(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022017829
(43)【公開日】2022-01-26
(54)【発明の名称】ミトコンドリア機能活性化剤
(51)【国際特許分類】
A61K 35/60 20060101AFI20220119BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220119BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20220119BHJP
A23L 33/17 20160101ALI20220119BHJP
A23L 33/13 20160101ALI20220119BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
A61K35/60
A61P43/00 107
A23L33/10
A23L33/17
A23L33/13
A23L2/00 F
A23L2/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020120617
(22)【出願日】2020-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(71)【出願人】
【識別番号】598043054
【氏名又は名称】日生バイオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【氏名又は名称】富田 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(72)【発明者】
【氏名】惠 淑萍
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】千葉 仁志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩志
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB03
4B018LB04
4B018LB05
4B018LB06
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB09
4B018MD17
4B018MD19
4B018MD20
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4C087AA01
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4C087CA06
4C087CA16
4C087CA20
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZB22
(57)【要約】
【課題】
長期間服用しても安全であり、ミトコンドリア機能を効果的に活性化することにより、加齢、老化やミトコンドリア機能障害に伴う酸化的リン酸化の低下等のミトコンドリア機能の低下に起因する疾患若しくは状態(症状)の予防又は改善(治療)を期待し得るミトコンドリア機能活性化剤を提供する。
【解決手段】
白子抽出物(魚類白子の加水分解物)、好ましくは分子量5000以下の画分を50~100%含むように低分子化された白子抽出物を有効成分とするミトコンドリア呼吸能活性化剤。かかる活性化剤は、ミトコンドリア機能の活性化作用を有するので、加齢、老化やミトコンドリア機能障害に伴う酸化的リン酸化の低下等のミトコンドリア機能の低下に起因する疾患若しくは状態(症状)の予防又は改善(治療)が期待される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白子抽出物を有効成分として含有するミトコンドリア機能活性化剤であって、該白子抽出物が魚類白子の加水分解物であることを特徴とするミトコンドリア機能活性化剤。
【請求項2】
白子抽出物が、分子量5000以下の画分を50~100%含むように低分子化されたものである請求項1に記載のミトコンドリア機能活性化剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のミトコンドリア機能活性化剤を含んでなるミトコンドリア機能活性化用飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミトコンドリア機能活性化剤に関し、さらに詳しくは白子抽出物を有効成分として含むミトコンドリア機能活性化剤、該活性化剤を含んでなるミトコンドリア機能活性化用飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
サケ(鮭)白子抽出物(Salmon milt extract:以下「SME」ということがある。)は、アミノ酸や核酸が豊富に含まれている食材であり、それが遺伝子の酸化損傷を著しく低減させる効果を有することが知られていた(特許文献1)。その食材の新たな機能性を探索するために、本発明者らは鋭意研究を進めてきた。過去の研究において、カーボンナノチューブ(CNT)電極法に酸化低密度リポタンパク質(LDL)量の測定系を用い、SMEがLDLの酸化を効果的に抑制することを報告した(特許文献2)。
【0003】
また、脂肪肝モデルマウスに対してSMEを摂取させたところ、SME非摂取群に比べてミトコンドリア代謝関連遺伝子(PGC1、PPAR、CPT1、CRLS、Thioredoxin)の発現が増加することを報告した(非特許文献1)。つまり、SMEはミトコンドリア代謝促進剤としての働きを持つ可能性が示唆された。ただし、ミトコンドリアの最も主要な機能であるミトコンドリア呼吸に対する作用については依然として不明であった。つまり、今後の課題として、食品のミトコンドリア機能改善作用を証明するにはまだ不十分であり、細胞に添加した食品成分がミトコンドリア機能を高めることを更に細胞生理学的方法で示す必要がある。
【0004】
ミトコンドリアは、エネルギー(ATP)産生において中心的な役割を持つ細胞内小器官である。ミトコンドリア内膜のクリステにおいて、水素は、解糖系やTCA回路によって生じたNADH2
+やFADH2を利用しながら一連の酵素(複合体I、II、III、IV)の作用を経て酸素(O2)と反応して水(H2O)になる。その複合体I~IVの過程は、ミトコンドリア内膜のタンパク質や補酵素間で電子の授受が起こるために電子伝達系と呼ばれる。この電子伝達系の過程において、複合体I、III、IVはマトリックス側から膜間スペース側へプロトン(H+)が移動する。この結果、ミトコンドリア内膜を隔ててH+の濃度勾配が生じる。電子伝達系で放出されたエネルギーは電気化学的ポテンシャルとして蓄えられる。
