(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178938
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】オートクレーブ装置
(51)【国際特許分類】
C22B 3/02 20060101AFI20221125BHJP
C22B 3/04 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
C22B3/02
C22B3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086081
(22)【出願日】2021-05-21
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】本間 剛秀
(72)【発明者】
【氏名】内藤 大志
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA19
4K001BA03
4K001BA06
4K001DB14
(57)【要約】
【課題】高温加圧下での浸出処理等に用いられ、内部を複数の区画室に区画する隔壁に通液口が設けられているオートクレーブ装置において、通液口における被処理液の逆流を防止すること。
【解決手段】隔壁15で複数に区画された区画室11と、各々の区画室11(11A、11B、11C、11D)に設置されている撹拌機12と、を備え、隔壁15の最下部には、通液口151が設けられていて、隔壁15を間に挟んで隣接する2つの区画室11(11Aと11B)において、上流側の区画室11B内の撹拌機12Bの回転軸から通液口151A迄の液流経路の長さよりも、下流側の区画室11A内の撹拌機12Aの回転軸から通液口151迄の液流経路の長さの方が大きい、オートクレーブ装置1とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔壁で区画された複数の区画室と、
各々の区画室に設置されている撹拌機と、
を備えるオートクレーブ装置であって、
前記隔壁の最下部には、通液口が設けられていて、
前記隔壁を間に挟んで隣接する2つの区画室において、
上流側の区画室内の前記撹拌機の回転軸から前記通液口迄の液流経路の長さよりも、
下流側の区画室内の前記撹拌機の回転軸から前記通液口迄の液流経路の長さの方が大きい、
オートクレーブ装置。
【請求項2】
前記上流側の区画室内の前記撹拌機の回転軸から前記通液口迄の距離よりも、
前記下流側の区画室内の前記撹拌機の回転軸から前記通液口迄の距離の方が大きい、
請求項1に記載のオートクレーブ装置。
【請求項3】
上流側の区画室内の前記撹拌機の回転軸から前記通液口迄の液流経路の長さよりも、下流側の区画室内の前記撹拌機の回転軸から前記通液口迄の液流経路の長さの方が大きくなるように、前記通液口の下流側の開口周辺部分に、前記液流経路を迂回させる邪魔板が形成されている、
請求項1に記載のオートクレーブ装置。
【請求項4】
前記上流側の区画室内の前記撹拌機の回転軸から前記通液口迄の距離と、前記下流側の区画室内の前記撹拌機の回転軸から前記通液口迄の距離とが等しい、
請求項3に記載のオートクレーブ装置。
【請求項5】
前記隔壁を間に挟んで隣接する2つの区画室において、各々の区画室には、同一形状同一サイズの撹拌翼を備え、同一条件における最大回転速度が等しい前記撹拌機が設置されている、
請求項1から4の何れかに記載のオートクレーブ装置。
【請求項6】
有価金属を含む原料スラリーに対して高温高圧下での浸出処理を施すために用いられる、
請求項1から5の何れかに記載のオートクレーブ装置。
【請求項7】
請求項5に記載のオートクレーブ装置の運転方法であって、
2つの前記撹拌機を同一速度で回転させる、
オートクレーブ装置の運転方法。
【請求項8】
請求項1から6の何れかに記載のオートクレーブ装置を用いて、原料スラリーに含まれる固形物から有価金属を浸出させる、
有価金属の浸出処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートクレーブ装置に関するものである。より詳しくは、本発明は、原料スラリーを高温高圧下で浸出する処理に用いられるオートクレーブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉱石や混合硫化物、マット等の原料(固形物)を高温高圧下で浸出する処理では、オートクレーブ装置が用いられている。オートクレーブ装置は、反応容器を複数の隔壁で区画した複数の区画室と、各々の区画室内で原料スラリーを撹拌するための撹拌機とから構成されている。
