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特開2022-181702金属置換タイチャイト及びこれを備えるナトリウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181702
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】金属置換タイチャイト及びこれを備えるナトリウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   C01F 5/00 20060101AFI20221201BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20221201BHJP
   H01M 10/36 20100101ALI20221201BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20221201BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20221201BHJP
   C01D 5/12 20060101ALI20221201BHJP
   C01G 45/00 20060101ALI20221201BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
C01F5/00
H01M4/36 C
H01M10/36 A
H01M10/054
H01M4/58
C01D5/12
C01G45/00
C01G49/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088782
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】高原 俊也
(72)【発明者】
【氏名】小林 渉
(72)【発明者】
【氏名】千葉 和幸
(72)【発明者】
【氏名】松永 修
【テーマコード(参考)】
4G002
4G048
4G076
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G002AA06
4G002AB02
4G002AE05
4G048AA04
4G048AA05
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AD06
4G048AE05
4G076AA14
4G076AA16
4G076AA18
4G076AA19
4G076AB08
4G076AB09
4G076BA12
4G076BA13
4G076BA43
4G076BA46
4G076BC07
4G076BD02
4G076CA02
4G076CA29
4G076CA33
4G076DA20
4G076DA30
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL11
5H029AM00
5H029AM03
5H029AM07
5H029CJ08
5H029DJ17
5H029EJ04
5H029HJ02
5H029HJ05
5H029HJ14
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA08
5H050CA01
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB11
5H050DA09
5H050EA08
5H050FA19
5H050GA06
5H050GA10
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】
新規のタイチャイト、更にはナトリウム二次電池の正極活物質として適したタイチャイト及びその製造方法の少なくともいずれかを提供する。
【解決手段】
鉄、マンガン、ニッケル及びコバルトの群から選ばれる1以上の遷移金属元素、マグネシウム及びナトリウムを含有することを特徴とするタイチャイト。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄、マンガン、ニッケル及びコバルトの群から選ばれる1以上の遷移金属元素、マグネシウム及びナトリウムを含有することを特徴とするタイチャイト。
