(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178265
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】水素供給システム及び水素供給方法
(51)【国際特許分類】
C01B 3/22 20060101AFI20221125BHJP
B01J 23/42 20060101ALI20221125BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20221125BHJP
H01M 8/0606 20160101ALI20221125BHJP
【FI】
C01B3/22 Z ZAB
B01J23/42 M
B01J35/02 H
H01M8/0606
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084930
(22)【出願日】2021-05-19
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】314001531
【氏名又は名称】飯田グループホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100200001
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 明彦
(74)【代理人】
【識別番号】100203910
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 健弘
(72)【発明者】
【氏名】森 和彦
(72)【発明者】
【氏名】西河 洋一
(72)【発明者】
【氏名】兼井 雅史
(72)【発明者】
【氏名】西野 弘
(72)【発明者】
【氏名】富島 寛
(72)【発明者】
【氏名】廣川 敦士
(72)【発明者】
【氏名】緋田 博
(72)【発明者】
【氏名】山田 雅之
(72)【発明者】
【氏名】南 繁行
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 邦男
(72)【発明者】
【氏名】天尾 豊
【テーマコード(参考)】
4G140
4G169
5H127
【Fターム(参考)】
4G140DA02
4G140DC03
4G140DC07
4G169AA02
4G169AA15
4G169BA22C
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169CB35
4G169CB81
4G169DA03
4G169EB19
5H127AB23
5H127AB27
5H127BA01
5H127BA11
5H127BA14
5H127BA21
(57)【要約】
【課題】太陽光エネルギーを有効に利用して、水素をエネルギー源として安全且つ効率よく供給することができる水素供給システムおよび水素供給方法を提供する。
【解決手段】
水素供給システム100は、水と大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成により蟻酸を生成する蟻酸生成装置50と、蟻酸生成装置50により生成された蟻酸を貯蔵する蟻酸貯蔵タンク55と、蟻酸貯蔵タンク55から供給される蟻酸を、常温・常圧の脱酸素環境下で、触媒反応により水素と二酸化炭素に分解する蟻酸分解装置60と、蟻酸分解装置60から供給される水素を燃料として駆動する水素エンジン121と、水素エンジン121を駆動源とする発電部121aとを有する発電機120とを備え、蟻酸分解装置60から水素と分離されることなく供給された二酸化炭素を発電機120を介して蟻酸生成装置50に循環させる。また、発電機120により生成された二酸化炭素をギ酸生成装置50に循環させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成により蟻酸を生成する蟻酸生成装置と、
上記蟻酸生成装置により生成された蟻酸を貯蔵する蟻酸貯蔵タンクと、
上記蟻酸貯蔵タンクから供給される蟻酸を、常温・常圧の脱酸素環境下で、触媒反応により水素と二酸化炭素に分解する蟻酸分解装置と、
上記蟻酸分解装置から供給される水素を燃料として駆動する水素エンジンと、上記水素エンジンを駆動源とする発電部とを有する発電機と
を備え、
上記蟻酸分解装置から水素と分離されることなく供給された二酸化炭素を上記発電機を介して上記蟻酸生成装置に循環させることを特徴とする水素供給システム。
【請求項2】
上記蟻酸生成装置は、水を分解して酸素を発生させるとともに、水素イオンと電子を得る水素イオン発生手段と、
上記水素イオン発生手段により水を分解して得られる水素イオンと電子を利用して、蟻酸生成デバイスにより、大気中の二酸化炭素及び/又は排気二酸化炭素から人工光合成により蟻酸を生成する蟻酸生成手段と
を備えることを特徴とする請求項1に記載の水素供給システム。
【請求項3】
上記蟻酸生成デバイスは、基板の表面に酸化チタン微粒子、色素、ビオローゲン化合物の混合物が塗布されることを特徴とする請求項2記載の水素供給システム。
【請求項4】
上記蟻酸分解装置は、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素環境下で、蟻酸を水素と二酸化炭素に分解することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の水素供給システム。
【請求項5】
上記蟻酸分解装置は、少なくとも蟻酸を貯蔵する貯蔵部と、上記貯蔵部から供給される蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する反応部と、上記反応部を常温・常圧の脱酸素下に制御する制御部とを備え、上記反応部は、上記白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒を有することを特徴とする請求項4に記載の水素供給システム。
【請求項6】
上記発電機は、
上記水素エンジンにより生成された熱を回収する熱回収部と、
上記発電部で発電された電力を直流から交流に変換するインバータと
を更に備えることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の水素供給システム。
【請求項7】
水を酸素に光分解して得られる水素イオン・電子を利用して、固体基板の表面に酸化チタン微粒子、色素、ビオローゲン化合物の混合物が塗布される蟻酸生成デバイスにより、上記水素イオン、電子と大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成により蟻酸を生成して貯蔵する蟻酸生成工程と、
