(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180456
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット製品及びスパッタリングターゲット製品の再生品を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20221129BHJP
【FI】
C23C14/34 C
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146461
(22)【出願日】2022-09-14
(62)【分割の表示】P 2021508113の分割
【原出願日】2020-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2019064775
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】神永 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】杉本 圭次郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】村田 周平
(57)【要約】
【課題】スパッタリングターゲット製品のコストを低減させる。
【解決手段】スパッタリングターゲット製品であって、前記スパッタリングターゲット製品は、ターゲットと、バッキングプレート又はバッキングチューブと、インサート材の層とを含み、前記ターゲットの非スパッタ面側の少なくとも一部が面対称状の凹凸部を有するようにプロファイル化され、前記インサート材の層は前記プロファイル化された面に密着するように形成され、前記インサート材は、少なくともターゲットを構成する金属よりも比重の軽い金属から成る、該スパッタリングターゲット製品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリングターゲット製品であって、
前記スパッタリングターゲット製品は、ターゲットと、バッキングプレート又はバッキングチューブと、インサート材の層とを含み、
前記ターゲットの非スパッタ面側の少なくとも一部が面対称状の凹凸部を有するようにプロファイル化され、
前記インサート材の層は前記プロファイル化された面に密着するように形成され、
前記インサート材は、少なくともターゲットを構成する金属よりも比重の軽い金属から成る、
該スパッタリングターゲット製品。
【請求項2】
請求項1のスパッタリングターゲット製品であって、
前記インサート材の融点が、前記ターゲットの融点よりも低い、
該スパッタリングターゲット製品。
【請求項3】
請求項1又は2のスパッタリングターゲット製品であって、
前記インサート材のエッチングレートが、前記ターゲットのエッチングレートよりも高く、
前記インサート材の層の側面の少なくとも一部が、前記ターゲット及び前記バッキングプレート又はバッキングチューブによって覆われることなく露出している、
該スパッタリングターゲット製品。
【請求項4】
請求項1のスパッタリングターゲット製品であって、
前記ターゲットが、Ta又はTa合金から成り、
前記バッキングプレート又はバッキングチューブが、Cu又はCu合金から成り、
前記インサート材が、Al又はAl合金から成る、
該スパッタリングターゲット製品。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のスパッタリングターゲット製品であって、前記ターゲットの非スパッタ面側のすべての部分が、前記インサート材で覆われている、又は、前記バッキングプレート又はバッキングチューブと前記インサート材の両方で覆われている、該スパッタリングターゲット製品。
【請求項6】
請求項5のスパッタリングターゲット製品であって、前記ターゲットの非スパッタ面側のすべての部分が、前記インサート材で覆われている、該スパッタリングターゲット製品。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のスパッタリングターゲット製品の再生品を製造する方法であって、前記方法は、
ターゲットとバッキングプレート又はバッキングチューブを分離する工程と、
前記バッキングプレート又はバッキングチューブに新たなターゲットを接合する工程と
を含み、
前記分離する工程は、
熱処理によってインサート材を軟化又は溶融させること、及び、
エッチング処理によってインサート材を溶解させること、
