(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181935
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】光ファイバー及びその製造方法、発光方法並びに発光装置
(51)【国際特許分類】
H01S 3/06 20060101AFI20221201BHJP
H01S 3/16 20060101ALI20221201BHJP
H01S 3/067 20060101ALI20221201BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
H01S3/06
H01S3/16
H01S3/067
G02B6/02 416
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089181
(22)【出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐中 薫
【テーマコード(参考)】
2H250
5F172
【Fターム(参考)】
2H250AB14
2H250AC32
2H250AC33
2H250AD35
2H250AG02
2H250AG17
5F172AF03
5F172AF06
5F172AM02
5F172AM08
(57)【要約】
【課題】単一光子を発生させることが可能な光ファイバー及びその製造方法、発光方法並びに発光装を提供する。
【解決手段】希土類元素を内部に含み、希土類元素の少なくとも一部が、回折限界を超える距離で単一の原子に分離して存在する領域を有する、光ファイバー及びその製造方法、発光方法並びに発光装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素を内部に含み、
前記希土類元素の少なくとも一部が、回折限界を超える距離で単一の原子に分離して存在する領域を有する、光ファイバー。
【請求項2】
前記希土類元素が、Yb及びErの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の光ファイバー。
【請求項3】
前記領域からの発光の少なくとも一部を増幅する共振器を備える、請求項1又は請求項2に記載の光ファイバー。
【請求項4】
前記共振器が、ファイバーブラッググレーティング又はナノクレーターを有する、請求項3に記載の光ファイバー。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の光ファイバーの前記領域の少なくとも一部に励起光を照射して、前記希土類元素を発光させる、発光方法。
【請求項6】
前記光ファイバーの長手方向端部を介して、前記励起光が照射される、請求項5に記載の発光方法。
【請求項7】
前記光ファイバーの外壁を介して、前記励起光が照射される、請求項5に記載の発光方法。
【請求項8】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の光ファイバーと、
前記光ファイバーの前記領域の少なくとも一部に励起光を照射する光源と、
を備える、発光装置。
【請求項9】
外部共振器を備える、請求項8に記載の発光装置。
【請求項10】
希土類元素がドープされた光ファイバー母材を長手方向に延伸することにより、前記希土類元素の少なくとも一部が、回折限界を超える距離で単一の原子に分離して存在する領域を延伸部に形成する工程を含む、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の光ファイバーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバー及びその製造方法、発光方法並びに発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバーは、光信号を高速で伝達することができるため、通信、コンピューター等の情報技術の分野で広く用いられている。そのような光ファイバーは、例えば、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
量子技術を用いた情報技術(量子情報技術)では、量子コンピューター、量子メモリ、量子暗号等、単一光子の量子力学的性質を利用する検討がなされている。しかしながら、特許文献1等の技術を始めとして、様々な技術が検討されているにも関わらず、単一光子を得るための技術が十分でないのが現状である。
