(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180851
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】プライマーセット、リアルタイムPCR用プローブ、及びリアルタイムPCR用キット、並びにそれらの用途
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20221130BHJP
C12Q 1/6888 20180101ALI20221130BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20221130BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20221130BHJP
C12N 15/53 20060101ALN20221130BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12Q1/6888 Z
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
C12N15/53
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087573
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】芝池 博幸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 健二
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】本発明は、効率的にカワヒバリガイの存在を検出する方法を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明のプライマーセットは、配列番号1で示される塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと、配列番号2で示される塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとを含んでいる。また、本発明のリアルタイムPCR用プローブは、配列番号3で示される塩基配列を含みかつ前記塩基配列の5’末端側及び3’末端側に蛍光物質及びクエンチャー物質をそれぞれ備えるオリゴヌクレオチドを含んでいる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で示される塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと、配列番号2で示される塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとを含むプライマーセット。
【請求項2】
カワヒバリガイのシトクロームオキシダーゼサブユニットI(COI)遺伝子をリアルタイムPCR法で検出するための、請求項1に記載のプライマーセット。
【請求項3】
配列番号3で示される塩基配列を含むオリゴヌクレオチドを含むリアルタイムPCR用プローブと組み合わせて使用するための、請求項1又は2に記載のプライマーセット。
【請求項4】
配列番号3で示される塩基配列を含み、かつ、前記塩基配列の5’末端側及び3’末端側に蛍光物質及びクエンチャー物質をそれぞれ備えるオリゴヌクレオチドを含むリアルタイムPCR用プローブ。
【請求項5】
カワヒバリガイのCOI遺伝子をリアルタイムPCR法で検出するための、請求項4に記載のリアルタイムPCR用プローブ。
【請求項6】
配列番号1で示される塩基配列を含むオリゴヌクレオチドを含むフォワードプライマーと組み合わせて使用するための、請求項4又は5に記載のリアルタイムPCR用プローブ。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載のプライマーセットを含む、リアルタイムPCR用キット。
【請求項8】
請求項4~6のいずれか1項に記載のリアルタイムPCR用プローブをさらに含む、請求項7に記載のリアルタイムPCR用キット。
【請求項9】
カワヒバリガイのCOI遺伝子をリアルタイムPCR法で検出するための、請求項7又は8に記載のリアルタイムPCR用キット。
【請求項10】
カワヒバリガイのCOI遺伝子をリアルタイムPCR法で検出する方法であって、
