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特開2022-179982表面性状測定機および表面性状判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022179982
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】表面性状測定機および表面性状判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 21/30 20060101AFI20221129BHJP
   G01B 5/28 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
G01B21/30 102
G01B5/28 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086836
(22)【出願日】2021-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 博臣
【テーマコード(参考)】
2F062
2F069
【Fターム(参考)】
2F062AA51
2F062AA66
2F062CC27
2F062DD21
2F062DD22
2F062DD23
2F062FF03
2F062FF13
2F062HH04
2F062JJ04
2F062JJ05
2F062JJ07
2F069AA01
2F069AA57
2F069AA61
2F069GG01
2F069GG62
2F069GG72
2F069GG74
2F069JJ04
2F069JJ13
2F069NN26
(57)【要約】
【課題】ワークの表面性状の判定のための設定作業を軽減できる表面性状測定機を提供する。
【解決手段】表面性状測定機は、ワークの表面性状に関する1以上のパラメータを設定するパラメータ設定部422と、ワークまたはマスターワークの表面を走査して得られる変位測定データに基づいて、パラメータに対応する測定値を算出する測定部423と、マスターワークの測定値を基準値とし、基準値に対して所定の割合となる値を公差として、パラメータに対応する判定値を算出する判定値算出部424と、パラメータごとにワークの測定値と判定値とを比較する判定部425と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの表面性状に関する1以上のパラメータを設定するパラメータ設定部と、
前記ワークまたはマスターワークの表面を走査して得られる変位測定データに基づいて、前記パラメータに対応する測定値を算出する測定部と、
前記マスターワークの前記測定値を基準値とし、前記基準値に対して所定の割合となる値を公差として、前記パラメータに対応する判定値を算出する判定値算出部と、
前記パラメータごとに前記ワークの前記測定値と前記判定値とを比較する判定部と、を備える、表面性状測定機。
【請求項2】
前記パラメータとして互いに異なる第1パラメータおよび第2パラメータが設定されている場合、
前記判定値算出部は、前記割合として互いに異なる値を使用することで、前記第1パラメータに対応する前記判定値と、前記第2パラメータに対応する前記判定値とをそれぞれ算出する、請求項1に記載の表面性状測定機。
【請求項3】
ワークの表面性状に関する1以上のパラメータを設定するパラメータ設定部と、
前記ワークの表面を走査して得られる変位測定データに基づいて、前記パラメータに対応する測定値を算出する測定部と、
複数の前記ワークにおける前記測定値の平均値を基準値とし、前記基準値に対して所定の割合となる値を公差として、前記パラメータに対応する判定値を算出する判定値算出部と、
前記パラメータごとに前記ワークの前記測定値と前記判定値とを比較する判定部と、を備える、表面性状測定機。
【請求項4】
前記パラメータとして互いに異なる第1パラメータおよび第2パラメータが設定されている場合、
前記判定値算出部は、前記割合として互いに異なる値を使用することで、前記第1パラメータに対応する前記判定値と、前記第2パラメータに対応する前記判定値とをそれぞれ算出する、請求項3に記載の表面性状測定機。
【請求項5】
ワークの表面性状を測定する表面性状測定機において実施される表面性状判定方法であって、
前記ワークの表面性状に関する1以上のパラメータを設定するパラメータ設定ステップと、
マスターワークの表面を走査して得られる変位測定データに基づいて、前記パラメータに対応する測定値を算出するマスターワーク測定ステップと、
前記マスターワークの前記測定値を基準値とし、前記基準値に対して所定の割合となる値を公差として、前記パラメータに対応する判定値を算出する判定値算出ステップと、
