(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180922
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】硫酸ニッケル水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 53/10 20060101AFI20221130BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20221130BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
C01G53/10
C22B23/00 102
C22B3/44 101A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087684
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 智博
(72)【発明者】
【氏名】杉之原 真
(72)【発明者】
【氏名】横川 友彦
【テーマコード(参考)】
4G048
4K001
【Fターム(参考)】
4G048AA07
4G048AB02
4G048AB08
4G048AE05
4K001AA19
4K001BA19
4K001DB03
4K001DB14
4K001DB23
4K001DB26
(57)【要約】
【課題】粗硫酸ニッケル水溶液に含まれる鉄を除去する工程においてクロムを充分に除去できる硫酸ニッケル水溶液の製造方法を提供する。
【解決手段】硫酸ニッケル水溶液の製造方法は、不純物として鉄およびクロムを含む粗硫酸ニッケル水溶液にアルカリを添加して、中和反応により不純物を含む沈澱物を生成して中和スラリーを得る中和工程と、中和スラリーをバッチ式のケーキ濾過機で固液分離して沈澱物を除去した中和終液を得る濾過工程とを有する。濾過工程において、ケーキ濾過機への1バッチ当たりの単位濾過面積当たりの総濾過液量を0.4m
3/m
2以上にする。これによりクロム濃度の低い硫酸ニッケル水溶液が得られる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物として鉄およびクロムを含む粗硫酸ニッケル水溶液にアルカリを添加して、中和反応により前記不純物を含む沈澱物を生成して中和スラリーを得る中和工程と、
前記中和スラリーをバッチ式のケーキ濾過機で固液分離して前記沈澱物を除去した中和終液を得る濾過工程と、を備え、
前記濾過工程において、前記ケーキ濾過機への1バッチ当たりの単位濾過面積当たりの総濾過液量を0.4m3/m2以上にする
ことを特徴とする硫酸ニッケル水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記中和工程において、前記粗硫酸ニッケル水溶液のpHを4.6~4.9にする
ことを特徴とする請求項1記載の硫酸ニッケル水溶液の製造方法。
【請求項3】
前記中和工程への供給時点における前記粗硫酸ニッケル水溶液の鉄濃度は50~300mg/Lであり、クロム濃度は10~30mg/Lである
ことを特徴とする請求項1または2記載の硫酸ニッケル水溶液の製造方法。
【請求項4】
前記濾過工程への供給時点における前記中和スラリーの液相の鉄濃度は0~5mg/Lであり、クロム濃度は1~2mg/Lである
ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の硫酸ニッケル水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸ニッケル水溶液の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、クロム濃度の低い硫酸ニッケル水溶液を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫酸ニッケル水溶液の製造方法として、以下の方法が知られている(例えば、特許文献1)。まず、金属硫化物を加圧浸出して粗硫酸ニッケル水溶液を得る。つぎに、中和反応により粗硫酸ニッケル水溶液に含まれる鉄を水酸化物として除去し、中和終液を得る(中和工程)。つぎに、溶媒抽出により中和終液に含まれる不純物を除去して硫酸ニッケル水溶液を得る(溶媒抽出工程)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