試料中のカワヒバリガイ由来のDNAを、請求項1~3のいずれか1項に記載のプライマーセットを用いて増幅する工程と、
増幅したDNAを検出する工程と
を含む、方法。
【請求項11】
前記増幅工程において、請求項4~6のいずれか1項に記載のリアルタイムPCR用プローブをさらに使用する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記検出工程が、カワヒバリガイのCOI遺伝子のコピー数を定量する工程を含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記試料が、環境サンプルである、請求項10~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
カワヒバリガイのCOI遺伝子を定量する方法であって、
試料中のカワヒバリガイ由来のDNAを、請求項1~3のいずれか1項に記載のプライマーセットを用いて増幅する工程を含む、方法。
【請求項15】
前記増幅工程において、請求項4~6のいずれか1項に記載のリアルタイムPCR用プローブをさらに使用する、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プライマーセット、リアルタイムPCR用プローブ、及びリアルタイムPCR用キット、並びにそれらの用途、特にそれらを用いてカワヒバリガイ(Limnoperna fortunei)のシトクロームオキシダーゼサブユニットI(COI)遺伝子をリアルタイムPCR法で検出又は定量する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カワヒバリガイは、中国及び韓国原産の小さな淡水二枚貝種であるが、日本を含むアジア諸国や南アメリカに分布を広げている侵略的外来種である。日本では外来生物法により特定外来生物に指定されており、水利施設における通水障害の原因となっている。一般に外来種対策は、根絶可能性や費用対効果の観点から侵入の初期段階に実施することが望ましいとされている。しかし、現地で目視によりカワヒバリガイを探索したり、顕微鏡下で幼生を同定・計数する従来の調査手法は、調査に要する時間と労力が大きい上に検出感度が低く、侵入後かなりの時間が経過してから生息が確認される場合が多かった。
【0003】
そこで、カワヒバリガイを効率的に検出する方法の開発が求められている。例えば、特許文献1には、カワヒバリガイの幼生を採集し、カワヒバリガイのCOI遺伝子に特異的なプライマーを用いて、通常のPCR法又はリアルタイムPCR法により当該幼生の存在を検出する方法が記載されている。また、非特許文献1~3には、採水した環境サンプル中の環境DNA(eDNA)を解析対象とし、カワヒバリガイのCOI遺伝子に特異的なプライマーを用いて、通常のPCR法又はリアルタイムPCR法によりカワヒバリガイの存在を検出する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Pie, M., et al., Anais da Academia Brasileira de Ciencias (2017) 89(2): 1041-1045
【非特許文献2】Xia, A., et al., Ecology and Evolution (2018) 8: 11799-11807
【非特許文献3】Xia, A., et al., Biological Invasions (2018) 20: 437-447
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
カワヒバリガイの検出感度の向上と調査にかかる労力の軽減は依然として求められている。本発明は、効率的にカワヒバリガイの存在を検出する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のプライマーセット又は特定のプローブを用いてリアルタイムPCRを行うことで、カワヒバリガイの存在を特異的にかつ高感度で検出できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下に示すプライマーセット、リアルタイムPCR用プローブ、及びリアルタイムPCR用キット、並びに、カワヒバリガイのCOI遺伝子をリアルタイムPCR法で検出する方法、及びカワヒバリガイのCOI遺伝子を定量する方法を提供するものである。
