(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022179637
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】臓器移植患者における抗体媒介性拒絶反応のC1-エステラーゼ阻害剤を使用した治療方法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20221125BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20221125BHJP
A61K 35/16 20150101ALI20221125BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20221125BHJP
A61K 31/69 20060101ALI20221125BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20221125BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P37/06
A61K35/16
A61K39/395 Y
A61K39/395 N
A61K31/69
A61K45/06
A61K38/17
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022163044
(22)【出願日】2022-10-11
(62)【分割の表示】P 2021012833の分割
【原出願日】2014-11-21
(31)【優先権主張番号】61/907,550
(32)【優先日】2013-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/029,086
(32)【優先日】2014-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】000002934
【氏名又は名称】武田薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】コリン ブルーム
(72)【発明者】
【氏名】マーク イー. ユクニス
(57)【要約】
【課題】移植臓器における抗体媒介性拒絶反応(AMR)の治療または予防のための方法及び組成物を提供すること。
【解決手段】1つの態様においては、本発明は、臓器同種移植片が必要な患者における臓器同種移植片に対するAMRの治療方法を提供する。治療上有効量のC1-INHが使用される。当該方法は、治療上有効量のC1-INHの早期及び/または短期投与を含む。当該方法は、長期的な治療効果を提供するために十分な、治療上有効量のC1-INHの使用を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2013年11月22日出願の米国仮特許出願第61/907,550号及び2014年7月25日出願の米国仮特許出願第62/029,086号の利益を主張するものであり、これらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、一般に患者における臓器移植拒絶反応を治療するための方法、化合物、及び組成物に関し、より詳細には、臓器移植患者における抗体媒介性拒絶反応をC1-エステラーゼ阻害剤を使用して治療または予防するための方法及び医薬組成物に関するものであるが、これらに限定されない。
【背景技術】
【0003】
ドナーの細胞表面に存在するヒト白血球抗原(HLA)に対する抗体が先在することにより、救命の可能性がある臓器移植を受けることが認められない患者が毎年存在する。そのような患者は、ドナーの臓器に対して「感作されている」と考えることができ、これは、以前に経験した移植、妊娠、及び/または輸血の結果である場合がある。他の要因が、ドナーの適合を示す場合であっても、ある種のドナー特異的抗体(DSA)が存在すれば、移植は禁忌である。DSAが存在すれば、移植後にドナー臓器に対する超急性(即時)抗体媒介性拒絶反応(AMR)や提供された臓器の損失を起こす可能性がある。したがって、DSAを有する患者(すなわち、感作されている患者)は、許容可能な臓器を待つことに極めて長い時間を費やしている。このように、感作されている患者は、臓器提供に対して1つではなく、(1)血液型適合性、及び(2)感作という、少なくとも2つのハードルに直面している。さらに、患者によっては、移植「後」にドナー臓器に対する抗体ができてしまう場合があり、そのようなDSAは、「デノボ」と呼ばれる。慢性的な拒絶反応により、移植臓器を失う大部分の患者は、デノボDSAの結果そうなることが現在知られている。
【0004】
現在、抗体媒介性拒絶反応を有する感作されている患者を処置する選択肢はほとんど存在しない。利用可能な処置には、たとえば、リツキシマブ、及び血漿交換療法が含まれ、これらは、免疫グロブリン静注療法(IVIg)を伴う場合と伴わない場合がある。
【0005】
利用可能な処置は、初期にはAMRを治療するための様々な有効性を発揮するが、ほぼ半数の患者においてこうした効果は消失し、持続しない。このように、現在利用可能な処置の長期的な効果は不十分であり、AMRの有効な処置や、交差適合試験が陽性である臓器の移植を受ける患者における移植片の全生存率を改善する処置及び組成物の分野には、未だ対処されていない膨大なニーズが存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、移植臓器における抗体媒介性拒絶反応(AMR)を経験している、または経験するリスクがある臓器移植患者に対して、C1-エステラーゼ阻害剤(C1-INH)タンパク質を有利に投与するための方法及び組成物を提供することで、当該分野のニーズに応える。
【0007】
1つの態様においては、本発明は、臓器同種移植片が必要な患者における臓器同種移植片に対するAMRの治療方法を提供する。治療上有効量のC1-INHが使用される。当該方法は、治療上有効量のC1-INHの早期及び/または短期投与を含む。当該方法は、長期的な治療効果を提供するために十分な、治療上有効量のC1-INHの使用を含む。当該方法は、治療上有効量のC1-INHの早期及び/または短期投与を含み、当該治療上有効量のC1-INHは、長期的な治療効果を提供するのに十分な量である。臓器同種移植片が必要な患者における臓器同種移植片の抗体媒介性拒絶反応(AMR)の治療方法に使用するC1エステラーゼ阻害剤(C1-INH)も含まれる。
【0008】
当該C1-INHは、Cinryze(登録商標)などのヒト血漿由来のC1-INHであってもよい。任意選択で、本発明の方法は、DSAを取り除くために血漿交換療法を患者に施すことを含んでいてもよい。C1-INHを用いた早期、短期処置は、血漿交換療法に補助的であってもよく、血漿交換療法単独と比較して臓器同種移植片に対する慢性的な拒絶反応の割合を下げることができる。他の実施形態では、本発明の方法は、静注用免疫グロブリン(IV Ig)及び/または新鮮凍結血漿の投与を含んでいてもよい。濃厚赤血球が付加的、または代わりに投与されてもよい。さらに別の実施形態では、本発明の方法は、抗リンパ球製剤、リツキシマブ、エクリズマブ、ボルテゾミブ、またはそれらの組み合わせの投与を含んでいてもよい。本発明の方法の実施形態によっては、当該患者は、超急性及び/または急性AMRを治療するための既知の他の1つまたは複数の治療方法(たとえば、血漿交換療法、IV Ig処置、1つまたは複数の抗リンパ球製剤での処置、リツキシマブ、エクリズマブ、ボルテゾミブ、またはそれらの組み合わせ、ならびに、好ましくは、血漿交換療法、及びIVIg処置を実施する血漿交換療法)で処置されているか、または処置されたことがある。
【0009】
C1-INH、ならびに臓器同種移植片が必要な患者における臓器同種移植片の抗体媒介性拒絶反応(AMR)の処置方法において、同時または逐次的に使用するための組み合わせ製剤としての、抗リンパ球製剤、リツキシマブ、ボルテゾミブ、エクリズマブ、及び免疫グロブリン(Ig)またはそれらの組み合わせからなる群から選択される、付加的な生物学的活性剤も同様に含まれる。付加的な好ましい生物学的活性剤は、免疫グロブリンであり、たとえば静注用免疫グロブリンである。
【0010】
さらに、本発明の方法において処置される臓器(すなわち、患者にこれから移植される臓器、または既に当該患者に移植されている臓器)は、固形臓器であってもよい。さらに、当該固形臓器は、腎臓、膵臓、腸、心臓、肺、及び肝臓からなる群から選択されるものであってよい。実施形態によっては、当該臓器は腎臓である。
【0011】
別の態様においては、本発明は、臓器同種移植片が必要な患者における臓器同種移植片のAMRの治療または進行遅延を目的とした医薬組成物を提供する。当該医薬組成物はC1-INH、ならびに抗リンパ球製剤、リツキシマブ、エクリズマブ、免疫グロブリン(Ig)、及びそれらの組み合わせなどの付加的な生物学的活性剤、ならびに医薬的に許容可能なキャリア媒体を含んでいてもよい。
【0012】
(i)C1-INHと、
(ii)抗リンパ球製剤、リツキシマブ、ボルテゾミブ、エクリズマブ、及び免疫グロブリン(Ig)またはそれらの組み合わせからなる群から選択される付加的な生物学的活性剤と
を含むキットも含まれ、当該成分(i)及び(ii)は、患者に同時または逐次的に投与するためにパッケージ化されるものであり、任意選択で、当該患者の臓器同種移植片における抗体媒介性拒絶反応(AMR)の処置方法で使用するためのものである。付加的な好ましい生物学的活性剤は、免疫グロブリンであり、たとえば静注用免疫グロブリンである。
【0013】
当該技術分野で現在利用可能な処置に対し、本発明は、臓器移植待ち、または移植中の患者に加えて、移植レシピエントにおけるAMR治療のための有効な早期、及び/または短期治療を提供し、当該治療は、長期的な治療効果をもたらす。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
臓器同種移植片を必要とする患者におけるその抗体媒介性拒絶反応(AMR)の治療方法において使用するためのC1-エステラーゼ阻害剤(C1-INH)。
