.01以上0.4以下である、フッ化ランタンドープフッ化バリウム焼結体。
【請求項4】
バリウム化合物とフッ素化合物とを水溶液中で反応させてフッ化バリウム粒子分散液を生成する生成工程と、
前記フッ化バリウム粒子分散液からフッ化バリウム粒子を分離する分離工程と、
を有し、
前記生成工程において、前記水溶液は硝酸を含み、前記硝酸のモル数を水の体積で除したモル体積濃度が0.06mol/l以上0.6mol/l以下であり、前記水溶液にはバリウムイオン1に対してフッ素イオンが2以上2.5以下含まれる、フッ化バリウム粒子の製造方法。
【請求項5】
前記分離工程において、前記フッ化バリウム粒子分散液を加熱及び加圧して前記フッ化バリウム粒子を分離する、請求項4に記載のフッ化バリウム粒子の製造方法。
【請求項6】
前記分離工程において、100℃以上200℃以下で加熱し、かつ、1MPa以上1.65MPa以下で加圧する、請求項5に記載のフッ化バリウム粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項4から6までのいずれか一項に記載のフッ化バリウム粒子の製造方法により生成された前記フッ化バリウム粒子を成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を焼結する焼結工程と、を有するフッ化バリウム焼結体の製造方法。
【請求項8】
前記焼結工程において、前記焼結を行う前に、温度400℃以上650℃以下で加熱処理を行う、請求項7に記載のフッ化バリウム焼結体の製造方法。
【請求項9】
前記焼結工程において、前記加熱処理の後に、真空の状態、かつ、温度900℃以上1100℃以下で焼成を行う、請求項8に記載のフッ化バリウム焼結体の製造方法。
【請求項10】
請求項4から6までのいずれか一項に記載のフッ化バリウム粒子の製造方法により製造された前記フッ化バリウム粒子と、ランタン化合物と、フッ素化合物とを水中で反応させて、フッ化ランタンがドープされたフッ化ランタンドープフッ化バリウム粒子分散液を生成する第2生成工程と、
前記フッ化ランタンドープフッ化バリウム粒子分散液からフッ化ランタンがドープされたフッ化ランタンドープフッ化バリウム粒子を分離する第2分離工程と、を有するフッ化ランタンドープフッ化バリウム粒子の製造方法。
【請求項11】
前記第2生成工程において、硝酸が存在する状態で前記フッ化ランタンドープフッ化バリウム粒子分散液を生成する、請求項10に記載のフッ化ランタンドープフッ化バリウム粒子の製造方法。
【請求項12】
請求項10または11に記載のフッ化ランタンドープフッ化バリウム粒子の製造方法により生成された前記フッ化ランタンドープフッ化バリウム粒子を成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を焼結する焼結工程と、を有するフッ化ランタンドープフッ化バリウム焼結体の製造方法。
【請求項13】
前記焼結工程において、前記焼結を行う前、冷間等方静水圧プレス処理を施す、請求項12に記載のフッ化ランタンドープフッ化バリウム焼結体の製造方法。
【請求項14】
前記焼結工程において、前記焼結を行う前に、温度350℃以上450℃以下で加熱処理を行う、請求項12または13に記載のフッ化ランタンドープフッ化バリウム焼結体の製造方法。
【請求項15】
請求項1に記載のフッ化バリウム焼結体を用いた光学素子。
【請求項16】
請求項2または3に記載のフッ化ランタンドープフッ化バリウム焼結体を用いた光学素子。
【請求項17】
請求項15または16に記載の光学素子を有する光学系。
【請求項18】
請求項17に記載の光学系を備える交換レンズ。
【請求項19】
請求項18に記載の光学系を備える光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化バリウム焼結体、フッ化ランタンドープフッ化バリウム焼結体、フッ化バリウム粒子の製造方法、フッ化バリウム焼結体の製造方法、フッ化ランタンドープフッ化バリウム粒子の製造方法、フッ化ランタンドープフッ化バリウム焼結体の製造方法、光学素子、光学系、交換レンズおよび光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、可視~中赤外線、遠赤外線を利用する光学系には、フッ化バリウムの単結晶が用いられている(例えば、特許文献1)。
しかしながら、フッ化バリウムの単結晶は、製造期間が長く、製造に要するコストが大きいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
第1の態様によれば、フッ化バリウム焼結体であって、550nmの波長の光に対する透過率が85%以上であり、340nm以上2000nm以下の範囲の波長の光と、4.5μm以上10.5μm以下の範囲の波長の光に対する透過率が80%以上である。
第2の態様によれば、フッ化ランタンドープフッ化バリウム焼結体であって、550nmの波長の光に対する透過率が85%以上であり、350nm以上700nm以下の範囲の波長の光に対する透過率が80%以上であり、3.5μm以上7.5μm以下の範囲の波長の光に対する透過率が70%以上である。
第3の態様によれば、フッ化バリウム粒子の製造方法は、バリウム化合物とフッ素化合物とを水溶液中で反応させてフッ化バリウム粒子分散液を生成する生成工程と、前記フッ化バリウム粒子分散液からフッ化バリウム粒子を分離する分離工程と、を有し、前記生成工程において、前記水溶液は硝酸を含み、前記硝酸のモル量を水の体積で除したモル体積濃度が0.06mol/l以上0.6mol/l以下であり、前記水溶液にはバリウムイオン1に対してフッ素イオンが2以上2.5以下含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】本実施の形態に係るフッ化ランタンドープフッ化バリウム焼結体の製造方法を説明するフローチャートである。
【
図2】実施の形態による撮像装置の一例を示す斜視図である。
【
図3】実施の形態による撮像装置の他の一例を示す正面図である。
【
図4】実施の形態による撮像装置の他の一例を示す背面図である。
【
図5】実施の形態による多光子顕微鏡の一例を示すブロック図である。
【
図6】実施例1におけるフッ化バリウム焼結体の透過率を示す図である。
【
図7】実施例2におけるフッ化バリウム粒子およびフッ化バリウム焼結体の評価結果を示す図である。
【
図8】実施例3におけるフッ化バリウム焼結体の評価結果を示す図である。
【
図9】実施例4におけるフッ化バリウム焼結体およびフッ化ランタンドープフッ化バリウム焼結体の評価結果を示す図である。
【
図10】実施例4におけるフッ化バリウム焼結体およびフッ化ランタンドープフッ化バリウム焼結体の透過率を示す図である。
【
図11】実施例4におけるフッ化バリウム焼結体およびフッ化ランタンドープフッ化バリウム焼結体の屈折率を示す図である。
【