【0005】
本開示は、このような状況を鑑みてなされたものであり、本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、単一光子を発生させることが可能な光ファイバーを提供することである。
本開示の他の実施形態が解決しようとする課題は、上記光ファイバーの製造方法を提供することである。
本開示の他の実施形態が解決しようとする課題は、上記光ファイバーを用いた発光方法を提供することである。
本開示の他の実施形態が解決しようとする課題は、上記光ファイバーを用いた発光装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の態様を含む。
<1> 希土類元素を内部に含み、
希土類元素の少なくとも一部が、回折限界を超える距離で単一の原子に分離して存在する領域を有する、光ファイバー。
<2> 希土類元素が、Yb及びErの少なくとも1つを含む、<1>に記載の光ファイバー。
<3> 上記領域からの発光の少なくとも一部を増幅する共振器を備える、<1>又は<2>に記載の光ファイバー。
<4> 共振器が、ファイバーブラッググレーティングを有する、<3>に記載の光ファイバー。
<5> <1>~<4>のいずれか1つに記載の光ファイバーの上記領域の少なくとも一部に励起光を照射して、希土類元素を発光させる、発光方法。
<6> 光ファイバーの長手方向端部を介して、励起光が照射される、<5>に記載の発光方法。
<7> 光ファイバーの外壁を介して、励起光が照射される、<5>に記載の発光方法。
<8> <1>~<4>のいずれか1つに記載の光ファイバーと、
光ファイバーの上記領域の少なくとも一部に励起光を照射する光源と、
を備える、発光装置。
<9> 外部共振器を備える、<8>に記載の発光装置。
<10> 希土類元素がドープされた光ファイバー母材を長手方向に延伸することにより、希土類元素の少なくとも一部が、回折限界を超える距離で単一の原子に分離して存在する領域を延伸部に形成する工程を含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の光ファイバーの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一実施形態によれば、単一光子を発生させることが可能な光ファイバーが提供される。
本開示の他の実施形態によれば、上記光ファイバーの製造方法が提供される。
本開示の他の実施形態によれば、上記光ファイバーを用いた発光方法が提供される。
本開示の他の実施形態によれば、上記光ファイバーを用いた発光装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、光ファイバーの一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、光ファイバーの一例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、光ファイバーの一例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、光ファイバーを用いた発光方法の一例を示す模式図である。
【
図5】
図5は、光ファイバーを用いた発光方法の一例を示す模式図である。
【
図6】
図6は、発光装置の一例を示す模式図である。
【
図7】
図7は、発光装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示に係る光ファイバー及びその製造方法、発光方法並びに発光装置の詳細を説明する。
【0010】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、各成分の量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計量を意味する。
本開示において、「工程」という語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0011】
以下の説明において参照する図面は、例示的、かつ、概略的に示されたものであり、本開示は、これらの図面に限定されない。同じ符号は、同じ構成要素を示す。また、図面の符号は省略することがある。
【0012】
<光ファイバー>
本開示に係る光ファイバーは、希土類元素を内部に含み、希土類元素の少なくとも一部が、回折限界を超える距離で単一の原子に分離して存在する領域を有する。
【0013】
