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特開2022-182215レーザー透過性樹脂組成物及びその成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182215
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】レーザー透過性樹脂組成物及びその成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20221201BHJP
   C08K 5/3447 20060101ALI20221201BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20221201BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
C08L67/00
C08K5/3447
C08L67/02
C08L101/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089662
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】磯村 孝人
(72)【発明者】
【氏名】永井 光騎
(72)【発明者】
【氏名】五島 一也
(72)【発明者】
【氏名】深津 博樹
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA013
4J002BC033
4J002BD033
4J002BG063
4J002BG103
4J002BN153
4J002CD004
4J002CF001
4J002CF051
4J002CF05W
4J002CF06X
4J002CF07X
4J002CF103
4J002CG003
4J002CG012
4J002CH073
4J002CM043
4J002DE090
4J002DJ000
4J002DJ010
4J002DJ050
4J002DK000
4J002DL000
4J002EP006
4J002EP026
4J002EP027
4J002EP036
4J002EQ016
4J002EU027
4J002EU057
4J002EU106
4J002FA010
4J002FA040
4J002FD018
4J002FD020
4J002FD050
4J002FD070
4J002FD096
4J002FD097
4J002FD100
4J002FD130
4J002FD160
4J002FD170
4J002FD200
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】レーザーの透過性が高く、発色が良好であり、かつ色移行しないレーザー透過性樹脂組成物及びそれを用いた成形品を提供する。
【解決手段】ポリエステル系樹脂(A)100質量部に対して、少なくともベンズイミダゾロン系黄色顔料(b1)を含む有機顔料(B)を0.005~5.0質量部含む、レーザー透過性樹脂組成物(I)であって、前記樹脂組成物(I)の厚み1mmの成形品の、CIE L値が25以下であり、940nmレーザー透過率が40%以上である、レーザー透過性樹脂組成物(I)。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂(A)100質量部に対して、少なくともベンズイミダゾロン系黄色顔料(b1)を含む有機顔料(B)を0.005~5.0質量部含む、レーザー透過性樹脂組成物(I)であって、
前記樹脂組成物(I)の厚み1mmの成形品の、CIE L値が25以下であり、940nmレーザー透過率が40%以上である、レーザー透過性樹脂組成物(I)。
【請求項2】
前記有機顔料(B)が、前記ベンズイミダゾロン系黄色顔料(b1)と、フタロシアニン系青色顔料(b2)、及びペリレン系赤色顔料(b3)から選択される少なくとも1つの顔料とを含む、請求項1に記載のレーザー透過性樹脂組成物(I)。
【請求項3】
前記黄色顔料(b1)が、Pigment Yellow 180、及びPigment Yellow 181から選択される少なくとも1つの顔料を含み、
前記青色顔料(b2)が、Pigment Blue 15:3、及びPigment Blue 16から選択される少なくとも1つの顔料を含み、
前記赤色顔料(b3)が、Pigment Red 149を含む、請求項2に記載のレーザー透過性樹脂組成物(I)。
【請求項4】
前記ポリエステル系樹脂(A)が、ポリブチレンテレフタレート系樹脂を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のレーザー透過性樹脂組成物(I)。
【請求項5】
さらに無機充填材(C)を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のレーザー透過性樹脂組成物(I)。
【請求項6】
さらに非晶性樹脂(D)を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のレーザー透過性樹脂組成物(I)。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のレーザー透過性樹脂組成物(I)を用いてなる、成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー透過性樹脂組成物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
溶着は熱可塑性樹脂に適用される工法であり、樹脂製品の接合したい部分に熱を加えて溶融させた後、その部位を密着し冷却固化して接合させる方法である。このうち、レーザー溶着は、レーザー透過性のある樹脂と、レーザー吸収剤を含む樹脂とを重ね合わせ、レーザーを照射することにより樹脂同士を接合する。レーザー溶着では800~1200nm前後の、可視光よりもやや長い波長のダイオードレーザーやYAGレーザーが一般的に使用される。この波長領域でレーザー透過性と吸収性が確保できれば接合可能であり、色素やレーザー吸収剤を選ぶことで着色された樹脂製品を接合することも可能である。
【0003】
