(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180891
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】紙料濃縮機
(51)【国際特許分類】
D21D 99/00 20060101AFI20221130BHJP
F16J 15/16 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
D21D99/00
F16J15/16 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087640
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】小原 雅公
【テーマコード(参考)】
3J043
4L055
【Fターム(参考)】
3J043AA16
3J043CB20
3J043DA09
3J043FA03
3J043FB04
4L055BB02
4L055CB02
(57)【要約】
【課題】紙料濃縮機の長期間稼働に伴い摩耗したデッケルリングを、簡易に交換することができる紙料濃縮機を提供すること。
【解決手段】表面に金網を張った円筒状のシリンダと、シリンダ及び紙料が入るバットと、シリンダとバットの間に紙料が溢れることを防ぐ円形状のデッケルリング及びデッケルバンドを少なくとも有し、バット内の紙料中でシリンダを回転させることで、シリンダ表面の金網で紙料の繊維を抄き上げて、紙料の脱水及び濃縮を行う紙料濃縮機であって、シリンダは、デッケルリングをシリンダに取り付ける基準位置となるデッケルリング取付座を有し、デッケルリングは、デッケルリング取付座に固定ボルトで着脱可能に取り付けられたことを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に金網を張った円筒状のシリンダと、前記シリンダ及び紙料が入るバットと、前記シリンダと前記バットの間に前記紙料が溢れることを防ぐ円形状のデッケルリング及びデッケルバンドを少なくとも有し、前記バット内の紙料中で前記シリンダを回転させることで、前記シリンダ表面の金網で前記紙料の繊維を抄き上げて、前記紙料の脱水及び濃縮を行う紙料濃縮機であって、
前記シリンダは、前記デッケルリングを前記シリンダに取り付ける基準位置となるデッケルリング取付座を有し、
前記デッケルリングは、前記デッケルリング取付座に固定ボルトで着脱可能に取り付けられたことを特徴とする紙料濃縮機。
【請求項2】
前記デッケルリングにおける前記デッケルバンドとの接触面は、防錆及び耐摩耗性を有する金属で被覆されたことを特徴とする、請求項1記載の紙料濃縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精選処理した紙料から水分を脱水及び除去する、紙料濃縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
用紙の製造工程においては、用紙の原材料であるパルプを様々な薬品と混ぜ合わせた液体である紙料を調合する際に、紙料をあらかじめ定められた濃度に調節するため、繊維(セルロース)を抄き上げ、紙料の脱水及び濃縮を行う機器である紙料濃縮機を使用して、紙料の脱水を行っている。
【0003】
図4は、従来の紙料濃縮機(M’)における正面図である。
【0004】
図4に示すように、紙料濃縮機(M’)は、表面に金網を張った円筒状のシリンダ(1’)と、紙料(P’)が入るバット(2’)から構成され、バット(2’)内の紙料(P’)中でシリンダ(1’)を回転させることで、シリンダ(1’)表面の金網で繊維を抄き上げ、紙料(P’)の脱水及び濃縮を行うものである。
【0005】
図5は、
図4に示した従来の紙料濃縮機(M’)におけるA-A’断面図である。シリンダ(1’)とバット(2’)の間の隙間へ紙料(P’)が漏れることを防ぐことを目的とし、デッケルリング(3’)が、シリンダ(1’)側とバット(2’)側にそれぞれ設置されている。以降、
図5及び後述する
図6において、シリンダ(1’)側のデッケルリング(S’)を説明する場合、(3S’)とし、バット(2’)側のデッケルリング(S’)を説明する場合、(3B’)として、両方を説明する場合、(3’)とする。
【0006】
デッケルリング(3’)をデッケルバンド(4’)で締め付けることで、隙間がふさがり、デッケルバンド(4’)がシール(密封)性能を有し、パッキンのような役割となることで、紙料(P’)の漏れを防ぐ構造となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図6は、
図4及び
図5に示した従来の紙料濃縮機(M’)におけるデッケルリング(3’)を示す模式図である。
【0008】
図6(a)に示すように、デッケルリング(3S’)は、シリンダ(1’)に溶接により固定設置されている。紙料濃縮機(M’)の運転中、シリンダ(1’)は常時に回転している。
