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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178979
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】静電チャック装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20221125BHJP
   H02N 13/00 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H02N13/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086147
(22)【出願日】2021-05-21
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】金原 勇貴
(72)【発明者】
【氏名】板垣 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】真家 沢二
【テーマコード(参考)】
5F131
【Fターム(参考)】
5F131AA02
5F131BA19
5F131CA03
5F131CA17
5F131EA03
5F131EB12
5F131EB13
5F131EB18
5F131EB25
5F131EB79
5F131EB82
5F131FA10
5F131FA14
(57)【要約】
【課題】信頼性に優れる静電チャック装置を提供する。
【解決手段】ウエハが載置される載置面を有する誘電体基板、および誘電体基板の内部に位置する吸着電極を有する静電チャックプレートと、載置面の反対側に位置する誘電体基板の裏面を、支持面において支持する金属基台と、を備え、誘電体基板と金属基台との間は分子間力によって互いに接合され、誘電体基板と金属基台との間には、支持面の面方向において、支持面に対する誘電体基板の位置ずれを抑制する位置決め機構が設けられる、静電チャック装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエハが載置される載置面を有する誘電体基板、および前記誘電体基板の内部に位置する吸着電極を有する静電チャックプレートと、
前記載置面の反対側に位置する前記誘電体基板の裏面を支持面において支持する金属基台と、を備え、
前記誘電体基板と前記金属基台との間は分子間力によって互いに接合され、
前記誘電体基板と前記金属基台との間には、前記支持面の面方向において、前記支持面に対する前記誘電体基板の位置ずれを抑制する位置決め機構が設けられる、
静電チャック装置。
【請求項2】
前記裏面と前記支持面との真実接触面積は、0.005%以上、40%以下である、
請求項1記載の静電チャック装置。
【請求項3】
前記静電チャックプレートは、吸着電極に電圧を印加することで、前記金属基台を前記裏面に吸着させる、
請求項1または2記載の静電チャック装置。
【請求項4】
前記位置決め機構は、
前記裏面および前記支持面のうち何れか一方から他方側に突出する複数の凸部と、
他方に設けられ、それぞれ前記凸部が挿入される複数の凹部と、を有し、
複数の前記凹部は、前記支持面の中心に対する径方向に沿って延びる、
請求項1~3の何れか一項に記載の静電チャック装置。
【請求項5】
前記金属基台の前記支持面の反対側の面に接触する冷却装置を、さらに備え、
前記冷却装置は、ヒートパイプ構造を有する、
請求項1~4の何れか一項に記載の静電チャック装置。
【請求項6】
前記裏面および前記支持面のうち少なくとも一方の外縁には、径方向外側に開口する治具挿入用凹部が設けられる、
請求項1~5の何れか一項に記載の静電チャック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程では、真空環境下で半導体ウエハを保持する静電チャック装置が用いられている。静電チャック装置は、載置面に半導体ウエハ等の板状試料を載置し、板状試料と内部電極との間に静電気力を発生させて、板状試料を吸着固定する。このような静電チャック装置として特許文献1には、金属製の冷却ベース部材上に、接着剤層を介してウエハを吸着可能な静電チャック部材が設置された構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-053559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体素子の高集積化や高性能化に伴い、ウエハの加工の微細化が進んでいる。半導体の微細加工を行うためには、半導体をより低温に制御した状態でプラズマエッチングを行うことが求められている。一般的に、金属基台と静電チャックプレートとを接合する接着剤層の弾性率は、低温環境下で高まることが知られている。このため、低温環境下の接着剤層は、金属基台と静電チャックプレートとの熱応力を十分に緩和できず静電チャックプレートに損傷が生じる虞があった。すなわち、従来構造の静電チャック装置では、低温環境下での使用が十分に想定されておらず信頼性に問題があった。