(項目2)
前記方法が、早期及び/または短期間の前記阻害剤の投与を含む、項目1に記載の使用のためのC1-INH。
(項目3)
前記方法が、長期的な治療効果を提供するために十分な量での前記阻害剤の投与を含む、項目1または2に記載の使用のためのC1-INH。
(項目4)
前記患者が、血漿交換療法を受けたことがある、または現在、血漿交換療法を受けている、項目1~3のいずれかに記載の使用のためのC1-INH。
(項目5)
前記方法がさらに、前記患者に血漿交換療法を施すことを含む、項目1~4のいずれかに記載の使用のためのC1-INH。
(項目6)
前記方法がさらに、新鮮凍結血漿の投与を含む、項目1~5のいずれかに記載の使用のためのC1-INH。
(項目7)
前記方法がさらに、静注用免疫グロブリンの投与を含む、項目1~6のいずれかに記載の使用のためのC1-INH。
(項目8)
前記方法がさらに、抗リンパ球製剤、リツキシマブ、ボルテゾミブ、エクリズマブ、またはそれらの組み合わせの投与を含む、項目1~7のいずれかに記載の使用のためのC1-INH。
(項目9)
前記臓器が固形臓器である、項目1~8のいずれかに記載の使用のためのC1-INH。
(項目10)
前記固形臓器が、腎臓、膵臓、腸、心臓、肺、肝臓、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、項目9に記載の使用のためのC1-INH。
(項目11)
前記臓器が腎臓である、項目1~10のいずれか1項に記載の使用のためのC1-INH。
(項目12)
前記方法がさらに静注用免疫グロブリンの投与を含み、前記患者が、血漿交換療法を受けたことがある、または現在、血漿交換療法を受けている、項目11に記載の使用のためのC1-INH。
(項目13)
C1-INH、ならびに同種臓器移植片を必要とする患者のその抗体媒介性拒絶反応(AMR)の処置方法における同時または逐次使用のための組み合わせ製剤として、抗リンパ球製剤、リツキシマブ、ボルテゾミブ、エクリズマブ、免疫グロブリン(Ig)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、付加的な生物学的活性剤。
(項目14)
前記付加的な生物学的活性剤が免疫グロブリン、好ましくは、静注用免疫グロブリン、である、項目13に記載の使用のためのC1-INH及び付加的な生物学的活性剤。
(項目15)
前記臓器が項目9~11のいずれかにより定義され、好ましくは腎臓である、項目13または14に記載の使用のためのC1-INH及び付加的な生物学的活性剤。
(項目16)
前記患者が、血漿交換療法を受けたことがある、または現在、血漿交換療法を受けている、項目13~15のいずれか1項に記載の使用のためのC1-INH及び付加的な生物学的活性剤。
(項目17)
前記方法が、さらに前記患者に血漿交換療法を施すことを含む、項目13~16のいずれか1項に記載の使用のためのC1-INH及び付加的な生物学的活性剤。
(項目18)
前記臓器が腎臓であり、前記付加的な生物学的活性剤が、静注用免疫グロブリンであり、前記患者が、血漿交換療法を受けたことがある、または現在、血漿交換療法を受けている、項目13~15のいずれか1項に記載の使用のためのC1-INH及び付加的な生物学的活性剤。
(項目19)
(i)C1-INHと、
(ii)抗リンパ球製剤、リツキシマブ、ボルテゾミブ、エクリズマブ、免疫グロブリン(Ig)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される付加的な生物学的活性剤、とを含む、キットであって、
前記成分(i)及び(ii)が、患者に対する同時または逐次投与のためにパッケージ化されており、任意選択で、前記患者における臓器同種移植片の抗体媒介性拒絶反応(AMR)の処置方法における使用のためである、キット。
(項目20)
前記方法がさらに、前記患者に血漿交換療法を施すことを含む、項目19に記載のキット。
(項目21)
臓器移同種植片を必要としている患者のそれにおける抗体媒介性拒絶反応(AMR)の治療方法であり、前記方法が早期及び/または短期間の治療上有効量のC1エステラーゼ阻害剤(C1-INH)の投与を含み、前記治療上有効量のC1-INHが長期的な治療効果を提供するのに十分である、方法。
(項目22)
さらに、前記患者に血漿交換療法を施すことを含む、項目21に記載の方法。
(項目23)
さらに、新鮮凍結血漿の投与を含む、項目21または22に記載の方法。
(項目24)
さらに、静注用免疫グロブリンの投与を含む、項目21~23のいずれかに記載の方法。
(項目25)
さらに、抗リンパ球製剤、リツキシマブ、ボルテゾミブ、エクリズマブ、またはそれらの組み合わせの投与を含む、項目21~24のいずれか1項に記載の方法。
(項目26)
前記臓器が、固形臓器である、項目21~25のいずれか1項に記載の方法。
(項目27)
前記固形臓器が、腎臓、膵臓、腸、心臓、肺、肝臓、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、項目26に記載の方法。
(項目28)
前記臓器が、腎臓である、項目21~27のいずれか1項に記載の方法。
(項目29)
C1エステラーゼ阻害剤(C1-INH)、付加的な生物学的活性剤、及び医薬的に許容可能なキャリア媒体を含む、医薬組成物。
(項目30)
前記生物学的活性剤が、抗リンパ球製剤、リツキシマブ、ボルテゾミブ、エクリズマブ、免疫グロブリン(Ig)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、項目29に記載の医薬組成物。
(項目31)
腎臓移植を受けている、または腎臓移植を受けたことがある患者における抗体媒介性拒絶反応(AMR)の治療方法であって、前記方法が治療上十分量の静注用免疫グロブリン及びC1-INH阻害剤を、血漿交換療法を受けたことがある、または現在受けている患者へ投与することを含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0014】
前記の概要及び次に示す本発明の実施形態例の詳細な説明は、添付の図面と共に読むことでさらに理解することができる。
【
図1】凝固系、接触系、及び補体系でのC1-エステラーゼ阻害剤(C1-INH)の効果を模式的に示した図である。図中の略語は以下を示す。カリクレイン(KK)、高分子量キニノーゲン(HMWK)、マンノース結合タンパク質(MBP)、MBP関連セリンプロテアーゼ(MASP)、組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)、及びフィブリン分解産物(FDP)。
【
図2】Cinryze(登録商標)をC1-INHとして用いたC1-INH阻害剤投与の実施例デザインを図示したものである。図中の文字は以下のとおり。(a)移植後12ヶ月以内に生検で証明されたAMR、(b)生検による認定後72時間以内のCinryze(登録商標)またはプラセボの初回投与、(c)Cinryze(登録商標)またはプラセボの初回投与後20日目(±24時間)、及び(d)Cinryze(登録商標)またはプラセボの初回投与後90日目(±24時間)。
【
図3】
図2中の過程に沿って実施した試験例において、患者に対して施された標準治療を示す表であり、被験者は14名、内7名はプラセボで処置され、7名は、C1-INHで処置された。図中の略語は以下のとおり。新鮮凍結血漿(FFP)及び濃厚赤血球輸血(PRBC)。
【
図4A】Cinryze(登録商標)またはプラセボの注入処置後の患者における機能性C1-INHの血漿中濃度レベル(コホート平均)を示すグラフである。
図4Aは、当該試験例中の13日の過程に渡るCinryze(登録商標)またはプラセボ注入後の機能性C1-INHの平均血漿中濃度を示したグラフである。
図4Bは、当該試験例の13日目におけるCinryze(登録商標)またはプラセボ注入後の機能性C1-INHの平均血漿中濃度を示したグラフである。
図4A及びB共に、C1-INH機能のベースラインレベルを差し引いて補正された、それぞれのコホートの平均値を示す。
【
図4B】Cinryze(登録商標)またはプラセボの注入処置後の患者における機能性C1-INHの血漿中濃度レベル(コホート平均)を示すグラフである。
図4Aは、当該試験例中の13日の過程に渡るCinryze(登録商標)またはプラセボ注入後の機能性C1-INHの平均血漿中濃度を示したグラフである。
図4Bは、当該試験例の13日目におけるCinryze(登録商標)またはプラセボ注入後の機能性C1-INHの平均血漿中濃度を示したグラフである。
図4A及びB共に、C1-INH機能のベースラインレベルを差し引いて補正された、それぞれのコホートの平均値を示す。
【
図5】Cinryze(登録商標)またはプラセボで処置された患者における腎機能(すなわち、クレアチニンクリアランス)の平均変化を示した図である。AMR患者においてクレアチニンクリアランスは、大幅に減少する。Cinryze(登録商標)を投与することにより、プラセボと比較してクレアチンクリアランスは約7日後に安定化し、プラセボ処置された患者と同程度まで低下しない。しかしながら、当該試験例における患者は、血漿交換療法(及び/またはIVIg)ならびにCinryze(登録商標)またはプラセボで処置されていることに留意されたい。
【
図6】腎組織切片をヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色したものであり、慢性糸球体症(CG)の存在を示し、対比させている。
図6Aは、Cinryze(登録商標)で処置された患者の移植後6ヶ月における正常腎組織切片であり、CGを示していない(7患者中でCGを示さなかった6名の内の1名)。
図6Bは、プラセボ処置された患者の移植後6ヶ月における腎組織切片であり、CGを示している(7患者中でCGを示した3名の内の1名)。
【
図7】尿細管周囲毛細血管(PTC)の電子顕微鏡(EM)像を示す。
図7Aは、PTCの正常EM像の例を示す。