のうちいずれか1つを含む、該方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スパッタリングターゲット製品及びスパッタリングターゲット製品の再生品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属又はセラミックスの薄膜を形成する方法としてスパッタリング法が挙げられる。スパッタリング法が活用される分野として、エレクトロニクス分野、耐食性材料及び装飾の分野、触媒分野、切削材及び研磨材等の耐摩耗性材料の製作分野などがあげられる。最近では、特にエレクトロニクスの分野において、複雑な形状の被膜の形成及び回路の形成に適合するタンタルスパッタリングターゲットなどが用いられている。
【0003】
特許文献1及び特許文献2では、スパッタリングターゲットの利用率を向上させる発明が開示されている。具体的には、バッキングプレートに円筒形状凹部を設け、当該凹部に対応するターゲットインサートを設けることを開示している。そして、必要とされるターゲット材料の量を減少させることにより、スパッタ用装置の生産性を高め、それによりコストを減少させることが開示されている。
【0004】
特許文献3では、タンタル又はタングステンターゲットと銅合金製バッキングプレートが厚さ0.5mm以上のアルミニウム又はアルミニウム合金板のインサート材を介して拡散接合されたスパッタリングターゲット製品が開示されている。
【0005】
特許文献4では、最も深い侵食溝に対応するいくつかの開口をコアバッキング構成要素が有するスパッタリングターゲット製品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2005/026406(特表2007-505217号公報)
【特許文献2】国際公開第2002/099157(特表2004-530048号公報)
【特許文献3】特開2002-129316号公報
【特許文献4】国際公開第2009/023529(特表2010-537043号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の様に、スパッタリングターゲット製品に関連するコストを下げる試みがなされているものの、依然としてコスト面での改良の余地が残されている。そこで、本開示では、上記特許文献とは異なるアプローチでコストを下げたスパッタリングターゲット製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
鋭意検討した結果、発明者はスパッタリングターゲット製品の重量に着目した。薄膜を形成する成分は、重金属等の比較的比重が大きい成分である。従って、スパッタリングターゲット製品も重量が大きくなる。そして、その分輸送コストも高くなり、更に取り扱い性にも難が生じる。スパッタリングターゲット製品の使用状況に着目すると、薄膜を形成する成分を含むターゲット部分は、均一に侵食されるわけではない。実際には、
図7~9に示すように、面対称状に凹凸を形成するように侵食される。従って、侵食が多い部分については、これに応じて、ターゲットの厚さを大きくする必要がある。一方で、侵食が少ない部分については、ターゲットの厚さが薄くても問題はない。即ち、侵食が少ない部分については、ターゲットの厚さを薄くすることが可能である。そして、薄くした分に応じて、ターゲットを構成する金属よりも比重の軽い金属で埋め合わせてもよい。これにより、製品全体の重量を軽くすることができる。
【0009】
本発明は、上記知見に基づいて完成され、一側面において、以下の発明を包含する。
(発明1)
スパッタリングターゲット製品であって、
前記スパッタリングターゲット製品は、ターゲットと、バッキングプレート又はバッキングチューブと、インサート材の層とを含み、
前記ターゲットの非スパッタ面側の少なくとも一部が面対称状の凹凸部を有するようにプロファイル化され、
前記インサート材の層は前記プロファイル化された面に密着するように形成され、
前記インサート材は、少なくともターゲットを構成する金属よりも比重の軽い金属から成る、
該スパッタリングターゲット製品。
(発明2)
発明1のスパッタリングターゲット製品であって、
前記インサート材の融点が、前記ターゲットの融点よりも低い、
該スパッタリングターゲット製品。
(発明3)
発明1又は2のスパッタリングターゲット製品であって、
前記インサート材のエッチングレートが、前記ターゲットのエッチングレートよりも高く、
前記インサート材の層の側面の少なくとも一部が、前記ターゲット及び前記バッキングプレート又はバッキングチューブによって覆われることなく露出している、
該スパッタリングターゲット製品。
(発明4)
発明1のスパッタリングターゲット製品であって、
前記ターゲットが、Ta又はTa合金から成り、
前記バッキングプレート又はバッキングチューブが、Cu又はCu合金から成り、
前記インサート材が、Al又はAl合金から成る、
