(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022179353
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】キャリア芯材並びにこれを用いた電子写真現像用キャリア及び電子写真用現像剤
(51)【国際特許分類】
G03G 9/107 20060101AFI20221125BHJP
G03G 9/113 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
G03G9/107 321
G03G9/113 351
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068598
(22)【出願日】2022-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2021085066
(32)【優先日】2021-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000224802
【氏名又は名称】DOWA IPクリエイション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111811
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 信也
【テーマコード(参考)】
2H500
【Fターム(参考)】
2H500AB01
2H500AB04
2H500CB02
2H500CB09
2H500CB11
2H500EA07E
2H500EA08E
2H500EA42E
2H500EA43E
2H500EA56E
2H500EA64E
2H500EA65E
(57)【要約】
【課題】見掛密度が低く、かつ、粒子強度が高いキャリア芯材を提供する。
【解決手段】キャリア芯材はフェライト粒子から構成され、CaSiO
3を含有し、真密度が3.5g/cm
3以上4.5g/cm
3以下の範囲である。下記式(1)から算出される粒子強度指標は1.5体積%以下であるのが好ましい。
粒子強度指標=V2-V1 ・・・・・・(1)
(式中、V1:破砕試験前のキャリア芯材の積算粒度分布における粒径22μm以下の累積値(体積%)、V2:破砕試験後のキャリア芯材の積算粒度分布における粒径22μm以下の累積値(体積%))
破砕試験条件:キャリア芯材30gをサンプルミルを用いて回転数14000rpmで60秒間破砕
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライト粒子から構成されるキャリア芯材であって、
CaSiO3を含有し、
真密度が3.5g/cm3以上4.5g/cm3以下の範囲である
ことを特徴とするキャリア芯材。
【請求項2】
下記式(1)から算出される粒子強度指標が1.5体積%以下である請求項1記載のキャリア芯材。
粒子強度指標=V2-V1 ・・・・・・(1)
(式中、V1:破砕試験前のキャリア芯材の積算粒度分布における粒径22μm以下の累積値(体積%)、V2:破砕試験後のキャリア芯材の積算粒度分布における粒径22μm以下の累積値(体積%))
破砕試験条件:キャリア芯材30gをサンプルミルを用いて回転数14000rpmで60秒間破砕
【請求項3】
前記フェライト粒子の見掛密度が1.7g/cm3以上2.1g/cm3以下の範囲である請求項1又は2記載のキャリア芯材。
【請求項4】
前記フェライト粒子の飽和磁化が40Am2/kg以上72Am2/kg以下の範囲である請求項1又は2記載のキャリア芯材。
【請求項5】
前記フェライト粒子の残留磁化が2.5Am2/kg以下であり、
保磁力が30エルステッド以下である
請求項1又は2記載のキャリア芯材。
【請求項6】
前記フェライト粒子におけるCaSiO3の含有量が10質量%以上50質量%以下の範囲である請求項1又は2記載のキャリア芯材。
【請求項7】
前記フェライト粒子が、組成式(MnXFe3-X)O4(但し、0≦X<3)で表される材料を含み、
Caの含有量が3.4質量%以上15.8質量%以下の範囲であり、
Siの含有量が3.0質量%以上11.4質量%以下の範囲である
請求項1又は2記載のキャリア芯材。
【請求項8】
請求項1又は2記載のキャリア芯材の表面が樹脂で被覆されていることを特徴とする電子写真現像用キャリア。
【請求項9】
請求項8記載の電子写真現像用キャリアとトナーとを含む電子写真用現像剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はキャリア芯材並びにこれを用いた電子写真現像用キャリア及び電子写真用現像剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、電子写真方式を用いたファクシミリやプリンター、複写機などの画像形成装置では、感光体の表面に形成された静電潜像にトナーを付着させて可視像化し、この可視像を用紙等に転写した後、加熱・加圧して定着させている。高画質化やカラー化の観点から、現像剤としては、キャリアとトナーとを含むいわゆる二成分現像剤が広く使用されている。
【0003】
二成分現像剤を用いた現像方式では、キャリアとトナーとが現像装置内で撹拌混合され、摩擦によってトナーが所定量まで帯電される。そして、回転する現像ローラに現像剤が供給され、現像ローラ上で磁気ブラシが形成して、磁気ブラシを介して感光体へトナーが電気的に移動して感光体上の静電潜像が可視像化される。トナー移動後のキャリアは現像ローラ上から剥離され現像装置内で再びトナーと混合される。
【0004】
近年、現像装置における撹拌動力の低減による省電力化や、キャリアの表面にトナーを構成する成分が融着する「トナースペント」を抑制して画像品質の安定化を図るため、キャリア芯材の内部に空隙を設けること、さらには内部の空隙に樹脂を充填することによってキャリア芯材の質量を軽くすることが提案されてきた(特許文献1,2など)。
【0005】
しかし、内部に空隙を設けたキャリア芯材は、見掛密度は低くなるものの芯材強度が低下する。このため、長期間の使用により長期的にキャリア芯材にストレスがかかった場合、キャリア芯材に割れや欠けが生じることがあった。キャリア芯材に割れや欠けが生じると、露出した絶縁性の低いキャリア芯材の断面から絶縁破壊が生じて用紙転写画像中が白く抜ける不具合(画像中白抜け)が生じることがある。
【0006】
また、キャリア芯材の見掛密度を低下させ粒子強度を向上させる手法として、キャリア芯材の主成分であるフェライトよりも真密度の小さいSiO2(二酸化ケイ素)をキャリア芯材の原料成分として添加する手法もあり得る。
【0007】
しかしながら、SiO2は水分を吸着し易いために高温高湿環境下ではキャリア芯材の帯電特性が低下するなどの実用上の課題が予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-170224号公報
