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特開2022-180249β-1,3-1,6-グルカンの製造方法
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  • 特開-β-1,3-1,6-グルカンの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180249
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】β-1,3-1,6-グルカンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/04 20060101AFI20221129BHJP
   C12N 1/14 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
C12P19/04 A
C12N1/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087255
(22)【出願日】2021-05-24
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】594063474
【氏名又は名称】株式会社ソフィ
(71)【出願人】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池上 裕倫
(72)【発明者】
【氏名】長瀧 充
(72)【発明者】
【氏名】永田 信治
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AF11
4B064CA05
4B064CD09
4B064CD12
4B064CD19
4B064DA01
4B065AA58X
4B065AC14
4B065BA22
4B065BB12
4B065BB15
4B065BB18
4B065CA22
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】本発明は、優れた制がん作用を示す新規なβ-1,3-1,6-グルカンを製造するための方法、当該製造方法に用いられる新規黒色酵母様菌、及び優れた制がん作用を示す新規β-1,3-1,6-グルカンを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係るβ-1,3-1,6-グルカンの製造方法は、培地中、オウレオバシディウム・プルランス APNN-M163株(受託番号:NITE P-03377)を培養する工程を含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-1,3-1,6-グルカンを製造するための方法であって、
培地中、オウレオバシディウム・プルランス APNN-M163株(受託番号:NITE P-03377)を培養する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記培地が、グルコース、グルコース単位を含む多糖類、及びフルクトースから選択される1または2以上の炭素源を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記培地が窒素源として硝酸イオン塩を含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
オウレオバシディウム・プルランス APNN-M163株(受託番号:NITE P-03377)。
【請求項5】
β-1,3結合およびβ-1,6結合に加えて、β-1,4結合およびβ-1,2結合を含むことを特徴とするβ-1,3-1,6-グルカン。
【請求項6】
第1位および第4位のみで隣接グルコース単位に結合しているグルコース単位の、前記β-1,3-1,6-グルカンを構成する全グルコース単位に対する割合が、0.04以上、0.08以下である請求項5に記載のβ-1,3-1,6-グルカン。
【請求項7】
