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特開2022-178246海底有価物質の揚鉱装置及び揚鉱方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178246
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】海底有価物質の揚鉱装置及び揚鉱方法
(51)【国際特許分類】
   E21C 50/00 20060101AFI20221125BHJP
【FI】
E21C50/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084889
(22)【出願日】2021-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000236610
【氏名又は名称】株式会社不動テトラ
(71)【出願人】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】折田 清隆
(72)【発明者】
【氏名】谷 和夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 肇一
(72)【発明者】
【氏名】古庄 哲士
【テーマコード(参考)】
2D065
【Fターム(参考)】
2D065DB12
2D065FA03
2D065FA23
2D065FA35
2D065GA01
(57)【要約】
【課題】塊状体の海底有価物質を高い揚鉱効率で揚鉱できる海底有価物質の揚鉱装置及びこれを用いる揚鉱方法を提供すること。
【解決手段】海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を備える循環系管路を有する海底有価物質を揚鉱する揚鉱装置であって、循環系管路には、キャリア物質である粘性流動体が充填され、上昇管は、複数の流路を有する。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を備える循環系管路を有する揚鉱装置であって、
該循環系管路には、キャリア物質である粘性流動体が充填され、
該上昇管は、2以上の流路を有することを特徴とする海底有価物質の揚鉱装置。
【請求項2】
該2以上の流路は、上昇管の管内を隔壁で区画された2以上の区画路であることを特徴とする請求項1記載の海底有価物質の揚鉱装置。
【請求項3】
該上昇管は、2以上の管からなり、該管が流路であることを特徴とする請求項1記載の海底有価物質の揚鉱装置。
【請求項4】
該2以上の管は、中央の下降管の周りに付設されることを特徴とする請求項3記載の海底有価物質の揚鉱装置。
【請求項5】
該循環系管路の海底側に設けられ、最大寸法Xの海底有価物質を搬入する搬入口を更に有し、該流路の最小内寸法Y1は、Xの1.5倍~5.0倍である請求項1記載の海底有価物質の揚鉱装置。
【請求項6】
該搬入口には、海底有価物質から最大寸法Xの海底有価物質を選別するスクリーンを設けたことを特徴とする請求項5記載の海底有価物質の揚鉱装置。
【請求項7】
該上昇管又は該管は、断面の最小寸法と最大寸法の比が、0.5~1の円管又は多角形管であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の海底有価物質の揚鉱装置。
【請求項8】
海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を備える循環系管路内をキャリア物質で充填し、該キャリア物質をポンプにより循環させ、海底有価物質を該キャリア物質に混入させ、該キャリア物質と同伴により上昇運搬し、海上側において海底有価物質を回収する方法であって、該キャリア物質は、粘性流動体であり、該上昇管は、2以上の流路を有することを特徴とする海底有価物質の揚鉱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底鉱物資源である有価物質を海上に高効率で運搬する揚鉱装置及びこれを用いる揚鉱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海底鉱物資源等の有価物質を海上に輸送、運搬する揚鉱方法及び揚鉱装置としては、種々の技術が開示されている。特許6570000公報(特開2019-120063号公報)には、海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を海底側と海上側でそれぞれ連結した環状の管路、海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を海底側で連結したU字状の管路、又は内管が上昇管、外管が下降管であるか又はその逆の内管が下降管、外管が上昇管となる二重管と、該環状の管路内、該U字状、又は該二重管の管路内に充填されるキャリア物質と、該キャリア物質を循環させる圧送ポンプと、 該管路の海底側に設けられた海底有価物質を搬入する搬入口と、該管路の海上側に設けられた海底有価物質を回収する回収口と、を有し、該キャリア物質は、平均粒径が0.01mm~10mm、真密度が0.01~8g/cmの粒状体と、粘性流動体の混合物である海底有価物質の揚鉱装置が開示されている(請求項1)。これによれば、海底有価物質の揚鉱に、粒状体を含有する粘性流動体を使用するため、直径30mm以上の粒状体又は塊状体である海底有価物質を高い揚鉱効率で揚鉱できる。
【0003】
