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特開2022-178247キャリア物質、これを用いる海底有価物質の揚鉱方法及び揚鉱装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178247
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】キャリア物質、これを用いる海底有価物質の揚鉱方法及び揚鉱装置
(51)【国際特許分類】
   E21C 50/00 20060101AFI20221125BHJP
   E21B 43/29 20060101ALI20221125BHJP
   E21B 43/00 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
E21C50/00
E21B43/29
E21B43/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084890
(22)【出願日】2021-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000236610
【氏名又は名称】株式会社不動テトラ
(71)【出願人】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】折田 清隆
(72)【発明者】
【氏名】谷 和夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 肇一
(72)【発明者】
【氏名】古庄 哲士
【テーマコード(参考)】
2D065
【Fターム(参考)】
2D065DB12
2D065FA23
2D065FA35
2D065GA01
(57)【要約】
【課題】高密度又は粗粒な海底有価物質を高い揚鉱効率で揚鉱できるキャリア物質、これを用いる海底有価物質の揚鉱方法及び揚鉱装置を提供すること。
【解決手段】水とベントナイト粘土を含有するキャリア物質であり、海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を備える循環系管路内をキャリア物質で充填し、キャリア物質をポンプにより循環させ、海底有価物質をキャリア物質に混入させ、キャリア物質と同伴により上昇運搬し、海上側において海底有価物質を回収する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底有価物質の揚鉱に使用するものであり、水とベントナイト粘土を含有することを特徴とするキャリア物質。
【請求項2】
該ベントナイト粘土の配合量は、水100質量部に対して、2~50質量部であることを特徴とする請求項1記載のキャリア物質。
【請求項3】
更に、平均粒径が0.01mm~10mm、真密度が0.01~8g/cmの粒状体を含み、該粒状体は、海底有価物質以外のもので、使用前に予め混合されることを特徴とする請求項1又は2記載のキャリア物質。
【請求項4】
該粒状体の配合量は、水100質量部に対して、10~200質量部であることを特徴とする請求項3記載のキャリア物質。
【請求項5】
粘性流動体であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のキャリア物質。
【請求項6】
海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を備える循環系管路内をキャリア物質で充填し、該キャリア物質をポンプにより循環させ、海底有価物質を該キャリア物質に混入させ、該キャリア物質と同伴により上昇運搬し、海上側において海底有価物質を回収する方法であって、該キャリア物質は、水とベントナイト粘土を含有することを特徴とする海底有価物質の揚鉱方法。
【請求項7】
更に、平均粒径が0.01mm~10mm、真密度が0.01~8g/cmの粒状体を含み、該粒状体は、海底有価物質以外のもので、使用前に予め混合されることを特徴とする請求項6記載の海底有価物質の揚鉱方法。
【請求項8】
海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を備える循環系管路と、
該循環系管路内に充填されるキャリア物質と、
該キャリア物質を循環させる圧送ポンプと、
該管路の海底側に設けられた海底有価物質を搬入する搬入口と、