【特許文献2】特開2009-086093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明はこのような従来の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、トナースペントが生じ難く、かつ、粒子強度が高いキャリア芯材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成する本発明に係るキャリア芯材は、フェライト粒子から構成されるキャリア芯材であって、CaSiO3(ケイ酸カルシウム)を含有し、真密度が3.5g/cm3以上4.5g/cm3以下の範囲であることを特徴とする。
【0011】
前記キャリア芯材において、下記式(1)から算出される粒子強度指標が1.5体積%以下であるのが好ましい。
粒子強度指標=V2-V1 ・・・・・・(1)
(式中、V1:破砕試験前のキャリア芯材の積算粒度分布における粒径22μm以下の累積値(体積%)、V2:破砕試験後のキャリア芯材の積算粒度分布における粒径22μm以下の累積値(体積%))
破砕試験条件:キャリア芯材30gをサンプルミルを用いて回転数14000rpmで60秒間破砕
【0012】
前記キャリア芯材において、前記フェライト粒子の見掛密度が1.7g/cm3以上2.1g/cm3以下の範囲であるのが好ましい。具体的な測定方法及び測定条件は後述の実施例で示す。
【0013】
前記キャリア芯材において、前記フェライト粒子の飽和磁化が40Am2/kg以上72Am2/kg以下の範囲であるのが好ましい。具体的な測定方法及び測定条件は後述の実施例で示す。
【0014】
前記キャリア芯材において、前記フェライト粒子の残留磁化が2.5Am2/kg以下であり、保磁力が30エルステッド(30×103/(4π)A/m)以下であるのが好ましい。具体的な測定方法及び測定条件は後述の実施例で示す。
【0015】
前記キャリア芯材において、前記フェライト粒子におけるCaSiO3の含有量が10質量%以上50質量%以下の範囲であるのが好ましい。
【0016】
前記キャリア芯材において、前記フェライト粒子が、組成式(MnXFe3-X)O4(但し、0≦X<3)で表される材料を含み、Caの含有量が3.4質量%以上15.8質量%以下の範囲であり、Siの含有量が3.0質量%以上11.4質量%以下の範囲であるのが好ましい。
【0017】
また本発明によれば、前記のいずれかに記載のキャリア芯材の表面が樹脂で被覆されていることを特徴とする電子写真現像用キャリアが提供される。
【0018】
さらに本発明によれば、前記記載の電子写真現像用キャリアとトナーとを含む電子写真用現像剤が提供される。
【0019】
また、本明細書において「フェライト粒子」、「キャリア芯材」、「電子写真現像用キャリア」、「トナー」は、それぞれ個々の粒子の集合体(粉体)を意味するものである。そして本明細書において示す「~」は、特に断りのない限り、その前後に記載の数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のキャリア芯材によればトナースペントが抑制される。また、長期使用によってもキャリア芯材に割れや欠けが生じにくい。
【0021】
本発明の電子写真現像用キャリアおよび電子写真用現像剤によれば画像中白抜けの発生が抑制され、長期にわたって安定して良好な画質の画像が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施例1のキャリア芯材の断面SEM写真である。
【
図2】
図1の断面SEM写真におけるEDS元素(Fe)マッピングである。
【
図3】
図1の断面SEM写真におけるEDS元素(Mn)マッピングである。
【
図4】
図1の断面SEM写真におけるEDS元素(Ca)マッピングである。
【
図5】
図1の断面SEM写真におけるEDS元素(Si)マッピングである。
【
図6】実施例1のキャリア芯材についてXRD測定結果である。
【
図7】本発明に係るキャリアを用いた現像装置の一例を示す概説図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係るキャリア芯材の大きな特徴の一つは、キャリア芯材がCaSiO3を含有することにある。前述のように、従来、キャリア芯材の見掛密度を低下させるために、キャリア芯材の主成分であるフェライト(真密度:約5g/cm3)よりも真密度の小さいSiO2(真密度:約2.2g/cm3)をキャリア芯材の原料成分として添加することが提案されていたが、SiO2は水分を吸着し易いために高温高湿環境下ではキャリア芯材の帯電特性が低下するなどの不具合があった。そこで本発明者等はSiO2の代わりとして、湿度などの使用環境の影響を受けにくくフェライトよりも真密度の小さいキャリア芯材の帯電特性に大きな影響を与えない物質がないか鋭意検討を重ねた。その結果、CaSiO3(真密度:約2.9g/cm3)が上記条件を満足するとの知見を得て本発明がなされた。
【0024】
CaSiO3は原料成分として添加されるのが好ましい。原料成分として添加されたCaSiO3はフェライト粒子の製造工程においても反応することなくフェライト粒子中に存在する。なお、フェライト粒子の原料成分と共にCa原料成分とSi原料成分とを添加混合して焼成工程においてCaSiO3が合成されてフェライト粒子に含有されるようにしてもよいが、CaSiO3はフェライト粒子の原料成分として当初から添加されるのが好ましい。
【0025】
CaSiO3の含有量に特に限定はなく、キャリア芯材の真密度が後述の範囲(3.5g/cm3~4.5g/cm3)となるように適宜決定すればよい。CaSiO3の含有量は、通常、キャリア芯材(フェライト粒子)に対して10質量%以上50質量%以下の範囲が好ましい。より好ましくは15質量%以上35質量%以下の範囲である。
【0026】
本発明で使用するCaSiO3としては特に限定は無く、市販されている粉状のものが好適に使用できる。
【0027】
本発明に係るキャリア芯材のもう一つの大きな特徴は、キャリア芯材の真密度が3.5g/cm3以上4.5g/cm3以下の範囲であることである。キャリア芯材の真密度が従来のキャリア芯材よりも低い当該範囲であることで、現像装置内の撹拌によるキャリアを含む現像剤のストレスが低減され、長期間の使用によってもトナースペント及びキャリア(キャリア芯材)の割れ・欠けが抑制される。より好ましいキャリア芯材の真密度は3.8g/cm3以上4.5g/cm3以下の範囲である
【0028】
キャリア芯材の真密度は、主としてCaSiO3の含有量によって調整可能である。またキャリア芯材を構成するフェライト組成によっても調整可能である。
【0029】
