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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180668
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】腎機能障害の治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/423 20060101AFI20221130BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20221130BHJP
   C07D 263/56 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
A61K31/423
A61P13/12
C07D263/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019190112
(22)【出願日】2019-10-17
(71)【出願人】
【識別番号】304024865
【氏名又は名称】学校法人杏林学園
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 裕之
(72)【発明者】
【氏名】木村 徹
(72)【発明者】
【氏名】西尾 妙織
(72)【発明者】
【氏名】武田 紗夜
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 仁
【テーマコード(参考)】
4C056
4C086
【Fターム(参考)】
4C056AA01
4C056AB01
4C056AC02
4C056AD03
4C056AE03
4C056CA03
4C056CC01
4C056CD08
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC70
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA81
(57)【要約】
【課題】腎機能障害の治療剤等を提供する。
【解決手段】本発明は、式(I)で表される化合物、若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの薬理学的に許容し得る塩、あるいはそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む、腎機能障害(例えば多発性嚢胞腎)の治療剤や治療用医薬組成物等に係るものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】
[式中、Rは、水素原子又はアミノ保護基であり、Rは、水素原子、アリール基、アラルキル基又はアルキル基であり、Rは、アミノ基、ジメチルアミノ基又はニトロ基であり、Rは、水素原子、塩素原子又はジメチルアミノ基であり、Xは、CH又はNである。]
で表される化合物、若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの薬理学的に許容し得る塩、あるいはそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む、腎機能障害の治療剤。
【請求項2】
前記化合物が、下記式(II):
【化2】
[式中、Rは、アミノ基又はジメチルアミノ基であり、Rは、水素原子、塩素原子又はジメチルアミノ基であり、Xは、CH又はNである。]
で表される化合物である、請求項1に記載の治療剤。
【請求項3】
式(II)で表される化合物が、O-(5-アミノ-2-フェニルベンズオキサゾール-7-イル)メチル-3,5-ジクロロ-L-チロシンである、請求項2に記載の治療剤。
【請求項4】
腎機能障害が、多発性嚢胞腎である、請求項1~3のいずれか1項に記載の治療剤。
【請求項5】
多発性嚢胞腎が、常染色体優性多発性嚢胞腎である、請求項1~4のいずれか1項に記載の治療剤。
【請求項6】
下記式(I):
【化3】
[式中、Rは、水素原子又はアミノ保護基であり、Rは、水素原子、アリール基、アラルキル基又はアルキル基であり、Rは、アミノ基、ジメチルアミノ基又はニトロ基であり、Rは、水素原子、塩素原子又はジメチルアミノ基であり、Xは、CH又はNである。]
で表される化合物、若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの薬理学的に許容し得る塩、あるいはそれらの水和物若しくは溶媒和物を含む、腎機能障害の治療用医薬組成物。
【請求項7】
腎機能障害の治療用の薬剤を製造するための下記式(I):
【化4】
[式中、Rは、水素原子又はアミノ保護基であり、Rは、水素原子、アリール基、アラルキル基又はアルキル基であり、Rは、アミノ基、ジメチルアミノ基又はニトロ基であり、Rは、水素原子、塩素原子又はジメチルアミノ基であり、Xは、CH又はNである。]
で表される化合物、若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの薬理学的に許容し得る塩、あるいはそれらの水和物若しくは溶媒和物の使用。
【請求項8】