該管路の海上側に設けられた海底有価物質を回収する回収口と、を有し、
該キャリア物質は、水とベントナイト粘土を含有すること特徴とする海底有価物質の揚鉱装置。
【請求項9】
更に、平均粒径が0.01mm~10mm、真密度が0.01~8g/cmの粒状体を含み、該粒状体は、海底有価物質以外のもので、使用前に予め混合されることを特徴とする請求項8記載の海底有価物質の揚鉱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底鉱物資源である有価物質を海上に輸送、運搬するキャリア物質、これを用いる揚鉱方法及び揚鉱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海底鉱物資源等の有価物質を海上に輸送、運搬する揚鉱方法及び揚鉱装置としては、種々の技術が開示されている。特許6570000公報(特開2019-120063号公報)には、海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を海底側と海上側でそれぞれ連結した環状の管路、海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を海底側で連結したU字状の管路、又は内管が上昇管、外管が下降管であるか又はその逆の内管が下降管、外管が上昇管となる二重管と、該環状の管路内、該U字状、又は該二重管の管路内に充填されるキャリア物質と、該キャリア物質を循環させる圧送ポンプと、 該管路の海底側に設けられた海底有価物質を搬入する搬入口と、該管路の海上側に設けられた海底有価物質を回収する回収口と、を有し、該キャリア物質は、平均粒径が0.01mm~10mm、真密度が0.01~8g/cmの粒状体と、粘性流動体の混合物である海底有価物質の揚鉱装置が開示されている(請求項1)。これによれば、海底有価物質の揚鉱に、粒状体を含有する粘性流動体を使用するため、直径30mm以上の粒状体又は塊状体である海底有価物質を高い揚鉱効率で揚鉱できる。
【0003】
また、特許6570000公報の段落番号0022には、粘性流動体がとして、高分子溶液が使用できること、更にこれら高分子として、例えば、メチルセルロース(MC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ヒドロキシエチルセルロースナトリウム(HEC-Na)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド(PAAM)、ポリアクリ ル酸ナトリウム、デンプン、ガム類、ペクチン、アルギン酸金属塩、アルギン酸エステル等が使用できることが開示されている。
【0004】
また、特開2018-168537号公報には、キャリア物質として、海水の粘度より大の粘度を有する粘性流動体を使用する揚鉱方法及び揚鉱装置が開示されている。
【0005】
一方、泥水シールド工法や地中連続壁工法といった泥水工法においては、ベントナイト、CMC、分散剤あるいはポリマー剤等を含有した掘削用泥水を使用することが知られている(特開2005―36238号公報)。これら掘削用泥水は、適度な粘性と密度を有し、掘屑の運搬、孔壁の保護、ビットなどの冷却、ドリルストリングと坑壁との摩擦低減などの作用効果を奏する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許6570000公報
【特許文献2】特開2018-168537号公報
【特許文献3】特開2005―36238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許6570000公報や特開2018-168537号公報記載のキャリア物質は、海底有価物質を高い揚鉱効率で揚鉱できるものの、今だ十分とは言えず、更に、高い揚鉱効率を発現できるキャリア物質が望まれている。また、従来、ベントナイトを含有する掘削用泥水が、海底有価物質の揚鉱において、海底有価物質の沈降を抑制する機能を有することについては知られていなかった。
【0008】
