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特開2022-179113近接場発生用プローブ、その製造方法およびそれを用いた近接場分光測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022179113
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】近接場発生用プローブ、その製造方法およびそれを用いた近接場分光測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01Q 60/38 20100101AFI20221125BHJP
   G01Q 30/02 20100101ALI20221125BHJP
【FI】
G01Q60/38 101
G01Q60/38 111
G01Q30/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086373
(22)【出願日】2021-05-21
(71)【出願人】
【識別番号】000151243
【氏名又は名称】株式会社東レリサーチセンター
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】藤田 康彦
(72)【発明者】
【氏名】雲林院 宏
(72)【発明者】
【氏名】猪瀬 朋子
(57)【要約】
【課題】測定中の不安定化が生じず、高感度な分光測定を実施するのに十分な近接場発生強度を有しており、安定動作のための酸化・硫化を防ぐコート膜が付与されている近接場発生用プローブを提供する。
【解決手段】金属ナノワイヤをカンチレバーに固定したプローブであって、金属ナノワイヤの先端部に2つ以上の金属微粒子が保持されており、金属微粒子と金属ナノワイヤに酸化・硫化防止コート膜が付与された近接場発生用プローブ、その製造方法およびそれを用いた近接場分光測定方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノワイヤをカンチレバーに固定したプローブであって、金属ナノワイヤの少なくとも先端部に2つ以上の金属微粒子が保持されており、金属微粒子と金属ナノワイヤに酸化・硫化防止コート膜が付与されていることを特徴とする近接場発生用プローブ。
【請求項2】
金属ナノワイヤが、金、銀、銅、白金またはアルミニウム、またはそれらの少なくとも1つを含む合金からなる、請求項1に記載の近接場発生用プローブ。
【請求項3】
金属微粒子が、金、銀、銅、白金またはアルミニウム、またはそれらの少なくとも1つを含む合金からなる、請求項1または2に記載の近接場発生用プローブ。
【請求項4】
酸化・硫化防止コート膜が、薄層の高分子、単分子、酸化・硫化に耐性のある金属、無機材料のうちから選ばれる少なくとも一つの材料からなる、請求項1~3のいずれかに記載の近接場発生用プローブ。
【請求項5】
酸化・硫化防止コート膜が、薄層の有機高分子からなる、請求項4に記載の近接場発生用プローブ。
【請求項6】
金属微粒子が保持された金属ナノワイヤのカンチレバーからの露出長さが10μm以下である、請求項1~5のいずれかに記載の近接場発生用プローブ。
【請求項7】
金属微粒子の大きさが1~100nmの範囲にある、請求項1~6のいずれかに記載の近接場発生用プローブ。
【請求項8】
金属ナノワイヤの直径が10~500nmの範囲にある、請求項1~7のいずれかに記載の近接場発生用プローブ。
【請求項9】
金属ナノワイヤをカンチレバーに固定する工程1と、
カンチレバーに固定された金属ナノワイヤの少なくとも先端部を含む部分を、酸化・硫化抑制機能を有する組成物を含有する溶液に浸漬し、浸漬した金属ナノワイヤ部分の金属成分を交流電圧印可による電気化学反応により溶出させて金属ナノワイヤの少なくとも先端部に2つ以上の金属微粒子を形成するとともに、該金属微粒子と金属ナノワイヤの表面に酸化・硫化防止コート膜を形成する工程2と、
を有することを特徴とする、近接場発生用プローブの製造方法。
【請求項10】
金属ナノワイヤをカンチレバーに固定する工程1と、
カンチレバーに固定された金属ナノワイヤの少なくとも先端部を含む部分を、酸化・硫化抑制機能を有する組成物を含有する溶液に浸漬し、浸漬した金属ナノワイヤ部分に対し金属イオンの還元反応により金属ナノワイヤの少なくとも先端部に2つ以上の金属微粒子を形成するとともに、該金属微粒子と金属ナノワイヤの表面に酸化・硫化防止コート膜を形成する工程2と、
を有することを特徴とする、近接場発生用プローブの製造方法。
【請求項11】
金属ナノワイヤをカンチレバーに固定する工程1と、
カンチレバーに固定された金属ナノワイヤの少なくとも先端部を含む部分を、酸化・硫化抑制機能を有する組成物で被覆された金属微粒子を含有する溶液に浸漬し、浸漬した金属ナノワイヤ部分に対し交流電圧印可による誘電泳動により金属ナノワイヤの少なくとも先端部に2つ以上の金属微粒子を保持させるとともに、該金属微粒子と金属ナノワイヤの表面に酸化・硫化防止コート膜を形成する工程2と、
を有することを特徴とする、近接場発生用プローブの製造方法。
【請求項12】
金属ナノワイヤをカンチレバーに固定する工程1と、
該工程1の前に、請求項9~11のいずれかに記載の方法の工程2により金属ナノワイヤの少なくとも先端部に2つ以上の金属微粒子を形成または保持させるとともに、該金属微粒子と金属ナノワイヤの表面に酸化・硫化防止コート膜を形成する工程2と、
を有することを特徴とする、近接場発生用プローブの製造方法。
【請求項13】
前記工程1において、誘電泳動法により金属ナノワイヤをカンチレバーに固定する、請求項9~12のいずれかに記載の近接場発生用プローブの製造方法。
【請求項14】
前記工程1において、押し付けにより物理的に金属ナノワイヤをカンチレバーに固定する、請求項9~12のいずれかに記載の近接場発生用プローブの製造方法。
【請求項15】