第1位、第2位、第4位および第6位で隣接グルコース単位に結合しているグルコース単位の、前記β-1,3-1,6-グルカンを構成する全グルコース単位に対する割合が、0.04以上、0.08以下である請求項5または6に記載のβ-1,3-1,6-グルカン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた制がん作用を示す新規なβ-1,3-1,6-グルカンを製造するための方法、当該製造方法に用いられる新規黒色酵母様菌、及び優れた制がん作用を示す新規β-1,3-1,6-グルカンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
β-グルカンとは、グルコースがβ-グルコシド結合により結合した重合体の総称であり、一般的にはD-グルコースがβ-1,3結合したものであるが、酵母や菌類が産生するβ-グルカンにはβ-1,6結合の分岐があり、穀物β-グルカンにはβ-1,3結合とβ-1,4結合の骨格が見られる。β-グルカンは不溶性の食物繊維の一種であり、他の食物繊維と同様に便秘や生活習慣病の予防に役立つとされているが、そのがんに対する予防改善効果や、免疫賦活作用に注目が集まっている。特に担子菌類由来のβ-グルカンの制がん作用や免疫賦活作用が有名であるが、β-グルカンは細胞壁の構成成分として利用されており、タンパク質などと結合しているため、担子菌類からのβ-グルカンの精製は難しいといえる。一方、黒色酵母様菌(オウレオバシディウム・プルランス)は産生したβ-グルカンを菌体外へ放出できるため、高純度のβ-グルカンを効率的に製造できるものとして利用されている。
【0003】
例えば特許文献1には、オウレオバシディウム属菌株を使ってβ-1,3-1,6-グルカンを製造することと、FO-68菌株(AFO-202株)が記載されている。また、特許文献2には、β-グルカンを効率的に製造するための微生物として、オウレオバシディウム・プルランスM-3株が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-329077号公報
【特許文献2】特開2020-31580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、特に菌類由来のβ-グルカンには制がん作用や免疫賦活作用が知られているが、β-グルカンには、分子量や水溶性などの他にも、枝分かれ構造の違いなど化学構造の点でも様々なものがあり、それぞれ作用やその強さも異なるといえる。
そこで本発明は、優れた制がん作用を示す新規なβ-1,3-1,6-グルカンを製造するための方法、当該製造方法に用いられる新規黒色酵母様菌、及び優れた制がん作用を示す新規β-1,3-1,6-グルカンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、変異処理により新規なβ-1,3-1,6-グルカンを産生する黒色酵母様菌を作出し、かかるβ-1,3-1,6-グルカンが優れた制がん作用を示すことを見出して、本発明を完成した。
【0007】
以下、本発明を示す。
[1] β-1,3-1,6-グルカンを製造するための方法であって、
培地中、オウレオバシディウム・プルランス APNN-M163株(受託番号:NITE P-03377)を培養する工程を含むことを特徴とする方法。
[2] 前記培地が、グルコース、グルコース単位を含む多糖類、及びフルクトースから選択される1または2以上の炭素源を含む前記[1]に記載の方法。
[3] 前記培地が窒素源として硝酸イオン塩を含む前記[1]または[2]に記載の方法。
【0008】
[4] オウレオバシディウム・プルランス APNN-M163株(受託番号:NITE P-03377)。
【0009】
[5] β-1,3結合およびβ-1,6結合に加えて、β-1,4結合およびβ-1,2結合を含むことを特徴とするβ-1,3-1,6-グルカン。
[6] 第1位および第4位のみで隣接グルコース単位に結合しているグルコース単位の、前記β-1,3-1,6-グルカンを構成する全グルコース単位に対する割合が、0.04以上、0.08以下である前記[5]に記載のβ-1,3-1,6-グルカン。