図7Bは、移植後6ヶ月目で得られたプラセボ処置された患者におけるPTCのEM像であり、糸球体症を示している(7患者中で糸球体症を示した3名の内の1名)。
図7A中で、CL、E、及びBSはそれぞれ毛細血管腔、上皮、及び基底膜を示す。
【
図8】当該試験例の13日目における被験者のC1-INH抗原、及び機能性C1-INHの測定レベルを示す表であり、当該被験者は、標準治療(血漿交換療法及び/またはIVIg)に加えて、プラセボまたはC1-INHで処置された。当該C1-INH抗原の報告レベルは、タンパク質の重量濃度での測定に基づき、換算係数(0.067U/ml=1mg/1dL)を使用してU/mLへと変換した値である。
【
図9-1】当該試験例における13日目(
図8)の患者で測定されたC1-INH抗原と機能性C1-INHのレベルを、同患者の6ヶ月の臨床転帰に関して相互に関連づけた図である。図中で、CGは、転帰不良であった患者(たとえば、プラセボコホートで患者7名中3名、Cinryze(登録商標)コホートで患者7名中1名)、「AG」は抗原、及び「Fnct」は機能を示す。さらに、CGを示したCinryze(登録商標)コホートの患者1名が、生検後に抗凝固剤の投与を受けている際、有害事象である出血性ショックを起こした。
図9A及び9Bは、ベースライン補正したC1-INH抗原のレベルをプラセボ(
図9A)及びCinryze(登録商標)(
図9B)の投与を受けた患者のCGへと相互に関連づけた図である。
図9C及び9Dは、ベースラインを補正した機能性C1-INHレベルをプラセボ(
図9C)及びCinryze(登録商標)(
図9D)の投与を受けた患者のCGへと相互に関連づけた図である。
図9E及び9Fは、ベースライン調整を実施していないC1-INH抗原のレベルをプラセボ(
図9E)及びCinryze(登録商標)(
図9F)の投与を受けた患者のCGへと相互に関連づけた図である。
図9G及び9Hは、ベースライン調整を実施していない機能性C1-INHのレベルをプラセボ(
図9G)及びCinryze(登録商標)(
図9H)の投与を受けた患者のCGへと相互に関連づけた図である。C1-INH抗原の報告レベルは、タンパク質の重量濃度での測定に基づき、換算係数(0.067U/mL=1mg/1dL)を使用してU/mLへと変換した値である。
【
図9-2】当該試験例における13日目(
図8)の患者で測定されたC1-INH抗原と機能性C1-INHのレベルを、同患者の6ヶ月の臨床転帰に関して相互に関連づけた図である。図中で、CGは、転帰不良であった患者(たとえば、プラセボコホートで患者7名中3名、Cinryze(登録商標)コホートで患者7名中1名)、「AG」は抗原、及び「Fnct」は機能を示す。さらに、CGを示したCinryze(登録商標)コホートの患者1名が、生検後に抗凝固剤の投与を受けている際、有害事象である出血性ショックを起こした。
図9A及び9Bは、ベースライン補正したC1-INH抗原のレベルをプラセボ(
図9A)及びCinryze(登録商標)(
図9B)の投与を受けた患者のCGへと相互に関連づけた図である。
図9C及び9Dは、ベースラインを補正した機能性C1-INHレベルをプラセボ(
図9C)及びCinryze(登録商標)(
図9D)の投与を受けた患者のCGへと相互に関連づけた図である。
図9E及び9Fは、ベースライン調整を実施していないC1-INH抗原のレベルをプラセボ(
図9E)及びCinryze(登録商標)(
図9F)の投与を受けた患者のCGへと相互に関連づけた図である。
図9G及び9Hは、ベースライン調整を実施していない機能性C1-INHのレベルをプラセボ(
図9G)及びCinryze(登録商標)(
図9H)の投与を受けた患者のCGへと相互に関連づけた図である。C1-INH抗原の報告レベルは、タンパク質の重量濃度での測定に基づき、換算係数(0.067U/mL=1mg/1dL)を使用してU/mLへと変換した値である。
【
図9-3】当該試験例における13日目(
図8)の患者で測定されたC1-INH抗原と機能性C1-INHのレベルを、同患者の6ヶ月の臨床転帰に関して相互に関連づけた図である。図中で、CGは、転帰不良であった患者(たとえば、プラセボコホートで患者7名中3名、Cinryze(登録商標)コホートで患者7名中1名)、「AG」は抗原、及び「Fnct」は機能を示す。さらに、CGを示したCinryze(登録商標)コホートの患者1名が、生検後に抗凝固剤の投与を受けている際、有害事象である出血性ショックを起こした。
図9A及び9Bは、ベースライン補正したC1-INH抗原のレベルをプラセボ(
図9A)及びCinryze(登録商標)(
図9B)の投与を受けた患者のCGへと相互に関連づけた図である。
図9C及び9Dは、ベースラインを補正した機能性C1-INHレベルをプラセボ(
図9C)及びCinryze(登録商標)(
図9D)の投与を受けた患者のCGへと相互に関連づけた図である。
図9E及び9Fは、ベースライン調整を実施していないC1-INH抗原のレベルをプラセボ(
図9E)及びCinryze(登録商標)(
図9F)の投与を受けた患者のCGへと相互に関連づけた図である。
図9G及び9Hは、ベースライン調整を実施していない機能性C1-INHのレベルをプラセボ(
図9G)及びCinryze(登録商標)(
図9H)の投与を受けた患者のCGへと相互に関連づけた図である。C1-INH抗原の報告レベルは、タンパク質の重量濃度での測定に基づき、換算係数(0.067U/mL=1mg/1dL)を使用してU/mLへと変換した値である。
【
図9-4】当該試験例における13日目(
図8)の患者で測定されたC1-INH抗原と機能性C1-INHのレベルを、同患者の6ヶ月の臨床転帰に関して相互に関連づけた図である。図中で、CGは、転帰不良であった患者(たとえば、プラセボコホートで患者7名中3名、Cinryze(登録商標)コホートで患者7名中1名)、「AG」は抗原、及び「Fnct」は機能を示す。さらに、CGを示したCinryze(登録商標)コホートの患者1名が、生検後に抗凝固剤の投与を受けている際、有害事象である出血性ショックを起こした。
図9A及び9Bは、ベースライン補正したC1-INH抗原のレベルをプラセボ(
図9A)及びCinryze(登録商標)(
図9B)の投与を受けた患者のCGへと相互に関連づけた図である。
図9C及び9Dは、ベースラインを補正した機能性C1-INHレベルをプラセボ(
図9C)及びCinryze(登録商標)(
図9D)の投与を受けた患者のCGへと相互に関連づけた図である。
図9E及び9Fは、ベースライン調整を実施していないC1-INH抗原のレベルをプラセボ(
図9E)及びCinryze(登録商標)(
図9F)の投与を受けた患者のCGへと相互に関連づけた図である。
図9G及び9Hは、ベースライン調整を実施していない機能性C1-INHのレベルをプラセボ(
図9G)及びCinryze(登録商標)(
図9H)の投与を受けた患者のCGへと相互に関連づけた図である。C1-INH抗原の報告レベルは、タンパク質の重量濃度での測定に基づき、換算係数(0.067U/mL=1mg/1dL)を使用してU/mLへと変換した値である。
【
図10A】血清中のC1-INH抗原(
図10A)及び機能(
図10B)レベルに対する血漿交換療法の効果を示す図である。
図10A及び10Bに示されるとおり、血漿交換療法は、血清C1-INH抗原及び機能レベルを減少させた。
【
図10B】血清中のC1-INH抗原(
図10A)及び機能(
図10B)レベルに対する血漿交換療法の効果を示す図である。
図10A及び10Bに示されるとおり、血漿交換療法は、血清C1-INH抗原及び機能レベルを減少させた。
【発明を実施するための形態】
【0015】
抗体媒介性拒絶反応(AMR)は、患者における心臓、肺、肝臓、膵臓、腸及び腎臓などの同種移植片の移植に失敗をもたらすことに関与している。抗体媒介性拒絶反応(AMR)のための試験的な治療方法はほとんど無く、承認された治療方法は存在しない上、Centers for Medicare and Medicaid(CMS)が移植転帰を厳しく管理しているため、臓器移植待ちの、DSAを有する患者が、感作されているドナー臓器の提供を受けることは、一般に大部分の移植施設において認められていない。たとえば、毎年数千の末期腎不全(ESRD)患者が、ドナーの細胞表面に存在するヒト白血球抗原(HLA)を標的とする抗体(DSA)が先在するという理由で、救命の可能性がある腎臓移植を受けることを認められないでいる。
【0016】
移植前交差適合スクリーニング(補体依存性細胞傷害性アッセイまたはフローサイトメトリー)を通じて同定されるこうした循環DSAの存在は、移植に対する禁忌である。DSAは、即時、または「超急性」抗体媒介性拒絶反応(AMR)を起こす可能性があり、これは同時に、補体が媒介する破壊、そして最終的に移植臓器の損失につながる。
【0017】
米国(US)の腎臓移植待機リストに名前のある患者の内、ほぼ3分の1近くがHLA集団の10%以上を標的とする循環抗体を有している。こうした感作されている患者が、臓器移植のために、受け入れ可能な感作されていない(すなわち、交差適合試験陰性)腎臓を待つことに費やす時間は、感作されていない患者と比較して、極めて長期化している。米国の推定によれば、6,000名のESRD(待機リスト)患者が存在し、毎年3,500名の患者が新たに待機リストに登録されるが、こうした患者は、提供の意思のある生存ドナーがいるにもかかわらず、感作または血液型不適合により移植を受けられないでいる。感作されている患者に対して、意思のあるドナーから腎臓を移植できないことで、さらに献腎ドナーの腎臓への要望が増加し、こうして待機リストに名のあるすべての患者の待ち時間が長期化している。
【0018】
