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特開2022-178681日射遮蔽材料、日射遮蔽材料分散体、日射遮蔽透明基材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178681
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】日射遮蔽材料、日射遮蔽材料分散体、日射遮蔽透明基材
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20221125BHJP
   C01B 35/04 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
C09K3/00 105
C01B35/04 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085643
(22)【出願日】2021-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】吉尾 里司
(57)【要約】
【課題】可視光透明性が高く、近赤外光の遮蔽特性に優れた日射遮蔽材料を提供する。
【解決手段】希土類元素から選択された1種類以上である元素Rと、ホウ素とを含む六ホウ化物を含有し、前記六ホウ化物の価数xが、0<x<0.3である日射遮蔽材料を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素から選択された1種類以上である元素Rと、ホウ素とを含む六ホウ化物を含有し、前記六ホウ化物の価数xが、0<x<0.3である日射遮蔽材料。
【請求項2】
前記元素RがLaである請求項1に記載の日射遮蔽材料。
【請求項3】
前記六ホウ化物は、(R1-aA1)(B6-bA2)で表記され、A1、A2は置換元素または空孔であり、aは0≦a<1、bは0≦b<6を充足する請求項1または請求項2に記載の日射遮蔽材料。
【請求項4】
前記A1がSr、Baから選択された1種類以上であり、前記A2がBe、Mgから選択された1種類以上である請求項3に記載の日射遮蔽材料。
【請求項5】
固体媒体と、
前記固体媒体中に配置された請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の日射遮蔽材料と、を含み、
前記固体媒体が樹脂またはガラスである日射遮蔽材料分散体。
【請求項6】
透明基材と、
前記透明基材の少なくとも一方の面上に配置された日射遮蔽層と、を有し、
前記日射遮蔽層が、請求項5に記載の日射遮蔽材料分散体である日射遮蔽透明基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日射遮蔽材料、日射遮蔽材料分散体、日射遮蔽透明基材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の窓には、可視光を十分に透過し、かつ熱線と呼ばれる近赤外光を遮蔽することが求められるようになっている。
【0003】
そこで、窓に用いるガラスや樹脂等に近赤外光を遮蔽できる日射遮蔽材料を含ませる方法が用いられており、例えば特許文献1にはホウ化物微粒子を含有する熱線遮蔽材料が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-72484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ホウ化物粒子のうち、六ホウ化物粒子は高い近赤外光の遮蔽特性と可視光透明性(可視光透過性)を併せもつ有力な日射遮蔽材料であり工業的にも広く利用されている。
【0006】
しかし、六ホウ化物粒子には、近赤外光の吸収が一部可視光の高波長側にかかるため、可視光の赤み成分が透過しないという課題があった。
【0007】
そこで上記従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、可視光透明性が高く、近赤外光の遮蔽特性に優れた日射遮蔽材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
希土類元素から選択された1種類以上である元素Rと、ホウ素とを含む六ホウ化物を含有し、前記六ホウ化物の価数xが、0<x<0.3である日射遮蔽材料を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、可視光透明性が高く、近赤外光の遮蔽特性に優れた日射遮蔽材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例1で得られた吸収効率のプロファイルである。
図2図2は、実施例2で得られた吸収効率のプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[日射遮蔽材料]
本実施形態の日射遮蔽材料について説明する。
【0012】
本実施形態の日射遮蔽材料は、希土類元素から選択された1種類以上である元素Rと、ホウ素とを含む六ホウ化物を含有できる。そして、六ホウ化物の価数xを、0<x<0.3とすることができる。なお、本実施形態の日射遮蔽材料は、上記六ホウ化物のみから構成されてもよいが、この場合も不可避不純物を含有することを排除するものではない。
【0013】
本発明の発明者は可視光透明性が高く、かつ近赤外光の遮蔽性能に優れた六ホウ化物を得るために、計算機上で各化合物の光学特性を計算し、探索を行った。
【0014】
具体的には、六ホウ化物や、その置換物について、光学特性を計算し、比較を行うことで探索を行った。
【0015】
光学特性はバルクの誘電関数を第一原理計算により求め、半径20nmの球形とした場合の吸収効率をmie散乱理論により推定して算出した。
【0016】