【0005】
また、ミトコンドリア内膜はイオンを通さないために、内膜の両面に膜電位という電位差DΨを生じる。膜間スペースから3つのH+がマトリックス側へ複合体Vを介して移動して、H+とADP、リン酸から1分子のATPが合成される。これらの過程は酸化的リン酸化と呼ばれ、好気的代謝の中心となる。作られたATPはミトコンドリア内膜に存在するADP-ATPトランスロケータを介して細胞質へ運搬される。以上の一連の過程を呼吸鎖(respiratory chain)と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3978716号公報
【特許文献2】特許第6628071号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Sakurai T, et al., Dietary salmon milt extracts attenuate hepatosteatosis and liver dysfunction in diet-induced fatty liver model. J Sci Food Agric, 99:1675-81, 2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ミトコンドリア機能の活性化が健康増進と深く関わること、例えば、糖尿病に代表される様々な代謝異常や老化とミトコンドリアとの関連性が解明されつつある。しかし、食品によるミトコンドリア機能改善の報告は少ない。その原因として、食品のミトコンドリア機能に及ぼす効果を科学的に証明することの方法的な難しさがある点や、その方法を社会で共有する仕組みが確立されていない点が挙げられる。
【0009】
本発明の課題は、ミトコンドリア機能の測定系の確立とそれを応用してSMEを含む白子抽出物のミトコンドリア機能、特に呼吸能への効果を明らかにすることにより、加齢や老化、ミトコンドリア機能障害に伴う酸化的リン酸化の低下等のミトコンドリア機能の低下に起因する疾患若しくは状態(症状)の予防又は改善(治療)効果を奏する医薬品や機能性食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ヒト肝由来細胞(C3A)と細胞外フラックスアナライザーXFpを用いてミトコンドリア機能測定系を確立し、その測定系を利用して、長期間服用しても安全であるSME(サケ白子抽出物)がミトコンドリア機能活性化効果、特に肝細胞の最大呼吸及び予備呼吸能に対する効果があることを見いだした。本発明は、かかる知見に基づいて成し遂げられたものである。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)白子抽出物を有効成分として含有するミトコンドリア機能活性化剤であって、該白子抽出物が魚類白子の加水分解物であることを特徴とするミトコンドリア機能活性化剤。
(2)白子抽出物が、分子量5000以下の画分を50~100%含むように低分子化されたものである上記(1)に記載のミトコンドリア機能活性化剤。
(3)上記(1)又は(2)に記載のミトコンドリア機能活性化剤を含んでなるミトコンドリア機能活性化用飲食品。
【0012】
また本発明の実施の他の形態として、ミトコンドリア機能の低下に起因する疾患若しくは状態(症状)の予防又は改善(治療)を必要とする対象者に、白子抽出物を投与する工程を備えた、ミトコンドリア機能の低下に起因する疾患若しくは状態(症状)を予防又は改善(治療)する方法や、ミトコンドリア機能の低下に起因する疾患若しくは状態(症状)の予防又は改善(治療)剤として使用するための白子抽出物や、ミトコンドリア機能の低下に起因する疾患若しくは状態(症状)の予防又は改善(治療)における使用のための白子抽出物や、ミトコンドリア機能の低下に起因する疾患若しくは状態(症状)の予防又は改善(治療)剤を製造するための白子抽出物の使用を挙げることができる。
そしてまた、本発明の他の実施の態様として、白子抽出物としては、例えば魚類白子をヌクレアーゼ及びプロテアーゼで処理して得られる魚類白子の加水分解物(分解生成物)を有効成分として含有するミトコンドリア機能活性化剤を挙げることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ミトコンドリア機能活性化作用を有しており、諸種の代謝異常や老化、ミトコンドリア機能の低下に起因する疾患等の予防又は改善(治療)や健康増進を、副作用を伴うことなく実施できることが期待される。本発明に用いられる白子抽出物は、安全性には全く問題がなく機能性食品又は医薬品の形態に自由に調製することができるため、健常者はもとより、老齢者、病弱者、病後の人等も長期間に亘って摂取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ミトコンドリアを活性化させる食品成分の探索のための戦略(測定系)を示す模式図である。
【
図2】SME(サケ白子抽出物)の分子量分布を示す図である。図の横軸は保持時間(分)、縦軸は紫外領域(波長260nm(上段)又は280nm(下段))の吸光度である。図中、分子量目安12,000はチトクロームCの溶出位置である。
【
図3】DNA-Na(高分子量DNA)の分子量分布を示す図である。図の横軸は保持時間(分)、縦軸は紫外領域(波長260nm)の吸光度である。図中の分子量目安12,000はチトクロームCの溶出位置である。
【
図4】細胞毒性試験(n=6)の結果を示す図である。図中、SMEはサケ白子抽出物を示し、DNA-Naは高分子量DNAを示す(以下、同様)。
【
図5】Real-time PCRによるミトコンドリアのコピー数の評価(n=4)の結果を示す図である。
【
図6】サンプル添加時のOCRのプロフィールの変化(n=4)を示す図である。図中、矢印は各試薬の添加時間を表す。
【
図7】典型的なOCRプロフィールの解説用の模式図(プライムテック株式会社ホームページより抜粋)である。図中、各ミトコンドリア機能項目の値は各々の面積で算出される。
【
図8】OCRのAUCから算出された各ミトコンドリア機能項目の比較(n=4)結果を示す図である。図中の符号の意味は次のとおりである。A,Maximal respiration(最大呼吸); B,Basal respiration(基礎呼吸); C,Spare respiratory capacity(予備呼吸能); D,Proton leak(プロトンリーク); E,ATP production(ATP産生); F,Non-mitochondrial respiration(ミトコンドリアによらない呼吸).*P<0.05 vs.コントロール.**P<0.01 vs.コントロール.n.s., not significant.