希土類元素は、励起光により励起されて発光する、すなわち、光子を発生する性質を有しており、例えば、特許文献1に記載されているような、希土類元素をドープした光ファイバーが検討されている。しかし、希土類元素を光ファイバーに単にドープするだけでは、単一光子を発生させることは難しい。
【0014】
これに対して、本開示に係る光ファイバーは、内部に含まれる希土類元素の少なくとも一部が、回折限界を超える距離で単一の原子に分離して存在する領域を有している。そのため、この領域に励起光を照射した際、回折限界を超える距離で単一の原子に分離した希土類元素を励起することができる。そして、励起された希土類元素の原子が単一光子源として機能し、単一光子を発生させることが可能である。
【0015】
本開示に係る光ファイバーにおいて、希土類元素の少なくとも一部が、回折限界を超える距離で単一の原子に分離して存在する領域を「特定領域」と呼ぶことがある。
【0016】
例えば、
図1に示される光ファイバー100は、希土類元素を含んでおり、希土類元素の少なくとも一部が、回折限界を超える距離で単一の原子に分離して存在する特定領域10を有する。
【0017】
光の回折限界は、希土類元素の発光の波長程度である。特定領域において、希土類元素の少なくとも一部が、回折限界を超える距離で単一の原子に分離して存在することは、特定領域に励起光を照射した際、単一光子の発生を観察することで確認することができる。
【0018】
単一光子の発生は、以下の要領で観察することができる。
光ファイバーの特定領域に励起光を照射し、希土類元素を発光させる。希土類元素の発光は、光学顕微鏡(例えば、30倍~40倍の倍率)を用いて特定領域を目視で観察することにより、確認することができる。希土類元素の発光について、光子相関測定により光子統計を得ることで、希土類元素の原子から発生した光子が単一光子状態であることを確認することができる。具体的には、希土類元素の発光をビームスプリッタにより2方向に分離し、分離した2方向の光について、それぞれ単一光子検出器を使用して観測することにより、単一光子検出器2台を使用した同時観測測定を行う。両検出器で同時刻に観測される光子の検出確率がほぼゼロである場合、希土類元素の原子から発生した光子が単一光子状態にあるとして計測する。このようにして、単一光子の発生を観察することができる。
【0019】
光ファイバーの材質として、石英ガラスを好適に用いることができる。また、光ファイバーは、中央のコア部をクラッド部で覆ったコア/クラッド構造を有するものであってよい。
【0020】
特定領域の径は特に限定されず、例えば、0.3μmμ~2.0μmであってよい。
特定領域の径は、電子顕微鏡、又は光学顕微鏡(例えば30倍~40倍の倍率)を使用する方法により測定することができる。また、特定領域の径は、スケールの判明しているテストターゲット等を同時に観測することで、径を計算する方法により測定することができる。
【0021】
光ファイバーは、特定領域以外の他の領域を含んでよい。例えば、
図1に示すように、光ファイバー100は、特定領域10以外の他の領域、すなわち、非特定領域50及びテーパー部30を含んでよく、特定領域10と非特定領域50とが、テーパー部30を介して連続した構造を有してよい。ある態様では、テーパー部30の一部において、希土類元素の少なくとも一部が、回折限界を超える距離で単一の原子に分離して存在してよく、上記一部は、特定領域10の一部であり得る。このような光ファイバー100は、例えば、後述するように、希土類元素がドープされた光ファイバー母材を長手方向に延伸することにより製造することができる。このようにして製造された光ファイバーにおいて、特定領域は、光ファイバー母材が細線化したものであり、一方、非特定領域は、光ファイバー母材と同一の構造を有し、例えば、中央のコア部をクラッド部で覆ったコア/クラッド構造を有する。例えば、非特定領域の径は、5μm~50μmであってよく、コア部の径は、0.3μm~2.0μmであってよい。
非特定領域及びコア部の径は、電子顕微鏡、又は光学顕微鏡(例えば30倍~40倍の倍率)を使用する方法により測定することができる。また、非特定領域及びコア部の径は、スケールの判明しているテストターゲット等を同時に観測することで、径を計算する方法により測定することができる。
【0022】
[希土類元素]
希土類元素は、量子情報技術の分野において有益である。例えば、希土類元素は、常温であっても光学的に活性であり、光励起及び励起光の光学測定が容易である。
【0023】
