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特開2022-181130シリコンウェーハのサーマルドナー挙動予測方法及びシリコンウェーハの製造方法
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  • 特開-シリコンウェーハのサーマルドナー挙動予測方法及びシリコンウェーハの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181130
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】シリコンウェーハのサーマルドナー挙動予測方法及びシリコンウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/324 20060101AFI20221130BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
H01L21/324 X
H01L21/324 T
C30B29/06 A
C30B29/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087991
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】鳥越 和尚
(72)【発明者】
【氏名】川口 隼矢
(72)【発明者】
【氏名】坂本 英城
(72)【発明者】
【氏名】小野 敏昭
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB01
4G077BA04
4G077FE11
4G077GA01
4G077HA12
(57)【要約】
【課題】熱処理時間が短い場合にも適用できる、サーマルドナーの生成量を予測する方法及び製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のシリコンウェーハのサーマルドナー挙動予測方法は、熱処理時間と当該熱処理時間においてサーマルドナー生成量が最大となる熱処理温度との関係が、負の相関であることを用いる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウェーハのサーマルドナー挙動予測方法であって、
熱処理時間と当該熱処理時間においてサーマルドナー生成量が最大となる熱処理温度との関係が、負の相関であることを用いる、
シリコンウェーハのサーマルドナー挙動予測方法。
【請求項2】
前記負の相関が下記式(1):
[T]=-at+b ・・・(1)
(式(1)中において、[T]は前記サーマルドナー生成量が最大となる熱処理温度、tは前記熱処理時間、a及びbは非負定数である)
の関係式により表される、請求項1に記載のシリコンウェーハのサーマルドナー挙動予測方法。
【請求項3】
前記サーマルドナー生成量が下記式(2):
[T]=A×[O×t×exp{-(T-T/(2T0 )} ・・・(2)
(式(2)中において、[T]はサーマルドナー生成量、Tは熱処理温度、[O]は酸素濃度、T0、A、B、Cは定数である)
の関係式により表される、請求項1又は2に記載のシリコンウェーハのサーマルドナー挙動予測方法。
【請求項4】
前記熱処理時間が10時間以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のシリコンウェーハのサーマルドナー挙動予測方法。
【請求項5】
前記シリコンウェーハの酸素濃度が、1×1017atoms/cm以上7×1017atoms/cm以下(ASTM F121-1979)である、請求項1~4のいずれか1項に記載のシリコンウェーハのサーマルドナーの挙動予測方法。
【請求項6】
上記請求項1~5のいずれか一項に記載のシリコンウェーハのサーマルドナー挙動予測方法を用いた、シリコンウェーハの評価方法であって、
熱処理後のシリコンウェーハのサーマルドナー生成量を求める工程と、
前記サーマルドナー生成量に基づき、前記熱処理を施した後の前記シリコンウェーハの予測抵抗率を求める工程と、
を含む、シリコンウェーハの評価方法。
【請求項7】
シリコンウェーハの製造方法であって、
前記シリコンウェーハに施されるデバイスプロセスにおける熱処理条件を把握する工程と、
請求項6に記載のシリコンウェーハの評価方法を用いて、前記デバイスプロセスでの熱処理条件に従う熱処理を施した後の前記シリコンウェーハの予測抵抗率を求める工程と、
前記予測抵抗率に基づき、前記デバイスプロセスに供する前の前記シリコンウェーハの酸素濃度または抵抗率の狙い値を設計する工程と、
