(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181899
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】ビニル変性エポキシエステル樹脂、樹脂組成物、塗料および当該塗料で塗装した物品
(51)【国際特許分類】
C08F 290/06 20060101AFI20221201BHJP
C08G 59/16 20060101ALI20221201BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
C08F290/06
C08G59/16
C09D163/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089114
(22)【出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】仲澤 大助
【テーマコード(参考)】
4J036
4J038
4J127
【Fターム(参考)】
4J036AD08
4J036CA20
4J036CA21
4J036CA22
4J036CA23
4J036CA24
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4J127FA10
(57)【要約】
【課題】耐水性および防食性に優れる塗膜を形成でき、常温乾燥が可能でタックフリー時間の短縮が可能な樹脂組成物を提供する。
【解決手段】重合性不飽和基および縮合環を有するエポキシエステル樹脂と、重合性単量体とを反応成分とする縮合環を有するビニル変性エポキシエステル樹脂であって、前記重合性不飽和基および縮合環を有するエポキシエステル樹脂は、エポキシ樹脂、不飽和脂肪酸および融点が130~220℃の範囲にある縮合環を有するモノカルボン酸の反応物であり、全反応成分における前記縮合環を有するモノカルボン酸の割合が7~25質量%の範囲にあるビニル変性エポキシエステル樹脂。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性不飽和基および縮合環を有するエポキシエステル樹脂と、重合性単量体とを反応成分とする縮合環を有するビニル変性エポキシエステル樹脂であって、
前記重合性不飽和基および縮合環を有するエポキシエステル樹脂は、エポキシ樹脂、不飽和脂肪酸および融点が130~220℃の範囲にある縮合環を有するモノカルボン酸の反応物であり、
全反応成分における前記縮合環を有するモノカルボン酸の割合が7~25質量%の範囲にあるビニル変性エポキシエステル樹脂。
【請求項2】
前記縮合環を有するモノカルボン酸が、3環又は4環の縮合環を有するモノカルボン酸である請求項1に記載のビニル変性エポキシエステル樹脂。
【請求項3】
前記縮合環を有するモノカルボン酸が、イソピマリン酸、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パルストル酸、デヒドロアビエチン酸、オレアノン酸、フジシン酸、ポドカルプ酸、ジヒドロアビエチン酸、カンファン酸、ヘルボル酸およびピマール酸からなる群から選択される1種以上である請求項1又は2に記載のビニル変性エポキシエステル樹脂。
【請求項4】
前記不飽和脂肪酸が、炭素原子数6~40の不飽和脂肪族モノカルボン酸である請求項1~3のいずれかに記載のビニル変性エポキシエステル樹脂。
【請求項5】
前記重合性単量体が酸性官能基を有し、前記反応成分として脂肪族アミンをさらに含む請求項1~4のいずれかに記載のビニル変性エポキシエステル樹脂。
【請求項6】
前記酸性官能基を有する重合性単量体が、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、アクリロイロキシカプロラクトン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシポリオキシエチレングリコールアシッドホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシポリオキシプロピレングリコールアシッドホスフェート、ビニルスルホン酸からなる群から選択される1種以上である請求項5に記載のビニル変性エポキシエステル樹脂。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のビニル変性エポキシエステル樹脂を含有する樹脂組成物。
【請求項8】
水をさらに含有する水性樹脂組成物である請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の樹脂組成物を含有する塗料。
【請求項10】
請求項9に記載の塗料の塗膜を有する物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニル変性エポキシエステル樹脂、樹脂組成物、塗料および当該塗料で塗装した物品に関する。
【背景技術】
【0002】
大気汚染対策のため、米国、欧州、中国などで揮発性有機化合物(VOC)規制の強化が進んでおり、トルエン、キシレン、酢酸エチルなどの揮発性有機化合物を溶媒として多量に用いる塗料では、これら有機溶媒を用いない又は有機溶媒の使用を低減する塗料の水性化が求められている。
【0003】
塗料の水性化が求められる一方で、建造物、船舶、航空機などに用いられる塗料では、塗膜が雨水に晒されるため、耐水性および防食性が必要なほか、生産性向上のため、加熱を必要としない常温乾燥性も求められている。
【0004】