従って、本発明の目的は、高密度又は粗粒な海底有価物質を高い揚鉱効率で揚鉱できるキャリア物質、これを用いる海底有価物質の揚鉱方法及び揚鉱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる実情において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、本発明のキャリア物質は、従来のベントナイトを含有する掘削用泥水と同様の組成であるものの、高い降伏応力を有するため、上昇管(揚鉱管)内において、粒状体又は塊状体である海底有価物質の沈降を抑制するという新たな属性を見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、上記課題を解決するものであり、海底有価物質の揚鉱に使用するものであり、水とベントナイト粘土を含有することを特徴とするキャリア物質を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を備える循環系管路内をキャリア物質で充填し、該キャリア物質をポンプにより循環させ、海底有価物質を該キャリア物質に混入させ、該キャリア物質と同伴により上昇運搬し、海上側において海底有価物質を回収する方法であって、該キャリア物質は、水とベントナイト粘土を含有することを特徴とする海底有価物質の揚鉱方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を備える循環系管路と、該循環系管路内に充填されるキャリア物質と、該キャリア物質を循環させる圧送ポンプと、該管路の海底側に設けられた海底有価物質を搬入する搬入口と、該管路の海上側に設けられた海底有価物質を回収する回収口と、を有し、該キャリア物質は、水とベントナイト粘土を含有すること特徴とする海底有価物質の揚鉱装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、海底有価物質の揚鉱に、水とベントナイト粘土を含有するキャリア物質を使用するため、φ30mm以上の粒状体又は塊状体である海底有価物質の沈降を抑制し、高い揚鉱効率で揚鉱できる。また、本発明によれば、管路にキャリア物質として水とベントナイト粘土を含有する流動体を充填して循環させ、この循環系に海底有価物質を取り込み、運搬するため、粗粒な粒状体や塊状体である海底有価物質の揚鉱が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態の揚鉱装置の概略図である。
図2】本発明の実施の形態の揚鉱装置における海上側装置の概略図である。
図3】本発明の実施の形態の揚鉱装置における搬入口を説明する図である。
図4】参考例1~12で使用した実験装置1の簡略図である。
図5】参考例1~4の結果であり、沈降時間と沈降距離の関係を示す図である。
図6】参考例5~8の結果であり、沈降時間と沈降距離の関係を示す図である。
図7】参考例9~12の結果であり、沈降時間と沈降距離の関係を示す図である。
図8】参考例13~16で使用した実験装置2の簡略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のキャリア物質は、海底有価物質(以下、「海底鉱物」とも言う。)の揚鉱に使用するものであり、水とベントナイト粘土を含有する流動体である。海底鉱物の揚鉱としては、キャリア物質を充填する海底から海上に達する上昇管を、少なくとも有した揚鉱装置を使用する揚鉱方法が挙げられる。キャリア物質とは、海底有価物質を運搬・輸送する輸送媒体のことである。
【0015】
海底有価物質としては、深さ数百から数千メートルの海底に存在するマンガンクラスト、マンガンノジュール、コバルトリッチクラスト、硫化物鉱床(熱水鉱床)、レアアース泥又はメタンハイドレードYから採取される粒状又は粉状の鉱石Xが挙げられる。粒状又は粉状の鉱石Xは、例えば、0.75mm以上の粗粒や、粒子密度が3g/cm以上の高密度なものである。
【0016】
本発明のキャリア物質は、海上又は陸上で調製されるものであり、水とベントナイト粘土を含有し、好ましくは水、ベントナイト粘土及び粒状体を含有する粘性流動体である。ベントナイト粘土の一次粒子径は、2μm以下であり、水と均一に混合されて泥水を形成する。ベントナイト粘土の配合量は、水100質量部に対して、2~50質量部、好ましくは5~30質量部である。ベントナイト粘土の配合量が少な過ぎると、降伏応力が小さくなり、海底鉱物の沈降の抑制効果が得られず、また、ベントナイト粘土の配合量が多過ぎると、流動性の低下が大きくなる点で好ましくない。ベントナイト粘土が上記数値範囲内であれば、降伏応力を高くでき、揚鉱効率が高くなる。なお、キャリア物質を調製する際、原料としては、粉末状のベントナイト粘土の他、鉱山から採掘されたベントナイト鉱石(岩石)を粉砕したもの、あるいはペレット状のベントナイトが使用でき、この場合、ベントナイトは、水と均一に攪拌混合され、粘土鉱物の粒度まで粉砕混合される。