白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素環境下で、蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する蟻酸分解工程と、
上記蟻酸分解工程で分解して得られた水素を燃料として駆動する水素エンジンを駆動源とした発電部により電力を発電する発電工程と、
を有し、
上記蟻酸分解工程で分解して得られるとともに上記発電工程を経て得られた二酸化炭素を水素と分離することなく上記蟻酸生成工程に供給することにより、二酸化炭素を循環させることを特徴とする水素供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素供給システム及び水素供給方法に関し、特に太陽光エネルギーを活用した水素供給システム及び水素供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギーとして、これまで石炭や石油等の化石燃料が広く使用されてきたが、近年では資源の枯渇、二酸化炭素などによる地球温暖化等の問題があり、これらに代わる代替エネルギーとして水素エネルギーが注目されている。また、クリーンエネルギーの代表として太陽光エネルギーの利用が挙げられる。
【0003】
近年、太陽光発電などで生み出した電力で水を電気分解して水素を取り出し、その水素を燃料資源とする燃料電池や水素エンジンの開発や、これらを搭載した水素燃料電池自動車や水素エンジン自動車などの技術開発が進められている。
【0004】
本件出願人は、蟻酸生成装置により大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成により蟻酸を生成して貯蔵し、常温・常圧の脱酸素環境下で蟻酸を触媒反応により水素と二酸化炭素に分解する蟻酸分解装置により、上記蟻酸生成装置から供給される蟻酸を分解して得られる二酸化炭素を上記蟻酸生成装置に供給して二酸化炭素を循環させるとともに、蟻酸を分解して得られる水素を外部装置に供給する水素供給システムを先に提案している(例えば、特許文献1参照)。この水素供給システムでは、蟻酸生成装置から供給される蟻酸を分解して得られる二酸化炭素を蟻酸生成装置に供給して循環させるので、二酸化炭素を外部に放出することなく有効利用して、蟻酸分解装置により蟻酸を分解して得られる水素をエネルギー源として外部装置に安全且つ効率よく供給することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1に記載の水素供給システムでは、蟻酸生成装置から供給される蟻酸を分解して得られる二酸化炭素については蟻酸生成装置に戻し循環させることで、二酸化炭素を外部に排出することなく再利用が図られていた。しかしながら、二酸化炭素を蟻酸生成装置に戻すためには、水素と二酸化炭素を分離するための分離装置を別途設ける必要がある。そのため、分離装置を設ける手間、分離装置を設けるための配置スペースが必要となる等、水素供給システムにおいて不都合が生じていた。
【0007】
そこで、本発明は水素と二酸化炭素を分離するための分離装置を設けない場合であっても太陽光エネルギーを有効に利用して、水素をエネルギー源として安全且つ効率よく供給することができる水素供給システムおよび水素供給方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、水素供給システムであって、水と大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成により蟻酸を生成する蟻酸生成装置と、上記蟻酸生成装置により生成された蟻酸を貯蔵する蟻酸貯蔵タンクと、上記蟻酸貯蔵タンクから供給される蟻酸を、常温・常圧の脱酸素環境下で、触媒反応により水素と二酸化炭素に分解する蟻酸分解装置と、上記蟻酸分解装置から供給される水素を燃料として駆動する水素エンジンと、上記水素エンジンを駆動源とする発電部とを有する発電機とを備え、上記蟻酸分解装置から水素と分離されることなく供給された二酸化炭素を上記発電機を介して上記蟻酸生成装置に循環させることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る水素供給システムにおいて、上記蟻酸生成装置は、水を分解して酸素を発生させるとともに、水素イオンと電子を得る水素イオン発生手段と、上記水素イオン発生手段により水を分解して得られる水素イオンと電子を利用して、蟻酸生成デバイスにより、大気中の二酸化炭素及び/又は排気二酸化炭素から人工光合成により蟻酸を生成する蟻酸生成手段とを備えるものとすることができる。
【0010】
本発明に係る水素供給システムにおいて、上記蟻酸生成デバイスは、基板の表面に酸化チタン微粒子、色素、ビオローゲン化合物の混合物が塗布されるものとすることができる。
【0011】
本発明に係る水素供給システムにおいて、上記蟻酸分解装置は、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素環境下で、蟻酸を水素と二酸化炭素に分解するものとすることができる。
【0012】
本発明に係る水素供給システムにおいて、上記蟻酸分解装置は、少なくとも蟻酸を貯蔵する貯蔵部と、上記貯蔵部から供給される蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する反応部と、上記反応部を常温・常圧の脱酸素下に制御する制御部とを備え、上記反応部は、上記白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒を有するものとすることができる。
【0013】
本発明に係る水素供給システムにおいて、上記発電機は、上記水素エンジンにより生成された熱を回収する熱回収部と、上記発電部で発電された電力を直流から交流に変換するインバータとを更に備えるものとすることができる。
【0014】