【0005】
本発明は、信頼性に優れる静電チャック装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの態様の静電チャック装置は、ウエハが載置される載置面を有する誘電体基板、および前記誘電体基板の内部に位置する吸着電極を有する静電チャックプレートと、前記載置面の反対側に位置する前記誘電体基板の裏面を支持面において支持する金属基台と、を備え、前記誘電体基板と前記金属基台との間は分子間力によって互いに接合され、前記誘電体基板と前記金属基台との間には、前記支持面の面方向において、前記支持面に対する前記誘電体基板の位置ずれを抑制する位置決め機構が設けられる。
【0007】
上記の静電チャック装置において、前記裏面と前記支持面との真実接触面積は、0.005%以上、40%以下である構成としてもよい。
【0008】
上記の静電チャック装置において、前記静電チャックプレートは、吸着電極に電圧を印加することで、前記金属基台を前記裏面に吸着させる構成としてもよい。
【0009】
上記の静電チャック装置において、前記位置決め機構は、前記裏面および前記支持面のうち何れか一方から他方に突出する複数の凸部と、他方に設けられ、それぞれ前記凸部が挿入される複数の凹部と、を有し、複数の前記凹部は、前記支持面の中心に対する径方向に沿って延びる構成としてもよい。
【0010】
上記の静電チャック装置において、前記金属基台の前記支持面の反対側の面に接触する冷却装置を、さらに備え、前記冷却装置は、ヒートパイプ構造を有する構成としてもよい。
【0011】
上記の静電チャック装置において、前記裏面および前記支持面のうち少なくとも一方の外縁には、径方向外側に開口する治具挿入用凹部が設けられる構成としてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の1つの態様によれば、信頼性に優れる静電チャック装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、一実施形態の静電チャック装置の模式図である。
図2図2は、一実施形態の静電チャック装置の一部を示す断面図である。
図3図3は、一実施形態の金属基台の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の静電チャック装置の各実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせて表示する場合がある。
【0015】
図1は、本実施形態の静電チャック装置1の模式図である。
静電チャック装置1は、ウエハWを吸着支持する静電チャックプレート2と、静電チャックプレート2を支持する金属基台3と、静電チャックプレート2に電圧を付与する給電端子16と、金属基台3を冷却する冷却装置5と、を備える。なお、図2において、冷却装置5は省略されている。静電チャックプレート2の上面の外周部には、ウエハWを囲むフォーカスリングが配置されていてもよい。
【0016】
図2は、本実施形態の静電チャック装置1の一部を示す断面図である。
静電チャックプレート2は、誘電体基板11と、誘電体基板11の内部に位置する吸着電極13と、を有する。静電チャックプレート2は、誘電体基板11に設けられる載置面11sでウエハWを吸着する。
【0017】
以下の説明においては、静電チャック装置1の各部は、静電チャックプレート2に対しウエハWを搭載する側を上側、金属基台3側を下側として説明される。しかしながら、ここでの上下方向は、あくまで説明の簡素化のために用いる方向であって、静電チャック装置1の使用時の姿勢を限定するものではない。
【0018】
