(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180855
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】SiC基板の表面加工方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20221130BHJP
B24B 1/00 20060101ALI20221130BHJP
B24B 7/04 20060101ALI20221130BHJP
B24C 1/00 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
H01L21/304 621C
H01L21/304 622W
B24B1/00 A
B24B7/04 A
B24C1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087583
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 一史
(72)【発明者】
【氏名】丸野 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】ソルタニ バーマン
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕也
(72)【発明者】
【氏名】山村 和也
(72)【発明者】
【氏名】楊 旭
【テーマコード(参考)】
3C043
3C049
5F057
【Fターム(参考)】
3C043BA03
3C043BA09
3C043CC04
3C043DD02
3C043DD04
3C043DD05
3C043DD06
3C049AA04
3C049AC04
3C049CA05
3C049CB03
5F057AA01
5F057AA06
5F057AA11
5F057AA41
5F057BA12
5F057BB09
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5F057EB06
5F057EB09
5F057EB16
5F057FA46
5F057GA01
5F057GA16
(57)【要約】
【課題】陽極酸化を援用した、SiC基板の表面加工方法において、従来よりも優れた加工特性を実現可能とする技術を提供すること。
【解決手段】SiC基板の表面加工方法は、以下の処理あるいは工程を含む:15mA/cm
2以上の電流密度の電流を、電解液(S)の存在下で前記SiC基板を陽極として通流させることで、前記SiC基板の被加工面(W1)を陽極酸化する。砥石層(32)を有する表面加工パッド(3)における前記砥石層を前記被加工面と対向配置させ、陽極酸化により前記被加工面に生成した酸化物を前記砥石層により選択的に除去する。前記被加工面の陽極酸化と、前記被加工面に生成した酸化物の前記砥石層による選択的な除去とは、同時または順次に行うことが可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC基板(W)の表面加工方法であって、
15mA/cm2以上の電流密度の電流を、電解液(S)の存在下で前記SiC基板を陽極として通流させることで、前記SiC基板の被加工面(W1)を陽極酸化し、
砥石層(32)を有する表面加工パッド(3)における前記砥石層を前記被加工面と対向配置させ、陽極酸化により前記被加工面に生成した酸化物(W3)を前記砥石層により選択的に除去する、
表面加工方法。
【請求項2】
前記被加工面の陽極酸化における電流密度が15mA/cm2以上となるように、陽極酸化条件を設定する、
請求項1に記載の表面加工方法。
【請求項3】
前記陽極酸化条件は、15mA/cm2以上の電流密度の前記電流を通流させるためのオン時間と、15mA/cm2以上の電流密度の前記電流を通流させないオフ時間とを有する、パルス電流を用いることである、
請求項2に記載の表面加工方法。
【請求項4】
前記酸化物の前記砥石層による除去速度は、前記被加工面の陽極酸化における酸化速度と等しい、
請求項1~3のいずれか1つに記載の表面加工方法。
【請求項5】
前記砥石層は、前記電流の印加により陽極酸化された前記被加工面を、研削または研磨する、
請求項1~4のいずれか1つに記載の表面加工方法。
【請求項6】
前記酸化物の前記砥石層による選択的な除去は、
5μm/min以上の研削速度での前記被加工面の研削と、
5μm/h以上の研磨速度での前記被加工面の研磨と、
を含む、
請求項5に記載の表面加工方法。
【請求項7】
前記被加工面の研削に対応する陽極酸化と、前記被加工面の研磨に対応する陽極酸化とを、同一の電流密度条件で行う、
請求項6に記載の表面加工方法。
【請求項8】
前記酸化物の前記砥石層による選択的な除去は、
前記被加工面の粗研磨と、
前記粗研磨よりも遅い研磨速度での前記被加工面の仕上げ研磨と、
を含み、
前記粗研磨に対応する陽極酸化と、前記仕上げ研磨に対応する陽極酸化とを、同一の電流密度条件で行う、
請求項6または7に記載の表面加工方法。
【請求項9】
前記被加工面の陽極酸化と、前記酸化物の前記砥石層による選択的な除去とを、同時または順次に行う、