【請求項2】
マグネシウムに対する遷移金属元素のモル比が0を超え、2.0未満である請求項1に記載のタイチャイト。
【請求項3】
Williamson-Hall法により求まる結晶子径が300Å以上1000Å以下である請求項1又は2に記載のタイチャイト。
【請求項4】
炭素層を有する請求項1乃至3のいずれか一項に記載のタイチャイト。
【請求項5】
ナトリウム源、マグネシウム源、遷移金属源、硫酸源及び炭酸源を含有する水溶液を60℃以上で結晶化する工程、を有する請求項1乃至4のいずれか一項に記載のタイチャイトの製造方法。
【請求項6】
前記水溶液のマグネシウムと遷移金属元素の合計に対するナトリウムのモル比が4.0以上である請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のタイチャイトを含む正極活物質。
【請求項8】
請求項7に記載の正極活物質を備えたナトリウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タイチャイトに関する。
【背景技術】
【0002】
タイチャイト(Tychite)は、マグネシウム化合物であり、熱伝導性フィラーとして検討されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-026488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、新規のタイチャイト、更にはナトリウム二次電池の正極活物質として適したタイチャイト及びその製造方法の少なくともいずれかを提供すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、新規のタイチャイトを見出し、これがナトリウム二次電池の正極活物質として機能することを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は特許請求の範囲の記載の通りであり、また、本開示の要旨は以下の通りある。
[1] 鉄、マンガン、ニッケル及びコバルトの群から選ばれる1以上の遷移金属元素、マグネシウム及びナトリウムを含有することを特徴とするタイチャイト。
[2] マグネシウムに対する遷移金属元素のモル比が0を超え、2.0未満である上記[1]に記載のタイチャイト。
[3] Williamson-Hall法により求まる結晶子径が300Å以上1000Å以下である上記[1]又は[2]に記載のタイチャイト。
[4] 炭素層を有する上記[1]乃至[3]のいずれかひとつに記載のタイチャイト。
[5] ナトリウム源、マグネシウム源、遷移金属源、硫酸源及び炭酸源を含有する水溶液を60℃以上で結晶化する工程、を有する上記[1]乃至[4]の少なくともひとつに記載のタイチャイトの製造方法。
[6] 前記水溶液のマグネシウムと遷移金属元素の合計に対するナトリウムのモル比が4.0以上である上記[5]に記載の製造方法。
[7] 上記[1]乃至[4]の少なくともひとつに記載のタイチャイトを含む正極活物質。
[8] 上記[7]に記載の正極活物質を備えたナトリウム二次電池。
【発明の効果】
【0007】
本開示により、新規のタイチャイト、更にはナトリウム二次電池の正極活物質として適したタイチャイト及びその製造方法の少なくともいずれかを提供すること、ができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1で得られたFe置換タイチャイトのXRDパターン
図2】実施例2で得られたMn置換タイチャイトのXRDパターン
図3】実施例3で得られたFeMn置換タイチャイトのXRDパターン
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示のタイチャイトについて、実施形態の一例を示して説明する。
【0010】