レーザーの透過性は樹脂により異なり、ポリカーボネート系樹脂、ポリメチル(メタ)アクリレート系樹脂(PMMA樹脂)、ポリスチレン系樹脂(PS樹脂)等の透明でレーザー透過性の高い樹脂、ポリアセタール系樹脂(POM樹脂)やポリアミド系樹脂(PA樹脂)等の半透明な樹脂、ポリエステル系樹脂等の隠蔽性が高くレーザー透過性の低い樹脂まで応用されている。
透明性が比較的高い樹脂はレーザー透過性も高いため、少ない着色剤量でも十分発色することが可能なため、高いレーザー透過性を維持できる。一方で、レーザー透過性の低いポリエステル系樹脂はレーザー溶着が困難であり、非晶樹脂を組み合わせたり(例えば、特許文献1)、透過性の高い着色剤等を添加したりする方法(例えば、特許文献2)が採用されている。
【0004】
レーザー透過性着色剤に関して、例えば、特許文献3には、ペリレン系レッドと、イソインドリノン系イエローと、フタロシアニン系ブルーとの混合物を用いることで、レーザー透過性樹脂を黒色に着色できることが記載されている。
従来、レーザー溶着に用いる着色剤は透過性を重視し、染料や、比較的粒子径の小さな顔料が用いられている。このような着色剤は透過性に優れるためレーザー溶着には適しているが、染料自体の耐熱性が低く、高温化で用いた場合に着色剤の昇華や退色するなどの他、部材を接触させた場合に色移行が生じたり、部材を汚染する等の問題がある。
【0005】
上記の問題に対して、特許文献4には、アントラキノン系および/またはナフタルイミド系ポリマー色素を含むレーザー光透過性樹脂組成物が、レーザー溶着時に他の物品へ色移りしにくいことが記載されている。また、特許文献5には、Mnを含まない金属酸化物を含むレーザー溶着用熱可塑性着色樹脂組成物が高温環境下でも退色しにくいことが記載されている。さらに、特許文献6には、フタロシアニン系顔料を含む着色剤を有するレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物が退色や熱劣化しにくいことが記載されている。しかしながら、いずれの樹脂組成物もレーザー溶着時の色移行の抑制が十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-315805号公報
【特許文献2】特開2004-168997号公報
【特許文献3】特開2006-199861号公報
【特許文献4】特開2007-297473号公報
【特許文献5】特開2007-023263号公報
【特許文献6】特開2008-133341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、レーザーの透過性が高く、発色が良好であり、かつ色移行しないレーザー透過性樹脂組成物及びそれを用いた成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、少なくともベンズイミダゾロン系黄色顔料を含む有機顔料をポリエステル系樹脂に対して一定量配合することにより、上記の全ての課題を解決できるレーザー透過性樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
[1]ポリエステル系樹脂(A)100質量部に対して、少なくともベンズイミダゾロン系黄色顔料(b1)を含む有機顔料(B)を0.005~5.0質量部含む、レーザー透過性樹脂組成物(I)であって、前記樹脂組成物(I)の厚み1mmの成形品の、CIE L値が25以下であり、940nmレーザー透過率が40%以上である、レーザー透過性樹脂組成物(I)。
[2]前記有機顔料(B)が、前記ベンズイミダゾロン系黄色顔料(b1)と、フタロシアニン系青色顔料(b2)、及びペリレン系赤色顔料(b3)から選択される少なくとも1つの顔料とを含む、[1]に記載のレーザー透過性樹脂組成物(I)。
[3]前記黄色顔料(b1)が、Pigment Yellow 180、及びPigment Yellow 181から選択される少なくとも1つの顔料を含み、前記青色顔料(b2)が、Pigment Blue 15:3、及びPigment Blue 16から選択される少なくとも1つの顔料を含み、前記赤色顔料(b3)が、Pigment Red 149を含む、[2]に記載のレーザー透過性樹脂組成物(I)。
[4]前記ポリエステル系樹脂(A)が、ポリブチレンテレフタレート系樹脂を含む、[1]から[3]のいずれか一項に記載のレーザー透過性樹脂組成物(I)。
[5]さらに無機充填材(C)を含む、[1]から[4]のいずれか一項に記載のレーザー透過性樹脂組成物(I)。
[6]さらに非晶性樹脂(D)を含む、[1]から[5]のいずれか一項に記載のレーザー透過性樹脂組成物(I)。
[7][1]から[6]のいずれか一項に記載のレーザー透過性樹脂組成物(I)を用いてなる、成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、レーザーの透過性が高く、発色が良好であり、かつ色移行しないレーザー透過性樹脂組成物及びそれを用いた成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。なお、本明細書において「~」の記載は、「以上以下」を意味する。例えば、「0.005~5.0質量部」は、「0.005質量部以上5.0質量部以下」を意味する。
【0011】
[レーザー透過性樹脂組成物(I)]
本発明に係るレーザー透過性樹脂組成物(I)は、ポリエステル系樹脂(A)100質量部に対して、少なくともベンズイミダゾロン系黄色顔料(b1)を含む有機顔料(B)を0.005~5.0質量部含む、レーザー透過性樹脂組成物(I)であって、前記樹脂組成物(I)の厚み1mmの成形品の、CIE L値が25以下であり、940nmレーザー透過率が40%以上であることを特徴とする。本実施形態のレーザー透過性樹脂組成物(I)(以下、単に「樹脂組成物(I)」と記載する)は、レーザーの透過性が高く、発色が良好であり、かつ色移行しない。
【0012】
本発明に係る樹脂組成物(I)の厚み1mmの成形品のCIE L値は25以下であり、23以下が好ましく、20以下がより好ましい。本発明に係る樹脂組成物(I)の厚み1mmの成形品は、CIE L値が25以下であるため、暗色を呈している。なお、「CIE」とは、国際照明委員会(Commission Internationale del’Eclairage)により定められた色の定量的な表示法である。また、「L値」は明度を表す指標である。本発明に係る樹脂組成物(I)の成形品におけるCIE L値は、具体的には以下の方法で測定した値を指す。
