(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181635
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】金属粉焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 3/10 20060101AFI20221201BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20221201BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20221201BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20221201BHJP
【FI】
B22F3/10 A
B22F1/00 L
B22F1/00 M
B22F1/02 F
B22F1/02 B
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088675
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】弁理士法人綾船国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100127133
【弁理士】
【氏名又は名称】小板橋 浩之
(72)【発明者】
【氏名】古澤 秀樹
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA03
4K018AA07
4K018BA02
4K018BA04
4K018BB04
4K018BC29
4K018BC33
4K018BD04
4K018DA22
4K018DA33
4K018KA32
(57)【要約】
【課題】還元性の雰囲気による焼結工程なしに、表面に酸化層を備えた銅粉を使用して焼結体を製造する。
【解決手段】焼結される表面処理酸化金属粉はSi、Ti、Al、Zr、Ta及びNbのいずれか1種以上の付着量が1000ppm以上、AESスペクトルのピークの微分強度の比であるIO/IMが0.05以上であり、表面処理酸化金属粉をAESスペクトルの炭素のピークの微分強度が初期の特定割合以下まで加熱する脱脂工程、表面処理酸化金属粉をSi2p、Ti2p3/2、Al2p、Zr3d5/2、Ta4f7/2又はNb3d5/2のXPSスペクトルのピーク位置のバインディングエネルギーが特定値以上まで加熱する発達工程、表面処理酸化金属粉を上記エネルギーが特定値以下まで非還元性雰囲気で加熱する破壊工程を含む金属粉焼結体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉焼結体を製造する方法であって、
焼結される表面処理酸化金属粉は、Si、Ti、Al、Zr、Ta及びNbからなる群から選択されたいずれか1種以上の付着量が1000ppm以上であり、
焼結される表面処理酸化金属粉の金属について、AESスペクトルにおいて示される該金属のピークの微分強度IMに対する酸素のピークの微分強度IOの比であるIO/IMが0.05以上であり、
表面処理酸化金属粉を、AESスペクトルにおける炭素のピークの微分強度が、25℃における炭素のピークの微分強度に対して20%以下になるまで加熱する、脱脂工程、
脱脂工程を経た表面処理酸化金属粉を、Si2p、Ti2p3/2、Al2p、Zr3d5/2、Ta4f7/2、又はNb3d5/2のXPSスペクトルのピーク位置のバインディングエネルギーのいずれかがそれぞれ102.5eV以上、454.4eV以上、73.3eV以上、180.4eV以上、26.3eV以上、205.4eV以上になるまで加熱する、発達工程、
発達工程を経た表面処理酸化金属粉を、Si2p、Ti2p3/2、Al2p、Zr3d5/2、Ta4f7/2、又はNb3d5/2のXPSスペクトルのピーク位置のバインディングエネルギーのいずれかがそれぞれ103.1eV以下、457.0eV以下、73.7eV以下、457.0eV以下、26.5eV以下、206.6eV以下になるまで非還元性雰囲気で加熱する、破壊工程、
を含む、製造方法。
【請求項2】
脱脂工程、発達工程、及び破壊工程が、非還元性雰囲気で行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
非還元性雰囲気が、不活性ガス雰囲気である、請求項1~2のいずれかに記載の製造方法。
【請求項4】
脱脂工程が、水蒸気分圧0.02~0.15atmの非還元性雰囲気で行われる、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
金属粉焼結体を製造する方法であって、
焼結される表面処理酸化金属粉は、Si、Ti、Al、Zr、Ta及びNbからなる群から選択されたいずれか1種以上の付着量が1000ppm以上であり、
焼結される表面処理酸化金属粉の金属について、AESスペクトルにおいて示される該金属のピークの微分強度IMに対する酸素のピークの微分強度IOの比であるIO/IMが0.05以上であり、
焼結される表面処理酸化金属粉のAESスペクトルにおける炭素のピークの微分強度が-50以下であり、
表面処理酸化金属粉のSi2p、Ti2p3/2、Al2p、Zr3d5/2、Ta4f7/2、又はNb3d5/2のXPSスペクトルのピーク位置のバインディングエネルギーのいずれかがそれぞれ102.5eV以上、454.4eV以上、73.3eV以上、180.4eV以上、26.3eV以上、205.4eV以上、
である表面処理酸化金属粉を、Si2p、Ti2p3/2、Al2p、Zr3d5/2、Ta4f7/2、又はNb3d5/2のXPSスペクトルのピーク位置のバインディングエネルギーのいずれかがそれぞれ103.1eV以下、457.0eV以下、73.7eV以下、457.0eV以下、26.5eV以下、206.6eV以下になるまで非還元性雰囲気で加熱する、破壊工程、
を含む、製造方法。
【請求項6】
焼結される表面処理酸化金属粉の金属が、Cu又はNiである、請求項1~5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
燃焼法により測定される、表面処理酸化金属粉の単位質量(g)に対する、付着したCの質量の質量%が0.5%以上である、請求項1~6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
焼結される表面処理酸化金属粉の比表面積が1.0m2g-1以上である、請求項1~7のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粉焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本
電子材料として、銅粉の焼結体が広く使用されてきている。この焼結体は電気伝導性や接合性に優れていることから、電子部品中の電極の形成や、導電性の接合体構造の形成に、広く使用される。焼結体を製造するために使用される銅粉について、銅粉の特性の制御のために、あえて銅粉の表面に酸化層を形成しておく技術が知られている(特許文献1:特開2011-94236号公報)。