また、希土類元素は、固体中(光ファイバー中)で安定した固有エネルギー準位を形成し、更に、外部環境に影響されにくい小さな固有エネルギー均一幅を有する。そのため、希土類元素は、光励起が容易である。
これに対して、量子ドットは、固体中で安定した固有エネルギー準位を形成することができない。
【0024】
また、希土類元素の原子から発生した単一光子は、ナノメートルオーダーの導波路(例えば、ある態様において、特定領域)及び共振器への導波が容易である。
【0025】
希土類元素の種類は特に限定されないが、例えば、Ybは、1/2の核スピンを有する同位体が存在するため、量子コンピューター、量子メモリ等への適用の観点から好ましい。また、Erは、発生する光の波長が光通信で使われている波長に極めて近く、光通信への応用の観点から好ましい。
【0026】
希土類元素は、1種を単独で用いてよく、2種以上を併用してもよい。上記観点から、光ファイバーは、Yb及びErの少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0027】
希土類元素の光ファイバーへのドープ量(m-3)は、希土類元素の少なくとも一部が、回折限界を超える距離で単一の原子に分離して存在する限りは特に限定されない。
【0028】
[共振器]
光ファイバーは、特定領域からの発光の少なくとも一部を増幅する共振器を備えてよい。
【0029】
共振器の構成は特に限定されないが、例えば、光ファイバー中に設けられた2つの光反射器と、これらで挟まれた区間とからなる共振器が挙げられる。
【0030】
光ファイバーにおける共振器の位置は特に限定されず、2つの光反射器はそれぞれ、特定領域、テーパー部又は非特定領域のいずれに配置されていてもよい。
【0031】
例えば、特定領域10の少なくとも一部を挟むように2つの光反射器が配置されてなる共振器であってよい。この態様において、例えば、
図2に示すように、光ファイバー102の特定領域10の一部に、光反射器72及び光反射器74を設けることにより、2つの光反射器と、これらで挟まれた区間とからなる共振器70としてよい。これにより、特定領域で発生する単一光子の発生効率を共振器により増幅することができる。
この態様において、光反射器の長手方向の長さは、例えば、10μm~100μmであってよく、光反射器により挟まれた区間の長さは、例えば、10μm~100μmであってよい。
【0032】
また、例えば、特定領域10を挟まないように2つの光反射器が配置されてなる共振器であってよい。例えば、
図3に示すように、光ファイバー104の非特定領域52の一部に、光反射器77及び光反射器79を設けることにより、2つの光反射器と、これらで挟まれた区間とからなる共振器75としてよい。これにより、特定領域で発生した単一光子の発生効率を共振器により増幅することができる。
この態様において、光反射器の長手方向の長さは、例えば、10μm~100μmであってよく、光反射器により挟まれた区間の長さは、例えば、10μm~100μmであってよい。
【0033】
共振器の構造は特に限定されず、公知のものであってよい。例えば、共振器は、ファイバーブラッググレーティング(Fiber Bragg Grating:FBG)を有してよく、また、ナノクレーターを有してよい。FBG及びナノクレーターは、光反射器として機能する。
FBGとしては、例えば、光ファイバーの内部に屈折率の分布が設けられた構造、光ファイバーの内部に周期構造が設けられた構造等が挙げられる。
また、ナノクレーターとしては、光ファイバーの外壁に複数の凹部が設けられた構造、光ファイバーの外壁に一次元フォトニック結晶が設けられた構造等が挙げられる。
【0034】
<発光方法>
本開示に係る発光方法では、本開示に係る光ファイバーの特定領域の少なくとも一部に励起光を照射して、希土類元素を発光させる。これにより、励起された希土類元素の原子が単一光子源として機能し、単一光子を発生させることが可能である。
【0035】
例えば、
図1に示される光ファイバー100を用いた、
図4及び
図5に示される発光方法が挙げられる。
【0036】
図4に示される発光方法では、光ファイバー100の長手方向端部90を介して、特定領域10に、光源300から励起光(矢印A
1)を照射する。これにより、励起された希土類元素が発光し、希土類元素の原子から単一光子が発生する。希土類元素の発光は、光ファイバー100の特定領域10を介して、光ファイバー100の長手方向端部92に向かって導波することができる。例えば、長手方向端部92に導波された光(矢印A