誘電体基板11は、機械的に十分な強度を有し、かつ腐食性ガスおよびそのプラズマに対する耐久性を有する複合焼結体からなる。誘電体基板11を構成する誘電体材料としては、機械的な強度を有し、しかも腐食性ガスおよびそのプラズマに対する耐久性を有するセラミックスが好適に用いられる。誘電体基板11を構成するセラミックスとしては、例えば、酸化アルミニウム(Al)焼結体、窒化アルミニウム(AlN)焼結体、酸化アルミニウム(Al)-炭化ケイ素(SiC)複合焼結体などが好適に用いられる。特に、高温での誘電特性、高耐食性、耐プラズマ性、耐熱性の観点から、誘電体基板11を構成する材料は、酸化アルミニウム(Al)-炭化ケイ素(SiC)複合焼結体が好ましい。
【0019】
誘電体基板11は、平面視で円形の板状である。誘電体基板11は、ウエハWが載置される載置面11sと、載置面11sの反対側を向く裏面11pと、を有する。載置面11sには、例えば複数の突起部(図示略)が所定の間隔で形成されている。載置面11sは、複数の突起部の先端部でウエハWを支持する。
【0020】
吸着電極13は、誘電体基板11の内部に配置される。吸着電極13は、誘電体基板11の載置面11sに沿って板状に延びる。吸着電極13は、電圧を印加されることで、誘電体基板11の載置面11sにウエハWを保持する静電吸着力を生じさせる。
【0021】
吸着電極13は、絶縁性物質と導電性物質の複合体から構成される。吸着電極13に含まれる絶縁性物質は、特に限定されないが、例えば、酸化アルミニウム(Al)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(Si)、酸化イットリウム(III)(Y)、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)およびSmAlOからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。吸着電極13に含まれる導電性物質は、炭化モリブデン(MoC)、モリブデン(Mo)、炭化タングステン(WC)、タングステン(W)、炭化タンタル(TaC)、タンタル(Ta)、炭化ケイ素(SiC)、カーボンブラック、カーボンナノチューブおよびカーボンナノファイバーからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0022】
給電端子16は、吸着電極13に接する。給電端子16は、吸着電極13から下側に向かって延びる。給電端子16は、誘電体基板11の孔部15を通過する。また、給電端子は、金属基台3の保持孔17に収容される円筒状の碍子23の内部を通過する。給電端子16は、外部の電源24に接続されている。電源24は、吸着電極13に電圧を付与する。給電端子16の数、形状等は、吸着電極13の形態、すなわち単極型か、双極型かにより決定される。本実施形態において、給電端子16は、静電チャックプレート2の中心に配置される。
【0023】
金属基台3は、平面視で円板状の金属部材である。金属基台3を構成する材料は、熱伝導性、導電性、加工性に優れた金属、またはこれらの金属を含む複合材であれば特に制限されるものではない。金属基台3を構成する材料としては、例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ステンレス鋼(SUS)、チタン(Ti)等の合金が好適に用いられる。金属基台3を構成する材料は、熱伝導性、導電性、加工性の観点からアルミニウム合金が好ましい。金属基台3における少なくともプラズマに曝される面は、アルマイト処理またはポリイミド系樹脂による樹脂コーティングが施されていることが好ましい。また、金属基台3の全面が、前記のアルマイト処理または樹脂コーティングが施されていることがより好ましい。金属基台3にアルマイト処理または樹脂コーティングを施すことにより、金属基台3の耐プラズマ性が向上するとともに、異常放電が防止される。したがって、金属基台3の耐プラズマ安定性が向上し、また、金属基台3の表面傷の発生も防止することができる。
【0024】
金属基台3の躯体は、プラズマ発生用内部電極としても機能をも有する。金属基台3の躯体は、図示略の整合器を介して外部の高周波電源22に接続されている。
【0025】
金属基台3は、静電チャックプレート2を下側から支持する。金属基台3は、上側を向く支持面3aと、支持面3aの反対側を向く下面3bと、を有する。支持面3aは、誘電体基板11の裏面11pと上下方向に対向する。支持面3aは、裏面11pと接触する。すなわち、金属基台3は、支持面3aにおいて誘電体基板11の裏面11pを支持する。
【0026】
図1に示すように、金属基台3は、冷却装置5に搭載される。本実施形態の冷却装置5は、ヒートパイプ構造を有する。
【0027】