請求項1~8のいずれか1つに記載の表面加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC基板の表面加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、陽極酸化を援用した研磨方法を開示する。この研磨方法は、陽極酸化可能な難加工材料を、酸化と研磨とを組み合わせて、高能率且つ高精度で所望形状に創成することが可能な研磨方法である。具体的には、この研磨方法は、陽極酸化プロセスと研磨プロセスとを同時または交互に進行させて、研磨プロセスによる研磨レートが陽極酸化プロセスによる酸化レートより高い条件で研磨する。なお、陽極酸化を援用したこの種の研磨方法は、ECMPと称される。ECMPはElectro-Chemical Mechanical Polishingの略である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1にも記載されているように、従来、ECMPにおいては、電流密度を大きくすると、加工速度が速くなる一方で、表面の粗さは悪化することが知られていた。また、電流密度の増加に伴って酸化レートが飽和するために、電流密度を或る程度まで増加させると、それ以上電流密度を増加させても研磨レートを増加させることはできないことが、特許文献1に開示されている。
【0005】
このように、従来の知見によれば、ECMPにおいて、電流密度を大きくすることによる大きなメリットは確認されていない。例えば、特許文献1の開示によれば、実用的な電流密度の上限値はせいぜい10mA/cm2程度であり、しかも、仕上げ研磨工程ではなく、これに先立つ粗い研磨工程における使用であった。
【0006】
このため、陽極酸化膜の生成とこの酸化膜の選択的な除去という原理を用いた、この種の表面加工方法において、従来よりも優れた加工特性(例えば加工速度あるいは表面粗さ等)を実現するためには、まだまだ検討の余地があった。本発明は、上記に例示した事情等に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、例えば、陽極酸化を援用した、SiC基板の表面加工方法において、従来よりも優れた加工特性を実現可能とする技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の、SiC基板(W)の表面加工方法は、以下の処理あるいは工程を含む:
15mA/cm2以上の電流密度の電流を、電解液(S)の存在下で前記SiC基板を陽極として通流させることで、前記SiC基板の被加工面(W1)を陽極酸化し、
砥石層(32)を有する表面加工パッド(3)における前記砥石層を前記被加工面と対向配置させ、陽極酸化により前記被加工面に生成した酸化物(W3)を前記砥石層により選択的に除去する。
【0008】
なお、出願書類中の各欄において、各要素に括弧付きの参照符号が付されている場合がある。この場合、参照符号は、同要素と後述する実施形態に記載の具体的構成との対応関係の単なる一例を示すものである。よって、本発明は、参照符号の記載によって、何ら限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る表面加工方法を実施するための表面加工装置の概略構成図である。
【
図2】
図1に示された表面加工装置を用いることで実現可能な、SiCウェハの概略的な製造工程を示す図である。
【
図3】
図1に示された表面加工装置を用いて陽極酸化されたSiC基板における被加工面の走査電子顕微鏡写真である。
【
図4】
図3に示されたSiC基板における被加工面の近傍部分の構造を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図4に示されたSiC基板における酸化膜を溶解液により除去した後の構造を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図5に示されたピットの深さが電流密度の変化によって受ける影響を示すグラフである。
【
図7】
図5に示されたピットの深さが電流密度の変化によって受ける影響を示すグラフである。
【
図8】
図5に示されたピットの深さが電流密度の変化によって受ける影響を示すグラフである。
【
図9】電解液濃度を調整することで電流密度を変化させた場合のSiC基板における被加工面の走査電子顕微鏡写真である。
【
図10】
図9に示された各SiC基板における酸化膜を溶解液により除去した後の表面粗さの測定結果を示すグラフである。
【
図11】電流密度を一定にして電解液濃度を変化させた場合のSiC基板における被加工面の走査電子顕微鏡写真である。
【
図12】陽極酸化前および陽極酸化後のSiC基板における被加工面の近傍部分の断面を観察した走査電子顕微鏡写真である。
【
図13】電流密度と研磨終了後の表面粗さとの関係を示すグラフである。
【
図14A】電流密度の変化による酸化膜生成態様の違いを模式的に示す断面図である。
【
図14B】電流密度の変化による酸化膜生成態様の違いを模式的に示す断面図である。
【
図14C】電流密度の変化による酸化膜生成態様の違いを模式的に示す断面図である。
【
図15】印加電流のパルス化による、陽極酸化処理中のSiCウェハ被加工面の近傍領域におけるOH
-濃度の回復効果をシミュレーションした結果を示すグラフである。
【
図16】
図15に示されたシミュレーション結果に基づく、単位時間あたりのOH
-総反応量の試算結果を示すグラフである。
【