下記式(I):
【化5】
[式中、Rは、水素原子又はアミノ保護基であり、Rは、水素原子、アリール基、アラルキル基又はアルキル基であり、Rは、アミノ基、ジメチルアミノ基又はニトロ基であり、Rは、水素原子、塩素原子又はジメチルアミノ基であり、Xは、CH又はNである。]
で表される化合物、若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの薬理学的に許容し得る塩、あるいはそれらの水和物若しくは溶媒和物を被験対象に投与することを特徴とする、腎機能障害の治療方法。
【請求項9】
下記式(I):
【化6】
[式中、Rは、水素原子又はアミノ保護基であり、Rは、水素原子、アリール基、アラルキル基又はアルキル基であり、Rは、アミノ基、ジメチルアミノ基又はニトロ基であり、Rは、水素原子、塩素原子又はジメチルアミノ基であり、Xは、CH又はNである。]
で表される化合物、若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの薬理学的に許容し得る塩、あるいはそれらの水和物若しくは溶媒和物を含む、腎機能障害の治療用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎機能障害、例えば多発性嚢胞腎の治療剤などに関する。
【背景技術】
【0002】
腎機能障害には、種々の病態・疾患が知られており、その多くが慢性腎臓病(CKD;chronic kidney disease)を引き起こす可能性がある。慢性腎臓病は、腎臓病学の分野において最大の克服すべき課題となっており、それを未然に防ぐこと、すなわち腎機能障害の予防や治療が、従前より常に課題となっている。
腎機能障害のなかでも、多発性嚢胞腎は、腎臓に嚢胞(水がたまった袋)が多く形成され、腎臓が大きくなり、腎臓の働きが徐々に低下していく、遺伝性の病気である。腎臓以外にも、肝臓にたくさん嚢胞ができる場合もある。全身の血管にも異常があり、高血圧、脳動脈瘤、心臓の弁異常を伴う頻度が高くなり、その結果、脳出血やくも膜下出血の頻度が高くなる。
多発性嚢胞腎には、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)と常染色体劣性多発性嚢胞腎(ARPKD)とがある。なかでもADPKDは、末期腎不全に至る先天性の遺伝性腎疾患中、最多であり、概算で、日本国内で3万人、米国で12万人、欧州で20万人の患者がいるとみられている。
【0003】
多発性嚢胞腎の患者では、先天的に遺伝子(PKD1、PKD2)の異常がみられる。PKD1遺伝子は、第16番染色体短腕のp13.3に位置し、PKD2遺伝子は、第4番染色体長腕q21-23に位置する。これらの遺伝子が作るタンパク質(PC1、PC2)に異常があると多発性嚢胞腎を発症する。PKD1及びPKD2どちらの遺伝子の異常かによって病状に差があることが知られている。PC1及びPC2は、腎臓、肝臓、血管等で役割を果たしている。腎臓であれば尿細管の中を流れる液体の流れを感知し、肝臓であれば胆細管中の胆汁の流れを感知して、尿細管細胞や胆細管細胞が秩序よく並んで、尿細管や胆細管が本来の役割を果たす様に働いている。PDKタンパク質に異常があると、尿細管や胆細管細胞がチューブ状に規則正しく並ばなくなり、平面状に細胞数が増えてゆき、嚢胞が形成される。
【0004】
現在、ADPKDに対して認可されている治療薬は、バソプレシン受容体阻害薬トルバプタンのみであり、ADPKDの進行を遅らせることができることが明らかになった。しかしながら、この薬物は、肝機能障害、多尿、電解質異常(高ナトリウム血症)などの副作用があり、治療を継続できない患者も20%以上にのぼることが報告されており、患者のQOLを低下させることになっていた(例えば、非特許文献1参照)。そのため、より副作用が少なく効果の高いADPKD治療薬が必要とされている。
【0005】
ところで、アミノ酸は、生体にとって必須の栄養素であるが、一部のアミノ酸はシグナル分子としての役割を有し、神経の興奮や細胞増殖の促進など多様な生体反応に関与している。特に、必須アミノ酸の1つであるロイシンは、mammalian target of rapamycin (mTOR)系を活性化し、細胞増殖を増加させることが知られている。L型アミノ酸トランスポーター1(LAT1)は、ロイシンを含む大型中性アミノ酸を輸送するアミノ酸トランスポーターである。LAT1は、生体において胎盤、精巣、血液脳関門に発現がみられ、アミノ酸の関門通過に重要であると考えられている。関門での機能とは独立に、LAT1は発生初期や癌細胞といった増殖の速い細胞に多く発現しており(例えば、非特許文献2参照)、その基質であるロイシンの細胞増殖促進作用を考えると、このトランスポーターが細胞の増殖に重要な役割を果たしている可能性が高い。
【0006】
ADPKDの嚢胞を形成する細胞の増殖を抑制することができれば、バソプレシン受容体阻害薬に代わるADPKD治療薬となることが期待される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Vicente E. Torres et al., Tolvaptan in Patients with Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease, N. Engl. J. Med., 2012; 367:2407-2418DOI: 10.1056/NEJMoa1205511