本実施形態は、鉄、マンガン、ニッケル及びコバルトの群から選ばれる1以上の遷移金属元素、マグネシウム及びナトリウムを含有することを特徴とするタイチャイト、である。本実施形態において、遷移金属元素は鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)の群から選ばれる1以上であり、好ましくは、鉄、マンガン及びニッケルの群から選ばれる1以上、鉄及びマンガンの少なくともいずれか、鉄及びマンガン、若しくは、鉄又はマンガンである。典型的なタイチャイトは、一般式NaMg(SO)(COで表され、金属元素としてナトリウム及びマグネシウムを含み、遷移金属元素を含まないマグネシウム化合物である。これに対し、本実施形態のタイチャイトは典型的なタイチャイトとは異なり、マグネシウム及びナトリウムに加え、遷移金属元素を含有するマグネシウム化合物である。そのため、本実施形態のタイチャイトは、遷移金属置換タイチャイト(以下、遷移金属元素が鉄等である場合は「鉄置換タイチャイト」等又は「Fe置換タイチャイト」等ともいう。)又は遷移金属置換マグネシウムタイチャイト(以下、遷移金属元素が鉄等である場合は「鉄置換Mgタイチャイト」等又は「Fe置換Mgタイチャイト」等ともいう。)とみなすこともできる。
【0011】
本実施形態のタイチャイトは、マグネシウムに対する遷移金属元素のモル比(以下、「M/Mg比」といい、遷移金属元素が鉄等である場合は「Fe/Mg比」等ともいう。)[mol/mol]が0を超え、0.1以上又は0.5以上であり、また、2.0未満又は1.9以下であることが好ましい。
【0012】
本実施形態においてタイチャイトは、粉末X線回折(以下、「XRD」ともいう。)パターンによって確認することができる。すなわち、本実施形態のタイチャイトのXRDパターンと、シミュレーションにより得られるタイチャイトのXRDパターン(以下、「参照パターン」ともいう。)との対比(フィッティング)によって、その構造を確認することができる。
【0013】
参照パターンとして、例えば、解析ソフトとしてPDXL-2を使用した場合のデータベースカード番号として01-076-4202、01-072-1928又は00-043-1482が挙げられる。
【0014】
本実施形態において、XRDパターンは、一般的な粉末X線回折装置を使用して測定すればよい。XRDパターンの好ましい測定条件として、以下の条件が例示できる。
【0015】
線源 : CuKα線(λ=1.5405Å)
測定モード : ステップスキャン
スキャン条件 : 20°/分
計測時間 : 3秒
2θ : 5°から90°
本実施形態のタイチャイトは、XRDパターンにおける回折強度が最大のXRDピーク(以下、「メインピーク」ともいう。)の半値幅が0.20°以下、0.15°又は0.10°以下であり、また、0°を超え、0.01°以上又は0.07°以上であること、が好ましい。
【0016】
XRDピークは、一般的な解析ソフト(例えば、PDXL-2)を使用したXRDパターンの解析においてピークトップの2θが特定されて検出されるピーク(以下、「XRDピーク」ともいう。)であり、回折強度は、該2θにおける回折強度(以下、「ピーク強度」ともいう。)である。本実施形態のタイチャイトのメインピークの2θとして、33.4±0.2°が例示できる。
【0017】
本実施形態のタイチャイトは、Williamson-Hall法により求まる結晶子径(以下、「WH径」ともいう。)が300Å以上又は500Å以上であり、また、1000Å以下又は800Å以下であることが好ましい。
【0018】
WH径は、タイチャイトに帰属される3つのXRDピークについて、それぞれ、以下のプロット(X,Y)を求め、得られるプロットの最小二乗法により求まる以下の一次近似式におけるy切片の逆数(ε)として求めることができる。
【0019】
<プロット>
Y=(β・sinθ)/λ
X=sinθ/λ
<一次近似式>
Y=2η・X+(1/ε)
上式において、βは半値幅(°)、θは回折角(°)、λは線源の波長(nm)、ηは不均一歪及びεはWH径(Å)である。なお、η(傾き)及び1/ε(y切片)は、プロットの最小二乗法により求められる値であればよい。
【0020】
WH径の測定に際して使用するXRDピークは、それぞれ、(511)面、(311)面及び(411)面に相当するXRDピークであればよく、これらのXRDピークは上述の参照データとのフィッティングにより確認することができる。
【0021】
導電性が高くなるため、本実施形態のタイチャイトは炭素層を有することが好ましく、タイチャイトの粒子表面の一部又は全部に炭素層を有することが好ましい。換言すると、本実施形態のタイチャイトは、炭素層を有する粒子であることが好ましい。
【0022】
本実施形態のタイチャイトの形状は任意であり、粉末状であることが挙げられる。
【0023】