図17】印加電流のパルス化による陽極酸化における酸化速度の向上を確認するための実験結果を示すグラフである。
【
図18】パルス電流印加時における電流密度と加工速度との関係を示すグラフである。
【
図19】パルス電流印加時における周期と酸化速度との関係を示すグラフである。
【
図20】パルス電流印加時におけるデューティ比と酸化速度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、一つの実施形態に対して適用可能な各種の変形例については、当該実施形態に関する一連の説明の途中に挿入されると、当該実施形態の理解が妨げられるおそれがある。このため、変形例については、当該実施形態に関する一連の説明の途中には挿入せず、その後にまとめて説明する。
【0011】
(表面加工装置)
図1を参照すると、本実施形態に係る表面加工装置1は、単結晶SiCウェハであるSiC基板Wを被加工物とする加工装置であって、SiC基板Wにおける被加工面W1に対して陽極酸化を援用した研磨加工または研削加工を実施可能に構成されている。すなわち、表面加工装置1は、ECMP装置またはECMG装置としての構成を有している。ECMGはElectro-Chemical Mechanical Grindingの略である。
【0012】
表面加工装置1は、容器2と、表面加工パッド3と、駆動装置4と、電源装置5とを備えている。本実施形態においては、容器2は、SiC基板Wを、エッチャント成分を含まない電解液Sに浸漬しつつ収容可能に構成されている。エッチャント成分は、陽極酸化によって被加工面W1上に生成された酸化膜(すなわち膜状に生成されたSiC酸化物)の溶解能を有する溶解液を構成する成分(すなわち例えばフッ化水素酸等)である。電解液Sは、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、あるいは硝酸ナトリウム等の水溶液である。
【0013】
表面加工パッド3は、電極31と砥石層32とを有している。電極31は、金属等の良導体からなる板状部材であって、例えば銅板等により形成されている。砥石層32は、電極31に接合されている。すなわち、表面加工パッド3は、電極31と砥石層32とが表面加工パッド3の厚さ方向に接合された構成を有している。砥石層32は、モース硬度が単結晶SiCとその酸化膜との中間硬度を有する研磨材料を有している。すなわち、砥石層32は、SiC基板Wの被加工面W1と対向配置されつつ駆動装置4により回転駆動されることで、陽極酸化により被加工面W1に生成した酸化膜を選択的に研磨除去あるいは研削除去可能に構成されている。本実施形態においては、表面加工パッド3は、砥石層32がSiC基板Wの被加工面W1に対して電解液Sを挟んで対向配置されるように設けられている。
【0014】
駆動装置4は、表面加工パッド3を上記の厚さ方向と平行な所定の回転軸周りに回転駆動するとともに、かかる回転軸と直交する面内方向にSiC基板Wと表面加工パッド3とを相対移動可能に構成されている。電源装置5は、電解液Sの存在下で被加工物であるSiC基板Wを陽極とし表面加工パッド3における電極31を陰極として電圧を印加することで、砥石層32による加工対象である被加工面W1を陽極酸化するための電流を通流させるように構成されている。
【0015】
本実施形態においては、電源装置5は、15mA/cm2以上の電流密度の電流を、電解液Sの存在下でSiC基板Wを陽極として通流させるように設けられている。また、電源装置5は、被加工面W1を陽極酸化するための電流として、オン時間とオフ時間とを有するパルス電流を出力可能に構成されている。ここで、「オン時間」とは、15mA/cm2以上の電流密度の電流を通流させるための時間である。一方、「オフ時間」とは、15mA/cm2以上の電流密度の電流を通流させない時間であり、具体的には、電流が実質的にゼロである時間である。すなわち、電源装置5は、時間変化に伴う所定周波数の周期的な電流密度変化が実質的に存在しない直流電流と、矩形波状のパルス電流とを、選択的に出力可能に構成されている。このように、本実施形態に係る表面加工装置1は、15mA/cm2以上の電流密度の、直流電流またはパルス電流を、被加工面W1を陽極酸化するための電流として用いることで、高速且つ高精度のECMPあるいはECMGを実行可能な構成を備えている。
【0016】
(実施形態の表面加工方法の概要)
本実施形態に係る表面加工装置1は、従来のECMPよりも優れた加工特性(例えば加工速度あるいは平坦性)を実現すべく、以下の(1)~(3)に示す処理を有するSiC基板Wの表面加工方法(すなわち研磨方法または研削方法)を実施可能に構成されている。なお、(2)と(3)とは、同時または順次に行うことが可能である。
(1)表面加工パッド3を、電解液Sを挟んで、SiC基板Wの被加工面W1と対向配置させる。
(2)15mA/cm2以上の電流密度の、直流電流またはパルス電流を、電解液Sの存在下でSiC基板Wを陽極として通流させる。これにより、砥石層32による加工対象である被加工面W1を陽極酸化する。
(3)砥石層32により被加工面W1を研削または研磨する。すなわち、陽極酸化により被加工面W1に生成した酸化膜(すなわち膜状に生成された酸化物)を、砥石層32により選択的に除去する。
【0017】
図2におけるA~Cは、
図1に示された表面加工装置1を用いた、SiCウェハすなわちSiC基板Wの概略的な製造工程図である。なお、