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明は、以下の記載内容に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。また、有効成分の含有量(%)は特に明記しない限り質量パーセント(wt%)を意味する。
【0016】
本発明のミトコンドリア機能活性化剤は、白子抽出物を有効成分として含むものである。次に述べるとおり、白子抽出物は、魚類白子の加水分解物(分解生成物)、好ましくはプロテアーゼやヌクレアーゼ等の酵素処理による加水分解物(酵素分解物)であり、また好ましくは特定の分子量画分を含むものである。
【0017】
ここで、魚類白子としては、特にDNAを多く含むことや水産加工上の廃棄物を有効利用できるといった観点から、サケ(鮭)、マス(鱒)、タラ(鱈)といった魚類の白子(精巣)が好ましい。これらの中で、原料入手等の点からはサケの白子が特に好ましい。
【0018】
白子抽出物の調製方法は特に限定されないが、例えば、特開2003-325149号公報、特開2004-16143号公報、特開2016-204340号公報等に記載の方法に準じて調製することができる。
【0019】
例えば、上記魚類白子から皮、筋、血管等を必要に応じて除去した後、さらに必要に応じて精製して油分除去や粗砕(以下「前処理」ということがある。)し、続いてプロテアーゼ及びヌクレアーゼでの処理を行う方法により調製したものが好ましい。
【0020】
用いるプロテアーゼの性質に特に制限はないが、トリプシン等のセリンプロテアーゼが好ましい。セリンプロテアーゼは、アルギニン及びリジンのカルボキシル側でペプチド結合を選択的に加水分解するので、アルギニンを多く含むプロタミンの加水分解に適している。
【0021】
また、用いるヌクレアーゼの性質に特に制限はないが、例えば5’にリン酸基を残して切断するヌクレアーゼ等が好ましく、ある程度の熱安定性を備えることが好ましい。これらプロテアーゼやヌクレアーゼは、市販品を適宜選択して用いればよい。
【0022】
これらの酵素処理物は、そのまま、或いは必要に応じて噴霧乾燥等により粉体の形態で、本発明における白子抽出物として用いることができる。また、必要であればさらに精製して使用することもできる。
【0023】
ここで、前述したサケ白子抽出物(SME)は、上記のとおり、前処理したサケ白子をプロテアーゼ及びヌクレアーゼ処理(酵素分解)することにより調製されたものである。
【0024】
本発明における白子抽出物には、白子由来DNAの加水分解物及び白子由来タンパク質の加水分解物、例えばプロタミンやその加水分解物、白子由来ポリアミン等が含まれる。
【0025】
本発明における白子抽出物中のDNA含有量は、通常1~80%、好ましくは10~50%、より好ましくは26~36%である。
【0026】
本発明における白子抽出物の分子量等は特に制限されないが、DNAとして、分子量5000以下、好ましくは3000以下の画分を50~100%程度まで含むように低分子化されたものが好ましい。なお、分子量分布は、下記GPC分析(波長260nmにおける吸光度)に基づく値である。
【0027】
有効成分の分子量(DNAとしての分子量)の下限は、前記のとおり特に限定されず、分子量が約330以上(塩基数1以上)であればよく、分子量330以上の画分を1~100%、分子量3,000以上の画分を0~50%程度を含むものが好ましい。
【0028】
なお、本発明における分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)で試料を分子量に基づいて分別した後にUV検出器によって定量することにより行うことができる。
【0029】
本発明のミトコンドリア機能活性化剤は、その作用から、ミトコンドリア呼吸能活性化剤、ミトコンドリア予備呼吸能活性化剤、ミトコンドリア最大呼吸活性化剤等ということもできる。
【0030】
本発明においてミトコンドリア呼吸とは、ミトコンドリアにおいて酸素を消費してATPを産生することをいう。また、本発明においてミトコンドリア呼吸能とは、ミトコンドリアがATPを産生する能力及び/又は生産しうる能力をいう。ミトコンドリア呼吸能は、具体的にはミトコンドリアの基礎呼吸、最大呼吸、予備呼吸能等により表される。
【0031】
本発明におけるミトコンドリア機能とは、上記のミトコンドリア呼吸を通して細胞にエネルギー(ATP)を供給することをいう。一方で、ミトコンドリアにおいては当該機能のほかに、種々の代謝や調節等(例えば、ステロイドやヘムの合成等を含む様々な代謝、カルシウムや鉄の細胞内濃度の調節、細胞周期やアポトーシスの調節、各種物質の輸送等)も行われていることが知られるが、これらは本発明における「ミトコンドリア機能」には含まれない。
【0032】