【0017】
粒状体は、海底有価物質以外のものであり、使用する前に予め粘性流動体に含有されるものである。粒状体としては、平均粒径が0.01mm~10mm、好ましくは、0.1~8mmであり、真密度が0.01~8g/cmである。平均粒径は、粒度分布から求められる公知の算出方法を用いて算出される。このような粒状体としては、岩石由来、植物・生物由来、樹脂素材、繊維素材のいずれでもよく、また、その混合物であってもよい。具体的には、発泡ビーズ、ガラスビーズ、珪砂などの砂、シルト・礫、木材、鉄粉などの金属粉が挙げられる。粒状体の配合量としては、水100重量部に対して、10~200重量部、好ましくは、15~180重量部である。
【0018】
本発明のキャリア物質は、5℃の粘度(JIS Z8803;液体の粘度測定方法)が、1000mPa・s以上、好ましくは1,300mPa・s以上、特に好ましくは2,000mPa・s以上、更に好ましくは3000mPa・s以上である。また、5℃の塑性粘度は、100Pa・s以下であり、5℃の降伏応力は5.0Pa以上である。降伏応力と塑性粘度は、回転式及び振動式の粘度計を使用し、JIS Z8803に準拠する方法で測定することができる。5℃の粘度、降伏応力としたのは、海水温度が海水表面から数十m以上の深度においては、概ね5℃と安定しており、下降管及び上昇管のほとんどは、5℃の環境下に晒されるためである。なお、粘性流動体の5℃の粘度の上限値は、10万mPa・sである。これ以上粘度が高くなると固体に近くなり、現実的に圧送が困難となる。
【0019】
本発明のキャリア物質には、ベントナイト粘土や粒状体以外に、他の成分が含まれていてもよい。このような他の成分としては、一般に増粘剤、吸水剤と称されるものが使用でき、例えば、メチルセルロース(MC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ヒドロキシエチルセルロースナトリウム(HEC-Na)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド(PAAM)、ポリアクリル酸ナトリウム、デンプン、ガム類、ペクチン、アルギン酸金属塩、アルギン酸エステル等が挙げられる。ガム類としては、グアーガム、キンサンタンガム、ジェランガム、ダイユータンガム等が挙げられる。また、アルギン酸金属塩としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸カリウム等が挙げられる。これらの化合物は、1種類又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】
本発明のキャリア物質を海底有価物質の揚鉱に使用すれば、深さ数千メートルの海底から鉱物資源である粒状の有価物質を海上まで高い揚鉱効率、具体的には60%以上、好ましくは80%以上で、輸送・運搬することができる。揚鉱効率とは、揚鉱速度をキャリア物質流送速度で除した値を言う。建築分野においては、コンクリート高圧ポンプの吐出量は、約30m/時間であり、これを仮に2台稼動させると、管径0.5mで、流送量60m/時間、流送速度305.6m/時間となる。商業ベースで設定される揚鉱効率80%の場合、沈降速度60m/時間となり、1台のポンプが故障したとしても、揚鉱効率60%を確保できる。
【0021】
本発明のキャリア物質が海底有価物質の沈降を抑制する作用力としては、粘性抵抗、浮力及び有効支持力が挙げられる。この内、浮力及び粘性抵抗は、粘性流動体が担い、有効支持力は、粒状体が担うことになる。流送時には、粘性抵抗が主体となり、停止時には、粘性抵抗の不足分を有効支持力が補うことになる。なお、本発明のキャリア物質は、水とベントナイト粘土の混合物であるため、降伏応力を有し、海底有価物質の沈降を抑制する効果が高い。
【0022】
本発明の揚鉱方法及び揚鉱装置について、図1図3を参照して説明する。本発明の揚鉱方法は、海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を備える循環系管路内をキャリア物質で充填し、該キャリア物質をポンプにより循環させ、海底鉱物を該キャリア物質に混入させ、該キャリア物質と同伴により上昇運搬し、海上側において海底鉱物を回収する方法である。なお、図1図3中、キャリア物質に含まれる粒状体の描写は省略した。
【0023】