〔1〕配列番号1で示される塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと、配列番号2で示される塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとを含むプライマーセット。
〔2〕カワヒバリガイのシトクロームオキシダーゼサブユニットI(COI)遺伝子をリアルタイムPCR法で検出するための、前記〔1〕に記載のプライマーセット。
〔3〕配列番号3で示される塩基配列を含むオリゴヌクレオチドを含むリアルタイムPCR用プローブと組み合わせて使用するための、前記〔1〕又は〔2〕に記載のプライマーセット。
〔4〕配列番号3で示される塩基配列を含み、かつ、前記塩基配列の5’末端側及び3’末端側に蛍光物質及びクエンチャー物質をそれぞれ備えるオリゴヌクレオチドを含むリアルタイムPCR用プローブ。
〔5〕カワヒバリガイのCOI遺伝子をリアルタイムPCR法で検出するための、前記〔4〕に記載のリアルタイムPCR用プローブ。
〔6〕配列番号1で示される塩基配列を含むオリゴヌクレオチドを含むフォワードプライマーと組み合わせて使用するための、前記〔4〕又は〔5〕に記載のリアルタイムPCR用プローブ。
〔7〕前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載のプライマーセットを含む、リアルタイムPCR用キット。
〔8〕前記〔4〕~〔6〕のいずれか1項に記載のリアルタイムPCR用プローブをさらに含む、前記〔7〕に記載のリアルタイムPCR用キット。
〔9〕カワヒバリガイのCOI遺伝子をリアルタイムPCR法で検出するための、前記〔7〕又は〔8〕に記載のリアルタイムPCR用キット。
〔10〕カワヒバリガイのCOI遺伝子をリアルタイムPCR法で検出する方法であって、
試料中のカワヒバリガイ由来のDNAを、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載のプライマーセットを用いて増幅する工程と、
増幅したDNAを検出する工程と
を含む、方法。
〔11〕前記増幅工程において、前記〔4〕~〔6〕のいずれか1項に記載のリアルタイムPCR用プローブをさらに使用する、前記〔10〕に記載の方法。
〔12〕前記検出工程が、カワヒバリガイのCOI遺伝子のコピー数を定量する工程を含む、前記〔10〕又は〔11〕に記載の方法。
〔13〕前記試料が、環境サンプルである、前記〔10〕~〔12〕のいずれか1項に記載の方法。
〔14〕カワヒバリガイのCOI遺伝子を定量する方法であって、
試料中のカワヒバリガイ由来のDNAを、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載のプライマーセットを用いて増幅する工程を含む、方法。
〔15〕前記増幅工程において、前記〔4〕~〔6〕のいずれか1項に記載のリアルタイムPCR用プローブをさらに使用する、前記〔14〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のプライマーセットを用いることで、カワヒバリガイの存在を特異的にかつ高感度で検出することができ、COI遺伝子のコピー数の定量も可能となる。また、本発明のプローブを用いてリアルタイムPCRを行うことで、カワヒバリガイの存在を特異的にかつ高感度で検出することができる。したがって、効率的な野外調査が可能となり、カワヒバリガイの侵入の早期発見及び早期駆除を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】9種の二枚貝のCOIミトコンドリア遺伝子の部分配列の多重アライメント結果を示す。下線部は、それぞれ順にフォワードプライマー、プローブ、及びリバースプライマーの位置を示す。また、ハイフンは配列ギャップを示し、アスタリスクは共通配列を示す。
【
図2】本発明のプライマーセットを使用したPCR産物のアガロースゲル電気泳動結果を示す。M:100bpDNAラダー(太いバインドは500bp)、レーン1:タイワンシジミ、レーン2:マガキ、レーン3:ムラサキイガイ、レーン4:ドリイガイ、レーン5:コウロエンカワヒバリガイ、レーン6及び7:カワヒバリガイ(別個のPCR由来の産物)。
【
図3】テンプレートとして使用した標準プラスミド(白丸)のCOI遺伝子のコピー数及びCt値に基づく検量線を示す。黒丸はスタンダードDNAのCt値に基づく検量線上のプロットである。
【
図4】カワヒバリガイを1個体(▲)又は5個体(○)含む水槽において時間に応じて変化するeDNAの濃度を示す。
