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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178391
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】測定装置、及び測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/62 20060101AFI20221125BHJP
【FI】
G01N21/62 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085163
(22)【出願日】2021-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100125450
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 広明
(72)【発明者】
【氏名】吉田 陽一
(72)【発明者】
【氏名】田川 精一
(72)【発明者】
【氏名】楊 金峰
(72)【発明者】
【氏名】神戸 正雄
(72)【発明者】
【氏名】菅 晃一
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA14
2G043CA05
2G043EA11
2G043HA02
2G043KA08
2G043LA01
2G043NA01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】測定対象の励起状態が形成される短時間であっても種々の反応過程における中間体を検出、又は同定する測定装置、及び測定方法を提供する。
【解決手段】測定対象Sから、ラジカル種、イオン種、電離により放出された電子、及び励起状態の群から選択される中間体を生じさせ励起パルスを発生する励起パルス源10と、該励起パルス10の発生と同時に、該中間体の励起状態、該中間体が変換した物質、該中間体が変性した物質、及び該中間体が分解した物質を発生させる第1光源20と、該中間体、又は該励起中間体が消滅するまでの少なくとも一部の時間に、該中間体、又は該励起中間体の吸収波長を含む波長帯を有する第2光パルスを発生する光源70と、該第2光パルスを受光する受光部40と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象から、ラジカル種、イオン種、電離により放出された電子、及び励起状態の群から選択される少なくとも一種の中間体を生じさせるための、該中間体が消滅するまでの時間よりも短い時間のパルス幅を有する励起パルスを発生する励起パルス源と、
前記励起パルスの発生と同時に、又は該励起パルスの発生の後であって、且つ前記中間体が消滅する前に、該中間体の励起状態、該中間体が変換した物質、該中間体が変性した物質、及び該中間体が分解した物質の群から選択される少なくとも一種である励起中間体を発生させる第1光パルスを発生する、前記励起パルス源と同期する第1光源と、
前記中間体、又は前記励起中間体が消滅するまでの少なくとも一部の時間に、前記中間体、又は前記励起中間体の吸収波長を含む波長帯を有する第2光パルスを発生する、前記励起パルス源、及び前記第1光源と同期する第2光源と、
前記第2光パルスを受光する受光部と、を備える、
測定装置。
【請求項2】
前記第2光源は、前記中間体が生じる前から、一定間隔で、又は不定間隔で前記第2光パルスを発生する、
請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記第2光源は、前記中間体、又は前記励起中間体が消滅するまで、一定間隔で、又は不定間隔で前記第2光パルスを発生する、
請求項1に記載の測定装置。
【請求項4】
前記第1光パルスのパルス幅と、前記第2光パルスのパルス幅とが、いずれも、1ピコ秒以下である、
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項5】