【0003】
銅粉の表面の酸化層は、銅粉の製品としての安定性には大きく寄与する一方で、そのままでは焼結体の電気伝導性や接合性に悪影響を与える原因となりかねない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、銅粉の焼結体の製造にあたって、還元性の雰囲気で焼結を行って、銅粉の表面の酸化層を還元しつつ、焼結体を製造する手段が試みられてきた。すなわち、表面に酸化層を備えた銅粉を焼結する場合には、焼結体の電気伝導性や接合性の確保の観点から、還元性の雰囲気で焼結を行うことが当然によいとされていた。しかし、還元性の雰囲気による焼結の工程には、後述する不都合がある。
【0006】
まず、還元性の雰囲気に使用される還元ガス、例えばフォーミングガス(水素を5%以下で含む窒素ガス)を使用する場合は、水素に起因する爆発の危険を回避するために、特別の手順や特別な設備を要する。また、非還元性ガス、例えば窒素ガスと比較して、還元ガスは高価である。
【0007】
さらに、Siなどの高融点金属の酸化物(例えばSiO2)で表面処理がされた銅粉は、還元性の雰囲気による焼結を行った場合に、Si酸化物等がSi等へと還元されて、銅に固溶し得る。つまり、還元性の雰囲気での焼結は、意図しない酸化物の還元によって、銅の純度を低下させて、銅粉の焼成体の比抵抗を上昇させる原因となり得る。
【0008】
したがって、本発明の目的は、還元性の雰囲気による焼結の工程を行うことなく、表面に酸化層を備えた銅粉を使用して焼結体を製造する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意研究の結果、後述のように、焼結の工程を精密に制御することによって、上記目的を達成できることを見いだして、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明者は、酸化層を備えた銅粉の焼結の過程を精密に分析して、これを精密に制御したところ、非還元性の雰囲気による焼結を行った場合にあっても、良好な焼結体を得られることを見いだして、本発明に到達した。
【0011】
したがって、本発明は、次の(1)を含む。
(1)
金属粉焼結体を製造する方法であって、
焼結される表面処理酸化金属粉は、Si、Ti、Al、Zr、Ta及びNbからなる群から選択されたいずれか1種以上の付着量が1000ppm以上であり、
焼結される表面処理酸化金属粉の金属について、AESスペクトルにおいて示される該金属のピークの微分強度IMに対する酸素のピークの微分強度IOの比であるIO/IMが0.05以上であり、
表面処理酸化金属粉を、AESスペクトルにおける炭素のピークの微分強度が、25℃における炭素のピークの微分強度に対して20%以下になるまで加熱する、脱脂工程、
脱脂工程を経た表面処理酸化金属粉を、Si2p、Ti2p3/2、Al2p、Zr3d5/2、Ta4f7/2、又はNb3d5/2のXPSスペクトルのピーク位置のバインディングエネルギーのいずれかがそれぞれ102.5eV以上、454.4eV以上、73.3eV以上、180.4eV以上、26.3eV以上、205.4eV以上になるまで加熱する、発達工程、
発達工程を経た表面処理酸化金属粉を、Si2p、Ti2p3/2、Al2p、Zr3d5/2、Ta4f7/2、又はNb3d5/2のXPSスペクトルのピーク位置のバインディングエネルギーのいずれかがそれぞれ103.1eV以下、457.0eV以下、73.7eV以下、457.0eV以下、26.5eV以下、206.6eV以下になるまで非還元性雰囲気で加熱する、破壊工程、
を含む、製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、還元性の雰囲気による焼結の工程を行うことなく、表面に酸化層を備えた銅粉を使用して焼結体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、アラビアゴム、及びエチルセルロース+ターピネオールを試料とした熱分析の結果である。
【
図2】
図2は、表面処理粉のAESスペクトル(熱分析前)である。
【
図3】
図3は、試料1(300℃まで加熱)のAESスペクトルである。
【
図4】
図4は、試料2(500℃まで加熱)のAESスペクトルである。
【
図5】
図5は、試料1(300℃まで昇温)、試料2(500℃まで昇温)、試料3(700℃まで昇温)、試料4(850℃まで昇温)のSi2pの光電子スペクトルである。
【
図7】
図7は、酸化層形成処理された銅粉の表面のXPS分析によって得られたチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を実施の態様をあげて詳細に説明する。本発明は以下にあげる具体的な実施の態様に限定されるものではない。
【0015】
[金属粉焼結体を製造する方法]
本発明によれば、
焼結される表面処理酸化金属粉は、Si、Ti、Al、及びZrからなる群から選択されたいずれか1種以上の付着量が1000ppm以上であり、
焼結される表面処理酸化金属粉の金属について、AESスペクトルにおいて示される該金属のピークの微分強度IMに対する酸素のピークの微分強度IOの比であるIO/IMが0.05以上であり、
表面処理酸化金属粉を、AESスペクトルにおける炭素のピークの微分強度が、25℃における炭素のピークの微分強度に対して20%になるまで加熱する、脱脂工程、
脱脂工程を経た表面処理酸化金属粉を、Sip2のXPSスペクトルのピーク位置のバインディングエネルギーが102.5eV以上になるまで加熱する、発達工程、
発達工程を経た表面処理酸化金属粉を、Sip2のXPSスペクトルのピーク位置のバインディングエネルギーが103.1eV以下になるまで非還元性雰囲気で加熱する、破壊工程、を含む方法によって、金属粉焼結体を製造することができる。
【0016】
[表面処理酸化金属粉]
好適な実施の態様において、表面処理酸化金属粉は、Si、Ti、Al、及びZrからなる群から選択されたいずれか1種以上の付着量が、例えば1000ppm以上、好ましくは2000ppm以上、好ましくは3000ppm以上とすることができ、例えば10000ppm以下、好ましくは8000ppm以下、好ましくは6000ppm以下とすることができる。
【0017】
好適な実施の態様において、Si、Ti、Al、及びZrからなる群から選択されたいずれか1種以上としては、好ましくはSi、Ti、及びZrからなる群から選択されたいずれか1種以上、さらに好ましくはSiとすることができる。
【0018】
好適な実施の態様において、表面処理酸化金属粉における、Si、Ti、Al、及びZrからなる群から選択されたいずれか1種以上の付着量は、表面処理酸化金属粉に対する対象元素の付着量の割合(質量ppm)であって、ICP発光分光分析法により求めることができ、具体的には実施例に開示の手法によって求めることができる。
【0019】
[IO/IM]
