(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178868
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】チオエポキシ基及び(メタ)アリル基含有化合物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 331/02 20060101AFI20221125BHJP
【FI】
C07D331/02 CSP
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085967
(22)【出願日】2021-05-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 秀好
(57)【要約】
【課題】耐熱性樹脂材料用マクロモノマーとして有用であり、さらに、得られるポリマーの高屈折化が可能な高屈折光学材料としても有用な材料を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表されるチオエポキシ基及び(メタ)アリル基含有化合物。
(式中、R
1は、炭素数2~20の3価又は4価の炭化水素基である。R
2は、水素原子又はメチル基である。nは、3又は4である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるチオエポキシ基及び(メタ)アリル基含有化合物。
【化1】
(式中、R
1は、炭素数2~20の3価又は4価の炭化水素基である。R
2は、水素原子又はメチル基である。nは、3又は4である。)
【請求項2】
R1が、炭素数2~15の3価又は4価の炭化水素基である請求項1記載のチオエポキシ基及び(メタ)アリル基含有化合物。
【請求項3】
下記式(2)で表されるグリシジル基及び(メタ)アリル基含有化合物と、チオ尿素又はチオシアン酸塩とを反応させる、下記式(1)で表されるチオエポキシ基及び(メタ)アリル基含有化合物の製造方法。
【化2】
(式中、R
1は、炭素数2~20の3価又は4価の炭化水素基である。R
2は、水素原子又はメチル基である。nは、3又は4である。)
【化3】
(式中、R
1は、炭素数2~20の3価又は4価の炭化水素基である。R
2は、水素原子又はメチル基である。nは、3又は4である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チオエポキシ基及び(メタ)アリル基含有化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、(メタ)アリル基とグリシジル基を有する化合物として、特許文献1に記載されたものが知られている。この化合物は、耐熱性等に優れていたが、屈折率が高くなく、高屈折光学材料原料としては不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記事情に鑑みなされたもので、耐熱性樹脂材料用マクロモノマーとして有用であり、さらに、得られるポリマーの高屈折化が可能な高屈折光学材料としても有用な材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、下記式(2)
【化1】
(式中、R
1は、炭素数2~20の3価又は4価の炭化水素基である。R
2は、水素原子又はメチル基である。nは、3又は4である。)
で表されるグリシジル基及び(メタ)アリル基含有化合物と、チオ尿素又はチオシアン酸塩とを反応させることで、下記式(1)
【化2】
(式中、R
1は、炭素数2~20の3価又は4価の炭化水素基である。R
2は、水素原子又はメチル基である。nは、3又は4である。)
で表される、チオエポキシ基と(メタ)アリル基を1分子内にそれぞれ3つ以上有する化合物が得られることを知見し、本発明をなすに至った。
【0006】
したがって、本発明は、下記チオエポキシ基及び(メタ)アリル基含有化合物及びその製造方法を提供する。
1.下記式(1)で表されるチオエポキシ基及び(メタ)アリル基含有化合物。
【化3】
(式中、R
1は、炭素数2~20の3価又は4価の炭化水素基である。R
2は、水素原子又はメチル基である。nは、3又は4である。)
2.R
1が、炭素数2~15の3価又は4価の炭化水素基である請求項1記載のチオエポキシ基及び(メタ)アリル基含有化合物。
3.下記式(2)で表されるグリシジル基及び(メタ)アリル基含有化合物と、チオ尿素又はチオシアン酸塩とを反応させる、下記式(1)で表されるチオエポキシ基及び(メタ)アリル基含有化合物の製造方法。
【化4】
(式中、R
1は、炭素数2~20の3価又は4価の炭化水素基である。R
2は、水素原子又はメチル基である。nは、3又は4である。)
【化5】
(式中、R
1は、炭素数2~20の3価又は4価の炭化水素基である。R
2は、水素原子又はメチル基である。nは、3又は4である。)
【発明の効果】
【0007】