中和工程では粗硫酸ニッケル水溶液に含まれる鉄とともにクロムなど鉄以外の不純物の一部も除去される。しかし、水酸化クロムは水酸化鉄に比べて溶解度積が大きいため、中和反応によりクロムを充分に除去することは困難である。中和反応におけるpHを高くすればクロムを水酸化物として除去しやすくなるが、ニッケルの沈澱量が増加するためニッケルロスに繋がる。
【0005】
中和反応で除去しきれなかったクロムは他の不純物とともに溶媒抽出工程において有機溶媒に抽出される。有機溶媒に抽出された不純物は硫酸により逆抽出される。しかし、クロムは逆抽出されにくいため、
図7に示すように、硫酸ニッケル製造プロセスの稼働時間の経過とともに有機溶媒にクロムが徐々に蓄積されていく。
【0006】
有機溶媒にクロムが蓄積されると、有機溶媒の抽出能力が低下したり、硫酸ニッケル水溶液のクロム濃度が上昇したりする。そのため、溶媒抽出工程より前の工程においてクロムの大部分を除去することが好ましい。
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、粗硫酸ニッケル水溶液に含まれる鉄を除去する工程においてクロムを充分に除去できる硫酸ニッケル水溶液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明の硫酸ニッケル水溶液の製造方法は、不純物として鉄およびクロムを含む粗硫酸ニッケル水溶液にアルカリを添加して、中和反応により前記不純物を含む沈澱物を生成して中和スラリーを得る中和工程と、前記中和スラリーをバッチ式のケーキ濾過機で固液分離して前記沈澱物を除去した中和終液を得る濾過工程と、を備え、前記濾過工程において、前記ケーキ濾過機への1バッチ当たりの単位濾過面積当たりの総濾過液量を0.4m3/m2以上にすることを特徴とする。
第2発明の硫酸ニッケル水溶液の製造方法は、第1発明において、前記中和工程において、前記粗硫酸ニッケル水溶液のpHを4.6~4.9にすることを特徴とする。
第3発明の硫酸ニッケル水溶液の製造方法は、第1または第2発明において、前記中和工程への供給時点における前記粗硫酸ニッケル水溶液の鉄濃度は50~300mg/Lであり、クロム濃度は10~30mg/Lであることを特徴とする。
第4発明の硫酸ニッケル水溶液の製造方法は、第1~第3発明のいずれかにおいて、前記濾過工程への供給時点における前記中和スラリーの液相の鉄濃度は0~5mg/Lであり、クロム濃度は1~2mg/Lであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、中和スラリーの液相に含まれるクロムがケーキに含まれる水酸化鉄に吸着されることで、濾液のクロム濃度が低くなる。これによりクロム濃度の低い硫酸ニッケル水溶液が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】硫酸ニッケル製造プロセスの全体工程図である。
【
図2】中和工程および濾過工程を行なう装置の説明図である。
【
図3】中和反応pHと中和終液のクロム濃度との関係を示すグラフである。
【
図4】Fe(OH)
3表面化学種濃度のpH依存性を示すグラフである。出典:David A. Dzombak and Francois M. M. Morel: Surface Complexation Modeling, (Wiley-Interscience, New York, 1990)
【