図12】実施例4におけるフッ化バリウム焼結体およびフッ化ランタンドープフッ化バリウム焼結体のXRD(X線回折)パターンの測定結果を示す図である。
【
図13】実施例4における、焼結前のフッ化バリウム粒子およびフッ化ランタンドープフッ化バリウム粒子のXRDパターンの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明を行う。
本実施の形態のフッ化バリウム(BaF2)焼結体は、550nmの波長の光に対する透過率が85%以上であり、340nm以上2000nm以下の範囲の波長の光と、4.5μm以上10.5μm以下の範囲の波長の光に対する透過率が80%以上である。このフッ化バリウム焼結体にフッ化ランタン(LaF3)をドープしたフッ化ランタンドープフッ化バリウム(BLF)の焼結体は、550nmの波長の光に対する透過率が85%以上であり、350nm以上700nm以下の範囲の波長の光に対する透過率が80%以上であり、3.5μm以上7.5μm以下の範囲の波長の光に対する透過率が70%以上である。
【0007】
図1を参照して、上述したフッ化ランタンドープフッ化バリウム(以下、BLF)の焼結体の製造方法について説明する。
まず、
図1のステップS1において、バリウム化合物とフッ素化合物とを水溶液中で反応させて、フッ化バリウム(BaF
2)粒子が分散したフッ化バリウム粒子分散液を生成する(フッ化バリウム粒子分散液生成工程(以下、第1生成工程と呼ぶ))。ステップS2において、フッ化バリウム粒子分散液からフッ化バリウム粒子を分離する(フッ化バリウム粒子分離工程(以下、第1分離工程と呼ぶ))。ステップS3においては、フッ化バリウム粒子と、ランタン化合物と、フッ素化合物とを水中で反応させ、フッ化ランタンドープフッ化バリウム(BLF)粒子が分散されたBLF粒子分散液を生成する(BLF粒子分散液生成工程(以下、第2生成工程と呼ぶ))。ステップS4において、BLF粒子分散液からBLF粒子を分離する(BLF粒子分離工程(以下、第2分離工程)。ステップS5において、分離したBLF粒子を洗浄し、乾燥させる(洗浄・乾燥工程)。ステップS6において、BLF粒子を成形して成形体を得る(成形工程)。ステップS7において、BLF粒子の成形体を焼結してBLF焼結体を生成する(焼結工程)。
なお、フッ化ランタンをドープせずに、フッ化バリウムの焼結体を製造する場合には、
図1に示すステップS3~S4の工程を省略し、ステップS2の後ステップS5の工程を行う。この場合、ステップS5(洗浄・乾燥工程)では、フッ化バリウム粒子を洗浄、乾燥させてフッ化バリウム粒子を得て、ステップS6(成形工程)にてフッ化バリウム粒子の成形体を成形し、ステップS7(焼結工程)では、フッ化バリウム粒子の成形体を焼結してフッ化バリウムの焼結体を生成する。
【0008】
以下、上述した処理のそれぞれについて詳細に説明をする。
(1)フッ化バリウム粒子分散液生成工程(第1生成工程)
フッ化バリウム粒子は、バリウム化合物とフッ素化合物とを水溶液中で反応させる。このとき、バリウム化合物とフッ素化合物との反応は、それぞれを溶解して水溶液を調製し、常温、常圧下で、バリウム化合物水溶液中に、フッ素化合物水溶液を徐々に注入することにより行う。
【0009】
バリウム化合物は、水によく溶解する塩が適している。バリウム化合物の塩としては、例えば、バリウムの、酢酸塩、乳酸塩、シュウ酸塩、アスコルビン酸塩、アルギン酸塩、安息香酸塩、炭酸塩、クエン酸塩、グルコン酸塩、パントテン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、酒石酸塩、グリセリン酸塩、トリフルオロ酢酸塩などのバリウム有機酸塩、バリウムの塩化物、水酸化物などの無機塩が挙げられる。ただし、バリウムの硫酸塩は水にほぼ溶解しないため不適である。また、バリウムの硝酸塩も水に溶けにくいため不適である。
フッ素化合物としては、例えばフッ化水素酸が用いられる。フッ素化合物としてフッ化水素酸を用いることにより、フッ化バリウム粒子中に不純物イオンが残留しにくくなる。
【0010】
バリウム化合物とフッ素化合物との反応は、バリウム化合物水溶液とフッ素化合物水溶液の混合物(以下、反応混合物と呼ぶ)に存在する希土類イオンや遷移金属イオンなどの不純物イオンのイオン量ができる限り少ない状態で行う。反応混合物中において、これらの不純物イオンが、バリウムイオンおよびフッ素イオンと共存すると、形成されるフッ化バリウム粒子に他のイオンが取り込まれ、フッ化バリウムの結晶が成長しにくく粒子が微細であるため凝集しやすくなる。そのため、後述する焼結工程において、凝集した粒子間が空隙となるため、高い透過率が得られないことや、焼結工程において、焼結条件の僅かな変化でも高密度で透過率の高い焼結体が得られない、等の問題が生じる。このように、反応混合物に、バリウムイオンおよびフッ素イオン以外の不純物イオンが混入すると、成形される焼結体の特性に敏感に影響するため、不純物イオンの含有量を可能なかぎり少なく抑えることが要求される。
【0011】
バリウム化合物とフッ素化合物との反応時に、フッ素化合物の添加量は、バリウム化合物を生成する際の化学当量(例えば、フッ化バリウムを生成する場合の化学当量)より多い過剰量とする。これにより、フッ素欠損が少なく、結晶性の高いフッ化バリウム粒子が形成され、微粒子の凝集を抑制することができる。
【0012】
反応混合物におけるバリウムイオンとフッ素イオンの比率は、バリウムイオン1に対し、フッ素イオンを、例えば2以上2.5以下とするのが好ましい。この比率より過剰にフッ素イオンが含まれるようにフッ化水素酸を添加すると、フッ化水素バリウム(BaHF3)が生成する。フッ化水素バリウムは太さが10μm、長さが100μmを超える多角柱状の粗大粒子である。また、200℃以上に加熱すると分解して粗大なフッ化バリウム粒子に変化する。このような粗大粒子が存在すると、成形された焼結体の密度が低い等の悪影響がある。また、粗大粒子の周囲には、後述する焼結工程(HIP処理)後においても大きな空隙が残留し、焼結体の透明化を妨げる。
【0013】
本実施の形態においては、バリウム化合物とフッ素化合物との反応は、硝酸の存在する状態で行われる。硝酸は、生成したフッ化バリウム粒子中または表面等に残留する。硝酸は、その後のフッ化バリウム粒子分離工程を経ても微量残留する。この硝酸は、大気中での加熱による脱脂を行い除去するが、この工程を経てもなお残留した硝酸は、真空焼結時の高温環境により、これ以外の極微量の有機不純物や炭素不純物とともに酸化され除去される。この結果、有機不純物に起因する光の吸収が低減し、焼結性も向上する。
【0014】
