(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022179954
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】水硬性材料
(51)【国際特許分類】
C04B 28/08 20060101AFI20221129BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20221129BHJP
C04B 22/12 20060101ALI20221129BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20221129BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20221129BHJP
C04B 7/153 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
C04B28/08
C04B22/08 B
C04B22/12
C04B22/10
C04B22/14 A
C04B7/153
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086794
(22)【出願日】2021-05-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年4月30日 「第75回セメント技術大会講演要旨」 一般社団法人セメント協会において公開
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】門田 浩史
(72)【発明者】
【氏名】下坂 建一
(72)【発明者】
【氏名】中川 昭人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 友香
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB06
4G112MB08
4G112MB12
4G112PB07
4G112PB08
4G112PB09
4G112PB10
(57)【要約】
【課題】ポルトランドセメントの使用比率を減らして高炉スラグ粉末を使用しても、高い初期強度を有するモルタル及びコンクリートを製造可能な水硬性材料を提供する。
【解決手段】水硬性材料は、ポルトランドセメント、高炉スラグ粉末及び刺激剤を含んでいる。上記水硬性材料における上記高炉スラグ粉末の含有率は60%を超えている。上記刺激剤は、亜硝酸カルシウム、塩化カルシウム、炭酸マグネシウム及び塩化マグネシウムのうちの1つ以上を含んでいる。上記刺激剤は、亜硝酸カルシウム、塩化カルシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム及びチオ硫酸ナトリウムのうちの2つ以上を含んでいてもよい。上記水硬性材料に含まれる塩化物のモル数は、上記水硬性材料に含まれる酸化アルミニウムのモル数の2倍よりも小さいことが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメント、高炉スラグ粉末及び刺激剤を含む水硬性材料であって、
前記水硬性材料における前記高炉スラグ粉末の含有率が60%を超えており、
前記刺激剤は、亜硝酸カルシウム、塩化カルシウム、炭酸マグネシウム及び塩化マグネシウムのうちの1つ以上を含むことを特徴とする水硬性材料。
【請求項2】
前記刺激剤は、亜硝酸カルシウム、塩化カルシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム及びチオ硫酸ナトリウムのうちの2つ以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の水硬性材料。
【請求項3】
前記水硬性材料に含まれる塩化物のモル数は、前記水硬性材料に含まれる酸化アルミニウムのモル数の2倍よりも小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載の水硬性材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モルタル及びコンクリートの材料として使用可能な水硬性材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モルタル及びコンクリートの材料としては主にポルトランドセメントが使用されている。ポルトランドセメントを製造するためにはセメント焼成工程が必要である。そして、セメント焼成工程からは多量の二酸化炭素が排出される。このため、二酸化炭素排出量削減の観点から、モルタル及びコンクリートの材料としてのポルトランドセメントの使用比率を減らすことが好ましい。
【0003】
そこで、モルタル及びコンクリートの材料として、ポルトランドセメントの使用比率を減らし、下記特許文献1に記載のように高炉スラグ粉末、珪酸ナトリウム及び硫酸アルミニウムを使用することが考えられる。しかし、そのようにすると、高炉スラグ粉末を使用せずにポルトランドセメントを使用してモルタル及びコンクリートを製造する場合に比較して、蒸気養生などの高温養生をせずに製造されるモルタル及びコンクリートの初期強度が低下してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明者は、この点に関して種々の研究を進めた結果、高炉スラグ粉末と共に所定の刺激剤を使用することにより、常温である室温20℃の環境下の養生においても高い初期強度を有するモルタル及びコンクリートを製造できるという知見を得た。本発明は、この知見に基づいてなされたものであり、ポルトランドセメントの使用比率を減らして高炉スラグ粉末を使用しても、高い初期強度を有するモルタル及びコンクリートを製造可能な水硬性材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一項目に係る水硬性材料は、ポルトランドセメント、高炉スラグ粉末及び刺激剤を含んでいる。前記水硬性材料における前記高炉スラグ粉末の含有率は60%を超えている。前記刺激剤は、亜硝酸カルシウム、塩化カルシウム、炭酸マグネシウム及び塩化マグネシウムのうちの1つ以上を含んでいる。