その結果、希土類元素から選択された1種類以上である元素Rと、ホウ素とを含む六ホウ化物の自由電子を少なくすることで、可視光透明性が高く、近赤外光の遮蔽特性に優れた日射遮蔽材料にできることを見出した。
【0017】
六ホウ化物の自由電子を少なくすることで、自由電子による可視光の吸収が低減し、可視光領域のうち低エネルギー側の透過性能が向上するため、赤色の透明性が向上する。また、可視光領域や近赤外領域には新たな吸収ピークはほとんど発現しない。このため、本実施形態の日射遮蔽材料によれば、可視光透明性と近赤外光の吸収性能を高いレベルで両立することが可能である。
【0018】
上記六ホウ化物の価数xは、過度に大きくなると自由電子による近赤外領域の光の吸収性能が失われるため、0<x<0.3の範囲が好ましい。
【0019】
上記六ホウ化物は、例えば(RB+xの様に表記でき、Rは元素Rを、Bはホウ素を表している。後述するように例えば元素Rやホウ素の一部を置換元素や空孔等により置換することもできるため、元素Rと、ホウ素との物質量比が1:6からずれる場合もある。このため、上記六ホウ化物は、(RB+xと類似の電子構造をもつ材料や、形式的に上記表記とできる材料ということもできる。なお、上記式中の+xは六ホウ化物の価数を意味している。
【0020】
六ホウ化物の自由電子を少なくする方法としては、例えば六ホウ化物が含有する元素Rまたはホウ素を電子数の少ない元素で置換する方法の他、還元溶液中で分散させる方法などが挙げられる。
【0021】
このため、本実施形態の日射遮蔽材料が含有する六ホウ化物は、例えば(R1-aA1)(B6-bA2)で表記することもできる。上記式中のA1、A2はそれぞれ置換元素または空孔であり、aは0≦a<1、bは0≦b<6を満たす。bは例えば0≦b<2であることが好ましい。上記六ホウ化物である(R1-aA1)(B6-bA2)の価数xは0<x<0.3、すなわち0より大きく+0.3未満となる。このため、(R1-aA1)(B6-bA2+xの様に表記してもよい。
【0022】
A1、A2は特に限定されず、上述のように置換元素または空孔とすることができる。A1としては例えばSr、Baから選択された1種類以上が、A2としては例えばBe、Mgから選択された1種類以上が挙げられる。
【0023】
六ホウ化物の元素Rは、Laであることが好ましい。これは元素RとしてLaを用いることで、近赤外線の吸収特性が特に高められるからである。
【0024】
本実施形態の日射遮蔽材料の製造方法は特に限定されず、例えば置換前のRBと、置換元素であるA1またはA2を含む化合物との混合物を焼成する方法や、置換前のRBを還元雰囲気で焼成する方法、還元溶液中に分散する方法等が挙げられる。
【0025】
例えば、元素RがLa、A1がCaの場合、Laを含有する化合物と、Bを含有する化合物と、Caを含有する化合物を混合し、原料混合物を調製できる。Laを含有する化合物としては、例えばLa等が挙げられる。Bを含有する化合物としてはBC等が挙げられる。また、Caを含有する化合物としてはCaO等が挙げられる。なお、原料混合物は目的とする組成に応じた割合で各原料を含有できる。
【0026】
そして、得られた原料混合物を必要に応じてペレット等に成形し、焼成することで、六ホウ化物を得ることができる。焼成条件は特に限定されないが、例えば真空雰囲気で、2100℃程度の温度で焼成することができる。
【0027】
そして、必要に応じて得られた焼成物を粉砕し、所望の粒径に調整することもできる。
[日射遮蔽材料分散液]
次に、本実施形態の日射遮蔽材料分散液の一構成例について説明する。
【0028】
本実施形態の日射遮蔽材料分散液は、既述の日射遮蔽材料と、水、有機溶媒、油脂、液状樹脂、液状可塑剤から選択された1種類以上である液状媒体と、を含むことができる。日射遮蔽材料分散液は、液状媒体に、日射遮蔽材料が分散された構成を有することが好ましい。
【0029】
液状媒体としては、既述の様に、水、有機溶媒、油脂、液状樹脂、液状可塑剤から選択された1種類以上を用いることができる。
【0030】
有機溶媒としては、アルコール系、ケトン系、炭化水素系、グリコール系、水系など、種々のものを選択することが可能である。具体的には、イソプ口ピルアルコール、メタノール、エタノール、1-プ口パノール、イソプ口パノール、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール、1-メトキシ-2-プ口パノールなどのアルコール系溶媒;ジメチルケトン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブ口ピルケトン、メチルイソブチルケトン、シク口ヘキサノン、イソホ口ンなどのケトン系溶媒;3-メチルーメトキシ-プ口ピオネ一卜、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールイソプ口ピルエーテル、プ口ピレングリコールモノメチルエーテル、プ口ピレングリコールモノエチルエーテル、プ口ピレングリコールメチルエーテルアセテ一卜、プ口ピレングリコールエチルエーテルアセテ一卜などのグリコール誘導体;フォルムアミド、Nーメチルフォルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセ卜アミド、N-メチル-2-ピ口リドンなどのアミド類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;エチレンク口ライド、ク口ルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類等から選択された1種類以上を挙げることができる。
【0031】
もっとも、これらの中でも極性の低い有機溶媒が好ましく、特に、イソプ口ピルアルコール、エタノール、1-メトキシ-2-プ口パノール、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、プ口ピレングリコールモノメチルエーテルアセテー卜、酢酸n-ブチルなどがより好ましい。これらの有機溶媒は、1種または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