本発明のチオエポキシ基及び(メタ)アリル基含有化合物は、(メタ)アリル基を利用したポリマー化及びチオエポキシ環を利用したポリマー化の双方が可能であり、それぞれの官能基を1分子内に3つ以上有することから、得られるポリマーは3次元架橋構造を有することができる。また、それらを利用したポリマー化後の架橋、硬化が可能であり、得られるポリマーは、強度、耐熱性、耐候性及び耐水性が良好となる。本発明のチオエポキシ基及び(メタ)アリル基含有化合物は、耐熱性樹脂材料用マクロモノマーとして有用な化合物である。さらに、本発明のチオエポキシ基及び(メタ)アリル基含有化合物は、チオエポキシ基を有していることから、得られるポリマーの高屈折化が可能であり、高屈折光学材料として有用な材料として期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のチオエポキシ基及び(メタ)アリル基含有化合物は、下記式(1)で表されるものである。
【化6】
【0009】
式(1)中、R1は、炭素数2~20の3価又は4価の炭化水素基である。R2は、水素原子又はメチル基である。nは、3又は4である。
【0010】
前記炭素数2~20の3価又は4価の炭化水素基は、飽和でも不飽和でもよく、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよい。その具体例としては、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、これらの構造異性体等のアルカン;シクロペンタン、シクロヘキサン、ビシクロへキシル、ジシクロへキシルメタン、1,1-ジシクロへキシルエタン、1,2-ジシクロへキシルエタン、1,1-ジシクロへキシルプロパン、1,2-ジシクロへキシルプロパン、1,3-ジシクロへキシルプロパン、2,2-ジシクロへキシルプロパン等の環式飽和炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルイソプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素から3又は4個の水素原子を取り除いて得られる基が挙げられる。
【0011】
R
1としては、炭素数2~15の3価又は4価の炭化水素基が好ましく、特に以下に示す基が好ましい。
【化7】
(式中、破線は、結合手である。)
【0012】
式(1)で表される化合物としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。
【化8】
【0013】
【0014】
【0015】
【0016】
式(1)で表される化合物は、下記式(2)で表されるグリシジル基及び(メタ)アリル基含有化合物と、チオ尿素又はチオシアン酸塩とを反応させることで合成することができる。
【化12】
(式中、R
1、R
2及びnは、前記と同じである。)
【0017】
式(2)で表される化合物としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。
【化13】
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
式(2)で表される化合物とチオシアン酸塩又はチオ尿素との反応における反応温度は、任意であるが、通常0~100℃あり、好ましくは20~70℃である。反応時間は、反応が完結する時間であれば特に限定されないが、通常20時間以下が適当である。
【0022】
チオシアン酸塩及びチオ尿素は、化学量論的にはエポキシ化合物のエポキシ基の物質量に対応する物質量を使用するが、生成物の純度、反応速度、経済性等を重視するのであれば、これ以下の量を使用してもよく、これ以上の量を使用してもよい。好ましくは、エポキシ化合物のエポキシ基1モルに対し、チオシアン酸塩及びチオ尿素を、0モルを超え5モル以下程度、より好ましくは0.9~5.0モル程度、更に好ましくは1.0~3.0モル程度を使用し、反応させる。
【0023】
反応は、無溶媒で行ってもよく、溶媒中で行ってもよい。溶媒を使用するときは、チオシアン酸塩又はチオ尿素及び式(2)で表される化合物のいずれかが可溶なものを使用することが好ましい。具体例としては、水、メタノール、エタノール等のアルコール類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等のヒドロキシエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類等が挙げられる。また、これらの溶媒の混合溶媒でもよく、例えば、アルコール類と水との混合溶媒、エーテル類、ヒドロキシエーテル類、ハロゲン化炭化水素類又は芳香族炭化水素類とアルコール類との混合溶媒等は、効果的な場合がある。
【0024】
また、反応液中に、重合抑制剤を添加することは、反応成績を上げることから有効である。前記重合抑制剤としては、酸、酸無水物等が挙げられる。前記酸及び酸無水物等の具体例としては、硝酸、塩酸、硫酸、発煙硫酸、ホウ酸、ヒ酸、リン酸、シアン化水素酸、酢酸、過酢酸、チオ酢酸、シュウ酸、酒石酸、プロピオン酸、酪酸、コハク酸、マレイン酸、安息香酸、無水硝酸、無水硫酸、酸化ホウ素、五酸化ヒ酸、五酸化燐、無水クロム酸、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水安息香酸、無水フタル酸、シリカゲル、シリカアルミナ、塩化アルミニウム等が挙げられる。前記重合抑制剤を添加する場合、その添加量は、通常、反応液総量中、0.001~10質量%が好ましく、0.01~1質量%がより好ましい。前記重合抑制剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