【非特許文献2】Kanai Y. et al., Expression cloning and characterization of a transporter for large neutral amino acids activated by the heavy chain of 4F2 antigen (CD98), J. Biol. Chem., 1998 Sep 11; 273(37):23629-23632.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況下において、腎機能障害の治療に有用な、新たな医薬製剤や治療方法等の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記状況を考慮してなされたもので、以下に示す、腎機能障害の治療剤や治療用医薬組成物等を提供するものである。
(1)下記式(I):
【化1】
[式中、Rは、水素原子又はアミノ保護基であり、Rは、水素原子、アリール基、アラルキル基又はアルキル基であり、Rは、アミノ基、ジメチルアミノ基又はニトロ基であり、Rは、水素原子、塩素原子又はジメチルアミノ基であり、Xは、CH又はNである。]
で表される化合物、若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの薬理学的に許容し得る塩、あるいはそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む、腎機能障害の治療剤。
【0010】
(2)前記化合物が、下記式(II):
【化2】
[式中、Rは、アミノ基又はジメチルアミノ基であり、Rは、水素原子、塩素原子又はジメチルアミノ基であり、Xは、CH又はNである。]
で表される化合物である、前記(1)に記載の治療剤。
【0011】
(3)式(II)で表される化合物が、O-(5-アミノ-2-フェニルベンズオキサゾール-7-イル)メチル-3,5-ジクロロ-L-チロシンである、前記(2)に記載の治療剤。
(4)腎機能障害が、多発性嚢胞腎(例えば、常染色体優性多発性嚢胞腎など)である、前記(1)~(3)のいずれか1つに記載の治療剤。
(5)前記式(I)で表される化合物、若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの薬理学的に許容し得る塩、あるいはそれらの水和物若しくは溶媒和物を含む、腎機能障害の治療用医薬組成物。
【0012】
(6)腎機能障害の治療用の薬剤を製造するための前記式(I)で表される化合物、若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの薬理学的に許容し得る塩、あるいはそれらの水和物若しくは溶媒和物の使用。
(7)前記式(I)で表される化合物、若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの薬理学的に許容し得る塩、あるいはそれらの水和物若しくは溶媒和物を被験対象に投与することを特徴とする、腎機能障害の治療方法。
(8)前記式(I)で表される化合物、若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの薬理学的に許容し得る塩、あるいはそれらの水和物若しくは溶媒和物を含む、腎機能障害の治療用キット。
なお、前記(5)の医薬組成物、前記(6)の使用、前記(7)の治療方法、及び前記(8)のキットにおいても、式(I)で表される化合物としては、例えば、下記式(II):
【化3】
[式中、Rは、アミノ基又はジメチルアミノ基であり、Rは、水素原子、塩素原子又はジメチルアミノ基であり、Xは、CH又はNである。]
で表される化合物が挙げられ、また、腎機能障害としては、例えば、多発性嚢胞腎(例えば、常染色体優性多発性嚢胞腎など)が挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、腎機能障害、なかでも多発性嚢胞腎、特に常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の治療に有用な医薬製剤・医薬組成物、該腫瘍の治療に有用な方法、及び該腫瘍の治療用キット等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】JPH203による細胞増殖抑制効果を示す図である。
図2】多発性嚢胞腎モデルマウスにJPH203を投与した群とコントロール群の腎臓の表現型(HE染色の結果)を示す図である。
図3】多発性嚢胞腎モデルマウスにJPH203を投与した腎臓の嚢胞占有面積(Cystic Index)(%)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0016】

1.腎機能障害の治療剤、治療用医薬組成物等
本発明の腎機能障害の治療剤(以下、「本発明の治療剤」ということがある。)、及び、腎機能障害の治療用医薬組成物(以下、「本発明の医薬組成物」ということがある。)は、前述した通り、下記式(I):