測定対象から、ラジカル種、イオン種、電離により放出された電子、及び励起状態の群から選択される少なくとも一種の中間体を生じさせるための、該中間体が消滅するまでの時間よりも短い時間のパルス幅を有する励起パルスを発生し該測定対象に照射する、励起パルス照射工程と、
前記励起パルスの照射と同時に、又は該励起パルスの照射の後であって、且つ前記中間体が消滅する前に、該中間体の励起状態、該中間体が変換した物質、該中間体が変性した物質、及び該中間体が分解した物質の群から選択される少なくとも一種である励起中間体を発生させる第1光パルスを、前記励起パルスと同期させて発生し、該測定対象に照射する、第1光パルス照射工程と、
前記励起中間体の消滅時間、又は前記中間体が消滅するまでの時間の少なくとも一部の時間に、前記中間体、又は前記励起中間体の吸収波長を含む波長帯を有する第2光パルスを、前記励起パルス、及び前記第1光パルスと同期させて発生し該測定対象に照射する、第2光パルス照射工程と、
前記第2光パルスを受光する受光工程と、を含む、
測定方法。
【請求項6】
前記第2光パルス照射工程は、前記中間体が生じる前から、一定間隔で、又は不定間隔で前記第2光パルスを照射する、
請求項5に記載の測定方法。
【請求項7】
前記第2光パルス照射工程は、前記中間体、又は前記励起中間体が消滅するまで、一定間隔で、又は不定間隔で前記第2光パルスを照射する、
請求項5に記載の測定方法。
【請求項8】
前記第1光パルスの第1光パルス幅と、前記第2光パルスの第2パルス幅とが、いずれも、1ピコ秒以下である、
請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は測定装置、及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、パルスラジオリシス法と呼ばれる、高エネルギー放射線が物質に照射されることにより該物質中で生じる物理化学的現象を分光により調べる測定方法が知られている。パルスラジオリシス法は、代表的には、有機材料の放射線分解機構などの解明に大きな役割を果たしてきた。
【0003】
パルスラジオリシス法においては、一般的には、放射線の照射によって物質が励起されたときに、イオン種、電子、又はラジカル種等を直接的に測定し得る時間分解光吸収による測定方法が採用されている。これまでに、本願の発明者による研究を含め、パルスラジオリシス法を用いた中間活性種等の研究が盛んに行われている。(非特許文献1乃至5)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】高速パルスラジオリシスと短寿命中間活性種の検出,楊 金峰、吉田 陽一,RADIOISOTOPES,66,2017,pp.395-406
【非特許文献2】"Ultrafastpulse radiolysis", Jinfeng Yang, Takafumi Kondoh, Koichi Kan, YoichiYoshida, Nuclear Instruments and Methods in Physics A, 629, 2011, pp. 6-10
【非特許文献3】"Femtosecondpulse radiolysis and femtosecond electron diffraction", Jinfeng Yang,Koichi Kan, Takafumi Kondoh, Yoichi Yoshida, Katsumi Tanimura, Junji Urakawa,Nuclear Instruments and Methods in Physics A, 637, 2011, S24-S29
【非特許文献4】電子線を用いたEUVレジスト感度予測法の研究,保坂 勇志,大山 智子,放射線化学,第107号,2019,pp.3-8
【非特許文献5】"Femtosecondpulse radiolysis study of geminate ion recombination in biphenyl-dodecane solution",Takafumi Kondoh, Jinfeng Yang, Kimihiro Norizawa, Koichi Kan, Takahiro Kozawa,Atsushi Ogata, Seiichi Tagawa, Yoichi Yoshida, Radiation Physics and Chemistry,84, 2013, pp.30-34