油脂としては例えば、アマニ油、ヒマワリ油、桐油等の乾性油、ゴマ油、綿実油、菜種油、大豆油、米糠油等の半乾性油、オリーブ油、ヤシ油、パーム油、脱水ヒマシ油等の不乾性油、植物油の脂肪酸とモノアルコールを直接エステル反応させた脂肪酸モノエステル、エーテル類、アイソパー(登録商標) E、エクソール(登録商標) Hexane、Heptane、E、D30、D40、D60、D80、D95、D110、D130(以上、エクソンモービル製)等の石油系溶剤から選択された1種類以上を用いることができる。
【0033】
液状樹脂としては、例えば液状アクリル樹脂、液状エポキシ樹脂、液状ポリエステル樹脂、液状ウレタン樹脂等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0034】
液状可塑剤としては、例えばプラスチック用の液状可塑剤等を用いることができる。
【0035】
日射遮蔽材料分散液が含有する成分は、上述の日射遮蔽材料、および液状媒体のみに限定されない。日射遮蔽材料分散液は、必要に応じてさらに任意の成分を添加、含有することもできる。
【0036】
例えば、日射遮蔽材料分散液に必要に応じて酸やアルカリを添加して、当該分散液のpHの調整をしてもよい。
【0037】
また、上述した日射遮蔽材料分散液中において、日射遮蔽材料の分散安定性を一層向上させ、再凝集による分散粒径の粗大化を回避するために、各種の界面活性剤、カップリング剤等を分散剤として日射遮蔽材料分散液に添加することもできる。
【0038】
当該界面活性剤、カップリング剤等の分散剤は用途に合わせて選定可能であるが、該分散剤は、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、およびエポキシ基から選択された1種類以上を官能基として有するものであることが好ましい。これらの官能基は、日射遮蔽材料の表面に吸着して凝集を防ぎ、日射遮蔽材料を用いて成膜した日射遮蔽膜中においても日射遮蔽材料を均一に分散させる効果をもつ。上記官能基(官能基群)から選択された1種類以上を分子中にもつ高分子系分散剤がさらに望ましい。
【0039】
好適に用いることができる市販の分散剤としては、ソルスパース(登録商標)9000、12000、17000、20000、21000、24000、26000、27000、28000、32000、35100、54000、250(日本ルーブリゾール株式会社製)、EFKA(登録商標) 4008、4009、4010、4015、4046、4047、4060、4080、7462、4020、4050、4055、4400、4401、4402、4403、4300、4320、4330、4340、6220、6225、6700、6780、6782、8503(エフカアディティブズ社製)、アジスパー(登録商標) PA111、PB821、PB822、PN411、フェイメックスL-12 (昧の素ファインテクノ株式会社製)、DisperBYK (登録商標) 101、102、106、108、111、116、130、140、142、145、161、162、163、164、166、167、168、170、171、174、180、182、192、193、2000、2001、2020、2025、2050、2070、2155、2164、220S、300、306、320、322、325、330、340、350、377、378、380N、410、425、430(ピックケミ一・ジャパン株式会社製)、ディスパ口ン(登録商標) 1751N、1831、1850、1860、1934、DA-400N、DA-703-50、DA-725、DA-705、DA-7301、DN-900、NS-5210、NVI-8514L(楠本化成株式会社製)、アルフォン(登録商標) UC-3000 、UF-5022、UG-4010、UG-4035、UG-4070(東亞合成株式会社製)等から選択された1種類以上が、挙げられる。
【0040】
日射遮蔽材料の液状媒体への分散処理方法は、日射遮蔽材料を液状媒体中へ分散できる方法であれば、特に限定されない。この際、日射遮蔽材料の平均粒径が200nm以下、となるように分散できることが好ましく、0.1nm以上200nm以下となるように分散できることがより好ましい。
【0041】
日射遮蔽材料の液状媒体への分散処理方法としては、例えば、ビーズミル、ポールミル、サンドミル、ペイントシェー力一、超音波ホモジナイザーなどの装置を用いた分散処理方法が挙げられる。その中でも、媒体メディア(ビーズ、ポール、オタワサンド)を用いるビーズミル、ポールミル、サンドミル、ペイントシェーカー等の媒体撹拌ミルで粉砕、分散させることが所望とする平均粒径とするために要する時間を短縮する観点から好ましい。媒体撹拌ミルを用いた粉砕-分散処理によって、日射遮蔽材料の液状媒体中への分散と同時に、日射遮蔽材料同士の衝突や媒体メディアの日射遮蔽材料への衝突などによる微粒子化も進行し、日射遮蔽材料をより微粒子化して分散させることができる。すなわち、粉砕-分散処理される。
【0042】
日射遮蔽材料の平均粒径は、上述のように0.1nm以上200nm以下であることが好ましい。これは、平均粒径が小さければ、幾何学散乱もしくはミー散乱による、波長400nm以上780nm以下の可視光領域の光の散乱が低減される結果、例えば本実施形態の日射遮蔽材料分散液を用いて得られる、日射遮蔽材料が樹脂等に分散した日射遮蔽材料分散体が曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られなくなるのを回避できるからである。すなわち、平均粒径が200nm以下になると、光散乱は上記幾何学散乱もしくはミー散乱のモードが弱くなり、レイリー散乱モードになる。レイリー散乱領域では、散乱光は分散粒径の6乗に比例するため、分散粒径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上するからである。そして、平均粒径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。