請求項1~8のいずれかに記載の近接場発生用プローブを用い、近接場発生用プローブの先端部の金属微粒子に集光した光を照射して金属微粒子の表面に近接場を発生させ、発生した近接場を試料に近づけて近接場により試料を励起し、試料からの近接場信号を検出することを特徴とする近接場分光測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定かつ高感度な近接場分光測定を可能とする近接場発生用プローブ、近接場発生用プローブの製造方法、およびその近接場発生用プローブを用いた近接場分光測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラマン分光法や赤外分光法などの顕微分光法は、対象試料の化学組成や結晶性、分子配向、濃度などの様々な情報が得られるため、これまで多くの研究者により利用されてきた。一方で、これらの顕微分光法はその空間分解能に制限を持つ。一般的に、試料への励起光の照射は対物レンズによって行われるが、その集光スポットサイズは光の回折限界に縛られる。具体的には、おおよそ励起光の波長程度までしか絞り込めず、実質的には1μm程度が限度となる。この分解能の限界を打破すべく、近接場を利用した高感度・高分解能な分光技術の開発が行われている。
【0003】
1990年代に開発されたものに、開口型の近接場発生用プローブを用いた近接場分光法がある。光の波長以下の微小な開口の近傍に発生する近接場を利用して試料を励起することにより、光の回折限界を超える分解能での測定を実現できる。ただし、このタイプのプローブから発生する近接場の輝度は極めて低く、ラマン散乱光のような微弱光を検出する分光用途には適用できない。
【0004】
そこで近年、金属表面で生じる表面プラズモン共鳴による増強電場を利用した電場増強型の近接場発生用プローブが開発されている。プラズモン共鳴を示す金属プローブの先端にレーザー光を照射することで、金属構造の周囲に局在する微小かつ高輝度の近接場が発生し、この増強型近接場を試料励起の光源として用いることにより、光学限界を超えた微小部の励起および高感度な信号検出が実現できる。電場増強型の近接場発生用プローブの微小部分光手法への応用として、チップ増強ラマン分光法に代表される、走査型プローブ顕微鏡と分光装置を組み合わせた装置が開発されており、近年ナノ材料の局所構造解析に対する高い有効性が認められつつあるものの、未だ分析手法の一般化はなされていない。
【0005】
前記微小部分光手法への応用ならびに手法の一般化に係る最大の課題は、高輝度かつ安定な近接場を提供できる近接場発生用プローブが確立できていないことにある。電場増強型の近接場発生用プローブの一形態として、金属線の電解研磨により作製した金属プローブが開発されてきたが、先端の金属構造の形状再現性が低いためにプローブごとの近接場の輝度に顕著なバラつきが発生してしまうことや、作製後の金属表面は金属が露出された状態であるために、大気中の測定においては酸化・硫化による信号感度の低減が避けられない課題があり、実用には至らなかった。
【0006】
電場増強型の近接場発生用プローブの別の形態として、ベースプローブへ金属の真空蒸着により作製した金属プローブが開発されてきた。利点としては、走査型プローブ顕微鏡の動作様式の中で最も試料に対する汎用性が高いカンチレバー型の原子間力顕微鏡(AFM)に対応できることであり、市販もされている。しかしながら、このプローブでは、試料とプローブ先端金属の接触により金属蒸着膜が容易に剥離してしまうために、測定中に近接場の輝度が大きく変化してしまう課題がある。加えて、酸化・硫化防止のためのコート膜を形成するために、気相薄膜形成装置などの高額な装置を用いた追加工を行う必要があり、コスト面でも大きな課題を抱えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2019/008108号
【特許文献2】国際公開第2004/052489号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明が解決しようとする課題は、金属コート剥離問題のような測定中の不安定化が生じず、高感度な分光測定を実施するのに十分な近接場発生強度を有しており、安定動作のための酸化・硫化を防ぐコート膜が付与されていることを様態とする近接場発生用プローブであり、その効果として走査プローブ顕微鏡用のプローブとして安定に表面形態像が取得可能であり、高輝度な近接場発生により高感度な近接場信号を取得でき、これらの測定を安定かつ再現よく実施できる近接場発生用プローブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に対して検討を重ねた結果、金属ナノワイヤをカンチレバーに固定したプローブであって、金属ナノワイヤの先端部に2つ以上の金属微粒子が保持されており、金属微粒子と金属ナノワイヤに酸化・硫化防止コート膜が付与された近接場発生用プローブが有効であることを見出し、今回その発明を完成するに至った。
【0010】
加えて本発明においては、上記近接場発生用プローブの製造方法およびその近接場発生用プローブを用いた近接場分光測定方法も提供される。
【0011】
すなわち、本発明では、以下の構成を採用する。
(1)金属ナノワイヤをカンチレバーに固定したプローブであって、金属ナノワイヤの少なくとも先端部に2つ以上の金属微粒子が保持されており、金属微粒子と金属ナノワイヤに酸化・硫化防止コート膜が付与されていることを特徴とする近接場発生用プローブ。
(2)金属ナノワイヤが、金、銀、銅、白金またはアルミニウム、またはそれらの少なくとも1つを含む合金からなる、(1)に記載の近接場発生用プローブ。
(3)金属微粒子が、金、銀、銅、白金またはアルミニウム、またはそれらの少なくとも1つを含む合金からなる、(1)または(2)に記載の近接場発生用プローブ。
(4)酸化・硫化防止コート膜が、薄層の高分子、単分子、酸化・硫化に耐性のある金属、無機材料のうちから選ばれる少なくとも一つの材料からなる、(1)~(3)のいずれかに記載の近接場発生用プローブ。