また、硝酸は、後述するフッ化バリウム粒子分離工程(第1分離工程)における水熱反応処理時に、フッ化バリウム結晶の成長を促進する作用を有する。硝酸を添加しない場合、水熱反応処理により結晶成長させたフッ化バリウム粒子が100nm以下の微小結晶の集合体となる。このような微小な結晶は、粒子同士が強く凝集しやすく、一旦凝集した粒子は、成形時の荷重によっても、解離や変形をすることがなく、成形された焼結体に空隙を生じさせやすい。また、このように凝集した粒子は、脱脂処理によって十分に有機物や水分が除去されにくくなり、成形された焼結体の透過率が低下しやすくなる。従って、バリウム化合物とフッ素化合物との反応は、適切な量の硝酸の存在下で行う必要がある。本実施の形態において、バリウム化合物とフッ素化合物との反応の際に存在させる硝酸は、硝酸のモル量を、酢酸バリウム化合物水溶液を調整する際に用いる純水の体積で除したモル体積濃度で表した場合、0.06mol/l以上0.6mol/l以下となるようにする。
【0015】
硝酸は、バリウム化合物を純水に溶解したバリウム化合物水溶液に添加してもよいし、バリウム化合物水溶液とフッ素化合物水溶液を混合した反応混合液に添加してもよい。ただし、添加する硝酸の量が過剰な場合、硝酸バリウムが生成する。すなわち、バリウム化合物水溶液とフッ素化合物とが反応してフッ化バリウムが生成する反応場への溶解度を超える硝酸バリウムが生成すると、フッ化バリウム粒子の生成に加えて硝酸バリウム結晶が生成する。その結果、得られるフッ化バリウム粒子の収率が悪化するのみならず、フッ化バリウム粒子に硝酸バリウム結晶が混在する状態となるために、このような粒子を焼結する際に硝酸バリウムが分解して酸化バリウムが生成する。すなわち、焼結体中に酸化バリウムが異物として残留して、均質な透明体とならない。
【0016】
バリウム化合物水溶液中にフッ素化合物水溶液を注入する際には、バリウム化合物水溶液とフッ素化合物水溶液とを混合攪拌し、さらに、注入終了後もその混合溶液の攪拌を続ける。これにより、生成されるフッ化バリウム結晶粒子の凝集を抑えることができる。
混合溶液において、フッ化バリウム粒子同士が強く凝集すると、焼結および透明化の工程における加熱および加圧によっても凝集を解離できず、その結果、成形された焼結体は高い透過率とはならない。このような状態になることを避けるために、フッ化バリウム結晶生成中には、混合溶液の攪拌を充分に行う必要がある。
【0017】
(2)フッ化バリウム粒子分離工程(第1分離工程)
上述したように常温、常圧下の水溶液中でバリウム化合物とフッ素化合物とを反応させた後、反応混合物を密閉容器に収納し、密閉した状態で100℃以上200℃以下の温度で加熱、加圧処理を行う水熱反応処理を行う。
水熱反応処理を行う理由は次の通りである。常温、常圧下の水溶液中では、バリウム化合物とフッ素化合物との反応は完結せず、生成されるフッ化バリウム結晶にはフッ素欠損が多い。すなわち、上記の状態で得られたフッ化バリウム粒子の化学当量は、バリウムイオン1に対して、フッ素イオンが2より小さい。このようなフッ化バリウム結晶粒子は結晶成長しにくく凝集しやすい。
【0018】
そこで、常温、常圧下でバリウム化合物とフッ素化合物とを反応させた後、さらに、100℃以上200℃以下で加熱、加圧処理をする水熱反応処理を行い、バリウム化合物とフッ素化合物との反応を完結させる。水熱反応処理に用いられる容器は特に限定されるものではないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン製のオートクレープ等の密閉容器が用いられる。
水熱反応処理における温度は、100℃以上200℃以下、圧力は、100℃以上200℃以下の温度範囲における水の飽和蒸気圧である1.0MPa以上1.65MPa以下となる。
【0019】
上記の水熱反応処理により、フッ化バリウム粒子において、化学当量を、バリウムイオン1に対してフッ素イオンを実質的に2にできるので、それにより、結晶性の高いフッ化バリウム粒子を形成できる。その結果、フッ化バリウム粒子の表面エネルギーを低い状態にすることができ、微粒子間の凝集力を小さくできる。その結果、比較的低温でも高密度のフッ化バリウム焼結体が得られる。
なお、上記の作製方法によれば、例えば、平均粒径が100nm以上3μm以下のフッ化バリウム粒子が得られる。
【0020】
(3)BLF粒子分散液生成工程(第2生成工程)
次に、フッ化ランタン(LaF3)がドープされたフッ化バリウム粒子であるBLF粒子を製造する場合に必要な工程を説明する。なお、フッ化ランタンをドープしないフッ化バリウム粒子を生成する場合には、本工程を省くことができる。
【0021】
上述した第1分離工程が終了すると、水熱容器内でフッ化バリウム粒子が沈殿して上澄み液と分離した状態となる。次に、上澄み液をポンプ等で除去し、フッ化バリウム粒子の沈殿物を分離する。分離したフッ化バリウム粒子の沈殿物に適量の純水を加えフッ化バリウム懸濁液(フッ化バリウムスラリー)を得る。
【0022】
次に、上記のフッ化バリウム懸濁液に添加するためのランタン化合物水溶液の生成について説明する。
ランタン化合物水溶液は、ランタン化合物として酢酸ランタン等の有機塩または塩化ランタン等の無機塩を純水に溶解して調製する。
このとき、ランタン化合物として硝酸塩である硝酸ランタンを用いることは好ましくない。ランタン化合物として硝酸ランタンを使用すると、BLF粒子が生成される際に大量の硝酸が生成され、それにより硝酸バリウム結晶が生成されてBLF粒子に混入する。このようなBLF粒子を焼結すると、上述の通り、硝酸バリウムが分解して生成した酸化バリウムが焼結体中に異物として残留するため、焼結体が均質な透明体にならない。
酢酸ランタンを純水に溶解して水溶液を生成する際には、硝酸を適量添加することが好ましい。しかし、硝酸の添加量が多いと、上述の通り、硝酸バリウムが生成し、BLF粒子中に取り込まれて、均質な透明焼結体が得られなくなる。このため、硝酸の添加量は、酢酸ランタンが溶解するための最小量にとどめる必要がある。
【0023】
調整された酢酸ランタン水溶液を前述のフッ化バリウム懸濁液(フッ化バリウムスラリー)に攪拌しながら加える。さらに、フッ化バリウム粒子を生成する場合と同様に、フッ素化合物としてのフッ化水素酸を注入する。これにより、注入されたフッ化水素酸中のフッ素を過剰量としてランタン化合物と反応させる。注入するフッ化水素酸の量は、フッ化バリウムスラリー中のバリウムイオン1に対して、フッ素イオンを3ないし3.15の範囲とすることが好ましい。上記範囲より多くのフッ素が存在すると、フッ素がスラリー中のフッ化バリウムと反応して、フッ化水素バリウム(BaHF3)を生成する。従って、注入するフッ化水素酸の量は、バリウムイオンとフッ素イオンとの比が上記範囲となるように設定する必要がある。
【0024】
ランタンのドープ濃度は、ランタン化合物水溶液の量によって調整できる。バリウムの化学当量とランタンの化学当量の合計に対するランタンの化学当量比で、0.01以上0.4以下の量をドープすることが好ましい。
【0025】