本発明者らが確立し、本発明に用いたミトコンドリアを活性化させる食品成分の探索のための戦略(測定系)の概要を
図1に示す。本測定系においては、肝培養細胞に食品成分を添加し、細胞のミトコンドリア機能を評価する。評価には細胞外フラックスアナライザーを用いる。ミトコンドリアを活性化させる食品成分が発見された場合には、その活性化のメカニズムを解明するために、本発明者らが確立してきたミトコンドリア代謝に関わる遺伝子の発現量解析、質量分析法や酵素法を用いる脂質組成解析、real-time PCRを用いるミトコンドリアのコピー数の解析、細胞毒性試験を実施する。本発明においては、ミトコンドリアのコピー数解析、ミトコンドリア機能の解析の詳細を、後述する実施例において具体的に示す。
【0033】
ここで、加齢、老化やミトコンドリア機能障害に伴う酸化的リン酸化の低下は、予備呼吸能を低下させ、結果として病気のリスクを増加させる。予備呼吸能の低下は、心疾患、(Sansbury BE, et al., Chem-Biol Interact, 191:288-95, 2011)、神経変性疾患(Yadava N and Nicholls DG, J Neurosci, 27:7310-7, 2007; Nicholls DG. Ann NY Acad Sci, 1147:53-60, 2008)及び平滑筋の細胞死(Hill BG, et al., Biochim Biophys Acta, 1797:285-95, 2010)等の種々の病気と関連することが報告されている。
【0034】
本発明における白子抽出物は、後述する実施例において具体的に示すとおり、ミトコンドリア呼吸能(予備呼吸能等)を高める作用を有するので、酸化的リン酸化を活発化(ミトコンドリアの呼吸鎖を活性化)させ、ミトコンドリア機能を高める可能性がある。したがって、本発明による有効成分が、加齢、老化やミトコンドリア機能障害に伴う酸化的リン酸化の低下等の他、心疾患、神経変性疾患、平滑筋細胞死等の予防又は改善に有効であると推察される。
【0035】
よって、本発明における白子抽出物は、ミトコンドリア呼吸能の低下に起因する疾患若しくは状態(症状)の予防又は改善(治療)に用いることができる。ここで、かかる予防又は改善しうる疾患若しくは状態(症状)としては、ミトコンドリア呼吸能の低下に起因する疾患若しくは状態(症状)であれば特に制限されず、例えば、加齢、老化やミトコンドリア機能障害に伴う酸化的リン酸化の低下等の他、心疾患、神経変性疾患、平滑筋細胞死等が挙げられる。
【0036】
なお、本明細書において、疾患若しくは状態の「予防又は改善」とは、疾患若しくは状態の、調節、進行の遅延、緩和、発症予防、再発予防、抑制等を包含する意味で使用される。
【0037】
本発明における白子抽出物は、通常、易水溶性であり、飲食品及び医薬品に通常添加され得る成分との混和性に優れている。また、食品中に含まれる成分であるため安全性に優れている。したがって、これを有効成分とするミトコンドリア機能活性化剤は、日常の食生活に適宜取り入れて無理なく安心して摂取することができる。
【0038】
本発明のミトコンドリア機能活性化剤は、「ミトコンドリア機能を活性化するために用いる」という用途が限定された、ミトコンドリア機能活性化剤の有効成分として白子抽出物を含有する剤であり、単独でも飲食品や医薬品(製剤)として使用することができる。また、飲食品や医薬品等の種々の組成物に、ミトコンドリア機能活性化剤の有効成分として含有させることができる。これにより、ミトコンドリア機能活性化用の飲食品組成物又は医薬品組成物を得ることができる。得られたミトコンドリア機能活性化用の飲食品組成物又は医薬品組成物は、上述のミトコンドリア機能の低下に起因する疾患若しくは状態(症状)、例えば、加齢、老化やミトコンドリア機能障害に伴う酸化的リン酸化の低下等の他、心疾患、神経変性疾患、平滑筋細胞死等の予防又は改善(治療)に有効に用いることができる。
【0039】
本発明において、ミトコンドリア機能活性化剤は、溶液、懸濁液、乳濁液、粉末、固体成形物等、経口摂取可能な形態であればよく特に限定されない。具体的には、例えば、粉末剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤の他、飲料、食品等の通常の食品や医薬品で用いられる形態を挙げることができる。また、製剤の形態としては、摂取量を調節しやすい粉末剤やカプセル剤、錠剤、顆粒剤、ドリンク等を好適に例示することができる。
【0040】
本発明において、白子抽出物は、ミトコンドリア機能活性化剤としてそのまま用いてもよく、従来から知られている通常の方法で所望の製剤を製造して用いてもよい。例えば、製剤の製造上許可される諸種の添加剤と混合し、組成物として成型することができる。添加剤としては、本発明の効果を損なわない範囲において添加されるものであればよく、例えば、生薬、ビタミン、ミネラル等の他に、賦形剤、界面活性剤、被膜剤、油脂類、ワックス類、安定剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、滑沢剤、甘味料、着色料、香料、緩衝剤、酸化防止剤、pH調整剤、酸味料等が挙げられる。