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の時間分解光吸収による測定方法として、これまでに幾つかの測定方法が開示されている。具体的には、測定対象としてのある物質に短時間の電子ビーム等の励起パルスが照射され、該物質を励起することにより反応を開始させ、その反応過程を調べるためのプローブ光が照射されることによって、吸収スペクトル、又は吸収強度の時間変化を測定する方法が例示される。この例においては、励起による該反応の反応時間に比べて短い時間の励起パルスを与えることにより、該反応過程を、プローブ光を用いた吸収測定によって分析する方法が採用されている。
【0006】
しかしながら、従来の方法では、測定対象の物質を短時間の電子ビーム等を用いて励起することにより生じる化学反応の反応過程を精緻に分析することには限界がある。上述の例を採用した場合、該反応過程の中間状態を制御しないので、その結果、該中間状態の複雑な反応、特に該反応の初期段階を含む反応過程に関する十分な情報を得ることができず、該反応過程を精緻に分析することが非常に困難である。従って、励起による該反応過程に対する精緻な分析技術の実現は、未だ道半ばといえる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、測定対象の物質のラジカル種、該物質のイオン種、該物質の電離により放出された電子、及び該物質の励起状態の群から選択される少なくとも一種(以下、「中間体」ともいう。)が出現している極めて短い時間の中においても、該物質の中間体に加えて、従来の手法では調べることができない該中間体の励起状態、該中間体が変換した物質、該中間体が変性した物質、及び該中間体が分解した物質の群から選択される少なくとも一種(以下、「励起中間体」ともいう。)による種々の反応過程における該中間体、又は該励起中間体の検出、又は同定(以下、総称して「検出」という。)、及び、該中間体、又は該励起中間体の反応過程の解明の実現に大きく貢献し得る。
【0008】
なお、本願においては、「中間体」は、上述のとおり、該物質のラジカル種、該物質のイオン種、該物質の電離により放出された電子、及び該物質の励起状態の群から選択される少なくとも一種である。また、「励起中間体」は、前述の中間体の励起状態、該中間体が変換した物質、該中間体が変性した物質、及び該中間体が分解した物質の群から選択される少なくとも一種である。
【0009】
また、本願において採用される用語である「励起中間体」は、後述する第1光パルスによって生成されるものである。加えて、「中間体の励起状態」とは、仮に該「中間体」が該物質の励起状態である場合は、その励起状態をさらに励起した状態をいう。
【0010】
従来から採用されている手段を工夫しても、上述の反応過程における中間体、及びその挙動を検出することが困難であると考えた本発明者らは、そのような中間体、及びその挙動の検出を可能にする新たな装置の構成、及び手段を実現するために鋭意研究と分析を重ねた。その結果、本発明者らは、複数のパルス光源を用いるとともに、各々の該光源に異なる役割を担わせることにより、そのような出現している時間の短い中間体であっても、確度高く検出、及び解明することができる装置、及び方法を見出した。
【0011】
具体的には、測定対象となる物質の該中間体が消滅する前の短時間において、1つの光パルスを導入して更なる新たな反応、又は新たな状態をいわば強制的に生じさせる(例えば、励起中間体を生成する)とともに、他の光パルスを用いて新たな該反応、又は該状態を検出、及び解明し得ることを本発明者らは見出した。加えて、本発明者らは、前述の1つの光パルスが、該中間体を形成するための励起パルスでは生じさせることができない新たな反応を生じさせ得ることも併せて知得した。その後、試行錯誤を重ねた結果、本発明者らは、上述の課題の少なくとも一部を解決し得ることを知得した。本発明は上述の知見に基づいて創出された。
【0012】