建造物、船舶、航空機などの塗料として使用可能な常温乾燥型水性塗料として、樹脂骨格中の炭素炭素不飽和二重結合を金属錯体化合物で酸化重合する塗料が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水性塗料は、樹脂が水性媒体中に溶解又は分散した塗料であるが、有機溶媒に比べて水は一般に乾燥性に劣るため、水性塗料では塗装後に塗膜がべたつかない状態に達するまでの時間(タックフリー時間)が長くなる問題があった。特に上記酸化重合を利用する常温乾燥型水性塗料では、塗料に含まれる樹脂が有する炭素炭素不飽和二重結合が脂肪酸由来であるため、樹脂のガラス転移温度(Tg)が常温(25℃)以下となり、溶媒成分が完全に揮発しても塗膜がタックフリーにならず、酸化重合による硬化を待つ必要があった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、耐水性および防食性に優れる塗膜を形成でき、常温乾燥が可能でタックフリー時間の短縮が可能な樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、縮合環を導入したエポキシエステル樹脂を用いることで、耐水性および防食性に優れる塗膜を形成でき、常温乾燥が可能でタックフリー時間の短縮が可能な樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、重合性不飽和基および縮合環を有するエポキシエステル樹脂と、重合性単量体とを反応成分とする縮合環を有するビニル変性エポキシエステル樹脂であって、前記重合性不飽和基および縮合環を有するエポキシエステル樹脂は、エポキシ樹脂、不飽和脂肪酸および融点が130~220℃の範囲にある縮合環を有するモノカルボン酸の反応物であり、全反応成分における前記縮合環を有するモノカルボン酸の割合が7~25質量%の範囲にあるビニル変性エポキシエステル樹脂に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、耐水性および防食性に優れる塗膜を形成でき、常温乾燥が可能でタックフリー時間の短縮が可能なビニル変性エポキシエステル樹脂が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0012】
[ビニル変性エポキシエステル樹脂]
本発明のビニル変性エポキシエステル樹脂は、重合性不飽和基および縮合環を有するエポキシエステル樹脂と、重合性単量体とを反応成分とする縮合環を有するビニル変性エポキシエステル樹脂である。
前記重合性不飽和基および縮合環を有するエポキシエステル樹脂は、エポキシ樹脂、不飽和脂肪酸および縮合環を有するモノカルボン酸の反応物であり、縮合環を有するモノカルボン酸によって、ビニル変性エポキシエステル樹脂のガラス転移温度を高め、タックフリー時間を短縮することができると推測される。
以下、本発明のビニル変性エポキシエステル樹脂の反応成分について説明する。
【0013】
(重合性不飽和基および縮合環を有するエポキシエステル樹脂)
本発明の重合性不飽和基および縮合環を有するエポキシエステル樹脂は、エポキシ樹脂、不飽和脂肪酸および縮合環を有するモノカルボン酸の反応物である。エポキシエステル樹脂が有する重合性不飽和基は不飽和脂肪酸に由来するものであり、エポキシエステル樹脂が有する縮合環は縮合環を有するモノカルボン酸に由来するものである。
【0014】
エポキシ樹脂は、分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有する樹脂であり、好ましくはエポキシ当量が200~2,000g/当量の範囲にあるエポキシ樹脂であり、より好ましくはエポキシ当量が300~1500g/当量の範囲にあるエポキシ樹脂である。
尚、エポキシ当量はエポキシ基1mol量を得るのに必要なエポキシ樹脂の重量であり、エポキシ樹脂として2種以上のエポキシ樹脂の混合物を使用する場合は、混合物としてのエポキシ当量が上記範囲にあるとよい。
【0015】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;前記ビスフェノール型エポキシ樹脂を二塩基酸等で変性したエポキシエステル樹脂;クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;脂環式エポキシ樹脂;ポリグリコール型エポキシ樹脂;水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂;エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル等の脂肪族型エポキシ樹脂、エポキシ化ポリブタジエン樹脂等が挙げられる。これらのなかでもビスフェノールA型エポキシ樹脂およびビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましい。
エポキシ樹脂は1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
エポキシ樹脂は市販品を用いてもよく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、例えばEPICLON 860、EPICLON 1050、EPICLON 1055、EPICLON 3050、EPICLON 4050、EPICLON 7050、EPICLON HM-091、EPICLON HM-101(いずれもDIC株式会社製)等が挙げられ;ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、例えばEPICLON 830、EPICLON 835(いずれもDIC株式会社製)等が挙げられる。
【0017】
不飽和脂肪酸は、好ましくは不飽和脂肪族モノカルボン酸であり、より好ましくは炭素原子数6~40の不飽和脂肪族モノカルボン酸、さらに好ましくは炭素原子数12~20の不飽和脂肪族モノカルボン酸である。
不飽和脂肪酸の不飽和度は特に限定されないが、例えば1~3の範囲である。
【0018】
不飽和脂肪酸は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、不飽和脂肪酸と併せて飽和脂肪酸を用いてもよい。
【0019】