次に、本実施形態のタイチャイトの製造方法について説明する。
【0024】
本実施形態のタイチャイトの製造方法は任意であるが、好ましい製造方法として、ナトリウム源、マグネシウム源、遷移金属源、硫酸源及び炭酸源を含む水溶液を60℃以上で結晶化する工程、を有する製造方法、により得ることができる。
【0025】
ナトリウム源は、ナトリウム(Na)を含む塩及び化合物の少なくともいずれかであればよく、フッ化ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリム及びヘキサメタリン酸ナトリウムの群から選ばれる1以上が挙げられる。
【0026】
マグネシウム源は、マグネシウム(Mg)を含む塩及び化合物の少なくともいずれかであればよく、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムの群から選ばれる1以上、更には硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム及び塩化マグネシウムの群から選ばれる1以上が例示できる。
【0027】
遷移金属源は、遷移金属を含む塩又は化合物であり、鉄、マンガン、ニッケル及びコバルトの群から選ばれる1以上を含む塩及び化合物の少なくともいずれかであればよい。遷移金属源(以下、遷移金属が鉄等である場合は「鉄源」等ともいう。)は、遷移金属の硫酸塩、硝酸塩及び塩化物の群から選ばれる1以上であることが好ましい。
【0028】
鉄源として硫酸鉄、硝酸鉄及び塩化鉄の群から選ばれる1以上、更には硫酸鉄が挙げられる。マンガン源として硫酸マンガン、硝酸マンガン及び塩化マンガンの群から選ばれる1以上、更には硫酸マンガンが挙げられる。ニッケル源として硫酸ニッケル、硝酸ニッケル及び塩化ニッケルの群から選ばれる1以上、更には硫酸ニッケルが挙げられる。コバルト源として硫酸コバルト、硝酸コバルト及び塩化コバルトの群から選ばれる1以上、更には硫酸コバルトが挙げられる。
【0029】
硫酸源は硫化物イオン(SO 2-)を含む塩又は化合物であればよく、ナトリウム、マグネシウム及び遷移金属の群から選ばれる1以上の硫酸塩、更にはマグネシウム及び遷移金属の少なくともいずれかの硫酸塩であることが好ましい。
【0030】
炭酸源は炭酸イオン(CO 2-)を含む塩又は化合物であればよく、ナトリウム、マグネシウム及び遷移金属の群から選ばれる1以上の炭酸塩、更にはナトリウム及びマグネシウムの少なくともいずれかの炭酸塩、また更にはナトリウムの炭酸塩であることが好ましい。
【0031】
ナトリウム源、マグネシウム源、遷移金属源、硫酸源及び炭酸源を含む水溶液(以下、「原料水溶液」ともいう。)は、遷移金属の硫酸塩、マグネシウムの硫酸塩及び炭酸塩の少なくともいずれか、並びに、ナトリウムの硫酸塩及び炭酸塩の少なくともいずれか、を含むことが好ましい。
【0032】
原料水溶液は、溶媒として水(HO)を含んでいればよい。
【0033】
原料水溶液のpHは任意であるが、例えば、6.5以上又は7以上であり、また、12以下又は10以下であることが例示できる。
【0034】
原料水溶液に含まれる各出発物質の好ましい含有割合として、以下のものが例示できる。
マグネシウム(Mg) :0.1質量%以上又は0.4質量%以上、かつ、
1.5質量%以下又は1.0質量%以下
ナトリウム(Na) :7.0質量%以上又は8.0質量%以上、かつ、
18.0質量%以下又は12.0質量%以下
遷移金属元素(M) :0.5質量%以上又は1.0質量%以上、かつ、
5.0質量%以下又は3.0質量%以下
硫酸イオン(SO 2-) :3.0質量%以上又は5.0質量%以上、かつ、
10.0質量%以下又は7.0質量%以下
炭酸イオン(CO 2-) :6.0質量%以上又は9.0質量%以上、かつ、
17.0質量%以下又は13.0質量%以下
【0035】
原料水溶液は、マグネシウムと遷移金属元素の合計に対するナトリウムのモル比(以下、「Na/(Mg+M)比」ともいい、遷移金属元素が鉄等である場合「Na/Mg+Fe比」等ともいう。)が4.0以上又は4.5以上であり、また、15.0以下又は10.0以下であることが好ましい。
【0036】
原料水溶液は、硫酸イオンに対する炭酸イオンのモル比(以下、「CO/SO比」ともいう。)が2.1以上又は2.4以上であり、また、8.0以下又は4.0以下であることが好ましい。
