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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181961
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】分離膜及び分離膜製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/70 20060101AFI20221201BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20221201BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20221201BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20221201BHJP
   B01D 71/10 20060101ALI20221201BHJP
   B01D 71/12 20060101ALI20221201BHJP
   B01D 71/26 20060101ALI20221201BHJP
   B01D 71/36 20060101ALI20221201BHJP
   B01D 71/42 20060101ALI20221201BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20221201BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20221201BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
B01D71/70
B01D69/12
B01D69/10
B01D71/02
B01D71/10
B01D71/12
B01D71/26
B01D71/36
B01D71/42
B01D71/68
B32B5/18
B32B27/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089219
(22)【出願日】2021-05-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、独立行政法人環境再生保全機構 環境研究総合推進費水蒸気回収膜を用いた新規な環境配慮型廃棄物処理システムの実証委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100196380
【弁理士】
【氏名又は名称】森 匡輝
(72)【発明者】
【氏名】都留 稔了
(72)【発明者】
【氏名】金指 正言
(72)【発明者】
【氏名】長澤 寛規
【テーマコード(参考)】
4D006
4F100
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006MA03
4D006MA07
4D006MA09
4D006MB03
4D006MB04
4D006MC05
4D006MC11X
4D006MC16
4D006MC22
4D006MC30
4D006MC39
4D006MC62
4D006MC65X
4D006NA45
4D006NA62
4D006PA05
4D006PB63
4D006PB65
4F100AA37B
4F100AH02B
4F100AJ04A
4F100AJ04B
4F100AJ06A
4F100AK08A
4F100AK18A
4F100AK27A
4F100AK52B
4F100AK55A
4F100AR00B
4F100BA02
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100DG01B
4F100DJ00A
4F100EH46B
4F100EJ42B
4F100GB56
4F100JD20B
(57)【要約】
【課題】高い透過性と選択性を持つ分離膜及び分離膜製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る分離膜は、多孔質支持体である支持体12と、支持体12上に形成され、ナノ材料とシルセスキオキサン構造を有するオルガノシリカとを含む分離層11と、を備える。分離層に含まれるナノ材料により、支持体12上に分離層11を直接形成することが可能となり、中間層による透過抵抗をなくし、透過性を向上させることが可能となる。また、分離層11に含まれるシルセスキオキサン構造を有するオルガノシリカにより、分離層11の化学構造を制御し細孔径を調整することが可能となり、選択性を向上させることが可能となる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質支持体と、
前記多孔質支持体上に形成され、ナノ材料とシルセスキオキサン構造を有するオルガノシリカとを含む分離層と、を備える、
ことを特徴とする分離膜。
【請求項2】
前記多孔質支持体は、セルロースエステル、セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリメチルペンテン又はポリスルフォンである、