【0003】
具体的に、オートクレーブ装置では、加熱、加圧された原料スラリー(原料と浸出液の懸濁液)等が、隔壁で複数に区画されたオートクレーブ装置内の第1の区画室に供給され、第1の区画室に設けられた撹拌機によって撹拌しながら原料スラリーを滞留させて、固形物から有価金属の浸出を進行させる。そして、浸出に十分な時間に亘って原料スラリーを滞留させると、オーバーフロー等により第2の区画室以降に原料スラリーを移送し、順次、同様にして更に有価金属の浸出を進行させる。
【0004】
さて、オートクレーブ装置においては、その隔壁の下部に通液口が設けられていることがある。この通液口は、原料スラリー中の固形物を効率よく下流の区画室に移送し、又、非常停止時に通液口を介して原料スラリーを速やかに排出する等の目的で設置される。このようにして隔壁に通液口が設けられている場合、下流の区画室への原料スラリーの移送は、隔壁の上部からのオーバーフローによることの他、隔壁下部に設けられた通液口を介しても行われる(特許文献1参照)。
【0005】
上記構成からなるオートクレーブ装置において、運転中に、撹拌機によって、上流側の区画室から下流側の区画室に向かう原料スラリーの本来の流れ方向(
図1~4において矢印Fの示す方向)とは逆行する液流も生じる。従来のオートクレーブ装置においては、これに起因して、原料スラリーの一部が、上記の通液口通じて下流側から上流側に逆流してしまうことがあった。このような運転中における原料スラリーの逆流は、隣接する区画室間での原料スラリーの混合による反応効率の低下等、オートクレーブ装置の動作に様々な不具合を引き起こす原因となるため、これを解消することが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題を解決するために開発されたものであり、高温加圧下での浸出処理等に用いられ、内部を複数の区画室に区画する隔壁に通液口が設けられているオートクレーブ装置において、通液口における原料スラリーの逆流を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、隣接する2つの区画室において、下流側の区画室内の撹拌機の回転軸から通液口迄の液流経路の長さを上流側よりも大きくすることで、通液口を通じた原料スラリーの逆流を防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
(1) 隔壁で区画された複数の区画室と、各々の区画室に設置されている撹拌機と、を備えるオートクレーブ装置であって、前記隔壁の最下部には、通液口が設けられていて、前記隔壁を間に挟んで隣接する2つの区画室において、上流側の区画室内の前記撹拌機の回転軸から前記通液口迄の液流経路の長さよりも、下流側の区画室内の前記撹拌機の回転軸から前記通液口迄の液流経路の長さの方が大きい、オートクレーブ装置。
【0010】
(1)のオートクレーブ装置によれば、高温加圧下での浸出処理等に用いられ、内部を複数の区画室に区画する隔壁に通液口が設けられているオートクレーブ装置において、通液口における原料スラリーの逆流を防止することができる。
【0011】
(2) 前記上流側の区画室内の前記撹拌機の回転軸から前記通液口迄の距離よりも、前記下流側の区画室内の前記撹拌機の回転軸から前記通液口迄の距離の方が大きい、(1)に記載のオートクレーブ装置。
【0012】
(2)のオートクレーブ装置によれば、既存のオートクレーブ装置において、撹拌機の設置位置の変更のみにより、その他の構成の追加を要せずに、通液口を通じた原料スラリーの逆流を防止することができる。
【0013】
(3) 上流側の区画室内の前記撹拌機の回転軸から前記通液口迄の液流経路の長さよりも、下流側の区画室内の前記撹拌機の回転軸から前記通液口迄の液流経路の長さの方が大きくなるように、前記通液口の下流側の開口周辺部分に、前記液流経路を迂回させる邪魔板が形成されている、(1)に記載のオートクレーブ装置。
【0014】
(3)のオートクレーブ装置によれば、既存のオートクレーブ装置において、簡易な構成の邪魔板の設置のみにより、通液口を通じた原料スラリーの逆流を防止することができる。