不飽和脂肪酸は、好ましくはソルビン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、リシノール酸等や、桐油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸、脱水ひまし油脂肪酸、ひまし油脂肪酸、トール油脂肪酸、綿実油脂肪酸、大豆油脂肪酸、オリーブ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸および米糠油脂肪酸からなる群から選択される1種以上である。
【0020】
金属ドライヤーによる酸化重合性に優れた水性塗料を得られる観点からは、不飽和脂肪酸は好ましくはヨウ素価120~200の範囲の半乾性油もしくは乾性油である。
【0021】
不飽和脂肪酸の使用量は、エポキシ樹脂100質量部に対して例えば10~60質量部の範囲であり、好ましくは20~45質量部の範囲である。
【0022】
縮合環を有するモノカルボン酸は融点が130~220℃の範囲である。
融点が上記範囲にある縮合環を有するモノカルボン酸を用いることで、本発明の組成物を用いて得られる塗膜のガラス転移温度および軟化点を上昇させることができ、タックフリー時間を短縮することができる。また、縮合環構造は疎水性が高いため、得られる塗膜の耐水性および防食性も高めることができる。一方、縮合環を有さない単環のモノカルボン酸は融点が低いため、タックフリー時間を短縮する効果は得られない。
ここで「縮合環」とは、2つ以上の単環が単環同士で2個以上の原子を共有している環状構造をいい、前記単環は芳香環(例えばベンゼン環)および脂環(例えばシクロヘキサン環)のいずれでもよい。また、前記脂環は飽和でも不飽和でもよい。
【0023】
縮合環を有するモノカルボン酸の融点は、JIS K 0064に定める光透過方式等を用いて測定することができる。
【0024】
縮合環を有するモノカルボン酸は、好ましくは2~4環の縮合環を有するモノカルボン酸であり、より好ましくは3環又は4環の縮合環を有するモノカルボン酸であり、さらに好ましくは3環又は4環の脂環縮合環を有するモノカルボン酸である。
【0025】
縮合環を有するモノカルボン酸は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
前記縮合環を有するモノカルボン酸は、好ましくはイソピマリン酸(融点160℃)、アビエチン酸(融点173℃)、ネオアビエチン酸(融点165℃)、パルストル酸(融点165℃)、デヒドロアビエチン酸(融点166℃)、オレアノン酸(融点190℃)、フジシン酸(融点193℃)、ポドカルプ酸(融点193℃)、ジヒドロアビエチン酸(融点195℃)、カンファン酸(融点199℃)、ヘルボル酸(融点212℃)およびピマール酸(融点219℃)からなる群から選択される1種以上である。
【0027】
ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンおよび水添ロジン(水素添加ロジン)等のロジン類は、いずれも上記縮合環を有するモノカルボン酸を含有する天然由来成分であり、縮合環を有するモノカルボン酸として使用することができる。ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン、水添ロジンの組成例を表1に示す。但し、ロジン類は植物由来原料又はその加工品であるため、採取・生産される地域によって成分組成が異なる場合があり、本発明におけるロジン類は、表1に示す組成に限定されるものではない。
【0028】
【0029】
表1において、備考欄の出典1および出典2は以下の通りである。
出典1:Inert Reassessment-Rosins and Rosin Derivatives,2005/11/29発行,米国環境保護庁
出展2:Rosin, Hydrogenated Rosin and their Salts CATEGORY JUSTIFICATION DOCUMENT, H4R CONSORTIUM
【0030】
縮合環を有するモノカルボン酸の使用量は、エポキシ樹脂100質量部に対して例えば10~40質量部であり、好ましくは15~35質量部である。
【0031】
反応成分として、エポキシ樹脂、不飽和脂肪酸および縮合環を有するモノカルボン酸以外に多価カルボン酸を用いてもよい。
エポキシ樹脂、不飽和脂肪酸、縮合環を有するモノカルボン酸および多価カルボン酸の反応物であるエポキシエステル樹脂は、多価カルボン酸のカルボキシル基とエポキシ樹脂のエポキシ基の反応によって高分子鎖が伸長し、分子量を制御することができる。
【0032】
上記多価カルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、テトラクロルフタル酸、1,1-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘット酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸、水添トリメリット酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。
多価カルボン酸は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、多価カルボン酸として多価カルボン酸の酸無水物等の誘導体を用いてもよい。
【0033】
反応成分として多価カルボン酸を用いる場合、多価カルボン酸の使用量は、エポキシ樹脂100質量部に対して例えば1質量部以下であり、好ましくは0.6質量部以下である。多価カルボン酸の使用量の下限は特に限定されないが、例えばエポキシ樹脂100質量部に対して0.1質量部である。
【0034】
重合性不飽和基および縮合環を有するエポキシエステル樹脂は、エポキシ樹脂、不飽和脂肪酸、縮合環を有するモノカルボン酸および任意に多価カルボン酸を反応成分とすればよく、これら以外の成分を反応成分に用いてもよい。
【0035】
重合性不飽和基および縮合環を有するエポキシエステル樹脂の酸価は、例えば2~15mgKOH/gの範囲であり、好ましくは4~10mgKOH/gの範囲である。
縮合環を有するエポキシエステル樹脂の酸価は、実施例に記載の方法により評価する。
【0036】
