(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178928
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】澱粉の改質方法
(51)【国際特許分類】
C08B 30/12 20060101AFI20221125BHJP
【FI】
C08B30/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】40
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086066
(22)【出願日】2021-05-21
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】松木 順子
(72)【発明者】
【氏名】徳安 健
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA07
4C090BA13
4C090CA29
4C090DA27
(57)【要約】
【課題】 改質された澱粉を提供すること。
【解決手段】 改質された澱粉を製造する方法であって、水と、アルコールと、アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンと、澱粉とを含む澱粉懸濁液を提供する工程と、澱粉が糊化する温度未満で該澱粉懸濁液を攪拌する工程とを含む、方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改質された澱粉を製造する方法であって、
水と、アルコールと、アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンと、澱粉とを含む澱粉懸濁液を提供する工程と
澱粉が糊化する温度未満で該澱粉懸濁液を攪拌する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記提供する工程が、水と、アルコールと、アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンと、澱粉とを混合して前記澱粉懸濁液を生成する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記提供する工程が、水と、アルコールと、アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンとを含む溶液に、澱粉を懸濁して前記澱粉懸濁液を生成する工程を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
さらに、攪拌して得られた澱粉を洗浄する工程を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンが、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、および塩化ストロンチウム、ならびにこれらの塩から生成するイオンからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンが、塩化カルシウム、および/またはこの塩から生成するイオンを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記アルコールが、エタノール、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、1,3-ブタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、およびグリセロールからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記澱粉が、バレイショ、コメ、カンショ、コーンスターチ、オオムギ、コムギ、タピオカ、アズキ、サトイモ、キビ、エンドウ、およびバナナからなる群より選択される少なくとも一種の粉末またはこれらから単離された澱粉を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記澱粉懸濁液中のアルコールの濃度は約80%(v/v)以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記澱粉懸濁液中のアルコールの濃度は約50~約70%(v/v)である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記澱粉懸濁液中のアルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンの濃度は約1M以下である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記澱粉懸濁液中の澱粉の濃度は約10~約40%(w/w)である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記攪拌する工程は少なくとも約20分以上にわたって行われる、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記攪拌する工程は少なくとも約20℃以上の温度で行われる、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記澱粉懸濁液のpHが約4~約10である、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記改質が、前記澱粉の粘度特性の改変を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記改質が、前記澱粉の粘度安定性の改善を含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンによる澱粉糊化作用を制御する方法であって、
水と、アルコールと、アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンと、澱粉とを含む澱粉懸濁液を提供する工程と
澱粉が糊化する温度未満で該澱粉懸濁液を攪拌する工程と
を含む、方法。
【請求項19】
前記提供する工程が、水と、アルコールと、アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンと、澱粉とを混合して前記澱粉懸濁液を生成する工程を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記提供する工程が、水と、アルコールと、アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンとを含む溶液に、澱粉を懸濁して前記澱粉懸濁液を生成する工程を含む、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