【0015】
(4) 前記上流側の区画室内の前記撹拌機の回転軸から前記通液口迄の距離と、前記下流側の区画室内の前記撹拌機の回転軸から前記通液口迄の距離とが等しい、(3)に記載のオートクレーブ装置。
【0016】
(4)のオートクレーブ装置によれば、撹拌機が区画室の中心に設置されている既存のオートクレーブ装置において、撹拌機の設置位置を変更せずに、簡易な構成の邪魔板の設置のみにより、通液口を通じた原料スラリーの逆流を防止することができる。
【0017】
(5) 前記隔壁を間に挟んで隣接する2つの区画室において、各々の区画室には、同一形状同一サイズの撹拌翼を備え、同一条件における最大回転速度が等しい前記撹拌機が設置されている、(1)から(4)の何れかに記載のオートクレーブ装置。
【0018】
(5)のオートクレーブ装置によれば、全ての区画室において、撹拌機を同一の最大回転速度で稼働させて、装置の最大処理効率を保持しながら、運転中における通液口を通じた原料スラリーの逆流を防止することができる。
【0019】
(6) 有価金属を含む原料スラリーに対して高温高圧下での浸出処理を施すために用いられる、(1)から(5)の何れかに記載のオートクレーブ装置。
【0020】
(6)のオートクレーブ装置によれば、高圧酸浸出工程を行うニッケル酸化鉱石の製造製錬等、原料スラリーから有価金属を浸出させて回収する処理において、(1)から(5)の何れかの発明の奏する各効果を享受して、有価金属の生産性の向上に寄与することができる。
【0021】
(7) (5)に記載のオートクレーブ装置の運転方法であって、2つの前記撹拌機を同一速度で回転させる、オートクレーブ装置の運転方法。
【0022】
(7)のオートクレーブ装置の運転方法によれば、全ての区画室において、撹拌機を同一の最大回転速度で稼働させて、装置の最大処理効率を保持しながら、運転中における通液口を通じた原料スラリーの逆流を防止することができる。
【0023】
(8) (1)から(6)の何れかに記載のオートクレーブ装置を用いて、原料スラリーに含まれる固形物から有価金属を浸出させる、有価金属の浸出処理方法。
【0024】
(8)のオートクレーブ装置の運転方法によれば、高温加圧下での浸出処理による原料スラリーからの有価金属の抽出を行う場合において、(1)から(6)の何れかの発明の奏する各効果を享受して、有価金属の生産性の向上に寄与することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、高温加圧下での浸出処理等に用いられ、内部を複数の区画室に区画する隔壁に通液口が設けられているオートクレーブ装置において、通液口における被処理液の逆流を防止することができる。これにより、オートクレーブ装置内での処理効率の低下を防止することができるため、本発明は、工業的に極めて有利である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明のオートクレーブ装置の全体構成を模式的に示す図である。(a)はオートクレーブ装置を水平に切断して内部構造を模式的に示した横断平面図であり、(b)はオートクレーブ装置を垂直に切断して内部構造を模式的に示した縦断側面図である。
【
図2】
図1のオートクレーブ装置の模式的な部分拡大図であり、隣接する2つの区画室における撹拌機の配置の説明に供する図面である。
【
図3】従来のオートクレーブ装置の模式的な部分拡大図であり、隣接する2つの区画室における液流の状態の説明に供する図面である。
【
図4】本発明の他の実施形態であり、通液口の開口周辺部分に、液流経路を迂回させる邪魔板が形成されているオートクレーブ装置の模式的な部分拡大図である。
【
図5】
図4のオートクレーブ装置における「撹拌機の回転軸から通液口迄の液流経路の長さ」の定義の説明に供する図面である。
【
図6】
図4のオートクレーブ装置の部分拡大図であり、邪魔板の形状の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0028】
<オートクレーブ装置>
本発明のオートクレーブ装置は、ニッケル及びコバルトの混合硫化物から、ニッケル、コバルトを有価金属として浸出させる処理に好ましく用いることができる工業用の反応槽である。但し、本発明のオートクレーブ装置は、これに限らず、加圧下で各種の気液反応処理を進行させる各種の工業プロセスに広く用いることできる。
【0029】
[全体構成]