米国のCenters for Medicaid and Medicare Services(CMS)による腎臓移植プログラムの認定は、第一に特定のセンターの移植転帰が、腎臓移植の国の基準(移植片の1年生存率がほぼ95%)を満たしているかまたは超えているかどうかに基づいている。プログラムの死亡率または移植不全率が予測値の150%を超える場合、当該プログラムは基準に適合していないとされ、腎臓移植を実施するために必要なCMSの認証を失う可能性がある(42 CFR Part482、§482.80及び§482.82(2007)参照)。したがって、高度に感作、または交差適合試験陽性の患者に対して腎臓移植を行うことに消極的である。こうした患者の多くは、提供の意思のある生存しているドナーが存在するにもかかわらず、不条理にも献腎ドナー待ちのリストに負荷をかけ、そして移植を待ちながら死ぬことになる。しかしながら、急性AMRの予防または処置における、脱感作した患者のための有効な治療及び/または補助剤となる薬剤は、救命の可能性がある移植片を利用可能にするだけでなく、移植の可能性のある生存ドナーがいない者にとっては、待機リストにおける競合を少なくし、臓器移植におけるパラダイムを変えることに役立つ可能性がある。
【0019】
免疫グロブリン(IVIg)静注または血漿交換療法とIVIgの組み合わせの使用を通じて、交差適合試験陽性またはそれ以外で感作されている患者のDSA力価を減少させることで、移植成功のための「脱感作」及び適合交差試験結果を陰性に変えることに成功した患者は存在する。しかしながら、そのようなプロトコルにもかかわらず、10%超の患者が移植後すぐに、または非常に早い段階で、超急性拒絶または攻撃的な急性AMRによって移植片を失うことになる。さらに、30~50%の患者が依然として急性AMRを経験することになり、その大部分が移植後1~3ヶ月以内に経験するのである。実際には、DSAを有しない患者の移植片の1年生存率が約95%であるのに対し、DSA及びAMRを有する患者では60~70%であった。それでもなお、患者によっては、罹患率や死亡率は、透析と関連しているため、交差試験陽性での腎臓移植は当然リスクを伴う。このような高リスク(交差適合試験陽性)の臓器移植患者の総合的な転帰の改善ニーズは未だ残されたままである。
【0020】
急性AMRは、付加的なIVIg及び血漿交換療法で日常的に処置されている。しかしながら、間質性線維症、糸球体硬化症、及び線維性内膜肥厚ともしばしば関連がある移植片糸球体症(TG)からも明らかなように、早期急性AMRと診断される約半数の患者が腎臓同種移植片に対する不可逆的な損傷で苦しんでいる。TGは、移植された臓器で特異的に発症する糸球体症を意味するため、CGのサブセットにあたる。IVIg及び/または血漿交換療法といった処置は、最終的に有効性を失うため、長期的な治療効果とは相反し、短期作用しかもたらさなかった。本明細書記載の用語である「短期作用(short-lived activity)」は、その介入療法を受けている間しか有効性が残らない、AMRなどに対する処置の種類の作用を意味する。対照的に、「長期的治療効果(long-lasting therapeutic effect)」という用語は、治療の停止後、約3ヶ月を超えてから6ヶ月まで効果が持続する(たとえば、治療停止後約3、4、5、6ヶ月を超えて、または治療停止後約6ヶ月または約1年)、AMRなどに対する処置の種類の作用を意味する。
【0021】
前記のTGの特性を有した患者は、生検でTGの証拠がみられない患者と比較して、移植片の生存率が非常に損なわれている。重篤な急性AMR患者によっては、処置の最後の選択肢としての脾臓摘出の実施、非実施にかかわらず、リツキシマブ(抗CD20抗体)及び/またはボルテゾミブ(プロテアソーム阻害剤)を含む救援療法が必要かもしれない。(脾臓摘出といった過激な手段のニーズを減らしつつ)急性AMRを効果的に処置し、感作されたESRD患者の陽性の交差試験結果向けの脱感作後に臓器移植が可能になるように移植片の総合的な生存率を改善する薬剤に対する膨大なニーズは未だ残されたままである。
【0022】
当該分野での欠点を克服できる治療の開発に取り組み、現在のAMR治療を改良するには、DSAの媒介するTGや最終的な移植片の損失をもたらす、根底に存在している宿主の免疫応答に対処する必要がある。血漿交換療法やIVIgはDSA力価を減らすことができる。しかしながら、こうした治療を実施しても、補体活性化の結果生じる組織の破壊には対処できない場合がある。HLA-DSA複合体は、補体カスケードの古典的経路を活性化し、最終的に膜侵襲複合体の形成と炎症性サイトカインの継続的な放出を起こす。移植片の破壊における補体の役割の証拠として、尿細管周囲毛細血管(PTC)に沿う第4補体タンパク質分解産物(C4d)の蓄積は、AMRの前兆であり、移植片の低い生存率と関係している。一般に移植不全に関連するリスク要因に対応した後、腎機能の低下により腎臓移植片の生検が必要であり、生検でC4d沈着と共に血清中にDSAが存在することが認められた患者は、移植片損失のリスクがある。そのリスクは、DSAが存在しないか、または生検でC4d沈着がなかった患者と比較して約3倍高い。したがって、補体阻害剤は、AMR処置における有効な治療及び/または補助剤となることを示すであろう。
【0023】
血管柄付移植片の移植は、レシピエントがドナーのHLAに暴露されることを伴う。ドナーHLAの処理及び提示によって移植された同種移植片に対するレシピエントの免疫応答が決定する。可用性のドナー抗原が提示され、レシピエントのCD4Tリンパ球に認識された場合、サイトカインの放出(たとえば、IL-2)により、細胞傷害性のT細胞応答が広がると共に急性細胞性拒否反応につながることになる。ドナーHLAがBリンパ球によって認識されれば、記憶B細胞応答及びDSAの生産の伝播につながる。HLA-DSA複合体は、補体系の古典的経路を刺激すると共に抗体媒介性拒絶をもたらす(
図1)。
【0024】
DSAは、古典的補体経路の第一成分(C1)と複合体をつくることができ、これによりC1q/r/s及びC4の活性化をもたらしつつ、最終的に膜侵襲複合体(C5b-9)の形成と炎症性サイトカインの放出をもたらす。こういったサイトカイン(たとえば、IL-2、IL-6及びその他)は、局所的な炎症応答を誘発するために、好中球や他のメディエーターを呼び寄せる(たとえば、血小板由来成長因子)。このような局所的な炎症応答は、移植片内の毛細血管やより大きな血管の凝固及び血栓症につながる組織の線維症(不可逆性の瘢痕)、内皮応答、及び損傷をもたらす可能性がある。損傷の程度と即時性は、DSAが先在しているかどうか(及びどの程度存在しているか)によって異なる。
【0025】
先在するDSAによるドナーHLAの認識(古典的補体経路の活性化を伴う)は、即時(超急性)、または早期(1~3ヶ月以内で加速的)に移植された同種移植片の損失をもたらす。そのような病理はDSAの寛解に向けた移植前脱感作プロトコル(たとえば、血漿交換療法及び/またはIVIg)により一時的に緩和されるかもしれないが、そのような患者の約50%に短期作用のみしか提供しない。
【0026】
さらに、腎機能の低下により腎臓移植片の生検が必要であり、血清中にDSAが存在すると共に腎臓移植片の生検でC4d沈着(補体活性化の証拠)が認められる患者は、移植片損失のリスクがあり、そのリスクは、DSAが存在しないか、または生検でC4d沈着が認められなかった患者と比較して約3倍高いことが、臨床的証拠により示されている。動物モデル由来のデータも同種移植片拒絶における補体の役割を支持している。DSAを有することが確認されたカニクイザルを用いた同種移植の研究においても、生検においてC4dが存在する証拠がなかった移植を行ったサルは4%しかTGを発症しなかったのに対し、病理組織学においてC4dが存在したサルでは、その54%がTGを発症した。
【0027】
後期補体(C5b-9)タンパク質(抗体媒介性の古典的補体経路活性化産物)は、繊維芽細胞及び内皮細胞由来の血小板由来成長因子の生産を誘発し、不可逆的な腎臓移植拒絶の特徴である、内膜線維症を引き起こす。感作腎臓移植の前臨床マウスモデルは、補助的な免疫抑制剤としてC5阻害剤を投与したマウスにおいて、移植片の生存率が向上することを示した。16名の感作されているヒト腎臓移植のレシピエントに対し、抗C5-モノクローナル抗体であるエクリズマブを移植後に投与した試験では、移植後最初の1ヶ月以内に急性AMRを発症した患者は、ヒストリカルコントロールが40%近くであったのに対し、16名中1名(6%)のみであった。しかしながら、すべての患者に持続性のC4d沈着があり、16名中4名(25%)がTG/内皮細胞活性化に一致する有意な変化を示した。長期間の経過観察により、これらの患者のほぼ50%が、治療の停止後にTGを発症しており、ヒストリカルコントロールと差はなかった。
【0028】
同種免疫においては、古典的補体カスケードのより近位のシグナル成分がより重要な役割を担うことができる。たとえば、補体タンパク質であるC3またはC4を欠損しているマウスでは、主要組織適合遺伝子複合体異種皮膚移植片に対し、T細胞及びB細胞の同種免疫応答が損なわれていた。一方、C5欠損マウスでは、同種免疫が損なわれていなかった。したがって、AMRの予防または処置用として、C1-INHには、C5阻害剤を超える、より強固な理論的有効性が存在する。本発明は、当該分野におけるニーズに合致する長期的な治療効果を提供するC1-INH処置を利用し、そのような治療を提供する。
【0029】
本発明は、臓器移植切片を必要とする患者における臓器移植切片の抗体媒介性拒絶反応(AMR)を治療するための方法に関し、当該方法は、治療上有効量のC1-エステラーゼ阻害剤(C1-INH)の投与を含むと共に、さらにそのような方法において使用するためのC1-エステラーゼ阻害剤(C1-INH)に関する。本明細書記載の方法により、拒絶反応から保護できる臓器同種移植片には、固形臓器が含まれる。固形臓器の代表例には、心臓、肝臓、肺、膵臓、腸、及び腎臓が含まれる。実施形態によっては、固形臓器は腎臓であってもよい。本発明の方法での臓器移植には、同種移植が含まれる。説明として、同種移植は、異種移植とは実質的に異なる。同種移植は、同種由来の臓器の移植(ヒト対ヒトの移植)に関する。対照的に、異種移植は、異なる種由来の臓器の移植(たとえば、ブタ対ヒトの臓器移植)に関する。当該技術分野における当業者であれば、異種移植におけるC1-INH治療の停止は、即時AMRにつながるであろうと認識するかもしれない。しかしながら、これは、ヒトの同種移植においては、種をまたぐ感作は存在しないため、無関係である。
【0030】