本発明の1つの測定装置は、測定対象から、ラジカル種、イオン種、電離により放出された電子、及び励起状態の群から選択される少なくとも一種の中間体を生じさせるための、該中間体が消滅するまでの時間よりも短い時間のパルス幅を有する励起パルスを発生する励起パルス源と、該励起パルスの発生と同時に、又は該励起パルスの発生の後であって、且つ該中間体が消滅する前に、該中間体の励起状態、該中間体が変換した物質、該中間体が変性した物質、及び該中間体が分解した物質の群から選択される少なくとも一種である励起中間体を発生させる第1光パルスを発生する、該励起パルス源と同期する第1光源と、該中間体、又は該励起中間体が消滅するまでの少なくとも一部の時間に、該中間体、又は該励起中間体の吸収波長を含む波長帯を有する第2光パルスを発生する、該励起パルス源、及び該第1光源と同期する第2光源と、該第2光パルスを受光する受光部と、を備える。
【0013】
この測定装置は、上述の、励起パルス源、第1光パルスを発生する第1光源、第2光パルスを発生する第2光源、及び該第2光パルスを受光する受光部を採用する。従って、この測定装置によれば、少なくとも次の(1)又は(2)に示す効果が奏され得る。
(1)測定対象に励起パルスが照射されることによって生じる中間体に対して、第1光パルスを用いて新たな反応を生じさせ得ること。
(2)第1光パルスによって生じた、該中間体、又は該励起中間体の吸収波長を含む波長帯を有する第2光パルスを用いて、該中間体、又は該励起中間体を検出し、その反応過程を解明し得ること。
【0014】
なお、上述の測定装置の励起パルス源、第1光源、及び第2光源については、該励起パルス源と該第1光源とを同期させるため、及び/又は該励起パルス源と該第1光源と該第2光源とを同期させるための制御部を、上述の測定装置がさらに備えることは、好適な一態様である。
【0015】
また、本発明の1つの測定方法は、測定対象から、ラジカル種、イオン種、電離により放出された電子、及び励起状態の群から選択される少なくとも一種の中間体を生じさせるための、該中間体が消滅するまでの時間よりも短い時間のパルス幅を有する励起パルスを発生し該測定対象に照射する、励起パルス照射工程と、該励起パルスの照射と同時に、又は該励起パルスの照射の後であって、且つ該中間体が消滅する前に、該中間体の励起状態、該中間体が変換した物質、該中間体が変性した物質、及び該中間体が分解した物質の群から選択される少なくとも一種である励起中間体を発生させる第1光パルスを、該励起パルスと同期させて発生し、該測定対象に照射する、第1光パルス照射工程と、該励起中間体の消滅時間、又は該中間体が消滅するまでの時間の少なくとも一部の時間に、該中間体、又は該励起中間体の吸収波長を含む波長帯を有する第2光パルスを、該励起パルス、及び該第1光パルスと同期させて発生し該測定対象に照射する、第2光パルス照射工程と、該第2光パルスを受光する受光工程と、を含む。
【0016】
この測定方法は、上述の、励起パルス照射工程、第1光パルス照射工程と、第2光パルス照射工程、及び受光工程を採用する。従って、この測定方法によれば、少なくとも次の(3)又は(4)に示す効果が奏され得る。
(3)測定対象に励起パルスが照射されることによって生じる中間体に対して、第1光パルスを用いて新たな反応を生じさせ得ること。
(4)第1光パルスによって生じた、該中間体、又は該励起中間体の吸収波長を含む波長帯を有する第2光パルスを用いて、該中間体、又は該励起中間体を検出し、その反応過程を解明し得ること。
【発明の効果】
【0017】
本発明の1つの測定装置、及び1つの測定方法によれば、少なくとも、次の2つの効果が奏され得る。まず、測定対象に励起パルスが照射されることによって生じる中間体に対して、第1光パルスを用いて新たな反応を生じさせ得る。加えて、第1光パルスによって生じた該中間体の励起状態である該励起中間体の吸収波長を含む波長帯を有する第2光パルスを用いて、該中間体、又は該励起中間体を検出し、その反応過程を解明し得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1の実施形態の測定装置の概要構成図である。
図2】第1の実施形態の測定装置の受光部によって取得された、第2光パルスの吸光度の時間変化の例を表すグラフである。