該スパッタリングターゲット製品。
(発明5)
発明1~4のいずれか1つに記載のスパッタリングターゲット製品であって、前記ターゲットの非スパッタ面側のすべての部分が、前記インサート材で覆われている、又は、前記バッキングプレート又はバッキングチューブと前記インサート材の両方で覆われている、該スパッタリングターゲット製品。
(発明6)
発明5のスパッタリングターゲット製品であって、前記ターゲットの非スパッタ面側のすべての部分が、前記インサート材で覆われている、該スパッタリングターゲット製品。
(発明7)
発明1~6のいずれか1つに記載のスパッタリングターゲット製品の再生品を製造する方法であって、前記方法は、
ターゲットとバッキングプレート又はバッキングチューブを分離する工程と、
前記バッキングプレート又はバッキングチューブに新たなターゲットを接合する工程と
を含み、
前記分離する工程は、
熱処理によってインサート材を軟化又は溶融させること、及び、
エッチング処理によってインサート材を溶解させること、
のうちいずれか1つを含む、該方法。
【発明の効果】
【0010】
上記の発明は、一側面において、非スパッタ面側の少なくとも一部が面対称状の凹凸部を有するようにプロファイル化され、インサート材の層はプロファイル化された面に密着するように形成され、インサート材は、少なくともターゲットを構成する金属よりも比重の軽い金属から成る。これにより、スパッタリングターゲット製品全体の重量が減少し、コストを削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態において、プロファイル化のバリエーションを示す。
【
図2】一実施形態において、インサート材の一部が露出している状態を示す。
図2中の点線は、スパッタによるエロージョン分布を示す。
【
図3】ターゲットの非スパッタ面全てがバッキングプレートで覆われている状態を示す。
【
図4】一実施形態において、ターゲットの非スパッタ面全てがインサート材で覆われている状態を示す。
【
図5】一実施形態において、ターゲットの非スパッタ面全てが、バッキングプレートとインサート材で覆われている状態を示す。
【
図6】ターゲットの非スパッタ面の一部が、バッキングプレートとインサート材で覆われることなく、露出している状態を示す。
【
図7】使用後のターゲットの表面形状を表す(従来技術)。ターゲットの形状は円形であり、線Aは、対称面を表す(
図10参照)。下図は、上図の円形ターゲットを線Bで切断した時の横断面を表す。
【
図8】使用後のターゲットの表面形状を表す(従来技術)。ターゲットの形状は矩形であり、線Aは、対称面を表す(
図11参照)。下図は、上図の矩形ターゲットを線Bで切断した時の横断面を表す。
【
図9】使用後のターゲットの表面形状を表す(従来技術)。ターゲットの形状は円筒形であり、線Aは、対称面を表す(
図12参照)。下図は、上図の円筒形ターゲットを線Bで切断した時の横断面を表す。線Aは、円筒形の長軸と垂直な方向である。線Bは、円筒形の長軸と平行な方向である。
【
図10】
図7に記載した線Aに対応する対称面の三次元イメージを示す。
【
図11】
図8に記載した線Aに対応する対称面の三次元イメージを示す。
【
図12】
図9に記載した線Aに対応する対称面の三次元イメージを示す。
【
図13】バッキングプレートの凹部の形状を表す。凹部の側壁が形成する角度は、バッキングプレートの頂面に対する垂線を基準として定義される。より具体的には、凹部の側壁が当該垂線と平行である場合を0°と定義される。更には、凹部が形成する側壁が、蟻継ぎ(Dovetail)形状となる場合を、マイナスの角度と定義し、その逆をプラスの角度と定義する。なお、(C)に示すように、側壁が曲がっている場合には、曲がり部分の角度を、凹部の側壁が形成する角度とする。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための具体的な実施形態について説明する。以下の説明は、本発明の理解を促進するためのものである。即ち、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0013】
1.スパッタリングターゲット製品の構成
一実施形態において、本開示は、スパッタリングターゲット製品に関する。前記スパッタリングターゲット製品は、ターゲットと、バッキングプレート又はバッキングチューブと、インサート材の層とを含む。ターゲットの非スパッタ面側の少なくとも一部は、面対称状の凹凸部を有するようにプロファイル化されている。ここで、プロファイル化とは表面が特定の形状を有するように成形又は加工されることを指す(例えば、型による成形、研削、切削など)。そして、インサート材の層はプロファイル化された面に密着するように形成される。そして、インサート材は、少なくともターゲットを構成する金属よりも比重の軽い金属から成る。