図5】単位濾過面積当たりの総濾過液量と濾液および中和終液のクロム濃度との関係を示すグラフである。
【
図6】単位濾過面積当たりの総濾過液量と濾液のクロム濃度およびpHとの関係を示すグラフである。
【
図7】有機溶媒のクロム濃度の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る硫酸ニッケル水溶液の製造方法は、加圧浸出工程、中和工程、濾過工程および溶媒抽出工程を有する。
【0012】
加圧浸出工程ではニッケル・コバルト混合硫化物などの金属硫化物を加圧浸出して粗硫酸ニッケル水溶液を得る。粗硫酸ニッケル水溶液には鉄などの不純物が含まれている。中和工程では粗硫酸ニッケル水溶液にアルカリを添加して、中和反応により不純物を含む沈澱物を生成し、中和スラリーを得る。濾過工程では中和スラリーを固液分離して中和澱物を除去した中和終液を得る。溶媒抽出工程では溶媒抽出により中和終液に含まれる不純物を除去して硫酸ニッケル水溶液を得る。また、溶媒抽出工程では中和終液に含まれるコバルトから粗塩化コバルト水溶液を得ることができる。
【0013】
溶媒抽出工程では中和終液に含まれる不純物を有機溶媒に抽出する。有機溶媒に抽出された不純物は硫酸により逆抽出される。しかし、クロムは逆抽出されにくい。そこで、有機溶媒に塩酸を添加してクロムを逆抽出し、硫酸で洗浄することも考えられる。
【0014】
なお、本実施形態に係る硫酸ニッケル水溶液の製造方法は、少なくとも中和工程と濾過工程を有していればよい。その他の工程を省略してもよいし、追加してもよい。
【0015】
図2に示すように、中和工程は複数段の反応槽10A、10Bを用いて行なうことが一般的である。具体的には、複数段の反応槽10A、10Bを直列に接続し、粗硫酸ニッケル水溶液を最前段の反応槽10Aから最後段の反応槽10Bに向かって順に流す。各反応槽10A、10Bにアルカリを添加し、粗硫酸ニッケル水溶液のpH(中和反応pH)を調整する。この際、最前段の反応槽10Aから最後段の反応槽10Bにかけて粗硫酸ニッケル水溶液のpHを段階的に上昇させることが好ましい。すなわち、反応槽10BのpHをその直前の反応槽10AのpHより高くする。
【0016】
なお、反応槽10A、10Bの段数は特に限定されない。また、反応槽の段数を1段としてもよい。
【0017】
最終段の反応槽10Bからは中和スラリーが排出される。中和スラリーは中和反応により生じた沈澱物(中和澱物)を含むスラリーである。中和スラリーを濾過機20で固液分離して中和澱物と濾液とを得る。
【0018】
濾過機20としてフィルタープレス、リーフフィルタなどのケーキ濾過機を好適に用いることができる。ケーキ濾過機は濾過対象液に含まれる固体粒子を濾材で捕捉してケーキ層を形成し、ケーキ層に通液することで濾過を行なう。ケーキ濾過機はバッチ式で操作されるものが多い。すなわち、通液により所定量のケーキが形成されたら、濾過操作を終了してケーキを排出する。
【0019】
濾過機20から排出された濾液は濾液槽30に貯留される。濾液槽30に貯留された液を中和終液という。
【0020】
中和工程に供給される粗硫酸ニッケル水溶液は不純物として少なくとも鉄およびクロムを含む。例えば、中和工程への供給時点において、粗硫酸ニッケル水溶液の鉄濃度は50~300mg/Lであり、クロム濃度は10~30mg/Lである。
【0021】
中和工程において粗硫酸ニッケル水溶液のpHを4.6~4.9にすることが好ましい。中和工程を複数段の反応槽10A、10Bを用いて行なう場合には、最前段の反応槽10Aから最後段の反応槽10Bにかけて中和反応pHを段階的に上昇させ、最後段の反応槽10Bにおける粗硫酸ニッケル水溶液のpHを4.6~4.9にすることが好ましい。中和工程を1段の反応槽で行なう場合には、その反応槽のpHを4.6~4.9にすればよい。
【0022】