本発明は、水素供給方法であって、水を酸素に光分解して得られる水素イオン・電子を利用して、固体基板の表面に酸化チタン微粒子、色素、ビオローゲン化合物の混合物が塗布される蟻酸生成デバイスにより、上記水素イオン、電子と大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成により蟻酸を生成して貯蔵する蟻酸生成工程と、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素環境下で、蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する蟻酸分解工程と、上記蟻酸分解工程で分解して得られた水素を燃料として駆動する水素エンジンを駆動源とした発電部により電力を発電する発電工程と、を有し、上記蟻酸分解工程で分解して得られるとともに上記発電工程を経て得られた二酸化炭素を水素と分離することなく上記蟻酸生成工程に供給することにより、二酸化炭素を循環させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明によれば、太陽光エネルギーを有効に利用して、水素をエネルギー源として安全且つ効率よく供給する水素供給システムおよび水素供給方法を提供することができ、水素をエネルギー源とする実用的な住宅のエネルギー供給システムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明を実施する水素供給システムの構成例を示すブロック図である。
【
図2】上記水素供給システムにおける蟻酸生成装置の構成例を表す模式図である。
【
図3】上記蟻酸生成装置に備えられる蟻酸生成デバイスの構成例を示す模式図である。
【
図4】上記蟻酸生成デバイスでの反応を示す概要図である。
【
図5】上記蟻酸生成デバイスの作成方法の概略を示すフロー図である。
【
図6】上記水素供給システムにおける蟻酸分解装置の構成例を表す模式図である。
【
図7】上記水素供給システムにより実行される水素供給方法の実行過程を示す工程図である。
【
図8】本発明を適用した住宅用エネルギー供給システムの一例を示す斜視図である。
【
図10】発電機における処理の概略を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能であることは言うまでもない。
【0018】
本発明は、例えば、
図1に示すような構成の水素供給システム100により実施される。
【0019】
この水素供給システム100は、人工光合成による蟻酸生成装置50と、この蟻酸生成装置50により生成された蟻酸を貯蔵する蟻酸貯蔵タンク55と、この蟻酸貯蔵タンク55から供給される蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する蟻酸分解装置60と、蟻酸分解装置60から供給される水素及び大気中の酸素により発電する発電機120を有して構成される。
【0020】
上記蟻酸生成装置50は、水と大気中あるいは発電機120から供給され、水素供給システム100内を循環する二酸化炭素から人工光合成により蟻酸を生成して、貯蔵タンク55に貯蔵する。
【0021】
上記蟻酸分解装置60は、常温・常圧の脱酸素環境下で蟻酸を触媒反応により水素と二酸化炭素に分解するものであって、上記貯蔵タンク55から流路40を介して供給される蟻酸を分解して得られる水素及び二酸化炭素を発電機120に供給する。
【0022】
なお、水素供給システム100において、蟻酸貯蔵タンク55は、流路40を介して蟻酸生成装置50と蟻酸分解装置60に同時接続された据え置き型の構造となっているが、蟻酸生成装置50と蟻酸分解装置60に同時接続される必要はなく、蟻酸生成装置50と蟻酸分解装置60に個別に着脱自在に接続されるカートリッジ型の構造を採用することもできる。
【0023】
この水素供給システム100における蟻酸生成装置50は、例えば、
図2に示すように、水を分解して水素イオンと電子を得る水素イオン発生手段20と、水素イオンと電子、及び二酸化炭素から人工光合成により蟻酸を生成する蟻酸生成デバイス10を用いた蟻酸生成手段30とを備える。
【0024】
この蟻酸生成装置50において、水素イオン発生手段20と蟻酸生成手段30とは、例えば、水素イオンを選択的に透過するような半透膜で仕切られた水槽内に設置され、水素イオン発生手段20と蟻酸生成手段30が導線で接続されており、水素イオン発生手段20で生成した水素イオンと電子は蟻酸生成手段30へと送られるようになっている。
【0025】
上記蟻酸生成手段30は、上記水素イオン発生手段20により水を分解して得られる水素イオンと電子を利用して、蟻酸生成デバイス10により、大気中の二酸化炭素及び/又は排気二酸化炭素から人工光合成により蟻酸を生成する。
【0026】
上記蟻酸生成手段30に用いられている蟻酸生成デバイス10は、例えば、
図3に示すように、基板11、酸化チタン微粒子12、色素13、メチルビオローゲン14、及び蟻酸脱水素酵素15から構成される。
【0027】
まず、蟻酸生成デバイス10の各構成について説明する。
【0028】
基板11は、その表面に酸化チタン微粒子12、色素13、メチルビオローゲン14の混合物が塗布される。基板11の材質は特に限定はされないが、例えばアルミニウム等の金属基板、無蛍光ガラス等のガラス基板、PETシートのような樹脂シートのいずれかであってもよい。
【0029】
酸化チタン微粒子12は、蟻酸生成反応において、光(主に紫外線)によって色素13やメチルビオローゲン14に電子を供与する役割を果たす。
【0030】
色素13は、自らが吸収して得た光エネルギーを他の物質へ渡すことで、反応や発光プロセスを助ける役割を果たす光増感剤である。すなわち、色素13は、光照射された反応系内において、光エネルギーを吸収し、そのエネルギーで電子エネルギーへ変換し、電子輸送体(補酵素)へ電子を渡す機能(光電変換能)を有するものである。色素13としては、ポルフィリン誘導体、ルテニウムビピリジン錯体誘導体、ピレン誘導体などを挙げることができ、例えば、N197色素、テトラキス(4-メチルピリジル)ポルフィリン亜鉛(ZnTMPyP)、テトラフェニルポルフィリンテトラスルフォネート亜鉛(ZnTPPS)、ルテニウムトリスビピリジン、クロロフィルなどを用いることができる。
【0031】
メチルビオローゲン(MV)14は、色素13から電子を受け取って他の物質へ電子を渡す電子輸送機能を有する人工補酵素である。すなわち、メチルビオローゲン14は、光照射により光励起された色素13から電子を受け取り、酵素へ電子を渡す還元機能を有するものである。
【0032】
酵素15は、特定の化学反応の反応速度を速める物質であり、自身は反応前後で変化しない物質である。また、酵素15は、光照射された反応系内において、電子輸送体から電子を受け取り、原料物質を還元して生成物質を生成するものである。上記蟻酸生成デバイス10では、酵素15として蟻酸脱水素酵素(ホルメートデヒドロゲナーゼ、FDH)が用いられるため、原料物質は水素イオン及び二酸化炭素であり、生成物質は蟻酸となる。上記蟻酸生成デバイス10では、蟻酸の生成を目的としているため、蟻酸脱水素酵素を用いるが、メタノール生成反応では、アルデヒドデヒドロナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼを用い、リンゴ酸生成反応では、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ(脱炭酸)を用いるといったように他の酵素を用いた生成デバイスに適用することも可能である。