(5)酸化・硫化防止コート膜が、薄層の有機高分子からなる、(4)に記載の近接場発生用プローブ。
(6)金属微粒子が保持された金属ナノワイヤのカンチレバーからの露出長さが10μm以下である、(1)~(5)のいずれかに記載の近接場発生用プローブ。
(7)金属微粒子の大きさが1~100nmの範囲にある、(1)~(6)のいずれかに記載の近接場発生用プローブ。
(8)金属ナノワイヤの直径が10~500nmの範囲にある、(1)~(7)のいずれかに記載の近接場発生用プローブ。
(9)金属ナノワイヤをカンチレバーに固定する工程1と、
カンチレバーに固定された金属ナノワイヤの少なくとも先端部を含む部分を、酸化・硫化抑制機能を有する組成物を含有する溶液に浸漬し、浸漬した金属ナノワイヤ部分の金属成分を交流電圧印可による電気化学反応により溶出させて金属ナノワイヤの少なくとも先端部に2つ以上の金属微粒子を形成するとともに、該金属微粒子と金属ナノワイヤの表面に酸化・硫化防止コート膜を形成する工程2と、
を有することを特徴とする、近接場発生用プローブの製造方法。
(10)金属ナノワイヤをカンチレバーに固定する工程1と、
カンチレバーに固定された金属ナノワイヤの少なくとも先端部を含む部分を、酸化・硫化抑制機能を有する組成物を含有する溶液に浸漬し、浸漬した金属ナノワイヤ部分に対し金属イオンの還元反応により金属ナノワイヤの少なくとも先端部に2つ以上の金属微粒子を形成するとともに、該金属微粒子と金属ナノワイヤの表面に酸化・硫化防止コート膜を形成する工程2と、
を有することを特徴とする、近接場発生用プローブの製造方法。
(11)金属ナノワイヤをカンチレバーに固定する工程1と、
カンチレバーに固定された金属ナノワイヤの少なくとも先端部を含む部分を、酸化・硫化抑制機能を有する組成物で被覆された金属微粒子を含有する溶液に浸漬し、浸漬した金属ナノワイヤ部分に対し交流電圧印可による誘電泳動により金属ナノワイヤの少なくとも先端部に2つ以上の金属微粒子を保持させるとともに、該金属微粒子と金属ナノワイヤの表面に酸化・硫化防止コート膜を形成する工程2と、
を有することを特徴とする、近接場発生用プローブの製造方法。
(12)金属ナノワイヤをカンチレバーに固定する工程1と、
該工程1の前に、(9)~(11)のいずれかに記載の方法の工程2により金属ナノワイヤの少なくとも先端部に2つ以上の金属微粒子を形成または保持させるとともに、該金属微粒子と金属ナノワイヤの表面に酸化・硫化防止コート膜を形成する工程2と、
を有することを特徴とする、近接場発生用プローブの製造方法。
(13)前記工程1において、誘電泳動法により金属ナノワイヤをカンチレバーに固定する、(9)~(12)のいずれかに記載の近接場発生用プローブの製造方法。
(14)前記工程1において、押し付けにより物理的に金属ナノワイヤをカンチレバーに固定する、(9)~(12)のいずれかに記載の近接場発生用プローブの製造方法。
(15)(1)~(8)のいずれかに記載の近接場発生用プローブを用い、近接場発生用プローブの先端部の金属微粒子に集光した光を照射して金属微粒子の表面に近接場を発生させ、発生した近接場を試料に近づけて近接場により試料を励起し、試料からの近接場信号を検出することを特徴とする近接場分光測定方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の近接場発生用プローブによれば、金属ナノワイヤをベースとしたプローブであるため、金属の一様構造を有しており、金属コート膜の剥離による表面形態像の変化や近接場信号の消失が生じず、また形態的な再現性も高いことから、安定かつ再現性の高い近接場分光測定を提供できる。
【0013】
また、本発明の近接場発生用プローブによれば、金属ナノワイヤの先端に金属微粒子が2つ以上保持されているため、金属微粒子が保持されていないプローブよりも、近接場発生のための光共鳴効率が高く、より高輝度な近接場光を発生できることにより、高感度な近接場分光測定を実現できる。
【0014】
また、本近接場発生用プローブの発明において、金属微粒子と金属ナノワイヤの合計の長さ(カンチレバーからの露出長さ)が10μm以下、好ましくは5μm以下の場合に、さらに好ましくは3μm以下であれば、安定した表面へのアプローチが可能であることが見いだされたことにより、安定した表面形態像の観察および安定かつ再現性のよい近接場分光測定を実現できる。
【0015】
また、本発明の近接場発生用プローブによれば、金属微粒子と金属ナノワイヤに酸化・硫化防止コート膜が被覆されていることにより、金属表面の酸化・硫化による近接場輝度の低下を抑制でき、安定な近接場分光測定を実現できる。
【0016】
さらに、本発明の近接場発生用プローブの作製においては、真空製膜装置などの高額な設備を必要としないため、安価な作製が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の近接場発生用プローブの構造の一例を示す模式図である。
図2】本発明の近接場発生用プローブの製造装置の一例の概略図である。
図3】本発明の近接場発生用プローブを用いた近接場測定装置の一例の概略図である。
図4】実施例にて作製された近接場発生用プローブの電子顕微鏡写真の一例を示す図である。
図5】近接場発生用プローブを用いて取得したAFM像の一例を示す図である。
図6】近接場発生用プローブを用いて取得した近接場ラマンスペクトルの一例を示す図である。
図7】近接場発生用プローブを用いて取得した近接場ラマンマッピング像の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る近接場発生用プローブの構造、近接場発生用プローブの製造方法、ならびに近接場発生用プローブ用いた近接場分光測定について説明する。
【0019】
<近接場発生用プローブの構造>
図1は、本発明に係る近接場発生用プローブの構造の一例を示す。本発明に係る近接場発生用プローブ(100)は、カンチレバー(1)と金属ナノワイヤ(2)、金属微粒子(3)、酸化・硫化防止コート膜(4)を備え、金属ナノワイヤー(2)はカンチレバー(1)に固定され、金属微粒子(3)が金属ナノワイヤー(2)の少なくとも先端部に保持され、金属微粒子(3)と金属ナノワイヤー(2)が酸化・硫化防止コート膜(4)により被覆されていることを特徴とする。