【0009】
よって、
図6(b)に示すように、紙料濃縮機(M’)を長期間稼働することで、デッケルリング(3S’)とデッケルバンド(4’)が擦れることで、デッケルリング(3S’)の摩耗が進行する。シリンダ(1’)側のデッケルリング(3S’)が摩耗したことで、バット(2’)側のデッケルリング(3B’)と段差ができ、デッケルバンド(4’)のシール(密閉)性能が低下し、デッケルリング(3’)とデッケルバンド(4’)に隙間が生じることで、隙間から紙料(P’)が漏れ出す。このまま使用し続けると、よりデッケルリング(3’)の摩耗が進行し、紙料(P’)が多量に漏れ出す状態が続く。
【0010】
摩耗したデッケルリング(3’)の修理は、デッケルリング(3’)がシリンダ(1’)に溶接付けされているため、紙料濃縮機(M’)からシリンダ(1’)を取り外し、摩耗したデッケルリング(3’)を撤去した後、新しいデッケルリング(3’)を再度溶接付けする作業となり、多額の費用と長期間の機械停止が必要となる問題があった。
【0011】
本発明は、上記課題の解決のため、具体的には、簡易に交換可能なデッケルリングを設けた、紙料濃縮機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、表面に金網を張った円筒状のシリンダと、シリンダ及び紙料が入るバットと、シリンダとバットの間に紙料が溢れることを防ぐ円形状のデッケルリング及びデッケルバンドを少なくとも有し、バット内の紙料中でシリンダを回転させることで、シリンダ表面の金網で紙料の繊維を抄き上げて、紙料の脱水及び濃縮を行う紙料濃縮機であって、シリンダは、デッケルリングをシリンダに取り付ける基準位置となるデッケルリング取付座を有し、デッケルリングは、デッケルリング取付座に固定ボルトで着脱可能に取り付けられた紙料濃縮機である。
【0013】
また、紙料濃縮機は、デッケルリングにおけるデッケルバンドとの接触面が、防錆及び耐摩耗性を有する金属で被覆されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の紙料濃縮機は、デッケルリングを着脱可能なボルト接合としたことで、デッケルリングを部品購入し、簡易にデッケルリングの交換が可能となった。また、機械停止期間も短縮することが可能となった。
【0015】
さらに、デッケルリング表面を耐摩耗性に優れた材質で溶射することで、デッケルリングの耐摩耗性が向上し、さらに交換周期を延長することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】本発明の紙料濃縮機(M)におけるA-A’断面図。
【
図3】本発明の紙料濃縮機(M)におけるデッケルリング(3)を示す模式図。
【
図5】
図4に示した従来の紙料濃縮機(M’)におけるA-A’断面図。
【
図6】
図4及び
図5に示した従来の紙料濃縮機(M’)におけるデッケルリング(3’)を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の好ましい実施形態について、図面に基づき詳細に説明する。しかしながら、本願発明は、以下に述べる実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載における技術的思想の範囲内であれば、その他様々な形態がある。
【0018】
図1は、本発明の紙料濃縮機(M)における正面図である。
【0019】
図1に示すように、紙料濃縮機(M)は、表面に金網を張った円筒状のシリンダ(1)と、シリンダ(1)の外側に、シリンダ(1)及び紙料(P)が入る箱型のバット(2)と、図示しないレベルボックスから構成される。バット(2)内の紙料(P)は、バット(2)と連結したレベルボックスにより、紙料(P)の液面(PL)の高さが一定に保たれている。バット(2)内の紙料(P)中でシリンダ(1)を回転させることで、シリンダ(1)表面の金網で繊維を抄き上げ、紙料(P)の脱水及び濃縮を行う。紙料(P)から脱水した水(排水)は、レベルボックスへ流れ、一定の液面(PL)の高さを保つために適宜バルブを開いて排水を行う。
【0020】
シリンダ(1)及びシリンダ(1)表面の金網の材質は、ステンレスや、ステンレスとクロムとニッケルを成分に含むステンレス系等の耐食性を有し汚れが付きにくい材質を適宜選択する。
【0021】
シリンダ(1)は、シャフト(7)及びシャフト(7)と連結した図示しないシリンダ駆動用モータを有する。シリンダ駆動用モータが駆動し、シャフト(7)を回転させることで、シャフト(7)と連動してシリンダ(1)が回転する。なお、シリンダ(1)のシャフト(7)は、クロブモリブデン鋼など、回転に伴う摩耗が少ないように硬度の高い材質を適宜用いる。
【0022】
バット(2)は上部に開口部を有する箱型の形状であり、材質は、ステンレスや、ステンレスとクロムとニッケルを成分に含むステンレス系等の耐食性を有し、汚れが付きにくい材質とする。
【0023】
図2は、
図1に示した紙料濃縮機(M)におけるA-A’断面図である。