【化4】
[式中、Rは、水素原子又はアミノ保護基であり、Rは、水素原子、アリール基、アラルキル基又はアルキル基であり、Rは、アミノ基、ジメチルアミノ基又はニトロ基であり、Rは、水素原子、塩素原子又はジメチルアミノ基であり、Xは、CH又はNである。]
で表される化合物(以下、「本発明の化合物」ということがある。)、若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの薬理学的に許容し得る塩、あるいはそれらの水和物若しくは溶媒和物(以下、「本発明の化合物等」ということがある。)を有効成分として含むことを特徴とするものである。
なお、本発明は、(i) 本発明の化合物等を用いること、具体的には例えば、本発明の化合物等の有効量を被験対象(腎機能障害の患者又はその恐れのある患者、あるいはそのような非ヒト哺乳動物)に投与することを含む、腎機能障害の治療方法、(ii) 腎機能障害の治療用の薬剤を製造するための本発明の化合物等の使用、(iii) 腎機能障害の治療用の本発明の化合物等の使用、並びに、(iv) 腎機能障害の治療用の本発明の化合物等も含むものである。
本発明において、腎機能障害の治療としては、具体的には、例えば、腎機能障害の進行抑制や、予後改善や、寛解に至るまでの治療などが含まれ、さらには、一般的な治療の意味に限らず、腎機能障害の予防や、再発防止等も含まれる。
【0017】
本発明において、治療対象となる腎機能障害としては、慢性腎臓病(CKD)の発症につながる可能性のあるものをいずれも含み、特に限定はされないが、例えば、多発性嚢胞腎、非多発性腎嚢胞、及びCKDでのネフロン数減少等が挙げられ、なかでも多発性嚢胞腎が好ましく挙げられる。ここで、多発性嚢胞腎としては、限定はされないが、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)や常染色体劣性多発性嚢胞腎(ARPKD)が挙げられ、好ましくはADPKDである。
【0018】
本発明の治療剤及び医薬組成物の有効成分である、前記式(I)の化合物においては、Rのアミノ保護基としては、アミノ基を一般的に保護し得る基であればよく、具体的には、アシル基、例えば、アルコキシカルボニル、ハロゲン原子等で置換されていてもよい低級アルカノイル、シクロ低級アルキルオキシ、低級アルカノイル、カルボキシ低級アルカノイル、低級アルキルカルバモイル、アロイル、アレーンスルホニル基等が好ましく挙げられる。より好ましいアミノ保護基としては、t-ブトキシカルボニル、トリフルオロアセチル、アセチル等が挙げられる。なお、本明細書でいう「低級」とは、特に制限しない限り、炭素数1~6のものを意味する。
【0019】
また、Rのアルキル基としては、低級アルキル基が好ましく、具体的には、メチル、エチル、プロピル等が挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル、フェネチル等が挙げられる。アリール基としては、フェニル、トリル、キシリル、クメニル、メシル、ナフチル、ビフェニル等が挙げられる。
前記式(I)の化合物におけるR及びRは、水素原子であることが好ましい。また、R又はXは、ベンゾオキサゾール環の結合部位を1位としたとき、4位に存在することが好ましい。なお、Rが水素原子である場合、Xは4位に存在することが好ましく、Rが水素原子以外であり、XがNである場合、Rが4位(パラ位)に存在し、Xは3位に存在することが好ましい。
【0020】
前記式(I)の化合物の好ましい具体例としては、限定はされないが、例えば、下記式(II):
【化5】
[式中、Rは、アミノ基又はジメチルアミノ基であり、Rは、水素原子、塩素原子又はジメチルアミノ基であり、Xは、CH又はNである。]
で表される化合物が好ましく挙げられる。
前記式(II)において、R又はXは、ベンゾオキサゾール環の結合部位を1位としたとき、4位に存在することが好ましい。なお、Rが水素原子である場合、Xは4位に存在することが好ましく、Rが水素原子以外であり、XがNである場合、Rが4位(パラ位)に存在し、Xは3位に存在することが好ましい。
【0021】
さらに、前記式(II)の化合物の好ましい具体例としては、限定はされないが、下記構造式:
【化6】
で表される化合物、すなわち、O-(5-アミノ-2-フェニルベンズオキサゾール-7-イル)メチル-3,5-ジクロロ-L-チロシンが、好ましく挙げられる。当該化合物は、製品名「JPH203」として公知である市販のものを使用することができるが、限定はされず、独自に合成、抽出及び精製等したものを使用してもよい。
【0022】
本発明の治療剤及び医薬組成物の有効成分としては、本発明の化合物と共に、又は本発明の化合物に代えて、本発明の化合物の誘導体を用いることもできる。当該誘導体としては、本発明の化合物由来の化学構造を有する等、当業者の技術常識に基づいて当該誘導体と考えられるものであればよく、限定はされないが、多発性嚢胞腎(特にADPKD)の治療効果が本発明の化合物と同程度ものであることが好ましい。
【0023】