【0020】
また、カンチレバー(1)は、先端部に探針を備えた半導体を素材としたカンチレバー型の構造体であり、例えば市販されているSi製のAFMカンチレバーなどが相当する。
【0021】
また、金属ナノワイヤ(2)は、好ましくは、直径が10~500nmの範囲にあるものを指し、金、銀、銅、白金、アルミニウム、またはそれらの少なくとも一つを含む合金により構成される金属ナノワイヤである。この金属ナノワイヤ(2)は、1本または複数のナノワイヤから構成される。
【0022】
また、金属微粒子(3)は、好ましくは、直径が1~100nmの範囲にあり、金、銀、銅、白金、アルミニウム、またはそれらの少なくとも一つを含む合金からなるものであり、少なくともナノワイヤ先端部に2個以上保持される。金属微粒子(3)の形状は特に限定されないが、球形またはそれに近いものが好ましく、球形以外の金属微粒子(3)の上記直径は、例えば微粒子断面を円でフィッティングして計測する。
【0023】
また、酸化・硫化防止コート膜(4)は、薄層の高分子、単分子、酸化・硫化に耐性のある金属、無機材料のうちから選ばれる一つまたは二つ以上である。特に、酸化・硫化防止コート膜(4)が、薄層の有機高分子からなることが好ましい。
【0024】
<近接場発生用プローブの製造方法>
以下、本発明の近接場発生用プローブの製造方法について説明する。ただし、本発明の近接場発生用プローブの製造方法の範囲は以下の説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の近接場発生用プローブの構造を形成できるものであれば、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0025】
図2は、本発明の近接場発生用プローブの製造装置の概略図である。本装置により、溶液中に分散している金属ナノワイヤの長さを制御しながらカンチレバーの先端部へ固定することが可能であり、また、金属ナノワイヤの先端部分に金属微粒子を保持あるいは形成させることが可能であり、また、金属微粒子に酸化・硫化防止コート膜を付与することが可能であり、所望の近接場発生用プローブを製造することができる。
【0026】
本製造装置を用い、特に限定はされないが、下記(1)~(3)のようにして、所望の近接場発生用プローブを製造することができる。
【0027】
(1)第1の様態では、まずは誘電泳動法を用いて金属ナノワイヤをカンチレバー先端に固定し、その後、金属ナノワイヤの一部に対して、保護剤含有溶液中で電気化学反応を生じさせて一部の金属ナノワイヤの金属成分を溶出させることにより、金属ナノワイヤ先端部に金属微粒子を形成させ、また金属ナノワイヤと金属微粒子の表面に酸化・硫化防止コート膜を付与することにより、所望の近接場発生用プローブを製造することができる。
(2)第2の様態では、まずは誘電泳動法を用いて金属ナノワイヤをカンチレバー先端に固定し、その後、金属ナノワイヤの一部を、保護剤を含有する金属イオン溶液中に浸漬させることにより、金属ナノワイヤ先端部に金属微粒子を形成させ、金属ナノワイヤと金属微粒子の表面に酸化・硫化防止コート膜を形成させることで、所望の近接場発生用プローブを製造することができる。
(3)第3の様態では、あらかじめ金属微粒子が固定された金属ナノワイヤを、カンチレバー先端に固定し、金属ナノワイヤと金属微粒子の表面に酸化・硫化防止コート膜を形成させることで、所望の近接場発生用プローブを製造することができる。
【0028】
以下に、上記(1)~(3)の様態について、詳細に説明する。
(第1の様態)
第1の様態では、金属ナノワイヤをカンチレバー先端に固定する工程1と、固定した金属ナノワイヤを微粒子化する工程2に大別することができ、以下では工程1と工程2に分けて説明する。
【0029】
<工程1>
交流電圧発生装置(15)に、導電性基板(12)およびカンチレバー(10)を導線により接続し、導電性基板(12)上には金属ナノワイヤを含む溶液(11)を滴下しておく。上記設置後、可動ステージ(13)および可動ステージ(14)により、カンチレバー(10)と溶液(11)を、観察系(16)の視野内に移動する。上記移動後、観察系(16)による観察下、可動ステージ(13)を用いて、カンチレバー(10)の探針部を溶液(11)中に浸漬させ、交流電圧発生装置(15)でカンチレバー(10)と導電性基板(12)間に交流電圧を印可する。交流電圧により、カンチレバー(10)と導電性基板(12)間に発生した電場により金属ナノワイヤがカンチレバー先端部に誘導されることにより、金属ナノワイヤをカンチレバー先端部に固定できる。
【0030】
前記カンチレバー(10)は、本実施様態においては、導電性を有する必要があり、例えば、市販のn型にドープされたカンチレバーや、導電コート膜を有するカンチレバーなどが利用できる。なお、カンチレバー(10)の導線への接続は、導電性を有するクリップ等の治具を介して行ってもよい。
【0031】
前記対抗電極は、導電性を有しており、溶液と化学反応を生じないものであれば特に制限はなく、例えばITO(スズドープ酸化インジウム)やFTO(フッ素ドープ酸化スズ)などの導電性透明電極や、金属基板やグラファイトなども利用できる。
【0032】
前記溶液は、金属ナノワイヤ、分散剤、溶媒からなる。前記金属ナノワイヤは、化学合成により作製されたものであり、金属種としては、近接場の発生効率の観点から、銀、金、銅、白金、アルミニウム、またはそれらの組み合わせからなる合金から選ばれ、金属ナノワイヤの周囲は分散剤で被覆されており、溶液中で分散可能なものを用いることができる。
【0033】