本明細書記載の用語である「処置(treatment)」、「治療(treating)」、及び同様のものは、たとえば、望ましい薬理的または生理的な効果を得るための手段を意味する。当該効果は、状態、外見、病気、または症状を完全または部分的に防止することに関して予防的であってよく、ならびに/または状態及び/または状態または病気に起因する副作用からの、部分的または完全回復に関して治療的であってもよい。いずれの1つの作業理論にも限定されず、本発明の方法は、補体系の成分を阻害することで臓器移植におけるAMRを予防及び/または処置すると考えられる。
【0031】
本明細書の説明及び定義の通り、C1エステラーゼ阻害剤(C1-INH)を、単独または本明細書に同様に記載され定義される他の生理活性薬剤と組み合わせて、及び本明細書に同様に記載され定義されるさらなる処置段階と任意選択で組み合わせて、投与することで、臓器同種移植片AMRの処置及び/または予防が達成できると、前記事項より、理解されるであろう
【0032】
適合交差試験陽性臓器移植片(たとえば、事前の臓器移植適合スクリーニング(補体依存性細胞傷害性アッセイまたはフローサイトメトリー)で同定可能な循環DSAを有する患者への臓器)を提供された患者における移植生存率の改善または向上度合は、本発明に従って治療されていない患者、または本発明に従って処置する以前の同様の患者と比較できる。
【0033】
本発明の方法は、したがって、代わりに、適合交差試験陽性臓器(たとえば、腎臓)の移植を受けた患者の臓器生存率の改善または向上方法とも説明できる。
【0034】
ドナーの臓器移植後のAMRは、慢性糸球体症(CG)及び/または移植糸球体症(TG)、提供された臓器の損失、または移植片生存率の減少(または1年移植片生存率の減少)につながり得るので、本発明の方法は、したがって、代わりに、同種移植患者などにおける、慢性糸球体症(CG)及び/または移植糸球体症(TG)の治療、または予防方法、移植臓器の損失の治療または予防方法、または移植片生存率の改善(または、1年移植片生存率の向上)方法とも表現できる。
【0035】
腎臓移植の状況において、本発明の方法は、本発明に従って治療されていない患者、または本発明に従って治療される前の同じ患者と比較して、移植腎臓における腎機能の向上及び/または維持をもたらし得る。そのため、本発明の方法は、患者における移植腎臓の腎機能を向上及び/または維持する方法であると表現できる。
【0036】
本発明の方法は、補体系の成分を阻害することにより、移植臓器でのAMRを予防及び/または処置すると考えられるので、本発明の方法は、同種移植患者などにおいて、補体活性化の結果起きる組織破壊の治療及び/または予防方法とも説明できる。
【0037】
そのため、AMRの治療または予防方法、またはそのような方法において使用するためのC1-INHに対するいかなる言及も、上記方法の1つまたは複数、またはそのような方法において使用するためのC1-INHへの言及であると理解できる。
【0038】
さらに、処置に関して使用される用語である「短期間(short term duration)」は、約1~30日間有利に生じ得る薬物処置の作用期間(たとえば、投与期間)を意味する。ある特定の態様においては、短期間の処置は、約10~20日であってもよい。好ましい態様では、短期間の処置は約13日間(たとえば、11~18日、12~15日)であってもよい。
【0039】
本明細書中で処置に関して使用される用語である「早期(early)」は、(1)臓器移植、(2)標準治療(血漿交換療法及び/またはIVIg)による処置、及び/または(3)AMRの診断の1~90日以内に有利に実施、または開始できる処置のタイミングを意味する。より好ましい態様においては、当該処置は、約5~10日未満に実施または開始してもよい。当該処置は、それゆえに、(1)臓器移植、(2)標準治療(血漿交換療法及び/またはIVIg)による処置、及び/または(3)AMRの診断の約5~10日未満に実施、または開始してもよく、約10~30日にわたってもよい。
【0040】
「慢性糸球体症」または「CG」は、臓器移植患者におけるAMRの臨床マーカーであり、本明細書記載のように、糸球体硬化症、糸球体基底膜肥厚及び積層、ならびに/または進行中の糸球体の炎症などを含む、腎組織でみられる有害な症状を意味する。尿細管周囲の血管炎が存在する場合もある。本発明の方法によれば、本発明に従って治療されていない患者、または本発明に従って治療される前の同じ患者と比較して、治療を受けた患者においてCGの発症率を低下、または軽減できる。この効果は、たとえば、実施例に記載のとおり、組織学的またはEM試験などを用いて適切なサンプルの組織を観察することにより、確認できる。
【0041】
本明細書記載の用語である「移植片腎糸球体症(transplant glomerulopathy)」または「TG」は、移植環境において起こる慢性糸球体症(CG)である。TG及びCGは、本発明を説明するために互換的に使用される場合がある。
【0042】
患者は一般に臓器移植患者(移植片または同種移植片の提供を受けたことがある、または今後提供を受ける等の腎臓移植または同種移植患者など)であると理解されるであろう。当該患者は、AMRを経験している場合があり、AMRのリスクがある場合もある。当該AMRは、移植前に存在するドナー特異的抗体などの、先在するドナー特異的抗体(DSA)、またはデノボDSAの結果生じる場合がある。当該患者は、1つまたは複数の他のAMRのための治療(たとえば、免疫グロブリン静注療法(IVIg)、または血漿交換療法及びIVIgの組み合わせ、または血漿交換療法)を受けている場合があり、1つまたは複数の他のAMRのための治療を受けたことがある場合もある。当該処置は、好ましくはDSA力価を下げるための処置であり、当該抗体の標的がこれから移植される、または既に移植されているHLAの臓器である場合である。
【0043】
AMR由来のリスクがある患者には、このように、ある種のドナー特異的抗体(DSA)を有している患者が含まれる。これは一般に他の要因がドナー適合を示している場合によらず、移植に対する禁忌である。こういった患者は、「感作されている」とも説明できる。
【0044】
当該患者は、末期腎不全(ESRD)患者である場合がある。当該ESRD患者は、ドナーの細胞表面に存在するヒト白血球抗原(HLA)を標的とする先在する抗体(DSA)を有している場合がある(たとえば、感作されているESRD患者)。
【0045】
患者が感作されている場合、場合によっては脱感作するための処置を受けたことがある場合があり、本発明の処置の際は、そのような処置を受ける場合がある(たとえば、免疫グロブリン静注療法(IVIg)、または血漿交換療法とIVIgの組み合わせ、または血漿交換療法といったDSA力価低下のための処置など)。当該患者は、それゆえに、処置を受けたことがある場合もあり、免疫グロブリン静注療法(IVIg)、または血漿交換療法の組み合わせ、または血漿交換療法などのDSA力価低下処置を受ける場合もある。当該脱感作処置は、好ましくは、DSA力価をさげるための処置であり、当該抗体の標的がこれから移植される、または既に移植されている臓器のHLAである場合である。
【0046】
当該患者が、免疫グロブリン静注療法(IVIg)、または血漿交換療法の組み合わせ、または血漿交換療法などの、DSA力価低下処置を受けたことがある場合、1週前、2週前、4週前、1ヶ月前、6週前、2ヶ月前、または6ヶ月以内前、または本発明の処置の開始前等の1年以内であることが好ましい。
【0047】
C1エステラーゼ阻害剤(C1-INH)は、セリンプロテアーゼ阻害剤ファミリー(SERPINs)に属する内在性の血漿タンパク質であり、補体、接触、及び凝固経路において幅広い阻害活性を有する。C1-INHは、C1r及びC1sに結合することにより、補体系の古典的経路を阻害し、レクチン経路のマンノース結合レクチン媒介性セリンプロテアーゼを阻害する。本発明のC1-INHは、血漿由来のC1-INHであってよく、組み換えで作られたC1-INHであってもよい。また、どちらの場合においても単離されていてもかまわない。好ましくは、本発明のC1-INHは、血漿由来のC1-INHである。好ましくは、本発明のC1-INHは、ナノろ過されている。
【0048】
本明細書記載の用語である「ユニット(Units)」または「U」は、タンパク(C1-INH)物質の指標を意味し、ヒトにおける生理的レベルに基準化されている(すなわち、1U/mLの血清は、生理的である)。代わりに、別段の説明がない限り、1ユニットは、240μgのタンパク物質を示す。
【0049】
ナノろ過された血漿由来C1-INH(Cinryze(登録商標);Viropharma)は、遺伝性血管浮腫(HAE)を発症している青年及び成人患者の血管浮腫発作に対する日常的な予防についてFDAに認可されている。遺伝性血管浮腫(HAE)は、内在性C1エステラーゼ阻害剤の体質性欠乏または機能障害に特徴づけられる病気である。
【0050】
Cinryze(登録商標)は、延長試験だけでなく、無作為化試験で試験されたHAE患者の経験を通じ、ヒトにおいて忍容性が高いことで知られている。HAEのために使用された用量において、最も頻繁に報告された有害事象は、頭痛及び上咽頭炎であった。C1-INHは、単独、または組み合わせ療法または組成の一部として、古典的補体経路(たとえば、抗体媒介性疾患)及びレクチン経路(たとえば、虚血再灌流障害)の古典的補体経路などに関与する病気の理想的な治療であり、本発明において好ましい。コネスタットアルファについても示す。コネスタットアルファは、ヒトC1エステラーゼ阻害剤の組み換えアナログ(rhC1-INH)(組み換えDNA技術によりトランスジェニックウサギのミルク中につくられる)である。本明細書記載の用語である「有効量(effective amount)」は、化合物または組成物が患者に投与された場合、有益な臨床転帰を与える化合物または組成物の量を意味する。たとえば、本発明の組成物がAMR等を有する患者に投与された場合、「有益な臨床転帰(beneficial clinical outcome)」には、腎機能の向上及び/または維持、及び/または患者の同種移植片(たとえば、移植された腎臓)の寿命の延長が含まれる。本明細書記載の用語である「腎機能(renal function)」は、患者の腎臓が、身体からのクレアチニンを排泄する能力に関して定義される。したがって、例えば、腎機能の向上を示している患者であれは、一定のクレアチニンクリアランス能力(mL/分)(すなわち、ベースライン)を示すであろうし、処置中または処置後に、そのようなクレアチニンクリアランス能力または腎機能の大きさは、ベースラインから向上するであろう。少なくとも10%、20%、50%、100%の向上を含む、どのような向上も、たとえば、十分に有意であり得る。本発明に従って処置されていない患者、または本発明に従って処置される前の同じ患者とのどのような比較もできる。