【0014】
以下では、一実施形態におけるスパッタリングターゲット製品の特徴について詳述する。
【0015】
2.ターゲット
ターゲットの成分は、形成する薄膜の成分(又は一部の成分)と同一であってもよい。特に限定されないが、例えば、ターゲットの成分として、Sc、Ru、Rh、Pd、Re、Ir、Pt、Ta、Cu、Ti、W、Mo、Co、Nb、Zr、及びHf並びにこれらの少なくとも一種を含有する合金から成る群から選択される成分であってもよい。好ましくは、Ta及びTa合金があげられる。
【0016】
ターゲットの形状は、特に限定されず、円筒形でもよく、平板でもよい。また、平板のターゲットとして、矩形であってもよく、円形であってもよい。以下では平板のターゲットを例にとって説明する。
【0017】
ターゲットは、スパッタ面と非スパッタ面とを有する。スパッタ面は、スパッタリング時にアルゴンガス等が衝突する面であり、非スパッタ面は、当該スパッタ面に対して反対側の面である。
【0018】
非スパッタ面は、面対称状に凹凸部を有するようにプロファイル化される。対称面は、例えば、ターゲットの中心を通過し、且つターゲットの厚み方向と平行に通過する位置に存在してもよい。ここで厚み方向とは、スパッタ面に対して垂直な方向である。そして、対称面から同一の距離の位置に、同一の凹形状のペア、及び/又は同一の凸形状のペアが存在するようにプロファイル化されてもよい。具体的な実施形態においては、ターゲットは円板形であり、その場合には、同心円状のプロファイルとなる。従って、上記「面対称」という概念は、「同心円」という概念を包含する。
【0019】
例えば、ターゲットが円形の場合、対称面の位置は、円の中心を通過する面と同じ位置となる。そして、ターゲットが円形の場合、凹凸部によって形成される溝が同心円状に形成される。
【0020】
例えば、ターゲットが矩形の場合、対称面の位置は、以下の2つの条件を満たす。1つめの条件は、対称面が矩形の中心位置(例えば、矩形の2つ対角線の交点)を通過することである。2つめの条件は、対称面が矩形の対向する2つの辺と平行となることである。そして、ターゲットが矩形の場合、凹凸部によって形成される溝が、対称面と平行に形成される。
【0021】
例えば、ターゲットが円筒形の場合、対称面の位置は、以下の2つの条件を満たす。1つめの条件は、対称面が円筒形の長手方向の中心位置を通過することである。2つめの条件は、対称面が半径方向と平行となることである。そして、ターゲットが円筒形の場合、凹凸部によって形成される溝が、対称面と平行に形成される。
【0022】
面対称状に凹凸部を有するようにプロファイル化を行う理由として、スパッタリングによるエロージョン分布が面対称状に形成されることが挙げられる(
図7~9)。即ち、スパッタリングにより削られやすい部分と、削られにくい部分とが交互に且つ面対称状に分布する(
図2の点線部分参照)。従って、スパッタリングにより削られやすい部分の厚さを厚くして、スパッタリングにより削られにくい部分の厚さを薄くすることで、スパッタリングの利用効率を上げることができる。ただし、スパッタ面の形状を過度に複雑にするとアーキングやイグニッションエラー等の問題が生じるため、スパッタ面におけるプロファイル化の度合いには限度がある。このような点で、非スパッタ面をプロファイル化することが好ましい。従って、一実施形態においては、ターゲットの非スパッタ面側における面対称状の凹凸部は、適用されるスパッタ条件に応じて形成されるスパッタ面の面対称状の凹凸形状に少なくとも部分的に基づいて決定される。
【0023】
プロファイル化の具体的な形状は特に限定されず、例えば、
図1の(A)~(E)に示すように、任意の形状の凹凸部を設けてもよい。
図1は、ターゲットの断面図であり、上側がスパッタ面、下側が非スパッタ面を示す。例えば、
図1(A)に示すように、矩形の溝を形成してもよい。例えば、
図1(B)に示すように、三角形の溝を形成してもよい。例えば、
図1(C)に示すように、半円形の溝を形成してもよい。例えば、
図1(D)に示すように、正弦波の波形の溝を形成してもよい。例えば、
図1(E)に示すように、溝の深さ又は山の高さは不均一であってもよい。
【0024】
なお、ターゲットの比重の数値については、特に限定されず、インサート材の比重との関係で決定される。しかし、室温での比重が、少なくとも2.900g/cm3以上が好ましく、12.000g/cm3以上が更に好まししい。室温での比重の上限値は特に限定されず、典型的には、25.000g/cm3以下が好ましい。
【0025】