本発明に係るキャリア芯材を構成するフェライト粒子の組成は、組成式MnXFe3-XO4(但し、0≦X<3)で表されるものが好ましい。そして、Caが3.4質量%以上15.8質量%以下の範囲含有され、Siが3.0質量%以上11.4質量%以下の範囲含有されているのが好ましい。
【0030】
本発明のキャリア芯材における前記式(1)から算出される粒子強度指標は1.5体積%以下であるのが好ましい。キャリア芯材の粒子強度指標が1.5体積%を超えると現像装置内での撹拌等によってキャリア(キャリア芯材)に割れや欠けが生じやすくなる。その結果、露出した絶縁性の低いキャリア芯材の断面から絶縁破壊が生じて画像中白抜けが生じるおそれがある。より好ましいキャリア芯材の粒子強度指標は1.0体積%以下である。
【0031】
本発明のキャリア芯材の見掛密度は1.7g/cm3以上2.1g/cm3以下の範囲が好ましい。より好ましいキャリア芯材の見掛密度は1.8g/cm3以上2.0g/cm3以下の範囲である。
【0032】
本発明のキャリア芯材の飽和磁化σsは40Am2/kg以上72Am2/kg以下の範囲が好ましい。飽和磁化σsが40Am2/kg未満であると、一粒子あたりの磁化が小さくなる為に、キャリアの一部が感光体の非画像部(背景部)に付着する不具合(背景部キャリア付着)や画像中白抜けを起こしやすくなるおそれがある。一方、飽和磁化σsが72Am2/kgを超えると、現像ローラの外周に形成される磁気ブラシが固くなって磁気ブラシの密度が低くなり現像領域への現像剤の搬送量が不十分となるおそれがある。より好ましい飽和磁化σsは53Am2/kg以上67Am2/kg以下の範囲がより好ましい。
【0033】
また残留磁化σrは2.5Am2/kg以下の範囲が好ましい。残留磁化σrが2.5Am2/kgを超えると現像ローラからのキャリアの剥離が困難になるおそれがある。より好ましい残留磁化σrは2.2Am2/kg以下の範囲である。
【0034】
また本発明のキャリア芯材の保磁力Hcは30エルステッド(30×103/(4π)A/m)以下の範囲が好ましい。保磁力Hcが30エルステッドを超えると、キャリアの流動性、帯電付与能力が悪化し、トナー飛散が生じやすくなるおそれがある。より好ましい保磁力Hcは26エルステッド以下の範囲である。
【0035】
本発明のキャリア芯材のレーザー回折式粒度分布測定装置で測定される体積平均粒径(以下、「平均粒径」と記すことがある。)D50は30μm以上50μm以下の範囲が好ましく、より好ましくは30μm以上40μm以下の範囲である。また体積基準の積算粒度分布における粒径22μm以下の累積値は1.0%以下であるのが好ましい。粒径22μm以下の累積値が1.0%を超えると背景部キャリア付着が生じるおそれがある。
【0036】
なお、本発明におけるキャリア芯材の粒子形状係数:ISO Circularityは、0.88以上0.98以下である。CaSiO3とフェライトは結晶構造の異なる異質材料であるが、焼結時の熱収縮の影響を受けても球形を良好に保つことができる。測定方法は後述する。
【0037】
(製造方法)
本発明のキャリア芯材の製造方法に特に限定はないが、以下に説明する製造方法が好適である。
【0038】
まず、フェライトの成分原料と、CaSiO3と、必要により従来公知の添加剤を秤量する。フェライトの成分原料としては、Fe成分原料、Mn成分原料などが挙げられる。Fe成分原料としては、Fe2O3等が好適に使用される。Mn成分原料としてはMnCO3、Mn3O4等が使用される。なお、原料中のFe、Mn、Ca、Si量比はほぼそのままキャリア芯材中の各元素の組成比に反映されるので、Fe成分原料、Mn成分原料およびCaSiO3の各仕込量は、キャリア芯材における所望の組成比となるように調整すればよい。またCaSiO3の粒径および形態は特に限定されないが、CaSiO3の平均粒径はキャリア芯材粒子内での磁力ばらつき抑制のため15μm以下であることが好ましく、平均アスペクト比が2以上であることが好ましい。
【0039】
次いで、フェライトの成分原料、CaSiO3および必要により従来公知の添加剤を分散媒中に投入しスラリーを作製する。CaSiO3はこの時点で分散媒中に投入してもよく、後述する湿式粉砕後のスラリーに混合してもよい。本発明で使用する分散媒としては水が好適である。分散媒には、必要によりバインダー、分散剤等を配合してもよい。バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコールが好適に使用できる。バインダーの配合量としてはスラリー中の濃度が0.1質量%~2質量%程度とするのが好ましい。また、分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸アンモニウムやメタクリル酸系ポリマー等が好適に使用できる。分散剤の配合量としてはスラリー中の濃度が0.1質量%~2質量%程度とするのが好ましい。その他、カーボンブラックなどの還元剤、アンモニアなどのpH調整剤、潤滑剤、焼結促進剤等を配合してもよい。スラリーの固形分濃度は50質量%~90質量%の範囲が望ましい。より好ましくは60質量%~80質量%である。60質量%以上であれば、造粒物中に粒子内細孔が少なく、焼成時の焼結不足を防ぐことができる。
【0040】
なお、秤量したフェライト成分原料、CaSiO3および必要により添加剤を混合し仮焼成し解粒した後、分散媒に投入しスラリーを作製してもよい。仮焼成の温度としては750℃~1000℃の範囲が好ましい。750℃以上であれば、仮焼成による一部フェライト化が進み、焼成時のガス発生量が少なく、固体間反応が十分に進むため、好ましい。一方、1000℃以下であれば、仮焼成による焼結が弱く、後のスラリー粉砕工程で原料を十分に粉砕できるので好ましい。一般に、1540℃以下の温度範囲であればCaSiO3は溶融・分解することなくその結晶を維持することができる。また、仮焼成時の雰囲気としては大気雰囲気が好ましい。
【0041】
次に、以上のようにして作製されたスラリーを湿式粉砕する。例えば、ボールミルや振動ミルを用いて所定時間湿式粉砕する。粉砕後の原材料の平均粒径は5μm以下が好ましく、より好ましくは2μm以下である。振動ミルやボールミルには、所定粒径のメディアを内在させるのがよい。メディアの材質としては、鉄系のクロム鋼や酸化物系のジルコニア、チタニア、アルミナなどが挙げられる。粉砕工程の形態としては連続式及び回分式のいずれであってもよい。粉砕物の粒径は、粉砕時間や回転速度、使用するメディアの材質・粒径などによって調整される。
【0042】
スラリーを作製する際にはCaSiO3を添加しないで、湿式粉砕後のスラリーにCaSiO3を添加してもよい。
【0043】
そして、粉砕されたスラリーを噴霧乾燥させて造粒する。具体的には、スプレードライヤーなどの噴霧乾燥機にスラリーを導入し、雰囲気中へ噴霧することによって球形に造粒する。噴霧乾燥時の雰囲気温度は100℃~300℃の範囲が好ましい。これにより、粒径10μm~200μmの球形の造粒物が得られる。次いで、必要により、得られた造粒物を振動篩を用いて分級し所定の粒径範囲の造粒物を作製する。