【0037】
本実施形態の製造方法では、原料水溶液を結晶化する。これにより、本実施形態のタイチャイトが固相として析出する。結晶化は、原料組成物を水熱処理すればよい。水熱処理の条件として、以下の条件が挙げられる。
【0038】
水熱処理温度 :60℃以上、130℃以上、200℃以上又は200℃超、かつ、
270℃以下、250℃以下又は220℃以下
水熱処理時間 :5時間以上、24時間超又は30時間以上、かつ、
120時間以下、100時間以下又は80時間以下
水熱処理圧力 :自生圧
水熱処理は、静置又は撹拌の状態であればよく、撹拌状態であることが好ましい。
【0039】
本実施形態の製造方法は、洗浄工程、乾燥工程などの後処理工程を有していてもよい。
【0040】
洗浄工程は、タイチャイトの回収及び不純物除去ができればよく、回収方法及び洗浄方法は任意である。回収及び洗浄の方法として、例えば、ろ過による回収、及び、十分量の純水による洗浄、が挙げられる。
【0041】
乾燥工程は、タイチャイトに物理的に付着した水分が除去できればよく、公知の方法で行うことができる。乾燥方法として、例えば、大気雰囲気及び真空雰囲気の少なくともいずれかで処理すること、更には、大気雰囲気、100℃~180℃での処理、又は、真空雰囲気、60℃~150℃での処理が挙げられる。
【0042】
<正極活物質>
本実施形態のタイチャイトを含む正極活物質について実施形態の一例を示して説明する。
【0043】
本実施形態において「正極活物質」とは、電気化学デバイスを構成する電極における電位の高い極の電極活物質であり、特にナトリウム二次電池の正極の電極活物質である。
【0044】
本実施形態の正極活物質は、本実施形態のタイチャイトを含んでいればよく、本実施形態のタイチャイトのみであってもよい。本実施形態の正極活物質に占めるタイチャイトの質量割合として、80質量%以上又は90質量%以上であり、また、100質量%以下であること、が挙げられる。なお、本実施形態の正極活物質がタイチャイトのみである場合、該質量割合は100質量%である。
【0045】
本実施形態の正極活物質は、炭素層その他、正極活物質の表面の一部又は全部に被覆層、好ましくは導電性を有する被覆層、を有していてもよい。
<ナトリウム二次電池>
次に、負極、電解液及び本実施形態のタイチャイトを含む正極を備えることを特徴とするナトリウム二次電池について、実施形態の一例を示して説明する。
【0046】
本実施形態において「ナトリウム二次電池」とは、ナトリウムイオン(Na)の挿入脱離により充放電が生じる電気化学デバイスであり、ナトリウム二次電池、ナトリウムイオン二次電池、ナトリウムイオン電池、ナトリウム蓄電池、Na二次電池、Naイオン電池又はNa蓄電池と互換的に使用される。
【0047】
「非水系ナトリウム二次電池」は、電解液として非水系電解液を備えるナトリウム二次電池であり、「水系ナトリウム二次電池」は、電解液として水系電解液を備えるナトリウム二次電池である。「非水系電解液」は電解質と、溶媒としての非水溶媒とを含む電解液であり、「水系電解液」は電解質と、溶媒としての水とを含む電解液である。
【0048】
<正極>
正極は、本実施形態のタイチャイトを含む正極活物質を含む正極合剤と、集電体とを備えていればよい。
【0049】
正極合剤は、正極活物質、バインダー及び導電材、並びに、必要に応じて添加剤、を含む。バインダー、導電材及び添加剤は、それぞれ、公知のものを使用することができる。
【0050】
バインダーは、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、SBR材料及びイミド材料の群から選ばれる1以上、更にはポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びエチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)の群から選ばれる1以上、CMC(カルボキシメチルセルロース)やHEC(ヒドロキシルエチルセルロース)並びにHPMC(ヒドロキシプリピルメチルセルロース)等のセルロース系材料から選ばれる1以上が例示できる。
【0051】
導電材は、炭素材料、金属繊維などの導電性繊維、銅、銀、ニッケル、アルミニウムなどの金属粉末、ポルフェニレン誘導体等の有機導電性材料から選ばれる1以上が例示できる。好ましい炭素材料として、黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、メソポーラスカーボンが例示できる。