図3】第1の実施形態の測定方法によって得られる、励起パルス、及び第1光パルスの導入時期を固定したうえで、第2光パルスを用いて検出した吸光度の時間変化の例を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。なお、この説明に際し、以下の実施形態の要素のそれぞれは、必ずしも互いの縮尺比を保って示されてはいない。
【0020】
<第1の実施形態>
[測定装置の構成]
図1は、本実施形態の測定装置100の概要構成図である。
【0021】
本実施形態の測定装置100は、測定対象となる試料Sを構成する物質から生成される、代表的には、該物質のラジカル種、該物質のイオン種、該物質の電離により放出された電子、及び該物質の励起状態の群から選択される少なくとも一種の中間体及び/又は前述の中間体の励起状態、該中間体が変換した物質、該中間体が変性した物質、及び該中間体が分解した物質の群から選択される少なくとも一種である励起中間体を検出、又は同定(以下、総称して「検出」という。)、及び、該中間体、又は該励起中間体の反応過程の解明するための装置である。
【0022】
本実施形態においては、励起パルス(一例として電子線パルス)10aを発生する励起パルス源10と、第1光パルス20aを発生する第1光源20と、第2光パルス70aを発生する第2光源70と、励起パルス源10と試料Sとの間に配置されるミラー50と、試料Sを励起パルス10aが通過した後の位置に配置される第1ハーフミラー60と、第2光パルス70bを反射して第1光パルス20bの進行方法と同方向に向きを変える第2ハーフミラー90と、受光部40と、を備える。
【0023】
なお、本実施形態の測定装置100は、励起パルス源10から発生する励起パルス10aに対して、第1光パルス20aを試料Sに照射する時期を調整するための第1光学遅延装置30と、第2光パルス70aを試料Sに照射する時期を調整するための第2光学遅延装置80と、をさらに備える。測定装置100において、第1光学遅延装置30、及び第2光学遅延装置80は、それぞれの光パルスの試料Sへの照射タイミングが好適となるよう、光路長を調整する光学系を構成する役割を担っている。
【0024】
また、本実施形態においては、第1光源20は、励起パルス源10と同期する。また、第2光源70は、励起パルス源10、及び第1光源20と同期する。従って、励起パルス源10、第1光源20、及び第2光源70は、同期している。また、本実施形態においては、励起パルス源10、第1光源20、及び第2光源70の各パルス幅は、適宜調整され得る。
【0025】
また、第2光源70からの第2光パルス70aの波長帯は、測定対象の中間体、又は励起中間体の吸収波長を含む波長帯を有するように設定される。
【0026】
ところで、励起パルス源10、第1光源20、及び第2光源70、及び受光部40は、本実施形態の測定方法を実現し得る機能を有する装置、又は機器であれば、特に限定されない。励起パルス源10の例は、レーザーフォトカソードRF電子銃電子加速器である。また、第1光源20の例は、フェムト秒オーダーのパルスを発生し得るチタンサファイアレーザーである。また、第2光源70の例は、チタンサファイアレーザーを励起光とする光パラメトリック発振器である。また、受光部40の例は、フォトダイオード、又は光電子増倍管である。第2光源70の他の例は、チタンサファイアレーザーを励起光とするスーパーコンティニューム光源である。この場合、受光部40の例は、マルチチャンネル分光器を備えるフォトダイオードアレイや電荷結合素子(CCD)、マルチチャンネルプレート等の受光素子である。
【0027】
[測定方法]
本実施形態においては、測定装置100を用いて次のように試料Sとなる物質から中間体、及び励起中間体を検出することができる。
【0028】
図1に示すように、まず、励起パルス源10からの励起パルス10aが、測定対象としての試料Sに照射される(励起パルス照射工程)。その結果、試料Sに、中間体を生じさせることになる。
【0029】
この励起パルスは、試料Sから中間体を生じさせるための、該中間体が消滅するまでの時間よりも短い時間のパルス幅を有する励起パルスである。
【0030】
本実施形態の効果が損なわれない限り、励起パルスの一例である電子線パルスのエネルギー、パルス幅、及び電子数は限定されない。なお、代表的な電子線パルスのエネルギーは、10MeV(メガ電子ボルト)以上50MeV以下である。また、代表的な電子線パルスのパルス幅は、10fs(フェムト秒)以上1ns(ナノ秒)以下である。加えて、代表的な電子線パルスの電子数は、10個以上1011個以下である。
