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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178264
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】蟻酸分解方法及び蟻酸分解装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/22 20060101AFI20221125BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
C01B3/22 Z
B01J23/42 M
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084929
(22)【出願日】2021-05-19
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】314001531
【氏名又は名称】飯田グループホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100200001
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 明彦
(74)【代理人】
【識別番号】100203910
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 健弘
(72)【発明者】
【氏名】森 和彦
(72)【発明者】
【氏名】西河 洋一
(72)【発明者】
【氏名】兼井 雅史
(72)【発明者】
【氏名】西野 弘
(72)【発明者】
【氏名】富島 寛
(72)【発明者】
【氏名】廣川 敦士
(72)【発明者】
【氏名】緋田 博
(72)【発明者】
【氏名】山田 雅之
(72)【発明者】
【氏名】天尾 豊
【テーマコード(参考)】
4G140
4G169
【Fターム(参考)】
4G140DA02
4G140DC03
4G169AA02
4G169AA03
4G169BC75A
4G169BC75B
(57)【要約】
【課題】複雑な構造の触媒を必要とせず、水素生成効率を従来よりも向上させた蟻酸分解方法及び蟻酸分解装置を提供する。
【解決手段】蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する蟻酸分解方法であって、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させ、陽イオン性高分子溶液と混合してなる触媒により、常温・常圧の脱酸素下において、蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する。また、蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する蟻酸分解装置10であって、少なくとも蟻酸を貯蔵する貯蔵部11と、貯蔵部11から供給される蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する反応部12と、反応部12を常温・常圧の脱酸素下に制御する制御部13を備え、反応部12は、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させ、陽イオン性高分子溶液と混合してなる触媒を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する蟻酸分解方法であって、
白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させ、陽イオン性高分子溶液と混合してなる触媒により、常温・常圧の脱酸素下において、蟻酸を水素と二酸化炭素に分解することを特徴とする蟻酸分解方法。
【請求項2】
前記陽イオン性高分子はポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)であることを特徴とする請求項1に記載の蟻酸分解方法。
【請求項3】
前記水溶性高分子ポリビニルピロリドンに対する前記陽イオン性高分子の添加量は、重量比で0.50以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の蟻酸分解方法。
【請求項4】
蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する蟻酸分解装置であって、
少なくとも蟻酸を貯蔵する貯蔵部と、
前記貯蔵部から供給される蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する反応部と、
前記反応部を常温・常圧の脱酸素下に制御する制御部を備え、
前記反応部は、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させ、陽イオン性高分子溶液と混合してなる触媒を有することを特徴とする蟻酸分解装置。
【請求項5】
前記陽イオン性高分子はポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)であることを特徴とする請求項4に記載の蟻酸分解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蟻酸を分解して水素を生成するための蟻酸分解方法及び蟻酸分解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水素を燃料として利用する「水素社会」のアイデアは以前から提案されているが、水素を貯蔵・運搬することの難しさやエネルギー変換効率の点から現在でも普及するに至っているとは言い難い。
【0003】
例えば、エネルギー密度の低い水素を自動車の燃料として持ち運ぶには、数百気圧もの高圧をかけなければならない。液体水素にする方法もあるが、超低温にする必要があるため、一般的ではない。
【0004】
そこで、蟻酸(HCOOH)を水素源として生成し、貯蔵する技術が研究されている。
蟻酸は常温で液体であり、エネルギー密度も高いため、貯蔵物質として優れている。一方で、水素をエネルギー源として用いる際には蟻酸を分解して水素を生成する必要がある。
【0005】
蟻酸を分解する方法としては、熱分解があるが、蟻酸を単に加熱して熱分解することは、蟻酸の沸点(約101℃)以上の高温を要するため、常時高温状態を保つことはコスト面等で問題がある。
【0006】