冷却装置5は、内部に冷媒が充填される吸熱室5cと放熱室5dと連結管5eとを有する。冷媒Lは、吸熱室5cにおいて、冷却対象から熱を受け取って気化し、吸熱室5c放熱室5dに移動する。また、冷媒Lは、放熱室5dにおいて熱交換器6冷却され凝縮して液体に戻る。これらの作用により、冷却装置5は、冷却対象から熱交換器6に熱を移動させる。
【0028】
冷却装置5は、冷却対象を冷却する冷却面5aを有する。冷却面5aは、吸熱室5cの外側面に設けられる。したがって、冷却装置5は、冷却面5aにおいて冷却対象から熱を受け取って、吸熱室5c内の冷媒Lに熱を移動させる。
【0029】
金属基台3は、支持面3aの反対側の面である下面(被冷却面)3bにおいて、冷却面5aに接触する。金属基台3の下面3bの全体は、冷却装置5の冷却面5aと面接触する。したがって、冷却装置5は、金属基台3を、下面3bの面内全体において均一に冷却できる。上下方向と直交する平面における金属基台3の断面形状は、上下方向の何れの位置においても略一様である。このため、静電チャックプレート2の熱は、金属基台3の断面において均一に伝達されて支持面3aから下面3bに達し、下面3bから冷却面5aに移動する。本実施形態によれば、金属基台3および静電チャックプレート2を介して、静電チャックプレート2の載置面11s状に搭載されウエハWを面内において均一に冷却することができる。
【0030】
なお、本実施形態と比較して、従来構造の金属基台3は、内部に冷媒の流路が設けられ、当該冷媒を用いて金属基台を冷却していた。このような構造を採用する場合、冷媒は流路に沿って金属基台を冷却するため、支持面に温度ムラが生じることを避けることが難しかった。本実施形態の冷却装置5によれば、従来構造の課題であるウエハWの温度ムラをより効果的に解消できる。
【0031】
本実施形態の冷却装置5は、ヒートパイプ構造を有するため、冷媒Lの選定によっては、金属基台3を極低温に冷却できる。一例として、冷媒Lとして液体窒素を用いる場合、金属基台3を-100℃以下に冷却することができる。
【0032】
図2に示すように、本実施形態において、金属基台3の支持面3aと誘電体基板11の裏面11pとは、他部材を介在させることなく直接的に接触する。すなわち、金属基台3と誘電体基板11と間には、従来知られるような接着層が設けられていない。
【0033】
本実施形態において、誘電体基板11と金属基台3との間は分子間力によって互いに接合される。誘電体基板11と金属基台3との間に、分子間力より大きな応力が付与される場合に、誘電体基板11と金属基台3との相対位置の変化を許容する。誘電体基板11と金属基台3とは、接合面のせん断方向に応力が付与される場合に、接合面において面方向に相対移動する。
【0034】
なお、本明細書において、「誘電体基板11と金属基台3とが接合される」とは、真空下で金属基台3の支持面3aを下側に向けて接合面に静電チャックプレート2の自重を付与した場合であっても、誘電体基板11が金属基台3から離間することがないことを意味する。例えば、厚さ5mm前後のセラミックからなる誘電体基板11を使用する場合、当該誘電体基板11の自重による圧力は、約190Pa程度となる。一方で、真実接触面積が0.005%以上とする場合に、誘電体基板11と金属基台3との間に働く分子間力は、約410Paとなる。このため、真実接触面積が0.005%以上である場合には、分子間力が誘電体基板11の自重を十分に上回っており、誘電体基板11が自重によって金属基台3から離間する事を抑制できる。
【0035】
静電チャック装置1が用いたプラズマエッチングにおいて、ウエハWにプラズマを照射すると、ウエハWの表面温度が上昇する。一方で、金属基台3は、冷却装置5によって冷却される。すなわち、静電チャック装置は、上側から加熱され下側から冷却される。また、金属基台3は金属材料から構成される一方で、誘電体基板11はセラミックスなどで構成されるため、誘電体基板11の熱膨張率と金属基台3の熱膨張率とは、大きく異なる。このため、プラズマエッチングを行う際に誘電体基板11の裏面11pと金属基台3の支持面3aとの間には、熱膨張率の差に起因する相対的な変位が生じる。
【0036】
本実施形態によれば、誘電体基板11の裏面11pと金属基台3の支持面3aとが分子間力によって接合されることで、裏面11pと支持面3aとの間の面方向の相対的な変位が許容される。これにより、金属基台3を極低温に冷却しても熱膨張率の差に起因して誘電体基板11に過度な応力が生じることを抑制できる。結果的に、誘電体基板11の損傷を抑制して、静電チャック装置1の信頼性を高めることができる。
【0037】