また、ターゲットの融点についても、特に限定されない。好ましい実施形態において、インサート材の融点との関係に鑑みて決定してもよい。例えば、1000℃以上であってもよく、好ましくは、1500℃以上であってもよい。上限値は特に限定されないが、典型的には3500℃以下であってもよい。
【0026】
3.バッキングプレート又はバッキングチューブ
バッキングプレート又はバッキングチューブは、ターゲットと結合され、ターゲットを支持する。また、バッキングプレート又はバッキングチューブ内に水路を設けてもよい。これにより、運転中は水路に水を流してスパッタリングターゲット全体を冷却し、インサート材が溶解して剥がれることの無いようにしてもよい。また、バッキングプレート又はバッキングチューブは、ターゲット及び/又はインサート材とボンディングされる側の面と、当該面に対する反対側の面とを有する。ターゲット及び/又はインサート材とボンディングされる側の面は、平滑であってもよく、或いは、ターゲットを埋め込むための凹部を設けてもよい。
【0027】
バッキングプレート又はバッキングチューブの成分は特に限定されず、Cu、Ti、Mo、及びこれらの少なくとも一種を含有する合金(例えば、Cu-Ni-Si合金(例えば、C18000など)、CuZn合金、CuCr合金)等があげられる。好ましくは、熱伝導率の高い材料が好ましく、この観点から、Cuが好適である。
【0028】
4.インサート材
インサート材は、ターゲットとバッキングプレート又はバッキングチューブの間に設けられ両者を結合させる役割を担う。インサート材は、ターゲットの非スパッタ面に接触する部分と、バッキングプレート又はバッキングチューブに接触する部分を少なくとも備える。上述したように、ターゲットの非スパッタ面は、面対称状に凹凸部を有するようにプロファイル化されているため、ターゲットの非スパッタ面に接触するインサート材の部分は、このプロファイル化された面に密着するような形状である。バッキングプレート又はバッキングチューブに接触するインサート材の部分の形状については、特に限定されないが、バッキングプレート又はバッキングチューブに密着するような形状であってもよい。
【0029】
なお、インサート材は、ターゲットの非スパッタ面の全てを覆うことは必須ではない。例えば、
図2では、インサート材の厚みが厚い部分と薄い部分とが交互に表示されているが、極端な例として、薄い部部分の厚みはゼロであってもよい(即ち、一部、インサート材を介さずに、ターゲットとバッキングプレート又はバッキングチューブとが直接接触してもよい)。インサート材の厚みがゼロになる箇所が部分的に存在する場合、インサート材は複数のブロックから構成されてもよい(
図5)。
【0030】
インサート材の成分は、少なくともターゲットを構成する金属よりも比重の軽い金属から成る。好適には、インサート材中で10質量%以上を占める金属はすべて、ターゲット中で10質量%以上を占める何れの金属の比重よりも5g/cm3以上軽いことが好ましく、8g/cm3以上軽いことがより好ましく、10g/cm3以上軽いことが更により好ましい。インサート材中で10質量%以上を占める金属と、ターゲット中で10質量%以上を占める金属を構成する金属との比重差に上限はないが、例えば20g/cm3以下とすることができ、典型的には15g/cm3以下とすることもできる。
例えば、ターゲットの成分がTa(室温で約16.654g/cm3)である場合、これよりも軽いAl(室温で約2.70g/cm3)及び/又はZn(室温で約7.14g/cm3)であってもよい。上記の様にプロファイル化された面に密着する形状であること、及びインサート材の成分が少なくともターゲットを構成する金属よりも比重の軽い金属から成ることにより、スパッタリングターゲット製品全体としての重量を減らすことができる。
【0031】
典型的な成分として、Al及びZn並びにこれらの少なくとも一種を含有する合金等が挙げられる。
【0032】
好ましい実施形態において、インサート材の成分は、少なくともバッキングプレート又はバッキングチューブを構成する金属よりも比重の軽い金属から成る。好適には、インサート材中で10質量%以上を占める金属はすべて、バッキングプレート又はバッキングチューブ中で10質量%以上を占める何れの金属の比重よりも5g/cm3以上軽いことが好ましく、8g/cm3以上軽いことがより好ましく、10g/cm3以上軽いことが更により好ましい。インサート材中で10質量%以上を占める金属と、バッキングプレート又はバッキングチューブ中で10質量%以上を占める金属を構成する金属との比重差に上限はないが、例えば20g/cm3以下とすることができ、典型的には15g/cm3以下とすることもできる。なお、インサート材の比重の数値については、特に限定されず、ターゲットの比重との関係で決定される。しかし、室温での比重が、少なくとも8.000g/cm3以下が好ましく、3.000g/cm3以下が更に好まししい。室温での比重の下限値は特に限定されず、典型的には、1.000g/cm3以上が好ましい。例えば、ターゲットの成分がTa(室温で約16.654g/cm3)である場合、且つ、バッキングプレートの成分がCu(室温で8.94g/cm3)である場合、インサート材は、これらよりも軽いAl(室温で約2.70g/cm3)であってもよい。