【0043】
ところで、本実施形態の日射遮蔽材料分散液を用いて得られる、日射遮蔽材料が樹脂等の固体媒体中に分散した日射遮蔽材料分散体内の日射遮蔽材料の分散状態は、固体媒体への分散液の公知の添加方法を行う限り該分散液の日射遮蔽材料の平均粒径よりも凝集することはない。
【0044】
また、日射遮蔽材料の平均粒径が0.1nm以上200nm以下であれば、製造される日射遮蔽材料分散体やその成形体(板、シートなど)が、単調に透過率の減少した灰色系のものになってしまうことを回避できる。
【0045】
本実施形態の日射遮蔽材料分散液中の日射遮蔽材料の含有量は特に限定されないが、例えば0.01質量%以上80質量%以下であることが好ましい。これは日射遮蔽材料の含有量を0.01質量%以上とすることで十分な日射透過率を発揮できるからである。また、80質量%以下とすることで、日射遮蔽材料を分散媒内に均一に分散させることができるからである。
[日射遮蔽材料分散体]
次に、本実施形態の日射遮蔽材料分散体について説明する。
【0046】
本実施形態の日射遮蔽材料分散体は、固体媒体と、固体媒体中に配置された既述の日射遮蔽材料とを含むことができる。なお、日射遮蔽材料は、固体媒体中に分散されていることが好ましい。
【0047】
以下、本実施形態に係る日射遮蔽材料分散体について、(1)固体媒体、(2)製造方法、(3)添加剤、(4)適用例の順に説明する。
(1)固体媒体
固体媒体としては熱可塑性樹脂、熱硬化樹脂や紫外線硬化樹脂等の媒体樹脂(樹脂)や、無機バインダー、ガラスから選択された1種類以上を好適に用いることができる。特に、固体媒体は、樹脂またはガラスであることがより好ましい。
【0048】
媒体樹脂の具体的な材料は特に限定されないが、例えば、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアセタール樹脂、紫外線硬化樹脂からなる樹脂群から選択される1種の樹脂、または前記樹脂群から選択される2種類以上の樹脂の混合物であることが好ましい。なお、ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂を好適に用いることができる。
【0049】
これら媒体樹脂は、主骨格にアミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、およびエポキシ基から選択された1種類以上を官能基として備えた高分子系分散剤を含有することもできる。
【0050】
固体媒体は媒体樹脂に限定されず、固体媒体として、金属アルコキシドを用いたバインダーの利用も可能である。当該金属アルコキシドとしては、Si、Ti、Al、Zr等のアルコキシドが代表的である。これら金属アルコキシドを用いたバインダーを加熱等により加水分解・縮重合させることで、固体媒体が酸化物を含有する日射遮蔽材料分散体とすることも可能である。
【0051】
本実施形態に係る日射遮蔽材料分散体の日射遮蔽材料の含有割合は特に限定されないが、日射遮蔽材料分散体は、日射遮蔽材料を0.001質量%以上80質量%以下含むことが好ましい。
【0052】
本実施形態の日射遮蔽材料分散体の形状についても特に限定されないが、本実施形態の日射遮蔽材料分散体は、シート形状、ボード形状、またはフィルム形状を備えることが好ましい。日射遮蔽材料分散体を、シート形状、ボード形状、またはフィルム形状とすることで様々な用途に適用できるためである。
(2)日射遮蔽材料分散体の製造方法
本実施形態の日射遮蔽材料分散体の製造方法を、以下に説明する。なお、ここでは日射遮蔽材料分散体の製造方法の構成例を示しているに過ぎず、日射遮蔽材料分散体の製造方法が、以下の構成例に限定されるものではない。
【0053】
本実施形態の日射遮蔽材料分散体は例えばマスターバッチを用いて製造することができる。この場合、本実施形態の日射遮蔽材料分散体の製造方法は、例えば、以下のマスターバッチ作製工程を有することもできる。
【0054】
日射遮蔽材料が固体媒体中に分散したマスターバッチを得るマスターバッチ作製工程。
【0055】
マスターバッチ作製工程では、日射遮蔽材料が固体媒体中に分散したマスターバッチを作製できる。
【0056】
マスターバッチの具体的な作製方法は特に限定されない。例えば、日射遮蔽材料分散液や日射遮蔽材料を、固体媒体中に分散させ、当該固体媒体をペレット化することで、マスターバッチを作製できる。
【0057】
なお、日射遮蔽材料として、日射遮蔽材料分散液から液状媒体を除去して得られた日射遮蔽材料分散粉を用いることもできる。
【0058】
例えば日射遮蔽材料分散液や、日射遮蔽材料、日射遮蔽材料分散粉と、固体媒体の粉粒体またはペレット、および必要に応じて他の添加剤を均一に混合して混合物を調製する。そして、該混合物を、ベント式一軸若しくは二軸の押出機で混練し、溶融押出されたストランドをカットする方法によりペレット状に加工することによって、マスターバッチを製造できる。この場合、ペレットの形状としては円柱状や角柱状のものを挙げることができる。また、ペレットを作製する際、溶融押出物を直接カットするいわゆるホットカット法を採ることも可能である。この場合には球状に近い形状をとることが一般的である。
【0059】
なお、マスターバッチ作製工程において、日射遮蔽材料分散液を原料として用いる場合、日射遮蔽材料分散液に由来する液状媒体を低減、除去することが好ましい。この場合、日射遮蔽材料分散液に含まれていた液状媒体を除去する程度は特に限定されない。例えば当該マスターバッチに残留が許容される量まで、日射遮蔽材料分散液等から、液状媒体を除去することが好ましい。なお、液状媒体として液状可塑剤を用いた場合は、当該液状可塑剤の全量が日射遮蔽材料分散体に残留してもよい。
【0060】