好適な実施の態様において、焼結される表面処理酸化金属粉の金属について、AESスペクトルにおいて示される該金属のピークの微分強度IMに対する酸素のピークの微分強度IOの比であるIO/IMが、例えば0.05以上、好ましくは0.07以上とすることができ、例えば0.2以下とすることができる。
【0020】
好適な実施の態様において、AESスペクトルにおける金属のピークの微分強度IMに対する酸素のピークの微分強度IOの比は、AESスペクトルの各ピークから算出することができ、具体的には実施例に開示の手法によって求めることができる。
【0021】
[表面処理酸化金属粉の金属]
好適な実施の態様において、表面処理酸化金属粉の金属は、例えば銅及びニッケルから選択されたいずれかの金属又はその合金とすることができ、好ましくは銅又は銅合金とすることができ、特に好ましくは銅とすることができる。好適な実施の態様において、銅合金としては、例えば銅を含む合金、好ましくは銅含有量が80質量%以上、さらに好ましくは銅含有量が90質量%以上の銅合金をあげることができる。
【0022】
表面処理酸化金属粉の金属を銅とした場合において、AESスペクトルにおける銅のピークの微分強度ICuに対する酸素のピークの微分強度IOの比であるIO/ICuが、上述の値を満たすものとすることができる。
【0023】
[炭素の付着量]
好適な実施の態様において、表面処理酸化金属粉の金属は、燃焼法による測定において、表面処理酸化金属粉に付着した炭素の質量が、表面処理酸化金属粉の質量に対して、例えば0.5質量%以上、好ましくは0.6以上、さらに好ましくは0.8以上とすることができ、例えば3以下、好ましくは2以下とすることができる。
【0024】
[比表面積]
好適な実施の態様において、表面処理酸化金属粉の比表面積は、例えば1.0m2g-1以上、好ましくは1.5以上とすることができ、例えば100以下、好ましくは10以下とすることができる。
【0025】
[表面処理酸化金属粉の調製]
好適な実施の態様において、表面処理酸化金属粉は、具体的には、実施例において開示した手段によって調製することができる。すなわち、好適な実施の態様において、例えば乾式法又は湿式法、好ましくは湿式法によって調製した金属粉に対して、酸化処理及び表面処理を順に行うことによって、調製することができる。好適な実施の態様において、表面処理酸化金属粉は表面処理酸化銅粉とすることができる。
【0026】
[酸化処理される金属粉]
好適な実施の態様において、酸化処理される金属粉は、銅粉とすることができる。好適な実施の態様において、銅粉として、例えば乾式法又は湿式法、好ましくは湿式法によって調製した銅粉を使用することができる。好適な実施の態様において、湿式法としては、不均化法及び還元法をあげることができる。好適な実施の態様において、サブミクロンサイズの金属粉は、一般的には湿式法で合成することができる。
【0027】
好適な実施の態様において、湿式法による銅粉の製造として、亜酸化銅粉スラリーに保護剤を添加する工程と、その後にスラリーに希硫酸を添加して不均化反応を行う工程を含む方法をあげることができる。好適な実施の態様において、保護剤として、例えば、アラビアゴム、ゼラチン、コラーゲンペプチド、界面活性剤をあげることができる。この不均化反応の原理は、次の通りである:
Cu2O+H2SO4 → Cu↓+CuSO4+H2O
【0028】
好適な実施の態様において、酸化処理される金属粉の金属単体又は合金の純度は、例えば90質量%以上、典型的には95質量%以上、より典型的には99質量%以上、好ましくは99.9質量%以上とすることができる。
【0029】
[金属粉の酸化処理]
好適な実施の態様において、表面処理酸化金属粉の調製においては、上述のように、湿式法によって調製した金属粉に対して酸化処理を行って、酸化処理金属粉を調製する工程を設けることができる。好適な実施の態様において、酸化処理は、金属粉のスラリーに対して、例えばアンモニア水又は水酸化カリウムを添加することによって行うことができ、あるいは所定の温度への加熱によって行うことができる。好適な実施の態様において、酸化処理は、さらに具体的には、実施例において開示した手段によって調製することができる。好適な実施の態様において、酸化処理によって、金属粉の表面に酸化層が形成される。
【0030】
好適な実施の態様において、湿式法によって調製した銅粉に対して、アンモニア水又は水酸化カリウムを添加することによって酸化処理を行うことができる。好適な実施の態様において、形成された酸化層は、亜酸化銅を含む層であり、好ましくは亜酸化銅の層とすることができる。
【0031】
[酸化処理金属粉の表面処理]
好適な実施の態様において、表面処理酸化金属粉の調製においては、上述のように、酸化処理金属粉に対して表面処理を行って、表面処理酸化金属粉を調製する工程を設けることができる。好適な実施の態様において、この表面処理は、酸化処理金属粉のスラリー又はこのスラリーに由来する固形分に対して、例えばカップリング剤溶液を添加することによって行うことができる。好適な実施の態様において、この表面処理は、酸化処理金属粉のスラリー又はこのスラリーに由来する固形分に対して、例えばカップリング剤溶液を添加し、攪拌し、その後に分離することによって行うことができる。
【0032】
好適な実施の態様において、カップリング剤溶液の添加、攪拌、分離は、公知の手段によって行うことができ、例えば常温で行うことができ、例えば、5~80℃、10~40℃、20~30℃の範囲の温度で行うことができる。好適な実施の態様において、カップリング剤溶液から分離された表面処理酸化金属粉は、所望により乾燥することができ、所望によりさらに解砕することができる。
【0033】
好適な実施の態様において、カップリング剤溶液から分離された表面処理酸化金属粉は、加熱によって乾燥することができ、あるいは表面処理酸化金属粉の分散液を噴霧して噴霧乾燥することができる。好適な実施の態様において、乾燥時の温度は、例えば50~700℃、あるいは60~500℃とすることができる。乾燥雰囲気は非酸化性雰囲気、好ましくは不活性ガス中で行うことが望ましい。
【0034】
[カップリング剤溶液]
好適な実施の態様において、カップリング剤溶液としては、例えばシランカップリング剤水溶液をあげることができる。好適な実施の態様において、シランカップリング剤としては、例えばアミノ基を有するシランカップリング剤をあげることができ、好ましくは実施例に開示したアミノシランカップリング剤をあげることができる。
【0035】
好適な実施の態様において、アミノシランとして、1以上のアミノ基及び/又はイミノ基を含むシランを使用することができる。アミノシランに含まれるアミノ基及びイミノ基の数は、例えばそれぞれ1~4個、好ましくはそれぞれ1~3個、更に好ましくは1~2個とすることができる。好適な実施の態様において、アミノシランに含まれるアミノ基及びイミノ基の数は、それぞれ1個とすることができる。アミノシランに含まれるアミノ基及びイミノ基の数の合計が、1個であるアミノシランは特にモノアミノシラン、2個であるアミノシランは特にジアミノシラン、3個であるアミノシランは特にトリアミノシランと、呼ぶことができる。特に、モノアミノシラン及びジアミノシランは好適に使用することができる。好適な実施の態様において、アミノシランとして、アミノ基1個及びイミノ基1個を含むジアミノシランを使用することができる。好適な実施の態様において、アミノシランは、少なくとも1個、例えば1個のアミノ基を、分子の末端に、好ましくは直鎖状又は分枝状の鎖状分子の末端に、含むものとすることができる。