フッ化バリウムスラリーに所定のランタン化合物水溶液を添加し、さらにフッ化水素酸を注入し終えたら、十分にスラリーを攪拌する。攪拌によりスラリー内のランタン濃度やフッ化水素濃度を均一化し、フッ化バリウムとランタンイオンおよびフッ化水素の反応を均一化することができる。その結果、組成が均一なフッ化ランタンがドープされたフッ化バリウムの粒子の分散液(BLF粒子分散液)が得られる。
【0026】
(4)BLF粒子分離工程(第2分離工程)
BLF粒子分散液から水熱反応処理によりBLF粒子を分離する(第2分離工程)。なお、フッ化ランタンをドープしないフッ化バリウム粒子を生成する場合には、本工程を省くことができる。
BLF粒子分散液を密閉容器に収納し、密閉した状態で100℃以上200℃以下の温度で加熱、加圧処理を行う。水熱反応処理の圧力は、100℃以上200℃以下の温度範囲における水の飽和蒸気圧である1.0MPa以上1.65MPa以下となる。
【0027】
(5)洗浄・乾燥工程
第1分離工程または第2分離工程により水熱処理を施したフッ化バリウム粒子分散液またはBLF粒子分散液は、何れも強酸性の水溶液中にこれらの粒子の結晶が分散されたスラリー状となっている。このスラリーを遠心分離機等により固液分離する。すなわち、沈殿物と分散媒とに分離する。次に、分散媒を純水に置換(純水置換)する。この純水置換を適宜行うことによって、分散媒中に含まれる残留フッ化水素酸、硝酸、有機酸塩を原料に用いた場合に生成した酢酸等の有機酸およびその他の不純物を除去し、純度の高いスラリーとすることができる。
【0028】
純水置換されたスラリーを再び遠心分離などによって固液分離し、沈殿物を得る。この沈殿物を室温以上200℃以下の温度で乾燥させることにより、乾燥粒子を得る。このように、固液分離と乾燥によって強酸性の水溶液を純水置換することにより、その後の処理や保管時における取扱いが容易になる。さらに、スラリーへの不純物の混入も抑制できる。
【0029】
(6)成形工程
本実施の形態における成形工程には、加圧成形処理、脱脂処理が含まれる。以下、それぞれの処理について説明する。
(6-1)加圧成形処理
洗浄・乾燥工程で得られた乾燥粒子を秤量し、所望の形状を有する型に充填する。型に充填された粒子を、例えば1軸プレス機等を使用して加圧することで押し固め、成形体に加工する。成形法は、上記成形法に限らず、一般的に用いられる成形法を用いることができる。例えば、粒子を適切な媒質に分散させたスラリーを調製し、これを型に流し込んで脱水し成形体を得る泥漿鋳込み法や、冷間等方静水圧プレス(CIP)を用いることができる。
【0030】
(6-2)脱脂処理
有機酸塩を原料に用いた場合、成形体は不純物として多くの有機物を含んでいる。また、微粒子表面には水和した水や水酸基も不純物として存在している。このような成形体をそのまま焼結すると、粒子の焼結性が悪いために、高密度の焼結体が得られにくい。また、このような不純物を含む成形体を後工程の焼結工程において透明化した際には、これらの不純物が光を吸収して着色するなどして透過率を悪化させる。このため、成形体を大気中で高温焼成することで、有機物を酸化、分解し、また脱水反応によって水を除去する。この工程を脱脂と呼ぶ。この工程において、高温焼成する際の処理温度は、有機物、水などの不純物が十分に除去される程度に高温である必要がある。しかし、温度が高過ぎると、フッ化物が大気中の酸素と反応して酸化することがある。また、不純物が十分に除去される前に成形体中の粒子が焼結し始め、成形体の形状によっては不純物が取り残される場合がある。従って、脱脂処理においては、処理温度とその温度に維持する時間である処理時間とを適切に設定する必要がある。処理温度は350℃以上650℃以下とすることができ、例えば、フッ化バリウム焼結体を作製する場合は400℃以上650℃以下が好ましく、フッ化ランタンドープフッ化バリウム焼結体を作製する場合は350℃以上450℃以下が好ましい。また、このときの処理時間は2時間以上6時間以下とすることができる。
【0031】
(7)焼結工程
成形工程中の脱脂処理にて脱脂された成形体を真空焼結炉において焼結する。真空焼結によって成形体が焼結されることで、成形体中の気孔が閉じて閉気孔となり高密度化する。焼結体の密度は、理論密度の約95%以上100%未満となり、白色不透明な焼結体が得られる。このときの焼結温度は、例えば、900℃以上1100℃以下とすることができる。
【0032】
得られた白色不透明な焼結体を熱間等方静水圧プレス(HIP)処理により高温高圧状態に維持する。焼結体内の閉気孔は、高温高圧状態の雰囲気で焼結が進むことにより外部に除去される。この結果、焼結体の密度を、フッ化バリウム単結晶の密度、またはフッ化バリウムとフッ化ランタンの加成性が成り立つとして見積もられる理論密度とほぼ一致するまで高密度化することができる。これにより、無色透明なフッ化バリウム焼結体またはBLF焼結体が得られる。
【0033】
上記のようにして製造されたフッ化バリウム焼結体またはBLF焼結体からなる光学素子を備える撮像装置の実施の形態について説明する。
図2は、本実施の形態の撮像装置の斜視図である。撮像装置1はいわゆるデジタル一眼レフカメラ(レンズ交換式カメラ)であり、撮影レンズ103(光学系)は本実施の形態に係るフッ化バリウム焼結体またはBLF焼結体を母材とする光学素子を備える。カメラボディ101のレンズマウント(不図示)には、レンズ鏡筒102が着脱自在に取り付けられる。レンズ鏡筒102の撮影レンズ103を通過した光がカメラボディ101の背面側に配置されたマルチチップモジュール106のセンサチップ(固体撮像素子)104上に結像される。このセンサチップ104は、いわゆるCMOSイメージセンサ等のベアチップであり、マルチチップモジュール106は、例えばセンサチップ104がガラス基板105上にベアチップ実装されたCOG(Chip On Glass)タイプのモジュールである。
【0034】
図3は、本実施の形態によるフッ化バリウム焼結体またはBLF焼結体からなる光学素子を備える撮像装置の他の例の正面図であり、
図4は、
図3の撮像装置の背面図である。
この撮像装置CAMは、いわゆるデジタルスチルカメラ(レンズ非交換式カメラ)であり、撮影レンズWL(光学系)は本実施の形態に係るフッ化バリウム焼結体またはBLF焼結体を母材とする光学素子を備える。撮像装置CAMは、不図示の電源ボタンを押下すると、撮影レンズWLのシャッタ(不図示)が開放され、撮影レンズWLで被写体(物体)からの光が集光され、像面に配置された撮像素子に結像される。撮像素子に結像された被写体像は、撮像装置CAMの背後に配置された液晶モニタLMに表示される。撮影者は、液晶モニタLMを見ながら被写体像の構図を決めた後、レリーズボタンB1を押下して被写体像を撮像素子で撮像し、メモリ(不図示)に記録、保存する。撮像装置CAMには、被写体が暗い場合に補助光を発光する補助光発光部EF、撮像装置CAMの種々の条件設定に使用するファンクションボタンB2等が配置される。
【0035】