日射遮蔽材料分散液や、日射遮蔽材料分散液と固体媒体との混合物から、日射遮蔽材料分散液に含まれていた液状媒体を低減、除去する方法は特に限定されない。例えば、日射遮蔽材料分散液等を減圧乾燥することが好ましい(乾燥工程)。具体的には、日射遮蔽材料分散液等を撹拌しながら減圧乾燥し、日射遮蔽材料含有組成物と液状媒体の成分とを分離する。当該減圧乾燥に用いる装置としては、真空撹拌型の乾燥機が挙げられるが、上記機能を有する装置であれば良く、特に限定されない。また、乾燥工程の減圧の際の圧力値は適宜選択される。
【0061】
当該減圧乾燥法を用いることで、日射遮蔽材料分散液に由来する液状媒体等の除去効率が向上するとともに、減圧乾燥後に得られる日射遮蔽材料分散粉や、原料である日射遮蔽材料分散液が長時間高温に曝されることがないので、日射遮蔽材料分散粉や、日射遮蔽材料分散液中に分散している日射遮蔽材料の凝集が起こらず好ましい。さらに日射遮蔽材料分散粉等の生産性も上がり、蒸発した液状媒体等の溶媒を回収することも容易で、環境的配慮からも好ましい。
【0062】
当該乾燥工程後に得られた日射遮蔽材料分散粉等においては、沸点120℃以下の溶媒成分を充分除去することが好ましい。例えば、係る溶媒成分の残留量が2.5質量%以下であることが好ましい。残留する溶媒成分が2.5質量%以下であれば、当該日射遮蔽材料分散粉等を、例えば日射遮蔽材料分散体へと加工した際に気泡が発生せず、外観や光学特性が良好に保たれるからである。また、日射遮蔽材料分散粉に残留する溶媒成分が2.5質量%以下であれば、日射遮蔽材料分散粉の状態で長期保管した際に、残留した溶媒成分の自然乾燥による凝集が発生せず、長期安定性が保たれるからである。
【0063】
得られたマスターバッチは、固体媒体を追加して混練することにより日射遮蔽材料分散体に含まれる日射遮蔽材料の分散状態が維持されたまま、その分散濃度を調整できる。
【0064】
また、本実施形態の日射遮蔽材料分散体の製造方法は、必要に応じて、得られたマスターバッチや、マスターバッチに固体媒体を追加したものについて、成形し、所望の形状の日射遮蔽材料分散体とする成形工程を有することができる。
【0065】
日射遮蔽材料分散体を成形する具体的な方法は特に限定されないが、例えば公知の押出成形法、射出成形法等の方法を用いることができる。
【0066】
成形工程では、例えば、平面状や曲面状に成形されたシート形状、ボード形状、またはフィルム形状の日射遮蔽材料分散体を製造できる。シート形状、ボード形状、またはフィルム形状に成形する方法は特に限定されず、各種公知の方法を用いることができる。例えば、カレンダーロール法、押出法、キャスティング法、インフレーション法等を用いることができる。
【0067】
本実施形態の日射遮蔽材料分散体の製造方法は上記マスターバッチ作製工程を有する形態に限定されるものではない。
【0068】
例えば、本実施形態の日射遮蔽材料分散体の製造方法は、以下の工程を有する形態とすることもできる。
【0069】
固体媒体のモノマー、オリゴマーおよび未硬化で液状の固体媒体前駆体と、日射遮蔽材料(日射遮蔽材料分散粉)や日射遮蔽材料分散液とを混合して、日射遮蔽材料分散体前駆液を調製する前駆液調製工程。
【0070】
上記モノマー等の固体媒体前駆体を縮合や重合等の化学反応によって硬化させ、日射遮蔽材料分散体を作製する日射遮蔽材料分散体作製工程。
【0071】
例えば、固体媒体としてアクリル樹脂を用いる場合、アクリルモノマーやアクリル系の紫外線硬化樹脂と、日射遮蔽材料とを混合して、日射遮蔽材料分散体前駆液を得ることができる。
【0072】
次いで、当該日射遮蔽材料分散体前駆液を所定の鋳型などに充填しラジカル重合を行えば、アクリル樹脂を用いた日射遮蔽材料分散体が得られる。
【0073】
固体媒体として架橋により硬化する樹脂を用いる場合も、上述したアクリル樹脂を用いた場合と同様に、日射遮蔽材料分散体前駆液に架橋反応をさせることで分散体を得ることができる。
【0074】
(3)添加剤
固体媒体として媒体樹脂を用いる場合、本実施形態の日射遮蔽材料分散体は、通常、これらの樹脂に添加される可塑剤、難燃剤、着色防止剤およびフィラー等の公知の添加剤(添加物)を含有することもできる。もっとも、既述の様に固体媒体は媒体樹脂に限定されず、金属アルコキシドを用いたバインダーやガラスの利用も可能である。
【0075】
本実施形態に係る日射遮蔽材料分散体の形状は特に限定されないが、既述の様に、例えばシート形状、ボード形状、またはフィルム形状の形態をとることができる。
【0076】
シート形状、ボード形状、またはフィルム形状の日射遮蔽材料分散体を合わせガラスなどの透明基材中間層として用いる場合、当該日射遮蔽材料分散体に含まれる固体媒体が、そのままでは柔軟性や透明基材との密着性を十分に有しない場合がある。この場合、日射遮蔽材料分散体は、可塑剤を含有することが好ましい。具体的には例えば、当該固体媒体がポリビニルアセタール樹脂であり、上述の用途に用いる場合は、日射遮蔽材料分散体はさらに可塑剤を含有することが好ましい。
【0077】
上述した可塑剤としては、本実施形態の日射遮蔽材料分散体に用いる固体媒体において可塑剤として用いられる物質を用いることができる。例えば、ポリビニルアセタール樹脂で構成された日射遮蔽材料分散体に用いられる可塑剤としては、一価アルコールと有機酸エステルとの化合物である可塑剤、多価アルコール有機酸エステル化合物等のエステル系である可塑剤、有機リン酸系可塑剤等のリン酸系である可塑剤が挙げられる。いずれの可塑剤も、室温で液状であることが好ましい。なかでも、多価アルコールと脂肪酸から合成されたエステル化合物である可塑剤が好ましい。
(4)適用例
本実施形態の日射遮蔽材料分散体は、各種態様で用いることができ、その使用、適用態様は特に限定されない。以下に、本実施形態の日射遮蔽材料分散体の適用例として、日射遮蔽透明基材、日射遮蔽中間膜、日射遮蔽積層体について説明する。
(4-1)日射遮蔽透明基材