さらに、攪拌して得られた澱粉を洗浄する工程を含む、請求項18~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンが、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、および塩化ストロンチウム、ならびにこれらの塩から生成するイオンからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項18~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンが、塩化カルシウム、および/またはこの塩から生成するイオンを含む、請求項18~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記アルコールが、エタノール、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、1,3-ブタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、およびグリセロールからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項18~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記澱粉が、バレイショ、コメ、カンショ、コーンスターチ、オオムギ、コムギ、タピオカ、アズキ、サトイモ、キビ、エンドウ、およびバナナからなる群より選択される少なくとも一種の粉末またはこれらから単離された澱粉を含む、請求項18~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記澱粉懸濁液中のアルコールの濃度は約80%(v/v)以下である、請求項18~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記澱粉懸濁液中のアルコールの濃度は約50~約70%(v/v)である、請求項18~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記澱粉懸濁液中のアルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンの濃度は約1M以下である、請求項18~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記澱粉懸濁液中の澱粉の濃度は約10~約40%(w/w)である、請求項18~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記攪拌する工程は少なくとも約20分以上にわたって行われる、請求項18~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記攪拌する工程は少なくとも約20℃以上の温度で行われる、請求項18~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記澱粉懸濁液のpHが約4~約10である、請求項18~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
アルコールを含む、水中の澱粉のアルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンによる糊化を制御するための組成物。
【請求項34】
前記アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンが、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、および塩化ストロンチウム、ならびにこれらの塩から生成するイオンからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項33に記載の組成物。
【請求項35】
前記アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンが、塩化カルシウム、および/またはこの塩から生成するイオンを含む、請求項33または34に記載の組成物。
【請求項36】
前記アルコールが、エタノール、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、1,3-ブタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、およびグリセロールからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項33~35のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項37】
前記澱粉が、バレイショ、コメ、カンショ、コーンスターチ、オオムギ、コムギ、タピオカ、アズキ、サトイモ、キビ、エンドウ、およびバナナからなる群より選択される少なくとも一種の粉末またはこれらから単離された澱粉を含む、請求項33~36のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項38】
粘度特性が改質された澱粉。
【請求項39】
粘度安定性が改善された澱粉。
【請求項40】
前記澱粉が、
水と、アルコールと、アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンと、澱粉とを含む澱粉懸濁液を提供する工程と、
澱粉が糊化する温度未満で該澱粉懸濁液を攪拌する工程と
を含む方法によって製造される、請求項38または39に記載の澱粉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、澱粉の改質方法、澱粉糊化作用の制御方法、および粘度が改質された澱粉に関する。
【背景技術】
【0002】
澱粉は一般に水分の存在化で加熱されることにより糊化し、その結果、様々な物性が生じ、消化性の向上などを示すようになる。これを利用して、麺やパンなどの食品への利用やとろみ付け、ブドウ糖や水あめなどとしての糖化、酒類としての発酵など、種々の用途が存在する。
【0003】
このような澱粉の多種多様な利用を可能とする反応としては、澱粉の吸水、膨潤、水素結合の切断、結晶性の消失、澱粉粒の崩壊、分散などが挙げられる。このような個々の反応の機構を理解し、構造特性との関連を解明することで、天然澱粉の機能の改善を図り、これまでにない澱粉特性を見出すことが期待される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、澱粉の内部構造を改変することで糊化現象を調節することができると考え、アルコールとアルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンとを利用した澱粉の改質方法を見出した。
【0005】
多様化する食品加工方法や提供方法に対応するため、新たな特性やそれを付与するための改質方法へのニーズは高く、一方で化学的加工による加工澱粉は食品添加物としての表示が必要となるため、物理加工や酵素加工などへの加工方法のシフトのニーズも高い。本開示の方法は化学反応を伴わないため、クリーンラベルへの対応も期待できる。
【0006】
したがって、本開示は以下を提供する。
(項目1)
改質された澱粉を製造する方法であって、
水と、アルコールと、アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンと、澱粉とを含む澱粉懸濁液を提供する工程と
澱粉が糊化する温度未満で該澱粉懸濁液を攪拌する工程と
を含む、方法。
(項目2)
前記提供する工程が、水と、アルコールと、アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンと、澱粉とを混合して前記澱粉懸濁液を生成する工程を含む、上記項目に記載の方法。
(項目3)
前記提供する工程が、水と、アルコールと、アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンとを含む溶液に、澱粉を懸濁して前記澱粉懸濁液を生成する工程を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目4)
さらに、攪拌して得られた澱粉を洗浄する工程を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目5)
前記アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンが、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、および塩化ストロンチウム、ならびにこれらの塩から生成するイオンからなる群より選択される少なくとも一種を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目6)