(CIE L値の測定方法)
樹脂組成物(I)をシリンダー温度260℃、金型温度80℃の条件で射出成形して、80mm×80mm×厚み1mmの試験片(成形品)を作成する。得られた試験片を、カラーコンピューター(日本電色(株)製、製品名:分光色差計 SE6000)を用いて、孔径φ10mm、C光2度視野、反射の条件で測定した値をCIE L値とする。
【0013】
本発明に係る樹脂組成物(I)は、波長が940nmのレーザー透過率が40%以上である。前記レーザー透過率は、42%以上が好ましく、44%以上がより好ましい。前記レーザー透過率が40%以上であれば、レーザー溶着にて、本発明に係る樹脂組成物(I)から得られる成形品を、その他の部材に容易に接合できる。本発明に係る樹脂組成物(I)の成形品におけるレーザー透過率は、具体的には以下の方法で測定した値を指す。
(レーザー透過率の測定方法)
樹脂組成物(I)をシリンダー温度260℃、金型温度80℃の条件で射出成形して、80mm×80mm×厚み1mmの試験片(成形品)を作成する。得られた試験片を、分光光度計(日本分光(株)製、製品名:紫外可視近赤外分光光度計 V-770、積分球 ISN-923)を用いて、940nmのレーザーの透過率を測定する。
【0014】
<ポリエステル系樹脂(A)>
本発明に係る樹脂組成物(I)は、ポリエステル系樹脂(A)を含む。
樹脂組成物(I)中のポリエステル系樹脂(A)の割合は、樹脂組成物(I)の成形性の観点から、樹脂組成物(I)の総質量に対して、30~90質量%であることが好ましく、35~80質量%であることがより好ましく、45~70質量%であることがさらに好ましい。
【0015】
ポリエステル系樹脂(A)としては、従来公知のポリエステル樹脂を、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましくは、ジカルボン酸またはその誘導体と、ジオールとからなるポリエステル系樹脂である。
ジカルボン酸またはその誘導体としては、例えば、芳香族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、またはこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。このうち、芳香族ジカルボン酸、またはこれらのエステル形成性誘導体を含むことが好ましい。芳香族ジカルボン酸、またはこれらのエステル形成性誘導体を含むポリエステル系樹脂(A)としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(PET樹脂)、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(PBT樹脂)、ポリテトラメチレンテレフタレート系樹脂(PTT)等が挙げられる。このうち、機械特性とレーザー透過性の観点から、PBT樹脂、PET樹脂、PTT樹脂を含むことが好ましく、成形性の観点からPBT樹脂を含むことがより好ましい。1つの実施形態において、ポリエステル系樹脂(A)は、PBT樹脂であってもよい。
【0016】
(PBT樹脂)
PBT樹脂は、少なくともテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体(炭素数1~6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含む芳香族ジカルボン酸成分と、少なくとも炭素数4のアルキレングリコール(1,4-ブタンジオール)またはそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを、重縮合して得られる。本実施形態において、PBT樹脂はホモポリブチレンテレフタレート樹脂に限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上含有する共重合体であってもよい。
【0017】
PBT樹脂中のカルボキシル基末端量は、50meq/kg以下であることが好ましく、30meq/kg以下であることがより好ましく、25meq/kg以下であることがさらに好ましい。カルボキシル基末端量は、ポリマー鎖中の未反応のカルボン酸基の量を表す値である。カルボキシル基末端量が50meq/kg以下であれば、耐加水分解性が良好となりやすい。なお、カルボキシル基末端量は、ベンジルアルコール中、215℃で10分間加熱して溶解後、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液にて滴定することにより求めることができる。
【0018】
PBT樹脂の固有粘度は、本発明の目的を阻害しない範囲で適宜調整可能であるが、流動性の観点からは、0.60dL/g以上1.20dL/g以下が好ましく、0.65dL/g以上0.90dL/g以下がより好ましい。また、異なる固有粘度を有するPBT樹脂同士をブレンドして、固有粘度を調整してもよい。例えば、固有粘度0.90dL/gのPBT樹脂と、固有粘度0.70dL/gのPBT樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.80dL/gのPBT樹脂を調製することができる。PBT樹脂の固有粘度は、例えば、o-クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定することができる。
【0019】
PBT樹脂の調製において、コモノマー成分として、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体を用いる場合、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル等の炭素数8~14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の炭素数4~16のアルカンジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の炭素数5~10のシクロアルカンジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(炭素数1~6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)を用いることができる。これらのジカルボン酸成分は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記のジカルボン酸成分の中では、イソフタル酸等の炭素数8~14の芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の炭素数4~16のアルカンジカルボン酸が好ましい。