本発明の化合物やその誘導体としては、例えば、生体内で酸化、還元、加水分解、又は抱合などの代謝を受けるものも包含するほか、生体内で酸化、還元、又は加水分解などの代謝を受けて本発明の化合物やその誘導体を生成する化合物(いわゆるプロドラッグ)も含まれる。本発明において、プロドラッグとは、薬理学的に許容し得る、通常プロドラッグにおいて使用される基で親化合物を修飾した化合物をいい、例えば、安定性や持続性の改善等の特性が付与され、腸管内等で親化合物に変換されて効果を発現することが期待できる化合物をいう。例えば、本発明の化合物のプロドラッグは、対応するハロゲン化物等のプロドラッグ化試薬を用いて、常法により、当該化合物中のプロドラッグ化の可能な基(例えば、水酸基、アミノ基、その他の基)から選択される1以上の任意の基に、常法に従い適宜プロドラッグを構成する基を導入した後、必要に応じ、単離精製することにより製造することができる。ここで、上記プロドラッグを構成する基としては、限定はされないが、例えば、低級アルキル-CO-、低級アルキル-O-低級アルキレン-CO-、低級アルキル-OCO-低級アルキレン-CO-、低級アルキル-OCO-、及び低級アルキル-O-低級アルキレン-OCO-等が好ましく挙げられる。
【0024】
本発明の治療剤及び医薬組成物の有効成分としては、本発明の化合物及びその誘導体やそれらのプロドラッグと共に、又は本発明の化合物及びその誘導体やそれらのプロドラッグに代えて、それらの薬理学的に許容し得る塩を用いることもできる。
本発明の化合物及びその誘導体の薬理学的に許容し得る塩としては、限定はされないが、例えば、ハロゲン化水素酸塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、及びヨウ化水素酸塩など)、無機酸塩(例えば、硫酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、炭酸塩、及び重炭酸塩など)、有機カルボン酸塩(例えば、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、及びクエン酸塩など)、有機スルホン酸塩(例えば、メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、及びカンファースルホン酸塩など)、アミノ酸塩(例えば、アスパラギン酸塩、及びグルタミン酸塩など)、四級アミン塩、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、及びカリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(例えば、マグネシウム塩、及びカルシウム塩など)などが好ましく挙げられる。
【0025】
本発明に用いる本発明の化合物等は、化合物の構造上生じ得るすべての異性体(例えば、幾何異性体、不斉炭素に基づく光学異性体、回転異性体、立体異性体、及び互変異性体等)及びこれら異性体の2種以上の混合物をも包含し、便宜上の構造式の記載等に限定されるものではない。また、本発明の化合物等は、S-体、R-体又はRS-体のいずれであってもよく、限定はされない。さらに、本発明の化合物等は、その種類により水和物や溶媒和物の形で存在する場合もあり、本発明においては当該水和物及び溶媒和物も本発明の化合物等に含むものとし、本発明の治療剤及び医薬組成物の有効成分として用いることができる。当該溶媒和物としては、限定はされないが、例えば、エタノールとの溶媒和物等が挙げられる。
【0026】
本発明の治療剤及び医薬組成物において、有効成分としての本発明の化合物等の含有割合は、限定はされず、適宜設定することができるが、例えば、治療剤や医薬組成物全体に対して、0.01~99重量%の範囲内とすることができ、好ましくは、0.01~30重量%、より好ましくは0.05~20重量%、さらに好ましくは0.1~10重量%の範囲内としてもよい。有効成分の含有割合が上記範囲内であることにより、本発明の治療剤及び医薬組成物は、腎機能障害、例えば多発性嚢胞腎(特にADPKD)の治療効果を十分に発揮することができる。
【0027】
本発明の治療剤及び医薬組成物は、本発明の化合物等以外にも、本発明の効果が著しく損なわれない範囲で他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、公知の又は開発中の薬剤が挙げられ、例えば、トルバプタン、バルドキソメチル、メトホルミン、ベングルスタット等のうちの1種又は2種以上を、併用することもできる。さらに、本発明の治療剤及び医薬組成物は、例えば、後述する薬剤製造上一般に用いられるもの等を含むこともできる。
【0028】
本発明の治療剤及び医薬組成物は、被験対象としてのヒト又は非ヒト哺乳動物(例えば、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して、種々の投与経路、具体的には、経口、又は非経口(例えば静脈内注射(静注)、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、直腸投与、経皮投与)で投与することができる。従って、本発明の化合物等は、単独で用いることも可能であるが、投与経路に応じて慣用される方法により薬学的に許容し得る担体を用いて適当な剤形に製剤化して用いることができる。