【0041】
上記賦形剤としては、例えば、乳糖、デンプン、セルロース、マルチトール、デキストリン等を挙げることができる。上記界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等を挙げることができる。上記被膜剤としては、例えば、ゼラチン、プルラン、シェラック、ツェイン等を挙げることができる。上記油脂類としては、例えば、小麦胚芽油、米胚芽油、サフラワー油等を挙げることができる。上記ワックス類としては、例えば、ミツロウ、米糠ロウ、カルナウバロウ等を挙げることができる。上記甘味料としては、ショ糖、ブドウ糖、果糖、ステビア、サッカリン、スクラロース等を挙げることができる。上記酸味料としては、例えば、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸等を挙げることができる。
【0042】
上記生薬としては、例えば、高麗人参、アメリカ人参、田七人参、霊芝、プロポリス、アガリクス、ブルーベリー、イチョウ葉及びその抽出物等を挙げることができる。上記ビタミンとしては、例えば、ビタミンD、K等の油溶性ビタミン、ビタミンB1、B2、B6、B12、C、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチン等の水溶性ビタミンを挙げることができる。
【0043】
また、本発明によれば、白子抽出物を有効成分とするミトコンドリア機能活性化剤を含んでなる飲食品又は医薬品が提供される。ここで「含んでなる」とは、所望する製品形態に応じた生理学的に許容されうる担体を含んでいてもよく、また併用可能な他の補助成分を含有する場合も意味する。
【0044】
本発明において、飲食品とは、医薬品以外のものであって、前記のとおり経口摂取可能な形態であればよく特に限定されない。具体的には、例えば、即席麺、レトルト食品、缶詰、電子レンジ食品、即席スープ・みそ汁類、フリーズドライ食品等の即席食品類;清涼飲料、果汁飲料、野菜飲料、豆乳飲料、コーヒー飲料、茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、アルコール飲料等の飲料類;パン、パスタ、麺、ケーキミックス、唐揚げ粉、パン粉等の小麦粉製品;キャラメル、チューイングガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、デザート菓子等の菓子類;ソース、トマト加工調味料、風味調味料、調理ミックス、たれ類、ドレッシング類、つゆ類、カレーやシチューの素類等の調味料;加工油脂、バター、マーガリン、マヨネーズ等の油脂類;乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料、アイスクリーム類、クリーム類等の乳製品;卵加工品、魚肉ハムやソーセージ、水産練り製品等の水産加工品;畜肉ハムやソーセージ等の畜産加工品;農産缶詰、ジャム・マーマレード類、漬け物、煮豆、シリアル等の農産加工品;冷凍食品等が挙げられる。
【0045】
また飲食品には、健康食品(例えば、機能性食品、栄養補助食品、健康補助食品、栄養強化食品、栄養調整食品、サプリメント等)、保健機能食品(例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等)、特別用途食品(例えば、病者用食品、乳幼児用調整粉乳、妊産婦又は授乳婦用粉乳等)等の他、加齢、老化やミトコンドリア機能障害に伴う酸化的リン酸化の低下等に起因する疾患又は状態(症状)のリスク低減、予防又は改善の表示を付した飲食品のような分類のものも包含される。
【0046】
本発明の別の態様によれば、前記ミトコンドリア機能活性化剤を含んでなる飲食品であって、ミトコンドリア機能活性化により予防又は改善しうる疾患若しくは状態の予防、又は改善する機能が表示された飲食品が提供されうる。
【0047】
本発明において、医薬品とは、製剤化のために許容されうる添加剤を併用して、常法に従い、経口製剤又は非経口製剤として調製したものである。経口製剤の場合には、前記のとおり、経口摂取可能な形態であれば特に限定されない。また、非経口製剤の場合には、注射剤や座剤の形態をとることができる。簡易性の点からは、経口製剤であることが好ましい。製剤化のために許容されうる添加剤としては、前記と同様のものが挙げられる。
【0048】