前記アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンが、塩化カルシウム、および/またはこの塩から生成するイオンを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目7)
前記アルコールが、エタノール、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、1,3-ブタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、およびグリセロールからなる群より選択される少なくとも一種を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目8)
前記澱粉が、バレイショ、コメ、カンショ、コーンスターチ、オオムギ、コムギ、タピオカ、アズキ、サトイモ、キビ、エンドウ、およびバナナからなる群より選択される少なくとも一種の粉末またはこれらから単離された澱粉を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目9)
前記澱粉懸濁液中のアルコールの濃度は約80%(v/v)以下である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目10)
前記澱粉懸濁液中のアルコールの濃度は約50~約70%(v/v)である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
(項目11)
前記澱粉懸濁液中のアルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンの濃度は約1M以下である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目12)
前記澱粉懸濁液中の澱粉の濃度は約10~約40%(w/w)である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目13)
前記攪拌する工程は少なくとも約20分以上にわたって行われる、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目14)
前記攪拌する工程は少なくとも約20℃以上の温度で行われる、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目15)
前記澱粉懸濁液のpHが約4~約10である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目16)
前記改質が、前記澱粉の粘度特性の改変を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目17)
前記改質が、前記澱粉の粘度安定性の改善を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A1)
アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンによる澱粉糊化作用を制御する方法であって、
水と、アルコールと、アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンと、澱粉とを含む澱粉懸濁液を提供する工程と
澱粉が糊化する温度未満で該澱粉懸濁液を攪拌する工程と
を含む、方法。
(項目A2)
前記提供する工程が、水と、アルコールと、アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンと、澱粉とを混合して前記澱粉懸濁液を生成する工程を含む、上記項目に記載の方法。
(項目A3)
前記提供する工程が、水と、アルコールと、アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンとを含む溶液に、澱粉を懸濁して前記澱粉懸濁液を生成する工程を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A4)
さらに、攪拌して得られた澱粉を洗浄する工程を含む、上記項目に記載の方法。
(項目A5)
前記アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンが、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、および塩化ストロンチウム、ならびにこれらの塩から生成するイオンからなる群より選択される少なくとも一種を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A6)
前記アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンが、塩化カルシウム、および/またはこの塩から生成するイオンを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A7)
前記アルコールが、エタノール、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、1,3-ブタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、およびグリセロールからなる群より選択される少なくとも一種を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A8)
前記澱粉が、バレイショ、コメ、カンショ、コーンスターチ、オオムギ、コムギ、タピオカ、アズキ、サトイモ、キビ、エンドウ、およびバナナからなる群より選択される少なくとも一種の粉末またはこれらから単離された澱粉を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A9)
前記澱粉懸濁液中のアルコールの濃度は約80%(v/v)以下である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A10)
前記澱粉懸濁液中のアルコールの濃度は約50~約70%(v/v)である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A11)
前記澱粉懸濁液中のアルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンの濃度は約1M以下である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A12)
前記澱粉懸濁液中の澱粉の濃度は約10~約40%(w/w)である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A13)
前記攪拌する工程は少なくとも約20分以上にわたって行われる、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A14)
前記攪拌する工程は少なくとも約20℃以上の温度で行われる、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A15)
前記澱粉懸濁液のpHが約4~約10である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目B1)
アルコールを含む、水中の澱粉のアルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンによる糊化を制御するための組成物。
(項目B2)
前記アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンが、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、および塩化ストロンチウム、ならびにこれらの塩から生成するイオンからなる群より選択される少なくとも一種を含む、上記項目に記載の組成物。