なお、本実施の形態において適用可能な光学機器としては、上述した撮像装置に限られず、例えばプロジェクタ等も挙げられる。光学素子についても、レンズに限られず、例えばプリズム等も挙げられる。
【0036】
次に、本実施の形態のフッ化バリウム焼結体またはBLF焼結体を用いた光学素子を備える多光子顕微鏡について説明する。
図5は、本実施の形態の多光子顕微鏡2の構成の一例を示すブロック図である。多光子顕微鏡2は、対物レンズ206、集光レンズ208、結像レンズ210を備える。対物レンズ206、集光レンズ208、結像レンズ210の少なくとも1つは、本実施の形態によるフッ化バリウム焼結体またはBLF焼結体を母材とする光学素子を備える。以下、多光子顕微鏡2の光学系を中心に説明する。
【0037】
パルスレーザ装置201は、例えば近赤外線(約1000nm)であって、パルス幅がフェムト秒単位(例えば、100フェムト秒)の超短パルス光を射出する。パルスレーザ装置201から射出された直後の超短パルス光は、一般に所定の方向に電場の振動方向を有する直線偏光である。パルス分離装置202は、超短パルス光を分割し、超短パルス光の繰り返し周波数を高くして射出する。
【0038】
ビーム調整部203は、パルス分割装置202から入射される超短パルス光のビーム径を、対物レンズ206の瞳径に合わせて調整する機能、試料Sから発せられる多光子励起光の波長と超短パルス光の波長との軸上色収差(ピント差)を補正するために超短パルス光の集光および発散角度を調整する機能、超短パルス光のパルス幅が光学系を通過する間に群速度分散により広がることを補正するために、逆の群速度分散を超短パルス光に与えるプリチャープ機能(群速度分散補償機能)を有する。
【0039】
パルスレーザ装置201から射出された超短パルス光は、パルス分割装置202によりその繰り返し周波数が大きくされ、ビーム調整部203により上述した調整が行われる。ビーム調整部203から射出された超短パルス光は、ダイクロイックミラー204によりダイクロイックミラー205の方向に反射され、ダイクロイックミラー205を通過し、対物レンズ206により集光されて試料Sに照射される。このとき、走査手段(不図示)を用いることにより、超短パルス光を試料Sの観察表面上にて走査させてもよい。
【0040】
例えば、試料Sを蛍光観察する場合には、試料Sの超短パルス光の被照射領域およびその近傍において試料Sが染色されている蛍光色素が多光子励起され、赤外波長である超短パルス光より波長が短い蛍光(以下、観察光と呼ぶ)が発せられる。試料Sから対物レンズ206の方向に発せられた観察光は、対物レンズ206によりコリメートされ、その波長に応じて、ダイクロイックミラー205により反射されたり、あるいは、ダイクロイックミラー205を通過したりする。
【0041】
ダイクロイックミラー205により反射された観察光は、蛍光検出部207に入射する。蛍光検出部207は、例えば、バリアフィルタ、PMT(Photo Multiplier Tube:光電子倍増管)等により構成され、ダイクロイックミラー205により反射された観察光を受光し、その光量に応じた電気信号を出力する。また、蛍光検出部207は、超短パルス光が試料Sの観察面において走査されるのに合わせて、試料Sの観察面にわたる観察光を検出する。
【0042】
一方、ダイクロイックミラー205を透過した観察光は、走査手段(不図示)によりデスキャン、ダイクロイックミラー204を透過し、集光レンズ208により集光され、対物レンズ206の焦点位置とほぼ共役な位置に設けられているピンホール209を通過し、結像レンズ210を透過して蛍光検出部211に入射する。蛍光検出部211は、例えば、バリアフィルタ、PMT等により構成され、結像レンズ210により蛍光検出部211の受光面において結像した観察光を受光し、その光量に応じた電気信号を出力する。また、蛍光検出部211は、超短パルス光の試料Sの観察面における走査に合わせて、試料Sの観察面Sにわたる観察光を検出する。
なお、ダイクロイックミラー205を光路から外すことにより、試料Sから対物レンズ206の方向に発せられた全ての観察光を蛍光検出部211で検出するようにしてもよい。
【0043】
また、試料Sから対物レンズ206と逆の方向に発せられた観察光は、ダイクロイックミラー212により反射され、蛍光検出部213に入射する。蛍光検出部213は、例えば、バリアフィルタ、PMT等により構成され、ダイクロイックミラー212により反射された観察光を受光し、その光量に応じた電気信号を出力する。また、蛍光検出部213は、超短パルス光の試料Sの観察面における走査に合わせて試料Sの観察面にわたる観察光を検出する。
【0044】
蛍光検出部207、211、213のそれぞれから出力された電気信号は、例えば、コンピュータ(不図示)に入力される。そのコンピュータは、入力された電気信号に基づいて、観察画像を生成し、生成した観察画像を表示したり、観察画像のデータを記憶したりすることができる。
【0045】
上述した実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)フッ化バリウム粒子を焼結したフッ化バリウム焼結体は、550nmの波長の光に対する透過率が85%以上であり、340nm以上2000nm以下の範囲の波長の光と、4.5μm以上10.5μm以下の範囲の波長の光に対する透過率80%以上である。
フッ化ランタンをドープしたフッ化バリウム粒子を焼結したBLF焼結体は、550nmの波長の光に対する透過率が85%以上であり、350nm以上700nm以下の範囲の波長の光に対する透過率が80%以上であり、3.5μm以上7.5μm以下の範囲の波長の光に対する透過率が70%以上である。
多結晶化されたフッ化バリウムやBLFでは、単結晶に見られる光学的異方性、光弾性効果の異方性が平均化されることが期待される。さらに、多結晶化することにより、単結晶に見られる結晶面のすべりに伴う劈開が結晶粒界によって抑制され、機械強度の等方化および向上が期待される。また、研磨加工や成膜時の面方位に特徴的な加工痕が発生しない。
【0046】
(2)第1生成工程にてバリウム化合物とフッ素化合物とを水溶液中で反応させてフッ化バリウム粒子分散液を生成し、第1分離工程にてフッ化バリウム粒子分散液からフッ化バリウム粒子を分離して、フッ化バリウム粒子を製造する。このフッ化バリウム粒子の粒子を型内に収容した後、熱間等方静水圧プレス処理を施すことにより焼結し、フッ化バリウム焼結体を生成する。
第2生成工程において、上記のようにして製造されたフッ化バリウム粒子と、ランタン化合物と、フッ素化合物とを水中で反応させて、フッ化ランタンがドープされたBLF粒子分散液を生成し、第2分離工程によりBLF粒子分散液からフッ化ランタンがドープされたBLF粒子を分離する。このBLF粒子の粒子を型内に収容した後、熱間等方静水圧プレス処理を施すことにより焼結し、BLF焼結体を生成する。