本発明において、ミトコンドリア機能活性化剤中の有効成分の含有量は、製剤の種類、形態や、予防又は改善の目的等により一律に規定は難しいが、例えば、通常、成人(体重60kg)1日あたり、白子抽出物乾燥重量換算で、通常20~2,000mg、好ましくは50~1,500mg、より好ましくは100~1,000mg程度である。必要な1日あたりの有効成分の摂取量を摂取できるように、1日あたりの摂取量を考慮し、製剤中の含有量を適宜設定すればよい。
【実施例0049】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0050】
1.方法
1.1.試薬・機器・消耗品
・MEM(gibco社製):
断りがない限り、MEMは終濃度で10%FBS、1%Penicillin-Streptomycin-Neomycin、406.0mg/mL GlutaMAX、10.0mg/L Phenol Red(gibco社製)を含む。
・細胞外フラックスアナライザーXFp装置(Agilent Technologies社製)
・XFp Cell Culture Miniplate(Agilent Technologies社製)
・XFp sensor cartridge(Agilent Technologies社製)
・キャリブレーション溶液:XF Calibrant(pH7.4)(Agilent Technologies社製)
【0051】
・XFp Cell Mito Stress Test Kit(Agilent Technologies社製):
- Oligomycin(複合体V阻害剤)
- カルボニルシアニド-p-トリフルオロメトキシフェニルヒドラゾン(Carbonyl cyanide-p-trifluoromethoxyphenylhydrazone、FCCP)(脱共役剤:これの投与により、電子伝達系で生じたH+がATP合成酵素(複合体V)を通らずにマトリックス側に漏れて移動する。この結果、流入したH+はO2と反応してH2Oになる。つまり酸素が最大まで消費される。)
- Rotenone / Antimycin A(複合体I阻害剤/複合体III阻害剤)
【0052】
・Assay medium: total 10mLの時の組成
- Seahorse XF DMEM Medium, pH7.4(Phenol Red (-)、Agilent Technologies社製):9.8mL
- 100x GlutaMAX(gibco社製):100μL
- 100 mM Sodium Pryuvate(gibco社製):100μL
- Glucose(ナカライテスク株式会社製):0.01g
【0053】
・SME(サケ白子抽出物)
SME10mgを滅菌水に溶解し、10mg/mLのSME stock溶液を調製した。
本実施例においてSMEは日生バイオ株式会社製のサケ白子抽出物を使用した。この製品は、特開2004-16143号公報の実施例1の記載に準じて、サケ白子を前処理し、続いてプロテアーゼ及びヌクレアーゼで加水分解することにより調製されたものである。本品のGPC分析結果を
図2に、保持時間と分子量の関係を表1に示す。分子量目安の12,000はチトクロームC(MW12,400)の保持時間を基とした。
【0054】
【0055】
図2に示すとおり、A
280/A
260=0.5789(A
280は280nmにおける吸光度、A
260は260nmにおける吸光度)であり、サケ白子抽出物(SME)は核酸とタンパク質(ペプチドやアミノ酸を含む)との混合物であることがわかる。また、本品のDNA含有量は33.6%である。
【0056】
上記分析結果(波長260nmにおける吸光度)より、サケ白子抽出物の分子量による画分は以下のとおりである。
分子量12,000~5,000の画分(溶出時間20分~25分未満):0.3%
分子量5,000以下の画分(溶出時間25分以降):99.6%
以上のことから、実施例で用いたサケ白子抽出物の分子量12,000以下である画分は99.9%である。
【0057】
・DNA-Na(高分子量DNA)
DNA-Na10mgを滅菌水に溶解し、10mg/mLのDNA-Na stock溶液を調製した。
上記DNA-Naは日生バイオ株式会社の製品を使用した。この製品は、サケ白子にDNAが分解しない条件下でタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)処理を行い、酵素処理した溶液にアルコールを加えて、DNAをDNA-Na塩として抽出・精製し、乾燥することにより調製した高分子量DNAである。なお、この調製過程において、プロテアーゼ処理により生成した加水分解物は、当該DNA-Na中からは除去されている。本品のGPC分析結果を
図3に、保持時間と分子量の関係を表2に示す。分子量目安の12,000はチトクロームC(MW12,400)の保持時間を基とした。
【0058】
【0059】