【0033】
なお、上記蟻酸生成デバイス10は、電子供与体を含有していてもよい。電子供与体は、電子を他の物質へ渡す機能、還元機能を有するものであり、そのものは酸化される。すなわち、電子供与体は、光照射された反応系内において、電子を失った色素13へ電子を渡す機能、還元機能を有するものをいう。電子供与体としては、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸塩、エチレンジアミン塩酸塩、トリエチルアミン、メルカプトエタノール等を挙げることができる。
【0034】
このような構成の蟻酸生成装置50によれば、蟻酸生成デバイス10において、水の分解で生じた水素イオン及び電子と、空気中及び/又は他の機関から排出された二酸化炭素を有効利用することができ、また、酸化チタン微粒子12により効率的にメチルビオローゲン14への電子移動を達成することができ、水素源を蟻酸に変換して蟻酸貯蔵タンク55に貯蔵することができる。
【0035】
すなわち、この水素供給システム100における蟻酸生成装置50は、水を分解して酸素発生、水素イオン・電子を獲得する水素イオン発生手段20と、酸化チタン微粒子12と色素13とメチルビオローゲン14と蟻酸脱水素酵素15を予め混合させて基板11上に塗布した蟻酸生成デバイス10により、水素イオン、電子と二酸化炭素から人工光合成により蟻酸を生成すると蟻酸生成手段30とを備え、上記水素イオン発生手段20により水を酸素に光分解して得られる水素イオン・電子を利用して、上記蟻酸生成手段30において、上記蟻酸生成デバイス10により、大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成により蟻酸を生成して蟻酸貯蔵タンク55に貯蔵する。
【0036】
この水素供給システム100において、上記蟻酸生成装置50は、光化学反応装置として使用される。使用時には、特に蟻酸生成手段30の蟻酸生成デバイス10に光が照射される構造とすることが好ましい。蟻酸生成デバイス10に光を照射する光源としては、太陽、人工光源等を用いることができる。
【0037】
次に、上記蟻酸生成装置50における光化学反応方法について説明する。
【0038】
蟻酸生成装置50では、まず水素イオン発生手段20において下記(1)式に示すように、水が分解され酸素と水素イオンと電子が生成される。
2H2O→O2+4H++4e- ・・・(1)
【0039】
水素イオン発生手段20は上記反応が生じる手段であれば特に限定はされないが、例えば、光触媒を担持した基板のような水分解デバイスが用いられる。
【0040】
ここで、蟻酸生成デバイス10での反応を表す概要図を
図4に示す。例えば、電子供与体の共存下で光を照射することによって、色素が励起され、励起された色素からメチルビオローゲン(MV
2+)へと電子(e
-)が移動し、電子を受け取ったメチルビオローゲンは還元され、還元型メチルビオローゲン(MV
+)が生成する。還元型メチルビオローゲン(MV
+)は蟻酸脱水素酵素(FDH)に電子を供給する。これによって酵素反応が進行し、水素イオン、電子、及び二酸化炭素から蟻酸が生成される。
【0041】
蟻酸生成手段30では、蟻酸生成デバイス10において、
図4に示す光反応(人工光合成)プロセスを経て水素イオンと電子、及び二酸化炭素から蟻酸が生成される(下記式(2))。この時、水素イオン発生手段20で生成した水素イオンと電子が消費される。また、二酸化炭素は、大気中及び/又は他の機関からの排ガス中に存在するものを利用することができる。
CO
2+2H
++2e
-→HCOOH ・・・(2)
【0042】
この水素供給システム100において、蟻酸生成装置50により生成され蟻酸貯蔵タンク55に貯蔵された蟻酸は、例えば、日光が得られず人工光合成を行うことができない夜間等に流路40を介して蟻酸分解装置60に送られ、蟻酸分解装置60により分解して水素を発生、利用できるような機関により消費、発電等される。
【0043】
なお、蟻酸生成デバイス10は、使用する際には乾燥させないことが好ましい。担持している酵素15が乾燥により失活しないようにするためである。したがって、反応媒体中で保存、使用することが好ましく、反応媒体としては、水性媒体が好適であり、水または水と混合可能な有機溶媒との混合媒体が挙げられる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセリン、エチレングリコール等の低級アルコール、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。水性媒体としてはリン酸カリウムなどによって緩衝能力を付与してもよい。
【0044】
次に、この水素供給システム100における蟻酸分解装置60について説明する。
【0045】
この水素供給システム100における蟻酸分解装置60では、蟻酸貯蔵タンク55から供給される蟻酸を、常温・常圧の脱酸素環境下で、触媒反応により水素と二酸化炭素に分解する。
【0046】
具体的には、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素環境下で、蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する。蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する際には、陽イオン性高分子を混合させることが望ましい。
【0047】
陽イオン性高分子の一例としては、下記一般式(I)で表される、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(PDADMA)を用いることができる。PDADMAは、PVPに化学構造が類似しており、陽イオン性高分子を混合しない場合と比較して5倍以上の水素生成効率を実現することができる。
【0048】
【0049】
白金は、蟻酸を水素と二酸化炭素に分解するための触媒として作用する。白金は、反応面積を広くするために微粒子状の物を用い、白金微粒子の粒子径は1nm以上50nm以下のものを用いるのが好ましい。
【0050】
このように、粒子径の小さい白金微粒子を用いることで、触媒機能を高めることができる。
【0051】
また、水溶性高分子ポリビニルピロリドンの添加量は、白金微粒子に対して1質量%以上20質量%以下とすることにより、白金微粒子を適度に分散させることができる。
【0052】