【0052】
正極合剤は公知の方法で製造すればよく、正極活物質、バインダー及び導電材を所望の比率で混合すればよい。
【0053】
<負極>
負極は、負極活物質を含む負極合剤と集電体、必要に応じて添加剤を備えていればよい。
負極合剤は、負極活物質、バインダー及び導電材、並びに、必要に応じて添加剤、を含む。バインダー、導電材及び添加剤は、それぞれ、公知のものを使用することができる。
【0054】
負極活物質は、正極活物質のナトリウムイオンの挿入脱離を妨げない材料を含んでいればよく、白金、亜鉛、炭素材料、ナトリウムと合金を形成する材料、ナトリウム含有遷移金属酸化物、及び、ナトリウム含有ポリアニオン材料の群から選ばれる1以上が例示できる。好ましい負極活物質として、炭素材料、ポリイミド、遷移金属含有シアノ化合物及び遷移金属含有ポリアニオン化合物の群から選ばれる1以上が例示できる。負極活物質は、活性炭、NaMn[Mn(CN)]及びNaTi(POの群から選ばれる1以上であることが好ましく、NaTi(POであることがより好ましい。
【0055】
負極合剤は公知の方法で製造すればよく、負極活物質、バインダー及び導電材を所望の比率で混合すればよい。
【0056】
<電解液>
電解液は、非水系電解液又は水系電解液いずれかであり、水系電解液であることが好ましい。
電解質は、ナトリウム塩であればよく、可溶性のナトリウム塩が好ましい。好ましい電解質として、NaCl、NaSO、NaNO、NaClO、NaOH及びNaSの群から選ばれる1以上が例示できる。取り扱いの容易性から、電解質はNaCl、NaSO、NaNO及びNaClOの群から選ばれる1つ以上が好ましい。
【0057】
電解液の電解質濃度は特に制限はないが、ナトリウム二次電池としてのエネルギー密度を高くする観点から、電解液における電解質濃度(ナトリウム塩濃度)は高いことが好ましく、ナトリウム塩濃度として1mol/kg(1m)以上、飽和溶解度以下の濃度、が例示できる。
【0058】
電解液は添加剤を含んでいてもよい。添加剤は、特に限定されないが、コハク酸、グルタミン酸、マレイン酸、シトラコン酸、グルコン酸、イタコン酸、ジグリコール、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、1,3‐プロパンスルトン、1,4‐ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、スルホラン、ジメチルスルホン及びN,N‐ジメチルメタンスルホンアミドの群から選ばれる1以上が例示できる。添加剤の含有量は、電解液の質量に対する添加剤の質量割合として0.01質量%以上10質量%以下であることが例示できる。
<セパレータ等>
本実施形態の二次電池における上記以外の構成要素、例えば、セパレータ、正極集電体、負極集電体、ケーシング、リード等は、公知の二次電池に適用されるものを使用することができる。例えば、セパレータは、カチオンを透過し、かつ、正極と負極を電気的に分離するものであればよく、水系電解液又は非水系電解液を備えた電池で使用されているセパレータであればよい。セパレータは、例えば、多孔質膜及び不織布膜の少なくともいずれかからなるセパレータが挙げられ、ポリエチレン製多孔質膜、ポリプロピレン製多孔質膜、ポリテトラフルオロエチレン製多孔質膜、アラミド樹脂製多孔質膜、セラミックス製多孔質膜、ポリエチレン製不織布、ポリプロピレン製不織布、ガラスファイバー製不織布、セルロース製不織布の群から選ばれる1以上が挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本開示のタイチャイトは、タイチャイトの公知の用途に使用することができ、更には、電池材料用タイチャイト、ナトリウム電池用タイチャイト、電池活物質用タイチャイト、正極活物質用タイチャイト、などとして特に適している。
【実施例0060】
以下、実施例により本実施形態を具体的に説明する。しかしながら、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
<組成分析>
一般的なX線回折装置(装置名:SmartLab、リガク社製)を使用して生成物の構造を評価した。測定条件は以下の通りである。