[7] 第1位、第2位、第4位および第6位で隣接グルコース単位に結合しているグルコース単位の、前記β-1,3-1,6-グルカンを構成する全グルコース単位に対する割合が、0.04以上、0.08以下である前記[5]または[6]に記載のβ-1,3-1,6-グルカン。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた制がん作用を示す新規β-1,3-1,6-グルカンを提供することができる。また、本発明は、かかる新規β-1,3-1,6-グルカンを産生して菌体外へ放出する新規黒色酵母様菌も提供する。よって本発明は、健康食品の有効成分などとして有用な新規β-1,3-1,6-グルカン自体やその製造技術に関するものとして、産業上非常に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明に係るM163株により産生されたβ-グルカンと、AFO-202株により産生されたβ-グルカンの接着性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るβ-1,3-1,6-グルカンの製造方法は、液体培地中、オウレオバシディウム・プルランス APNN-M163株(受託番号:NITE P-03377)を培養する工程を含む。
【0013】
本発明に係る黒色酵母様菌であるオウレオバシディウム・プルランス APNN-M163株(以下、「M163株」と略記する場合がある。)は、下記の通り寄託機関に寄託されている。
(i) 寄託機関の名称およびあて名
名称: 独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター
あて名: 日本国 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室
(ii) 寄託日: 2021年2月9日
(iii) 受託番号: NITE P-03377
【0014】
M163株は、単独の酵母型で増殖する他、菌糸型でも増殖する二形成真菌である。固体培地上25℃で培養した場合には白~黄白色の不透明な円形コロニーを形成し、コロニーは1週間で直径2cm程度、2週間で直径3cm以上に成長した。コロニーの周縁は波状であり、扁平状に隆起し、表面にムコイドが確認される。培地の当初pHとしては7.0±0.2が好ましいが、培養が進行するにつれて培地のpHは低下し、pH3.5以下になると菌同士が凝集してβ-グルカンを産生し難くなるので、培養時間が長くなる場合には、培地のpHを適時調整することが好ましい。
【0015】
M163株の18SrDNA遺伝子の塩基配列情報などから、M163株は、オウレオバシディウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)に分類される黒色酵母様菌であると結論付けられた。
【0016】
M163株は、培養により本発明に係る新規β-1,3-1,6-グルカンを産生し、菌体外へ放出する。培養のための培地として液体培地を用いれば、当該β-1,3-1,6-グルカンの精製はより容易になる。また、当該β-1,3-1,6-グルカンは、従来のβ-1,3-1,6-グルカンと明らかに異なるものであり、より優れた免疫賦活作用を示すため、健康食品の有効成分などとして有用である。
【0017】
M163株に本発明に係るβ-1,3-1,6-グルカンを製造させる場合、培地には、グルコース、グルコース単位を含む多糖類、及びフルクトースから選択される1または2以上の炭素源を添加することが好ましい。グルコース単位を含む多糖類とは、グルコースを構成単位として含む多糖類であれば二糖類も含まれ、例えば、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース等の二糖類;ニゲロトリオース、マルトトリオース、メレジトース、マルトトリウロース、ラフィノース、ケストース等の三糖類;ニストース、ニゲロテトラオース、スタキオース等の四糖類;デンプンやグリコーゲン等を挙げることができる。また、異性化酵素によりグルコースに変換される可能性もあるため、フルクトースも用いることができる。炭素源としては、D-グルコースが好ましい。培地中における炭素源の割合は、M163株が良好に生育し且つβ-1,3-1,6-グルカンが良好に製造される範囲で適宜調整すればよいが、例えば、0.5質量%以上、5質量%以下とすることができ、1質量%以上、2質量%以下が好ましい。
【0018】