【
図5】野外調査を行って水を採取した日本国茨城県つくば市の15か所の貯水池の位置を示す。
【
図6】野外調査における幼生密度とeDNA濃度との関係を示す(スピアマンの順位相関、p<0.005)。
【
図7】本発明のプライマーセット及びプローブを使用したリアルタイムPCRによりeDNAが検出された貯水池の中で、従来の方法によりカワヒバリガイが検出された又は検出されなかった貯水池におけるeDNA濃度の箱ひげ図を示す(マン・ホイットニーのU検定、p<0.05)。箱内の水平線はメジアンを示し、箱は第一四分位数及び第二四分位数を示す。上及び下に伸びる垂直線は、それぞれ最大値及び最小値を表す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明のプライマーセットは、塩基配列5’-CATAGAACCCCAGCAGTTGACA-3’(配列番号1)を含むオリゴヌクレオチドと、塩基配列5’-AACGAACCGCCGATTGAC-3’(配列番号2)を含むオリゴヌクレオチドとを含んでいる。前記プライマーセットは、カワヒバリガイのCOI遺伝子に特異的であり(
図1)、PCR法により当該遺伝子の74bpフラグメントを増幅することができる。各オリゴヌクレオチドは、カワヒバリガイのCOI遺伝子の断片を増幅することができる限り、その末端において1又は数個の塩基が欠失又は付加されたものであってもいいが、好ましくは、前記プライマーセットは、配列番号1で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと、配列番号2で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとを含んでいる。
【0011】
本発明のプライマーセットによるPCRのテンプレートとなるDNAは、カワヒバリガイのCOI遺伝子を含んでいる限り特に制限されず、カワヒバリガイの生活史の各段階のいずれに由来するものでもよく、カワヒバリガイの個体を直接は含まない環境サンプル中のeDNAであってもよい。なお、水や土壌などの環境サンプルには、そこに生息する生物から放出された体液、代謝物、及び糞便などが含まれており、それらに由来するDNAをeDNAと呼んでいる。環境サンプル中においては様々な種類の生物に由来するeDNAが混在しており、eDNAは環境要因によって容易に分解され得るものであるが、本発明のプライマーセットを用いれば、カワヒバリガイのCOI遺伝子に特徴的な比較的短い領域を選択的に増幅できるため、カワヒバリガイの存在を高感度に検出することができる。
【0012】
本発明のプライマーセットは、通常のPCR法だけでなくリアルタイムPCR法に使用することもできる。リアルタイムPCR法においては、当技術分野で通常用いられる検出法を特に制限されることなく採用することができ、例えば、インターカレーター法又はハイブリダイゼーション法などによってカワヒバリガイのCOI遺伝子を検出してもよい。ハイブリダイゼーション法で用いられるプローブは、特に制限されないが、例えば、塩基配列5’-AGCTGCTTTATCTCTTC-3’(配列番号3)を含むオリゴヌクレオチドを含むリアルタイムPCR用プローブであってもよい。
【0013】
別の態様では、本発明は、リアルタイムPCR用プローブにも関しており、当該プローブは、配列番号3で示される塩基配列を含むオリゴヌクレオチドであって、前記塩基配列の5’末端側及び3’末端側に蛍光物質及びクエンチャー物質をそれぞれ備えるオリゴヌクレオチドを含んでいる。前記蛍光物質としては、リアルタイムPCR法におけるレポーターとして通常用いられるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、前記蛍光物質は、6-FAM、VIC、TET、NED、Yakima Yellow、Cy3、及びCy5などであってもよい。また、前記クエンチャー物質は、前記蛍光物質の蛍光を消失させることができる限り特に制限されず、例えば、TAMRAなどの蛍光を有するクエンチャーであってもいいし、BHQ(BHQ-1~3)、NFQ、QSY、及びEclipseなどの非蛍光クエンチャーであってもよい。ある態様では、前記リアルタイムPCR用プローブのオリゴヌクレオチドは、Tmを高くするためのマイナーグローブバインダー(MGB)をさらに備えており、好ましくは、前記非蛍光クエンチャーと組み合わせてMGBを備えている。前記リアルタイムPCR用プローブのオリゴヌクレオチドは、カワヒバリガイのCOI遺伝子に結合することができる限り、その末端において1又は数個の塩基が欠失又は付加されたものであってもいいが、好ましくは、当該オリゴヌクレオチドは、配列番号3で示される塩基配列からなっている。