図2に示した、比較例としての従来製法Pは、
図1に示された表面加工装置1によるECMPあるいはECMGに代えて、周知のCMPを用いた場合の、SiCウェハの概略的な製造工程を示す。CMPはChemical Mechanical Polishingの略である。
【0018】
まず、従来製法Pの概略について説明する。従来製法Pは、インゴット成形工程と、スライス工程と、ウェハ研削工程と、粗CMP工程と、仕上げCMP工程とを、この順に含む。インゴット成形工程は、結晶成長させた単結晶SiCの塊を円柱状のインゴットに加工する工程である。スライス工程は、ワイヤスライスによりインゴットから薄円板状のSiCウェハであるSiC基板Wを得る工程である。ウェハ研削工程は、スライス工程においてSiC基板Wに生じる「うねり」を、研削により除去して、SiC基板Wを平坦化する工程である。粗CMP工程および仕上げCMP工程は、SiC基板Wにおける被加工面W1を、半導体デバイス製造工程に好ましい表面状態である鏡面に加工する工程である。
【0019】
一般に、ウェハ研削工程において、SiC基板Wにおける被加工面W1およびその近傍部分に、或る程度の「表面下ダメージ」を有する「ダメージ層」が形成される。「表面下ダメージ」は、例えば、クラック、残留応力、等である。そこで、まず、粗CMP工程により、被加工面W1が鏡面仕上げされる。そして、続く仕上げCMP工程により、ダメージ層が除去される。
【0020】
特許文献1にて開示されているように、ダメージフリーな研磨工程であるECMPによれば、CMPを上回る加工速度が得られる。このため、CMP工程をECMP工程に置き換えることで、被加工面W1に対する高速且つダメージフリーな研磨が実現され得る。ECMP工程においては、砥石層32として、比較的軟質の砥粒(例えばセリア砥粒等)を含有する軟質砥石が用いられる。
【0021】
そこで、本実施形態においては、例えば、
図2に示された製法Aのように、従来製法Pにおける粗CMP工程を粗ECMP工程に置き換えるとともに、従来製法Pにおける仕上げCMP工程を仕上げECMP工程に置き換えることが可能である。これにより、製造コストを従来製法Pから約40%低減させることが可能となる。
【0022】
また、砥石層32として、比較的硬質の砥粒(例えばダイアモンド砥粒等)を含有する硬質砥石を用いることで、ECMG工程が実現され得る。すなわち、
図2に示された製法Bのように、従来製法Pにおけるウェハ研削工程を、ECMG工程に置き換えることが可能である。これにより、製造コストを従来製法Pから約20%低減させることが可能となる。
【0023】
ここで、低ダメージな研削工程であるECMG工程によれば、従来製法Pにおけるウェハ研削工程よりも、表面下ダメージの発生が低減される。このため、従来製法Pにおけるウェハ研削工程をECMG工程に置き換えた場合、製法Bを製法Cのように変容することも可能である。製法Cにおいては、従来製法Pにおける粗CMP工程が省略されつつ、従来製法Pにおける仕上げCMP工程が仕上げECMP工程に置き換えられる。これにより、製造コストを従来製法Pからほぼ半減させることが可能となる。
【0024】
(陽極酸化電流の大電流密度化)
特許文献1にも記載されているように、従来、SiC基板Wを被加工物とするECMPにおいては、電流密度を大きくすると、加工速度が速くなる一方で、表面の粗さは悪化することが知られていた。このため、従来、仕上げ研磨工程にECMPを用いる場合、加工後の良好な表面粗さを実現すべく、加工速度低下という背反を甘受しつつも、印加電圧を不動態電位より低くすることで電流密度を小さくしていた。
【0025】
しかしながら、発明者は、鋭意研究の結果、印加電圧を不動態電位よりも充分高くした15mA/cm
2以上の大電流密度領域を用いることで、従来の知見とは逆に、表面粗さの改善が見込めることを見出した。具体的には、
図3および
図4に示されているように、陽極酸化により被加工面W1上に生成した酸化膜W2は、多数の粒子状の酸化物W3からなる凹凸形状を有している。この酸化膜W2を、フッ化水素酸等のエッチャント成分を含有する溶解液で溶解すると、
図5に示されているように、被加工面W1には、多数のピットW4が形成される。このピットW4の深さを、従来の知見にて仕上げ研磨工程に対応する、直流且つ定電流の小電流密度条件で、電流密度を変化させつつ測定した。その結果を
図6に示す。
図6における縦軸のピット深さSzは、試料であるウェハ上の所定領域(1μm×1μm)におけるピットW4の深さの最大値であって、島津製作所製 原子間力顕微鏡 SPM 9700によって測定したものである。
図6に示されているように、電流密度の増加に伴ってピット深さSzが低下することが確認された。
【0026】
そこで、より電流密度が大きい条件で、電流密度の変化に伴うピット深さSzの変化の様子を、直流電流とパルス電流との双方で確認した。その結果を
図7および
図8に示す。
図7は直流電流すなわち非パルス電流の場合を示し、
図8はパルス電流の場合を示す。なお、各電流条件におけるピット深さSzは、試料であるウェハ表面における中心を通る直線上の、中心付近の位置を含む略等間隔の5か所で測定した。
図7および
図8に示されているように、直流電流とパルス電流との双方において、5~30mA/cm
2の範囲で、電流密度の増加によるピット深さSzの低下すなわちピット形状の均一化が確認された。