重合性不飽和基および縮合環を有するエポキシエステル樹脂の分子量は特に制限されないが、例えば重量平均分子量が9,000~40,000の範囲である。
縮合環を有するエポキシエステル樹脂の重量平均分子量は、実施例に記載の方法により評価する。
【0037】
エポキシ樹脂、不飽和脂肪酸および縮合環を有するモノカルボン酸の反応は、公知の方法で実施でき、例えばエポキシ樹脂、不飽和脂肪酸および縮合環を有するモノカルボン酸を含む反応系を加熱することにより重合性不飽和基および縮合環を有するエポキシエステル樹脂を調製することができる。
【0038】
(ビニル変性エポキシエステル樹脂)
本発明のビニル変性エポキシエステル樹脂は、上記重合性不飽和基および縮合環を有するエポキシエステル樹脂と、重合性単量体とを反応成分とする樹脂である。ここで「反応成分とする」とは、ビニル変性エポキシエステル樹脂を構成する成分という意味であり、ビニル変性エポキシエステル樹脂を構成しない溶媒や触媒を含まない意味である。
【0039】
重合性単量体は、重合性不飽和基を有する化合物という意味であり、当該単量体が有する重合性不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミド基、ビニルエーテル基、アリル基、スチリル基、(メタ)アクリロイルアミド基、マレイミド基等が挙げられる。これらの中でも、原料の入手容易性や重合反応性が良好であることから、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、スチリル基が好ましい。
【0040】
重合性単量体は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
上記重合性単量体は、好ましくは酸性官能基を有する重合性単量体を含む。
重合性単量体として酸性官能基を有する重合性単量体を用いることで、後述するアミン化合物と酸性官能基が反応してビニル変性エポキシエステル樹脂に水溶性を付与することができる。
【0042】
酸性官能基を有する重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、アクリロイロキシカプロラクトン酸等のカルボキシル基を有する重合性単量体;2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシポリオキシエチレングリコールアシッドホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシポリオキシプロピレングリコールアシッドホスフェート等のリン酸基を有する重合性単量体;ビニルスルホン酸等のスルホン酸基を有する単量体などが挙げられる。
上記酸性官能基を有する重合性単量体は、酸無水物などの誘導体も含む。
【0043】
上記重合性単量体として、ポリオキシアルキレン鎖を含む基を有する重合性単量体を用いてもよい。ポリオキシアルキレン鎖は親水性を発現するため、ポリオキシアルキレン鎖を含む基を有する重合性単量体を用いることでビニル変性エポキシエステル樹脂の親水性を調整することができる。
【0044】
ポリオキシアルキレン鎖を含む基を有し、重合性不飽和基が(メタ)アクリロイル基である重合性単量体としては、例えばポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリトリメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール・テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール・ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール・テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール・ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール・1,2-ブチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール・ポリ1,2-ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール・1,2-ブチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール・ポリ1,2-ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(テトラエチレングリコール・1,2-ブチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリテトラエチレングリコール・ポリ1,2-ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ1,2-ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール・トリメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール・ポリトリメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール・トリメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール・ポリトリメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(トリメチレングリコール・テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリトリメチレングリコール・ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(1,2-ブチレングリコール・トリメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリ1,2-ブチレングリコール・ポリトリメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリ(1,2-ブチレングリコール・テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリ1,2-ブチレングリコール・ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