培地の窒素源としては、例えば、硝酸イオン塩、アンモニウム塩などの無機窒素源;及び、アミノ酸、ペプトン、トリプトン、カザミノ酸などの有機窒素源が挙げられる。本発明においては、M163株によるβ-1,3-1,6-グルカンの製造効率の観点から、培地には少なくとも硝酸イオン塩を配合することが好ましい。培地に窒素源として添加する硝酸イオン塩としては、例えば、硝酸チアミン、硝酸カリウム、硝酸カルシウム、硝酸アンモニウム等が挙げられ、本発明では、食品にも使用できる安全なものであることから硝酸チアミンを用いることが好ましい。培地中における窒素源の割合は、M163株が良好に生育し且つβ-1,3-1,6-グルカンが良好に製造される範囲で適宜調整すればよいが、例えば、0.005質量%以上、1質量%以下とすることができ、0.01質量%以上、0.12質量%以下が好ましい。
【0019】
その他、培地には、一般的な培地成分を配合する。その他の培地成分としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等の無機塩;マグネシウム、亜鉛、銅、セレン等の金属成分;ビタミンB、ビタミンA、ビタミンE、リボフラビン、チアミン、ビオチン等のビタミン類などが挙げられる。これらを複合的に含む培地成分として、酵母エキス、肉エキス、ポテトエキス等の植物エキス等のエキスや、獣肉ペプトン、心筋ペプトン、ゼラチンペプトン、大豆ペプトン等のペプトンを配合してもよい。また、消泡剤を添加してもよい。
【0020】
培養条件は、M163株が良好に生育し且つβ-1,3-1,6-グルカンが良好に製造される範囲で適宜調整すればよい。例えば、培地のpHは6.5以上、7.5以下が好ましく、6.8以上、7.2以下がより好ましいが、上述した通りM163株の培養が進行するにつれ培地のpHは低下するので、培地のpHは適宜調整することが好ましい。また、培養温度としては20℃以上、30℃以下が好ましく、25℃±2℃が好ましい。M163株は、静置培養してもよいが、振とう培養、撹拌培養、旋回培養などすることが好ましい。培養時間は、M163株が十分に増殖し且つ十分量のβ-1,3-1,6-グルカンが産生されるまでとすればよいが、例えば、10時間以上、100時間以下とすることができる。
【0021】
M163株の培養およびβ-1,3-1,6-グルカンの製造後、β-1,3-1,6-グルカンは常法により精製すればよい。例えば、培養後、遠心分離や濾過などにより培養液の固形分を除去し、得られた上清にエタノールを加えてβ-1,3-1,6-グルカンを沈殿させ、遠心分離や濾過などにより液分を除去した後、乾燥すればよい。
【0022】
本発明に係るβ-1,3-1,6-グルカンは、β-1,3結合およびβ-1,6結合に加えて、β-1,4結合およびβ-1,2結合を含む。一般的なβ-グルカンは、グルコースが1,3-グリコシド結合で結合された重合体を基本骨格とし、更に植物由来のβ-グルカンにはβ-1,4結合も見られ、菌類由来のβ-グルカンにはβ-1,6結合による側鎖が見られる。本発明に係るβ-1,3-1,6-グルカンは、酵母由来のβ-グルカンであるにもかかわらず、β-1,3結合による主鎖とおよびβ-1,6結合による側鎖に加えて、β-1,4結合を介して隣接グルコース単位と結合しているグルコース単位を含み、更に、β-1,3結合、β-1,6結合およびβ-1,2結合により隣接するグルコース単位と結合しているグルコース単位を含むという特有の化学構造を有する。
【0023】
本発明に係るβ-1,3-1,6-グルカンにおける特徴的な、第1位および第4位のみで隣接グルコース単位に結合しているグルコース単位の、β-1,3-1,6-グルカンを構成する全グルコース単位に対する割合としては、0.04以上、0.08以下が好ましい。また、本発明に係るβ-1,3-1,6-グルカンにおける特徴的な、第1位、第2位、第4位および第6位で隣接グルコース単位に結合しているグルコース単位の、β-1,3-1,6-グルカンを構成する全グルコース単位に対する割合としては、0.04以上、0.08以下が好ましい。
【0024】
なお、本発明に係るβ-1,3-1,6-グルカンを構成するグルコースの構成は、常法により決定することができる。即ち、β-1,3-1,6-グルカンに存在する水酸基を完全メチル化した後、メチル化グルコースへ加水分解する。次いで、加水分解により生じた水酸基を還元アセチル化することにより、部分的にメチル化されたソルビトールのアセチル誘導体を得る。得られたアセチル誘導体をガスクロマトグラフィーとGC-MSで分析することにより、各グルコースの結合様式を推定することができる。
【0025】