【0031】
励起パルス照射工程における励起パルスの照射と同時に、又は該励起パルスの照射の後に、第1光源20を用いて、励起パルスと同期させた第1光パルス20bを、試料Sに照射する(第1光パルス照射工程)。
【0032】
具体的には、第1光源20は、該中間体の消滅より短い時間に、該励起中間体を生じさせる第1光パルス20aを発生する。上述のとおり、第1光源20からの第1光パルス20bは、該中間体の励起中間体を生成し得る。
【0033】
このとき、該励起中間体を生じさせるために、第1光パルス20aの波長(エネルギー)が適宜選定される。また、第1光パルス20bが試料Sに照射される時期が、前述の中間体が生成され得る時期に合わせることによって、確度高く該中間体の励起中間体が検出され得る。
【0034】
本実施形態の効果が損なわれない限り、第1光パルスの波長、強度、及びパルス幅は限定されない。なお、代表的な第1光パルスの波長は、200nm(ナノメートル)以上1000nm以下である。また、代表的な第1光パルスの強度は、0.1mJ(ミリジュール)/cm以上1mJ/cm以下である。加えて、代表的な第1光パルスのパルス幅は、10fs(フェムト秒)以上1ps(ピコ秒)以下である。
【0035】
第1光パルス20aは、第1光学遅延装置30によって試料Sに照射される時期が調整された後、ミラー50を用いて励起パルスと同方向に向きを変えられ、第1光パルス20bとして試料Sに照射される。
【0036】
次に、該励起中間体が消滅するまでの少なくとも一部の時間に、第2光源70を用いて、励起パルス、及び第1光パルスと同期させた第2光パルス70bを、試料Sに照射する(第2光パルス照射工程)。
【0037】
具体的には、第2光源70は、該励起パルス照射前から該中間体、又は該励起中間体が消滅するまでの少なくとも一部の時間、又は全部の時間に、該中間体、又は該励起中間体の吸収波長を含む波長帯を有する第2光パルス70aを発生する。このとき、該中間体、又は該励起中間体を検出するために、第2光パルス70aの波長帯(エネルギー)が適宜選定される。
【0038】
第2光パルス70aは、第2光学遅延装置80によって試料Sに照射される時期が調整された後、第2ハーフミラー90を用いて第1光パルスと同方向に向きを変えられ、さらに、ミラー50によって励起パルスと同方向に向きを変えられた後、試料Sに照射される
【0039】
第2光パルス70bは、試料Sを通過した後、図1に示す第1ハーフミラー60を用いて向きを変えられ、第2光パルス70cとして受光部40に入射する。その結果、受光部40は、第2光パルス70cを受光する(受光工程)。
【0040】
本実施形態の効果が損なわれない限り、第2光パルスの波長、強度、及びパルス幅は限定されない。なお、代表的な第2光パルスの波長は、250nm以上1500nm以下である。また、代表的な第2光パルスの強度は、0.002mJ/cm以上1mJ/cm以下である。加えて、代表的な第2光パルスのパルス幅は、10fs以上1ps以下である。
【0041】
上述のとおり、本実施形態の測定方法においては、測定装置100を用いて、試料Sに対して、励起パルス10a、第1光パルス20b、及び第2光パルス70bを上述の時期、又は時間に照射することにより、試料Sの該中間体が出現している極めて短い時間の中においても、従来の手法では調べることができない種々の該励起中間体を検出し、その種々の反応過程を解明し得ることは特筆に値する。
【0042】
なお、本実施形態の測定装置100、及び測定方法においては、励起パルス源10、第1光源20、及び第2光源70のそれぞれから出射される励起パルスのパルス幅、第1光パルス、及び第2光パルスの各パルス幅は、測定の目的、測定対象、又は測定条件(測定環境を含む)に合わせて適宜調整され得る。なお、代表的な第1光パルスのパルス幅と、第2光パルスのパルス幅は、いずれも、10fs以上1ps以下である。
【0043】