すなわち、水溶性高分子ポリビニルピロリドン(PVP)は、白金微粒子を分散させるためのものである。白金微粒子は単独では凝集して沈殿しやすいため、水溶性高分子ポリビニルピロリドン用いることで、白金微粒子を分散させた状態で触媒としての機能を保持することができる。水溶性高分子ポリビニルピロリドン(PVP)の添加量は、白金微粒子に対して1質量%以上20質量%以下となるようにすることが好ましい。水溶性高分子ポリビニルピロリドン(PVP)の添加量が1質量%未満の場合は、白金微粒子の分散性を向上させるのに十分な効果が得られない。また、水溶性高分子ポリビニルピロリドン(PVP)の添加量が20質量%を超える場合は、白金微粒子の触媒機能が十分に得られない。
【0053】
この水素供給システム100における蟻酸分解装置60において、白金微粒子の触媒機能は、白金微粒子と水溶性高分子ポリビニルピロリドンの組み合わせで用いることにより有効に発揮される。例えば、分散剤としては、ポリビニルアルコール(PVA)やポリメタクリル酸メチル(PMMA)などもあるが、これらの分散剤を用いた場合には、蟻酸から水と二酸化炭素が生成する副反応が生じてしまう。本発明者らは、白金微粒子と水溶性高分子ポリビニルピロリドンという特定の組み合わせを適用することで蟻酸から水素と二酸化反応が発生する反応を選択的かつ効率的に生じることを見出したものである。
【0054】
すなわち、蟻酸の分解反応には、下記反応式(3)で表される蟻酸から水素と二酸化炭素が生成する反応と、下記反応式(4)で表される蟻酸から水と二酸化炭素が生成する反応がある。この水素供給システム100では、白金微粒子と水溶性高分子ポリビニルピロリドンを組み合わせて使用することで、反応式(4)の副反応がほとんど起こることなく、反応式(3)の反応により水素を効率的に発生させることができる。但し、水を優先的に発生させたい場合には、反応式(4)の反応が優先的に生じるようにすればよい。
【0055】
HCOOH → H2+CO2 ・・・(3)
【0056】
2HCOOH+O2 → 2H2O+2CO2 ・・・(4)
【0057】
蟻酸の分解反応においては、白金触媒と水溶性高分子ポリビニルピロリドンを組み合わせることでポリビニルピロリドンのカルボニル基が白金微粒子の電子状態を変えることにより、水素生成の反応が効率的に起こると考えられる。
【0058】
また、この水素供給システム100における蟻酸分解装置60では、蟻酸の分解反応を常温・常圧の脱酸素下で行う。白金微粒子を用いた触媒反応であるため、特に加熱や加圧は不要である。また、酸素が存在すると上記反応式(4)のように、水と二酸化炭素が生成する副反応が起きてしまうため、反応系を脱酸素状態にしておく必要がある。但し、上記反応式(4)の反応を生じさせたい場合には、必ずしも反応系を脱酸素状態にしておく必要はない。
【0059】
以上説明したように、この水素供給システム100における蟻酸分解装置60では、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素下において、水と二酸化炭素が発生する副反応が生じることなく、効率的に蟻酸から水素及び二酸化炭素を生成して、蟻酸貯蔵タンク55に貯蔵することができる。
【0060】
次に、本発明の一実施形態に係る蟻酸生成デバイスの作製方法について説明する。
図5は、本発明の一実施形態に係る蟻酸生成デバイスの作製方法の概略を示すフロー図である。
図5に示すように、本発明の一実施形態に係る蟻酸生成デバイスは、秤量工程S1、混合工程S2、塗布工程S3を経て作製される。以下、各工程について説明する。
【0061】
秤量工程S1では、少なくとも色素とビオローゲン化合物の秤量を行う。そして、混合工程S2では、秤量工程S1で秤量した色素とビオローゲン化合物に対して酸化チタン微粒子分散液を添加して混合を行う。酸化チタン微粒子分散液は、例えば酸化チタン微粒子をエタノール溶液中に分散させたものを用いる。混合工程S2は、例えば、秤量した色素とビオローゲン化合物に対してエタノールに分散させた酸化チタン微粒子分散液を添加し、超音波処理を行うことにより混合する。酸化チタン微粒子分散液添加前にあらかじめ色素とビオローゲン化合物とを有機溶媒等で混合しておいても良い。
【0062】
混合工程S2では、酸化チタン微粒子と色素の混合割合は質量比で10000:1~20000:1とすることが好ましい。このような混合割合で混合することにより、効率よく蟻酸生成反応を促すことができる。またこの混合割合は、使用する酸化チタン微粒子と色素の組成によって最適化する必要がある。色素とビオローゲン化合物の混合比率は、例えばメチルビオローゲンであれば、質量比で色素:メチルビオローゲン=1:15~1:25とすることが好ましい。
【0063】
塗布工程S3では、上記混合した混合物を基板上に塗布する。例えばPETシートなどの樹脂シートを基板として採用すればよい。
【0064】
その後、混合液を塗布した基板を乾燥させる。これにより、混合液中の溶媒であるエタノール等が蒸発し、基板上には、酸化チタン微粒子と色素とビオローゲン化合物の混合物が残る。なお、乾燥させず、水または水と混合可能な有機溶媒との混合媒体中で保存、使用してもよい。なお、本発明の一実施形態に係る蟻酸生成デバイスの作製方法は必ずしも上記工程に限定されるわけではなく、例えば、蒸着など別の塗布・吸着方法によって蟻酸生成デバイスを作製してもよい。
【0065】
また、酸化チタン微粒子の平均粒径は、特に限定されないが、例えば、20~50nmである。酸化チタン微粒子の平均粒径が50nmを超えて大きくなると、蟻酸生成のための性能が低下してしまうことがある。
【0066】
この水素供給システム100における蟻酸分解装置60は、例えば、
図6に示すように、少なくとも貯蔵部61、反応部62、制御部63を備える。以下、蟻酸分解装置60の各構成について説明する。
【0067】
貯蔵部61は、水素を生成するための蟻酸を貯蔵しておくためのものである。貯蔵する蟻酸は、製品として販売されているものでも、他の反応機構により生成されたものでも何れでもよい。貯蔵部61の材質は特に限定はされないが、蟻酸により腐食されないものが好ましい。
【0068】
この水素供給システム100では、上記蟻酸生成装置50により生成され上記蟻酸貯蔵タンク55に貯蔵された蟻酸が流路40を介して蟻酸分解装置60の貯蔵部61に供給され貯蔵される。なお、上記蟻酸分解装置60に着脱自在に装着可能なカットリッジ型の構造の上記蟻酸貯蔵タンク55を上記貯蔵部61とすることもできる。
【0069】