蟻酸を触媒を用いて分解する方法もあり、例えば、特許文献1には、シクロペンタジエン置換体からなる配位子ならびに窒素含有複素環式化合物からなる配位子を有したロジウム単核金属錯体、その互変異性体もしくは立体異性体、またはそれらの塩を含む蟻酸分解用触媒が記載されている。また、特許文献2にも複核金属錯体、その互変異性体もしくは立体異性体、またはそれらの塩を含む蟻酸分解用触媒が記載されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載されているような複雑な構造式の触媒は合成が困難であるという課題があった。
【0008】
ところで、特許文献3には、蟻酸を含むガスと、酸素あるいは酸素を含むガスとを、蟻酸分解用触媒の存在下で反応させ、蟻酸を水および二酸化炭素に分解する蟻酸の分解方法が記載されている。
【0009】
このように、酸素存在下で蟻酸を分解すると水および二酸化炭素が生成し、水素が発生しない。したがって、蟻酸を分解して水素をエネルギー源として用いる場合には、このような反応は副反応となり望ましくない。
【0010】
このような状況のもと、出願人らは先に、特許文献4において、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させることで、水と二酸化炭素が発生する副反応が生じることなく、効率的に蟻酸から水素を生成することができることを見出した。
【0011】
さらに、出願人らは、特許文献4に係る技術を蟻酸分解装置として実用化するため、蟻酸の生成効率を向上させるべく鋭意研究を行ってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009-78200号公報
【特許文献2】国際公開第2008/059630号
【特許文献3】特開2015-66515号公報
【特許文献4】特許第6861037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、複雑な構造の触媒を必要とせず、水素生成効率を従来よりも向上させた蟻酸分解方法及び蟻酸分解装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した目的を達成する本発明の一態様は、蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する蟻酸分解方法であって、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させ、陽イオン性高分子溶液と混合してなる触媒により、常温・常圧の脱酸素下において、蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する。
【0015】
本発明の一態様によれば、陽イオン性高分子溶液により蟻酸イオンを補足して白金微粒子に接近させることで触媒作用を向上させることが期待でき、複雑な構造の触媒を必要とせず、水素生成効率を従来よりも向上させた蟻酸分解方法を実現できる。
【0016】
このとき、本発明の一態様では、陽イオン性高分子はポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)であるとしてもよい。
【0017】
ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)を用いることで、水素発生量をより向上させることができる。
【0018】
また、本発明の一態様では、水溶性高分子ポリビニルピロリドンに対する陽イオン性高分子の添加量は、重量比で0.50以上であるとしてもよい。
【0019】
陽イオン性高分子の添加量を上記範囲とすることで、さらに水素生成効率を向上させることができる。
【0020】
本発明の他の態様は、蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する蟻酸分解装置であって、少なくとも蟻酸を貯蔵する貯蔵部と、貯蔵部から供給される蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する反応部と、反応部を常温・常圧の脱酸素下に制御する制御部を備え、反応部は、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させ、陽イオン性高分子溶液と混合してなる触媒を有する。
【0021】
本発明の他の態様によれば、陽イオン性高分子溶液により蟻酸イオンを補足して白金微粒子に接近させることで触媒作用を向上させることが期待でき、複雑な構造の触媒を必要とせず、水素生成効率を従来よりも向上させた蟻酸分解装置を実現することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように本発明によれば、複雑な構造の触媒を必要とせず、水素生成効率を従来よりも向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係る蟻酸分解装置の構成の一例を示す構成図である。
図2】本発明の実施例におけるPDADMA/PVP比率(重量比)と3時間後の水素発生量の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施の形態について図面を参照しながら下記順序にて詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
1.蟻酸分解方法
2.蟻酸分解装置
【0025】
<1.蟻酸分解方法>
まず、本発明の一実施形態に係る蟻酸分解方法について説明する。本発明の一態様は、蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する蟻酸分解方法であって、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させ、陽イオン性高分子溶液と混合してなる触媒により、常温・常圧の脱酸素下において、蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する。
【0026】
白金は、蟻酸を水素と二酸化炭素に分解するための触媒として作用する。白金は、反応面積を広くするために微粒子状の物を用い、白金微粒子の粒子径は1nm以上50nm以下のものを用いるのが好ましい。
【0027】
水溶性高分子ポリビニルピロリドン(PVP)は、下記一般式(I)で表され、白金微粒子を分散させるためのものである。白金微粒子は単独では凝集して沈殿しやすいため、水溶性高分子ポリビニルピロリドン用いることで、白金微粒子を分散させた状態で触媒としての機能を保持することができる。水溶性高分子ポリビニルピロリドン(PVP)の添加量は、白金微粒子に対して1質量%以上20質量%以下となるようにすることが好ましい。水溶性高分子ポリビニルピロリドン(PVP)の添加量が1質量%未満の場合は、白金微粒子の分散性を向上させるのに十分な効果が得られない。また、水溶性高分子ポリビニルピロリドン(PVP)の添加量が20質量%を超える場合は、白金微粒子の触媒機能が十分に得られない。
【0028】