この方法を実施する揚鉱装置10は、海上より海底に達する下降管1と、海底から海上に達する上昇管2を海底側と海上側でそれぞれ連結した環状の管路11と、環状の管路11内に充填されるキャリア物質3と、キャリア物質3を循環させる圧送ポンプ4と、管路11の海底側に設けられた海底鉱物を搬入する搬入口5と、管路11の海上側に設けられた海底鉱物Xを回収する回収口6を有する。なお、海上側の施設は、通常、揚鉱船や揚鉱フロートなどのプラットフォーム8に設置される(図2参照)。
【0024】
環状(ループ)の管路としては、可撓性を有していてもよい管であり、例えば、一般的な配管が挙げられる。環状の管路としては、下降管と上昇管を海底側で連結したU字状の管路、及び内管が上昇管、外管が下降管であるか又はその逆の内管が下降管、外管が上昇管となる二重管も含まれる。なお、別管の上昇管2と下降管1は互の内側面が溶着された一体ものであってもよい。
【0025】
このような、キャリア物質3は、水とベントナイト粘土を含む粘性流動体又は水とベントナイト粘土と粒状体を含む粘性流動体であるため、高い降伏応力を有し、輸送・運搬したい粒状の海底鉱物の相対的な位置を極力、保持した状態で管内を流動する。すなわち、循環状態において、キャリア物質3は、流動性を有し、且つ粒状の海底鉱物(沈降物質)を高い揚鉱効率で揚鉱する。また、ポンプが一時停止した静置状態において、キャリア物質3は、粘性抵抗及び浮力、あるいは粘性抵抗、浮力及び有効支持力の沈降を抑制する作用によって粒状又は塊状の海底有価物質(沈降物質)の沈降を抑制する。
【0026】
環状の管路11には、キャリア物質3を循環させるポンプ4を有する。ポンプ4は圧送ポンプであり、管路系内であれば、設置場所は特に制限されない。また、ポンプ4は、環状の管路系内に設置されるため、海底の搬入口5と、海上の回収口6とに大きな高低差があったとしても、ポンプ4には管内壁の摩擦損失以外の負荷が生じないため、キャリア物質3又は海底有価物含有のキャリア物質3を、効率的に長距離圧送することが可能となる。
【0027】
環状の管路11は、管路11の海底側に設けられた海底鉱物を搬入する搬入口5を有する。搬入口5は、公知の集鉱機から採取される粒状又は塊状の鉱石が、搬入される場所である。搬入口5としては、二重扉又は回転扉を設けることが、管路に充填されたキャリア物質3の漏れを防止できる点で好ましい。図3は搬入口5に設置された回転扉5aを示したものであり、公知のものである(特許6570000公報参照)。
【0028】
また、環状の管路11には、管路11の海上側に設けられた海底鉱物Xを回収する回収口6を有する。回収口6には、図2に示すような公知の海上側の装置6aを設置してもよい(特許6570000公報)。
【0029】
次に、図1図3の揚鉱装置10を使用した海底有価物質の揚鉱方法について説明する。先ず、図1の揚鉱装置10において、圧送ポンプ4を稼働させる。これにより、環状の管路11内をキャリア物質3が循環する。次いで、不図示の集鉱機を稼働させ、例えば、千mの海底の鉱床Yから粒状の鉱石Xを採取し、これを管路11の搬入口5から管路11内に搬入する。搬入口5から搬入された粒状の鉱石Xは、循環するキャリア物質3と同伴して、上昇管2内を上昇運搬される。採取された粒状の鉱石Xは、キャリア物質3がベントナイト粘土含有の粘性流動体であるため、降伏応力が高く、粗粒物であっても、また高密度粒子であっても、粒状の鉱石Xの相対的な位置を極力、保持した状態で管内11を流動すると共に、キャリア物質3から大きく沈降することなく、高い揚鉱効率で輸送・運搬される。
【0030】
海上に運搬された鉱石Xは、搬出口6からキャリア物質3と共に、分離槽61に導入され、分離槽61で分離されて、鉱石Xを含むキャリア物質3と、鉱石Xを含まないキャリア物質3に分離され、鉱石Xを含むキャリア物質3は、粉砕装置62に導入されて粉砕され、粉砕された有価物質Xは、更に選鉱装置63に導入され、不要鉱物Xと有用鉱物Xに分離される。一方、分離槽61で分離された鉱石Xを含まないキャリア物質3は、調整装置64に送られ、組成調整されて下降管1に送られる。組成調整されたキャリア物質は、再び下降管1を通り循環する。粉砕装置62及び選鉱装置63で回収された残ったキャリア物質は、調整装置64又は下降管1に戻してもよい。
【0031】
本発明の揚鉱装置及び揚鉱方法によれば、環状の管路内をキャリア物質である水とベントナイト粘土含有の粘性流動体が循環するため、降伏応力が高く、有価物質である粗粒な粒状体や高密度な粒状体を高い揚鉱効率で揚鉱でき、千m程度の長距離輸送が可能であり、且つ廃棄物を出さない。