を含むことを特徴とするシリコンウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェーハのサーマルドナー挙動予測方法及びシリコンウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェーハはRF(高周波)デバイス、MOSデバイス、DRAM、NAND型フラッシュメモリなど、種々の半導体デバイスを作製する際の半導体基板として広く用いられている。シリコンウェーハを用いて半導体デバイスを作製する、いわゆるデバイスプロセスでは、酸化処理および窒化処理、プラズマエッチング、不純物拡散処理等の様々な熱処理が行われる。
【0003】
ここで、シリコンウェーハ中の酸素は通常電気的に中性であるところ、シリコンウェーハが約600℃未満の比較的低温な熱処理(以下、「低温熱処理」と言う。)を受けると、数個~十数個の酸素原子が集合してシリコン結晶中に酸素クラスターを生成することが知られている。この酸素クラスターは電子を放出するドナーであり、サーマルドナーと呼ばれている。サーマルドナーは約650℃以上の高温熱処理を受けると電気的に中性になり、このような高温熱処理はドナーキラー熱処理(ドナーキラーアニール)と呼ばれる。
【0004】
サーマルドナー生成によってシリコンウェーハのキャリア濃度が変化するため、その結果、デバイスプロセスにおける低温熱処理の前後でシリコンウェーハの抵抗率が変化する。例えば、シリコンウェーハが高抵抗のp型ウェーハである場合、サーマルドナーの生成量に依ってはn型ウェーハに反転し得る。
【0005】
こうしたシリコンウェーハの抵抗率の変化は、半導体デバイスのデバイス特性に大きな影響を及ぼし得る。これまで、シリコン単結晶に低温熱処理を施した後のサーマルドナーの生成メカニズムの研究が行われており、また、シリコンウェーハのサーマルドナー濃度を正確に予測する方法がこれまで種々検討されてきた。
【0006】
特許文献1では、シリコン単結晶に低温熱処理を施したときに生成される酸素ドナーを起因とするキャリアの発生量Δ[C]は、シリコン単結晶中の酸素濃度[Oi]と、熱処理温度Tと、熱処理時間tと、熱処理温度Tにおける酸素の拡散係数D(T)とを用いた、下記式Aを提案している。
Δ[C]=α[Oi]5×exp(-β・D(T)・[Oi]・t) ・・・(式A)
(上記式A中、α、βは定数である)
【0007】
特許文献1によれば、汎用的であり、かつ、従来に比べて高精度でシリコン単結晶のキャリアの発生量の評価を行うことが可能である、とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013-119486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これまでサーマルドナー挙動の予測については、約600℃未満の低温熱処理で長時間、例えば数十時間熱処理した際のサーマルドナー挙動の予測にとどまっていた。そのため、特許文献1に開示される式(式A)では、熱処理時間が短時間である場合のサーマルドナーの挙動を説明できていなかった。
【0010】
そこで、本発明は、特に熱処理時間が短い場合にも適用できる、サーマルドナーの生成量を予測する方法及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
種々の条件で熱処理温度と熱処理時間とサーマルドナー生成量の関係を検討したところ、熱処理時間と当該熱処理時間においてサーマルドナー生成量が最大となる熱処理温度との関係に負の相関があることを本発明者らは見出した。そして、この相関関係を用いることでサーマルドナーの生成挙動を精度良く予測できることを見出した。上記知見に基づき完成した本発明の要旨構成は以下のとおりである。
【0012】
<1>シリコンウェーハのサーマルドナー挙動予測方法であって、
熱処理時間と当該熱処理時間においてサーマルドナー生成量が最大となる熱処理温度との関係が、負の相関であることを用いる、
シリコンウェーハのサーマルドナー挙動予測方法。
【0013】
<2>前記負の相関が下記式(1):
[T]=-at+b ・・・(1)
(式(1)中において、[T]は前記サーマルドナー生成量が最大となる熱処理温度、tは前記熱処理時間、a及びbは非負定数である)
の関係式により表される、<1>のいずれかに記載のシリコンウェーハのサーマルドナー挙動予測方法。
【0014】
<3>前記サーマルドナー生成量が下記式(2):
[T]=A×[O×t×exp{-(T-T/(2T0 )} ・・・(2)
(式(2)中において、[T]はサーマルドナー生成量、Tは熱処理温度、[O]は酸素濃度、T0、A、B、Cは定数である)
の関係式により表される、<1>又は<2>に記載のシリコンウェーハのサーマルドナー挙動予測方法。