(項目B3)
前記アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンが、塩化カルシウム、および/またはこの塩から生成するイオンを含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目B4)
前記アルコールが、エタノール、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、1,3-ブタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、およびグリセロールからなる群より選択される少なくとも一種を含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目B5)
前記澱粉が、バレイショ、コメ、カンショ、コーンスターチ、オオムギ、コムギ、タピオカ、アズキ、サトイモ、キビ、エンドウ、およびバナナからなる群より選択される少なくとも一種の粉末またはこれらから単離された澱粉を含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目C1)
粘度特性が改質された澱粉。
(項目C2)
粘度安定性が改善された澱粉。
(項目C3)
前記澱粉が、
水と、アルコールと、アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンと、澱粉とを含む澱粉懸濁液を提供する工程と、
澱粉が糊化する温度未満で該澱粉懸濁液を攪拌する工程と
を含む方法によって製造される、上記項目のいずれか一項に記載の澱粉。
【0007】
本開示において、上記の1つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。なお、本開示のさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【0008】
なお、上記した以外の本開示の特徴及び顕著な作用・効果は、以下の発明の実施形態の項及び図面を参照することで、当業者にとって明確となる。
【発明の効果】
【0009】
澱粉を改質することにより、粘度上昇開始温度の上昇、最高粘度の低下、最高粘度到達の遅延、ブレークダウンの消失等を期待できる。また改質した澱粉を食品素材として利用することで操作性が良くなり、咀嚼嚥下が容易な食品を作製することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、塩化カルシウム濃度1.0Mとして、エタノール濃度を変化させてRVAによって澱粉の粘度特性を測定した結果を示すグラフである。
【
図2】
図2は、塩化カルシウム濃度0.8Mとして、エタノール濃度を変化させてRVAによって澱粉の粘度特性を測定した結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、塩化カルシウム濃度0.5Mとして、エタノール濃度を変化させてRVAによって澱粉の粘度特性を測定した結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、塩化カルシウム濃度を変化させてRVAによって澱粉の粘度特性を測定した結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、処理時間を変化させてRVAによって澱粉の粘度特性を測定した結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、処理温度を変化させてRVAによって澱粉の粘度特性を測定した結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、RVAによって米澱粉(コシヒカリ)の粘度特性を測定した結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、RVAによって米澱粉(こなゆきの舞)の粘度特性を測定した結果を示すグラフである。
【
図9】
図9は、RVAによって米澱粉(夢十色)の粘度特性を測定した結果を示すグラフである。
【
図10】
図10は、RVAによって米粉(コシヒカリ)の粘度特性を測定した結果を示すグラフである。
【
図11】
図11は、RVAによって米粉(夢十色)の粘度特性を測定した結果を示すグラフである。
【
図12】
図12は、RVAによってカンショ澱粉(ベニアズマ)の粘度特性を測定した結果を示すグラフである。
【
図13】
図13は、RVAによってカンショ澱粉(商品名さつまやわらぎ)の粘度特性を測定した結果を示すグラフである。
【
図14】
図14は、RVAによってオオムギ澱粉の粘度特性を測定した結果を示すグラフである。
【
図15】
図15は、アルカリ土類金属塩の種類を変えて、RVAによってバレイショ澱粉の粘度特性を測定した結果を示すグラフである。
【
図16】
図16は、RVAによってコーンスターチYの粘度特性を測定した結果を示すグラフである。
【
図17】
図17は、RVAによってワキシーコーンスターチYの粘度特性を測定した結果を示すグラフである。
【
図18】
図18は、RVAによってハイアミロースコーンスターチHS-7の粘度特性を測定した結果を示すグラフである。
【
図19】
図19は、RVAによってモチ米澱粉の粘度特性を測定した結果を示すグラフである。
【
図20】
図20は、温度を変えて、RVAによってバレイショ澱粉の粘度特性を測定した結果を示すグラフである。
【
図21】
図21は、アルコール濃度を変えてバレイショ澱粉のDSC糊化特性を測定した結果を示すグラフである。
【
図22】
図22は、塩化バリウム濃度を変化させた場合のRVAによってバレイショ澱粉の粘度特性を測定した結果を示すグラフである。
【
図23】
図23は、アルコールの種類を変えた場合のRVAによってバレイショ澱粉の粘度特性を測定した結果を示すグラフである。
【
図24】
図24は、RVAで表されるグラフにおける各線分を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0012】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0013】
本明細書において、「約」とは、後に続く数値の±10%を意味する。
【0014】
本明細書において、「澱粉」とは、一般に、構成糖であるグルコースが主としてα-1,4結合を介してほぼ直鎖状に連なった構造を有するアミロースと、α-1,6結合を介して分岐した構造が規則的に配向した房状構造を有するアミロペクチンとが混在した形態にあるものをいう。アミロースを殆ど含まず、ほぼアミロペクチンのみからなる澱粉はワキシーあるいはモチ性のスターチとも呼ばれ、ワキシー種の植物、例えば、ワキシー種の稲(米)、大麦、小麦、はと麦、トウモロコシ、きび、あわ、もろこしから得られる。
【0015】
本明細書において「改質された澱粉」とは、澱粉の糊化に関する性質が変化したものをいう。糊化に関する性質としては、澱粉を加熱した場合の糊化温度、膨潤度、粘度上昇開始温度、最高粘度、最高粘度に達した後の粘度低下(ブレークダウン)、最終粘度、ブレークダウン後の粘度から最終粘度までの差、および最高粘度到達温度などを含む。これらの糊化に関する性質のうち、特に粘度に関するものを「粘度特性」という。そのため、本明細書において「粘度特性の改変」とは、例えば、粘度上昇開始を遅らせ、最高粘度を低下させ、最高粘度に達した後の粘度を安定させることなどをいう。
【0016】
本明細書において「粘度安定性」とは、澱粉を加熱した場合に、澱粉の粘度が最高粘度に達した後の粘度の安定性を指す。最高粘度に達した後の粘度低下(ブレークダウン)が小さいものは粘度安定性が高いといえる。
【0017】
本明細書において「粘度安定性の改善」とは、最高粘度に達した後の粘度低下が大きいもの、つまり粘度安定性が低い澱粉を改質することにより、粘度低下を小さくさせることをいう。
【0018】