【0036】
好適な実施の態様において、アミノシランとして、次の式Iで表されるアミノシランを使用することができる。
H2N-R1-Si(OR2)2(R3) (式I)
【0037】
好適な実施の態様において、式IのR1は、例えば、直鎖状又は分枝を有する、飽和又は不飽和の、置換又は非置換の、環式又は非環式の、複素環を有する又は複素環を有しない、C1~C12の炭化水素の二価基とすることができる。
【0038】
好適な実施の態様において、式IのR1は、例えば、-(CH2)n-、-(CH2)n-(CH)m-(CH2)j-1-、-(CH2)n-(CC)-(CH2)n-1-、-(CH2)n-NH-(CH2)m-、-(CH2)n-NH-(CH2)m-NH-(CH2)j-、-(CH2)n-1-(CH)NH2-(CH2)m-1-、-(CH2)n-1-(CH)NH2-(CH2)m-1-NH-(CH2)j-よりなる群から選択された基とすることができる。ただし、n、m、jは、1以上の整数である。また、上記(CC)は、CとCの三重結合を表す。好適な実施の態様において、式IのR1は、例えば、-(CH2)n-、又は-(CH2)n-NH-(CH2)m-とすることができる。好適な実施の態様において、上記の二価基であるR1の水素は、アミノ基で置換されていてもよく、例えば1~3個の水素、例えば1~2個の水素、例えば1個の水素が、アミノ基によって置換されていてもよい。好適な実施の態様において、上記のn、m、jは、それぞれ独立に、例えば1以上6以下の整数、好ましくは1以上4以下の整数とすることができ、例えば、1、2、3、4から選択された整数とすることができ、例えば、1、2又は3とすることができる。
【0039】
好適な実施の態様において、式IのR2は、例えばC1~C3のアルキル基、好ましくはC1~C2のアルキル基とすることができ、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、又はプロピル基とすることでき、好ましくは、メチル基又はエチル基とすることができる。
【0040】
好適な実施の態様において、式IのR3は、例えばC1~C3のアルキル基又はC1~C3のアルコキシ基、好ましくはC1~C2のアルキル基又はC1~C2のアルコキシ基とすることができる。好適な実施の態様において、アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、又はプロピル基とすることでき、好ましくは、メチル基又はエチル基とすることができる。好適な実施の態様において、アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、又はプロポキシ基とすることでき、好ましくは、メトキシ基又はエトキシ基とすることができる。
【0041】
[焼結メカニズムの解析と制御]
上述のように、金属粉、例えば銅粉において、その表面が自然に酸化してしまうことがあり、あるいは自然な酸化に任せることなく、意図して表面に酸化層を形成させることがある。そして、上述のように、表面に酸化層を備えた銅粉を焼結する場合には、焼結体の電気伝導性や接合性の確保の観点から、還元性の雰囲気で焼結を行うことが当然によいとされていたが、還元性の雰囲気による焼結の工程には不都合があった。
【0042】
まず、還元性の雰囲気に使用される還元ガス、例えばフォーミングガス(水素を5%以下で含む窒素ガス)を使用する場合は、水素に起因する爆発の危険を回避するために、特別の手順や特別な設備を要するし、さらに非還元性ガスと比較して還元ガスは高価である。
【0043】
また、還元性の雰囲気での焼結は、意図しない酸化物の還元によって、銅の純度を低下させて、銅粉の焼成体の比抵抗を上昇させる原因となり得る。
【0044】
さらに、銅粉の表面の酸化層が亜酸化銅の層である場合には、還元性の雰囲気による焼結を行うと、亜酸化銅が銅に還元されることによって、層の厚みが大きくなり、銅粉の全体としては粒径が大きくなってしまう。銅粉の粒径が大きくなるとは表面積の低下を意味し、結果として焼結の進行が不十分となり、焼成体の密度が小さくなる不都合があると、本発明者は考えている。
【0045】
このような状況のもと、本発明者は、酸化層を備えた銅粉の焼結の過程を精密に分析して、これを精密に制御したところ、非還元性の雰囲気による焼結を行った場合にあっても、良好な焼結体を得られることを見いだして、本発明に到達した。
【0046】
すなわち、本発明者は、酸化層を備えた銅粉の焼結の過程を、脱脂工程、発達工程、破壊工程、の各段階へと分けて、このそれぞれにおいて所定の条件を満たすように制御することで、良好な焼結を実現する技術に到達した。この各工程について、以下に説明する。
【0047】
[脱脂工程]
好適な実施の態様において、脱脂工程として、表面処理酸化金属粉を、AESスペクトルにおける炭素のピークの微分強度が、25℃における炭素のピークの微分強度に対して、例えば20%、好ましくは10%以下になるまで加熱する工程を行うことができる。
【0048】
AESスペクトルにおける炭素のピークの微分強度は、具体的には実施例において開示した手法及び条件によって求めることができる。この工程では、表面処理酸化金属粉に含まれていた、おそらくは金属粉製粉時の保護剤と表面処理に使用したカップリング剤に由来する炭素が除去されることから、本発明者は脱脂工程と称している。
【0049】
好適な実施の態様において、この脱脂工程における加熱は、例えば0.1~10℃/分、好ましくは0.1~5℃/分、特に好ましくは0.5~3℃/分の昇温速度による加熱によって行うことができる。
【0050】
好適な実施の態様において、この脱脂工程における加熱は、室温から出発して、上記の昇温速度で、炭素のピークの微分強度が上記値となるまで加熱することによって行うことができる。好適な実施の態様において、この脱脂工程における加熱によって到達する温度として、例えば300~600℃の温度をあげることができるが、これに限られるものではない。
【0051】
好適な実施の態様において、この脱脂工程における加熱は、非還元性雰囲気で行うことができ、例えば不活性ガス雰囲気で行うことができ、例えばヘリウム、アルゴン及び窒素から選択された気体中で行うことができる。
【0052】
好適な実施の態様において、上記不活性ガス雰囲気には、水蒸気を添加することができ、例えば0.02~0.15atm、好ましくは0.02~0.12atmの水蒸気分圧を含むものとすることができる。
【0053】
[発達工程]
好適な実施の態様において、発達工程として、脱脂工程を経た表面処理酸化金属粉を、Sip2のXPSスペクトルのピーク位置のバインディングエネルギーが、例えば102.5eV以上、好ましくは103eV以上になるまで加熱する工程を行うことができる。