【化1】
【0029】
本発明の一実施形態においては、まず、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドン(PVP)中に分散させる。なお、分散剤としては、ポリビニルアルコール(PVA)やポリメタクリル酸メチル(PMMA)などもあるが、これらの分散剤を用いた場合には、蟻酸から水と二酸化炭素が生成する副反応が生じてしまう。
【0030】
すなわち、蟻酸の分解反応には、下記反応式(1)で表される蟻酸から水素と二酸化炭素が生成する反応と、下記反応式(2)で表される蟻酸から水と二酸化炭素が生成する反応がある。本発明においては、白金微粒子と水溶性高分子ポリビニルピロリドンを組み合わせて使用することで、反応式(2)の副反応がほとんど起こることなく、反応式(1)の反応により水素を効率的に発生させることができる。
HCOOH → H+CO ・・・(1)
2HCOOH+O → 2HO+2CO ・・・(2)
【0031】
このように、蟻酸の分解反応においては、白金触媒と水溶性高分子ポリビニルピロリドンを組み合わせることで、ポリビニルピロリドンのカルボニル基が白金微粒子の電子状態を変えることにより、水素生成の反応が効率的に起こると考えられる。
【0032】
また、本発明の一実施形態に係る蟻酸分解方法では、蟻酸の分解反応を常温・常圧の脱酸素下で行う。白金微粒子を用いた触媒反応であるため、特に加熱や加圧は不要である。
また、酸素が存在すると上記反応式(2)のように、水と二酸化炭素が生成する副反応が起きてしまうため、反応系を脱酸素状態にしておくことが望ましい。
【0033】
さらに、本発明者らは、上記白金触媒と水溶性高分子ポリビニルピロリドンの組み合わせに、陽イオン性高分子を混合させることにより、水素生成効率がより向上することを見出した。すなわち、まず、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させることにより、蟻酸分解に最適な白金の電子状態を作り、さらに陽イオン性高分子で蟻酸(蟻酸イオン)を補足して白金微粒子に接近させて触媒作用を受けやすくすることが期待でき、これにより、水素生成効率をより向上させることができる。蟻酸イオンは陰イオン(マイナス)であるので、陽イオン性高分子(プラス)を補足して、白金微粒子に接近させやすい。
【0034】
陽イオン性高分子の一例としては、下記一般式(II)で表される、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(PDADMA)を用いることができる。PDADMAは、PVPに化学構造が類似しており、後述するように、陽イオン性高分子を混合しない場合と比較して5倍以上の水素生成効率を実現することができる。
【0035】
【化2】
【0036】
また、本発明の一態様では、水溶性高分子ポリビニルピロリドンに対する陽イオン性高分子の添加量は、重量比で0.50以上とすることが好ましい。例えば、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(PDADMA)の水溶性高分子ポリビニルピロリドン(PVP)に対する添加量を重量比で0.50以上とすることで、より水素生成効率を向上させることができる。
【0037】
本発明の一実施形態に係る蟻酸分解方法では、蟻酸の分解により発生した二酸化炭素を回収し、再度蟻酸の合成に用いてもよい。例えば、上記反応式(1)で発生した二酸化炭素を化学吸収法、膜分離法、吸着法などにより分離したものや、水素と二酸化炭素の混合ガスを水素エンジンン等の原料として用い、未反応で排出される二酸化炭素を回収することができる。これにより、温室効果ガスである二酸化炭素素を系外に排出することなく、より効率的に水素を利用することができる。分離・回収した二酸化炭素は、下記反応式(3)のように再度蟻酸に変換する反応に用いることで、再利用することができる。
2HO+2CO → 2HCOOH+O ・・・(3)
【0038】
<2.蟻酸分解装置>
次に、本発明の一実施形態に係る蟻酸分解装置について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る蟻酸分解装置の構成の一例を示す構成図である。図1に示すように、本発明の一実施形態に係る蟻酸分解装置10は、少なくとも貯蔵部11、反応部12、制御部13を備える。また、必要に応じて水素と二酸化炭素を分離する分離部を有していてもよい。以下、蟻酸分解装置10の各構成について説明する。
【0039】
貯蔵部11は、水素を生成するための蟻酸を貯蔵しておくためのものである。貯蔵する蟻酸は、製品として販売されているものでも、他の反応機構により生成されたものでも何れでもよい。貯蔵部11の材質は特に限定はされないが、蟻酸により腐食されないものが好ましい。
【0040】
反応部12は、蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する。反応部12は、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させ、陽イオン性高分子溶液と混合してなる触媒を有する。陽イオン性高分子は、例えば、上述したポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(PDADMA)である。触媒は、基板等に担持させてもよいし、反応部12内で分散溶液として保持される構成でもよい。そして、反応部12では、貯蔵部11内に貯蔵された蟻酸が適宜供給され、反応部12において白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させて陽イオン性高分子溶液と混合してなる触媒により水素と二酸化炭素に分解される。反応部12は蟻酸の分解反応中に適宜溶液を撹拌する装置を備えていてもよい。
【0041】
制御部13は、主に反応部12が常温・常圧の脱酸素下となるように制御する。特に、上記反応式(2)のような水と二酸化酸素が生成する副反応が生じないように、反応部12内を脱酸素状態となるように制御することが重要である。脱酸素状態とする手段としては、例えば反応部12内を窒素ガス等で置換することが挙げられる。その他にも、制御部13は、例えば、反応部12やその他の機関で高温・加圧状態や異常を検知した場合に、蟻酸分解装置10を停止したり、異常状態を解消するような機構を備えていることが好ましい。
【0042】
分離部は、生成した水素と二酸化炭素の混合気体から二酸化炭素を除き、水素の純度を上げる。例えば、分離部は、分離膜を有することで二酸化炭素を選択的に取り除く。取り除かれた二酸化炭素は、例えば、上記反応式(3)のように蟻酸の生成に用いることが可能であり、このように二酸化炭素を循環させることで、二酸化炭素を外部に排出することなく再利用することが可能になる。なお、本発明の一実施形態に係る蟻酸分解装置10では、分離部は必須ではなく、水素と二酸化炭素の混合ガスを水素エンジンン等の原料として用い、未反応で排出される二酸化炭素を回収するような構成としてもよい。