また、励起パルスに対する、第1光パルス、又は第2光パルスが試料Sに照射される時期は、上述のとおり、第1光学遅延装置30、又は第2光学遅延装置80によって、適宜調整され得る。加えて、励起パルスのエネルギー、並びに第1光パルス、及び第2光パルスの各波長帯(エネルギー)は、測定の目的、測定対象、又は測定条件(測定環境を含む)に合わせて適宜調整され得る。
【0044】
<実施例>
以下、上述の実施形態をより詳細に説明するために、実施例を挙げて説明するが、上述の実施形態は下記の例によって限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
まず、実施例1においては、第1の実施形態の測定装置100を用いて、第1の実施形態の測定方法により、化学物質のドデカン(n-Dodecane)を測定対象(図1の試料S)として、該中間体、又は該励起中間体等が調査、及び分析された。なお、ドデカンは、例えば、以下の(i)~(iv)(但し、これらに限られない)において広く用いられている物質又は材料であることから、実施例の測定対象としては好適な一例である。
(i)薬品製造をはじめとする化学産業における有機合成原料、溶媒、及び触媒
(ii)原子力産業におけるウラン又はプルトニウムの抽出溶媒
(iii)金属機械産業における金属洗浄剤及び潤滑剤
(iv)各種産業における溶剤及び絶縁材料
【0046】
本実施例における測定条件は、次のとおりである。
(a)励起パルス(エネルギー,パルス幅,電子数):36MeV(メガ電子ボルト),1ps(ピコ秒),10個電子
(b)第1光パルス(波長,強度,パルス幅):800nm,0.3mJ/cm,100fs
(c)第2光パルス(波長,強度,パルス幅):800nm,0.02mJ/cm,100fs
【0047】
(実施例2)
次に、実施例2においては、第2光パルスの条件の一部を変更した点を除き、実施例1の条件と同じである。具体的な実施例2の測定条件は、次のとおりである。
(a)励起パルス(エネルギー,パルス幅,電子数):36MeV(メガ電子ボルト),1ps(ピコ秒),10個電子
(b)第1光パルス(波長,強度,パルス幅):800nm,0.5mJ/cm,100fs
(c)第2光パルス(波長,強度,パルス幅):250nm,0.02mJ/cm,100fs、及び800nm,0.02mJ/cm,100fs
【0048】
図2は、第1の実施形態の測定装置100の受光部40によって取得された、実施例1による、第2光パルスの波長における試料Sの吸光度の時間変化を表すグラフである。励起パルスを照射しないときは、吸光度は0(ゼロ)であるが、励起パルスの照射により中間体が生成され、該中間体の濃度の時間変化が吸光度の時間変化として観測される。第1光パルスを照射しない場合は、吸光度はなだらかに減衰しているが(図2の最下段)、第1光パルスを照射した場合は、その直後に吸光度が急激に減少し、その後、吸光度がほぼ回復することが観測される(図2の最下段以外)。第1光パルスの照射時期により、この吸光度の減少時期を制御することができ、従って、励起パルスにより発生した中間体の反応の進行、特性等の情報を第1光パルスの照射時期の関数として解析することができる。第1光パルスの照射時期は、励起パルスの照射時期を基準(ゼロ)として、51ps(ピコ秒)後(図2の下から2段目)、90ps(ピコ秒)後(図2の下から3段目)、及び155ps(ピコ秒)後(図2の最上段)のように制御されている。このとき、吸光度の減少量は、第1光パルスの強度と中間体の量、及び第1光パルスの照射時期に依存する。また、吸光度の減衰の特性は、該中間体の種類に依存する。これらの情報を分析することにより、該中間体、及び該励起中間体の種類、量、及び/又は挙動を特定することが可能となる。
【0049】
図3は、実施例2における、励起パルス(図3のE(一点鎖線))、及び第1光パルス(図3のF(実線))の照射時期、及び第2光パルスの波長における試料Sの吸光度の時間変化(S、及びS)を表すグラフである。なお、励起パルス及び第1光パルスの導入時期が示されている。グラフの下側は、励起パルス、及び第1光パルスの照射時期を示し、縦軸は、電子線パルス、又は第1光パルスの強度を示している。また、グラフの上側は、グラフの下側と時間軸を合わせたうえで、吸光度(縦軸)の時間変化(横軸)を示している。
【0050】