【0054】
Sip2のXPSスペクトルのピーク位置のバインディングエネルギーは、具体的には実施例において開示した手法及び条件によって求めることができる。この工程では、表面処理酸化金属粉に含まれていたカップリング剤のシラノール基間での縮合が促進され、Si-Oの結合(共有結合)が発達したと考えられることから、本発明者は発達工程と称している。
【0055】
好適な実施の態様において、この発達工程における加熱は、例えば0.1~10℃/分、好ましくは0.1~5℃/分、特に好ましくは0.5~3℃/分の昇温速度による加熱によって行うことができる。
【0056】
好適な実施の態様において、この発達工程における加熱は、上記の脱脂工程終了の温度から出発して、上記の昇温速度で、Sip2のXPSスペクトルのピーク位置のバインディングエネルギーが上記値となるまで加熱することによって行うことができる。好適な実施の態様において、この発達工程における加熱によって到達する温度として、例えば400~700℃の温度をあげることができるが、これに限られるものではない。
【0057】
好適な実施の態様において、この脱脂工程における加熱は、非還元性雰囲気で行うことができ、例えば不活性ガス雰囲気で行うことができ、例えばヘリウム、アルゴン及び窒素から選択された気体中で行うことができる。
【0058】
好適な実施の態様において、上記不活性ガス雰囲気には、水蒸気を添加することができ、例えば0.02~0.15atm、好ましくは0.02~0.12atmの水蒸気分圧を含むものとすることができる。
【0059】
[破壊工程]
好適な実施の態様において、破壊工程として、発達工程を経た表面処理酸化金属粉を、Sip2のXPSスペクトルのピーク位置のバインディングエネルギーが、例えば103.1eV以下、好ましくは103eV以下になるまで非還元性雰囲気で加熱する工程を行うことができる。
【0060】
Sip2のXPSスペクトルのピーク位置のバインディングエネルギーは、具体的には実施例において開示した手法及び条件によって求めることができる。この工程では、内部の金属が膨張し、この金属の外層となる酸化層、その酸化層の外層となるSi-O発達層(シリカ層)を破壊して、結果として露出した内部の金属の間で焼結が進行すると考えられるから、本発明者は破壊工程と称している。
【0061】
好適な実施の態様において、この破壊工程における加熱は、例えば0.1~10℃/分、好ましくは0.1~5℃/分の昇温速度による加熱によって行うことができる。
【0062】
好適な実施の態様において、この破壊工程における加熱は、上記の発達工程終了の温度から出発して、上記の昇温速度で、Sip2のXPSスペクトルのピーク位置のバインディングエネルギーが上記値となるまで加熱することによって行うことができる。好適な実施の態様において、この破壊工程における加熱によって到達する温度として、例えば400~900℃の温度をあげることができるが、これに限られるものではない。
【0063】
好適な実施の態様において、この破壊工程における加熱は、非還元性雰囲気で行うことができ、例えば不活性ガス雰囲気で行うことができ、例えばヘリウム、アルゴン及び窒素から選択された気体中で行うことができる。
【0064】
好適な実施の態様において、上記不活性ガス雰囲気には、水蒸気を添加することができ、例えば0.02~0.15atm、好ましくは0.02~0.12atmの水蒸気分圧を含むものとすることができる。
【0065】
[非還元性雰囲気]
好適な実施の態様において、脱脂工程、発達工程、及び破壊工程の全ての工程を、非還元性雰囲気で行うことができる。好適な非還元性雰囲気は、上述の通りであり、水蒸気を好適に添加することができる。
【0066】
[金属粉焼結体]
本発明によれば、還元性雰囲気での焼結の工程を用いることなく、表面処理酸化金属粉を使用して、金属粉焼結体を好適に製造することができる。表面処理酸化金属粉は、酸化層を有していることから、この酸化層を還元して金属導電性や良好な接合に寄与させるために、還元性雰囲気での焼結が好ましいと考えられてきた。ところが、本発明によれば、焼結の工程をさらに分析して、脱脂工程、発達工程、及び破壊工程へと分けて、各工程を精密に制御することによって、酸化層を還元しないままにして、金属粉の内部の金属がこの酸化層を突き破って、直接に接触して十分に焼結する条件を整えることによって、十分な接合力を備えた金属粉焼結体を形成できることがわかった。金属粉の内部の金属が十分に接触して焼結していれば、接合の強度や電気伝導性を含めて、あらゆる特性に優れることが期待されるものとなる。すなわち、本発明によって、還元性雰囲気の焼結に期待される優れた金属粉焼結体特性が、非還元性雰囲気の焼結において実現できることが明らかとなった。
【0067】
[金属粉ペースト]
好適な実施の態様において、表面処理酸化金属粉は、これを含む金属粉ペーストの形態で使用することができる。好適な実施の態様において、金属粉ペーストは、表面処理酸化金属粉、バインダー樹脂、及び分散媒を含むものとすることができる。好適な実施の態様において、金属粉ペーストは、上記成分を混練して調製することができる。あるいは、好適な実施の態様において、金属粉ペーストに代えて、表面処理酸化金属粉、及び分散媒を含む金属粉組成物として使用することができる。あるいは、好適な実施の態様において、金属粉ペースト及び金属粉組成物は、所望によりさらに添加剤を添加して使用することができる。
【0068】
[バインダー樹脂]
好適な実施の態様において、上記バインダー樹脂としては、例えばセルロース系樹脂、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルアセタール、ケトン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタンを挙げることができる。バインダー樹脂は一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。好適な実施の態様において、金属粉ペースト及び金属粉組成物中のバインダー樹脂は、表面処理酸化金属粉の質量に対して、例えば0.1~10%の比率、好ましくは1~8%の比率となるように含有させることができる。
【0069】
[分散媒]
好適な実施の態様において、上記分散媒としては、例えばアルコール溶剤(例えばテルピネオール、ジヒドロテルピネオール、イソプロピルアルコール、ブチルカルビトール、テルピネルオキシエタノール、ジヒドロテルピネルオキシエタノールからなる群から選択された1種以上)、グリコールエーテル溶剤(例えばブチルカルビトール)、アセテート溶剤(例えばブチルカルビトールアセテート、ジヒドロターピネオールアセテート、ジヒドロカルビトールアセテート、カルビトールアセテート、リナリールアセテート、ターピニルアセテートからなる群から選択された1種以上)、ケトン溶剤(例えばメチルエチルケトン)、炭化水素溶剤(例えばトルエン、シクロヘキサンからなる群から選択された1種以上)、セロソルブ類(例えばエチルセロソルブ、ブチルセロソルブからなる群から選択された1種以上)、ジエチルフタレート、またはプロピネオート系溶剤(例えばジヒドロターピニルプロピネオート、ジヒドロカルビルプロピネオート、イソボニルプロピネオートからなる群から選択された1種以上)を挙げることができる。分散媒は一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。好適な実施の態様において、金属粉ペースト及び金属粉組成物中の分散媒は、表面処理酸化金属粉の質量に対して、例えば10~40%の比率となるように分散媒を含有させることができる。