ことを特徴とする請求項1に記載の分離膜。
【請求項3】
前記ナノ材料は、セルロースナノファイバー又は酸化グラフェンである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の分離膜。
【請求項4】
前記オルガノシリカは、アルコキシシランを前駆体とする、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の分離膜。
【請求項5】
ナノ材料とシルセスキオキサン構造を有するオルガノシリカとを含むコーティングゾルを調製する調製工程と、
前記コーティングゾルを多孔質支持体上に塗布する塗布工程と、
前記塗布工程で塗布された前記コーティングゾルを減圧濾過又は加圧濾過により製膜する製膜工程と、
前記製膜工程で製膜された前記コーティングゾルを熱処理して、分離層を形成する熱処理工程と、を含む、
ことを特徴とする分離膜製造方法。
【請求項6】
前記ナノ材料は、セルロースナノファイバー又は酸化グラフェンである、
ことを特徴とする請求項5に記載の分離膜製造方法。
【請求項7】
前記オルガノシリカは、アルコキシシランを前駆体とする、
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の分離膜製造方法。
【請求項8】
前記多孔質支持体は、セルロースエステル、セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリメチルペンテン又はポリスルフォンである、
ことを特徴とする請求項5から7のいずれか一項に記載の分離膜製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜及び分離膜製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、低エネルギーで目的の物質を分離する方法として、膜分離法が利用されている。膜分離法は、水処理を含む様々な産業分野で利用されている。膜分離法に用いられる分離膜の分離特性は、分離膜の細孔径、表面特性、膜構造等によって影響される。分離膜としては、アモルファス構造を有するシリコン系材料の分離膜が一般的に用いられており、シリコン系酸化物であるシリカ(SiO)、シルセスキオキサン((RSiO1.5)、シリコーン((RSiO))を分離膜材料とする分離膜が、種々開発されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2016/136294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、シリコーン((RSiO))である、ポリジメチルシロキサン構造を持つシロキサン化合物で構成される機能性ポリマー層を、分離層の上層又は下層に形成することにより分離層を薄膜化している。具体的には、特許文献1の分離膜は、機能性ポリマー層を分離膜の上層に形成して機械的強度を高めることにより、分離層を薄膜化し、分離膜の透過性を向上させている。また、特許文献1の別の分離膜は、機能性ポリマー層を分離層の下層、すなわち分離層と多孔質層との中間に中間層として形成し、多孔質表面を平滑化することにより、分離層を薄膜化し、分離膜の透過性を向上させている。
【0005】
しかしながら、機能性ポリマー層を構成するシリコーン((RSiO))は、化学構造を制御することが難しいため、細孔径を調整し、選択性を向上させることは困難である。また、機能性ポリマー層を中間層として形成しているので、中間層の透過抵抗によって分離膜の透過抵抗が増大し、分離膜の透過性向上を阻害する。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、高い透過性と選択性を有する分離膜及び分離膜製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の第1の観点に係る分離膜は、
多孔質支持体と、
前記多孔質支持体上に形成され、ナノ材料とシルセスキオキサン構造を有するオルガノシリカとを含む分離層と、を備える。
【0008】
また、前記多孔質支持体は、セルロースエステル、セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリメチルペンテン又はポリスルフォンである、
こととしてもよい。
【0009】
また、前記ナノ材料は、セルロースナノファイバー又は酸化グラフェンである、
こととしてもよい。
【0010】
また、前記オルガノシリカは、アルコキシシランを前駆体とする、
こととしてもよい。
【0011】
この発明の第2の観点に係る分離膜製造方法は、
ナノ材料とシルセスキオキサン構造を有するオルガノシリカとを含むコーティングゾルを調製する調製工程と、
前記コーティングゾルを多孔質支持体上に塗布する塗布工程と、
前記塗布工程で塗布された前記コーティングゾルを減圧濾過又は加圧濾過により製膜する製膜工程と、
前記製膜工程で製膜された前記コーティングゾルを熱処理して、分離層を形成する熱処理工程と、を含む、
ことを特徴とする。
【0012】