【0014】
本発明のリアルタイムPCR用プローブは、カワヒバリガイのCOI遺伝子をリアルタイムPCR法で検出するために用いられるものである。ある態様では、前記リアルタイムPCR用プローブは、配列番号1で示される塩基配列を含むオリゴヌクレオチドを含むフォワードプライマーと組み合わせて使用される。前記リアルタイムPCR用プローブは、前記フォワードプライマーに近い位置に設計されているため、当該フォワードプライマーを使用したリアルタイムPCRにおいて、より特異的にシグナルを発することができる。
【0015】
また別の態様では、本発明は、前記プライマーセットを含むリアルタイムPCR用キットにも関している。このリアルタイムPCR用キットは、カワヒバリガイのCOI遺伝子をリアルタイムPCR法で検出するために用いられるものである。リアルタイムPCR法においては、当技術分野で通常用いられる検出法を特に制限されることなく採用することができ、例えば、インターカレーター法又はハイブリダイゼーション法などによってカワヒバリガイのCOI遺伝子を検出してもよい。ある態様では、前記リアルタイムPCR用キットは、前記リアルタイムPCR用プローブをさらに含んでいる。
【0016】
本発明のリアルタイムPCR用キットは、本発明の目的を損なわない限り、当技術分野で通常用いられる任意の試薬をさらに含んでもよい。前記任意の試薬は、特に限定されないが、例えば、DNAポリメラーゼ、dNTP、及びMgCl2、又はそれらの混合液などであってもよい。
【0017】
さらに別の態様では、本発明は、カワヒバリガイのCOI遺伝子をリアルタイムPCR法で検出する方法にも関しており、
試料中のカワヒバリガイ由来のDNAを、前記プライマーセットを用いて増幅する工程と、
増幅したDNAを検出する工程と
を含んでいる。ある態様では、前記検出工程は、カワヒバリガイのCOI遺伝子を定量する工程を含む。
【0018】
さらなる態様では、本発明は、カワヒバリガイのCOI遺伝子を定量する方法にも関しており、試料中のカワヒバリガイ由来のDNAを、前記プライマーセットを用いて増幅する工程を含んでいる。前記定量方法においては、標準テンプレートを増幅して得られたDNAの量と、前記試料に由来する増幅したDNAの量とを比較し、検量線を用いるなどして、カワヒバリガイのCOI遺伝子のコピー数を定量することができる。前記定量方法で採用される定量手段としては、特に制限されないが、例えば、アガロースゲル電気泳動によるバンド強度の分析や、リアルタイムPCR法による分析を採用してもよい。
【0019】
本発明の検出方法又は定量方法で行われるリアルタイムPCR法においては、当技術分野で通常用いられる検出法を特に制限されることなく採用することができ、例えば、インターカレーター法又はハイブリダイゼーション法などによってカワヒバリガイのCOI遺伝子を検出してもよい。ある態様では、前記増幅工程において、前記リアルタイムPCR用プローブがさらに使用され、当該プローブによってカワヒバリガイのCOI遺伝子が検出される。
【0020】
ある態様では、前記試料は環境サンプルであり、その中に含まれるeDNAがPCR法のテンプレートDNAとなる。環境サンプルからeDNAを抽出する方法は、特に制限されず、例えば、環境サンプルが水である場合、それをガラス繊維フィルターなどのフィルターで濾して、細胞や組織などからのDNA抽出に用いられる通常の方法を用いればよい。
【0021】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例0022】
1.プライマーセット及びリアルタイムPCR用プローブの設計