2)、又は特定領域10からの発光を上述の方法で分析することにより、単一光子の発生を観察することができる。
【0037】
図5に示される発光方法では、光ファイバー100の外壁を介して、特定領域10に、光源300から励起光(矢印A
1)を照射する。これにより、励起された希土類元素が発光し、希土類元素の原子から単一光子が発生する。希土類元素の発光は、光ファイバー100の特定領域10を介して、光ファイバー100の長手方向端部90及び長手方向端部92の少なくとも一方に向かって導波することができる。例えば、長手方向端部90又は長手方向端部92に導波された光(矢印A
2)を上述の方法で分析することにより、単一光子の発生を観察することができる。
【0038】
励起光として、例えば、光ファイバーにドープされた希土類元素の種類に応じて、適切な励起波長を有するレーザー光を用いてよい。例えば、Ybの励起波長として、915nm及び975nmが挙げられ、Erの励起波長として、980nm及び1480nmが挙げられる。
【0039】
<発光装置>
本開示に係る発光装置は、本開示に係る光ファイバーと、
光ファイバーの特定領域の少なくとも一部に励起光を照射する光源と、
を備える。これにより、励起された希土類元素の原子が単一光子源として機能し、単一光子を発生させることが可能である。
【0040】
光源は、上述した励起光を照射することができる限りは特に限定されない。光ファイバー及び励起光の詳細については、上述した通りである。
【0041】
光ファイバーの特定領域の少なくとも一部に励起光を照射する態様は特に限定されず、発光方法において上述した方法を用いてよい。
【0042】
例えば、
図6に示される発光装置700は、光ファイバー100及び光源300を備えている。光源300から照射された励起光(矢印A
1)が、光ファイバー100の長手方向端部90を介して特定領域10に照射される。これにより、励起された希土類元素が発光し、希土類元素の原子から単一光子が発生する。希土類元素の発光は、光ファイバー100の特定領域10を介して、光ファイバー100の長手方向端部92に向かって導波され、導波された光(矢印A
2)を長手方向端部92から取り出すことができる。
【0043】
発光装置は、光ファイバーに備えられ得る上述の共振器以外に、例えば、外部共振器等の他の共振器を備えてよい。外部共振器等の他の共振器の構成は特に限定されず、公知の構成を用いてよい。外部共振器として、光反射器(例えば、ミラー)を含むものが挙げられる。
【0044】
例えば、
図7に示される発光装置702は、光ファイバー100、光源300及び外部共振器500を備えている。外部共振器500は、光反射器520及び光反射器540を含んでいる。光源300から照射された励起光(矢印A
1)が、光ファイバー100の長手方向端部90を介して特定領域10に照射される。これにより、励起された希土類元素が発光し、希土類元素の原子から単一光子が発生する。希土類元素の発光は、光ファイバー100の特定領域10を介して、光ファイバー100の長手方向端部92に向かって導波される。導波された光(矢印A
2)が、外部共振器500に導入されて、増幅される。増幅された光(矢印A
3)を外部共振器500から取り出すことができる。
【0045】
<光ファイバーの製造方法>
本開示に係る光ファイバーの製造方法は特に限定されないが、以下の本開示に係る光ファイバーの製造方法を好適に用いることができる。
本開示に係る光ファイバーの製造方法は、希土類元素がドープされた光ファイバー母材を長手方向に延伸することにより、希土類元素の少なくとも一部が、回折限界を超える距離で単一の原子に分離して存在する領域(すなわち、特定領域)を延伸部に形成する工程(以下、「延伸工程」と呼ぶことがある)を含む。
【0046】
[延伸工程]
希土類元素がドープされた光ファイバー母材(以下、単に「光ファイバー母材」と呼ぶことがある)は、例えば、以下のようにして、長手方向に延伸することができる。
【0047】
まず、光ファイバー母材の一部を、光ファイバー母材の融点以上の温度に加熱する。加熱方法は特に限定されず、例えば、セラミックヒーター、ガスバーナー等を用いてよい。
【0048】
次いで、光ファイバー母材の加熱部を介して、光ファイバー母材の2カ所を保持しながら、長手方向に向かって加熱部を延伸する。これにより、延伸部において、希土類元素間の距離が長くなり、特定領域を延伸部に形成することができ、例えば、