前記ワークの表面を走査して得られる変位測定データに基づいて、前記パラメータに対応する測定値を算出するワーク測定ステップと、
前記パラメータごとに前記ワークの前記測定値と前記判定値とを比較する判定ステップと、を実施する、表面性状判定方法。
【請求項6】
ワークの表面性状を測定する表面性状測定機において実施される表面性状判定方法であって、
前記ワークの表面性状に関する1以上のパラメータを設定するパラメータ設定ステップと、
前記ワークの表面を走査して得られる変位測定データに基づいて、前記パラメータに対応する測定値を算出する測定ステップと、
複数の前記ワークにおける前記測定値の平均値を基準値とし、前記基準値に対して所定の割合となる値を公差として、前記パラメータに対応する判定値を算出する判定値算出ステップと、
前記パラメータごとに前記ワークの前記測定値と前記判定値とを比較する判定ステップと、を実施する、表面性状判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面性状測定機および表面性状判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークの表面性状(表面粗さなど)を測定する表面性状測定機が知られている。例えば、特許文献1に開示される表面性状測定機は、ワーク表面に接触するスタイラスを有しており、このスタイラスがワークの表面を走査することで、ワーク表面の凹凸状態を示す変位測定データが取得される。
【0003】
上述の表面性状測定機は、取得された変位測定データから、表面性状に関する各種パラメータの測定値を算出する。例えば「算術平均粗さ」と呼ばれる高さ方向のパラメータRaは、走査範囲の基準長さにおける凹凸状態の平均値として算出され、「最大高さ」と呼ばれる高さ方向のパラメータRyは、走査範囲の基準長さにおける最大山高さRpと最大谷深さRvとの和として算出される。
【0004】
また、上述の表面性状測定機は、ワークの品質管理などのために、ワークの表面性状の合否判定を行うことがある。この合否判定では、1以上のパラメータが判定項目として設定されると共に、各パラメータに対応する判定値が設定される。この判定値は、基準値に対して許容可能な誤差としての公差を加えた値である。例えば、パラメータの基準値に上限公差(プラスの公差)を加えた値が上限の判定値となり、パラメータの基準値に下限公差(マイナスの公差)を加えた値が下限の判定値となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-227329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述の表面性状測定機では、判定値の設定時、パラメータの公差が測定者の操作によって入力されるため、判定開始前における測定者の設定作業が煩雑となる。特に複数のパラメータを判定項目として使用する場合、パラメータごとに公差を入力する必要があるため、設定作業の煩雑さが増大し、判定開始前の所要時間が長くなってしまう。
【0007】
本発明は、ワークの表面性状を判定する際の設定作業を軽減できる表面性状測定機および表面性状判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様にかかる表面性状測定機は、ワークの表面性状に関する1以上のパラメータを設定するパラメータ設定部と、前記ワークまたはマスターワークの表面を走査して得られる変位測定データに基づいて、前記パラメータに対応する測定値を算出する測定部と、前記マスターワークの前記測定値を基準値とし、前記基準値に対して所定の割合となる値を公差として、前記パラメータに対応する判定値を算出する判定値算出部と、前記パラメータごとに前記ワークの前記測定値と前記判定値とを比較する判定部と、を備える。
【0009】
本発明の一態様にかかる表面性状測定機によれば、マスターワークを走査して得られる変位測定データに基づいて、ワークの表面性状に関する1以上のパラメータの判定値が算出される。このため、各パラメータの公差を入力する操作が不要であり、ワークの表面性状を判定する際の設定作業を軽減できる。特に、多数のパラメータを使用する場合、設定作業を大幅に軽減でき、判定開始前の所要時間を短縮化できる。
【0010】
本発明の一態様にかかる表面性状測定機において、前記パラメータとして互いに異なる第1パラメータおよび第2パラメータが設定されている場合、前記判定値算出部は、前記割合として互いに異なる値を使用することで、前記第1パラメータに対応する前記判定値と、前記第2パラメータに対応する前記判定値とをそれぞれ算出する。
このような構成によれば、第1パラメータおよび第2パラメータのそれぞれに対して、パラメータの特性に合わせた適切な判定値が算出される。