【0007】
また、前記刺激剤は、亜硝酸カルシウム、塩化カルシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム及びチオ硫酸ナトリウムのうちの2つ以上を含んでいてもよい。
【0008】
本発明の第一項目によれば、温度20℃の環境下の養生において、刺激剤を含まずにポルトランドセメント及び高炉スラグ粉末からなる水硬性材料に比較して、高い初期強度を有するモルタル及びコンクリートを製造することができる。また、上記第一項目によれば、水硬性材料における高炉スラグ粉末の含有率が60%を超えているため、その分だけポルトランドセメントの含有率が低くなって水硬性材料の製造工程からの二酸化炭素排出量を少なくすることができる。
【0009】
本発明の第二項目に係る水硬性材料においては、前記水硬性材料に含まれる塩化物のモル数が前記水硬性材料に含まれる酸化アルミニウムのモル数の2倍よりも小さいものとされている。
【0010】
本発明の第二項目によれば、水硬性材料と骨材と水との練り混ぜ時において、この水硬性材料に含まれる塩化物イオンの多くを酸化アルミニウムと反応させることができる。このため、この練り混ぜにより製造されるモルタル及びコンクリートに、難溶性の錯塩(例えばフリーデル氏塩、3CaO・Al2O3・CaCl2・10H2O)を生成することができる。これによって、鉄筋の腐食に悪影響を及ぼすモルタルやコンクリートに含まれる可溶性の塩化物イオンの量を少なくすることができる。そうすることでモルタル及びコンクリートに設置される鉄筋の腐食を抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、高炉スラグ粉末を含んでいる水硬性材料を使用して、高い初期強度を有するモルタル及びコンクリートを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係る水硬性材料について説明する。本実施形態に係る水硬性材料は、この水硬性材料と骨材と水とを練り混ぜてモルタル又はコンクリートを製造するためのものである。この水硬性材料は、ポルトランドセメントと高炉スラグ粉末と刺激剤とを含んでいる。この水硬性材料における高炉スラグ粉末の含有率は60%を超えている。この水硬性材料における刺激剤の含有率は1.5%以上6.5%以下であることが好ましい。
【0013】
この刺激剤としては、亜硝酸カルシウム、塩化カルシウム、炭酸マグネシウム及び塩化マグネシウムのうちの1つ以上を使用する。また、この刺激剤として、上述した4つの化合物それぞれとチオ硫酸ナトリウムとのうちの2つ以上を使用することもできる。
【0014】
上記モルタル又はコンクリートに設置される鉄筋の腐食を防止するためには、上記水硬性材料に含まれる塩化物のモル数が上記水硬性材料に含まれる酸化アルミニウムのモル数の2倍よりも小さいことが好ましい。
【0015】
次に、本発明の一実施形態に係る水硬性材料の実施例A1~A4、B1~B6及びその比較例A1~A5について説明する。全ての実施例及び比較例においては、水硬性材料450gと細骨材1350gと水225gとをJIS R 5201「セメント物理試験方法」に準じてホバートミキサーにより練り混ぜて混練物を作製した。
【0016】
そして、全ての実施例及び比較例において、上記混練物を内寸法4×4×16cmの鋼製型枠を用いて成形し、温度20℃、相対湿度60%の室内で24時間静置した。その後、成形した上記混練物を脱型して材齢3日又は材齢7日まで20℃の室内で封かん養生した。これによりモルタルを得た。そして、このモルタルの圧縮強さをJIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準じて測定した。
【0017】
なお、比較例A1、実施例A1、実施例A4及び実施例B4においては、上述した水硬性材料450gと細骨材1350gと水225gとの練り混ぜ開始から0分経過後、15分経過後及び30分経過後それぞれにおいて、上記混練物のフロー値をフロー試験により測定した。フロー試験は、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準じて行った。上記15分経過後及び30分経過後におけるフロー値の測定については、上記フロー試験を行う前に上記混練物をさじで15秒間練り混ぜてから行った。
【0018】
そして、実施例A1、A4及びB4においては、上述した0分経過後、15分経過後及び30分経過後それぞれについてのフロー値比を算出した。このフロー値比とは、上述した練り混ぜ開始から所定時間経過後における、比較例A1のフロー値に対する実施例A1、A4又はB4のフロー値の百分率である。
【0019】
表1は、全ての実施例及び比較例における上記水硬性材料の組成を示している。表1に示すように、比較例A1においては、上記水硬性材料として、高炉セメント52.6%と高炉スラグ粉末追加分47.4%とを混合したものを使用した。それ以外の比較例及び全実施例においては、上記水硬性材料として、上記高炉セメント50%と上記高炉スラグ粉末追加分45%と刺激剤5%との混合物を使用した。なお、上記高炉セメントとは、ポルトランドセメントと高炉スラグ粉末との混合物である。表1において、高炉スラグ粉末合計含有率とは、上記水硬性材料における、上記高炉セメントに含まれる上記高炉スラグ粉末と上記高炉スラグ粉末追加分との合計含有率である。全ての実施例及び比較例における上記水硬性材料は、これら水硬性材料における上記高炉スラグ粉末合計含有率が60%を超えているため、高炉セメントC種に相当する。
【0020】