【0044】
次に、前記の造粒物を所定温度に加熱した炉に投入して、フェライト粒子を合成するための一般的な手法で焼成することにより、フェライト粒子を生成させる。焼成温度としては1050℃~1350℃の範囲が好ましい。より好ましくは1100℃~1250℃の範囲である。焼成温度が1050℃以下であると、相変態が起こりにくくなるとともに焼結も進みにくくなる。また、焼成温度が1350℃を超えると、過剰焼結による過大グレインの発生がするおそれがある。本発明のフェライト粒子はCaSiO3を多量に含有するため、昇温速度が速い場合、焼成時の収縮速度差の影響により球形状が保てなくなるおそれがある。特に500℃から前記焼成温度に至るまでの昇温速度としては100℃/h~500℃/hの範囲が好ましい。焼成温度での保持時間は2時間以上が好ましい。昇温・焼成・冷却における酸素濃度は0.05%~21%の範囲に制御するのが好ましい。
【0045】
このようにして得られた焼成物を必要により解粒する。具体的には、例えば、ハンマーミル等によって焼成物を解粒する。解粒工程の形態としては連続式及び回分式のいずれであってもよい。また解粒処理後、必要により、粒径を所定範囲に揃えるため分級を行ってもよい。分級方法としては、風力分級や篩分級など従来公知の方法を用いることができる。また、風力分級機で1次分級した後、振動篩や超音波篩で粒径を所定範囲に揃えるようにしてもよい。さらに、分級工程後に、磁場選鉱機によって非磁性粒子を除去するようにしてもよい。フェライト粒子の粒径としては30μm以上50μm未満が好ましい。
【0046】
その後、必要に応じて、分級後のフェライト粒子を酸化性雰囲気中で加熱して、粒子表面に酸化被膜を形成してフェライト粒子の高抵抗化を図ってもよい(高抵抗化処理)。酸化性雰囲気としては大気雰囲気又は酸素と窒素の混合雰囲気のいずれでもよい。また、加熱温度は200℃以上800℃以下の範囲が好ましく、360℃以上550℃以下の範囲がさらに好ましい。加熱時間は0.5時間以上5時間以下の範囲が好ましい。なお、フェライト粒子の表面と内部とを均質化する観点からは加熱温度は低温であるのが望ましい。以上のようにして作製したスピネル型フェライト粒子を本発明のキャリア芯材として用いる。
【0047】
(電子写真現像用キャリア)
本発明に係る電子写真現像用キャリアは、以上のようにして作製されたキャリア芯材の表面が樹脂で被覆されてなる。
【0048】
キャリア芯材の表面を被覆する樹脂としては、従来公知のものが使用でき、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ-4-メチルペンテン-1、ポリ塩化ビニリデン、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、ポリスチレン、(メタ)アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、並びにポリ塩化ビニル系やポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系等の熱可塑性エストラマー、フッ素シリコーン系樹脂などが挙げられる。
【0049】
キャリア芯材の表面を樹脂で被覆するには、樹脂の溶液又は分散液をキャリア芯材に施せばよい。塗布溶液用の溶媒としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類溶媒;エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒などの1種又は2種以上を用いることができる。塗布溶液中の樹脂成分濃度は、一般に0.001質量%以上30質量%以下、特に0.001質量%以上2質量%以下の範囲内にあるのがよい。
【0050】
キャリア芯材への樹脂の被覆方法としては、例えばスプレードライ法や流動床法あるいは流動床を用いたスプレードライ法、浸漬法等を用いることができる。これらの中でも、少ない樹脂量で効率的に塗布できる点で流動床法が特に好ましい。樹脂被覆量は、例えば流動床法の場合には吹き付ける樹脂溶液量や吹き付け時間によって調整することができる。
【0051】
キャリアの粒子径は、一般に、体積平均粒子径で30μm以上50μm以下の範囲、特に30μm以上40μm以下の範囲が好ましい。
【0052】
(電子写真用現像剤)
本発明に係る電子写真用現像剤は、以上のようにして作製したキャリアとトナーとを混合してなる。キャリアとトナーとの混合比に特に限定はなく、使用する現像装置の現像条件などから適宜決定すればよい。一般に現像剤中のトナー濃度は1質量%以上15質量%以下の範囲が好ましい。トナー濃度が1質量%未満の場合、画像濃度が薄くなりすぎ、他方トナー濃度が15質量%を超える場合、現像装置内でトナー飛散が発生し装置内汚れや転写紙などの背景部分にトナーが付着する不具合が生じるおそれがあるからである。より好ましいトナー濃度は3質量%以上10質量%以下の範囲である。
【0053】
トナーとしては、重合法、粉砕分級法、溶融造粒法、スプレー造粒法など従来公知の方法で製造したものが使用できる。具体的には、熱可塑性樹脂を主成分とする結着樹脂中に、着色剤、離型剤、帯電制御剤等を含有させたものが好適に使用できる。
【0054】
トナーの粒径は、一般に、コールターカウンターによる体積平均粒径で5μm以上15μm以下の範囲が好ましく、7μm以上12μm以下の範囲がより好ましい。
【0055】
トナー表面には、必要により、改質剤を添加してもよい。改質剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化マグネシウム、ポリメチルメタクリレート等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0056】
キャリアとトナーとの混合は、従来公知の混合装置を用いることができる。例えばヘンシェルミキサー、V型混合機、タンブラーミキサー、ハイブリタイザー等を用いることができる。
【0057】
(現像装置)
本発明の現像剤を用いた現像方法に特に限定はないが、磁気ブラシ現像法が好適である。
図7に、磁気ブラシ現像を行う現像装置の一例を示す概説図を示す。
図7に示す現像装置は、複数の磁極を内蔵した回転自在の現像ローラ3と、現像部へ搬送される現像ローラ3上の現像剤量を規制する規制ブレード6と、水平方向に平行に配置され、互いに逆向きに現像剤を撹拌搬送する2本のスクリュー1,2と、2本のスクリュー1,2の間に形成され、両スクリューの両端部において、一方のスクリューから他方のスクリューに現像剤の移動を可能とし、両端部以外での現像剤の移動を防ぐ仕切板4とを備える。
【0058】