また、特許6570000公報には、環状(ループ)の管路としては、内管が上昇管、外管が下降管、又はその逆の外管が上昇管、内管が下降管となる二重管であってもよいと記載されている。また、管径としては、有価物質である粒状体の最大径の2倍以上であるものが、管内閉塞を防止し、輸送・運搬の効率を高めることができる点で好ましいと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許6570000公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、最大粒径50mm、80%粒径25mm、湿潤密度4.1g/cmのような大きな塊状体の海底有価物質を揚鉱することが期待されている(海底熱水鉱床開発計画総合評価報告書平成30年12月、経産省資源エネルギー庁)。このような粒径が大きく、高密度の塊状体は、揚鉱時に沈降する恐れがある。また、最大粒径10~30mmのような粒径がより小さい塊状体であっても、揚鉱時の沈降はないとは言えず、これらを含めた塊状体を、従来技術に比して、より高い揚鉱効率で揚鉱できれば、生産性が上がり、好ましいことである。
【0006】
従って、本発明の目的は、塊状体の海底有価物質を高い揚鉱効率で揚鉱できる海底有価物質の揚鉱装置及びこれを用いる揚鉱方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる実情において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、管壁沿いを通る球状の鉱石モデルは、鉱石モデル周辺の粘性流動体の変形が阻害され、鉱石モデルの沈降が抑制されること、これにより、上昇管を2以上の管路にすることで管路を狭めれば、揚鉱効率を高められること等を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明(1)は、海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を備える循環系管路を有する揚鉱装置であって、該循環系管路には、キャリア物質である粘性流動体が充填され、該上昇管は、2以上の流路を有することを特徴とする海底有価物質の揚鉱装置を提供するものである。
【0008】
また、本発明(2)は、該2以上の流路は、上昇管の管内を隔壁で区画された2以上の区画路であることを特徴とする前記(1)記載の海底有価物質の揚鉱装置を提供するものである。
【0009】
また、本発明(3)は、該上昇管は、2以上の管からなり、該管が流路であることを特徴とする前記(1)記載の海底有価物質の揚鉱装置を提供するものである。
【0010】
また、本発明(4)は、該2以上の管は、中央の下降管の周りに付設されることを特徴とする前記(3)記載の海底有価物質の揚鉱装置を提供するものである。
【0011】
また、本発明(5)は、該循環系管路の海底側に設けられ、最大寸法Xの海底有価物質を搬入する搬入口を更に有し、該流路の最小内寸法Y1は、Xの1.5倍~5.0倍である前記(1)記載の海底有価物質の揚鉱装置を提供するものである。
【0012】
また、本発明(6)は、該搬入口には、海底有価物質から最大寸法Xの海底有価物質を選別するスクリーンを設けたことを特徴とする前記(5)記載の海底有価物質の揚鉱装置を提供するものである。
【0013】
また、本発明(7)は、該上昇管又は該管は、断面の最小寸法と最大寸法の比が、0.5~1の円管又は多角形管であることを特徴とする前記(1)~(6)のいずれかに記載の海底有価物質の揚鉱装置を提供するものである。
【0014】
また、本発明(8)は、海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を備える循環系管路内をキャリア物質で充填し、該キャリア物質をポンプにより循環させ、海底有価物質を該キャリア物質に混入させ、該キャリア物質と同伴により上昇運搬し、海上側において海底有価物質を回収する方法であって、該キャリア物質は、粘性流動体であり、該上昇管は、2以上の流路を有することを特徴とする海底有価物質の揚鉱方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上昇管を2以上の流路とし、流路を狭くできるため、上昇管内の塊状体(有価海底有価物質)が、管壁に沿って通る確率が高くなる。管壁に沿って通る塊状体は、塊状体周辺の粘性流動体の変形が阻害され、塊状体の沈降が抑制されるため、従来に比して塊状体を高い揚鉱効率で揚鉱可能となる。また、全体として流量を減少させることがない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施の形態における揚鉱装置の上昇管の断面図である。
図2】本発明の第1の実施の形態における揚鉱装置の上昇管の他の断面図である。
図3】本発明の第1の実施の形態における揚鉱装置の上昇管の他の断面図である。
図4】本発明の第1の実施の形態における揚鉱装置の上昇管の他の断面図である。
図5】本発明の第1の実施の形態における揚鉱装置の上昇管の他の断面図である。
図6】円管内を区画する不完全隔壁の一例を示す断面図である。
図7】三角形管内を区画する不完全隔壁の一例を示す断面図である。
図8】四角形管内を区画する不完全隔壁の一例を示す断面図である。
図9】本発明の上昇管の管壁近くの鉱物の沈降抑制作用を説明するモデル図であり、(A)は管軸上を通る場合、(B)は管壁に沿って通る場合を示す。
図10】本発明の上昇管の管壁近くの鉱物の沈降抑制作用を説明するモデル図であり、狭い流路を通る場合を示す。
図11】本発明の第1の実施の形態における揚鉱装置の概略図である。
図12】本発明の第1の実施の形態における揚鉱装置の集鉱方法を説明する図である。
図13】本発明の第2の実施の形態における揚鉱装置の上昇管の断面図である。
図14】本発明の第2の実施の形態における揚鉱装置の上昇管の他の断面図である。
図15】本発明の第2の実施の形態における揚鉱装置の上昇管の他の断面図である。
図16】参考例の試験において使用した円筒状容器の断面図であり、落下開始位置を示す。
図17】参考例1の沈降の計測結果を示すグラフであり、横軸が時間(秒)、縦軸は沈降距離(m)である。