本明細書において、「糊化」とは、コメやバレイショなどの澱粉または澱粉含有組成物が水を吸収し、必要に応じてさらに熱が加わることで、膨潤および/または崩壊した状態をいう。本明細書において単に「糊化」と称したときは、全糊化(対象物全体にわたって糊化されている状態)のみならず、部分糊化(対象物全体ではなく一部が糊化されている状態)も含む。澱粉を水の存在下で加熱すると、澱粉の水素結合が破壊され、澱粉が不可逆的に膨潤(または水和、溶解)する現象を意味する。澱粉は糊化とともに結晶性、複屈折性を失い、粘度が上昇し、酵素(アミラーゼ)や化学薬品に対する反応性が急激に増大する。糊化は別名アルファ化とも呼ばれる。糊化澱粉(アルファ化澱粉)が時間の経過とともに結晶を生じて水に不溶性の状態に変化することを「老化」という。
【0019】
本明細書において、「糊化する温度」、「糊化温度」、または「糊化開始温度」とは、澱粉に水を加えて加熱したときに糊化の状態になる温度またはその温度域を指す。一つの材料中に含まれる澱粉にも、鎖長などにばらつきがあるため、ある程度の温度域を有する。糊化温度は、澱粉の構造や種類によって異なる値をとる。そのため、本明細書において糊化温度未満とは、種類ごとに固有の糊化温度において、糊化が起こり始める温度未満の温度を指す。糊化温度は、例えば示差走査熱量計を用いて測定することができる。
【0020】
本明細書において、「糊化作用」とは、化合物が備える澱粉に対する作用のうち、澱粉の糊化やその進行に影響を与えるものをいう。例えば、リン酸基が多く含まれるバレイショ澱粉では、澱粉中のリン酸基は、澱粉の特性に関与することが知られ、リン酸基を多く含むものは糊化後における澱粉ゲルの最高粘度が高い傾向にある。またリン酸基に結合した陽イオンの種類も澱粉の特性に影響を与えることが知られており、カリウム、ナトリウムといった1価の陽イオンが結合した澱粉は、澱粉ゲルの最高粘度が極めて高いが、最高粘度に達した後の粘度低下が大きくなり、粘度安定性に欠ける。一方、2価の陽イオンであるカルシウム、マグネシウムが結合した澱粉は、最高粘度は低めであるが、最高粘度に達した後の粘度がほぼ安定している。このような澱粉の性質を利用し、例えば塩化カルシウム溶液中に澱粉を浸潰し、澱粉中のリンへのカルシウム結合を促し、最高粘度を示すときの温度や、粘度安定性を高めることができる。このような澱粉の糊化やその進行に影響を与えるものを化合物による糊化作用という。
【0021】
そのため、本明細書において糊化作用の制御とは、化合物が備える糊化作用を変化させ、澱粉の糊化やその進行の程度を調節または制御することをいう。
【0022】
本明細書において、「アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオン」とは、アルカリ土類金属(例えば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム等)の塩および/またはイオンを指す。アルカリ土類金属塩としては、例えば、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、塩化ストロンチウムなどを挙げることができる。本明細書においてアルカリ土類金属塩は水和物を包含してもよく、例えば、塩化カルシウム無水物、塩化カルシウム一水和物、塩化カルシウム二水和物、塩化カルシウム四水和物、塩化カルシウム六水和物などの塩化カルシウム;塩化マグネシウム無水物、塩化マグネシウム六水和物などの塩化マグネシウムなどを挙げることができ、これらの1種又は2種以上を組み合わせることもできる。アルカリ土類金属イオンは、アルカリ土類金属を含む化合物の1種または2種以上の組み合わせを水溶させることで生じさせることができ、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム等のイオンが挙げられる。
【0023】
本明細書において、「アルコール」とは、炭化水素の水素原子をヒドロキシ基(-OH)で置き換えた物質の総称をいい、その炭素数は特に限定されるものではない。アルコールは、特に限られるものではないが、例えばエタノール、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、1,3-ブタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、及びそれらの任意の組み合わせを挙げることができる。
【0024】
本明細書において「懸濁」とは、澱粉などの物質を液体中に分散させることをいう。
【0025】
本明細書において「澱粉懸濁液」とは、澱粉またはその粒子を撹拌などにより水性媒体に分散させた状態の溶液を指す。澱粉懸濁液は、澱粉またはその粒子が分散した溶液であればその作成方法や混合順については特に限られない。例えば、澱粉懸濁液は、水、アルコール、及びアルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンを含む溶液に澱粉を懸濁して生成することもでき、あるいは、水、アルコール、アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオン、及び澱粉を順不同に混合して最終的に澱粉またはその粒子が分散した溶液とすることもできる。
【0026】
本明細書において「攪拌」とは、液体内での澱粉粒の分布状態を均一に保つ、または懸濁状態を保つための操作をいう。攪拌装置としては、液体中で攪拌子を回転させる装置(例えば、マグネットの入った攪拌子を回転させるマグネチックスターラーや、軸の先に板やプロペラを取り付けたものを回転させるメカニカルスターラーなど)、容器ごと振盪する装置(例えば、往復や回転運動など)を挙げることができる。攪拌のための速度は特に限られず、澱粉が沈殿せずに懸濁状態を継続することができる速度が好ましい。また、強いせん断力が生じない程度の速度が好ましい。また攪拌のための時間は任意の時間とすることができ、反応時間すべてにおいて攪拌することもできる。
【0027】
本明細書において「洗浄」とは、反応に用いた余剰の水溶液を除去することをいう。洗浄のための方法は、例えば、遠心法および濾過法を用いることができる。遠心後の上清をデカンテーションで取り除き、同容~約3倍容の洗浄用媒体を入れて攪拌し、さらに遠心して上清を取り除く。この動作を3回程度繰り返す。あるいは、ガラス濾過器(例えば柴田科学3G円筒ロート)、またはろ紙(例えばADVANTEC東洋No.2ろ紙)を敷いたブフナーロートを吸引ろ過ビンに乗せ、水流で減圧にしながらろ過して溶液を取り除き、さらに同容~約3倍容の洗浄用媒体を入れてろ過する。この動作を3回程度繰り返す。このとき、洗浄用媒体としては、反応に用いた媒体と同じものが好ましいが、水や、任意の割合で水とエタノールを混ぜたものであってもよい。ただし、反応に用いた媒体と異なる割合のものを用いて急激にエタノール濃度を上げ、または下げると澱粉の糊化状態が変化することがあるため、そのような動作をしないことが好ましい。
【0028】
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでない。したがって、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本開示の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができる。
【0029】