【0024】
シリンダ(1)とバット(2)の間の隙間へ紙料(P)が漏れることを防ぐことを目的とし、デッケルリング(3)が、シリンダ(1)及びバット(2)の間に配置される。デッケルリング(3)は、円形状の中心にシャフト(7)が係合する開口部を有する部材であり、従来と同様に、デッケルバンド(4)で締め付けることで、隙間がふさがり、デッケルバンド(4)がシール(密封)性能を有したパッキンのような役割となることで、紙料(P)の漏れを防ぐ構造となっている。
【0025】
図2に示すように、デッケルリング(3)は、シリンダ(1)及びバット(2)の間における、シリンダ(1)及びデッケルバンド(4)の間と、デッケルバンド(4)及びバット(2)の間にそれぞれ設置されている。以降、
図2、後述する
図3及び
図4において、シリンダ(1)及びデッケルバンド(4)の間に設置したシリンダ(1)側のデッケルリング(S)を説明する場合(3S)とし、デッケルバンド(4)及びバット(2)の間に設置したバット(2)側のデッケルリング(S)を説明する場合(3B)とし、両方を説明する場合(3)とする。
【0026】
図3は、本発明における紙料濃縮機(M)におけるデッケルリング(3)を示す模式図である。
【0027】
本発明においてデッケルリング(3)は、従来のようにシリンダ(1)に直接溶接付けで設置するのではなく、デッケルリング取付座(5)を介して、固定ボルト(6)を用いてシリンダ(1)に取り付けることを特徴とする。デッケルリング取付座(5)とは、デッケルリング(3)をシリンダ(1)に取り付けるための基準位置となるL字型の部材であり、シリンダ(1)に溶接付けで設置される。デッケルリング取付座(5)の材質は、クロムとニッケルを配合したステンレス鋼である。
【0028】
図3を用いて詳細に説明すると、デッケルリング取付座(5)は、シリンダ側デッケルリング(3)の下方に隣接して配置される。シリンダ(1)とシリンダ側デッケルリング取付座(5S)は、溶接で取付けられている。本発明においては、シリンダ側デッケルリング(3S)を、シリンダ(1)に直接溶接付けで設置するのではなく、シリンダ側デッケルリング取付座(5S)を介して、固定ボルト(6)を用いてシリンダ(1)に取り付けることを特徴とする。本構成とすることで、デッケルバンド(4)のシール(密封)性能を維持しつつ、シリンダ側デッケルリング(3S)を簡易に交換することが可能となる。
【0029】
また、より好ましい構成として、シリンダ側デッケルリング(3S)における、デッケルバンド(4)の接触面(Q)を、タングステンカーバイド等の防錆及び耐摩耗性に優れた金属で被覆(溶射加工)する。防錆及び耐摩耗性に優れた金属で被覆することで、紙料濃縮機(M)を長期間稼働した場合でも、デッケルリング(3)とデッケルバンド(4)が擦れることに起因する、デッケルリング(3)の摩耗の進行を遅らせることが可能となる。よって、デッケルリング(3)の交換周期の延長によるコストが削減される。
【0030】
次に、
図3を用いてデッケルリング(3)の交換方法について説明する。一例として、シリンダ側デッケルリング(3S)の交換方法について説明する。
【0031】
まず、紙料濃縮機(M)の機械稼働を停止した後、デッケルバンド(4)を取り外す。デッケルバンド(4)は、バット(2)に固定金具(図示せず)で取り付けられており、固定金具のボルトを緩めることで、デッケルバンド(4)をバット(2)から取り外す。
【0032】
次に、固定ボルト(6)を取り外す。固定ボルト(6)は、ボルトの形状及び大きさに対応したレンチで取り外す。例えば、固定ボルト(6)を六角ボルトとした場合、六角レンチを用いて取り外す。
【0033】
次に、摩耗したシリンダ側デッケルリング(3S)を、シリンダ側デッケルリング取付座(5S)から取り外す。まず、シリンダ(1)をバット(2)から取り外し、次に、固定ボルト(6)を取り外して、シリンダ側デッケルリング(3S)を取り外す。なお、シリンダ(1)を取り外す際には、シリンダ(1)表面の網に損傷等を与えないように注意する。
【0034】
次に、新しいシリンダ側デッケルリング(3S)をシリンダ側デッケルリング取付座(5S)に取り付けた後、取り外した手順と逆の手順を行い、シリンダ側デッケルリング(3S)を交換する。交換後は、シリンダ側デッケルリング(3S)及びバット側デッケルリング(3B)から紙料漏れが無いかを確認し、紙料漏れがある場合は、固定ボルト(6)を締め付けてデッケルバンド(3)の張力を上げることで、紙料漏れを防ぐ。
【0035】
以上のように、本発明においては、デッケルリング取付座(5)とデッケルリング(3)を、固定ボルト(6)を介して着脱式に固定設置することで、紙料濃縮機(M)の長期間稼働に伴いデッケルリング(3)が摩耗した場合でも、簡易に交換することが可能となった。
【符号の説明】
【0036】
1 シリンダ
2 バット
3、3S、3B デッケルリング
4 デッケルバンド
5 デッケルリング取付座
6 固定ボルト
Q 接触面
M 紙料濃縮機