尚、上記「ポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)」は、エチレングリコールとプロピレングリコールとのランダム共重合物を意味し、「ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール」は、エチレングリコールとプロピレングリコールとのブロック共重合物を意味する。
【0045】
上記重合性単量体として、酸性酸性官能基を有する重合性単量体およびポリオキシアルキレン鎖を含む基を有する重合性単量体以外のその他重合性単量体を必要に応じて用いてもよい。
上記その他重合性単量体としては、炭素原子数が1~18のアルキル基および炭素原子数6~18の芳香族基から選択される1以上を有し、重合性不飽和基が(メタ)アクリロイル基である重合性単量体を挙げることができる。当該重合性単量体を用いることで、アクリル樹脂部分の理論Tgを高く設計すると得られる塗膜の硬度を高めることができ、理論Tgを低く設計すると得られる塗膜の柔軟性を高めることができる。
尚、上記アルキル基は直鎖でも分岐でも脂肪族環でもよく、上記芳香族基は縮合環も含む意味である。
【0046】
前記その他重合性単量体の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4-tert-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-メトキシスチレン等が挙げられる。
【0047】
前記その他重合性単量体はさらに水酸基を有してもよい。
水酸基を有する重合性単量体を用いることで、水酸基と反応するメラミン系硬化剤・イソシアネート系硬化剤との反応性を調整することができる。水酸基を増やすと硬化速度と塗膜耐久性に優れ、水酸基を減らすと硬化剤混合後の可使時間(所謂ポットライフ)が長い樹脂組成物を得ることができる。
【0048】
前記さらに水酸基を有する重合性単量体の具体例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシエチルフタレート、末端に水酸基を有するラクトン変性(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0049】
本発明のビニル変性エポキシエステル樹脂の重合形式は特に限定されず、重合性不飽和基および縮合環を有するエポキシエステル樹脂と重合性単量体のランダム共重合体、ブロック共重合体およびグラフト共重合体のいずれでもよい。
【0050】
本発明のビニル変性エポキシエステル樹脂の反応成分における、重合性不飽和基および縮合環を有するエポキシエステル樹脂と重合性単量体の質量比は、例えばエポキシエステル樹脂:重合性単量体=90:10~30:70の範囲であり、好ましくは80:20~50:50の範囲である。
【0051】
本発明のビニル変性エポキシエステル樹脂の全反応成分における縮合環を有するモノカルボン酸の割合は、7~25質量%の範囲であり、好ましくは10~25質量%の範囲であり、より好ましくは15~25質量%の範囲である。
【0052】
尚、上記「全反応成分」とは、ビニル変性エポキシエステル樹脂を構成する全ての反応成分を意味する。例えば、重合性不飽和基および縮合環を有するエポキシエステル樹脂(1)が、エポキシ樹脂(1-1)、不飽和脂肪酸(1-2)および縮合環を有するモノカルボン酸(1-3)を反応成分とする樹脂の場合、ビニル変性エポキシエステル樹脂の全反応成分は、エポキシ樹脂(1-1)、不飽和脂肪酸(1-2)、縮合環を有するモノカルボン酸(1-3)および重合性単量体(2)となる。
【0053】
ビニル変性エポキシエステル樹脂の酸価は、例えば15~80mgKOH/gの範囲であり、好ましくは20~70mgKOH/gの範囲であり、より好ましくは20~60mgKOH/gの範囲である。ビニル変性エポキシエステル樹脂の酸価が当該範囲にあることで保存安定性と高い塗膜耐水性が得られる。
尚、ビニル変性エポキシエステル樹脂の酸価は、実施例に記載の方法により評価する。
【0054】
ビニル変性エポキシエステル樹脂の重量平均分子量は、特に限定されず、例えば10,000~100,000の範囲である。
ビニル変性エポキシエステル樹脂の重量平均分子量は、実施例に記載の方法により評価する。
【0055】
本発明のビニル変性エポキシエステル樹脂は、好ましくは重合性不飽和基および縮合環を有するエポキシエステル樹脂、酸性官能基を有する重合性単量体を含む重合性単量体、並びに脂肪族アミンを反応成分とする樹脂である。
本発明のビニル変性エポキシエステル樹脂について、酸性官能基を有する重合性単量体に由来する酸性官能基に脂肪族アミンを反応させることで中和塩構造が形成される。当該中和塩構造が親水性を発現するため、ビニル変性エポキシエステル樹脂に水溶性又は水分散性を付与することができる。
【0056】
脂肪族アミンとしては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、2-アミノエタノール、2-アミノ―2-メチル―1-プロパノール、2-(N,N-ジメチルアミノ)―2-メチル―1-プロパノール、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジブタノールアミン、トリエタノールアミン、ジアザビシクロノネン、ジアザビシクロウンデセン等が挙げられる。
脂肪族アミンは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
脂肪族アミンの使用量は、本発明のビニルエポキシエステル樹脂が有する酸性官能基の中和率が50~100%の範囲になるようにするとよく、好ましくは中和率が60~100%の範囲になるようにする。