本開示の一局面において、改質された澱粉を製造する方法であって、水と、アルコールと、アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンと、澱粉とを含む澱粉懸濁液を提供する工程と、澱粉が糊化する温度未満で該澱粉懸濁液を攪拌する工程とを含む、方法が提供される。また一実施形態において、澱粉懸濁液の提供は、すでに生成された本開示の澱粉懸濁液を準備してもよく、または水と、アルコールと、アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンと、澱粉とを混合して前記澱粉懸濁液を生成してもよい。本開示の一実施形態において、水と、アルコールと、アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンと、澱粉とは、混合されて澱粉懸濁液となっていればよく、その混合順は特に限られるものではない。例えば、一実施形態において、澱粉懸濁液を提供する際には、水と、アルコールと、アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンとを含む溶液に、澱粉を懸濁して前記澱粉懸濁液を生成してもよいし、または水と、アルコールの溶液に澱粉を懸濁しておき、そこにアルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンを混合してもよい。本開示の方法は澱粉の粘度特性を改質することができるため、天然の澱粉と比較して糊化温度の上昇、粘度安定性の改善、ゲル物性の改変が期待でき、新規機能製品の食品素材の開発に有用である。理論に束縛されることを望まないが、糊化する温度未満で攪拌することによって、澱粉の粘度特性を顕著に改質することができ、天然の澱粉と比較して糊化温度の上昇、粘度安定性の改善、ゲル物性の改変することができることが見いだされた。
【0030】
澱粉は水を加えて、必要に応じて加熱することによって独特の粘弾性を示し、これを利用した調理加工により、様々な食感が表現されている。菓子、麺類、水産練り製品などの原材料として用いられる他、増粘剤、食感改良剤など、様々な場面で利用されている。澱粉はその由来によって、粘度特性などの性質が異なるため、その特性を生かすように、利用場面が使い分けることができる。例えば、バレイショ澱粉は、糊化温度が低く、糊液の粘度や透明度が高いという特徴を持つ一方で、糊液の高温攪拌耐性(粘度安定性)が低く、糊化時やその後の攪拌によって澱粉粒が崩壊して粘度を保持できなくなるという欠点をもつ。
【0031】
本開示の方法によれば、高温加熱(例えば、糊化温度以上)したときの粘度抵下を小さくするために、最高粘度を示すときの温度を高めたり、粘度安定性を高めることなどの澱粉の改質を行うことができる。具体的には、澱粉をアルコール溶液に入れ、この混合物にアルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンを加え、この澱粉懸濁液を加熱攪拌することによって行われる。一実施形態において、攪拌後に溶液を遠心、フィルター濾過などによって改質澱粉を回収し、水で洗浄し、風乾することもできる。またこの改質澱粉を粉砕して得た粉末は、ラピッドピスコアナライザー(RVA)で加水加熱攪拌する際の挙動が大きく変化し、例えば、一部のバレイショ、カンショ、トウモロコシ、コメなどの澱粉では、粘度上昇開始温度(PT)が上昇し、ブレークダウン(BD)が減少もしくは消失し、セットバック(SB)が変化することを見出している。澱粉の水和を抑制するためのアルコールは溶液として約25~約75%(v/v)程度が望ましく、アルカリ土類金属塩溶液および/またはアルカリ土類金属イオン含有液は約1M以下が望ましく、加温温度は澱粉糊化温度以下が望ましく、澱粉懸濁液は澱粉濃度として約5~約50%(w/w)、好ましくは約10~約40%(w/w)程度であり、処理時間は約l分~約24時間、好ましくは約20分~約5時間であるが、これらの条件に限られるものではない。
【0032】
本開示の一実施形態において、アルコールを含む溶液に澱粉を懸濁することで、アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンによる澱粉の糊化の進行の程度を調節することができる。一実施形態において、懸濁液中のアルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンの濃度およびアルコール濃度、処理温度、処理時間などを組み合わせることにより、PTの上昇、BDの減少、SBの変化(上昇、低下)が異なる粉末を得ることができる。例えば、一実施形態において、バレイショ澱粉を60%エタノール、0.8M塩化カルシウム溶液中、60℃で3時間処理することによって得られた粉末は、PTが20℃上昇し、BDが消失し、SBが大幅に上昇し、またエタノール濃度0~80%の場合に、粘度上昇開始温度および粘度変化パターンなどの澱粉の改質に大きな影響が見られた(
図2)。この粉末を用いて作製したゲルは軟らかく崩壊性の高い性質を示した。原料となる澱粉はバレイショの他にトウモロコシ、カンショ、コメ、タピオカなどの生澱粉や各種加工澱粉などを使用することができ、原料澱粉の特性(アミロース含量、糊化温度など)により得られる粉末の特性が異なる。
【0033】
一実施形態において、アルコールとして例えばエタノールを、またアルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンとして塩化カルシウムを用いる場合には、これらの成分は食品への使用が認められているため、食品として改質澱粉を用いる場合には、本開示の改質処理後は水洗いと乾燥のみでよく、中和などをする必要がない。また一実施形態において、本開示の改質処理は糊化温度以下での撹祥のため、常圧下の加温攪拌装置を用いて行うことができる。
【0034】
一実施形態において、本開示の方法によって改質される澱粉は任意のものであってよい。例えば、澱粉は任意の天然の供給源に由来することができ、供給源としては、穀物、根茎類、豆類、果実などを挙げることができ、例えば、バレイショ、コメ、カンショ、トウモロコシ、オオムギ、コムギ、キャッサバ、アズキ、サトイモ、キビ、エンドウ、バナナ、サゴヤシなどを利用することができる。また一実施形態において、本開示の方法によって改質される澱粉は、上記のような供給源の粉末であってもよい。
【0035】
また一実施形態において、本開示の方法によって改質される澱粉は、アミロース含量を高いものを利用することができ、例えば約60%未満、約50%未満、約40%未満、約30%未満、約20%未満のアミロース含量を含む澱粉を用いることができる。他の実施形態において、本開示の方法によって改質される澱粉は、少なくとも約20%のアミロース含量を含むことができる。一実施形態において、澱粉は混合物を用いてもよく、本開示の方法に供される前に、任意の精製処理を行うこともできる。本開示の一実施形態において、澱粉の水分量は任意のものであってもよく、例えば最大約30重量%、約20重量%、約15重量%、約10重量%の水を含むこともできる。
【0036】
本開示の一実施形態において、アルコールは、特に限られるものではないが、例えばエタノール、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、1,3-ブタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、及びそれらの任意の組み合わせを挙げることができる。一実施形態において、アルコールは水性アルコールを用いることができ、その濃度としては、例えばアルコール約0~約80%(v/v)溶液を用いることができ、好ましくは約10~約70%(v/v)溶液、より好ましくは約50~約70%(v/v)溶液を用いることができる。また他の実施形態において、アルコール溶液は少なくともアルコール約0%(v/v)以上、約10%(v/v)以上、約20%(v/v)以上、約30%(v/v)以上、約40%(v/v)以上、約50%(v/v)以上、約60%(v/v)以上、または約70%(v/v)以上のアルコール溶液を用いることができる。また他の実施形態において、アルコール溶液は約80%(v/v)以下、約75%(v/v)以下、約70%(v/v)以下、約65%(v/v)以下、約60%(v/v)以下、約55%(v/v)以下、または約50%(v/v)以下のものを用いることができる。
【0037】
澱粉に対するアルコールの量は、澱粉に対して改質効果を提供するために十分な量であれば特に限られないが、例えば、アルコール:アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオン:澱粉の重量比を約5:約1:約1などとすることができる。