中和反応により粗硫酸ニッケル水溶液に含まれる不純物の沈澱物が生成する。これにより液相の不純物濃度が低くなる。例えば、濾過工程への供給時点において、中和スラリーの液相の鉄濃度は0~5mg/Lであり、クロム濃度は1~2mg/Lである。
【0023】
中和スラリーをバッチ式のケーキ濾過機で固液分離すれば、クロム濃度がより低い中和終液を得ることができる。中和スラリーの液相に含まれるクロムがケーキに含まれる水酸化鉄の表面に吸着されることで、濾液のクロム濃度が低くなる。これにより、クロム濃度の低い硫酸ニッケル水溶液が得られる。
【0024】
バッチ式のケーキ濾過機では1バッチ当たりの総通液量が多いほどケーキ層が厚くなる。ケーキ層が厚いほどクロムと水酸化鉄との接触が促進され、濾液のクロム濃度が低くなる。そのため、1バッチ当たりの総通液量を多くするほど、中和終液のクロム濃度を低くできる。
【0025】
具体的には、ケーキ濾過機への1バッチ当たりの単位濾過面積当たりの総濾過液量を0.4m3/m2以上にすることが好ましい。ここで、単位濾過面積当たりの総濾過液量は、ケーキ濾過機に供給する総濾過液量[m3]をケーキ濾過機の濾過面積[m2]で割った値を意味する。なお、粗硫酸ニッケル水溶液の鉄濃度が50mg/Lであるとすると、1バッチ当たりの単位濾過面積当たりの総濾過液量0.4m3/m2は、1バッチ当たりの単位濾過面積当たりの鉄負荷量20g/m2に相当する。
【0026】
ケーキ濾過機への総通液量を多くしすぎると、濾過抵抗が高くなり通液流量が低下するため処理量が低下する。そのため、中和スラリーのスラリー濃度によっても多少変わってくるが、1バッチ当たりの単位濾過面積当たりの総濾過液量を1m3/m2以下にすることが好ましい。
【0027】
以下、ケーキ濾過によりクロム濃度の低い硫酸ニッケル水溶液が得られる原理を検討する。
【0028】
本発明者らは、ビーカー試験により粗硫酸ニッケル水溶液にFe
2+イオンまたはFe
3+イオンを添加して中和反応を起こした。その結果を
図3に示す。
図3から分かるように、Fe
3+イオンを添加すると中和終液のクロム濃度が大きく低下する。このことから、Cr
3+イオンはFe
3+イオンとの共沈反応により除去されていると考えられる。本発明者らは、共沈反応を置換反応と吸着反応の2種類の反応に分け、クロムが除去される原理を検討した。
【0029】
ここでいう置換反応とは、水酸化第二鉄が生成する際に、Fe3+イオンとCr3+イオンが入れ替わる反応をいう。一般的に、難溶性の金属水酸化物は、金属酸化物の水和物の構造をとる。例えば、2Fe(OH)3はFe2O3・3H2O、2Cr(OH)3はCr2O3・3H2Oと見なすことができる。そこで、Fe2O3とCr2O3の両者を比較すると、Fe2O3とCr2O3の結晶構造は同型構造(コランダム型)をとる。また、表1に示すように、Fe2O3とCr2O3の格子定数の差は1~2%である。格子定数の差が10%以下であると置換反応が起こり得ることが知られているから、Cr3+イオンはFe3+イオンとの置換反応により除去されていると考えられる。
【0030】
【0031】
水溶液中において水酸化第二鉄(以下、Fe(OH)3と表記する。)の表面は、水素イオンの吸着および脱離によって、電荷を帯びることが知られている。その反応式は式(1)、式(2)のとおりである。
≡FeOH0 + H+ ⇔ ≡FeOH2
+ ・・・(1)
≡FeOH0 ⇔ ≡FeO- + H+ ・・・(2)
【0032】
式(1)、式(2)の反応はFe(OH)3表面で起こる反応である。式中の≡は固液界面であることを示す記号である。Fe(OH)3の表面水酸基(≡FeOH0)は、等電点より低いpH領域では水素イオンを吸着して正に帯電するが、等電点より高いpH領域では負に帯電する。Fe(OH)3の等電点はpH8.0付近である。中和反応のpHは5.0前後であることから、Fe(OH)3表面は正に帯電している。
【0033】
正に帯電した表面水酸基(≡FeOH2
+)とCr3+イオンとは式(3)に示す吸着反応が起きる。このことから、Cr3+イオンはFe(OH)3表面への吸着反応によって除去されていると考えられる。