【0033】
具体的な比較対象の例を挙げると、インサート材を設けずに、ターゲットとバッキングプレート又はバッキングチューブを熱処理等で接合させるケースを考える(
図3)。この場合、ターゲットの非スパッタ側をプロファイル化すると、これに適合するようにバッキングプレート側又はバッキングチューブ側の一部もプロファイル化した形状にする必要がある。
【0034】
しかし、上記好ましい実施形態では、インサート材の成分は、少なくともバッキングプレート又はバッキングチューブを構成する金属よりも比重の軽い金属から成るため、その分、上記比較対象よりも軽量化を実現することができる。即ち、ターゲットのプロファイル化した面の凹部を埋める部分を、バッキングプレート又はバッキングチューブの成分ではなく、インサート材の成分にすることで、軽量化を実現することができる。
【0035】
また、比較対象の例では接合強度が下がる傾向があり、スパッタ中の物理的刺激により分離する可能性がある。更には、比較対象の例では、バッキングプレート側又はバッキングチューブ側もプロファイル化する必要があるため、リサイクルの効率が悪くなる可能性がある。
【0036】
また、別の好ましい実施形態において、インサート材の成分の融点は、ターゲットの融点よりも低い。更に好ましくは、インサート材の成分の融点は、バッキングプレート又はバッキングチューブの融点よりも低い。例えば、ターゲットがTaでバッキングプレート又はバッキングチューブがCuの場合(Ta、Cuいずれも融点が1000℃以上)、インサート材としてAl(融点660.32℃)又はAl合金を用いることができる。例えば、インサート材のAlは、バッキングプレート側のCuと一部合金化することで融点が更に下がる(CuとAlの比率にもよるが、例えば、548℃)。これにより、スパッタリングターゲット製品のリサイクルが容易になる。具体的には、ターゲットの融点よりも低く、且つインサート材の融点付近の温度及びこれよりも高い温度で熱処理をすることで、ターゲットとバッキングプレート又はバッキングチューブとを容易に分離することができる。インサート材の融点の数値範囲は、ターゲットの融点との関係で決定され(より好ましくは、ターゲット及びバッキングプレート又はバッキングチューブの融点との関係で決定され)、特に限定されないが、300℃~700℃の範囲が好ましい。
【0037】
また、融点の低い材料をインサート材に使用することで、接着強度を安定化させることが可能となる。この理由として、融点の低い材料は、拡散接合時の高温及び高圧力下での追従性が高いこと、そして、複雑な形状に変形可能であることがあげられる。この特性は、スパッタ時の物理的な刺激の観点から重要である。スパッタ中、ターゲットのスパッタ面は高温にさらされ、一方で非スパッタ面側は水冷されるため、反りが発生する。従って、接合不良を引き起こす可能性がある。しかし、融点の低い材料をインサート材に使用することで、反りに対する追従性が高まり、結果として接合不良を防止できる。なお、接合強度については、特に限定されないが、好ましくは6kgf/mm2以上、より好ましくは9kgf/mm2以上である。上限値は特に限定されないが、典型的には30kgf/mm2以下である。
【0038】
また、融点の低い材料をインサート材として使用することは、非スパッタ面のプロファイル化において要求される加工精度の観点からも有利である。上述したように、スパッタ面側ではイグニッションエラー等の問題があるため、プロファイル化の際に要求される加工精度が高い。一方で、非スパッタ面側ではそのような問題は発生しないため、要求される加工精度が相対的に低い。そして、加工精度の低い非スパッタ面と接合させるためには、インサート材は変形可能であることが好ましい。融点の低い材料のインサート材は、この要求に適合する。
【0039】
別の好ましい実施形態では、インサート材の成分は、インサート材のエッチングレートが、ターゲットよりも高くなるような成分である(更に好ましくは、インサート材の成分は、インサート材のエッチングレートが、バッキングプレート又はバッキングチューブのエッチングレートよりも高くなるような成分である)。例えば、ターゲットがTaであり、且つインサート材がAl又はZnの場合、一般的にはAl又はZnの方が、Taよりもエッチングレートが高い。当該好ましい実施形態では、