種特異的なプライマーセット及びリアルタイムPCR用プローブを設計するために、タイワンシジミ(Corbicula fluminae)、ヤマトシジミ(C.japonica)、イワガキ(Crassostrea nippona)、カワヒバリガイ、ホトトギスガイ(Musculista senhousia)、ムラサキイガイ(Mytilus galloprovincialis)、キタノムラサキイガイ(M.trossulus)、ミドリイガイ(Perna viridis)、及びコウロエンカワヒバリガイ(Xenostrobus securis)の9種の二枚貝のCOIミトコンドリア遺伝子(それぞれアクセション番号AB498017、AB498018、AF300616、AB498011、AB498013、AB498014、AB498016、AB498015、及びAB498012)の部分配列を、生命情報・DDBJセンターから取得した。これらの配列をClustal Wで整列させてカワヒバリガイの配列に特徴的な領域を見出し、かつ、水界生態系ではDNAは分解されやすいことを考慮して可能な限り短いフラグメント長となるような領域を検討するなどして、本発明のプライマーセット及びリアルタイムPCR用プローブを設計した。カワヒバリガイのCOI遺伝子の74bpフラグメントを増幅するプライマー及びそれらと組み合わせて使用するリアルタイムPCR用プローブの配列を表1に示し、それらが設計された位置を
図1に示す。
【0023】
【0024】
2.種特異性の確認
項目1で設計した本発明のプライマーセットの種特異性を確認するために、タイワンシジミ、マガキ、ムラサキイガイ、ミドリイガイ、コウロエンカワヒバリガイ、及びカワヒバリガイの筋肉組織からDNAを抽出し、表2に記載の条件でPCRを行った。そして、PCR産物を2%アガロースゲルで電気泳動し、エチジウムブロマイドで染色した。
【0025】
【0026】
結果を
図2に示す。本発明のプライマーセットを用いてPCRを行うと、カワヒバリガイ由来のDNA(レーン6及び7)は増幅されたが、その他の二枚貝由来のDNAは増幅されなかった(レーン1~5)。したがって、本発明のプライマーセットは、カワヒバリガイ由来のDNAだけを特異的に増幅できると考えられる。
【0027】
3.COI遺伝子の定量
項目1で設計したプローブ用の配列の5’末端に6-FAMレポーター色素を結合し、3’末端にクエンチャーとしてMGB-NFQを結合して、本発明のリアルタイムPCR用プローブを調製した。そして、項目2のPCR産物、すなわちカワヒバリガイのCOI遺伝子の部分配列である74bpのDNAをアガロースゲルから切り出し、常法によってプラスミドにクローニングした。精製したプラスミドのDNA配列をシーケンサーで確認して、検量線作成用の標準プラスミドを調製した。また、カワヒバリガイの組織からスタンダードDNAを調製した。標準プラスミドの希釈系列(101~106個/反応)又はスタンダードDNA(102~10-4ng/μL)の希釈系列をテンプレートDNAとして使用し、表3の条件でStepOnePlusTMリアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステムス社)により定量PCR(qPCR)を行い、シグナルが閾値を超えたときのサイクル数(Ct値)を記録した。
【0028】
【0029】
テンプレートとして使用した標準プラスミド(白丸)の1反応あたりの個数(COI遺伝子のコピー数)及びCt値をプロットして検量線(y=-3.25・log
10x+40.59、R
2=0.988)を作成した。結果を
図3に示す。この検量線を利用して、スタンダードDNA(黒丸)中のCOI遺伝子のコピー数を定量することができた。本発明のプライマーセット及びプローブを用いれば、100fg/LしかDNAが含まれていない試料においても、カワヒバリガイ由来のCOI遺伝子のコピー数を定量することができる。
【0030】
4.水槽実験
霞ヶ浦から採取したカワヒバリガイを常法により5日間飼育して順応させた後、1個体又は5個体ずつそれぞれ3つの実験用水槽に入れて飼育した。ブランクとしてはカワヒバリガイを含まない水槽を用意した。実験用水槽には9Lの蒸留水が入れられており、カワヒバリガイの平均湿重量は、水槽あたりそれぞれ1.46±0.53g及び6.87±0.34g(平均±SD)だった。各水槽から、0、2、12、24、及び48時間後に、eDNAを含む250mLの水を採取した。フィルターフォルダー(ステリフィルフォルダー、EMDミリポア社)にガラス繊維フィルター(GF/F、GEヘルスケア社)をセットし、真空ポンプを用いて採取した水を濾過した。試料を含むフィルターディスクをピンセットで取り出し、アルミホイルで包んで、次に使用するまで-23℃で保管した。当該フィルターディスクから、DNeasy Blood & Tissue Kit(キアゲン社)を用いて常法によりDNAを抽出し、項目3に記載の方法に従ってqPCRを行った。統計解析は、R version 3.4.0(R Project for Statistical Computing)を用いて一般化線形混合モデル(GLMM)により行った。
【0031】
結果を