本発明に係るβ-1,3-1,6-グルカンは、従来のβ-1,3-1,6-グルカンに比べて顕著に高い接着性を示し、従来のβ-1,3-1,6-グルカンとは明らかに異なるものである。また、本発明に係るβ-1,3-1,6-グルカンは、優れた制がん作用を示す。よって、本発明に係るβ-1,3-1,6-グルカンは、健康食品の有効成分などとして非常に有用である。
【実施例0026】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0027】
実施例1: APNN-M163株
(1)APNN-M163株の取得
植物やデンプン質の豊富な土壌試料を採取し、滅菌水に懸濁し、PDA培地(2.4w/v%ポテトデキストロース(BD Difco社製),1.5w/v%寒天,pH5.2)または1/6PDA培地(0.4w/v%ポテトデキストロース(BD Difco社製),2.0w/v%グルコース,1.5w/v%寒天,pH5.2)に塗布して、30℃で培養した。コロニー表面に粘物質を確認できた菌を分離して、少量の合成培地(0.06w/v%(NH42SO4,0.2w/v%KH2PO4,0.02w/v%MgSO4・7H2O,0.01w/v%NaCl,0.04w/v%酵母エキス(オリエンタル酵母社製),pH5.2)または米糠培地(0.2w/v%米糠,0.2w/v%アスコルビン酸,1.0w/v%スクロース,pH5.2)を用い、20℃にて1週間静置培養した。培養液を10,000g程度で10分間遠心分離して、得られた上清中に含まれる多糖量を測定して、菌株を選別した。多糖量の測定には、終濃度70%になるようにエタノールを加え、沈殿物の全糖量をフェノール硫酸法で測定する手法を用いた。
選別した菌株は、変異処理した。変異処理は、エチルメタンスルフォン酸(EMS)、UV、亜硝酸などの一般的な手法を用いた。変異処理した菌株も、親株と同様に上清中の多糖量を測定して選別した。
選別した菌株を培養し、菌が生産する多糖の種類と量により、有用菌を分取した。条件は以下の通りである。PDA培地を用い、25℃で4日間培養した菌を、米糠培地または合成培地30mLを入れた100mLフラスコに一白金耳植菌して、25℃、125rpmで48時間振とう培養した。得られた前培養液を、米糠培地または合成培地350mLを入れた1Lフラスコに1v/v%植菌して、25℃、180rpmで72時間旋回培養することにより、本培養液を得た。
本培養液を10,000g程度で10分遠心分離して得られた上清に、終濃度70%になるようにエタノールを加え、沈殿物の全糖量をフェノール硫酸法で測定することにより、多糖量を測定した。多糖の種類を、硫酸を用いた多糖の酸加水分解の分解物や、β-グルコシド結合を分解するβ-1,3-グルカナーゼ、β-1,6-グルカナーゼ、セルラーゼ、α-グルコシド結合を分解するプルラナーゼ、アミログルコシダーゼなどの酵素による分解物を分析することで、推定した。より多くのβ-グルカンを産生する菌株として、APNN-M163株を単離した。
【0028】
(2)β-グルカンの構造決定
(2-1)糖組成分析
APNN-M163株が産生したβ-グルカン試料をTFAで加水分解し,測定用試料溶液を調製した。しかしながら加水分解後に再溶解した際、不溶物が残った。β-1,4結合グルコースはTFAでは加水分解されないことから、β-1,4結合グルコースも加水分解できる硫酸を使って加水分解した。TFA加水分解試料と硫酸加水分解試料をHPLCで分析し、試料溶液中の中性糖濃度を求め、試料溶液中の中性糖含量を算出した。
その結果、試料に含まれる主な糖はグルコースであった。その他に、マイナー成分として、ラムノース、マンノース、及びガラクトースも含まれていた。TFA加水分解試料に含まれるグルコース含量は355μg/mgであったが、硫酸加水分解試料では816μg/mgであり、硫酸加水分解によりTFAでは加水分解できない成分を含めた試料中の中性糖含量が得られた。
【0029】
(2-2)メチル化分析
β-グルカン試料を完全メチル化し、加水分解してメチル化単糖に分解した後、還元アセチル化し、部分メチル化糖アルコールのアセチル誘導体(部分メチル化アルジトールアセテート)とした。得られた部分メチル化アルジトールアセテートを、GCとGC-MSで分析した。得られたマススペクトルを,部分メチル化アルジトールアセテートの標準マススペクトル(出典:生化学データブック)と比較し,結合様式を推定した。