【0027】
図9は、直流電流を用いつつ、電解液濃度を調整することで電流密度を変化させた場合の、SiC基板における被加工面の走査電子顕微鏡写真である。印加条件は、電圧25V,印加時間30秒である。
図9には、電解液としての塩化ナトリウム水溶液の濃度と、これに対応する電流密度とが示されている。
図10は、
図9に示された各SiC基板における酸化膜W2を溶解液により除去した後の表面粗さの測定結果を示すグラフである。
図10における縦軸の最大高さSzおよび二乗平均平方根高さSqは、ZYGO社製 走査型白色干渉計 New View 8300によって測定したものである。
【0028】
図9および
図10に示されているように、電解液濃度を高くすることで、電流密度が大きくなるとともに、酸化膜W2における突起構造が小さくなり酸化膜W2の均一性が向上することが確認された。この結果が、電流密度変化ではなく電解液濃度の変化によるものであるか否かを検証するために、電流密度を一定にして電解液濃度だけを変化させた場合の結果を確認した。その結果を
図11に示す。印加条件は、電流密度10mA/cm
2,印加時間30秒である。
図11には、電解液としての塩化ナトリウム水溶液の濃度が示されている。
図11に示されているように、電流密度が同一であれば、電解液濃度が異なっていても、表面形状にほとんど差が生じないことが確認された。したがって、
図9~
図11の結果から明らかなように、電流密度を大きくすることで酸化膜W2の均一性が向上することが確認された。
【0029】
図12は、異なる電流密度で陽極酸化処理した場合の、酸化膜W2の断面を観察した結果を示す。
図12における左上は、陽極酸化処理前の状態を示す。
図12の結果から明らかなように、電流密度を上げることで、凹凸が少なく緻密で均一な酸化膜W2が形成されることが確認された。
【0030】
図13は、パルス電流ではなく直流電流を用いて陽極酸化処理を行った場合の、ECMPによる研磨後の表面粗さを、電流密度を変化させつつ測定した結果を示す。
図13の結果から明らかなように、15mA/cm
2以上の電流密度を用いることで、極めて良好な表面性状を得ることができることが確認された。
【0031】
図14A~
図14Cは、大電流密度化による表面粗さの低減効果の、想定されるメカニズムを、模式的に示したものである。図中、破線の矢印は、陽極酸化電流を示す。
図14A~
図14Cに示されているように、電流密度が大きくなるほど、面内方向(すなわち図中左右方向)における電流の通流状態が均一化され、酸化膜W2の構造がより緻密になるものと考えられる。
【0032】
このように、大電流密度化により、酸化膜W2が良好に緻密化且つ均一化される。また、大電流密度化によれば、加工速度も高速化され得る。したがって、本実施形態によれば、陽極酸化を援用した、SiC基板Wの表面加工方法において、従来よりも優れた加工特性を実現可能とする技術を提供することが可能となる。換言すれば、本実施形態によれば、高速且つ高精度のECMPあるいはECMGを提供することが可能となる。
【0033】
(加工条件)
以下、本実施形態に係る表面加工方法における各種の加工条件について説明する。
【0034】
(1)本実施形態に係る表面加工方法は、被加工面W1の陽極酸化における電流密度が15mA/cm2以上となるように、陽極酸化条件を設定する処理を含む。設定する陽極酸化条件は、以下のパラメータのうちの、少なくともいずれか1つを含む:電解液Sの温度、濃度、電源装置5からの出力電流値、出力電流波形、出力電圧値、出力電圧波形、等。具体的には、例えば、電解液Sの温度および/または濃度により、電解液Sの電気抵抗値が調整され得る。これにより、所望の陽極酸化電流を良好に維持することが可能となる。ここで、「陽極酸化電流」とは、陽極酸化のための印加電流、すなわち、電源装置5からSiC基板Wに流入する電流のうち、電解液Sの電気分解ではなく実際に被加工面W1の陽極酸化に供された電流をいうものとする。なお、電流のパルス化については後述する。
【0035】
(2)上記の通り、本実施形態に係る表面加工方法は、ECMPとECMGとの双方に対して適用可能である。すなわち、砥石層32は、電流の印加により陽極酸化された被加工面W1を、研削または研磨するものである。研削速度あるいは研磨速度は、砥石層32における砥石の種類および番手によって調整可能である。具体的には、例えば、#8000~#30000のダイアモンド砥石を用いることで、5μm/min以上の研削速度を達成することが可能となる。また、例えば、#8000程度の番手のセリア砥石を用いることで、5μm/h以上の研磨速度を達成することが可能となる。
【0036】
(3)酸化物W3(すなわち酸化膜W2)の砥石層32による除去速度(すなわち研磨速度または研削速度)と、被加工面W1の陽極酸化における酸化速度とは、ほぼ等しくすることが好適である。これにより、加工後の被加工面W1における表面粗さを良好に低下させることが可能となる。
【0037】
(4)
図2に示された製法Aのように、粗ECMP工程と、この粗ECMP工程よりも遅い研磨速度での仕上げECMP工程とが、この順で行われる場合がある。この場合、粗ECMP工程と仕上げECMP工程とで、同一の電流密度条件で陽極酸化を行うことが可能である。同様に、