図1に示される光ファイバー100を作製することができる。ある態様では、テーパー部30の一部において、希土類元素の少なくとも一部が、回折限界を超える距離で単一の原子に分離して存在してよく、上記一部は、特定領域10の一部であり得る。
【0049】
光ファイバー母材を延伸する際、延伸の程度は、希土類元素の光ファイバー母材へのドープ量(m-3)を考慮して適宜決定することができる。すなわち、ドープ量(m-3)は、光ファイバー母材の単位体積中の個数であるため、光ファイバー母材をどの程度延伸させれば、希土類元素間の距離がどの程度長くなるのかを推定することができる。このような推定に基づいて、回折限界を超える距離となるように、延伸の程度を決定することができる。
【0050】
光ファイバー母材は特に限定されず、公知のものを用いてよい。
光ファイバー母材の材質として、石英ガラスを好適に用いることができる。また、光ファイバーは、中央のコア部をクラッド部で覆ったコア/クラッド構造を有するものであってよい。例えば、光ファイバー母材の径は、5μm~50μmであってよく、コア部の径は、5μm~50μmであってよい。
【0051】
光ファイバー母材の製造方法は特に限定されず、公知の方法で製造されたものであってよい。例えば、MCVD法(Modefied Chemocal Vapor Deposition Method)、VAD法(Vapor phase Axial Deposition Method)等が挙げられる。また、希土類元素をドープせずに上記方法により作製した光ファイバー母材に、気相法により希土類元素を昇華させて光ファイバー母材にドーピングしてもよい。
【0052】
希土類元素の詳細については、上述の通りである。
また、希土類元素の光ファイバー母材へのドープ量は、光ファイバー母材を長手方向に延伸した際、特定領域を延伸部に形成することができる限りは、特に限定されない。
【0053】
[他の工程]
本開示に係る光ファイバーの製造方法は、光ファイバーを延伸する上記工程以外の他の工程を含んでよい。
【0054】
例えば、本開示に係る光ファイバーの製造方法は、特定領域からの発光の少なくとも一部を増幅する共振器を光ファイバーに形成する工程(以下、「共振器形成工程」と呼ぶことがある)を含んでよい。共振器の詳細については、上述の通りである。
共振器形成工程は特に限定されず、公知の工程を用いてよい。
【実施例0055】
以下、実施例を挙げて本開示をより具体的に説明する。但し、本開示は、これらの実施例に限定されない。
【0056】
<延伸工程>
Ybでドープされた光ファイバー母材(nLight, Inc.社製の「YB1200-4/125」)の一部(長手方向に2mm~3mmの領域)を、ガスバーナーを用いて、光ファイバー母材の融点以上の温度に加熱した。
【0057】
次いで、光ファイバー母材の加熱部を介して、光ファイバー母材の2カ所を保持しながら、長手方向に向かって加熱部を2.5cm延伸した。これにより、希土類元素の少なくとも一部が、回折限界を超える距離で単一の原子に分離して存在する領域、すなわち、特定領域10を延伸部に形成して、
図1に示される光ファイバー100を作製した。
【0058】
<発光>
得られた光ファイバー100を用いて、以下の要領で、特定領域中の希土類元素を発光させた。
励起光の光源として、ソーラボ社製の温度調整機能つきレーザーダイオードマウントに、DigiKey社のレーザーダイオードを取り付けたレーザー光源を用いた。
図4に示すように、光ファイバー100の長手方向端部90を介して、特定領域10に、光源300から励起光(励起波長:980nm、矢印A
1)を照射した。これにより、特定領域10において、24nm~77μmの距離で分離した5箇所で、励起された希土類元素の発光を確認した。希土類元素の発光は、光学顕微鏡(30倍の倍率)を用いて特定領域10を目視で観察することにより、確認した。
【0059】
特定領域10の希土類元素の発光を、以下の要領で分析することにより、単一光子の発生を観察した。
希土類元素の発光について、光子相関測定により光子統計を得ることで、希土類元素の原子から発生した光子が単一光子状態であることを確認した。具体的には、希土類元素の発光をビームスプリッタにより2方向に分離し、分離した2方向の光について、それぞれ単一光子検出器を使用して観測することにより、単一光子検出器2台を使用した同時観測測定を行った。両検出器で同時刻に観測される光子の検出確率がほぼゼロである場合、希土類元素の原子から発生した光子が単一光子状態にあるとして計測した。このようにして、単一光子の発生を観察した。