剤形としては、経口剤では、例えば、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、被覆錠剤、カプセル剤、内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、及びトローチ剤等が挙げられ、非経口剤では、例えば、注射剤(点滴剤を含む)、吸入剤、軟膏剤、点鼻剤、及びリポソーム剤等が挙げられる。なお、上述した各種経口剤とする場合、本発明の治療剤及び医薬組成物は、場合によりサプリメント剤(例えば機能性食品に該当する)として利用することもできる。
【0029】
これら製剤の製剤化に用い得る担体としては、例えば、通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、及び矯味矯臭剤のほか、必要に応じ、安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤、増量剤、湿潤化剤、表面活性化剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、及び無痛化剤等が挙げられ、医薬品製剤の原料として用いることができる公知の成分を配合して常法により製剤化することが可能である。
【0030】
当該成分として使用可能な無毒性のものとしては、例えば、大豆油、牛脂、及び合成グリセライド等の動植物油;流動パラフィン、スクワラン、及び固形パラフィン等の炭化水素;ミリスチン酸オクチルドデシル、及びミリスチン酸イソプロピル等のエステル油;セトステアリルアルコール、及びベヘニルアルコール等の高級アルコール;シリコン樹脂;シリコン油;ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、及びポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー等の界面活性剤;ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、及びメチルセルロース等の水溶性高分子;エタノール、及びイソプロパノール等の低級アルコール;グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ソルビトール、及びポリエチレングリコール等の多価アルコール(ポリオール);グルコース、及びショ糖等の糖;無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、及びケイ酸アルミニウム等の無機粉体;塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム等の無機塩;精製水等が挙げられ、いずれもその塩またはその水和物であってもよい。
【0031】
賦形剤としては、例えば、乳糖、果糖、コーンスターチ、白糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビット、結晶セルロース、及び二酸化ケイ素等が、結合剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、メチルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、シェラック、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリプロピレングリコール・ポリオキシエチレン・ブロックポリマー、及びメグルミン等が、崩壊剤としては、例えば、澱粉、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、ペクチン、及びカルボキシメチルセルロース・カルシウム等が、滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ、及び硬化植物油等が、着色剤としては医薬品に添加することが許可されているものが、矯味矯臭剤としては、例えば、ココア末、ハッカ脳、芳香散、ハッカ油、竜脳、及び桂皮末等が、それぞれ好ましく挙げられ、いずれもその塩又はそれらの水和物であってもよい。
【0032】
また、pH調整剤は、注射剤として製剤化する場合等に使用される。pH調整剤としては、例えば、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されず、具体的には、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ナトリウムエトキシド、カリウムブトキシド、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのようなアルカリ金属水酸化物、水素化ナトリウム、水素化カリウムのようなアルカリ金属水素化物、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属アルコキシド等が挙げられる。配合されるpH調整剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。注射剤等として製剤化する場合は、pH調整剤を用いて適当なpHに適宜調整することができる。本発明においては、pHは、3~6であることが好ましく、3~5であることがより好ましく、3~4.5であることがさらに好ましく、3.5~4.5であることが特に好ましい。