2本のスクリュー1,2は、螺旋状の羽根13,23が同じ傾斜角で軸部11,21に形成されたものであって、不図示の駆動機構によって同方向に回転し、現像剤を互いに逆方向に搬送する。そして、スクリュー1,2の両端部において一方のスクリューから他方のスクリューに現像剤が移動する。これによりトナーとキャリアからなる現像剤は装置内を常に循環し撹拌されることになる。
【0059】
一方、現像ローラ3は、表面に数μmの凹凸を付けた金属製の筒状体の内部に、磁極発生手段として、現像磁極N1、搬送磁極S1、剥離磁極N2、汲み上げ磁極N3、ブレード磁極S2の5つの磁極を順に配置した固定磁石を有してなる。現像ローラ3の筒状体が矢印方向に回転すると、汲み上げ磁極N3の磁力によって、スクリュー1から現像ローラ3へ現像剤が汲み上げられる。現像ローラ3の表面に担持された現像剤は、規制ブレード6により層規制された後、現像領域へ搬送される。
【0060】
現像領域では、直流電圧に交流電圧を重畳したバイアス電圧が転写電圧電源8から現像ローラ3に印加される。バイアス電圧の直流電圧成分は、感光体ドラム5表面の背景部電位と画像部電位との間の電位とされる。また、背景部電位と画像部電位とは、バイアス電圧の最大値と最小値との間の電位とされる。バイアス電圧のピーク間電圧は0.5kV~5kVの範囲が好ましく、周波数は1kHz~10kHzの範囲が好ましい。またバイアス電圧の波形は矩形波、サイン波、三角波などいずれであってもよい。これによって、現像領域においてトナー及びキャリアが振動し、トナーが感光体ドラム5上の静電潜像に付着して現像がなされる。
【0061】
その後現像ローラ3上の現像剤は、搬送磁極S1によって装置内部に搬送され、剥離電極N2によって現像ローラ3から剥離して、スクリュー1,2によって装置内を再び循環搬送され、現像に供していない現像剤と混合撹拌される。そして汲み上げ極N3によって、新たに現像剤がスクリュー1から現像ローラ3へ供給される。
【0062】
なお、
図7に示した実施形態では現像ローラ3に内蔵された磁極は5つであったが、現像剤の現像領域での移動量を一層大きくしたり、汲み上げ性等を一層向上させるために、磁極を8極や10極、12極と増やしてももちろん構わない。
【実施例0063】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
原料として、Fe
2O
3(平均粒径:0.6μm)4.9kg、Mn
3O
4(平均粒径:3.4μm)1.9kg、CaSiO
3(平均粒径:5μm、平均アスペクト比:3)3.1kgを純水3.2kg中に分散し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を81.7g、アンモニア水(25wt%水溶液)を6.2g添加して混合物とした。この混合物を湿式ボールミル(メディア径2mm)により粉砕処理し、混合スラリーを得た。
この混合スラリーをスプレードライヤーにて約140℃の熱風中に噴霧し、粒径10μm~75μmの乾燥造粒物を得た。この造粒物から粒径25μm以下の微小な粒子は篩を用いて除去した。
この造粒物を、電気炉に投入し500℃から1170℃までの温度域における昇温速度が180℃/hとなるよう1170℃まで4.5時間かけて昇温した。その後1170℃で3時間保持することにより焼成を行った。電気炉内の酸素濃度は3000ppmとなるよう、炉内の酸素濃度を調整した。
得られた焼成物をハンマーミルで解粒した後に振動篩を用いて分級し、キャリア芯材として十分な球形度を有する平均粒子径36.0μmのキャリア芯材を得た。
得られたキャリア芯材の粉体特性、形状特性、磁気特性などを後述の方法で測定した。測定結果を表1及び表2に示す。
また、得られたキャリア芯材の断面SEM写真を
図1に示す。そしてまた、
図1に示す断面SEM写真におけるFe、Mn,Ca,SiのEDS元素マッピングを
図2~
図5に示す。さらに実施例1のキャリア芯材のXRD測定結果を
図6に示す。
【0065】
次に、このようにして得られたキャリア芯材の表面を樹脂で被覆してキャリアを作製した。具体的には、シリコーン樹脂450質量部と、(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン9質量部とを、溶媒としてのトルエン450質量部に溶解してコート溶液を作製した。このコート溶液を、流動床型コーティング装置を用いてキャリア芯材50000質量部に塗布し、温度300℃の電気炉で加熱してキャリアを得た。以下の実施例及び比較例についても同様にしてキャリアを得た。
【0066】
得られたキャリアと平均粒子径5.0μm程度のトナーとを、ポットミルを用いて所定時間混合し、二成分系の電子写真現像剤を得た。この場合、キャリアとトナーとをトナーの質量/(トナーおよびキャリアの質量)=5/100となるように調整した。以下、全ての実施例、比較例についても同様にして現像剤を得た。得られた現像剤について後述の実機評価を行った。以下の実施例及び比較例についても同様にして実機評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0067】
(実施例2)
実施例1のキャリア芯材を温度400℃で1.5時間大気雰囲気下で保持して酸化処理(高抵抗化処理)を行うことにより、キャリア芯材として十分な球形度を有する平均粒子径36.0μmのキャリア芯材を得た。
得られたキャリア芯材の粉体特性、形状特性、磁気特性などを後述の方法で測定した。測定結果を表1及び表2に示す。
【0068】
(実施例3)
酸化処理(高抵抗化処理)温度を430℃で行った以外は実施例2と同様にしてキャリア芯材として十分な球形度を有する平均粒子径37.7μmのキャリア芯材を得た。
得られたキャリア芯材の粉体特性、形状特性、磁気特性などを後述の方法で測定した。測定結果を表1及び表2に示す。
【0069】
(実施例4)
酸化処理(高抵抗化処理)温度を460℃で行った以外は実施例2と同様にしてキャリア芯材として十分な球形度を有する平均粒子径37.7μmのキャリア芯材を得た。
得られたキャリア芯材の粉体特性、形状特性、磁気特性などを後述の方法で測定した。測定結果を表1及び表2に示す。
【0070】
(実施例5)
原料として、Fe2O3(平均粒径:0.6μm)5.7kg、Mn3O4(平均粒径:3.4μm)2.2kg、CaSiO3(平均粒径:5μm、平均アスペクト比:3)2.1kgを純水3.2kg中に分散し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を81.7g、アンモニア水(25wt%水溶液)を6.2g添加して混合物とした。この混合物を湿式ボールミル(メディア径2mm)により粉砕処理し、混合スラリーを得た。
この混合スラリーをスプレードライヤーにて約140℃の熱風中に噴霧し、粒径10μm~75μmの乾燥造粒物を得た。この造粒物から粒径25μm以下の微小な粒子は篩を用いて除去した。