図2に示すようにインサート材の一部が外部に露出している。これにより、インサート材をエッチングすることが可能となる。
【0040】
従って、スパッタリングターゲット製品のリサイクルが容易になる。具体的には、エッチングによってインサート材を溶解させ、ターゲットとバッキングプレート又はバッキングチューブとを容易に分離することができる。
【0041】
インサート材は、一部でも露出していれば、そこからエッチングが進行する。露出部分は、典型的にはインサート材の側面部分(即ち、ターゲット及びバッキングプレート又はバッキングチューブと接触する部分以外の部分)である。
【0042】
なお、本明細書で述べるエッチングレートは、30%硝酸水溶液で実施した時のエッチングレートを指す(液温については特に限定されないが典型的には35℃である)。
【0043】
別の好ましい実施形態では、ターゲットの非スパッタ面側のすべての部分が、インサート材で覆われている(
図4)、又は、バッキングプレート又はバッキングチューブとインサート材の両方で覆われている(
図5)。前者の場合には、換言すれば、インサート材を介して、ターゲットの非スパッタ面側のすべての部分が、バッキングプレート又はバッキングチューブで覆われている。この場合、ターゲットとバッキングプレートとをさらに容易に分離することができる。後者の場合には、ターゲットの非スパッタ面側は、インサート材と接触している部分と、バッキングプレート又はバッキングチューブと接触している部分とが存在することとなる。
【0044】
ターゲットの非スパッタ面側の一部が露出していると(
図6)、マグネトロンスパッタリングの場合、マグネットの回転により発生する渦電流が悪影響を及ぼす可能性がある。しかし、ターゲットの非スパッタ面側のすべての部分を覆うことで、こうした悪影響を低減させることができる。
【0045】
5.リサイクル方法
一実施形態において、本開示は、スパッタリングターゲット製品の再生品を製造する方法に関する。前記方法は、以下の工程を含む。
ターゲットとバッキングプレート又はバッキングチューブを分離する工程。
バッキングプレート又はバッキングチューブに新たなターゲットを接合する工程。
【0046】
インサート材の融点が、ターゲットの融点よりも低い場合、前記分離する工程は、熱処理によってインサート材を軟化又は溶融させることを含む。このときの熱処理は、インサート材の融点付近の温度(例えば、融点±100℃)又はこれよりも高く、且つターゲットの融点よりも低い温度で処理することが好ましい。これにより、ターゲットにダメージを及ぼすことなく又はダメージを最小限にして、両者を分離することができる。
また、インサート材の融点が、ターゲット及びバッキングプレート又はバッキングチューブの融点よりも低い場合、前記熱処理は、インサート材の融点付近の温度(例えば、融点±100℃)又はこれよりも高く、且つターゲット及びバッキングプレート又はバッキングチューブの融点よりも低い温度で処理することが好ましい。これにより、ターゲット及びバッキングプレート又はバッキングチューブにダメージを及ぼすことなく又はダメージを最小限にして、両者を分離することができる。
【0047】
インサート材のエッチングレートが、ターゲットのエッチングレートよりも高い場合、前記分離する工程は、エッチング処理によってインサート材を溶解させることを含む。これにより、ターゲットにダメージを及ぼすことなく又はダメージを最小限にして、両者を分離することができる。
また、インサート材のエッチングレートが、ターゲット及びバッキングプレート又はバッキングチューブのエッチングレートよりも高い場合、ターゲット及びバッキングプレート又はバッキングチューブにダメージを及ぼすことなく又はダメージを最小限にして、両者を分離することができる。
【0048】
なお、バッキングプレート(又はバッキングチューブ)は、ターゲットを挿入するための凹部を設けてもよい。しかし、リサイクルの際には、使用済みターゲットを、バッキングプレート(又はバッキングチューブ)から分離する必要がある。従って、凹部の形状は、凹部から使用済みターゲットを引き抜く際に干渉することのない形状が好ましい。例えば、凹部の側壁が形成する角度は、0°以上が好ましい(例えば、
図13の(A)及び(B))。或いは、凹部の形状は、蟻継ぎとなる部分(
図13の(C)及び(D))が存在しないことが好ましい。これにより、使用済みターゲットをスムーズにバッキングプレートの凹部から引き抜くことができる。
【0049】
分離後は、公知の手段によって、新たなターゲット(使用済みターゲットを再生させた物含む)を再度バッキングプレート又はバッキングチューブに接合させる。これによって、スパッタリングターゲット製品の再生品が完成する。このときのインサート材については、リサイクル前のときと同じ成分のインサート材を使用することが好ましい。また、新たなターゲットは、リサイクル前のときと同じように非スパッタ面をプロファイル化したターゲットが好ましい。