図18】参考例2の沈降の計測結果を示すグラフである。
図19】参考例3の沈降の計測結果を示すグラフである。
図20】参考例4の沈降の計測結果を示すグラフである。
図21】参考例5の沈降の計測結果を示すグラフである。
図22】参考例6の沈降の計測結果を示すグラフである。
図23】参考例7の沈降の計測結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の海底有価物質(以下、「鉱物」とも言う。)の揚鉱装置は、海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を備える循環系管路を有し、循環系管路には、キャリア物質である粘性流動体が充填され、上昇管は、2以上の流路を有するものである。循環系管路としては、下降管と上昇管を海底側と海上側でそれぞれ連結した環状の管路、下降管と上昇管を海底側で連結したU字状の管路、及び内管が上昇管、外管が下降管であるか又はその逆の内管が下降管、外管が上昇管となる二重管が挙げられる。
【0018】
上昇管の2以上の流路は、上昇管の管内を隔壁で区画された2以上の区画路であるか、又は上昇管が2以上の管からなり、該管が流路であるものが挙げられる。2以上の区画路の場合、それぞれの区画路の断面積は同じであっても、異なっていてもよい。2以上の管の場合、それぞれの管(管路)の断面積は同じであっても、異なっていてもよい。異なる断面積の2以上の流路を使用する場合、それぞれの断面に適切な粒度の海底鉱物を搬入すれば、同じ断面積の流路に同じ粒度の海底鉱物を搬入した場合よりも揚鉱効率は向上する。この場合、海底の搬入口において、スクリーンで粒度毎に分別して、大径の管には粗粒の鉱石を、小径の管には細粒の鉱石を割り振るというように、鉱石を粒度に応じて適切な径の上昇管に割り振ればよい。2以上の管の場合、1つの下降管に対して2以上の管とすることが好ましい。また、2以上の管の内、2つの管を形成する管壁は互いに当接又は近接していることが好ましい。また、2以上の管は、中央の下降管周りに付設されることが好ましい。
【0019】
次に、本発明の第1の実施の形態の揚鉱装置について説明する。第1の実施の形態の揚鉱装置において、上昇管は、上昇管の管内を隔壁で区画された2以上の区画路を有するものである。上昇管の断面の輪郭形状としては、特に制限されず、断面の最小寸法と最大寸法の比が、0.5~1.0の円管、多角形管及び不定形状管が挙げられる。多角形管としては、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形などが挙げられる。なお、断面の最大寸法とは、断面を包含する最小円の径であり、断面の最小寸法とは、断面に包含される最大円の径である。
【0020】
上昇管中、隔壁により区画された区画路の数は、2つ以上、好ましくは3つ以上である。具体例としては、三角形管の中を3つの隔壁111(三角形隔壁)で仕切り、4つの三角形断面の流路11a~11dを形成した上昇管11(図1)、四角形管の中を十字形状の隔壁121で仕切り、4つの四角形断面の流路12a~12dを形成した上昇管12(図2)、円管の中を十字形状の隔壁131で仕切り、4つの扇形状断面の流路13a~13dを形成した上昇管13(図3)、二重管である循環系管路の内管142を下降管、外管141を上昇管とし、その外管141の中を4つの隔壁143で仕切り、4つの半扇形状断面の流路14a~14dを形成した上昇管14(図4)、二重管である循環系管路の外管151を下降管、内管152を上昇管とし、その内管152の中を十字形状の隔壁153で仕切り、4つの扇形状断面の流路15a~15dを形成した上昇管15(図5)等が挙げられる。これにより、上昇管内の流路を狭くでき、上昇する鉱物と管壁の距離が近くなり、管壁に沿って通る鉱物の下降を抑制できる。なお、図1図3において、4つの流路の内、1つ又は2つを下降管とし、他の2又は3の流路を上昇管としてもよい。
【0021】
第1の実施の形態において、流路を区画する隔壁としては、隔壁(閉断面を形成する完全隔壁)の一部を欠いた不完全隔壁であってもよい。不完全隔壁としては、例えば、図6図8に示すものが挙げられる。図6(A)は、円管内を区画する十字形隔壁の端部(管壁側)を欠いた不完全隔壁を示し、図6(B)は、円管内を区画する十字形隔壁の中心部(管軸上)を欠いた不完全隔壁を示し、図6(C)は、円管内を区画する十字形隔壁に多数の穴(パンチング穴)を形成した不完全隔壁を示す。また、図7(A)は、三角形管内を区画する三角形隔壁の辺の中心を欠いた不完全隔壁を示し、図7(B)は、三角形管内を区画する三角形隔壁の角を欠いた不完全隔壁を示し、図7(C)は、三角形管内を区画する三角形隔壁に多数の穴(パンチング穴)を形成した不完全隔壁を示す。また、図8(A)は、四角形管内を区画する十字形隔壁の端部(管壁側)を欠いた不完全隔壁を示し、図8(B)は、四角形管内を区画する十字形隔壁の中心部(管軸上)を欠いた不完全隔壁を示し、図8(C)は、四角形管内を区画する十字形隔壁に多数の穴(パンチング穴)を形成した不完全隔壁を示す。
【0022】
不完全隔壁の欠損部分の割合は、完全隔壁の辺部長さ又は周長さの10%以下とすることが、流路を明確に区画できると共に、揚鉱効率を向上させることができる点で好ましい。例えば、図6(A)において、例えば十字形隔壁の一部である直線状隔壁61の欠損部(l-l)は、完全隔壁である円管直径lの10%以下であり、図7(B)において、例えば三角形隔壁の一部である直線状隔壁71の欠損部(l-l)は、完全隔壁の長さlの10%以下であり、図8(C)において、例えば十字形隔壁の一部である直線状隔壁81の欠損部(穴部)は、直線状完全隔壁の10%以下である。
【0023】