この造粒物を、電気炉に投入し500℃から1170℃までの温度域における昇温速度が180℃/hとなるよう1170℃まで4.5時間かけて昇温した。その後1170℃で3時間保持することにより焼成を行った。電気炉内の酸素濃度は3000ppmとなるよう炉内の酸素濃度を調整した。
得られた焼成物をハンマーミルで解粒した後に振動篩を用いて分級し、キャリア芯材として十分な球形度を有する平均粒子径35.7μmのキャリア芯材を得た。
得られたキャリア芯材の粉体特性、形状特性、磁気特性などを後述の方法で測定した。測定結果を表1及び表2に示す。
【0071】
(実施例6)
実施例5のキャリア芯材を温度400℃で1.5時間大気雰囲気下で保持して酸化処理(高抵抗化処理)を行うことにより、キャリア芯材として十分な球形度を有する平均粒子径35.7μmのキャリア芯材を得た。
得られたキャリア芯材の粉体特性、形状特性、磁気特性などを後述の方法で測定した。測定結果を表1及び表2に示す。
【0072】
(実施例7)
酸化処理(高抵抗化処理)温度を430℃で行った以外は実施例6と同様にしてキャリア芯材として十分な球形度を有する平均粒子径35.7μmのキャリア芯材を得た。
得られたキャリア芯材の粉体特性、形状特性、磁気特性などを後述の方法で測定した。測定結果を表1及び表2に示す。
【0073】
(実施例8)
酸化処理(高抵抗化処理)温度を460℃で行った以外は実施例6と同様にしてキャリア芯材として十分な球形度を有する平均粒子径35.7μmのキャリア芯材を得た。
得られたキャリア芯材の粉体特性、形状特性、磁気特性などを後述の方法で測定した。測定結果を表1及び表2に示す。
【0074】
(実施例9)
原料として、Fe2O3(平均粒径:0.6μm)5.6kg、Mn3O4(平均粒径:3.4μm)2.2kg、CaSiO3(平均粒径:5μm、平均アスペクト比:3)2.2kgを純水3.2kg中に分散し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を81.7g、アンモニア水(25wt%水溶液)を6.2g添加して混合物とした。この混合物を湿式ボールミル(メディア径2mm)により粉砕処理し、混合スラリーを得た。
この混合スラリーをスプレードライヤーにて約140℃の熱風中に噴霧し、粒径10μm~75μmの乾燥造粒物を得た。この造粒物から粒径25μm以下の微小な粒子は篩を用いて除去した。
この造粒物を、電気炉に投入し500℃から1170℃までの温度域における昇温速度が180℃/hとなるよう1170℃まで4.5時間かけて昇温した。その後1170℃で3時間保持することにより焼成を行った。電気炉内の酸素濃度は3000ppmとなるよう炉内の酸素濃度を調整した。
得られた焼成物をハンマーミルで解粒した後に振動篩を用いて分級し、キャリア芯材として十分な球形度を有する平均粒子径35.8μmのキャリア芯材を得た。
得られたキャリア芯材の粉体特性、形状特性、磁気特性などを後述の方法で測定した。測定結果を表1及び表2に示す。
【0075】
(実施例10)
実施例9のキャリア芯材を温度400℃で1.5時間、大気雰囲気下で保持して酸化処理(高抵抗化処理)を行うことにより、キャリア芯材として十分な球形度を有する平均粒子径35.8μmのキャリア芯材を得た。
得られたキャリア芯材の粉体特性、形状特性、磁気特性などを後述の方法で測定した。測定結果を表1及び表2に示す。
【0076】
(実施例11)
電気炉における焼成温度を1145℃で行った以外は実施例9と同様にしてキャリア芯材として十分な球形度を有する平均粒子径35.4μmのキャリア芯材を得た。
得られたキャリア芯材の粉体特性、形状特性、磁気特性などを後述の方法で測定した。測定結果を表1及び表2に示す。
【0077】
(実施例12)
実施例11のキャリア芯材を温度400℃で1.5時間、大気雰囲気下で保持して酸化処理(高抵抗化処理)を行うことにより、キャリア芯材として十分な球形度を有する平均粒子径35.4μmのキャリア芯材を得た。
得られたキャリア芯材の粉体特性、形状特性、磁気特性などを後述の方法で測定した。測定結果を表1及び表2に示す。
【0078】
(比較例1)
原料として、Fe2O3(平均粒径:0.6μm)7.2kg、Mn3O4(平均粒径:3.4μm)2.8kgを純水2.4kg中に分散し、還元剤としてカーボンブラックを48.0g、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を60.4g、アンモニア水(25wt%水溶液)を6.2g添加して混合物とした。この混合物を湿式ボールミル(メディア径2mm)により粉砕処理し、混合スラリーを得た。
この混合スラリーをスプレードライヤーにて約140℃の熱風中に噴霧し、粒径10μm~75μmの乾燥造粒物を得た。この造粒物から粒径25μm以下の微小な粒子は篩を用いて除去した。
この造粒物を、電気炉に投入し1035℃まで4.5時間かけて昇温した。その後1035℃で3時間保持することにより焼成を行った。電気炉内の酸素濃度は500ppmとなるよう炉内の酸素濃度を調整した。
得られた焼成物をハンマーミルで解粒した後に振動篩を用いて分級し平均粒子径34.6μmの焼成物を得た。
得られたキャリア芯材の粉体特性、形状特性、磁気特性などを後述の方法で測定した。測定結果を表1及び表2に示す。
【0079】
(比較例2)
原料として、Fe2O3(平均粒径:0.6μm)7.2kg、Mn3O4(平均粒径:3.4μm)2.8kgを純水2.4kg中に分散し、還元剤としてカーボンブラックを21.8g、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を62.2g、アンモニア水(25wt%水溶液)を6.2g添加して混合物とした。この混合物を湿式ボールミル(メディア径2mm)により粉砕処理し、混合スラリーを得た。
この混合スラリーをスプレードライヤーにて約140℃の熱風中に噴霧し、粒径10μm~75μmの乾燥造粒物を得た。この造粒物から粒径25μm以下の微小な粒子は篩を用いて除去した。
この造粒物を、電気炉に投入し1200℃まで4.5時間かけて昇温した。その後1200℃で3時間保持することにより焼成を行った。電気炉内の酸素濃度は3000ppmとなるよう炉内の酸素濃度を調整した。
得られた焼成物をハンマーミルで解粒した後に振動篩を用いて分級し、分級して得られた焼成物を大気雰囲気下400℃で1.5時間保持することにより酸化処理(高抵抗化処理)を行い平均粒子径34.4μmのキャリア芯材を得た。
得られたキャリア芯材の粉体特性、形状特性、磁気特性などを後述の方法で測定した。測定結果を表1及び表2に示す。
【0080】
(比較例3)