図4に示す。水槽にカワヒバリガイを移してから2時間でeDNA濃度の上昇が検出された。また、5個体を含む水槽のeDNA濃度は、1個体を含む水槽のeDNA濃度よりも有意に高かった(GLMM、p=0.000212)。対照の水槽及びカワヒバリガイを入れる前の水槽においては、リアルタイムPCR法によるポジティブなシグナルは検出されなかった。
【0032】
5.野外調査
2017年の8月から9月にかけて、日本の茨城県つくば市にある15の農業用貯水池(
図5)において、目視調査、幼生採集、及びeDNA法によりカワヒバリガイの野外調査を行った。これらの貯水池は、霞ヶ浦と通じている桜川の下流領域から取水しているが、霞ヶ浦においては2005年からカワヒバリガイが見つかっており、桜川の取水口にもカワヒバリガイが生息している。このため、いずれの貯水池においても、カワヒバリガイが検出される可能性がある。
【0033】
具体的には、貯水池の岸からハンドネットを用いて10分間目視で探索し、カワヒバリガイの存在又は不存在を決定した。また、自由遊泳性のカワヒバリガイ幼生の密度を把握するため、各サンプリング場所において、プランクトンネット(直径20cm、メッシュサイズ72μm、離合社)を使って試料を採集した。底から表層に向けて(深さに応じて)プランクトンネットを数回垂直に引き上げて、およそ100~200Lの水を濾した。採集した試料は80%エタノールで保存した。そして、実験室においてD型幼生の数を双眼顕微鏡下で数えて、幼生密度を計算した。
【0034】
さらに、1Lの表層水を岸から手を伸ばして瓶に採取した。採取した水は保冷材で冷やして実験室に持ち帰り、項目4に記載の方法と同様にして、その日のうちにガラス繊維フィルターで濾過した。試料のコンタミネーションがないことを確認するために、蒸留水の試料とカワヒバリガイを含まない雨水タンクの試料という2種類の陰性対照群を準備した。そして、項目4に記載の方法と同様にしてDNAを抽出し、項目3に記載の方法に従ってqPCRを行った。
【0035】
従来の調査手法(目視調査又は幼生採集)に基づいてカワヒバリガイを検出した貯水池の割合と、eDNAの存在に基づいてカワヒバリガイを検出した貯水池の割合は、フィッシャーの正確確率検定により比較した。幼生密度とeDNA濃度の間の相関は、スピアマンの順位相関により調べた。カワヒバリガイのeDNAが検出された貯水池の中で、従来の調査手法によりカワヒバリガイが見つかった貯水池及び見つからなかった貯水池のeDNA濃度は、マン・ホイットニーのU検定を用いて比較した。これらの統計解析は、R version 3.4.0(R Project for Statistical Computing)を用いて行った。
【0036】
結果を表4に示す。目視調査では、P1及びP2の場所でカワヒバリガイが検出され、幼生調査では、P3、P4、及びP10の場所でカワヒバリガイが検出された。すなわち、従来の調査手法では、15か所の貯水池のうち5か所でカワヒバリガイが検出された。他方、本発明のプライマーセット及びプローブを使用してqPCRを行うと、従来の調査手法でカワヒバリガイが検出された5か所を含む9か所の貯水池でカワヒバリガイのeDNAを検出することができた。従来の調査手法又はeDNAの存在でカワヒバリガイが検出された貯水池の割合は、有意に異なっていた(フィッシャーの正確確率検定、p<0.05、n=15)。また、eDNA濃度と幼生濃度との間には有意な相関関係が見出された(スピアマンの順位相関、p<0.005、
図6)。そして、従来の調査手法ではカワヒバリガイが検出されなかった4か所の貯水池のeDNA濃度は、従来の調査手法でカワヒバリガイが検出された5か所の貯水池のeDNA濃度よりも有意に低かった(マン・ホイットニーのU検定、p<0.05、
図7)。
【0037】
【0038】
本発明のプライマーを用いてeDNAをqPCRにより検出する方法は、従来の調査手法と比較して安定的に高感度で結果を得ることができた。また、試料のサンプリングが簡便であり、野外調査に適していると考えられる。
【0039】
以上より、本発明のプライマーセットを用いることで、カワヒバリガイの存在を特異的にかつ高感度で検出することができ、COI遺伝子のコピー数の定量も可能となることが分かった。また、本発明のプローブを用いてリアルタイムPCRを行うことで、カワヒバリガイの存在を特異的にかつ高感度で検出することができることが分かった。したがって、効率的な野外調査が可能となり、カワヒバリガイの侵入の早期発見及び早期駆除を図ることができる。