また、第1の実施の形態において、上昇管の隔壁で区画された区画路の最小内寸法Y1は、鉱物の最大寸法Xの1.5倍~5.0倍、好ましくは2.0倍~4.0倍である。鉱物の最大寸法Xとは、上昇管中に存在する大きさが様々な多数の鉱物中の一番大きな鉱物の寸法を意味し、ひとつの鉱物において最小寸法、最大寸法が存在する場合の最大寸法を意味するものではない。上昇管中の最大寸法Xの鉱物は、例えば、循環系管路の海底側に設けられた、最大寸法Xの海底有価物質を搬入する搬入口を設けることで決定することができる。このような搬入口としては、海底有価物質から最大寸法Xの海底有価物質を選別するスクリーンの設置などが挙げられる。このように、上昇管の区画路の最小内寸法Y1を、鉱物の最大寸法Xの1.5倍~5.0倍とすることで、上昇する鉱物と管壁の距離が近くなり、管壁に沿って通る鉱物の下降を抑制できる。スクリーンとしては、メッシュの分離網が挙げられる。なお、異なる断面積の2以上の区画路を使用する場合、それぞれの断面に対応したスクリーンをそれぞれ設置すればよい。これにより、1つのスクリーンを使用し、同じ断面積の流路に同じ粒度の海底鉱物を搬入した場合よりも揚鉱効率は向上する。
【0024】
次に、本発明における上昇管の管壁近くの鉱物の沈降抑制作用について、図9及び図10を参照して説明する。図9及び図10は、共に、球状の鉱石モデルがキャリア物質中を相対的に下方に移動する(沈降する)状態を示す模式図である。図9(A)は、単管16中、鉱石モデルZが管の管軸上を通過する管内の模式図であり、図9(B)は、単管16中、鉱石モデルZが管壁に沿って通過する管内の模式図である。図10は、内管162及び隔壁163で区画された外管161からなる二重管(円管)16Aの外管内を鉱石モデルZが通過する管内の模式図である。図9及び図10共に、上図が縦断面、下図が横断面を示す。図9(A)において、鉱石モデルZが管の管軸上を下方に沈降する際、鉱石モデルZが移動する前面方向(図中、下方)のキャリア物質を側方から背面方向(図中、上方)に押しのける必要がある。このようなキャリア物質の挙動を生じるためには、鉱石モデルZの周辺、特に下方周辺から側方にかけての領域において、キャリア物質が大きなせん断変形を受ける必要がある。図中、矢印の下方の円弧状の破線はせん断破壊面である。一方、図9(B)において、鉱石モデルZが管壁付近を下方に沈降する際、鉱石の一方の側方、すなわち、管壁側においては、キャリア物質のせん断変形が拘束されている。その結果として、鉱石モデルZの相対的な下方への移動(沈降)を抑制することとなる。図10は、鉱石モデルの径と管路の内寸法とが近く、小さな断面の流路を大きな鉱石モデルが通ることになり、両側においてキャリア物質のせん断変形が拘束される。このような管壁付近の鉱物の沈降抑制作用から、上昇管の区画路の最小内寸法Y1は、管閉塞を生じない程度の大きさであれば、可能な限り鉱物の最大寸法Xに近い寸法、すなわち、1.5倍、好ましくは2.0倍とすることが好ましい。なお、上昇管の区画路の最小内寸法Y1が、鉱物の最大寸法Xの5.0倍を超えると、管壁の影響を受けず、鉱物の沈降抑制は期待できない。なお、実際には、最大寸法X以下の様々な寸法の多くの鉱物をキャリア物質に同伴させて揚鉱する必要があり、上昇管の区画路の最小内寸法Y1は、鉱物の最大寸法Xの1.5倍以上とした。
【0025】
海底有価物質としては、深さ数百から数千メートルの海底に存在するマンガンクラスト、マンガンノジュール、コバルトリッチクラスト、硫化物鉱床(熱水鉱床)、レアアース泥又はメタンハイドレードから採取される粒状、粉状又は塊状体の鉱石が挙げられる。鉱石は0.75mm以上の粗粒であってもよく、最大粒径50mm以上、粒子密度が4.1g/cm以上の高密度な塊状体であってもよい。
【0026】
第1の実施の形態のキャリア物質は、海底有価物質の揚鉱に使用するものであり、粘性流動体である。粘性流動体としては、特許657000号公報に記載された粘性流動体が使用できる。すなわち、粘性流動体は、5℃の粘度(JIS Z8803;液体の粘度測定方法)が、1000mPa・s以上、好ましくは1,300mPa・s以上、特に好ましくは2,000mPa・s以上、更に好ましくは3000mPa・s以上である。また、5℃の塑性粘度は、100Pa・s以下であり、5℃の降伏応力は5Pa以上である。降伏応力と塑性粘度は、回転式及び振動式の粘度計を使用し、JIS Z8803に準拠する方法で測定することができる。5℃の粘度としたのは、海水温度が海水表面から数十m以上の深度においては、概ね5℃と安定しており、下降管及び上昇管のほとんどは、5℃の環境下に晒されるためである。なお、粘性流動体の5℃の粘度の上限値は、10万mPa・sである。これ以上粘度が高くなると固体に近くなり、現実的に圧送が困難となる。
【0027】
粘性流動体は、水系、油系及びエマルジョン系であってもよいが、水系及びエマルジョン系が好ましく、特に高分子溶液等の水系が、安価で済み、取り扱いにおいて都合がよい点で好ましい。高分子溶液は、懸濁液を含む。高分子溶液における高分子は、天然物又は合成物いずれも使用できるが、合成物とすることが、少ない配合量で流動化物を得ることができる点で好ましい。また、エマルジョン系としては、油又は水と乳化剤の混合物であるマヨネーズが挙げられる。
【0028】
高分子溶液における高分子としては、一般に増粘剤、増粘材、吸水剤と称されるものが使用でき、例えば、ベントナイト、メチルセルロース(MC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ヒドロキシエチルセルロースナトリウム(HEC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド(PAAM)、ポリアクリル酸ナトリウム、デンプン、ガム類、ペクチン、アルギン酸金属塩、アルギン酸エステル等が挙げられる。ガム類としては、グアーガム、キンサンタンガム、ジェランガム、ダイユータンガム等が挙げられる。また、アルギン酸金属塩としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸カリウム等が挙げられる。これらの化合物は、1種類又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