【0038】
本開示の一実施形態において、澱粉の改質処理は、澱粉をアルコール溶液に入れ、この混合物にアルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンを加えることにより行われる。本開示の方法において使用できるアルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンは、特に限定されるものではないが、例えば塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、塩化ストロンチウムなどを挙げることができる。一実施形態において、澱粉懸濁液中のアルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンの濃度は澱粉に対して改質効果を提供するために十分な濃度であれば特に限られないが、例えば、約1M以下とすることができ、使用するアルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンの種類によっても適宜変更することができる。他の実施形態において、澱粉懸濁液中のアルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンの濃度は約0.9M以下、約0.8M以下、約0.7M以下、約0.6M以下、約0.5M以下、約0.4M以下、約0.3M以下、約0.2M以下、約0.1M以下とすることもできる。
【0039】
本開示の一実施形態において、澱粉懸濁液中の澱粉の濃度は、改質されるために十分な濃度であれば特に限られないが、例えば、約50%(w/w)以下、約40%(w/w)以下、約30%(w/w)以下、約20%(w/w)以下、約10%(w/w)以下、約5%(w/w)以下とすることもできる。混合するアルコールやアルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンの量や種類によっても適宜変更することができる。
【0040】
本開示の一実施形態において、水、アルコール、及びアルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンを含む溶液に澱粉の懸濁した後、澱粉が糊化する温度未満で該澱粉懸濁液を攪拌することができる。例えば、攪拌は澱粉に所望の特性を付与するのに有効な温度と時間で行うことができ、少なくとも約20℃以上の温度で行うことができる。好ましくは攪拌の際の温度は、室温またはそれ以上の温度で行うことができ、好ましくは澱粉糊化温度以下である。例えば、攪拌の際の温度は約20℃~約100℃でもよい。好ましくは、約25℃~約80℃、約27℃~約70℃、約30℃~約60℃とすることができるが、低温糊化性澱粉や高アミロース澱粉など澱粉の種類によって適宜変更することができる。攪拌時間は、澱粉に所望の特性を付与できる時間であれば特に限られるものではなく、例えば、少なくとも約1分以上、約5分以上、約10分以上、約30分以上、約60分以上、約2時間以上、約3時間以上、約4時間以上、約5時間以上にわたって行うことができ、好ましくは約24時間未満である。
【0041】
本開示の一実施形態において、攪拌して得られた澱粉をさらに洗浄することもできる。アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンはおおむね易水溶性であり、例えば100mlの水への溶解度は塩化カルシウム2水74.5g(5M程度)、塩化マグネシウム6水54.3g(2.67M程度)、塩化ストロンチウム6水53.8g(2M程度)、塩化バリウム2水31.2g(1.27M程度)となる。そのため、かかる洗浄工程により、余剰のアルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンを除去することができる。
【0042】
本開示の一実施形態において、澱粉懸濁液のpHは低pHによる澱粉の酸加水分解や、高pHによる糊化の促進が生じない程度のpHであれば特に限られるものではなく、例えば、pH約4~約10とすることができる。
【0043】
本開示の他の局面において、アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンによる澱粉糊化作用を制御する方法であって、水と、アルコールと、アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンと、澱粉とを含む澱粉懸濁液を提供する工程と、澱粉が糊化する温度未満で該澱粉懸濁液を攪拌する工程とを含む、方法が提供される。
【0044】
一実施形態において、本開示の方法によれば、澱粉の粘度特性を改変でき、また粘度安定性を改善することができる。これにより、本開示は、粘度特性が改質された澱粉や、粘度安定性が改善された澱粉を提供することができる。
【0045】
また他の局面において、アルコールを含む、水中の澱粉のアルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンによる糊化を制御するための組成物を提供することができる。
【0046】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0047】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0048】
(澱粉の処理方法)
後述の実施例において、澱粉の処理は以下のようにして行った。水はすべて超純水、試薬は特級を使用した。
1.澱粉10g~40gを秤量した(多くの場合10gで実施)。
2.塩化カルシウム、エタノールを含む溶液を調製した。例えば0.8M塩化カルシウム、60%エタノールの溶液を1L調製する場合、600mLのエタノールに200mLの4M塩化カルシウム溶液を加えてよく撹拌し、メスシリンダーを用いて水で1Lにメスアップした。100mLを三角フラスコに入れた。
3.2のフラスコを60℃の恒温槽中でスターラーで撹拌しながら、1の澱粉を加えた。
4.撹拌しながら20分~5時間維持した。
5.室温で冷却した。
6.ガラス濾過器で吸引ろ過した。
7.400mLの水または60%エタノールでろ過洗浄した。基本的に水洗浄するが、水で洗浄すると吸水膨潤して回収が難しくなる試料については60%エタノールで洗浄した。
8.濾過器上に残った試料をバットに空け、室温で1~3日自然乾燥した。糊化が進んで乾燥しにくい試料の場合は、40℃の乾燥機で一晩乾燥した。塊が大きい場合、例えばWonder Blender(大阪ケミカル社)で数秒間粉砕した。
【0049】
(ラピッドビスコアナライザー(RVA4、Newport Scientific, Warriewood, Australia)による測定)
後述の実施例において、澱粉粘度はラピッドビスコアナライザーを用いて以下のように測定した。RVAで表されるグラフにおける各線分を示す模式図を
図24に示した。
1.ハロゲン加熱式水分計を使用(Vibra MA-120、新光電子株式会社)して、澱粉試料の水分含量を測定した。135℃で質量変化率が2%/60秒以下となった時点での重量から水分含量を換算した。
2.バレイショの場合、乾物重が2.0g、水が25.0gとなるように試料量と加水量を計算した。試料重量は、カンショの場合は2.5g、コメ、トウモロコシの場合は3.0gとした。
3.RVA缶に水を入れておき、その上に澱粉試料を加え、パドルを上下回転して試料を分散させた。
4.RVAの機械にセットして粘度を測定した。測定条件は、標準の方法を用いた。初期条件は50℃、スタートから10秒間960rpmで分散、その後160rpmにして、50℃で1分間保持した後、12℃/分で95℃まで昇温し、2分30秒95℃で保持し、その後12℃/分で50℃まで降温、2分間50℃で保持するプログラムで13分間粘度を測定した。それぞれの試料につき、粘度上昇開始温度、最高粘度、ブレークダウン、セットバック、最終粘度、最高粘度到達温度の各パラメータを得た。