反応部62は、蟻酸を触媒反応により水素と二酸化炭素に分解する。反応部62は、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒を有する。触媒は、例えば、基板等に担持させてもよいし、反応部62内で分散溶液として保持される構成でもよい。そして、反応部62では、貯蔵部61内に貯蔵された蟻酸が適宜供給され、反応部62において白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により水素と二酸化炭素に分解される。反応部62は蟻酸の分解反応中に適宜溶液を撹拌する装置を備えていてもよい。
【0070】
制御部63は、主に反応部62が常温・常圧の脱酸素下となるように制御する。特に、上記反応式(4)のような水と二酸化酸素が生成する副反応が生じないように、反応部62内を脱酸素状態となるように制御することが重要である。脱酸素状態とする手段としては、例えば反応部62内を窒素ガス等で置換することが挙げられる。その他にも、制御部63は、例えば、反応部62やその他の機関で高温・加圧状態や異常を検知した場合に、蟻酸分解装置60を停止したり、異常状態を解消するような機構を備えていることが好ましい。
【0071】
この水素供給システム100における蟻酸分解装置60では、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素下において、水と二酸化炭素が発生する副反応が生じることなく、効率的に蟻酸から水素を生成することができる。
【0072】
そして、この水素供給システム100において、蟻酸分解装置60は、蟻酸生成装置50により生成して蟻酸貯蔵タンク55に貯蔵された蟻酸を水素と二酸化炭素に分解することにより発生する水素及び二酸化炭素を、分離することなく発電機120に供給する。
【0073】
この水素供給システム100では、
図7の工程図に示すように、蟻酸生成工程S11と蟻酸分解工程S12と回収・循環工程S13を有する水素供給方法を実施している。
【0074】
この水素供給システム100において、蟻酸生成工程S11は、上記蟻酸生成装置50において、水を酸素に光分解して得られる水素イオン・電子を利用して、大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成により蟻酸を生成して、蟻酸貯蔵タンク55に貯蔵する工程である。この蟻酸生成工程S11では、上記水素イオン発生手段20により水を酸素に光分解して水素イオン・電子を得て、上記蟻酸生成手段30において、上記蟻酸生成デバイス10により、大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成により蟻酸を生成して蟻酸貯蔵タンク55に貯蔵する。
【0075】
この蟻酸生成工程S11では、酸化チタン微粒子12と色素13とメチルビオローゲン14と蟻酸脱水素酵素15を予め混合させた蟻酸生成デバイス10により、上記水素イオン.電子と大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成により蟻酸を生成して蟻酸貯蔵タンク55に貯蔵する。
【0076】
蟻酸分解工程S12は、蟻酸分解装置60において、蟻酸貯蔵タンク55から供給された蟻酸を分解して水素を発生する工程である。この蟻酸分解工程S12では、上記白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素環境下で、蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する。その結果、ほぼ等体積の水素と二酸化炭素が生成される。
【0077】
回収・循環工程S13は、水素供給システム100内において発生した二酸化炭素を回収し循環させる工程である。蟻酸分解装置60から分離されることなく供給される水素と二酸化炭素のうち、水素は発電機120における燃焼の結果体積が減少するが、二酸化炭素は発電機120における燃焼ではほとんど消費されないため、ほとんど減少することはない。そのため、上記蟻酸分解工程S12で発生した二酸化炭素は、蟻酸分解装置60からの供給量がほぼ維持された状態で発電機120を介して再び記蟻酸生成装置50に供給される。即ち、発電機120から回収された二酸化炭素は水素供給システム100内を循環して再び蟻酸生成装置50に供給される。
【0078】
次に、上記水素供給システム100の具体的な実装例について説明する。水素供給システム100は、例えば、
図8に示すような構成のエネルギー供給システム1000に適用される。
【0079】
このエネルギー供給システム1000は、一般住宅110において水素をエネルギー源とするエネルギー供給システムであって、水素を燃料として発電を行う燃料電池や水素を燃料とする水素エンジンにより駆動される水素発電機などの発電機(住宅用の水素発電設備)120を備え、発電機120から電源供給を行うとともに、上記発電機120の余熱を利用して貯湯タンク130から給湯を行うようになっている。
【0080】
このエネルギー供給システム1000は、太陽光を利用した昼間用エネルギー供給システムとして、住宅110の屋上に設けられた太陽電池パネル140により太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換して、水を電気分解することにより水素を発生する昼間用水素供給システム150を備える。そして、日中は、上記昼間用水素供給システム150から発電機120に水素が供給されるようになっている。
【0081】
また、このエネルギー供給システム1000は、一般住宅110において水素を夜間にエネルギー源として供給する夜間用エネルギー供給システムとして、住宅110の屋上に設けられた人工光合成により蟻酸を生成する蟻酸生成装置50と、この蟻酸生成装置50により生成された蟻酸を貯蔵する蟻酸貯蔵タンク55と、この蟻酸貯蔵タンク55から供給される蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する蟻酸分解装置60と、蟻酸分解装置60から水素と分離されることなく供給された二酸化炭素を蟻酸生成装置50に供給する発電機120とを有する本発明に係る水素供給システム100を備える。
【0082】
そして、このエネルギー供給システム1000において、上記水素供給システム100は、蟻酸生成装置50により、太陽光を利用できる日中に、水を酸素に光分解して得られる水素イオン・電子を利用して、酸化チタン微粒子12と色素13とメチルビオローゲン14と蟻酸脱水素酵素15を予め混合させて基板11上に塗布した蟻酸生成デバイス10により、上記水素イオン、電子と大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成により蟻酸を生成して、蟻酸貯蔵タンク55に貯蔵し、太陽光を利用できない夜間に、上記蟻酸生成装置50により貯蔵された蟻酸を蟻酸分解装置60により白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素環境下で分解して得られる水素を、上記発電機120に供給する。