【0070】
[添加剤]
好適な実施の態様において、上記添加剤としては、例えば、ガラスフリット、分散剤、増粘剤及び消泡剤等の公知の添加剤をあげることができる。好適な実施の態様において、分散剤としては、例えばオレイン酸、ステアリン酸及びオレイルアミンを挙げることができる。好適な実施の態様において、消泡剤としては、例えば有機変性ポリシロキサン、ポリアクリレートを挙げることができる。
【0071】
[好適な実施の態様]
本発明は次の(1)以下の実施態様を含む。
(1)
金属粉焼結体を製造する方法であって、
焼結される表面処理酸化金属粉は、Si、Ti、Al、Zr、Ta及びNbからなる群から選択されたいずれか1種以上の付着量が1000ppm以上であり、
焼結される表面処理酸化金属粉の金属について、AESスペクトルにおいて示される該金属のピークの微分強度IMに対する酸素のピークの微分強度IOの比であるIO/IMが0.05以上であり、
表面処理酸化金属粉を、AESスペクトルにおける炭素のピークの微分強度が、25℃における炭素のピークの微分強度に対して20%以下になるまで加熱する、脱脂工程、
脱脂工程を経た表面処理酸化金属粉を、Si2p、Ti2p3/2、Al2p、Zr3d5/2、Ta4f7/2、又はNb3d5/2のXPSスペクトルのピーク位置のバインディングエネルギーのいずれかがそれぞれ102.5eV以上、454.4eV以上、73.3eV以上、180.4eV以上、26.3eV以上、205.4eV以上になるまで加熱する、発達工程、
発達工程を経た表面処理酸化金属粉を、Si2p、Ti2p3/2、Al2p、Zr3d5/2、Ta4f7/2、又はNb3d5/2のXPSスペクトルのピーク位置のバインディングエネルギーのいずれかがそれぞれ103.1eV以下、457.0eV以下、73.7eV以下、457.0eV以下、26.5eV以下、206.6eV以下になるまで非還元性雰囲気で加熱する、破壊工程、
を含む、製造方法。
(2)
脱脂工程、発達工程、及び破壊工程が、非還元性雰囲気で行われる、(1)に記載の製造方法。
(3)
非還元性雰囲気が、不活性ガス雰囲気である、(1)~(2)のいずれかに記載の製造方法。
(4)
脱脂工程が、水蒸気分圧0.02~0.15atmの非還元性雰囲気で行われる、(1)~(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)
金属粉焼結体を製造する方法であって、
焼結される表面処理酸化金属粉は、Si、Ti、Al、Zr、Ta及びNbからなる群から選択されたいずれか1種以上の付着量が1000ppm以上であり、
焼結される表面処理酸化金属粉の金属について、AESスペクトルにおいて示される該金属のピークの微分強度IMに対する酸素のピークの微分強度IOの比であるIO/IMが0.05以上であり、
焼結される表面処理酸化金属粉のAESスペクトルにおける炭素のピークの微分強度が-50以下であり、
表面処理酸化金属粉のSi2p、Ti2p3/2、Al2p、Zr3d5/2、Ta4f7/2、又はNb3d5/2のXPSスペクトルのピーク位置のバインディングエネルギーのいずれかがそれぞれ102.5eV以上、454.4eV以上、73.3eV以上、180.4eV以上、26.3eV以上、205.4eV以上、
である表面処理酸化金属粉を、Si2p、Ti2p3/2、Al2p、Zr3d5/2、Ta4f7/2、又はNb3d5/2のXPSスペクトルのピーク位置のバインディングエネルギーのいずれかがそれぞれ103.1eV以下、457.0eV以下、73.7eV以下、457.0eV以下、26.5eV以下、206.6eV以下になるまで非還元性雰囲気で加熱する、破壊工程、
を含む、製造方法。
(6)
焼結される表面処理酸化金属粉の金属が、Cu又はNiである、(1)~(5)のいずれかに記載の製造方法。
(7)
燃焼法により測定される、表面処理酸化金属粉の単位質量(g)に対する、付着したCの質量の質量%が0.5%以上である、(1)~(6)のいずれかに記載の製造方法。
(8)
焼結される表面処理酸化金属粉の比表面積が1.0m2g-1以上である、(1)~(7)のいずれかに記載の製造方法。
【実施例0072】
以下に実施例をあげて、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
[表面処理酸化銅粉の調製]
[製粉]
アラビアゴム(保護剤)0.4gを純水0.7Lに溶かし、さらに亜酸化銅を100g添加して、回転羽で500rpm、5分間、攪拌した。このスラリーを攪拌しているところに25vol%希硫酸0.2Lを瞬間的に添加し、さらに10分間攪拌後、1時間静置した。生じた上澄み液をビーカーを傾けることで除去し、ここに純水0.7Lを添加して、回転羽で500rpm、10分間、攪拌し、1時間静置した。
生じた上澄み液を同じように除去し、純水0.7Lを添加して同じ操作を行い、1時間静置させて生じた銅粉を沈降させた。これによって銅粉スラリーを得た。
この銅粉の調製の操作を9回分行うことで、銅粉スラリーを、銅粉の固形分で1kg相当を準備した。
【0074】
[酸化層形成処理]
上記の銅粉スラリー(固形分1kg相当)を静置して生じた上澄み液を、デカンテーションによって除去した。この固形分1kg相当の銅粉スラリーに純水1.25Lを添加し回転羽を使って300rpmで攪拌した。そこに28wt%アンモニア水を添加し、pHを12.0~12.1の間に調整し、1時間攪拌した。その後、卓上型遠心分離装置(工機製CT6E/CT6EL形)で1200rpm、10分でスラリーを遠心分離し、固形分を回収した。このようにして銅粉に対して酸化層形成処理を行った。この処理によって形成された酸化層が亜酸化銅の層であることは、後述する手段によって確認した。
【0075】
[表面処理]
シランカップリング剤水溶液を以下の手順で用意した。純水1.12Lとジアミノシラン(KBM603(信越シリコーン製))0.45mLを混合し、攪拌子で14時間攪拌して、シランカップリング剤水溶液を得た。
【0076】
上記のジアミノシラン(KBM603(信越シリコーン製))の化学構造は以下である:
N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン
(CH3O)3SiC3H6NHC2H4NH2
【0077】
上記遠心分離で得た固形分に対して、調整したシランカップリング剤水溶液を添加し、回転羽を使って500rpm、1時間攪拌した。このスラリーを卓上型遠心分離装置(工機製CT6E/CT6EL形)で1500rpm、60分でスラリーを遠心分離し、固形分を回収した。このようにして、酸化層形成処理された銅粉に対して、さらにシランカップリング剤による表面処理を行った。