図1は、本発明の実施形態の一例であるオートクレーブ装置1の全体構成を模式的に示す図である。同図に示す通り、オートクレーブ装置1は、隔壁15(15A、15B、15C)によって区画されている複数の区画室11(11A、11B、11C、11D)と、各々の区画室11(11A、11B、11C、11D)内に設置されている撹拌機12と、を備える。又、それぞれの隔壁15(15A、15B、15C)の最下部には、通液口151が設けられている。又、オートクレーブ装置1の最上流側の区画室11Aには、原料スラリー装入管13、最下流側の区画室11Dには、浸出液排出管14が、それぞれ設置されている。
【0030】
そして、オートクレーブ装置1は、各々の「区画室内における撹拌機の回転軸から通液口迄の液流経路の長さ(通液口迄の液流経路長)」が、区画室毎に、それぞれ異なる適切な長さとなるように設計されていることを、構造上の主たる特徴とする。尚、各々の区画室毎の「通液口迄の液流経路長」の最適化のための具体的な調整手段については、本発明の2つの実施形態の説明と併せて、その詳細を後述する。
【0031】
(通液口迄の液流経路長の定義)
ここで、本明細書における「区画室内における撹拌機の回転軸から通液口迄の液流経路の長さ(「通液口迄の液流経路長」)」とは、下記の(i)又は(ii)の定義による個々のオートクレーブ装置固有の数値のことを言う。
(i) 「当該区画室内に設置されている撹拌機の回転軸の中心と通液口の開口面中心までの直線経路上に液流の進行を妨げる障害物がない場合は当該直線経路の長さ」
(ii) 「上記の直線経路上に液流の進行を妨げる障害物が存在する場合は、当該障害物を回避した迂回経路のうち最も短い経路の長さ」
【0032】
上記の定義からなる「通液口迄の液流経路長」は、具体的には、一例として、
図2のオートクレーブ装置1においては、矢印R
1及びR
2のそれぞれの長さ(上記(i)の定義による長さ)のことである。又、「通液口迄の液流経路長」は、他の一例として、
図4の矢印R
1及びR
2のそれぞれの長さ(上記(ii)の定義による長さ)のことである。
【0033】
従来のオートクレーブ装置においては、区画室毎に撹拌の条件に意図的に差をつけることは想定されておらず、通常、何れの区画室においても、「通液口迄の液流経路長」は略均等である。これに対して、本発明のオートクレーブ装置は、隔壁を間に挟んで隣接する2つの区画室において、上流側の区画室(
図2における区画室11A)内の「通液口迄の液流経路長(R
1)」より、下流側の区画室(
図2における区画室11B)内の「通液口迄の液流経路長(R
2)」の方が大きいことを必須の構成要件としている(
図2参照)。
【0034】
又、本発明のオートクレーブ装置における、下流側の区画室内における「通液口迄の液流経路長」R2の、上流側の区画室内における「通液口迄の液流経路長」R1に対する適切な比率は、取り扱う原料スラリーの性状や、撹拌機の撹拌能力によっても異なるが、一例として、ニッケルとコバルトとの混合硫化物を含む原料スラリーに対する浸出処理を行う一般的な密閉加圧型のオートクレーブ装置(各区画室の容積:3~6m3、通液口の開口サイズ:50~200mm×50~200mm、撹拌機の回転径:500~1500mm、回転速度50~200rpm程度)の場合であれば、上記の「R2」を「R1」の1.4倍以上とすることによって、原料スラリーの逆流を安定的に防ぐことができることが確認されている。
【0035】
尚、
図1に示すオートクレーブ装置1においては、3つの隔壁15(15A、15B、15C)によって4区画に区画された4つの区画室11(11A、11B、11C、11D)が設けられていて、撹拌機12(12A、12B、12C、12D)は、4つの区画室11(11A、11B、11C、11D)内に1機ずつ設置されている。但し、オートクレーブ装置における区画室数は、これに限られるものではなく、原料スラリーの種類や浸出処理の処理条件等に応じて、適宜、適切な室数とすることができる。
【0036】
[区画室]
区画室11(11A、11B、11C、11D)は、原料スラリーに施す浸出処理の反応場となる空間である。4つの区画室11(11A、11B、11C、11D)のうち、最上流側の区画室11Aには、原料スラリー装入管13を介して、固形物を含む原料スラリーが装入される。原料スラリーは、必要な反応を進行させながら、各区画室を処理方向Fに沿って順次移動して行き、最下流側の区画室11Dから、浸出液排出管14を介して、処理済のスラリーが排出される。