【0020】
PBT樹脂の調製において、コモノマー成分として、1,4-ブタンジオール以外のグリコール成分を用いる場合、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-オクタンジオール等の炭素数2~10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAの炭素数2~4のアルキレンオキサイド付加体;またはこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を用いることができる。これらのグリコール成分は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのグリコール成分の中では、エチレングリコール、トリメチレングリコール等の炭素数2~10のアルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、または、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等がより好ましい。
【0021】
PBT樹脂は、前述のジカルボン酸成分及びグリコール成分以外のその他のコモノマー成分を含んでいてもよい。その他のコモノマー成分としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4-カルボキシ-4’-ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε-カプロラクトン等)等の炭素数3~12のラクトン;これらのコモノマー成分のエステル形成性誘導体(炭素数1~6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物等)が挙げられる。これらのコノマー成分は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
ポリエステル系樹脂(A)に含まれるPBT樹脂の割合は、ポリエステル系樹脂(A)の総質量に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。また、ポリエステル系樹脂(A)中のPBT樹脂の割合は100質量%であってもよい。
また、樹脂組成物(I)中のPBT樹脂の割合は、樹脂組成物(I)の総質量に対して、30~90質量%であることが好ましく、40~80質量%であることがより好ましく、50~70質量%であることがさらに好ましい。
【0023】
(PET樹脂)
PET樹脂は、少なくともテレフタル酸またはそのエステル形成誘導体を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素数2のアルキレングリコール(エチレングリコール)またはそのエステル形成誘導体を含むグリコール成分とを、重縮合反応して得られる。PET樹脂は、ホモPET樹脂であってもよく、エチレンテレフタレート単位を60モル%以上(特に75モル%から95モル%程度)含有する共重合体(共重合PET)樹脂であってよい。
【0024】
共重合PET樹脂において、テレフタル酸及びそのエステル形成誘導体以外のジカルボン酸成分(コモノマー成分)としては、例えば、芳香族ジカルボン酸成分(イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸等の炭素数6~12のアリールジカルボン酸等)、脂肪族ジカルボン酸成分(コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の炭素数5~10シクロアルキルジカルボン酸等)、芳香族ヒドロキシカルボン酸(ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸等)、またそれらのエステル形成誘導体等が例示できる。好ましいジカルボン酸成分(コモノマー成分)には、芳香族ジカルボン酸成分(特にイソフタル酸等の炭素数6~10のアリールジカルボン酸)、脂肪族ジカルボン酸成分(特にアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の炭素数6~12のアルキルジカルボン酸が含まれる。
【0025】
エチレングリコール以外のグリコール成分(コモノマー成分)としては、脂肪族ジオール成分〔例えば、アルキレングリコール(プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-オクタンジオール等の炭素数3~10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシC2~C4アルキレングリコール等)、シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール等〕、芳香族ジオール成分〔ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族アルコール;ビスフェノールAの炭素数2~4のアルキレンオキサイド付加体(例えば、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等)など〕、またはそれらのエステル形成誘導体等が挙げられる。これらのグリコール成分も単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。
【0026】
好ましいグリコール成分(コモノマー成分)には、脂肪族ジオール成分(特に炭素数3~6のアルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシC2~C3アルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール)が含まれる。ホモPET樹脂及び共重合PET樹脂は、それぞれ単独でまたは2種以上混合して使用できる。