第1の実施の形態において、粘性流動体は、粒状体を含んでいてもよい。粒状体は、特許657000号公報に記載された粒状体が使用できる。粒状体は、海底有価物質以外のものであり、使用する前に予め粘性流動体に含有されるものである。粒状体としては、平均粒径が0.01mm~10mm、好ましくは、0.1~8mmであり、真密度が0.01~8g/cmである。平均粒径は、粒度分布から求められる公知の算出方法を用いて算出される。このような粒状体としては、岩石由来、植物・生物由来、樹脂素材、繊維素材のいずれでもよく、また、その混合物であってもよい。具体的には、発泡ビーズ、ガラスビーズ、珪砂などの砂、シルト・礫、木材、鉄粉などの金属粉が挙げられる。粒状体の配合量としては、粘性流動体100重量部に対して、0.1~80重量部、好ましくは、0.3~60重量部、更に好ましくは0.5~50重量部である。
【0030】
第1の実施の形態によれば、上昇管の管内を隔壁で区画して区画路を形成したこと、あるいは上昇管の区画路の最小内寸法Y1を、鉱物の最大寸法Xの1.5倍~5.0倍としたことで、揚鉱途中の鉱物は、管壁の影響を受ける。このため、沈降が抑制され、深さ数千メートルの海底から鉱物資源である粒状及び塊状体の有価物質を海上まで高い揚鉱効率、具体的には60%以上、好ましくは80%以上で、輸送・運搬することができる。揚鉱効率とは、揚鉱速度をキャリア物質流送速度で除した値を言う。
【0031】
第1の実施の形態において、鉱物の沈降を抑制する作用力としては、粘性抵抗、浮力及び有効支持力が挙げられる。粘性抵抗及び浮力は、粘性流動体が担い、有効支持力は、粒状体が担うことになる。なお、海底鉱物の位置が管壁に近い場合には、粘性抵抗と有効支持力は管壁の影響を受ける。
【0032】
次に、第1の実施の形態の揚鉱装置及びそれを用いたい揚鉱方法について、図11を参照して説明する。第1の実施の形態の揚鉱装置における管路は環状(ループ)のものである。揚鉱装置10は、海上より海底に達する下降管1と、海底から海上に達する上昇管2を海底側と海上側でそれぞれ連結した環状の管路7と、環状の管路7内に充填されるキャリア物質3と、キャリア物質3を循環させる圧送ポンプ4と、管路7の海底側に設けられた海底有価物質を搬入する搬入口5と、管路7の海上側に設けられた海底有価物質Zを回収する回収口6を有する。なお、海上側の施設は、通常、揚鉱船や揚鉱フロートなどのプラットフォームに設置される。なお、上昇管2は、図3で示す円管内を十字の隔壁で区画された4つの区画路を有するものである。
【0033】
環状(ループ)の管路としては、可撓性を有していてもよい管であり、例えば、一般的な配管が挙げられる。環状の管路において、上昇管の下端と下降管の下端は、連結され連続した管であればよい。上昇管は、4つの区画路を有するが、下降管は、隔壁を有さなくともよい。下降管はキャリア物質の戻り管であり、本発明の海底鉱物の沈降の問題は発生しないからである。従って、上昇管の区画された区画路の断面積と下降管の流路断面積は同じ、又は異なっていてもよい。
【0034】
環状の管路7には、キャリア物質3を循環させるポンプ4を有する。ポンプ4は圧送ポンプであり、管路系内であれば、設置場所は特に制限されない。また、ポンプ4は、環状の管路系内に設置されるため、海底の搬入口5と、海上の回収口6とに大きな高低差があったとしても、ポンプ4には管内壁の摩擦損失以外の負荷が生じないため、キャリア物質3又は海底有価物含有のキャリア物質3を、効率的に長距離圧送することが可能となる。
【0035】
環状の管路7は、管路7の海底側に設けられた海底有価物質を搬入する搬入口5を有する。搬入口5は、公知の集鉱機から採取される粒状の鉱石が、搬入される場所である。搬入口5としては、二重扉又は回転扉を設けることが、管路に充填されたキャリア物質3の漏れを防止できる点で好ましい。図12は搬入口5に設置された回転扉5aを示したものである。回転扉5aは、回転軸51を中心に有する側面視が十字(クロス)形状のドアパネル52を有し、搬入口5近傍において回動自在に設置されている。搬入口5周りには、十字(クロス)形状の中、I字形状部分のドアパネルが密に接触する部分円弧形状の上部ケーシング55と部分円弧形状の下部ケーシング53を有している。また、符号54は、下部ケーシング53の上端から斜め上方に延びる板状体であり、搬入口を拡げて鉱石Zの搬入を容易にしている。回転扉5aによれば、ドアパネル52が回転中、管路7と外部は常に遮断されており、管路7内の圧力を保持したまま、鉱石Zを管路7内に搬入することができる。
【0036】
また、搬入口5には、任意の構成要素である、海底鉱物から最大寸法Xの海底鉱物を選別するスクリーン57が設置されている。すなわち、スクリーン57は、例えば、寸法Xの目開き(篩目)の分離網が挙げられ、様々な大きさを有する海底鉱物から最大寸法Xより小さなサイズの海底鉱物の搬入を許容し、最大寸法Xより大きなサイズの鉱物の搬入を阻止する。これにより、上昇管2を隔壁で区画された区画路の内、最大の区画路Y1の最小内寸法Y2を、Xの1.5倍~5.0倍に決定できる。
【0037】
また、環状の管路7には、管路7の海上側に設けられた海底有価物質Xを回収する回収口6を有する。また、回収口6には、海上側の装置を設置してもよい。すなわち、例えば、海上側の装置は、圧送ポンプ、分離槽、粉砕装置、選鉱装置及び調整槽を有する。分離槽は、重力沈降分離法を採用するものであり、分離槽の下端から海底鉱物を含むキャリア物質3を回収し、分離槽の上端から海底鉱物を含まないキャリア物質3を循環させる。粉砕装置は、公知の砕石装置が使用できる。選鉱装置は、粉砕された海底鉱物を不要鉱物と有用鉱物に分離するものであり、公知の選鉱装置が使用できる。