上記分析結果より、DNA-Naの分子量による画分は以下のとおりである。
分子量 2,000,000~669,000画分(溶出時間 25.1分~30.3分未満):10.3%
分子量669,000以下の画分(溶出時間30.3分以降):89.4%
以上のことから、実施例で用いたDNA-Naの分子量2,000,000以下である画分は99.7%である。
【0060】
1.2.細胞培養
ヒト肝由来株化細胞(C3A)をMEM(10%FBS、1%Penicillin-Streptomycin-Neomycin)を用いて、CO2インキュベータ(37℃、5%CO2)で継代培養した。
【0061】
1.3.細胞毒性試験
C3Aを96-well plateに1.0×104cells/wellとなるように播種し、CO2インキュベータで24時間、前培養した。次にSMEあるいはDNA-Naを終濃度が0-200μg/mLとなるように添加した。21時間培養後にWST-1試薬(株式会社同仁化学研究所製)を100μL/wellずつ添加し,さらに3時間培養後,マイクロプレートリーダー(PerkinElmer ARVO MX 1420 MULTILABEL COUNTER)を用いて450nmの吸光度を測定した。細胞生存率はコントロール(0μg/mL)に対する吸光度の値から計算した(各群n=6)。
【0062】
1.4.ミトコンドリアのコピー数の解析
ミトコンドリア数は、ミトコンドリアDNAのコピー数を核DNAのコピー数で除した相対値で評価した。細胞の全DNAを回収してreal-time PCR法によりそれぞれの標的遺伝子(ミトコンドリアDNA,ND1;核DNA,GAPDH)を定量して比を求めた。
【0063】
まず、C3Aを24穴プレートに2.0×10
5cells/wellとなるように播種し、24時間培養後、上清を捨て、各ウェルにMEMを1mLずつ添加してから、水、SME(0-200μg/mL)、あるいはDNA-Na(0-2μg/mL)を添加した。24時間後、ArchivePure DNA Blood Kit(#2900257, 5 PRIME Inc.社製)を用いてDNAを抽出するために、トリプシン処理により細胞を回収した。精製されたDNAの濃度は Nano drop(Invitrogen社製)により定量された。発現量の測定には、THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix(TOYOBO社製)及び CFX ConnectリアルタイムPCR解析システム(BIO RAD社製)を用いて行い、2
-(ΔΔCT)法にて解析を行った。コントロール群を1として群間比較を行った。
図5は平均値±SDで表された(各群n=4)。
【0064】
使用したプライマーは以下の通りである。
ND1-forward (F), 5'-ATGGCCAACCTCCTACTCCT-3'(配列番号1)
ND1-reverse (R), 5'-GCGGTGATGTAGAGGGTGAT-3'(配列番号2)
GAPDH-F, 5'-GAAGGTGAAGGTCGGAGTC-3'(配列番号3)
GAPDH-R, 5'-GAAGATGGTGATGGGATTTC-3'(配列番号4)
【0065】
1.5.細胞外フラックスアナライザーXFpを用いるミトコンドリア機能の解析
C3AをXFp Cell Culture Miniplate(Agilent Technologies社製)に1.0×104cells/wellとなるように播種し、CO2インキュベータ(37℃、5%CO2)で24時間、前培養した。並行して、XFp sensor cartridgeにキャリブレーション溶液を200μL/wellずつ加え、インキュベータ(37℃、CO2制御無し)に静置しセンサを水和した。今回は細胞播種と同じタイミングで水和を開始したため48時間静置した。水和時間は12-72時間の間で行った。
【0066】
細胞を24時間前培養した後、滅菌水(コントロール)、SME stock溶液(終濃度200μg/mL)、あるいはDNA-Na stock溶液(終濃度2μg/mL)を添加した(各群n=4)。これらの添加濃度は毒性の見られなかった最大濃度に設定した。その後、CO2インキュベータで24時間培養した。
【0067】
24時間の刺激後、XFp Cell Culture Miniplateのウェル内の上清をassay mediumに交換し、インキュベータ(37℃、CO2制御無し)にて1時間静置した。その間に、水和済のXFp sensor cartridgeのキャリブレーションを、細胞外フラックスアナライザーXFp(Agilent Technologies社製)を用いて実施した。XFp Cell Culture Miniplateのインキュベート終了後、細胞外フラックスアナライザーXFpを用いて酸素消費速度(Oxygen consumption rate、OCR)の測定を行った。測定時に使用した試薬の終濃度は次の通りである:Oligomycin(終濃度:4μM)、FCCP(終濃度:1μM)、Rotenone / Antimycin A(終濃度:0.5μM)。試薬が添加されると、mix-wait-measurement(2-0-3min)の過程を4回ずつ繰り返し、次の試薬が添加されるように設定した。