【0011】
本発明の別の態様にかかる表面性状測定機は、ワークの表面性状に関する1以上のパラメータを設定するパラメータ設定部と、前記ワークの表面を走査して得られる変位測定データに基づいて、前記パラメータに対応する測定値を算出する測定部と、複数の前記ワークにおける前記測定値の平均値を基準値とし、前記基準値に対して所定の割合となる値を公差として、前記パラメータに対応する判定値を算出する判定値算出部と、前記パラメータごとに前記ワークの前記測定値と前記判定値とを比較する判定部と、を備える。
【0012】
本発明の別の態様にかかる表面性状測定機によれば、複数のワークを走査して得られる変位測定データに基づいて、ワークの表面性状に関する1以上のパラメータの判定値が算出される。このため、各パラメータの公差を入力する操作が不要であり、ワークの表面性状を判定する際の設定作業を軽減できる。特に、多数のパラメータを使用する場合、設定作業を大幅に軽減でき、判定開始前の所要時間を短縮化できる。
【0013】
本発明の別の態様にかかる表面性状測定機において、前記パラメータとして互いに異なる第1パラメータおよび第2パラメータが設定されている場合、前記判定値算出部は、前記割合として互いに異なる値を使用することで、前記第1パラメータに対応する前記判定値と、前記第2パラメータに対応する前記判定値とをそれぞれ算出する。
このような構成によれば、第1パラメータおよび第2パラメータのそれぞれに対して、パラメータの特性に合わせた適切な公差を設定することができる。
【0014】
本発明の一態様にかかる表面性状判定方法は、ワークの表面性状を測定する表面性状測定機において実施される方法であって、前記ワークの表面性状に関する1以上のパラメータを設定するパラメータ設定ステップと、マスターワークの表面を走査して得られる変位測定データに基づいて、前記パラメータに対応する測定値を算出するマスターワーク測定ステップと、前記マスターワークの前記測定値を基準値とし、前記基準値に対して所定の割合となる値を公差として、前記パラメータに対応する判定値を算出する判定値算出ステップと、前記ワークの表面を走査して得られる変位測定データに基づいて、前記パラメータに対応する測定値を算出するワーク測定ステップと、前記パラメータごとに前記ワークの前記測定値と前記判定値とを比較する判定ステップと、を実施する。
また、本発明の別の態様にかかる表面性状判定方法は、ワークの表面性状を測定する表面性状測定機において実施される方法であって、前記ワークの表面性状に関する1以上のパラメータを設定するパラメータ設定ステップと、前記ワークの表面を走査して得られる変位測定データに基づいて、前記パラメータに対応する測定値を算出する測定ステップと、複数の前記ワークにおける前記測定値の平均値を基準値とし、前記基準値に対して所定の割合となる値を公差として、前記パラメータに対応する判定値を算出する判定値算出ステップと、前記パラメータごとに前記ワークの前記測定値と前記判定値とを比較する判定ステップと、を実施する。
上記のいずれの表面性状判定方法においても、各パラメータの公差を入力する操作が不要であり、ワークの表面性状を判定する際の設定作業を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態に係る表面性状測定機の外観を示す斜視図。
図2】前記第1実施形態に係る表面性状測定機を示す模式図。
図3】前記第1実施形態に係る表面性状測定機の制御部を示すブロック図。
図4】前記第1実施形態に係るワークの表面性状判定方法を説明するためのフロチャート。
図5】本発明の第2実施形態に係るワークの表面性状判定方法を説明するためのフロチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態に係る表面性状測定機について、図面を参照して説明する。
【0017】
(表面性状測定機の概略構成)
図1は、本実施形態の表面性状測定機1の外観を示す斜視図であり、図2は、表面性状測定機1の内部機構を示す図である。
本実施形態の表面性状測定機1は、測定対象であるワーク表面の変位を検出する検出器10と、検出器10を移動させる駆動部20と、ユーザインターフェイス30と、各種制御を行う制御部40とを備える。なお、本実施形態で例示される表面性状測定機1は、ハンディタイプの測定機であって、検出器10、駆動部20および制御部40を一体に収容するケース2をさらに備える。
【0018】
検出器10は、駆動部20に保持された検出器本体11と、検出器本体11により揺動可能に支持されたスタイラスアーム12と、スタイラスアーム12の先端に突設されたスタイラス13と、スタイラスアーム12の基端の揺動量を検出する検出素子14とを備える。