【0015】
<4>前記熱処理時間が10時間以下である、<1>~<3>のいずれか1つに記載のシリコンウェーハのサーマルドナー挙動予測方法。
【0016】
<5>前記シリコンウェーハの酸素濃度が、1×1017atoms/cm以上7×1017atoms/cm以下(ASTM F121-1979)である、<1>~<4>のいずれかに記載のシリコンウェーハのサーマルドナーの挙動予測方法。
【0017】
<6>上記<1>~<5>のいずれか一項に記載のシリコンウェーハのサーマルドナー挙動予測方法を用いた、シリコンウェーハの評価方法であって、
熱処理後のシリコンウェーハのサーマルドナー生成量を求める工程と、
前記サーマルドナー生成量に基づき、前記熱処理を施した後の前記シリコンウェーハの予測抵抗率を求める工程と、
を含む、シリコンウェーハの評価方法。
【0018】
<7>シリコンウェーハの製造方法であって、
前記シリコンウェーハに施されるデバイスプロセスにおける熱処理条件を把握する工程と、
<6>に記載のシリコンウェーハの評価方法を用いて、前記デバイスプロセスでの熱処理条件に従う熱処理を施した後の前記シリコンウェーハの予測抵抗率を求める工程と、
前記予測抵抗率に基づき、前記デバイスプロセスに供する前の前記シリコンウェーハの酸素濃度または抵抗率の狙い値を設計する工程と、
を含むことを特徴とするシリコンウェーハの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、熱処理時間が短い場合にも適用できる、サーマルドナーの生成量を予測する方法及び製造方法を提供することすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】酸素濃度[O]が6×1017atoms/cmのシリコンウェーハに対して430℃以上530℃以下で30分以上300分以下の熱処理を行った場合の、サーマルドナー濃度のプロットと、サーマルドナー生成量が最大となる熱処理温度と熱処理時間との関係を示すグラフである。
図2】酸素濃度[O]が4×1017atoms/cmのシリコンウェーハに対して430℃以上530℃以下で30分以上300分以下の熱処理を行った場合の、サーマルドナー濃度のプロットと、サーマルドナー生成量が最大となる熱処理温度と熱処理時間との関係を示すグラフである。
図3】実験1及び2におけるサーマルドナー生成量が最大となる熱処理温度と熱処理時間との関係を示すプロットと、計算式(1)を用いた予測値による再現性を示すグラフである。
図4】実験1における計算式(2)を用いた予測値によるサーマルドナー生成量の再現性を示すグラフである。
図5】実験2における計算式(2)を用いた予測値によるサーマルドナー生成量の再現性を示すグラフである。
図6】比較例における従来技術(式A)を用いた予測値によるサーマルドナー生成量の再現性を確認したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施形態の説明に先立ち、本発明を導くに至った本発明者らの実験を説明する。本発明者らはシリコンウェーハのサーマルドナー挙動予測方法の再現性を確認するため、低温熱処理を短時間施した場合のサーマルドナー生成量の実験値を確認した。実験値は、以下のとおりにして求めた。
【0022】
(実験1)
直径300mm、面方位(100)のn型シリコン単結晶インゴットをCZ法により育成した。そして、単結晶シリコンインゴットをスライスしてシリコンウェーハに加工した後、フーリエ変換赤外分光分析により酸素濃度を測定した。実験1に用いるシリコンウェーハとしては酸素濃度6×1017atoms/cm(ASTM F121-1979、以下、酸素濃度について同様。)のものを用いた。シリコンウェーハの結晶育成中に発生したサーマルドナーを消去するため、650℃の窒素雰囲気で30分のドナーキラー処理をあらかじめ行った。
【0023】
その後、430℃、450℃、470℃、490℃、510℃、530℃の窒素雰囲気でそれぞれの熱処理温度につき30分、60分、120分、300分の低温短時間熱処理を行ってシリコンウェーハにサーマルドナーを生成させた。
【0024】
そして、各熱処理を施したシリコンウェーハについて、JIS H 0602:1995に規定された4探針法による比抵抗率測定方法に従い、比抵抗を測定した。そして、この比抵抗の測定結果と、低温熱処理前の比抵抗の測定結果とをもとに、アービンカーブからキャリア濃度を求めた。さらに、サーマルドナーを生成させる低温熱処理前後のキャリア濃度差をサーマルドナー生成量とした。各条件について、熱処理温度とサーマルドナー生成量との関係をプロットした結果を図1に示す。さらに、図1における各熱処理時間のプロットについてサーマルドナー生成量が最大となる点と本発明者らが想定した仮想線を併せて図示した。