【0051】
同様に有益な転帰も、CG及び/またはTGの存在または程度(CG及び/またはTGの存在または程度の減少であり、有益な転帰を伴う)を決定したりすることで評価できる。定量できる範囲においては、少なくとも10%、20%、50%、100%の減少を含むそのような減少は、たとえば、十分に有意であり得る。どのような向上も、たとえば、十分に有意であり得る。本発明に従って処置されていない患者、または本発明に従って処置される前の同じ患者とのどのような比較もできる。
【0052】
有益な臨床転帰は、どの時点においても得られ、評価または決定できる。本発明が提供する長期的治療効果の所見と同様に、有益な臨床転帰は、治療の停止後約3~6ヶ月を超えて得られ、評価または決定できる(たとえば、治療停止後約3、4、5、6ヶ月超、または治療停止後約6ヶ月または約1年)。本発明の結果として、治療の停止後約3~6ヶ月(たとえば、治療後3、4、5、6ヶ月超、または治療後約6ヶ月または1年)で当該腎臓は(i)機能の向上及び/または維持、ならびに/または(ii)CG及び/またはTGの存在及び/または程度の減少を示すことができる。本発明に従って処置されていない患者、または本発明に従って処置される前の同じ患者とのどのような比較もできる。
【0053】
本明細書中で物質を説明する際に使用される用語である「単離されている(isolated)」は、例えば、元の環境(たとえば、天然に存在するものであれば天然環境)から取り出された物質を意味する。たとえば、生きた動物中に存在する天然ポリペプチド(すなわち、タンパク質)は、単離されていないが、当該天然系において共存するいくつかまたはすべての物質から分離された同じポリペプチドは、単離されている。
【0054】
さらに、本明細書中で本発明を実施する際に使用される「ポリペプチド」または「タンパク質」は、天然のタンパク質、合成タンパク質であってもよく、または好ましくは組み換えタンパク質であってもよい。さらに、本明細書中で説明されるタンパク質は、自然に精製された産物、または化学的に合成された産物、または原核生物または真核生物宿主(たとえば、細菌、真菌、高等植物、昆虫、または哺乳細胞)由来の組み換え産物であってもよい。そのようなタンパク質は、使用される様々な宿主によって糖鎖修飾の有無があり得る。
【0055】
本発明を実施する際に使用される組み換えタンパク質であれば、当該組み換えC1-INH(rC1-INH)タンパク質は、当該技術分野において知られているとおり、C1-INHに特異的なポリヌクレオチド配列を使用して、従来の組み換えDNA技術により発現または生産できる。一般に、そのような組み換え手順は、次の段階を含む。
(1)本発明のC1-INHタンパク質をコードするポリヌクレオチドまたはそのバリアント、または当該ポリヌクレオチドを含むベクターを用いた適切な宿主細胞への遺伝子導入または形質転換、
(2)適切な培地での当該宿主細胞の培養、及び
(3)当該培地または細胞からの当該タンパク質の単離または精製。
実際には、本発明の薬剤は、当該技術領域の当業者によく知られる手順に従って別々の投与量単位として投与、または合わせて投与するために処方されてもよい。例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、20thed.、A.Genaro et al.、Lippencot、Williams & Wilkins、Baltimore、MD(2000)参照。
【0056】
本発明の方法、化合物、組成物及びキットを同時投与によって適用し、その際に別々の投与形態が使用された場合、当該C1-INH及び生物学的活性剤を同時、またはずれた時間に別々、たとえば、逐次的に投与してもよい。本発明の組成物、製剤及びキットは、本明細書で説明されるとおり、同時または逐次使用のためのC1-INH及び別の生物学的活性剤を含んでいてもよい。
【0057】
同時投与は、2つ以上の本発明の薬剤、組成物または成分(たとえば、本発明の組成物及びキットの成分)を、同時及び/または互いに12時間以内、6時間以内、3時間以内、2時間以内、または互いに1時間以内、典型的には医療施設への同じ受診時での投与を含んでいてもよい。逐次投与は、互いに1ヶ月以内、2週間以内(たとえば14±2日以内)、1週間以内、3日以内、2日以内、または24時間以内における、本発明の2つ以上の薬剤、組成物、または成分(たとえば、本発明の組成物及びキットの成分)の投与を含んでいてもよい。
【0058】
患者への本発明の組成物の適した導入法には、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、眼内、硬膜外、及び口腔経路が含まれるが、限定されない。さらに、本発明の組成物の投与は、上皮または皮膚粘膜層(たとえば、口腔粘膜、直腸、及び腸管粘膜等)経由の吸収による、注入またはボーラス投与による投与であってもよい。さらに投与は、全身的または局所的であってもよい。投与は、急性または慢性(例えば、毎日、毎週、毎月等)であってもよい。たとえば、静脈内経路が例示され、好ましい。経口的な投与ユニットは、タブレット、カプセル、糖衣錠、錠剤、半固形、ソフトまたはハードゼラチンカプセル、水溶または油状溶液、エマルジョン、懸濁液またはシロップの形態であってもよい。非経口投与のための投与形態の実施例には、注射用の溶液または懸濁液、坐薬、微結晶またはエアゾールスプレイといった粉末製剤が含まれる。組成物は、従来の経皮送達システムに組み込まれていてもよい。
【0059】
本発明の方法は、C1-INHを含む化合物の投与を意味する。そのような化合物は、たとえば、医薬組成物といった組成物中に含まれていてもよい。
【0060】
本明細書中の方法において、本発明の組成物は、たとえば、1日あたり、または好ましくは、処置の日のたびに、体重kgあたり(U/kg)約10ユニット(U)~約250U/kgの範囲の組成物または化合物の投与量で投与されてもよい。1日あたり、または好ましくは、処置の日のたびに約25~150U/kgの投与量、及び好ましくは50~125U/kgの投与量が望ましい結果を得るために効果的である。実施例として、適切なIV投与量となれば、1日目における約100U/kgの最初の静脈内注入を含み、その後、約50U/kg、たとえば3日目に50U/kg(及び任意選択で約50U/kg、たとえば、逐次処置において50U/kg、たとえば、10~30、たとえば10~20日にわたって、または好ましくは13日間にわたって(たとえば約11~18、12~15日間))の投与が続くであろう。本発明の方法で使用される化合物は、上記投与レジメンを実施できるよう、典型的には1日または1日おきに1~4回投与してもよい。
【0061】
さらに、本発明の組成物の投与量は、処置過程にわたって均等または非均等に分割された化合物または組成物の量として表現してもよい。たとえば、処置過程は、約1~30日間(たとえば、10~20日間、または好ましくは、13日間(たとえば約11~18、12~15日間)にわたってもよく、約1,000~25,000ユニット(U)の組成物が、分割された投与量で、処置の過程にわたって投与されてもよい。ある特定の態様においては、約5,000~20,000ユニットの組成物が、IVによって、分割された投与量で、10~20日間、または好ましくは、13日間にわたって投与されてもよい(または、10~20日間、または好ましくは、13日間(たとえば約11~18、12~15日間)にわたって約6,000~25,000U、8,000~22,000U、10,000~20,000U、12,000~18,000U、14,000~16,000U、20,000U)。13日間にわたる20,000Uの投与は有効であることが示されている。
【0062】
実施形態によっては、当該組成物の投与量は、正常値の少なくとも100%を超える化合物または組成物を得るのに十分な化合物または組成物の量と定義され、たとえば投与後1時間で決定される。別の実施形態によっては、正常値の少なくとも100%を超えるレベルは、処置の過程にわたって、たとえば約1~30日間(たとえば、10~20日、または好ましくは、13日間(たとえば、約11~18、12~15日間))にわたって維持される。
【0063】
しかしながら、本明細書記載の化合物のための正確なレジメンは、処置を受ける個々の対象者の必要性、施される処置の種類及び参加する専門医の判断に基づく必要があるだろう。本明細書記載の用語である、「被験者(subject)」及び「患者(patient)」という用語には、ヒトも動物も含まれる。当該技術分野の当業者であれば理解されるように、実際の投与量は、レシピエントの処置を受けている症状、年齢、健康及び体重、併用処置の種類、もしある場合、及び処置の頻度に基づくであろう。さらに、有効な投与量は、当該技術分野の当業者により当該化合物の生理活性を測定する日常経験的な活性試験に基づき決定でき、したがって適切な投与のための用量を確立できる。
【0064】
さらに、本発明の方法においては、組成物は、血漿交換療法及び/またはIVIgに対する補助剤として投与されてもよい。たとえば、本発明の方法例においては、C1-INH(たとえば、Cinryze(登録商標))を含む組成物は、分割した投与量で供給される20,000ユニット(それぞれは約100U/kg以下)として、10~20日間にわたり、血漿交換療法及び/またはIVIgに対する補助剤として患者に投与されてもよい。そのような処置は、治療の停止後3~6ヶ月における慢性的なAMRの率を下げることができる。