前記分散剤は、金属ナノワイヤ表面に付着し、静電的または立体障害的な反発力に基づき溶液中で金属ナノワイヤを分散させることができ、かつ金属ナノワイヤの酸化・硫化を抑制することができる機能を持つ組成物、例えば、PVP(ポリビニルピロリドン)やCTAB(臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム)、poly-DADMAC(ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド)などのイオン性表面活性剤、またはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0034】
前記溶媒は、上記金属ナノワイヤおよび上記分散剤が、安定に分散できる分散媒であれば特に制限はなく、例えば、水やエタノール類(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールなど)、NMP(N-メチルピロリドン)、テトラヒドロフランなどの有機溶媒、またはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0035】
前記溶液としては、金属ナノワイヤが化学合成により作製されたナノワイヤであれば、原理上ナノワイヤの周囲にすでにコート膜が形成されており、作製工程における酸化・硫化が抑制できることや、溶液中への分散が可能であるために、その後のハンドリングが容易であることなどから、本実施様態に対して好適であり、例えば、ポリオール法で作製された銀ナノワイヤや、シード媒介コロイド成長法で作製された金ナノワイヤ、銅ナノワイヤなどを用いることができる。
【0036】
前記金属ナノワイヤはカンチレバー探針に1本以上固定されており、金属ナノワイヤのカンチレバー探針先端からの露出長さは、後述する本実施様態の工程2を続いて実施する場合においては、5μm以上であることが好適である。
【0037】
交流電圧発生装置により印可する誘電泳動法の電圧は、矩形波を用いることが最も効率的であり、電圧が1Vp-p以上、周波数が100kHz~10MHz、電圧印可時間が1秒以上であれば、カンチレバーと導電性基板間に、ナノワイヤの誘電泳動を誘起させるための電場を発生することにより、カンチレバー先端部に金属ナノワイヤを固定することが可能である。ただし、誘電泳動法により固定されるナノワイヤ本数は、確率論に基づくために一定のバラつきを有することや、金属ナノワイヤに用いる金属種や溶媒、カンチレバーや対抗電極の抵抗値により大きく変動するため、作製環境や作製効率に応じて、電圧、周波数、時間を調整することが望ましく、前記条件に限定されない。
【0038】
例えば、近接場発生強度が最も高くなる銀ナノワイヤを固定する場合には、カンチレバーに市販Si/SiN製カンチレバー(AppNano社製 ACCESS、OPUS社製 AC modeなど)、対抗電極にFTOやITO(Sigma-Aldrich社製、日本板硝子社製、AGC社製など)、溶液にポリオール法で作製した銀ナノワイヤ(濃度:0.5~1 mg /L)を用いた場合には、電圧が1~10Vp-p、周波数が100kHz~10MHz、電圧印可時間が3~5秒の条件でファンクションジェネレータを用いて矩形波を印可すると、平均的には1本~3本の銀ナノワイヤをカンチレバー探針先端部に固定することが可能である。また、例えば、近接場発生強度が銀の次に高くなる金ナノワイヤを固定する場合には、電圧が1~10Vp-p、周波数が100kHz~10MHz、電圧印可時間が3~5秒の条件でファンクションジェネレータを用いて矩形波を印可すると、平均的には1本~3本の金ナノワイヤをカンチレバー探針先端に固定することが可能である。
【0039】
上記の一連の操作により所望の様態が得られない場合には、工程1を繰り返すことができる。
【0040】
<工程1の別様態>
カンチレバーの探針先端部への金属ナノワイヤの保持は、マイクロマニピュレータ等を用いた、物理操作によっても可能である。例えば、光学顕微鏡での観察下、基板上に分散させておいた金属ナノワイヤに対し、探針最先端の面を基板に対して平行になるように設置したカンチレバーの探針を、基板垂直方向に押し付けることにより、カンチレバーの探針先端部への金属ナノワイヤの固定、保持を行うことも可能である。
【0041】
<工程2>
前記工程1で作製した、金属ナノワイヤが固定されたカンチレバーに対し、工程2として追加工を実施することにより、ナノワイヤの長さが10μm以下であり、ナノワイヤの先端部に金属微粒子が保持されており、金属ナノワイヤと金属微粒子に酸化・硫化防止コート膜が付与された、所望の近接場発生用プローブを作製することができる。
【0042】
以下に、前記工程2の追加工の詳細について説明する。
工程2における追加工装置は、工程1と同一の、図2の装置を用いることができる。交流電圧発生装置(15)に、導電性基板(12)および金属ナノワイヤが保持されたカンチレバー(10)を導線により接続し、導電性基板(12)上には保護剤を含む溶液(11)を滴下しておく。上記設置後、可動ステージ(13)および可動ステージ(14)により、カンチレバー(10)と溶液(11)を、観察系(16)の視野内に移動する。上記移動後、観察系(16)による観察下、可動ステージ(13)を用いて、カンチレバー(10)に固定された金属ナノワイヤの一部を溶液(11)中に浸漬させ、交流電圧発生装置(15)でカンチレバー(10)と導電性基板(12)間に交流電圧を印可する。交流電圧により、浸漬させたナノワイヤの金属成分が電気化学反応により瞬間的に溶出することで、金属ナノワイヤの長さを10μmに制御でき、金属ナノワイヤの先端部に金属微粒子が形成され、金属ナノワイヤと金属微粒子の表面に保護剤による酸化・硫化防止コート膜が形成されることにより、所望の近接場発生用プローブを製造することができる。
【0043】
工程2における前記溶液は、保護剤、溶媒からなる。この保護剤は、金属表面へ付着でき、酸化や硫化を抑制することができる機能を持つ組成物であり、工程1の溶液中に含有される分散剤と同一組成物が最も好適であり、例えば、PVPやCTAB、poly-DADMACなどのイオン性表面活性剤、またはそれらの組み合わせを用いることができる。前記保護剤の濃度は、例えば、0.01~1mol/l、好ましくは0.1~0.2mol/lの範囲であれば、追加工後の金属表面に、厚み数 nm程度の酸化・硫化防止コート膜を形成することができる。