【0038】
次に、図11の揚鉱装置10を使用した海底有価物質の揚鉱方法について説明する。先ず、図11の揚鉱装置10において、圧送ポンプ4を稼働させる。これにより、環状の管路7内をキャリア物質3が循環する。次いで、不図示の集鉱機を稼働させ、例えば、千mの海底の鉱床Yから鉱石Zを採取し、これを管路7の搬入口5から管路7内に搬入する。搬入口5から搬入された鉱石Zは、循環するキャリア物質3と同伴して、上昇管2内を上昇運搬される。採取された鉱石Zは、キャリア物質3が粘性流動体で、且つ上昇管2内が図3に示すような十字の区画壁131で区画され、狭い流路(区画路)となっているため、粗粒物や塊状体であっても、また高密度粒子であっても、粒状の鉱石Zの相対的な位置を極力、保持した状態で管内7を流動すると共に、キャリア物質3から大きく沈降することなく、高い揚鉱効率で輸送・運搬される。特に、最大寸法Xに近い大きなサイズの鉱石は、上昇しつつも沈降は避けられないものの、管壁に沿って下方に沈降する際、管壁側において、キャリア物質のせん断変形が拘束される。その結果として、鉱石の相対的な下方への移動(沈降)を抑制することが可能となる。
【0039】
海上に運搬された鉱石Zは、搬出口6からキャリア物質3と共に、分離槽に導入され、分離槽で分離されて、鉱石Zを含むキャリア物質3と、鉱石Zを含まないキャリア物質3に分離され、鉱石Zを含むキャリア物質3は、粉砕装置に導入されて粉砕され、粉砕された鉱石Zは、更に選鉱装置に導入され、不要鉱石と有用鉱石に分離される。
【0040】
第1の実施の形態の揚鉱装置及び揚鉱方法によれば、環状の管路内をキャリア物質である粘性流動体が循環し、且つ上昇管内が隔壁で区画され狭くなっているため、有価物質である塊状体や高密度な粒状体を高い揚鉱効率で揚鉱でき、千m程度の長距離輸送が可能であり、且つ廃棄物を出さない。
【0041】
次に、第2の実施の形態における揚鉱装置及び揚鉱方法について説明する。第2の実施の形態において、第1の実施の形態と同一構成要素についてはその説明を省略し、異なる点について主に説明する。第2の実施の形態において、第1の実施の形態と異なる点は、上昇管である。すなわち、第2の実施の形態において、上昇管は、複数の管としたことにある。なお、第2の実施の形態において、循環系管路としては、下降管と上昇管を海底側と海上側でそれぞれ連結した環状の管路、下降管と上昇管を海底側で連結したU字状の管路及び内管が上昇管が挙げられる。
【0042】
第1の実施の形態において、上昇管の複数の管を構成する個別の管の断面の輪郭形状としては、特に制限されず、断面の最小寸法と最大寸法の比が、0.5~1.0の円管又は多角形管が挙げられる。多角形管としては、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形などが挙げられる。なお、断面の最大寸法及び断面の最小寸法の定義は、第1の実施の形態と同じである。複数の管は、全て同じ形状であっても、異なった形状であってもよい。また、複数の管は、中央の下降管の周りに付設されるもの、又は下降管に隣接する複数の管が挙げられ、この中、中央の下降管の周りに付設されるものが好ましい。
【0043】
上昇管が複数の管からなる具体例としては、3つの円管21a~21cからなり、軸芯を結ぶ線が正三角形の複数円管である上昇管21(図13)、中央の下降管222(円管)の周りに設置された8つの円管221である上昇管22(図14)、中央の六角管232の周りに設置された6つの六角管231を配置した7つの六角管からなる上昇管23(図15)等が挙げられる。なお、図13の3つの円管において、1つを下降管とし、他の2つ上昇管としてもよい。また、図15の7つの六角管において、中央又は中央以外の1つ又は複数個を下降管とし、他の2つ以上を上昇管としてもよい。これにより、上昇管内の流路を狭くでき、上昇する鉱物と管壁の距離が近くなり、管壁に沿って通る鉱物の下降を抑制できる。
【0044】
また、第2の実施の形態において、上昇管である2以上の管の中、最大の管の最小内寸法Y2は、鉱物の最大寸法Xの1.5倍~5.0倍、好ましくは2.0倍~4.0倍である。鉱物の最大寸法Xの定義は、第1の実施の形態の鉱物の最大寸法の定義と同じである。また、第2の実施の形態は、第1の実施の形態と同様、管の最小内寸法Y2は、例えば、循環系管路の海底側に設けられた、最大寸法Xの海底有価物質を搬入する搬入口を設けることで決定することができる。このような搬入口としては、海底有価物質から最大寸法Xの海底有価物質を選別するスクリーンの設置などが挙げられる。このように、上昇管である2以上の管の中、最大の管の最小内寸法Y2を、鉱物の最大寸法Xの1.5倍~5.0倍とすることで、上昇する鉱物と管壁の距離が近くなり、管壁に沿って通る鉱物の下降を抑制できる。なお、異なる断面積の2以上の管を使用する場合、それぞれの断面に対応した適切なスクリーンをそれぞれ設置すればよい。これにより、同じ断面積の2以上の流路に1つのスクリーンで選別した同じ粒度の海底鉱物を搬入した場合よりも揚鉱効率は向上する。
【0045】
第2の実施の形態において、上昇管の管壁近くの鉱物の沈降抑制作用は、第1の実施の形態における上昇管の管壁に沿って通る鉱物の沈降抑制作用と同様であり、その説明を省略する。
【0046】
第2の実施の形態において、海底有価物質の説明、キャリア物質の説明は、第1の実施の形態における海底有価物質の説明、キャリア物質の説明と同様であり、その説明を省略する。
【0047】