【0033】
なお、注射剤として製剤化する場合は、シクロデキストリン類を含有していてもよい。シクロデキストリン類は、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に限定はされない。このようなシクロデキストリン類として、例えば、未修飾シクロデキストリン、修飾シクロデキストリン等が挙げられる。未修飾シクロデキストリンとして、例えば、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン等が挙げられる。また修飾シクロデキストリンとして、例えば、アルキル化シクロデキストリン(例えば、ジメチル-α-シクロデキストリン、ジメチル-β-シクロデキストリン、ジメチル-γ-シクロデキストリン等)、ヒドロキシアルキル化シクロデキストリン(例えば、ヒドロキシプロピル-α-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン等)、スルホアルキルエーテルシクロデキストリン(例えば、スルホブチルエーテル-α-シクロデキストリン、スルホブチルエーテル-β-シクロデキストリン、スルホブチルエーテル-γ-シクロデキストリン)、分岐シクロデキストリン(例えば、マルトシル-α-シクロデキストリン、マルトシル-β-シクロデキストリン、マルトシル-γ-シクロデキストリン等)等が挙げられる。
【0034】
シクロデキストリン類は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。配合されるシクロデキストリン類は、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、又は、スルホブチルエーテル-β-シクロデキストリンが好ましく、スルホブチルエーテル-β-シクロデキストリンがより好ましい。
シクロデキストリン類の含有量は特に限定されず、その種類、注射剤の用途、使用方法等に応じて適宜設定される。シクロデキストリン類の含有量として、例えば、注射剤の総量を基準に、5~50重量%であることが好ましく、10~40重量%であることがより好ましく、10~30重量%であることがさらに好ましい。
【0035】
本発明の治療剤及び医薬組成物の投与量は、一般には、製剤中の有効成分(本発明の化合物等)の配合割合を考慮した上で、投与対象(患者)の年齢、体重、病気の種類・進行状況や、投与経路、投与回数(/1日)、投与期間等を勘案し、適宜、広範囲に設定することができる。
本発明の治療剤及び医薬組成物を、非経口剤又は経口剤として用いる場合について、以下に具体的に説明する。
【0036】
非経口剤として用いる場合、一般にその形態は限定されないが、各種注射剤の場合は、例えば、単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態や、使用時に溶解液に再溶解させる凍結乾燥粉末の状態で提供され得る。当該非経口剤には、有効成分となる本発明の化合物等のほかに、各種形態に応じ、公知の各種賦形材や添加剤を上記有効成分の効果が損なわれない範囲で含有することができる。例えば、各種注射剤の場合は、水、グリセロール、プロピレングリコールや、ポリエチレングリコール等の脂肪族ポリアルコール等が挙げられる。
非経口剤の投与量(1日あたり)は、限定はされないが、例えば各種注射剤であれば、一般には、有効成分となる本発明の化合物等を、適用対象(被験者、患者等)の体重1kgあたり、0.01~1000mg、0.05~500mg、又は0.1~50 mg服用できる量とすることができ、あるいは0.5~20 mg服用できる量や1~10 mg服用できる量とすることもできる。
【0037】
経口剤として用いる場合、一般にその形態は限定されず、前述した剤形のいずれであってもよいし、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよい。当該経口剤には、有効成分となる本発明の化合物等のほかに、各種形態に応じ、公知の各種賦形材や添加剤を上記有効成分の効果が損なわれない範囲で含有することができる。例えば、結合剤(シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビトール、トラガカント、ポリビニルピロリドン等)、充填材(乳糖、糖、コーンスターチ、馬鈴薯でんぷん、リン酸カルシウム、ソルビトール、グリシン等)、潤滑剤(ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ等)、崩壊剤(各種でんぷん等)、および湿潤剤(ラウリル硫酸ナトリウム等)等が挙げられる。
【0038】
経口剤の投与量(1日あたり)は、一般には、有効成分となる本発明の化合物等を、適用対象(被験者、患者等)の体重1 kgあたり、0.05~5000mg、0.1~1000mg、又は0.1~100 mg服用できる量とすることができ、あるいは0.5~50 mg服用できる量や1~10 mg服用できる量とすることもできる。また、経口剤中の有効成分の配合割合は、限定はされず、1日あたりの投与回数等を考慮して、適宜設定することができる。