更に共重合PET樹脂のコモノマーユニットは、芳香族ジカルボン酸残基(特に少なくとも炭素数3~10のアルキレングリコール残基、ポリオキシC2~C3アルキレングリコール残基)から選択された少なくとも1種である。共重合PET樹脂には、イソフタル酸共重合PET樹脂(イソフタル酸変性PET樹脂)などが含まれる。
【0027】
(PTT樹脂)
PTT樹脂は少なくともテレフタル酸またはそのエステル形成誘導体を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素数3の1,3-プロパンジオールとを重縮合反応して得られる。PTT樹脂は、ホモPTT樹脂に限らず、テトラメチレンテレフタレート単位を60モル%以上含有する共重合体(共重合PTT)樹脂であってもよい。
【0028】
共重合体PTTの場合、共重合するモノマーは、ジカルボン酸、ジカルボン酸エステル等が挙げられる。具体例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-カリウムスルホイソフタル酸、5-リチウムスルホイソフタル酸、2-ナトリウムスルホイソフタル酸、2-カリウムスルホイソフタル酸、2-リチウムスルホイソフタル酸、4-ナトリウムスルホ-2,6-ナフタレンジカルボン酸、2-ナトリウムスルホ-4-ヒドロキシ安息香酸、5-スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウム等のジカルボン酸及びそのメタノール等の低級アルコールエステル、オキシ酢酸等である。これらは1種単独でまたは2種以上を混合して使用できる。
【0029】
<有機顔料(B)>
本発明に係る樹脂組成物(I)は、少なくともベンズイミダゾロン系黄色顔料(b1)を含む有機顔料(B)を、ポリエステル系樹脂(A)100質量部に対して、0.005~5.0質量部含む。このような有機顔料(B)を含むことにより、発色が良好であり、かつ色移行しない、樹脂組成物(I)及びその成形品を得ることができる。なお、「発色が良好である」とは少量の顔料で着色でき、発色ムラが無いことを意味する。
樹脂組成物(I)中の有機顔料(B)の割合は、ポリエステル系樹脂(A)100質量部に対して、0.1~0.8質量部が好ましく、0.2~0.7質量部がより好ましく、0.3~0.6質量部が特に好ましい。
【0030】
(ベンズイミダゾロン系黄色顔料(b1))
有機顔料(B)は、少なくともベンズイミダゾロン系黄色顔料(b1)(以下、「黄色顔料(b1)」と記載する)を含む。黄色顔料(b1)は、その骨格にベンズイミダゾロン構造を含む有機黄色顔料である。
黄色顔料(b1)としては、英国染料染色学会および米国繊維科学技術・染色技術協会が共同で存率しているカラーインデックス(CI)名と番号で示される、Pigment Yellow 120、Pigment Yellow 151、Pigment Yellow 154、Pigment Yellow 175、Pigment Yellow 180、Pigment Yellow 181、Pigment Yellow 194等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。このうち、より色移行しにくい樹脂組成物(I)が得られやすい観点から、Pigment Yellow 180、及びPigment Yellow 181から選択される少なくとも1つの黄色顔料を含むことが好ましい。
【0031】
黄色顔料(b1)の好ましい例の1つであるPigment Yellow 181は、4’-カルバモイル-4-[1-(2,3-ジヒドロ-2-オキソ-1H-ベンゾイミダゾール-5-イルカルバモイル)アセトニルアゾ]ベンズアニリドで示される化合物である。
【0032】
有機顔料(B)中の黄色顔料(b1)の割合は、有機顔料(B)の総質量に対して、20~50質量%が好ましく、25~45質量%がより好ましく、30~40質量%がさらに好ましい。また、樹脂組成物(I)中の黄色顔料(b1)の割合は、ポリエステル系樹脂(A)100質量部に対して、0.01~0.4質量部が好ましく、0.05~0.35質量部がより好ましく、0.1~0.3質量部がさらに好ましい。
【0033】
有機顔料(B)は、前記黄色顔料(b1)と、フタロシアニン系青色顔料(b2)、及びペリレン系赤色顔料(b3)から選択される少なくとも1つの顔料とを含む、ことが好ましい。このような有機顔料(B)は、樹脂組成物(I)の厚み1mmの成形品のCIE L値を25以下に調整しやすくなる。また、有機顔料(B)は、黄色顔料(b1)と、フタロシアニン系青色顔料(b2)と、ペリレン系赤色顔料(b3)とを含むことがより好ましい。
【0034】
(フタロシアニン系青色顔料(b2))
有機顔料(B)は、フタロシアニン系青色顔料(b2)(以下、「青色顔料(b2)」と記載する)を含んでいてもよい。青色顔料(b2)は、構造内にフタロシアニン骨格を有する顔料であり、具体的には、前述のCI名と番号で表される、Pigment Blue 15、Pigment Blue 15:1、Pigment Blue 15:2、Pigment Blue 15:3、Pigment Blue 15:4、Pigment Blue 15:6、Pigment Blue 16、Pigment Blue 17:1、Pigment Blue 75、Pigment Blue 79等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。このうち、より色移行しにくく、発色の良好な樹脂組成物(I)が得られやすい観点から、Pigment Blue 15:3、及びPigment Blue 16から選択される少なくとも1つの青色顔料を含むことが好ましい。
【0035】
有機顔料(B)が青色顔料(b2)を含む場合、その含有量は、混色の観点から、有機顔料(B)の総質量に対して、15~50質量%が好ましく、20~45質量%がより好ましく、25~40質量%がさらに好ましい。ベンズイミダゾロン系黄色顔料(b1)の反対色として青色顔料(b2)を含むことで無彩色に近づけることができ、b値を制御しやすくなる。また、樹脂組成物(I)中の青色顔料(b2)の含有量は、ポリエステル系樹脂(A)100質量部に対して、0.01~0.4質量部が好ましく、0.05~0.35質量部がより好ましく、0.1~0.3質量部がさらに好ましい。
【0036】