【0068】
データは付属のソフトウェアであるWave ver2.3.0.19(Seahorse Bioscience社製)を用いて解析された。そのプロフィールのデータから、機能項目ごとにArea under the curve(AUC)を算出して群間を比較した。統計解析には一元配置分散分析(one-way ANOVA)を用い、Tukey’s multiple comparison test によって多群比較検定を行った。有意水準は5%とした。
【0069】
2.結果
2.1.細胞毒性
今回使用した濃度において、SMEの肝細胞への毒性は無かった(
図4)。一方、DNA-Naでは、終濃度2μg/mLまでは毒性がなかったが、終濃度20μg/mL以上で細胞毒性を認めた(*P<0.05 vs.コントロール)。
【0070】
2.2.ミトコンドリア数
細胞毒性が見られなかった濃度及びそれよりも薄い濃度において、SME添加群及びDNA-Na添加群共にミトコンドリアのコピー数に有意な変化は無かった(
図5)。
【0071】
2.3.ミトコンドリア機能
基礎呼吸のレベルの違いは認められなかったことに加え、各試薬添加における反応は典型的なプロフィールを示し、また各測定点で大きな誤差を認めなかったことから、本条件における測定の安定性や再現性は良好であった(
図6)。
【0072】
次に、このプロフィールのデータから、
図7の解説の通りにミトコンドリア機能に関するデータを算出した(
図8)。SME添加群では、Control群及びDNA-Na添加群と比べて最大呼吸及び予備呼吸能で有意な増加が観察された。その他のパラメータではControl群と比べて有意な変化は見られなかった。DNA-Na添加群では、いずれのパラメータにおいてもControl群と比べて有意な変化は見られなかった。
【0073】
3.考察
上記実施例から明らかな通り、今回の研究は、ミトコンドリア機能を活性化させる食品のスクリーニング法を確立するために実施され、検討の結果、実験条件を決定することができた。
また今回の結果から、SMEがミトコンドリアの最大呼吸及び予備呼吸能を増加させることを見いだした。特に、最大呼吸から算出される予備呼吸能は、ミトコンドリア機能の重要な側面と見なされており、基礎的なATP産生とその最大活動との差として定義される。細胞がストレスにさらされると、エネルギー需要が増加し、細胞機能を維持するためにより多くのATPが必要になる。予備呼吸容量が大きい細胞は、ATPをより多く生成し、酸化ストレスを含むより多くのストレスを克服できる(Yamamoto H, et al., Oxid Med Cell Longev, 2016:1735841, 2016; Desler C, et al., J Aging Res, 2012:Article ID 192503, 2012)。
【0074】
もし細胞の予備呼吸能が、要求されたATP量を供給するのに十分ではない場合、その細胞は老化又は細胞死に追い込まれるリスクがある。加齢、老化やミトコンドリア機能障害に伴う酸化的リン酸化の低下は、予備呼吸能を低下させ、結果として病気のリスクを増加させる。予備呼吸能の低下は、心疾患(Sansbury BE, et al., Chem-Biol Interact, 191:288-95, 2011)、神経変性疾患(Yadava N and Nicholls DG, J Neurosci, 27:7310-7, 2007; Nicholls DG. Ann NY Acad Sci, 1147:53-60, 2008)及び平滑筋の細胞死(Hill BG, et al., Biochim Biophys Acta, 1797:285-95, 2010)等の種々の病気と関連することが報告されている。SMEが予備呼吸能を高める食品であるならば、SMEは酸化的リン酸化を活発化させ、ミトコンドリア機能を高める(ミトコンドリア機能を活性化する)可能性がある。
【0075】
本発明者らは、核酸がこのミトコンドリアの活性化に寄与する可能性を考え、上記実施例においてDNA-Na群を設けたが、DNA-Naによる活性効果は認められなかった。他に、実験的に証明されている訳ではないが、SME中の豊富なアミノ酸がこれらのパラメータの増加に寄与した可能性はあると推察される。
以上より、SME中の何の成分がミトコンドリア機能に影響するかは不明であるが、その証明は科学的に重要であり、将来的な検討課題とすべきであると考える。