【0032】
本発明は、上記実施の形態例に限定されず、種々の変形を採ることができる。すなわち、環状の管路に対し、公知の振動装置により振動を与えてもよい。これにより、キャリア物質の流動を高めることができる。また、管路内を循環するキャリア物質中に、公知のマイクロバブル発生装置からマイクロバブルを管路の下から混入させてもよい。このエアリフト効果により、キャリア物質の上昇輸送が促進される。
【0033】
参考例1(沈降実験その1)
図4に示す高さ3.6m、内径100mmの円筒状のアクリル製円筒容器内にキャリア物質を満たし、円筒容器内のキャリア物質の液面下Dの深さ、且つ管軸上から海底有価物質を模した球状の鉱石モデルを落下させ、鉱石モデルが沈降に要する時間と沈降距離の関係を求めた。
【0034】
<鉱石モデルA(沈降物質)>
直径12.7mm、密度5.70g/cmのジルコニア製の完全球を使用した。この鉱石モデルAは、海底有価物質の鉱石Xと同等の大きさと比重を有するものである。完全球とは断面が真円に近い球を言う。
【0035】
<キャリア物質A>
容器中、水道水100質量部に対して、ベントナイト粘土9.2質量部を混合し、泥水状のキャリア物質Aを作製した。キャリア物質Aの25℃における塑性粘度10.2Pa・s、降伏応力22.1Pa、密度1.14g/cmであった。降伏応力と塑性粘度は、回転式粘度計を使用し、JIS Z 8803:液体の粘度測定方法に準拠して行った。
【0036】
<実験方法A>
キャリア物質Aの使用温度は、海底温度に相当する5℃であるが、キャリア物質Aの5℃と25℃の粘度がほぼ同じであるため、温度の影響はほとんどないと判断し、室温(25℃)で行った。先ず、鉱石モデルAを液面下に埋没させ、鉱石モデルAの中心が液面下D=100mm深さに保持した。液面が静止状態になるまで20秒程度待ってから鉱石モデルを静かに離した。次いで、経過時間tと沈降距離lを計測した。その結果を図5に、符号▲で示した。
【0037】
参考例2(沈降実験その2)
<キャリア物質B>
容器中、水道水100質量部に対して、ベントナイト粘土9.2質量部及び珪砂(6号)19.3質量部を混合し、泥水状のキャリア物質Bを作製した。キャリア物質Bの25℃における塑性粘度56.0Pa・s、降伏応力35.7Pa、密度1.38g/cmであった。
【0038】
<実験方法B>
キャリア物質Aに代えて、キャリア物質Bを使用した以外は、参考例1の<実験方法A>と同様の方法で行った。すなわち、参考例2は、キャリア物質中に粒状体(珪砂6号)を更に含むものである。なお、キャリア物質中、珪砂(6号)は均一分散されている状態で使用した。その結果を図5に、符号■で示した。
【0039】
参考例3(沈降実験その3)
<キャリア物質C>
容器中、水道水100質量部に対して、カルボキシメチルセルロース架橋体(以下、「CMC」と称する。)0.5質量部を混合し、キャリア物質Cを作製した。キャリア物質Cの25℃における塑性粘度0.75Pa・s、降伏応力9.0Pa、密度1.00g/cmであった。
【0040】
<実験方法C>
キャリア物質Aに代えて、キャリア物質Cを使用した以外は、参考例1の<実験方法A>と同様の方法で行った。すなわち、参考例3は、ベントナイト粘土を含まず、本発明の比較例となるものである。その結果を図5に、符号△で示した。
【0041】
参考例4(沈降実験その4)
<キャリア物質D>
容器中、水道水100質量部に対して、CMC0.5質量部及び珪砂(6号)17.7質量部を混合し、キャリア物質Dを作製した。キャリア物質Dの25℃における塑性粘度1.2Pa・s、降伏応力8.4Pa、密度1.26g/cmであった。
【0042】
<実験方法D>
キャリア物質Aに代えて、キャリア物質Dを使用した以外は、参考例1の<実験方法A>と同様の方法で行った。すなわち、参考例4は、ベントナイト粘土を含まず、本発明の比較例となるものである。その結果を図5に、符号□で示した。
【0043】
図5において、水とベントナイト粘土と珪砂の混合物(参考例2;符号■)は、沈降開始3日後において、沈降開始位置に最も近い計測器(l=0.2m)でも検知されなかった。このため、沈降開始3日後の位置は、l=0.1mと推測した。参考例1~4の結果を示す図5に示す通り、直径12.7mm、密度5.70g/cmのジルコニア製の鉱石モデルA(細粒)に対するキャリア物質の沈降抑制効果は、水とベントナイト粘土の混合物(符号▲)は、水とCMCの混合物(符号△)あるいは水とCMCと珪素6号の混合物(符号□)と比べて、顕著に優れものであった。また、水とベントナイト粘土と珪素6号の混合物(符号■)は、水とベントナイト粘土の混合物(符号▲)よりも更に高い沈降抑制効果を示した。