本実施形態の日射遮蔽透明基材は、透明基材と、透明基材の少なくとも一方の面上に配置された日射遮蔽層とを備えており、日射遮蔽層を既述の日射遮蔽材料分散体とすることができる。
【0078】
本実施形態の日射遮蔽透明基材は、上述の様に透明基材を有することができる。透明基材としては、例えば透明フィルム基材、および透明ガラス基材から選択された1種類以上を好ましく用いることができる。
【0079】
フィルム基材は、フィルム形状に限定されることはなく、例えば、ボード形状でもシート形状でも良い。当該フィルム基材の材料としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂等から選択された1種類以上を好適に用いることができ、各種目的に応じて使用可能である。もっとも、フィルム基材の材料としては、ポリエステル樹脂であることが好ましく、特にポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)であることがより好ましい。すなわち、フィルム基材は、ポリエステル樹脂フィルムであることが好ましく、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムであることがより好ましい。
【0080】
透明基材としてフィルム基材を用いる場合、フィルム基材の表面は、日射遮蔽層の接着の容易さを実現するため、表面処理がなされていることが好ましい。
【0081】
また、ガラス基材もしくはフィルム基材と日射遮蔽層との接着性を向上させるために、ガラス基材上もしくはフィルム基材上に中間層を形成し、中間層上に日射遮蔽層を形成することも好ましい構成である。中間層の構成は特に限定されるものではなく、例えばポリマフィルム、金属層、無機層(例えば、シリカ、チタニア、ジルコニア等の無機酸化物層)、有機/無機複合層等により構成することができる。
【0082】
日射遮蔽材料分散体については既述のため、ここでは説明を省略する。なお、日射遮蔽材料分散体の形状は特に限定されないが、例えばシート形状、ボード形状、またはフィルム形状を備えることが好ましい。
【0083】
本実施形態の日射遮蔽透明基材の製造方法について説明する。
【0084】
本実施形態の日射遮蔽透明基材は、例えば既述の日射遮蔽材料分散液を用いて、透明基材上へ、日射遮蔽材料が固体媒体に分散された日射遮蔽材料分散体である日射遮蔽層を形成することで製造できる。
【0085】
そこで、本実施形態の日射遮蔽透明基材の製造方法は、例えば以下の工程を有することができる。
【0086】
透明基材の表面に、既述の日射遮蔽材料分散液を含む塗布液を塗布する塗布工程。
【0087】
塗布液中の液状媒体を蒸発させた後、日射遮蔽層を形成する日射遮蔽層形成工程。
【0088】
塗布工程で用いる塗布液は、例えば、既述の日射遮蔽材料分散液に、樹脂や、金属アルコキシド等の固体媒体、または固体媒体前駆体を添加、混合して作製できる。
【0089】
固体媒体前駆体は、既述の様に固体媒体のモノマー、オリゴマー、および未硬化の固体媒体から選択された1種類以上を意味する。
【0090】
透明基材上にコーティング膜である日射遮蔽層を形成すると、該日射遮蔽層は、日射遮蔽材料が固体媒体に分散されている状態となる。このため、係る日射遮蔽層が日射遮蔽材料分散体となる。このように、透明基材の表面に日射遮蔽材料分散体を設けることで、日射遮蔽透明基材を作製できる。
【0091】
固体媒体や、固体媒体前駆体については、(1)日射遮蔽材料分散体や、(2)日射遮蔽材料分散体の製造方法において説明したため、ここでは説明を省略する。
【0092】
透明基材上へ日射遮蔽層を設けるために、透明基材上に塗布液を塗布する方法は、透明基材表面へ塗布液を均一に塗布できる方法であればよく、特に限定されない。例えば、バーコート法、グラビヤコート法、スプレーコート法、ディップコート法、スピンコート法、スクリーン印刷、ロールコート法、流し塗り、等を挙げることができる。
【0093】
ここでは、媒体樹脂として紫外線硬化樹脂を用い、バーコート法を用いて塗布し、日射遮蔽層を形成する場合を例に、透明基材表面への日射遮蔽層の作製手順を説明する。
【0094】
適度なレベリング性をもつように濃度、および添加剤を適宜調整した塗布液を、日射遮蔽層の厚み、および日射遮蔽材料の含有量を合目的に満たすことのできるバー番号のワイヤーバーを用いて透明基材上に塗布する。そして、塗布液中に含まれる液状媒体等の溶媒を乾燥により除去した後、紫外線を照射し硬化させることで、透明基材上に日射遮蔽層であるコーティング層を形成できる。
【0095】
塗膜の乾燥条件としては、各成分、溶媒の種類や使用割合によっても異なるが、通常では60℃以上140℃以下の温度で20秒間以上10分間以下程度である。紫外線の照射には特に制限はなく、例えば超高圧水銀灯などの紫外線露光機を好適に用いることができる。
【0096】
その他、日射遮蔽層の形成の前後工程(前工程、後工程)により、基材と日射遮蔽層の密着性、コーティング時の塗膜の平滑性、有機溶媒の乾燥性などを操作することもできる。前記前後工程としては、例えば基材の表面処理工程、プリベーク(基材の前加熱)工程、ポストベーク(基材の後加熱)工程などが挙げられ、適宜選択することができる。プリベーク工程やポストベーク工程における加熱温度は、例えば80℃以上200℃以下、加熱時間は30秒間以上240秒間以下であることが好ましい。
【0097】
本実施形態の日射遮蔽透明基材の製造方法は上記方法に限定されない。本実施形態の日射遮蔽透明基材の製造方法の他の構成例として、以下の工程を有する形態も挙げられる。
【0098】
既述の日射遮蔽材料分散液を透明基材の表面に塗布し、乾燥させる日射遮蔽材料分散液塗布、乾燥工程。
【0099】
日射遮蔽材料分散液を塗布した面上に、樹脂や、金属アルコキシド等の固体媒体や、固体媒体前駆体を用いたバインダーを塗布、硬化させるバインダー塗布、硬化工程。
【0100】