【0078】
[乾燥~解砕]
得られた固形分をステンレスパットに引き伸ばし、窒素雰囲気下で100℃、2時間乾燥させた。得られた固形分を目開き710μmの篩を通るまで乳棒、乳鉢で解砕し、粗解砕粉を得た。この粗解砕粉をさらにジェットミルで解砕し、表面処理酸化銅粉を得た。
【0079】
[試験]
[成分分析]
表面処理酸化銅粉(以下、「表面処理粉」という。)を硝酸で溶解し、ICP発光分光分析法(日立ハイテクサイエンス社製ICP-OES)により表面処理粉1(g)に対する、付着したSiの質量(μg)を求めたところ、4100μgであった。
また、燃焼法(LECO社製CS600)によって、より具体的には、表面処理粉を高温で溶融させ、発生したCO2から付着C量を算出して、粉の全表面に付いたCの量を測定することで、表面処理粉1(g)に対する、付着したCの質量の質量%(重量%)を求めたところ、1.0%であった。
【0080】
[比表面積]
マイクロトラック・ベル社のBELSORP-miniIIを使い、真空中で200℃、5時間加熱する前処理後に表面処理粉のBET比表面積を測定したところ、3.0m2g-1であった。
【0081】
[熱分析装置]
熱分析装置(STA2500(ネッチジャパン社))を使って、熱分析を行った。
試料皿はアルミナパンを用いた。キャリアガスは窒素で、水蒸気発生装置を使って水蒸気分圧を0.03atmに制御し、100mL/分で供給した。昇温速度は1℃/分とした。
【0082】
[熱分析(アラビアゴム)]
熱分析として、アラビアゴムを試料として、25℃から1000℃まで昇温して重量減少を測定して熱分析装置を使った焼成試験を行った。これ以外の条件は、熱分析装置の説明として記載した通りである。この結果を
図1に示す。
【0083】
[熱分析(エチルセルロース+ターピネオール)]
熱分析として、エチルセルロース+ターピネオールを試料として、25℃から550℃まで昇温して重量減少を測定して熱分析装置を使った焼成試験を行った。これ以外の条件は、熱分析装置の説明として記載した通りである。エチルセルロース+ターピネオールは、エチルセルロースとターピネオールを重量比8:2で混合して調製した試料であり、代表的な塗料成分として用いた。この結果を
図1に示す。
図1の縦軸は重量減少(加熱前の初期重量が100%)を表す。横軸は加熱温度を表す。なお、
図1においてエチルセルロース+ターピネオールの重量減少が負の値を示しているが、これは重量のゼロ点補正のミスによるものと考えられる。
【0084】
[加熱処理(表面処理粉)]
熱分析として、熱分析装置の雰囲気制御能力と熱制御機能を利用して表面処理粉を加熱処理して、試料1~4を得た。各試料はいずれも室温から、それぞれ300℃まで(試料1)、500℃まで(試料2)、700℃まで(試料3)、又は850℃まで(試料4)昇温して、その後の分析に供する試料とした。これ以外の条件は、熱分析装置の説明として記載した通りである。表面処理粉の試験では重量減少は測定しなかった。
【0085】
[加熱処理後分析]
試料1~4を、XPSまたはAES(オージェ電子分光法)で評価した。上記の熱分析装置を用いて加熱した後に得られた試料1~3を、熱分析のアルミナパンからスパチュラで掬い取り、分析に供した。試料4は、アルミナパンを逆さにして作業台上を強く3回たたいても分析試料が落ちてこなかったので、スパチュラでアルミナパン内の試料をかき取り、スパチュラと接触しなかった部分を分析した。この結果は後述して説明する。それぞれの分析条件は以下の通りである:
【0086】
(XPS)
装置 アルバック・ファイ株式会社製 PHI5000 Versa Probe II
到達真空度 8.2×10-8 Pa
励起源 単色化 Al Kα
出力 24.9W
X線ビーム径 100μmφ
入射角 90度
取り出し角 45 度
中和銃使用
スパッタ条件
イオン種 Ar+
加速電圧 2kV
掃引領域 3mm×3mm
レート 3.9nm/分(SiO2換算)
【0087】
(AES)
装置 日本電子株式会社製 JAMP-9510F
到達真空度 7.3×10-7 Pa
試料傾斜角度 30度
プローブ電圧 10kV
プローブ電流 1.0×10-8 A
スパッタ条件
イオン種 Ar+
加速電圧 1 kV
レート 2.2nm/分(SiO2換算)
【0088】
[焼結体とセラミックの密着性評価]
850℃まで昇温した試料4では焼結が十分に進行していると推定されたので、以下の方法でセラミックと焼結体の密着性を評価した。アルミアンパンを逆さにして作業台上に逆さにして3回作業台にアルミナパンを強く叩きつけた後に、試料がパンから落下しなかったことから、焼結体とセラミックの密着性は良好だと判定した。試料1~3は比較的簡単にアルミナパン内からスパチュラでかき取ることができたので、試料は焼結体とはなっておらず、また、セラミックとの密着は十分ではなかったと判定された。
【0089】
[表面処理酸化銅粉に対する試験の結果]
[成分分析、比表面積]
表面処理粉について、Siは4100μg、Cは1.0%、BET比表面積は3.0m2g-1であった。
【0090】
[表面処理粉の加熱処理とその後の分析の考え方]
一般的に、導電性ペーストは、フィラーに加えて、バインダー樹脂、溶剤を主成分とし、微量の添加剤として全体の数重量%以下の比率でチクソ剤等が添加される。バインダー樹脂としてはエチルセルロースが、溶剤としてはターピネオールが代表的である。
本件では実焼成を想定したプロセスにおける表面処理粉の、とりわけ表面における変化を追跡するために表面処理粉のみを、加熱処理と分析に供した。実際に導電性ペーストとして用いられる場面では表面処理粉の周りには溶剤やバインダー樹脂が存在している。表面処理粉に付着させたアラビアゴム、および、エチルセルロースとターピネオールの混合物を熱分析に供して結果を比較し、本件の議論が実際の焼成プロセスにおける議論に適用できるかを検討した。
【0091】
アラビアゴムとエチルセルロース+ターピネオールの熱分析の結果を
図1に示す。
図1は、アラビアゴムとエチルセルロース+ターピネオールの水蒸気雰囲気下における重量減少を示すグラフである。アラビアゴムは150℃くらいでいったん重量減少が止まったが、250℃から350℃程度にかけて再び重量減少に転じた。エチルセルロースとターピネオールの混合物(重量比8:2)は150℃くらいまでに80%の重量減少が生じ、300℃前後で残り20%の重量減少が生じた。混合物の組成からすると、混合物の150℃付近の重量減少はターピネオールの揮発、300℃付近の重量減少はエチルセルロースの分解だと推定される。後者に関してはアラビアゴムの300℃付近の重量減少と一致する。
【0092】