【0037】
[撹拌機]
撹拌機12(12A、12B、12C、12D)としては、例えば、
図2に模式的に示すように、撹拌軸121と複数の撹拌羽根122とを備えるプロペラ形状のものを用いることができる。撹拌機12は、所定の速度で撹拌軸121を回転させ、撹拌羽根122によって原料スラリーを撹拌する。この撹拌機12による撹拌によって、区画室11内の原料スラリーには所定の方向への液流が発生する。
【0038】
撹拌機12(12A、12B、12C、12D)は、各々の区画室11(11A、11B、11C、11D)の上部天井から垂下されていて、オートクレーブ装置1を上部から視たときにおける各々の区画室11内の中心位置の近傍域に撹拌軸121が位置するよう設置される。
【0039】
但し、本発明のオートクレーブ装置における個々の撹拌機12(12A、12B、12C、12D)の設置位置は、必ずしも、各々の区画室の中心位置には限られない。本発明のオートクレーブ装置は、例えば、
図2に示すように、それぞれの撹拌機12(12A、12B)の設置位置(厳密には、撹拌軸121の設置位置)が、各々の区画室の平面視における中心位置から外れた位置に設定されていることがある。これは、
図2に示すように、上流側の区画室(区画室11A)内の「区画室内における撹拌機の回転軸から通液口迄の液流経路の長さ(以下、「通液口迄の液流経路長」とも言う)」R
1よりも、下流側の区画室(区画室11B)内の「通液口迄の液流経路長」R
2の方が大きくなるように構成されているオートクレーブ装置(「第1の実施形態」)とするためである。この「第1の実施形態」の詳細については後述する。
【0040】
[隔壁]
隔壁15(15A、15B、15C)は、オートクレーブ装置1の内部を複数に区画するための構造である。そして、各々の隔壁15(15A、15B、15C)を挟んで、隣接する一組の区画室11(一例として区画室Aと区画室B)が構成される。
【0041】
隔壁15(15A、15B、15C)は、
図1(b)の縦断側面図に示すように、オートクレーブ装置1の底部壁面から立設されている。又、隔壁15(15A、15B、15C)は、その上辺の高さが、オートクレーブ装置1を側面視したときの高さよりも低くなっている。これにより、例えば、上流側の区画室11Aにて浸出処理が施された後に、原料スラリーの液面が隔壁15Aの高さよりも高くなったときに、その一部が、隔壁15Aの上辺からオーバーフローすることによって、下流側の区画室11Bに移送される。
【0042】
(通液口)
隔壁15(15A、15B、15C)の最下部の位置には、必要に応じて区画室間において原料スラリーを移動させるための貫通孔である通液口151(151A、151B、151C)が形成されている。各々の通液口151(151A、151B、151C)の形状は特に限定されないが、一例として、
図6に示すような矩形状の開口を有する貫通孔を挙げることができる。
【0043】
通液口151(151A、151B、151C)は、オートクレーブ装置の運転中に、上流側の区画室11内の原料スラリーに含まれる固形物を効率よく下流側の区画室11に移送するため、或いは、装置の補修・洗浄のため供給を止めて槽内のスラリーを抜き出すときに、槽内のスラリーを速やかに最下流側の区画室へ移動させて槽外に抜き出すために用いられる。通液口151は、オートクレーブ装置1内の全ての隔壁15に設けることができるが、その一部の隔壁15のみに設けてもよい。
【0044】
(邪魔板)
又、オートクレーブ装置1においては、隔壁15に設けられた通液口151に対して、所定の位置に邪魔板152を設ける構成(第2の実施形態)とすることもできる。一例として、
図4に示すように、隔壁15Aの通液口151Aの下流側の開口面の周囲に通液口に向かう液流を迂回させる邪魔板152を設けることによって、撹拌機12(12A、12B)の設置位置の調整によらずに、例えば、各々の撹拌機12の設置位置を各々の区画室の中心位置等に固定したまま、下流側の区画室11B内の撹拌機12の回転軸から通液口151迄の液流経路の長さ(
図5に示すR
2=r
21+r
22の長さ)を上流側の区画室11Aにおける同長さR
1よりも大きくすることができる(
図4参照)。「第2の実施形態」の詳細については後述する。
【0045】
[浸出処理]