【0044】
前記溶媒は、上記保護剤が、安定に分散できる分散媒であれば特に制限はなく、例えば、水やエタノール類、NMP、テトラヒドロフランなどの有機溶媒、またはそれらの組み合わせなどを用いることができる。
【0045】
交流電圧発生装置により印可する電圧は、矩形波を用いることが最も効率的であり、電圧が1Vp-p以上、周波数が100kHz~10MHz、電圧オフセットが1V以上であれば、浸漬させたナノワイヤの金属成分の溶出が十分に可能である。ただし、上記電圧印可条件は、ナノワイヤに用いる金属種、溶液に用いる溶媒、カンチレバーや対抗電極の抵抗値により大きく変動するため、作製環境や作製効率に応じて、電圧、周波数、時間を調整することが望ましく、前記条件に限定されない。
【0046】
例えば、近接場発生強度が最も高くなる銀ナノワイヤを用いた近接場発生用プローブを作製する場合には、カンチレバーに市販Si/SiN製カンチレバー(AppNano社製 ACCESS、OPUS社製 AC modeなど)、対抗電極にFTOやITO(Sigma-Aldrich社製、日本板硝子社製、AGC社製など)、ナノワイヤにポリオール法で作製した銀ナノワイヤ、溶液に濃度0.1mol/lのPVP水溶液を用いた場合には、電圧が1~10Vp-p、周波数が100kHz~10MHz、電圧オフセットが1~5 Vの条件下、ファンクションジェネレータを用いて矩形波を印可すると、溶出反応は1秒以内に完了し、先端に大きさ数10nm程度の銀微粒子を2個以上備え、その周囲には厚み1~2nmのPVPがコートされ、カンチレバー探針先端からのナノワイヤ露出長さが10μm以下の、所望の近接場発生用プローブを再現よく作製することができる。
【0047】
(第2の様態)
第2の様態においては、第1の様態で作製した金属ナノワイヤが保持されたカンチレバーに対し、第1様態の工程2とは別の追加工を実施することにより、金属ナノワイヤの金属種と異なる金属成分を有する金属微粒子を形成させることができる。
【0048】
以下に、第2様態における、追加工の詳細について説明する。
第2の様態における追加工装置には、図2の装置を用いることができる。可動ステージ(13)および可動ステージ(14)により、カンチレバー(10)と溶液(11)を、観察系(16)の視野内に移動する。上記移動後、観察系(16)による観察下、可動ステージ(13)を用いて、カンチレバー(10)に固定された金属ナノワイヤの一部を金属イオンおよび保護剤を含む溶液(11)中に浸漬させ、金属イオンの還元反応により、ナノワイヤの金属表面に、還元された金属微粒子が担持され、微粒子の表面が保護剤により被覆されることにより、所望の近接場発生用プローブを製造することができる。
【0049】
第2の様態に用いる、金属ナノワイヤが固定、保持されたカンチレバーとしては、第1様態の工程1により作製されたもの、または第1様態の工程1および工程2により作製されたもののいずれを用いることができる。ただし、金属ナノワイヤのカンチレバー探針先端からの露出長さは、AFMの安定性の観点から、3~5μm程度に調整することが好適である。
【0050】
第2の様態における基板は、溶液と化学反応を起こさないものであれば、特に制約はない。
【0051】
第2の様態における溶液は、金属イオン、保護剤、溶媒からなる。前記金属イオンとしては、金属ナノワイヤの金属種とのイオン化傾向の序列から選択されるものであり、具体的には、金属ナノワイヤの金属種よりもイオン化傾向の低い金属イオンであれば、ナノワイヤ金属表面に別種の金属微粒子を担持できる。例えば、本発明における着目金属種の範囲においては、イオン化傾向の序列は「アルミニウム>銅>銀>白金>金」であり、例えば、銀ナノワイヤを用いた場合には、白金イオンや金イオンであれば還元反応が生じることにより、溶液中に浸漬させた銀ナノワイヤの表面に、白金または金の微粒子を担持させることができる。
【0052】
前記保護剤としては、担持させた金属微粒子の表面に吸着し、酸化や硫化を抑制できる組成物を用いることができ、例えば、PVPやCTAB、poly-DADMACなどのイオン性表面活性剤などを用いることができる。
【0053】
前記溶媒としては、前記金属イオンおよび前記保護剤が溶解でき、溶媒が金属イオンに対する還元力を有さないものであれば特に制限はなく、例えば、水やエタノール類、NMP、テトラヒドロフランなどの有機溶媒、またはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0054】
前記金属イオンの濃度としては、作業性や効率の観点から選択することが好適であるが、概ね0.1μmol/l~1mol/lの範囲であれば、数分程度の浸漬時間において、金属ナノワイヤの表面に還元された金属微粒子による連続相を形成することができる。
【0055】
例えば、近接場発生輝度と対候性の両者に優れる、銀ナノワイヤ上に金微粒子を担持させたプローブを作製する場合には、溶液としては、濃度1mmol/l~10mol/lのPVPを含有した、濃度0.1μmol/l~1mol/lの塩化金酸水溶液を用い、ナノワイヤの一部を溶液中に1分程度浸漬させることにより、浸漬部に大きさ数10nmの金微粒子の連続相を形成された、所望の近接場発生用プローブを作製することが可能である。
【0056】
(第2の様態の別様態)
第2様態の別様態では、溶液に保護剤に被覆された金属微粒子の分散液を用い、誘電泳動法により、金属ナノワイヤの表面に金属微粒子を保持させることにより、所望の近接場発生用プローブを作製することが可能である。
【0057】