上記の方法により、フッ化バリウムの単結晶育成によらず、紫外~遠赤外線領域の光学的透過率を保持した透明材料を得ることができる。多結晶体は、フッ化バリウムまたはBLFの結晶を合成し、これを成形体にしてから、融点以下の低温で加熱処理して作製する。したがって、1か月程度の時間を要する単結晶を育成する場合と比較して、多結晶体は1週間程度で作製できるため、作製に必要とする電力、工数が少なく、コストを大幅に低減することが可能となる。
【0047】
(3)フッ化バリウム粒子の製造時に、硝酸が存在する状態でフッ化バリウム粒子分散液を生成する。これにより、水熱反応処理の際にフッ化バリウム結晶の成長を促進させることができる。さらに、硝酸には、脱脂処理を経てもフッ化バリウム粒子に残留した極微量の有機不純物や炭素不純物を焼結時の高温により酸化し除去する効果があるため、有機不純物に起因する光の吸収が低減し、また、焼結性が向上する。
【0048】
(4)第1生成工程の際に用いる硝酸の濃度は、0.06mol/l以上0.6mol/l以下である。これにより、バリウムと硝酸とが反応し硝酸バリウムが生成されてフッ化バリウム粒子の重量が減少し収率が悪化することを抑制できる。さらに、フッ化バリウム粒子の粒子に硝酸バリウム結晶が混在し、焼結中に硝酸バリウムが分解して酸化バリウムに変化することにより、焼結体中に酸化バリウムが異物として残留し、均一な透明体が得られなくなることを抑制できる。
【0049】
(5)フッ化バリウム粒子分散液の生成時におけるフッ素化合物の添加量を、バリウム1に対してフッ素が2以上2.5以下とする。これにより、フッ化水素バリウムが生成され、成形体密度が低下したり、焼結体の緻密化を阻害することを抑制できる。
【0050】
以下、実施の形態のフッ化バリウムの実施例と、BLFの実施例について説明する。
[実施例1]
実施例1のフッ化バリウム焼結体を以下のようにして作製した。
酢酸バリウム(試薬特級)を130g秤量し、ビーカーに収容する。このビーカーにイオン交換水を175g加え、スターラーにより攪拌して酢酸バリウムを溶解して酢酸バリウム水溶液を調整した。攪拌中に硝酸(69wt%、試薬特級)を2.2g秤量し、ビーカーに加えた。30分ほどで無色透明な水溶液(バリウム化合物水溶液)が得られた。なお、加えた硝酸のモル量を、酢酸バリウム水溶液を調整する際に使用したイオン交換水の体積175cm3で除したモル体積濃度で示すと、0.14mol/lに相当する。
【0051】
上記の水溶液をプラスチック製ビーカーに移した。高純度フッ化水素酸(12.5wt%)を、172g秤量しながらプラスチック製ビーカーにチューブポンプにて注入し、酢酸バリウムと反応させた。フッ化水素酸を注入後、1時間攪拌を継続し、白濁したフッ化バリウムスラリーを得た。
【0052】
このスラリーをポリテトラフルオロエチレン製の内筒を備えたステンレスオートクレーブ容器に移し、密閉した。このオートクレーブ容器を電気炉に入れ、100℃で24時間加熱した。
放冷したオートクレーブ容器を電気炉から取り出し、オートクレーブ容器内にフッ化バリウム粒子の沈殿と上澄み液とを得た。これを攪拌して均質なスラリーとした後、遠心分離機に移した。遠心分離後、上澄み液を廃棄し、沈殿を得た。その沈殿にイオン交換水200gを加えて攪拌し、均質なフッ化バリウムスラリーを得た。このスラリーを遠心分離により固液分離し、上澄み液を廃棄した。この作業を3回繰り返して洗浄し、精製されたフッ化バリウムの沈殿粒子を得た。このフッ化バリウムにおける、バリウムイオンに対するフッ素イオンの化学当量比(F/Ba)は、2.1である。
【0053】
このフッ化バリウムの沈殿粒子を電気炉に移し、160℃で18時間加熱することにより乾燥ケーキを得た。乾燥ケーキを取り出し、メノウ乳鉢で粉砕し、約84gの白色乾燥粒子を得た。
この白色乾燥粒子を直径20mmの一様な深さの凹みを有する金型に5g程度充填し、1軸プレス機を用いてプレス成形した。プレス力は、2kNで、圧力は6.4MPa相当であった。得られた円柱形状の成形体は、手では折れない程度の形態保持性を有していた。
【0054】
この成形体を電気炉において、400℃以上650℃以下の温度で2時間以上6時間以下保持して脱脂した。脱脂によって成形体は大きく変形することはなく、若干硬くなった。
脱脂した成形体を真空焼結炉において、真空中にて1000℃の温度で1時間保持した後放冷し、焼結体を得た。焼結体は白色の円柱形状で直径と高さが成形体の場合と比べ共に約2割収縮しており、焼結が進行していることが分かった。焼結体のかさ密度は4.6g/cm3であり、フッ化バリウム単結晶の密度に対し、約93%であった。
【0055】
次に、焼結体を熱間等方静水圧プレス(HIP)処理した。HIP処理の条件は、圧力を98MPa、温度を1060℃として、この状態で2時間保持した。HIP処理後の焼結体(HIP焼結体)をカーボン製るつぼに入れ、モリブデン製のヒータ(Moヒータ)により加熱した後、放冷した。放冷後のHIP焼結体は透明化されていた。このHIP焼結体の密度はフッ化バリウム単結晶の密度とほぼ一致しており、高密度な焼結体が得られたことが分かった。
【0056】
図6に、本実施例1におけるフッ化バリウム焼結体の透過率を測定した結果を示す。なお、
図6(a)は波長200nm~2000nmの範囲における透過率を示し、
図6(b)は波長2.5μm~15.5μmの範囲における透過率を示す。透過率の測定を行ったフッ化バリウム焼結体は、厚さが4.6mmの平行平板形状を有し、両面に研磨を施したものである。波長200nm~2000nmの範囲(紫外から近赤外域)の透過率は、日立ハイテク社製UH4150分光光度系を使用して測定し、波長2.5μm~15.5μmの範囲(赤外域)の透過率はThermoFisher社製FT-IRを使用して測定した。なお、
図6においては、実施例1におけるフッ化バリウム焼結体の透過率を実線(符号L1)にて示し、比較例として厚さ6mmの単結晶フッ化バリウムの透過率を実線(符号L2)にて示す。
【0057】
図6に示す通り、実施例1のフッ化バリウム焼結体は、赤外域において、単結晶フッ化バリウムと同等の透過率を示し、紫外から近赤外域においても全般に高い透過率を示した。すなわち、340nm以上2000nm以下の範囲の波長の光と、4.5μm以上10.5μm以下の範囲の波長の光に対する透過率が80%以上であった。紫外域におけるλ
80値(透過率が80%未満となる波長)は333nm、赤外域においては10.9μmであった。また、波長550nmにおける透過率は87%であった。
【0058】
[実施例2]
実施例2におけるフッ化バリウム焼結体を、上述した実施例1の場合に対して、次に説明する内容を変更したこと以外は、実施例1の場合と同様にして作製した。すなわち、フッ化バリウム粒子分散液生成工程(第1生成工程)において、フッ化水素酸の量を、実施例1における条件を含めて5通り設定し、バリウムイオンに対するフッ素イオンの化学当量比(F/Ba)が、1.66(サンプル1-1)、2.1(サンプル1-2)、2.5(サンプル1-3)、3(サンプル1-4)および4(サンプル1-5)の5種類のフッ化バリウム粒子を生成するようした。