図3に示すSは、第2光パルスの波長が250nmの場合である。Sにおいては、第1光パルスの照射(図3のT)により、吸光度は急激に増大し、その後ゆるやかに減衰している。減衰の傾向は、第1光パルスが照射されない場合に、別の測定から得られた減衰傾向(破線)と一致する。図3のSに示す結果は、励起パルスによって生成した中間体が、第1光パルスによって励起中間体として生成したことを示している。
【0051】
一方、図3に示すSは、第2光パルスの波長が800nmの場合である。Sにおいては、第1光パルスの照射(図3のT)により吸光度は急激に減少し、その後、強度の回復は限定的であるとともに、第1光パルスを照射する前の減衰時定数により減衰することが測定される。これらの情報を解析することにより、中間体の種類、量、及び/又は生成機序、挙動を特定することが可能となる。また、励起パルスの照射のみとは異なる反応経路が誘起され、より効率の高い反応経路を見出すことが可能となる。また、中間体及び励起中間体の生成機序の解明は、中間体の種類と量の制御法の開発に繋がり、従って、これまでの励起パルスの照射だけでは制御しきれなかった、反応全体に対する最適化を図ることが可能となる。これらの技術は、副生成物の量や数を減らし、主生成物の収率と純度を向上することに資する。
【0052】
ところで、第2光パルスを照射する時間は、励起パルスを測定対象(図1の試料S)に照射することで生成する中間体の消滅よりも前の少なくとも一部の時間である。従って、例えば、図3における第2光パルスを照射する時間の始期は、少なくとも励起パルスが照射される時間「0(ゼロ、T)」以前(より限定的には、Tよりも前)に設定される。代表的には、該始期は、Tよりも100ps(ピコ秒)前に設定される。なお、図3に示すように、第2光パルスの照射が、励起パルスが照射される前から行われることは、より確度高く励起パルスにより生成される中間体を検出する観点から好適な一態様である。
【0053】
一方、図3における第2光パルスを照射する時間の終期は、励起パルス、及び第1光パルスによる前述の該中間体、又は該励起中間体が生じている全期間に渡って、一定間隔で、又は不定間隔で第2光パルスを照射することが好ましいため、該中間体、又は該励起中間体を検出するための時間が含まれる限り、限定されない。従って、上述の該中間体、又は該励起中間体が消滅するまでの期間の内、全て、又は一部の期間に渡って、一定間隔で、又は不定間隔で第2光パルスを照射することは好適な一態様である。なお、より確度高く該中間体、又は該励起中間体を検出する観点から言えば、上述の期間の全てについて一定間隔で第2光パルスを照射することが好ましい。
【0054】
しかしながら、図3における約100ps(ピコ秒)以降の吸光度の時間変化が示すような曲線を描く吸光度の減衰が確認される場合は、図3のグラフのように、上述の該中間体、又は該励起中間体が消滅するまでの期間全体に渡って第2光パルスの照射をしなくても、第1の実施形態の測定装置100、及び第1の実施形態の測定方法の効果と同等の効果が奏され得る。
【0055】
以上述べたとおり、上述の実施形態、及び各実施例の開示は、該実施形態、及び該実施例の説明のために記載したものであって、本発明を限定するために記載したものではない。加えて、該実施形態、及び該実施例の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する他の変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の測定装置、及び測定方法は、測定対象の物質からの上述の中間体、又は上述の励起中間体等が出現している極めて短い時間の中での該中間体、及び該励起中間体の検出、及び反応過程の解明により、薬品産業、化学産業、原子力産業、電力産業、機械産業、ナノテクノロジー産業、及び素材産業等における各種の化学合成技術分野において広く利用され得る。
【符号の説明】
【0057】
10 励起パルス源
10a 励起パルス
20 第1光源
20a,20b 第1光パルス
30 第1光学遅延装置
40 受光部
50 ミラー
60 第1ハーフミラー
70 第2光源
70a,70b,70c 第2光パルス
80 第2光学遅延装置
90 第2ハーフミラー
100 測定装置
図1
図2
図3