図2に示された製法Cのように、ECMG工程とECMP工程とが、この順で行われる場合がある。この場合、ECMG工程とECMP工程とで、同一の電流密度条件で陽極酸化を行うことが可能である。このように、大電流密度条件を、研削工程、粗研磨工程、および仕上げ研磨工程にも適用可能とすることで、SiC平坦化プロセスを可能な限り一貫化することが可能となる。
【0038】
(電流パルス化による酸化速度向上)
発明者は、SiC基板を被加工物とするECMPにおいて、電流密度を大きくして加工を高速化しようとしても、陽極酸化における酸化速度が飽和するために、加工速度の向上に限界があるという課題を見出した。発明者の検討によれば、このような、電流密度の上昇に伴う酸化速度の上昇が飽和する原因は、被加工面W1の近傍領域における電解液S中の反応種すなわちOH-の供給量が不足することであると考えられる。なお、被加工面W1の近傍領域を、以下「表面近傍領域」と略称する。
【0039】
具体的には、陽極酸化により、表面近傍領域において、OH-が消費されることでOH-濃度が低下する。すると、OH-は、電解液Sにおけるバルク領域、すなわち、表面近傍領域よりも被加工面W1から離れた領域から、物質拡散の原理で、表面近傍領域に供給される。このため、表面近傍領域におけるOH-濃度は、フィックの法則に従い、被加工面W1に近づくにしたがって低下する。
【0040】
表面近傍領域におけるOH-の供給量が充分であるか否かは、酸化速度すなわちOH-の消費速度と、バルク領域からのOH-の供給速度との関係によって定まる。この点、陽極酸化における電流条件が直流且つ定電流である場合、OH-の供給速度が不足することで表面近傍領域におけるOH-の供給量が不足し、安定的な陽極酸化状態を維持することが困難となることが懸念される。
【0041】
そこで、発明者は、陽極酸化のための印加電流を、オン時間とオフ時間とを有するパルス状とし、オフ時間中にバルク領域から表面近傍領域にOH-を供給して表面近傍領域におけるOH-濃度を回復させることで、酸化速度が向上することを見出した。また、かかるオフ時間を比較的短時間(具体的には例えば0.01~10秒程度)とすることで、オン時間中における良好な酸化速度を保持しつつ、総加工時間の長時間化を良好に回避することができることを見出した。
【0042】
図15は、陽極酸化電流にオフ時間を設けることによる、表面近傍領域におけるOH
-濃度の回復効果を示す、計算機シミュレーション結果である。図中、横軸の「Toff」は、オフ時間の長さを示す。縦軸は、被加工面W1を平坦面と仮定し、かかる平坦面から10μm離れた位置における、OH
-濃度を示す。シミュレーションにおける前提条件は、以下の通りである。
拡散係数D=1.9×10
-9m
2/s
バルク領域OH
-濃度C=6.02×10
17個/cm
3
【0043】
図16は、
図15に示されたシミュレーション結果に基づく、単位時間あたりのOH
-総反応量の試算結果を示す。図中の水平な実線は、Toff=0すなわち直流且つ定電流の場合を示す。なお、「直流且つ定電流」を、以下単に「定電流」と略称する。
【0044】
図15および
図16から明らかなように、陽極酸化電流をパルス電流として、0.01秒以上のオフ時間を設けることで、表面近傍領域におけるOH
-の供給量不足が良好に解消され得る。具体的には、発明者は、
図15および
図16に示されているように、0.01秒以上且つ10秒以下のオフ時間において、表面近傍領域に対する良好なOH
-の供給が可能であることを、シミュレーションにより確認している。但し、オフ時間を設けることによるOH
-濃度の回復効果は、Toffが或る程度長い領域においては飽和する傾向にある。このため、オフ時間は、0.1~1秒程度であることが、さらに好適であると考えられる。
【0045】
そこで、発明者は、定電流印加とパルス電流印加との間の、陽極酸化における酸化速度の違いを確認するための実験を、30mm角ウェハを用いて行った。パルス電流は、オン時間1秒,オフ時間1秒(すなわち、周期2秒,デューティ比0.5)の矩形波状である。陽極酸化処理後、フッ化水素酸で酸化膜W2を除去し、除去量により酸化速度を算出した。実験結果を
図17に示す。
図17において、丸形のプロットはパルス電流の場合を示し、菱形のプロットは定電流の場合を示す。パルス電流の場合の電流密度の値は、オン時間中の値である。
【0046】
図17から明らかなように、パルス電流印加により、小~大電流密度領域において、高い酸化速度が得られている。そして、電流密度の上昇に伴い、酸化速度も上昇している。このため、パルス電流印加によれば、電流密度を大きくすることによる加工の高速化が、良好に図られ得る。特に、大電流密度の電流印加により表面近傍領域におけるOH
-を大量に消費しても、オフ時間中に表面近傍領域におけるOH
-濃度を良好に回復させることができる。したがって、パルス電流印加によれば、大電流密度の電流印加による高速加工を実現することが期待できる。
【0047】
(電流パルス化による加工速度向上)
加工速度は、酸化速度のみならず、酸化膜W2の性状による影響も受ける。具体的には、従来のECMPにおいては、比較的小さい電流密度による定電流印加により、密度が比較的高く硬度も比較的高い酸化膜W2が形成されていた。そこで、従来のECMPに対応する定電流印加により生成された酸化膜W2の組成をXPS装置により分析したところ、SiOCが40%程度、SiOが30%程度、Si2O3が10%程度、それぞれ含有されていた。XPSはX-ray Photoelectron Spectroscopyの略である。