第2の実施の形態によれば、上昇管を複数の管としたこと、あるいは上昇管の複数の管の中、管内寸法が最大の管の最小内寸法Y1を、鉱物の最大寸法Xの1.5倍~5.0倍としたことで、揚鉱途中の鉱物は、管壁の影響を受ける。このため、沈降が抑制され、深さ数千メートルの海底から鉱物資源である粒状及び塊状体の有価物質を海上まで高い揚鉱効率、具体的には60%以上、好ましくは80%以上で、輸送・運搬することができる。第2の実施の形態において、鉱物の沈降を抑制する作用力は、第1の実施の形態と同様であり、その説明を省略する。
【0048】
次に、第2の実施の形態の揚鉱装置及びそれを用いたい揚鉱方法について説明する(不図示)。第2の実施の形態の揚鉱装置は、上昇管を図13の3つの円管とした以外は、図11の第1の実施の形態の揚鉱装置と同じである。従って、以下に、第1の実施の形態の揚鉱装置及びそれを用いたい揚鉱方法と異なる点についてのみ説明する。
【0049】
環状(ループ)の管路において、上昇管2の下端と下降管3の下端は、連結され連続した管である。下降管3の形状は円形で、その断面積は3つの上昇管2の総断面積と同程度である。下降管3と上昇管2の接続部には、海底鉱物を搬入する搬入口5を設ける。下降管3と搬入口5の間及び搬入口5と上昇管2の間の接続部は、キャリア物質が周辺の海域に漏洩したり、海水が管内に混入したりすることを防止する液密な構造とすればよい。なお、本例における下降管3の断面積は、3つの上昇管2の総断面積と異なり、大きくても小さくてもよい。
【0050】
次に、第2の実施の形態の揚鉱装置を使用した海底有価物質の揚鉱方法について説明する。先ず、揚鉱装置において、圧送ポンプを稼働させる。これにより、環状の管路内をキャリア物質が循環する。次いで、集鉱機を稼働させ、例えば、千mの海底の鉱床Yから粒状の鉱石Zを採取し、これを管路の搬入口から上昇管内に搬入する。搬入口から搬入された粒状の鉱石Zは、循環するキャリア物質と同伴して、上昇管である3つの管内を上昇運搬される。最大寸法Xに近い大きなサイズの鉱石は、上昇しつつも沈降は避けられないものの、3つの管内は、それぞれ狭い流路となっているため、管壁沿って下方に沈降する際、管壁側において、キャリア物質のせん断変形が拘束される。その結果として、鉱石の相対的な下方への移動(沈降)を抑制することが可能となる。
【0051】
第2の実施の形態の揚鉱装置及び揚鉱方法によれば、環状の管路内をキャリア物質である粘性流動体が循環し、且つ上昇管が複数の管であるため、有価物質である塊状体や高密度な粒状体を高い揚鉱効率で揚鉱でき、千m程度の長距離輸送が可能であり、且つ廃棄物を出さない。
【0052】
第1の実施の形態及び第2の実施の形態において、揚鉱装置及び揚鉱方法は、上記実施の形態例に限定されず、管路を、下降管と上昇管を海底側で連結し、海上側で連結しないU字状としたものであってもよい。この場合、海上側に上昇管と下降管間に、キャリア物質を下降管に戻すための戻り配管が設置される。
【0053】
本発明の揚鉱装置及び揚鉱方法は、上記実施の形態に限定されず、種々の変形を採ることができる。例えば、図1図3の上昇管において、隔壁の形状や隔壁数を代えることで、区画路を2又は3、あるいは5以上とすることができる。この場合、それぞれの区画路の断面積は同じであっても、異なっていてもよい。図4の二重管において、内管と外管の両方を上昇管としてもよい。この場合、内管を隔壁で区画してもよい。図5の二重管において、内管と外管の両方を上昇管としてもよい。この場合、外管を隔壁で区画してもよい。また、図4および図5は二重管に限定されず、三重管以上であってもよい。三重管以上を上昇管とした場合、内管が隔壁となるため、断面が直線状の隔壁は省略できる。また、海底鉱石から最大寸法Xの海底有価物質を選別する方法としては、スクリーン以外の公知の選別方法が使用できる。例えば、揚鉱装置とは別の鉱物選別機を海底で稼働させ、鉱物選別機で最大寸法Xの海底鉱物を選別し、これをショベルで搬入口に投入してもよい。また、鉱物の大きさを計測できる探索機を海底で稼働させ、予め海底鉱物の最大寸法Xを決定する方法であってもよい。この場合もスクリーンの設置は省略できる。
【0054】
(沈降試験)
次に、本発明の揚鉱装置及び揚鉱方法において、上昇管の管壁近傍で生じる鉱石の沈降挙動を検証するため、参考例として以下の沈降試験を行った。
【0055】
参考例1(沈降試験その1)
図16に示す高さ4m、内径100mmの円筒状のアクリル製円筒容器31内にキャリア物質を満たし、円筒容器上端から海底有価物質を模した球状の鉱石モデルを落下させ、鉱石モデルが沈降に要する時間と沈降距離の関係を求めた。
【0056】
<鉱石モデルA(沈降物質)>
直径50.8mm、密度6.00g/cmのジルコニア製の完全球を使用した。この鉱石モデルAは、海底有価物質の鉱石Zと同等若しくはそれ以上の大きさと比重を有するものである。完全球とは断面が真円に近い球を言う。
【0057】
<キャリア物質A>
容器中、水道水77.9質量%、ベントナイト7.1質量%、珪砂(6号)15.0質量%を混合し、キャリア物質Aを作製した。キャリア物質Aの25℃における塑性粘度56Pa・s、降伏応力38.9Pa、密度1.38g/cmであった。降伏応力と塑性粘度は、回転式粘度計を使用し、JIS Z 8803:液体の粘度測定方法に準拠して行った。
【0058】
<試験方法>
キャリア物質の使用温度は、海底温度に相当する5℃であるが、キャリア物質Aの5℃と25℃の粘度がほぼ同じであるため、温度の影響はほとんどないと判断し、室温(25℃)で行った。また、キャリア物質中、珪砂(6号)は均一分散されている状態で使用した。先ず、鉱石モデルを液面下に埋没させ、鉱石モデルAの中心が液面下100mm深さに保持した。液面が静止状態になるまで20秒程度待ってから鉱石モデルを静かに離した。次いで、経過時間と沈降距離を計測した。なお、落下開始位置は、管軸上(Zの位置)と、管壁沿い(Zの位置)の2か所で行った(図16参照)。その結果を図17に示す。図17中、符号△は、管軸上を、符号▲は管壁沿いを、太い直線状の実線は予測値を示す。
(管軸上での沈降予測)
【0059】