【0058】
本発明のビニル変性エポキシエステル樹脂は、縮合環を有するエポキシエステル樹脂、重合性単量体および任意の脂肪族アミンを反応成分とすればよく、好ましくは縮合環を有するエポキシエステル樹脂、重合性単量体および任意の脂肪族アミンからなる反応成分のビニル変性エポキシエステル樹脂である。
【0059】
本発明のビニル変性エポキシエステル樹脂を製造する際における、縮合環を有するエポキシエステル樹脂と重合性単量体の反応は、公知の方法で実施でき、例えば縮合環を有するエポキシエステル樹脂および重合性単量体を含む反応系にラジカル重合開始剤を添加することで実施できる。
【0060】
上記ラジカル重合開始剤としては、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、アゾビスシアノ吉草酸等のアゾ化合物;tert-ブチルパーオキシピバレート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、ノルマルブチル4,4-ジ(tert-ブチルパーオキシ)バレレート、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物;過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物などが挙げられる。
ラジカル重合開始剤は1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
ラジカル重合開始剤の使用量は特に制限されないが、例えば重合性単量体100質量部に対して0.5~10質量部の範囲で使用するとよい。この範囲であれば未反応モノマーが残留したり、異常発熱および反応暴走が起きることを抑えることができる。
【0062】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は本発明のビニル変性エポキシエステル樹脂を含有し、溶媒として有機溶媒および水性溶媒のいずれも含有できる。
本発明のビニル変性エポキシエステル樹脂は、有機溶媒のみならず水性溶媒にも溶解もしくは分散することができる。
【0063】
有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、n-ブタノール、iso-ブタノール、tert-ブタノール、3-メトキシブタノール等のアルコール溶媒;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル溶媒;エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のグリコールエステル溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
有機溶媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
水性溶媒としては、水、水と混和する有機溶媒およびこれらの混合物が挙げられる。
水は特に限定されず、一般的な上水、工業用水、蒸留水等のいずれも使用できる。
水と混和する有機溶媒としては、上記のアルコール溶媒、グリコール溶媒、グリコールエーテル溶媒、グリコールエステル溶媒、ケトン溶媒等が挙げられる。
【0065】
本発明の樹脂組成物の溶媒は、好ましくは水のみ又は水と水と混和する有機溶媒の混合溶媒である。
【0066】
本発明の樹脂組成物では、溶媒を例えば固形分濃度が10~70質量%となるように使用するとよく、好ましくは固形分濃度が30~60質量%となるように使用する。
【0067】
(その他成分)
本発明の樹脂組成物は、硬化剤を使用しない一液型塗料の形態であってもよいし、硬化剤を使用する多液型塗料の形態であってもよい。
【0068】
前記硬化剤としては、ポリイソシアネート化合物、メラミン化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物等が挙げられる。
【0069】
本発明の樹脂組成物は、必要に応じて、顔料(無機顔料、有機顔料、体質顔料)、金属ドライヤー(樹脂中の炭素炭素二重結合の酸化重合を促進する役割を担う)、ワックス、界面活性剤、安定剤、流動調整剤、染料、レベリング剤、レオロジーコントロール剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、可塑剤、帯電防止剤、消泡剤、粘度調整剤、耐光安定剤、耐候安定剤、耐熱安定剤、顔料分散剤、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の各種添加剤をさらに含有してもよい。
【0070】
[塗料]
本発明の樹脂組成物は塗料として好適に用いることができ、本発明の樹脂組成物を塗料として用いることで、各種物品の表面に耐水性および防食性に優れる硬化塗膜を形成することができる。
【0071】
本発明の塗料は、被塗装物となる物品に、直接塗装してもよいし、被塗装物に適合したプライマー塗材を塗装してから、本発明の水性塗料を塗装してもよい。
【0072】
被塗装物となる物品の材質としては、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム等の各種金属およびこれらの合金;ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、PC-ABSのポリマーアロイ、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)、ポリプロピレン(PP)、ガラス繊維、炭素繊維等のフィラーを入れた繊維強化プラスチック(FRP)等のプラスチック基材;ガラスなどが挙げられる。
【0073】
本発明の塗料の塗装方法としては、塗装する物品により異なるが、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、コンマコーター、ナイフコーター、エアナイフコーター、カーテンコーター、キスコーター、シャワーコーター、ホイーラーコーター、スピンコーター、ディッピング、スクリーン印刷、スプレー、アプリケーター、バーコーター、刷毛、ローラー等の方法が挙げられる。