【0050】
以上、本発明の具体的な実施形態について説明してきた。上記実施形態は、本発明の具体例に過ぎず、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上述の実施形態の1つに開示された技術的特徴は、他の実施形態に適用することができる。また、特記しない限り、特定の方法については、一部の工程を他の工程の順序と入れ替えることも可能であり、特定の2つの工程の間に更なる工程を追加してもよい。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって規定される。
【符号の説明】
【0051】
10 スパッタリングターゲット製品
20 ターゲット
30 インサート材
40 バッキングプレート
【手続補正書】
【提出日】2022-10-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリングターゲット製品であって、
前記スパッタリングターゲット製品は、ターゲットと、バッキングプレート又はバッキングチューブと、インサート材の層とを含み、
前記バッキングプレート又はバッキングチューブに凹部を有し、
前記ターゲット及び前記インサート材の層は前記凹部に嵌めこまれ、
前記ターゲットの非スパッタ面側の少なくとも一部が面対称状の凹凸部を有するようにプロファイル化され、
前記インサート材の層は前記プロファイル化された面に密着するように形成され、
前記インサート材は、少なくともターゲットを構成する金属よりも比重の軽い金属から成る、
該スパッタリングターゲット製品であり、
前記インサート材のエッチングレートが、前記ターゲットのエッチングレートよりも高く、ここで、前記エッチングレートは、30%硝酸水溶液で実施した時のエッチングレートであり、
前記インサート材の層の側面の少なくとも一部が、前記ターゲット及び前記バッキングプレート又はバッキングチューブによって覆われることなく露出している、
該スパッタリングターゲット製品。
【請求項2】
請求項1のスパッタリングターゲット製品であって、
前記インサート材の融点が、前記ターゲットの融点よりも低い、
該スパッタリングターゲット製品。
【請求項3】
請求項1のスパッタリングターゲット製品であって、
前記ターゲットが、Ta又はTa合金から成り、
前記バッキングプレート又はバッキングチューブが、Cu又はCu合金から成り、
前記インサート材が、Al又はAl合金から成る、
該スパッタリングターゲット製品。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のスパッタリングターゲット製品であって、前記ターゲットの非スパッタ面側のすべての部分が、前記インサート材で覆われている、又は、前記バッキングプレート又はバッキングチューブと前記インサート材の両方で覆われている、該スパッタリングターゲット製品。
【請求項5】
請求項4のスパッタリングターゲット製品であって、前記ターゲットの非スパッタ面側のすべての部分が、前記インサート材で覆われている、該スパッタリングターゲット製品。
【請求項6】
スパッタリングターゲット製品の再生品を製造する方法であって、
前記スパッタリングターゲット製品は、ターゲットと、バッキングプレート又はバッキングチューブと、インサート材の層とを含み、
前記バッキングプレート又はバッキングチューブに凹部を有し、
前記ターゲット及び前記インサート材の層は前記凹部に嵌めこまれ、
前記ターゲットの非スパッタ面側の少なくとも一部が面対称状の凹凸部を有するようにプロファイル化され、
前記インサート材の層は前記プロファイル化された面に密着するように形成され、
前記インサート材は、少なくともターゲットを構成する金属よりも比重の軽い金属から成り、
前記インサート材のエッチングレートが、前記ターゲットのエッチングレートよりも高く、ここで、前記エッチングレートは、30%硝酸水溶液で実施した時のエッチングレートであり、
前記インサート材の層の側面の少なくとも一部が、前記ターゲット及び前記バッキングプレート又はバッキングチューブによって覆われることなく露出しており、
前記方法は、
ターゲットとバッキングプレート又はバッキングチューブを分離する工程と、
前記バッキングプレート又はバッキングチューブに新たなターゲットを接合する工程と
を含み、
前記分離する工程は、
熱処理によってインサート材を軟化又は溶融させること、及び、
エッチング処理によってインサート材を溶解させること、
のうちいずれか1つを含む、該方法。