第2様態の別様態における追加工装置は、図2の装置を用いることができる。交流電圧発生装置(15)に、導電性基板(12)および金属ナノワイヤが保持されたカンチレバー(10)を導線により接続し、導電性基板(12)上には保護剤に被覆された金属微粒子を含む溶液(11)を滴下しておく。上記設置後、可動ステージ(13)および可動ステージ(14)により、カンチレバー(10)と溶液(11)を、観察系(16)の視野内に移動する。上記移動後、観察系(16)による観察下、可動ステージ(13)を用いて、カンチレバー(10)に固定された金属ナノワイヤの一部を溶液(11)中に浸漬させ、交流電圧発生装置(15)でカンチレバー(10)と導電性基板(12)間に交流電圧を印可する。交流電圧の印可により、カンチレバー(10)と導電性基板(12)間に発生した電場により溶液中の金属微粒子がカンチレバー先端部に誘導され、ナノワイヤの金属表面に、金属微粒子が保持されることにより、所望の近接場発生用プローブを製造することができる。
【0058】
第2様態の別様態における溶液は、保護剤被覆金属微粒子、溶媒からなる。前記保護剤被覆金属微粒子の金属種は、近接場の発生効率の観点から、銀、金、銅、白金、アルミニウム、またはそれらの組み合わせからなる合金からなり、金属微粒子の形状は、球状、プレート状、星型、ロッド型、かご型、立方体、三角錐型から選ばれるうちの1つ以上であり、金属微粒子の表面は分散剤で被覆されており、溶液中で分散可能なものを用いることができ、例えば、還元法により作製された貴金属ナノ粒子、アブレーション法や超音波法により作製された貴金属ナノ・マイクロ粒子などを用いることができる。
【0059】
前記溶媒は、保護剤被覆金属微粒子が分散可能であるものであれば、特に制約はない。
【0060】
第2様態の別様態に用いる、金属ナノワイヤが保持されたカンチレバーとしては、第1様態の工程1により作製されたもの、または第1様態の工程1および工程2により作製されたもののいずれかを用いることができる。ただし、金属ナノワイヤのカンチレバー探針先端からの露出長さは、AFMの安定性の観点から、3~5μm程度に調整することが好適である。
【0061】
交流電圧発生装置により印可する誘電泳動法の電圧は、矩形波を用いることが最も効率的であり、電圧が1Vp-p以上、周波数が100kHz~10MHz、電圧印可時間が1秒以上であれば、ナノワイヤと導電性基板(12)間に、金属微粒子の誘電泳動を誘起させるための電場を発生することにより、ナノワイヤ表面に金属微粒子を固定することが可能である。ただし、誘電泳動法により固定される微粒子の数は、確率論に基づくために一定のバラつきを有することや、金属微粒子に用いる金属の種類やその形状、カンチレバーや対抗電極の抵抗値により大きく変動するため、作製環境や作製効率に応じて、電圧、周波数、時間を調整することが望ましく、前記条件に限定されない。
【0062】
例えば、近接場強度と対候性の両者に優れる、銀ナノワイヤ上に大きさ数10nmの球状の金微粒子を担持させたプローブを作製する場合、カンチレバーに市販Si/SiN製カンチレバー(AppNano社製 ACCESS、OPUS社製 AC modeなど)、対抗電極にFTOまたはITO(Sigma-Aldrich社製、日本板硝子社製、AGC社製など)、ナノワイヤにポリオール法で作製した銀ナノワイヤ、大きさ数10nmの金微粒子の分散液を用いた場合には、電圧が1~10Vp-p、周波数が100kHz~10MHzの条件下、ファンクションジェネレータを用いて5秒程度、矩形波を印可すると、浸漬部に大きさ数10 nmの金微粒子の連続相を形成された、所望の近接場発生用プローブを作製することが可能である。電圧・周波数は、カンチレバーの導電性、電極の接触抵抗などに依存して変動する。
【0063】
(第3の様態)
第3の様態として、金属微粒子を予め担持させておいた金属ナノワイヤを、誘電泳動法によりカンチレバーの探針先端に固定することにより、所望の近接場発生用プローブを作製することが可能である。
【0064】
金属ナノワイヤへの金属ナノ粒子の担持は、溶液中にて行うことができる。例えば1~ 20mLのMilliQ水を80℃で10分間加熱し、濃度1~10g/L の銀ナノワイヤのエタノール溶液を数百μLと、濃度10~100mMの塩化金酸水溶液0.5~5mLとを加え、更に5~20分加熱し、撹拌終了後、遠心分離により固体生成物を回収することで、金ナノ粒子が担持された銀ナノワイヤを得ることができる。上記方法により合成した金属ナノ粒子が担持された金属ナノワイヤは、図2の装置を用い、第1様態の工程1または工程1の別様態の方法により、カンチレバー探針先端部へ固定することが可能である。
【0065】
<近接場発生用プローブを用いた近接場分光測定>
以下に、本発明の近接場発生用プローブを用いた近接場分光測定について説明する。
図3は、本発明の近接場発生用プローブを用いた、近接場分光装置の装置図を示す。装置は、本発明の近接場発生用プローブ(20)と試料(21)のほか、電動ステージ(22)、レーザー(25)、受光素子(26)、励振素子(23)、電動ステージ(24)からなるAFM部と、光源(28)、フィルター群(30)、レンズ(29)、検出器(31)で構成される光学部からなり、レーザー(25)、受光素子(26)、励振素子(23)、電動ステージ(22)、検出器(31)は、制御装置(27)により同期できる。
【0066】
前記近接場分光装置において、近接場発生用プローブを励振素子(23)により電気的に励振させ、プローブのカンチレバー背面部に入射させたレーザー(25)光の反射光の変位を受光素子(26)により検出しながら、予め設定しておいた変位に達するまで電動ステージ(22)または電動ステージ(24)を用いてプローブと試料を近接させることにより、プローブを試料表面にアプローチすることができる。
【0067】
また、前記近接場分光装置において、上記アプローチした状態で、変位が一定になるようにXY方向に試料を走査することにより、試料表面の高さ像および位相像を取得することができる。
【0068】
また、前記近接場分光装置において、電動ステージ(24)を用いて、近接場発生用プローブの先端の金属微粒子に、レンズ(29)を用いて集光した光源(28)からの光を照射することにより、金属微粒子の表面に近接場を発生することができ、発生した近接場を、試料表面から100nm以下の距離まで近づけることにより、近接場により試料を励起することができる。