【0025】
(実験2)
酸素濃度4×1017atoms/cmのシリコンウェーハに変えた以外は実験1と同様にして、各条件について、熱処理温度とサーマルドナー生成量をプロットして図2に示す。また図2における各熱処理時間のプロットについてサーマルドナー生成量が最大となる点と本発明者らが想定した仮想線を併せて図示した。
【0026】
従来は、熱処理時間の長短に依らず、450℃の熱処理でサーマルドナー生成量が最大となると考えられていた。しかしながら本発明者らは実験1及び2の結果から、熱処理時間とサーマルドナー生成量が最大となる熱処理温度(すなわち、図1あるいは図2におけるピーク温度)には負の相関があることを知見した。ここでいう「負の相関」とは、すなわち熱処理時間が短い程、当該熱処理時間におけるサーマルドナー生成量が最大となる熱処理温度が大きくなる傾向のことをいう。熱処理時間と当該熱処理時間におけるサーマルドナー生成量が最大となる熱処理温度との関係が分かれば、熱処理時間を変更した場合において、サーマルドナー生成量が最大となる熱処理温度を予測することができる。そして、後述するとおり、任意の熱処理条件におけるサーマルドナー生成量と熱処理温度との関係、特に短時間の低温熱処理における関係を予測することができるようになる。
【0027】
次にその負の相関が線形の関係で表されることを着想し、
[T]=-at+b ・・・(1)
の関係式を予想した。式(1)中において、[T]は前記サーマルドナー生成量が最大となる熱処理温度であり、tは前記熱処理時間であり、a及びbは非負定数である。熱処理時間と当該熱処理時間におけるサーマルドナー生成量が最大となる熱処理温度との関係が、負の相関を有する線形の関数で表されることは、計算の簡便性からも有用である。この予想式を実験値に合うように適宜係数を設定し、図3に示される関係を確認した。サーマルドナー生成量が最大となる熱処理温度と熱処理時間との関係を示すプロットにおいて、上記式で表された線分の外挿がよい再現性をもっていることが確認できた。また、この関係は熱処理が施されるシリコンウェーハの酸素濃度の大小によらず同様に適用できることも分かった。ここで、実験1及び2においては、aの値は0.11であった。ただし、このaの具体的な値は上記実験結果から求めたものであって、例えばaを0.05以上0.15以下の範囲から実験結果に応じて定まる。同様に、定数bの値は、実験1及び2においては493であったが、例えば450以上550以下の範囲から実験結果に応じて定まる。
【0028】
そして、次に実験で得られたサーマルドナーの生成量が、ガウス関数を含む関係式によって表されることを着想し、
[T]=A×[O×t×exp{-(T-T/(2T0 )} ・・・(2)
の関係式を予想した。式(2)中において、[T]はサーマルドナー生成量、Tは熱処理温度、[O]は酸素濃度、T0、A、B、Cは定数である。ここでT0はガウス関数により表される正規分布において標準偏差に相当する。この式から、先に得た式(1)により得られたTを用いて、任意の酸素濃度のシリコンウェーハ及び熱処理条件におけるサーマルドナー生成量を予測することができる。この予想式を実験値に合うように適宜係数を設定した結果を図4及び5に示す。計算式を用いたサーマルドナー生成量の予測値が、よい再現性をもっていることが確認できる。ここで、実験1及び2においては、定数Aの値は1.1×10であった。ただし、この定数Aの値は上記実験結果から求めたものであって、例えば定数Aの値は0.5×10以上1.5×10以下の範囲から実験結果に応じて定まる。同様に、定数Bの値は、実験1及び2においては4であったが、定数Bの値は例えば3以上5以下の範囲から実験結果に応じて定まる。同様に、定数Cの値は、実験1及び2においては0.85であったが、定数Cの値は例えば0.50以上1.30以下の範囲から実験結果に応じて定まる。同様に、定数T0の値は、実験1及び2においては30であったが、定数T0の値は例えば10以上50以下の範囲から実験結果に応じて定まる。
【0029】
上記式(1)及び(2)において、熱処理時間は特に制限されないが、実験値とのよりよい再現性を得るために熱処理時間は10時間以下であることが好ましく、5時間以下であることがさらに好ましい。これまでのサーマルドナー挙動予測方法では10時間以下のような短時間の熱処理の場合に、予測値と実験値の良好な再現性が見られず、本願発明によってはじめて短時間の熱処理におけるサーマルドナー生成量が予測できるようになる。
【0030】
上記式(1)及び(2)において、シリコンウェーハの酸素濃度は特に制限されないが、実験値とのよりよい再現性を得るために、シリコンウェーハの酸素濃度は、1×1017atoms/cm以上7×1017atoms/cm以下(ASTM F121-1979)であることが好ましく、2×1017atoms/cm以上6×1017atoms/cm以下であることがさらに好ましい。