図7は、各サンプルのフッ化バリウム粒子とそれを用いて作製した焼結体の評価結果を示す。
【0059】
生成したフッ化バリウム粒子をX線回折(XRD)により結晶相同定を行った。F/Baが2.1および2.5の粒子は、結晶層が単相のフッ化バリウム粒子のみで構成された大きさが数μmのほぼ球状の粒子が得られ、焼結に適していることが示唆された。F/Baが1.66の粒子は、結晶層は単相のフッ化バリウム粒子のみで構成されているものの、粒子は、大きさが数100nmの超微粒子と数μmの粒子で構成されており、焼結には適さないことが示唆された。また、F/Baが3および4の粒子は、結晶層が単相ではなく、フッ化水素バリウム(BaHF3)のみ、またはフッ化バリウムとフッ化水素バリウムとの混合物であった。フッ化水素バリウム粒子は、長さ数μm、太さ数μmの多角柱形状の粗大粒子をなしており、焼結には不適であることが示唆された。
【0060】
上記の各サンプルの粒子を1軸プレス機を用いてプレス成形したところ、フッ化水素バリウムの含まれる粒子では成形体が非常に脆く、焼結工程まで実施することができなかった。サンプル1-4および1-5を除く各サンプルの粒子を用いて焼結体を作製し、その後、透明化を行った。その結果、F/Ba比が2.1および2.5のサンプル1-2および1-3の粒子を用いて作製した焼結体は透明化されたが、サンプル1-1の粒子を用いて作製した焼結体は透明にならなかった。また、サンプル1-4および1-5の粒子からは焼結体を得ることができなかった。
【0061】
[実施例3]
実施例3におけるフッ化バリウム焼結体を、上述した実施例1の場合に対して、次に説明する内容を変更したこと以外は、実施例1の場合と同様にして作製した。すなわち、フッ化バリウム粒子分散液生成工程(第1生成工程)において、添加する硝酸の濃度を異ならせたサンプル2-1、2-2、2-3、2-4、2-5、2-6、2-7、2-8および2-9を作製した。
【0062】
図8は、各サンプル2-1~2-9に適用した第1生成工程における条件と、各サンプルの粒子を用いて得られたフッ化バリウム焼結体の評価結果を示す。なお、各サンプルの作製に適用された硝酸濃度は、第1生成工程において加えた硝酸のモル量を、酢酸バリウム水溶液を調整する際に使用したイオン交換水と加えた硝酸中の水との和の体積で除したモル体積濃度で示した。
図8は次のことを示す。硝酸濃度がそれぞれ0.062、0.14、0.28および0.54より大きく0.75mol/l未満としたサンプル2-4、2-5、2-6および2-7の粒子を用いて焼結した焼結体は無色透明となった。硝酸を全く含まないサンプル2-1の粒子を用いて焼結した焼結体は黒色不透明となった。硝酸濃度が0.016mol/lおよび0.031mol/lのサンプル2-2および2-3の粒子を用いて焼結した焼結体は白色不透明となった。硝酸濃度が0.75および1.0mol/lのサンプル2-8および2-9の粒子を用いて焼結した焼結体は、白色不透明となった。これらの焼結体を透明化処理した結果、全ての焼結体は透明化されたものの、透明度が高く均質な状態が得られたのは、サンプル2-4、2-5、2-6および2-7の粒子を用いた焼結体であった。
【0063】
各サンプル2-1~2-9の粒子を電子顕微鏡により観察したところ、硝酸濃度が増加するにつれてフッ化バリウム粒子の粒径が大きくなっていた。硝酸濃度が0.031mol/l以下の場合(サンプル2-1~2-3)、生成された粒子は、大きさが1μm以下の微粒子であった。硝酸濃度が0.75mol/l以上の場合(サンプル2-8、2-9)、生成された粒子は、大きさが2μm程度以上の微粒子の集合体であった。
【0064】
[実施例4]
実施例4のBLF焼結体を以下のようにして作製した。実施例4においては、フッ化ランタンがドープされたフッ化ランタンドープフッ化バリウム(BLF)粒子を生成し、その粒子を焼結して焼結体を作製する。このため、酢酸バリウム、フッ化水素酸、酢酸ランタンを原料として用いてBLF粒子を生成する。
【0065】
酢酸バリウム(試薬特級)を100g秤量しビーカーに収容する。ビーカーにイオン交換水を135g加えスターラーにより攪拌して溶解し酢酸バリウム水溶液を調整した。攪拌中に硝酸(69wt%、試薬特級)を1.7g秤量し、ビーカーに加えた。30分ほどで無色透明な水溶液が得られた。
【0066】
上記の水溶液をプラスチック製ビーカーに移した。高純度フッ化水素酸(25wt%)を、66.1g秤量し(化学当量比F/Ba2.1に相当)、攪拌しながらプラスチック製ビーカーにチューブポンプにて注入し、酢酸バリウム水溶液と反応させた。フッ化水素酸を注入後、1時間攪拌を継続し、白濁したフッ化バリウムスラリーを得た。
【0067】
このフッ化バリウムスラリーをポリテトラフルオロエチレン製の内筒を備えたステンレスオートクレーブ容器に移し、密閉した。このオートクレーブ容器を電気炉に入れ、100℃で24時間加熱した。
放冷したオートクレーブ容器を電気炉から取り出し、オートクレーブ容器内にフッ化バリウム粒子の沈殿と上澄み液とを得た。この上澄み液をポンプを使って吸出した後、沈殿に純水100gを加え、濃厚なフッ化バリウムスラリーを得た。このスラリーをプラスチック製ビーカーに移し、攪拌を行った。
【0068】
次に、フッ化バリウム粒子にドープさせるためのフッ化ランタンの生成について説明する。酢酸ランタン(試料特級)を57.6g秤量し、ビーカーに収容した。ビーカーにイオン交換水を290g加え、スターラーにより攪拌して酢酸ランタンを溶解した。攪拌中に硝酸(69wt%、試料特級)を10.4g秤量し、これをビーカーに加えた。30分ほどで無色透明な酢酸ランタン水溶液が得られた。この酢酸ランタン水溶液を、上記のフッ化バリウムスラリーを攪拌しているプラスチック製ビーカーに加え、さらに、高純度フッ化水素酸(25wt%)を、42.5g秤量し(F/La比3.15相当)、攪拌しながら上記プラスチック製ビーカーにチューブポンプにて注入し酢酸ランタンと反応させてBLFを生成した。フッ化水素酸を注入後、30分程度攪拌を継続し、白濁したBLFスラリーを得た。
【0069】
このBLFスラリーを、ポリテトラフルオロエチレン製の内筒を備えたステンレスオートクレーブ容器に移し、密閉した。このオートクレーブ容器を電気炉に入れ、180℃で24時間加熱した。
放冷したオートクレーブ容器を電気炉から取り出し、オートクレーブ容器内にBLF粒子の沈殿と上澄み液とを得た。これを攪拌して一様なスラリーとし、遠心分離機に移した。遠心分離により生成した上澄み液廃棄し、BLF粒子の沈殿を得た。このBLF粒子の沈殿にイオン交換水200gを加えて攪拌し、均質なBLFスラリーを得た。このBLFスラリーを遠心分離により固液分離し、上澄み液を廃棄した。この作業を3回繰り返して洗浄し、精製されたBLFの沈殿粒子を得た。
【0070】