【数1】
【0060】
【数2】
このように、管軸上での沈降予測値は、上記式(1)及び式(2)により、計算により求めることができる。式(1)及び式(2)は、重力場で静止したビンガム流体の中を完全球が一定の速さ(自由落下した時の終端速度)で沈降することを仮定して求められる。よって、管あるいは管壁の存在を考慮していない条件に相当する。
【0061】
参考例1は、(管径)/鉱石モデルの直径)が2.0であり、管軸上であっても、鉱石モデルと管壁は接近している。図17及び管軸上の沈降予測の結果から、鉱石モデルが3m沈降するまでにかかる時間は、管軸上と管壁で同等若しくは管壁沿いの方が短かった。いずれの落下開始位置の場合の計測結果も3m沈降するまでにかかる時間は予測値の数十倍であった。このように、参考例1では、鉱石モデルの投入開始位置によらず、鉱石モデルの沈降速度は抑制された。
【0062】
参考例2(沈降試験その2)
<試験方法>
鉱石モデルBとして、直径15.9mm、密度3.82g/cmのアルミナ製の完全球を使用し、キャリア物質Bとして、水道水93.2質量%とベントナイト6.8質量%の混合物を使用した以外は、実施例1と同様の試験方法により行った。なお、キャリア物質Bの25℃における塑性粘度は、3.6Pa・s、降伏応力12.6Pa、密度1.12g/cmであった。その結果を図18に示す。図18中、符号〇は、管軸上を、符号●は管壁沿いを、太い直線状の実線は予測値を示す。
【0063】
参考例2は、(管径/鉱石モデル直径)が6.3であり、管軸上の鉱石モデルは、管壁から離れている。図18の結果から、管壁沿いに投入した鉱石モデルが3m沈降するまでにかかる時間は管軸上の十分の一であった。また、管軸上に投入した場合の予測値は、管軸上に投入した場合の計測値と近い値を示した。これにより、管壁沿いを通る鉱石モデルは、管壁により、沈降が抑制されることが判る。これは、沈降する鉱石モデルに対して、管壁がキャリア物質のせん断変形を拘束するためと考えられる。
【0064】
参考例3(沈降試験その3)
<試験方法>
直径25.4mm、密度5.97g/cmのジルコニア製の完全球(鉱石モデルC)を使用し、参考例1のキャリア物質Aを使用した以外は、参考例1と同様の試験方法により行った。その結果を図19に示す。なお、参考例3は、管軸上の沈降予測の計算は行っていない。図19中、符号△は、管軸上を、符号▲は管壁沿いを示す。
【0065】
参考例4(沈降試験その4)
<試験方法>
キャリア物質Aに代えて、水道水91.6質量%、ベントナイト8.4質量%の混合物(キャリア物質C)を使用した以外は、参考例3と同様の試験方法により行った。その結果を図20に示す。すなわち、参考例4は、参考例3において、キャリア物質中の珪砂(6号)の配合を省略したものである。
【0066】
(管径/鉱石モデル直径)が3.9の参考例3及び参考例4の結果から、管壁沿いに投入した鉱石モデルが3m沈降するまでにかかる時間は管軸上の数分の一であった。これにより、管壁沿いを通る鉱石モデルは、管壁により、沈降が抑制されることが判る。これは、沈降する鉱石モデルに対して、管壁がキャリア物質のせん断変形を拘束するためと考えられる。また、キャリア物質中に珪砂(6号)が含まれる場合、管軸上及び管壁沿い共に、鉱石モデルの沈降を顕著に抑制することが判る。
【0067】
参考例5(沈降試験その5)
<試験方法>
直径12.7mm、密度5.70g/cmのジルコニア製の完全球(鉱石モデルD)を使用し、水道水65.2質量%、ベントナイト4.8質量%、珪砂(6号)30.0質量%の混合物(キャリア物質D)を使用した以外は、参考例1と同様の試験方法により行った。その結果を図21に示す。なお、参考例5は、管軸上の沈降予測の計算は行っていない。図21中、符号△は、管軸上を、符号▲は管壁沿いを示す。
【0068】
参考例6(沈降試験その6)
<試験方法>
キャリア物質Dに代えて、水道水93.2質量%、ベントナイト6.8質量%の混合物(キャリア物質B)を使用した以外は、参考例5と同様の試験方法により行った。その結果を図22に示す。すなわち、参考例5は、参考例4において、キャリア物質中の珪砂(6号)の配合を省略したものである。図22中、符号△は、管軸上を、符号▲は管壁沿いを示す。
【0069】
参考例5及び参考例6の結果から、管壁沿いに投入した鉱石モデルが3m沈降するまでにかかる時間は管軸上での十分の一であった。これにより、管壁沿いを通る鉱石モデルは、管壁により、沈降が抑制されることが判る。また、キャリア物質中に珪砂(6号)が含まれる場合、管軸上及び管壁沿い共に、鉱石モデルの沈降を顕著に抑制することが判る。
【0070】
参考例7(沈降試験その7)
<試験方法>
直径19.1mm、密度3.83g/cmのアルミナ製の完全球(鉱石モデルE)を使用し、水道水79.1質量%、ベントナイト5.9質量%、珪砂(6号)15.0質量%の混合物(キャリア物質E)を使用した以外は、参考例1と同様の試験方法により行った。その結果を図23に示す。なお、参考例7は、管軸上の沈降予測の計算は行っていない。図23中、符号〇は、管軸上を、符号●は管壁沿いを示す。参考例7の結果から、管壁沿いに投入した鉱石モデルが3m沈降するまでにかかる時間は管軸上での数十分の一であった。これにより、管壁沿いを通る鉱石モデルは、管壁により、沈降が抑制されることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、粒状体及び塊状体の海底鉱石を高い揚鉱効率で揚鉱できる。
【符号の説明】
【0072】
1 下降管
2 上昇管
3 キャリア物質
4 圧送ポンプ
5 搬入口
6 回収口
7 管路
10 揚鉱装置
11~15 区画路を有する上昇管
21~23 複数の管からなる上昇管
Z 鉱石
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23