【0069】
また、前記近接場分光装置において、試料からの近接場信号は、レンズ(29)により集められ、フィルター群(30)により光源(25)に用いた波長成分を除去したあと、検出器(31)に転送することにより、近接場スペクトルを取得することができる。
【0070】
また、予め取得しておいた高さ像または位相像の狙った点に微粒子部を移動し、狙った点における近接場スペクトルを取得することができる。
【0071】
また、XY方向の走査と同時に近接場スペクトルを取得することにより、高さ像と位相像と同一箇所における近接場信号のマッピング像を取得することができる。
【0072】
前記受光素子(26)は、カンチレバー背面から反射されたレーザー(25)の変位を検出するものであり、例えば4分割フォトダイオードを用いることができる。
【0073】
電動ステージ(22)および電動ステージ(24)は、XYZ方向の3次元方向に電気的に制御できるものであり、例えばステッピングモーターとピエゾ素子の組み合わせを用いることができる。
【0074】
前記光源(25)は、紫外~近赤外の波長をもつ単一波長レーザーを用いることができ、金属がアルミニウムの場合には波長266nm、355nm、364nm、405nmから選ばれる一つ、金属が銀や白金の場合には440nm、457nm、488nm、515nm、532nm、570nm、633nm、647nm、785nm、1064nmから選ばれる一つ、金の場合には532nm、570nm、633nm、647nm、785nm、1064nmから選ばれる一つ、銅の場合には、633nm、647nm、785nm、1064nmから選ばれる一つを用いることができる。
【0075】
前記フィルター群(30)は、光源(25)の波長を反射し、それ以外もしくはそれよりも長波長の光を透過する光学フィルターの組み合わせからなり、例えば、ダイクロイックミラー、ロングパスフィルター、エッジフィルター、ノッチフィルター、ビームスプリッタを組み合わせて、用いることができる。
【0076】
前記検出器(31)は、分光器とマルチチャンネルCCDの組み合わせが好適であり、分光器内部の回折格子により空間的に波長分散された光を、マルチチャンネルCCDを用いて一度の読みだすことにより、効率よく近接場スペクトルを取得することができる。
【0077】
前記近接場分光装置は、自ら構築する必要はなく、例えば、堀場製作所製LabRAM HREvolutionやレニショー社製inVia、WITec社製alpha300RAなどの市販の近接場光学測定装置を用いてもよい。
【実施例0078】
以下に、図4~7を用いて、本発明の近接場発生用プローブに係る実施例を示す。
図4に、本発明の第1の様態により作製された近接場発生用プローブの像を示す。近接場発生用プローブは、カンチレバーに市販Si/SiN製カンチレバー(OPUS社製、AC mode)、導電性基板にFTO(Sigma-Aldrich社製)、交流電圧発生装置にファンクションジェネレータを用い、第1の様態の作製方法により、以下の表1に示す条件で作製したものである。カンチレバー探針先端からの銀ナノワイヤ露出長さは4μmであり、ナノワイヤの先端には複数の銀微粒子が形成されていることが分かる。
【0079】
【表1】
【0080】
以下に、本発明の近接場発生用プローブを用いた、近接場ラマン測定の実施例を示す。
近接場分光装置は、本発明の近接場発生用プローブの汎用性を考慮し、市販装置(堀場製作所製 LabRAM HR Evolution)を使用した。
【0081】
図5は、近接場発生用プローブにより取得した、金基板上に固定した酸化グラフェンシートのタッピングモードAFM高さ像である。グラフェンシートの厚みは約1nmと極めて薄層であるが、近接場発生用プローブにより、その形態をとらえることができている。
【0082】
図6は、近接場発生用プローブの微粒子部に633nmのレーザー光を集光照射することにより近接場を発生させることにより取得した、酸化グラフェンの近接場ラマンスペクトルである。スペクトルからは、グラフェンを特徴づける2本のラマン信号が明瞭に観察できており、近接場発生用プローブの先端では、高強度の近接場が発生していることが確認できる。
【0083】
図7は、本発明の近接場発生用プローブにより取得した、酸化グラフェンの近接場ラマンマッピング像である。プローブの微粒子部に633nmのレーザー光を集光照射して近接場を発生させた状態で、3×3umの領域を25nmおきに100msの積算時間で近接場ラマンスペクトルを取得し、1590cm-1のラマンピーク高さを求めることにより再構成した近接場ラマンマッピング像である。本発明のプローブで発生する近接場は高強度であるため、1um2以上の広い領域のマッピングを、わずか40分程度で実施できた。また、マッピング像の全体を通じて、大きな信号強度の不安定性は認められず、安定な近接場ラマン測定が実現できており、市販プローブの課題となっている、先端金属構造の剥離または形状変化による信号の不安定化が起こっておらず、コート膜のよる酸化・硫化の防止が有効に機能している。また、通常の顕微ラマン装置では、分解能の不足により不明瞭なグラフェン上の皺やエッジなどの微細構造も、近接場ラマンマッピング像からは明瞭に可視化できており、顕微ラマンの40倍以上の高い分解能で測定ができた。
【符号の説明】
【0084】
1 カンチレバー
2 金属ナノワイヤ-
3 金属微粒子
4 酸化・硫化防止コート
10 カンチレバー
11 溶液
12 導電性基板
13、14 可動ステージ
15 交流電圧発生装置
16 観察系
20 近接場発生用プローブ
21 試料
22 電動ステージ
23 励振素子
24 電動ステージ
25 レーザー
26 受光素子
27 制御装置
28 光源
29 レンズ
30 フィルター群
31 検出器
100 近接場発生用プローブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7