【0062】
線源 : CuKα線(λ=1.5406Å)
測定モード : ステップスキャン
スキャン速度 : 毎分4.0°
測定範囲 : 2θ=5.0°~90.0°
さらに遷移金属とナトリウム金属の組成比を確定するために、X線回折装置(装置名:SmartLab、リガク社製)に付属のデータ処理ソフト(商品名:PDXL-2、リガク社製)により、Rietvelt解析を行い、フィッティングを行った。
【0063】
実施例1(鉄置換タイチャイト)
第一硫酸鉄・7水和物(FeSO・7水和物)1.40g、硫酸マグネシウム・7水和物(MgSO・7HO)1.23g及び炭酸ナトリウム(NaCO)3.20gの混合物に、純水(HO)10gを加えて、pHが9.5である原料水溶液を得た。原料水溶液の組成を以下に示す。
【0064】
Na :8.77質量%、
Mg :0.77質量%、
Fe :1.78質量%、
SO 2‐:6.08質量%、
CO 2-:11.45質量%
Na/(Mg+Fe)比は6.02、CO/SO比は3.01であった。
【0065】
原料溶液を蓋付き容器に充填及び密閉した後、該容器を恒温槽に配置し、以下の条件で水熱処理を施した。
【0066】
水熱処理温度 :220℃
水熱処理時間 :72時間
水熱処理圧力 :自生圧下
水熱処理後、得られた生成物を純水で洗浄及びろ過した後、真空雰囲気下、120℃で1時間乾燥した後、粉砕し、本実施例のタイチャイトを得た。
【0067】
XRD測定の結果より、本実施例のタイチャイトのFe/Mg比が1.02の鉄置換タイチャイトの単一相であることが確認できた。該鉄置換タイチャイトの結晶構造は空間群2/m‐3で帰属される立方晶であり、格子定数aは13.908(0)Åであった。
【0068】
実施例2(マンガン置換タイチャイト)
硫酸マンガン・5水和物(MnSO・5水和物)1.50g、硫酸マグネシウム・7水和物0.90g及び炭酸ナトリウム3.20gの混合物に、純水10gを加えて、pHが10である原料溶液を得た。原料水溶液の組成を以下に示す。
【0069】
Na :8.90質量%、
Mg :0.57質量%、
Mn :2.19質量%、
SO 2‐:6.08質量%、
CO 2-:11.61質量%
Na/(Mg+Mn)比は6.19、CO/SO比は3.06であった。 当該原料溶液を使用したこと、及び、水熱処理温度を250℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例のタイチャイトを得た。
【0070】
XRD測定の結果より、本実施例のタイチャイトは、Mn/Mg比が0.24のマンガン置換タイチャイトの単一相であった。該マンガン置換タイチャイトの結晶構造は空間群2/m‐3で帰属される立方晶であり、格子定数aは13.967(7)Åであった。
【0071】
実施例3(鉄及びマンガン置換タイチャイト)
第一硫酸鉄・7水和物1.10g、硫酸マンガン・5水和物0.6g、硫酸マグネシウム・7水和物0.90g及び炭酸ナトリウム3.70gの混合物に、純水10gを加えて、pHが7である原料溶液を得た。原料水溶液の組成を以下に示す。
【0072】
Na :9.85質量%、
Mg :0.54質量%、
Fe :1.36質量%、
Mn :0.83質量%、
SO 2‐:5.95質量%、
CO 2-:12.85質量%
Na/(Mg+Fe+Mn)比は6.91、CO/SO比は3.46であった。
【0073】
当該原料溶液を使用したこと、及び、水熱処理を200℃、16時間で行ったこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例のタイチャイトを得た。
【0074】
XRD測定の結果より、本実施例のタイチャイトは、(Fe+Mn)/Mg比が1,74のFeMn置換タイチャイトの単一相であった。該FeMn置換タイチャイトの結晶構造は空間群2/m‐3で帰属される立方晶であり、格子定数aは13.940(8)Åであった。
【0075】
実施例1乃至3のタイチャイトの評価結果を下表に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
測定例1(非水系ナトリウム二次電池の評価)
(被覆層の形成)