【0065】
ある特定の状況では、本発明の実施において使用される化合物(たとえば、C1-INH)は、医薬的に許容可能なキャリア媒体を含む医薬組成物として提供されてもよい。たとえば、本発明は、臓器同種移植片を必要とする患者の臓器同種移植片の抗体媒介性拒絶反応(AMR)の進行を治療または遅延させるための医薬組成物を含み、当該医薬組成物は、C1-エステラーゼ阻害剤(C1-INH)、ならびに抗リンパ球製剤、リツキシマブ、ボルテゾミブ、エクリズマブ、免疫グロブリン(Ig)、またはそれらの組み合わせなどの付加的な生物学的活性剤、ならびに医薬的に許容可能なキャリア媒体を含む。
【0066】
本明細書記載の表現である「医薬的に許容可能なキャリア媒体」には、必要とされる特定投与形態に合うように、あらゆるすべての溶媒、希釈液、または他の液体溶媒、分散または懸濁助剤、表面剤、等張剤、増粘または乳化剤、保存料、固形バインダー、滑沢剤、充填剤、及び同様のものが含まれる。Remington:The Science and Practice of Pharmacy、20th edition、A.R.Genaro et al.、Part 5、Pharmaceutical Manufacturing、pp.669-1015(Lippincott Williams & Wilkins、Baltimore、MD/Philadelphia、PA)(2000))は、医薬組成物の製剤化に使用する様々なキャリア及びその調製のための公知の技術を公開している。いかなる従来の医薬キャリア媒体も、望ましくない生理効果を起こしたり、活性剤を含む製剤の他のいずれかの成分と有害な様式で相互作用したりすることで本明細書記載の組成物と適合しない場合を除き、その使用は、本発明の範囲内であると想定される。
【0067】
より詳細には、固形投与形態の製造において、当該医療用組成物は、ラクトース、スクロース、グルコース、ゼラチン、麦芽、シリカゲル、デンプンまたはその誘導体、タルク、ステアリン酸またはその塩、乾燥脱脂乳、野菜、石油、動物または合成油、ワックス、脂肪、ポリオール、及び同様のものといった製薬上不活性な無機または有機賦形剤と混合してもよい。液状溶液、エマルジョン状態または懸濁液状態またはシロップ状態のものであれば、水、アルコール、生理食塩水、水溶性デキストロース、ポリオール、グリセリン、脂質、リン脂質、サイクロデキストリン、野菜、石油、動物または合成油といった添加剤を使用してもよい。坐薬であれば、野菜、石油、動物または植物油、ワックス、脂肪、及びポリオールといった添加剤を含んでいてもよい。エアゾール製剤であれば、酸素、窒素、二酸化炭素といった用途に合った圧縮ガスを含んでいてもよい。当該医薬組成物または製剤は、これらに限定されないが、保存料、たとえばUV安定剤といった安定剤、乳化剤、甘味料、浸透圧を調整するための塩、緩衝剤、コーティング剤、及び抗酸化剤を含む1つまたは複数の添加物を含んでいてもよい。
【0068】
本発明は、さらに当該医薬組成物のための制御放出、持続放出、または長期放出治療用投与形態も提供し、当該組成物は送達システムに組み込まれている。この投与形態は、治療結果を改善及び/または副作用を最小化するために、血中残存濃度が相対的に一定であり、長時間にわたって当該活性剤の血流中有効濃度が維持可能なように、当該活性剤の放出を制御する。さらに、制御放出システムであれば、本発明の活性剤の血漿レベルにおける変動を通じたピークを最小化するであろう。
【0069】
さらに、さまざまな送達システムが知られており、C1-INH、または生物学的活性剤及びC1-INHの組み合わせを含む組成物を投与するために使用できる。当該生物学的活性剤は、たとえば、免疫グロブリン(Ig)、リツキシマブ、ボルテゾミブ及び/またはエクリズマブなどである。さらに、そのような組成物は、たとえば、リポソーム、微粒子、及びマイクロカプセルなどに、被包されていてもよい。
【0070】
本発明の方法は、通常、本明細書記載の化合物及び/または組成物で処置されている最中の患者にもたらされた治療または予防効果を決定するための経過観察を含む。
【0071】
以下の実施例で説明されている実験の結果は、市販の血漿由来C1-INHが、AMRを発症している患者における臓器移植拒絶が処置または予防可能であることを示す。当該実施例は、例示のみが目的であり、何ら本発明を限定しようとするものではない。
【実施例0072】
プラセボ対照無作為化二重盲検パイロット試験は、ドナーの腎臓移植片に感作されているレシピエントにおける急性抗体媒介性拒絶反応の処置のためのCinryze(登録商標)(C1-エステラーゼ阻害剤(ヒト))の安全性と効果を評価するために実施された。本試験の目的は、(a)急性抗体媒介性拒絶反応(AMR)を有する腎臓移植患者におけるCinryze(登録商標)の安全性及び忍容性を評価すること、(b)腎臓移植患者における急性AMRの処置のためのCinryze(登録商標)の効果を評価すること、及び(c)急性AMRを有する腎臓移植患者におけるCinryze(登録商標)の薬物動態及び薬力学を調べることであった。
【0073】
本試験では、処置の中断、死亡、及び試験薬に関係する重篤な有害事象のいずれも発生しなかった。
【0074】
Cinryze(登録商標)は、500U(C1-INH)/バイアルの凍結乾燥粉末として供給された。Cinryze(登録商標)製品と市販用に承認された注入用滅菌水が利用された。Cinryze(登録商標)のそれぞれのバイアルは、注入用滅菌水で再構成された。プラセボは、注入用の0.9%塩化ナトリウムで構成された。
【0075】
投与
被験者は、合計7回分の用量の試験薬(Cinryze(登録商標)またはプラセボ)を2週間の期間にわたって投与された(
図2)。5000UのCinryze(登録商標)(100U/kg以下)またはプラセボの最初の静脈内(IV)注入を1日目に実施し、その後、3、5、7、9、11、及び13日目に2500UのCinryze(登録商標)(50U/kg以下)またはプラセボIVを実施した。血漿交換療法の実施が試験薬投与と同じ日であった場合は、試験薬は、血漿交換療法の時間が終了後に投与された。
【0076】
試験デザイン
当該試験では、ドナーのHLAに感作されている腎臓移植レシピエントの急性AMRの処置におけるCinryze(登録商標)の安全性と効果を評価した(
図2)。当該試験では、ばらつきを最小化するために、限られた施設のみで実施した。当該試験実施施設は、必要であれば、積極的にDSA陽性の脱感作及び急性AMRの処置を実施するために、血漿交換療法及び/または免疫グロブリン静注療法(IVIg)が実施可能な施設のみとした。当該試験の被験者は、移植後に適切な機能を示した腎臓移植片を有し、最も新しい腎臓同種移植片の移植前または後に同定された同時発生的なDSAを有すると共に生検により明らかになったAMRの最初の(「認定(qualifying)」)発現を経験した。
【0077】
図2に示したとおり、移植後評価は、20及び90日目に実施された。当該試験の終了は、最後の被験者が90日目の評価を終えた日と定義された。補体及びC1-INHレベルは、最大20日目までの特定の時点でPK/PD決定のために評価された。また、25日目に任意選択のPK/PDサンプリング時点も加えられた。さらに、処置後6ヶ月時点で、臨床転帰を決定するために、1つの移植施設にて同様に処置され、等しく無作為化された14名の被験者(n=7 プラセボ、n=7 Cinryze)からさらなる評価が提供された。
【0078】
試験薬投与
利用可能な前臨床及び臨床データに基づけば、抗原-抗体複合体により活性化される補体経路の阻害に十分なC1-INHの生理学的レベルは、少なくとも正常値の100%超である。健康な被験者に対して2000UのCinryze(登録商標)をIV投与した後の機能性C1-INH活性のベースラインからの平均変化は、約50~60%であった。血漿1mlに1UのC1-INH活性が存在することを考えれば、急性AMR患者においてC1-INHの機能的な活性を少なくとも100%上昇させるには、平均的な成人で約5000Uの用量が必要かもしれない。HAE患者におけるCinryze(登録商標)の半減期が約60時間であることを考えると、引き続き1日おきに用量2500Uで投与すれば、全投与期間にわたって適切な機能性C1-INHレベルを維持できるかもしれない。それゆえに、本試験において、Cinryze(登録商標)グループに無作為化された被験者は、用量5000U(100U/kg以下)の投与を受け、その後に合計7回分の用量のために1日おきに2500U(50U/kg以下)の投与を受けることになる。このレジメンは、他のC1-INH化合物を用いて200U/kg以上の用量で実施された前臨床または臨床試験で観察された凝固リスクの可能性を最小化する一方で、抗原-抗体複合体によって誘発される補体活性化の阻害が有する明らかな用量依存的性質のバランスを保つ。
【0079】
上記の合計7回分の用量のCinryze(登録商標)またはプラセボ(0.9%注入用塩化ナトリウム溶液)は次のように投与された。(a)1日目に最初の用量である5000UのCinryze(登録商標)(100U/kg以下)またはプラセボを1回のIV注入で投与。その後、(b)1日おきに2週間(3、5、7、9、11及び13日目)、2500UのCinryze(登録商標)(50U/kg以下)またはプラセボをIV注入。それぞれの用量の試験薬は、忍容されるように1分間に約1mL(100UのCinryze(登録商標)に相当)の速度でIV投与されることとなっていた。それゆえに、1日目の5000U(50mL)の注入時間は、約50分であり、3、5、7、9、11及び13日目の2500U(25mL)の注入時間は、約25分となることとなっていた。それぞれの試験薬投与の「開始(start)」及び「終了(stop)」時間、ならびに投与日が記録されることとなっていた。
【0080】
血漿交換、新鮮凍結血漿、及びIVIg 血漿交換療法は、AMR発現の認定のために実施されることとなっていた。血漿交換のスケジュールとは関係なく、試験薬は1、3、5、7、9、11、及び13日目に投与されることとなっていた。さらに、