(ペリレン系赤色顔料(b3))
有機顔料(B)は、ペリレン系赤色顔料(b3)(以下、「赤色顔料(b3)」と記載する)を含んでいてもよい。赤色顔料(b3)とは、ペリレンテトラカルボン酸二無水物の六員環を構成している酸素原子2個を脱落させた構造を有する顔料であり、具体的には、前述のCI名と番号で表されるPigment Red 149、Pigment Red 179等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。このうち、より色移行しにくく、発色の良好な樹脂組成物(I)が得られやすい観点から、Pigment Red 149を含むことが好ましい。
【0037】
有機顔料(B)が赤色顔料(b3)を含む場合、その含有量は、有機顔料(B)の総質量に対して、20~50質量%が好ましく、25~45質量%がより好ましく、30~40質量%がさらに好ましい。また、樹脂組成物(I)中の赤色顔料(b3)の含有量は、ポリエステル系樹脂(A)100質量部に対して、0.01~0.4質量部が好ましく、0.05~0.35質量部がより好ましく、0.1~0.3質量部がさらに好ましい。
【0038】
(その他の顔料)
有機顔料(B)は、黄色顔料(b1)、青色顔料(b2)、赤色顔料(b3)以外のその他の顔料を含むことができる。その他の顔料は、樹脂組成物(I)のCIE L値を本発明のより好ましい範囲に調整する観点等から、レーザー透過性樹脂組成物の着色剤として使用される有機顔料から適宜選択して使用できる。なお、色移行しない樹脂組成物(I)が得られやすく、色の再現性という点で、有機顔料(B)がその他の顔料を含まないほうが好ましい。
【0039】
<無機充填材(C)>
樹脂組成物(I)は無機充填材(C)を含むことが好ましい。無機充填材(C)を含むことで、機械的強度や耐熱性が良好となる。
無機充填材(C)としては、例えば、ガラス繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維等の繊維状無機充填材;マイカ、ガラスフレーク等の板状無機充填材が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。このうち、機械的強度や成形性の観点から、無機充填材(C)としては、繊維状無機充填材を含むことが好ましく、ガラス繊維を含むことがより好ましい。ガラス繊維としては、平均繊維長が150~800μmの範囲のものが好ましく、200~600μmがより好ましい。ガラス繊維長が短いと強度の向上効果が低く、ガラス繊維長が長すぎると流動性の低下やガラス繊維の分散性が悪化しやすい。また、ガラス繊維径は、5~20mmが好ましく、10~18mmがより好ましい。ガラス繊維径が小さいとレーザー照射により樹脂とガラス繊維の散乱が増加して透過率が低下しやすくなり、ガラス繊維径が大きすぎると成形時にノズルやキャビティの薄肉部で詰まりやすくなる。なお、前記平均繊維長は成形品を600℃の電気炉で灰化後に得られたガラス繊維を、水などの溶媒に分散させ、画像測定装置などで50μm以下のガラス繊維は除外して、重量平均繊維長を算出して求めた値である。
【0040】
樹脂組成物(I)が無機充填材(C)を含む場合、その含有量は、ポリエステル系樹脂(A)100質量部に対して、40~80質量部が好ましく、50~70質量部がより好ましい。無機充填材(C)の含有量が前記範囲内であれば、流動性と機械特性のバランスがより良好となりやすい。
【0041】
<非晶性樹脂(D)>
樹脂組成物(I)は、さらに非晶性樹脂(D)を含むことが好ましい。非晶性樹脂(D)を含むことにより、収縮率が減少し、成形品の反りによる溶着不良が改善されやすくなる。
非晶性樹脂(D)は熱可塑性非晶性樹脂であることが好ましく、例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂(PVC樹脂)、PS樹脂、PMMA樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン樹脂(AS樹脂)、PC樹脂、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂(m-PPE樹脂)、ポリエーテルイミド系樹脂(PEI樹脂)、ポリアミドイミド系樹脂(PAI樹脂)等が挙げられる。このうち、厚み1mmの成形品の940nmレーザー透過率を40%以上に調整しやすく、また透過性が向上しやすい観点から、PC樹脂、AS樹脂、またはPS樹脂が好ましく、PC樹脂を含むことがより好ましい。
【0042】
樹脂組成物(I)が非晶性樹脂(D)を含む場合、その含有量は、ポリエステル系樹脂(A)100質量部に対して、5~100質量部が好ましく、15~35質量部がより好ましい。
【0043】
<その他の成分>
樹脂組成物(I)は、本発明の効果を阻害しない範囲で、その目的に応じた所望の特性を付与するために、前述のポリエステル系樹脂(A)、有機顔料(B)、無機充填材(C)、及び非晶性樹脂(D)以外の成分(その他の成分)を含んでいてもよい。その他の成分としては、従来、レーザー透過性樹脂に配合される成分を適宜選択して用いることができ、例えば、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、耐加水分解性改善剤(例えば、エポキシ樹脂等)、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、滴下防止剤、離型剤、滑剤、潤滑剤、結晶化促進剤、結晶核剤(無機充填材(C)を除く)、可塑剤、熱可塑性エラストマー等を配合することが可能である。これらその他の成分の合計量は、ポリエステル系樹脂(A)100質量部に対して、30質量部未満となるように配合することが好ましく、25質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。
【0044】
[レーザー透過性樹脂組成物(I)の製造方法]
本発明に係る樹脂組成物(I)は、本発明の効果を阻害しない範囲で、従来公知の方法を採用することにより調製することができる。例えば、(1)ポリエステル系樹脂(A)と、有機顔料(B)と、無機充填剤(C)、非晶性樹脂(D)の他、必要に応じて前述のその他の成分とを混合して、一軸または二軸の押出機により混練して押出し、樹脂組成物(I)のペレットを得る方法、(2)一旦、組成の異なるペレット(マスターバッチ)を調製し、そのペレットを所定量混合(希釈)して、樹脂組成物(I)の組成とする方法、(3)成形機に各成分を直接仕込んで樹脂組成物(I)を得る方法等を採用することができる。なお、ペレットは、例えば、脆性成分(無機充填材(C)や、ガラス系補強材等)を除く成分を溶融混合した後に、脆性成分を混合することにより調製してもよい。