【0044】
参考例5(沈降実験その5)
<実験方法E>
鉱石モデルAに代えて、直径25.4mm、密度5.97g/cmのジルコニア製の完全球(鉱石モデルB)を使用した以外は、参考例1の<実験方法A>と同様の方法により行った。すなわち、参考例5のキャリア物質は、水とベントナイト粘土の混合物である。その結果を図6に、符号▲で示した。
【0045】
参考例6(沈降実験その6)
<実験方法F>
鉱石モデルAに代えて、直径25.4mm、密度5.97g/cmのジルコニア製の完全球(鉱石モデルB)を使用した以外は、参考例2の<実験方法B>と同様の方法により行った。すなわち、参考例6のキャリア物質は、水とベントナイト粘土と珪砂6号の混合物である。その結果を図6に、符号■で示した。
【0046】
参考例7(沈降実験その7)
<実験方法G>
鉱石モデルAに代えて、直径25.4mm、密度5.97g/cmのジルコニア製の完全球(鉱石モデルB)を使用した以外は、参考例3の<実験方法C>と同様の方法により行った。すなわち、参考例7のキャリア物質は、水とCMCの混合物であり、ベントナイト粘土を含まず、本発明の比較例である。その結果を図6に、符号△で示した。
【0047】
参考例8(沈降実験その8)
<実験方法H>
鉱石モデルAに代えて、直径25.4mm、密度5.97g/cmのジルコニア製の完全球(鉱石モデルB)を使用した以外は、参考例4の<実験方法D>と同様の方法により行った。すなわち、参考例8のキャリア物質は、水とCMCと珪砂6号の混合物であり、ベントナイト粘土を含まず、本発明の比較例である。その結果を図6に、符号□で示した。
【0048】
参考例5~8の結果を示す図6に示す通り、直径25.4mm、密度5.97g/cmのジルコニア製の鉱石モデルB(中粒)に対するキャリア物質の沈降抑制効果は、水とベントナイト粘土の混合物と水とCMCの混合物とでは、ほぼ同等の結果であった。これに対して、水とベントナイト粘土と珪砂の混合物では、鉱石モデルBは、容器内を沈降する時間が長く、沈降抑制効果が高いことが判った。
【0049】
参考例9(沈降実験その9)
<実験方法I>
鉱石モデルAに代えて、直径50.8mm、密度3.89g/cmのアルミナ製の完全球(鉱石モデルC)を使用した以外は、参考例1の<実験方法A>と同様の方法により行った。すなわち、参考例9のキャリア物質は、水とベントナイト粘土の混合物である。その結果を図7に、符号▲で示した。
【0050】
参考例10(沈降実験その10)
<実験方法J>
鉱石モデルAに代えて、直径50.8mm、密度3.89g/cmのアルミナ製の完全球(鉱石モデルC)を使用した以外は、参考例2の<実験方法B>と同様の方法により行った。すなわち、参考例10のキャリア物質は、水とベントナイト粘土と珪砂6号の混合物である。その結果を図7に、符号■で示した。
【0051】
参考例11(沈降実験その11)
<実験方法G>
鉱石モデルAに代えて、直径50.8mm、密度3.89g/cmのアルミナ製の完全球(鉱石モデルC)を使用した以外は、参考例3の<実験方法C>と同様の方法により行った。すなわち、参考例11のキャリア物質は、水とCMCの混合物であり、ベントナイト粘土を含まず、本発明の比較例である。その結果を図7に、符号△で示した。
【0052】
参考例12(沈降実験その12)
<実験方法H>
鉱石モデルAに代えて、直径50.8mm、密度3.89g/cmのアルミナ製の完全球(鉱石モデルC)を使用した以外は、参考例4の<実験方法D>と同様の方法により行った。すなわち、参考例12のキャリア物質は、水とCMCと珪砂6号の混合物であり、ベントナイト粘土を含まず、本発明の比較例である。その結果を図7に、符号□で示した。
【0053】
参考例9~12の結果を示す図7に示す通り、直径50.8mm、密度3.89g/cmのアルミナ製の鉱石モデルC(粗粒又は塊状体)に対するキャリア物質の沈降抑制効果は、水とベントナイト粘土の混合物と水とCMCの混合物とでは、ほぼ同等の結果であった。これに対して、水とベントナイト粘土と珪砂の混合物では、鉱石モデルCは、容器内を沈降する速度が遅く、沈降抑制効果が高いことが判った。