本実施形態によれば、誘電体基板11と金属基台3との接合に接着剤が用いられていない。一般的に、接着剤は低温環境下において弾性率が高くなるため、誘電体基板と金属基台との接合に接着剤を用いる場合、誘電体基板と金属基台との熱膨張率の差に起因する相対的な変位に対して接着剤が十分に追随することができず、接着剤に剥離が生じやすくなる。本実施形態によれば、誘電体基板と金属基台とが分子間力によって接合されるため、温度変化に対して安定した接合強度を得ることができる。
【0038】
本実施形態によれば、誘電体基板11と金属基台3とは、直接的に接触する。このため、誘電体基板11と金属基台3との間に接着剤層が設けられる場合と比較して、誘電体基板11と金属基台3との熱伝達効率を高めることができる。本実施形態によれば、冷却の応答性が高く冷却効率に優れた静電チャック装置1を提供できる。
【0039】
一般的に、二部材間に働く分子間力の強さは、二部材間の真実接触面積と相関があることが知られている。本実施形態において、誘電体基板11の裏面11pと金属基台3の支持面3aとの真実接触面積を大きくすることで、誘電体基板11と金属基台3との間の分子間力を強く働かせることができる。
【0040】
誘電体基板11の裏面11pと金属基台3の支持面3aの間の真実接触面積は、0.005%以上、40%以下であることが好ましく、0.06%以上、40%以下がさらに好ましい。
【0041】
真実接触面積の下限値である0.005%は、誘電体基板11の裏面11pと金属基台3の支持面3aとの間で、好ましい熱移動を基に算出されている。裏面11pと支持面3aの間の真実接触面積を0.005%以上とすることで、誘電体基板11と金属基台3との間の熱伝達効率を十分に高めて、熱応答性の高い静電チャック装置1を提供できる。加えて、裏面11pと支持面3aの間の真実接触面積を0.005%以上とすることで、誘電体基板11と金属基台3との間の分子間力による接合力を高めて、金属基台3に対する誘電体基板11の離脱を抑制できる。
なお、裏面11pと支持面3aの間の真実接触面積を0.006%以上とする場合には、熱伝達効率をさらに高めるとともに、誘電体基板11と金属基台3との間の分子間力による接合力をさらに高めた優れた静電チャック装置を提供できる。
【0042】
真実接触面積の上限値である40%は、誘電体基板11と金属基台3との間に働く分子間力の上限値を基に算出される。分子間力が大きすぎる場合には、分子間力によって金属基台3に塑性変形が生じる虞がある。
【0043】
金属基台3は、概ね3MPa以上の応力に対して塑性変形を生じる。また、一般的に、ファンデルワールス応力P(z)は、ハマーカー定数Aと接触距離zを用いて、以下の式で表されることが知られている。なお、ここでは、ファンデルワールス応力は、分子間応力(単位面積当たりの分子間力)と一致するとみなす。
【0044】
【数1】
【0045】
上述の式において、接触距離zを1nmと仮定し、金属基台の塑性変形を十分に抑制できる真実接触面積を算出したところ、真実接触面積を40%以下とすることが好ましいことがわかった。
【0046】
さらに、裏面11pと支持面3aとの間の真実接触面積が大きすぎる場合には、裏面11pと支持面3aとの間に働く分子間力が大きくなり過ぎて、誘電体基板11と金属基台3とが、接合面の面方向に沿って相対移動し難くなる。この場合に、誘電体基板11と金属基台3との間の分子間力が、誘電体基板11と金属基台3の自由膨張を阻害し、熱応力によって誘電体基板11に損傷が生じる虞がある。裏面11pと支持面3aの間の真実接触面積を40%以下とすることで、誘電体基板11と金属基台3との間の分子間力に起因する接合力を、誘電体基板11と金属基台3との熱膨張率の差に起因する熱応力によって誘電体基板11に損傷が生じる前に、接合面の面方向への移動を生じさせることができる程度に抑制できる。
【0047】
なお、上述の真実接触面積の範囲は、誘電体基板11および金属基台3の熱膨張率によって、より厳密に規定される。誘電体基板11の材料が酸化アルミニウム(Al)-炭化ケイ素(SiC)複合焼結体であり、金属基台3の材料がアルミニウム合金であることがある場合においても、裏面11pと支持面3aの間の真実接触面積は、0.005%以上、40%以下であることが好ましい。
【0048】
誘電体基板11の裏面11pおよび金属基台3の支持面3aは、例えばラップ研磨等の研磨手段で研磨される。裏面11pと支持面3aとをそれぞれ適切な砥粒を用いて研磨することで、上述の範囲の真実接触面積で接触する状態を実現できる。
【0049】