スタイラス13がワーク表面に沿って移動すると、ワーク表面の表面性状(例えば表面粗さ)によって、スタイラス13が上下動する。スタイラス13の上下動は、検出素子14によって検出信号として検出される。
【0019】
駆動部20は、ケース2に固定されたモータ21と、モータ21に連結された送りねじ機構22と、送りねじ機構22によって測定方向に送られる保持部材23とを備える。保持部材23には、上述の検出器本体11が保持される。また、送りねじ機構22には、測定方向における保持部材23の移動量を検出するためのエンコーダが設けられてもよい。
【0020】
ユーザインターフェイス30は、各種情報を表示する表示部31と、ユーザによる入力操作を受け付ける操作部32とを有する。操作部32は、ケース2の表面に設置される操作ボタンであってもよいし、表示部31と共に構成されるタッチディスプレイでもよい。
なお、本実施形態において、表示部31および操作部32は、ケース2の表面部に配置されているが、これに限定されない。例えば、表面性状測定機1と通信可能に端末装置が接続され、当該端末装置に設けられた表示部に各種情報を表示させたり、当該端末装置に設けられた操作手段でユーザの入力操作を受け付けたりしてもよい。
【0021】
制御部40は、コンピュータにより構成されており、検出器10および駆動部20を制御する。この制御部40は、図3に示すように、メモリ等により構成される記憶部41と、CPU(CentRal Processing Unit)等により構成される演算部42とを備える。
また、演算部42は、記憶部41に記憶されたプログラムを読み込み実行することで、駆動制御部421、パラメータ設定部422、測定部423、判定値算出部424、判定部425および出力部426として機能する。
【0022】
駆動制御部421は、駆動部20を制御することにより、測定方向における検出器10の移動を制御し、スタイラス13にワーク表面を走査させる。
パラメータ設定部422は、ワークの表面性状に関するパラメータについて、ワークの合否判定のための判定項目となる1以上のパラメータを設定する。
【0023】
測定部423は、検出器10から出力される検出信号を所定のサンプリング間隔で取得することで、走査範囲におけるワーク表面の変位測定データを取得する。そして、測定部423は、変位測定データに基づいて、パラメータに対応する測定値(以下、パラメータ測定値と称する)を算出する。
【0024】
判定値算出部424は、マスターワークのパラメータ測定値に基づいて、パラメータに対応する判定値(以下、パラメータ判定値と称する)を算出する。
判定部425は、判定値算出部424に算出されたパラメータ判定値と、測定部423に算出されたパラメータ測定値とを比較することにより、パラメータごとの合否を判定する。また、判定部425は、パラメータごとの合否結果に基づいて、ワークの合否を判定する。
出力部426は、測定部423に算出されたパラメータ測定値や、判定部425により判定された合否結果などを表示部31に表示させる。
【0025】
記憶部41は、演算部42を動作させるためのプログラムや、複数のパラメータ情報などを記憶する。パラメータ情報は、例えばパラメータごとに記憶され、パラメータ測定値を算出するための演算式や、パラメータ判定値を算出するための公差割合(本発明の所定の割合)などを含む。ここで、公差割合とは、マスターワークのパラメータ測定値を基準値としたときの当該基準値に対する公差の割合であり、例えば1以下の小数で表される。
【0026】
(ワークの表面性状判定方法)
本実施形態の表面性状判定方法について、図4のフロチャートを参照して説明する。
まず、事前準備として、測定者は、表面性状測定機1を操作することで、ワークの表面性状の判定項目となる1以上のパラメータを選択する。このとき、測定者は、上限の判定値および下限の判定値のどちらを使用するか(または両方を使用するか)について選択してもよいし、初期設定として上限の判定値および下限の判定値が選択された状態であってもよい。
【0027】
パラメータ設定部422は、測定者により選択された各パラメータを判定項目として記憶部41に記憶させることで、パラメータの設定を行う(ステップS1;パラメータ設定ステップ)。
以下では、説明のために、パラメータとして、パラメータRa(第1パラメータ)およびパラメータRy(第2パラメータ)が設定された場合を例示する。パラメータRaは、表面粗さに関する算術平均粗さであり、パラメータRaは、表面粗さに関する最大高さである。
【0028】
次に、測定者は、表面性状測定機1に対してマスターワークをセットし、測定開始のための操作を行う。これにより、駆動制御部421および測定部423は、マスターワークの測定を行う(ステップS2;マスターワーク測定ステップ)。