この場合、日射遮蔽材料分散液塗布、乾燥工程により、透明基材の表面に日射遮蔽材料を分散させた膜が形成される。なお、日射遮蔽材料分散液は、既述の日射遮蔽透明基材の製造方法の塗布工程について説明したものと同様の方法により塗布できる。
【0101】
そして、該日射遮蔽材料を分散させた膜上にバインダーを塗布し、硬化させることで、日射遮蔽材料間に硬化したバインダーが配置され、日射遮蔽層を形成できる。
【0102】
日射遮蔽透明基材は、日射遮蔽材料分散体の表面にさらにコート層を有することもできる。すなわち多層膜を備えることもできる。
【0103】
コート層は、例えばSi、Ti、Zr、Alから選択された1種類以上を含む酸化物のコーティング膜とすることができる。この場合、コート層は、例えば日射遮蔽層上へ、Si、Ti、Zr、Alのいずれか1種類以上を含むアルコキシド、および当該アルコキシドの部分加水分解縮重合物から選択された1種類以上を含有する塗布液を塗布した後、加熱することで形成できる。
【0104】
コート層を設けることで、コーティングされた成分が、第1層における日射遮蔽材料の堆積した間隙を埋めて成膜され可視光の屈折を抑制するため、膜のヘイズ値がより低減して可視光線透過率を向上できる。また、日射遮蔽材料の基材への結着性を向上できる。
【0105】
ここで、日射遮蔽材料単体、あるいは日射遮蔽材料を含有する膜上に、Si、Ti、Zr、Alのいずれか1種類以上を含むアルコキシドや、これらの部分加水分解縮重合物からなるコーティング膜を形成する方法としては、成膜操作の容易さやコストの観点から塗布法が好ましい。
【0106】
上記塗布法に用いるコーティング液としては、水やアルコールなどの溶媒中に、Si、Ti、Zr、Alのいずれか1種類以上を含むアルコキシドや、当該アルコキシドの部分加水分解縮重合物を1種類以上含むものを好適に用いることができる。上記コーティング液における上記アルコキシド等の含有量は特に限定されないが、例えば加熱後に得られるコーティング中の酸化物換算で40質量%以下が好ましい。また、必要に応じて酸やアルカリを添加してpH調整することもできる。
【0107】
当該コーティング液を、日射遮蔽材料を主成分とする膜上に、第2層として塗布し加熱することで、コート層であるSi、Ti、Zr、Alから選択された1種類以上を含む酸化物被膜を容易に形成できる。本実施形態に係る塗布液に使用するバインダー成分またはコーティング液の成分として、オルガノシラザン溶液を用いることも好ましい。
【0108】
無機バインダーやコーティング膜として、Si、Ti、Zr、Alのいずれか1種類以上の金属アルコキシド、およびその加水分解重合物を含む日射遮蔽材料分散液や、コーティング液の塗布後の基材加熱温度は特に限定されない。例えば基材加熱温度は100℃以上が好ましく、日射遮蔽材料分散液等の塗布液中の溶媒の沸点以上であることがより好ましい。
【0109】
これは、基材加熱温度が100℃以上であると、塗膜中に含まれる金属アルコキシドまたは当該金属アルコキシドの加水分解重合物の重合反応が完結できるからである。また、基材加熱温度が100℃以上であると、溶媒である水や有機溶媒が膜中に残留することがほとんどないので、加熱後の膜において、これら溶媒が可視光線透過率低減の原因とならないからである。
【0110】
本実施形態の日射遮蔽透明基材の、透明基材上における日射遮蔽層の厚みは、特に限定されないが、実用上は10μm以下であることが好ましく、6μm以下であることがより好ましい。これは日射遮蔽層の厚みが10μm以下であれば、十分な鉛筆硬度を発揮して耐擦過性を有することに加えて、日射遮蔽層における溶媒の揮散およびバインダーの硬化の際に、基材フィルムの反り発生等の工程異常発生を回避できるからである。
(4-2)日射遮蔽中間膜、日射遮蔽積層体
本実施形態の日射遮蔽積層体は、既述の日射遮蔽材料分散体と透明基材とを含む積層構造を有することができる。本実施形態の日射遮蔽積層体は、既述の日射遮蔽材料分散体と、透明基材とを要素にもち、これらを積層した積層体とすることができる。
【0111】
日射遮蔽積層体として、例えば2枚以上の複数枚の透明基材と、既述の日射遮蔽材料分散体とを積層した例が挙げられる。この場合、日射遮蔽材料分散体は、例えば透明基材の間に配置し、日射遮蔽中間膜として用いることができる。
【0112】
この場合、日射遮蔽中間膜は、シート形状、ボード形状、またはフィルム形状のいずれかの形状を有することが好ましい。
【0113】
透明基材は、可視光領域において透明な板ガラス、板状のプラスチック、フィルム状のプラスチックから選択された1種類以上を好適に用いることができる。
【0114】
透明基材として、プラスチックを用いる場合、プラスチックの材質は、特に限定されるものではなく用途に応じて選択可能であり、例えばポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アイオノマー樹脂、フッ素樹脂等から選択された1種類以上を使用可能である。なお、ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂を好適に用いることができる。
【0115】
透明基材は、日射遮蔽機能を有する粒子を含有していてもよい。日射遮蔽機能を有する粒子としては、近赤外線遮蔽特性を有する日射遮蔽材料を用いることができる。
【0116】
複数枚の透明基材間に挟持される中間層の構成部材として既述の日射遮蔽材料分散体を介在させることで、可視光線を透過しつつ近赤外線遮蔽機能を備えた日射遮蔽積層体の1種である日射遮蔽合わせ構造体を得ることができる。
【0117】
なお、日射遮蔽材料分散体を挟持して対向する複数枚の透明基材を、公知の方法で貼り合わせ、一体化することで、上述の日射遮蔽積層体とすることもできる。
【0118】
既述の日射遮蔽材料分散体を日射遮蔽中間膜として用いる場合、固体媒体としては、日射遮蔽材料分散体で説明したものを用いることができる。ただし、日射遮蔽中間膜と、透明基材との密着強度を高める観点からは、固体媒体はポリビニルアセタール樹脂であることが好ましい。