オートクレーブ装置1においては、最上流の区画室11Aに処理対象となる原料スラリー、及び、硫酸等の溶液が連続的に供給される。そして、区画室11Aでは、撹拌機12Aによる撹拌によって、原料スラリー中の固形物に含まれる有価金属を、溶液中に浸出させる。
【0046】
区画室11Aにて原料スラリーの撹拌が施されるとともに、その原料スラリーの一部は、隔壁15Aの上部をオーバーフローして、隣接する区画室11Bへと移送される。そして、区画室11Bでは、区画室11Aにおける処理と同様に、撹拌機12Bによる撹拌によって、順次浸出処理が進行する。
【0047】
以降、順次、区画室11C、区画室11Dへと原料スラリーが、主として上述のオーバーフローにより移送され、各々の区画室11(11A、11B、11C、11D)において、各区画室内に供給されたガスと接触、反応させることにより、浸出処理が進行していく。そして、最下流の区画室11Dにおいても同様にして、原料スラリーに対する浸出処理が施されると、その区画室11Dに設けられた浸出液排出管14を介して、有価金属を浸出させて得た浸出液を含むスラリーが最終的に槽外に排出される。
【0048】
尚、ニッケルとコバルトとの混合硫化物を含む原料スラリーに対する浸出処理に本発明のオートクレーブ装置を用いる場合、各々の区画室内における、ニッケル硫化物やコバルト硫化物の浸出処理時の反応は、下記式(1)及び式(2)となる。
NiS+2O2→NiSO4 ・・・(1)
CoS+2O2→CoSO4 ・・・(2)
【0049】
[区画室内における液流(撹拌流)の状態]
(従来のオートクレーブ装置)
ここで、
図3は、従来のオートクレーブ装置(オートクレーブ装置2)の模式的な部分拡大図であり、隣接する2つの区画室における液流の状態を模式的に示している。同図に示すように、従来のオートクレーブ装置2においては、各々の撹拌機12(12A、12B)は、各々の区画室11(11A、11B)の平面視における中心位置(若しくは、隔壁から等距離の位置)に設置されている。その結果、上流側の区画室11A内における撹拌機12Aの回転軸121Aから、通液口151A迄の距離(d
1)と、下流側の区画室11B内における撹拌機12Bの回転軸121Bから、通液口151A迄の距離(d
2)とは、等距離となっている(d
1=d
2)。そして、その結果として、従来のオートクレーブ装置2においては、上流側の区画室内の「通液口迄の液流経路長」と、下流側の区画室内の「通液口迄の液流経路長」とは同一長さとなっている。
【0050】
ここで、
図3に示すように構成からなる従来の一般的なオートクレーブ装置(上記の通り、d
1=d
2とされている構成)においては、同図に示すように、下流側の区画室11B内の液流(撹拌流)の流れf
Bの方が、上流側の区画室11A内の液流(撹拌流)の流れf
Aよりも、強い流れとなる傾向がある。これは、多くの場合、上流側の区画室11A内の原料スラリーは、より濃度が高く、これに応じて、より多くの反応用のガスが吹き込まれているからである。
【0051】
ここで、
図3の区画室11(11A、11B)内において撹拌機12による撹拌によって発生する液流(撹拌流)f
A、f
Bは、何れも、隔壁15Aに設けられた通液口151Aに対して吐出力として作用する。このとき、上述した流れの強さの差が一定以上となった場合には、通液口151Aにおいては、下流側から上流側に向かう液流が発生して、原料スラリーの一部が下流側の区画室11Bから上流側の区画室11Aに向けて逆流する現象が生じる。本発明の目的はこの逆流を防ぐことにある。
【0052】
[オートクレーブ装置の第1の実施形態(撹拌機の配置改良による構成)]
本発明のオートクレーブ装置の第1の実施形態は、
図2に示すように、上流側の区画室(一例として
図2における区画室11A)内の撹拌機の回転軸から通液口迄の距離(
図2におけるd
1)よりも、下流側の区画室(一例として
図2における区画室11B)内における同距離(d
2)の方が大きくなるように、各区画室内の撹拌機の配置位置を特定したオートクレーブ装置である。
【0053】
この「第1の実施形態」のオートクレーブ装置においては、撹拌機12Bから通液口151Aまでの距離d2を、撹拌機12Aから通液口151Aまでの距離d1よりも長くすることによって、上流側の区画室(区画室11A)内の「通液口迄の液流経路長」R1よりも、下流側の区画室(区画室11B)内の「通液口迄の液流経路長」R2の方が大きくなっている。
【0054】