主なマススペクトルピーク3本の結合様式は、それぞれGlc1→、→3Glc1→、及び→3,6Glc1→と推定された。他に、→4Glc1→、→6Glc1→、→2,3,6Glc1→の結合様式も含まれると推定された。なお、「Glc1→」は1位水酸基のみを介して他のグルコースと結合している末端グルコース基を表し、また、例えば「→3Glc1→」は、3位と1位の水酸基を介して他の2つのグルコースと結合しているグルコース基を表す。
最も多く含まれる結合様式がGlc1→と→3,6Glc1→であり、組成比がほぼ1:1であること、及びそれ以外の結合様式も含まれており、APNN-M163株が産生するβ-グルカンは、以下の化学構造を有すると推定された。
【0030】
【化1】
【0031】
【表1】
【0032】
(3)菌の同定
APNN-M163株の18S rDNAの塩基配列から、APNN-M163株はAureobasidium pullulansに属すると同定された。
【0033】
(4)β-グルカンの製造
PDA平板培地にAPNN-M163株を植菌し、25℃で5~7日間培養した。次いで、製造用水60mL、含水D-グルコース1.2g、塩化ナトリウム60mg、硝酸ナトリウム36mg、酵母エキス24mg、結晶硫酸マグマグネシウム12mg、リン酸塩30mgを含み、5%水酸化ナトリウム水溶液と25%塩酸を使ってpHを6.8~7.2に調整した培地に植菌し、前培養として、125rpm、25℃で48時間振とう培養した。同じ組成の培地を作製し、前培養液3mLを投入し、125rpm、25℃で96時間振とう培養した。
培養液を遠心分離し、得られた上清に終濃度が70%以上になるようエタノールを加えて多糖類を沈殿させた後、再度遠心分離し、凍結乾燥することにより、β-グルカンを得た。
【0034】
実施例2
(1)種菌の製造
PDA平板培地にAPNN-M163株を植菌し、25℃で5~7日間培養した。次いで、液体培地に植菌し、125rpm、25℃で48時間振とう培養した。続いて、菌の成長が良好なフラスコを選び、生育の良い部分から更に液体培地に植菌し、125rpm、25℃で72時間振とう培養した。
【0035】
(2)一次培養
製造用水300L、含水D-グルコース6.0kg、塩化ナトリウム0.15kg、チアミン硝酸塩0.18kg、酵母エキス0.12kg、結晶硫酸マグマグネシウム0.03kg、食品用消泡剤0.03Lを含み、5%水酸化ナトリウム水溶液と25%塩酸を使ってpHを6.8~7.2に調整した培地に、種菌液400mLを加え、48時間通気攪拌培養した。
【0036】
(3)二次培養
製造用水5200L、含水D-グルコース104kg、塩化ナトリウム2.6kg、チアミン硝酸塩3.12kg、酵母エキス2.08kg、結晶硫酸マグマグネシウム0.52kg、食品用消泡剤0.52Lを含み、5%水酸化ナトリウム水溶液と25%塩酸を使ってpHを6.8~7.2に調整した培地に、一次培養液100Lを投入し、72時間通気攪拌培養した。
【0037】
(4)β-グルカンの精製
二次培養液を40000gで20分間遠心分離し、得られた上清に終濃度が70%以上になるようエタノールを加えて多糖類を沈殿させた後、40000gで20分間遠心分離し、凍結乾燥することにより、β-グルカンを得た。
【0038】
比較例1: Aureobasidium pullulans AFO-202株
β-グルカンの製造に一般的に使用されているAureobasidium pullulans AFO-202株(FERM P-19327,特開2004-329077号公報)を使って、以下の通りβ-グルカンを製造した。
なお、特開2004-329077号公報の発明者と本発明の発明者は重複し、特開2004-329077号公報に記載の「FO-68株」と「AFO-202株」は同一菌株である。
【0039】
(1)種菌の製造
PDA平板培地にAFO-202株を植菌し、25℃で5~7日間培養した。次いで、液体培地に植菌し、125rpm、25℃で48時間振とう培養した。続いて、菌の成長が良好なフラスコを選び、生育の良い部分から更に液体培地に植菌し、125rpm、25℃で72時間振とう培養した。
【0040】
(2)一次培養
製造用水300L、米糠0.6kg、グルコース3kg、アスコルビン酸0.9kg、食品用消泡剤0.15Lを含み、5%水酸化ナトリウム水溶液と25%塩酸を使ってpHを5.0~5.4に調整した培地に、種菌液400mLを加え、48時間通気攪拌培養した。
【0041】
(3)二次培養