また、前記ナノ材料は、セルロースナノファイバー又は酸化グラフェンである、
こととしてもよい。
【0013】
また、前記オルガノシリカは、アルコキシシランを前駆体とする、
こととしてもよい。
【0014】
また、前記多孔質支持体は、セルロースエステル、セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリメチルペンテン又はポリスルフォンである、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の分離膜及び分離膜製造方法によれば、分離層に含まれるナノ材料により、多孔質支持体上に分離層を直接コーティングすることが可能となるので、分離膜の透過抵抗を低減し、透過性を向上させることができる。また、分離層に含まれるシルセスキオキサン構造を有するオルガノシリカにより、分離層の化学構造を制御し細孔径を調整することが可能となり、選択性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態に係る分離膜の概略断面図である。
図2】従来の中間層を有する分離膜の概略断面図である。
図3】実施の形態に係る分離膜の製造方法の流れを示すフローチャートである。
図4】セルロースナノファイバーゾルの熱重量測定結果を示すグラフである。
図5】セルロースナノファイバーゾルのフーリエ変換赤外分光法による構造解析の結果を示すグラフである。
図6】セルロースナノファイバーを用いた分離層の膜厚と特性との関係を示すグラフであり、(a)は分離係数、(b)は水蒸気透過率及び窒素透過率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施の形態に係る分離膜10について説明する。本実施の形態に係る分離膜10は、図1に示すように、分離層11と支持体12とを備える。従来の中間層を有する多層構造を持つ分離膜20は、図2に示すように、分離層21、中間層22、支持体23を備える。本実施の形態に係る分離膜10は、分離膜の透過抵抗を小さくし透過性を高くするため、透過抵抗を増大させる中間層を形成せず、支持体12にゾルを直接コーティングすることにより分離層11を形成する。
【0018】
(支持体)
分離膜10は、分離膜10の機械的強度を高めるために、多孔質基材からなる支持体12(多孔質支持体)を備える。多孔質基材は、特に限定されないが、例えば、セルロースエステル、セルロース(濾紙)、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリメチルペンテン、ポリスルフォン等である。
【0019】
(分離層)
分離層11は、支持体12上に形成され、所定の物質を透過させる細孔によって目的の物質を分離する。分離層11は、ナノ材料とシルセスキオキサン構造((RSiO1.5)を有するオルガノシリカとを含む。ナノ材料は、特に限定されず、多孔質支持体上に直接コーティング可能なものであればよい。ナノ材料は、例えば、セルロースナノファイバー(CNF:Cellulose Nano Fiber)、酸化グラフェン等である。
【0020】
本実施の形態に係るナノ材料は、高いアスペクト比を有するので、ナノ材料を支持体12に直接コーティングして薄膜製膜することが可能である。例えば、CNFは、直径を数nm~数10nm程度、長さを数100nm程度とすることが可能であり、酸化グラフェンは、厚みを数nm程度、シートサイズを数100nm程度とすることが可能である。これらのアスペクト比の高いナノ材料を、支持体12に直接コーティングすることにより、薄膜製膜することができる。
【0021】
また、シルセスキオキサン構造を有するオルガノシリカは、アルコキシシランを前駆体として生成される。アルコキシシランは、例えば架橋型アルコキシシランである、1,2―ビス(トリエトキシシリル)エタン(1,2-bis(triethoxysilyl)ethane:BTESE)、1,2―ビス(トリエトキシシリル)メタン(1,2-bis(triethoxysilyl)methane:BTESM)、1,2―ビス(トリエトキシシリル)プロパン(1,2-bis(triethoxysilyl)propane:BTESP)、1,4―ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン(1,4-bis(triethoxysilyl)benzene:BTESB)、ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アミン(bis [3-(trimethoxysilyl) propyl] amine:BTPA)、側鎖型アルコキシシランである、メチルトリエトキシシラン(Methyltriethoxysilane)、アミノプロピルトリメトキシシラン(3-Aminopropyltrimethoxysilane)等である。
【0022】
上述のナノ材料であるCNF、酸化グラフェン等は多くの水酸基を有し、オルガノシリカの前駆体であるアルコキシシランと共有結合する。これにより、CNF、酸化グラフェン等の表面からオルガノシリカ層が成長する。本実施の形態では、ナノ材料とオルガノシリカとの複合ゾルを生成し、この複合ゾルをコーティングゾルとして支持体12に塗布して、薄膜の分離層11を形成することとしている。詳細な製膜方法については、後述する。