【0119】
本実施形態の日射遮蔽中間膜は、既述の日射遮蔽材料分散体の製造方法により製造でき、例えばシート形状、ボード形状、またはフィルム形状のいずれかの形状を有する日射遮蔽中間膜とすることができる。
【0120】
なお、日射遮蔽中間膜が、柔軟性や透明基材との密着性を十分に有しない場合は、媒体樹脂用の液状可塑剤を添加することが好ましい。例えば、日射遮蔽中間膜に用いた媒体樹脂がポリビニルアセタール樹脂である場合は、ポリアセタール樹脂用の液状可塑剤の添加は、透明基材との密着性向上に有益である。
【0121】
可塑剤としては、媒体樹脂に対して可塑剤として用いられる物質を用いることができる。例えばポリビニルアセタール樹脂で構成された赤外線遮蔽フィルムに用いられる可塑剤としては、一価アルコールと有機酸エステルとの化合物である可塑剤、多価アルコール有機酸エステル化合物等のエステル系である可塑剤、有機リン酸系可塑剤等のリン酸系である可塑剤が挙げられる。いずれの可塑剤も、室温で液状であることが好ましい。なかでも、多価アルコールと脂肪酸から合成されたエステル化合物である可塑剤が好ましい。
【0122】
また、日射遮蔽中間膜には、シランカップリング剤、カルボン酸の金属塩、金属の水酸化物、金属の炭酸塩から成る群から選択される少なくとも1種を添加することもできる。カルボン酸の金属塩、金属の水酸化物、金属の炭酸塩を構成する金属は特に限定されないが、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、マンガン、セシウム、リチウム、ルビジウム、亜鉛から選択される少なくとも1種であることが好ましい。日射遮蔽中間膜において、カルボン酸の金属塩、金属の水酸化物、金属の炭酸塩から成る群から選択される少なくとも1種の含有量が、日射遮蔽材料に対して1質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
【0123】
さらに、日射遮蔽中間膜は、必要に応じて既述の日射遮蔽材料に加えて、Sb、V、Nb、Ta、W、Zr、F、Zn、Al、Ti、Pb、Ga、Re、Ru、P、Ge、In、Sn、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、Ho、Y、Sm、Eu、Er、Tm、Tb、Lu、Sr、Caから成る群から選択される2種類以上の元素を含む酸化物粒子、複合酸化物粒子、ホウ化物粒子のうちの少なくとも1種類以上の粒子を含有することもできる。日射遮蔽中間膜は、係る粒子を、日射遮蔽材料との合計を100質量%とした場合に、5質量%以上95質量%以下の範囲で含有できる。
【0124】
日射遮蔽積層体は、透明基材間に配置された中間膜の少なくとも1層に、紫外線吸収剤を含有してもよい。紫外線吸収剤としては、マロン酸エステル構造を有する化合物、シュウ酸アニリド構造を有する化合物、ベンゾトリアゾール構造を有する化合物、ベンゾフェノン構造を有する化合物、トリアジン構造を有する化合物、ベンゾエート構造を有する化合物、ヒンダードアミン構造を有する化合物等から選択された1種類以上が挙げられる。
【0125】
なお、日射遮蔽積層体の中間層は、本実施形態に係る日射遮蔽中間膜のみで構成して良いのは勿論である。
【0126】
ここで説明した日射遮蔽中間膜は、日射遮蔽材料分散体の一態様である。本実施形態に係る日射遮蔽材料分散体は、可視光線を透過する2枚以上の透明基材に挟持されることなく使用できることはもちろんである。すなわち、本実施形態に係る日射遮蔽材料分散体は、単独で日射遮蔽材料分散体として成立できるものである。
【0127】
本実施形態に係る日射遮蔽積層体は、上述のような、透明基材間に日射遮蔽材料分散体を配置した形態に限定されるものではなく、日射遮蔽材料分散体と、透明基材とを含む積層構造を有するものであれば、任意の構成を採ることができる。
【実施例0128】
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
以下の手順により、六ホウ化物を含む日射遮蔽材料の光学特性の評価を行った。
【0129】
LaBとLaの一部をSrで置換したLaSrB48の誘電関数を第一原理計算によって求めた後、微粒子の吸収効率をMieの散乱理論式に従い算出した。なお、LaSrB48は、その価数xが0<x<0.3を充足するように選択した。
【0130】
第一原理計算は、平面波基底第一原理計算ソフトであるVASP(Vienna Ab initio Simulation Package)を用いて、密度汎関数理論(DFT:Density Functional Theory)の範疇で、ファンデルワールス密度汎関数を用いて行った。また、projector augmented wave(PAW)ポテンシャルを用い、平面カットオフは650eV、k点は3×3×1とした。
【0131】
結果を図1に示す。図1においては、近赤外の吸収効率が1となる様に規格化してプロットした。
【0132】
図1に示すように、LaをSrで置換することにより吸収波長が高波長側にシフトし、可視光領域の赤色波長の吸収が抑えられていて透明性が向上していることがわかる。また、この材料は可視光領域全体でLaBよりも透過率が低くなっており優れた日射遮蔽材料であることが確認できた。
[実施例2]
LaBのBの一部をBeで置換したLa47Beの誘電関数を、実施例1と同様に第一原理計算によって求めた後、微粒子の吸収効率をMieの散乱理論式に従い算出した。
【0133】
なお、La47Beは、その価数xが0<x<0.3を充足するように選択した。
【0134】
結果を図2に示す。図2においては、近赤外の吸収効率が1となる様に規格化してプロットした。
【0135】
図2に示すように、BをBeで置換することにより吸収波長が高波長側にシフトし、可視光領域の赤色波長の吸収が抑えられていて透明性が向上していることがわかる。従って、近赤外の吸収特性を維持したまま、可視光透明性に優れた日射遮蔽材料を得ることができた。
図1
図2