本実施形態の静電チャック装置1は、吸着電極13に電圧を印加することで、吸着電極13とウエハWとの間のみならず、吸着電極13と金属基台3との間にも、静電力を発生させる。これにより、誘電体基板11の載置面11sにウエハWを吸着するとともに、誘電体基板11の裏面11pに金属基台3の支持面3aを吸着する。この静電気力は、誘電体基板11の裏面11pと金属基台3の支持面3aとの間の分子間力による接合を補助して、裏面11pと支持面3aとの間の接合をより安定させる。
【0050】
プラズマエッチングを行う際に誘電体基板11は、ウエハWの発熱に応じて載置面11s側が加熱され金属基台3によって裏面11p側から冷却される。誘電体基板11は板厚方向の両側から加熱および冷却が行われて、ウエハW側(上側)に凸となるように反りが発生する虞がある。誘電体基板11がウエハW側に凸となるように反ると、誘電体基板11の裏面11p中央における支持面3aとの真実接触面積が、その外側の真実接触面積と比較して低下することが懸念される。本実施形態によれば、静電チャックプレート2が金属基台3をも吸着するため、誘電体基板11の反りが抑制され裏面11pと支持面3aとの真実接触面積を全体で均一に近づけることができる。これにより、反りに起因する誘電体基板11と金属基台3との間の熱伝達効率の不均一さを抑制できる。
【0051】
なお、本実施形態の静電チャックプレート2は、1つの吸着電極13に電圧を印加することでウエハWと金属基台3とを吸着する場合について説明した。しかしながら、静電チャックプレート2は、ウエハWを吸着するための吸着電極と、金属基台3を吸着するための吸着電極とをそれぞれ有していてもよい。
【0052】
図2に示すように、誘電体基板11と金属基台3との間には、位置決め機構7が設けられる。位置決め機構7は、支持面3aの面方向において、支持面3aに対する誘電体基板11の位置ずれを抑制する。
【0053】
上述したように、静電チャック装置1は、誘電体基板11の裏面11pと金属基台3の支持面3aとの相対的な変位を許容するために、裏面11pと支持面3aとが分子間力によって接合される。分子間力による裏面11pと支持面3aとの接合は、裏面11pと支持面3aとの間に面方向の一定以上の応力が付与された場合に、裏面11pと支持面3aとを相対的な変位させる程度の接合力とされている。このため、誘電体基板11と金属基台3とを分子間力によって接合する場合、誘電体基板11が金属基台3に対して周方向に回転するなど、金属基台3に対する誘電体基板11の位置ずれが懸念される。金属基台3に対し誘電体基板11が位置ずれすると、載置面11sに搭載されたウエハWの位置決めが難しくなる。
【0054】
本実施形態の位置決め機構7は、支持面3aの面方向において、裏面11pと支持面3aとの熱膨張の差に起因する相対的な変位を許容しつつ、相対的な変位と直交する方向の位置ずれを抑制する。このため、載置面11sに搭載されたウエハWの位置決めを容易に行うことができる。
【0055】
本実施形態において、誘電体基板11の裏面11pおよび金属基台3の支持面3aは、それぞれ平面視で円形である。裏面11pおよび支持面3aは、それぞれの面の中心に対して対称に膨張する。すなわち、裏面11pと支持面3aとは、熱膨張効率の差に起因して支持面3aの中心Cの径方向に相対的に変位する。本実施形態の位置決め機構7は、支持面3aの面方向において、支持面3aの中心の径方向の誘電体基板11の移動を許容しつつ周方向の誘電体基板11の位置ずれを抑制する。
【0056】
位置決め機構7は、誘電体基板11の裏面11pから下側に突出する複数の位置決めピン(凸部)7aと、金属基台3の支持面3aに設けられる複数の凹部7bと、を有する。位置決めピン7aは、誘電体基板11の裏面11pに設けられる保持孔11hに挿入され誘電体基板11に保持される。位置決めピン7aは、誘電体基板11の裏面11pから下側に突出する。凹部7bは、支持面3aに対して下側に窪む。1つの凹部7bには、それぞれ1つの位置決めピン7aが挿入される。
【0057】
図3は、金属基台3の平面図である。
図3に示すように、複数の凹部7bは、支持面3aの中心Cの周方向に沿って等間隔に並ぶ。複数の凹部7bは、支持面3aの中心Cの径方向に沿って延びる。本実施形態において、凹部7bは、径方向に沿って延びる長孔形状である。
【0058】
凹部7bは、平面視において、互いに平行に延び互いに対向する一対の側面7cと、一対の側面7c同士を繋ぐ一対の半円状の円弧面7dと、を有する。一方で、位置決めピン7aは、円柱状であり、一対の側面7c同士の間に配置される。一対の側面7c同士の距離は、位置決めピン7aの直径と略同じか若干大きい。一対の側面7cは、位置決めピン7aをガイドする。これにより、位置決め機構7は、支持面3aの中心Cの径方向の誘電体基板11の移動を許容しつつ周方向の誘電体基板11の位置ずれを抑制する。