このステップS2において、駆動制御部421は、検出器10を所定の走査速度で測定方向に所定距離を移動させ、測定部423は、検出器10から出力される検出信号を所定のサンプリング間隔で取り込み、走査範囲における変位測定データとして記憶部41に記憶させる。そして、測定部423は、マスターワークの変位測定データに基づいて、ステップS1で設定されたパラメータRa,Ryの各測定値(パラメータ測定値MRa,MRy)を算出する。
【0029】
次に、判定値算出部424は、ステップS2で測定されたマスターワークのパラメータ測定値MRa,MRyと、記憶部41に記憶されているパラメータRa,Ryの公差割合PRa,PRyとに基づき、パラメータRa,Ryの各判定値(パラメータ判定値ARa,ARy)を算出する(ステップS3;判定値算出ステップ)。なお、パラメータ判定値ARa,ARyは、上限および下限の少なくとも一方の判定値であればよい。
【0030】
例えば、判定値算出部424は、以下の式(1),(2)による演算を行うことで、上限のパラメータ判定値ARaおよび下限のパラメータ判定値ARaをそれぞれ算出できる。
ARa=MRa+MRa・PRa
=MRa(1+PRa) ・・・・式(1)
ARa=MRa-MRa・PRa
=MRa(1-PRa) ・・・・式(2)
【0031】
なお、上記式(1),(2)では、「マスターワークのパラメータ測定値MRa」がパラメータRaの基準値に相当し、「マスターワークのパラメータ測定値MRaに対して公差割合PRaを積算した値」が上限公差に相当し、「マスターワークのパラメータ測定値MRaに対して公差割合PRaを積算し、負の符号を付した値」が下限公差に相当する。
すなわち、上記式(1),(2)によれば、パラメータ基準値に上限公差(プラスの公差)を加えた上限のパラメータ判定値と、パラメータ基準値に下限公差(マイナスの公差)を加えた下限のパラメータ判定値とがそれぞれ算出される。
【0032】
パラメータ判定値ARyの算出方法は、上述で例示したパラメータ判定値ARaの算出方法と同様である。
ただし、パラメータRaに対応する公差割合PRaと、パラメータRyに対応する公差割合PRyとは、互いに異なる値であることが好ましい。
具体的には、表面粗さの最大高さを表すパラメータRyは、表面粗さの算術平均粗さを表すパラメータRaに比べて、バラツキが大きい傾向がある。このため、パラメータRyに対応する公差割合PRy(例えば0.10)は、パラメータRaに対応する公差割合PRa(例えば0.02)よりも大きいことが好ましい。
【0033】
次に、測定者は、表面性状測定機1に対してワークをセットし、測定開始のための操作を行う。これにより、駆動制御部421および測定部423は、ワークの測定を行う(ステップS4;ワーク測定ステップ)。
このステップS4は、上述のステップS2と同様に行われる。すなわち、駆動制御部421は、検出器10を所定の走査速度で測定方向に所定距離を移動させ、測定部423は、検出器10から出力される検出信号を所定のサンプリング間隔で取り込み、走査範囲における変位測定データとして記憶部41に記憶する。そして、測定部423は、ワークの変位測定データに基づいて、パラメータ測定値MRa,MRyを算出する。
【0034】
次に、判定部425は、ステップS4で測定されたワークの表面性状について、合否判定を行う(ステップS5;判定ステップ)。
例えば、判定部425は、パラメータRaについて、ステップS3で算出されたパラメータ判定値ARa,ARaと、ステップS4で算出されたワークのパラメータ測定値MRaとを比較する。そして、ARa≦MRa≦ARaである場合に合格と判定し、それ以外の場合に不合格と判定する。
同様に、判定部425は、パラメータRyについて、ステップS3で算出されたパラメータ判定値ARy,ARyと、ステップS4で算出されたワークのパラメータ測定値MRyとを比較する。そして、ARy≦MRy≦ARyである場合に、合格と判定し、それ以外の場合に不合格と判定する。
そして、判定部425は、パラメータRa,Ryのそれぞれについて合格と判定した場合、ワークの表面性状が合格であると判定し、それ以外の場合に不合格と判定する。
【0035】
その後、出力部426は、ステップS4で算出されたワークのパラメータ測定値MRa,MRyや、ステップS5におけるパラメータRa,Ryの各判定結果およびワークの判定結果などを、表示部31に表示させる(ステップS6)。
【0036】
以上により、図4のフローが終了する。その後、測定者がワークを順次セットすることで、表面性状測定機1は、各ワークに対して、上述のステップS4~S6を実施することができる。ここで、各ワークの表面性状の判定には、上述のステップS3で算出されたパラメータ判定値ARa,ARyを利用できる。
【0037】
(第1実施形態の効果)