アラビアゴムは灰分や水に対して難溶性の部分を含んでいる。灰分は金属イオンや難燃性の有機物から構成されている。いったんアラビアゴムを水に溶かすと、これら灰分は反応、洗浄工程によってイオン化や分離によって系外に排出されるので、表面処理粉表面に残るアラビアゴムは水溶性部分由来であると推定される。後述する表面処理粉の500℃におけるAESの結果(C未検出)も考慮すると、300℃以上におけるアラビアゴムの40%分の重量減少はこれら灰分由来と推定され、表面処理粉には残っていないと考えられる。したがって表面処理粉表面のアラビアゴムの燃焼挙動の議論では350℃程度までの重量減少を取り扱うのが適切だと考えられる。そうであるならば実際のプロセスにおいて表面処理粉周辺に存在しているバインダー樹脂の燃焼挙動は、本件の表面処理粉に残存しているアラビアゴム由来の炭素分の燃焼挙動を議論することで同等とみなすことができると考えられる。
【0093】
[加熱処理前の表面処理粉の状態]
図2に、加熱処理前の表面処理粉のAESスペクトルを示す。AESスペクトルの測定は、上述の条件で行った。横軸は結合エネルギー、縦軸は検出強度の微分値(微分強度)を取っている。520eV付近のOのピークが確認されるので、表面処理粉は酸化していることがわかる。この酸化の程度の指標として、Cuの微分強度のピークのうち最小値(
図2の例では920eV付近のCuのピーク値)との微分強度比を取ることができる。520eV付近のOのピークの微分強度(絶対値)をIO、920eV付近のCuのピークの微分強度(絶対値)をICuとすると、実施例のIO/ICuは0.08である。
【0094】
[酸化層について]
本発明者の検討によれば、酸化層を設けることは不動態化、カップリング剤の吸着性向上のため有用であることがわかった。酸化物は水溶液中では表面に水酸基が形成しやすいとされており、カップリング剤の加水分解で生じたシラノール基との間で起こる縮合の起点となりうる。したがってカップリング剤によって粉の被覆率を向上させるためにも粉の表面は酸化しておくことが望ましい。
【0095】
酸化の程度の指標であるIO/ICuは0.05以上0.30以下が好ましい。0.05を下回ると不動態化が不十分であったり、カップリング剤による被覆率が向上しない可能性がある。一方0.3以上だと、後述するメカニズムにおいてコアの金属の膨張を厚い酸化層が抑制する可能性があって、粉体間の焼結が進行しない可能性が考えられる。
【0096】
[300℃、500℃に加熱した場合のC(脱脂)]
図3に試料1(300℃まで加熱)、
図4に試料2(500℃まで加熱)のAESスペクトルを示す。270eV付近のCのピークが300℃昇温後(試料1)のスペクトル(
図3)では微分強度―90として確認できたが、500℃昇温後(試料2)のスペクトル(
図4)ではベースラインのノイズに吸収されて確認できなかった。水蒸気雰囲気下での室温(25℃)から300℃への昇温によって、表面処理粉の炭素量が増えることはあり得ない。したがって、
図3と
図4の対比から、表面処理粉の炭素のピークの微分強度が、水蒸気雰囲気下での室温(25℃)から500℃への昇温によって昇温前の20%以下(
図3(300℃)では昇温前の64%、
図4(500℃)ではCのピークが確認できないため0%)になることがわかった。
【0097】
脱脂の程度は昇温前の表面処理粉のC(炭素)の微分強度に対して20%以下、好ましくは10%以下になっていることが好ましい。C(炭素)の微分強度が昇温前のそれに対して20%以上のまま昇温すると、焼成体中にC(炭素)が取り込まれ、焼成体の導電率低下を引き起こし得る。
【0098】
[Si-Oの発達]
図5に試料1(300℃まで昇温)、試料2(500℃まで昇温)、試料3(700℃まで昇温)、試料4(850℃まで昇温)のSi2pの光電子スペクトルを示す。Si2pは100~105eVで検出強度が極大値をとる。極大となる結合エネルギーが変化するのはSiの化学状態が変化していることを意味する。300℃では102.2eVで検出強度が極大値となり、500℃では極大となる結合エネルギーが103.2eVとなり、高エネルギー側にシフトしていた。これは粉表面でのカップリング剤のシラノール基間での縮合が促進され、Si-Oの結合(共有結合)が発達したことを意味する。一方、700℃、850℃ではピーク位置が低エネルギー側にシフトした。後述するように、粉体のコアが膨張したことで、形成されたシリカの層が破壊されたことを意味すると考えられる。
【0099】
したがって、カップリング剤由来元素の酸化層発達の目安として、Si2pであれば100~105eVにおいて検出強度が最大となる結合エネルギーが102.5eV以上、好ましくは103eVであった。102.5eVを下回ると、焼結遅延性を付与するシリカ層が十分に形成されているとは言えず、セラミック基材との良好な密着を期待できない。
【0100】
[酸化物層の破壊工程]
試料4(850℃まで昇温)をXPSで分析するため、アルミナパンの中の試料を取り出そうと、アルミナパンを逆さにして作業台に手でパンを支えながらパンを強く3回たたいても試料は取り出せなかったことから、セラミックと焼成体の密着は良好だと判定した。一方で、試料1~3は、アルミナパンを逆さにして作業台に手でパンを支えながらパンを弱く1回たたくことで、取り出すことができし、比較的容易にスパチュラで試料をかき取ることができた。
【0101】
図6Aに試料1のSEM像、
図6Bに試料4のSEM像を示す。試料1と試料4のSEM像を比較すると、試料1では表面処理粉が原型をとどめている(即ち、焼結が進んでいない)のに対して、試料4では焼結が進行し、空隙が減少し、さらには銅の結晶面が発達していることがわかる。Si2pのスペクトルから500℃の時点では銅粉表層は酸化層とともにシリカ層で被覆されていることがわかる。これらを総合して、500℃以上の昇温では内部のCuが膨張し、表層の酸化層、シリカ層を破壊して、粉体間で焼結が進行したことがわかった。このように、試料4は、電気伝導性に優れた金属粉焼結体となっていた。
【0102】
[亜酸化銅の層の確認]
銅粉スラリー中の銅粉に対して、表面酸化処理を行うことによって形成された酸化層が、亜酸化銅の層であることを、次のように確認した。
上述のようにして銅粉スラリー中の銅粉に対して表面酸化処理を行った後に、固形分として得られた酸化層形成処理された銅粉に対して窒素中で70℃、2時間乾燥させたのち、目視で確認できる塊が消失するまで乳棒、乳鉢で手動解砕し、同様の条件でXPS分析を行った。XPS分析によって得られたチャートを
図7に示す。
【0103】
図7は、Cu 2p3の光電子スペクトルであり、横軸は結合エネルギー(eV)を示す。酸化層形成処理された銅粉の表面のCuはCuO又はCu
2Oの形態となることが熱力学的にも予想された。そこで、
図7のチャートにおいて、930eVから960eVのCu 2pの光電子スペクトルに着目した。
図7において、CuOに起因するピークではなく、Cu
2Oに起因するピークが認められたことから、銅粉表面に存在する酸化層はCuOではなくCu
2Oであることがわかった。
本発明は、還元性の雰囲気による焼結の工程を行うことなく、表面に酸化層を備えた金属粉を使用して焼結体を製造する手段を提供する。本発明は産業上有用な発明である。
燃焼法により測定される、表面処理酸化金属粉の単位質量(g)に対する、付着したCの質量の質量%が0.5%以上である、請求項1~6のいずれかに記載の製造方法。