反応生成物は、酸性水溶液を用いて洗浄することで、得られる化合物の安定性を向上させることが可能である。前記酸性水溶液に用いる酸の具体例としては、硝酸、塩酸、硫酸、ホウ酸、ヒ酸、リン酸、シアン化水素酸、酢酸、過酢酸、チオ酢酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸、マレイン酸等が挙げられる。また、これらは単独でも2種類以上を混合して用いてもよい。前記酸性水溶液は、通常pH6以下で効果を発揮するが、pH1~5がより効果的である。前記酸は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
本発明のチオエポキシ基及び(メタ)アリル基含有化合物は、チオエポキシ基と(メタ)アリル基を1分子中にそれぞれ3個以上持つ化合物であり、(メタ)アリル基の反応性を使用し、Si-Hを含むシロキサン化合物とヒドロシリル化反応を行いポリマー化すれば、チオエポキシ基を持った3次元架橋構造を有する高分子シリコーン材料を得ることもできるし、チオエポキシ基の反応性を使用し、3次元架橋構造を有する硬化性材料として使用することもできる。それらの基を利用し、ポリマー化した後、残りの官能基を用いて架橋、硬化が可能である。したがって、本発明のチオエポキシ基及び(メタ)アリル基含有化合物は、耐熱性樹脂材料用マクロモノマーとして有用な化合物である。
【実施例0027】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。
【0028】
[実施例1]
窒素ガス導入管、温度計、ジムロート型コンデンサー、バキュームコントローラー及びアスピレーターを備えた3Lのセパラブルフラスコに、下記式(2-1)
【化17】
で表される化合物297g(0.5mol)、チオ尿素304g(4mol)、無水酢酸10g、並びに溶媒としてトルエン1,000g及びメタノール1,000gを仕込み、50℃で8時間反応させた。反応後、トルエンで抽出し、1質量%硫酸水溶液で洗浄し、水洗した後、過剰の溶媒を留去し、305gの生成物を得た。Perkin Elmer社製全自動元素分析装置 2400II CHNS/Oを用いて元素分析を行い、Agilent社製 7890Aを用いてGC-MS質量分析を行った結果、分子量は、642であることを確認した。Bruker社製AV400Mを用いて
1H-NMR分析を行い、Thermo Fisher Scientific社製Nicolet 6700を用いてFT-IR分析を行った結果、前記生成物は、式(1-1)で表される化合物であることを確認した(収率95%)。
【化18】
【0029】
[実施例2]
式(2-1)で表される化合物のかわりに、下記式(2-2)
【化19】
で表される化合物321g(0.5mol)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、223gの生成物を得た。Perkin Elmer社製全自動元素分析装置 2400II CHNS/Oを用いて元素分析を行い、Agilent社製 7890Aを用いてGC-MS質量分析を行った結果、分子量は、690であることを確認した。Bruker社製AV400Mを用いて
1H-NMR分析を行い、Thermo Fisher Scientific社製Nicolet 6700を用いてFT-IR分析を行った結果、前記生成物は、式(1-2)で表される化合物であることを確認した(収率92%)。
【化20】
【0030】
[実施例3]
式(2-1)で表される化合物のかわりに、下記式(2-3)
【化21】
で表される化合物457g(0.5mol)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、455gの生成物を得た。Perkin Elmer社製全自動元素分析装置 2400II CHNS/Oを用いて元素分析を行い、Bruker社製AV400Mを用いて
1H-NMR分析を行い、Thermo Fisher Scientific社製Nicolet 6700を用いてFT-IR分析を行った結果、前記生成物は、式(1-3)で表される化合物であることを確認した(収率93%)。
【化22】
【0031】
実施例1~3で得られた化合物、ビスフェノールA型エポキシ樹脂jER828、フェノール硬化剤及び触媒としてトリフェニルホスフィン(TPP)を用い、175℃にて2時間硬化し、架橋樹脂を作製した。得られた樹脂の屈折率を測定した結果、各架橋樹脂は、1.65~1.70と高屈折率を示すことを確認した。また、樹脂の弾性率は2,000~3,000MPaであり、曲げ強度は100~150MPaと高いことが確認できた。さらに、250℃耐熱テストを行った結果、これらの架橋樹脂は、全く問題なく、高い耐熱性を示すことを確認した。