【0023】
(分離膜の製造方法)
以下、図3のフローチャートを参照しつつ、本実施の形態に係る分離膜製造方法について説明する。本実施の形態に係る分離膜10の製造方法は、コーティングゾルを調製する調製工程、支持体12へコーティングゾルを塗布する塗布工程、塗布されたコーティングゾルを減圧濾過又は加圧濾過により製膜する製膜工程、分離膜材料を熱処理して分離層11を形成する熱処理工程を含む。
【0024】
本実施の形態に係る分離膜製造方法では、まず、調製工程として、支持体12上に塗布するコーティングゾルを調製する。コーティングゾルは、シルセスキオキサン構造を有するオルガノシリカとナノ材料とを含む。本実施の形態に係るコーティングゾルは、BTESEゾルとセルロースナノファイバーゾル(以下、CNFゾルともいう。)とを混合して生成される。
【0025】
まず、BTESEゾルを調製する(ステップS11)。具体的には、BTESEとエタノールとを混合し、室温で攪拌しながら水を滴下した後、エタノールで希釈した塩酸をさらに滴下する。続いて、50℃で1時間湯浴攪拌して、BTESE-acidゾルを調製する。
【0026】
また、CNFゾルを調製する(ステップS12)。具体的には、CNFと水とを混合し、28kHzで、5分間超音波分散処理することによりCNFゾルを調製する。CNFゾルは、例えば、CNF Mゾル(株式会社スギノマシン製、濃度2wt%、繊維直径10~50nm、重合度650)を用いることができる。
【0027】
上記のBTESEゾルとCNFゾルとを混合して、コーティングゾルを調製する(ステップS13)。具体的には、ステップS12で調製したCNFゾルに、ステップS11で調製したBTESEゾルを添加し、28kHzで、5分間超音波分散処理することにより、コーティングゾルを調製する。本実施の形態では、質量比がCNF:BTESE=1:1となるようにコーティングゾルを調製したが、これに限られず、質量比がCNF:BTESE=1:1~1:100の範囲であることが好ましい。
【0028】
また、本実施の形態では、ナノ材料としてCNFを用いたがこれに限られず、多孔質支持体上に直接コーティング可能なものであればよく、例えば、酸化グラフェンを用いることができる。
【0029】
また、上述の通り、本実施の形態に係る分離層11は、架橋型アルコキシシランであるBTESE、BTESM、BTESP、BTESB、BTPA、側鎖型アルコキシシランであるメチルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン等を前駆体とするシルセスキオキサン構造を有するオルガノシリカを含むこととしている。これは、シリコーン((RSiO))は柔らかいので分離膜の分離性を高めることが難しく、シリカ(SiO)は硬いので分離層が硬くなり割れやすい、ピンホールが発生しやすい等の課題があることから、シルセスキオキサンが適切であると考えられるためである。ただし、分離層11のオルガノシリカは、シリコーン、シリカを含んでいてもよい。また、シルセスキオキサンに、金属イオンを添加することとしてもよい。
【0030】
また、本実施の形態では、BTESEに塩酸を滴下することとしたが、これに限られず、BTESEゾルとCNFゾルとの混合後に塩酸を滴下することとしてもよい。
【0031】
続いて、塗布工程として、支持体12に、ステップS13で調製したコーティングゾルを塗布する(ステップS14)。支持体12は、上述の通り、多孔質基材であり、セルロースエステル(推定細孔径0.1μm)、セルロース(濾紙、推定細孔径5μm)、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリメチルペンテン、ポリスルフォン(日東電工株式会社製CF30K等、推定細孔径30nm)等を用いることができる。
【0032】
続いて、製膜工程として、支持体12上にコーティングゾルの膜を生成する(ステップS15)。より具体的には、ステップS14でコーティングゾルを塗布した支持体12を減圧濾過又は加圧濾過する。減圧濾過、加圧濾過の条件は特に限定されないが、例えば、支持体12側を80kPaに30分間減圧して減圧濾過する。また、加圧濾過の場合、例えば、分離膜側(コーティングゾル側)を2気圧に加圧して、加圧濾過する。
【0033】
支持体12上にコーティングゾルをコーティングした後、熱処理工程として、分離層11を緻密化させるため、製膜された支持体12を熱処理する(ステップS16)。熱処理条件は、例えば、90℃で30分間である。本実施の形態では、熱処理による分離層11の緻密化を行うこととしたが、熱処理を行わないこととしてもよい。ただし、製膜性を向上させるために、50~150℃でコーティングゾルを熱処理することが好ましい。
【0034】
以上の工程により、支持体12上に薄膜の分離層11を直接形成することができる。すなわち、中間層を形成することなく分離膜10を形成できる。したがって、透過抵抗を抑制し、透過性の高い分離膜10を得ることが可能である。また、シルセスキオキサン構造を有するオルガノシリカを用いることにより、細孔径を調整可能な分離層11を形成することができるので、分離膜10の選択性を向上させることが可能である。