本実施形態の表面性状測定機1は、記憶部41および演算部42を有する制御部40を備え、演算部42が記憶部41に記憶されたプログラムを読み込み実行することで、上述したようなパラメータ設定部422、測定部423、判定値算出部424および判定部425として機能する。
このような本実施形態では、マスターワークを走査して得られる変位測定データに基づいて、ワークの表面性状に関する1以上のパラメータ判定値が算出される。このため、各パラメータの公差を入力する操作が不要であり、ワークの表面性状を判定する際の設定作業を軽減できる。特に、多数のパラメータを使用する場合、設定作業を大幅に軽減でき、判定開始前の所要時間を短縮化できる。
また、本実施形態によれば、ワークの種類を変更した場合であっても、ワークの種類に合わせた公差の変更作業を必要とせず、マスターワークの走査を行えばよい。このため、様々な種類のワークについて、表面性状の判定を行う際における作業者の負担を軽減することもできる。
【0038】
本実施形態では、ワークの表面性状に関するパラメータとして、互いに異なるパラメータ(例えばパラメータRa,Ry)が設定されている場合、判定値算出部424は、パラメータRa,Ry間で、互いに異なる値の公差割合PRa,PRyを使用することで、パラメータ判定値ARa,ARyを算出する。
このような本実施形態によれば、パラメータRa,Ryのそれぞれに対して、パラメータRa,Ryの特性に合わせた適切なパラメータ判定値ARa,ARyが算出され、判定精度を向上させることができる。
【0039】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、マスターワークではなく、複数のワークを使用してパラメータ判定値を算出する点が第1実施形態とは異なる。また、本実施形態では、複数のワークとして、同一の加工機を用いて同一の加工が施された複数の加工済ワークを用いるものとする。
【0040】
本実施形態の表面性状判定方法について、図5のフロチャートを参照して説明する。
まず、パラメータ設定部422は、第1実施形態のステップS1と同様、測定者による選択に応じて、パラメータの設定を行う(ステップS11;パラメータ設定ステップ)。
以下では、説明のために、パラメータとして、パラメータRa(第1パラメータ)およびパラメータRy(第2パラメータ)が設定された場合を例示する。
【0041】
次に、測定者は、表面性状測定機1に対して複数のワークを順次セットし、表面性状測定機1は複数のワークをそれぞれ測定する(ステップS12;ワーク測定ステップ)。このステップS12で測定されるワークは、同一の加工機で同一の加工が施された複数のワークのうち、加工の順番が早い順に選択された任意の数(例えばN個)のワークである。これにより、ステップS12では、N個のワークの各パラメータ測定値MRa,MRyが算出される。
【0042】
次に、判定値算出部424は、ステップS12で測定された各ワークのパラメータ測定値MRa,MRyと、記憶部41に記憶されたパラメータRa,Ryの公差割合PRa,PRyとに基づき、パラメータ判定値ARa,ARyを算出する(ステップS13;判定値算出ステップ)。
【0043】
例えば、判定値算出部424は、以下の式(3),(4)による演算を行うことで、上限のパラメータ判定値ARaおよび下限のパラメータ判定値ARaをそれぞれ算出できる。
ARa=μRa+μRa・PRa
=μRa(1+PRa) ・・・・式(3)
ARa=μRa-μRa・PRa
=μRa(1-PRa) ・・・・式(4)
【0044】
なお、上記式(3),(4)において、μRaは、N個のワークのパラメータ測定値MRaの平均値である。すなわち、本実施形態では、「N個のワークのパラメータ測定値MRaの平均値μRa」がパラメータRaの基準値に相当する。また、「平均値μRaに対して公差割合PRaを積算した値」が上限公差に相当し、「平均値μRaに対して公差割合PRaを積算し、負の符号を付した値」が下限公差に相当する。
【0045】
また、パラメータ判定値ARyの算出方法は、上述で例示したパラメータ判定値ARaの算出方法と同様である。
ただし、第1実施形態と同様、パラメータRaに対応する公差割合PRaと、パラメータRyに対応する公差割合PRyとは、互いに異なる値であることが好ましい。
【0046】
次に、判定部425は、ステップS12で測定されたN個のワークについて、表面性状の合否判定をそれぞれ行う(ステップS14;判定ステップ)。
なお、このステップS14における各ワークの判定は、第1実施形態のステップS5と同様である。すなわち、判定部425は、パラメータ判定値ARa,ARyとパラメータ測定値MRa,MRyとを比較することで、各パラメータRa,Ryに関する合否を判定し、パラメータRa,Ryに関する各合否結果に基づいて、ワークの表面性状の合否を判定する。