【0083】
図9に、発電機120の構成例を示す。発電機120は、蟻酸分解装置60から供給される水素を燃料として駆動する水素エンジン121と、水素エンジン121を駆動源とする発電部121aと、水素エンジン121で生じた熱を回収する熱回収装置122と、発電部121aで発電された電力を直流から交流に変換するインバータ123とを有して構成される。
【0084】
水素エンジン121は、蟻酸分解装置60から供給される水素を燃料として駆動し、水素エンジン121の駆動に伴い水素と空気中の酸素が反応して水素が燃焼する。その結果、下記(5)式に示すように、水が生成される。
2H2+O2→2H2O ・・・(5)
また、水素エンジン121が発電部121aを駆動させると、発電部121aに起電力が生じ、発電された直流電力がインバータ123に供給される。即ち、水素エンジン121による発電部121aの駆動に伴い、発電機120に電気が発生する。
【0085】
なお、水素エンジン121には蟻酸分解装置60から二酸化炭素も供給されるが、この二酸化炭素は水素エンジン121内での燃焼反応には何ら影響を与えるものではない。このため、予め水素と二酸化炭素を分離するための分離装置を設けるプロセスを省略することができる。
【0086】
熱回収装置122は、例えば熱交換器等で構成され、水素エンジン121により生成された熱を回収する。具体的には、熱回収装置122は、水素エンジン121が電力を発生させた場合に生成される熱(排熱)を利用可能となるように、水素エンジン121と接続されている。熱回収装置122は、温水生成装置として機能し、例えば図示しない貯湯タンクに接続される。貯湯タンクに貯蔵された水(湯)は、熱回収装置122によって回収された熱により加温される。
【0087】
インバータ123は、水素エンジン121に電気的に接続される。インバータ123は、発電部121aから供給された直流電力を、交流電力に変換する。インバータ123から出力される交流電力は、負荷200に供給される。
【0088】
図10は、上記発電機120により実行される処理を示すフロー図である。
図10に示すように、発電機120では、燃焼工程S21と循環工程S22が実行される。
【0089】
この水素供給システム100において、燃焼工程S21は、蟻酸分解装置60から供給される水素とともに、大気中から取り込まれた酸素を燃焼させる工程である。この燃焼工程S21では、水素と酸素を反応させることにより、電気と水が生成される。
【0090】
循環工程S22は、蟻酸分解装置60から供給された二酸化炭素を水素とともに蟻酸生成装置50に供給する工程である。具体的には、蟻酸分解装置60から供給された二酸化炭素は、水素エンジン121内の燃焼反応において何ら関与するものではなく、発電機120を介して蟻酸生成装置50に供給する。即ち、大気中から水素供給システム100に取り込まれた二酸化炭素は、水素供給システム100内を循環する。
【0091】
このような構成のエネルギー供給システム1000では、太陽光を利用できる日中に、上記昼間用水素供給システム150から発電機120に水素を供給することができ、さらに、本発明に係る水素供給システム100の上記蟻酸生成装置50において、水を酸素に光分解して得られる水素イオン・電子を利用して、酸化チタン微粒子12と色素13とメチルビオローゲン14と蟻酸脱水素酵素15を予め混合させて基板11上に塗布した蟻酸生成デバイス10により、上記水素イオン.電子と大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成により蟻酸を生成して、蟻酸貯蔵タンク55に貯蔵しておくことができる。
【0092】
そして、太陽光を利用できない夜間には、上記蟻酸分解装置60において、上記蟻酸生成装置50により太陽光を利用できる日中に生成されて蟻酸貯蔵タンク55に貯蔵された蟻酸を白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素環境下で分解して得られる水素を、上記発電機120に供給することができる。
【0093】
すなわち、上記エネルギー供給システム1000における水素供給システム100は、上述の如き構成の蟻酸生成装置50と蟻酸分解装置60を備えているので、上記蟻酸生成装置50により、太陽光を利用できる日中に、水を酸素に光分解して得られる水素イオン・電子を利用して、蟻酸生成デバイス10により、大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成により蟻酸を生成して蟻酸貯蔵タンク55に貯蔵し、太陽光を利用できない夜間に、上記蟻酸分解装置60において、上記蟻酸生成装置50により蟻酸貯蔵タンク55に貯蔵された蟻酸を常温・常圧の脱酸素環境下で水素と二酸化炭素に分解することにより、上記蟻酸生成デバイス10により蟻酸を生成するための原料としての二酸化炭素を得て上記蟻酸生成装置50に戻し循環させるとともに、蟻酸を分解して得られる水素をエネルギー源として安全且つ効率よく上記発電機120に供給することができる。
【0094】
更に、上記水素供給システム100では、大気中から取り込まれ、発電機120を介して供給される二酸化炭素を再利用することで、水素供給システム100において、蟻酸生成装置50における水と二酸化炭素から人工光合成により蟻酸を生成するプロセス、蟻酸分解装置60における蟻酸を水素と二酸化炭素に分解するプロセス、発電機120を介して水素とともに供給される二酸化炭素の循環プロセスを繰り返し実行することができる。また、発電機120により生成された二酸化炭素をギ酸生成装置50に循環させることもできる。
【0095】
即ち、蟻酸が分解すると、水素(H2)と二酸化炭素(CO2)が等体積で発生し、これを水素エンジン等の発電機120に供給すると、水素だけが空気と反応して発電のための燃焼をする。一方で、二酸化炭素は反応せずそのまま発電機120から排出されるので、水素と二酸化炭素を予め分離するプロセスを省略することができるという重要な特徴を有する。
【0096】
したがって、上記エネルギー供給システム1000では、上記水素供給システム100により、太陽光エネルギーを有効に利用して、蟻酸を生成・貯蔵し、太陽光を利用できない夜間に、蟻酸を分解して得られる水素をエネルギー源として安全且つ効率よく上記発電機120に供給することができる。
【0097】
なお、上記のように本発明の一実施形態及び実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0098】