【0048】
これに対し、パルス電流印加により生成された酸化膜W2の組成を、XPS装置により分析したところ、定電流且つ低電流の印加により生成された酸化膜W2よりも、SiOCの含有量が大幅に低下する一方で、SiOの含有量が大幅に増加した。また、断面の透過電子顕微鏡像を確認したところ、パルス電流印加により生成された酸化膜W2においては、定電流且つ低電流の印加により生成された酸化膜W2よりも、内部のボイド層の生成が顕著であった。また、パルス周期を上げることで、ボイド層におけるボイド量の増加傾向が見られた。具体的には、デューティ比0.5の条件で、周期が0.02秒の場合でも定電流且つ低電流の印加の場合よりもボイド層の発生が顕著に見られ、周期が0.1秒、1秒、と長くなる毎にボイド量が増加した。すなわち、発明者は、周期0.02~1秒の範囲で、比較的低密度で易研磨性あるいは易研削性となり得る酸化膜W2が形成されることを確認した。
【0049】
以上の結果を考察すると、パルス電流印加による効果として、以下の事項が考えられる。表面近傍領域にOH-が良好に供給されてSiCの陽極酸化が促進されることで、SiOCよりも酸化度合がより進行したSiOがより多く発生する。SiOC,SiOの順に酸化度合が進行するほど、膨張率が大きくなり、酸化膜W2内における内部応力によるボイドの発生が促進される。このため、SiOがより多く発生することで、酸化前後の膨張率の差により発生するボイド層の生成がより顕著となる。このようにSiOを多く含有しボイド層におけるボイド量が増加した酸化膜W2は、硬度が低くなり、研削あるいは研磨の速度が向上する。さらに、ボイドの発生により酸化膜W2の表面に多数のクラックが発生すると、反応種であるOH-がクラックから膜内部に侵入することで、陽極酸化がさらに促進され得る。このように、印加電流のパルス化による効果として、研磨速度の向上効果が期待できる。
【0050】
図18は、パルス電流印加における電流密度を変化させた場合の、電流密度と研磨速度との関係を示す。パルス電流は、周期2秒,デューティ比0.75である。研磨加工対象としては4インチウェハを用いた。研磨速度の算出方法は、以下の通りである:試料である4インチウェハ表面における中心を通る直線上の、中心付近の位置を含む略等間隔の9か所で、研磨前後のウェハの厚さ変化を測定し、9か所の測定点における単位時間内の厚さ変化量の平均値を計算し、ウェハの研磨速度とした。
図18に示されているように、パルス電流印加の場合、40mA/cm
2以上の大電流領域においても、電流密度の上昇に伴って研磨速度が向上することが確認された。
【0051】
(パルス周期)
図19は、パルス電流における周期を変化させた場合の酸化速度の変化の様子を示す。図中、縦軸は酸化速度を示し、横軸Tは周期を示す。なお、図中の水平な実線は、定電流の場合の参考値を示す。
【0052】
評価条件は以下の通りである。試料として、30mm角のウェハを用いた。各電流印加条件の間で、電荷量を一致させるため、デューティ、電流密度、および印加時間を同一とした。デューティ比は0.5とし、電流密度は20mA/cm2とした。
【0053】
図19から明らかなように、周期が少なくとも0.01~20秒の範囲で、定電流よりも高い酸化速度が得られた。ここで、上記の通り、表面近傍領域におけるOH
-濃度の回復のため、オフ時間を0.01秒以上設ける必要がある。したがって、良好な酸化速度が得られる周期は、0.01秒を超え且つ20秒以下となる。特に、周期が0.01秒の場合、オフ時間が0.005秒となるため、酸化速度は定電流の場合よりも若干高い程度であった。よって、例えば、オフ時間の最低値0.01秒において、後述のようにデューティ比が0.25~0.75であるとすると、好適な周期の最低値は0.02秒程度となる。
【0054】
また、上記の通り、低密度の酸化膜形成による易加工性を考慮すると、周期は0.02~1秒の範囲であることが好適である。さらに、
図19に示されているように、周期が20秒を超える領域において、酸化速度が定電流の場合よりも若干高い程度となった。この理由は、オフ時間を設けることによる酸化速度の向上効果が上記のように飽和する一方で、全体のサイクルタイムが長時間化してしまうことであると考えられる。このため、
図15および
図16に示されたシミュレーション結果と、
図19に示された実際の酸化速度の評価結果と、実際の製造工程におけるサイクルタイムとを総合考慮すると、周期は0.1秒以上且つ2秒以下であることが好適である。
【0055】
以上の点を総合考慮すると、好適な周期は0.02~2秒であり、より好適には0.02~2秒であり、さらに好適には0.02~1秒あるいは0.1~2秒であり、最も好適には0.1~1秒である。
【0056】
(デューティ比)
図20は、パルス電流におけるデューティ比を変化させた場合の酸化速度の変化の様子を示す。図中、縦軸は酸化速度を示し、横軸はデューティ比を示す。また、図中の水平な実線は、定電流の場合の参考値を示す。
【0057】
評価条件は以下の通りである。試料として、30mm角のウェハを用いた。各電流印加条件の間で、電荷量を一致させるため、電流密度を同一(すなわち20mA/cm
2)とし、デューティ比と印加時間との積が一定となるように印加時間を調整した。
図20に示されているように、デューティ比を0.25~0.75とすることで、定電流よりも高い、良好な酸化速度が得られた。