原料として、Fe2O3(平均粒径:0.6μm)6.5kg、Mn3O4(平均粒径:3.4μm)2.5kg、CaSiO3(平均粒径:5μm、平均アスペクト比:3)1.0kgを純水3.2kg中に分散し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を81.7g、アンモニア水(25wt%水溶液)を6.2g添加して混合物とした。この混合物を湿式ボールミル(メディア径2mm)により粉砕処理し、混合スラリーを得た。
この混合スラリーをスプレードライヤーにて約140℃の熱風中に噴霧し、粒径10μm~75μmの乾燥造粒物を得た。この造粒物から粒径25μm以下の微小な粒子は篩を用いて除去した。
この造粒物を、電気炉に投入し500℃から1170℃までの温度域における昇温速度が180℃/hとなるよう1170℃まで4.5時間かけて昇温した。その後1170℃で3時間保持することにより焼成を行った。電気炉内の酸素濃度は3000ppmとなるよう炉内の酸素濃度を調整した。
得られた焼成物をハンマーミルで解粒した後に振動篩を用いて分級し、キャリア芯材として十分な球形度を有する平均粒子径35.8μmのキャリア芯材を得た。
得られたキャリア芯材の粉体特性、形状特性、磁気特性などを後述の方法で測定した。測定結果を表1及び表2に示す。
【0081】
(組成分析)
(Feの分析)
鉄元素を含むキャリア芯材を秤量し、塩酸と硝酸の混酸水に溶解させた。この溶液を蒸発乾固させた後、硫酸水を添加して再溶解し過剰な塩酸と硝酸とを揮発させる。この溶液に固体Alを添加して液中のFe3+を全てFe2+に還元する。続いて、この溶液中のFe2+イオンの量を過マンガン酸カリウム溶液で電位差滴定することにより定量分析し、Fe(Fe2+)の滴定量を求めた。
(Mnの分析)
キャリア芯材のMn含有量は、JIS G1311-1987記載のフェロマンガン分析方法(電位差滴定法)に準拠して定量分析を行った。本明細書に記載したキャリア芯材のMn含有量は、このフェロマンガン分析方法(電位差滴定法)で定量分析し得られたMn量である。
(Caの分析)
キャリア芯材のCa含有量は、以下の方法で分析を行った。本願発明に係るキャリア芯材を酸溶液中で溶解し、ICPにて定量分析を行った。本発明に記載したキャリア芯材のCa含有量は、このICPによる定量分析で得られたCa量である。
(Siの分析)
キャリア芯材のSi含有量は、JIS M8214-1995記載の二酸化珪素重量法に準拠して定量分析を行なった。
(CaSiO3含有量の算出)
キャリア芯材中のCa量より、以下に記載の算出式を用いCaSiO3含有割合を算出した。
CaSiO3含有割合(質量%)=(キャリア芯材中のCa含有量(質量%))×(CaSiO3分子量:116.17g/mol)/(Ca原子量:40.08g/mol)
【0082】
(見掛密度AD)
キャリア芯材の見掛密度はJIS Z 2504に準拠して測定した。
【0083】
(流動度FR)
キャリア芯材の流動度はJIS Z 2502に準拠して測定した。
【0084】
(平均粒子径D50と粒径22μm以下の割合)
レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装社製「マイクロトラックModel9320-X100」)を用いてキャリア芯材の体積基準の積算粒度分布を測定し、キャリア芯材の平均粒子径D50及び粒径22μm以下の累積値を求めた。
【0085】
(細孔容積)
キャリア芯材の細孔容積は以下のようにして測定した。評価装置としてQuantachrome社製のPOREMASTER-60GTを使用した。具体的測定条件は、Cell Stem Volume:0.5ml、Headpressure:20PSIA、水銀の表面張力:485.00erg/cm2、水銀の接触角:130.00degrees、高圧測定モード:Fixed Rate、Moter Speed:1、高圧測定レンジ:20.00~10000.00PSIとし、サンプル1.200gを秤量して0.5ml(cm3)のセルに充填して測定を行った。また、10000.00PSI時の容積B(ml/g)から100PSI時の容積A(ml/g)を差し引いた値を、細孔容積とした。
【0086】
(BET比表面積)
BET一点法比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、型式:Macsorb HM model-1208)を用いて評価を行った。具体的には、サンプルは、10.000gを秤量して直径15mmのセルに充填し、200℃で、30分間脱気して測定を行った。
【0087】
(真密度)
キャリア芯材の真密度は、Quantachrome社製、「ULTRA PYCNOMETER 1000」を用いて測定を行った。
【0088】
(粒子形状係数:ISO Circularity)
下記の測定装置及び測定条件で測定した。
測定装置:注入型画像解析粒度分布計 JASCO社製「IF-3200」
解析ソフトウエア:PIA-Pro 14.18
試料作製条件:試料0.07gをポリエチレングリコール400を9cm3投入したスクリュー管瓶(容量9cm3)中で分散させた後測定した。
測定条件:テレセントリックズームレンズ 倍率2倍
フロントレンズ 倍率2倍
キャリブレーション値 0.417μm/pixel
スペーサー厚 150μm
サンプリング 20%
解析タイプ 相対測定
測定量 0.95cm3
解析 ダーク検出
閾値 166(穴を埋める。)
O-Roughnessフィルター 0.5
測定時フィルター条件:
ISO Area Diametere:最小値1,最大値150,内側の範囲
解析フィルター条件:
ISO Area Diametere:最小値10,最大値55,内側の範囲
ISO Solidity :最小値0.97,最大値1,内側の範囲
ISO Circularity:面積円相当径と周囲長円相当径の比
ISO Circularityの計算式:
π×Area Diameter(円面積相当径)/Perimeter(周長)
【0089】
(粒子強度指標)
キャリア芯材30gをサンプルミル(協立理工社製「SK-M10型」)に投入し、回転数14000rpmで60秒間破砕試験を行った。破砕試験前後のキャリア芯材の積算粒度分布における粒径22μm以下の累積値(体積%)の差を求めキャリア芯材の粒子強度指標とした。なお、キャリア芯材の積算粒度分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装社製「マイクロトラックModel9320-X100」)を用いて測定した。単位は体積%である。
【0090】
(磁気特性)
室温専用振動試料型磁力計(VSM)(東英工業社製「VSM-P7」)を用いて、外部磁場を0~79.58×104A/m(10000エルステッド)の範囲で1サイクル連続的に印加して、磁場79.58×103A/m(1000エルステッド)を印加した際の磁化σ1k、飽和磁化σs、残留磁化σr、保磁力Hcを測定した。
【0091】