【0045】
[成形品]
本発明に係る成形品は、本発明に係る樹脂組成物(I)を成形してなるものである。成形方法は特に限定されず、公知の成形方法を採用することができる。例えば、前述の(1)~(3)の方法等で樹脂組成物(I)を得たのち、成形することで本発明に係る成形品とすることができる。また、熱可塑性樹脂からなる他の成形品の成形方法もまた、特に限定されず、公知の成形方法を採用することができる。
【0046】
成形品は、樹脂組成物(I)を溶融混練し、押出成形、射出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形、回転成形、ガスインジェクションモールディング等の慣用の方法で成形してもよいが、通常、射出成形により成形される。なお、射出成形時の金型温度は、通常40~90℃、好ましくは50~80℃、さらに好ましくは60~80℃程度である。
【0047】
成形品の形状は特に制限されないが、成形品をレーザー溶着により相手材(熱可塑性樹脂からなる他の成形品)と接合して用いるため、通常、少なくとも接触面(平面など)を有する形状(例えば、板状)である。また、本発明に係る成形品はレーザー光に対する透過性が高いため、レーザー光が透過する部位の成形品の厚み(レーザー光が透過する方向の厚み)は、広い範囲から選択でき、例えば、0.1~3mm、好ましくは0.1~2mm、より好ましくは0.5~1.5mm程度であってもよい。
【0048】
レーザー光源としては、特に制限されず、例えば、色素レーザー、気体レーザー(エキシマレーザー、アルゴンレーザー、クリプトンレーザー、ヘリウム-ネオンレーザー等)、固体レーザー(YAGレーザー等)、半導体レーザー等が利用できる。レーザー光としては、通常、半導体レーザーが利用される。
【0049】
本発明に係る成形品は、レーザー溶着性に優れているため、通常、レーザー溶着により相手材の樹脂成形品と溶着させるのが好ましいが、必要であれば、他の熱溶着法、例えば、振動溶着法、超音波溶着法、熱板溶着法等により他の樹脂成形品と溶着させることもできる。
【0050】
<複合成形体>
本発明に係る成形品は、複合成形体とすることができる。本発明に係る複合成形体は、樹脂組成物(I)で構成されている成形品(第1の成形品)と、相手側の樹脂成形品(第2の成形品、熱可塑性樹脂からなる他の成形品)とが、レーザー溶着により接合され、一体化されている。例えば、第1の成形品と第2の成形品とを接触させ(特に少なくとも接合部を面接触させ)、レーザー光を照射することにより、第1の成形品と第2の成形品との界面を部分的に溶融させて接合面を密着させ、冷却することにより二種の成形品を接合、一体化して1つの成形体(複合成形体)とすることができる。本発明に係る成形品を含む複合成形体は、レーザー透過性が高く、発色が良好であり、かつ色移行しない第1の成形品を備えているため、第1の成形品と第2の成形品とをレーザー溶着により接合させても、第2の成形品に第1の成形品の色が移行することなく、また退色もしにくい。また、本発明に係る成形品は、高い接合強度を保持できるため、レーザー溶着後の複合成形体において、第1の成形品と第2の成形品とが強固に接合した複合成形体を得ることができる。また、溶着の前後で強度が低下しにくい。
【0051】
複合成形体の調製において、レーザー光の照射は、通常、第1の成形品から第2の成形品の方向に向けて行われる。第1の成形品を透過したレーザー光が、吸収剤または着色剤を含む第2の成形品の界面を発熱、溶融させることにより、第1の成形品と第2の成形品とが溶着される。なお、必要により集光レンズ等を利用して、第1の成形品と第2の成形品との界面にレーザー光を集光させて溶着してもよい。
【0052】
(第2の成形品)
第2の成形品を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリエステル系樹脂が好ましい。ポリエステル系樹脂を用いることで高い溶着強度を得ることができる。ポリエステル系樹脂としては、前述のポリエステル系樹脂(A)と同じものが例示できる。また、第2の成形品を構成する熱可塑性樹脂として、ポリエステル系樹脂以外の種々の熱可塑性樹脂、例えば、オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等が含まれていても良い。特にポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、あるいはそれらの少なくとも1つを含む樹脂組成物で、第2の成形品を構成してもよい。
【0053】
第2の成形品は、レーザー光に対する吸収剤または着色剤を含んでいてもよい。前記着色剤としては、レーザー光の波長に応じて選択でき、従来公知の無機顔料、有機顔料を採用できる。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック等)等の黒色顔料;酸化鉄赤等の赤色顔料;モリブデートオレンジ等の橙色顔料;酸化チタン等の白色顔料等が挙げられる。
有機顔料としては、黄色、橙色、赤色、青色、緑色等を発色でき、レーザー透過性のある有機顔料が挙げられる。それらの構造には特に限定がなく、例えば、アゾメチン系、アントラキノン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、ジケトピロロピロール系、アントラピリドン系、イソインドリノン系、インダンスロン系、ペリノン系、ペリレン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、キノリン系、トリフェニールメタン系の各種染顔料等の有機顔料が挙げられる。これらの吸収剤または着色剤は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。このうち、黒色顔料、特にカーボンブラックを好ましく使用できる。カーボンブラックの平均粒子径は、10~1000nmのものを採用でき、好ましくは10~100nm程度であってもよい。吸収剤または着色剤の割合は、第2の成形品を構成する樹脂組成物の総質量に対して、0.1~10質量%が好ましく、0.3~5質量%がより好ましく、0.3~3質量%がさらに好ましい。