このBLFの沈殿粒子を電気炉において、160℃で18時間加熱することにより乾燥ケーキを得た。乾燥ケーキを取り出し、メノウ乳鉢で粉砕し、約88gの白色乾燥粒子を得た。
この白色乾燥粒子を直径φ25mmの一様な凹みを有する金型に8g程度充填し、1軸プレス機を用いてプレス成形した。プレス力は2.6kNで、圧力は5.3MPa相当であった。得られた円柱形状の成形体は、手では折れない程度の形態保持性を有していた。
【0071】
この成形体を薄い樹脂製のバッグに真空封入し、冷間等方静水圧プレス(CIP)を行った。CIPの条件は、圧力50MPa、保持時間は1分であった。CIP処理により成形体は処理前に比べて収縮し、より高密度になっていることが確認された。
【0072】
この成形体を電気炉において350℃以上450℃以下の温度で6時間保持して脱脂した。脱脂によって成形体は大きく変形することはなかったが、若干硬くなった。
脱脂した成形体を真空焼結炉において、真空中にて1000℃の温度で1時間保持した後放冷し、焼結体を得た。焼結体は白色の円柱形状で直径と高さが成形体の場合と比べ共に約2割収縮しており、焼結が進行していることが分かった。焼結体のかさ密度は約5.4g/cm3であった。
【0073】
次に、焼結体を熱間等方静水圧プレス(HIP)処理した。HIP処理の条件は、圧力を98MPa、温度を1060℃として、この状態で2時間保持した。HIP処理後の焼結体をカーボン製るつぼに入れ、Moヒータにより加熱した後、放冷した。HIP処理を施されることにより焼結体は透明化された。
【0074】
なお、上記のBLFスラリーを生成する工程において、原料としての酢酸バリウムと酢酸ランタンとの調合比を異ならせることにより、ドープされるランタンのドープ濃度を調整することができる。本明細書においては、ドープされるランタンのドープ濃度xを、x=(ランタンの化学当量)/(バリウムの化学当量とランタンの化学当量の合計)として定義する。濃度xが異なるBLF粒子として、サンプル3-2(x=0.01)、サンプル3-3(x=0.50)、サンプル3-4(x=0.1)、サンプル3-5(x=0.2)、サンプル3-6(x=0.3)、サンプル3-7(x=0.4)、サンプル3-8(x=0.45)およびサンプル3-9(x=0.5)を作製した。
【0075】
上記の各サンプル3-2~3-9のBLF粒子を用いて焼結体を作製した。
図9に、作製された各焼結体の評価結果を示す。なお、
図9では、上述した実施例1のサンプルと同じものをサンプル3-1として記載した。すなわち、サンプル3-1はランタンがドープされていないサンプル(x=0)である。
図9に示す通り、濃度xが0.45のサンプル3-8および0.5のサンプル3-9は不透明であるが、その他のサンプル3-1~3-7は無色透明だった。サンプル3-1~3-7を平行平板状となるように両面を研磨し、それぞれの透過率を測定した。その結果、各サンプルの粒子の焼結体は紫外から赤外域において良好な特性を示した。
【0076】
図10は、サンプル3-1、3-4~3-7の粒子に対応する上記焼結体の透過率を示す図であり、
図10(a)は波長250nm~700nmの範囲における透過率を示し、
図10(b)は波長2.5μm~14.5μmの範囲における透過率を示す。なお、上記の各サンプル3-1、3-4~3-7の粒子に対応する焼結体の厚さは
図9に示す通りである。
図10には、図示していないが、濃度xが0.01および0.05のサンプル3-2および3-3の粒子に対応する焼結体は、赤外域の透過率がフッ化バリウム単結晶の透過率とほぼ同等の値を示し、λ
80もほぼ同様の値を示した。
【0077】
図10からわるように、紫外域においては、濃度xの変化に伴って透過率特性が大きく変動した。濃度xが0.1のサンプル3-4に対応する焼結体は、波長270nmを下回るような短い波長域において高い透過率を示すことが分かった。なお、可視域の透過率は、何れのサンプルに対応する焼結体も87ないし90%程度を示した。
【0078】
サンプル3-1、3-2、3-4~3-7の粒子に対応する焼結体について、プリズムカプラ法およびVブロック法により屈折率を測定した。プリズムカプラ法の装置としてはメトリコン社製Model2010/Mを使用し、波長473.594および654nmの屈折率を測定した。この屈折率をコーシーの分散式によって近似し、d線(587.6nm)の屈折率ndを算出した。Vブロック法の装置としては島津製作所製KPR-2000を用い、g線(436nm)、F線(486.1nm)、d線およびC線(656.3nm)の屈折率を測定した。d線に対する屈折率を
図9に示す。
【0079】
図11は、上記のd線に対する屈折率を示すグラフである。屈折率は、濃度xの増加に従ってほぼ直線的に増加し、フッ化ランタンがフッ化バリウム中に全量固溶して屈折率に組成の加成性が成立することが示唆される。
【0080】
図12は、サンプル3-1、3-2、3-4、3-5および3-6の粒子に対応する焼結体のXRDパターンの測定結果を示す。
サンプル3-2、3-4~3-6のBLF焼結体は、フッ化バリウムと同じ蛍石構造のパターンを示しており、添加したフッ化ランタンのピークは検出されなかった。すなわち、濃度xが40以下の範囲では、蛍石構造の固溶体を形成することが確認できた。また、サンプル3-2、3-4~3-6について、パターンのピークが高波数側に連続的かつ線形的にシフトしており、固溶が進むにつれ結晶格子の大きさが線形に収縮していることが分かった。
【0081】
図13は、焼結前の各サンプルの粒子に対して行ったXRDパターンの測定結果を示す図である。
濃度xが0.3未満の粒子(サンプル3-1~3-5)については、フッ化バリウムのピークとその高波数側にサブピークが検出された。このサブピークは、上記の固溶濃度とピークの位置との関係から、濃度xが0.3(サンプル3-6)程度の固溶体の粒子であることが分かった。したがって、粒子はフッ化バリウムとBLF30の混合体であると考えられる。そして、濃度xが0.3を超える粒子(サンプル3-7、3-8)については、フッ化バリウムのパターンは検出されず、BLFの固溶体が粒子の主成分であることが分かった。すなわち、粒子合成時からBLF固溶体が粒子として析出合成されることが分かった。これは、上述した実施の形態における作製方法に特徴的なことである。このため、フッ化バリウムとフッ化ランタンとを一定組成比に混合してから焼成する反応焼結による手法に比べ、最初から固溶体の粒子を用いることで、焼結時に発生する組成の不均質を抑制することができ、均一な焼結体を得ることができたものと推定される。その結果、幅広い波長域で高い透過率を示したものと推定される。
【0082】
本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0083】
1…撮像装置、2…多光子顕微鏡、
103…撮影レンズ、206…対物レンズ、
208…集光レンズ、210…結像レンズ、
CAM…撮像装置、WL…撮影レンズ