≡FeOH2
+ + Cr3+ + H2O ⇔ ≡FeOCrOH+ + 3H+ ・・・(3)
【0034】
図4にFe(OH)
3表面化学種濃度のpH依存性を示す。pHが低いほど、式(1)の反応は水素イオンを吸着する方向に進み、Cr
3+イオンの吸着サイトである≡FeOH
2
+の割合が増加する。一方、pHが低いほど、式(3)の反応はCr
3+イオンを脱離する方向に進む。そのため、式(1)および式(3)の両者の反応によって、Cr除去能力が決まると考えられる。
【実施例0035】
つぎに、実施例を説明する。
粗硫酸ニッケル水溶液にアルカリを添加して、中和反応により不純物を含む沈澱物を生成した。ここで、粗硫酸ニッケル水溶液を直列に接続された2段の反応槽に順に流して中和反応を生じさせた。
【0036】
前段反応槽への供給時点における粗硫酸ニッケル水溶液は、ニッケル濃度が130~150g/L、コバルト濃度が11~14g/L、鉄濃度が50~300mg/L、クロム濃度が10~30mg/L、SS濃度が0~10g/L、pHが1.1~1.4である。
【0037】
反応槽への粗硫酸ニッケル水溶液の流量は80~170L/分である。前段反応槽の中和反応pHを3.70~4.05、後段反応槽の中和反応pHを4.6~4.9とした。反応温度(反応槽内の粗硫酸ニッケル水溶液の温度)は50~60℃である。
【0038】
後段反応槽から排出された中和スラリーを濾過機で固液分離し、濾液を濾液槽に貯留した。濾過機として全自動圧搾式フィルタープレスを用いた。濾過面積は78.8m2、濾過容積は1089L、濾室厚は30mm、濾室数は54、濾過圧力は最大0.4MPaである。また、濾過機通液時間を最大400分とした。
【0039】
固液分離1バッチの開始から所定時間間隔で濾液のクロム濃度、および濾液槽内の濾液(中和終液)のクロム濃度を原子吸光光度法により測定した。なお、濾液槽には固液分離1バッチ分の濾液が貯留される。したがって、中和終液のクロム濃度は、それまでに排出された濾液の平均的なクロム濃度となる。
【0040】
図5に、後段反応槽の中和反応pHを4.9としたときの、単位濾過面積当たりの総濾過液量と濾液および中和終液のクロム濃度との関係を示す。
図5から分かるように、単位濾過面積当たりの総濾過液量が多いほど濾液のクロム濃度が低くなる。このことは、総通液量の増加または通液時間の経過とともに濾液のクロム濃度が低くなっていくことを意味する。
【0041】
濾液槽には1バッチ分の濾液が貯留される。そのため、総通液量が多くなるほど、濾液槽内の中和終液は、クロム濃度の低い濾液で希釈される。その結果、最終的にはクロム濃度の低い中和終液が得られる。すなわち、1バッチ当たりの単位濾過面積当たりの総濾過液量を多くするほど、中和終液のクロム濃度が低くなる。
【0042】
図5より、単位濾過面積当たりの総濾過液量を0.4m
3/m
2とすれば、濾液のクロム濃度が0mg/Lとなり、中和終液のクロム濃度が1.0mg/Lとなる。したがって、中和終液のクロム濃度を低減するという観点からは、単位濾過面積当たりの総濾過液量を0.4m
3/m
2以上とすることが好ましい。単位濾過面積当たりの総濾過液量を0.4m
3/m
2以上とすれば、中和終液のクロム濃度を1.0mg/L以下に低減できる。
【0043】
図6に、後段反応槽の中和反応pHを4.7としたときの、単位濾過面積当たりの総濾過液量と濾液のクロム濃度およびpHとの関係を示す。
図6より、単位濾過面積当たりの総濾過液量が多いほど濾液のpHが低くなることが分かる。このことから、中和スラリーを濾過機で固液分離する際に式(3)に示す反応が進行したと考えられる。すなわち、濾過機のケーキに含まれる水酸化第二鉄にCr
3+イオンが吸着されたと考えられる。総通液量が多いほどケーキは厚くなり、ケーキ中の水酸化第二鉄とCr
3+イオンとの接触が促進される。そのため、総通液量が多くなるにしたがい濾液のクロム濃度が低下すると考えられる。