実施例1で得られた鉄置換タイチャイト、及び、実施例2で得られたマンガン置換タイチャイトを使用し、タイチャイトに対するアセチレンブラック(製品名:DENKA BLACK Li Li-435,Denka社製)の質量比が70:30になるように、各タイチャイトとアセチレンブラックを混合した。混合は、遊星ボールミルを使用し、400rpm、1時間、アルゴン雰囲気を行ない、炭素層を有する鉄置換タイチャイト(実施例1)及び、炭素層を有するマンガン置換タイチャイト(実施例2)を得た。
(非水系ナトリウム二次電池特性の評価)
炭素層を有する置換型タイチャイト:PTFE(製品名:ポリフロン PTFE F-104,ダイキン工業社製)=90:10(質量比)となるようにメノウ乳鉢で混合し、正極合剤を得た。該正極合剤を直径4mmのペレット状に成形及び1ton/cmでSUSメッシュ上に一軸プレスした後、120℃、2時間の減圧乾燥し、正極とした。
【0078】
得られた正極を用い、以下の構成を備えた非水系ナトリウム二次電池を作製した。
【0079】
試験極 :正極
対極 :金(Ag)線
参照極 :銀/硝酸銀(Ag/AgNO)電極
電解液 :(電解質)NaPF 1mol/dm
(溶媒)エチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC)=1:1(体積比)
非水系ナトリウム二次電池を用いて、定電流充放電評価を行った。評価条件は以下のとおりである。
【0080】
温度 :室温(24.5±2.5℃)
電極電位 :-1.685V~1.465V(銀/硝酸銀電極基準)
電流値 :0.2mA/cmの一定電流値
充放電回数 :5サイクル
上記の銀/硝酸銀電極基準の電位はナトリウム電極基準の1.1~4.2V程度に相当する。
【0081】
2サイクル目の放電容量はそれぞれ、78mAh/g(実施例1)及び131mAh/g(実施例2)であり、実施例の置換型タイチャイトが非水系ナトリウム二次電池の正極活物質として機能することが確認できた。
【0082】
測定例2(水系ナトリウム二次電池の評価)
(水系ナトリウム電池特性の評価)
測定例1と同様にして作製した正極を用いて、以下の構成を備えた水系ナトリウム二次電池を作製した。
【0083】
試験極 :正極
対極 :亜鉛(Zn)板
参照極 :銀/塩化銀(Ag/AgCl)電極
電解液 :(電解質)NaClO 15.5mol/kg
(溶媒)水
水系ナトリウム二次電池を用いて、定電流充放電評価を行った。評価条件は以下のとおりである。
【0084】
温度 :室温(24.5±2.5℃)
電極電位 :-1.685V~1.465V(銀/硝酸銀電極基準)
電流値 :2mA/cmの一定電流値
充放電回数 :5サイクル
上記の銀/硝酸銀電極基準の電位はナトリウム電極基準の1.7~4.3V程度に相当する。
【0085】
2サイクル目の放電容量はそれぞれ、80mAh/g(実施例1)及び91mAh/g(実施例2)であり、実施例の置換型タイチャイトが水系ナトリウム二次電池の正極活物質として機能することが確認できた。
【0086】
測定例3(水系ナトリウム二次電池の評価)
実施例1のFe置換タイチャイトを使用したこと、及び、負極としてPechini法で合成されたNaTi(POを負極活物質とする負極を使用したこと以外は測定例2と同様な方法で、水系ナトリウム電池特性を評価した。負極の作製方法を以下に示す。
(負極の作製)
過酸化水素30%溶液にTi(OCHCHCHCHを溶解した溶液40mlと、28%アンモニア水15ml、NaCO及びTiの2倍モル量のクエン酸の硝酸溶液10ml、NHPO水溶液10ml、並びにエチレングリコールを混合してえられた混合溶液を、80℃で1~2時間で蒸発乾固させた。その後、大気中、140℃で加熱して茶色のゲル状組成物を得た。これを大気中、350℃で焼成した後、大気中、800℃で焼成することでNaTi(POを得た。
【0087】
得られたNaTi(POとアセチレンブラック(AB)を重量比が70:30となるように混合し後、遊星ボールミルを使用して、400rpm、1時間、Ar雰囲気下の条件で処理することで、NaTi(POをカーボンコーティングし、これを負極活物質とした。得られた負極活物質とPTFEを重量比90:10で混合し、直径4mmのペレット状に成型したものを負極合剤とした。
(水系ナトリウム二次電池評価)
水系ナトリウム二次電池評価の結果、2サイクル目の放電容量は80mAh/gであり、対極に亜鉛を使用した場合と同様な放電容量を示すことが確認できた。
図1
図2
図3