【0043】
以上説明したように、本発明では、陽イオン性高分子溶液により蟻酸イオンを補足して白金微粒子に接近させることで触媒作用を向上させることが期待でき、複雑な構造の触媒を必要とせず、水素生成効率を従来よりも向上させた蟻酸分解方法及び蟻酸分解装置を実現することができる。
【実施例0044】
以下、本発明について、実施例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0045】
白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドン(PVP)により分散させたものに、陽イオン性高分子としてポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(PDADMA)を混合して0.15mlとした。この時、PDADMA/PVPの比率(重量比)を下記表1のように変化させたサンプル1~8を調整した。なお、サンプル9については、PDADMAを混合せずに、PVPのみに白金微粒子を分散させた。
【0046】
【表1】
【0047】
調整したPt-PVP/PDADMA 0.15mlに0.945mM蟻酸溶液を添加し、反応全体体積を3.15mlとした。この反応溶液を室温で反応させ、3時間後の水素発生量を計測した。横軸にPDADMA/PVPの比率(重量比)、縦軸に3時間後の水素発生量をプロットした結果を図2に示す。
【0048】
図2に示すように、PDADMAの添加量が増えるとともに水素生成量が増えてくることがわかる。ただし、PDADMAを添加し続ければ水素発生量が比例的に増えるのではなく、PDADMA/PVPが1.0付近(サンプル4)で最大の水素発生活性が得られることがわかる。
【0049】
このように、陽イオン性高分子であるPDADMAと、PVPとで白金微粒子を分散すると、水素発生量は約5倍近く向上することがわかる。これは陽イオン性高分子が陰イオンのギ酸を効率的に捕捉し白金微粒子へ効率的に供給できることを意味している。
【0050】
なお、上記のように本発明の一実施形態及び各実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0051】
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、蟻酸分解方法及び蟻酸分解装置の構成も本発明の一実施形態及び各実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係る蟻酸分解方法及び蟻酸分解装置は、高効率で蟻酸から水素を発生させることができるため、水素発電等の手段で水素を利用するためのエネルギー源生成手段として幅広い分野で利用することが可能である。
【符号の説明】
【0053】
10 蟻酸分解装置、11 貯蔵部、12 反応部、13 制御部
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2022-07-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する蟻酸分解方法であって、
白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させ、陽イオン性高分子溶液と混合してなる触媒により、常温・常圧の脱酸素下において、蟻酸を水素と二酸化炭素に分解し、
前記陽イオン性高分子はポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)であることを特徴とする蟻酸分解方法。
【請求項2】
前記水溶性高分子ポリビニルピロリドンに対する前記陽イオン性高分子の添加量は、重量比で0.50以上であることを特徴とする請求項に記載の蟻酸分解方法。
【請求項3】
蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する蟻酸分解装置であって、
少なくとも蟻酸を貯蔵する貯蔵部と、
前記貯蔵部から供給される蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する反応部と、
前記反応部を常温・常圧の脱酸素下に制御する制御部を備え、
前記反応部は、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させ、陽イオン性高分子溶液と混合してなる触媒を有し、
前記陽イオン性高分子はポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)であることを特徴とする蟻酸分解装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
上述した目的を達成する本発明の一態様は、蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する蟻酸分解方法であって、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させ、陽イオン性高分子溶液と混合してなる触媒により、常温・常圧の脱酸素下において、蟻酸を水素と二酸化炭素に分解し、陽イオン性高分子はポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)である
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0016
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0017
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0020
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0020】
本発明の他の態様は、蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する蟻酸分解装置であって、少なくとも蟻酸を貯蔵する貯蔵部と、貯蔵部から供給される蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する反応部と、反応部を常温・常圧の脱酸素下に制御する制御部を備え、反応部は、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させ、陽イオン性高分子溶液と混合してなる触媒を有し、陽イオン性高分子はポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)である