【0050】
(実施例1)
エタノール濃度、塩化カルシウム濃度、処理時間、または処理温度をそれぞれ変化させてRVAによって澱粉の粘度特性を測定した結果を示す。
【0051】
RVA条件:サンプル乾物重2.0g(バレイショ)2.5g(カンショ)3.0g(穀類)、水25.0g、撹拌ははじめの10秒間960rpm、その後は160rpm、温度条件はグラフ上に表示した。
【0052】
処理標準は塩化カルシウム濃度0.8M、エタノール濃度60%、処理温度60℃、処理時間3時間とした。
バレイショは市販の片栗粉を使用した。ConAアミロース含量20%程度。
【0053】
エタノール濃度、塩化カルシウム濃度、処理時間、または処理温度について、それぞれ図中に示した数値のように変化させた結果を
図1~6に示した。
(1)エタノール濃度(塩化カルシウム濃度1.0M)
(2)エタノール濃度(塩化カルシウム濃度0.8M)
(3)エタノール濃度(塩化カルシウム濃度0.5M)
(4)塩化カルシウム濃度(残りの条件は標準)
(5)処理時間(残りの条件は標準)
(6)処理温度(残りの条件は標準)
【0054】
(実施例2)
米澱粉または米粉の種類を変えてRVAによって澱粉の粘度特性を測定した結果を示す。米澱粉または米粉としては以下のものを用いた。
(7)米澱粉(コシヒカリ、見かけのアミロース含量16.0%、ConAアミロース含量 14.7%)
(8)米澱粉(こなゆきの舞、見かけのアミロース含量 22.9%、ConAアミロース含量 11.8%)
(9)米澱粉(夢十色、見かけのアミロース含量25.7%、ConAアミロース含量 17.9%)
(10)米粉(コシヒカリ)
(11)米粉(夢十色)
【0055】
米澱粉はそれぞれの米原料から単離したものを使用した。見かけのアミロース含量とは、ヨウ素結合による青色呈色から換算した値を示す。アミロペクチン鎖長の長いものを多く含む場合、見かけのアミロース含量が高くなる。特にこなゆきの舞は、重合度数十程度の鎖長の存在比が高く、夢十色は超長鎖と呼ばれる重合度数百以上の鎖長の存在比が高い。コシヒカリと夢十色の重合度~50の存在比パターンは似ている。ConAアミロース含量は、アミロペクチンとレクチンとの結合性を利用した方法で測定した値であり、真のアミロース含量に近い値が得られる。
【0056】
結果を
図7~11に示した。澱粉のみならず、米粉を材料とした場合でも同様の影響が見られた。
【0057】
(実施例3)
カンショ澱粉の種類を変えてRVAによって澱粉の粘度特性を測定した結果を示す。カンショ澱粉としては以下のものを用いた。
(12)カンショ澱粉(ベニアズマ、市販イモから単離して使用)アミロース含量未確認
(13)カンショ澱粉(商品名さつまやわらぎ(登録商標)(株)サナス)低温糊化性が特徴
結果を
図12~13に示した。
【0058】
(実施例4)
澱粉としてオオムギ、バレイショを用いた場合の改質澱粉の粘度特性をRVAによって測定した結果を示す。
(14)オオムギ(四国裸84号、見かけのアミロース含量、真のアミロース含量とも30%程度)
(15)バレイショ、アルカリ土類金属塩酸塩各種0.8Mで使用。
結果を
図14~15に示した。
【0059】
(実施例5)
澱粉としてコーンスターチ、モチ米澱粉を用いた場合の改質澱粉の粘度特性をRVAによって測定した結果を示す。コーンスターチ、モチ米澱粉としては以下のものを用いた。
(16)コーンスターチY(Jオイルミルズ製)
(17)ワキシーコーンスターチY(Jオイルミルズ)モチ
(18)ハイアミロースコーンスターチHS-7(Jオイルミルズ)
(19)モチ米澱粉 モチールB(上越スターチ製)
(20)バレイショ、温度60℃と室温
アミロース含量は未確認。
【0060】
またRVA条件は以下のとおりとした。
RVA条件:サンプル乾物重1.2g(バレイショ)、1.8g(穀類)、水15.0g、撹拌ははじめの10秒間960rpm、その後は160rpm、温度条件はグラフ上に表示した。
結果を
図16~20に示した。
【0061】
(実施例6)
サンプルの状態を知るために、DSC糊化特性(示差走査熱量測定法、Differential scanning calorimetry)を測定した。試料と3倍量の水を密閉容器に入れ、毎分10℃で温度を上昇させた。このときの熱の出入りを測定した。水素結合の崩壊(=糊化)による吸熱反応と新たに形成される糖残基の水酸基と水分子の水素結合による発熱の総和を測定していると考えられる。糊化開始温度To(℃)、糊化ピーク温度Tp(℃)、糊化終了温度Tc(℃)、糊化エンタルピーΔH(J/gstarch)がパラメータとして得られる。
代表的なサンプルのみ測定した。結果を表1および
図21に示した。
【表1】
【0062】
エタノール60%では若干糊化温度が高くなり、エンタルピーが半減した。糊化澱粉はエンタルピーを生じないので、おそらく半分程度が糊化状態になっていると考えられる。糊化温度が上昇するのはアニーリング(融点付近で起こる微結晶の溶融と再結晶により、糊化温度が上昇する)の影響の可能性がある。アニーリングは温水処理や湿熱処理で起こることが知られている。
【0063】
エタノール25%では糊化温度が低温側にシフトした。一度糊化したものが再結晶した可能性がある。
【0064】
エタノール0%ではピークが二つに割れた。処理途中の様子から糊化後の再結晶とアニーリングの両方が起こっている可能性がある。
【0065】
(実施例7)
溶液中の塩化バリウム濃度を変化させた場合の改質澱粉への影響を調べた。バレイショ澱粉を用いて、エタノール60%、60℃加温、3時間処理した場合の各塩化バリウム濃度の結果を
図22に示した。
【0066】
(実施例8)
混合するアルコールの種類を変化させた場合の改質澱粉への影響を調べた。バレイショ澱粉を用いて、0.8M塩化カルシウムを混合して、各アルコール60%、60℃加温、3時間処理した場合の各アルコールの結果を
図23に示した。
【0067】
エタノールが最も粘度上昇開始温度への影響が大きく、メタノール、1,3-ブタンジオールはそれに次ぐ効果があり、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロールは非常にマイルドな効果となった。
【0068】
(実施例9)
エタノールと澱粉を懸濁してから塩化カルシウムを加えた場合にも、澱粉を改質できることがわかっている。本実施例においては、アルコールを含む溶液を調製し、そのアルコール溶液をスターラーで撹拌しながら澱粉を加え、その後さらにアルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンを加えて攪拌し、必要に応じてメスシリンダーを用いて水でメスアップして澱粉懸濁液を作成する。
【0069】
このようにして作成した澱粉懸濁液を撹拌しながら20分~5時間維持し、室温で冷却する。ガラス濾過器で吸引ろ過した後、アルコールで洗浄する。濾過器上に残った試料をバットに空け、室温で1~3日自然乾燥させる。このようにして得た澱粉試料について、RVAによって粘度特性を測定する。
【0070】
水と、アルコールと、アルカリ土類金属塩および/またはアルカリ土類金属イオンと、澱粉とを順不同に混合して澱粉懸濁液を作成した場合であっても、粘度上昇開始温度および粘度変化パターンなどの澱粉の改質に大きな影響を与えるアルコール濃度、塩化カルシウム濃度、処理時間、または処理温度は、実施例1~8で得られた結果と同様となる。
【0071】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願及び他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
本開示の方法によって、粘度上昇開始温度の上昇、最高粘度の低下、最高粘度到達の遅延、ブレークダウンの消失等の改質がされた澱粉を得ることができる。このような澱粉は、食品素材としての操作性が良いため、食品分野への応用が期待できる。