【0035】
(分離膜の透過性評価)
分離膜の透過性評価として、飽和水蒸気/窒素の透過実験を行った。分離条件としては、25℃環境下で、分離膜10に混合気体を500ml/minで供給し、混合気体の供給圧力は100kPaとした。表1に、分離層にCNFを含む分離膜及び分離層にCNFとBTESEとを含む分離膜の水蒸気透過率、窒素透過率、分離係数の実験結果を示す。
【表1】
【0036】
透過率は以下の式により算出されるものとした。
=M/(SΔt(Pfi-Ppi))
:透過物質量[mol]
S:膜面積[m
Δt:補修時間[s]
fi:上流分圧[Pa]
pi:下流分圧[Pa]
【0037】
なお、分離係数αは、以下の式により算出される係数であり、数値が大きい程、高い分離能を有することを示す。
α=(Y/Y)/(X/X)
:分離膜上流の水モル濃度
:分離膜上流の窒素モル濃度
:分離膜下流の水モル濃度
:分離膜下流の窒素モル濃度
【0038】
表1に示すように、分離層11にCNFを含む分離膜10に比べ、CNFとBTESEとを含む分離膜10は、水蒸気透過率及び分離係数が大きい。分離層11にBTESEを含むことにより、径の小さい細孔を形成することが可能となり分離膜10の選択性が高くなったと考えられる。
【0039】
以上説明したように、本実施の形態に係る分離膜10は、分離層11にナノ材料を含むことにより、多孔質支持体上に分離層を直接コーティングすることが可能となる。これにより、中間層による透過抵抗がなくなるので、分離膜10の透過性を向上させることができる。また、分離層11が、シルセスキオキサン構造を有するオルガノシリカを含むことにより、分離層11の化学構造を制御して、細孔径を調整することが可能となり、選択性を向上させることが可能となる。よって、本実施の形態に係る分離膜10は、高い透過性と選択性を有するので、より効率的に水処理等の分離処理を行うことができる。また、分離を行うシルセスキオキサンネットワーク構造を有するオルガノシリカの前駆体であるアルコキシシランと、ナノ材料とを一体として多孔質支持体に塗布することができるので、製膜プロセスを簡略化することが可能となる。
【0040】
(セルロースナノファイバーの特性評価)
本実施の形態に係る分離膜10の特性に影響を与える、分離層11に含まれるCNFの耐熱性評価を行った。CNFとして、CNF Mゾル(株式会社スギノマシン製、濃度2wt%、繊維直径10~50nm、重合度650)を用いた。窒素雰囲気及び空気雰囲気下で、試料であるCNFゾルを100℃で3時間保持した後、10℃/minの速度で加熱し、500℃で4時間保持した。図4に、分離層11に含まれるCNFの熱重量測定(TGA:thermal gravimetric analysis)の結果を示す。図4に示すように、窒素雰囲気下及び空気雰囲気下で、300℃程度で相対質量が減少したことが確認できる。
【0041】
CNFゾルを20分間、25℃、100℃、200℃、300℃で熱処理し、CNFゾルの構造解析を行った。図5に、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)による分離層11に含まれるCNFの構造解析の測定結果を示す。図5に示すように、25℃、100℃、200℃で熱処理したCNFゾルにおいて検出される、-OH、C-H、-OH、C-OHを示すピークが、300℃では検出されない。
【0042】
熱重量測定(TGA:Thermal Gravimetric Analysis)及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)による構造解析の測定結果より、300℃付近でCNFゾルの熱分解が起こったと考えられ、CNFゾルの耐熱性が300℃程度であることが示された。また、高温領域においても水酸基の存在が確認されたことから、CNFゾルの高い親水性が示された。
【0043】
(分離層にCNFを含む分離膜の透過性評価)
分離層11にCNFを含む分離膜の透過性評価を、上述した条件及び算出方法により行った。図6(a)に、分離層11の膜厚に対する分離係数、図6(b)に分離層11の膜厚に対する水蒸気透過率及び窒素透過率を示す。
【0044】
図6(a)に示すように、分離層11の膜厚の増加に伴い、分離係数が増加し分離能が高くなった。また、図6(b)に示すように、分離層11の膜厚を増加させても、分離膜の水蒸気透過率は大きく変化しなかった。また、分離膜の窒素透過率は、分離層11の膜厚が1μmであるときは10-6以上であり、10μmであるときは10-6から10-8程度にまで低下した。分離層11の膜厚の増加に伴い、窒素の透過可能な細孔がCNFゾルのコーティングにより閉塞したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、高い透過性と選択性とを要する物質の分離に適しており、特に、混合液体及び気体からの脱水に適している。
【符号の説明】
【0046】
10 分離膜、11 分離層、12 支持体、20 分離膜、21 分離層、22 中間層、23 支持体
図1
図2
図3
図4
図5
図6