製造用水8900L、米糠17.8kg、グルコース89kg、アスコルビン酸26.7kg、食品用消泡剤4.45Lを含み、5%水酸化ナトリウム水溶液と25%塩酸を使ってpHを5.0~5.4に調整した培地に、一次培養液200Lを投入し、72時間通気攪拌培養した。
得られた培養液から、上記と同様にしてβ-グルカンを精製した。
【0042】
(4)β-グルカンの分析
AFO-202株を使って製造されたβ-グルカンの化学構造を、実施例1(2)と同様に分析した。その結果、以下に示す通り、本発明に係るAPNN-M163株が産生するβ-グルカンの化学構造とは全く異なっていた。
【0043】
【化2】
【0044】
【表2】
【0045】
試験例1: 接着性試験
細胞培養用の平底96ウェルマイクロプレートに、実施例1、実施例2、又は比較例1で製造したβ-グルカンをPBSに溶解した2μg/mL溶液を、50μL/ウェル分注し、37℃で1時間インキュベートした。次いで、非イオン界面活性剤(「Tween20」)をPBSに溶解した0.05%溶液で、各でウェルを5回洗浄した。洗浄後、2%BSA-Tween20のPBS溶液300μLを各ウェルに加え、室温で1時間静置した後、Tween20のPBS溶液で4回洗浄することにより、各ウェルをコーティングした。
32000倍または16000倍に希釈したビオチン標識抗ウサギBG-IgG抗体50μLを各ウェルに分注し、室温で1時間反応させた。次いで、5000倍に希釈したペルオキシダーゼ(POD)標識ストレプトアビジン50μLを各ウェルに分注し、室温で30分間反応させた。Tween20のPBS溶液で各ウェルを10回洗浄した後、発色液(TMB)50μLを各ウェルに分注し、室温で10~12分間反応させた。
0.5M HCl50μLを加えて反応を停止させた後、マイクロプレートリーダーを使って、450nmの吸光度(O.D.)を測定した。結果を図1に示す。
【0046】
図1に示される結果の通り、AFO-202株により産生されたβ-グルカンと比較して、本発明に係るM163株により産生されたβ-グルカンは明らかに高い接着性を示した。検量線から推定すると、AFO-202株由来のβ-グルカンはプレートにほとんど接着していないのに対して、M163株由来のβ-グルカンは大凡500倍量接着したと考えられる。なお、M163株由来のβ-グルカンは、カラムへの接着によりゲルろ過クロマトグラフィーに分子量が不可能であったほどなので、極めて高い接着性を有するといえる。
【0047】
試験例2: MMP-9産生に対する作用
MMP-9(Matrix Metalloproteinase-9)は、コラーゲン等、細胞外マトリックスの構成分子を基質として分解するものであり、炎症、組織再形成、創傷治癒、サイトカインのプロセシングに関与すると共に、膵臓癌における線維形成、ヒト乳腺癌のリンパ節転移、悪性骨巨細胞腫における局所的血液浸潤など、がん細胞の浸潤転移にも関与していることが明らかにされている。そこで、β-グルカンのMMP-9産生に対する作用を試験した。
具体的には、口腔扁平上皮癌を10%RPMI1640培地に分散させた分散液50000cells/200μLを96ウェルプレートに分注し、実施例2または比較例1のβ-グルカンを最終濃度が10μg/mLとなるように加え、更にMMP-9を誘導するためのホルボール-12-ミリステート13-アセテート(PMA)を最終濃度が100ng/mLとなるように加え、5%CO2インキュベーター内において37℃で24時間または72時間インキュベートした。次いで、上清を回収し、MMP-9定量キット(「Quantikine MMP-9 ELISA Kit」フナコシ社製)を用い、MMP-9を定量した。また、比較のために、β-グルカンとPMAを添加せず、またPMAのみ添加した以外は同様にして実験した。結果を表3に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
表3に示される結果の通り、PMAによりMMP-9が誘導されるのに対して、β-グルカンはMMP-9の生合成を抑制するが、本発明に係るM163株により産生されたβ-グルカンのMMP-9産生抑制作用は、AFO-202株により産生されたβ-グルカンに比べて明らかに優れていた。
よって、本発明に係るM163株により産生されたβ-グルカンは、制がん剤の有効成分として有用であることが示唆された。
図1