図3に示されるように、ある特定の患者は、必要に応じて、血漿交換療法、新鮮凍結血漿(FFP)、血液の形態での血漿交換、及び/またはIVIg(たとえば、cytogam、gamunex等)を含む、標準治療を受けた。
【0081】
薬物動態学/薬力学
本試験においては、Cinryze(登録商標)の薬物動態学及び薬力学的解析は、プラセボに対して実施された。薬物動態学に関しては、それぞれの被験者のC1-INH抗原及び機能性レベルが決定された。一次PKパラメータは、最終投与(13日目)の後のベースライン補正された濃度対時間のデータ及び非区画法を用いて適切に計算された。処置の時間経過の全体にわたってC1-INHまたはプラセボを投与されていた患者におけるC1-INH機能のレベルが分析された(
図4A)。予想通り、3、5、7、9、11、及び13日目においてC1-INH(Cinryze(登録商標))の投与を受けていた患者における、ベースラインレベルが補正されたC1-INH機能のコホート平均量は、より高かった。さらに、ベースライン補正されたC1-INH機能の平均血漿中濃度の違いは、より短い経過時間にわたって濃度が測定された13日目において明らかである(
図4B)。このように、Cinryze(登録商標)及び血漿交換療法(及び/またはIVIg)で処置された患者において、プラセボ(すなわち、血漿交換療法(及び/またはIVIg)単独)と比較した場合、C1-INH機能(すなわち、古典的補体経路の活性化を阻害するタンパク分解酵素)の濃度はより高かった。
【0082】
薬力学的分析に関して、それぞれの被験者の補体C1q、C4、及びC4aレベルが評価された。C1-INH機能及び抗原、ならびに補体C1q、C4、及びC4aの血漿濃度を決定するための血液サンプルが回収された(表1)。血漿交換療法が投与日に実施される場合は、PK/PD試験のための血液サンプルは、血漿交換療法の前、試験薬投与の前(すなわち、血漿交換療法後)、及び試験薬注入開始に対する時点で得た。
【表1】
【0083】
表1では、Cinryze(登録商標)患者において、C1-INH機能は上昇し、古典的補体経路が阻害されていることが示されており、それぞれのコホートにおいて、試験薬治療の全体的な効果を示すために平均値の計算においてベースラインレベルは差し引かれている。プラセボと比較し、Cinryze(登録商標)患者は、血漿中のC1-INH抗原及び機能の両方のレベルで上昇(ベースラインの初期レベルより上)を示しており、投与試験を開始する前のレベルを超えて活性及び全C1-INHの濃度がより高いことを示している。当該C1-INH抗原の報告レベルは、タンパク質の重量濃度での測定に基づき、換算係数0.067U/mL=1mg/1dLを使用してU/mlへと変換した値である(特に示されない限り)。実際、Cinryze(登録商標)治療終了時点における未調整範囲(ベースラインレベルが差し引かれなかった範囲)のC1-INH機能は、1.59~2.02U/mLであった。しかしながら、これは、プラセボ処置された患者の未調整範囲と統計的な違いはなかった。それにもかかわらず、C1-INHのベースラインの初期レベルより上のC1-INHについて調べた場合、注目すべきコホート差異が存在した。
【0084】
Cinryze(登録商標)患者は、流体相において補体系の全身性阻害の証拠を示した。Cinryze(登録商標)で処置された患者は、C1q及びC4の血漿濃度(ベースラインの初期レベルを補正)の上昇を示した。C1q及びC4は、古典的補体経路のタンパク質であり、古典的補体系が阻害されていなければ、血漿中濃度が減少する。しかしながら、C1q及びC4の濃度は上昇したため、これは、あるレベルでの全身性阻害を示している。
【0085】
最終的に、古典的補体経路の阻害は、プラセボと比較した際の血漿C4a濃度の減少により確認される。通常、補体系の活性化でC4は、C4aへと変換され、それによりC4の血漿濃度は下がる。今回の分析は、付加的な外来性のC1-INH(Cinryze(登録商標))で処置された患者で、明らかに全身性補体系の阻害をもたらすC1-INH機能性タンパク質が増加していたことを示している。C1-INH処置の生理学的効果を調べるにおいて、
図5は、13日の時間経過にわたって血漿交換療法(及び/またはIVIg)との組み合わせでCinryze(登録商標)またはプラセボ処置された患者のコホート間の、平均腎機能(すなわち、クレアチニンクリアランス)における違いを示す。
【0086】
慢性糸球体症(CG)は、移植患者におけるAMRの臨床マーカーである。
図6Aは、6ヶ月時点での正常腎臓組織を示す。
図6Bは、進行中のAMRの結果起きたCGを示す。プラセボで処置された患者7名の内3名がCGを示した。一方、Cinryze(登録商標)で治療された患者では、7名中1名のみがCGを示した。これらの組織検査は、得られた腎臓組織の電子顕微鏡(EM)検査を用いて確認された(
図7)。
図7Aは正常腎臓組織のEM像を示し、
図7Bは、CGを有する腎臓組織の電子顕微鏡像を示す。そのような電子顕微鏡像を検査することで、標準治療(血漿交換療法及び/またはIVIg)の補助薬としてプラセボで処置されていた患者は、7名中3名がCGと一致する病理を示し、一方で、標準治療に対する補助薬としてCinryze(登録商標)で処置されていた患者は、7名中1名がCGに一致する病理を示したことが特定された。
【0087】
さらに、プラセボまたはCinryze(登録商標)で治療されていた患者における13日目のC1-INH抗原レベル及び機能性C1-INHレベルは、当該患者の6ヶ月時点での臨床転帰と相関していた。ベースラインが調整(すなわち、補正)、及び未調整の13日目におけるC1-INH抗原及び機能性C1-INHのレベルが最初に測定された(
図8)。この測定から得られたデータを、6ヶ月時点の同じ患者の臨床転帰に相関付け、図にした(
図9A~9H)。
図9A及び9Bに示されるように、プラセボで治療されていた患者(
図9A)と比較し、Cinryze(登録商標)で治療を受けた患者(
図9B)のCGの発症率は減少しており、Cinryze(登録商標)患者が14%のCGを示したのに対し、プラセボを提供されていた患者は43%のCGを示した。
【0088】
処置後6ヶ月時点において、13日目でベースラインの初期レベルより上で、低いC1-INH抗原性レベルを示した患者は、CGも存在することも示された。このように、ベースライン補正されたC1-INH抗原と腎臓組織におけるCGの存在には、相関がみられた。
【0089】
さらに、血清C1-INHの抗原性及び機能性レベルは、
図10A及び10Bに示されるように、血漿交換療法により、減少した。たとえば、
図10に示されるとおり、血漿交換療法は、C1-INHの抗原性及び機能性の両方の平均レベルそれぞれ17.6%(
図10A)及び43.3.%(
図10B)減少させた。
【0090】
本発明は、移植患者におけるAMRを治療及び/または予防するために、治療及び/または標準治療(すなわち、血漿交換療法及びIVIgであり、これらの両方がドナー特異的抗体に対処する)に対する付加治療として、C1-INH(たとえば、Cinryze(登録商標))を、使用する方法を含む。本発明の予期せぬ態様は、移植患者における早期及び/または短期間のC1-INHによる処置は、C1-INH投与処置が終了した後でのより長い利益をもたらすことである。
【0091】
さらに、当該投与レジメンは予期せぬ利益をもたらした。腎臓移植患者が、全身または同種移植片内において効果的に補体の活性化を減少させるのに十分な、C1-INH機能タンパク質のレベルを達成できるかどうかは、現在知られていない。実際に、13日間にわたる分割用量投与での20,000ユニット用量が選択された。この用量は、臨床的にだけでなく、血清中のベースラインより上で、C1-INHの機能性レベルを上昇させるのにも十分であった。
【0092】
したがって、本試験では、腎臓移植患者は、20,000ユニットのCinryze(登録商標)で13日間にわたって処置され、(a)投与レジメンは、当該腎臓移植患者によってよく忍容され、(b)そのような患者は、Cinryze(登録商標)処置の結果として、超生理的レベルのC1-INHを維持し、(c)そのような患者は、腎臓機能において、早期改善を示し、そして(d)そのような患者は、6ヶ月時点においてプラセボに対して糸球体症が抑制されていた。それゆえに、試験された治療法は、関連分野で現在行われている処置と比較して、AMRに対する長期的な治療効果を提供した。
【0093】
本発明のある特定の実施形態が上で説明及び/または例示されているが、上記開示から当該技術分野の当業者には、さまざまな他の実施形態が明らかであろう。本発明は、したがって、特定の説明及び/または例示された実施形態に限定されないが、添付の特許請求の範囲と趣旨から逸脱することなく、多くの変形形態や修正形態が可能である。
【0094】
さらに、移行語である「含む(comprising)」、「から実質的になる(consisting essentially of)」、及び「からなる(consisting of)」が、そのまま、または改めた形で添付の特許請求で使用されるとき、何の記載されていない付加請求要素または手順が、存在する場合、請求の範囲から除外されるかに関して請求範囲を定義する。「含む(comprising)」という用語は、包括的または非制限が意図され、いかなる付加的、未記載の要素、方法、手順または材料を排除するものではない。「からなる(consisting of)」という用語は、当該請求において特定されるもの以外のいかなる要素、手順または材料も排除する。材料の場合は、通常特定の材料に関連する不純物を排除する。「から実質的になる(consisting essentially of)」という用語は、請求の範囲を特定の要素、手順または材料及び請求される発明の基礎的及び新規的性質に実質的に影響しないものに限定する。本明細書に記載され、本発明を具体化する、すべての組成物及び方法は、別の実施形態で、移行語である「含む(comprising)」、「から実質的になる(consisting essentially of)」、及び「からなる(consisting of)」のいずれかで、より具体的に定義されることができる。