【0047】
その後、出力部426は、ステップS12で算出された各ワークのパラメータ測定値MRa,MRyや、ステップS14におけるパラメータRa,Ryの各判定結果および各ワークの判定結果などを、表示部31に表示させる(ステップS15)。
【0048】
以上により、図5のフローが終了する。その後、測定者がステップS12で測定されたワーク以外の他のワークを順次セットすることで、表面性状測定機1は、各ワークの測定および合否判定を行ってもよい。ここで、各ワークの合否判定には、上述のステップS13で算出されたパラメータ判定値ARa,ARyを利用できる。
【0049】
(第2実施形態の効果)
本実施形態の表面性状測定機1は、第1実施形態と同様の効果を奏する。また、本実施形態では、マスターワークではなく、判定対象であるワークを測定することでパラメータ判定値ARa,ARyを算出するため、第1実施形態と比べて、マスターワークの測定にかかる時間を省略できる。
なお、本実施形態では、加工の順番が早い順に選択された複数のワークを測定することで、加工機の切れ味などが劣化する前、すなわち加工機が正常であるときに加工されたワークを測定しており、これにより、判定精度を確保している。
【0050】
(第2実施形態の変形例)
第2実施形態において、判定値算出部424は、ステップS12で測定されたパラメータ測定値MRa,MRyのいずれか一方の標準偏差を利用して、加工機の加工精度を管理するための管理用判定値をさらに算出してもよい。
例えば、判定値算出部424は、以下の式(5),(6)による演算を行うことで、上限の管理用判定値BRaおよび下限の管理用判定値BRaをそれぞれ算出できる。なお、SRaは、パラメータ測定値MRaの標準偏差である。
BRa=μRa+SRa・・・・式(5)
BRa=μRa-SRa・・・・式(6)
【0051】
そして、判定部425は、図5のフロー終了後において測定される他のワークのパラメータ測定値MRaと、管理用判定値BRa(上限の管理用判定値BRa、下限の管理用判定値BRa)とを比較してもよい。
仮に、ワークのパラメータ測定値MRaが正規分布する場合、BRa≦MRa≦BRaとなる確率(合格率)は68%である。しかし、加工機において工具の切れ味が悪くなるなどの劣化が生じると、ワークの加工面における表面粗さのばらつきが大きくなり、BRa≦MRa≦BRaとなる確率が下がる。
よって、判定部425は、ワークの合否判定を行うとともに、測定済みワークについて、BRa≦MRa≦BRaとなる確率(合格率)の変化を監視してもよい。この合格率が所定以下になった場合、出力部426は、加工機の劣化を知らせる旨の警告などを表示部31に表示させてもよい。
このような変形例によれば、測定者は、ワークの不合格が増加する前に、加工機の劣化状態を知ることができる。
【0052】
[他の変形例]
本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形などは本発明に含まれる。
【0053】
例えば、上記各実施形態において、判定値算出部424は、上限のパラメータ判定値ARa,ARyおよび下限のパラメータ判定値ARa,ARyのそれぞれを算出しているが、いずれか一方を算出してもよい。
この場合、判定部425は、パラメータ測定値MRaが上限のパラメータ判定値ARa以下である場合、または、パラメータ測定値MRaが下限のパラメータ判定値ARa以上である場合に、パラメータRaについて合格と判定できる。また、パラメータRyについても同様である。
【0054】
上記各実施形態では、ワークの表面性状の判定項目であるパラメータとして、パラメータRa,Ryを例示しているが、本発明はこれに限られず、任意の数および種類のパラメータを利用できる。
また、上記各実施形態では、パラメータ判定値を算出するための公差割合がパラメータ毎に対応して記憶されているが、この公差割合は、複数のパラメータ間で共通であってもよい。
【0055】
上記各実施形態では、本発明の表面性状測定機として、図1に示すようなハンディタイプの表面性状測定機1を例示したが、台座に設置され、門型コラムや多関節アーム等によって検出器10が移動可能に支持される大型の測定装置であってもよい。
【符号の説明】
【0056】
1…表面性状測定機、10…検出器、11…検出器本体、12…スタイラスアーム、13…スタイラス、14…検出素子、2…ケース、20…駆動部、21…モータ、22…送りねじ機構、23…保持部材、30…ユーザインターフェイス、31…表示部、32…操作部、40…制御部、41…記憶部、42…演算部、421…駆動制御部、422…パラメータ設定部、423…測定部、424…判定値算出部、425…判定部、426…出力部。
図1
図2
図3
図4
図5