【0074】
本発明の塗料の塗膜を有する物品としては、例えば、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコン等の家電製品の筐体および内部部品;スマートフォン、携帯電話、タブレット端末、パソコン、デジタルカメラ、ゲーム機等の電子機器の筐体および内部部品;プリンター、ファクシミリ等のOA機器の筐体;レジャースポーツ用品;自動車、船舶、鉄道車輌等の各種車輌の内外装材;産業機械;外壁、屋根、ガラス、化粧板等の建築物の内外装材;防音壁、排水溝等の土木部材などが挙げられる。
【実施例0075】
以下、実施例と比較例とにより、本発明を具体的に説明する。
尚、本発明は下記実施例に限定されない。
【0076】
本願実施例において、酸価および水酸基価の値は、下記方法により評価した値である。
[酸価の測定方法]
JIS K0070-1992に準じた方法により測定した。
[水酸基価の測定方法]
JIS K0070-1992に準じた方法により測定した。
【0077】
本願実施例において、ポリエステルの数平均分子量は、GPC測定に基づきポリスチレン換算した値であり、測定条件は下記の通りである。
[GPC測定条件]
測定装置:東ソー株式会社製高速GPC装置「HLC-8320GPC」
カラム:東ソー株式会社製「TSK GURADCOLUMN SuperHZ-L」+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM-M」+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM-M」+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ-2000」+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ-2000」
検出器:RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製「EcoSEC Data Analysis バージョン1.07」
カラム温度:40℃
展開溶媒:テトラヒドロフラン
流速:0.35mL/分
測定試料:試料7.5mgを10mlのテトラヒドロフランに溶解し、得られた溶液をマイクロフィルターでろ過したものを測定試料とした。
試料注入量:20μl
標準試料:前記「HLC-8320GPC」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
【0078】
(単分散ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A-300」
東ソー株式会社製「A-500」
東ソー株式会社製「A-1000」
東ソー株式会社製「A-2500」
東ソー株式会社製「A-5000」
東ソー株式会社製「F-1」
東ソー株式会社製「F-2」
東ソー株式会社製「F-4」
東ソー株式会社製「F-10」
東ソー株式会社製「F-20」
東ソー株式会社製「F-40」
東ソー株式会社製「F-80」
東ソー株式会社製「F-128」
東ソー株式会社製「F-288」
【0079】
実施例1
(樹脂組成物の調製)
攪拌機、温度計、温度調節装置および窒素導入管を装備した4つ口フラスコに、大豆油脂肪酸7.02重量部、パルストル酸15.13重量部およびビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC株式会社製「EPICLON 1055」)17.85重量部を仕込み、攪拌しながら230℃まで昇温して維持した。反応生成物の酸価が8.0mgKOH/g以下になった時点で反応を終了し、大豆油脂肪酸に由来する重合性不飽和基とパルストル酸に由来する縮合環とを有するエポキシエステル樹脂を得た。
【0080】
得られたエポキシエステル樹脂40.00重量部をブチルセロソルブ25.25重量部で希釈し、140℃に昇温した。別途調製した、ビニル変性成分としてアクリル酸2.50重量部、スチレン23.00重量部、メチルメタクリレート7.00重量部、エチルアクリレート17.50重量部およびシクロヘキシルメタクリレート10.00重量部、重合開始剤としてtert-ブチルペルオキシー2-エチルヘキシルモノカーボネート(日油株式会社製「パーブチルE」)1.20重量部の混合溶液を3時間かけて4つ口フラスコ中に添加し、さらに5時間反応させ、ビニル変性エポキシエステル樹脂(酸価22mgKOH/g)の溶液を得た。
【0081】
得られたビニル変性エポキシエステル樹脂溶液を50℃まで冷却し、N,N-ジメチルアミノエタノール3.48重量部を加えてビニル変性エポキシエステル樹脂を中和した。中和後、イオン交換水123.30重量部を添加して転相乳化後に濾過し、水中にビニル変性エポキシエステル樹脂が粒子状に分散した樹脂組成物(1)を得た。
【0082】
樹脂組成物(1)の不揮発分は40重量%であり、中和したビニル変性エポキシエステル樹脂の重量平均分子量は23,000であった。
【0083】
実施例2-8および比較例1-4
実施例1と同様にして表2に示す組成のエポキシエステル樹脂を調製した。得られたエポキシエステル樹脂を用いて、実施例1と同様にして表2に示す重合性単量体、ラジカル重合開始剤およびアミン化合物を用いてビニル変性エポキシエステル樹脂を調製し、表2に示す溶媒を用いて不揮発分40重量%の樹脂組成物(2)~(8)および(1’)~(4’)をそれぞれ製造した。
【0084】
比較例5
攪拌機、温度計、温度調節装置及び窒素導入管を装備した4つ口フラスコに、ガムロジン49.64重量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC株式会社製「EPICLON 1055」)48.42重量部、無水マレイン酸1.94重量部を仕込み、原料を溶融、攪拌しながら230℃まで昇温し、維持した。反応開始から12時間後に樹脂がゲル化したため、目的の樹脂は得られなかった。