【0031】
また、本実験に用いるシリコンウェーハとしては、チョクラルスキ法(CZ法)または浮遊帯域溶融法(FZ法)により育成された単結晶シリコンインゴットをワイヤーソー等でスライスしたものを使用することができる。FZ法に比べてCZ法により形成されたシリコンウェーハの酸素濃度は大きく、サーマルドナー生成による抵抗率の変化の影響を受けやすい。そこで、本実施形態による予測方法をCZウェーハに対して用いることが好ましい。また、シリコンウェーハの導電型はp型およびn型のいずれであっても構わない。
【0032】
(シリコンウェーハの評価方法)
また、前述のシリコンウェーハのサーマルドナー挙動予測方法の実施形態を用いて、シリコンウェーハの評価を行うこともできる。まず、前述のシリコンウェーハのサーマルドナー挙動予測方法の実施形態に従い、所定条件の熱処理を施した後に生成されるシリコンウェーハのサーマルドナー生成量を求める工程を行う。上記所定条件として、デバイスプロセスにおいてシリコンウェーハが受ける熱処理履歴を用いることが好ましい。なお、ドナーキラー熱処理に相当する高温熱処理が含まれる場合は、当該高温熱処理後の熱処理履歴のみを用いればよい。そして、求めたサーマルドナー生成量に基づき、上記所定条件の熱処理を施した後のシリコンウェーハの予測抵抗率を求める工程を行う。なお、抵抗率は生成されたサーマルドナー生成量から、アービンカーブを用いて求めることができる。このシリコンウェーハの評価方法により、所定条件の熱処理を受ける場合のシリコンウェーハの抵抗率が所定の規格を満足するか否かを高精度に評価することができる。
【0033】
(シリコンウェーハの製造方法)
さらに、上記評価方法を用いてシリコンウェーハを製造することも好ましい。まず、シリコンウェーハに施されるデバイスプロセスにおける熱処理条件を把握する工程を行う。ドナーキラー熱処理に相当する高温熱処理が含まれる場合は、その有無と、当該高温熱処理後の熱処理条件を把握すればよいし、高温熱処理が含まれない場合には、全ての熱履歴を把握することが好ましい。そして、前述のシリコンウェーハの評価方法を用いて、デバイスプロセスでの熱処理条件に従う熱処理を施した後のシリコンウェーハの予測抵抗率を求める工程を行う。次いで、求めた予測抵抗率に基づき、デバイスプロセスに供する前のシリコンウェーハの酸素濃度または抵抗率の狙い値を設計する工程を行い、この設計に従いシリコンウェーハを製造する。このシリコンウェーハの製造方法により作製したシリコンウェーハを用いれば、上記デバイスプロセス後のシリコンウェーハの抵抗率の変化を考慮したシリコンウェーハとなるため、サーマルドナー生成によるデバイス特性への悪影響を抑制することができる。
【実施例0034】
(実施例)
上述した式(1)及び式(2)は、前述した実験結果における酸素濃度のプロット値を良く再現できることを確認した(図3図5参照)。なお、式(1)及び式(2)における定数を回帰分析し、式(1)及び式(2)の定数として以下の値を採用した。
a=0.11
b=493
0=30
A=1.1×10
B=4
C=0.85
【0035】
(比較例)
図1を参照して前述した実験値と、特許文献1(特開2013-119486号公報)に開示される下記式Aの計算結果を対比した。
Δ[C]=α[Oi]5×exp(-β・D(T)・[Oi]・t) ・・・(式A)
(上記式A中、α、βは定数である)
結果を図6に示す。定数α、βの値をそれぞれα=1×10‐76、β=1×10‐5とした。実験値と計算値の対比からは、このような極めて短時間の低温熱処理において、特許文献1の計算方法ではサーマルドナー生成の挙動を再現することはできないことがわかった。
【0036】
実施例及び比較例からは、以下のことが分かった。すなわち、実験1及び2で熱処理時間と当該熱処理時間においてサーマルドナー生成量が最大となる熱処理温度との関係を把握し、式(1)を得ることで、短時間の低温熱処理におけるサーマルドナー生成量が最大となる熱処理温度を予測できるようになった。式(1)を含む式(2)を用いたサーマルドナー生成量の予測では、極めて短時間の低温熱処理の条件においてもサーマルドナーの生成量を精度よく再現できることを本発明者らは確認した。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、熱処理時間が短い場合にも適用できる、サーマルドナーの生成量を予測する方法及び製造方法を提供することを目的とする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6