図3に示す上述の構成(d
1<d
2であること)を必須とする「第1の実施形態」のオートクレーブ装置においては、下流側の区画室11B内で発生する液流(撹拌流)の流れの強さを、当該液流が、通液口151Aに達するまでに十分に減衰させることができる。よって、上流側の区画室11A内で発生する液流(撹拌流)に起因する通液口151Aに対する「下流側向きの吐出力」と、下流側の区画室11B内で発生する液流(撹拌流)に起因する通液口151Aに対する「上流側向きの吐出力」とが均衡している状態、若しくは、「下流側向きの吐出力」の方が優勢な状態を維持して、通液口151Aにおける原料スラリーの逆流を防ぐことができる。
【0055】
[オートクレーブ装置の第2の実施形態(邪魔板設置による構成)]
本発明のオートクレーブ装置の第2の実施形態は、
図4に示すように、上流側の区画室(
図4における区画室11A)内の「通液口迄の液流経路長」R
1の長さよりも、下流側の区画室(
図4における区画室11B)内の「通液口迄の液流経路長」R
2の方が大きくなるように、通液口151Aの下流側の開口周辺部分に、例えば、
図6に示すような形状からなり、液流経路fを迂回させる、邪魔板152が形成されているオートクレーブ装置である。
【0056】
尚、この第2の実施形態における「通液口迄の液流経路長」R
2の長さは、「当該区画室内に設置されている撹拌機の回転軸の中心と通液口の開口面中心までの直線経路上に液流の進行を妨げる障害物が存在するとき」に該当するので、「当該障害物を回避した迂回経路のうち最も短い経路の長さ」として定義される長さである。この長さは、具体的には、
図5に示す通り、R
2=r
21+r
22で表される最短の迂回経路の長さである。
【0057】
尚、このオートクレーブ装置の第2の実施形態においては、上流側の区画室(一例として
図2における区画室11A)内の撹拌機の回転軸から通液口迄の距離(
図4におけるd
1)と、下流側の区画室(一例として
図4における区画室11B)内の撹拌機の回転軸から通液口迄の距離(d
2)については等距離とすることができる。この場合は、撹拌機が従来の一般的な配置で構成されているオートクレーブ装置に邪魔板152を追加設置することのみによって、本発明のオートクレーブ装置として稼働させることができる。
【0058】
図4に示す通り、邪魔板152の設置によって、上述の構成(R
1<R
2であること)を実現している「第2の実施形態」のオートクレーブ装置においては、下流側の区画室11B内で発生する液流(撹拌流)の流れの強さを、当該液流が、通液口151Aに達するまでに十分に減衰させることができる。よって、第1の実施形態のオートクレーブ装置と同様に、通液口151Aに対する「下流側向きの吐出力」と「上流側向きの吐出力」とが均衡している状態、若しくは、「下流側向きの吐出力」の方が優勢な状態を維持して、通液口151Aにおける原料スラリーの逆流を防ぐことができる。
【0059】
[オートクレーブ装置の運転方法]
本発明のオートクレーブ装置は、上述の何れの実施形態においても、隔壁を間に挟んで隣接する2つの区画室、好ましくは全ての区画室において、各々の区画室に、同一形状同一サイズの撹拌翼を備え、同一条件における最大回転速度が等しい撹拌機を設置した構成とすることができる。この場合、2つの撹拌機、好ましくは全ての撹拌機を同一の最大回転速度で稼働させて、装置の最大処理効率を保持しながら、本発明の効果を享受して、運転中における通液口を通じた原料スラリーの逆流を十分に防止することができる。
【0060】
以上のように、オートクレーブ装置において、各々の「区画室内における撹拌機の回転軸から通液口迄の液流経路の長さ(通液口迄の液流経路長)」を、区画室毎に異なる最適な長さとなるように構造を改良することにより、運転中における原料スラリーの逆流を防ぐことができる。これにより、原料スラリーを構成する鉱石や混合硫化物、マット等の原料(固形物)からの有価金属の浸出率の低下を防ぐことができる。
【符号の説明】
【0061】
1 オートクレーブ装置
2 従来のオートクレーブ装置
11(11A、11B、11C、11D) 区画室
12(12A、12B、12C、12D) 撹拌機
121(121A、121B) 撹拌軸
122(122A、122B) 撹拌羽根
13 原料スラリー装入管
14 浸出液排出管
15(15A、15B、15C) 隔壁
151(151A、151B、151C) 通液口
152 邪魔板