【0059】
本実施形態の位置決め機構7において、位置決めピン7aを裏面11pに設け、位置決めピン7aを支持面3aに設ける場合について説明した。しかしながら、位置決めピン7aを支持面3aに設け、凹部7bを裏面11pに設ける場合であっても、同様の効果を得ることができる。すなわち、位置決め機構7は、裏面11pおよび支持面3aのうち何れか一方から他方側に突出する複数の凸部(本実施形態において位置決めピン7a)と、他方に設けられ、それぞれ凸部が挿入される複数の凹部7bと、を有していればよい。
【0060】
なお、本実施形態の静電チャック装置1は、誘電体基板11と金属基台3との間を跨って延びる給電端子16が設けられる。本実施形態において、給電端子16は、支持面3aの中心Cに配置される。このため、給電端子16は、支持面3aの中心Cと誘電体基板11の中心とを互いに一致させる位置決め機構7の一部として機能する。
【0061】
本実施形態では省略されるが、静電チャック装置1には、誘電体基板11および金属基台3を上下方向に貫通するリフトピンが設けられる場合がある。リフトピンは、下端部においてリフトピンを上下方向に駆動する動作機構に接続される。リフトピンは、誘電体基板11の載置面11sから上側に延び出て載置面11sからウエハWを離脱させる。この場合、リフトピンが通過する誘電体基板11および金属基台3の貫通孔は、誘電体基板11と金属基台3との熱膨張率の差に起因する相対的な変位量に対し十分な大きさとされる。上述したように、誘電体基板11と金属基台3との間には、位置決め機構7が設けられ、支持面3aの面方向において誘電体基板11と金属基台3との位置決めがされている。このため、リフトピンが誘電体基板11および金属基台3に干渉することを抑制できる。また、リフトピンを挿通するとともに、誘電体基板11および金属基台3の貫通孔に挿通される筒状の碍子を上述の位置決めピン7aの代わりとしてもよい。
【0062】
図2に示すように、支持面3aの外縁には、一対の治具挿入用凹部8が設けられる。治具挿入用凹部8は、支持面3aに対して下側に窪むとともに金属基台3の外周面に対し径方向内側に窪む。治具挿入用凹部8は、支持面3aの径方向外側に向かうに従い下側に向かって傾く傾斜面8aを有する。治具挿入用凹部8において、誘電体基板11と金属基台3との間の上下方向の隙間は、金属基台3の径方向外側に向かうに従い徐々に大きくなる。
【0063】
静電チャックプレート2は、載置面11sの摩耗が進んだ場合に交換される。この場合、作業者は、静電チャックプレート2を金属基台3の支持面3aから離脱する。本実施形態の誘電体基板11と金属基台3とは、分子間力によって接合される。このため、静電チャックプレート2を金属基台3から離脱する際には、誘電体基板11と金属基台3との間に働く分子間力より大きな力で裏面11pと支持面3aとの離間させる必要がある。
【0064】
本実施形態によれば、支持面3aの外縁に治具挿入用凹部8が設けられている。また、静電チャック装置1には、専用のプレート交換用治具9が付属する。プレート交換用治具9は、先端側に向かって薄くなっている。静電チャックプレート2を交換する作業者は、プレート交換用治具9の先端を、2つの治具挿入用凹部8のうち何れか1つに挿入し、プレート交換用治具9の根元を下側に傾ける。てこの原理の効果によって、誘電体基板11の裏面11pと金属基台3の支持面3aとの間には、大きな力が加わり、裏面11pと支持面3aとを離間させることができる。本実施形態によれば、静電チャックプレート2の交換を円滑に行うことができる。
【0065】
なお、本実施形態において、治具挿入用凹部8は支持面3aに設けられるが、治具挿入用凹部8は裏面11pに設けられていてもよい。すなわち、治具挿入用凹部8は、裏面11pおよび支持面3aのうち少なくとも一方の外縁に設けられていればよい。
【0066】
以上に、本発明の様々な実施形態を説明したが、各実施形態における各構成およびそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換およびその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはない。
【符号の説明】
【0067】
1…静電チャック装置、2…静電チャックプレート、3…金属基台、3a…支持面、5…冷却装置、7…位置決め機構、7a…位置決めピン(凸部)、7b…凹部、8…治具挿入用凹部、11…誘電体基板、11p…裏面、11s…載置面、13…吸着電極、C…中心、W…ウエハ
図1
図2
図3