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、横架材及び建築構造体の構成も本発明の一実施形態及び実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0099】
10 蟻酸生成デバイス、11 基板、12 酸化チタン微粒子、13 色素、14 メチルビオローゲン、15 蟻酸脱水素酵素、20 水素イオン発生手段、22 高分子ビーズ、30 蟻酸生成手段、40 流路、50 蟻酸生成装置、55 蟻酸貯蔵タンク、60 蟻酸分解装置、61 貯蔵部、62 反応部、63 制御部、100 水素供給システム、110 一般住宅、120 発電機、121 水素エンジン、121a 発電部、122 熱回収装置、123 インバータ、130 貯湯タンク、140 太陽電池パネル、1000 エネルギー供給システム
【手続補正書】
【提出日】2022-07-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成により蟻酸を生成する蟻酸生成装置と、
上記蟻酸生成装置により生成された蟻酸を貯蔵する蟻酸貯蔵タンクと、
上記蟻酸貯蔵タンクから供給される蟻酸を、常温・常圧の脱酸素環境下で、触媒反応により水素と二酸化炭素に分解する蟻酸分解装置と、
上記蟻酸分解装置から供給される上記水素と二酸化炭素のうち水素を燃料として駆動する水素エンジンと、上記水素エンジンを駆動源とする発電部とを有する発電機と
を備え、
上記蟻酸分解装置から供給された上記水素と二酸化炭素のうち上記発電機から未反応で排出された二酸化炭素を上記蟻酸生成装置に循環させる経路をさらに備えることを特徴とする水素供給システム。
【請求項2】
上記蟻酸生成装置は、水を分解して酸素を発生させるとともに、水素イオンと電子を得る水素イオン発生手段と、
上記水素イオン発生手段により水を分解して得られる水素イオンと電子を利用して、蟻酸生成デバイスにより、大気中の二酸化炭素及び/又は排気二酸化炭素から人工光合成により蟻酸を生成する蟻酸生成手段と
を備えることを特徴とする請求項1に記載の水素供給システム。
【請求項3】
上記蟻酸生成デバイスは、基板の表面に酸化チタン微粒子、色素、ビオローゲン化合物の混合物が塗布されることを特徴とする請求項2記載の水素供給システム。
【請求項4】
上記蟻酸分解装置は、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素環境下で、蟻酸を水素と二酸化炭素に分解することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の水素供給システム。
【請求項5】
上記蟻酸分解装置は、少なくとも蟻酸を貯蔵する貯蔵部と、上記貯蔵部から供給される蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する反応部と、上記反応部を常温・常圧の脱酸素下に制御する制御部とを備え、上記反応部は、上記白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒を有することを特徴とする請求項4に記載の水素供給システム。
【請求項6】
上記発電機は、
上記水素エンジンにより生成された熱を回収する熱回収部と、
上記発電部で発電された電力を直流から交流に変換するインバータと
を更に備えることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の水素供給システム。
【請求項7】
水を酸素に光分解して得られる水素イオン・電子を利用して、固体基板の表面に酸化チタン微粒子、色素、ビオローゲン化合物の混合物が塗布される蟻酸生成デバイスにより、上記水素イオン、電子と大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成により蟻酸を生成して貯蔵する蟻酸生成工程と、
白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素環境下で、蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する蟻酸分解工程と、
上記蟻酸分解工程で分解して得られた上記水素と二酸化炭素のうち水素を燃料として駆動する水素エンジンを駆動源とした発電部により電力を発電する発電工程と、
を有し、
上記蟻酸分解工程で分解して得られた上記水素と二酸化炭素のうち上記発電部から未反応で排出された二酸化炭素を上記蟻酸生成工程に戻して再利用することにより、二酸化炭素を循環させることを特徴とする水素供給方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本発明は、水素供給システムであって、水と大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成により蟻酸を生成する蟻酸生成装置と、上記蟻酸生成装置により生成された蟻酸を貯蔵する蟻酸貯蔵タンクと、上記蟻酸貯蔵タンクから供給される蟻酸を、常温・常圧の脱酸素環境下で、触媒反応により水素と二酸化炭素に分解する蟻酸分解装置と、上記蟻酸分解装置から供給される上記水素と二酸化炭素のうち水素を燃料として駆動する水素エンジンと、上記水素エンジンを駆動源とする発電部とを有する発電機とを備え、上記蟻酸分解装置から供給された上記水素と二酸化炭素のうち上記発電機から未反応で排出された二酸化炭素を上記蟻酸生成装置に循環させる経路をさらに備えることを特徴とする。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
本発明は、水素供給方法であって、水を酸素に光分解して得られる水素イオン・電子を利用して、固体基板の表面に酸化チタン微粒子、色素、ビオローゲン化合物の混合物が塗布される蟻酸生成デバイスにより、上記水素イオン、電子と大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成により蟻酸を生成して貯蔵する蟻酸生成工程と、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素環境下で、蟻酸を水素と二酸化炭素に分解する蟻酸分解工程と、上記蟻酸分解工程で分解して得られた上記水素と二酸化炭素のうち水素を燃料として駆動する水素エンジンを駆動源とした発電部により電力を発電する発電工程と、を有し、上記蟻酸分解工程で分解して得られた上記水素と二酸化炭素のうち上記発電部から未反応で排出された二酸化炭素を上記蟻酸生成工程に戻して再利用することにより、二酸化炭素を循環させることを特徴とする。