【0054】
(揚鉱実験)
参考例13(揚鉱実験その1)
図8に示す実験装置2を使用し、各種キャリア物質における球状の鉱石モデルと揚鉱速度の関係を求めた。実験装置2は高さ1.2m、内径50mmの上昇管21、一端が上昇管に接続され、他端がタンクの上方開口に位置する戻り管22、タンク23と上昇管21を接続する送り管25からなる環状の管路を有する。符号OMは鉱石モデル、CMはキャリア物質である。
【0055】
<鉱石モデルD>
直径25.4mm、密度3.86g/cmのアルミナ製の完全球を使用した。
【0056】
<実験方法I>
実験装置2のタンク23に、参考例1で使用したキャリア物質A(水とベントナイト粘土の混合物)を満たし、ポンプ24を稼働させ、キャリア物質Aを鉛直方向流速0.6cm/sで循環させた。次いで、鉱石モデルDを鉱石モデル投入口26から投入し、上昇管21中の揚鉱速度を求めた。測定は4回行った。その結果、キャリア物質A中の鉱石モデルDの揚鉱速度は0.42~0.60cm/sであった(鉱石モデルDの投入前のキャリア物質の揚鉱速度は、0.6cm/sである)。
【0057】
参考例14(揚鉱実験その2)
<鉱石モデルE>
直径25.4mm、密度2.18g/cmのPTFE製の完全球を使用した。
【0058】
<実験方法J>
鉱石モデルDに代えて、鉱石モデルEを使用した以外は、参考例13の<実験方法I>と同様の方法で行った。測定は3回行った。その結果、キャリア物質A中の鉱石モデルEの揚鉱速度は、0.55~0.57cm/sであった。
【0059】
参考例15(揚鉱実験その3)
<鉱石モデルF>
直径25.0mm、密度1.58g/cmの石膏製の完全球を使用した。
【0060】
<実験方法K>
鉱石モデルDに代えて、鉱石モデルFを使用し、且つキャリア物質Aに代えて、参考例4で使用したキャリア物質D(水とCMCと珪砂6号の混合物)とした以外は、参考例13の<実験方法I>と同様の方法で行った。測定は2回行った。その結果、キャリア物質D中の鉱石モデルFの揚鉱速度は、0.19~0.27cm/sであった。
【0061】
参考例16(揚鉱実験その4)
<実験方法L>
キャリア物質Aに代えて、参考例3で使用したキャリア物質C(水とCMCの混合物)とした以外は、参考例13の<実験方法I>と同様の方法で行った。その結果、キャリア物質C中の鉱石モデルDは揚鉱できず、揚鉱速度は、測定できなかった。なお、鉱石モデルDに代えて、鉱石モデルE及びFについても行ったが、同様に、揚鉱できず、揚鉱速度は、測定できなかった。
【0062】
参考例13と16の結果から、密度2.18g/cm~3.86g/cmの鉱石モデルに対して、キャリア物質A(水とベントナイト粘土の混合物)は、ほぼ沈降を抑えて高い揚鉱効率が得られたのに対して、キャリア物質C(水とCMCの混合物)は、沈降を抑制できず、揚鉱できなかった。
【0063】
参考例14~15の結果から、密度1.58g/cm~2.18g/cmの鉱石モデルに対して、キャリア物質D(水とCMCと珪砂6号)は、粒状体(珪砂6号)を含んでいるにも拘わらず、粒状体(珪砂6号)を含まないキャリア物質A(水とベントナイト粘土の混合物)と比べて、揚鉱速度は低いものであった。
【0064】
参考例1~16の結果から、水とベントナイト粘土の混合物をキャリア物質として使用した場合、該キャリア物質は、降伏応力を有するものであり、沈降を抑制する効果が、従来の水とCMCを含むキャリア物質よりも、高いことが判る。また、水とベントナイト粘土と珪砂6号の混合物をキャリア物質として使用した場合、珪砂6号を含まない水とベントナイト粘土の混合物より、より高い沈降抑制効果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、深さ数千メートルの海底から鉱物資源である粒状の有価物質を海上まで効率良く、輸送・運搬することができる。なお、揚程に関して、建築分野においては、4インチ管使用での生コンの圧送実績は、中継点なしの90m/h、12MPaの高圧圧送で、水平900m、鉛直200mを達成しており、本発明の環状の管路であれば、鉛直1000mを超える揚程でも容易に圧送できる。
【符号の説明】
【0066】
1 下降管
2 上昇管
3 キャリア物質
4 ポンプ
5 搬入口
6 回収口
10 揚鉱装置
11 環状の管路
X 粒状の鉱石(海底有価物質)
Y 鉱床
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8