第2の成形品を構成する熱可塑性樹脂がレーザー光に対する吸収剤または着色剤を含まない場合は、第1の成形品と第2の成形品の界面に赤外吸収剤などを塗布することでレーザー溶着することが可能である。
【0054】
[用途]
本発明に係る樹脂組成物(I)及びその成形品は、前述の通り、レーザーの透過性が高く、発色が良好であり、かつ他の部材に色移行しない。そのため、レーザー溶着用の樹脂組成物及び成形品として好適に利用できる。なお、当然のことながら、本発明に係る樹脂組成物(I)及びその成形品は、その用途がレーザー溶着に限定されるわけではない。
【0055】
本発明の好ましい態様には、本発明に係る樹脂組成物(I)からなる成形品と、上記の熱可塑性樹脂からなる成形品(第2の成形品)とを溶着して接合した、複合成形体も含まれる。
本発明のその他の態様は、有機顔料(B)、好ましくは黄色顔料(b1)の、レーザー溶着用樹脂組成物の色移行抑制剤としての使用又はその使用方法である。また、レーザー溶着用樹脂組成物に含まれる樹脂成分は、ポリエステル系樹脂(A)であることが好ましく、PBT樹脂であることがより好ましい。また、樹脂成分として、PBT樹脂のみを含んでいてもよい。
【実施例0056】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【0057】
<材料>
実施例及び比較例で使用した材料は以下のとおりである。
・ポリエステル系樹脂(A)
(A-1):イソフタル酸12.5モル変性ポリブチレンテレフタレート樹脂(ポリプラスチックス(株)製)
・有機顔料(B)
黄色顔料(b1)
(b1-1):Pigment Yellow 181
青色顔料(b2)
(b2-1):Pigment Blue 15:3
赤色顔料(b3)
(b3-1):Pigment Red 149
・その他の有機顔料(B’)
(B’-1):フタロシアニン系緑色顔料(Pigment Green 36)
(B’-2):フタロシアニン系緑色顔料(Pigment Green 7)
(B’-3):モノアゾ系黄色顔料(Pigment Yellow 183)
(B’-4):アントラキノン系黄色顔料(Pigment Yellow 147)
(B’-5):イソインドリノン系黄色顔料(Pigment Yellow 110)
(B’-6):ペリレン系紫色顔料(Pigment Violet 29)
(B’-7):ペリレン系黒色顔料(Lumogen black K0087)
・無機充填材(C)
(C-1):ガラス繊維(日本電気硝子(株)製、製品名:ECS03 T-127」(平均繊維径13μm、平均繊維長3mm))
・非晶性樹脂(D)
(D-1):ポリカーボネート系樹脂(帝人(株)製、製品名:パンライト(登録商標)L-1225L)
・その他の成分
熱可塑性エラストマー:ポリエステル系エラストマー(東洋紡(株)製、製品名:ペルプレン(登録商標)P-90BD)
耐加水分解性改善剤:エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、製品名:1004K)
酸化防止剤:ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASFジャパン(株)製、製品名:IRGANOX(登録商標)1010)
滑剤:ジグリセリン脂肪酸エステル(理研ビタミン(株)製、製品名:リケマール(登録商標)B74)
安定剤:第一リン酸カルシウム(大平化学産業(株)製)
結晶核剤:窒化硼素(水島合金鉄(株)製)
可塑剤:ピロメリット酸混合直鎖アルキルエステル((株)ADEKA製、商品名:アデカサイザー(登録商標)UL-100)
【0058】
[実施例1~2]
ポリエステル系樹脂(A)100質量部に対し、有機顔料(B)とその他の各成分を表1に示す割合で混合した後、30mmφの2軸押出機((株)日本製鋼所製、製品名:TEX-30)を用いて、シリンダー温度260℃、吐出量15kg/hr、スクリュ回転数130rpmで溶融混練して押出し、樹脂組成物(I)からなるペレットを得た。次いで、このペレットを、シリンダー温度260℃、金型温度80℃で射出成形して、80mm×80mm×厚み1mmの試験片(成形品)を作製した。得られた試験片のレーザー透過率、CIE L値、a値、b値、及び第2の成形品への色移行を以下に示す方法で評価した。結果を表1に示す。
【0059】
<CIE L値、a値、及びb値の測定方法>
得られた試験片を、カラーコンピューター(日本電色(株)製、製品名:分光色差計 SE6000)を用いて、孔径φ10mm、C光2度視野、反射の条件で測定した。
【0060】
<レーザー透過率の測定方法>
得られた試験片を、分光光度計(日本分光(株)製、製品名:紫外可視近赤外分光光度計 V-770、積分球 ISN-923」)を用いて、940nmのレーザーの透過率を測定した。
【0061】
<色移行の評価>
PBT樹脂(ポリプラスチックス(株)、製品名:ジュラネックス(登録商標)3300 EF2001)のナチュラル色のペレットをシリンダー温度260℃、金型温度80℃で射出成形して、20mm×20mm×厚み1mmの第2の成形品を得た。得られた第2の成形品と、得られた試験片とを重ね合わせて、130℃で30時間加熱した後、第2の成形品への色移行の有無を目視で確認した。
【0062】
[比較例1~4]
樹脂組成物の組成を表1に示す通りとした以外は、実施例1と同様の方法で、80mm×80mm×厚み1mmの試験片(成形品)を作製した。得られた試験片のレーザー透過率、L値、a値、b値、及び第2の成形品への色移行を実施例1と同様の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示す通り、本発明の構成を満たす実施例1~2の樹脂組成物は、得られた成形品のレーザー透過率が高く、発色が良好であり、かつ複合成形体とした際に色移行しなかった。一方、本発明の有機顔料(B)以外の有機顔料を含む比較例1~4の樹脂組成物から得られた成形品は、複合成形体とした際に第2の成形品に色移行が生じた。また、比較例1~3はレーザー透過率も低かった。以上の結果より、本発明に係る樹脂組成物(I)及びその成形品は、レーザーの透過性が高く、発色が良好であり、かつ色移行しないことが確認された。