【0085】
【0086】
尚、表2において、重合性単量体であるアロニックスM-5300およびライトエステルP-1Mは以下の通りである。
アロニックスM-5300:ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノアクリレート(東亜合成株式会社製)
ライトエステルP-1M :2-メタクロイロキシエチルアシッドホスフェート(共栄社化学株式会社製)
【0087】
表1中のエポキシエステル樹脂の各成分、重合性単量体、ラジカル重合開始剤、アミン化合物、有機溶媒および水の数値の単位は、いずれも質量部である。
【0088】
(塗料組成物の調製と塗膜の形成)
得られた樹脂組成物(1)~(8)および(1’)~(4’)をそれぞれ53.4質量部、酸化チタン(Chemours社製「Ti-Pure R-960」)25.0質量部、炭酸カルシウム(丸尾カルシウム株式会社製「スーパーS」)25.0質量部、消泡剤(BYK社製「BYK-028」)0.1質量部および水15.4質量部を混合し、ペイントシェイカーで60分間練肉して練肉ベース(不揮発分60質量%)を得た。得られた練肉ベースに、さらに樹脂組成物(1)~(8)および(1’)~(4’)をそれぞれ71.4質量部、金属ドライヤー(DIC株式会社製「DICNATE 3111TL」)0.8質量部、レベリング剤(BYK社製「BYK-348」)0.5質量部および水8.4質量部を加えて混合して塗料組成物(1)~(8)および(1’)~(4’)をそれぞれ得た。
【0089】
得られた塗料組成物(1)~(8)および(1’)~(4’)を用いて、リン酸亜鉛処理鋼板上に膜厚20μmとなるようにアプリケーターで塗工した。塗工後、室温25℃で7日間静置し、ビニル変性エポキシエステル樹脂内の炭素炭素不飽和結合を金属ドライヤーで酸化重合させた架橋塗膜を形成した。
【0090】
製造した塗料組成物(1)~(8)および(1’)~(4’)、並びに塗料組成物(1)~(8)および(1’)~(4’)を用いて得られた塗膜に対して以下の評価を行った。結果を表3に示す。
【0091】
(顔料分散性の評価)
塗料組成物を液中分散安定性評価装置(栄弘精機株式会社製「タービスキャンMA2000」)の専用ガラスセルに注ぎ入れ、1時間静置した後、塗料組成物の後方散乱光の変化の積算値の測定を行い、これを基準値とした。ガラスセルに入った塗料組成物を摂氏25℃で7日間静置した後、再度同じ測定を行った。塗料組成物の顔料分散性を7日後の積算値の基準値に対する相対変化率で評価した。変化率が15%未満であれば、実用上差し支えない性能であると見做した。尚、比較例4の塗料組成物(4’)は顔料分散性が不良であったため、タックフリー到達時間以降の評価は実施しなかった。
A :15%未満
B :変化率15%以上。
【0092】
(タックフリー到達時間)
アプリケーター(ギャップ:150μm)を用いて塗料組成物をガラス板(幅約2cm、長さ約35cm)上に塗工し、塗料組成物を塗工したガラス板を塗料乾燥時間測定器 DTT-II型(太佑機材株式会社製)にセットして、タックフリーとなるまでの時間を測定した。
尚、タックフリー到達時間とはASTM D5895-03に基づく値である(塗膜上のひっかき傷が連続線状から破線状に変化し始めるまでの時間がタックフリー到達時間)。
【0093】
(基材密着性)
上記ガラス板状に成膜した塗膜について、JIS K-5400に基づいて基材密着性を評価した。具体的には塗膜の上にカッターで1mm幅の切込みを入れ碁盤目の数を100個とし、全ての碁盤目を覆うようにセロハンテープを貼り付け、素早く引き剥がした。試験後に密着して残っている碁盤目の数をパーセント表示した。
基材密着性において、100%は塗膜の剥離箇所が無かったことを意味し、0%は塗膜が全て剥離したことを意味する。
【0094】
(防水性)
上記ガラス板状に成膜した塗膜について、ASTM D870-02に基づいて耐水性を評価した。具体的には、塗膜表面の60°光沢値を光沢計Micro-Tri-Gloss(BYK社製)で予め測定したのち、試験サンプルを摂氏40℃の温水浴中に浸漬して24時間静置した。試験サンプルを取り出し後、基材密着性を上記方法で評価した(温水浸漬後基材密着性)。次に塗膜表面の60°光沢値を測定し、浸漬後の光沢値を浸漬前の光沢値で除して「光沢残存率」を求めた。
尚、温水浴浸漬後の基材密着性が90%以上であり、光沢残存率が85%以上あれば実用上差し支えない性能であると見做すことができる。
【0095】
(防食性)
上記ガラス板状に成膜した塗膜について、カッターナイフの刃先で、塗膜の上から基材に達するように、X字状の切れ目を入れた。この基材をJIS Z2371に対応した塩水噴霧試験機CYP-90型(スガ試験機株式会社製)にセットし、摂氏35℃で5%塩化ナトリウム水溶液を10日間噴霧し続けた。噴霧後、基材を水洗して摂氏25℃で2時間乾燥させた後、セロハンテープを塗膜に貼付し、セロハンテープを剥がしたときの、塗膜の剥離の程度を下記の基準で評価した。
S:剥離試験の剥離幅が、1mm未満
A:剥離試験の剥離幅が、1mm以上~3mm未満
B:剥離試験の剥離幅が、3mm以上
尚、ここで「剥離幅」とは、カッターナイフで入れた切れ目を中心としたときの、塗膜が剥離した幅を示す。剥離幅が3mm未満であれば、実用上差し支えない性能であると見做すことができる。
【0096】
【0097】
表3の結果から、ビニル変性エポキシエステル樹脂を構成するエポキシエステル樹脂が縮合環を有さずモノベンゼン環である比較例1では、タックフリー到達時間、防水性および防食性に劣っていることが分かる。また、そもそもビニル変性エポキシエステル樹脂を構成するエポキシエステル樹脂が縮合環を有さない比較例2でもタックフリー到達時間、防水性および防食性に劣っていることが分かる。比較例3では縮合環を有するモノカルボン酸が少ないため、防水性および防食性に劣っている。比較例4では縮合環を有するモノカルボン酸が多いため、塗料としての安定性に欠けている。