【0039】

2.キット
腎機能障害、例えば多発性嚢胞腎(特にADPKD)の治療を行うに当たっては、本発明の化合物等を含むキット(具体例として、前述した本発明の治療剤や医薬組成物を含むキット)を用いることができる。
当該キットにおける本発明の化合物等の形態は、限定はされないが、安定性(保存性)及び使用容易性等を考慮し、例えば溶解した状態で備えられていてもよい。
当該キットは、本発明の化合物等以外にも、適宜、他の構成要素を含むことができる。
【0040】
当該キットは、構成要素として少なくとも本発明の化合物等を備えているものであればよい。従って、前記腫瘍の治療に必須となる構成要素の全てを、本発明の化合物等と共に備えているものであってもよいし、別々に備えているものであってもよく、限定はされない。
【0041】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0042】
PKD1のfloxマウス(標的となるPKD1遺伝子領域をCreリコンビナーゼ標的配列loxPで挟んだ遺伝子座を持つマウス)から条件的に不死化された近位尿細管細胞(Wei F, Karihaloo A, Yu Z, et al. Neutrophil gelatinase-associated lipocalin suppresses cyst growth by Pkd1 null cells in vitro and in vivo. Kidney Int. 2008;74:1310-1318.)を採取し、Creリコンビナーゼをトランスフェクションすることによって得た細胞(図1のPKD-/-)とリコンビナーゼを作用させなかった細胞(図1のPKD+/-)を37℃のインターフェロンγ非存在下(non-permissive conditions)で2日間培養し、さらに異なる濃度のJPH203存在下で2日間培養した。生存している細胞数は、MTT(3-(4,5-Dimethylthial-2-yl)-2,5-Diphenyltetrazalium Bromide)アッセイにより測定した。この条件では、インターフェロンγが存在しないので、もとの近位尿細管細胞としての性格が保たれていると考えられる。PKD遺伝子をヘテロで持っているコントロール細胞(図1のPKD+/-)に比べ、PKD遺伝子を失った細胞(図1のPKD-/-)はJPH203投与により濃度依存的に増殖が抑制された。これは、PKD遺伝子の欠損により腎尿細管細胞の増殖がLAT1に依存するようになったことを示唆している。
【実施例0043】
Pkd1flox/floxマウスとMx1-Creマウスを交配し、薬剤誘導型pkd1コンディショナルノックアウトマウスであるpkd1flox/flox・Mx1-Creマウスを作成した。pkd1flox/flox・Mx1-Creマウスに、生後5~6日間連続で10μg/g (体重) のポリイノシン・ポリシチジン酸を腹腔内投与し、pkd1遺伝子を欠失させた。その後、生後12日から生後34日まで50μg/g (体重)のJPH203(ジェイファーマ(株)製)を腹腔内に隔日投与した。また、コントロール群として、同じ手順でpkd1遺伝子を欠失させたマウスに、生後12日目から生後34日目までシクロデキストリンを腹腔内に隔日投与した。これらのマウスを生後35日に屠殺し腎の表現型について比較検討した。病理組織学的解析のため、屠殺時に4%パラフォルムアルデヒドで還流固定した腎を、パラフィン包埋して切片を作成し、ヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)を行った。さらに、HE染色切片を用いて腎臓の嚢胞占有面積 (Cystic Index)(%)を測定した。Cystic Indexは、WinROOF (Mitani corporation, Tokyo, Japan)を用いて測定し、腎の長軸で二分割した断面積に対する嚢胞面積の割合と定義した。腎機能(BUN)の解析は、右心房より採血を行ったのち、セロテックUN-ML尿素窒素キットを用いて血清尿素窒素(mg/dl)を測定した。
【0044】
その結果、HE染色の組織像においては、コントロール群に比べてJPH203投与群では腎嚢胞の形成が抑制されていた(図2)。Cystic Indexについては、JPH203投与群で有意な減少を認めた(57.0±2.5% vs 44.2±3.6%, p=0.0068, Mean±SEM, Mann-Whitney検定)(図3)。また、腎機能(BUN)については、下記表1に示すように、コントロール群に比べてJPH203投与群の方が明らかに優れていた。なお、図2と表1においては、いずれも、コントロール群の結果としては、代表的なコントロールマウス:1036の結果を示し、JPH203投与群の結果としては、代表的なJPH203投与マウス:893の結果を示した。
【0045】
[表1]
多発性嚢胞腎モデルマウスにおける、腎嚢胞形成(コントロール)とJPH203投与による腎嚢胞形成抑制(JPH203投与)を示す腎組織(図2)と連動した、腎機能(BUN)の比較。

動物の種類 BUN
コントロール群 135 mg/dl
JPH203投与群 50.7 mg/dl
図1
図2
図3