【0021】
また、全ての実施例及び比較例において使用した上記高炉セメントと上記高炉スラグ粉末追加分との化学組成を表2に示した。
【0022】
【0023】
表3は、比較例A1~A5及び実施例A1~A4における上記刺激剤の種類、3日強度及び7日強度の関係を示している。表3において、「3日強度」の項目は、上記モルタルの材齢が3日である時点における上記モルタルの圧縮強さを示している。「7日強度」の項目は、上記モルタルの材齢が7日である時点における上記モルタルの圧縮強さを示している。なお、上述したように比較例A1においては刺激剤を使用していないため、表3において比較例A1の「刺激剤の種類」の項目には「無添加」と表記した。
【0024】
【0025】
表3に示すように、実施例A1~A4においては、上記刺激剤を使用したことにより、3日強度及び7日強度が比較例A1よりも大きくなった。一方、比較例A2~A5においては、上記刺激剤を使用したことにより、7日強度が比較例A1よりも小さくなった。また、比較例A3~A5においては、上記刺激剤を使用したことにより、3日強度までもが比較例A1よりも小さくなった。
【0026】
表4は、比較例A1及び実施例B1~B6における上記刺激剤の種類、3日強度及び7日強度の関係を示している。表4に示す3日強度及び7日強度の定義は、表3に示す3日強度及び7日強度の定義とそれぞれ同一である。実施例B1~B6は、上記刺激剤として表4に示す2種類の化合物を2.5%ずつ使用した点において比較例A2~A5及び実施例A1~A4と異なっている。
【0027】
【0028】
表4に示すように、実施例B1~B6においては、上記刺激剤を使用したことにより、3日強度及び7日強度が比較例A1よりも大きくなった。
【0029】
表5は、実施例A1、A4及びB4について、上記練り混ぜ開始から0分経過後、15分経過後及び30分経過後における上記フロー値比を示している。表5に示すように、実施例A1、A4及びB4において、上記練り混ぜ開始から0分経過後、15分経過後及び30分経過後のいずれにおいても、上記フロー値比は100%を超えた、すなわち、比較例A1におけるフロー値を上回った。
【0030】
【0031】
以上により、表3に示す実施例A1~A4及び比較例A1~A5から次の結論を導出することができる。ポルトランドセメント、高炉スラグ粉末及び刺激剤を含む水硬性材料において、この水硬性材料における高炉スラグ粉末の含有率が60%を超えており、この刺激剤として亜硝酸カルシウム、塩化カルシウム、炭酸マグネシウム及び塩化マグネシウムのうちの1つ以上が含まれていると、この水硬性材料に刺激剤が含まれない場合に比較して、高い初期強度を有するモルタルを製造することができる。
【0032】
また、表4に示す実施例B1~B6及び比較例A1から次の結論を導出することができる。この水硬性材料において、この刺激剤として上述した亜硝酸カルシウム、塩化カルシウム、炭酸マグネシウム及び塩化マグネシウムとチオ硫酸ナトリウムとのうちの2つ以上が含まれていても、この水硬性材料に刺激剤が含まれない場合に比較して、高い初期強度を有するモルタルを製造することができる。
【0033】
さらに、表5に示す実施例A1、A4及びB4から次の結論を導出することができる。この水硬性材料において、この刺激剤として亜硝酸カルシウムもしくは塩化マグネシウムまたは亜硝酸カルシウムと塩化マグネシウムとの混合物が含まれていると、この水硬性材料に刺激剤が含まれない場合に比較して、高い流動性を有するモルタルを製造することができる。
【0034】
表6は、実施例A4における上記水硬性材料に含まれる酸化アルミニウムと塩化物のモル数を示している。表6に示すように、実施例A4においては、上記水硬性材料に含まれる塩化物のモル数が上記水硬性材料に含まれる酸化アルミニウムのモル数の2倍よりも小さくなっている。このため、実施例A4においては、上記水硬性材料と上記細骨材と上記水との練り混ぜにより、上記水硬性材料に含まれる塩化物の多くが酸化アルミニウムと反応したと考えられる。これにより、実施例A4においては、上記モルタルにおける可溶性の塩化物イオン量が少なく、上記モルタルに設置される鉄筋の腐食を抑制することができると考えられる。
【0035】
【0036】
以上のように、上記一実施形態によれば、刺激剤を含まずにセメント及び高炉スラグ粉末からなる水硬性材料に比較して、高い初期強度を有するモルタル及びコンクリートを製造することができる。また、上記一実施形態によれば、水硬性材料における高炉スラグ粉末の含有率が60%を超えているため、その分だけポルトランドセメントの含有率が低くなって水硬性材料の製造工程からの二酸化炭素排出量を少なくすることができる。
【0037】
また、上記一実施形態において、水硬性材料に含まれる塩化物のモル数が当該水硬性材料に含まれる酸化アルミニウムのモル数の2倍よりも小さいと、この水硬性材料と骨材と水との練り混ぜ時において、この水硬性材料に含まれる塩化物イオンの多くを酸化アルミニウムと反応させ、難溶性の錯塩を生成させることができる。このため、この練り混ぜにより製造されるモルタル及びコンクリートにおける可溶性の塩化物イオンの量を少なくすることができる。そうすることで、これらモルタル及びコンクリートに設置される鉄筋の腐食を抑制することができる。
【0038】
さらに、上記一実施形態において、刺激剤として亜硝酸カルシウムもしくは塩化マグネシウムまたは亜硝酸カルシウムと塩化マグネシウムとの混合物を使用すると、刺激剤を使用しない場合に比較して、高い流動性を有するモルタル及びコンクリートを製造することができる。
【0039】
また、上記一実施形態によれば、20℃での養生により得たモルタル及びコンクリートに高い初期強度を発現させることができる。このため、モルタル及びコンクリートの初期強度を発現させるためのオートクレーブ養生、蒸気養生又は加熱養生を行う必要がなくなる。つまり、モルタル及びコンクリートを得るための養生に要するエネルギーを節約することもできる。