(電気抵抗)
電極として表面を電解研磨した板厚2mmの真鍮板2枚を電極間距離が2mmとなるように配置し、2枚の電極板の間の空隙にキャリア芯材200mgを装入したのち、それぞれの電極板の背後に断面積240mm2の磁石を配置して電極間に被測定粉体のブリッジを形成させた状態で電極間に1000V直流電圧を印加し、キャリア芯材を流れる電流値を4端子法により測定した。その電流値と、電極間距離2mmおよび断面積240mm2からキャリア芯材の電気抵抗を算出した。
【0092】
(断面SEM写真、EDS元素マッピング)
キャリア芯材を樹脂中に分散させ、真空脱泡処理を施すことでキャリア芯材内に樹脂を充填させた後、補助板に塗布し、温度200℃で20分間熱処理を行って樹脂を硬化させた。その後クロスセッションポリッシャー(SM-09010 日本電子株式会社製)を用いてキャリア芯材をカットした。そしてキャリア芯材の断面を走査型電子顕微鏡(JSM-6510LA型 日本電子株式会社製)で撮影した。EDSにより、Fe元素、Mn元素、Ca元素、Si元素のマッピング像を取得した。
【0093】
(粉末X線回折(XRD)測定)
リガク社製「UltimaIV」を用いてキャリア芯材の粉末X線回折測定を行った。X線源にはCu管球(Kα)を使用し、加速電圧40kV、電流20mAの条件でX線を発生させた。発散スリット開口角は1°、散乱スリット開口角は1°、受光スリット幅は0.15mm、スキャン範囲は15°≦2θ≦95°とした。得られたX線回折パターンから生成相の同定を行った。得られたX線回折パターンにおいてCaSiO3のピークを確認できる場合、当該キャリア芯材はCaSiO3を含有すると判断できる。
【0094】
(トナースペントの評価)
図7に示した構造の現像装置(現像ローラの周速度v
1:406mm/sec,感光体ドラムの周速度v
2:205mm/sec,感光体ドラム-現像ローラ間距離:0.3mm)に作製した二成分現像剤を投入し、現像剤を36時間撹拌した後、現像剤からキャリアを抜き取り、走査型電子顕微鏡(JSM-6510LA型 日本電子株式会社製)で観察すると共に、表面にトナーが融着したキャリアの個数割合を測定した。
「◎」:トナーの融着したキャリア個数割合が0.5%未満であった。
「○」:トナーの融着したキャリア個数割合が0.5%以上1.0%未満であった。
「△」:トナーの融着したキャリア個数割合が1.0%以上5.0%未満であった。
「×」:トナーの融着したキャリア個数割合が5.0%以上であった。
【0095】
(画像中白抜けの評価)
図7に示した構造の現像装置(現像ローラの周速度v
1:406mm/sec,感光体ドラムの周速度v
2:205mm/sec,感光体ドラム-現像ローラ間距離:0.3mm)に作製した二成分現像剤を投入し、初期および100k枚の耐刷後に黒ベタ画像を10枚現像し、印刷し、黒ベタ部における白抜けの度合を目視により下記基準で評価した。
「◎」:白抜けが確認できず、画像として良好なもの。
「○」:白抜けが5個未満
「△」:白抜けが5個~10個
「×」:明確に白抜けが10個を超えて存在する。
【0096】
【0097】
【0098】
図1のキャリア芯材の断面SEM写真から、キャリア芯材の内部にはほとんど空隙のないことがわかる。また
図2~
図5に示される断面SEM写真におけるFe、Mn,Ca,SiのEDS元素マッピングからは、FeとMnとは共通する領域に存在し、またCaとSiも共通する領域に存在し、且つこれら2つの領域は重なっていないことがわかる。そして、
図6のXRD分析結果によれば
図1のキャリア芯材はMnFe
2O
4の組成とCaSiO
3の組成が存在していることがわかる。これらのことから実施例1のキャリア芯材は、ほぼ中実でMnFe
2O
4中にCaSiO
3が分散して存在したものであるといえる。以上の断面SEM写真、EDS元素マッピング、XRD分析について、実施例2~12においても同様の結果であった。
【0099】
表1及び表2から明らかなように、CaSiO3を27.8質量%含有し、真密度が4.0g/cm3であった実施例1~4のキャリア芯材を用いた現像剤では、トナーの融着したキャリア個数割合は0.5%未満であった。また、高抵抗化処理を行った実施例2~4のキャリア芯材を用いた現像剤では、初期および100k枚耐刷後のいずれにおいても画像中白抜けは確認できず良好な画像が得られた。また高抵抗化処理を行わなかった実施例1のキャリア芯材を用いた現像剤についても初期および100k枚耐刷後のいずれにおいても画像中白抜けは5個未満と実使用上問題の無いレベルであった。なお、表2中の「B.D.」はブレイクダウンの意である。
【0100】
またCaSiO3を19.1質量%含有し、真密度が4.2g/cm3又は4.3g/cm3であった実施例5~8のキャリア芯材を用いた現像剤では、トナーの融着したキャリア個数割合が1.0%未満と良好であった。また、高抵抗化処理を行った実施例6~8のキャリア芯材を用いた現像剤では、初期および100k枚耐刷後のいずれにおいても画像中白抜けは確認できず良好な画像が得られた。また高抵抗化処理を行わなかった実施例5のキャリア芯材を用いた現像剤についても初期および100k枚耐刷後のいずれにおいても画像中白抜けは5個未満と実使用上問題の無いレベルであった。
【0101】
CaSiO3を20.7質量%含有し、真密度が4.2g/cm3又は4.3g/cm3であった実施例9~12のキャリア芯材を用いた現像剤では、トナーの融着したキャリア個数割合が1.0%未満と良好であった。また、高抵抗化処理を行った実施例10および実施例12のキャリア芯材を用いた現像剤では、初期および100k枚耐刷後のいずれにおいても画像中白抜けは確認できず良好な画像が得られた。また高抵抗化処理を行わなかった実施例9および実施例11のキャリア芯材を用いた現像剤についても初期および100k枚耐刷後のいずれにおいても画像中白抜けは5個未満と実使用上問題の無いレベルであった。
【0102】
これに対して、CaSiO3を含有せず、真密度が4.9g/cm3及び4.8g/cm3と高い比較例1及び比較例2のキャリア芯材を用いた現像剤では、粒子強度指標は2.7体積%及び2.3体積%と実施例のものに比べて大きく粒子強度は低くかった。このため100k枚耐刷後に画像中白抜けが5個~10個発生した。また、焼成温度が1200℃と高かった比較例2のキャリア芯材では見掛密度ADが2.42g/cm3と高く、トナーの融着したキャリア個数割合が5.0%以上と実使用上問題のあるレベルであった。
【0103】
CaSiO3を8.3質量%含有し、真密度が4.6g/cm3と高い比較例3のキャリア芯材を用いた現像剤では、トナーの融着したキャリア個数割合が1.0%以上5.0%未満と実使用上問題のあるレベルであった。また、粒子強度指標が2.2体積%と実施例のものに比べて大きく粒子強度は低くかった。このため、100k枚耐刷後に画像中白抜けが5個~10個発生した。