【0058】
(電流パルス化による効果まとめ)
上記の通り、陽極酸化における印加電流をパルス化することで、酸化速度の向上のみならず、酸化膜W2の密度および硬度の低下に伴う易研磨性あるいは易研削性と、酸化膜W2の均一性向上による平坦性向上とが達成され得る。これにより、研磨あるいは研削の高速化、および、これによるウェハ製造コストの低減が、良好に実現され得る。
【0059】
すなわち、例えば、電流密度を大きくすると加工速度は速くなる一方で表面の粗さが悪化するという従来の技術常識に反し、パルス化した印加電流を大電流化することで、良好な平坦度を保持しつつ高速加工が実現され得る。上記の通り、発明者は、現時点で、150mA/cm2程度までの電流密度において、ECMPあるいはECMGに適した良好な酸化膜W2の形成を確認することができた。
【0060】
ウェハサイズに関しては、上記の実施例のような4インチからさらに大口径化した場合であっても、同等の研磨速度を得ることが可能である。具体的には、本実施形態に係る表面加工方法は、例えば、1~8インチのウェハサイズに対して、良好に適用可能である。
【0061】
(変形例)
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。故に、上記実施形態に対しては、適宜変更が可能である。以下、代表的な変形例について説明する。以下の変形例の説明においては、上記実施形態との相違点を主として説明する。また、上記実施形態と変形例とにおいて、互いに同一または均等である部分には、同一符号が付されている。したがって、以下の変形例の説明において、上記実施形態と同一の符号を有する構成要素に関しては、技術的矛盾または特段の追加説明なき限り、上記実施形態における説明が適宜援用され得る。
【0062】
本発明は、上記実施形態にて示された具体的な装置構成に限定されない。すなわち、
図1は、本発明に係る表面加工装置1、および、これにより実施可能な表面加工方法の概要を簡易に説明するための、簡素化された概略図である。したがって、実際に製造販売される表面加工装置1の構成は、必ずしも、
図1に示された例示的な構成と一致するとは限らない。また、実際に製造販売される表面加工装置1の構成は、
図1に示された例示的な構成から適宜変更され得る。
【0063】
例えば、表面加工パッド3の構成は、上記実施形態にて示された具体的な装置構成に限定されない。具体的には、電極31と砥石層32とは、表面加工パッド3の厚さ方向に接合されていなくてもよい。より詳細には、例えば、電極31と砥石層32とが、表面加工パッド3の厚さ方向と直交する面内方向に隣接配置していてもよい。すなわち、表面加工パッド3が回転あるいは移動することで、被加工面W1における特定の部分に対して、電極31と表面加工パッド3とが時間的に交互に対向するように、表面加工装置1が構成され得る。あるいは、電極31は、表面加工パッド3とは別体のものであってもよい。すなわち、被加工面W1における全体あるいは特定の部分に対して、電極31と表面加工パッド3とが時間的に交互に対向するように、表面加工装置1が構成され得る。砥石層32に含有される砥粒の種類等についても、特段の限定はない。
【0064】
電解液Sは、エッチャント成分を含んでいてもよい。すなわち、本発明に係る表面加工装置1、および、これにより実施可能な表面加工方法は、陽極酸化により生じた酸化膜W2をエッチャントおよび表面加工パッド3の双方を用いて選択的に除去することで、被加工面W1を研磨あるいは研削するものであってもよい。
【0065】
本発明に係る表面加工装置1、および、これにより実施可能な表面加工方法は、典型的には、
図2に示された製法A~製法CにおけるECMG工程、粗ECMP工程、および仕上げECMP工程のいずれに対しても適用可能である。しかしながら、例えば、製法Aにおいて、粗ECMP工程の後の被加工面W1は、良好に鏡面仕上げされ、且つ、粗ECMP工程に起因する表面下ダメージをほとんど有さないことが期待できる。したがって、仕上げECMP工程については、従来の定電流印加によるECMPを用いることが可能である。
【0066】
上記実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、構成要素の個数、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数値に限定される場合等を除き、その特定の数値に本発明が限定されることはない。同様に、構成要素等の形状、方向、位置関係等が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に特定の形状、方向、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、方向、位置関係等に本発明が限定されることはない。
【0067】
変形例も、上記の例示に限定されない。すなわち、例えば、上記に例示した以外で、複数の実施形態同士が、技術的に矛盾しない限り、互いに組み合わされ得る。同様に、複数の変形例が、技術的に矛盾しない限り、互いに組み合わされ得る。
【符号の説明】
【0068】
1 表面加工装置
2 容器
3 表面加工パッド
31 電極
32 砥石層
4 駆動装置
5 電源装置
S 電解液
W SiC基板
W1 被加工面
W2 酸化膜
W3 酸化物
W4 ピット